(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフッ素含有化合物ガスの検出に使用する
検知用ガス生成剤(以下、「検知剤
」と記載することもある)の製造方法では、粒状又は塊状の固体金属の表面に微細な凹凸を形成して粗面化する工程と、固体金属の粗面化した表面にアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物を添着する工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明のフッ素含有化合物ガスの検出方法では、前述の製造方法で得られた
検知用ガス生成剤と、フッ素含有化合物ガスを微量含むガスとを100〜1000℃の温度範囲で接触反応させる工程と、前記反応により生成したガスを検出する工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
検知の対象とするフッ素含有化合物ガスとは、クロロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、ハイドロフロロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、パーフルオロコンパウンズ等であり、特に、C
5F
8,C
4F
8,C
4F
6,C
2F
6,C
3F
8,CF
4,C
5HF
7,CH
2F
2,CHF
3,CCl
3F,CCl
2F
2,CClF
3,CCl
4,CHClF
2,CH
3Cl,CH
3Br,CHCl
3,CBr
2F
2,CBrF
3,CH
2Br
2,CH
2BrCl,CBr
3F,CHBr
2F,CHBrF
2,CBrClF
2,C
2H
3Cl,C
2BrF
5,C
2ClF
5,C
2Cl
2F
4,C
2Cl
3F
3,C
2BrF
4,C
2Br
2F
4,C
2H
2Br
2F
4,C
2Br
2ClF
3,NF
3である。本発明の検出方法で対象とするガスについて、微量とは、フッ素含有化合物ガスを数千体積ppm以下のガス濃度であり、特に1体積ppb以上1000体積ppm以下の濃度範囲のガスである。特に、C
5F
8を検知の対象とする場合、暴露許容濃度が2体積ppmであるため、0.01体積ppm以上20体積ppm以下の濃度範囲で良好に検知できることが好ましく、0.1体積ppm以上10体積ppm以下の濃度範囲で良好に検知できることがより好ましい。
【0015】
本発明では、上述したフッ素含有化合物ガスと表面にアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物を添着した固体金属とを加熱状態下で接触反応させ、よりガス検知しやすいガスである、SiF
4,WF
6,MoF
6,GeF
4等のガスに変換するものである。接触反応の際に、固体金属は100〜1000℃に加熱される。この温度範囲は、200〜500℃であることが好ましく、250〜450℃であることがより好ましい。
【0016】
本発明で用いる固体金属は、好ましくはSi,W,Mo又はGeである。また、添着物であるアルカリ金属フッ化物としては、好ましくはフッ化ナトリウム又はフッ化カリウムが挙げられ、アルカリ金属水酸化物としては、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが挙げられる。
【0017】
本発明において、当該固体金属には好ましくはSi,W,Mo,又はGeを用いるが、市販されているものの外観形状は粒状又は塊状である。固体金属の純度は特に限定されないが、90質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。これら市販品は半導体分野、液晶分野、太陽電池分野において粉末化し又は溶融して使用する用途が大半であり、粒状又は塊状のままで使用するケースは非常に限られている。そのため、これら固体金属の表面状態は問われることは無く、成形された状態から表面加工することなく市販されている。したがって、多くの市販されている当該固体金属の表面状態は平坦化しており、上記添着物を長期間均一に表面に形成させ保持することは困難となる。市販品の粒状又は塊状の固体金属を得る方法は特に限定されないが、直径1cm以上のインゴットを粉砕して得る方法や、固体金属の溶湯を微細化・冷却して得る方法、固体金属の化合物ガスから固体を析出させる方法などを挙げることができる。
【0018】
当該固体金属は粒状又は塊状であり、その大きさは、目開き9.5mmの篩を通過し、目開き0.5mmの篩を通過しなかったものである。目開き9.5mmの篩を通過しない大きなものは、充填スペースが大きくなり、大量の検出対象ガスを必要とすることや当該ガスとの接触面積の減少により反応が不十分になるといった問題が生じるため適していない。また、目開き0.5mmの篩を通過したものは、被測定ガスの経路を封鎖し流れを阻害するため適していない。
【0019】
添着物として、アルカリ金属水酸化物を用いる場合、アルカリ金属水酸化物であるNaOH,KOH等は、フッ素含有化合物ガスとの反応により種々な金属フッ化物を作る。例えば、当該フッ素含有化合物ガスにC
5F
8ガスを用い、当該アルカリ金属酸化物にNaOHを用いた場合、酸素の存在下において200〜500℃で(1)式に示すような反応が得られる。
C
5F
8+8NaOH+3O
2→8NaF+4H
2O+5CO
2 (1)
ここで生成されたNaFは、当該固体金属にSiを用いた場合、水分及び酸素の存在下において同様の温度である200〜500℃で(2)式に示すようにSiF
4が生成される。
4NaF+Si+2H
2O+O
2→SiF
4+4NaOH (2)
すなわち(2)式において、検知しやすい被測定ガスであるSiF
4が得られ、一方、(1)式で生成されたNaFは、(2)式において再びNaOHとなる。
アルカリ金属水酸化物を固体金属表面に添着した際の反応のメカニズムは、以上のような2段反応になるが、結果的にアルカリ金属水酸化物は、(3)式に示すように触媒として作用しているような反応となる。
C
5F
8+2Si+8NaOH+5O
2
→2SiF
4+5CO
2+8NaOH (3)
【0020】
添着物として、アルカリ金属フッ化物を用いる場合、あらかじめ処理を要する。例えば、アルカリ金属フッ化物にNaFを用い、当該固体金属にSiを用いた場合、水分及び酸素の存在下において200〜500℃で(2)式に示したようにSiF
4が生成される。SiF
4の生成とともにNaFがNaOHに置換され、これが完了するまで、あらかじめSiF
4を別途系外に排出する必要があるが、置換後においては、フッ素含有化合物ガスの検出について(1)から(3)式と同様な反応メカニズムとなる。以上の(1)から(3)式と同様の反応は、100〜1000℃の温度範囲でも生じると考えられる。
【0021】
フッ素含有化合物ガスの検知剤である当該固体金属表面に微細な凹凸を形成し粗面化する方法として、(A)当該固体金属表面の一部を機械加工により削り除去する方法、(B)エッチング液で当該固体金属表面の一部を除去する方法、(C)エッチングガスで当該固体金属表面の一部を除去する方法、(D)微粉状の固体金属を当該固体金属表面に接着させる方法が挙げられる。粗面化した固体金属表面に添着物を添着することで、添着物を固体金属表面上に長期に均一に保持することができる。
【0022】
(A)当該固体金属表面の一部を機械加工により削り除去する方法には、工具や工作機械を用いる方法があるが、対象物である当該固体金属の大きさから考えて、これら多量の集合物を個々に加工することは、その形状の違いなどの理由で効率的でなく適していない。そこで、本発明においては円筒形の筒の中に当該固体金属の集合物を封入し、筒の中心軸が水平方向±60°以内の範囲を保ちながら、筒の中心軸を回転軸と一致させるように筒を外部から回転させることにより、当該固体金属同士が互いに接触し、表面に微細な凹凸を形成し粗面化する方法を採用することが好ましい。筒の回転速度は10rpm以上100rpm以下であり、回転時間は30分以上5時間以下であることが好ましい。筒の回転速度が10rpm未満であれば、当該固体金属同士の衝撃力が小さく、表面に必要な微細な深さの凹凸を得ることができず、100rpmを超えると、遠心力が大きく衝突回数が少なくなるため、同様に表面に必要な微細な凹凸の数を得ることができない。筒の回転時間が30分未満の場合は、当該固体金属同士の衝突回数が少なく、表面に必要な微細な凹凸の数を得ることができず、5時間を越えると該固体金属同士の衝突時に発生する加工粉が多くなり、当該固体金属の形状が小さくなるため適していない。
【0023】
(B)エッチング液で当該固体金属表面の一部を除去する方法では、例えば当該固体金属がSiであれば、当該固体金属の集合物を硝酸とフッ酸の混合液に浸し、当該固体金属表面の一部のSiを反応除去する方法を採用する。硝酸は(4)式のようなSiの酸化反応、フッ酸は(5)式のような酸化シリコンの溶解物質への化学反応を行なう。
Si+HNO
3+H
2O→SiO
2+HNO
2+H
2 (4)
SiO
2+6HF→H
2SiF
6+2H
2O (5)
【0024】
当該化合物がWであれば、当該固体金属の集合物を水酸化カリウムの水溶液に浸し、当該固体金属表面の一部のWを反応除去する方法を採用する。水酸化カリウムは(6)式のようなWの化合物となり水溶液中に溶解する。
W+2KOH+2H
2O→ K
2WO
4+3H
2 (6)
【0025】
当該固体金属がMoであれば、当該固体金属の集合物を硝酸と塩酸の混合液又は硝酸と硫酸の混合液に浸し、当該固体金属表面の一部のMoを反応除去する方法を採用する。硝酸は(7)式のようなMoの酸化反応、塩酸又は硫酸はそれぞれ(8)(9)式のような酸化モリブデンの溶解物質への化学反応を行なう。
Mo+2HNO
3+H
2O→MoO
3+2HNO
2+H
2 (7)
MoO
3+2HCl→MoCl
2O
2+1/2O
2 (8)
MoO
3+2H
2SO
4→Mo(SO
4)
2+2H
2O+1/2O
2 (9)
【0026】
当該固体金属がGeであれば、当該固体金属の集合物を硝酸とフッ酸の混合液に浸し、当該固体金属表面の一部のGeを反応除去する方法を採用する。硝酸は(10)式のようなGeの酸化反応、フッ酸は(11)式のような酸化ゲルマニウムの溶解物質への化学反応を行なう。
Ge+HNO
3+H
2O→GeO
2+HNO
2+H
2 (10)
GeO
2+6HF→H
2GeF
6+2H
2O (11)
【0027】
(C)エッチングガスで当該固体金属表面の一部を除去する方法では、例えば当該固体金属がSiであれば、当該固体金属の集合物を密閉容器内に封入し、そこへフッ素ガスを供給することにより当該固体金属表面の一部のSiを、SiF
4ガスとして反応除去する方法を採用する。Siとフッ素ガスの反応式は(12)式のようになる。
Si+2F
2→SiF
4 (12)
当該固体金属がW,Mo,Geであれば、上述のSiと同様に、当該固体金属表面の一部をそれぞれWF
6ガス,MoF
6ガス,GeF
4ガスとして反応除去することができる。
【0028】
また、フッ素供給源として、三フッ化塩素ガスや三フッ化窒素ガスを用いることもできる。反応式は当該固体金属がSiであれば、それぞれ(13)(14)式のようになる。
Si+4/3ClF
3→SiF
4+2/3Cl
2 (13)
Si+4/3NF
3→SiF
4+2/3N
2 (14)
当該固体金属がW,Mo,Geであれば、上記同様にWF
6ガス,MoF
6ガス,GeF
4ガスとして反応除去することができる。
【0029】
(D)微粉状の固体金属を当該固体金属表面に接着させる方法では、例えば、当該固体金属がSiであれば、粉砕機などを用いて塊状Si等から微粉状Siを得て、それに耐熱性接着剤を加えたものを塊状Siに付着させる方法を採用する。本方法で微細な凹凸を形成するためには微粉状Siの平均粒径(一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布におけるメディアン径をいう。)を10μm以上500μmとすることが好ましい。また耐熱性接着剤は耐熱温度が1000℃以上であるものが好ましく、シリカ、アルミナ、ジルコン、及びジルコニアからなる群から選ばれる一つ又はこれらの混合物のセラミックを含むセラミック系接着剤を使用できる。
【0030】
アルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物は、当該固体金属の表面全体に分散して添着されるが、凹部分に微小な粒子として付着した当該添着物は、凹部分で表面エネルギーを小さくできるため、加熱状態下においても固体金属の表面を移動しにくくなるなど安定化する。そのため、当該固体金属の表面に微細な凹凸を形成し粗面化することにより、当該固体金属表面の凹部分に当該添着物が付着し、当該固体表面に当該添着物を加熱状態下においても長期間安定して均一に保持することができる。固体金属表面の添着物の直径は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0031】
この凹凸の凹部分の直径(断面にて凸部分の頂上と頂上を結ぶ稜線の長さ)は、10nm以上500nm以下であり、50nm以上200nm以下であることが好ましい。また、この凹凸の凹部分の深さ(凹部分の底部と、凸部分の頂上と頂上を結ぶ稜線との距離)は、10nm以上500nm以下であり、50nm以上200nm以下であることが好ましい。この範囲より小さいと、当該固体金属表面において添着物の浸透する量を十分得ることができず効果が得られない。この範囲を超えて大きくなった場合は、凹毎に得られる添着量は大きくなるが、当該固体金属表面に均一に保持できず局部的に保持することとなり効果が得られない。
【0032】
また、当該フッ素含有化合物ガスと当該固体金属との反応において、反応温度および生成ガス量は、当該固体金属に添着しているアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物の量に左右されるので次に示す最適添着量の範囲内に調整すべきである。即ち、当該固体金属表面に添着すべきアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物の量は、重量割合で少なくとも1ppmであり、これ以下では充分な効果が期待できない。一方、本質的にはアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物の量の上限は無いとも言えるが重量割合で50000ppmを越えるとアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物が当該固体金属表面を覆うようになり、当該フッ素含有化合物ガスとの接触が妨げられ処理効果が低下する。当該フッ素含有化合物ガスと当該固体金属との反応において、反応速度が最大となるアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物の添着量は、重量割合で200〜20000ppmであり、むやみに多く添着してもそれに見合う効果は期待できない。重量割合で表したアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物の添着量は、当該フッ素含有化合物ガスと反応して当該固体金属が消費されてくるに従って(アルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物は消費されないので)その値が次第に大きくなるが、ここで言うアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物の添着量とは初期状態についてのものであることはいうまでもない。
【0033】
当該固体金属表面にアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物を添着せしめるには、一般に知られている各種の方法が適用可能である。例えば、(a)真空蒸着法により当該固体金属表面に、アルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物を付着させる方法、(b)当該固体金属とアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物を混合し窒素等の不活性雰囲気の高温環境で当該固体金属表面に融解させ付着させる方法、(c)溶媒中にアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物を溶解させ、当該固体金属と混合させた後、溶媒を蒸発除去させ当該固体金属表面に析出させる方法、等があるがいずれの方法でも効果がある。
【0034】
図1は、本発明方法によるフッ素含有化合物ガスを検出確認するための実験装置の概略図を示す。検出対象となる大気中に微量のフッ素含有化合物ガスを含んだサンプルガス1で、このガスをアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物を添着した固体金属充填筒2に毎分500cm
3程度導入し、固体金属と接触させる。固体金属充填筒2は、加熱ヒータ3により加熱し、充填筒内部の固体金属を加熱する。固体金属充填筒2の出口からは、電気分解を使用したガス検知器4やテープ式のガス検知器5に導入され、これらガス検知器により、検出に必要な電気出力が得られる。
【0035】
電気分解を利用したガス検知器4では、電極上でSiF
4,WF
6,MoF
6,GeF
4等のガスを電気分解し、そのとき発生する電流がガス濃度に比例することを利用し、電流出力により濃度を検出する。さらに、ガス検知器の別の方式であるテープ式のガス検知器5では、発色剤を含浸させたニトロセルロース等の材質で作られた通気性のあるテープにSiF
4,WF
6,MoF
6,GeF
4等のガスを通過させ、反応により形成される発色からの反射光を電流出力に変換し測定することにより濃度を検出する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により具体的に説明するが、かかる実施例に限定されるものではない。また、実施例と比較例を表にまとめた。
【0037】
[実施例1]
検出対象ガスとしてC
5F
8=10体積ppmの大気を用い、固体金属にSiを用いた。当該Siは、インゴットを粉砕して得られた塊状であり、その大きさは、目開き2.0mmの篩を通過し、目開き1.0mmの篩を通過しなかったものである。当該塊状Siの集合体をセラミック製の円筒形の筒の中に封入し、筒の中心軸が水平となるように置いた筒を、筒の中心軸が回転軸と一致するように外部から50rpmで1時間回転させることにより、表面に微細な凹凸を形成し粗面化した。機械加工後の当該集合物には微細な加工粉が生じたため、これら加工粉を篩い分けにより除去した。
【0038】
添着物としてはアルカリ金属フッ化物であるNaFを用い、該Siに重量割合で1000ppmになるように添着し、これらを充填筒に充填し400℃に加熱した。
【0039】
検出対象ガスを導入後、表1のように固体金属との反応で生成したガスの成分により、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に2.88Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に3.69Vの電流出力が得られた。ここでガス検知器の出力は最小値が0Vであり、最大値が5Vとなるように調整されており、検出対象ガスの濃度と電圧出力は比例関係にある。検出対象ガスの濃度が0体積ppmでは0Vとなり、仮に10体積ppmで4Vの出力があった場合、5体積ppmでは2Vの出力が得られるように調整されている。その後充填筒を400℃に連続加熱し、大気を毎分500cm
3程度導入し1年間放置し、その経過後に再度同様に検出対象ガスとしてC
5F
8=10体積ppmの大気を用いた結果、電気分解を使用したガス検知器において、2.78V、テープ式のガス検知器においては、3.56Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が3.5%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0040】
[実施例2]
Si表面の粗面化に機械加工ではなく、エッチング液を使用した以外は実施例1と同様な方法でガスの検出を確認した。エッチング液は、硝酸1重量%とフッ酸1重量%の混合水溶液を用い、ステンレス容器内で当該固体金属を当該エッチング液に温度50℃において1時間浸し、当該固体金属表面の一部のSiを反応除去し、粗面化した。
測定の結果、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に2.84Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に3.66Vの電流出力が得られた。実施例1と同様に1年間経過後においては、電気分解を使用したガス検知器において、2.75V、テープ式のガス検知器においては、3.53Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が3.5%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0041】
[実施例3]
Si表面の粗面化に機械加工ではなく、エッチングガスを使用した以外は実施例1と同様な方法でガスの検出を確認した。エッチングガスは、フッ素1体積%の窒素希釈のものを用い、密封されたステンレス容器内で当該固体金属と当該エッチングガスを温度50℃において1時間接触させることにより、当該固体金属表面の一部のSiをSiF
4ガスとして反応除去し、粗面化した。
測定の結果、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に2.88Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に3.66Vの電流出力が得られた。実施例1と同様に1年間経過後においては、電気分解を使用したガス検知器において、2.78V、テープ式のガス検知器においては、3.56Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が3.5%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0042】
[実施例4]
エッチングガスに、三フッ化塩素1体積%の窒素希釈のものを用いた以外は実施例3と同様な方法でSiを粗面化し、実施例1と同様な方法でガスの検出を確認した。
測定の結果、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に2.78Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に3.63Vの電流出力が得られた。実施例3と同様に1年間経過後においては、電気分解を使用したガス検知器において、2.69V、テープ式のガス検知器においては、3.50Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が3.5%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0043】
[実施例5]
エッチングガスに、三フッ化窒素1体積%の窒素希釈のものを用い、実施例3と同様な方法で密封されたステンレス容器内で当該固体金属と当該エッチングガスを温度500℃において1時間接触させることにより、当該固体金属表面の一部のSiをSiF
4ガスとして反応除去し、粗面化した。ここで三フッ化窒素ガスは室温ではSiとの反応が進行しないため、実施例3や実施例4で示されたフッ素ガスや三フッ化塩素ガスに比べ高温にて反応させた。上記の方法で粗面化したSiを用いて実施例1と同様な方法でガスの検出を確認した。
測定の結果、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に2.75Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に3.59Vの電流出力が得られた。実施例3と同様に1年間経過後においては、電気分解を使用したガス検知器において、2.66V、テープ式のガス検知器においては、3.50Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が3.5%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0044】
[実施例6〜39]
実施例1と同様な方法で、検出対象ガスを種々変えて測定を実施した。検出対象ガスの濃度は、いずれも10体積ppmの大気とした。検出対象ガス別による測定結果は表1のように検出対象ガスの種類の違いにより多少変動はあるものの、出力の低下は5.0%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0045】
[実施例40〜42]
実施例1と同様な方法で、当該固体金属にW,Mo,Geを用い、同様の機械加工により表面を粗面化し、測定を実施した。当該固体金属別による測定結果は表1のように当該固体金属の種類の違いにより多少変動はあるものの、出力の低下は5.0%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0046】
[実施例43]
実施例2と同様な方法で、当該固体金属にWを用い、表面の粗面化にエッチング液を使用し実施例2と同様な方法でガスの検出を確認した。エッチング液は、水酸化カリウム1重量%の水溶液を用い、ステンレス容器内で当該固体金属を当該エッチング液に温度50℃において1時間浸し、当該固体金属表面の一部のWを反応除去し、粗面化した。
測定の結果、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に1.28Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に1.38Vの電流出力が得られた。実施例2と同様に1年間経過後においては、電気分解を使用したガス検知器において、1.22V、テープ式のガス検知器においては、1.31Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が5.0%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0047】
[実施例44]
実施例2と同様な方法で、当該固体金属にMoを用い、表面の粗面化にエッチング液を使用し実施例2と同様な方法でガスの検出を確認した。エッチング液は、硝酸1重量%と塩酸1重量%の混合水溶液を用い、ステンレス容器内で当該固体金属を当該エッチング液に温度50℃において1時間浸し、当該固体金属表面の一部のMoを反応除去し、粗面化した。
測定の結果、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に1.19Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に1.13Vの電流出力が得られた。実施例2と同様に1年間経過後においては、電気分解を使用したガス検知器において、1.16V、テープ式のガス検知器においては、1.09Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が3.0%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0048】
[実施例45]
実施例44と同様な方法で、エッチング液に硝酸1重量%と硫酸1重量%の混合水溶液を用い、ステンレス容器内で当該固体金属を当該エッチング液に温度50℃において1時間浸し、当該固体金属表面の一部のMoを反応除去し、粗面化した。上記の方法で粗面化したMoを用いて実施例44と同様な方法でガスの検出を確認した。
測定の結果、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に1.22Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に1.19Vの電流出力が得られた。実施例44と同様に1年間経過後においては、電気分解を使用したガス検知器において、1.19V、テープ式のガス検知器においては、1.16Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が3.0%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0049】
[実施例46]
実施例2と同様な方法で、当該固体金属にGeを用い、表面の粗面化にエッチング液を使用し実施例2と同様な方法でガスの検出を確認した。エッチング液は、硝酸1重量%とフッ酸1重量%の混合水溶液を用い、ステンレス容器内で当該固体金属を当該エッチング液に温度50℃において1時間浸し、当該固体金属表面の一部のGeを反応除去し、粗面化した。
測定の結果、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に3.22Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に3.31Vの電流出力が得られた。実施例2と同様に1年間経過後においては、電気分解を使用したガス検知器において、3.09V、テープ式のガス検知器においては、3.19Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が4.0%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0050】
[実施例47〜49]
実施例1と同様な方法で、添着物としてはアルカリ金属フッ化物であるKF、アルカリ金属水酸化物であるNaOH,KOHを用い、該Siに重量割合で1000ppmになるように添着させ、測定を実施した。当該添着物別による測定結果は表1のように当該添着物の種類の違いにより多少変動はあるものの、出力の低下は4.0%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0051】
[実施例50〜52]
筒の回転速度と回転時間を変化させる以外は実施例1と同様な方法でガスの検出を確認した。
当該添着物別による測定結果は表1のように筒の回転速度と回転時間の違いにより多少変動はあるものの、出力の低下は4.0%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。各実施例の条件は以下の通りである。
実施例50では筒の回転速度を10rpm、回転時間を30分、実施例51では筒の回転速度を50rpm、回転時間を10時間、実施例52では筒の回転速度を100rpm、回転時間を10時間とした。
【0052】
[実施例53]
Si表面の粗面化に機械加工ではなく、微粉状Siを使用した以外は実施例1と同様な方法でガスの検出を確認した。平均粒径が数10μmまで粉砕した微粉状Siを全重量の20wt%となる様に塊状Siに加え、さらに、接着剤としてセラミック系接着剤(アルミナがベース成分)を全重量の2wt%となるように加えた。乾燥後、塊状Siの表面に付着しなかった微粉状Siは篩い分けにより除去した。最後に1000℃以上で熱処理することにより微粉状Siを完全に固定し、粗面化した。添着物としてはアルカリ金属水酸化物であるNaFを用い、当該Siに重量割合で1000ppmになるように添着させ、測定を実施した。測定の結果、電気分解を使用したガス検知器において、測定開始初期に3.20Vの電気出力が得られた。テープ式のガス検知器においては、測定開始初期に3.46Vの電流出力が得られた。実施例1と同様に1年間経過後においては、電気分解を使用したガス検知器において、3.15V、テープ式のガス検知器においては、3.34Vの電流出力が得られ、共に出力の低下が3.5%以下であり、経時変化の小さいことが確認された。
【0053】
[比較例1〜3]
実施例1と同様な方法で、粗面化を実施しないで測定を実施した。添着物としてはアルカリ金属フッ化物であるNaFを用い、該Siに重量割合で1000ppmになるように添着させ、測定対象ガスにはC
5F
8,C
4F
6,C
5HF
7を使用した。測定結果は表2のように検出対象ガスの種類の違いにより多少変動はあるものの、出力の低下は60%以上であり、経時変化の非常に大きいことが確認された。
【0054】
[比較例4〜6]
実施例1と同様な方法で、粗面化を実施しないで測定を実施した。添着物としてはアルカリ金属水酸化物であるNaOHを用い、該Siに重量割合で1000ppmになるように添着させ、測定対象ガスにはC
5F
8,C
4F
6,C
5HF
7を使用した。測定結果は表2のように検出対象ガスの種類の違いにより多少変動はあるものの、出力の低下は10±1%であり、経時変化の大きいことが確認された。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
実施例1と比較例1を比較すると、添着物がNaFで、添着量がSiに対して1000質量ppmと同じであるにもかかわらず、フッ素含有化合物ガスと反応する塊状Siの表面を粗面化することで、検知剤の寿命を長くすることができた。これは、実施例1の検知剤では、触媒として作用する添着物が、粗面化塊状Siの表面の微細な凹部に保持され、塊状Siの表面にとどまり続けるためと考えられる。一方、比較例1の検知剤では、添着物が固体金属の表面を移動し、また一部が消失し、添着物が固体金属表面上において均一に保持できなくなり、添着物の触媒効果が低下したものと考えられる。これは、機械加工により粗面化する場合だけでなく、エッチング液やエッチングガスにより粗面化した場合も同様であり(実施例1〜4)、添着物をNaOHに変更しても同様であった(実施例48と比較例4の比較)。
【0058】
以上詳述したように、本発明の方法によれば、フッ素含有化合物ガスの検出方法において、フッ素含有化合物ガスを微量含むガスと表面にアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物を添着した固体金属と加熱状態下で接触反応させ、生成したガスを検出する方法において、当該固体金属表面に微細な凹凸を形成し粗面化し、ここにアルカリ金属フッ化物又はアルカリ金属水酸化物を添着させることにより、微量のフッ素含有化合物ガスを長期に検出することができる。