(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908980
(24)【登録日】2021年7月6日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】動的吸放湿性評価装置、動的吸放湿性評価方法及び動的吸放湿性評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 19/10 20060101AFI20210715BHJP
G01N 5/00 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
G01N19/10 A
G01N5/00 B
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-186127(P2016-186127)
(22)【出願日】2016年9月23日
(65)【公開番号】特開2018-48983(P2018-48983A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】岸 敦史
(72)【発明者】
【氏名】石原 康隆
(72)【発明者】
【氏名】間宮 悟
【審査官】
外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−122888(JP,A)
【文献】
特開2009−075105(JP,A)
【文献】
特開2015−052765(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0029205(US,A1)
【文献】
Surface Measurement System,The easy-to-use solution to complex water sorption challenges,[オンライン],英国,Surface Measurement System,2015年 8月25日,[検索日 2020.05.21], インターネット:<URL:https://surfacemeasurementsystems.com/wp-content/uploads/2015/10/DVS_Intrinsic_brochure_Aug2015_E-COPY.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/10
G01N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルが配置される測定室と、
前記測定室内にテストガスを連続的に流すテストガスフロー機構と、
前記測定室内のテストガス中の水蒸気濃度を調整するテストガス調整機構と、
前記測定室内のサンプルの水分量を測定する測定部と、
前記テストガス調整機構を制御して前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させる制御部と、
前記制御部により前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させたときに、その変化に対する前記測定部で測定される前記サンプル中の水分量の変化の時間のずれを算出し、前記時間のずれに基づいて前記サンプルの水の吸脱着速度を解析する解析部とを備えることを特徴とする動的吸放湿性評価装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記テストガス調整機構を制御して前記テストガス中の水蒸気濃度を周期的に変化させ、
前記解析部は、前記テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化を表す波形と、その水蒸気濃度の変化に対する前記測定部で測定される前記サンプル中の水分量の周期的な変化を表す波形とに基づいて、波形解析を行うことを特徴とする請求項1に記載の動的吸放湿性評価装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化の周波数を段階的又は連続的に変化させ、
前記解析部は、それぞれの周波数にて波形解析を行うことを特徴とする請求項2に記載の動的吸放湿性評価装置。
【請求項4】
前記テストガス調整機構は、前記テストガス中の水蒸気濃度及び温度を調整するものであり、
前記制御部は、前記テストガス調整機構を制御して前記テストガス中の水蒸気濃度及び温度を変化させ、
前記解析部は、前記制御部により前記テストガスの温度を変化させて、各温度において前記制御部により前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させたときに、各温度における水蒸気濃度の変化に対する前記測定部で測定される前記サンプル中の水分量の変化の時間のずれを算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の動的吸放湿性評価装置。
【請求項5】
サンプルが配置される測定室と、
前記測定室内にテストガスを連続的に流すテストガスフロー機構と、
前記測定室内のテストガス中の検体の濃度を調整するテストガス調整機構と、
前記測定室内のサンプル中の検体の吸脱着量を測定する測定部と、
前記テストガス調整機構を制御して前記テストガス中の検体の濃度を変化させる制御部と、
前記制御部により前記テストガス中の検体の濃度を変化させたときに、その検体の濃度の変化に対する前記測定部で測定される前記サンプル中の検体の吸脱着量の変化の時間のずれを算出し、前記時間のずれに基づいて前記サンプルの水の吸脱着速度を解析する解析部とを備えることを特徴とする動的吸脱着性評価装置。
【請求項6】
測定室にサンプルを配置するサンプル配置ステップと、
前記測定室内にテストガスを連続的に流すテストガスフローステップと、
前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させる制御ステップと、
前記制御ステップにより前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させ、前記テストガス中の水蒸気濃度の変化に対する前記サンプル中の水分量の変化の時間のずれを算出し、前記時間のずれに基づいて前記サンプルの水の吸脱着速度を解析する解析ステップとを含むことを特徴とする動的吸放湿性評価方法。
【請求項7】
前記制御ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度を周期的に変化させ、
前記解析ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化を表す波形と、その水蒸気濃度の変化に対する前記サンプル中の水分量の周期的な変化を表す波形とに基づいて、波形解析を行うことを特徴とする請求項6に記載の動的吸放湿性評価方法。
【請求項8】
前記制御ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化の周波数を段階的又は連続的に変化させ、
前記解析ステップでは、それぞれの周波数にて波形解析を行うことを特徴とする請求項7に記載の動的吸放湿性評価方法。
【請求項9】
前記制御ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度及び温度を変化させ、
前記解析ステップでは、前記テストガスの温度を変化させて、各温度において前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させたときに、各温度における水蒸気濃度の変化に対する前記サンプル中の水分量の変化の時間のずれを算出することを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の動的吸放湿性評価方法。
【請求項10】
測定室にサンプルを配置するサンプル配置ステップと、
前記測定室内にテストガスを連続的に流すテストガスフローステップと、
前記テストガス中の検体の濃度を変化させる制御ステップと、
前記制御ステップにより前記テストガス中の検体の濃度を変化させ、前記テストガス中の検体の濃度の変化に対する前記サンプル中の検体の吸脱着量の変化の時間のずれを算出し、前記時間のずれに基づいて前記サンプルの検体の吸脱着速度を解析する解析ステップとを含むことを特徴とする動的吸脱着性評価方法。
【請求項11】
測定室内のサンプルの動的吸放湿性を評価するための動的吸放湿性評価プログラムであって、
前記測定室内にテストガスを連続的に流すテストガスフローステップと、
前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させる制御ステップと、
前記制御ステップにより前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させ、前記テストガス中の水蒸気濃度の変化に対する前記サンプル中の水分量の変化の時間のずれを算出し、前記時間のずれに基づいて前記サンプルの水の吸脱着速度を解析する解析ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする動的吸放湿性評価プログラム。
【請求項12】
前記制御ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度を周期的に変化させ、
前記解析ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化を表す波形と、その水蒸気濃度の変化に対する前記サンプル中の水分量の周期的な変化を表す波形とに基づいて、波形解析を行うことを特徴とする請求項11に記載の動的吸放湿性評価プログラム。
【請求項13】
前記制御ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化の周波数を段階的又は連続的に変化させ、
前記解析ステップでは、それぞれの周波数にて波形解析を行うことを特徴とする請求項12に記載の動的吸放湿性評価プログラム。
【請求項14】
前記制御ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度及び温度を変化させ、
前記解析ステップでは、前記テストガスの温度を変化させて、各温度において前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させたときに、各温度における水蒸気濃度の変化に対する前記サンプル中の水分量の変化の時間のずれを算出することを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載の動的吸放湿性評価プログラム。
【請求項15】
測定室内のサンプルの動的吸脱着性を評価するための動的吸脱着性評価プログラムであって、
前記測定室内にテストガスを連続的に流すテストガスフローステップと、
前記テストガス中の検体の濃度を変化させる制御ステップと、
前記制御ステップにより前記テストガス中の検体の濃度を変化させ、前記テストガス中の検体の濃度の変化に対する前記サンプル中の検体の吸脱着量の変化の時間のずれを算出し、前記時間のずれに基づいて前記サンプルの検体の吸脱着速度を解析する解析ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする動的吸脱着性評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定室内のサンプルの動的吸放湿性を評価するための動的吸放湿性評価装置、動的吸放湿性評価方法及び動的吸放湿性評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下記特許文献1の段落[0137]などに示すように、サンプルの水分量を測定するための水分量測定装置(例えば、Hiden社製の水分吸脱着測定装置「IGA−Sorp」など)が用いられている。この種の装置を用いることにより、例えば単体のフィルムや、複数層の積層構造を有する多層フィルムなど、各種サンプルに含まれる水分量を測定することができる。
【0003】
例えば偏光板は、基材フィルム、偏光子及び粘着層などが積層された多層フィルムである。偏光板は、潜在的に湿熱試験の耐久性に弱く、各層の透湿度及び水分量が非常に重要である。偏光板を構成する各層は、それぞれ固有の水分のたまりやすさを有しており、水分量測定装置を用いて各層を個別に測定すれば、各層の水分量を算出することができる。これらの各層が積層された偏光板の耐久性は、各層の透湿度及び水分量に基づいて推測することが設計上可能であると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−52765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者らが偏光板の湿熱の耐久性を研究する過程において、偏光板を構成する各層の水分のたまりやすさは、各層が単体の状態と積層された状態とで異なることを見出すに至った。これは、積層された各層それぞれの線膨張が異なり、延伸プロセスを経て内部応力が存在した状態であることなどから、内圧等の相互作用を受けることが原因になっているものと考えられる。
【0006】
従来の水分量測定装置では、偏光板などの多層フィルムにおける各層の水分量を、各層が積層された状態のまま解析することができない。そのため、各層が積層された状態で使用される多層フィルムの各層の特性(透湿度及び水分量)を、実際に使用される状態で解析することができなかった。また、多層フィルムに限らず、従来の水分量測定装置ではサンプルの水分量を測定することができるに過ぎず、水蒸気濃度を変化させたときのサンプルの吸放湿性(以下、「動的吸放湿性」ともいう)を幅広く解析することが困難であった。
【0007】
また、このような課題は、検体として水蒸気を用いたときのサンプルの動的吸放湿性を解析する場合のみに限らず、酸素、二酸化炭素等の他の検体ガスを用いたときのサンプルの動的吸脱着性を解析する場合にも生じる新たな課題である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、サンプルの特性を幅広く解析することができる動的吸放湿性評価装置、動的吸放湿性評価方法及び動的吸放湿性評価プログラムを提供することを目的とする。また、本発明の目的は、サンプル中の任意の層における特性を評価することができる動的吸放湿性評価装置、動的吸放湿性評価方法及び動的吸放湿性評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る動的吸放湿性評価装置は、測定室と、テストガスフロー機構と、テストガス調整機構と、測定部と、制御部と、解析部とを備える。前記測定室には、サンプルが配置される。前記テストガスフロー機構は、前記測定室内にテストガスを連続的に流す。前記テストガス調整機構は、前記測定室内のテストガス中の水蒸気濃度を調整する。前記測定部は、前記測定室内のサンプルの水分量を測定する。前記制御部は、前記テストガス調整機構を制御して前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させる。前記解析部は、前記制御部により前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させたときに、その変化に対する前記測定部で測定される前記サンプル中の水分量の変化のずれを解析する。
【0010】
このような構成によれば、テストガス中の水蒸気濃度を変化させ、その変化に対するサンプル中の水分量の変化のずれを算出することにより、そのずれに基づいてサンプルの特性を解析することができる。算出したサンプル中の水分量の変化のずれは、サンプルにおける吸脱着速度に対応している。したがって、サンプルの水分量だけでなく、吸脱着速度も解析することができるため、サンプルの特性を幅広く解析することができる。
【0011】
(2)前記制御部は、前記テストガス調整機構を制御して前記テストガス中の水蒸気濃度を周期的に変化させてもよい。この場合、前記解析部は、前記テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化を表す波形と、その水蒸気濃度の変化に対する前記測定部で測定される前記サンプル中の水分量の周期的な変化を表す波形とに基づいて、波形解析を行ってもよい。
【0012】
このような構成によれば、テストガス中の水蒸気濃度を周期的に変化させたときの波形解析により、サンプルの特性を幅広く解析することができる。具体的には、波形の高さは水分のたまりやすさに相当し、波形のずれは吸脱着速度に起因することから、解析することができる。また、テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化の周波数を段階的又は連続的に変化させれば、その周波数依存性に基づいてサンプルの詳細な特性を評価することに繋がる。
【0013】
(3)前記制御部は、前記テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化の周波数を段階的又は連続的に変化させてもよい。この場合、前記解析部は、それぞれの周波数にて波形解析を行ってもよい。
【0014】
このような構成によれば、それぞれの周波数にて波形解析を行うことにより、その周波数依存性に基づいてサンプルの内部構造を評価することができる。
【0015】
(4)前記テストガス調整機構は、前記テストガス中の水蒸気濃度及び温度を調整するものであってもよい。この場合、前記制御部は、前記テストガス調整機構を制御して前記テストガス中の水蒸気濃度及び温度を変化させてもよい。また、前記解析部は、前記制御部により前記テストガスの温度を変化させて、各温度において前記制御部により前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させたときに、各温度における水蒸気濃度の変化に対する前記測定部で測定される前記サンプル中の水分量の変化のずれを算出してもよい。
【0016】
このような構成によれば、テストガスの温度を変化させ、各温度において、テストガス中の水蒸気濃度の変化に対するサンプル中の水分量の変化のずれを算出することにより、そのずれに基づいてサンプルの特性を解析することができる。
【0017】
前記制御部は、前記テストガス調整機構を制御して前記テストガスの温度を周期的に変化させてもよい。この場合、前記解析部は、前記テストガスの温度の周期的な変化を表す波形と、その温度の変化に対する前記測定部で測定される前記サンプル中の水分量の周期的な変化を表す波形とに基づいて、波形解析を行ってもよい。温度の周期的な変化の周波数を段階的又は連続的に変化させれば、その周波数依存性に基づいてサンプルの詳細な特性を評価することに繋がる。
【0018】
(5)本発明に係る動的吸脱着性評価装置は、測定室と、テストガスフロー機構と、テストガス調整機構と、測定部と、制御部と、解析部とを備える。前記測定室には、サンプルが配置される。前記テストガスフロー機構は、前記測定室内にテストガスを連続的に流す。前記テストガス調整機構は、前記測定室内のテストガス中の検体の濃度を調整する。前記測定部は、前記測定室内のサンプル中の検体の吸脱着量を測定する。前記制御部は、前記テストガス調整機構を制御して前記テストガス中の検体の濃度を変化させる。前記解析部は、前記制御部により前記テストガス中の検体の濃度を変化させたときに、その検体の濃度の変化に対する前記測定部で測定される前記サンプル中の検体の吸脱着量の変化のずれを解析する。
【0019】
このような構成によれば、テストガス中の検体の濃度を変化させ、その変化に対するサンプル中の検体の吸脱着量の変化のずれを算出することにより、そのずれに基づいてサンプルの特性を解析することができる。算出したサンプル中の検体の吸脱着量の変化のずれは、サンプルにおける吸脱着速度に対応している。したがって、サンプルの吸脱着量だけでなく、吸脱着速度も解析することができるため、サンプルの特性を幅広く解析することができる。
【0020】
(6)本発明に係る動的吸放湿性評価方法は、サンプル配置ステップと、テストガスフローステップと、制御ステップと、解析ステップとを含む。前記サンプル配置ステップでは、測定室にサンプルを配置する。前記テストガスフローステップでは、前記測定室内にテストガスを連続的に流す。前記制御ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させる。前記解析ステップでは、前記制御ステップにより前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させ、前記テストガス中の水蒸気濃度の変化に対する前記サンプル中の水分量の変化のずれを解析する。
【0021】
(7)本発明に係る動的吸脱着性評価方法は、サンプル配置ステップと、テストガスフローステップと、制御ステップと、解析ステップとを含む。前記サンプル配置ステップでは、測定室にサンプルを配置する。前記テストガスフローステップでは、前記測定室内にテストガスを連続的に流す。前記制御ステップでは、前記テストガス中の検体の濃度を変化させる。前記解析ステップでは、前記制御ステップにより前記テストガス中の検体の濃度を変化させ、前記テストガス中の検体の濃度の変化に対する前記サンプル中の検体の吸脱着量の変化のずれを解析する。
【0022】
(8)本発明に係る動的吸放湿性評価プログラムは、測定室内のサンプルの動的吸放湿性を評価するための動的吸放湿性評価プログラムであって、テストガスフローステップと、制御ステップと、解析ステップとをコンピュータに実行させる。前記テストガスフローステップでは、前記測定室内にテストガスを連続的に流す。前記制御ステップでは、前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させる。前記解析ステップでは、前記制御ステップにより前記テストガス中の水蒸気濃度を変化させ、前記テストガス中の水蒸気濃度の変化に対する前記サンプル中の水分量の変化のずれを解析する。
【0023】
(9)本発明に係る動的吸脱着性評価プログラムは、測定室内のサンプルの動的吸脱着性を評価するための動的吸脱着性評価プログラムであって、テストガスフローステップと、制御ステップと、解析ステップとをコンピュータに実行させる。前記テストガスフローステップでは、前記測定室内にテストガスを連続的に流す。前記制御ステップでは、前記テストガス中の検体の濃度を変化させる。前記解析ステップでは、前記制御ステップにより前記テストガス中の検体の濃度を変化させ、前記テストガス中の検体の濃度の変化に対する前記サンプル中の検体の吸脱着量の変化のずれを解析する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、サンプルの水分量だけでなく、吸脱着速度も解析することができるため、サンプルの特性を幅広く解析することができる。また、本発明によれば、波形解析を用いることにより、サンプル中の任意の層における特性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る動的吸放湿性評価装置における測定室の構成を示した概略断面図である。
【
図2】サンプルの構成例を示した概略断面図である。
【
図3】動的吸放湿性評価装置の構成例を示したブロック図である。
【
図4】サンプルの解析方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.測定室の構成
図1は、本発明の一実施形態に係る動的吸放湿性評価装置における測定室1の構成を示した概略断面図である。測定室1は、筐体10の内部に形成されている。測定対象となるサンプル100は、測定室1内に配置される。なお、本実施形態ではサンプル100がフィルム部材(フィルム状サンプル)である場合について説明するが、サンプル100はフィルム部材に限られるものではない。
【0027】
筐体10には、流入口11及び流出口12が形成されている。測定室1内には、流入口11からガスが流入する。測定室1内に流入するガスは、設定された水蒸気濃度(湿度)に調整されたテストガスである。これにより、測定室1内にはテストガスが充填され、測定室1の容量を超えるテストガスは流出口12からオーバーフローするようになっている。流入口11及び流出口12は、測定室1内にテストガスを連続的に流すテストガスフロー機構を構成している。
【0028】
測定室1内のテストガスに含まれる水分(水蒸気)は、サンプル100に吸収(吸水)される。したがって、サンプル100に吸収される水分量に応じて、サンプル100の重量が変化することとなる。測定室1内には、サンプル100の重量を検出するための重量検出部3が設けられている。重量検出部3は、載置台31上に載置されたサンプル100の重量を検出するものであり、その検出結果に基づいてサンプル100の水分量が測定される。
【0029】
2.サンプルの構成
図2は、サンプル100の構成例を示した概略断面図である。本実施形態において測定対象となるサンプル100は、例えば複数の層101,102,103が積層された多層フィルムである。より具体的には、サンプル100は偏光板であり、例えば基材フィルム101、偏光子102及び粘着層103などが積層されている。各層101,102,103の厚みは、例えば数μm〜数十μmである。
【0030】
サンプル100は測定室1内に配置されるため、
図2に矢印で示すように、測定室1内のテストガスに含まれる水分が、基材フィルム101、偏光子102及び粘着層103のそれぞれに吸収される。各層101,102,103は、それぞれ固有の水分のたまりやすさを有しており、測定室1内のテストガスに含まれる水分は、各層101,102,103の層内及び界面に少量ずつたまることとなる。各層101,102,103に含まれる水分の割合(水分率)は、測定室1内のテストガスの水蒸気濃度に応じて変化する。
【0031】
サンプル100を構成する各層101,102,103の水分のたまりやすさは、各層101,102,103が単体の状態と積層された状態とで異なる。これは、積層された各層101,102,103それぞれの線膨張が異なり、延伸プロセスを経て内部応力が存在した状態であることなどから、内圧等の相互作用を受けることが原因になっているものと考えられる。本実施形態では、各層101,102,103が積層された状態のままサンプル100の水分量を測定し、その測定結果に基づいて各層101,102,103の特性を解析することを主目的としている。
【0032】
3.動的吸放湿性評価装置の構成
図3は、動的吸放湿性評価装置の構成例を示したブロック図である。本実施形態における動的吸放湿性評価装置は、上述した構成に加えて、例えばテストガス調整機構2及び制御部4などを備えている。
【0033】
テストガス調整機構2は、流入口11から測定室1内に流入させるテストガスの水蒸気濃度及び温度を調整する。このテストガス調整機構2を制御することにより、測定室1内のテストガスの水蒸気濃度及び温度を任意の値に調整することができる。すなわち、測定室1内のテストガスの水蒸気濃度及び温度を一定に保つこともできるし、変化させることもできる。
【0034】
制御部4は、コンピュータなどの制御装置により構成される。制御部4は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む構成であり、CPUがプログラムを実行することにより、温度制御部40、水蒸気濃度制御部41、測定部42及び解析部43などとして機能する。解析部43には、水分係数解析部431及び吸脱着速度解析部432が含まれる。
【0035】
温度制御部40は、テストガス調整機構2を制御して測定室1内のテストガスの温度を変化させる。水蒸気濃度制御部41は、テストガス調整機構2を制御して測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度を変化させる。測定部42は、重量検出部3により検出されたサンプル100の重量に基づいて、サンプル100の水分量を測定する。すなわち、水分が含まれていない状態におけるサンプル100の重量と、測定室1内で水分を含むテストガスに晒された後のサンプル100の重量との差分を水分量として算出する。
【0036】
解析部43は、温度制御部40及び水蒸気濃度制御部41におけるテストガス調整機構2の制御態様、及び、測定部42におけるサンプル中の水分量の測定結果に基づいて、サンプル100の特性を解析する。本実施形態では、水分係数解析部431によりサンプル100の水分係数を解析し、吸脱着速度解析部432により吸脱着速度を解析することができる。ここで、水分係数は、水分のたまりやすさを表す値を意味している。また、吸脱着速度は、水分の吸着及び脱着のしやすさを表す値である。
【0037】
4.サンプルの解析方法
図4は、サンプル100の解析方法について説明するための図である。本実施形態では、水蒸気濃度制御部41によりテストガス調整機構2を制御して、測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度を周期的に変化させ、そのときの測定部42におけるサンプル中の水分量の測定結果に基づいてサンプル100の特性が解析される。
図4では、横軸を時間、縦軸を水分量(水蒸気濃度)として、測定部42により測定される水分量(出力)を実線で示すとともに、そのときの測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化(入力)を破線で対応付けて示している。
【0038】
図4の例では、測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度がサインカーブで変化するように、水蒸気濃度制御部41がテストガス調整機構2を制御している。ただし、測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度の変化は、周期的な変化であればよく、コサインカーブその他の各種態様で変化させることができる。この場合、入力である測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化を表す波形W1に対して、出力である測定部42により測定されるサンプル中の水分量の周期的な変化を表す波形W2がずれを生じる。本発明は、このような入力に対する出力のずれを解析(波形解析)することにより、サンプル100の特性を幅広く解析しようとするものである。
【0039】
具体的には、波形W1のテストガス中の水蒸気濃度変化に対応する波形W2のサンプル中の水分量の高さAは、サンプル100の水分のたまりやすさ(水分係数)に応じた値となり、波形W1に対する波形W2のずれ(時間のずれ)Bは、サンプル100における吸脱着速度に応じた値となる。したがって、これらの値A,Bを複素的に捉えれば、Aに対応する水分係数を実部(Re)、Bに対応する吸脱着速度を虚部(Im)とする複素数(A+B×i)を用いてサンプル100の特性を解析することができる。
【0040】
また、入力である測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化の周波数を段階的又は連続的に変化させれば、その周波数依存性から任意の層や層間の特性をも評価することができる。すなわち、
図2に示すような複数の層101,102,103が積層されたサンプル100を積層状態のまま測定する場合であっても、入力の波形W1の周波数を変化させれば、その周波数に応じたいずれかの層内又は界面の特性(水分係数及び吸脱着速度)を解析することができる。具体的には、それぞれの周波数にて、第1空間13内のテストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化を表す波形W1と、その水蒸気濃度の変化に対する測定部42で測定されるサンプル中の水分量の周期的な変化を表す波形W2とのずれを解析(波形解析)する。このとき、各周波数毎の特性をナイキスト線図やボード線図にプロットして、その軌跡からサンプルの内部状態を評価することが可能である。
【0041】
上記のような解析方法は、測定室1内の温度を変化させて、各温度において行うこともできる。すなわち、温度制御部40により測定室1内のテストガスの温度を変化させて、各温度において水蒸気濃度制御部41により測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度を変化させたときに、各温度における水蒸気濃度の変化に対する測定部42で測定されるサンプル中の水分量の変化のずれを算出してもよい。例えば、40℃、50℃、60℃、70℃などの異なる温度で、それぞれ測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度を変化させて上記のような波形解析を行ってもよい。
【0042】
5.作用効果
本実施形態では、測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度を変化させ(制御ステップ)、その水蒸気濃度の変化に対する測定部42で測定されるサンプル中の水分量の変化のずれBを解析部43で算出することにより(解析ステップ)、そのずれBに基づいてサンプル100の特性を解析することができる。算出したサンプル中の水分量の変化のずれBは、上述の通り、サンプル100における吸脱着速度に対応している。したがって、サンプル100中の水分量だけでなく、吸脱着速度も解析することができるため、サンプル100の特性を幅広く解析することができる。
【0043】
また、本実施形態では、測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化を表す波形W1と、その水蒸気濃度の変化に対する測定部42で測定されるサンプル中の水分量の周期的な変化を表す波形W2とを比較する波形解析により、サンプル100の特性を幅広く解析することができる。具体的には、上述の通り、波形W2の高さAに基づいて水分のたまりやすさ(水分係数)を解析し、波形W1,W2のずれBに基づいて吸脱着速度を解析することができる。また、サンプル中の水分量の周期的な変化を表す波形W2は、テストガス中の水蒸気濃度の周期的な変化を表す波形W1の周波数に応じた位置におけるサンプル100の特性を示しているため、上述の通り周波数を任意に設定することにより、サンプル100中の任意の層における特性を評価することができる。
【0044】
6.変形例
以上の実施形態では、水蒸気濃度制御部41が、テストガス調整機構2を制御して測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度を周期的に変化させるような構成について説明した。しかし、周期的な変化以外の態様で規則的又は不規則に測定室1内のテストガス中の水蒸気濃度を変化させるような構成であってもよい。
【0045】
サンプル100は、多層フィルムに限らず、フィルム単体であってもよい。また、本発明に係る動的吸放湿性評価装置は、フィルム以外のサンプル100についても測定可能である。
【0046】
以上の実施形態では、動的吸放湿性評価装置の構成について説明したが、動的吸放湿性評価装置の制御部4としてコンピュータを機能させるためのプログラム(動的吸放湿性評価プログラム)を提供することも可能である。この場合、上記プログラムは、記憶媒体に記憶された状態で提供されるような構成であってもよいし、プログラム自体が提供されるような構成であってもよい。
【0047】
また、本発明は、水蒸気だけでなく、酸素、二酸化炭素などの各種検体についての動的吸脱着性を評価する動的吸脱着性評価装置、動的吸脱着性評価方法及び動的吸脱着性評価プログラムにも適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 測定室
2 テストガス調整機構
3 重量検出部
4 制御部
10 筐体
11 流入口
12 流出口
31 載置台
40 温度制御部
41 水蒸気濃度制御部
42 測定部
43 解析部
100 サンプル
101 基材フィルム
102 偏光子
103 粘着層
431 水分係数解析部
432 吸脱着速度解析部
W1 波形
W2 波形
A 波形W2の高さ
B 波形W1に対する波形W2のずれ(時間のずれ)