(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る熱電モジュール10を含むプラズマ処理装置100を示す図である。プラズマ処理装置100は、熱電モジュール10、チャンバ101、プラズマ電極102、高周波発振器103、静電チャック104、および水冷板105を含む。図示された例では、チャンバ101の内部でシリコンウェハ110が静電チャック104によって吸着されている。
【0011】
プラズマ電極102は、チャンバ101の内部で静電チャック104に吸着されたシリコンウェハ110と対向するように配置されている。静電チャック104は、上面(図中の上方を向いた面。以下、上面および下面の用語について同様)でシリコンウェハ110を吸着する。一方、静電チャック104の下面には熱電モジュール10および水冷板105が配置される。水冷板105には管路105Aが形成され、管路105A内には冷却流体が循環させられる。
【0012】
熱電モジュール10は、静電チャック104と水冷板105との間に配置され、熱電素子1、電極2、およびポリイミドフィルム3を含む。熱電素子1は、両端面をそれぞれ熱電モジュール10の上面および下面に向けて交互に配列されたP型熱電素子1PおよびN型熱電素子1Nを含む。P型熱電素子1PおよびN型熱電素子1Nのそれぞれの端面に電極2が接合されることによって、P型熱電素子1PとN型熱電素子1Nとは互いに電気的に接続される。
【0013】
電極2は、熱電モジュール10の上面側に配置される上面側電極21と、下面側に配置される下面側電極22とを含む。なお、本実施形態では、
図1に示されるようなプラズマ処理装置100の配置に基づいて、第1の電極を上面側電極21、第2および第3の電極を下面側電極22として説明するが、他の実施形態では、熱電モジュール10の配置が
図1の例に対して反転し、第1の電極が下面側電極、第2および第3の電極が上面側電極であってもよい。あるいは、熱電モジュール10は、第1の電極と第2および第3の電極とが上下方向の両側に位置するのではなく、横方向または斜め方向の両側に位置するように配置されてもよい。ポリイミドフィルム3は、熱電モジュール10の上面側に配置され、上面側電極21はポリイミドフィルム3に接合される。ポリイミドは変形しやすい材質であるため、上面側電極21はポリイミドフィルム3を変形させながら熱膨張することができる。一方、下面側電極22は、熱電モジュール10の下面側の基板に固定されている。
【0014】
上面側電極21と下面側電極22とがそれぞれ異なる組み合わせのP型熱電素子1PおよびN型熱電素子1Nを電気的に接続することによって、P型熱電素子1PおよびN型熱電素子1Nが交互に接続された直列回路が形成される。熱電モジュール10の動作時には、この回路に電流を通電することによって、上面側電極21で吸熱現象を生じさせ、下面側電極22で放熱現象を生じさせることができる。また、通電する電流の向きを逆転させれば、上面側電極21で放熱現象を生じさせ、下面側電極22で吸熱現象を生じさせることができる。このように吸熱現象および放熱現象を生じさせることによって、静電チャック104に吸着されたシリコンウェハ110の温度を制御することができる。
【0015】
プラズマ処理装置100では、シリコンウェハ110を静電チャック104に吸着させた後、チャンバ101の入口101Aから内部にプラズマ発生用の反応性ガスが導入され、プラズマ電極102に高周波発振器103によって高周波が印加されることによってプラズマが発生する。このプラズマによって、シリコンウェハ110にエッチングなどの処理が施される。その後、真空排気によってチャンバ101の出口101Bから反応性ガスが排出される。
【0016】
上記のようなプラズマ処理の間、シリコンウェハ110の温度を目標温度に制御することによって、プラズマ処理の歩留まりを向上させることができる。プラズマ処理装置100では、上記のように熱電モジュール10において吸熱現象および放熱現象を生じさせることによって静電チャック104に吸着されたシリコンウェハ110の温度を目標温度に制御している。
【0017】
図2は、本発明の実施形態に係る熱電モジュール10における上面側電極21の平面配置の例を示す図である。
図2には、
図1に示された熱電モジュール10をI−I線断面で見た場合の上面側電極21の平面配置が部分的に示されている。なお、
図2では、熱電素子1および下面側電極22の図示を省略している。図示されているように、上面側電極21は、二次元的に配列されている。それぞれの上面側電極21は、板状の本体部211を有する。後述するように、本体部211には、幅方向の両側にそれぞれ1つの切欠部213が形成される。
【0018】
図3は、
図2に示された上面側電極21の形状を拡大して示す図である。
図3には、上面側電極21に接合されるP型熱電素子1PおよびN型熱電素子1Nも図示されている。上面側電極21は、これらの熱電素子1のそれぞれの端面の中心C
1P,C
1Nを結ぶ方向を長手方向D
1とした場合に、この長手方向D
1に対応する幅方向D
2の第1の側211Aに形成されるスリット状の切欠部213Aと、幅方向D
2の第2の側211Bに形成されるスリット状の切欠部213Bとを有する。
【0019】
ここで、図示されているように、切欠部213A,213Bは、いずれも上面側電極21の幅方向D
2の中心線CL(長手方向D
1を示す線と同じ)まで延びている。つまり、幅方向D
2について、上面側電極21の第1の側211Aから第2の側211Bとの間の区間S
1には、切欠部213Aまたは切欠部213Bの少なくともいずれかが形成される。さらに、図示された例では、幅方向D
2について、上面側電極21の第1の側211Aから第2の側211Bとの間の一部の区間S
2には、切欠部213Aおよび切欠部213Bの両方が形成される。
【0020】
図4は、
図3に示された上面側電極21に熱応力STが発生した状態を示す図である。
図4(b)および
図5(b)の側面図には、上面側電極21の本体部211の下面から隆起してP型熱電素子1PおよびN型熱電素子1Nの上端面にそれぞれ接合される1対の台座212が図示されている。また、
図4(b)および
図5(b)の側面図には、P型熱電素子1Pの下端面に接合される下面側電極22A、およびN型熱電素子1Nの下端面に接合される下面側電極22Bも図示されている。下面側電極22A,22Bは、上面側電極21の本体部211および台座212と同様の本体部221および台座222を有する。なお、図示していないが、下面側電極22Aは図示されたN型熱電素子1Nとは異なるN型熱電素子にも接合され、下面側電極22Bは図示されたP型熱電素子1Pとは異なるP型熱電素子にも接合される。
【0021】
上述のように、熱電モジュール10の動作時には、上面側電極21において吸熱現象または放熱現象を生じさせることによって、シリコンウェハ110の温度が目標温度に制御される。このとき、シリコンウェハ110と上面側電極21との間では静電チャック104およびポリイミドフィルム3を介して熱が交換されるため、上記の目標温度が高温であれば上面側電極21も高温になる。この場合、上面側電極21の本体部211は、上述のようにポリイミドフィルム3を変形させながら、図示された矢印TE
1に沿って熱膨張する。その一方で、上面側電極21に接合されるP型熱電素子1PおよびN型熱電素子1Nは、それぞれ下面側電極22を介して基板に固定されることによって機械的に拘束されている。それゆえ、P型熱電素子1PとN型熱電素子1Nとの間に位置する上面側電極21の部分には熱応力STが発生する。
【0022】
しかしながら、本実施形態に係る熱電モジュール10の上面側電極21では、切欠部213A,213Bの部分が変形することによって、P型熱電素子1PおよびN型熱電素子1Nが拘束されていても本体部211の熱膨張が阻害されにくい。この結果として、発生する熱応力STは小さくなる。
【0023】
これに対して、
図5は、
図4の例に対する比較例として、上面側電極21に切欠部213A,213Bが形成されなかった場合に熱応力STが発生した状態を示す図である。この場合、上面側電極21の本体部211は図示された矢印TE
2に沿って熱膨張するが、P型熱電素子1PおよびN型熱電素子1Nが機械的に拘束されていることによって熱膨張が阻害される。その結果、P型熱電素子1PとN型熱電素子1Nとの間に位置する上面側電極21の部分には大きな熱応力STが発生する。図示されているように、熱応力STによって、上面側電極21は長手方向の中心付近が高くなったアーチ状に変形する。この変形によって、上面側電極21の台座212と熱電素子1の上端面との間の接合部P1、および下面側電極22A,22Bの台座222と熱電素子1の下端面との間の接合部P2には大きな応力(引張応力とせん断応力との合応力)が発生する。
【0024】
続いて、上記のような切欠部213A,213Bを形成したことによる上面側電極21の応力の変化について、数値解析によって検証した。具体的には、長さ8mm、幅2.9mm、厚さ0.6mm(本体部211が0.4mm、台座212が0.2mm)の上面側電極21に、幅0.3mmの切欠部213A,213Bを形成した場合において、上面側電極21の温度を60℃で固定し、上面側電極21の温度を60℃と120℃との間で振動させた場合に、上面側電極21の台座212と熱電素子1の端面との間の接合部(
図5に示した接合部P
1)に発生する応力の振幅を算出した。
【0025】
図6は、本発明の実施形態において上面側電極21に形成されるスリット状の切欠部213A,213Bの深さdおよび角度θの定義について説明するための図である。図示されているように、切欠部213A,213Bの深さdは、上面側電極21の幅方向D
2における、中心線CLと切欠部213A,213Bの先端との距離である。以下の説明では、切欠部213A,213Bの先端がちょうど中心線CLに達したときの深さdを0とし、切欠部213A,213Bの先端が中心線CLを越えて延びる場合にd>0、切欠部213A,213Bの先端が中心線CLに達しない場合にd<0とする。なお、以下で説明する解析では、切欠部213A,213Bは同じ深さdであるものとした。
【0026】
図7は、
図6に示すように定義されたスリット状の切欠部213A,213Bの深さdと、上面側電極21に発生する応力との関係を示すグラフである。なお、深さdに関する解析では、切欠部213A,213Bの角度θは20°とした。
図7のグラフに示されるように、d<0の場合、すなわち、幅方向D
2で見たときに上面側電極21の第1の側211Aから第2の側211Bまでの間に切欠部213Aも切欠部213Bも形成されない区間がある場合、上面側電極21の台座212と熱電素子1の端面との間の接合部に発生する応力の振幅は比較的大きな値である(d=−0.20mmで64.2MPa、d=0.10mmで63.5MPa)。これに対して、d=0の場合、すなわち、幅方向D
2で見たときに上面側電極21の第1の側211Aから第2の側211Bまでの間の区間S
1に切欠部213Aまたは切欠部213Bのいずれかが形成される場合、応力の振幅は上記の場合よりも小さくなる(59.9MPa)。さらに、d>0の場合、すなわち、第1の側211Aから第2の側211Bまでの間の一部の区間S
2に切欠部213A,213Bの両方が形成される場合、応力の振幅はさらに小さくなる(d=0.10mmで56.0MPa、d=0.18mmで53.9MPa、d=0.20mmで54.2MPa、d=0.30mmで51.7MPa)。
【0027】
上記の結果によれば、幅方向D
2で見たときに上面側電極21の第1の側211Aから第2の側211Bまでの間の区間S
1に切欠部213Aまたは切欠部213Bのいずれかが形成されることが、上面側電極21の熱膨張によって熱電素子1と電極2との接合部に生じる応力を低減するために有効である。また、第1の側211Aから第2の側211Bまでの間の一部の区間S
2に切欠部213A,213Bの両方を形成することによって、上面側電極21の熱膨張によって熱電素子1と電極2との接合部に生じる応力をさらに低減できる。
【0028】
再び
図6を参照すると、切欠部213A,213Bの角度θは、上面側電極21の幅方向D
2と、切欠部213A,213Bが延びる方向とがなす角度である。切欠部213A,213Bが幅方向D
2と平行に、すなわち長手方向D
1に対して垂直に延びる場合、角度θは0になる。切欠部213A,213Bが幅方向D
2および長手方向D
1に対して傾いた方向に、互いに対向して延びる場合、角度θ>0になる。ここで、切欠部213A,213Bが互いに対向して延びる場合、切欠部213A,213Bは中心線CLに近づくにつれて互いに近接する。一方、切欠部213A,213Bが幅方向D
2および長手方向D
1に対して傾いた方向に、互いに背向して延びる場合、角度θ<0になる。ここで、切欠部213A,213Bが互いに背向して延びる場合、切欠部213A,213Bは中心線CLに近づくにつれて互いに離間する。なお、以下で説明する解析では、切欠部213A,213Bは略平行に、すなわち略同じ角度θで延びるものとした。
【0029】
図8は、
図6に示すように定義されたスリット状の切欠部213A,213Bの角度θと、上面側電極21に発生する応力との関係を示すグラフである。なお、角度θに関する解析では、切欠部213A,213Bの深さdは0.18mmとした。
図8のグラフに示されるように、θ≦0の場合、すなわち、切欠部213A,213Bが長手方向D
1に対して垂直に延びるか、または互いに背向して延びる場合、上面側電極21の台座212と熱電素子1の端面との間の接合部に発生する応力の振幅は比較的大きな値である(θ=−10度で58.1MPa、θ=0で57.7MPa)。これに対して、θ>0の場合、すなわち、切欠部213A,213Bの長手方向D
1に対して傾いた方向に、互いに対向して延びる場合、応力の振幅は、角度θが大きくなるにしたがって小さくなる(θ=10度で55.4MPa、θ=20度で53.9MPa、θ=30度で52.6Mpa)。
【0030】
上記の結果によれば、切欠部213A,213Bが、上面側電極21の長手方向D
1に対して傾いた方向に、互いに対向して延びることが、上面側電極21の熱膨張によって熱電素子1と電極2との接合部に生じる応力を低減するために有効である。
【0031】
なお、熱電モジュール10において、上面側電極21は、P型熱電素子1PとN型熱電素子1Nとを電気的に接続するとともに、ポリイミドフィルム3と熱電素子1との間で熱を伝達する機能を有する。上記のような切欠部213A,213Bが形成された部分では上面側電極21がポリイミドフィルム3に接触しないため、切欠部213A,213Bが占める面積が大きくなるほど、上面側電極21が伝達可能な熱の量は減少する。また、切欠部213A,213Bの深さdや角度θにもよるが、切欠部213A,213Bが占める面積が大きくなるほど、P型熱電素子1PとN型熱電素子1Nとの間の電気抵抗が増大する。
【0032】
それゆえ、上面側電極21の長手方向D
1および幅方向D
2を含む平面で考えた場合、上面側電極21の面積(Sd)に対する切欠部213A,213Bの合計面積(Ss)の比率(Ss/Sd)が所定の値以下になるように切欠部213A,213Bの形状を決定することが望ましい。本発明者らの知見によれば、
図1に示したプラズマ処理装置100において熱電モジュール10が十分な性能を発揮するためには、上面側電極21の面積(Sd)に対する切欠部213A,213Bの合計面積(Ss)の比率(Ss/Sd)が0.33(1/3)未満であることが望ましい。例えば、
図3に示した上面側電極21の面積(Sd)に対する切欠部213A,213Bの合計面積(Ss)の比率(Ss/Sd)は0.18である。
【0033】
以上で説明したような本発明の実施形態によれば、熱電モジュール10の上面側電極21の熱膨張によって熱電素子1と電極2との接合部に生じる応力を低減することができる。
【0034】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0035】
例えば、上記の実施形態では、上面側電極21がポリイミドフィルム3に接合され、下面側電極22は熱電モジュール10の下面側の基板に固定されることとしていたが、他の実施形態では、下面側電極22もポリイミドフィルムを介して基板に接合されてもよい。この場合、下面側電極22についても、ポリイミドフィルムを変形させながら膨張することが可能になるため、下面側電極22にも上面側電極21と同様の切欠部を形成することによって、熱電素子1と電極2との接合部に生じる応力を低減することができる。上記の場合、切欠部は上面側電極21および下面側電極22の両方に形成されてもよいし、下面側電極22だけに形成されてもよい。
【0036】
また、上記の実施形態では、上面側電極21の幅方向D
2の第1の側211Aおよび第2の側211Bのそれぞれに1つの切欠部213A,213Bが形成されたが、第1の側211Aおよび第2の側211Bのそれぞれに複数の切欠部が形成されてもよい。
【0037】
また、上記の実施形態では、上面側電極21に形成される切欠部213A,213Bが同じ深さdであるものとしたが、他の実施形態では、切欠部213Aと切欠部213Bとが異なる深さdで形成されてもよい。同様に、上記の実施形態では、切欠部213A,213Bが略同じ角度θで延びるものとしたが、他の実施形態では、切欠部213Aと切欠部213Bとが異なる角度θで延びてもよい。
【0038】
また、上記の実施形態では、上面側電極21の第1の側211Aおよび第2の側211Bにそれぞれ形成される切欠部が直線的なスリット状である例について説明したが、切欠部の形状は必ずしも直線的なスリット状でなくてもよい。例えば、切欠部は湾曲した、または屈曲部分を含むスリット状であってもよい。あるいは、上記のように熱の伝達の観点、および熱電素子間の電気抵抗の観点から、電極の切欠部以外の面積を確保した上で、第1の側211Aおよび第2の側211Bに近づくにつれて幅広になるV字形の切欠部を形成してもよい。
【0039】
その他、本発明は、本発明の目的を達成できる範囲で、他の構造等を採用してもよい。