(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
供給インバータが被供給機器に供給する交流電流をリアクトルによって平滑化する場合に、当該リアクトルに発生するリアクトル損失を模擬的に測定するリアクトル損失測定装置であって、
第1相、第2相、及び第3相の交流を出力可能なインバータと、
前記第1相、前記第2相、及び前記第3相の電流経路が合流する合流部を有する測定回路と、
前記インバータを、前記供給インバータと同じ基本波周波数の交流を生成するように制御可能な制御部と、
を備え、
前記第1相と前記合流部の間を、測定対象のリアクトルによって接続し、
前記第2相と前記合流部の間を、前記基本波周波数で共振する並列共振回路によって接続し、
前記第3相と前記合流部の間を、測定対象のリアクトルと同一のインダクタンスを有する補助リアクトルによって接続した状態で、
前記制御部は、測定対象のリアクトルに流れるリアクトル電流の位相と、前記合流部の電圧の位相と、が一致するように、前記インバータを制御するインバータ制御を行うことを特徴とするリアクトル損失測定装置。
供給インバータが被供給機器に供給する交流電流をリアクトルによって平滑化する場合に、当該リアクトルに発生するリアクトル損失を模擬的に測定するリアクトル損失測定方法であって、
前記供給インバータと同じ基本波周波数でインバータの交流が出力される第1相、第2相、及び第3相の電流経路が合流する合流部と、前記第1相と、の間を、測定対象のリアクトルによって接続し、前記合流部と前記第2相との間を、前記基本波周波数で共振する並列共振回路によって接続し、前記合流部と前記第3相との間を、測定対象のリアクトルと同一のインダクタンスを有する補助リアクトルによって接続する接続工程と、
測定対象のリアクトルに流れるリアクトル電流の位相と、前記合流部の電圧の位相と、が一致するように、前記インバータを制御するインバータ制御工程と、
を含むことを特徴とするリアクトル損失測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
最初に、
図1を参照して、リアクトル10が実際に使用される場面について説明する。
図1(a)は、インバータによる系統連系又は電動機駆動を行うにあたって用いられるリアクトル10を示す概略図である。
図1(b)は、上記の場合におけるリアクトルの動作状態を説明するフェーザ図である。
【0018】
図1(a)に示すように、リアクトル10は、実際の運用の場面では、電力系統又は電動機等の負荷(被供給機器)と、この負荷に交流電力を供給するためのインバータ(供給インバータ)と、の間に配置される。このリアクトル10は、インバータが出力する交流電流のリプルを除去するフィルタとして用いられる。
【0019】
図1(a)に示す実動作時に相当するフェーザ図が
図1(b)であり、インバータ出力電圧Eの位相は、系統電圧又は電動機の電圧(以下、負荷電圧と呼ぶことがある。)Vの位相より、角度θだけ進んでいる。ただし、θ<90°である。インバータ出力電流(リアクトルに流れる電流)Iの位相は負荷電圧Vと同じであるから、インバータ出力電圧Eは、インバータ出力電流Iに対して、角度θだけズレることになる。リアクトル10の両端の電圧(E−V)は、そのインダクタンスをLとして、
図1(b)の式で表される。
【0020】
この位相のズレ角度θは、インバータに負荷が接続されていることに基づくものである。従って、上述の従来技術で述べたように、負荷に相当する抵抗を接続せずに単にリアクトルをインバータに接続するだけでは、
図2のフェーザ図に示すように、インバータ出力電圧Eの位相がインバータ出力電流(リアクトルに流れる電流)Iの位相に対して90°ズレることになり、
図1(b)に示す実際の動作状態と大きく異なってしまう。
【0021】
この点、本実施形態のリアクトル損失測定装置1は、
図3に示すように、3相インバータ(インバータ)2と、測定回路3と、制御部4と、を備える。そして、リアクトル損失測定装置1は、測定対象のリアクトル10の実際の動作回路における負荷電圧(
図1のV)を、3相インバータ2の出力を用いて模擬するように構成されている。
【0022】
3相インバータ2は、図示しないバルブデバイス(例えば、半導体によるスイッチング素子)によって、第1相としてのU相、第2相としてのV相、及び、第3相としてのW相に、同一の周波数の交流を生成して出力することができる。
【0023】
3相インバータ2は、
図1に示すインバータと同じ方式(例えば、三角波との比較によるPWM方式)で、交流を生成することができる。また、3相インバータ2において基本波周波数及びキャリア周波数は適宜変更可能に構成されており、これにより、
図1のインバータと同一のキャリア周波数でスイッチングを行って、同一の基本波周波数の交流を出力できるように構成されている。
【0024】
測定回路3は、
図3に示すように、3相インバータ2のU相、V相、及びW相のそれぞれに接続するように構成されている。測定回路3が有する各相の電流経路は、節点(合流部)Aにおいて合流している。
【0025】
測定回路3において、U相と節点Aとの間は、測定対象のリアクトル10によって接続され、V相と節点Aとの間は、並列共振回路5によって接続され、W相と節点Aとの間は、補助リアクトル11によって接続される(接続工程)。
【0026】
並列共振回路5としては、3相インバータ2が出力する基本波周波数と同一の共振周波数を有するものが用いられる。また、補助リアクトル11は、測定対象のリアクトル10と同一のものが用いられる。
【0027】
3相インバータ2には、制御部4が電気的に接続されている。具体的に説明すると、この制御部4は公知のコンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM等を備えている。また、上記のROMには、本発明のリアクトル損失測定方法のうち、インバータ制御工程を実現するためのプログラムが記憶されている。そして、上記のハードウェアとソフトウェアとの協働により、当該コンピュータを、3相インバータ2を制御するための制御部4として機能させることができる。
【0028】
制御部4は3相インバータ2を制御して、測定回路3において
図3に示す節点Aの電圧V
0により、言い換えれば、U相、V相、W相の出力電圧E
u,E
w,E
vの総和により、測定対象のリアクトル10の実動作時における負荷電圧Vを模擬し、これにより、リアクトル10の実動作と実質的に等価な状態を作り出す。これにより、リアクトル損失測定装置1は、測定対象のリアクトル10について、
図1に示す実動作状態に近い動作状態でのリアクトル損失を測定することができる。
【0029】
続いて、3相インバータ2の各相(U相、W相、V相)の出力電圧(E
u,E
w,E
v)の制御について具体的に説明する。
【0030】
図4は、リアクトル損失測定装置1における測定回路3の動作状態を示すフェーザ図である。このフェーザ図において、電流及び電圧を示すフェーザは、節点Aの電圧V
0を基準フェーザとして描かれている。
【0031】
U相においては、制御部4は、測定対象のリアクトル10に流れるリアクトル電流I
uの位相が、
図4に示すように節点Aの電圧V
0の位相に一致するように、当該U相の出力電圧E
uを制御する。
【0032】
リアクトルが有する周知の特性により、リアクトル10を流れる電流I
uの位相に対して、当該リアクトルの両端電圧の位相は90°進む。リアクトル10の両端電圧は、U相の出力電圧E
uと、節点Aの電圧V
0と、の差で表されるから(E
u−V
0)、U相の出力電圧E
uの位相は、リアクトル電流I
uの位相(即ち、節点Aの電圧V
0の位相)と比較して、角度θだけ進むことになる。ただし、θ<90°である。これを逆に考えれば、U相の出力電圧E
uの位相(
図4に示す角度θ)を変化させることで、リアクトル10の両端電圧の大きさを制御することができる。
【0033】
W相においては、制御部4は
図4に示すように、W相に接続された補助リアクトル11に流れる補助リアクトル電流I
wの位相と、U相におけるリアクトル10に流れるリアクトル電流I
uの位相とが、互いに逆となるように、W相の出力電圧E
wを制御する。
【0034】
更に言えば、制御部4は、W相の出力電圧E
wの振幅と位相を、そのフェーザが、U相の出力電圧E
uのフェーザを、節点Aの電圧V
0のフェーザを軸として反転したものとなるように制御する。このように対称的に制御する結果、
図4に示すように、W相の出力電圧E
wの位相は、節点Aの電圧V
0の位相と比較して前述の角度θだけ遅れることになる。また、W相の出力電圧E
wの位相は、U相の出力電圧E
uの位相に対しては2θだけ遅れる(即ち、遅れ角が2θである)。
【0035】
V相においては、制御部4は、当該V相の出力電圧E
vの振幅が、節点Aの電圧V
0の振幅と一致し、かつ、当該出力電圧E
vの位相と、節点Aの電圧V
0の位相と、が互いに逆となるように(180°異なるように)、V相の出力電圧E
vを制御する。
【0036】
即ち、V相の出力電圧E
vの位相は、
図4に示すように、U相の出力電圧E
uに対して180°+θだけ遅れ、その振幅は、U相の出力電圧E
uの振幅にcosθを乗じた値となる。
【0037】
このV相に接続される並列共振回路5は、
図3に示すようにインダクタ5aとキャパシタ5bから構成され、その共振周波数が3相インバータ2の基本波周波数と等しくなるように、インダクタ5aのインダクタンスL
vと、キャパシタ5bのキャパシタンスC
vと、が定められている。従って、3相インバータ2の出力電圧の基本波周波数だけを考えた場合は、
図4のフェーザ図で示すように、並列共振回路5を構成するインダクタ5aに流れる電流I
vLと、キャパシタ5bに流れる電流I
vCと、が逆方向で打ち消し合うため、当該V相には電流が流れない。
【0038】
従って、3相インバータ2の出力電圧の基本波周波数成分に対して、当該測定回路3の電流は、
図3の鎖線矢印で示すように、3相インバータ2のU相とW相との間で交互に流れる。言い換えれば、測定対象のリアクトル10と、補助リアクトル11と、により電流経路が構成されている。
【0039】
なお、3相インバータ2の出力電圧のキャリア周波数成分に対しては、並列共振回路5を構成するインダクタ5aのインピーダンスが高くなるとともに、キャパシタ5bのインピーダンスが低くなる。従って、当該V相には主にキャリア周波数成分の電流が流れる。一方、このキャリア周波数成分に関しては、U相、W相におけるリアクトル10と補助リアクトル11とのインピーダンスが高くなる。従って、U相及びW相のキャリア周波数成分の電流は小さくなる。
【0040】
以上のような3相インバータ2の制御が行われることで(インバータ制御工程)、
図4に示すフェーザ図において、U相の出力電圧E
uと、W相の出力電圧E
wと、V相の出力電圧E
vと、の総和である節点Aの電圧V
0の位相が、リアクトル電流I
uの位相と一致することがわかる。
【0041】
また、
図4において破線で囲まれた部分は、
図1(b)のフェーザ図と対応していることがわかる。即ち、本実施形態のリアクトル損失測定装置1は、測定対象のリアクトル10が
図1の実動作状態に置かれている状況を実質的に再現することができる。
【0042】
また、節点Aの電圧V
0の振幅は、U相の出力電圧E
uの振幅にcosθを乗じた値となる。これは、上述の角度θを制御することで、所望の負荷電圧Vを容易に模擬できることを示している。
【0043】
次に、本実施形態のリアクトル損失測定装置1による効果を確認するために本願発明者が行った実験について説明する。
【0044】
まず、本願発明者は、
図3に示す測定回路3を実際に構成してシミュレーション計算を行い、測定対象のリアクトル10の両端電圧を調べた。このときの条件として、3相インバータ2の基本波周波数を500Hzとし、キャリア周波数を10kHzとした。
【0045】
このシミュレーション結果が
図5(a)のグラフに示され、上段のグラフがリアクトル両端電圧を示し、下段のグラフがリアクトル電流を示している。なお、比較のために、インバータにリアクトルのみを接続した従来技術(
図2)の場合のシミュレーション結果を
図5(b)に示している。
【0046】
本実施形態では、
図5(a)に示すように、リアクトルの両端電圧が、基本波周波数成分にキャリア周波数成分が重畳された波形となっている。一方、従来技術では、
図5(b)に示すように、リアクトルの両端電圧にキャリア周波数成分の波形しか現れておらず、実運用時の波形を再現できていない。
【0047】
また、上記のシミュレーション結果について、節点Aの電圧V
0、インバータのU相の出力電圧E
u、リアクトルの両端電圧、及び電流I
u,I
v,I
wを
図6(a)にグラフに示すとともに、
図6(b)には、実際に系統連系を行う場合の波形を対応させて示した。
【0048】
図6(a)と
図6(b)を比較すると、本実施形態のリアクトル損失測定装置1におけるリアクトル10の両端電圧の波形は、系統連系する場合におけるリアクトル10の両端電圧の波形を良く再現できていることがわかる。
【0049】
また、本実施形態において、節点Aの電圧V
0にはキャリア周波数成分が重畳されているものの、系統連系時の負荷電圧Vに相当する基本波周波数成分が含まれていることも確認できる。
【0050】
また、電流に関しては、U相の電流I
uとW相の電流I
wとの位相が180°異なっていることがわかる。更に、V相の電流I
vについては、基本波周波数成分の電流が殆ど流れておらず、主にキャリア周波数成分の電流が流れていることがわかる。
【0051】
このシミュレーション結果から、本実施形態のリアクトル損失測定装置1は、リアクトル10の実動作状態に近い状態を模擬してリアクトル損失を測定可能であることが確かめられた。
【0052】
次に、本実施形態のリアクトル損失測定装置1による消費電力低減効果について説明する。
【0053】
図6(a)に示す本実施形態でのリアクトル両端電圧は、前述の特許文献1において、リアクトルの両端の電圧波形として当該文献で開示されているグラフに良く一致する。即ち、本実施形態のリアクトル損失測定装置1は、特許文献1と同様の測定を、負荷抵抗なしで実現できることを示している。
【0054】
このように、本実施形態のリアクトル損失測定装置1においては、従来技術と異なり測定回路3に抵抗が含まれないため、測定時の消費電力は、測定対象のリアクトル10と、並列共振回路5を構成するインダクタ5a及びキャパシタ5bと、補助リアクトル11と、の損失のみになる。
【0055】
本願発明者は、本実施形態でリアクトル10についてリアクトル損失を測定する場合の消費電力を、種々の条件で試算した。すると、例えば、インバータの出力電圧が50[Vrms]、基本波周波数が500[Hz]、インダクタンスが300[μH]、巻線抵抗が5[mΩ]、上記の角度θが30[°]という条件において、特許文献1のように抵抗を用いる場合は1100W以上必要であるのに対し、本実施形態では8W程度で足り、消費電力は従来の0.6%で済むという結果が得られた。
【0056】
ただし、上記の計算はインバータ自体の損失を考慮していないため、本実施形態の測定装置でも、実際は、例えば100W程度の電力が必要になると考えられる。何れにせよ、本発明によれば、従来の構成に対して消費電力を著しく削減することができる。
【0057】
このように、本発明のリアクトル損失測定装置1は、測定時の消費電力を大幅に低減できるとともに、測定設備の簡素化及びコンパクト化を実現することができる。
【0058】
以上に説明したように、本実施形態のリアクトル損失測定装置1は、
図1のインバータが電力系統又は電動機に供給する交流電流をリアクトル10によって平滑化する場合に、当該リアクトル10に発生するリアクトル損失を模擬的に測定する。このリアクトル損失測定装置1は、3相インバータ2と、測定回路3と、制御部4と、を備える。3相インバータ2は、U相、V相、及びW相の交流を出力可能である。測定回路3は、U相、V相、及びW相の電流経路が合流する節点Aを有する。制御部4は、3相インバータ2を、
図1のインバータと同じ基本波周波数の交流を生成するように制御可能である。U相と節点Aの間を、測定対象のリアクトル10によって接続し、V相と節点Aの間を、前記基本派周波数で共振する並列共振回路によって接続し、W相と節点Aの間を、測定対象のリアクトル10と同一のインダクタンスを有する補助リアクトル11によって接続した状態で、制御部4は、測定対象のリアクトル10に流れるリアクトル電流I
uの位相と、節点Aの電圧V
0の位相と、が一致するように、3相インバータ2を制御するインバータ制御を行う。
【0059】
これにより、抵抗を用いずにリアクトル損失を模擬的に測定できるので、測定時の消費電力を大幅に低減することができるとともに、抵抗の発熱対策等のための手間が不要になる。また、測定に用いるインバータの駆動用電源として小さな容量のものを利用することができるので、測定のための構成の簡素化及びコンパクト化を実現することができる。
【0060】
また、本実施形態のリアクトル損失測定装置1においては、制御部4は、W相の出力電圧E
wの振幅がU相の出力電圧E
uの振幅と等しくなるように、かつ、W相の出力電圧E
wの位相がU相の出力電圧E
uの位相に対して2θの遅れ角で遅れるように制御する。ただし、2θ<180°である。制御部4は、前記遅れ角の1/2の角度をθとしたときに、V相の出力電圧E
vの振幅が、U相の出力電圧E
uの振幅にcosθを乗じた大きさとなるように、かつ、V相の出力電圧E
vの位相が、U相の出力電圧E
uの位相よりも180°+θだけ遅れるように制御する。
【0061】
これにより、3つの相の電圧の総和である節点Aの電圧V
0によって、実動作時の負荷電圧Vを良好に模擬することができる。
【0062】
また、本実施形態のリアクトル損失測定装置1においては、制御部4は、W相の出力電圧E
wの位相がU相の出力電圧E
uの位相よりも遅れる遅れ角(2θ)を変更可能に構成されていることが好ましい。
【0063】
これにより、リアクトル10の両端電圧を変更できるので、リアクトル損失の試験条件を容易に変更することができる。
【0064】
また、本実施形態のリアクトル損失測定装置1においては、制御部4は、3相インバータ2を、
図1に示す実動作時のインバータと同じキャリア周波数で交流を生成するように制御可能である。
【0065】
これにより、実動作時のインバータの出力電流のリプルの周波数に基づくリアクトル10のリアクトル損失を、良好に模擬して測定することができる。
【0066】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0067】
図4のフェーザ図の関係を実現できれば、U相、V相、W相を適宜入れ替えても良い。
【0068】
3つの相は、3相インバータ2に代えて、例えば、3つの単相インバータを組み合わせて実現することもできる。
【0069】
制御部4は、3相インバータ2の外部に設けられることに代えて、3相インバータ2に内蔵されても良い。
【0070】
インバータの制御は、上記で例示した三角波比較方式に限らず、それ以外の方式で制御することもできる。