【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0019】
[実施例1]
(絶縁被覆金属粒子の作製)
平均粒子径17μmガスアトマイズFe−Si−Al合金粉末(山陽特殊製鋼社製、合金名PST−S、粒度−32μm)を、440メッシュの篩に通して粗大粒子を除去した後、10cm角・深さ5cmのアルミナ製容器に250g秤量し、電気炉にて800℃で90分加熱し、冷却後にメノウ乳鉢で解砕して絶縁被覆金属粒子を得た。
【0020】
実施例及び比較例にて作製した絶縁被覆金属粒子の特性を、以下の方法で評価した。
[(Al酸化物濃度+Si酸化物濃度)/(Fe酸化物濃度)の算出]
試料をサーモフィッシャー・サイエンティフィック社製の粉末測定用の試料ホルダーに、試料面が平らになるように充填し、X線光電子分光分析装置(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製、K−Alpha型)にて測定した。測定条件は、X線源としてモノクロメータ付きAl−Kα線を、帯電中和には低速電子と低速イオンの同軸照射型のデュアルビームを用い、検出角度90°、出力36W、測定領域は約400μm×200μm、パスエネルギーは50eV、データは0.1eV/step、50msecで取り込み、積算回数は5回、測定範囲についてはAl酸化物:65〜85eV、Si酸化物:95〜110eV、Fe酸化物:700〜740eVとした。
上記測定範囲にて得られたピークよりバックグラウンドを差し引いて算出されたAl−O、Si−O,Fe−Oの結合成分に由来のピーク面積(信号強度)を補正係数(相対感度係数、透過関数、運動エネルギー補正)で割り算し、補正後の面積の合計が100になるように計算して、Al酸化物、Si酸化物、Fe酸化物の各濃度(単位:atom%)を算出した。尚、補正係数(相対感度係数、透過関数、運動エネルギー補正)は、一般的に測定対象元素や測定装置に依存する。今回は、上記操作及び計算をサーモフィッシャー・サイエンティフィック社製「K−Alpha型」に付属している解析ソフト「Thermo Advantage」にて行った。得られた値を用い、数式1に基づいて(Al酸化物濃度+Si酸化物濃度)/(Fe酸化物濃度)を計算した。結果、数式1にて示されるSi酸化物とAl酸化物の濃度の和と、Fe酸化物濃度との比は14となった。
【0021】
[平均粒子径]
平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、MT3300EXII)を用いて求めた。分散剤としてオクチルフェノキシポリエトキシエタノール(関東化学社製、トリトンX−100)0.5重量%を溶解した水に、絶縁被覆金属粒子を適量投入し、攪拌しながら循環器内蔵の超音波照射装置を用いて40Wの超音波を3分間照射した後測定を行った。体積分布において50%となる粒径を平均粒子径とした。結果、得られた絶縁被覆金属粒子の平均粒子径は19μmであった。
【0022】
[平均円形度]
セイシン企業社製粉体画像解析装置(PITA−1)を用いて測定を行った。試料をエタノールに分散させて、この液体を平面伸張流動セル内に流し、セル内を移動する絶縁被覆金属粒子の200個を、対物レンズにて画像として記録し、この記録画像及び数式2から平均円形度を算出した。数式2中、Sは撮影した記録画像の粒子投影図における面積、Lは粒子投影図の周囲長を表す。このようにして算出された粒子200個の平均値を絶縁被覆金属粒子の平均円形度とした。結果、得られた絶縁被覆金属粒子の平均円形度は0.94であった。
(数式2)
平均円形度=4πS/L
2
【0023】
[絶縁層の厚み]
被覆金属粒子粉体をエポキシ樹脂で包埋し、アルゴンイオンビーム断面作製装置で切断したあと、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−7001F)にて切断面を観察して切断された被覆金属粒子を探し、観察倍率を100000倍として断面写真を得た。実際に得られた断面写真を
図2に示す。得られた写真において、絶縁層外表面と内表面の輪郭に対して平行に引いた接線の間隔を、粒子1個に対して5箇所でランダムに読み取り、観察粒子の総数は20個として計100点の算術平均値を絶縁層の厚みとした。結果は表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子の絶縁層の厚みは122nmであった。
【0024】
[絶縁性]
絶縁被覆金属粒子を25℃、湿度50RH%の環境に24時間静置し、10gを量りとって粉体抵抗測定システム(三菱化学アナリテック社製、MCP−PD51型とMCP−HT800型を組み合わせて使用)を用いて15.9MPaの圧力をかけながら、測定電圧250Vの条件にて体積抵抗率を測定した。測定結果は表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子の体積抵抗率は4.2×10
10Ω・cmであった。
【0025】
[絶縁層の剥離の有無]
絶縁被覆金属粒子をエポキシ樹脂で包埋し、アルゴンイオンビーム断面作製装置で切断したあと、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−7001F)にて切断面を観察して切断された被覆金属粒子を探し、観察倍率を20000倍としてランダムに観察した100個の粒子のうち、絶縁層の剥離が見られた粒子の数を計測した。結果は表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子100個のうち、絶縁層の剥離が見られたものは3個であった。
【0026】
[樹脂混合物の粘度]
絶縁被覆金属粒子の樹脂への充填性を、樹脂混合物の粘度測定により評価した。粘度が低い樹脂混合物は流動性が高く、高充填した場合の複雑形状あるいは微細形状への成型に有利である。絶縁被覆金属粒子80質量部、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER828)20質量部を秤量後、遊星式撹拌機(シンキー社製、あわとり練太郎AR−250)を用いて回転数2000rpmで3分混練し、樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物を、レオメーター(日本シイベルヘグナー社製、MCR300)を用いて、プレート形状:円形平板25mmφ、試料厚み:1mm、温度:25±1℃、剪断速度:0.1s
−1、の条件にて粘度を測定した。結果を表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子の樹脂混合物の粘度は、241Pa・sであった。
【0027】
[電磁波遮蔽能]
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER807)16質量部、4、4’−ジアミノジフェニルメタン(東京化成社製)4.7質量部を95℃で溶融させながら混合し、実施例1で得られた被覆金属粒子を79.3質量部加え、遊星式撹拌機(シンキー社製、あわとり練太郎AR−250)を用いて回転数2000rpmで混合した。予め加熱しておいたシリコーン製の13cm角・深さ2mmの型枠に上記混合物を流し込み、70℃で30分間静置して液面を平らにしたのち、真空加熱プレス機(井元製作所社製、IMC−1674−A型)を用いて、80℃・0.5MPaで30分間加熱プレスし、続いて80℃・1.0MPaで30分間加熱プレスし、さらに150℃・3MPaで1時間加熱プレスすることで硬化した。硬化後のサンプルを測定用サンプルサイズ(120mm×120mm×2mm)に加工して樹脂硬化物を得た。得られた樹脂硬化物を用いて、測定周波数は0.1〜1000MHz、発信部と受信部の距離は10mm、試験室の温湿度は20℃、50%RHとして、KEC法により電磁波遮蔽能を評価した。結果を表2に示す。
【0028】
[実施例2]
原料に平均粒子径27μmのガスアトマイズFe−Si−Al合金粉末(山陽特殊製鋼社製、PST−S、−106μm)を用い、表1に示す加熱温度、加熱時間で処理した以外は実施例1と同様にして絶縁被覆金属粒子を得た。評価結果を表1および表2に示す。
【0029】
[実施例3]
表1に示す加熱温度、加熱時間で処理した以外は実施例1と同様にして絶縁被覆金属粒子を得た。評価結果を表1および表2に示す。
【0030】
[実施例4]
平均粒径9μmの水アトマイズFe−Si−Al合金粉末(エプソンアトミックス社製、SENDUST ALLOY T、PF−18F)を、旋回気流式分級機(日清エンジニアリング社製、エアロファインクラシファイアー AC−20)を用いて分級し、得られた平均粒子径3μmの原料を用いた以外は実施例1と同様にして、平均粒子径4μmの絶縁被覆金属粒子を得た。得られた絶縁被覆金属粒子を、実施例1の絶縁被覆金属粒子と2:8の比で混合し、混合粉を得た。混合粉を、実施例1と同様の方法で評価した結果を表1および表2に示す。混合粉の樹脂混合物の粘度は215Pa・sであった。
【0031】
[比較例1]
表1に示す加熱温度、加熱時間で処理した以外は実施例1と同様にして絶縁被覆金属粒子を得た。評価結果を表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子の体積抵抗率は9.3×10
6Ω・cmであった。
【0032】
[比較例2]
平均粒径9μmの水アトマイズFe−Si−Al合金粉末(エプソンアトミックス社製、SENDUST ALLOY T、PF−18F)を、旋回気流式分級機(日清エンジニアリング社製、エアロファインクラシファイアー AC−20)を用いて分級し、得られた平均粒子径3μmの原料を用いた以外は実施例1と同様にして絶縁被覆金属粒子を得た。評価結果を表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子の平均粒子径は4μmとなり、樹脂混合物の粘度は661Pa・sであった。
【0033】
[比較例3]
平均粒子径27μmのガスアトマイズFe−Si−Al合金粉末(山陽特殊製鋼社製、PST−S、−106μm)を、440メッシュの篩を用いて通篩し、篩上に残った平均粒子径55μmの原料を用いた以外は実施例1と同様にして絶縁被覆金属粒子を得た。評価結果を表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子の平均粒子径は57μmとなり、樹脂混合物の粘度は434Pa・sであった。
【0034】
[比較例4]
原料に平均粒径9μmの水アトマイズFe−Si−Al合金粉末(エプソンアトミックス社製、SENDUST ALLOY T、PF−18F)を用いた以外は実施例1と同様にして絶縁被覆金属粒子を得た。評価結果を表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子の平均円形度は0.85となり、樹脂混合物の粘度は1375Pa・sであった。
【0035】
[比較例5]
表1に示す加熱温度、加熱時間で処理した以外は実施例1と同様にして絶縁被覆金属粒子を得た。評価結果を表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子100個中、絶縁層の剥離が観察されたのは43個、樹脂混合物の粘度は1131Pa・sであった。
【0036】
[比較例6]
ガスアトマイズFe−Si−Al合金粉末(山陽特殊製鋼社製、PST−S、−106μm)を、440メッシュの篩に通し粗大粒子を除去した粉末400gと、ポリフッ化ビニリデン粉末(アルケマ社製、Kynar 761)50gを、マルチパーパスミキサ(日本コークス工業社製、MP−5型、CP2タンクを利用)に投入し、1500rpmで30分間処理して絶縁被覆金属粒子を得た。評価結果を表1に示す。得られた絶縁被覆金属粒子100個中、絶縁層の剥離が観察されたのは36個であった。
【0037】
[比較例7]
平均粒子径27μmのガスアトマイズFe−Si−Al合金粉末(山陽特殊製鋼社製、PST−S、−106μm)を用いて樹脂硬化物を得た以外は、実施例1と同様にしてKEC法により電磁波遮蔽能を評価した。結果を表2に示す。
【0038】
【表1】
【表2】
【0039】
本発明の絶縁被覆金属粒子は、高い体積抵抗率を有するとともに、絶縁層が剥離することなく設けられ、樹脂と混合した際にも高い流動性を有していた。また、電磁波遮蔽能についても、本発明における絶縁化処理によって損なわれることはなく、むしろ熱処理により高まるという結果であった。