(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワーク保持治具に保持されるワークは、陽極―陰極間の電界がワークの縁部に集中し易い。それにより、縁部での表面処理が集中し、例えば電解メッキであれば縁部でのメッキ膜厚が厚くなる。
【0005】
本発明の幾つかの態様は、ワーク保持治具に保持されるワークの側縁部に流れる電流を調整して、表面処理されるワークの面内均一性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、表面処理されるワークを垂下して保持し、かつ、整流器と電気的に接続可能なワーク保持治具において、
前記ワークの上縁部をクランプする導電性の上側クランパーと、
前記ワークの両測縁部に接近して配置される導電性の第1及び第2のサイドダミー部材と、
前記整流器と電気的に導通可能な共通導電部材と、
前記共通導電部材と電気的に接続され、前記共通導電部材から分岐されて、前記上側クランパーを介して前記ワークと導通する第1の分岐導通部材と、
前記共通導電部材と電気的に接続され、前記共通導電部材から分岐されて、前記第1及び第2のサイドダミー部材と導通する第2の分岐導通部材と、
を有するワーク保持治具に関する。
【0007】
本発明の一態様によれば、整流器と電気的に接続可能なワーク保持具は、共通導電部材及び第1の分岐導通部材を介してワークと導通され、共通導電部材及び第2の分岐導通部材を介して第1及び第2のサイドダミー部材と導通される。ワーク、第1及び第2のサイドダミー部材に流れるトータル電流は整流器により設定可能である。第1及び第2のサイドダミー部材がないと、ワークの両側縁部に電界が集中したり、あるいは治具の縦枠の影響を受けて、両側縁部に流れる電流が意図通りとはならなくなる。第1の分岐導通部材に対して、第2の分岐導通部材の抵抗値を独自に設定することで、ワークに流れる電流とは独立して、第1及び第2のサイドダミー部材に流れる電流を設定できる。それにより、ワークの側縁部に近接配置される第1及び第2のサイドダミー部材も表面処理することで、ワークの側縁部に流れる電流を調整して、表面処理されるワークの面内均一性を高めることができる。なお、本発明の一態様に係る治具は、処理槽内を連続搬送または間欠搬送されても良いし、あるいは搬送されずに処理槽内に出入り自在に支持されても良い。
【0008】
(2)本発明の一態様(1)では、前記第2の分岐導通部材は、前記共通導電部材から分岐されて、前記第1のサイドダミー部材と導通する第1のダミー導通部材と、前記共通導電部材から分岐されて、前記第2のサイドダミー部材と導通する第2のダミー導通部材と、を含むことができる。
第1のダミー導通部材と第2のダミー導通部材との抵抗値を独自に設定することで、第1及び第2のサイドダミー部材に流れる電流を独自に設定できる。これにより、ワークの一方の側縁部と他方の側縁部に流れる電流を調整できる。
【0009】
(3)本発明の一態様(2)では、前記第1のダミー導通部材は、抵抗値が可変である第1の可変抵抗器を含み、前記第2のダミー導通部材は、抵抗値が可変である第2の可変抵抗器を含むことができる。
こうすると、第1,第2の可変抵抗器で抵抗値を調整することで、第1のダミー導通部材の抵抗値と第2のサイドダミー部材の抵抗値とを、所定の範囲内で任意に調整できる。
【0010】
(4)本発明の一態様(2)または(3)では、前記第1のダミー導通部材は、前記第1のサイドダミー部材の上部と導通し、前記第2のダミー導通部材は、前記第2のサイドダミー部材の上部と導通し、前記第1のサイドダミー部材の下部と前記第2のサイドダミー部材の下部とを電気的に接続する接続部材をさらに設けることができる。
接続部材を設けることで、第1及び第2のサイドダミー部材の下部にも電流が流れ易くなり、ワークの両側縁部において、上部から下部に亘って流れる電流の調整が効果的に行える。
【0011】
(5)本発明の一態様(2)または(3)では、前記第1のダミー導通部材は、前記第1のサイドダミー部材の上部と導通し、前記第2のダミー導通部材は、前記第2のサイドダミー部材の上部と導通し、前記第1のサイドダミー部材及び前記第2のサイドダミー部材の各々は、前記ワークの厚さ方向と平行な幅を、下部よりも上部が狭く形成することができる。
第1及び第2のサイドダミー部材は上部が下部よりも多く表面処理される傾向があり、それに起因してワークの両側縁部の上部が表面処理され難い傾向がある。第1及び第2のサイドダミー部材の幅を上部で狭くすることにより、ワークの両側縁部の上部が表面処理され易くなる。それにより、ワークの両側縁部において、上部から下部に亘って流れる電流の調整が効果的に行える。
【0012】
(6)本発明の一態様(5)では、前記第1のサイドダミー部材の下部と前記第2のサイドダミー部材の下部とを電気的に接続する接続部材をさらに設けることができる。
こうすると、上述した態様(4)および(5)の双方の作用効果を奏することができる。
【0013】
(7)本発明の一態様(1)〜(6)では、前記ワークの下縁部をクランプする下側クランパーと、前記共通導電部材と電気的に接続され、前記共通導電部材から分岐されて、前記下側クランパーを介して前記ワークと導通する第3の分岐導通部材と、さらに有することができる。
こうすると、ワークには上側クランパー及び下側クランパーを介して電流が流れるので、表面処理されるワークの面内均一性が高まる。
【0014】
(8)本発明の他の態様は、
表面処理されるワークを垂下して保持し、かつ、整流器と電気的に接続可能なワーク保持治具において、
前記ワークを囲む四角形の枠体と、
前記枠体に保持され、前記ワークの上縁部をクランプして、前記ワークを前記整流器と電気的に接続する導電性の上側クランパーと、
前記ワークの両測縁部に接近して配置され、前記整流器と電気的に接続される導電性の第1及び第2のサイドダミー部材と、
前記第1のサイドダミー部材を前記ワークの厚さ方向で移動可能に支持する第1のダミー支持部と、
前記第2のサイドダミー部材を前記厚さ方向で移動可能に支持する第2のダミー支持部と、を有することができる。
こうすると、第1,第2のサイドダミー部材をワークの厚さ方向で移動させることで、ワークの両側縁部の各々において、ワークの表面及び裏面での表面処理量を調整することができる。
【0015】
(9)本発明のさらに他の態様では、本発明の他の態様(8)の前記第1のダミー支持部が、前記第1のサイドダミー部材を前記ワークの厚さ方向ではなく幅方向で移動可能に支持し、前記第2のダミー支持部が前記第2のサイドダミー部材を前記厚さ方向ではなく前記幅方向で移動可能に支持することができる。
こうすると、第1,第2のサイドダミー部材をワークの幅方向で移動させることで、ワークの両側縁部の各々においてワークの表面処理量を調整することができる。
【0016】
(10)本発明のさらに他の態様では、本発明の他の態様(8)の前記第1のダミー支持部が、前記第1のサイドダミー部材を前記ワークの厚さ方向及び幅方向で移動可能に支持し、前記第2のダミー支持部が前記第2のサイドダミー部材を前記厚さ方向及び前記幅方向で移動可能に支持することができる。
こうすると、上述した態様(8)および(9)の双方の作用効果を奏することができる。
【0017】
(11)本発明のさらに他の態様は、
表面処理されるワークを垂下して保持し、かつ、整流器と電気的に接続可能なワーク保持治具において、
前記ワークを囲む四角形の枠体と、
前記枠体に保持され、前記ワークの上縁部をクランプして、前記ワークを前記整流器と電気的に接続する導電性の上側クランパーと、
前記ワークの第1測縁部に接近して配置され、前記整流器と電気的に接続される導電性の第1及び第2のサイドダミー部材と、
前記ワークの第2測縁部に接近して配置され、前記整流器と電気的に接続される導電性の第3及び第4のサイドダミー部材と、
前記枠体に保持され、前記第1及び第2のサイドダミー部材を前記ワークの厚さ方向及び幅方向で移動可能に支持する第1のダミー支持部と、
前記枠体に保持され、前記第3及び第4のサイドダミー部材を前記厚さ方向及び前記幅方向で移動可能に支持する第2のダミー支持部と、
を有し、
横断面視で、前記第1及び第2のサイドダミー部材は、前記ワークの前記第1測縁部と前記枠体との間であって、前記ワークの延長線を挟んだ両側の位置に配置され、
前記横断面視で、前記第3及び第4のサイドダミー部材は、前記ワークの前記第2測縁部と前記枠体との間であって、前記ワークの延長線を挟んだ両側の位置に配置されるワーク保持治具に関する。
こうすると、ワークの第1側縁部では、ワークの表面が第1のサイドダミー部材により、ワークの裏面が第2のサイドダミー部材により、それぞれワークの表面処理量を調整することができる。同様に、ワークの第2側縁部では、ワークの表面が第3のサイドダミー部材により、ワークの裏面が第4のサイドダミー部材により、それぞれワークの表面処理量を調整することができる。
【0018】
(12)本発明のさらに他の態様(11)では、前記第1のダミー支持部は、前記第1及び第2のサイドダミー部材を着脱自在に支持し、前記第2のダミー支持部は、前記第3及び第4のサイドダミー部材を着脱自在に支持することができる。
こうすると、第1〜第4のサイドダミー部材を、ワークの厚さ方向と平行な長さが異なる複数種のサイドダミー部材の中から選択して装着することで、ワークの第1、第2側縁部の表裏面で表面処理量をそれぞれ調整することができる。
【0019】
(13)本発明のさらに他の態様(11)または(12)では、前記第1のダミー支持部は、前記第1及び第2のサイドダミー部材を前記ワークの厚さ方向で移動可能に支持し、前記第2のダミー支持部は、前記第3及び第4のサイドダミー部材を前記厚さ方向で移動可能に支持することができる。それにより、本発明の他の態様(8)と同様にして、ワークの第1、第2側縁部の表裏面で表面処理量をそれぞれ調整することができる。
【0020】
(14)本発明のさらに他の態様(11)または(12)では、前記第1のダミー支持部は、前記第1及び第2のサイドダミー部材を前記ワークの幅方向で移動可能に支持し、
前記第2のダミー支持部は、前記第3及び第4のサイドダミー部材を前記幅方向で移動可能に支持することができる。それにより、本発明の他の態様(9)と同様にして、ワークの第1、第2側縁部の表裏面で表面処理量をそれぞれ調整することができる。
【0021】
(15)本発明のさらに他の態様(11)または(12)では、前記第1のダミー支持部は、前記第1及び第2のサイドダミー部材を前記ワークの厚さ方向及び幅方向で移動可能に支持し、前記第2のダミー支持部は、前記第3及び第4のサイドダミー部材を前記厚さ方向及び前記幅方向で移動可能に支持することができる。それにより、本発明の他の態様(10)と同様にして、ワークの第1、第2側縁部の表裏面で表面処理量をそれぞれ調整することができる。
【0022】
(16)本発明のさらに他の態様は、
上述された(1)〜(15)のいずれかのワーク保持治具と、
整流器に接続され、前記ワーク保持治具と接触する給電部と、
前記整流器に接続される陽極を備えた表面処理槽と、
を有し、
前記ワーク保持治具は、前記給電部と接触し、かつ、前記共通導電部材と導通する接触部を含む表面処理装置に関する。
【0023】
本発明のさらに他の態様(16)によれば、上述された(1)〜(15)の各態様の作用効果により、表面処理されるワークの面内均一性を高めることができる。なお、治具が表面処理槽内で搬送される場合、表面処理装置に設けられて治具に接触する給電部は、給電レールとされる。治具が搬送されない場合、給電部は、治具の導電部材と接触する固定接点とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の開示において、提示された主題の異なる特徴を実施するための多くの異なる実施形態や実施例を提供する。もちろんこれらは単なる例であり、限定的であることを意図するものではない。さらに、本開示では、様々な例において参照番号および/または文字を反復している場合がある。このように反復するのは、簡潔明瞭にするためであり、それ自体が様々な実施形態および/または説明されている構成との間に関係があることを必要とするものではない。さらに、第1の要素が第2の要素に「接続されている」または「連結されている」と記述するとき、そのような記述は、第1の要素と第2の要素とが互いに直接的に接続または連結されている実施形態を含むとともに、第1の要素と第2の要素とが、その間に介在する1以上の他の要素を有して互いに間接的に接続または連結されている実施形態も含む。また、第1の要素が第2の要素に対して「移動する」と記述するとき、そのような記述は、第1の要素及び第2の要素の少なくとも一方が他方に対して移動する相対的な移動の実施形態を含む。
【0026】
1.表面処理装置の概要
図1は、表面処理装置例えば連続メッキ処理装置の縦断面図である。連続メッキ処理装置10は、回路基板等のワーク20をそれぞれ保持する複数のワーク保持治具30が、
図1の紙面と垂直な方向に循環搬送される。
図1では、循環搬送路100のうちのは平行な2つの直線搬送路110,120を示している。この2つの直線搬送路110,120は両端にて連結されてループ状の循環搬送路100を形成している。
【0027】
循環搬送路100には、複数のワーク保持治具30の各々に保持されたワーク20を表面処理例えばメッキ処理するメッキ槽(広義には表面処理槽)200と、未処理のワーク20複数のワーク保持治具30に搬入する搬入部(図示せず)と、処理済みのワーク20を複数のワーク保持治具30から搬出する搬出部(図示せず)とが設けられている。
【0028】
本実施形態では、メッキ槽200は第2直線搬送路120に沿って設けられ、搬入部及び搬出部は第1直線搬送路110に設けられている。循環搬送路100には、メッキ槽200の上流側に配置される前処理槽群230と、メッキ槽200の下流側に配置される後処理槽群(図示せず)とをさらに有する。
【0029】
図1に示すように、連続メッキ処理装置10は、メッキ液(広義には処理液)が収容され、上端開口201を有するメッキ槽(広義には表面処理槽)200を有する。連続メッキ処理装置10はさらに、
図1の一部を拡大して示す
図2に示すように、メッキ槽200の上端開口201の上方から外れた位置にて、メッキ槽200の長手方向と平行な第1方向(紙面と垂直な方向)に沿って延設される少なくとも1本例えば2本の第1案内レール130及び第2案内レール140を有する。複数のワーク保持治具30は、メッキ槽200の処理液中に配置させてワーク20をそれぞれ保持し、第1,第2案内レール130,140に支持される。
【0030】
複数のワーク保持治具30の各々は、
図3に示すように、大別して、搬送部300と、ワーク保持部500と、を有する。搬送部300として、水平アーム部301と、第1被案内部310と、第2被案内部320とを有する。第1被案内部310は、水平アーム部301の一端側に支持されて、第1案内レール130に案内される。第2被案内部320は、水平アーム部301の他端側に支持されて、第2案内レール140に案内される。第1被案内部310は、第1案内レール130の上面及び両側面と転接されるローラー311,312,313を含む。第2被案内部320は、第2案内レール140の上面に転接するローラー321を含む。
【0031】
メッキ処理装置10では、ワーク20をカソード(陰極)とし、メッキ槽200がワーク20の搬送経路を挟んだ両側にアノード(陽極)410L,410Rを収容するアノードボックス202,203設けている。図示しない整流器によりカソード−アノード間に電界を形成してメッキ液を電気分解して、ワーク20を
電解メッキする。そのために、搬送中のワーク20に通電する必要がある。ワーク20に給電するために、給電部例えば給電レール210を設けている。特に、本実施形態の給電レール210は、特開2009−132999に開示された電流制御方法を実施するために、
図2に示すように、互いに絶縁された複数例えば4本の分割給電レール210A〜210Dを有する。複数のワーク保持治具30の各々は、4本の分割給電レール210A〜210Dのいずれか一つと接触して給電される被給電部340(
図2及び
図3)を有している。
【0032】
図4は、被給電部340の詳細を示している。被給電部340は、水平アーム部301に固定される支持板330に、給電レール210と接触する導電性の接触部(集電子)341を有する。接触部341は、2本の平行リンク342A,342Bを有する平行リンク機構342により支持板330に連結される。2本のリンク342A,342Bは、付勢部材であるねじりコイルスプリング343,343により、常時時計廻り方向に移動付勢されている。この結果、接触部341を給電レール210に適度な接触圧にて接触させることができる。
【0033】
また、2本の平行リンク342A,342Bは、治具30の搬送方向Aに対して、上側支点が先行し、下側支点が後行するように傾斜している。この結果、接触部341はワーク保持治具30に引っ張られる形態で走行するので、走行が安定する。
【0034】
2.ワーク保持部
ワーク保持部500は、
図5に示すように、矩形ワーク20の上縁部20aをクランプする導電性の複数の上側クランパー510と、矩形ワーク20の下縁部20bをクランプする導電性の複数の下側クランパー520と、矩形ワーク20を囲んで配置され、複数の上側クランパー510及び複数の下側クランパー520を支持する四角形の枠体530と、を有する。
【0035】
枠体530は、複数の上側クランパー510を支持する導電性の上枠531と、複数の下側クランパー520を支持する導電性の下枠532と、上枠531の両端部と下枠532の両端部とそれぞれを連結する導電性の一対の縦枠533,534と、を有する。ここで、一対の縦枠533,534は、上枠531の両端部と電気的に絶縁されている一方で、下枠532の両端部とは電気的に接続されている。なお、上枠531及び/又は下枠532は、クランパー(上側クランパー510及び/又は下側クランパー520)を支持する支持部とも称される。
【0036】
3.ワークを陰極に設定する導電部材
本実施形態では、ワーク保持治具30に設けられる導電部材であって、整流器及びワーク20と電気的に接続可能な導電部材が、第1及び第2の分岐導電部材と、第1及び第2の分岐導電部材と電気的に接続された共通導電部材とを含んでいる。
【0037】
具体的には、
図5に示すように、一対の接触部341がワーク保持治具30の搬送方向Aで間隔をあけて2つ配置される。搬送方向Aの上流側の接触部341を第1接触部341Aと称し、搬送方向Aの下流側の接触部341を第2接触部341Bと称する。第1,第2接触部341A,341Bには一対の第1ケーブル350A,350Bの各一端が電気的に接続される。
【0038】
一対の第1ケーブル350A,350Bの各他端は、共通接続部(共通導電部材とも言う)360に共通接続される。共通接続部360は、一対の第1ケーブル350A,350Bの各他端が電気的に共通接続される第1導電部材361と、第1導電部材361の両端部に固定された一対の第2導電部材362,363とを含むことができる。一対の第2導電部材362,363は、第1導電部材361に一対の第1ケーブル350A,350Bの各他端が電気的に共通接続される位置から等距離Lの位置で、第1導電部材361の両端部に固定される。第1導電部材361の両端部から等距離Lの位置で一対の第1ケーブル350A,350を共通接続するためには、一対の第1ケーブル350A,350の一方を第1導電部材361の表面に接続し、他方を第1導電部材361の裏面に接続しても良い。
【0039】
ワーク保持治具30に設けられる導電部材として、上枠531の両端部と共通接続部360とを電気的に接続する一対の第1接続部370A,370Bと、下枠532の両端部と電気的に接続された一対の縦枠533,534と共通接続部360とを電気的に接続する一対の第2接続部380A,380Bと、をさらに有する。なお、一対の縦枠533,534は、上枠531とは電気的に絶縁されている。一対の第2接続部380A,380Bの形状、厚さ、材質等の調整により抵抗値を調整することで、上側クランパー510に流れる電流を調整することができる。
【0040】
第1の分岐導電部材は、共通接続部360を、一対の第1接続部370A,370Bの一方及び上枠531を経由して複数の上側クランパー510の一つと電気的に導通させる部材で形成される。この場合、第2の分岐導電部材は、共通接続部360を、一対の第1接続部370A,370Bの他方及び上枠531を経由して複数の上側クランパー510の他の一つと電気的に導通させる部材で形成される。
【0041】
あるいは、第1の分岐導電部材は、共通接続部360を、一対の第2接続部380A,380Bの一方、一対の縦枠533,534の一方及び下枠532を経由して複数の下側クランパー520の一つと電気的に導通させる部材で形成される。この場合、第2の分岐導電部材は、共通接続部360を、一対の第2接続部380A,380Bの他方、一対の縦枠533,534の他方及び下枠532を経由して複数の下側クランパー520の他の一つと電気的に導通させる部材で形成される。
【0042】
ここで、共通導電部材である共通接続部360は、第1及び第2の分岐導電部材間の最大抵抗差ΔRΩの10
3倍以上の抵抗値であって、かつ、銅及びアルミニウムよりも大きい抵抗値rの高抵抗材料を含む。本実施形態では、共通接続部360は、一対の第2導電部材362,363が高抵抗材料で形成され、第1導電部材361は低抵抗部材で形成されている。
【0043】
高抵抗材料として、例えばステンレス(SUS)を挙げることができる。例えばSUS304の体積抵抗率(Ω・m)は73.7であり、銅の1.7Ω・mやアルミニウムの2.8Ω・mに対して一桁以上も大きい。測定された最大抵抗差ΔRΩが10〜20mΩであることから、この高抵抗材料の抵抗値rは、r≧ΔR×10
3を満たしている。同様に、例えば53.3Ω・mのチタンも高抵抗材料として適している。
【0044】
ここで、給電レール210を介してワーク保持治具30と電気的に接続される整流器は、設定された一定電流Iを流すために、電流経路の閉ループ系のインピーダンスZに応じて、E=R×Iとなるように電圧Eを調整する。本実施形態では、閉ループ系の抵抗Rは、一般に低抵抗とされる銅やアルミニウムよりも抵抗値が大きい、共通導電部材である一対の第2導電部材の高抵抗値rを含む。第1の分岐導電部材と、第2分岐導電部材との間(つまり、複数の上側クランパー510間、または複数の下側クランパー520間)で生ずる最大抵抗差ΔRΩに対して、r≧10
3×ΔRΩであると、抵抗値rを含む系の抵抗Rも大きくなる。従って、整流器は比較的大きな電圧Vに調整して一定電流Iを供給する。このように、第1,第2の分岐導電部材に流れる電流(または電子)は共通接続部360で合流され、しかも第1,第2の分岐導電部材間の抵抗のばらつきΔRΩに相当するばらつき電圧ΔVを大きく上回る電圧Eで電流Iを流せば、抵抗のばらつきΔRΩは無視できる。
【0045】
3.1.比較例の電流モニター
図6は、本実施形態のように共通接続部360に高抵抗値rの材料を含まない比較例の治具を模式的に示す。
図6中の比較例の治具の搬送方向Aの上流側の接触部に流れる電流A1と、搬送方向Aの下流側の接触部に流れる電流A2とする。
【0046】
図7に示す測定では、整流器の設定電流を204A(=A1+A2)とし、2つに分岐して流れる分岐設定電流(A1,A2)は102Aとした。ワーク保持治具を
図6の搬送方向Aに搬送しながら測定された電流A1,A2は、
図7のように分岐設定電流値に対して上下に変動した。時刻T1,T2の前後では、特開2009−132999に開示されるように、給電レール間の継ぎ目を介して一方の給電レールから他方の給電レールに治具が乗り移るため、一方の給電レールと接触する接触部の電流値が漸減され、他方の給電レールと接触する接触部の電流値が漸増される制御が整流器で実施される。この電流漸減・漸増制御以外の区間では、整流器は設定電流通りに出力制御する。しかし、
図7に示す比較例の電流A1,A2は、定電流制御区間では小刻みに変動し、電流漸減・漸増制御では大きく変動する。
【0047】
3.2.本実施形態の電流モニター
図8は、共通接続部360に高抵抗値rの材料を含む本実施形態の治具30を模式的に示す。
図8中の治具30の搬送方向Aの上流側の接触部341Aに流れる電流A1と、搬送方向Aの下流側の接触部341Bに流れる電流A2と、一対の第1接続部370A,370Bに流れる電流A3,A4と、一対の第2接続部380A,380Bに流れる電流A5,A6とする。
【0048】
図9に示す測定では、整流器の設定電流を131A(=A1+A2)とし、2つに分岐して流れる分岐電流(A1,A2)は65.5Aとした。時刻Tの前後では、
図7に示す時刻T1,T2と同様に電流漸減・漸増制御を行い、それ以外の区間では設定電流通りに出力制御を行った。ワーク保持治具30を
図8の搬送方向Aに搬送しながら測定された電流A3〜A6は、
図9に示すように、治具30の左右から上側クランパー510に流れる分岐電流A3,A4は一定となり、治具30の左右から下側クランパー520に流れる分岐電流A5,A6も一定となった。
【0049】
本実施形態では、整流器と共通接続部360との間の導通経路には、給電レール210の局所的な汚れなどで生ずる第1,第2接触部341A,341Bの接触抵抗のばらつきによる抵抗差や、給電レール210の乗り継ぎ時の抵抗差が存在するが、上述した抵抗値を有する共通接続部360を設けることで、これらの悪影響も低減することができる。
【0050】
本実施形態では、一対の第1接続部は一対の金属板370A,370Bを含む一方で、一対の第2接続部は一対の第2ケーブル380A,380Bを含むことができる。こうして、共通接続部360から上側クランパー510までに至る抵抗値を、共通接続部360から下側クランパー520までに至る抵抗値よりも大きくすることができる。
【0051】
こうすると、処理液中には先端部しか浸漬されない上側クランパー510と比較して、全体が処理液中に浸漬される下側クランパー520の表面処理に費やされる電流分だけ多い電流を、下側クランパー520を介してワークに通電することができる。
図9中で、上側クランパー510に流れる電流A3,A4よりも、下側クランパー520に流れる電流A5,A6を大きくすることで、結果としてワーク20に上下から流れる電流をほぼ一定にすることができる。
【0052】
4.上側ダミー板/下側ダミー板
図5に示すように、上枠531及び/又は下枠532を導電性の支持部としたとき、支持部には上側及び/又は下側クランパー510,520加えて、導電性の上側ダミー板610及び/又は導電性の下側ダミー板620を有することができる。上側ダミー板610は、ワーク20の上縁部20aのうち上側クランパー510で保持されない領域にて、ワーク20の上縁部20aと接近して配置される。下側ダミー板620は、ワーク20の下縁部20bのうち下側クランパー520で保持されない領域にて、ワーク20の下縁部20bと接近して配置される。
【0053】
上側ダミー板610及び導電性の下側ダミー板620の各々は、少なくとも一面例えば表裏面に、表面及び裏面をそれぞれ覆うように移動可能に支持されて、ダミー板610,620の露出導電面積をそれぞれ調整する絶縁板630を有することができる。
【0054】
上側ダミー板610を拡大して
図10に示す。
図10に示す構造は、下側ダミー板620にも採用されている。
図10に示すように、上側ダミー板610は、上側ダミー板610と一体又は別体で形成されるヒンジ611を介して上枠531に例えばねじ612により固定される。上側ダミー板610の両面を覆う絶縁板630は、上側ダミー板610の表面を覆う絶縁板630Aと、上側ダミー板610の裏面を覆う絶縁板630Bのいずれか一方または双方を有することができる。絶縁板620A,620Bは、絶縁板630A,630Bにそれぞれ設けられた縦方向の長孔631A,631B(
図10では長孔631Aのみ図示)及び上側ダミー板610に設けられた孔612に挿通されるボルト641と、ボルト641に螺合するナット642により、上側ダミー板610に例えば共締される。
【0055】
絶縁板620A,620Bの各々は、長孔631A,631Bの範囲内で上側ダミー板610(下側ダミー板620)に対して上下方向の位置を調整できる。それにより、
図10に示すように、上側ダミー板610の先端部610Aが露出する導電面の露出面積
Sを、表面と裏面とで独立して調整することができる。上側ダミー板610の露出導電面積
Sを変更することにより、上側ダミー板610に対する表面処理に費やされる電流が調整される。それにより、上側クランパー510を介してワーク20の上縁部20aに流れる電流が調整される。こうして、ワーク20の上縁部20aに流れる電流を調整して表面処理されるワークの面内均一性を高めることができる。下側ダミー板620についても同様に調整することで、ワーク20の下縁部20bに流れる電流を調整して表面処理されるワークの面内均一性を高めることができる。
【0056】
上側ダミー板610は、ヒンジ611を介して、
図12の実線で示す第1の位置P1と、鎖線で示す第2の位置P2との間で屈曲可能である。第1の位置P1では、上側ダミー板610が、ワーク20の上縁部20aのうち上側クランパー510で保持されない領域に接近して、ワーク20と平行に配置される。
第2の位置P2では、上側ダミー板610は、ワーク20の主面と非平行となり、例えばワーク20の主面に対して直角に交差する。
【0057】
ワーク20を表面処理するときには上側ダミー板610は第1の位置P1に設定される。一方、ワーク保持治具30に対してワーク20を自動機により着脱するときには上側ダミー板610は第2の位置P2に設定される。上側ダミー板610を第2の位置P2に設定することで、ワーク20の上縁部20aと上枠531との間に隙間が確保される。それにより、ワーク保持治具30の上側クランパー510とは異なる位置にて、ワーク20の上縁部を自動機によってクランプすることができる。この場合、上側ダミー板610を自動機により押動して、上側ダミー板610を第1の位置P1から第2の位置P2に向けて矢印F1方向に移動させても良い。例えば、
図12に示すように、自動機に設けられて移動するアーム1のローラー2により、上側ダミー板610を押動しても良い。下側ダミー板620についても同様にして、第1の位置P1と第2の位置P2との間で屈曲させることができる。
【0058】
上側ダミー板610は、ヒンジ611自体のばね性またはヒンジ611に設けられた板バネ又はコイルスプリングなどの付勢部材により、第1の位置P1に移動付勢されても良い。こうすると、復帰外力を付与せずに、上側ダミー板610を第2の位置P2から第1の位置P1に向けて矢印F2方向に復帰させることができる。下側ダミー板620についても同様にして、復帰外力を付与せずに、第2の位置P2から第1の位置P1に向けて矢印F2方向に復帰させることができる。
【0059】
なお、ワーク保持治具が、矩形ワーク20の四辺をクランプする上下左右のクランパーを有する場合には、四辺の各クランパーにダミー板及び絶縁板を設けても良い。
【0060】
5.クランパーのダミー板及び調整部材
以下、上側クランパー510及び下側クランパー520の一方又は双方に設けられるダミー板及び調整部材を、下側クランパー520を例に挙げて説明する。上側クランパー510に設けられるダミー板及び調整部材については、以下の説明中の「下側クランパー520」を「上側クランパー510」と、「下枠532」を「上枠531」と読み替えることで理解される。
【0061】
図13は、下側クランパー520に設けられダミー板700及び調整部材720を示す。先ず、下側クランパー520は、下枠532に固定される固定部521と、固定部521に対して揺動可動に支持される可動部523とを含む。固定部521は、第1面521Aと、その反対側の第2面521Bとを有する。固定部521は、第2面521Bが下枠532と面接触して、ボルト522により下枠532に固定される。固定部521は、第1面521Aより垂直に起立する2つの側壁521Cを有する。
【0062】
揺動する可動部523と、固定部521の第1面521Aとの間で、ワーク20の下縁部20bが局所的にクランプされる。可動部523は、固定部521の2つの側壁521Cに支持されたピン524の廻りで揺動可能である。ピン524にはコイルスプリング525が挿通される。可動部523は、コイルスプリング525により固定部521に向かうように移動付勢される。可動部523は、固定部521、ピン524またはコイルスプリング525を経由して、下枠532と電気的に接続される。この導通経路の抵抗値を低くするために、コイルスプリング525を板バネ等に変更しても良い。
【0063】
導電性のダミー板700は、固定部521の第2面521Bと対向する第3面700Aと、第3面700Aとは反対側の第4面700Bと、を含む。また、ダミー板700の一端部を基端部701と称し、他端部を先端部704と称する。ダミー板700は、第4面700Bが固定部521の第2面521Bと平行になるようにして、基端部701が固定部521に支持される。
【0064】
ここで、
図14に示すように、ダミー板
700の基端部701には、例えば2つの長孔702,703を形成することができる。この長孔702,703の各々にボルト710を挿通して、ボルト710を下枠532に締結している。長孔702,703により、ダミー板700は
図13の矢印C方向で固定位置を調整できる。
【0065】
図13及び
図14に示すように、絶縁性の調整部材720は、ダミー板700の第4面700Bの一部を覆って、ダミー板700に重ねられる。調整部材720により常に覆われていない導電面は、先端部704だけとすることができる。
図13及び
図14にハッチングで示すように、調整部材720により覆われない他の面は絶縁コーティングされる。
【0066】
図14に示すように、調整部材720には、例えば2つの長孔721,722が形成される。この長孔721,722の各々にボルト730を挿通して、ボルト730をダミー板700に締結している。長孔702,703により、調整部材720は
図13の矢印C方向で固定位置を調整できる。それにより、調整部材720は、ダミー板700の先端部704における第4面700B側の露出導電面積S2を調整することができる。
【0067】
ダミー板700の先端部704における第4面700B側の露出導電面が表面処理される。ダミー板700の露出導電面積S2を変更することにより、ダミー板700に対する表面処理に費やされる電流が調整される。それにより、下側クランパー520の固定部521を介してワーク20の下縁部20bに流れる電流が調整される。ダミー板700及び調整部材720がないと、下側クランパー520の固定部521を介してワーク20の下縁部20bに流れる電流が増大する。なぜなら、上述した通り可動部523と下枠532との間の抵抗値は比較的大きいからである。よって、可動部523と接する領域付近のワーク20の下縁部20bであって、かつ、可動部523と接する側の面20b1(
図13)に電流が集中することはない。その一方で、固定部521と接する領域付近のワーク20の下縁部20bであって、かつ、固定部521と接する側の面20b2(
図13)に電流が集中する傾向が強い。結果として、固定部521の付近の領域でワーク20の表面処理が局所的に進行してしまう。本実施形態によれば、ワーク20の下縁部20bの局所領域20b2に流れる電流を調整して、表面処理されるワークの面内均一性を高めることができる。
【0068】
また、長孔702,703によって、固定部521に対するダミー板700の基端部701の固定位置を、調整部材720が移動可能な矢印C方向と平行な方向に変更可能とすることができる。こうすると、ワーク20の主面と直交する方向から見た側面視で、下側クランパー520の固定部521の第2面521Bまたはワークの主面と、ダミー板700との重なり面積を調整することができる。その位置調整によっても、ダミー板700に対する表面処理に費やされる電流が調整される。
【0069】
ここで、
図1に示す処理槽200内の処理液Qは、治具30に対して
図5に示す液面Lが設定される。よって、下側クランパー520はその全体が処理液Qに没する。そのため、ダミー板700は、先端部704における第4面700Bを除いて、
図13及び
図14にハッチングで示すように、調整部材720により覆われない他の面は絶縁コーティングされる。それにより、ダミー板700の先端部704における第4面700B以外が無駄に表面処理されることがない。
【0070】
上述された下側クランパー520に設けられるダミー板700及び調整部材720の構造は、上側クランパー510に設けられるダミー板及び調整部材にも適用できる。なお、
図5に示す処理液Qの液面Lの位置から、上側クランパー510はその全体が処理液Qに没することがない点で、下側クランパー520と異なる。このため、上側クランパー510に設けられるダミー板は、絶縁コーティング領域を処理液Q中に没する領域のみに狭めてもよい。処理液Qに浸漬されない領域は表面処理されないので、絶縁コーティングする必要はないからである。
【0071】
6.第1,第2のサイドダミー部材
図5に示すように、ワーク保持治具30は、ワーク20の両測縁部に接近して配置される導電性の第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bをさらに有することができる。
図5のD−D矢視図である
図15に示すように、第1のサイドダミー部材800Aは、ワーク20の側縁部20dと縦枠534との間に配置される。第2のサイドダミー部材800Bは、ワーク20の側縁部20cと縦枠534との間に配置される。
【0072】
ここで、共通導電部材360の第2導電部材362と電気的に接続され、共通導電部材360から分岐されて、上側クランパー510を介してワーク20と導通する第1の分岐導通部材が、一対の第1接続部370A,370Bと、それらが両端部に接続される上枠531とで定義される。ワーク保持治具30は、さらに、共通導電部材360と電気的に接続され、共通導電部材360から分岐されて、第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bと導通する第2の分岐導通部材900(900A,900B)をさらに有する。第2の分岐導通部材900の第1のダミー導通部材900Aは、共通導電部材360から分岐されて第1のサイドダミー部材800Aと導通する。第2の分岐導通部材900の第2のダミー導通部材900Bは、共通導電部材360から分岐されて第2のサイドダミー部材800Bと導通する。
【0073】
整流器と電気的に接続可能な共通導電部材360は、第1の分岐導通部材370A,370B,531を経由して上側クランパー510によりワーク20と導通される。この共通導電部材360は、第2の分岐導通部材900(900A,900B)を介して第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bと導通される。ワーク20、第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bに流れるトータル電流は整流器により設定可能である。ここで、縦枠533,534は絶縁コーティングされているとする。第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bがないと、ワーク20の両側縁部20c,20dに電界が集中し、ワーク20の両側縁部20c,20dに流れる電流が多くなる。縦枠533、534は絶縁コーティングされていない場合には、導電性の縦枠533,534をメッキするために電流が消費されて、ワーク20の両側縁部20c,20dに流れる電流が減少する。そのために、第1のダミー導通部材900Aと第2のダミー導通部材900Bとを設け、ワーク20の両側縁部20c,20dに流れる電流を調整可能としている。しかも、第1の分岐導通部材370A,370B,531に対して、第2の分岐導通部材900(900A,900B)の抵抗値を独自に設定することで、ワーク20に流れる電流とは独立して、第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bに流れる電流を設定できる。それにより、ワーク20の側縁部20c,20dに近接配置される第1及び第2のサイドダミー部材も表面処理することで、ワーク20の側縁部20c,20dに流れる電流を調整して、表面処理されるワークの面内均一性を高めることができる。また、第1のダミー導通部材900Aと第2のダミー導通部材900Bとの抵抗値を独自に設定することで、第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bに流れる電流を独自に設定できる。これにより、ワーク20の一方の側縁部20cと他方の側縁部20dとに流れる電流を調整できる。
【0074】
第1のダミー導通部材900Aは、例えば、共通導電部材360の第2導電部材362に一端が接続されたケーブル910Aと、ケーブル910Aの他端が接続された導電板920Aと、一端が導電板に接続され他端が第1のサイドダミー部材800Aに接続されたケーブル930Aとを有する。第2のダミー導通部材900Bも同様に、ケーブル910B、導電板920B及びケーブル930Bを有する。
【0075】
第1,第2のダミー導通部材900A,900Bは、第1,第2の可変抵抗器を有することができる。第1のダミー導通部材900Aに設けられる第1の可変抵抗器は、導電板920Aに設けられた長孔921Aと、長孔921Aに沿って移動する可動接点部922Aとで構成される。長孔921Aは、ケーブル910Aの接続部からの距離が長くなる方向(
図5では水平方向)を長手方向とする。ケーブル930Aと接続された可動接点部922Aの位置を変更することで抵抗値が可変される。第2のダミー導通部材900Bに設けられる
第2の可変抵抗器も、同様にして、長孔921Bと可動接点部922Bとで構成される。こうすると、第1,第2の可変抵抗器で抵抗値を調整することで、第1のダミー導通部材900Aの抵抗値と第2のサイドダミー部材800Bの抵抗値とを、所定の範囲内で任意に調整できる。なお、可動接点部922A及び可動接点部922Bは、手動又は自動で位置調整される。
【0076】
本実施形態では、
図5に示すように、第1のダミー導通部材900Aは、第1のサイドダミー部材800Aの上部と導通し、第2のダミー導通部材900Bは、第2のサイドダミー部材800Bの上部と導通する。この場合、
図16に示すように、第1のサイドダミー部材800A及び第2のサイドダミー部材800Bの各々は、ワーク20の厚さ方向と平行な幅W1,W2,W3が、下部よりも上部が狭く形成されることが好ましい(W1<W2<W3)。幅は、段階的に変えても良いし、連続的に変えても良い。第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bは上部の方が整流器に近いので、上部が下部よりも多く表面処理される傾向がある。それに起因してワーク20の両側縁部20c,20dの上部が表面処理され難い傾向がある(メッキ厚が薄くなる)。第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bの幅を上部で狭くすることにより、ワーク20の両側縁部20c,20dの上部が表面処理され易くなり、上部でもメッキ膜厚が確保される。それにより、ワーク20の両側縁部において、上部から下部に亘って流れる電流の調整が効果的に行える。
【0077】
ワーク保持治具30に設けられる第1,第2のサイドダミー支持部について、
図17〜
図19を参照して説明する。
図17〜
図19に第1,第2のサイドダミー支持部は、例えば、
図15に示すように、第1,第2のサイドダミー部材800A,800Bを、ワーク20の幅方向である矢印E方向と、ワーク20の厚さ方向である矢印F方向とに可変することができる。
【0078】
図17及び
図18は、第1のサイドダミー部材800Aの上部を支持する支持部の正面図及び平面図である。縦枠534の上部には、ワーク保持治具30の内側に向けて延びる2つの取付片820Aが設けられる。この2つの取付片820A間に、第1のサイドダミー部材800Aの上部を支持する上部支持片830Aが配置される。2つの取付片820Aは、矢印E方向を長手方向とする長孔821を有する。この長孔821に挿通されるボルト835が上部支持片830Aに螺合する。ボルト835を緩めれば、上部支持片830Aは第1のサイドダミー部材800Aと共に矢印E方向に移動可能となる。ボルト835を締めれば上部支持片830Aは2つの取付片820Aに固定される。
【0079】
図18に示すように、上部支持片830Aは、上下に貫通し、矢印F方向を長手方向とする長孔831を有する。この長孔831に挿通されるボルト810が第1のサイドダミー部材800Aの上部に螺合する。ボルト810を緩めれば、第1のサイドダミー部材800Aは矢印F方向に移動可能となる。ボルト810Aを締めれば第1のサイドダミー部材800Aは上部支持片830Aに固定される。図示は省略するが、第2のサイドダミー部材800Bの上部も、第1のサイドダミー部材800Aの上部と同様にして支持される。
【0080】
図19は、第1のサイドダミー部材800Aの下部を支持する支持部を示している。縦枠534の上部には、ワーク保持治具30の内側に向けて延びる2つの取付片820Aが設けられる。この2つの取付片820A間に、第1のサイドダミー部材800Aの下部を支持する下部支持片830Bが配置される。下部支持片830Bは、後述する接続部850を支持する構造を除いて、上部支持片830Aと同様の構造を有する。また、第2のサイドダミー部材800Bの下部も、第1のサイドダミー部材800Aの下部と同様にして支持される。
【0081】
第1,第2のサイドダミー部材800A,800Bは、例えば
図18に示すボルト810にケーブル930A,930Bを接続することで、整流器と接続可能となる。なお、第1,第2のサイドダミー部材800A,800Bを縦枠933,934から電気的に絶縁するために、取付片820Aおよび/または上部・下部支持片830A,830Bは絶縁体で形成される。
【0082】
第1,第2のサイドダミー部材800A,800Bをワーク20の幅方向Eで移動させることで、ワークの両側縁部20c,20dの各々においてワークの表面処理量(メッキ膜厚)を調整することができる。例えば、
図15の左向きに第1のサイドダミー部材800Aを移動させれば、ワーク20の側縁部20dのメッキ膜厚を薄くできる。逆に、
図15の右向きに第1のサイドダミー部材800Aを移動させれば、ワーク20の側縁部20dのメッキ膜厚を
厚くできる。よって、第1,第2のサイドダミー部材800A,800Bをワーク20の幅方向Eのみで移動させる構造であってもよい。
【0083】
第1,第2のサイドダミー部材800A,800Bをワーク20の厚さ方向Fで移動させることで、ワーク20の両側縁部20c,20dの各々において、
図15に示すワーク20の表面20d1及び裏面20d2での表面処理量(メッキ膜厚)を調整することができる。例えば、
図15の上向きに第1のサイドダミー部材800Aを移動させれば、ワーク20の表面20d1のメッキ膜厚を薄くできる。逆に、
図15の下向きに第1のサイドダミー部材800Aを移動させれば、ワーク20の裏面20d2のメッキ膜厚を薄くできる。よって、第1,第2のサイドダミー部材800A,800Bをワーク20の厚さ方向Fのみで移動させる構造であってもよい。
【0084】
図19に示すように、第1のサイドダミー部材800Aの下部と第2のサイドダミー部材800Bの下部とを電気的に接続する接続部材850をさらに設けることができる。接続部材850を設けることで、第1及び第2のサイドダミー部材800A,800Bの下部にも電流が流れ易くなり、ワーク20の両側縁部20c,20dにおいて、上部から下部に亘って流れる電流の調整を効果的に行うことができる。
【0085】
接続部材850の両端部は、
図19に示す2つの下部支持片830Bに例えばスライド可能に支持される。それにより、2つの下部支持片830Bの
図15に示す矢印E方向への移動が許容される。また、接続部材850の両端部は、第1,第2のサイドダミー部材800A,800Bの下部に、フレキシブルな導電部材で電気的に接続される。それにより、第1,第2のサイドダミー部材800A,800Bの
図15に示す矢印E,F方向への移動が許容される。
【0086】
7.第1〜第4のサイドダミー部材
図20〜
図22は、ワーク20の両側縁部20c,20dの各々に対向して2本のサイドダミー部材を配置したワーク保持冶具を示している。ワーク20の一方の側縁部20dと対向して、第1のサイドダミー部材1011及び第2のサイドダミー部材1012が配置される。第1のダミー支持部1000A,1000Bは、枠体530の例えば縦枠534に保持され、第1のサイドダミー部材1000及び第2のサイドダミー部材1012の両端を支持している。第1のダミー支持部1000Aにはケーブル930Aが接続される。それにより、第1のサイドダミー部材1011及び第2のサイドダミー部材1012は整流器と電気的に接続される。
【0087】
ここで、
図22に示すように、横断面視で、第1及び第2のサイドダミー部材1011,1012は、ワーク20の側縁部20dと枠体530の縦枠534との間であって、ワーク20の延長線を挟んだ両側の位置に配置される。こうすると、ワーク20の側縁部20dでは、ワーク20の表面が第1のサイドダミー部材1011により、ワーク20の裏面が第2のサイドダミー部材1012により、それぞれワークの処理量を調整することができる。
【0088】
同様にして、ワーク20の他方の側縁部20cと対向して、第3のサイドダミー部材1013及び第4のサイドダミー部材1014が配置される。第2のダミー支持部1000C,1000Dは、枠体530の例えば縦枠533に保持され、第3のサイドダミー部材1013及び第4のサイドダミー部材1014の両端を支持している。第2のダミー支持部1000Cにはケーブル930Bが接続される。それにより、第3のサイドダミー部材1013及び第4のサイドダミー部材1014は整流器と電気的に接続される。こうして、ワーク20の他方の側縁部20cでは、ワーク20の表面が第3のサイドダミー部材1013により、ワーク20の裏面が第4のサイドダミー部材1014により、それぞれワーク20の処理量を調整することができる。
【0089】
ここで、第1のダミー支持部1000A,1000Bは、第1及び第2のサイドダミー部材1011,1012を着脱自在に支持することができ、第2のダミー支持部1000C,1000Dは、第3及び第4のサイドダミー部材1013,1014を着脱自在に支持することができる。この場合、第1〜第4のサイドダミー部材1011〜1014を、ワーク20の厚さ方向Fと平行な長さが異なる複数種のサイドダミー部材の中から選択して装着することで、ワークの20第1、第2側縁部20c,20dの表裏面で処理量をそれぞれ調整することができる。
【0090】
第1〜第4のサイドダミー部材1011〜1014は、例えば丸棒したとき、直径の異なる丸棒の中から選択される。直径の大きいサイドダミー部材を選択すると、ワークの側縁部に形成されるメッキ厚を薄くすることができる。逆に、直径の小さいサイドダミー部材を選択すると、ワークの側縁部に形成されるメッキ厚を厚くすることができる。第1〜第4のサイドダミー部材1011〜1014は、丸棒に限らず矩形等であっても良い。また、第1〜第4のサイドダミー部材1011〜1014は、
図16に示すように、上部よりも下部で、ワーク20の厚さ方向Fと平行な長さが段階的または連続的に大きくなるものであっても良い。
【0091】
第1のダミー支持部1000A,1000B及び第2のダミー支持部1000C,1000Dは、
図17〜
図19の構造を有することができる。こうすると、
図22に示すように、例えば第1及び第2のサイドダミー部材1011,1012は、ワーク20の厚さ方向E及び/又はワーク20と平行な方向Fに移動させることができる。それにより、ワーク20の側縁部20c,20dでは、ワーク20の表面及び裏面の処理量を調整することができる。さらに、
図21に示すように、下部側のダミー支持部1000B,1000Dを接続部材850により電気的に接続することにより、第1〜第4のサイドダミー部材1011〜1014の下部にも電流を流れ易くすることができる。