(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電力系統の三相交流電力の三相の電圧信号を直交する二相の電圧信号に変換し、前記二相の電圧信号を回転座標系の電圧信号に変換し、前記回転座標系の電圧信号の移動平均を演算し、前記移動平均を演算した後の前記回転座標系の電圧信号を逆変換することにより、前記三相の電圧信号から直交する二相の電圧信号を生成する直交座標信号生成部と、
前記直交座標信号生成部によって生成された前記移動平均を演算した後の前記二相の電圧信号を基に、前記電力系統の角周波数を演算する角周波数演算部と、前記角周波数に1/2πを乗算することにより、前記角周波数から前記電力系統の系統周波数を演算する演算器と、を有する周波数演算部と、
を備え、
前記周波数演算部は、前記演算器と直列に設けられ、前記系統周波数の高周波成分を抑制するローパスフィルタをさらに有する系統周波数検出器。
前記周波数演算部は、前記演算器と直列に設けられ、所定の変化率以上の前記系統周波数の変化を制限するレートリミッタをさらに有する請求項1記載の系統周波数検出器。
前記角周波数演算部は、前記角周波数を基に、前記移動平均を演算した後の前記二相の電圧信号に同期した同期位相を検出するとともに、前記電力系統の公称の位相と前記同期位相との誤差位相を演算し、前記誤差位相をゼロにするように前記角周波数を演算する請求項1記載の系統周波数検出器。
前記角周波数演算部は、前記角周波数を基に、前記移動平均を演算した後の前記二相の電圧信号に同期した同期位相を検出するとともに、前記移動平均を演算した後の前記二相の電圧信号を回転座標変換することにより、前記電力系統の三相交流電力の無効成分を表す電圧信号を生成し、前記無効成分を表す電圧信号をゼロにするように前記角周波数を演算する請求項1記載の系統周波数検出器。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る系統周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図1に表したように、系統周波数検出器10は、直交座標信号生成部12と、周波数演算部14と、を備える。系統周波数検出器10は、三相交流電力の電力系統の系統周波数を検出する。
【0012】
系統周波数検出器10は、例えば、太陽光発電や風力発電などの分散型電源を電力系統と連系させる電力変換装置などに用いられる。但し、系統周波数検出器10の用途は、これに限定されるものではない。系統周波数検出器10は、三相交流電力の電力系統の系統周波数の検出を必要とする任意の機器に用いることができる。
【0013】
直交座標信号生成部12は、電力系統の三相交流電力の三相の電圧信号V
a、V
b、V
cから直交する二相の電圧信号V
α´、V
β´を生成する。三相の電圧信号V
a、V
b、V
cは、例えば、電圧検出器などによって検出され、直交座標信号生成部12に入力される。三相の電圧信号V
a、V
b、V
cは、例えば、所定のサンプリング周期で入力される三相交流電圧の瞬時値である。
【0014】
直交座標信号生成部12は、三相二相変換部20と、回転座標変換部21と、移動平均フィルタ22、23と、逆変換部24と、を有する。
【0015】
三相二相変換部20は、三相の電圧信号V
a、V
b、V
cをαβ変換(クラーク変換)により、α相とβ相の二相の電圧信号V
α、V
βに変換する。
【0016】
回転座標変換部21には、二相の電圧信号V
α、V
βが入力されるとともに、電力系統の公称の角周波数ω
nを積分して得られる公称の位相θ
nが入力される。回転座標変換部21は、いわゆるdq変換(パーク変換)により、直交二軸座標の電圧信号V
α、V
βを位相θ
nに同期した座標系(dq座標)の電圧信号V
d、V
qに回転座標変換する。電圧信号V
dは、電力系統の三相交流電力(電圧信号V
a、V
b、V
c)のd軸成分を表す電圧信号であり、電圧信号V
qは、電力系統の三相交流電力(電圧信号V
a、V
b、V
c)のq軸成分を表す電圧信号である。
【0017】
移動平均フィルタ22は、電圧信号V
dの移動平均を演算することにより、移動平均演算後の電圧信号V
d´を出力する。同様に、移動平均フィルタ23は、電圧信号V
qの移動平均を演算することにより、移動平均演算後の電圧信号V
q´を出力する。このように、移動平均フィルタ22、23は、電圧信号V
d、V
qの移動平均を演算することにより、電圧信号V
d、V
qの高周波成分を抑制する。移動平均フィルタ22、23は、例えば、電圧信号V
d、V
qに含まれる高調波成分を抑制する。これにより、例えば、三相の電圧不平衡、高調波、及びノイズなどの電力系統側のトラブルが、系統周波数の検出に影響を与えてしまうことを抑制することができる。
【0018】
逆変換部24は、回転座標系の電圧信号V
d´、V
q´を直交二軸座標系に逆変換することにより、電圧信号V
d´、V
q´から移動平均演算後の直交二軸座標の電圧信号V
α´、V
β´に変換する。これにより、直交座標信号生成部12は、三相の電圧信号V
a、V
b、V
cから直交する二相の電圧信号V
α´、V
β´を生成する。
【0019】
周波数演算部14は、直交座標信号生成部12によって生成された二相の電圧信号V
α´、V
β´を基に、電力系統の系統周波数fを演算する。周波数演算部14は、PLL(Phase-Locked-Loop)の演算を用いることにより、二相変換後の電圧信号V
α´、V
β´に同期した同期位相θ
αβPLLを検出するとともに、同期位相θ
αβPLLの検出過程で得られる角周波数ωから電力系統の系統周波数fを演算する。
【0020】
周波数演算部14は、角周波数演算部AFPを有する。角周波数演算部AFPは、例えば、演算器30、31、32と、乗算器33、34と、減算器35と、演算器36、37と、積分器38と、加算器39、40と、積分器41と、演算器42と、減算器43と、を有する。
【0021】
演算器30は、二相の電圧信号V
α´、V
β´からcosθ
nとsinθ
nとを演算する。演算器30は、V
α´/√(V
α´
2+V
β´
2)の式により、cosθ
nを演算し、V
β´/√(V
α´
2+V
β´
2)の式により、sinθ
nを演算する。演算器30は、演算したcosθ
nを乗算器33に入力し、演算したsinθ
nを乗算器34に入力する。
【0022】
演算器31は、検出された同期位相θ
αβPLLを基に、sinθ
αβPLLを演算し、sinθ
αβPLLを乗算器33に入力する。
【0023】
演算器32は、検出された同期位相θ
αβPLLを基に、cosθ
αβPLLを演算し、cosθ
αβPLLを乗算器34に入力する。
【0024】
乗算器33は、入力されたcosθ
nとsinθ
αβPLLとを乗算し、乗算結果を減算器35に入力する。
【0025】
乗算器34は、入力されたsinθ
nとcosθ
αβPLLとを乗算し、乗算結果を減算器35に入力する。
【0026】
減算器35は、sinθ
nとcosθ
αβPLL−cosθ
nとsinθ
αβPLLを演算することにより、電力系統の位相θ
nと同期位相θ
αβPLLとの誤差位相Δθを演算する。周波数演算部14は、
Δθ=θ
n−θ
αβPLL≒sinθ
nとcosθ
αβPLL−cosθ
nとsinθ
αβPLL
として、誤差位相Δθを演算する。
【0027】
演算器36は、誤差位相Δθに比例ゲインK
Pを乗算し、乗算結果を加算器39に入力する。
【0028】
演算器37は、誤差位相Δθに積分ゲインK
Iを乗算し、乗算結果を積分器38に入力する。
【0029】
積分器38は、誤差位相Δθと積分ゲインK
Iとの乗算結果を積分し、積分値を加算器39に入力する。
【0030】
加算器39は、演算器36の乗算結果と積分器38の積分値とを加算する。演算器36、37、積分器38、及び加算器39は、いわゆる比例積分制御により、誤差位相Δθをゼロにするための角周波数の指令値Δωを演算する。
【0031】
加算器40には、加算器39によって演算された角周波数の指令値Δωが入力されるとともに、電力系統の公称の角周波数ω
nが入力される。加算器40は、角周波数の指令値Δωと電力系統の公称の角周波数ω
nとを加算することにより、電力系統の角周波数ωを演算する。このように、角周波数演算部AFPは、二相の電圧信号V
α´、V
β´を基に、比例積分制御を行うことにより、角周波数ωを演算する。
【0032】
積分器41は、加算器40によって演算された角周波数ωを積分することにより、角周波数ωから同期位相θを演算する。積分器41は、演算した同期位相θを減算器43に入力する。
【0033】
演算器42は、積分器38の積分結果に定数K
φを乗算することにより、補正値を演算する。定数K
φは、K
φ=(T
ω−T
SP)/2によって求められる。T
SPは、電圧信号V
a、V
b、V
cのサンプリング周期を表す。T
ωは、移動平均フィルタ22、23の窓長を表す。T
ωは、移動平均フィルタ22、23の平均数をNとするとき、N・T
SPで表される。演算器42は、演算した補正値を減算器43に入力する。
【0034】
減算器43は、同期位相θから補正値を減算することにより、同期位相θを補正する。この補正により、減算器43は、同期位相θ
αβPLLを演算する。
【0035】
角周波数演算部AFPは、検出した同期位相θ
αβPLLを演算器31、32にフィードバックすることにより、同期位相θ
αβPLLを電力系統の位相θ
nと同期させる。このように、角周波数演算部AFPは、角周波数ωを基に、移動平均を演算した後の二相の電圧信号V
α´、V
β´に同期した同期位相θ
αβPLLを検出するとともに、電力系統の公称の位相θ
nと同期位相θ
αβPLLとの誤差位相Δθを演算し、誤差位相Δθをゼロにするように角周波数ωを演算する。この例の角周波数演算部AFP(周波数演算部14)のPLLの構成は、例えば、αβEPMAFPLL(αβ Enhanced Pre-filtering Moving Average Filter PLL)と呼ばれる場合がある。
【0036】
周波数演算部14は、ローパスフィルタ44と演算器45とをさらに有する。周波数演算部14は、演算した角周波数ωから電力系統の系統周波数fを演算する。加算器40は、演算した角周波数ωを積分器41に入力するとともに、角周波数ωをローパスフィルタ44に入力する。
【0037】
ローパスフィルタ44は、角周波数ωの高周波成分を抑制する。ローパスフィルタ44は、角周波数ωの所定の周波数よりも高い周波数の成分を減衰させる。換言すれば、ローパスフィルタ44は、角周波数ωの急激な変動を抑制する。ローパスフィルタ44は、例えば、移動平均フィルタを用いてもよい。ローパスフィルタ44は、高周波成分を抑制した後の角周波数ωを演算器45に入力する。
【0038】
演算器45は、角周波数ωに1/2πを乗算することにより、角周波数ωから系統周波数fを演算する。ローパスフィルタ44は、演算器45と直列に設けられる。ローパスフィルタ44は、角周波数ωの高周波成分を抑制することにより、系統周波数fの高周波成分を抑制する。ローパスフィルタ44は、系統周波数fの急激な変動を抑制する。
【0039】
このように、周波数演算部14は、二相の電圧信号V
α´、V
β´から電力系統の系統周波数fを演算する。系統周波数検出器10は、三相の電圧信号V
a、V
b、V
cから電力系統の系統周波数fを検出する。
【0040】
以上、説明したように、本実施形態に係る系統周波数検出器10は、系統周波数fの高周波成分を抑制するローパスフィルタ44を備える。これにより、電力系統に位相跳躍などが発生した場合にも、系統周波数fの急激な変動を抑制し、系統周波数fの演算の誤差を小さくすることができる。また、系統周波数fの演算は、オープンループのため、系統周波数fを演算する部分にローパスフィルタ44を設けたとしても、PLLによる系統電圧位相追従の速度に影響を与えることを抑制することができる。従って、系統周波数fの変化に対して高速に追従できるとともに、系統擾乱が発生した際にも系統周波数fの誤検出を抑制できる系統周波数検出器10を提供することができる。
【0041】
図2は、第1の実施形態に係る系統周波数検出器の変形例を模式的に表すブロック図である。
なお、上記実施形態と機能・構成上実質的に同じものについては、同符号を付し、詳細な説明を省略する。
図2に表したように、系統周波数検出器10aでは、ローパスフィルタ44が、1/2πを乗算する演算器45の後に設けられている。このように、ローパスフィルタ44は、角周波数ωから変換された後の系統周波数fの高周波成分を直接的に抑制してもよい。
【0042】
このように、ローパスフィルタ44は、演算器45の前に設けてもよいし、演算器45の後に設けてもよい。ローパスフィルタ44は、角周波数ωの高周波成分を抑制することによって系統周波数fの高周波成分を抑制してもよいし、系統周波数fの高周波成分を直接的に抑制してもよい。ローパスフィルタ44の構成は、演算器45と直列に設けられ、検出される系統周波数fの高周波成分を抑制可能な任意の構成でよい。
【0043】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係る系統周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図3に表したように、系統周波数検出器10bでは、周波数演算部14が、レートリミッタ46をさらに有する。レートリミッタ46は、演算器45と直列に設けられる。レートリミッタ46は、例えば、加算器40とローパスフィルタ44との間に設けられ、ローパスフィルタ44を介して演算器45と直列に接続される。
【0044】
レートリミッタ46は、所定の変化率以上の角周波数ωの変化を制限することにより、所定の変化率以上の系統周波数fの変化を制限する。レートリミッタ46は、例えば、25Hz/sec以上の系統周波数fの変化を抑制する。
【0045】
このように、レートリミッタ46を設けることにより、電力系統に位相跳躍などが発生した場合にも、系統周波数fの急激な変動を抑制し、系統周波数fの演算の誤差をより小さくすることができる。
【0046】
なお、レートリミッタ46は、加算器40とローパスフィルタ44との間に限ることなく、ローパスフィルタ44の後に設けてもよいし、演算器45の後に設けてもよい。レートリミッタ46の構成は、演算器45と直列に設けられ、所定の変化率以上の系統周波数fの変化を制限可能な任意の構成でよい。
【0047】
(第3の実施形態)
図4は、第3の実施形態に係る系統周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図4に表したように、系統周波数検出器10cでは、周波数演算部14が、減算器47、48をさらに有する。減算器47は、レートリミッタ46の入力側及び出力側と接続されている。減算器47は、レートリミッタ46の入力値からレートリミッタ46の出力値を減算する。すなわち、減算器47は、レートリミッタ46の入力値と出力値との差分を演算する。角周波数ωの演算値が急に大きくなり、レートリミッタ46によって角周波数ωが制限され、レートリミッタ46の出力値がレートリミッタ46の入力値よりも小さくなると、その差分が減算器47によって演算される。減算器47は、差分の演算結果を減算器48に入力する。
【0048】
減算器48は、角周波数演算部AFPの演算器37と積分器38との間に設けられる。減算器48は、誤差位相Δθに積分ゲインK
Iを乗算した演算器37の乗算結果から減算器47の差分の演算結果を減算する。すなわち、減算器48は、レートリミッタ46が角周波数ωを制限した際に、レートリミッタ46によって制限された分を比例積分制御の積分動作の演算から減算する。
【0049】
このように、系統周波数検出器10cの周波数演算部14は、減算器47、48を設け、レートリミッタ46の入出力差を角周波数演算部AFPの比例積分制御の演算にフィードバックする。これにより、電力系統に位相跳躍などが発生した場合にも、系統周波数fの急激な変動をより確実に抑制し、系統周波数fの演算の誤差をより小さくすることができる。こうしたフィードバックの制御は、例えば、Anti reset wind upと呼ばれる場合がある。
【0050】
(第4の実施形態)
図5は、第4の実施形態に係る系統周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図5に表したように、系統周波数検出器10dでは、周波数演算部14が、飽和リミッタ50と、スイッチング素子51と、切替回路52と、をさらに有する。
【0051】
飽和リミッタ50は、レートリミッタ46と並列的に設けられる。この例では、レートリミッタ46が、加算器40とローパスフィルタ44との間に設けられ、飽和リミッタ50もレートリミッタ46と同様に加算器40とローパスフィルタ44との間に設けられる。例えば、レートリミッタ46が、ローパスフィルタ44と演算器45との間に設けられる場合には、飽和リミッタ50も同様にローパスフィルタ44と演算器45との間に設ければよい。
【0052】
スイッチング素子51は、レートリミッタ46と演算器45(ローパスフィルタ44)との間、及び飽和リミッタ50と演算器45(ローパスフィルタ44)との間に設けられる。スイッチング素子51は、レートリミッタ46を演算器45に直列に接続する状態と、飽和リミッタ50を演算器45に直列に接続する状態と、を選択的に切り替える。
【0053】
スイッチング素子51がレートリミッタ46を演算器45に直列に接続した状態では、減算器47が、レートリミッタ46の入力側及び出力側と接続される。従って、この状態では、レートリミッタ46の入出力差が、比例積分制御の演算にフィードバックされる。
【0054】
一方、スイッチング素子51が飽和リミッタ50を演算器45に直列に接続した状態では、減算器47が、飽和リミッタ50の入力側及び出力側と接続される。従って、この状態では、飽和リミッタ50の入出力差が、比例積分制御の演算にフィードバックされる。
【0055】
飽和リミッタ50は、公称の角周波数ω
nに対する所定値以上の角周波数ωの変化を制限することにより、公称の系統周波数f
nに対する所定値以上の系統周波数fの変化を制限する。所定値(所定の絶対値)は、例えば、0.5Hzである。例えば、公称の系統周波数f
nが50Hzである場合、飽和リミッタ50は、50Hz±0.5Hzの範囲内に系統周波数fの変化を制限する。
【0056】
前述のように、レートリミッタ46は、例えば、25Hz/sec以上の系統周波数fの変化を抑制する。このように、飽和リミッタ50が制限する系統周波数fの変化の所定値(例えば、0.5Hz)は、例えば、レートリミッタ46の単位時間(1秒)当たりの変化率の周波数(例えば、25Hz)よりも小さい。
【0057】
切替回路52は、レートリミッタ46を用いる第1状態と、飽和リミッタ50を用いる第2状態と、を選択的に切り替える。切替回路52は、例えば、スイッチング素子51による経路の切り替えを制御することにより、第1状態と第2状態とを選択的に切り替える。
【0058】
但し、第1状態と第2状態との切り替えは、これに限定されるものではない。例えば、レートリミッタ46と飽和リミッタ50とに選択的に電力を供給し、レートリミッタ46と飽和リミッタ50とを選択的に動作させることによって第1状態と第2状態とを切り替えてもよいし、レートリミッタ46と飽和リミッタ50とに選択的に制御信号を送信し、レートリミッタ46と飽和リミッタ50とを選択的に動作させることによって第1状態と第2状態とを切り替えてもよい。これらの場合、スイッチング素子51は、省略可能である。スイッチング素子51は、必要に応じて設ければよい。
【0059】
図6は、切替回路を模式的に表すブロック図である。
図6に表したように、切替回路52は、微分回路53と、絶対値演算回路54と、判定回路55と、を有する。切替回路52には、回転座標変換部21によって演算された電圧信号V
dが入力される。
【0060】
微分回路53は、電圧信号V
dの微分値を演算する。換言すれば、微分回路53は、電圧信号V
dの傾きを演算する。絶対値演算回路54は、微分回路53によって演算された電圧信号V
dの微分値の絶対値を演算する。
【0061】
判定回路55は、電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値以上か否かを判定する。電力系統に位相跳躍が発生すると、電力系統の三相交流電力のd軸成分を表す電圧信号V
dは、急激に変化する(
図7(d)参照)。このため、電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値以上になった場合には、電力系統に位相跳躍が発生したと考えることができる。
【0062】
判定回路55は、スイッチング素子51の経路の切り替えを行う。判定回路55は、電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値未満である場合には、スイッチング素子51をレートリミッタ46の出力をローパスフィルタ44に接続した状態とする。すなわち、判定回路55は、電力系統に位相跳躍が発生していないと判断した場合には、レートリミッタ46を用いる第1状態を選択する。
【0063】
一方、判定回路55は、電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値以上である場合には、スイッチング素子51を飽和リミッタ50の出力をローパスフィルタ44に接続した状態とする。すなわち、判定回路55は、電力系統に位相跳躍が発生していると判断した場合には、飽和リミッタ50を用いる第2状態を選択する。
【0064】
このように、切替回路52は、有効成分を表す電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値未満である場合に第1状態を選択し、有効成分を表す電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値以上である場合に第2状態を選択する。
【0065】
判定回路55は、第1状態から第2状態に切り替えた場合、例えば、第1状態から第2状態への切り替えのタイミングから所定時間経過した後に、第2状態から第1状態に戻す。判定回路55は、例えば、第1状態から第2状態に切り替えた後、電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値未満に戻ったことに応答して第2状態から第1状態に戻してもよい。
【0066】
図7(a)〜
図7(g)は、系統周波数検出器の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図7(a)〜
図7(g)の横軸は、時間である。
図7(a)の縦軸は、三相の電圧信号V
aの一例である。
図7(b)の縦軸は、三相の電圧信号V
bの一例である。
図7(c)の縦軸は、三相の電圧信号V
cの一例である。
図7(d)の縦軸は、回転座標系の電圧信号V
dの一例である。
図7(e)の縦軸は、加算器40によって演算された角周波数ωからローパスフィルタ44などを通すことなく、そのまま演算器45で演算した参考の系統周波数fの一例である。
図7(f)の縦軸は、系統周波数検出器10cの構成によって演算した系統周波数fの一例である。
図7(g)の縦軸は、系統周波数検出器10dの構成によって演算した系統周波数fの一例である。
【0067】
図7(a)〜
図7(g)では、時刻T1において約30度の位相跳躍が発生した場合の一例を表している。また、
図7(a)〜
図7(g)では、電力系統の実際の系統周波数を50Hzに設定している。
【0068】
図7(d)に表したように、位相跳躍が発生すると、電力系統の三相交流電力のd軸成分を表す電圧信号V
dは、急激に変化する。
【0069】
図7(e)に表したように、ローパスフィルタ44などを用いることなく系統周波数fを演算した場合には、位相跳躍の発生時に5Hz程度の誤計測が発生している。
【0070】
これに対して、
図7(f)に表したように、レートリミッタ46の入出力差を比例積分制御の演算にフィードバックする系統周波数検出器10cでは、位相跳躍が発生した時の誤計測を1Hz程度に抑えることができている。
【0071】
そして、位相跳躍の発生を検出した時にレートリミッタ46から飽和リミッタ50に切り替える系統周波数検出器10dでは、位相跳躍が発生した時の誤計測をさらに抑えることができている。系統周波数検出器10dでは、誤計測を0.01Hz程度に抑えることができている。すなわち、系統周波数検出器10dでは、位相跳躍が発生した時の系統周波数fの誤計測を飽和リミッタ50の制限の幅に抑えることができる。
【0072】
これにより、系統周波数検出器10dでは、電力系統に位相跳躍などが発生した場合にも、系統周波数fの急激な変動をより確実に抑制し、系統周波数fの演算の誤差をより小さくすることができる。
【0073】
(第5の実施形態)
図8は、第5の実施形態に係る系統周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図8に表したように、系統周波数検出器10eでは、系統周波数検出器10dの飽和リミッタ50が、スローレートリミッタ60に置き換えられている。スローレートリミッタ60は、レートリミッタ46の変化率よりも低い変化率で、系統周波数fの変化を制限する。
【0074】
この例において、切替回路52は、レートリミッタ46を用いる第1状態と、スローレートリミッタ60を用いる第2状態と、を選択的に切り替える。切替回路52は、上記実施形態と同様に、有効成分を表す電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値未満である場合に第1状態を選択し、有効成分を表す電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値以上である場合に第2状態を選択する。
【0075】
このように、位相跳躍の発生を検出した時にレートリミッタ46からスローレートリミッタ60に切り替える場合にも、飽和リミッタ50を設けた場合と同様に、レートリミッタ46の入出力差を比例積分制御の演算にフィードバックする系統周波数検出器10cの構成と比べて、位相跳躍が発生した時の誤計測をさらに抑えることができる。
【0076】
(第6の実施形態)
図9は、第6の実施形態に係る系統周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図9に表したように、系統周波数検出器10fでは、飽和リミッタ50が、レートリミッタ46と直列的に設けられる。また、系統周波数検出器10fでは、スイッチング素子51が、レートリミッタ46のみを演算器45に直列に接続する状態と、レートリミッタ46と飽和リミッタ50と演算器45とを直列に接続する状態と、を選択的に切り替える。
【0077】
スイッチング素子51がレートリミッタ46のみを演算器45に直列に接続した状態では、減算器47が、レートリミッタ46の入力側及び出力側と接続される。従って、この状態では、レートリミッタ46の入出力差が、比例積分制御の演算にフィードバックされる。
【0078】
一方、スイッチング素子51がレートリミッタ46と飽和リミッタ50と演算器45とを直列に接続した状態では、減算器47が、レートリミッタ46と飽和リミッタ50との直列接続体の入力側及び出力側と接続される。
【0079】
切替回路52は、レートリミッタ46のみを用いる第1状態と、レートリミッタ46と飽和リミッタ50との直列接続体を用いる第2状態と、を選択的に切り替える。切替回路52は、例えば、スイッチング素子51による経路の切り替えを制御することにより、第1状態と第2状態とを選択的に切り替える。
【0080】
但し、第1状態と第2状態との切り替えは、これに限定されるものではない。例えば、レートリミッタ46のみを動作させることによって第1状態とし、レートリミッタ46と飽和リミッタ50とを動作させることによって第2状態としてもよい。この場合、スイッチング素子51は、省略可能である。
【0081】
切替回路52は、上記実施形態と同様に、有効成分を表す電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値未満である場合に第1状態を選択し、有効成分を表す電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値以上である場合に第2状態を選択する。
【0082】
飽和リミッタ50が制限する周波数は、レートリミッタ46が制限する周波数よりも低く設定される。従って、この状態では、実質的に、飽和リミッタ50の出力が系統周波数fの演算に用いられるとともに、飽和リミッタ50の入出力差が、比例積分制御の演算にフィードバックされる。このため、飽和リミッタ50をレートリミッタ46と直列的に設けた系統周波数検出器10fにおいても、飽和リミッタ50をレートリミッタ46と並列的に設けた系統周波数検出器10dと同様の効果を得ることができる。
【0083】
なお、飽和リミッタ50に代えて、スローレートリミッタ60をレートリミッタ46と直列的に設けてもよい。この場合には、系統周波数検出器10eと同様の効果を得ることができる。
【0084】
(第7の実施形態)
図10は、第7の実施形態に係る系統周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図10に表したように、系統周波数検出器10gでは、系統周波数検出器10dの飽和リミッタ50が、サンプルホールド回路62に置き換えられている。
【0085】
サンプルホールド回路62は、出力信号を入力信号に追従させるサンプルモードと、出力信号を所定のタイミングの値で実質的に一定となるようにホールドするホールドモードと、を有する。
【0086】
切替回路52は、レートリミッタ46を用いる第1状態と、サンプルホールド回路62を用いる第2状態と、を選択的に切り替える。
【0087】
切替回路52(判定回路55)は、電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値未満であり、電力系統に位相跳躍が発生していないと判断した場合には、レートリミッタ46を用いる第1状態を選択するとともに、サンプルホールド回路62をサンプルモードで動作させる。
【0088】
切替回路52(判定回路55)は、電圧信号V
dの微分値の絶対値が所定値以上であり、電力系統に位相跳躍が発生していると判断した場合に、サンプルホールド回路62を用いる第2状態を選択するとともに、サンプルホールド回路62をサンプルモードからホールドモードに切り替える。これにより、切替回路52は、電力系統に位相跳躍が発生する直前の信号(角周波数ω又は系統周波数f)をサンプルホールド回路62に保持させる。
【0089】
このように、位相跳躍の発生を検出した時にレートリミッタ46からサンプルホールド回路62に切り替える場合にも、飽和リミッタ50を設けた場合と同様に、レートリミッタ46の入出力差を比例積分制御の演算にフィードバックする系統周波数検出器10cの構成と比べて、位相跳躍が発生した時の誤計測をさらに抑えることができる。
【0090】
上記のように、電力系統に位相跳躍が発生する直前の信号をサンプルホールド回路62に保持させることにより、位相跳躍の発生にともなう系統周波数fの誤計測をより確実に抑制することができる。
【0091】
(第8の実施形態)
図11は、第8の実施形態に係る系統周波数検出器を模式的に表すブロック図である。
図11に表したように、系統周波数検出器10hでは、周波数演算部14aの角周波数演算部AFPが、回転座標変換部70と、積分器71と、加算器72、73と、演算器74と、積分器75と、演算器76と、減算器77と、を有する。
【0092】
回転座標変換部70には、二相の電圧信号V
α´、V
β´が入力されるとともに、同期位相θ
PLLが入力される。回転座標変換部70は、いわゆるdq変換(パーク変換)により、直交二軸座標の電圧信号V
α´、V
β´を同期位相θ
PLLに同期した座標系(dq座標)の電圧信号v
d、v
qに回転座標変換する。
【0093】
積分器71は、電圧信号v
qに積分ゲインK
Iを乗算するとともに、乗算結果を積分することにより、電力系統の三相交流電力のq軸成分を表す電圧信号v
qをゼロにするための角周波数の指令値Δωを演算する。積分器71は、演算した指令値Δωを加算器72に入力する。
【0094】
加算器72には、積分器71によって演算された角周波数の指令値Δωが入力されるとともに、電力系統の公称の角周波数ω
nが入力される。加算器72は、角周波数の指令値Δωと電力系統の公称の角周波数ω
nとを加算することにより、電力系統の角周波数ωを演算する。加算器72は、演算した角周波数ωを加算器73に入力する。
【0095】
演算器74は、電圧信号v
qに比例ゲインK
Pを乗算し、乗算結果を加算器73に入力する。
【0096】
加算器73は、加算器72で演算された角周波数ωと演算器74の乗算結果とを加算することにより、角周波数ωを補正する。
【0097】
積分器75は、加算器73によって補正された補正後の角周波数ωを積分することにより、角周波数ωから二相変換後の電圧信号V
α´、V
β´に同期した同期位相θ
PLLを演算する。積分器75は、演算した同期位相θ
PLLを減算器77に入力する。
【0098】
演算器76は、積分器71の積分結果に定数K
φを乗算することにより、補正値を演算する。演算器76は、演算した補正値を減算器77に入力する。
【0099】
減算器77は、同期位相θ
PLLから補正値を減算することにより、同期位相θ
PLLを補正する。減算器77は、補正後の同期位相θ
PLLを回転座標変換部70に入力する。回転座標変換部70は、この補正後の同期位相θ
PLLを基に、前述のように電圧信号v
d、v
qを演算する。
【0100】
このように、周波数演算部14aの角周波数演算部AFPは、検出した同期位相θ
PLLを回転座標変換部70にフィードバックし、電力系統の三相交流電力のq軸成分を表す電圧信号v
qをゼロにするように同期位相θ
PLLを検出することにより、同期位相θ
PLLを電力系統の位相θ
nと同期させる。周波数演算部14aの角周波数演算部AFPは、角周波数ωを基に、移動平均を演算した後の二相の電圧信号V
α´、V
β´に同期した同期位相θ
PLLを検出するとともに、移動平均を演算した後の二相の電圧信号V
α´、V
β´を回転座標変換することにより、電力系統の三相交流電力のq軸成分を表す電圧信号v
qを生成し、q軸成分を表す電圧信号v
qをゼロにするように角周波数ωを演算する。この例の角周波数演算部AFP(周波数演算部14a)のPLLの構成は、例えば、EPMAFPLL(Enhanced Pre-filtering Moving Average Filter PLL)と呼ばれる場合がある。
【0101】
また、周波数演算部14aは、演算した角周波数ωから電力系統の系統周波数fを演算する。周波数演算部14aは、ローパスフィルタ78と、演算器79と、をさらに有する。加算器73は、演算した角周波数ωを積分器75に入力するとともに、角周波数ωをローパスフィルタ78に入力する。
【0102】
ローパスフィルタ78は、角周波数ωの高周波成分を抑制する。ローパスフィルタ78は、高周波成分を抑制した後の角周波数ωを演算器79に入力する。演算器79は、角周波数ωに1/2πを乗算することにより、角周波数ωから系統周波数fを演算する。ローパスフィルタ78は、上記の実施形態で説明したように、演算器79の後に設けてもよい。
【0103】
このように、周波数演算部の構成は、EPMAFPLLの構成でもよいし、αβEPMAFPLLの構成でもよい。但し、周波数演算部の構成は、これらに限定されるものではない。周波数演算部の構成は、例えば、EPMAFPLLの構成から演算器76及び減算器77を省略し、積分器75で演算した同期位相θ
PLLを回転座標変換部70にそのままフィードバックするPMAFPLL(Pre-filtering Moving Average Filter PLL)の構成でもよい。あるいは、周波数演算部の構成は、積分器71の積分結果に定数K
φを乗算して演算した補正値を直交座標信号生成部12の回転座標変換部21及び逆変換部24にフィードバックするEPMAFPLL Type2の構成などでもよい。
【0104】
また、
図11に表したEPMAFPLLの構成にAnti reset wind upのフィードバックの制御を加えてもよい。この場合には、例えば、積分器71を
図4などに表した例と同様に、積分ゲインK
Iを電圧信号v
qに乗算する演算器と、乗算結果を積分する積分器と、に分けるとともに、この演算器と積分器との間に減算器を設けることにより、レートリミッタ46の入出力差を比例積分制御の演算にフィードバックすればよい。
【0105】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、系統周波数検出器10、10a〜hに含まれる各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0106】
その他、本発明の実施の形態として上述した系統周波数検出器10、10a〜hを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての系統周波数検出器も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0107】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
本発明の実施形態によれば、電力系統の三相交流電力の三相の電圧信号を直交する二相の電圧信号に変換し、二相の電圧信号を回転座標系の電圧信号に変換し、回転座標系の電圧信号の移動平均を演算し、移動平均を演算した後の回転座標系の電圧信号を逆変換することにより、三相の電圧信号から直交する二相の電圧信号を生成する直交座標信号生成部と、二相の電圧信号を基に電力系統の角周波数を演算する角周波数演算部と、角周波数から電力系統の系統周波数を演算する演算器と、を有する周波数演算部と、を備え、周波数演算部は、演算器と直列に設けられ、系統周波数の高周波成分を抑制するローパスフィルタをさらに有する系統周波数検出器が提供される。これにより、系統周波数の変化に対して高速に追従できるとともに、系統擾乱が発生した際にも系統周波数の誤検出を抑制できる系統周波数検出器が提供される。