(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記情報取得領域は、前記視野領域における赤外線領域の光の透過率よりも低い赤外線領域の光の透過率を有するように構成される、請求項1から5のいずれかに記載のウインドシールド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件発明者らは、情報取得領域を設けたウインドシールドについて、次のような問題点があることを見出した。すなわち、周りの物体(自動車等)からの反射、その他外部の環境により、情報取得領域から車内に強い光が入射する場合がある。この場合に、情報取得装置による情報の取得がその強い光によって阻害されてしまう可能性がある。例えば、情報取得装置としてカメラを車内に設置した場合に、情報取得領域から車内に強い光が入射すると、ホワイトアウトが起き、カメラにより車外の状況を正しく撮影できない可能性がある。このように、本件発明者らは、従来のウインドシールドにおいて、情報取得領域から車内に強い光が入射した際に、情報取得領域を通しても情報取得装置が正しく情報を取得できない可能性があるという問題点があることを見出した。
【0008】
また、情報取得装置の精度によっては、強い光が要求される場合がある。そのような情報取得装置に弱い光が入射すると、車外の状況を正しく撮影できない可能性がある。
【0009】
本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、強い光や弱い光が入射しても、情報取得装置による情報の取得が阻害されにくいウインドシールドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
項1:光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドであって、
前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域、及び前記自動車を運転する運転者が運転の際に交通状況を確認する視野領域を有するガラス板を備え、
前記情報取得領域の光の透過率は、前記視野領域の光の透過率と相違するように構成される、ウインドシールド。
【0011】
なお、情報取得装置は、光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得可能な装置であれば、特に限定されなくてもよい。情報取得装置は、例えば、ステレオカメラ等の各種の撮影装置であってよい。また、視野領域は、運転席に着いた運転者が運転を行う際に注意する領域であり、実施の形態に応じて適宜設定可能である。例えば、JIS R 3212(1998年、「自動車用安全ガラス試験方法」)の附属書「安全ガラスの光学的特性及び耐光性についての試験領域」において規定されている試験領域Aを視野領域として採用してもよい。
【0012】
項2:前記情報取得領域は、前記視野領域の光の透過率よりも低い光の透過率を有するように構成される、項1に記載のウインドシールド。
【0013】
これにより、周りの物体(自動車等)からの反射、その他外部の環境によって、ウインドシールドの車外側から強い光が入射しても、情報取得領域により強い光を遮断し、車内側に配置される情報取得装置にまで強い光量のままで光が到達しないようにすることができる(以下、この効果を「防眩効果」とも称する)。したがって、当該構成によれば、強い光が入射しても、情報取得装置による情報の取得が阻害されにくいようにすることができる。
【0014】
項3:前記視野領域以外の前記ガラス板の領域に設けられ、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層を更に備え、
前記情報取得領域は、前記遮蔽層に隣接する又は前記遮蔽層に周囲を囲まれるように配置される、項1または2に記載のウインドシールド。
【0015】
当該構成によれば、遮蔽層によって、情報取得領域の周りの領域から入射する光を遮断することができる。これにより、強い光が入射しても、情報取得装置による情報の取得が阻害されにくいようにすることができる。
【0016】
項4:前記情報取得領域の可視領域の光の透過率は、70%以下であり、
前記視野領域の可視領域の光の透過率は、70%以上である、項1から3のいずれかに記載のウインドシールド。
【0017】
当該構成によれば、情報取得領域の可視領域の光の透過率を70%以下に設定することで、強い光が入射しても、情報取得装置による情報の取得が阻害されにくいようにすることができる。特に、情報取得装置として撮影装置(カメラ)を配置した場合に、強い光が入射しても、撮影装置においてホワイトアウトを起こしにくいようにすることができる。なお、可視領域の光は、例えば、380nm〜780nmの範囲の波長の光を指す。可視領域の波長の上限は、760nm〜830nmで設定されてよく、可視領域の波長の下限は、360nm〜400nmで設定されてよい。
【0018】
項5:前記視野領域のヘイズ率は0.6%以下であり、
前記情報取得領域のヘイズ率は0.6%以上である、項1から4のいずれかに記載のウインドシールド。
【0019】
当該構成によれば、視野領域のヘイズ率は0.6%以下に設定することで、強い光が入射しても、情報取得装置による情報の取得が阻害されにくいようにすることができる。なお、ヘイズ率(曇り度)は、「拡散透過率Td/全光線透過率Tt×100」により算出することができる。
【0020】
項6:前記情報取得領域は、前記視野領域における赤外線領域の光の透過率よりも低い赤外線領域の光の透過率を有するように構成される、項1から5のいずれかに記載のウインドシールド。
【0021】
当該構成では、情報取得領域により赤外線領域の光を遮断することで、強い光量のままで赤外線領域の光が情報取得装置側まで到達しないようにすることができる。したがって、当該構成によれば、情報取得装置の周辺が赤外線領域の光によって温められるのを抑制することができ、これによって、情報取得装置が、高温になり、故障するのを防ぐことができる。なお、赤外線領域の光は、可視光線上限の赤色光よりも波長が長く、ミリ波長の電磁波よりも波長の短い電磁波全般を指し、例えば、凡そ0.7μm〜1000μmの範囲の波長の光を指す。
【0022】
項7:前記ガラス板は、車外側に配置される外側ガラス板と、車内側に配置される内側ガラス板と、当該外側ガラス板及び前記内側ガラス板の間に配置される中間膜とを備え、
前記外側ガラス板、前記中間膜、及び前記内側ガラス板は、前記情報取得領域及び前記視野領域で実質的に同じ光の透過率を有するように構成され、
前記情報取得領域における前記外側ガラス板及び前記内側ガラス板のいずれかの面に、
光の透過率を低下させるように構成されたフィルム材が貼着されていることにより、前記情報取得領域は、前記視野領域の光の透過率よりも低い光の透過率を有するように構成される、項1から6のいずれかに記載のウインドシールド。
【0023】
当該構成によれば、フィルム材を貼着するという簡単な工程で、情報取得領域を視野領域よりも光を透過しにくいようにすることができる。したがって、当該構成によれば、強い光が入射しても、情報取得装置による情報の取得が阻害されにくいウインドシールドを低コストで実現することができる。
【0024】
項8:前記情報取得領域における前記ガラス板の面には、基材層と、防曇性を有し、前記基材層の一方の面に積層された防曇層と、を備える防曇性フィルムが貼着され、
前記防曇層には、平均粒径が1nm〜500nmである微粒子が添加されていることにより、前記情報取得領域は、前記視野領域の光の透過率よりも低い光の透過率を有するように構成される、項1から7のいずれかに記載のウインドシールド。
【0025】
当該構成では、防曇性を有する防曇層により情報取得領域が曇るのを防ぎつつ、防曇層に添加された微粒子により、強い光が車外側から入射しても、車内側に配置される情報取得装置にまで強い光量のままで光が到達しないようにすることができる。したがって、当該構成によれば、情報取得装置により情報の取得に適した情報取得領域を有するウインドシールドを提供することができる。
【0026】
項9:前記微粒子はシリカ微粒子である、項8に記載のウインドシールド。
【0027】
項10:前記基材層は、偏光フィルムにより構成されている、項8または9に記載のウインドシールド。
【0028】
項11:前記情報取得領域における前記ガラス板の面には、基材層と、防曇性を有し、前記基材層の一方の面に積層された防曇層と、を備える防曇性フィルムが配置され、
前記基材層は、偏光フィルムにより構成されている、項1から7のいずれかに記載のウインドシールド。
【0029】
ところで、情報取得装置の精度によっては、強い光が要求される場合がある。そのような情報取得装置に弱い光が入射すると、車外の状況を正しく撮影できない可能性がある。そこで、以下の発明においては、情報取得領域における、ガラス板の車内側に低反射膜を配置している。
【0030】
項12:少なくとも前記情報取得領域における前記ガラス板の面には、
低反射膜が配置されている、項1に記載のウインドシールド。
【0031】
項13:前記視野領域における前記ガラス板の面には、
前記低反射膜が配置されていない、項12に記載のウインドシールド。
【0032】
項14:前記ガラス板の面と前記低反射膜の間に粘着層と基材層が順に配置されている、項12または13に記載のウインドシールド。
【0033】
項15:前記低反射膜は、本体部と、前記本体部上に配置され、車内側を向く表面部と、を備え、
前記表面部の屈折率は、前記本体部の屈折率よりも小さく空気の屈折率よりも大きい、項12から14のいずれかに記載のウインドシールド。
【0034】
項16:前記表面部には凹凸が形成されている、項15に記載のウインドシールド。
【0035】
項17:前記表面部にはシリカ微粒子が含有されている、項15または16に記載のウインドシールド。
【0036】
項18:前記低反射膜の屈折率は、前記ガラス板の屈折率より小さく、空気の屈折率よりも大きい、項12から14のいずれかに記載のウインドシールド。
【0037】
項19:前記低反射膜は、ポーラス構造を有している、項18に記載のウインドシールド。
【0038】
項20:前記ガラス板と前記低反射膜との間に配置された防曇層をさらに備えている、項18または19に記載のウインドシールド。
【0039】
項21:前記低反射膜には、中空微粒子が含有されている、項18から20のいずれかに記載のウインドシールド。
【0040】
項22:前記低反射膜には、前記ガラス板の屈折率よりも低い屈折率を有する微粒子が含有されている、項18に記載のウインドシールド。
【0041】
項23:前記低反射膜は、前記ガラス板の屈折率よりも低い、複数の層により構成されており、
前記複数の層の屈折率は、前記ガラス板から離れるにしたがって小さくなるように構成されている、項12から14のいずれかに記載のウインドシールド。
【0042】
項24:前記低反射膜は、複数の層により構成されており、
前記複数の層は、前記ガラス板側から積層される第1層と、少なくとも1つの第2層と、を有し、
前記第1層の屈折率は、前記ガラス板の屈折率よりも大きく、前記第2層の屈折率は、前記ガラス板の屈折率よりも小さい、項12から14のいずれかに記載のウインドシールド。
【0043】
項25:前記第1層は、透明導電膜により形成されている、項24に記載のウインドシールド。
【0044】
項26:前記ガラス板と前記低反射膜との間に配置された防曇層をさらに備えている、項24または25に記載のウインドシールド。
【0045】
項27:前記情報取得領域における前記ガラス板の面には、
前記ガラス板上に配置される基材層と、
防曇性を有し、前記基材層の一方の面に積層された少なくとも1つの防曇層と、
がこの順で積層された防曇性フィルムが配置されており、
前記基材層の屈折率が前記ガラス板の屈折率よりも大きく、
前記防曇層の屈折率が前記基材層の屈折率よりも小さい、項1に記載のウインドシールド。
【0046】
項28:前記情報取得領域における前記ガラス板の面には、
前記ガラス板上に配置される基材層と、
防曇性を有し、前記基材層の一方の面に積層された少なくとも1つの防曇層と、
を有する、防曇性フィルムが配置されており、
前記防曇層の屈折率は、前記基材層の屈折率よりも小さい、項1に記載のウインドシールド。
【0047】
項29:前記基材の屈折率が1.6以上である、項27に記載のウインドシールド。
【0048】
項30:前記防曇層の屈折率が1.45以下である、項27から29のいずれかに記載のウインドシールド。
【0049】
項31:前記情報取得領域における前記ガラス板の面には、
前記ガラス板上に配置される基材層と、
防曇性を有し、前記基材層の一方の面に積層された少なくとも1つの防曇層と、
を有する、防曇性フィルムが配置されており、
前記防曇層の表面に凹凸が形成されている、項1に記載のウインドシールド。
【0050】
項32:前記情報取得領域における前記ガラス板の面には、
前記ガラス板上に配置される基材層と、
防曇性を有し、前記基材層の一方の面に積層された少なくとも1つの防曇層と、
を有する、防曇性フィルムが配置されており、
前記防曇層には、可視光域で光吸収物質が含有されている、項1に記載のウインドシールド。
【0051】
また、本発明に係るウインドシールドは、
光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドであって、
前記情報取得領域における前記ガラス板の面に配置される低反射膜を備えている。
【0052】
上記ウインドシールドにおいて、前記低反射膜は、前記ガラス板側に配置される本体部と、前記本体部上に配置される表面部とを備え、前記表面部の屈折率は、前記本体部の屈折率よりも小さく空気の屈折率よりも大きいものとすることができる。
【0053】
上記ウインドシールドにおいて、前記表面部には凹凸を形成することができる。
【0054】
上記ウインドシールドにおいて、前記表面部にはシリカ微粒子を含有させることができる。
【0055】
上記ウインドシールドにおいて、前記低反射膜の屈折率は、前記ガラス板の屈折率より小さく、空気の屈折率よりも大きくすることができる。
【0056】
上記ウインドシールドにおいて、前記低反射膜は、ポーラス構造を有するものとすることができる。
【0057】
上記ウインドシールドにおいて、前記ガラス板と前記低反射膜との間に配置された防曇層をさらに備えることができる。
【0058】
上記ウインドシールドにおいて、前記低反射膜には、中空微粒子を含有させることができる。
【0059】
上記ウインドシールドにおいて、前記低反射膜には、前記ガラス板の屈折率よりも低い屈折率を有する微粒子を含有させることができる。
【0060】
上記ウインドシールドにおいて、前記低反射膜は、前記ガラス板の屈折率よりも低い、複数の層により構成することができ、前記複数の層の屈折率は、前記ガラス板から離れるにしたがって小さくなるように構成することができる。
【0061】
上記ウインドシールドにおいて、前記低反射膜は、複数の層により構成されており、前記複数の層は、前記ガラス板側から積層される第1層と、少なくとも1つの第2層と、を有し、前記第1層の屈折率は、前記ガラス板の屈折率よりも大きく、前記第2層の屈折率は、前記ガラス板の屈折率よりも小さいものとすることができる。
【0062】
上記ウインドシールドにおいて、前記第1層は、透明導電膜により形成することができる。
【0063】
上記ウインドシールドにおいて、前記ガラス板と前記低反射膜との間に配置された防曇層をさらに備えることができる。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、強い光が入射しても、情報取得装置による情報の取得が阻害されにくいウインドシールドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、以下の説明では、説明の便宜のため、図面内の向きを基準として説明を行う。
【0067】
§1 構成例
まず、
図1及び
図2を用いて、本実施形態に係るウインドシールド100を説明する。
図1及び
図2は、本実施形態に係るウインドシールド100の一例を模式的に例示する正面図及び断面図である。
【0068】
図1及び
図2に例示されるように、本実施形態に係るウインドシールド100は、ガラス板1と、濃色のセラミックにより構成され、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層2と、を備えている。遮蔽層2は、ガラス板1の周縁部に沿って設けられており、環状の周縁部21、及び周縁部21の上辺部中央から面方向内側に突出する突出部22を有している。
【0069】
突出部22には、セラミックが積層していない開口部23が設けられており、開口部23の周囲には枠状のブラケット6が固定されている。このブラケット6には、光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置を付設するためのカバー7を取り付けることができるようになっている。これにより、ウインドシールド100は、情報取得装置を車内に配置可能に構成されている。
【0070】
本実施形態では、情報取得装置の一例として、カメラ8(撮影装置)が車内に取り付けられる。カメラ8が車内に取り付けられると、ガラス板1では、開口部23内のカメラ8に対向する位置に、光の通過する情報取得領域3が設定される。すなわち、カメラ8は、この情報取得領域3を介して、車外の状況を撮影する。
【0071】
一方、情報取得領域3とは異なる範囲には、視野領域5が設けられる。視野領域5は、このウインドシールド100の取り付けられた自動車を運転する運転者が運転する際に交通状況を確認するための領域であり、ウインドシールドを左右に分けた場合に運転者の正面に当たる領域である。本実施形態では、ガラス板1において遮蔽層2の面方向内側に設定される。
【0072】
そして、本実施形態では、情報取得領域3におけるガラス板1の車内側の面に、光の透過率を低下させるように構成されたフィルム材の一例として、防曇性フィルム4が貼着されている。この防曇性フィルム4により、情報取得領域3は、視野領域5の光の透過率よりも低い光の透過率を有するように構成されている。
【0073】
これにより、本実施形態に係るウインドシールド100では、周りの物体(自動車等)からの反射、その他外部の環境によって、車外側から強い光が入射しても、情報取得領域3によってその強い光をカットすることができる。したがって、本実施形態では、車内側に配置されるカメラ8にまで強い光量のままで光が到達しないようにすることができ、これによって、車外から強い光が入射しても、カメラ8による撮影が阻害されにくい、すなわち、ホワイトアウトを起こしにくいようになっている。以下、各構成要素について説明する。
【0074】
[ガラス板]
まず、ガラス板1について説明する。
図2に例示されるとおり、本実施形態に係るガラス板1は、ガラス板1は、車外側に配置される外側ガラス板11と、車内側に配置される内側ガラス板12と、外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に配置される中間膜13と、を備えている。
【0075】
中間膜13は、外側ガラス板11の車内側の面と内側ガラス板12の車外側の面とを接合している。これにより、ガラス板1は、いわゆる合わせガラスとして構成されている。なお、以下では、外側ガラス板11の車外側の面を「第1面」、外側ガラス板11の車内側の面を「第2面」、内側ガラス板12の車外側の面を「第3面」、内側ガラス板12の車内側の面を「第4面」とも標記する。
【0076】
<外側ガラス板及び内側ガラス板>
両ガラス板(11、12)は、互いにほぼ同形であり、平面視台形状に形成されている。両ガラス板(11、12)は、面直方向に湾曲していてもよいし、平らであってもよい。本実施形態では、各ガラス板(11、12)の車外側の面が凸となり、車内側の面が凹となるように湾曲した形状を有している。
【0077】
各ガラス板(11、12)には、公知のガラス板を用いることができる。例えば、各ガラス板(11、12)は、熱線吸収ガラス、クリアガラス、グリーンガラス、UVグリーンガラス等であってよい。ただし、各ガラス板(11、12)は、自動車の使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現するように構成される。
【0078】
本実施形態では、各ガラス板(11、12)は、JIS R 3211で定められるように、可視領域(380nm〜780nm)の光の透過率が70%以上になるように構成される。透過率は、JIS R 3212(3.11 可視光透過率試験)で定められているように、JIS Z 8722に規定された分光測定法によって測定することができる。
【0079】
また、本実施形態では、各ガラス板(11、12)は、ヘイズ率が0.6%以下になるように構成される。このヘイズ率(曇り度)は、上記のとおり、「拡散透過率Td/全光線透過率Tt×100」の計算に基づいて算出することができる。すなわち、このヘイズ率は、市販されているヘイズメータ、分光光度計等により、拡散透過率及び全光線透過率を測定することにより求めることができる。
【0080】
なお、両ガラス板(11、12)の光の透過率及びヘイズ率は一致していなくてもよい。例えば、外側ガラス板11によって所望の日射吸収率を確保し、内側ガラス板12によって可視光線透過率が安全規格を満たすように調整してもよい。以下に、各ガラス板(11、12)を構成可能なガラスの組成の一例として、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラス組成の一例を示す。
【0081】
(クリアガラス)
SiO2:70〜73質量%
Al2O3:0.6〜2.4質量%
CaO:7〜12質量%
MgO:1.0〜4.5質量%
R2O:13〜15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T−Fe2O3):0.08〜0.14質量%
【0082】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T−Fe2O3)の比率を0.4〜1.3質量%とし、CeO2の比率を0〜2質量%とし、TiO2の比率を0〜0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT−Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0083】
本実施形態に係るガラス板1の厚みは特に限定されないが、軽量化の観点からは、両ガラス板(11、12)の厚みの合計を、2.0mm〜6.0mmとすることが好ましく、3.0mm〜5.0mmとすることがさらに好ましく、3.5mm〜4.5mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、両ガラス板(11、12)の合計の厚みを小さくすればよい。
【0084】
また、各ガラス板(11、12)の厚みは特に限定されないが、例えば、以下のように、各ガラス板(11、12)の厚みを決定することができる。すなわち、外側ガラス板11は、主として、小石等の飛来物等の衝撃に対する耐久性及び耐衝撃性が求められる。他方、外側ガラス板11の厚みを大きくするほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板11の厚みは、1.6mm〜2.5mmとすることが好ましく、1.8mm〜2.1mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、実施の形態に応じて適宜決定することができる。
【0085】
一方、内側ガラス板12の厚みは、外側ガラス板11の厚みと同等にすることができるが、例えば、ガラス板1の軽量化のために、外側ガラス板11よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、内側ガラス板12の厚みは、0.4mm〜2.5mmであることが好ましく、0.6mm〜2.0mmであることがさらに好ましい。内側ガラス板12についても、何れの厚みを採用するかは、実施の形態に応じて適宜決定することができる。
【0086】
<中間膜>
中間膜13は、両ガラス板(11、12)の間に挟持され、両ガラス板(11、12)を接合する膜である。中間膜13は、実施の形態に応じて適宜構成することができる。例えば、中間膜13は、軟質のコア層を、これよりも硬質の一対のアウター層で挟持した3層構造で構成することができる。中間膜13をこのように軟質の層及び硬質の層の複数層で構成することによって、ガラス板1の耐破損性能及び遮音性能を高めることができる。
【0087】
この中間膜13の材料は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、中間膜13を上記のように硬さの異なる複数の層で構成する場合、硬質のアウター層には、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)を用いることができる。このポリビニルブチラール樹脂(PVB)は、外側ガラス板11及び内側ガラス板12それぞれとの接着性及び耐貫通性に優れるため、アウター層の材料として好ましい。また、軟質のコア層には、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、又はアウター層に利用するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質のポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。
【0088】
なお、一般的に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、(a)〜(d)の少なくともいずれかの条件を適切に調整することにより、アウター層に用いる硬質のポリビニルアセタール樹脂とコア層に用いる軟質のポリビニルアセタール樹脂とを作製してもよい。
【0089】
更に、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化によって、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。したがって、例えば、アウター層がポリビニルブチラール樹脂で構成されている場合、コア層には、炭素数が5以上のアルデヒド(例えばn−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−へプチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド)、をポリビニルアルコールでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。
【0090】
また、中間膜13の総厚は、実施の形態に応じて適宜設定可能である。例えば、中間膜13の総厚は、0.3〜6.0mmとすることができ、0.5〜4.0mmであることが好ましく、0.6〜2.0mmであることが更に好ましい。コア層とコア層を挟持する一対のアウター層との3層構造で中間膜13を構成する場合、コア層の厚みは、0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.1〜0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各アウター層の厚みは、コア層の厚みよりも大きいことが好ましく、具体的には、0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.1〜1.0mmであることがさらに好ましい。
【0091】
このような中間膜13の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作製した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。また、中間膜13は、上記のような複数の層で形成する以外に、1層で形成することもできる。
【0092】
本実施形態では、上記の材料及び製造工程を適宜採用することで、中間膜13は、可視領域(380nm〜780nm)の光の透過率が70%以上になるように構成される。また、中間膜13は、ヘイズ率が0.6%以下になるように構成される。
【0093】
[遮蔽層]
次に、
図3を更に用いて、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層2について説明する。
図3は、本実施形態に係るウインドシールド100の情報取得領域3付近を模式的に例示する部分拡大図である。
【0094】
図1及び
図2に示されるとおり、遮蔽層2は、ガラス板1の第4面、すなわち、内側ガラス板12の車内側の面において、視野領域5以外の領域に設けられている。本実施形態では、遮蔽層2は、ガラス板1の第4面の周縁部に沿って積層した環状の周縁部21と、周縁部21の上辺部中央から面方向内側に突出する略矩形状の突出部22とを有している。これに対して、視野領域5は、周縁部21の面方向内側に設定されている。すなわち、遮蔽層2は、視野領域5を囲むように設けられている。
【0095】
図1〜
図3に示されるとおり、突出部22には、情報取得領域3に対応して配置された開口部23が設けられている。開口部23の形状は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。本実施形態では、開口部23は、略台形状に形成されている。また、開口部23の平面寸法は、情報取得領域3の平面寸法より大きくなるように設定されている。これにより、情報取得領域3は、遮蔽層2に周囲を囲まれるように配置されている。
【0096】
遮蔽層2は、セラミックを積層することで形成される。後述するとおり、内側ガラス板12の車内側の面に形成された突出部22には、カメラ8のカバーを取り付けるためのブラケットが接着剤で接着される。このとき、例えば、ウレタン・シリコン系の接着剤を利用すると、接着剤が紫外線などによって劣化するおそれがある。そのため、遮光性を担保し、接着剤の劣化を防ぐ観点から、遮蔽層2の厚みは、例えば、20μm〜100μmとするのが好ましい。
【0097】
遮蔽層2の材料は、車外からの視野を遮蔽可能であれば、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、遮蔽層2は、黒色、茶色、灰色、濃紺等の濃色のセラミックにより形成することができる。具体的に、以下の表1に示す組成のセラミックにより遮蔽層2を形成することができる。ただし、遮蔽層2を形成するセラミックの組成は、以下の表1に限定される訳ではなく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0098】
【表1】
*1,アサヒ化成工業株式会社製:Black 6350(Pigment Green 17)
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0099】
なお、遮蔽層2の各部の寸法は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。例えば、周縁部21において、ガラス板1の上端辺及び下端辺それぞれに沿う部分の幅は20mm〜100mmの範囲で設定されてよく、ガラス板1の左端辺及び右端辺それぞれに沿う部分の幅は15mm〜70mmの範囲で設定されてよい。また、突出部22は、200mm(縦)×100mm(横)〜400mm(縦)×200mm(横)の範囲で設定されてよい。
【0100】
また、情報取得領域3の平面寸法は、車内に設置する情報取得装置(カメラ8)によって定まる。これに対して、開口部23の平面寸法は、情報取得領域3の平面寸法より大きくなるように、適宜設定されてよい。開口部23は、例えば、平面視で上辺85mm、下辺95mm、高さ65mmの台形状の領域として設定されてよい。
【0101】
[防曇性フィルム]
次に、
図4を更に用いて、防曇性フィルム4について説明する。
図4は、防曇性フィルム4を含む情報取得領域3付近を模式的に例示する部分断面図である。
【0102】
図4に示されるとおり、防曇性フィルム4は、断面矩形状に形成されており、シート状の基材層42と、基材層42の一方の面上に積層された防曇層43と、基材層42の他方の面上に積層された透明の粘着層41と、を備えている。防曇性フィルム4は、情報取得領域3の車内側の面(第4面)に粘着層41を介して貼着されている。以下、各層について説明する。
【0103】
(A)防曇層
まず、防曇層43について説明する。防曇層43は、防曇性フィルム4の最外層として配置され、防曇機能を発揮する層である。本実施形態に係る防曇層43には、防曇性フィルム4を貼着した情報取得領域3の光の透過率が視野領域5の光の透過率よりも低くなるように、光を散乱させる微粒子44が添加される。防曇層43の種類は、微粒子44を添加可能であり、かつ防曇性を有しているものであれば、特に限定されなくてもよく、公知のものを用いることができる。一般的に防曇層の種類として、水蒸気から生じる水を水膜として表面に形成する親水タイプ、水蒸気を吸収する吸水タイプ、及び水蒸気から生じる水滴を撥水する撥水タイプがある。防曇層43には、いずれのタイプも利用可能である。
【0104】
吸水タイプを採用する場合、防曇層43は、例えば、次のように構成することができる。すなわち、防曇層43は、撥水基と金属酸化物成分とを含み、好ましくは吸水性樹脂をさらに含むように構成することができる。金属酸化物成分は、上記微粒子44として、金属酸化物微粒子を含む。防曇層43は、必要に応じ、その他の機能成分をさらに含んでいてもよい。吸水性樹脂は、水を吸収して保持できる樹脂であればその種類を問わない。撥水基は、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)から防曇層43に供給することができる。金属酸化物成分は、上記金属酸化物微粒子の他、撥水基含有金属化合物その他の金属化合物等から防曇層43に供給することができる。以下、各成分について説明する。
【0105】
<吸水性樹脂>
まず、吸水性樹脂について説明する。防曇層43は、吸水性樹脂として、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類のポリマーを含むことができる。ウレタン樹脂として、ポリイソシアネートとポリオールとで構成されるポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリオールとしては、アクリルポリオール及びポリオキシアルキレン系ポリオールが好ましい。エポキシ系樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。好ましいエポキシ樹脂は、環式脂肪族エポキシ樹脂である。以下、好ましい吸水性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂(以下、単に「ポリアセタール」)について説明する。
【0106】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコールのアセタール化は、酸触媒の存在下で水媒体を用いる沈澱法、アルコール等の溶媒を用いる溶解法等公知の方法を用いて実施すればよい。アセタール化は、ポリ酢酸ビニルのケン化と並行して実施することもできる。アセタール化度は、2〜40モル%、さらには3〜30モル%、特に5〜20モル%、場合によっては5〜15モル%が好ましい。アセタール化度は、例えば13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定することができる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタールは、吸水性及び耐水性が良好である防曇層の形成に適している。
【0107】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、200〜4500、さらに500〜4500が好ましい。高い平均重合度は、吸水性及び耐水性が良好である防曇層の形成に有利であるが、平均重合度が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎて防曇層の形成に支障をきたすことがある。ポリビニルアルコールのケン化度は、75〜99.8モル%が好適である。
【0108】
ポリビニルアルコールに縮合反応させるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルカルバルデヒド、オクチルカルバルデヒド、デシルカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒドを挙げることができる。また、ベンズアルデヒド;2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル基置換ベンズアルデヒド;クロロベンズアルデヒド、その他のハロゲン原子置換ベンズアルデヒド;ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等のアルキル基を除く官能基により水素原子が置換された置換ベンズアルデヒド;ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド等の縮合芳香環アルデヒド等の芳香族アルデヒドを挙げることができる。疎水性が強い芳香族アルデヒドは、低アセタール化度で耐水性に優れた防曇層を形成する上で有利である。芳香族アルデヒドの使用は、水酸基を多く残存させながら吸水性が高い防曇層を形成する上でも有利である。ポリビニルアセタールは、芳香族アルデヒド、特にベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含むことが好ましい。
【0109】
防曇層43における吸水性樹脂(ポリマー)の含有量は、硬度、吸水性及び防曇性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上であり、99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、特に好ましくは92質量%以下である。これにより、親水性の無機材料のみを利用した場合に比べて、防曇層43の熱膨張係数を基材層42の熱膨張係数に近付けることができる。そのため、基材層42と防曇層43との熱膨張係数の違いに起因する防曇層43の剥離を抑制することができる。
【0110】
<撥水基>
次に、撥水基について説明する。撥水基は、防曇層の強度と防曇性との両立を容易にすると共に、防曇層の表面を撥水性として水滴が形成されたとしても入射する光の直進性を確保することに貢献する。撥水基による効果を十分に得るためには、撥水性が高い撥水基を用いることが好ましい。例えば、防曇層43は、(1)炭素数3〜30の鎖状又は環状のアルキル基、及び(2)水素原子の少なくとも一部をフッ素原子により置換した炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基(以下、「フッ素置換アルキル基」ということがある)から選ばれる少なくとも1種類の撥水基を含むことができる。
【0111】
(1)及び(2)に関し、鎖状又は環状のアルキル基は、鎖状アルキル基であることが好ましい。鎖状アルキル基は、分岐を有するアルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基が好ましい。炭素数が30を超えるアルキル基は、防曇層を白濁させることがある。防曇層の防曇性、強度及び外観のバランスの観点から、鎖状アルキル基の炭素数は、20以下が好ましく、例えば1〜8であり、また例えば4〜16であり、好ましくは4〜8である。特に好ましいアルキル基は、炭素数4〜8の直鎖アルキル基、例えばn−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、及びn−オクチル基である。(2)に関し、フッ素置換アルキル基は、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子の一部のみをフッ素原子により置換した基であってもよく、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子のすべてをフッ素原子により置換した基、例えば直鎖状のパーフルオロアルキル基、であってもよい。フッ素置換アルキル基は撥水性が高いため、少ない量の添加によって十分な効果を得ることができる。ただし、フッ素置換アルキル基は、その含有量が多くなり過ぎると、防曇層を形成するための塗工液中でその他の成分から分離することがある。
【0112】
(撥水基を有する加水分解性金属化合物)
撥水基を防曇層43に配合するためには、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)、特に撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)又はその加水分解物を、防曇層を形成するための塗工液に添加するとよい。言い換えると、撥水基は、撥水基含有加水分解性金属化合物に由来するものであってもよい。撥水基含有加水分解性金属化合物としては、以下の式(I)に示す撥水基含有加水分解性シリコン化合物が好適である。
【0113】
RmSiY4-m (I)
ここで、Rは、撥水基、すなわち水素原子の少なくとも一部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基であり、Yは加水分解可能な官能基又はハロゲン原子であり、mは1〜3の整数である。加水分解可能な官能基は、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはアルコキシ基、特に炭素数1〜4のアルコキシ基である。アルケニルオキシ基は、例えばイソプロペノキシ基である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素である。なお、ここに例示した官能基は、以降に述べる「加水分解可能な官能基」としても使用することができる。mは好ましくは1〜2である。
【0114】
式(I)により示される化合物は、加水分解及び重縮合が完全に進行すると、以下の式(II)により表示される成分を供給する。
【0115】
RmSiO(4-m)/2 (II)
ここで、R及びmは、上述したとおりである。加水分解及び重縮合の後、式(II)により示される化合物は、実際には、防曇層中において、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。
【0116】
このように、式(I)により示される化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらには少なくとも一部が重縮合して、シリコン原子と酸素原子とが交互に接続し、かつ三次元的に広がるシロキサン結合(Si−O−Si)のネットワーク構造を形成する。このネットワーク構造に含まれるシリコン原子には撥水基Rが接続している。言い換えると、撥水基Rは、結合R−Siを介してシロキサン結合のネットワーク構造に固定される。この構造は、撥水基Rを防曇層に均一に分散させる上で有利である。ネットワーク構造は、式(I)により示される撥水基含有加水分解性シリコン化合物以外のシリコン化合物(例えば、テトラアルコキシシラン、シランカップリング剤)から供給されるシリカ成分を含んでいてもよい。撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有するシリコン化合物(撥水基非含有加水分解性シリコン化合物)を撥水基含有加水分解性シリコン化合物と共に防曇層を形成するための塗工液に配合すると、撥水基と結合したシリコン原子と撥水基と結合していないシリコン原子とを含むシロキサン結合のネットワーク構造を形成できる。このような構造とすれば、防曇層中における撥水基の含有率と金属酸化物成分の含有率とを互いに独立して調整することが容易になる。
【0117】
防曇層が吸水性樹脂を含む場合、撥水基は、吸水性樹脂を含む防曇層表面における水蒸気の透過性を向上させることにより防曇性能を向上させる。吸水と撥水という2つの機能は互いに相反するため、吸水性材料と撥水性材料とは、従来、別の層に振り分けて付与されてきたが、防曇層に含まれる撥水基は、防曇層の表面近傍における水の偏在を解消して結露までの時間を引き延ばし、防曇層の防曇性を向上させる。以下ではその効果を説明する。
【0118】
吸水性樹脂を含む防曇層へと侵入した水蒸気は、吸水性樹脂等の水酸基と水素結合し、結合水の形態で保持される。量が増加するにつれ、水蒸気は、結合水の形態から半結合水の形態を経て、ついには防曇層中の空隙に保持される自由水の形態で保持されるようになる。防曇層において、撥水基は、水素結合の形成を妨げ、かつ形成した水素結合の解離を容易にする。吸水性樹脂の含有率が同じであれば、防曇層中における水素結合可能な水酸基の数には差がないが、撥水基は水素結合の形成速度を低下させる。したがって、撥水基を含有する防曇層において、水分は、最終的には上記のいずれかの形態で防曇層に保持されることになるが、保持されるまでには防曇層の底部まで水蒸気のまま拡散することができる。また、一旦保持された水も、比較的容易に解離し、水蒸気の状態で防曇層の底部まで移動しやすい。結果的に、防曇層の厚さ方向についての水分の保持量の分布は、表面近傍から防曇層の底部まで比較的均一になる。つまり、防曇層の厚さ方向の全てを有効に活用し、防曇層表面に供給された水を吸収することができるため、表面に水滴が凝結しにくく、防曇性が高くなる。
【0119】
一方、撥水基を含まない従来の防曇層においては、防曇層中に侵入した水蒸気は極めて容易に結合水、半結合水又は自由水の形態で保持される。したがって、侵入した水蒸気は、防曇層の表面近傍で保持される傾向にある。結果的に、防曇層中の水分は、表面近傍が極端に多く、防曇層の底部へ進むにつれて急速に減少する。つまり、防曇層の底部では未だ水を吸収できるにも拘わらず、防曇層の表面近傍では水分により飽和して水滴として凝結するため、防曇性が限られたものとなり得る。
【0120】
撥水基含有加水分解性シリコン化合物(式(I)参照)を用いて撥水基を防曇層に導入すると、強固なシロキサン結合(Si−O−Si)のネットワーク構造が形成される。このネットワーク構造の形成は、耐摩耗性のみならず、硬度、耐水性等を向上させる観点からも有利である。
【0121】
撥水基は、防曇層の表面における水の接触角が70度以上、好ましくは80度以上、より好ましくは90度以上になる程度に添加するとよい。水の接触角は、4mgの水滴を防曇層の表面に滴下して測定した値を採用することとする。特に撥水性がやや弱いメチル基又はエチル基を撥水基として用いる場合は、水の接触角が上記の範囲となる量の撥水基を防曇層に配合することが好ましい。この水の接触角は、その上限が特に制限されるわけではないが、例えば150度以下、また例えば120度以下、さらには105度以下である。撥水基は、防曇層の表面のすべての領域において上記水の接触角が上記の範囲となるように、防曇層に均一に含有させることが好ましい。
【0122】
ここで、
図5A及び
図5Bを用いて、水の接触角と防曇層43との関係について説明する。
図5A及び
図5Bは、接触角の異なる水滴(430、431)が防曇層43に取り付いた状態を示す。
図5A及び
図5Bに示すように、防曇層43の表面に同量の水蒸気が凝結して形成された水滴(430、431)が防曇層43を覆う面積は、その表面の水の接触角が大きいほど小さくなる傾向を有する。また、水滴(430、431)により覆われる面積が小さいほど、防曇層43に入射する光が散乱する面積の比率も小さくなる。したがって、撥水基の存在により水の接触角が大きくなった防曇層43は、その表面に水滴が形成された状態において透過光の直進性を保持するうえで有利である。
【0123】
防曇層43は、水の接触角が上述の好ましい範囲となるように、撥水基を含むことが好ましい。吸水性樹脂を含む場合、防曇層43は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上の範囲内となるように、また、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、の範囲内となるように、撥水基を含むことが好ましい。
【0124】
<金属酸化物成分>
次に、金属酸化物成分について説明する。金属酸化物成分は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物成分であり、好ましくはSiの酸化物成分(シリカ成分)である。吸水性樹脂を含む場合、防曇層43は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上、特に好ましくは5質量部以上、場合によっては7質量部以上、必要であれば10質量部以上、また、60質量部以下、特に50質量部以下、好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、特に好ましくは20質量部以下、場合によっては18質量部以下となるように、金属酸化物成分を含むことが好ましい。金属酸化物成分は、防曇層の強度、特に耐擦傷性を確保するために必要な成分であるが、その含有量が過多となると防曇層の防曇性が低下する。
【0125】
金属酸化物成分の少なくとも一部は、防曇層を形成するための塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又その加水分解物に由来する金属酸化物成分であってもよい。ここで、加水分解性金属化合物は、a)撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)及びb)撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有する金属化合物(撥水基非含有加水分解性金属化合物)から選ばれる少なくとも1つである。a)及び/又はb)に由来する金属酸化物成分は、加水分解性金属化合物を構成する金属原子の酸化物である。金属酸化物成分は、防曇層を形成するための塗工液に添加された金属酸化物微粒子に由来する金属酸化物成分と、その塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又その加水分解物に由来する金属酸化物成分とを含んでいてもよい。ここでも、加水分解性金属化合物は、上記a)及びb)から選ばれる少なくとも1つである。上記b)、すなわち撥水基を有しない加水分解性金属化合物は、テトラアルコキシシラン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。以下、既に説明した上記a)を除き、金属酸化物微粒子と上記b)とについて説明する。
【0126】
(金属酸化物微粒子)
本実施形態では、防曇層43は、金属酸化物成分の少なくとも一部として金属酸化物微粒子を含む。この金属酸化物粒子は、光を散乱させる微粒子44に相当する。金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、好ましくは、シリカ微粒子、ITO(Indium Tin Oxid;酸化インジウムスズ)微粒子、ジルコニア微粒子である。シリカ微粒子は、例えば、コロイダルシリカを添加することにより防曇層に導入できる。この金属酸化物粒子を微粒子44として防曇層43に添加することにより、防曇性フィルム4を貼着した情報取得領域3の光の透過率を低下させ、またヘイズ率を上昇させることができる。さらに、このような微粒子は、単体又は凝集して防曇層の表面近傍に存在することで、防曇層43の表面に凹凸が作製されるため、防曇層43の表面での光の反射を抑制することができる。その結果、カメラ8への車内の映り込みが軽減され、カメラ8がよりノイズの少ない明瞭な画像を取得することができる。このような微粒子としては、例えば、防曇層の屈折率に近いシリカ微粒子が特に好ましい。また、金属酸化物微粒子は、防曇層に加えられた応力を防曇層を支持する透明物品に伝達する作用に優れ、硬度も高い。したがって、金属酸化物微粒子の添加は、防曇層の耐摩耗性及び耐擦傷性を向上させる観点から有利である。更に、防曇層に金属酸化物微粒子を添加すると、微粒子が接触又は近接している部位に微細な空隙が形成され、この空隙から防曇層中に水蒸気が取り込まれやすくなる。このため、金属酸化物微粒子の添加は、防曇性の向上に有利に作用することもある。金属酸化物微粒子は、防曇層を形成するための塗工液に予め形成した金属酸化物微粒子を添加することにより、防曇層に供給することができる。
【0127】
金属酸化物微粒子の平均粒径は、大きすぎると防曇層が白濁することがあり、小さすぎると凝集して均一に分散させることが困難となる。この観点から、金属酸化物微粒子の好ましい平均粒径は、1nm〜500nm、特に5nm〜200nmである。なお、ここでは、金属酸化物微粒子の平均粒径を、一次粒子の状態で記述している。また、金属酸化物微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いた観察により任意に選択した50個の微粒子の粒径を測定し、その平均値を採用して定めることとする。金属酸化物微粒子は、その含有量が過大となると、防曇層全体の吸水量が低下し、防曇層が白濁するおそれがある。防曇層が吸水性樹脂を含む場合、金属酸化物微粒子は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.01〜50質量部、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは2〜30質量部、特に好ましくは5〜25質量部、場合によっては10〜20質量部となるように添加するとよい。
【0128】
(撥水基を有しない加水分解性金属化合物)
また、防曇層43は、撥水基を有しない加水分解性金属化合物(撥水基非含有加水分解性化合物)に由来する金属酸化物成分を含んでいてもよい。好ましい撥水基非含有加水分解性金属化合物は、撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物である。撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、例えば、シリコンアルコキシド、クロロシラン、アセトキシシラン、アルケニルオキシシラン及びアミノシランから選ばれる少なくとも1種のシリコン化合物(ただし、撥水基を有しない)であり、撥水基を有しないシリコンアルコキシドが好ましい。なお、アルケニルオキシシランとしては、イソプロペノキシシランを例示できる。
【0129】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、以下の式(III)に示す化合物であってもよい。
【0130】
SiY4 (III)
上述したとおり、Yは、加水分解可能な官能基であって、好ましくはアルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1つである。
【0131】
撥水基非含有加水分解性金属化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらに、少なくともその一部が重縮合して、金属原子と酸素原子とが結合した金属酸化物成分を供給する。この成分は、金属酸化物微粒子と吸水性樹脂とを強固に接合し、防曇層の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。防曇層が吸水性樹脂を含む場合、撥水基を有しない加水分解性金属化合物に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜40質量部、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部、特に好ましくは3〜10質量部、場合によっては4〜12質量部の範囲とするとよい。
【0132】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい一例は、テトラアルコキシシラン、より具体的には炭素数が1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランである。テトラアルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン及びテトラ−tert−ブトキシシランから選ばれる少なくとも1種である。
【0133】
テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇層の防曇性が低下することがある。防曇層の柔軟性が低下し、水分の吸収及び放出に伴う防曇層の膨潤及び収縮が制限されることが一因である。防曇層が吸水性樹脂を含む場合、テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜30質量部、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは3〜10質量部の範囲で添加するとよい。
【0134】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい別の一例は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、互いに異なる反応性官能基を有するシリコン化合物である。反応性官能基は、その一部が加水分解可能な官能基であることが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシ基及び/又はアミノ基と加水分解可能な官能基とを有するシリコン化合物である。好ましいシランカップリング剤としては、グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランを例示できる。これらのシランカップリング剤において、シリコン原子に直接結合しているアルキレン基の炭素数は1〜3であることが好ましい。グリシジルオキシアルキル基及びアミノアルキル基は、親水性を示す官能基(エポキシ基、アミノ基)を含むため、アルキレン基を含むものの、全体として撥水性ではない。
【0135】
シランカップリング剤は、有機成分である吸水性樹脂と無機成分である金属酸化物微粒子等とを強固に結合し、防曇層の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。しかし、シランカップリング剤に由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇層の防曇性が低下し、場合によっては防曇層が白濁する。防曇層が吸水性樹脂を含む場合、シランカップリング剤に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部の範囲で添加するとよい。
【0136】
<架橋構造>
また、防曇層43は、架橋剤、好ましくは有機ホウ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の架橋剤、に由来する架橋構造を含んでいてもよい。架橋構造の導入は、防曇層の耐摩耗性、耐擦傷性、耐水性を向上させる。別の観点から述べると、架橋構造の導入は、防曇層の防曇性能を低下させることなくその耐久性を改善することを容易にする。
【0137】
金属酸化物成分がシリカ成分である防曇層に架橋剤に由来する架橋構造を導入した場合、その防曇層は、金属原子としてシリコンと共にシリコン以外の金属原子、好ましくはホウ素、チタン又はジルコニウム、を含有することがある。
【0138】
架橋剤は、用いる吸水性樹脂を架橋できるものであれば、その種類は特に限定されない。ここでは、有機チタン化合物についてのみ例を挙げる。有機チタン化合物は、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート系化合物及びチタンアシレートから選ばれる少なくとも1つである。チタンアルコキシドは、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトラオクトキシドである。チタンキレ−ト系化合物は、例えば、チタンアセチルアセトナート、チタンアセト酢酸エチル、チタンオクチレングリコール、チタントリエタノールアミン、チタンラクテートである。チタンラクテートは、アンモニウム塩(チタンラクテートアンモニウム)であってもよい。チタンアシレートは、例えばチタンステアレートである。好ましい有機チタン化合物は、チタンキレート系化合物、特にチタンラクテートである。
【0139】
<任意成分>
防曇層43には、その他の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、防曇性を改善する機能を有するグリセリン、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。添加剤は、界面活性剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、防腐剤等であってもよい。防曇層43の材料に界面活性剤を配合することにより、基材層42上に液剤を塗布して、防曇層43を形成する際に、基材層42上で液剤が拡がりやすくなる。そのため、形成される防曇層43の表面に凹凸が生じ難いようにすることができ、これによって、防曇層43に生じる歪みを軽減することができる。したがって、情報取得領域3に貼着するのに適した防曇性フィルムを提供することができる。なお、添加剤として、例えば、BYK社のBYK-323、BYK-333、BYK-342、BYK-377、BYK-3455、信越化学社のKP-109、KP-110、KP-112、KP-341、モメンティブ社のTSF4440、TSF4452、TSF4450を用いることができる。
【0140】
以上の説明から明らかなように、防曇層43の好ましい形態としては、以下が挙げられる。すなわち、防曇層43は、好ましくは、吸水性樹脂100質量部に対し、金属酸化物成分を0.1〜60質量部、撥水基を0.05〜10質量部含む。このとき、金属酸化物成分の少なくとも一部には、シリカ微粒子(コロイダルシリカ)、ITO微粒子等の金属酸化物微粒子(微粒子44)が用いられる。なお、撥水基は、炭素数1〜8の鎖状アルキル基であり、撥水基は、金属酸化物成分を構成する金属原子に直接結合しており、金属原子がシリコンであってよい。また、金属酸化物成分の少なくとも一部が、防曇層を形成するための塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又は加水分解性金属化合物の加水分解物に由来する金属酸化物成分であって、加水分解性金属化合物は、撥水基を有する加水分解性金属化合物、及び撥水基を有しない加水分解性金属化合物から選ばれる少なくとも1種であってよい。更に、撥水基を有しない加水分解性金属化合物が、テトラアルコキシシラン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種を含んでよい。防曇層43をこのようにすることで、情報取得領域3の曇りを抑えることができ、カメラ8による車外の情報の取得を適切に行えるようになる。
【0141】
上記防曇層43の実施例として、例えば、ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX−5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む) 87.5質量%、シリカ微粒子分散液(日産化学工業社製「スノーテックスST−O−40」、固形分40質量%、平均粒径(一時粒子径)20〜25nm)2.50質量%、n−ヘキシルトリメトキシシラン(HTMS、信越化学工業社製「KBM−3063」) 0.526質量%、3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン(GPTMS、信越化学工業社製「KBM−403」) 0.198質量部、テトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE−04」) 2.774質量%、アルコール溶媒(日本アルコール工業製「ソルミックスAP−7」) 5.607質量%、精製水0.875質量%、酸触媒として塩酸0.01質量%、レベリング剤(信越化学工業社製「KP−341」) 0.01質量%をガラス製容器に入れ、室温(25℃)で3時間撹拌する。これにより、防曇層43を形成するための塗工液を調製することができる。
【0142】
<その他>
なお、防曇層43のタイプは、吸水タイプに限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。上記のとおり、防曇層43のタイプは、例えば、親水タイプ、撥水タイプであってよい。また、吸水タイプ以外のタイプで防曇層43を構成した場合も、上記吸水タイプの場合と同様に、シリカ微粒子、ITO微粒子等の金属酸化物微粒子を微粒子44として防曇層43に添加してよい。
【0143】
(B)基材層及び粘着剤層
次に、基材層42及び粘着層41について説明する。基材層42は、防曇性フィルム4の基となり、それぞれの面側で防曇層43及び粘着層41を保持する層である。また、粘着層41は、防曇性フィルム4を対象物に接着するための層である。粘着層41の材料は、防曇性フィルム4を情報取得領域3の車内側の面に貼着可能で透明な材料であれば、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、粘着層41の材料は、アクリル系、シリコン系の接着剤であってよい。
【0144】
また、基材層42の材料は、透明な材料であれば、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、基材層42の材料は、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の透明の樹脂シートであってよい。なお、本実施形態では、防曇性フィルム4は、ガラス板1の車内側の面である第4面に貼着される。この防曇性フィルム4を貼着する第4面は、自動車の車内側に位置するため、温かい環境に置かれやすい。しかしながら、防曇性フィルム4を貼着した面(第4面)から他方の面(第1面)側に熱が放熱されやすくなっていると、防曇性フィルム4付近が冷えやすくなってしまう。防曇層43を上記のような吸水タイプで構成した場合には、防曇性フィルム4周辺の温度が低下すると、防曇層43の防曇性が低下してしまう。よって、防曇性フィルム4付近が冷えやすくなっていると、防曇層43の防曇性が十分に発揮できない可能性がある。そこで、基材層42は、熱伝導率が5×10-4 cal/cm・sec・℃以下の材料で構成されるのが好ましい。このような条件を満たす材料として、例えば、コスモシャインA4300(東洋紡績株式会社製)やルミラー(東レ株式会社)を挙げることができる。これにより、防曇性フィルム4を貼着した面側から他方の面側に熱が放熱され難いようにし、防曇性フィルム4の防曇機能が低下してしまうのを抑制することができる。
【0145】
上記以外にも、基材層42は、種々の材料で形成することができる。例えば、基材層42を偏光フィルムで構成することもできる。このような偏光フィルムを用いることで、例えば、濡れた路面、対面するビル、あるいは前方の自動車等で反射した光を偏光フィルムによって減衰させることができるため、カメラ8で取得すべき前景からの光のみを取得しつつ不要な前記反射光を減衰することができるので、変化する車外の状況に寄らずにカメラ8での前方の視界が一定して見えやすくなる。具体的には、例えば、前方に見える濡れた路面からの反射光は、電場の振動方向が横方向(水平方向)の偏光が強くなっている。そこで、電場の振動方向が縦方向(垂直方向)の偏光を透過させるような偏光フィルムを用いれば、反射光をほとんどなくすことができる。これにより、カメラ8に偏光板を導入するよりも安価で且つ簡易に、カメラ8に入射する光の減衰を行うことができる。また、前景からの光はランダムな方向の偏光を含んでおり、偏光フィルムを通過することで、水平方向の偏光が減衰するので、カメラ8に入射する光の凡そ50%を減衰することができる。以上より、基材を偏光フィルムにすることによっても情報取得領域3での光の透過率を低減することができる。本実施形態に係る防曇フィルム4に用いられる偏光フィルムは、特には限定されないが、例えば、日東電工株式会社製のSEG1425DU,TEG1456DU、旭化成株式会社製WGF、株式会社ポラテクノ製THC−125Uなどを用いることができる。
【0146】
なお、カメラ8に偏光板を設けることもできる。例えば、カメラ8側の偏光板を回転させることができるようにすれば、基材層42の偏光フィルムの方向とカメラ8側の偏向板の角度の違いによって能動的に受光する光の量を調整することができ、変化する車外の状況に対応できる。また、カメラは通電されているので、このような回転機構を設けやすいという利点がある。
【0147】
また、基材層42を熱反射フィルムで形成することもできる。このようにすると、防曇フィルム4によって車外からの熱を反射することができるため、車外の熱がカメラ8に達してカメラ8が高温になるのを防止することができる。これによって、カメラ8が誤作動するのを防止することができる。熱反射フィルムとしては、特には限定されないが、例えば、スリーエムジャパン株式会社製3Mスコッチテントウィンドィルム(NANO80S,NANO90S等)、帝人フロンティア株式会社製レフテル(ZC05T,ZC06T,ZA05T,ZA06T等)、日東電工株式会社製ペンジェレックス(PX−7060S,PX−7570N,PX−8080S等)を用いることができる。なお、熱反射フィルムを合わせガラスの中間膜として使用することで、熱を反射することもできる。このようなフィルムとしては、例えば、EASTMAN社のXIR filmを用いることができる。
【0148】
さらに、基材層42をブルーライトカットフィルムで形成することもできる。本実施形態で用いられるカメラ8としては、可視光用のカメラを用いることができるが、このようなカメラ8は約550nmをピークに±100nm程度の波長の可視光を利用するが、ブルーライトカットフィルムを用いると、450nmをピーク波長とするブルーライトをカットすることができる。ブルーライトは、可視光とは異なる波長域であるため、ブルーライトがカットされた光がカメラ8に入射しても問題はない。すなわち、ブルーライトがカットされることで、カメラ8が使用しない光の透過を抑制することができつつ、カメラの感度を低下させることなく、効果的にカメラが受ける光の全量を少なくすることができる。すなわち、情報取得領域3での光の透過率を低減することができる。このようなブルーカットフィルムとしては、例えば、エレコム株式会社製ブルーライトカット液晶保護フィルム(EF−FLBLシリーズ等)、HOYA株式会社製ビーナスガードコート ラピスRUVなどを用いることができる。
【0149】
(C)製造方法
次に、上記のような防曇性フィルム4の製造方法について説明する。防曇性フィルム4は、基材層42の一方の面に防曇層43を成膜し、他方の面に粘着剤を塗布して粘着層41を形成することで、作製することができる。
【0150】
防曇層43の成膜は、防曇層43を形成するための塗工液(液剤)を基材層42上に塗布し、塗布した塗工液を乾燥させ、必要に応じてさらに高温高湿処理等を実施することにより、行うことができる。塗工液の調製に用いる溶媒、塗工液の塗布方法は、従来から公知の材料及び方法を用いればよい。
【0151】
塗工液の塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持することが好ましい。相対湿度を低く保持すると、膜が雰囲気から水分を過剰に吸収することを防止できる。雰囲気から水分が多量に吸収されると、膜のマトリックス内に入り込んで残存した水が膜の強度を低下させるおそれがある。
【0152】
塗工液の乾燥工程は、風乾工程と、加熱を伴う加熱乾燥工程とを含むことが好ましい。風乾工程は、相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持した雰囲気に塗工液を曝すことにより、実施するのが好ましい。風乾工程は、非加熱工程として、言い換えると室温で実施できる。塗工液に加水分解性シリコン化合物が含まれている場合、加熱乾燥工程では、シリコン化合物の加水分解物等に含まれるシラノール基及び透明物品上に存在する水酸基が関与する脱水反応が進行し、シリコン原子と酸素原子とからなるマトリックス構造(Si−O結合のネットワーク)が発達する。
【0153】
吸水性樹脂等の有機物の分解を避けるべく、加熱乾燥工程において適用する温度は過度に高くしないほうがよい。この場合の適切な加熱温度は、300℃以下、例えば100〜200℃であり、加熱時間は、1分〜1時間である。
【0154】
防曇層43の成膜に際しては、適宜、高温高湿処理工程を実施してもよい。高温高湿処理工程の実施により、防曇性と膜の強度との両立がより容易になりうる。高温高湿処理工程は、例えば50〜100℃、相対湿度60〜95%の雰囲気に5分〜1時間保持することにより、実施することができる。高温高湿処理工程は、塗布工程及び乾燥工程の後に実施してもよく、塗布工程及び風乾工程の後であって加熱乾燥工程の前に実施してもよい。特に前者の場合には、高温高湿処理工程の後に、さらに熱処理工程を実施してもよい。この追加の熱処理工程は、例えば、80〜180℃の雰囲気に5分〜1時間保持することにより、実施することができる。
【0155】
また、塗工液から形成した防曇層43は、必要に応じ、洗浄及び/又は湿布拭きを行ってもよい。具体的には、防曇層43の表面を、水流に曝したり、水を含ませた布で拭いたりすることにより実施できる。これらで用いる水は純水が適している。洗浄のために洗剤を含む溶液を用いることは避けたほうがよい。この工程により、防曇層43の表面に付着した埃、汚れ等を除去して、清浄な塗膜面を得ることができる。
【0156】
(D)各層の厚み
次に、各層の厚みについて説明する。各層の厚みは、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。例えば、粘着層41の厚みは、数μm〜数百μmの範囲で設定されてよい。また、例えば、基材層42の厚みは、20μm〜150μmの範囲で設定されてよい。また、例えば、防曇層43の厚みは、1μm〜20μmの範囲で設定されてよい。
【0157】
(E)形状及び平面寸法
次に、防曇性フィルム4の形状及び平面寸法について説明する。
図1及び
図3に例示されるように、本実施形態では、防曇性フィルム4は、平面視矩形状に形成されており、4つの角部はそれぞれ丸みを帯びている。これによって、防曇性フィルム4は、情報取得領域3の車内側の面から剥がれにくいようになっている。なお、防曇性フィルム4を取り替える際の作業性を考慮して、4つの角部のうちの少なくとも1つの角部は尖っていてもよい。この尖っている角部により、防曇性フィルム4を剥がし易くすることができる。
【0158】
また、防曇性フィルム4の平面寸法は、情報取得領域3の平面寸法より大きく、遮蔽層2の開口部23の平面寸法より小さくなっている。例えば、防曇性フィルム4の平面寸法は、例えば、開口部23の平面寸法より垂直方向及び水平方向それぞれ2mmずつ小さくなるように設定されてよい。
【0159】
[情報取得領域及び視野領域]
次に、情報取得領域3及び視野領域5について説明する。遮蔽層2の面方向内側に配置される視野領域5には、遮蔽層2を構成する濃色のセラミックが積層されていない。そのため、視野領域5の光の透過率は、各ガラス板(11、12)及び中間膜13の光の透過率に基づいて定まる。
【0160】
一方、開口部23内に配置される情報取得領域3は、遮蔽層2を構成する濃色のセラミックが積層されていない点については視野領域5と同様であるが、光を散乱させる微粒子44を含む防曇性フィルム4が貼着している点で視野領域5と異なる。そのため、情報取得領域3の光の透過率は、各ガラス板(11、12)及び中間膜13に加えて、防曇性フィルム4の光の透過率に基づいて定まる。
【0161】
したがって、本実施形態に係る各ガラス板(11、12)及び中間膜13は、情報取得領域3及び視野領域5で、互いに光の透過率に差が生じないように、実質的に同じ光の透過率を有するように構成されてもよい。各ガラス板(11、12)及び中間膜13を実質的に同じ光の透過率を有するように構成しても、光の透過率を低下させるように構成された防曇性フィルム4を情報取得領域3に貼着していることにより、当該情報取得領域3は、視野領域5の光の透過率よりも低い光の透過率を有するように構成される。
【0162】
具体的には、本実施形態に係る情報取得領域3は、防曇性フィルム4の防曇層43に光を散乱させる微粒子44が添加されていることにより、視野領域5の光の透過率よりも低い光の透過率を有するように構成される。例えば、視野領域5は、各ガラス板(11、12)及び中間膜13の光の透過率を適宜調整することで、可視領域(380nm〜780nm)の光の透過率が70%以上になるように構成されてもよい。これに対して、情報取得領域3は、防曇性フィルム4の防曇層43に添加する微粒子44の量を適宜調節することで、可視領域の光の透過率が25%以上70%以下になるように構成されてもよい。
【0163】
また、防曇層43に微粒子44が添加されていることにより、情報取得領域3のヘイズ率は、視野領域5のヘイズ率よりも大きくなる。例えば、視野領域5は、各ガラス板(11、12)及び中間膜13のヘイズ率を適宜調節することで、ヘイズ率が0.6%以下となるように構成されてもよい。これに対して、情報取得領域3は、防曇性フィルム4の防曇層43に添加する微粒子44の量を適宜調節することで、ヘイズ率が0.6%以上20%以下となるように構成されてもよい。
【0164】
また、防曇層43には、微粒子44としてITO微粒子を添加可能である。ITO微粒子は、赤外線領域(800nm以上)の光を吸収することができる。そのため、微粒子44としてITO微粒子を添加した場合には、情報取得領域3は、視野領域5における赤外線領域の光の透過率よりも低い赤外線領域の光の透過率を有するように構成される。例えば、視野領域5は、各ガラス板(11、12)及び中間膜13の光の透過率を適宜調整することで、赤外線領域の光の透過率が15%以上60%以下になるように構成されてもよい。これに対して、情報取得領域3は、防曇性フィルム4の防曇層43に添加するITO微粒子(微粒子44)の量を適宜調節することで、波長1000〜2000nmの平均透過率が30%以下となるように構成されてもよい。
【0165】
[情報取得装置]
次に、カメラ8について説明する。カメラ8は、車内に配置される情報取得装置の一例である。カメラ8は、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary MOS)等のイメージセンサ及びレンズ系を備え、情報取得領域3を通して車外の状況を撮影可能に構成されている。カメラ8により取得された画像は、画像処理装置(不図示)に送られる。
【0166】
画像取得装置は、カメラ8により取得された画像に基づいて、被写体の種別等を解析する。例えば、被写体の種類は、パターン認識等の公知の画像解析方法によって推定することができる。画像処理装置は、そのような画像解析を行い、その結果をユーザ(運転者)に提示可能なように、記憶部、制御部、入出力部等を有するコンピュータとして構成される。このような画像処理装置は、提供されるサービス専用に設計された装置の他、PC(Personal Computer)、タブレット端末等の汎用の装置であってもよい。
【0167】
[ブラケット及びカバー]
次に、
図6A、
図6B及び
図7を更に用いて、上記カメラ8をウインドシールド100に付設するためのブラケット6及びカバー7について説明する。
図6Aは、本実施形態に係るブラケット6の車外側の状態を模式的に例示する。
図6Bは、本実施形態に係るブラケット6の車内側の状態を模式的に例示する。
図7は、本実施形態に係るカバー7を模式的に例示する。
【0168】
図6A及び
図6Bに例示されるように、本実施形態では、ブラケット6は、カメラ8を保持するカバー7が配置される取付開口61を有する矩形の枠状に形成されている。このブラケット6は、取付開口61を囲む矩形状の本体部62と、この本体部62の両側の辺に配置され、カバー7を固定するための支持部63とを備えている。
【0169】
図1及び
図2に示されるとおり、ブラケット6は、遮蔽層2の開口部23の周囲に配置されている。本体部62には、平坦面が形成されており、この平坦面には、接着剤64及び両面テープ65が取り付けられている。本体部62は、この接着剤64及び両面テープ65によって、遮蔽層2(突出部22)又はガラス板1に接着される。これによって、ブラケット6は、全体又は少なくとも部分的に遮蔽層2(突出部22)により遮蔽されるように固定される。
【0170】
接着剤64及び両面テープ65の種類は、特に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、接着剤64には、ウレタン樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤等の接着剤を利用することができる。また、両面テープ65には、公知の両面テープを利用することができる。
【0171】
なお、
図6Aに示される接着剤64及び両面テープ65の配置は、一例であり、この例に限定されなくてもよい。
【0172】
以上のとおり、このブラケット6は、接着剤64及び両面テープ65により、遮蔽層2の開口部23の周囲に固定される。そして、
図2に例示されるように、このブラケット6には、ハーネス(不図示)等が取り付けられた後に、カメラ8を保持するカバー7が車内側から取り付けられる。これにより、カメラ8は、ブラケット6、カバー7、及びガラス板1に囲まれた空間に収容される。
【0173】
図7に示されるとおり、カバー7は、矩形状に形成されており、ブラケット6の支持部63によって支持され、取付開口61を塞ぐように配置される。カバー7の筐体において、取付開口61を介してガラス板1と対向する面には、凹部71が形成されている。この凹部71は、上端が最も深く、下端側にいくにしたがって浅くなるように傾斜しており、上端の壁面72には、カメラ8のレンズ73が配置されている。レンズ73は、情報取得領域3(開口部23)に対応するように適宜位置合わせされている。
【0174】
そのため、このカバー7をブラケット6に取り付けることで、カメラ8は、ブラケット6及びカバー7に支持された状態で、情報取得領域3(開口部23)を介して車外の情報を取得することができるようになる。なお、取付開口61に外部から光が侵入すると、カメラ8の撮影に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、凹部71を囲むように、接着剤64、両面テープ65等の遮光部材を設けるのが好ましい。なお、ブラケット6及びカバー7は、公知の加工方法によって適宜作製可能である。
【0175】
§2 製造方法
次に、
図8を用いて、本実施形態に係るウインドシールド100の製造方法を説明する。
図8は、本実施形態に係るガラス板1の製造工程を模式的に例示する。なお、以下で説明するウインドシールド100の製造方法は一例に過ぎず、各ステップは可能な限り変更されてもよい。また、以下で説明する製造工程について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0176】
まず、第1ステップとして、
図8で例示される製造ラインにより、遮蔽層2を備えるガラス板1を製造する。
図8で例示される製造ラインは、リング状の成形型200と、この成形型200を搬送する搬送台201と、加熱炉202と、徐冷炉203と、を備えている。
【0177】
成形型200に載置される前に、平板状の各ガラス板(11、12)を用意し、用意した各ガラス板(11、12)を所定の形状に切断する。そして、内側ガラス板12の車内側の面(第4面)に、スクリーン印刷等によって、遮蔽層2を構成するセラミックを印刷(塗布)する。
【0178】
続いて、各領域に印刷したセラミックを適宜乾燥させる。セラミックを乾燥させた後、第2面と第3面とが向かい合うように、外側ガラス板11と内側ガラス板12とを上下に重ね合わせることで、平板状の合わせガラス10を形成する。そして、形成した平板状の合わせガラス10を成形型200に載置する。
【0179】
成形型200は、搬送台201上に配置されており、搬送台201は、成形型200に合わせガラス10を載置した状態で、加熱炉202及び徐冷炉203内を順に通過する。加熱炉202内で軟化点温度付近まで加熱されると、両ガラス板(11、12)は、自重によって周縁部よりも内側が下方に湾曲し、曲面状に成形される。続いて、両ガラス板(11、12)は、加熱炉202から徐冷炉203に搬入されて徐冷処理が行われ、その後、徐冷炉203から外部に搬出されて放冷される。
【0180】
このようにして、両ガラス板(11、12)が成形された後、両ガラス板(11、12)の間に中間膜13を挟み込むことで、両ガラス板(11、12)及び中間膜13の積層した積層体を作製する。この積層体をゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70〜110℃で予備接着する。予備接着の方法は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0181】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた積層体を、オートクレーブにより、例えば、8〜15気圧で、100〜150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で135℃の条件で本接着を行うことができる。以上の予備接着及び本接着を通して、中間膜13を挟んだ状態で各ガラス板(11、12)は接着される。これにより、開口部23を有する遮蔽層2が設けられた湾曲したガラス板1を製造することができる。
【0182】
次に、第2ステップとして、防曇性フィルム4を用意する。そして、用意した防曇性フィルム4を、情報取得領域3の車内側の面に押し付ける。例えば、スキージ等の器具を用いて、手動又は自動で、情報取得領域3の車内側の面に対して防曇性フィルム4を押し付ける。これにより、情報取得領域3の車内側の面に防曇性フィルム4貼着することができる。
【0183】
次に、第3ステップとして、カバー7を取り付けるためのブラケット6を用意する。そして、用意したブラケット6を、遮蔽層2の開口部23の周囲に配置して、接着剤64及び両面テープ65によって、遮蔽層2により少なくとも部分的に遮蔽されるように固定する。更に、カメラ8を保持するカバー7をブラケット6に取り付ける。これにより、カメラ8が付設され、かつ情報取得領域3に防曇性フィルム4が貼着したウインドシールド100を製造することができる。
【0184】
<特徴>
以上のとおり、本実施形態に係るウインドシールド100では、情報取得領域3は、視野領域5よりも光を透過しにくいように構成される。例えば、視野領域5の光の透過率が70%以上に設定されるのに対して、情報取得領域3の光の透過率は70%以下に設定される。また、例えば、視野領域5のヘイズ率が0.6%以下に設定されるのに対して、情報取得領域3のヘイズ率が0.6%以上に設定される。これにより、周りの物体(自動車等)からの反射、その他外部の環境によって、ウインドシールド100の車外側から強い光が入射しても、情報取得領域3により強い光を遮断し、車内側に配置されるカメラ8にまで強い光量のままで光が到達しないようにすることができる。したがって、本実施形態によれば、強い光が入射しても、カメラ8による車外の状況の撮影が阻害されにくい、すなわち、カメラ8がホワイトアウトを起こしにくいようにすることができる。
【0185】
また、本実施形態では、情報取得領域3の周囲に遮蔽層2(突出部22)が設けられ、かつ、ガラス板1、ブラケット6、及びカバー7により閉じた空間にカメラ8が収容されている。そのため、遮蔽層2、ブラケット6、及びカバー7により、情報取得領域3の周りの領域からの光の入射を遮ることができる。したがって、本実施形態によれば、車外から強い光が入射しても、カメラ8による車外の状況の撮影が更に阻害されにくいようにすることができる。
【0186】
また、本実施形態では、例えば、微粒子44としてITO微粒子を利用することで、情報取得領域3における赤外線領域の光の透過率を、視野領域5における赤外線領域の光の透過率よりも低くすることができる。そのため、情報取得領域3により赤外線領域の光を遮ることで、強い光量のままで赤外線領域の光がカメラ8にまで到達しないようすることができる。したがって、本実施形態によれば、カメラ8周辺が赤外線領域の光によって温められるのを抑制することができ、これによって、カメラ8が、高温になり、故障するのを防ぐことができる。
【0187】
なお、このように防曇性フィルム4に防眩効果の他、赤外光遮断効果を付加することは、更に次のような利点がある。すなわち、防眩効果と赤外光遮断効果とを別々のフィルムで実現する場合、情報取得領域3に複数枚のフィルムを貼着することになる。これにより、情報取得領域3に貼着するフィルムの総厚が大きくなってしまい、このフィルムを貼着した部分で大きな透視歪が発生し得る。また、複数枚のフィルムを貼着すると、このフィルムを貼着した部分でゴーストのような像が多数発生し得る。これらの原因により、複数枚のフィルムを貼着すると、カメラ8による車外状況の撮影が阻害されてしまう可能性がある。これに対して、上記実施形態では、1枚の防曇性フィルム4により、防眩効果及び赤外光遮断効果の両方を付与することができるため、このような事態を避けることができる。
【0188】
また、本実施形態では、微粒子44を添加することで、光の透過率を低下させるように構成した防曇性フィルム4を情報取得領域3に貼着することで、情報取得領域3の光の透過率を、視野領域5の光の透過率よりも低くしている。すなわち、各ガラス板(11、12)及び中間膜13は、情報取得領域3及び視野領域5の部分で実質的に同一の光の透過率を有してもよく、例えば、情報取得領域3の部分で光の透過率を低下させるような特別な加工を行わなくてもよい。したがって、本実施形態によれば、防曇性フィルム4を貼着するという簡単な工程で、情報取得領域3を視野領域5よりも光を透過しにくいようにすることができる。よって、強い光が入射してもカメラ8による撮影が阻害されにくいウインドシールド100を低コストで実現することができる。
【0189】
また、本実施形態では、防曇層43に微粒子44を添加することで、情報取得領域3の光の透過率を、視野領域5の光の透過率よりも低くしている。したがって、本実施形態によれば、防曇層43の防曇機能により情報取得領域3が曇るのを防ぎつつ、防曇層43に添加した微粒子44により、強い光が車外側から入射しても、カメラ8による撮影が阻害されにくいようにすることができる。よって、カメラ8による撮影に適した情報取得領域3を有するウインドシールド100を実現することができる。
【0190】
§3 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、上記ウインドシールド100の各構成要素に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記ウインドシールド100の各構成要素の形状及び大きさも、実施の形態に応じて適宜決定されてもよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。また、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。
【0191】
<3.1>
また、例えば、上記実施形態に係るウインドシールド100のガラス板1は、外側ガラス板11と内側ガラス板12とを中間膜13を介して互いに接合した合わせガラスとして構成されている。しかしながら、ガラス板1の種類は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。ガラス板1は、例えば、1枚であってもよい。更に、上記実施形態では、ガラス板1は、略台形状に形成されている。しかしながら、ガラス板1の形状は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0192】
また、例えば、上記実施形態では、ガラス板1は、自重曲げ成形によって、湾曲形状に形成されている。しかしながら、ガラス板1を成形する方法は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、ガラス板1は、公知のプレス成形によって、湾曲形状に形成されてもよい。
【0193】
<3.2>
また、例えば、上記実施形態では、情報取得装置として、カメラ8を用いている。しかしながら、情報取得装置は、光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得可能な装置であれば、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。また、車内に設置する情報取得装置の数は、1台に限定されなくてもよく、実施形態に応じて、適宜選択されてよい。情報取得装置は、例えば、立体視により被写体の位置を特定可能なステレオカメラ等であってよい。
【0194】
<3.3>
また、例えば、上記実施形態では、ブラケット6は枠状に形成され、このブラケット6に取り付け可能なようにカバー7は矩形状に形成されている。しかしながら、ブラケット6及びカバー7の形状は、情報取得装置を支持した上で遮蔽層2に固定可能であれば、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。また、ブラケット6には、複数の情報取得装置に対応するように、複数の開口が設けられていてもよい。また、ウインドシールド100に複数の情報取得装置を付設するため、ブラケット6及びカバー7の組を複数組用意し、用意した複数組のブラケット6及びカバー7をガラス板1に取り付けるようにしてもよい。
【0195】
<3.4>
また、例えば、
図9に例示されるように、情報取得領域3は、遮蔽層2に周囲を囲まれるのではなく、遮蔽層2に隣接するように配置されてもよい。
図9は、本変形例に係るウインドシールド100Bを例示する。
図9に例示されるウインドシールド100Bでは、遮蔽層2Bにおいて、突出部22及び開口部23が省略されており、情報取得領域3は、遮蔽層2B(周縁部21)の上端辺中央のやや下方に配置されている。このように、情報取得領域3は、少なくとも一辺が遮蔽層2に隣接するように配置されてもよい。なお、情報取得領域3は、視野領域5とは異なる範囲に設けられる。ただし、情報取得領域3は、運転者の視野範囲に入ってもよい。
【0196】
また、例えば、
図10に例示されるように、情報取得装置としてステレオカメラを車内に設置する等の場合には、情報取得領域3及び開口部23を複数個所に設けてもよい。
図10は、2つのカメラ(831、832)を備えるステレオカメラ83を付設可能なウインドシールド100Bを例示する。
図10に例示されるウインドシールド100Cでは、遮蔽層2Cは、左右方向にやや長い突出部22Cを有している。この突出部22Cには、ステレオカメラ83の各カメラ(831、832)の位置に対応して、開口部23Cが設けられている。これにより、各開口部23C内に適切に情報取得領域3Cが設定されている。このとき、
図10に示されるとおり、2つの情報取得領域3Cに別々に防曇性フィルム4を貼着してもよい。
【0197】
<3.5>
また、上記実施形態では、防曇性フィルム4の平面寸法は遮蔽層2の開口部23の平面寸法より小さくなっている。しかしながら、防曇性フィルム4の平面寸法は、このような例に限定されなくてもよく、開口部23の平面寸法より大きくなっていてもよい。また、例えば、上記実施形態では、防曇層43に微粒子44が添加されている。この微粒子44は、基材層42に添加されていてもよい。また、微粒子44が添加されるのではなく、その他の加工により、防曇性フィルム4は、光の透過率を低下させるように構成されていてもよい。なお、上記実施形態では、微粒子44としてITO微粒子を利用して、赤外光遮断効果を防曇層43に付与することができる。この赤外光遮断効果を付与する形態は、このような例に限定されなくてもよく、次のように構成してもよい。すなわち、基材層42及び防曇層43の一方に防眩効果を付与し、他方に赤外光遮断効果を付与するようにしてもよい。
【0198】
<3.6>
また、上記実施形態では、微粒子44を添加した防曇層43を有する防曇性フィルム4を情報取得領域3に貼着することで、情報取得領域3の光の透過率を視野領域5の光の透過率よりも低くしている。しかしながら、情報取得領域3の光の透過率を視野領域5の光の透過率よりも低くする方法は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0199】
例えば、光の透過率を低下させるように構成された、防曇性フィルム4以外のフィルム材を情報取得領域3に貼着することで、情報取得領域3の光の透過率を視野領域5の光の透過率よりも低くしてもよい。このようなフィルム材の一例として、上記防曇性フィルム4の防曇層43を省略し、微粒子44を基材層42に添加したフィルム材を挙げることができる。すなわち、光を散乱させる微粒子を添加した基材層と基材層の一方の面に積層した粘着層とを備えるフィルム材を情報取得領域3に貼着することで、情報取得領域3の光の透過率を視野領域5の光の透過率よりも低くしてもよい。
【0200】
また、例えば、
図11に例示されるように、フィルム材に依らずに、情報取得領域3の光の透過率を視野領域5の光の透過率よりも低くすることもできる。
図11は、本変形例に係るウインドシールド100Dを例示する。
図11で例示されるウインドシールド100Dでは、中間膜13Dは、情報取得領域3Dに対応する部分131とその他の部分とで異なる光の透過率を有するように構成されている。具体的には、部分131は、その他の部分よりも低い光の透過率を有するように構成されている。このような中間膜13Dは、光の透過率の低いシート材と光の透過率の高いシート材とを用意し、部分131の範囲に対応して両シートを切断して、切断した部分を入れ替えることで、作製することができる。このように、例えば、中間膜を加工することにより、情報取得領域の光の透過率を視野領域の光の透過率よりも低くすることができる。
【0201】
<3.7>
例えば、情報取得装置がカメラで構成される場合、カメラ側からの光がガラス板で反射しカメラ8へ入射することで、いわゆる映り込みが生じるおそれがある。これに対して、
図12に示すように、情報取得領域3の車内側の面に低反射膜を配置すると、車内側からの光がカメラに反射するのを抑制することができる。特に、カメラ8の周囲が上述したブラケッ6やカバー7で覆われていない場合には、情報取得領域3において、車内側からの光が反射しやすく、映り込みが生じやすい。そのため、このようなブラケット等が設けられていない構成で、情報処理領域3に低反射膜を設けることは特に有利である。そして、このような低反射膜を設けることで、情報取得領域3の光の透過率は、視野領域5の光の透過率よりも高くなる。
【0202】
また、低反射膜とともに、上述した防曇性フィルムを情報取得領域3に配置することもできる。これによって、車内からの光がカメラ側へ反射するのを抑制できるとともに、情報取得領域3における車外からの光の透過率を視野領域5の光の透過率よりも低くすることができる。
【0203】
低反射を実現するには、屈折率を調整することが挙げられる。すなわち、ガラス板の屈折率が約1.52、空気の屈折率が1であるため、主として、これらの間の屈折率を有する材料を低反射膜として、情報取得領域3に配置することができる。また、低反射膜の屈折率が、1〜1.52の間であれば、
図13に示すように、低反射膜の表面での反射光W1の波面と、ガラス板の表面での反射光W2の波面とが打ち消し合い、空気層からガラス板へ透過する光の透過量が増す。その結果、カメラ側への反射光を低減することができる。
【0204】
理想的には、低反射膜の膜厚がλ(可視光の波長)/4×(奇数)で、且つ低反射膜の屈折率が約1.23(ガラスの屈折率の1/2乗)であれば、低反射膜からの反射光を概ねなくすことができる。但し、これは理想であるため、このようなメカニズムを奏するのに近い材料や膜厚を採用することで、反射を低減することができる。
【0205】
なお、低反射膜の屈折率は、例えば、以下の方法により算出することができる。
ステップ1:低反射膜とは反対側の面、つまりガラス板の車外側の面に黒色ペイントを塗布し、この面での光の反射が反射量に影響を与えないように準備する。
ステップ2:分光光度計(例えば、UV−3100PC 島津製作所製)を用い、車内側からの入射光の入射角がほぼ垂直入射とみなせる角度で、波長550〜600nmの範囲の光の反射率を測定し、平均反射率Rを求める。
ステップ3:上記平均反射率Rから、以下のフレネルの式(式(1))に基づいて、屈折率を算出する。
【数1】
但し、n1は空気の屈折率(=1)、n2は低反射膜の屈折率
【0206】
以下、情報取得領域3に、低反射膜、または低反射膜を防曇性フィルムとともに配置する具体的な4つの態様について、説明する。
【0207】
<3.7−1>
はじめに、低反射膜の第1態様について説明する。第1態様では、低反射膜がポーラス構造を有している。すなわち、低反射膜の概ね全体に亘って空隙が形成されるため、これによって、屈折率を低減することができる。
【0208】
ポーラス構造を形成するには、例えば、シリカ微粒子とバインダとを含む膜により低反射膜を形成することができる。特に、シリカゲルや鎖状シリカ微粒子を使用することで、層内に空隙をもたらし、これによって、空隙がない場合よりも膜の屈折率を低下させることができる。また、空隙に水分が吸収することできるので防曇機能も期待できる。
【0209】
シリカ微粒子は、複数のシリカ微粒子が鎖状に凝集した鎖状シリカ微粒子を含んでいてもよい。鎖状シリカ微粒子の長さは、例えば60〜300nmである。鎖状シリカ微粒子を構成するシリカ微粒子の平均粒径は、例えば10〜200nmである。鎖状シリカ微粒子を有する低反射膜の屈折率は、限定されるわけではないが、例えば1.25〜1.40にまで低下させることができる。平均粒径は、走査型電子顕微鏡、必要があれば透過型電子顕微鏡、を用いて観察した50個の粒子の粒径の平均値により定めることができる。
【0210】
バインダは、シリカ微粒子を互いに、またシリカ微粒子とガラス板とを結合する役割を果たす。バインダは、酸化ケイ素を主成分、すなわち50質量%以上の成分、とすることが好ましく、必要に応じ、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の酸化ケイ素以外の酸化物を添加してもよい。バインダは、例えば加水分解可能な金属化合物、具体的には金属アルコキシドを原料として膜に導入することができる。
【0211】
低反射膜におけるシリカ微粒子とバインダとの比率は、質量基準で、例えば60:40〜95:5であり、好ましくは65:35〜85:15である。低反射膜の膜厚は、例えば40〜1000nm、好ましくは110〜180nmである。
【0212】
低反射膜は、例えば、シリカ微粒子、加水分解可能な金属化合物、加水分解触媒、水、有機溶媒、を混合した原料液から成膜することができる。加水分解触媒としては酸が、有機溶媒としては低級アルコールがそれぞれ適している。原料液を構成する各成分の比率は、例えば加水分解可能な金属化合物100質量部に対し、シリカ微粒子150〜1900質量部、水50〜10000質量部、加水分解触媒0.01〜200質量部、有機溶媒1000〜500000質量部である。
【0213】
原料液は、低反射膜を形成するべき表面に塗布し、加熱される。加熱温度は、例えば200℃以上、特に400℃以上が好適であり、1000℃以下であってもよい。加熱時間は、例えば30秒〜1時間である。こうして、ガラス板上に低反射膜が形成される。
【0214】
なお、低反射膜の表面に凹凸を形成すると、ヘイズ率が上昇するおそれがあったり、あるいは指紋が付着しやすいおそれがあるが、低反射膜が設けられるのは情報取得領域3であり、運転者が直接見る領域ではないので、このような状態が生じても特には問題にならない。
【0215】
また、空隙を形成するために、中空微粒子を混在させることもできる。このような中空微粒子は、例えば、シリカ微粒子により形成することができる。すなわち、中空のシリカ微粒子を用いることができる。このような中空微粒子の径は、例えば、50〜60nmとすることができる。
【0216】
あるいは、シリカ微粒子の代わりに、MgF
2微粒子を主成分とする微粒子を含有させることができる。ここで、微粒子が主成分としてMgF
2微粒子を含むとは、例えば、微粒子におけるMgF
2微粒子の含有率が95質量%以上であることをいう。なお、微粒子は、MgF
2微粒子を98質量%以上含むことが好ましく、MgF
2微粒子のみから構成されていてもよい。なお、MgF
2微粒子以外の微粒子をさらに含んでいてもよく、必要とする機能に応じて、種々の微粒子を含有させることができる。例えば、光触媒性能を付与するにはTiO
2微粒子など、紫外線カット機能を付与するにはZnO微粒子など、帯電防止機能を付与するにはSnO
2微粒子などを含有させることができる。
【0217】
MgF
2微粒子は、平均粒径が10〜30nmであることが好ましい。このような平均
粒径を有するMgF
2微粒子によれば、透明性の高いコーティングを形成することが可能
となる。ここで、微粒子の「平均粒径」とは、レーザー回折式粒度分布測定法により測定
した粒度分布において、体積累積が50%に相当する粒径(D50)を意味する。
【0218】
低反射膜に含まれるバインダは、例えば、主成分として無機酸化物を含む。ここで、バインダが主成分として無機酸化物を含むとは、バインダにおける無機酸化物の含有率が80質量%以上であることをいう。バインダは、無機酸化物を90質量%以上含むことが好ましく、無機酸化物のみから構成されていてもよい。バインダは、有機成分をさらに含んでいてもよい。また、バインダは、非晶質であってもよいし、結晶質であってもよい。
【0219】
バインダに含まれる無機酸化物は、Si、Al、Zr、Ti、Sn及びFeからなる群から選ばれる少なくともいずれか1種の金属の酸化物であってよい。例えば、無機酸化物がSiの酸化物からなっていてもよいし、Siの酸化物とAlの酸化物とからなっていてもよいし、Alの酸化物からなっていてもよい。バインダがSiの酸化物からなることにより、低反射率及び高透過率のコーティングが得られる。バインダがAlの酸化物からなることにより、高屈折率バインダであるが低反射率のコーティングが得られる。バインダがSiの酸化物とAlの酸化物とからなることにより、コーティングの耐摩耗性が向上する。
【0220】
バインダに含まれる無機酸化物がSiの酸化物とAlの酸化物とからなり、Siの酸化
物の含有量をSiO
2に換算し、かつAl酸化物の含有量をAl
2O
3に換算した場合、バ
インダに含まれる無機酸化物におけるSiO
2とAl
2O
3との質量比(SiO
2:Al
2O
3
)は、例えば99.5:0.5〜97:3であることが好ましい。SiO
2とAl
2O
3と
の質量比をこのような範囲とすることにより、透過率を向上させることができる。
【0221】
微粒子とバインダとの質量比(微粒子:バインダ)は、例えば95:5〜35:65とできる。微粒子とバインダとの質量比をこのような範囲内とすることにより、高透過率を維持しつつ、実用に耐えうる耐久性を有するコーティングが得られる。
【0222】
ところで、このような低反射膜とともに、防曇性フィルムをガラス板に配置することもできる。例えば、
図14に示すように、ガラス板1と低反射層9との間に防曇性フィルム4を配置することができる。上述したように、防曇性フィルム4は、基材42と、その上に配置される防曇層43とを有し、基材42が粘着層41によりガラス板1に貼付けられる。そして、低反射膜9はポーラス構造であるため、空気層からの水分は、空隙を有する低反射膜9を通過して防曇性フィルム4への移動が可能である。したがって、このような低反射膜9を設けることで、低反射機能と防曇機能との両立が可能となる。なお、低反射膜9がポーラス構造であると、ヘイズ率が上昇するおそれがあるが、低反射膜9が設けられるのは情報取得領域3であり、運転者が直接見る領域ではないので、このような状態が生じても特には問題にならない。
【0223】
<3.7−2>
次に、第2態様に係る低反射膜について説明する。
図15に示すように、この低反射膜9は、情報取得装置側を向く、表面に凹凸が形成されている。このような凹凸を有することで、屈折率を低減することができ、その結果、カメラ側からの光の反射を抑制し情報取得領域の透過率を向上させることができる。より詳細に説明すると、凹凸により、低反射膜の表面は、空気と低反射膜とが混在した状態になるため、見かけの屈折率が低減する。
【0224】
このような低反射膜は、可視光域の光の反射を抑制できる材料で形成されていれば特に制限はないが、例えば、第1態様と同様に、シリカ微粒子(例えば、コロイダルシリカ)とバインダとを含む膜を用いることができる。そして、シリカ微粒子とバインダとを含む低反射膜には、その表面にシリカ微粒子が露出し、これによって凹凸が形成されている。そして、低反射膜の表面部分において、凹凸が形成されている部分の膜厚は、例えば、50〜500nmとすることができる。特に、バインダの量を調整することで、表面から露出するシリカ微粒子の量を調整することができ、その結果、凹凸が形成されている部分の膜厚を調整することができる。いずれにしても、見かけの屈折率を低減するには凹凸が形成されている部分の膜厚が光の波長よりも小さくすることが好ましく、それの事を考慮して膜厚を調整すればよい。なお、この低反射膜9において、凹凸が形成されている部分が本発明の表面部を構成し、凹凸以外の部分が本発明の本体部を構成する。
【0225】
上述したように、シリカ微粒子の平均粒径は、例えば10〜200nmであるが、シリカ微粒子の大きさによって、凹凸の深さは変化する。例えば、シリカ微粒子の平均粒径が小さい場合には、
図16に示すように、多数のシリカ微粒子が積層されることで、上述した50〜500nmの深さの凹凸が形成される。
【0226】
なお、低反射膜の表面に凹凸を形成すると、ヘイズ率が上昇するおそれがあったり、あるいは指紋が付着しやすいおそれがあるが、低反射膜が設けられるのは情報取得領域3であり、運転者が直接見る領域ではないので、このような状態が生じても特には問題にならない。
【0227】
<3.7−3>
第3態様に係る低反射膜は、複数の層により構成されている。そして、複数の層の屈折率が1〜1.52の間であり、且つ、ガラス板に近い層の方が、屈折率が大きくなっている。例えば、
図17に示す例では、低反射膜9が2つの層により構成されている。ここでは、ガラス板に近い層を第1層91、遠い層を第2層92と称することとする。そして、第1層91の屈折率をn1、第2層92の屈折率をn2とすると、1(空気層)<n1<n2<1.52(ガラス板)を充足するようになっている。すなわち、このような低反射膜9を用いることで、ガラス板1から空気層にいくにしたがって、屈折率が徐々に低減していく。したがって、ガラス板1と空気層との間で、屈折率が急激に変化せず、徐々に変化するため、ガラス板1から情報取得装置への光の反射量を低減することができる。なお、低反射膜9を構成する層の数は特には限定されず、ガラス板側から空気層側へ屈折率が徐々に低下する3以上の層であってもよい。また、各層を構成する材料は特には限定されず、上記のような屈折率を示す材料であればよい。
【0228】
<3.7−4>
第4態様に係る低反射膜9も、複数の層により構成されている。但し、ガラス板1に最も近い第1層の屈折率はガラス板1の屈折率よりも大きく、この第1層と空気層との間の層の屈折率は第1層よりも小さくなっている。例えば、
図18に示す例では、ガラス板1に近い層である第1層901と、遠い層である第2層902とを有している。そして、第1層901の屈折率をm1、第2層902の屈折率をm2とすると、1(空気層)<m2<1.52(ガラス板)<m1を充足するようになっている。このような層構成であっても、ガラス板1から空気層への光の反射量を低減することができる。
【0229】
各層を構成する材料は特には限定されないが、第1層901としては、例えば、ITO等の透明導電膜を用いることができる。更には、酸化チタン(TiO
2)や酸化スズ(SnO
2)を含有する事で屈折率を高めることができる。このような透明導電膜の屈折率は、約1.6〜1.8である。また、第2層902としては、上述したシリカ微粒子を含有する層にすることができ、その屈折率は1.25〜1.40である。
【0230】
なお、低反射膜9を構成する層の数は特には限定されず、例えば、第1層901よりも屈折率の小さい第2層902を複数の層で構成することができる。但し、複数の第2層902は、ガラス板側から空気層側へ屈折率が徐々に低下するように構成されていることが好ましい。
【0231】
以上の第1〜第4態様では、液体を塗布することで、ガラス板に直接、低反射膜9を形成する態様について説明したが、例えば、防曇性フィルムのように、基材上に低反射膜9を形成した低反射フィルムを形成し、これを粘着層によりガラス板1に貼付けることもできる。また、基材と低反射膜9の間にプライマ層を設けて形成強度を高めてもよい。この場合、基材や粘着層は、防曇性フィルムと同様のものを用いることができる。
【0232】
特に、情報取得領域3は視野領域に影響を及ぼさないよう狭い領域であることが好ましいところ、低反射膜は情報取得領域3に配置されるので、そのような狭い領域に低反射膜を塗布するのは、容易ではない可能性もある。そこで、上記のような低反射フィルムを用いると、適当な大きさに形成した後、情報取得領域3に粘着層で貼付ければよいだけであるので、作業が簡単になる。
【0233】
なお、情報取得領域3以外の反射光が情報取得装置に入る場合も考えらえるが、少なくとも情報取得領域3に低反射膜が配置されていれば、当該領域の反射率を抑えることができる。また、遮蔽層2を設けておけば、情報取得領域3以外の反射光が情報取得装置に入ることを抑制できる。
【0234】
ところで、低反射膜は、車内側からの光の反射を低減し、カメラの映り込みを抑制するものであるが、これによって、ウインドシールドにおける光の透過率が向上する。しかしながら、光の透過率が向上すると、強い光が情報取得領域3を通じて情報取得装置に入射し、これによって不具合が生じる恐れもある。但し、上記の通り、情報取得装置がカメラである場合には、映り込み防止のため、情報取得領域3での低反射が求められるため、結果的に光の透過率が向上しても、低反射が実現されれば、実用には耐えうる。
【0235】
一方、視野領域については、透過率の上限値が極端に大きいと問題となる場合がある。例えば、ヘッドアップディスプレイとしての表示領域に情報を反射させる場合などである。また、視野領域の一部のみが極端に透過率が高いということも好ましくない。以上に鑑みると、視野領域には、低反射膜を配置しないことが好ましい。
【0236】
また、低反射膜を視野領域に配置しないことが好ましい理由は、ほかにもある。まず、ウインドシールドは、運転手が容易に触れる事ができるため、耐久性が求められるところ、そのようなウインドシールドに、例えば、表面に凹凸が形成された低反射膜を配置することは問題である。また、ポーラス構造の低反射膜はヘイズ率が大きいため、視野領域3には適さない。さらに、複数層の低反射膜をウインドシールドに配置する場合、例えば、スパッタなどの方法により低反射膜を配置する必要があるため、コストが高くなるという問題もある。よって、低反射膜は情報取得領域3にのみ配置することが好ましい。但し、視野領域5であっても、運転者の視野から離れた端部であれば、低反射膜を配置することもできる。
【0237】
<3.8>
ガラス板側から情報取得装置側への反射量を低減するには、上記のような低反射膜を設けるほか、防曇性フィルムに低反射機能を持たせることができる。例えば、上述した防曇性フィルム4が粘着層41、基材層42、及び防曇層43で構成されている場合、基材層42の屈折率をガラス板1よりも高くし、防曇層43の屈折率を基材42よりも低くすることができる。また、防曇層43の屈折率は、ガラス板1よりも低くすることが好ましい。このような屈折率を有する防曇性フィルム4を用いることで、上記低反射膜の第4形態と同様に光の反射率を低減することができる。
【0238】
この場合、基材層42の屈折率は、例えば、1.6以上とすることが好ましく、1.8以上とすることがさらに好ましく、2.0以上とすることが特に好ましい。る。このような基材としては、例えば、東洋紡績株式会社製「コスモシャインA4300」やルミラー(東レ株式会社製)を用いることができる。
【0239】
防曇層43の屈折率を1.45以下とすることが好ましく、1.40以下とすることがさらに好ましい。できる。このような防曇層としては、例えば、中空微粒子を含有させたものとすることができる。あるいは、上記低反射膜の第1態様と同様に、防曇層43の表面に凹凸を形成することもできる。
【0240】
なお、防曇層43は、複数の層で形成することもできる。例えば、
図19に示すように、基材層42上に2層の防曇層、つまり第1防曇層431、及び第2防曇層432をこの順で積層することができる。この場合、第1防曇層431の屈折率n1をガラス板の屈折率よりも大きくするとともに、第2防曇層432の屈折率n2を基材層42の屈折率より小さくするという調整を行うことができる。あるいは、第1防曇層431の屈折率n1をガラス板の屈折率よりも大きくするか、または、第2防曇層432の屈折率n2を基材層42の屈折率よりも小さくするか、のいずれかの調整を行うことができる。
【0241】
ここで、n1を大きくするには、第1防曇層431に五酸化タンタル(TaO
5)や金属微粒子(例えば、ジルコニアやチタニアや酸化ニオブゾル)を含有させる。一方、n2を小さくするには、第2防曇層432にシリカ微粒子や中空微粒子を含有させる。あるいは、第2防曇層432の表面を凹凸にする。
【0242】
また、防曇層43に光吸収物質を含有させることによっても、反射率を低減することができる。光吸収物質としては、例えば、Au,Agの微粒子、色素、顔料とすることができる。このような光吸収物質を含有させることで、防曇層43内を進む光が吸収されるため、防曇層43と基材層42との界面で反射した光が弱められ、反射率が低減される。
【実施例】
【0243】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0244】
ガラス板に、低反射膜をコーティングした実施例と、低反射膜を有さない比較例とを準備した。以下、ガラス板及びコーティング液について説明する。
【0245】
<ガラス板>
ガラス板は、日本板硝子株式会社製の通常のソーダライムシリケート組成のものを用い、厚みを3.2mm、大きさを200×300mmとした。このガラス板を、アルカリ溶液(アルカリ性洗浄液 LBC−1、レイボルド株式会社製)に浸漬して超音波洗浄機を用いて洗浄し、脱イオン水で水洗した。その後、常温で乾燥させて、実施例及び比較例で用いるガラス板とした。
【0246】
<コーティング液の調製>
シリカ微粒子分散液(クォートロンPL−7、平均粒径125nmの略球状の一次粒子、固形分濃度23重量%、扶桑化学工業株式会社製) 30.4質量部、
1−メトキシ−2−プロパノール(溶媒) 58.2質量部、
1N塩酸(加水分解触媒) 1質量部
を、撹拌混合し、さらに撹拌しながら
テトラエトキシシラン(正珪酸エチル、多摩化学工業株式会社製) 10.4重量部
を添加し、引き続き40℃に保温しながら8時間撹拌してテトラエトキシシランを加水分解し、原液Aを得た。
【0247】
原液Aにおいて、シリカ微粒子をSiO
2に換算した質量と、バインダに含まれる酸化ケイ素成分をSiO
2に換算した質量の比は、70:30であり、SiO
2に換算した固形分濃度は10wt%である。
【0248】
前述の原液A 70.0g、
3−メトキシ−1−プロパノール(溶媒) 30.0g、
を、撹拌混合し、コーティング液A1を得た。コーティング液A1において、ケイ素の酸化物(シリカ微粒子とテトラアルコキシシランに由来)をSiO
2に換算した固形分濃度は7.0wt%である。
【0249】
<低反射膜の形成>
実施例においては、ロールコーターを用い、前述のガラス板の透明導電膜が施されていない側の主表面にコーティング液A1を塗布した。なお、このとき塗布液の膜厚が1〜5μmになるようにした。次いでこのガラス板に塗布したコーティング液を、熱風で乾燥・硬化させた。この熱風乾燥は、ベルト搬送式の熱風乾燥装置を用い、熱風の設定温度を300℃、熱風吐出ノズルとガラス板との間の距離を5mm、搬送速度を0.5m/分に設定し、2回往復してノズルの下を4回通過させることで行なった。このとき、コーティング液が塗布されたガラス板が熱風に触れている時間は140秒であり、ガラス板のコーティング液が塗布されたガラス面における最高到達温度は199℃だった。乾燥・硬化後のガラス板は室温まで放冷し、ガラス板にコーティングを施した。
【0250】
<反射率の測定>
次に、上記実施例及び比較例に係るガラス板の反射率を測定した。ここでは、分光光度計(島津製作所、UV−3100)を用い、各ガラス板の主面の反射率曲線(反射スペクトル)を測定した。測定は、JIS K5602に準拠し、法線方向から光を入射させ、反射角8°の直接反射光を積分球に導入して行った。また、平均反射率は、波長380nm〜1200nmにおける反射率を測定した。なお、測定に際しては、ガラス板裏面(非測定面)に黒色塗料を塗布して裏面からの反射光を除き、基準鏡面反射体に基づく補正を行った。結果は、以下の通りである。
・実施例の平均反射率(550〜600nm):1.60%
・比較例の平均反射率(550〜600nm):4.58%
【0251】
したがって、実施例と比較例との平均反射率の差は、2.98%となった。また、実施例においては、平均反射率が1.60%であるので、上述した式(1)を用いると、見かけの屈折率が1.29となった。一方、比較例の屈折率は、1.54であった。したがって、実施例に係る屈折率は、比較例よりも大幅に低減していることが分かった。
【0252】
また、実施例に係るガラス板の断面を、FE−SEMを用いて観察したところ、
図20の写真を得た。同図に示すように、低反射膜には、表面に多数の凹凸が形成されていることが分かる。これにより、反射率を低減していると考えられる。