特許第6910085号(P6910085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6910085
(24)【登録日】2021年7月8日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】赤色蛍光体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/61 20060101AFI20210715BHJP
   C09K 11/74 20060101ALI20210715BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
   C09K11/61
   C09K11/74
   C09K11/08 G
   C09K11/08 A
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-46788(P2020-46788)
(22)【出願日】2020年3月17日
(65)【公開番号】特開2020-172633(P2020-172633A)
(43)【公開日】2020年10月22日
【審査請求日】2021年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2019-73863(P2019-73863)
(32)【優先日】2019年4月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162847
【氏名又は名称】ステラケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 浩明
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】荒川 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】西田 哲郎
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−186524(JP,A)
【文献】 特表2017−524775(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/005448(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/014392(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00− 11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(1)で表されるMn賦活複フッ化物と、ビスマスとを含み、
前記Mn賦活複フッ化物は粒子状であり、当該粒子状のMn賦活複フッ化物の表面の少なくとも一部を、前記ビスマスを含む被覆層で被覆する赤色蛍光体。
MF:Mn4+ (1)
(式中、前記Aはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を表し、前記Mはケイ素、ゲルマニウム、錫、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の元素を表す。)
【請求項2】
前記被覆層がビスマス単体及び/又はビスマス化合物からなる請求項に記載の赤色蛍光体。
【請求項3】
前記ビスマス化合物が、BiF、BiCl、BiBr、BiI、Bi、Bi、BiSe、BiSb、BiTe、Bi(OH)、(BiO)CO、BiOCl、BiPO、BiTi、Bi(WO、Bi(SO、BiOCHCOO、4BiNO(OH)・BiO(OH)、CBi、CBiO、C21BiO、C1533BiO、C3057BiO、C1210BiK14、CBi、及びC(OH)COBiO・HOからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項に記載の赤色蛍光体。
【請求項4】
前記ビスマスの含有量は、赤色蛍光体の全質量に対し0.01質量%〜15質量%の範囲である請求項1〜の何れか1項に記載の赤色蛍光体。
【請求項5】
前記Mn賦活複フッ化物に於ける前記Mnのモル比は、前記MとMnの合計モル数に対して0.005〜0.15の範囲である請求項1〜の何れか1項に記載の赤色蛍光体。
【請求項6】
以下の一般式(1)で表されるMn賦活複フッ化物に対し、ビスマスを含む処理液を接触させる工程を含む赤色蛍光体の製造方法。
MF:Mn4+ (1)
(式中、前記Aはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を表し、前記Mはケイ素、ゲルマニウム、錫、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の元素を表す。)
【請求項7】
前記処理液中に於ける前記ビスマスの含有量が、当該処理液の全質量に対し0.01質量%〜15質量%の範囲である請求項に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記処理液の溶媒が、水、有機溶媒、それらの混合溶媒、又はそれらの酸性溶媒である請求項又はに記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記酸性溶媒がフッ化水素を含む酸性溶媒であり、
前記フッ化水素を含む酸性溶媒と前記ビスマスとの混合比が、質量基準で30:1〜3500:1の範囲である請求項に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記フッ化水素を含む酸性溶媒に於ける当該フッ化水素の濃度が、酸性溶媒の全質量に対し1質量%〜70質量%の範囲である請求項に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記ビスマスが、Bi単体、BiF、BiCl、BiBr、BiI、Bi、Bi、BiSe、BiSb、BiTe、Bi(OH)、(BiO)CO、BiOCl、BiPO、BiTi、Bi(WO、Bi(SO、BiOCHCOO、4BiNO(OH)・BiO(OH)、CBi、CBiO、C21BiO、C1533BiO、C3057BiO、C1210BiK14、CBi、及びC(OH)COBiO・HOからなる群より選ばれる少なくとも1種として前記処理液に含まれる請求項10の何れか1項に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光及び青色光等の励起光により励起されて赤色光を発光する赤色蛍光体及びその製造方法に関する。より詳しくは、Mn(マンガン)賦活複フッ化物にビスマスを含有させることにより、光学特性、及び高温・高湿度環境下に於ける耐久性に優れた赤色蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色LED(Light Emitting Diode)は蛍光灯と比較してその寿命が長く、消費電力も低い。そのため、照明器具やディスプレイのバックライトとしての普及が急速に進んできた。市販の照明器具の白色LEDは、近紫外光から青色光までを発光する青色LEDと、それらの光で励起する黄色蛍光体とを組み合わせて構成されている。これにより、白色LEDは、青色LEDが発光する光と、黄色蛍光体が発光する光とを混色することで疑似白色光の照射を可能にしている。しかし、白色LEDが照射する擬似白色光には赤色光領域の発光成分が少なく、又は含まれていないため、擬似白色光は自然光(又は太陽光、黒体放射)と比較して演色性(前記自然光と比較して対象を視認したときに、その照明での色の見え方の特性を意味する。例えば、対象が照明に照らされたときに、自然光により照らされた場合と似た色の見え方であったとき、高い演色性を示す。)に劣るという問題がある。
【0003】
そのため、近紫外LEDが発する紫外光や、青色LEDが発する青色光により励起して、赤色光を発光する赤色蛍光体が必要とされている。その様な赤色蛍光体として、近年、遷移金属のMn4+イオンを発光中心として赤色光を発光するMn賦活複フッ化物(KSiF:Mn4+(KSF:Mn))からなる蛍光体組成物が開発され(例えば、特許文献1、2及び非特許文献1参照。)、その採用が急速に進んでいる。KSF:Mnは青色光の波長に励起帯を有し、600〜650nmの狭帯域に半値幅の狭い赤色の発光ピークを有している。
【0004】
KSF:Mnは、KSiF結晶が蛍光体のフレームワークを担い、SiF2−イオンが形成する六配位−八面体サイトのSi4+の位置に、Mn4+イオンが固溶することでMnF2−八面体サイトを形成し、発光中心として作用している。
【0005】
しかし、このKSF:Mnからなる赤色蛍光体は、高温・高湿度環境下で水や水蒸気等に接触することで粒子表面が黒ずむといった、実用上の問題が指摘されている。具体的には、赤色蛍光体の粒子表面に於いて、当該赤色蛍光体を構成する4価のマンガンイオンと水が反応することで二酸化マンガンが生成し、この二酸化マンガンが励起光の吸収及び蛍光の抑制を生じさせて、光学特性の劣化と、経時変化に於ける光学特性の低下(耐久性の低下)とを生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−528429号公報
【特許文献2】WO2015/093430号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.D.Nguyen, C.C.Lin, R.S.Liu、Angew. Chem. 54巻37号10862ページ(2015年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、光学特性及び高温・高湿度環境下での耐久性に優れた赤色蛍光体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る赤色蛍光体は、前記の課題を解決するために、以下の一般式(1)で表されるMn賦活複フッ化物と、ビスマスとを含むことを特徴とする。
【0010】
MF:Mn4+ (1)
(式中、前記Aはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を表し、前記Mはケイ素、ゲルマニウム、錫、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の元素を表す。)
【0011】
前記の構成に於いて、前記Mn賦活複フッ化物は粒子状であり、当該粒子状のMn賦活複フッ化物の表面の少なくとも一部に、前記ビスマスが存在するものとすることができる。
【0012】
また、前記の構成に於いて、前記粒子状のMn賦活複フッ化物の表面には被覆層が設けられており、前記被覆層は前記ビスマスを含むものであってもよい。
【0013】
さらに前記の構成に於いては、前記被覆層がビスマス単体及び/又はビスマス化合物からなることが好ましい。
【0014】
また、前記の構成に於いては、前記ビスマス化合物が、BiF、BiCl、BiBr、BiI、Bi、Bi、BiSe、BiSb、BiTe、Bi(OH)、(BiO)CO、BiOCl、BiPO、BiTi、Bi(WO、Bi(SO、BiOCHCOO、4BiNO(OH)・BiO(OH)、CBi、CBiO、C21BiO、C1533BiO、C3057BiO、C1210BiK14、CBi、及びC(OH)COBiO・HOからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
前記の構成に於いて、前記ビスマスの含有量は、赤色蛍光体の全質量に対し0.01質量%〜15質量%の範囲であることが好ましい。
【0016】
前記の構成に於いて、前記Mn賦活複フッ化物に於ける前記Mnのモル比は、前記MとMnの合計モル数に対して0.005〜0.15の範囲であることが好ましい。
【0017】
本発明の赤色蛍光体の製造方法は、前記の課題を解決するために、以下の一般式(1)で表されるMn賦活複フッ化物に対し、ビスマスを含む処理液を接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0018】
MF:Mn4+ (1)
(式中、前記Aはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を表し、前記Mはケイ素、ゲルマニウム、錫、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の元素を表す。)
【0019】
前記の構成に於いては、前記処理液中に於ける前記ビスマスの含有量が、当該処理液の全質量に対し0.01質量%〜15質量%の範囲であることが好ましい。
【0020】
前記の構成に於いては、前記処理液の溶媒が、水、有機溶媒、それらの混合溶媒、又はそれらの酸性溶媒であることが好ましい。
【0021】
前記の構成に於いては、前記酸性溶媒がフッ化水素を含む酸性溶媒であり、前記フッ化水素を含む酸性溶媒と前記ビスマスとの混合比が、質量基準で30:1〜3500:1の範囲であることが好ましい。
【0022】
前記の構成に於いては、前記フッ化水素を含む酸性溶媒に於ける当該フッ化水素の濃度が、酸性溶媒の全質量に対し1質量%〜70質量%の範囲であることが好ましい。
【0023】
前記の構成に於いては、前記ビスマスが、Bi単体、BiF、BiCl、BiBr、BiI、Bi、Bi、BiSe、BiSb、BiTe、Bi(OH)、(BiO)CO、BiOCl、BiPO、BiTi、Bi(WO、Bi(SO、BiOCHCOO、4BiNO(OH)・BiO(OH)、CBi、CBiO、C21BiO、C1533BiO、C3057BiO、C1210BiK14、CBi、及びC(OH)COBiO・HOからなる群より選ばれる少なくとも1種として前記処理液に含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べる様な効果を奏する。
即ち、本発明の赤色蛍光体によれば、Mn賦活複フッ化物の他にビスマスを含むことにより、Mn4+と水が反応して有色の二酸化マンガンが生成するのを低減し、又は防止する。その結果、二酸化マンガンによる励起光の吸収や蛍光の抑制を防止できるので、光学特性が良好で、高温・高湿度環境下での経時変化による光学特性の低下を低減し、耐久性に優れた赤色蛍光体を提供することができる。
【0025】
また、本発明の赤色蛍光体の製造方法によれば、Mn賦活複フッ化物に対し、ビスマスを含む処理液を接触させることで、ビスマスを含む赤色蛍光体を製造することが可能になる。その結果、光学特性が良好で、高温・高湿度環境下での経時変化による光学特性の低下を低減し、耐久性に優れた赤色蛍光体の製造を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(赤色蛍光体)
本実施の形態に係る赤色蛍光体について、以下に説明する。
本実施の形態に係る赤色蛍光体は、以下の一般式(1)で表されるMn賦活複フッ化物(以下、「Mn賦活複フッ化物」という場合がある。)と、ビスマスとを含む。
【0027】
MF:Mn4+ (1)
(式中、前記Aはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を表し、前記Mはケイ素、ゲルマニウム、錫、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の元素を表す。)
【0028】
本実施の形態の赤色蛍光体は単一の赤色蛍光体であってもよく、2種以上の赤色蛍光体の混合物であってもよい。
【0029】
前記Mn賦活複フッ化物を表す一般式AMF:Mn4+に於いて、「AMF」は赤色蛍光体の母体結晶の組成を表す。また、「Mn4+」は発光中心となる賦活イオンを表す。
【0030】
ここで、本明細書に於いて「賦活」とは、蛍光を発現させたりするために、母体結晶であるAMFに対して賦活剤であるMn4+を添加することを意味する。賦活された形態としては、Mn4+がAMFを構成する任意の原子と一部置換されている形態が挙げられる。本実施の形態の場合、Mn4+は母体結晶のMと置換していることが好ましい。
【0031】
一般式AMF:Mn4+で表されるMn賦活複フッ化物としては、具体的には、例えば、LiSiF:Mn4+、NaSiF:Mn4+、KSiF:Mn4+、RbSiF:Mn4+、CsSiF:Mn4+、LiGeF:Mn4+、NaGeF:Mn4+、KGeF:Mn4+、RbGeF:Mn4+、CsGeF:Mn4+、LiSnF:Mn4+、NaSnF:Mn4+、KSnF:Mn4+、RbSnF:Mn4+、CsSnF:Mn4+、LiTiF:Mn4+、NaTiF:Mn4+、KTiF:Mn4+、RbTiF:Mn4+、CsTiF:Mn4+、LiZrF:Mn4+、NaZrF:Mn4+、KZrF:Mn4+、RbZrF:Mn4+、CsZrF:Mn4+、LiHfF:Mn4+、NaHfF:Mn4+、KHfF:Mn4+、RbHfF:Mn4+、CsHfF:Mn4+等が挙げられる。これらのMn賦活複フッ化物のうち、入手の容易さ及び合成の容易さの観点からは、KSiF:Mn4+、KTiF:Mn4+、KGeF:Mn4+、NaSiF:Mn4+、NaTiF:Mn4+、NaGeF:Mn4+が好ましく、KSiF:Mn4+、KTiF:Mn4+がより好ましい。尚、Mn賦活複フッ化物は、各種の用途で要求される光学特性に応じて選定することが可能である。従って、例示したMn賦活複フッ化物に特に限定されるものではない。
【0032】
ここで、本明細書に於いて「光学特性」とは、赤色蛍光体等の吸収率及び内部量子効率等を意味する。「吸収率」とは、赤色蛍光体が励起光を吸収する効率を意味する。例えば、青色LEDから照射される励起光(波長449nm)の分光放射輝度のピーク値をEx1とし、赤色蛍光体が未吸収の励起光のピーク値をEx2としたとき、吸収率αは以下の数式(1)で表される。
吸収率α(%)=(Ex1−Ex2)/Ex1×100 (1)
【0033】
また、「内部量子効率」とは、赤色蛍光体が吸収した励起光を蛍光に変換する効率を意味する。例えば、青色LEDからの励起光(波長449nm)の照射下に於いて、赤色蛍光体の蛍光の分光放射輝度のピーク値をEx2としたとき、内部量子効率ηは以下の数式(2)で表される。
内部量子効率η(%)=Em/(Ex1−Ex2)×100 (2)
【0034】
Mn賦活複フッ化物は固体であり、さらには粒子状であることが好ましい。Mn賦活複フッ化物が粒子状である場合、その平均粒径は、励起光に対して、吸収及び変換よりも散乱する割合が大きくなり過ぎず、またLED装置に装着するために樹脂と混合する際等に不都合が生じない範囲であれば特に限定されない。
【0035】
前記Mnのモル比は、赤色蛍光体(又はMn賦活複フッ化物)中のMとMnの合計モル数に対して、0.005〜0.15の範囲であることが好ましく、0.01〜0.13の範囲であることがより好ましく、0.02〜0.12の範囲であることがさらに好ましく、0.03〜0.1の範囲であることが特に好ましい。前記モル比を0.005以上にすることにより、赤色蛍光体の良好な発光強度の維持が図れる。その一方、前記モル比を0.15以下にすることにより、赤色蛍光体の高温・高湿度環境下での耐久性が低下し過ぎるのを抑制することができる。
【0036】
尚、本明細書に於いて「耐久性」とは、高温・高湿度環境下に一定時間赤色蛍光体を保管した場合に、当該赤色蛍光体の初期の光学特性が維持される程度を意味する。光学特性の意味については前述の通りである。
【0037】
前記ビスマスは、Mn賦活複フッ化物の表面の少なくとも一部に存在していればよく、さらに、被覆層として表面の少なくとも一部を被覆しているのが好ましい。また、ビスマスはビスマス単体及び/又はビスマス化合物の形態で存在していてもよい。
【0038】
Mn賦活複フッ化物の表面に於いては、これを構成する4価のマンガンイオンが水と反応することで有色の二酸化マンガンが生成し、Mn賦活複フッ化物の粒子表面に黒ずみを生じさせると考えられている。高温、高湿度下ではこの黒ずみの発生が加速し、赤色蛍光体の光学特性の劣化、及び耐久性の低下を招来すると推測される。しかし、本実施の形態の赤色蛍光体であると、Mn賦活複フッ化物の表面の少なくとも一部にビスマスを存在させることで、4価のマンガンイオンが水と接触して反応するのを低減し、又は防止することができる。特に、Mn賦活複フッ化物の表面に被覆層としてビスマスが存在する場合は、水分や水蒸気が赤色蛍光体内に侵入するのを抑制し、これにより、高温・高湿度環境下での耐久性の向上及び光学特性の向上が図れる。
【0039】
二酸化マンガンの生成防止の観点からは、Mn賦活複フッ化物の全表面がビスマスを含む被覆層により被覆されていることが好ましい。しかし、Mn賦活複フッ化物の全表面を当該被覆層により被覆することは、製造コスト及び製造の容易性の観点から、工業的に適さない場合がある。Mn賦活複フッ化物の表面の一部にビスマスが存在する場合でも、高温・高湿度環境下での耐久性の改善と光学特性の向上が図れるため、必ずしもMn賦活複フッ化物の全表面を当該被覆層で被覆する必要はない。尚、被覆層による被覆の程度は、赤色蛍光体の用途及び当該用途に準じた要求性能に応じて適宜変更するのが好ましい。
【0040】
前記被覆層の膜厚としては、被覆層が被覆するMn賦活複フッ化物の領域に於いて、少なくとも、水との接触による光学特性及び高温・高湿度環境下での耐久性の向上が図れる程度であれば特に限定されない。
【0041】
前記ビスマス化合物としては、赤色蛍光体の光学特性に悪影響を及ぼさない限り特に限定されない。ビスマス化合物は、具体的には、例えば、BiF、BiCl、BiBr及びBiIからなるハロゲン化ビスマス(III)、Bi、Bi、BiSe、BiSb、BiTe、Bi(OH)、(BiO)CO、BiOCl、BiPO、BiTi、Bi(WO、Bi(SO、BiOCHCOO、4BiNO(OH)・BiO(OH)、CBi、CBiO、C21BiO、C1533BiO、C3057BiO、C1210BiK14、CBi、並びにC(OH)COBiO・HOからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらのビスマス化合物のうち、BiF、BiCl、BiBr及びBiIからなるハロゲン化ビスマス(III)、Bi、Bi、BiSe、BiSb、BiTe、Bi(OH)、(BiO)CO、BiOCl、BiPO、BiTi、Bi(WO、Bi(SO、4BiNO(OH)・BiO(OH)、並びにCBi等の無機ビスマス塩が好ましく、より好ましくはBiF及びBi(NOである。さらに、ビスマス化合物は、赤色蛍光体の高温・高湿度環境下での耐久性や光学特性を良好にするとの観点から、BiFであることが特に好ましい。
【0042】
前記ビスマスの含有量は、赤色蛍光体の全質量に対し、0.01質量%〜15質量%の範囲であることが好ましく、0.01質量%〜10質量%の範囲であることがより好ましく、0.05質量%〜10質量%の範囲であることがさらに好ましく、0.1質量%〜5質量%の範囲であることが特に好ましい。ビスマス化合物の含有量を0.01質量%以上にすることにより、赤色蛍光体の高温・高湿度環境下での耐久性を一層向上させることができる。その一方、ビスマス化合物の含有量を15質量%以下にすることにより、光学特性の低下を一層低減することができる。
【0043】
赤色蛍光体の(初期)吸収率は50%〜100%の範囲内が好ましく、55%〜100%の範囲内がより好ましく、60%〜100%の範囲内がさらに好ましい。吸収率を50%以上にすることにより、赤色蛍光体の光学特性を良好に維持することができる。特に本発明に於いては、高温・高湿度環境下で一定時間保管した後でも、赤色蛍光体による励起光の吸収の低下を抑制するため、良好な光学特性の維持が図れる。尚、前記吸収率の数値範囲は、赤色蛍光体の初期の吸収率の他、赤色蛍光体を高温・高湿度環境下で一定期間保管した後の吸収率についても当てはまる。吸収率の定義については、前述の通りである。
【0044】
赤色蛍光体の(初期)内部量子効率は、70%〜100%の範囲内が好ましく、75%〜100%の範囲内がより好ましく、80%〜100%の範囲内がさらに好ましい。内部量子効率を70%以上にすることにより、赤色蛍光体の発光効率が良好に維持することができる。尚、前記内部量子効率の数値範囲は、赤色蛍光体の初期の内部量子効率の他、赤色蛍光体を高温・高湿度環境下で一定期間保管した後の内部量子効率についても当てはまる。内部量子効率の定義については、前述の通りである。
【0045】
本実施の形態の赤色蛍光体は、例えば、青色光を光源とする白色LED用の赤色蛍光体として適している。本実施の形態の赤色蛍光体は、照明器具及び画像表示装置等の発光装置に好適に使用することができる。
【0046】
(赤色蛍光体の製造方法)
次に、本実施の形態に係る赤色蛍光体の製造方法について、以下に説明する。
本実施の形態の赤色蛍光体の製造方法は、前記一般式(1)で表されるMn賦活複フッ化物に対し、ビスマスを含む処理液を接触させる工程を少なくとも含む。この接触工程は、Mn賦活複フッ化物に、ビスマスを含む処理液を接触させることで、当該Mn賦活複フッ化物の表面改質(表面処理)を行うものであり、当該Mn賦活複フッ化物の表面の少なくとも一部にビスマスを存在させ、より好ましくはビスマスを含む被覆層の形成を可能にする。
【0047】
前記ビスマスを含む処理液は、ビスマス単体及び/又はビスマス化合物を含有する。ビスマスを含有する処理液に於いては、添加したビスマス単体及び/又はビスマス化合物の全てが完全に溶解している場合の他、一部が溶解せずに不溶分として存在していてもよい。
【0048】
前記ビスマス化合物としては、BiF、BiCl、BiBr及びBiIからなるハロゲン化ビスマス(III)、Bi、Bi、BiSe、BiSb、BiTe、Bi(OH)、(BiO)CO、BiOCl、BiPO、BiTi、Bi(WO、Bi(SO、BiOCHCOO、4BiNO(OH)・BiO(OH)、CBi、CBiO、C21BiO、C1533BiO、C3057BiO、C1210BiK14、CBi、並びにC(OH)COBiO・HOからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0049】
前記ビスマスを含む処理液の溶媒としては、水、有機溶媒、それらの混合溶媒、又はそれらの酸性溶媒が挙げられる。
【0050】
前記有機溶媒としては特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等が挙げられる。これらの有機溶媒のうち、入手の容易性や作業環境の簡便性の観点からは、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール及びイソブチルアルコールが好ましく、メチルアルコール及びエチルアルコールが特に好ましい。
【0051】
前記酸性溶媒はプロトンを有する酸を含んだ溶媒のことを意味する。プロトンを有する酸としては特に限定されず、例えば、フッ化水素、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。製造プロセスや赤色蛍光体の特性の観点からは、フッ化水素、硝酸が好ましく、フッ化水素が特に好ましい。
【0052】
前記処理液中に於けるビスマスの含有量は、当該処理液の全質量に対し、0.01質量%〜15質量%の範囲が好ましく、0.05質量%〜10質量%の範囲がより好ましく、0.1質量%〜5質量%の範囲が特に好ましい。ビスマスの含有量を15質量%以下にすることにより、赤色蛍光体の光学特性を良好に維持することができる。その一方、ビスマスの含有量を0.01質量%以上にすることにより、高温・高湿度環境下での赤色蛍光体の光学特性、及び耐久性を一層向上させることができる。
【0053】
ビスマスの含有量は、ビスマスを含む処理液を濾過したときの濾液を、原子吸光分光法又はICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)等の化学分析装置を用いることにより測定することができる。また、前記溶媒に添加したビスマスの質量と、ビスマスを含む処理液を濾過したときに濾紙上に残った溶解残(濾物)の質量との差分を、ビスマスを含む処理液中に溶解しているビスマスの含有量(濃度)として算定することもできる。
【0054】
処理液の溶媒として、フッ化水素を含む酸性溶媒、即ちフッ化水素酸又は当該フッ化水素酸と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、当該フッ化水素を含む酸性溶媒とビスマスとの混合比は、質量基準で30:1〜3500:1の範囲であることが好ましく、100:1〜3500:1の範囲であることがより好ましく、500:1〜1500:1の範囲であることが特に好ましい。前記混合比を3500:1以下にすることにより、処理液が廃液として排出される量を削減することができ、環境負荷の低減が可能になる。その一方、前記混合比を30:1以上にすることにより、処理液中でのビスマス単体及び/又はビスマス化合物の分散性を向上させ、Mn賦活複フッ化物の表面改質後、当該Mn賦活複フッ化物表面上にビスマス等が不均一に存在するのを防止することができる。
【0055】
また、フッ化水素を含む酸性溶媒に於けるフッ化水素の濃度は、当該酸性溶媒の全質量に対し、1質量%〜70質量%の範囲であることが好ましく、10質量%〜50質量%の範囲であることがより好ましく、20質量%〜40質量%であることが特に好ましい。フッ化水素の濃度を70質量%以下にすることにより、フッ化水素を含む酸性溶媒に対するMn賦活複フッ化物の溶解性が低下するのを抑制することができる。その一方、フッ化水素の濃度を1質量%以上にすることにより、処理液の使用量の増大を抑制し、生産性の向上を図ることができる。
【0056】
前記Mn賦活複フッ化物に、ビスマスを含む処理液を接触させる方法としては特に限定されず、例えば、処理液中に被処理物であるMn賦活複フッ化物を投入(浸漬)する方法や、処理液を噴霧する方法等が挙げられる。赤色蛍光体を工業的に製造するとの観点からは、処理液中にMn賦活複フッ化物を投入(浸漬)する方法が好ましい。Mn賦活複フッ化物の投入により、処理液中でMn賦活複フッ化物が分散した懸濁液が得られる。投入回数は特に限定されず、一度にMn賦活複フッ化物を処理液中に投入する場合の他、複数回にわたって投入を行ってもよい。
【0057】
処理液中にMn賦活複フッ化物を投入する際の当該処理液とMn賦活複フッ化物の質量比は特に限定されず、その後に行う撹拌や濾過に影響を与えない範囲で適宜調整することができる(撹拌及び濾過の詳細については後述する。)。但し、作業効率の観点からは、処理液とMn賦活複フッ化物の質量比は、100:1〜2:1の範囲が好ましく、10:1〜3:1の範囲がより好ましい。前記質量比を100:1以上にすることにより、処理するMn賦活複フッ化物の量が少なくなり過ぎて、赤色蛍光体の生産性が低下するのを抑制することができる。その一方、前記質量比を2:1以下にすることにより、処理液に対するMn賦活複フッ化物分散性が良く、ビスマス化合物を均一に付与することができる。
【0058】
前記Mn賦活複フッ化物と処理液の接触工程後、得られた懸濁液の撹拌を行う撹拌工程、懸濁液の固液分離工程、固液分離された固体の洗浄工程、及び洗浄後の固体の乾燥工程を順次行うのが好ましい。
【0059】
前記撹拌工程に於ける撹拌方法としては特に限定されず、公知の撹拌装置等を用いて行うことができる。懸濁液の攪拌時間は特に限定されず、製造設備の効率を踏まえて適宜調整することができる。撹拌速度についても特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0060】
前記固液分離工程は、撹拌工程後の懸濁液から、分散している固体粒子を分離する工程である。固液分離の方法としては特に限定されず、例えば、懸濁液を濾過する方法や、懸濁液を静置して分散している固体粒子を沈殿させ、その後デカンテーションを行う方法等が挙げられる。懸濁液の静置時間は特に限定されず、固体粒子が十分に沈殿できる程度であればよい。
【0061】
前記洗浄工程は、固液分離により得られるケーキを洗浄するために行われる。この洗浄工程では、水、有機溶媒、それらの混合溶媒、又はそれらの酸性溶媒を洗浄剤として用いることができる。洗浄時間や洗浄回数は特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。
【0062】
洗浄工程で用いる前記有機溶媒としては特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、アセトン等が挙げられる。入手の容易性や作業環境の簡便性の観点からは、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、アセトンが好ましく、エチルアルコール、イソプロピルアルコール及びアセトンが特に好ましい。
【0063】
また、洗浄工程で用いる前記酸性溶媒とは、プロトンを有する酸を含んだ溶液のことを意味する。プロトンを有する酸としては特に限定されず、例えば、フッ化水素、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。プロトンを有する酸の含有量は、酸性溶媒の全質量に対し、0.1質量%〜60質量%の範囲が好ましく、1質量%〜55質量%の範囲内がより好ましく、5質量%〜50質量%の範囲内が特に好ましい。
【0064】
前記乾燥工程は、洗浄工程後のケーキに対して行われる。これにより、ケーキに残存している処理液の溶媒分や、洗浄工程で使用した洗浄剤を留去することができる。乾燥方法としては特に限定されず、例えば、加熱乾燥や熱風乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の場合、窒素ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。乾燥温度は60℃〜200℃の範囲が好ましく、70℃〜150℃の範囲がより好ましく、80℃〜110℃の範囲が特に好ましい。乾燥温度を60℃以上にすることにより、乾燥効率を良好に維持することができる。また、不純物の残存を防止し、当該不純物の残存に起因する赤色蛍光体の光学特性の低下を抑制することができる。その一方、乾燥温度を200℃以下にすることにより、得られる赤色蛍光体が熱により劣化するのを防止することができる。また、加熱乾燥の場合、乾燥時間は0.5時間〜20時間の範囲が好ましく、2時間〜15時間の範囲がより好ましい。乾燥時間を0.5時間以上にすることにより、不純物が残存するのを防止し、当該不純物の残存に起因する赤色蛍光体の光学特性の低下を抑制することができる。その一方、乾燥時間を20時間以下にすることにより、赤色蛍光体の生産効率の低下を防止することができる。
【0065】
以上により、Mn賦活複フッ化物の表面の少なくとも一部にビスマスが存在する赤色蛍光体を製造することができる。尚、ビスマス単体及び/又はビスマス化合物がMn賦活複フッ化物の表面に析出するのは、前記撹拌工程に於いて懸濁液を撹拌する過程であると推測される。あるいは、表面に処理液が付着しているMn賦活複フッ化物を、前記乾燥工程で乾燥する過程に於いて、処理液の溶媒分が留去されることで、ビスマス単体及び/又はビスマス化合物がMn賦活複フッ化物の表面に析出すると推測される。
【0066】
また、ビスマスを含む処理液が、当該ビスマスの一部だけを溶解し、ビスマスの不溶分を含むものである場合、当該不溶分のビスマスがMn賦活複フッ化物の表面に単体として残存することがある。しかし、本発明ではその様な場合でも、赤色蛍光体の光学特性に悪影響を与えない限り、ビスマスの不溶分がMn賦活複フッ化物の表面に残存していてもよい。但し、ビスマスの不溶分の残存が赤色蛍光体の光学特性を低下させる等、好ましくない場合は、ビスマスが完全に溶解している処理液を用いたり、ビスマスの含有量を調整して不溶分が発生しない様にするのが好ましい。
【0067】
(その他の事項)
以上の説明に於いては、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は当該実施形態に限定されるものではなく、その他の様々な形態で実施可能である。
【0068】
例えば、以上の説明に於いては、赤色蛍光体の製造方法に関し、Mn賦活複フッ化物に、ビスマスを含む処理液を接触させる方法として、処理液中にMn賦活複フッ化物を投入する方法を挙げた。しかし、本発明はこの方法に限定されるものではない。例えば、前記処理液を被処理物であるMn賦活複フッ化物に噴霧する方法であってもよい。処理液の噴霧量は特に限定されず、適宜設定することができる。また、処理液のMn賦活複フッ化物への噴霧後は、Mn賦活複フッ化物の表面に残存している処理液の溶媒分を留去するのが好ましい。留去の方法としては特に限定されず、例えば、前述の乾燥工程を行うことができる。
【0069】
また、赤色蛍光体の原料であるMn賦活複フッ化物の製造方法については特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、Mn賦活複フッ化物の構成元素を含む化合物をフッ化水素酸溶液に溶解させてそれらを混合し、反応晶析させる方法(H.D.Nguyen, C.C.Lin, R.S.Liu、Angew. Chem. 54巻37号10862ページ(2015年)参照。)、Mn賦活複フッ化物の構成元素を含む化合物をフッ化水素酸溶液に全て溶解又は分散させ、さらに蒸発濃縮させて析出させる方法(特表2009−528429号公報参照。)、フッ化水素酸溶液にMn賦活複フッ化物の構成元素を含む化合物を順次溶解させ、これに固体のMn賦活複フッ化物のマンガン非含有構成元素の一つを添加し、KSiF:Mn4+の結晶を析出させ、濾過・乾燥させる方法(WO2015/093430号参照。)等が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(Mn賦活複フッ化物の生成)
H.D.Nguyen, C.C.Lin, R.S.Liu、Angew. Chem. 54巻37号10862ページ(2015年)に記載されている方法に準拠し、以下の方法でMn賦活複フッ化物を合成した。
【0072】
先ず、内容積が0.1LのPFA容器に、48質量%フッ化水素酸溶液35mlを投入した。次に、フッ化水素酸溶液を撹拌しながら、1.2gのSiOを添加して溶解させた。さらに、この溶液に0.3gのKMnFを添加して溶解させた。
【0073】
続いて、3.5gのKFを前記溶液に15分間かけてゆっくり添加し、結晶物を得た。この結晶物を20質量%フッ化水素酸溶液とアセトンで洗浄した後、70℃で6時間乾燥させた。これにより、Mn賦活複フッ化物としてのKSiF:Mn4+を得た。
【0074】
(実施例1)
フッ化ビスマス(BiF)0.15gを、濃度43質量%フッ化水素酸16.6mlに添加し、5分間撹拌して懸濁液を調製した(フッ化水素酸:ビスマス=1408:1(質量基準の混合比))。次に、この懸濁液を撹拌しながら、前記KSiF:Mn4+を5.3g添加し、さらに10分間撹拌した。
【0075】
撹拌終了後、懸濁液を10分間静置し、分散している固体を沈殿させた。その後、吸引濾過をして濾物を回収した。さらに、この濾物にエタノールを加えた後、再び吸引濾過をして上澄みを除去し、この操作を繰り返して濾物の洗浄を行った。洗浄した濾物を回収し、窒素雰囲気下、乾燥温度105℃で乾燥してエタノールを蒸発させた。これにより、実施例1に係る赤色蛍光体を作製した。
【0076】
(実施例2)
本実施例では、フッ化ビスマスの添加量を0.15gから0.05gに変更した(フッ化水素酸:ビスマス=423:1(質量基準の混合比))。それ以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る赤色蛍光体を作製した。
【0077】
(実施例3)
本実施例では、フッ化ビスマスの添加量を0.15gから0.015gに変更した(フッ化水素酸:ビスマス=141:1(質量基準の混合比))。それ以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る赤色蛍光体を作製した。
【0078】
(実施例4)
本実施例では、フッ化ビスマスの添加量を0.15gから0.60gに変更した(フッ化水素酸:ビスマス=35:1(質量基準の混合比))。それ以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る赤色蛍光体を作製した。
【0079】
(実施例5)
本実施例では、フッ化ビスマスの添加量を0.15gから0.90gに変更し、濃度43質量%フッ化水素酸の量を16.6mlから21.5mlに変更した(フッ化水素酸:ビスマス=30:1(質量基準の混合比))。それ以外は実施例1と同様にして、実施例5に係る赤色蛍光体を作製した。
【0080】
(実施例6)
本実施例では、フッ化ビスマスを濃度40質量%硝酸ビスマス水溶液に変更し、添加量を0.15gから0.56gに変更した(フッ化水素酸:ビスマス=140:1(質量基準の混合比))。それら以外は実施例1と同様にして、実施例6に係る赤色蛍光体を作製した。
【0081】
(実施例7)
本実施例では、フッ化水素酸の濃度を43質量%から35質量%に変更し、フッ化ビスマスの添加量を0.15gから0.015gに変更した(フッ化水素酸:ビスマス=1408:1(質量基準の混合比))。それら以外は実施例1と同様にして、実施例7に係る赤色蛍光体を作製した。
【0082】
(比較例1)
本比較例では、前述のKSiF:Mn4+を赤色蛍光体として用いた。
【0083】
(赤色蛍光体の評価)
実施例1〜7及び比較例1に係る赤色蛍光体について、以下に述べる方法で各評価を行った。
【0084】
<Mnのモル比、及びビスマスの含有量>
実施例1〜7及び比較例1の赤色蛍光体のマンガン濃度、及びビスマス含有量は、エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X−ray spectrometry:EDX)により測定した。EDX測定とは、X線をサンプルに照射した際に発生する蛍光X線を測定し、サンプルを構成する元素と濃度を分析する測定方法である。
【0085】
実施例1〜7及び比較例1の各赤色蛍光体を、それぞれEDX測定装置の試料台に載せ、マンガン濃度とビスマス含有量を算出した。EDX測定装置としては、JSF−7800Fショットキー電界放出形走査電子顕微鏡(商品名、日本電子(株)製)を用いた。また、測定条件は、加速電圧:15kV、照射電流:1.0000nA、エネルギー範囲:0−20keVとした。
【0086】
測定の結果、赤色蛍光体中のSi及びMnの合計モル数に対するMnのモル比(Mn/(Si+Mn))は、実施例1〜7の赤色蛍光体の場合、それぞれ0.054、0.054、0.055、0.054、0.054、0.055、0.055であり、比較例1の赤色蛍光体の場合、0.055であった。
【0087】
また、ビスマスの含有量は、実施例1〜7の赤色蛍光体の場合、それぞれ4.1wt%、1.3wt%、0.4wt%、10.7wt%、14.9wt%、4.0wt%、0.4wt%であり、比較例1の赤色蛍光体の場合、検出限界(0.01wt%)以下であった。
【0088】
<赤色蛍光体の光学特性の評価>
実施例1〜7及び比較例1の各赤色蛍光体の光学特性を評価するため、それぞれの吸収率と内部量子効率を求めた。
【0089】
吸収率及び内部量子効率は、青色のLEDスポット照明(商品名:TSPA22X8−57B、アズワン社製)と、分光放射計(商品名:SR−UL2、トプコン社製)を用いて測定した。即ち、試料ステージに励起光をほぼ100%反射する白板(BaSO、日本分光(株)製)をセットして、励起光(波長:449nm)の分光放射輝度を測定し、そのピーク値(Ex1)を算出した。
【0090】
続いて試料ステージの凹部に、実施例1〜7又は比較例1の何れかの赤色蛍光体の試料を詰め込み、励起光照射下での蛍光の分光放射輝度ピーク値(Em)と、未吸収分の励起光ピーク値(Ex2)をそれぞれ測定した。
【0091】
実施例1〜7及び比較例1の各赤色蛍光体による吸収率αは、以下の数式(1)を用いて算出した。結果を表1に示す。
吸収率α(%)=(Ex1−Ex2)/Ex1×100 (1)
【0092】
また、実施例1〜7及び比較例1の各赤色蛍光体の内部量子効率ηは、以下の数式(2)を用いて算出した。結果を表1に示す。
内部量子効率η(%)=Em/(Ex1−Ex2)×100 (2)
【0093】
<赤色蛍光体の耐久性の評価>
耐久性試験は、以下の様にして行った。先ず、実施例1〜7又は比較例1の赤色蛍光体0.3gをそれぞれPFAトレーに入れ、温度80℃、相対湿度80%に制御した恒温恒湿器の中にセットし、88時間保管した。その後、前述の方法により吸収率α及び内部量子効率ηをそれぞれ求めた。さらに、温度80℃、相対湿度80%の環境下で、各赤色蛍光体を168時間保管した後の吸収率α及び内部量子効率ηについても求めた。
【0094】
さらに、以下の数式(3)に基づき、各赤色蛍光体の耐久試験前後での内部量子効率の値から、赤色蛍光体の高温・高湿度環境下に於ける耐久性の指標を算出した。結果を表1に示す。
(耐久性の指標)=(耐久試験後の内部量子効率)/(耐久試験前の内部量子効率)×100 (3)
尚、数式(3)中の「耐久試験後」とは、温度80℃、相対湿度80%の環境下で88時間保管した後の場合と、168時間保管した後の場合とを意味する。
【0095】
(結果)
表1に示される様に、フッ化ビスマスを含む処理液で表面処理を行った実施例1〜7の赤色蛍光体では、ビスマスの含有が確認された。また、実施例1〜7の赤色蛍光体は、表面処理を行っていない比較例1の赤色蛍光体と比べて、高温・高湿度環境下での耐久性が改善されていることが認められた。
【0096】
【表1】