特許第6910406号(P6910406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6910406特に内部酸化用の、Nb3Sn含有超伝導ワイヤを製造するためのモノフィラメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6910406
(24)【登録日】2021年7月8日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】特に内部酸化用の、Nb3Sn含有超伝導ワイヤを製造するためのモノフィラメント
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/04 20060101AFI20210715BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20210715BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20210715BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20210715BHJP
   H01B 12/10 20060101ALI20210715BHJP
   C01G 19/02 20060101ALN20210715BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20210715BHJP
【FI】
   H01B12/04
   B22F1/00 R
   B22F1/00 C
   C22C27/02 102A
   C22C1/05 E
   H01B12/10
   !C01G19/02 B
   !C22C9/00
【請求項の数】28
【外国語出願】
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-190066(P2019-190066)
(22)【出願日】2019年10月17日
(65)【公開番号】特開2020-98768(P2020-98768A)
(43)【公開日】2020年6月25日
【審査請求日】2020年2月3日
(31)【優先権主張番号】10 2018 126 760.6
(32)【優先日】2018年10月26日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516057440
【氏名又は名称】ブルーカー エーアーエス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Bruker EAS GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】カール ビューラー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィタル アバッシェルリ
(72)【発明者】
【氏名】ベルント ザイラー
(72)【発明者】
【氏名】クラウス シュレンガ
(72)【発明者】
【氏名】マンフレッド トエナー
(72)【発明者】
【氏名】マテウス ヴァニオア
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/175064(WO,A2)
【文献】 特開平04−138627(JP,A)
【文献】 特表2010−535414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/04
B22F 1/00
C22C 1/05
C22C 27/02
H01B 12/10
C01G 19/02
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノフィラメント(100)が、
−Sn含有粉末を含む粉末コア(1)と、
−Nbと少なくとも一つの合金成分Xとを含むNb合金からなる反応管(3)とを備え、
前記粉末コア(1)は、前記反応管(3)内に配置されていて、
前記モノフィラメント(100)内にさらに、少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソース(4)が含まれていて、
それぞれのソース(4)は、前記モノフィラメント(100)内で均一な半径方向位置に一つまたは複数のソース構造を含み、
前記合金成分Xと前記パートナー成分Pkとは、前記モノフィラメント(100)のアニーリング反応に、析出物XPkを形成することができるように選択されていて、前記アニーリング反応に、前記粉末コア(1)からのSnと前記反応管(3)からのNbとが反応してNbSnとなる、
NbSn含有超伝導ワイヤ(33)を製造するためのモノフィラメント(100)において、
前記粉末コア(1)は緩和管(2)内に配置されていて、かつ前記緩和管(2)は前記反応管(3)内に配置されていることを特徴とする、NbSn含有超伝導ワイヤ(33)を製造するためのモノフィラメント(100)。
【請求項2】
前記モノフィラメント(100)内に、少なくとも一つのパートナー成分Pk用に、異なる方向で放射状に配置された少なくとも二つのソース(4)が含まれていることを特徴とする、請求項1記載のモノフィラメント(100)。
【請求項3】
前記緩和管(2)は、完全にまたは部分的に、CuもしくはCu合金またはAgもしくはAg合金またはSnもしくはSn合金またはNbもしくはNb合金から作成されていることを特徴とする、請求項1または2記載のモノフィラメント(100)。
【請求項4】
前記少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソース(4)は粉末を含むことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項5】
前記少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソース(4)は、粉末コア(1)内に含まれる粉末を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項6】
前記粉末コア(1)内に含まれる粉末を有するソース(4)は、パートナー成分Pkとして酸素を含み、かつ前記緩和管(2)は、CuまたはCu合金から作成されていることを特徴とする、請求項5記載のモノフィラメント(100)。
【請求項7】
前記緩和管(2)の壁厚WMは、
WM≦0.075*DPおよび/またはWM≦0.2*WR
[式中、DPは、前記粉末コア(1)の直径であり、かつWRは、前記反応管(3)の壁厚である]となるように選択されることを特徴とする、請求項5または6記載のモノフィラメント(100)。
【請求項8】
前記粉末コア(1)は、Cu、Agおよび/またはSnを含み、特に単体のCu、Agおよび/またはSnを含むことを特徴とする、請求項5から7までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項9】
前記少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソース(4)は、環状ソース(4)を含み、前記緩和管(2)は、前記環状ソース(4)内で放射状に配置されていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項10】
前記環状ソース(4)は、取り囲む粉末層(6)内に粉末を有することを特徴とする、請求項9記載のモノフィラメント(100)。
【請求項11】
前記環状ソース(4)は、環状に配置されたソース小管(14)またはソースポケット(12)の粉末充填物(13)内に粉末を含み、前記ソースポケット(12)は、前記モノフィラメント(100)の、前記環状ソース(4)に隣接する構造内に構成されていることを特徴とする、請求項9記載のモノフィラメント(100)。
【請求項12】
前記粉末層(6)または前記粉末充填物(13)は、金属粉末を含み、
特に前記金属粉末は、単体の銅もしくはCu合金またはAgもしくはAg合金を含むことを特徴とする、請求項10または11記載のモノフィラメント(100)。
【請求項13】
前記環状ソース(4)は、モノフィラメント(100)の、前記環状ソース(4)に隣接する構造の取り囲むコーティング(10)を含み、特に前記隣接する構造は、前記反応管(3)または前記緩和管(2)であることを特徴とする、請求項9記載のモノフィラメント(100)。
【請求項14】
前記反応管(3)は、前記環状ソース(4)内で放射状に配置されていて、特に前記環状ソース(4)は、前記反応管(3)の外側を直接取り囲むことを特徴とする、請求項9から13までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項15】
前記モノフィラメント(100)は、補助反応管(9)を備え、前記補助反応管(9)はNbを含み、
特に前記補助反応管(9)は、さらに少なくとも一つの別の合金成分Xも含み、
かつ前記環状ソース(4)は、前記補助反応管(9)内で放射状に配置されていて、
特に前記補助反応管(9)は、前記環状ソース(4)の外側を直接取り囲むことを特徴とする、請求項14記載のモノフィラメント(100)。
【請求項16】
前記環状ソース(4)は、前記緩和管(2)の半径方向で外側にかつ前記反応管(3)内で放射状に配置されていることを特徴とする、請求項9から13までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項17】
前記モノフィラメント(100)は、さらに補助緩和管(7)を備え、
かつ前記環状ソース(4)は、前記補助緩和管(7)内で放射状に配置されていて、かつ前記補助緩和管(7)は、前記反応管(3)内で放射状に配置されていて、
特に前記補助緩和管(7)は、前記環状ソース(4)の外側を直接取り囲むことを特徴とする、請求項16記載のモノフィラメント(100)。
【請求項18】
前記少なくとも一つのソース(4)は、前記少なくとも一つのパートナー成分Pkの一つのパートナー成分Pkを含む化合物を有し、前記化合物は、熱せられて、第一の温度T1で、前記パートナー成分Pkと第一の残余化合物とに分解し、前記第一の残余化合物は、さらにまた、前記パートナー成分Pkを、前記化合物よりも低い化学量論的割合で含み、かつ更に熱せられて、T2>T1の第二の温度T2で、前記第一の残余化合物は、前記パートナー成分Pkと第二の残余化合物とに分解することを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項19】
前記少なくとも一つのソース(4)は、少なくとも二つの異なるパートナー成分Pkを含み、前記少なくとも二つの異なるパートナー成分は、アニーリング反応に、少なくとも一つの別の合金成分Xと異なる種類の析出物XPkを形成することができ、
特に前記反応管(3)は、少なくとも二つの異なる別の合金元素Xを含み、かつ前記異なるパートナー成分Pkはそれぞれ、他方の異なる別の合金成分Xと、それぞれ異なる析出物XPkを形成することを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項20】
前記少なくとも一つのソース(4)は、それぞれ同じパートナー成分Pkを含む第一の化合物と第二の化合物とを含み、熱せられて、前記第一の化合物は、前記パートナー成分Pkを、第二の化合物よりも低い温度で放出することを特徴とする、請求項1から19までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項21】
前記少なくとも一つのパートナー成分Pkは酸素を含み、かつ前記少なくとも一つの合金成分Xは、Nbよりも卑の金属を含むことを特徴とする、請求項1から20までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項22】
前記少なくとも一つのパートナー成分Pk用のソース(4)は、金属酸化物を含む粉末を有し、特に前記金属酸化物は、SnO、SnO、CuO、CuO、AgO、AgO、Ag、Na、CaO、ZnO、MgO、NbOまたはNbであることを特徴とする、請求項21記載のモノフィラメント(100)。
【請求項23】
少なくとも一つの合金成分Xは、元素のMg、Al、V、Zr、Ti、GdまたはHfの一つまたは複数を含むことを特徴とする、請求項21または22記載のモノフィラメント(100)。
【請求項24】
前記析出物XPkは、非酸化物系析出物を含み、特にもっぱら非酸化物系析出物であることを特徴とする、請求項1から23までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項25】
前記析出物は非金属系析出物を含み、特にもっぱら非金属系析出物を含むことを特徴とする、請求項1から24までのいずれか1項記載のモノフィラメント(100)。
【請求項26】
前記少なくとも一つのパートナー成分Pkは硫黄を含み、かつ前記少なくとも一つの合金成分Xは亜鉛を含むことを特徴とする、請求項25記載のモノフィラメント(100)。
【請求項27】
前記少なくとも一つのパートナー成分Pkは、ケイ素、炭素またはハロゲンを含むことを特徴とする、請求項25または26記載のモノフィラメント(100)。
【請求項28】
請求項1から27までのいずれか1項記載の複数の前記モノフィラメント(100)を、一段階または多段階で束ね、かつ変形し、それによりワイヤ半製品(22)を得て、
かつ前記ワイヤ半製品(22)を所望の形状にもたらし、特に巻き付けられ、かつアニーリング反応に供し、前記少なくとも一つの合金成分Xと前記少なくとも一つのパートナー成分Pkとから析出物XPkを形成し、かつ反応管(3)のNbと粉末コア(1)のSnからNbSnを形成する、超伝導ワイヤ(33)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノフィラメントが、
−Sn含有粉末を含む粉末コアと、
−Nbと少なくとも一つの他の合金成分Xとを含むNb合金からなる反応管とを備え、
粉末コアは、反応管内に配置されていて、
モノフィラメント内には、さらに、少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソースQが含まれていて、
それぞれのソースQは、モノフィラメント内で一様な放射状に一つまたは複数のソース構造を有し、
合金成分Xとパートナー成分Pkとは、粉末コアからのSnと反応管からのNbとが反応してNbSnになる、モノフィラメントのアニーリング反応において、析出物XPkを形成することができるように選択されている
NbSn含有超伝導ワイヤを製造するためのモノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
このようなモノフィラメントは、国際公開第2015/175064号(A2)から公知となっている。
【0003】
超伝導体材料は、電流を損失なしで流すことができ、これは、例えば超伝導コイルを用いた強磁場の生成など、多様な工業用途で利用することができる。工業用途で頻繁に使用される超伝導体材料の一つは、NbSnである。超伝導性のNbSn含有ワイヤを製造するには、一般的には、NbとSnとを含むワイヤ半製品を製造し、技術的な用途に適した形状にした後、アニーリング反応を行う。これにより、超伝導性のNbSn相が生成される。ワイヤ半製品は、異なる様々なタイプ、特にチューブタイプワイヤ半製品と呼ばれるものや、パウダー・イン・チューブワイヤ半製品、ロッド・リスタック・プロセスワイヤ半製品(後者については例えば米国特許第7,585,377号明細書(B2)参照)などに分類される。一部のアニーリング反応における製造方法およびプロセスは、ワイヤ半製品のタイプによって、極めて異なる場合がある。
【0004】
NbSn含有ワイヤの超伝導電流負荷容量は、特にNbSn相の組織に依存する。平均粒径が小さいため、比較的微細な組織により、超伝導電流負荷容量が増える。アニーリング反応に銅のような特定元素を添加することによって、NbSn相が形成される温度まで下げるなど、比較的微細な組織を築くための様々な方法が知られている。
【0005】
NbSn相のより微細な組織を得るための別の方法は、いわゆる内部酸化(internal oxidation)である。この内部酸化の場合、熱処理の際に酸化物系析出物が生成される。これらの酸化系析出物が、NbSnの相形成において核生成シードとして機能し、これにより微細なNbSn組織が生じる。さらには、これらの析出物は、熱処理中のNbSn相の結晶粒成長を阻害し得る。結果として、より小さな粒度が生じることにより、相応する超伝導ワイヤ部で改善された電流負荷容量を得ることができる(例えば、A.Godeke、Ph.D.Thesis「Performance Boundaries in NbSn Superconductors」、University of Twente、Enschede、NL(2005)、第2.7章)。
【0006】
析出物は人工ピンニングセンター(APCs)としても機能し、同様に電流負荷容量を改善することができる(L.R.Motowidlo et al.,Supercond.Sci.Technol.31,014002参照)。
【0007】
内部酸化は、例えば、国際公開第2015/175064号(A2)またはX.Xu et al.,Adv.Mater.2015,27、第1346頁〜第1350頁、またはX.Xu et al.,Appl.Phys.Lett.104,082602(2014)、またはX.Xu、学位論文「Prospects for Improving the Critical Current Density of Superconducting NbSn Strands via Optimization of NbSn Fraction,Stochiometry,and Grain Size」、オハイオ州立大学2016、第5章、またはX.XU et al.FERMILAB−CONF−16−342−TD(2016)にも記載されている。
【0008】
例えば、欧州特許第2779258号明細書(B1)には、パウダー・イン・チューブワイヤ半製品の従来のモノフィラメントの典型的な構造が記載されている。この類のモノフィラメントは、大抵は銅製の薄壁の内管を備え、この中にSn含有粉末(粉末コア)が配置されている。この内管は、通常はニオブからなる厚壁の外管(反応管)内に配置されている。アニーリング反応の際に、Snは粉末コアから反応管へ拡散し、そこでNbSn相を形成する。
【0009】
国際公開第2015/175064号明細書(A2)は、内部酸化用のパウダー・イン・チューブワイヤ半製品用モノフィラメントを提案しており、この場合、NbZr合金からなる管内に直接Sn含有粉末と金属酸化物粉末との混合物が配置されている。金属酸化物粉末からの酸素は、アニーリング反応に、NbZr合金からなる管内へ到達し、ZrO析出物を形成する。このワイヤ半製品によって、例えば、形成されたNbSnについて、平均粒径5〜30nmの結晶粒微細化が可能になるとされている。
【0010】
X.Xu et al.,Adv.Mater.2015,27、第1346頁〜第1350頁では、内部酸化についてZeitlin et al.により提案された、内側および外側の銅マトリックス内に環状に配置された多数のNbZrフィラメントと、結晶粒の微細化を示さないSn及びSnOを含む粉末コアを備えた導体に関して、粉末コアとZrOフィラメントとの間の銅層が酸素輸送を遮断することが言及されている(第2頁右欄、最後の段落参照)。Xuの、上述の学位論文の第121頁、最後の段落では、同じ推測が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2015/175064号(A2)
【特許文献2】米国特許第7,585,377号明細書(B2)
【特許文献3】欧州特許第2779258号明細書(B1)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A.Godeke,Ph.D.Thesis「Performance Boundaries in Nb3Sn Superconductors」、トゥヴェンテ大学,Enschede,NL(2005)、第2.7章
【非特許文献2】L.R.Motowidlo et al.,Supercond.Sci.Technol.31,014002参照
【非特許文献3】X. Xu et al.,Adv.Mater.2015,27、第1346頁〜第1350頁
【非特許文献4】X.Xu et al.,Appl.Phys.Lett.104,082602(2014)
【非特許文献5】X.Xu、学位論文「Prospects for Improving the Critical Current Density of Superconducting Nb3Sn Strands via Optimization of Nb3Sn Fraction,Stochiometry,and Grain Size」、オハイオ州立大学2016、第5章
【非特許文献6】X.XU et al.FERMILAB−CONF−16−342−TD、フェルミ国立加速器研究所(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、電流負荷容量をさらに改善することができるパウダー・イン・チューブを基礎とするNbSn含有超伝導ワイヤ用モノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のモノフィラメントは、粉末コアが緩和管内に配置されていること、およびこの緩和管が反応管内に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一般的なモノフィラメントは、400〜800℃の温度範囲で行われるアニーリング反応において、NbSn相の組織内に析出物XPkを生成するように構成されているが、合金成分Xは、反応管を介して提供され、かつ(少なくとも一つの)パートナー成分Pkは、モノフィラメント内に設置されたソースによって提供される。アニーリング反応の熱処理の範囲内で、パートナー成分Pkは反応管に拡散し、そこで析出物XPkを形成する。
【0016】
NbSn相の組織内の析出物は、二つの方法で、電流負荷容量を改善することができる。NbSn相が生じる前に生成される析出物は、核生成シードを形成し、粒子成長を阻害し、より微細な組織を提供する。結晶粒界は、ピンニングセンターとして機能するため、組織の微細化は、電流負荷容量を高める。NbSn相が生じる後に生成される析出物は、人工ピンニングセンター(artificial pinning centers、APCs)として利用され、これも同様に電流負荷容量を高めることができる。
【0017】
緩和管を用いることで、粉末コアから反応管へのSnの拡散を制御することができる。粉末コアが同時に(少なくとも一つの)パートナー成分Pk用のソースである場合、緩和管によって反応管へのパートナー成分Pkの拡散に影響を及ぼすこともあり、特に熱処理中の多様なNbSn中間層の形成の間に、反応フロントの前方でまたは反応フロントで、パートナー成分Pk(例えば酸素)の濃度調節ができる。
【0018】
それにより、狙った時間に析出物を生じさせることが可能になる。特に、緩和管およびパートナー成分用の少なくとも一つのソースのサイズならびに位置により、相応する熱処理において、析出物の形成をNbSn相形成の前または後で行うか、またはその際どの程度離して行うかを調節することができる。結晶粒の微細化(NbSn形成前の析出/酸化による)と点状の析出物(主にNbSn相形成後の析出/酸化による)との間のバランスにより、導体内のピンニングセンターの間隔を、導体の適用目的に合わせて調節することができる。NbSn相形成前の析出物形成/酸化を行う場合には、より微細なNbSn組織が生じる。NbSn相形成の後に行う場合には、すでに生じているNbSn組織の内部で析出物が形成される。このプロセスの調節により、広い磁場領域内でNbSn相の特に高い臨界電流密度を得ることができる。
【0019】
先行技術の場合には、パウダー・イン・チューブワイヤ半製品用モノフィラメントについて、粉末コアの粉末混合物を反応管内に直接配置することを想定しているが、発明者の認識によれば、Snおよび場合によりパートナー成分Pkの粉末コアから反応管内への拡散挙動をより効果的に制御するためには、粉末コアが含まれている緩和管を設けるのがよい。粉末コアを反応管に直接接触させることは必要なく、微細なNbSn超伝導ワイヤの電流負荷容量改善のためにはむしろ不利である。モノフィラメントが適切にサイズ決定されている場合を除き、特に酸素のようなパートナー成分を粉末コアから完全に遮断するようなことは、生じない。
【0020】
通常、合金成分Xは金属であり、パートナー成分Pkは酸素であり、かつ析出物XPkは金属酸化物で構成されている。ただし、他のパートナー成分を用いて、非酸化物系析出物を得ることや、特にアニーリング反応の後に、酸化物系析出物なしの超伝導ワイヤを得ることも可能である。
【0021】
本発明の範囲内では、反応管内に一種または数種の合金成分Xを、或いは、一つまたは複数のソース内に一種または数種のパートナー成分Pkを配置することが可能であり、これにより一種または数種の析出物XPkを形成させることもできる。簡単な実施形態の場合には、一種の合金成分Xと、一種のパートナー成分Pkとを使用し、一種の析出成分XPkが得られる。数種のパートナー成分Pkを使用する場合には、これらを共通のソース内に持たせるか、または異なるソースに分配されていてよく、特にそのため、各ソースは一種だけのパートナー成分Pkが持たされている。略語XPkは、析出物内でXとPkとの任意の化学量論比を表す。
【0022】
ソースは、一つまたは複数のソース構造により構成され、このソース構造は、均一な半径方向位置(全てのソース構造が同程度に広がる半径距離に相当する)に配置されている。ソースは、環状または環形に構成されている(モノフィラメントの中心は含まれず、つまり半径方向で内側方向と外側方向とに画定されている)か、または中心に構成されていてもよい(モノフィラメントの中心を含める、つまり半径方向で外側方向だけが画定されている)。ソースが一つだけのソース構造からなる場合、このソースは、通常は完全に(360°にわたり)取り囲むように構成されている。ソースが複数のソース構造からなる場合、これらは通常は環状におよび/または円周方向で一様に分布されるように配置されている。異なるソースは、(重複しない半径距離で)異なる半径方向位置を有する。典型的なソースは、粉末コア(これはこの場合に同時にソース構造である)中の粉末(もしくは粉末部分)により構成されるか、またはモノフィラメント内で環形に取り囲む粉末層(ソース構造として)中の粉末(もしくは粉末部分)により構成されるか、または環状に配置されたソースチューブ(複数のソース構造として)の充填物の粉末(もしくは粉末部分)により構成されるか、またはモノフィラメントの別の構造に接してかまたはその中で環状に配置されたソースポケット(複数のソース構造として)の充填物の粉末(もしくは粉末部分)により構成されるか、またはモノフィラメントの別の構造上を取り囲むコーティング(ソース構造として)により構成される。
【0023】
緩和管は、一般的には、単一組織でかつ好ましくは均一な壁厚で構成されているが、この緩和管は、異なる組成の複数の組み込まれた部分チューブから構成されていてもよい。緩和管の壁厚WMは、大抵は、粉末コアの直径DPに対する比率で相対的に小さく、大抵はWM≦0.2*DPである。
【0024】
緩和管は、一般的には、反応管とは異なる化学組成を有する。緩和管が反応管に接している場合には、緩和管はニオブを含まないか、または反応管よりも明らかに少ないニオブを含み、例えば10.0質量%またはそれ以下のNb、または1.0質量%またはそれ以下のNbを含む。緩和管が反応管に接していない場合には、緩和管は、容易により多くのNbを含むかまたはNbで構成される。しかしながら、緩和管は大抵、例えば50質量%またはそれ以上のCuを含む。
【0025】
Nbおよび少なくとも一つの別の合金成分Xに加えて、反応管はまた、タンタルまたはチタンのような、析出物を形成しないが、NbSn相の形成および/または電流負荷容量のために必要な他の合金成分を含むことができる。反応管は一貫した構成となっており、基本的に、好ましくは均一な壁厚を有する単一組織を有する。
【0026】
粉末コアは、モノフィラメントの製造および/または変形時に、例えば引き抜き時に、特に加工性を改善するために、Ag、Cu、Sn、C、MoS、ステアリン酸および/またはα−BNを含むことができる。さらに、CuはNbSn相形成の触媒として利用することができる。粉末コア内に含まれる元素および化合物は、さらに熱処理中にSn放出および場合によりPk放出を調節するために利用される。
【0027】
モノフィラメントは、大抵はCuまたはCu合金から製造されていて、かつモノフィラメントの外側を取り囲む被覆管(マトリックスとも言う)を備える。この被覆管の内側には、SnまたはPkがCu内に拡散侵入することを防ぎ、かつマトリックスの残留抵抗比(RRR)と熱伝導率を低下させないために、拡散バリアが構成されている。
【0028】
ワイヤ半製品を得るために、多数のモノフィラメントを束ね、場合により多段階で変形させる。ワイヤ半製品は、所望の形状(例えばコイル状)に巻かれ、NbSn相が、引いては超伝導ワイヤ線材が生成されるアニーリング反応にかけられる。熱処理は、通常、形成される析出物が特定の用途で可能な限り高い電流密度を供給するように選択される。特に、この場合、XとPkとの反応が、NbSn相形成の前および/または後で局所的に起こるかどうかが重要である。
【0029】
モノフィラメントの一般的な実施形態
本発明によるモノフィラメントの好ましい実施形態では、モノフィラメントは少なくとも一つのパートナー成分Pkのために、異なる半径方向に配置された少なくとも二つのソースQを含む。これらのソースが空間的に(特に半径方向で)異なるように配置されることにより、アニーリング反応の間に必要な、それぞれのソースから反応管へのパートナー成分Pkの拡散時間を、例えば、それぞれの拡散経路の長さによっておよび/または、特に場合により、その間に生じるモノフィラメントの構造を通した拡散速度によって、異なるように調節することができる。したがって、ソースの空間的な分離により、熱処理中に、反応管内の少なくとも二つのソースからの(大抵は両方のソースに対して同じ)パートナー成分Pkの到着時間に差をつけることができ、特にモノフィラメント内に準備されたパートナー成分Pkの物質量の一部は反応管の領域内でNbSnの形成の前に供給され、また、一部はNbSn形成の後に供給されるか或いは反応して析出物XPkとなる。結果として、NbSnの結晶粒微細化や調節が可能となり、既存のNbSnにおけるピンニングセンターを形成することもできる。それにより、最終的な超伝導ワイヤの特に高い電流負荷容量を達成することが可能である。
【0030】
緩和管が完全にまたは部分的にCu、Ag、Sn、Nb、あるいはそれらの合金で製造されている実施形態も好ましい。これらの材料を用いることで、特に断面積および結束工程を削減でき、より良いモノフィラメント構造を実現できる。緩和管は、異なる材料から、特に上述の金属または合金から製造されている複数の編み込まれた部分管からなることも留意されたい。
【0031】
さらに、少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソースQが粉末を含む実施形態も有利である。好ましくは、全てのソースは粉末を基礎とする。粉末は、変形プロセスの際に、隣接する構造および他の粉末粒子に対して相対的に粉末粒子の運動が可能であり、それにより、特に粉末粒子(例えば金属酸化物粉末)自体が実際に変形可能でない場合でも、モノフィラメントもしくはワイヤ半製品内の材料欠陥を最小化することができる。
【0032】
粉末コア内にソースを備えた実施形態
少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソースQが、粉末コア内に含まれる粉末を含む実施形態が好ましい。粉末コア中の少なくとも一つのパートナー成分用のソースの設置は、簡単に実現でき、相応するPk含有粉末が、Snソースとして利用される粉末に混合されてよい。さらに、このソースからのパートナー成分Pkの拡散挙動は、緩和管によって影響を及ぼされてもよい。
【0033】
この実施形態の有利な発展態様は、粉末コア内に含まれる粉末を含むソースQが、パートナー成分Pkとして酸素を含み、かつ緩和管は、CuまたはCu合金から製造されていることが想定されている。意外にも、Cu含有緩和管を通して粉末コアからの酸素の十分な拡散を得ることができ、良好な電流負荷容量または結晶粒の微細化にとって、ほどよい頃合いでかつ十分な量の析出物が反応管内に形成されることが明らかになった。特に、緩和管の厚み(壁厚)によって、Snおよびパートナー成分Pkの拡散経路を調節することができ、この場合、緩和管内でのSnおよびPkの拡散速度は基本的に異なり(場合により粉末コア内の添加物により支援されて)、かつそれによりXPkの析出のタイミングおよび場所を調節することができる。
【0034】
緩和管の壁厚WMが、
WM≦0.075*DPおよび/またはWM≦0.2*WR
となるように選択される発展態様が特に好ましく、ここでは、DPは粉末コアの直径であり、WRは反応管の壁厚である。緩和管のこの壁厚の場合には、粉末コア内のパートナー成分Pkが酸素である場合を含めて、緩和管を通るパートナー成分Pkの十分に良好な拡散が生じ、特にOに対して障害となる酸化ニオブ遮断層は形成されない。壁厚がこの範囲を越えて変動する場合、壁厚として、上述の式についてそれぞれ最大で生じる壁厚を想定することができる。一般に、モノフィラメントについて0.5〜30の物質量比Pk/Xが有利であることが判明し、同様に一般に、粉末コア中のPkの1〜30原子%の割合も有利である。緩和管の壁厚は、析出物の生成、ひいては導体のインフィールド特性を向上し、かつ場合により適用目的にも合わせられるように選択することができる。好ましくは、WM≧0.02*DPおよび/またはWM≧0.05*WRも当てはまる。
【0035】
さらに、粉末コアが、Cu、Agおよび/またはSnを含み、特に単体のCu、Agおよび/またはSnを含む発展態様が好ましい。それにより、モノフィラメントの加工性は改善され、場合により、特にパートナー成分が酸素である場合に、粉末コア内のパートナー成分Pkの拡散特性を調節することができる。
【0036】
環状ソースを備えた実施形態
好ましい実施形態では、少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソースQは、環状ソースを含み、この場合、緩和管は、環状ソース内へ放射状に配置される。緩和管の外側の環状ソースを用いて、パートナー成分Pkが緩和管を通過する必要なく、パートナー成分Pkをモノフィラメント内へ導入することができる。緩和管の種類および壁厚は、粉末コアからのSnの所望の拡散挙動に基づいて調節することができる。これによって、拡散プロセスの制御が容易になる。パートナー成分Pkが粉末コアの外側に配置されている場合、NbSn相形成が始まる前に大量の析出物を形成させるために、特に比較的厚壁でかつ/またはSnにとってあまり透過性でない緩和管を用いて、粉末コアからのNb−Sn相形成を時間的に析出物形成(例えば酸化)と大幅に切り離すことができる。特に、場合により、Pkは反応管へ直接導入してよい(例えば酸素放出)。Pkの導入は、使用するPkの量に応じて、例えばCu粉末のような添加物により調節することができる。環形状は、周囲からパートナー成分のモノフィラメントへの実質的に均一な導入を可能にする。モノフィラメントは、少なくとも一つのパートナー成分Pk用の複数の環状ソースを備えてもよく、この環状ソース内にそれぞれ緩和管が配置されていることが考慮される。特に、反応管の外側と内側に一つずつの環状ソースが設けられているか、または二つの環状ソースが反応管の外側に設けられていてもよい。環状ソースは、一つのソース構造から(例えば取り囲むコーティングとして、若しくは取り囲む粉末層として)形成されているか、または環状に配置された複数の離散したソース構造から(例えばソースポケットまたはソース管の形の粉末充填物から)形成されていてもよい。
【0037】
環状ソースが、取り囲む粉末層内に粉末を含むこの実施形態の発展態様が好ましい。粉末が非金属粒子および/または塑性変形しない粒子を含む場合でも、粉末を使用すれば、良好な変形挙動を得ることができる。この粉末層は、例えば二つの環状構造の間の隙間を埋めるためなど、比較的簡単に導入することができる。
【0038】
別の発展態様において、環状ソースは、環状に配置されたソース管またはソースポケットの粉末充填物の形で粉末を有し、この場合、ソースポケットは、環状ソースに隣接するモノフィラメント構造内に構成されている(円形またはその他の横断面を有していてもよい)。ソース管を用いることによって、モノフィラメントの製造中に、ソース用の粉末の取り扱いを簡素化することができる。特に、ソース管内では、原則として、比較的簡単に、均一でかつ高い粉末密度を得ることができる。ソース管は、特に、銅またはニオブまたはX含有ニオブ合金(具体的には、反応管のX含有ニオブ合金)から製造されていてよい。ソース管は、通常、モノフィラメントとは別の二つの構造の間の、例えば緩和管と反応管との間の、または反応管と補助反応管との間の隙間に挿入される。ソースポケットは、隣接する構造の内側または外側の放射状のくぼみとして、または隣接する構造の空洞として構成されていてよく、ソースポケット内には、通常、取り囲まれた粉末層の場合よりも容易に、均一な粉末密度を得ることができる。環状に配置された複数のソース構造を備えたソースの場合、円周方向でソース構造の間を放射状に貫通する構造領域が残る場合があり、この構造領域は、取り囲む(円周方向で貫通するかまたは区分けされた)ソースと比較してより良好な加工性を提供する。
【0039】
粉末層または粉末充填物が金属粉末を含む場合、金属粉末は、単体のCuもしくはCu合金またはAgもしくはAg合金を含むことが好ましい。金属粉末により、加工性を改善することができ、場合によっては、Pk放出もしくはPk吸収を改善するかまたは適用目的に対して調節することができる。これらのパートナー成分の拡散挙動の調節のためには、特にCu、AgまたはSnが適している。
【0040】
さらなる別の発展態様において、環状ソースは、特に隣接する構造が反応管または緩和管である場合、環状ソースに隣接するモノフィラメント構造を取り囲むコーティングを含む。コーティングは、モノフィラメント内に挿入される前の構造に施すのが比較的簡単である。例えば、スプレーコーティングによって行われてよい。
【0041】
外側の環状ソースを備えた実施形態
さらに、反応管が、環状ソース内部に放射状に配置される場合、環状ソースが反応管の外側を直接取り囲む発展形態が好ましい。反応管内へのパートナー成分の拡散侵入は、粉末コアから反応管内へのSnの拡散とは無関係に、反応管の外側の環状ソースから起こり得る。それにより、両方の拡散プロセスを互いに容易に調整することができる。環状ソースが反応管を直接取り囲む場合、例えば、NbSn相の形成前に析出物などの効果的な結晶粒微細化のために、特に反応管内へのパートナー成分Pkの導入を迅速に行うことができる。直接取り囲む代わりに、反応管と環状ソースとの間に配置されている補助緩和管を設けることもでき、その結果、アニーリング反応中のパートナー成分の導入時間をより良好に制御することができ、特に遅延させることができる。
【0042】
この場合、好ましくは、モノフィラメントは補助反応管を備え、補助反応管はNbを含み、
特に、補助反応管は少なくとも他に一つの合金成分Xを含み、
かつ、環状ソースは、補助反応管内で放射状に配置されていて、
特に、補助反応管は、環状ソースの外側を直接取り囲むものとされている。環状ソースが、反応管と補助反応管との間に配置されている場合、パートナー成分は、特にこの両方の管の迅速な通過のために、放射状に外側および内側に向かって伝播されてよい。
【0043】
内側の環状ソースを備えた実施形態
環状ソースが、緩和管外で放射状に、かつ反応管内で放射状に配置されている発展態様も有利である。この配置では、パートナー成分とSnとが、同じ側から反応管に到達するため、原則として、NbSn形成の反応フロントで、SnとPk、ならびにNbとXのバランスのとれた濃度比を達成することができる。特に、パートナー成分は、外部の環状ソースの場合のように、反応管を拡散によって完全に横切る必要はない。その結果、特に高い電流負荷容量を実現することができる。単に緩和管を通したSn拡散を行う場合には、この材料を柔軟に選択することができるため、特にSn透過性の低い材料の使用することも可能である。それにより、Sn拡散およびPk拡散は、混合された粉末コアの場合よりもより強く分離することができる。
【0044】
この場合、モノフィラメントはさらに補助緩和管を備え、環状ソースは補助緩和管内で放射状に配置され、かつ補助緩和管は、反応管内で放射状に配置され、補助緩和管は、環状ソースの外側を直接取り囲むことが好ましい。補助緩和管によって、環状ソースから反応管への拡散侵入を制御することができる。補助緩和管用の一般的な材料は、緩和管用の材料に相応する。
【0045】
化学系についての実施形態
好ましい実施形態では、少なくとも一つのソースは、少なくとも一つのパートナー成分Pkを含む化合物を有し、熱にさらされた化合物は、第一の温度T1で、このパートナー成分Pkと第一の残余化合物とに分解する。第一の残余化合物は、まだこのパートナー成分Pkを含むが、化合物よりも化学量論的割合が低く、さらに熱にさらされると、T2>T1の第二の温度T2で、第一の残余化合物は、このパートナー成分Pkと第二の残余化合物とに分解するものとされている。それにより、パートナー成分Pkを、アニーリング反応中に、(例えば、T1以上の第一の温度プラトーと、T2以上の第二の温度プラトーとで、またはT1に加えてT2までまたはそれをわずかに越える程度までのゆっくりとした温度上昇で)適切な温度プログラムを適用して、異なる時点で放出し、かつそれにより適切に、NbSnの形成前にパートナー成分の一部を提供し、かつ一部をNbSnの形成後または形成中に提供することも可能である。酸素を二段階で放出する化合物は、例えば過マンガン酸カリウムである。あるいは、ソースが、パートナー成分Pkと残余化合物とに分解し、この残余化合物はもはやパートナー成分Pkを含まないような化合物を含んでもよい。
【0046】
他の好ましい実施形態では、少なくとも一つのソースQは、少なくとも二つの異なるパートナー成分Pkを含み、このパートナー成分は、アニーリング反応中に少なくとも一つの他の合金成分Xと、異なる種類の析出物XPkを形成することができる。特にこの場合、反応管が少なくとも二つの異なる別の合金成分Xも含み、異なるパートナー成分Pkは、異なる別の合金成分Xの他方と、それぞれ異なる析出物XPkを形成するものとされる。一般的に、二つの異なるパートナー成分は、アニーリング反応の熱処理中に異なるタイミングで放出され、かつ/または異なるパートナー成分は異なる拡散速度を持つ。それにより、結晶粒の微細化およびピンニングセンターの形成によって電流負荷容量を改善するために、析出物をNbSn相の形成の前でも後でも適切に形成することが可能である。
【0047】
また、少なくとも一つのソースQは、それぞれ同じパートナー成分Pkを含む第一の化合物と第二の化合物とを有し、熱処理下で、第一の化合物は、第二の化合物よりも低い温度でパートナー成分Pkを放出する実施形態も好ましい。第一の化合物は、温度T1でPkを放出し、第二の化合物は、T2(この場合T1<T2)でPkを放出する。それによりまた、パートナー成分Pkを、アニーリング反応中に、(例えば、T1以上の第一の温度プラトーと、T2以上の第二の温度プラトーとで、またはT1に加えてT2までもしくはそれをわずかに越える程度までのゆっくりとした温度上昇で)適切な温度プログラムを適用して、異なる時点で放出し、かつそれによりパートナー成分の一部を適切にNbSnの形成の前に提供し、かつ一部をNbSnの形成の後または形成中に提供することも可能である。
【0048】
少なくとも一つのパートナー成分Pkは酸素を含み、少なくとも一つの合金成分Xは、Nbよりも卑の金属を含む実施形態が特に好ましい。この材料系は、特に簡単にかつ安価に調整することができる。
【0049】
この実施形態の発展態様では、少なくとも一つのパートナー成分Pk用のソースQが、特に金属酸化物が、SnO、SnO、CuO、CuO、AgO、AgO、Ag、Na、CaO、ZnO、MgO、NbOまたはNbである場合、金属酸化物を含む粉末を有する。これらの材料系は、超伝導電流負荷容量の効果的な改善を示し、使用方法が簡単で、かつ安価である。合金成分Xの金属は、パートナー成分Pkの金属酸化物の金属よりも卑であるように選択される。粉末形状の結果として、モノフィラメント中の金属酸化物をより形成しやすい。
【0050】
少なくとも一つの合金成分Xが、元素Mg、Al、V、Zr、Ti、GdまたはHfのうちの一つまたは複数を含む発展態様も好ましい。これらの合金成分は扱いやすく、かつ超伝導ワイヤの電流負荷容量を改善するために有効な析出物を形成する。
【0051】
好ましい実施形態では、析出物XPkは、非酸化物系析出物を含み、具体的には、非酸化物系析出物のみであることが予定されている。非酸化物系析出物XPkの形成においては、パートナー成分は酸素としては選択されない。非酸化物系析出物が形成される場合、パートナー成分はいずれも酸素になり得ない。酸素は、多くの物質に対して、特にモノフィラメントに慣習的に組み込まれているNb、SnおよびCuのような金属に対して高い親和性を持つ。これは、不要な箇所酸化物層が形成され、所望される拡散プロセスが遮断される可能性がある。非酸化物系析出物の使用し、それに相応してパートナー成分として酸素を使用しないことで、この問題の大部分を回避することができる。非酸化物系析出物の反応パートナーは、狙った方法で互いに調和させることができるため、この反応パートナーは、熱処理の際は、本質的に互いのみに反応し、モノフィラメント内で通常使用される他の金属とは反応しない。つまり所望な拡散プロセスを遮断する、望まない副反応を最小化ないし除外することができる。二つのパートナー成分Pkまたは二つの異なるタイプの析出物XPkを有するモノフィラメントにおいては、酸化物系析出物と非酸化物系析出物を想定することも可能である。
【0052】
他の実施形態としては、析出物が非金属系析出物を含み、とりわけ非金属系析出物のみであることが好ましい。非金属系析出物は、取り囲む金属NbSnマトリックスに対して明確な相境界を形成し、このことが磁束ピンニングのために望ましく、特に高い電流負荷容量を可能にする。
【0053】
この実施形態の好ましい発展態様においては、少なくとも一つのパートナー成分Pkは硫黄を含み、少なくとも一つの合金成分Xは亜鉛を含む。硫黄は、元素形態で例えば粉末に導入することができ、または亜鉛より卑の金属の硫化物として、例えば硫化銅に導入することができ、かつ比較的高い反応性がある。硫化亜鉛は、比較的容易に析出物を形成することができる。亜鉛の代わりに、他の卑金属、特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を、合金成分として使用することもできる。
【0054】
また、少なくとも一つのパートナー成分Pkが、ケイ素、炭素またはハロゲンを含む実施形態も好ましい。これらのパートナー成分により、パートナー成分としての酸素の代替物として析出物を形成することができる。合金成分Xとして、これらのパートナー成分の場合、例えばCa(パートナー成分Siの場合、析出物CaSi形成のため、Siは元素形態としてソース中に存在するのが好ましい)またはFe(パートナー成分Cの場合、析出物FeC形成のため、グラファイトがソース中に存在するのが好ましい)またはMg、Al、V、Zr、Ti、Ta、GdまたはHf(パートナー成分のハロゲンの場合、ハロゲン化物系析出物の形成のため、ハロゲン化物として、具体的にはAgF、SnFまたはトリフルオロ酢酸銅がソース中に存在するのが好ましい)を選択することができる。
【0055】
超伝導ワイヤを製造するための本発明による方法
超伝導ワイヤの製造方法も本発明の範囲内である。この製造方法では、上述の本発明による複数のモノフィラメントを、一または複数の段階で束ねて変形させることで、ワイヤ半製品が得られる。このワイヤ半製品を、巻き付けることで好きな形状にし、かつアニーリング反応を施し、少なくとも一つの合金成分Xと少なくとも一つのパートナー成分Pkから析出物XPkを形成し、かつ反応管のNbと粉末コアのSnからNbSnを形成する。この方法を用いて、特に高い電流負荷容量を有する超伝導ワイヤを製造することができる。この形成は、例えば引き抜き作業にも応用することができる。アニーリング反応は、一般的には400℃〜800℃の温度で行われる。
【0056】
本発明のさらなる利便点は、明細書および図面から明らかである。同様に、上述のおよび以下に説明される特徴は、本発明にしたがって、それぞれ、個々にまたはいくつかを任意に組み合わせて使用することができる。図示および説明される実施形態は、すべてを網羅的する詳述と解釈すべきではなく、むしろ本発明の記述用の例示的な特徴を有する。
【0057】
本発明は、図面に概略的に示されており、かつ実施例によって詳細に説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】粉末コア内に組み込まれた、少なくとも一つのパートナー成分用のソースを備えた本発明によるモノフィラメントの一実施形態を示す。
図2】緩和管の周りにある環状ソースと、この環状ソースの周りの補助緩和管とを備えた本発明によるモノフィラメントの一実施形態を示す。
図3】反応管の周りにある環状ソースと、この環状ソースの周りの拡散バリアとを備えた本発明によるモノフィラメントの一実施形態を示す。
図4】粉末コア内に組み込まれた第一のソースと、緩和管の周りにある環状の第二のソースとを備えた本発明によるモノフィラメントの一実施形態を示す。
図5】粉末コア内に組み込まれた第一のソースと、反応管の周りにある環状の第二のソースとを備えた本発明によるモノフィラメントの一実施形態を示す。
図6】反応管の周りに配置されている環状の第一のソースと、この第一の環状ソースを取り囲む補助反応管の周りに配置されている環状の第二のソースとを備えた本発明によるモノフィラメントの一実施形態を示す。
図7】反応管の内側に凹所状のソースポケットによって構成されている環状ソースを備えた本発明によるモノフィラメントの一実施形態を示す。
図8】反応管の内部に閉じ込められたソースポケットによって構成されている環状ソースを備えた本発明によるモノフィラメントの一実施形態を示す。
図9】反応管と補助反応管との間に配置されているソース管によって構成されている環状ソースを備えた本発明によるモノフィラメントの一実施形態を示す。
図10】複数の本発明によるモノフィラメントが束ねられているNbSn超伝導ワイヤ用の半製品を示す。
図11】本発明によるアニーリング反応を実施するための炉装置を示す。
図12】破面上に明らかな析出物を備えた、本発明により製造された超伝導ワイヤのNbSn相のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1図9は、本発明の範囲内でNbSn含有超伝導ワイヤをパウダー・イン・チューブ・アプローチにより製造することができる、本発明によるモノフィラメント100の実施形態の概略断面図(つまり、モノフィラメント100の縦方向に対する垂直方向)を示す。
【0060】
全ての実施形態は、Sn含有粉末または粉末混合物が含まれる中央の粉末コア1と、さらにこの粉末コア1が含まれる緩和管2と、Nbを(通常は極めて高い割合で、少なくとも50質量%、または少なくとも80質量%であることが好ましい)含み、かつさらに少なくとも一つの合金成分Xを(通常は低い割合、例えば0.3〜3.0質量%で)含む合金から製造形成される反応管3とを備える。粉末コア1のSnと、反応管3のNbとから、アニーリング反応にNbSn相が形成される。外側に向かって、モノフィラメント100は、それぞれマトリックス5(被覆管とも言う)により画定されていて、このマトリックスは大抵CuまたはCu合金で製造されていて、このマトリックスは、図示された実施形態において、結束を容易にするために、それぞれ六角形の外側輪郭を有するか、あるいはマトリックス5は丸い外側輪郭で構成されていてもよい。
【0061】
さらに、各実施形態において、モノフィラメント100は、少なくとも一つのパートナー成分Pk用に対して少なくとも一つのソース4を含む。パートナー成分Pkと合金成分Xから、アニーリング反応中に析出物XPkが生じ、(タイミングによって)結果として生じるNbSn相の結晶粒微細化、またはピンニングセンターとして機能する既存のNbSn相での点状の析出物の形成を引き起こし、それにより完成した超伝導ワイヤの超伝導電流負荷容量を改善する。
【0062】
モノフィラメント100の多様な実施形態は、主に一つまたは複数のソース4の、特にその数、幾何学的配置および組成の構成により区別される。
【0063】
図1の実施形態の場合、粉末コア1は、(粉末コア1の二重の斜線により示される)パートナー成分Pkの(唯一の)ソース4として同時に機能する。ここで、粉末コア1は、Sn粉末とNbSn粉末(NbSnを形成するためのSnソースとして)と、さらにCu粉末(NbSn形成用の触媒として)と、SnO粉末(ここでは酸素であるパートナー成分Pk用のソースとして)との混合により形成される。
【0064】
ここではCuから構成される緩和管2は、反応管3の壁厚WRおよび粉末コア1の直径DPと比較して比較的薄い壁厚WMを有し、ここではほぼWM=0.15*WRおよびWM=0.055*DPである。それにより、緩和管2を通る酸素の十分な拡散を得ることができる。ここでは、緩和管2は、Snの拡散と、パートナー成分Pkの拡散の両方を制御することが考慮され、SnとPkとの拡散の均衡のために、粉末コア1内に適切な別の添加物、例えばAg粉末が予定されていてよい。
【0065】
ここでは、反応管3は、NbZr合金であり、合金成分Xとしてジルコニウムを1質量%の割合で含む。必要に応じて、反応管3の合金は、NbSn相の形成および/またはその超伝導特性をもたらすTaまたは他の合金添加物を含んでよい。ここでは、アニーリング反応中、NbSn材料内にZrO析出物が形成される。
【0066】
任意に、粉末コア1またはソース4において、SnOの他に、さらなる酸素含有化合物、例えばGdを用いることもできる。それにより、熱処理中に時間をずらした二回の酸素放出が可能になる。
【0067】
あるいは、SnOの代わりに、二段階で分解するPk含有化合物、例えばKMnOのような過マンガン酸塩化合物が酸素用ソース4として粉末コア1に含まれていてもよい。過マンガン酸塩は、最初にその酸素の一部を放出することができ、その際、第一の反応生成物(第一の残余化合物)としてMnOが生じる。このMnOは、更に熱が供給されると、さらに酸素を放出し、元素Mnが第二の反応生成物(第二の残余化合物)として形成される。また、それにより、時間をずらした二回の酸素放出が可能になる。
【0068】
パートナー成分Pkの時間をずらした二回の酸素放出により、NbSn形成前でも(NbSn相の結晶粒微細化のために)、形成後でも(補助人工ピンニングセンターのための)析出物を形成することができる。
【0069】
図2に示されるモノフィラメント100の実施形態では、粉末コア1は、Snソースとして機能するだけで、パートナー成分用のソースとしては機能しない(したがって、粉末コアは単一の射線で示される)。粉末コア1は、緩和管2により取り囲まれ、この緩和管は、ここではSnの拡散を制御するだけで、パートナー成分Pkの拡散は制御しない。また、緩和管2は、パートナー成分Pk用の環状の(単一の)ソース4により囲まれ、このソースは、SnO粉末(パートナー成分Pk、つまり酸素供給のため)と、金属のCu粉末(変形特性の改善のため)とを含む完全に取り囲む粉末層6として構成される。ここでは、粉末層6と反応管3との間に、さらに補助緩和管7が配置され、この補助緩和管により、パートナー成分PkとSnとが反応管3内へ拡散侵入することを共同で制御する。
【0070】
図3のモノフィラメント100の実施形態では、パートナー成分Pk用の環状の(単一の)ソース4は、再び粉末層6として構成されているが、反応管3の外側に放射状に配置されていて、ここでは粉末層6が反応管3を直接取り囲む。それにより、パートナー成分Pkは、反応管3に極めて迅速に侵入できる。粉末コア1からのSnは、合金成分Xを含む反応管3内への拡散のために、緩和管2を横断しなければならない。それにより、反応管3内へのSnの拡散侵入を遅らせることができるため、NbSn相形成前に、反応管内でXPkの析出物形成が可能となる。
【0071】
この実施形態では、例として、マトリックス5の内側では、Taからなる拡散バリア8が示されており、この拡散バリアにより、内部からの元素(特にSn)の拡散侵入によるマトリックス5の混入、およびそれに伴うマトリックス5の残留抵抗比(RRR)の低下を防ぐことができる。
【0072】
本発明によるモノフィラメント100の図4の実施形態では、パートナー成分Pkのための二つのソース4が存在する。
【0073】
一方で、粉末コア1は、パートナー成分Pkとしての酸素用のSnO粉末、ここではPkを含む対応する化合物を含むという点で、パートナー成分Pk用のソース4として同時に機能する。また、一方では、パートナー成分Pkのさらなるソース4は、緩和管2の周囲で、合金成分Xを含む反応管3の内側に配置される。この別のソース4は、ここでは同様に、パートナー成分Pkとして酸素用のSnO粉末も含む、包囲粉末層6で形成される。
【0074】
粉末層6からのパートナー成分Pkは、アニーリング反応中、粉末コア1からのパートナー成分Pkよりも前に反応管3に到達する。その結果、パートナー成分Pkを、NbSn形成前でも形成後でも、反応管3(またはそれにより生じる構造)に導入することが可能である。
【0075】
図示された実施形態では、同じパートナー成分Pkを供給する同じ化合物が両方のソース4に供給されている。あるいは、異なるパートナー成分Pkを供給するために、または異なるパートナー成分Pkを供給するため(異なる析出物XPkの形成のため)にも異なる化合物を供給することが可能である。特に、アニーリング反応の過程において、酸化物系析出物と非酸化物系析出物の両方が形成されることへの対策を講じることができる。
【0076】
図5の実施形態では、同様に、モノフィラメント100のための二つのソース4がある。
【0077】
ソース4は、ここでもSnO粉末と混合された粉末コア1によって形成される。さらに、SnO粉末を含む粉末層6として構成され、ここでは反応管3を直接取り囲む環状ソース4が設けられている。次に、粉末層6は、ここでは反応管3と同じ組成を有し、特に同様にNbおよび合金成分Xを含む補助反応管9により、外側で放射状に取り囲まれている。
【0078】
この構造により、特にNbSn相の形成前に微細な組織構造の析出物XPkを形成するために、パートナー成分Pkは粉末層6から反応管3および補助反応管9にも極めて迅速に到達することができる。粉末コア1からのパートナー成分Pkは、粉末コア1からのSnに続いて大部分が反応管3および補助反応管9に到達し、人工ピンニングセンターとして点状の析出物を形成する。粉末コア1からのSnおよびPkの内方拡散の時間は、緩和管2、特にその壁厚により、必要に応じてコア中心1の添加の助けにより、適宜調整できる。
【0079】
図6のモノフィラメント100の実施形態は、同様に二つのソース4を想定しており、ここでは両方が環状ソース4として構成される。
【0080】
ソース4の一方は、SnO粉末を含む粉末層6として構成され、かつ反応管3の外側で放射状に直接配置されるため、パートナー成分Pkは、粉末層6から迅速に反応管3内へ侵入し、既存の合金成分X、ここではジルコニウムによって、NbSn相が生じる前に、析出物XPkを形成することができる。ここでは、パートナー成分Pkのためのもう一方のソース4は、補助反応管9の外側にコーティング10として構成されている。補助反応管9はまた、粉末層6の外側に直接配置されている。コーティング10からのパートナー成分Pkは、粉末層6のパートナー成分Pkよりも遅く反応管3に到達する。
【0081】
補助反応管9の壁厚および緩和管2の壁厚を適切に調節することにより、コーティング10からのパートナー成分Pkが反応管3に到達するよりも前に、粉末コア1からのSnは、反応管3に到達できる。
【0082】
この補助反応管9は反応管3と同じ組成を有し、つまりニオブとジルコニウムとを含むため、補助反応管9のバルクは、NbSn相形成にも利用することができる。必要に応じて、補助反応管9の代わりに、例えばCuなどの材料からなる管も使用することができ、この管により、(例えばニオブを含まないかまたはわずかしかニオブを含まないため、またはこの管は単に比較的薄く形成されているため)NbSn相バルクの生成へ顕著に寄与しないが、コーティング10内で放射状に反応管3に向かうパートナー成分Pkの拡散を上手く妨害することができる。この場合、この管は、補助緩和管11とも呼ばれる。
【0083】
コーティング10に特に適した材料は、塑性変形可能または変形中に低摩擦なことである。これは継続加工(例えば断面減少する変形プロセス)の際に欠陥を生じないためである。例えば、コーティングは、パートナー成分Pkとしてグラファイトカーボンからなり、このパートナー成分は、合金成分XとしてのFe(鉄)と一緒に、反応管3内で、析出物として炭化鉄を生成することができる。粉末層6内には、塑性変形可能でない材料、例えばSnOからなる酸化物系粉末粒子が利用されてもよい、というのもこの粉末形状が確実な流動性を付与するためである。酸化物系粉末粒子からの酸素は、合金成分XとしてのZrと、例えばZrO析出物を反応管内で形成することができ、この例の場合には、つまり反応管3は(ニオブの他に)二つの合金成分XとしてFeおよびZrを含む。
【0084】
図7は、反応管3内に放射状にソースポケット12が構成されているモノフィラメント100の実施形態を示す。ソースポケット12は、粉末充填物13が設けられている反応管3の凹部である。粉末充填物13は、(少なくとも一つの)パートナー成分Pkを含む粉末、ここではパートナー成分である酸素用のSnO粉末を含み、さらにここでは、変形性を改善するために、金属粉末、例えばCu粉末を含む。ソースポケット12は、モノフィラメント100内で全て均一な(同じ)放射状に位置し、モノフィラメント100内でのパートナー成分Pk用の環状ソース4すべてを構成する複数のソース構造を表す。周方向のソースポケット12は、放射状に連続した構造領域16であり、ここでは緩和管2と接触するように、反応管3によって構成され、モノフィラメント100の加工性を改善する。
【0085】
図8のモノフィラメント100の実施形態は、複数のソースポケット12から形成された環状ソース4を示し、これらのソースポケットは、モノフィラメント100内で均一な放射状に位置し、ここでもSnO粉末を含む粉末充填物13が設けられている。図示された実施形態では、ソースポケット12は、反応管3内のすべての側面で閉じられた凹部として構成されている。ソースポケット12の間には、また反応管3内で放射状に連続した構造領域16が残る。
【0086】
図9に示されるモノフィラメント100の実施形態では、ソース構造としての複数のソース小管14で形成された環状ソース4が想定されており、これらのソース小管は、内側に隣接する反応管3と外側に隣接する補助反応管9との間の放射状に存在する隙間15内に配置される。これらのソース小管14は、ここでも、円形の断面で形成され、少なくとも一つのパートナー成分Pkを含む粉末を有する粉末充填物13を有する。通常の断面縮小形成の後、隙間15内のソース小管14の間の空隙は、隣接する反応管3と隣接する補助反応管9からの物質で充填されることが留意される(図示されていない)。
【0087】
図10は、本発明用のNbSn含有超伝導ワイヤ用の半製品20を示す。この半製品20は、本発明の複数のモノフィラメント(100)(「束」)を含み、ここでモノフィラメント100は環状に配置される。さらに、ここでの半製品20は、銅で形成されている。
【0088】
通常、半製品20には、六角形の外側断面を有する複数のモノフィラメント100と、場合により(ここで示されているように)同じ六角形の外側断面を有するCuまたはCu合金からなる複数の安定化エレメント101が配置され、この安定化エレメントは、六方最密充填で互いに並べて外側管内に配置される。
【0089】
モノフィラメント100の導入後、半製品20は断面縮小形成され(場合により、複数を束ねて断面縮小形成され)、それによりワイヤ半製品が得られ、これを引き続き好きな形に、例えばコイルの形に巻き取る。
【0090】
図11は、炉32内に配置され、スプール30上にコイル31になるように巻かれたワイヤ半製品22を示す。
【0091】
炉32内には、ワイヤ半製品22が、通常は400℃〜800℃の温度でアニーリング反応を受け、これは、数日間続くことがある。この過程において、粉末コアのSnと反応管のNbから超伝導NbSnが生じ、少なくとも一つのソースの少なくとも一つのパートナー成分Pkと反応管の少なくとも一つの合金成分Xから、析出物XPkが形成される。
【0092】
アニーリング反応の後、ワイヤ半製品22からNbSn含有超伝導ワイヤ33が生成され、この際、NbSn相も析出物XPkも含む。超伝導ワイヤ33は、特に高い超伝導電流負荷容量を有する。
【0093】
図12は、本発明に従って製造された超伝導ワイヤNbSn相のSEM画像を示す。関連のモノフィラメントは、粉末コア内に酸素ソースとしてSnO粉末を含み、この粉末コアは銅からなる緩和管内に封入されている。これを取り囲む反応管は、NbZr合金からなる。アニーリング反応としては、最大温度640℃の多段階温度プログラムで処理時間を300時間を想定した。ワイヤ直径は1mm、超伝導ワイヤ内のモノフィラメントの直径は40μmであった。NbSn結晶粒上のZrO析出物(明るい色の点)は人工ピンニングセンターとして作用することが明らかであった。NbSn結晶粒は、通常、直径が30〜80nmほどである。粉末コアがSnOを含まない場合の比較試験では、析出物は観察されず、比較的荒い組織構造が観察された(図示されていない)。
【0094】
要約すると、本発明は、モノフィラメントがアニーリング反応中にNbSn相の領域で析出物XPkが形成されるように準備され、Nb含有反応管内に放射状に配置されたSn含有粉末コアを備えたNbSn含有超伝導ワイヤ用のパウダー・イン・チューブワイヤ半製品用モノフィラメントに関する。モノフィラメントは、少なくとも一つのパートナー成分Pkの少なくとも一つのソースを含み、かつ反応管には少なくとも一つの合金成分Xが混合されているので、アニーリング反応中に、反応管の領域で析出物XPkを形成することができる。反応管にSnを放出することによってNbSn形成を制御し(特に遅延させ)、粉末コアは緩和管内に含まれ、モノフィラメントの構造と一体となって、一時的に析出物の形成を調和させるので、結果として、少なくともNbSn相の形成の前に、後でも析出物を形成できるのが好ましい。モノフィラメントは、アニーリング反応中に、反応管のパートナー成分Pkが、NbSn相の形成前と形成後の少なくとも二つの前後するタイミングの波形で反応管に到達するように構成され(また、アニーリング反応はそのように調節され)るのが好ましい。このために、モノフィラメントは、特にパートナー成分Pkの異なる放射状に少なくとも二つの異なるソースを有するか、または少なくとも一つのソース内に、異なる温度でそれぞれパートナー成分Pkを放出する少なくとも二つの異なる化合物を有するか、または少なくとも一つのソース内に、パートナー成分Pkを異なる温度において二段階で、つまり中間段階を介して放出する一つの化合物を有する。
【符号の説明】
【0095】
1 粉末コア
2 緩和管
3 反応管
4 ソース
5 マトリックス
6 粉末層
7 補助緩和管
8 拡散バリア
9 補助反応管
10 コーティング
11 補助緩和管
12 ソースポケット
13 粉末充填物
14 ソース小管
15 隙間
16 半径方向に貫通する構造領域
20 半製品
22 ワイヤ半製品
30 ボビン
31 スプール
32 炉
33 超伝導ワイヤ
100 モノフィラメント
101 安定化エレメント
DP 粉末コアの直径
WM 緩和管の壁厚
WR 反応管の壁厚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12