【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一般的なモノフィラメントは、400〜800℃の温度範囲で行われるアニーリング反応において、Nb
3Sn相の組織内に析出物XPkを生成するように構成されているが、合金成分Xは、反応管を介して提供され、かつ(少なくとも一つの)パートナー成分Pkは、モノフィラメント内に設置されたソースによって提供される。アニーリング反応の熱処理の範囲内で、パートナー成分Pkは反応管に拡散し、そこで析出物XPkを形成する。
【0016】
Nb
3Sn相の組織内の析出物は、二つの方法で、電流負荷容量を改善することができる。Nb
3Sn相が生じる前に生成される析出物は、核生成シードを形成し、粒子成長を阻害し、より微細な組織を提供する。結晶粒界は、ピンニングセンターとして機能するため、組織の微細化は、電流負荷容量を高める。Nb
3Sn相が生じる後に生成される析出物は、人工ピンニングセンター(artificial pinning centers、APCs)として利用され、これも同様に電流負荷容量を高めることができる。
【0017】
緩和管を用いることで、粉末コアから反応管へのSnの拡散を制御することができる。粉末コアが同時に(少なくとも一つの)パートナー成分Pk用のソースである場合、緩和管によって反応管へのパートナー成分Pkの拡散に影響を及ぼすこともあり、特に熱処理中の多様なNbSn中間層の形成の間に、反応フロントの前方でまたは反応フロントで、パートナー成分Pk(例えば酸素)の濃度調節ができる。
【0018】
それにより、狙った時間に析出物を生じさせることが可能になる。特に、緩和管およびパートナー成分用の少なくとも一つのソースのサイズならびに位置により、相応する熱処理において、析出物の形成をNb
3Sn相形成の前または後で行うか、またはその際どの程度離して行うかを調節することができる。結晶粒の微細化(Nb
3Sn形成前の析出/酸化による)と点状の析出物(主にNb
3Sn相形成後の析出/酸化による)との間のバランスにより、導体内のピンニングセンターの間隔を、導体の適用目的に合わせて調節することができる。Nb
3Sn相形成前の析出物形成/酸化を行う場合には、より微細なNb
3Sn組織が生じる。Nb
3Sn相形成の後に行う場合には、すでに生じているNb
3Sn組織の内部で析出物が形成される。このプロセスの調節により、広い磁場領域内でNb
3Sn相の特に高い臨界電流密度を得ることができる。
【0019】
先行技術の場合には、パウダー・イン・チューブワイヤ半製品用モノフィラメントについて、粉末コアの粉末混合物を反応管内に直接配置することを想定しているが、発明者の認識によれば、Snおよび場合によりパートナー成分Pkの粉末コアから反応管内への拡散挙動をより効果的に制御するためには、粉末コアが含まれている緩和管を設けるのがよい。粉末コアを反応管に直接接触させることは必要なく、微細なNb
3Sn超伝導ワイヤの電流負荷容量改善のためにはむしろ不利である。モノフィラメントが適切にサイズ決定されている場合を除き、特に酸素のようなパートナー成分を粉末コアから完全に遮断するようなことは、生じない。
【0020】
通常、合金成分Xは金属であり、パートナー成分Pkは酸素であり、かつ析出物XPkは金属酸化物で構成されている。ただし、他のパートナー成分を用いて、非酸化物系析出物を得ることや、特にアニーリング反応の後に、酸化物系析出物なしの超伝導ワイヤを得ることも可能である。
【0021】
本発明の範囲内では、反応管内に一種または数種の合金成分Xを、或いは、一つまたは複数のソース内に一種または数種のパートナー成分Pkを配置することが可能であり、これにより一種または数種の析出物XPkを形成させることもできる。簡単な実施形態の場合には、一種の合金成分Xと、一種のパートナー成分Pkとを使用し、一種の析出成分XPkが得られる。数種のパートナー成分Pkを使用する場合には、これらを共通のソース内に持たせるか、または異なるソースに分配されていてよく、特にそのため、各ソースは一種だけのパートナー成分Pkが持たされている。略語XPkは、析出物内でXとPkとの任意の化学量論比を表す。
【0022】
ソースは、一つまたは複数のソース構造により構成され、このソース構造は、均一な半径方向位置(全てのソース構造が同程度に広がる半径距離に相当する)に配置されている。ソースは、環状または環形に構成されている(モノフィラメントの中心は含まれず、つまり半径方向で内側方向と外側方向とに画定されている)か、または中心に構成されていてもよい(モノフィラメントの中心を含める、つまり半径方向で外側方向だけが画定されている)。ソースが一つだけのソース構造からなる場合、このソースは、通常は完全に(360°にわたり)取り囲むように構成されている。ソースが複数のソース構造からなる場合、これらは通常は環状におよび/または円周方向で一様に分布されるように配置されている。異なるソースは、(重複しない半径距離で)異なる半径方向位置を有する。典型的なソースは、粉末コア(これはこの場合に同時にソース構造である)中の粉末(もしくは粉末部分)により構成されるか、またはモノフィラメント内で環形に取り囲む粉末層(ソース構造として)中の粉末(もしくは粉末部分)により構成されるか、または環状に配置されたソースチューブ(複数のソース構造として)の充填物の粉末(もしくは粉末部分)により構成されるか、またはモノフィラメントの別の構造に接してかまたはその中で環状に配置されたソースポケット(複数のソース構造として)の充填物の粉末(もしくは粉末部分)により構成されるか、またはモノフィラメントの別の構造上を取り囲むコーティング(ソース構造として)により構成される。
【0023】
緩和管は、一般的には、単一組織でかつ好ましくは均一な壁厚で構成されているが、この緩和管は、異なる組成の複数の組み込まれた部分チューブから構成されていてもよい。緩和管の壁厚WMは、大抵は、粉末コアの直径DPに対する比率で相対的に小さく、大抵はWM≦0.2*DPである。
【0024】
緩和管は、一般的には、反応管とは異なる化学組成を有する。緩和管が反応管に接している場合には、緩和管はニオブを含まないか、または反応管よりも明らかに少ないニオブを含み、例えば10.0質量%またはそれ以下のNb、または1.0質量%またはそれ以下のNbを含む。緩和管が反応管に接していない場合には、緩和管は、容易により多くのNbを含むかまたはNbで構成される。しかしながら、緩和管は大抵、例えば50質量%またはそれ以上のCuを含む。
【0025】
Nbおよび少なくとも一つの別の合金成分Xに加えて、反応管はまた、タンタルまたはチタンのような、析出物を形成しないが、Nb
3Sn相の形成および/または電流負荷容量のために必要な他の合金成分を含むことができる。反応管は一貫した構成となっており、基本的に、好ましくは均一な壁厚を有する単一組織を有する。
【0026】
粉末コアは、モノフィラメントの製造および/または変形時に、例えば引き抜き時に、特に加工性を改善するために、Ag、Cu、Sn、C、MoS
2、ステアリン酸および/またはα−BNを含むことができる。さらに、CuはNb
3Sn相形成の触媒として利用することができる。粉末コア内に含まれる元素および化合物は、さらに熱処理中にSn放出および場合によりPk放出を調節するために利用される。
【0027】
モノフィラメントは、大抵はCuまたはCu合金から製造されていて、かつモノフィラメントの外側を取り囲む被覆管(マトリックスとも言う)を備える。この被覆管の内側には、SnまたはPkがCu内に拡散侵入することを防ぎ、かつマトリックスの残留抵抗比(RRR)と熱伝導率を低下させないために、拡散バリアが構成されている。
【0028】
ワイヤ半製品を得るために、多数のモノフィラメントを束ね、場合により多段階で変形させる。ワイヤ半製品は、所望の形状(例えばコイル状)に巻かれ、Nb
3Sn相が、引いては超伝導ワイヤ線材が生成されるアニーリング反応にかけられる。熱処理は、通常、形成される析出物が特定の用途で可能な限り高い電流密度を供給するように選択される。特に、この場合、XとPkとの反応が、Nb
3Sn相形成の前および/または後で局所的に起こるかどうかが重要である。
【0029】
モノフィラメントの一般的な実施形態
本発明によるモノフィラメントの好ましい実施形態では、モノフィラメントは少なくとも一つのパートナー成分Pkのために、異なる半径方向に配置された少なくとも二つのソースQを含む。これらのソースが空間的に(特に半径方向で)異なるように配置されることにより、アニーリング反応の間に必要な、それぞれのソースから反応管へのパートナー成分Pkの拡散時間を、例えば、それぞれの拡散経路の長さによっておよび/または、特に場合により、その間に生じるモノフィラメントの構造を通した拡散速度によって、異なるように調節することができる。したがって、ソースの空間的な分離により、熱処理中に、反応管内の少なくとも二つのソースからの(大抵は両方のソースに対して同じ)パートナー成分Pkの到着時間に差をつけることができ、特にモノフィラメント内に準備されたパートナー成分Pkの物質量の一部は反応管の領域内でNb
3Snの形成の前に供給され、また、一部はNb
3Sn形成の後に供給されるか或いは反応して析出物XPkとなる。結果として、Nb
3Snの結晶粒微細化や調節が可能となり、既存のNb
3Snにおけるピンニングセンターを形成することもできる。それにより、最終的な超伝導ワイヤの特に高い電流負荷容量を達成することが可能である。
【0030】
緩和管が完全にまたは部分的にCu、Ag、Sn、Nb、あるいはそれらの合金で製造されている実施形態も好ましい。これらの材料を用いることで、特に断面積および結束工程を削減でき、より良いモノフィラメント構造を実現できる。緩和管は、異なる材料から、特に上述の金属または合金から製造されている複数の編み込まれた部分管からなることも留意されたい。
【0031】
さらに、少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソースQが粉末を含む実施形態も有利である。好ましくは、全てのソースは粉末を基礎とする。粉末は、変形プロセスの際に、隣接する構造および他の粉末粒子に対して相対的に粉末粒子の運動が可能であり、それにより、特に粉末粒子(例えば金属酸化物粉末)自体が実際に変形可能でない場合でも、モノフィラメントもしくはワイヤ半製品内の材料欠陥を最小化することができる。
【0032】
粉末コア内にソースを備えた実施形態
少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソースQが、粉末コア内に含まれる粉末を含む実施形態が好ましい。粉末コア中の少なくとも一つのパートナー成分用のソースの設置は、簡単に実現でき、相応するPk含有粉末が、Snソースとして利用される粉末に混合されてよい。さらに、このソースからのパートナー成分Pkの拡散挙動は、緩和管によって影響を及ぼされてもよい。
【0033】
この実施形態の有利な発展態様は、粉末コア内に含まれる粉末を含むソースQが、パートナー成分Pkとして酸素を含み、かつ緩和管は、CuまたはCu合金から製造されていることが想定されている。意外にも、Cu含有緩和管を通して粉末コアからの酸素の十分な拡散を得ることができ、良好な電流負荷容量または結晶粒の微細化にとって、ほどよい頃合いでかつ十分な量の析出物が反応管内に形成されることが明らかになった。特に、緩和管の厚み(壁厚)によって、Snおよびパートナー成分Pkの拡散経路を調節することができ、この場合、緩和管内でのSnおよびPkの拡散速度は基本的に異なり(場合により粉末コア内の添加物により支援されて)、かつそれによりXPkの析出のタイミングおよび場所を調節することができる。
【0034】
緩和管の壁厚WMが、
WM≦0.075*DPおよび/またはWM≦0.2*WR
となるように選択される発展態様が特に好ましく、ここでは、DPは粉末コアの直径であり、WRは反応管の壁厚である。緩和管のこの壁厚の場合には、粉末コア内のパートナー成分Pkが酸素である場合を含めて、緩和管を通るパートナー成分Pkの十分に良好な拡散が生じ、特にOに対して障害となる酸化ニオブ遮断層は形成されない。壁厚がこの範囲を越えて変動する場合、壁厚として、上述の式についてそれぞれ最大で生じる壁厚を想定することができる。一般に、モノフィラメントについて0.5〜30の物質量比Pk/Xが有利であることが判明し、同様に一般に、粉末コア中のPkの1〜30原子%の割合も有利である。緩和管の壁厚は、析出物の生成、ひいては導体のインフィールド特性を向上し、かつ場合により適用目的にも合わせられるように選択することができる。好ましくは、WM≧0.02*DPおよび/またはWM≧0.05*WRも当てはまる。
【0035】
さらに、粉末コアが、Cu、Agおよび/またはSnを含み、特に単体のCu、Agおよび/またはSnを含む発展態様が好ましい。それにより、モノフィラメントの加工性は改善され、場合により、特にパートナー成分が酸素である場合に、粉末コア内のパートナー成分Pkの拡散特性を調節することができる。
【0036】
環状ソースを備えた実施形態
好ましい実施形態では、少なくとも一つのパートナー成分Pk用の少なくとも一つのソースQは、環状ソースを含み、この場合、緩和管は、環状ソース内へ放射状に配置される。緩和管の外側の環状ソースを用いて、パートナー成分Pkが緩和管を通過する必要なく、パートナー成分Pkをモノフィラメント内へ導入することができる。緩和管の種類および壁厚は、粉末コアからのSnの所望の拡散挙動に基づいて調節することができる。これによって、拡散プロセスの制御が容易になる。パートナー成分Pkが粉末コアの外側に配置されている場合、Nb
3Sn相形成が始まる前に大量の析出物を形成させるために、特に比較的厚壁でかつ/またはSnにとってあまり透過性でない緩和管を用いて、粉末コアからのNb−Sn相形成を時間的に析出物形成(例えば酸化)と大幅に切り離すことができる。特に、場合により、Pkは反応管へ直接導入してよい(例えば酸素放出)。Pkの導入は、使用するPkの量に応じて、例えばCu粉末のような添加物により調節することができる。環形状は、周囲からパートナー成分のモノフィラメントへの実質的に均一な導入を可能にする。モノフィラメントは、少なくとも一つのパートナー成分Pk用の複数の環状ソースを備えてもよく、この環状ソース内にそれぞれ緩和管が配置されていることが考慮される。特に、反応管の外側と内側に一つずつの環状ソースが設けられているか、または二つの環状ソースが反応管の外側に設けられていてもよい。環状ソースは、一つのソース構造から(例えば取り囲むコーティングとして、若しくは取り囲む粉末層として)形成されているか、または環状に配置された複数の離散したソース構造から(例えばソースポケットまたはソース管の形の粉末充填物から)形成されていてもよい。
【0037】
環状ソースが、取り囲む粉末層内に粉末を含むこの実施形態の発展態様が好ましい。粉末が非金属粒子および/または塑性変形しない粒子を含む場合でも、粉末を使用すれば、良好な変形挙動を得ることができる。この粉末層は、例えば二つの環状構造の間の隙間を埋めるためなど、比較的簡単に導入することができる。
【0038】
別の発展態様において、環状ソースは、環状に配置されたソース管またはソースポケットの粉末充填物の形で粉末を有し、この場合、ソースポケットは、環状ソースに隣接するモノフィラメント構造内に構成されている(円形またはその他の横断面を有していてもよい)。ソース管を用いることによって、モノフィラメントの製造中に、ソース用の粉末の取り扱いを簡素化することができる。特に、ソース管内では、原則として、比較的簡単に、均一でかつ高い粉末密度を得ることができる。ソース管は、特に、銅またはニオブまたはX含有ニオブ合金(具体的には、反応管のX含有ニオブ合金)から製造されていてよい。ソース管は、通常、モノフィラメントとは別の二つの構造の間の、例えば緩和管と反応管との間の、または反応管と補助反応管との間の隙間に挿入される。ソースポケットは、隣接する構造の内側または外側の放射状のくぼみとして、または隣接する構造の空洞として構成されていてよく、ソースポケット内には、通常、取り囲まれた粉末層の場合よりも容易に、均一な粉末密度を得ることができる。環状に配置された複数のソース構造を備えたソースの場合、円周方向でソース構造の間を放射状に貫通する構造領域が残る場合があり、この構造領域は、取り囲む(円周方向で貫通するかまたは区分けされた)ソースと比較してより良好な加工性を提供する。
【0039】
粉末層または粉末充填物が金属粉末を含む場合、金属粉末は、単体のCuもしくはCu合金またはAgもしくはAg合金を含むことが好ましい。金属粉末により、加工性を改善することができ、場合によっては、Pk放出もしくはPk吸収を改善するかまたは適用目的に対して調節することができる。これらのパートナー成分の拡散挙動の調節のためには、特にCu、AgまたはSnが適している。
【0040】
さらなる別の発展態様において、環状ソースは、特に隣接する構造が反応管または緩和管である場合、環状ソースに隣接するモノフィラメント構造を取り囲むコーティングを含む。コーティングは、モノフィラメント内に挿入される前の構造に施すのが比較的簡単である。例えば、スプレーコーティングによって行われてよい。
【0041】
外側の環状ソースを備えた実施形態
さらに、反応管が、環状ソース内部に放射状に配置される場合、環状ソースが反応管の外側を直接取り囲む発展形態が好ましい。反応管内へのパートナー成分の拡散侵入は、粉末コアから反応管内へのSnの拡散とは無関係に、反応管の外側の環状ソースから起こり得る。それにより、両方の拡散プロセスを互いに容易に調整することができる。環状ソースが反応管を直接取り囲む場合、例えば、Nb
3Sn相の形成前に析出物などの効果的な結晶粒微細化のために、特に反応管内へのパートナー成分Pkの導入を迅速に行うことができる。直接取り囲む代わりに、反応管と環状ソースとの間に配置されている補助緩和管を設けることもでき、その結果、アニーリング反応中のパートナー成分の導入時間をより良好に制御することができ、特に遅延させることができる。
【0042】
この場合、好ましくは、モノフィラメントは補助反応管を備え、補助反応管はNbを含み、
特に、補助反応管は少なくとも他に一つの合金成分Xを含み、
かつ、環状ソースは、補助反応管内で放射状に配置されていて、
特に、補助反応管は、環状ソースの外側を直接取り囲むものとされている。環状ソースが、反応管と補助反応管との間に配置されている場合、パートナー成分は、特にこの両方の管の迅速な通過のために、放射状に外側および内側に向かって伝播されてよい。
【0043】
内側の環状ソースを備えた実施形態
環状ソースが、緩和管外で放射状に、かつ反応管内で放射状に配置されている発展態様も有利である。この配置では、パートナー成分とSnとが、同じ側から反応管に到達するため、原則として、Nb
3Sn形成の反応フロントで、SnとPk、ならびにNbとXのバランスのとれた濃度比を達成することができる。特に、パートナー成分は、外部の環状ソースの場合のように、反応管を拡散によって完全に横切る必要はない。その結果、特に高い電流負荷容量を実現することができる。単に緩和管を通したSn拡散を行う場合には、この材料を柔軟に選択することができるため、特にSn透過性の低い材料の使用することも可能である。それにより、Sn拡散およびPk拡散は、混合された粉末コアの場合よりもより強く分離することができる。
【0044】
この場合、モノフィラメントはさらに補助緩和管を備え、環状ソースは補助緩和管内で放射状に配置され、かつ補助緩和管は、反応管内で放射状に配置され、補助緩和管は、環状ソースの外側を直接取り囲むことが好ましい。補助緩和管によって、環状ソースから反応管への拡散侵入を制御することができる。補助緩和管用の一般的な材料は、緩和管用の材料に相応する。
【0045】
化学系についての実施形態
好ましい実施形態では、少なくとも一つのソースは、少なくとも一つのパートナー成分Pkを含む化合物を有し、熱にさらされた化合物は、第一の温度T1で、このパートナー成分Pkと第一の残余化合物とに分解する。第一の残余化合物は、まだこのパートナー成分Pkを含むが、化合物よりも化学量論的割合が低く、さらに熱にさらされると、T2>T1の第二の温度T2で、第一の残余化合物は、このパートナー成分Pkと第二の残余化合物とに分解するものとされている。それにより、パートナー成分Pkを、アニーリング反応中に、(例えば、T1以上の第一の温度プラトーと、T2以上の第二の温度プラトーとで、またはT1に加えてT2までまたはそれをわずかに越える程度までのゆっくりとした温度上昇で)適切な温度プログラムを適用して、異なる時点で放出し、かつそれにより適切に、Nb
3Snの形成前にパートナー成分の一部を提供し、かつ一部をNb
3Snの形成後または形成中に提供することも可能である。酸素を二段階で放出する化合物は、例えば過マンガン酸カリウムである。あるいは、ソースが、パートナー成分Pkと残余化合物とに分解し、この残余化合物はもはやパートナー成分Pkを含まないような化合物を含んでもよい。
【0046】
他の好ましい実施形態では、少なくとも一つのソースQは、少なくとも二つの異なるパートナー成分Pkを含み、このパートナー成分は、アニーリング反応中に少なくとも一つの他の合金成分Xと、異なる種類の析出物XPkを形成することができる。特にこの場合、反応管が少なくとも二つの異なる別の合金成分Xも含み、異なるパートナー成分Pkは、異なる別の合金成分Xの他方と、それぞれ異なる析出物XPkを形成するものとされる。一般的に、二つの異なるパートナー成分は、アニーリング反応の熱処理中に異なるタイミングで放出され、かつ/または異なるパートナー成分は異なる拡散速度を持つ。それにより、結晶粒の微細化およびピンニングセンターの形成によって電流負荷容量を改善するために、析出物をNb
3Sn相の形成の前でも後でも適切に形成することが可能である。
【0047】
また、少なくとも一つのソースQは、それぞれ同じパートナー成分Pkを含む第一の化合物と第二の化合物とを有し、熱処理下で、第一の化合物は、第二の化合物よりも低い温度でパートナー成分Pkを放出する実施形態も好ましい。第一の化合物は、温度T1でPkを放出し、第二の化合物は、T2(この場合T1<T2)でPkを放出する。それによりまた、パートナー成分Pkを、アニーリング反応中に、(例えば、T1以上の第一の温度プラトーと、T2以上の第二の温度プラトーとで、またはT1に加えてT2までもしくはそれをわずかに越える程度までのゆっくりとした温度上昇で)適切な温度プログラムを適用して、異なる時点で放出し、かつそれによりパートナー成分の一部を適切にNb
3Snの形成の前に提供し、かつ一部をNb
3Snの形成の後または形成中に提供することも可能である。
【0048】
少なくとも一つのパートナー成分Pkは酸素を含み、少なくとも一つの合金成分Xは、Nbよりも卑の金属を含む実施形態が特に好ましい。この材料系は、特に簡単にかつ安価に調整することができる。
【0049】
この実施形態の発展態様では、少なくとも一つのパートナー成分Pk用のソースQが、特に金属酸化物が、SnO、SnO
2、CuO、Cu
2O、AgO、Ag
2O、Ag
2O
3、Na
2O
2、CaO
2、ZnO
2、MgO
2、NbO
2またはNb
2O
5である場合、金属酸化物を含む粉末を有する。これらの材料系は、超伝導電流負荷容量の効果的な改善を示し、使用方法が簡単で、かつ安価である。合金成分Xの金属は、パートナー成分Pkの金属酸化物の金属よりも卑であるように選択される。粉末形状の結果として、モノフィラメント中の金属酸化物をより形成しやすい。
【0050】
少なくとも一つの合金成分Xが、元素Mg、Al、V、Zr、Ti、GdまたはHfのうちの一つまたは複数を含む発展態様も好ましい。これらの合金成分は扱いやすく、かつ超伝導ワイヤの電流負荷容量を改善するために有効な析出物を形成する。
【0051】
好ましい実施形態では、析出物XPkは、非酸化物系析出物を含み、具体的には、非酸化物系析出物のみであることが予定されている。非酸化物系析出物XPkの形成においては、パートナー成分は酸素としては選択されない。非酸化物系析出物が形成される場合、パートナー成分はいずれも酸素になり得ない。酸素は、多くの物質に対して、特にモノフィラメントに慣習的に組み込まれているNb、SnおよびCuのような金属に対して高い親和性を持つ。これは、不要な箇所酸化物層が形成され、所望される拡散プロセスが遮断される可能性がある。非酸化物系析出物の使用し、それに相応してパートナー成分として酸素を使用しないことで、この問題の大部分を回避することができる。非酸化物系析出物の反応パートナーは、狙った方法で互いに調和させることができるため、この反応パートナーは、熱処理の際は、本質的に互いのみに反応し、モノフィラメント内で通常使用される他の金属とは反応しない。つまり所望な拡散プロセスを遮断する、望まない副反応を最小化ないし除外することができる。二つのパートナー成分Pkまたは二つの異なるタイプの析出物XPkを有するモノフィラメントにおいては、酸化物系析出物と非酸化物系析出物を想定することも可能である。
【0052】
他の実施形態としては、析出物が非金属系析出物を含み、とりわけ非金属系析出物のみであることが好ましい。非金属系析出物は、取り囲む金属Nb
3Snマトリックスに対して明確な相境界を形成し、このことが磁束ピンニングのために望ましく、特に高い電流負荷容量を可能にする。
【0053】
この実施形態の好ましい発展態様においては、少なくとも一つのパートナー成分Pkは硫黄を含み、少なくとも一つの合金成分Xは亜鉛を含む。硫黄は、元素形態で例えば粉末に導入することができ、または亜鉛より卑の金属の硫化物として、例えば硫化銅に導入することができ、かつ比較的高い反応性がある。硫化亜鉛は、比較的容易に析出物を形成することができる。亜鉛の代わりに、他の卑金属、特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を、合金成分として使用することもできる。
【0054】
また、少なくとも一つのパートナー成分Pkが、ケイ素、炭素またはハロゲンを含む実施形態も好ましい。これらのパートナー成分により、パートナー成分としての酸素の代替物として析出物を形成することができる。合金成分Xとして、これらのパートナー成分の場合、例えばCa(パートナー成分Siの場合、析出物Ca
2Si形成のため、Siは元素形態としてソース中に存在するのが好ましい)またはFe(パートナー成分Cの場合、析出物Fe
3C形成のため、グラファイトがソース中に存在するのが好ましい)またはMg、Al、V、Zr、Ti、Ta、GdまたはHf(パートナー成分のハロゲンの場合、ハロゲン化物系析出物の形成のため、ハロゲン化物として、具体的にはAgF、SnF
2またはトリフルオロ酢酸銅がソース中に存在するのが好ましい)を選択することができる。
【0055】
超伝導ワイヤを製造するための本発明による方法
超伝導ワイヤの製造方法も本発明の範囲内である。この製造方法では、上述の本発明による複数のモノフィラメントを、一または複数の段階で束ねて変形させることで、ワイヤ半製品が得られる。このワイヤ半製品を、巻き付けることで好きな形状にし、かつアニーリング反応を施し、少なくとも一つの合金成分Xと少なくとも一つのパートナー成分Pkから析出物XPkを形成し、かつ反応管のNbと粉末コアのSnからNb
3Snを形成する。この方法を用いて、特に高い電流負荷容量を有する超伝導ワイヤを製造することができる。この形成は、例えば引き抜き作業にも応用することができる。アニーリング反応は、一般的には400℃〜800℃の温度で行われる。
【0056】
本発明のさらなる利便点は、明細書および図面から明らかである。同様に、上述のおよび以下に説明される特徴は、本発明にしたがって、それぞれ、個々にまたはいくつかを任意に組み合わせて使用することができる。図示および説明される実施形態は、すべてを網羅的する詳述と解釈すべきではなく、むしろ本発明の記述用の例示的な特徴を有する。
【0057】
本発明は、図面に概略的に示されており、かつ実施例によって詳細に説明されている。