特許第6910710号(P6910710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6910710
(24)【登録日】2021年7月9日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】電磁加速装置
(51)【国際特許分類】
   F41B 6/00 20060101AFI20210715BHJP
   F41F 7/00 20060101ALI20210715BHJP
   F42B 6/00 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
   F41B6/00
   F41F7/00
   F42B6/00
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-55332(P2017-55332)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-159478(P2018-159478A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 良之
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−251799(JP,A)
【文献】 特開平04−024495(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0243124(US,A1)
【文献】 特開平06−018191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41B 6/00
F41F 7/00
F42B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体を加速させるための加速空間を挟んで対向して配置された一対の導電レールと、
前記一対の導電レールと共に前記加速空間を囲むように前記加速空間を挟んで対向して配置された一対の絶縁レールと、
前記一対の絶縁レールのそれぞれに設けられた冷媒供給パイプと、
前記一対の絶縁レールの前記冷媒供給パイプのそれぞれの前記加速空間側の端部に設けられ、前記加速空間を挟んで対向している他の絶縁レールの前記加速空間に露出している表面に冷媒を吹き付ける冷媒噴射ノズルと、を備え、
前記表面に付着した冷媒が気化するときの潜熱によって、前記絶縁レールが冷却される、
電磁加速装置。
【請求項2】
前記加速空間を前記飛翔体が通過する前に、前記一対の絶縁レールに冷媒が吹き付けられる、
請求項1に記載の電磁加速装置。
【請求項3】
前記一対の絶縁レールの一方に設けられた前記冷媒噴射ノズルは、前記一対の絶縁レールの他方の前記表面の全てに冷媒が付着するように冷媒を吹き付ける、
請求項2に記載の電磁加速装置。
【請求項4】
前記一対の絶縁レールには、前記飛翔体が通過したときの前記絶縁レールの温度上昇によって全てが気化する量の冷媒が吹き付けられる、
請求項2又は3に記載の電磁加速装置。
【請求項5】
一対の前記冷媒供給パイプと一対の前記冷媒噴射ノズルとからなる冷媒噴射機構が、前記飛翔体の進行方向に複数並べて配置される、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電磁加速装置。
【請求項6】
複数の前記冷媒噴射機構は、前記飛翔体の出射口の側では、前記出射口と反対の側と比べて、疎に配置される、
請求項5に記載の電磁加速装置。
【請求項7】
前記冷媒噴射ノズルは、前記一対の導電レールの前記加速空間に露出した表面にも冷媒を吹き付け、
前記導電レールの表面に付着した冷媒が気化するときの潜熱によって、前記導電レールが冷却される、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の電磁加速装置。
【請求項8】
前記一対の絶縁レールのそれぞれに設けられ、前記一対の導電レールを冷却するための冷媒を供給する、導電レール冷却用冷媒供給パイプと、
前記一対の絶縁レールの前記導電レール冷却用冷媒供給パイプのそれぞれの前記加速空間側の端部に設けられ、前記一対の導電レールの前記加速空間に露出している表面に冷媒を吹き付ける導電レール冷却用冷媒噴射ノズルと、を更に備え、
前記導電レールの表面に付着した冷媒が気化するときの潜熱によって、前記導電レールが冷却される、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電磁加速装置。
【請求項9】
一対の前記冷媒供給パイプと一対の前記冷媒噴射ノズルとからなる1以上の第1の冷媒噴射機構と、一対の前記導電レール冷却用冷媒供給パイプと一対の前記導電レール冷却用冷媒噴射ノズルとからなる1以上の第2の冷媒噴射機構とが、前記飛翔体の進行方向で交互に並んで配置される、
請求項8に記載の電磁加速装置。
【請求項10】
前記第1及び第2の冷媒噴射機構は、前記飛翔体の出射口の側では、前記出射口と反対の側と比べて、疎に配置される、
請求項9に記載の電磁加速装置。
【請求項11】
前記飛翔体が前記加速空間を通過したことによって前記一対の導電レールの温度が上昇した後に、前記一対の導電レールに冷媒が吹き付けられる、
請求項7乃至10のいずれか一項に記載の電磁加速装置。
【請求項12】
前記一対の絶縁レールは、前記加速空間を前記飛翔体が通過するときに前記飛翔体から離隔しているように配置される、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の電磁加速装置。
【請求項13】
前記一対の絶縁レールのそれぞれの前記表面には、1又は複数の溝又は凹みが設けられている、
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の電磁加速装置。
【請求項14】
前記一対の絶縁レールの一方に設けられた前記冷媒噴射ノズルと、前記一対の絶縁レールの他方に設けられた前記冷媒噴射ノズルとは、交互に冷媒を噴射する、
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の電磁加速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁加速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁力を用いて飛翔体を加速させる電磁加速装置として、電磁レールガンが知られている。図7に、一般的な電磁レールガンの断面構成を示す(例えば、非特許文献1)。図7は、加速される飛翔体の進行方向に垂直な断面における電磁レールガンの構成を示している。
【0003】
図7に示す電磁レールガン400は、導電レール41及び42、絶縁レール43及び44、冷却パイプ45を有する。導電レール41及び42は、図7の紙面縦方向(Y方向)にそれぞれ離隔して配置される。絶縁レール43及び44は、導電レール41と導電レール42との間に、図7の紙面横方向(X方向)にそれぞれ離隔して配置される。電磁レールガン400の断面中央部には、導電レール41及び42と絶縁レール43及び44とで囲まれた、飛翔体(不図示)が図7の紙面に垂直な方向(すなわち、X方向及びY方向に垂直な方向であるZ方向)に通過する、加速空間40が形成されている。
【0004】
冷却パイプ45は、導電レール41及び42の内部に、複数本がZ方向に延在するように設けられる。冷却パイプ45には冷媒が供給され、電磁レールガン400が飛翔体を加速させるときの冷却を担う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Zielinski, A.E., and M.D.Werst,”Cannon-Caliber Electromagnetic Launcher”, IEEE Trans. On Magn, Vol.33, pp.630-635, January, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記の構成には、レールの冷却の観点から、以下で説明する問題がある。電磁レールガン400では、飛翔体を加速させるときに、導電レール41及び42に電流が供給される。そのため、ジュール損失によって導電レール41及び42が発熱し、温度が上昇する。導電レール41及び42には冷却パイプ45が設けられているため、冷却パイプ45内を冷媒が循環することで、熱伝導によって導電レール41及び42が冷却されることとなる。
【0007】
しかし、導電レール41及び42に電流を流した場合、電流は導電レール41及び42の表面付近を流れる(いわゆる、表皮電流)ため、ジュール損失による発熱も導電レール41及び42の表面付近で生じる。図7では、導電レール41及び42の表面を、それぞれ符号41A及び42Aで示した。導電レール41の表面41A及び導電レール42の表面42Aで生じた熱は、輻射により、絶縁レール43の表面43A及び絶縁レール44の表面44Aをも加熱する。また、絶縁レール43及び44は、加速空間40の内部で極超音速加速される飛翔体が通過するときの衝撃波によっても加熱される。その結果、絶縁レール43及び44も温度が上昇してしまう。
【0008】
しかしながら、電磁レールガン400には、絶縁レール43及び44を冷却する機構がなく、そもそも冷却ができない。
【0009】
もし導電レール41及び42と同様に、絶縁レール43及び44に冷却パイプを設けたとしても、絶縁レール43及び44を構成する絶縁体は導電レール41及び42を構成する導体と比べて熱伝導率が2桁ほど小さい。そのため、絶縁レール43及び44の表面で生じた熱を冷却パイプとの間の熱伝導によって冷却するのは効率が悪く、実質的に絶縁レール43及び44の冷却が困難である。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、電磁加速装置において熱伝導を用いた冷却が困難な部位を冷却することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様である電磁加速装置は、
飛翔体を加速させるための加速空間を挟んで対向して配置された一対の導電レールと、
前記一対の導電レールと共に前記加速空間を囲むように前記加速空間を挟んで対向して配置された一対の絶縁レールと、
前記一対の絶縁レールのそれぞれに設けられた冷媒供給パイプと、
前記一対の絶縁レールの前記冷媒供給パイプのそれぞれの前記加速空間側の端部に設けられ、前記加速空間を挟んで対向している他の絶縁レールの前記加速空間に露出している表面に冷媒を吹き付ける冷媒噴射ノズルと、を有する、ものである。
これにより、熱伝導による冷却が困難な絶縁レールを冷却することができる。
【0012】
本発明の第2の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記加速空間を前記飛翔体が通過する前に、前記一対の絶縁レールに冷媒が吹き付けられる、ものである。
これにより、飛翔体が通過した後に冷媒の潜熱によって絶縁レールを冷却することができる。
【0013】
本発明の第3の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記一対の絶縁レールの一方に設けられた前記冷媒噴射ノズルは、前記一対の絶縁レールの他方の前記表面の全てに冷媒が付着するように冷媒を吹き付ける、ものである。
これにより、絶縁レールを広範囲にわかって冷却することができる。
【0014】
本発明の第4の一態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記一対の絶縁レールには、前記飛翔体が通過したときの前記絶縁レールの温度上昇によって全てが気化する量の冷媒が吹き付けられる、ものである。
これにより、冷却後の余分な冷媒が絶縁レール上に残存することを防止できる。
【0015】
本発明の第5の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
一対の前記冷媒供給パイプと一対の前記冷媒噴射ノズルとからなる冷媒噴射機構が、前記飛翔体の進行方向に複数並べて配置される、ものである。
これにより、絶縁レールを全体にわたって冷却することができる。
【0016】
本発明の第6態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
複数の前記冷媒噴射機構は、前記飛翔体の出射口の側では、前記出射口と反対の側と比べて、疎に配置される、ものである。
これにより、絶縁レールの温度上昇が大きな部位をより効率的に冷却することができる。
【0017】
本発明の第7の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記冷媒噴射ノズルは、前記一対の導電レールの前記加速空間に露出した表面にも冷媒を吹き付ける、ものである。
これにより、熱伝導によっては冷却しきれないおそれがある導電レールの表面を冷却することができる。
【0018】
本発明の第8の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記一対の絶縁レールのそれぞれに設けられ、前記一対の導電レールを冷却するための冷媒を供給する、導電レール冷却用冷媒供給パイプと、
前記一対の絶縁レールの前記導電レール冷却用冷媒供給パイプのそれぞれの前記加速空間側の端部に設けられ、前記一対の導電レールの前記加速空間に露出している表面に冷媒を吹き付ける導電レール冷却用冷媒噴射ノズルと、を更に有する、ものである。
これにより、熱伝導によっては冷却しきれないおそれがある導電レールの表面を冷却することができる。
【0019】
本発明の第9の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
一対の前記冷媒供給パイプと一対の前記冷媒噴射ノズルとからなる1以上の第1の冷媒噴射機構と、一対の前記導電レール冷却用冷媒供給パイプと一対の前記導電レール冷却用冷媒噴射ノズルとからなる1以上の第2の冷媒噴射機構とが、前記飛翔体の進行方向で交互に並んで配置される、ものである。
これにより、絶縁レール及び導電レールの全体にわたって冷媒を吹き付けることができる。
【0020】
本発明の第10の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記第1及び第2の冷媒噴射機構は、前記飛翔体の出射口の側では、前記出射口と反対の側と比べて、疎に配置される、ものである。
これにより、絶縁レール及び導電レールの温度上昇が大きな部位をより効率的に冷却することができる。
【0021】
本発明の第11の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記飛翔体が前記加速空間を通過したことによって前記一対の導電レールの温度が上昇した後に、前記一対の導電レールに冷媒が吹き付けられる、ものである。
これにより、温度が上昇した導電レールを確実に冷却することができる。
【0022】
本発明の第12の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記一対の絶縁レールは、前記加速空間を前記飛翔体が通過するときに前記飛翔体から離隔しているように配置される、ものである。
これにより、飛翔体が通過するときに、絶縁レールによるトラッキングの発生を防止できる。
【0023】
本発明の第13の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記一対の絶縁レールのそれぞれの前記表面には、1又は複数の溝又は凹みが設けられている、ものである。
これにより、絶縁レールの表面積を大きくして冷媒の付着面積を増加させ、冷媒の潜熱による冷却の効果を高めることができる。
【0024】
本発明の第14の態様である電磁加速装置は、上記の電磁加速装置であって、
前記一対の絶縁レールの一方に設けられた前記冷媒噴射ノズルと、前記一対の絶縁レールの他方に設けられた前記冷媒噴射ノズルとは、交互に冷媒を噴射する、ものである。
これにより、対向する噴射ノズルから噴射される冷媒が衝突することを防止し、所望の絶縁レールの表面に、より確実に冷媒を付着させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電磁加速装置において熱伝導を用いた冷却が困難な部位を冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施の形態1にかかる電磁加速装置の構成を模式的に示す図である。
図2】実施の形態1にかかる電磁加速装置の図1のII−II線における断面構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態1にかかる電磁加速装置の図1のIII−III線における断面を模式的に示す図である。
図4】実施の形態1にかかる電磁加速装置での冷媒の吹き付けを示す図である。
図5】実施の形態2にかかる電磁加速装置の冷媒の吹き付けを示す図である。
図6】実施の形態3にかかる電磁加速装置の断面を模式的に示す図である。
図7】一般的な電磁レールガンの断面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面においては、同一要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
【0028】
実施の形態1
実施の形態1にかかる電磁加速装置について説明する。図1に、実施の形態1にかかる電磁加速装置100の構成を模式的に示す。図1では、紙面横方向に平行なZ軸の正方向(紙面右方向)を飛翔体の進行方向とする。
【0029】
電磁加速装置100はいわゆるレールガンとも称される装置であり、一対の導電レール1及び2の間に保持された飛翔体21の後部の電機子22に直流電流を供給することで、電磁力(ローレンツ力)によって飛翔体21を射出するものとして構成される。
【0030】
導電レール1及び2は、加速空間10を挟んで対向するように、図1の紙面縦方向(Y方向)に離隔して配置される。ここで、加速空間10とは、Y方向とX方向(図1の紙面に垂直な方向)とに垂直なZ方向(図1の紙面横方向)に延在している空間であり、飛翔体21が出射元13から出射口14へ向けて加速されながら通過する空間である。導電レール1は例えば直流電源(不図示)の正極と接続され、導電レール2は例えば直流電源(不図示)の負極と接続される。飛翔体21は、導電レール1と導電レール2との間に保持されている。そして、導電レール1、電機子22及び導電レール2に電流Irを流すことで、ローレンツ力によって飛翔体21が出射元13から出射口14へ向けて加速され、出射口14から射出される。
【0031】
本構成では、飛翔体21と電機子22とは物理的に分離しており、飛翔体21が出射口14から射出された後には、電機子22は飛翔体21から離脱するものとする。但し、飛翔体21と電機子22とが一体的に構成されており、飛翔体21と電機子22とが出射口14から射出された後でも分離せずに飛翔することを除外するものではない。
【0032】
なお、導電レール1及び2の間には、導電レール1及び2を支持、固定するために、一対の絶縁レール3及び4が設けられている。絶縁レール3及び4は絶縁体により構成されており、導電レール1及び2に電流を流した場合でも絶縁レール3及び4には電流が流れないように構成されている。なお、図1では、導電レール1及び2、飛翔体21、電機子22の位置関係を把握しやすくするため、絶縁レール3及び4の表示を省略している。
【0033】
次いで、電磁加速装置100の断面構成について説明する。図2に、実施の形態1にかかる電磁加速装置100の図1のII−II線における断面構成を模式的に示す。図2に示す電磁加速装置100は、導電レール1及び2、絶縁レール3及び4、冷却パイプ5、冷媒供給パイプ6及び7、冷媒噴射ノズル8及び9を有する。
【0034】
導電レール1及び2は、図2の紙面縦方向(Y方向)に、加速空間10を挟んで対向するように離隔して配置される。絶縁レール3及び4は、導電レール1と導電レール2との間に、加速空間10を挟んで対向するように、X方向に離隔して配置される。
【0035】
すなわち、導電レール1及び2と絶縁レール3及び4とは、共に加速空間10を囲むように配置される。
【0036】
なお、絶縁レール3及び4は、飛翔体が加速空間10を通過するときに、絶縁レール3及び4と飛翔体との間に所定の距離が存在するように設けられる。
【0037】
冷却パイプ5は、導電レール1及び2の内部に、複数本がZ方向に延在するように設けられる。冷却パイプ5には冷媒が供給され、熱伝導によって導電レール1及び2を冷却する。
【0038】
冷媒供給パイプ6は、絶縁レール3の内部に、X方向に延在するように設けられる。冷媒供給パイプ6の加速空間10側の端部には、冷媒噴射ノズル8が設けられる。これにより、冷媒供給パイプ6に供給された冷媒は、冷媒供給パイプ6を通過して冷媒噴射ノズル8から噴出する。
【0039】
冷媒供給パイプ7は、絶縁レール4の内部に、X方向に延在するように設けられる。冷媒供給パイプ7の加速空間10側の端部には、冷媒噴射ノズル9が設けられる。これにより、冷媒供給パイプ7に供給された冷媒は、冷媒供給パイプ7を通過して冷媒噴射ノズル9から噴出する。
【0040】
ガイド11は、加速空間10内を通過する飛翔体をガイドするために設けられるものである。この例では、ガイド11は、図2に示す四角形の加速空間10の四隅のそれぞれに設けられている。なお、図2のガイド11の配置及び数は例示に過ぎず、図2の例には限定されない。
【0041】
次いで、冷媒供給パイプ6及び7、冷媒噴射ノズル8及び9の飛翔体の進行方向における配置について説明する。本実施の形態では、冷媒供給パイプ6及び7、冷媒噴射ノズル8及び9は、飛翔体の進行方向に複数組並んで配置される。図3に、図1のIII−III線における電磁加速装置100の断面を模式的に示す。
【0042】
図3に示すように、電磁加速装置100における飛翔体の進行方向、すなわちZ方向へ、冷媒供給パイプ6及び7、冷媒噴射ノズル8及び9が複数個配置されている。ここでは、飛翔体の進行方向に垂直な同一面(同じX−Y平面)に配置されている冷媒供給パイプ6及び7、冷媒噴射ノズル8及び9を、まとめて冷媒噴射機構12としている。
【0043】
冷媒噴射機構12は、配管17によって冷媒供給ポンプ15及び16と連結されている。冷媒供給ポンプ15は、絶縁レール3に設けられた冷媒供給パイプ6及び冷媒噴射ノズル8に冷媒を供給する。冷媒供給ポンプ16は、絶縁レール4に設けられた冷媒供給パイプ7及び冷媒噴射ノズル9に冷媒を供給する。
【0044】
この例では、飛翔体の出射元13の側では複数の冷媒噴射機構12が密に配置され、出射口14の側では複数の冷媒噴射機構12が疎に配置されている。
【0045】
次いで、電磁加速装置100の冷却動作について説明する。図4に、実施の形態1にかかる電磁加速装置100での冷媒の吹き付けを示す。電磁加速装置100では、飛翔体を加速させるときに、導電レール1及び2に電流が供給されるため、ジュール損失によって導電レール1及び2の温度が上昇する。導電レール1及び2には上記したとおり冷却パイプ5が設けられているため、冷却パイプ5内を冷媒が循環することで、熱伝導によって導電レール1及び2を冷却することができる。
【0046】
しかし、上述したように、導電レール1及び2に電流を流した場合、電流は、導電レール1及び2の表面付近を流れる(いわゆる、表皮電流)ため、ジュール損失による発熱も導電レール1及び2の表面付近で生じる。図4では、導電レール1及び2の表面を、それぞれ符号1A及び2Aで示した。導電レール1の表面1A及び導電レール2の表面2Aで生じた熱は、輻射により、絶縁レール3の表面3A及び絶縁レール4の表面4Aに至り、絶縁レール3及び4も加熱する。
【0047】
また、絶縁レール3及び4は、加速空間10の内部で極超音速加速される飛翔体が通過するときの衝撃波によっても加熱される。
【0048】
そこで、実施の形態1にかかる電磁加速装置100では、絶縁レール3及び4を冷却するために、冷媒供給パイプ6及び7、冷媒噴射ノズル8及び9が設けられている。
【0049】
加速空間10の内部を飛翔体が通過する前に、すなわち、飛翔体の加速開始前に、冷媒噴射ノズル8からは、冷媒噴射ノズル8が設けられた絶縁レール3の表面3Aと対向する絶縁レール4の表面4Aへ向けて、冷媒が噴射される。このとき、冷媒噴射ノズル8は、加速空間10に露出した絶縁レール4の表面4Aの全体に冷媒が付着するように、例えば冷媒を広範囲に噴射、又は、ノズルからの冷媒の噴射方向を変化させて表面4Aを走査するようにしてもよい。
【0050】
また、冷媒噴射ノズル8の場合と同様に、加速空間10の内部を飛翔体が通過する前に、すなわち、飛翔体の加速開始前に、冷媒噴射ノズル9からは、冷媒噴射ノズル9が設けられた絶縁レール4の表面4Aと対向する絶縁レール3の表面3Aへ向けて、冷媒が噴射される。このとき、冷媒噴射ノズル9は、加速空間10に露出した絶縁レール3の表面3Aの全体に冷媒が付着するように、例えば冷媒を広範囲に噴射、又は、ノズルからの冷媒の噴射方向を変化させて表面3Aを走査するようにしてもよい。
【0051】
なお、冷媒噴射ノズル8及び9が同時に冷媒を噴射すると、両者から噴射された冷媒が図2に示した加速空間10の中央付近で衝突してしまい、冷媒が絶縁レールの表面に到達することが妨げられるおそれが生じ得る。そのため、冷媒噴射ノズル8及び9は、時間差をつけて交互に冷媒を噴射することがより好ましい。これを実現するためには、例えば上述した冷媒供給ポンプ15及び16を、時間差をつけて交互に動作させることで、冷媒噴射ノズル8及び9から交互に冷媒を噴射させることができる。
【0052】
これにより、飛翔体の加速開始前に、絶縁レール3及び4の表面に冷媒を付着させることができる。その後、加速空間10を飛翔体が通過すると、上述したとおり絶縁レール3及び4が加熱される。加熱によって、絶縁レール3及び4の表面に付着した冷媒が気化し、これによる潜熱(すなわち気化熱)によって、絶縁レール3及び4の表面が冷却される。
【0053】
このとき、絶縁レール3の表面3Aの面積及び絶縁レール4の表面4Aの面積が大きいほど、表面3A及び4Aに付着する冷媒が多くなるので、潜熱による冷却効果を大きくすることができる。よって、絶縁レール3の表面3Aの面積及び絶縁レール4の表面4Aの面積は、大きいことが望ましい。よって、絶縁レール3の表面3Aの面積及び絶縁レール4の表面4Aに、1又は複数の溝又は凹みを設けることで、その表面積を大きくしてもよい。
【0054】
また、絶縁レール3の表面3A及び絶縁レール4の表面4Aには冷媒が付着するため、トラッキングの問題が生じるおそれがある。これに対して本構成では、上述したように、飛翔体が加速空間10を通過するときに絶縁レール3及び4と飛翔体との間に所定の距離が存在するように、絶縁レール3及び4が配置される。よって、所定の距離を適切に設計することで、トラッキングの発生を好適に防止することができる。
【0055】
本構成によれば、冷媒の潜熱によって絶縁レール3及び4を冷却することができる。特に、絶縁レール3及び4において、加熱される表面と潜熱によって冷却される表面とが同じであるので、すみやかに絶縁レール3及び4の表面を冷却することができる。
【0056】
また、絶縁レール3及び4を構成する絶縁体は、例えば導電レール1及び2を構成する導体と比べて熱伝導率が2桁ほど小さいため、導電レール1及び2で用いた熱伝導による冷却は効率が悪い。これに対し、本構成では、加熱される表面と冷却される表面とが同じで、両者の距離がない又は近接しているため、絶縁レール3及び4の熱伝導によらず、効率的に絶縁レール3及び4を冷却することができる。
【0057】
以上、本構成によれば、電磁加速装置100において熱伝導を用いた冷却が困難な部位である絶縁レール3及び4を冷却することができる。
【0058】
更に、図3に示すように、冷媒供給パイプ6及び7、冷媒噴射ノズル8及び9で構成される冷媒噴射機構12が飛翔体の進行方向(Z方向)に複数個並んで配置されているので、電磁加速装置100の全体にわたって絶縁レール3及び4を冷却することが可能となる。また、冷媒噴射機構12は、出射口14の側では疎に配置され、その反対側である出射元13の側では密に配置されているので、発熱が大きな出射元13の側では発熱の小さな出射口14の側と比べて、より冷却効率を高めることが可能となる。
【0059】
なお、冷媒は、飛翔体の通過後に全て冷媒が気化するように予め決定された量が、例えばパルス状に噴射されるようにしてもよい。
【0060】
また、冷媒は、潜熱が大きなものが好ましく、コスト及び入手の容易性からは水が好ましい。
【0061】
実施の形態2
実施の形態2にかかる電磁加速装置について説明する。電磁加速装置200は、実施の形態1にかかる電磁加速装置100と比較して、冷媒噴射ノズル8及び9から、更に広範囲に冷媒を噴射できる点で相違するものである。具体的には、電磁加速装置200は、冷媒噴射ノズル8及び9から、絶縁レール3及び4だけでなく、導電レール1及び2へも冷媒を吹き付けることが可能に構成される。
【0062】
以下、電磁加速装置200の冷却動作について説明する。図5に、実施の形態2にかかる電磁加速装置200での冷媒の吹き付けを示す。電磁加速装置200における絶縁レール3及び4への冷媒の吹き付けは、実施の形態1にかかる電磁加速装置100と同様であるので、説明を省略する。以下、電磁加速装置200における導電レール1及び2への冷媒の吹きつけについて説明する。
【0063】
電磁加速装置200では、冷媒噴射ノズル8及び9は、冷媒の噴射方向を変更可能に構成されている。これにより、冷媒噴射ノズル8及び9は、導電レール1の表面1A及び導電レール2の表面2Aにも冷媒を付着させることができる。
【0064】
本実施の形態では、導電レール1及び2への冷媒の吹き付けは、加速空間10を飛翔体が通過して、導電レール1及び2の温度が上昇した後、好適には直後に行うことが好ましい。これにより、温度が上昇した導電レール1及び2をすみやかに冷却することができる。
【0065】
よって、本構成によれば、導電レール1及び2に電流が供給されて、飛翔体が加速空間10を通過した後、導電レール1の表面1A及び導電レール2の表面2Aに冷媒噴射ノズル8及び9から冷媒を吹き付けることによって、冷媒の潜熱(すなわち気化熱)によって、導電レール1及び2の表面が冷却される。よって、冷媒の潜熱によって導電レール1及び2を冷却することができる。特に、導電レール1及び2において、加熱される表面と潜熱によって冷却される表面とが同じとなるので、すみやかに導電レール1及び2の表面を冷却することができる。
【0066】
また、導電レール1及び2を構成する導体は、絶縁レール3及び4を構成する絶縁体と比べて熱伝導率が2桁ほど大きく、熱伝導は良好であるものの、加熱が生じる表面1A及び2Aと冷却パイプ5との間にはある程度の距離があるため、熱伝導による冷却が間に合わない事態が生じるおそれがある。これに対し、導電レール1及び2において、加熱される表面と冷却される表面とが同じで、両者の距離がない又は近接しているため、熱伝導の制約を受けることなく、効率的に導電レール1及び2を冷却することができる。
【0067】
実施の形態3
実施の形態3にかかる電磁加速装置について説明する。実施の形態3にかかる電磁加速装置300は、実施の形態1及び2にかかる電磁加速装置の変形例である。図6に、実施の形態3にかかる電磁加速装置300の断面を模式的に示す。図6では、図3と同様に、図1のIII−III線における断面と同等の断面を示している。
【0068】
実施の形態1では、電磁加速装置100の冷媒噴射ノズル8及び9は絶縁レール3及び4へ冷媒を噴射するものと説明した。また、実施の形態2では、電磁加速装置100の冷媒噴射ノズル8及び9は絶縁レール3及び4と、導電レール1及び2とへ冷媒を噴射するものと説明した。これに対し、本構成では、導電レール1及び2へ冷媒を噴射する冷媒噴射ノズル8及び9と、絶縁レール3及び4へ冷媒を噴射する冷媒噴射ノズル8及び9と、が別々に設けられており、飛翔体21の進行方向(Z方向)に並んで配置されている。
【0069】
図6では、絶縁レール3及び4へ冷媒を噴射するための冷媒供給パイプ6及び7と冷媒噴射ノズル8及び9とを含む冷媒噴射機構12を、冷媒噴射機構12Aとして表示している。また、導電レール1及び2へ冷媒を噴射するための冷媒供給パイプ6及び7と冷媒噴射ノズル8及び9とを含む冷媒噴射機構12を、冷媒噴射機構12Bとして表示している。
【0070】
ここでは、冷媒噴射機構12Aを第1の冷媒噴射機構とも称し、冷媒噴射機構12Bを第2の冷媒噴射機構とも称する。冷媒噴射機構12Bの冷媒供給パイプ6及び7を導電レール冷却用冷媒供給パイプとも称し、冷媒噴射機構12Bの冷媒噴射ノズル8及び9を導電レール冷却用冷媒噴射ノズルとも称する。
【0071】
冷媒噴射機構12Aは、配管17Aによって冷媒供給ポンプ15A及び16Aと連結されている。冷媒供給ポンプ15Aは、冷媒噴射機構12Aの絶縁レール3に設けられた冷媒供給パイプ6及び冷媒噴射ノズル8に冷媒を供給する。冷媒供給ポンプ16Aは、冷媒噴射機構12Aの絶縁レール4に設けられた冷媒供給パイプ7及び冷媒噴射ノズル9に冷媒を供給する。
【0072】
冷媒噴射機構12Bは、配管17Bによって冷媒供給ポンプ15B及び16Bと連結されている。冷媒供給ポンプ15Bは、冷媒噴射機構12Bの絶縁レール3に設けられた冷媒供給パイプ6及び冷媒噴射ノズル8に冷媒を供給する。冷媒供給ポンプ16Bは、冷媒噴射機構12Bの絶縁レール4に設けられた冷媒供給パイプ7及び冷媒噴射ノズル9に冷媒を供給する。
【0073】
本構成によれば、実施の形態2にかかる電磁加速装置200と同様に、導電レール1及び2、絶縁レール3及び4を両方とも冷却することができる。また、電磁加速装置200と比べて、冷媒の広範囲に噴射するノズルを用いなくてもよいので、冷媒噴射ノズル8及び9の構造を簡素化できる点で有利である。
【0074】
その他の実施の形態
図3及び図6に示した例では、冷媒噴射機構が出射元側では密に、出射口側では疎に
配置されているが、これは例示に過ぎない。例えば、飛翔体の進行方向(Z方向)において任意に冷媒噴射機構を配置してもよく、例えば複数の冷媒噴射機構を均一に配置してもよい。また、図6の例では、冷媒噴射機構12Aと冷媒噴射機構12Bとが交互に配置されるものとしたが、これは例示に過ぎない。たとえば、1以上の冷媒噴射機構12Aと1以上の冷媒噴射機構12BとがZ方向に並んで配置されており、かつ、冷媒噴射機構12A及び冷媒噴射機構12Bの一方又は両方が2つ以上連続している箇所が存在していてもよい。
【0075】
上述の実施の形態では、絶縁レール3と絶縁レール4とは分離された部材として説明したが、加速空間10を確保できる限り、他の部材を介して接合されてもよく、又は、図示しない接合部を有する一体的な部材として構成されてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1、2、41、42 導電レール
1A 導電レール1の表面
2A 導電レール2の表面
3、4、43、44 絶縁レール
3A 絶縁レール3の表面
4A 絶縁レール4の表面
5、45 冷却パイプ
6、7 冷媒供給パイプ
8、9 冷媒噴射ノズル
10、40 加速空間
11 ガイド
12、12A、12B 冷媒噴射機構
13 出射元
14 出射口
15、15A、15B、16、16A、16B 冷媒供給ポンプ
17、17A、17B 配管
21 飛翔体
22 電機子
41A 導電レール41の表面
42A 導電レール42の表面
43A 絶縁レール43の表面
44A 絶縁レール44の表面
100、200、300 電磁加速装置
400 電磁レールガン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7