特許第6910741号(P6910741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6910741
(24)【登録日】2021年7月9日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】アーク炉用電極昇降装置
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/28 20060101AFI20210715BHJP
   F27D 11/08 20060101ALI20210715BHJP
   H05B 7/18 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
   F27B3/28
   F27D11/08 G
   H05B7/18
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-167133(P2018-167133)
(22)【出願日】2018年9月6日
(65)【公開番号】特開2020-41710(P2020-41710A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2020年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豪也
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−014306(JP,A)
【文献】 特開2017−098177(JP,A)
【文献】 特開2003−083680(JP,A)
【文献】 実開昭56−156339(JP,U)
【文献】 中国特許出願公開第104567446(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/00− 3/28
F27D 11/00−11/12
H05B 7/00− 7/22
C21C 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼用アーク炉に用いられ、アーク放電を行うための電極を昇降する駆動装置と接続され、前記駆動装置による前記電極の昇降を制御するアーク炉用電極昇降装置において、
前記電極に供給される電流の電流実測値を検出するとともに、前記電極に印加される電圧の電圧実測値を検出する電流電圧検出部と、
前記電極に供給される電流の基準となる電流設定値の設定を可能にするとともに、前記電極に印加される電圧の基準となる電圧設定値の設定を可能にする電流電圧設定部と、
前記電流実測値と前記電圧実測値から求められる前記アーク放電の実測インピーダンスと前記電流設定値と前記電圧設定値から求められる前記アーク放電の設定インピーダンスとのインピーダンス偏差を算出するインピーダンス偏差算出部と、
前記インピーダンス偏差を基に、前記実測インピーダンスが前記設定インピーダンスに追従するように前記駆動装置を制御するための制御信号を生成するインピーダンス一定制御部と、
前記インピーダンス偏差を基に、前記製鋼用アーク炉内の状況を判定する炉況判定部と、
前記製鋼用アーク炉内の状況の判定結果を基に、前記電極の昇降駆動の感度及び不感帯を自動的に設定する感度不感帯自動設定部と、
前記制御信号と、設定された前記感度及び不感帯と、を基に、前記駆動装置に入力する指令値を生成し、生成した前記指令値を前記駆動装置に入力する指令値生成部と、
を備えたアーク炉用電極昇降装置。
【請求項2】
前記炉況判定部は、前記インピーダンス偏差と、前記インピーダンス偏差の継続時間と、前記製鋼用アーク炉内の状況と、を関連付けたテーブルデータを有し、算出された前記インピーダンス偏差と、前記インピーダンス偏差の継続時間と、を基に、前記テーブルデータを参照することにより、前記製鋼用アーク炉内の状況を判定する請求項1記載のアーク炉用電極昇降装置。
【請求項3】
前記感度不感帯自動設定部は、前記製鋼用アーク炉内の状況と、前記感度及び不感帯と、を関連付けたテーブルデータを有し、前記炉況判定部の判定結果を基に、前記テーブルデータを参照することにより、前記感度及び不感帯を自動的に設定する請求項1又は2に記載のアーク炉用電極昇降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電極とスクラップの間でアーク放電を発生させることによりスクラップを溶解させる製綱用アーク炉のアーク炉用電極昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼用アーク炉において、アーク放電を行うための電極をアーク炉用電極昇降装置によって自動的に昇降させることにより、電極とスクラップとの間の距離を一定となるように制御し、安定したアーク放電を得られるようにすることが行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
アーク炉用電極昇降装置は、例えば、アーク放電のインピーダンスの検出値と予め設定された設定値との偏差を求め、この偏差を使用してインピーダンスの検出値が設定値に追従するように電極の昇降を制御する。これにより、電極とスクラップとの間の距離を一定となるように制御することができる。
【0004】
また、こうしたアーク炉用電極昇降装置において、電極の昇降駆動の感度及び不感帯を設定することが行われている。これにより、電極の過敏な昇降動作を抑制することができる。例えば、電極が離れすぎてアーク切れが生じてしまうことなどを抑制することができる。
【0005】
感度及び不感帯は、予め数パターン設定された固定値から手動選択することによって設定される。しかしながら、感度及び不感帯は、アーク炉内の状況に応じて変更する必要がある。このため、手動選択によって設定する構成では、アーク炉内の状況に対して最適ではない値が設定されてしまう可能性がある。また、設定の変更に時間がかかってしまう場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−335058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、電極の昇降動作の感度及び不感帯を簡単且つ確実に設定可能なアーク炉用電極昇降装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係るアーク炉用電極昇降装置は、製鋼用アーク炉に用いられ、アーク放電を行うための電極を昇降する駆動装置と接続され、前記駆動装置による前記電極の昇降を制御するアーク炉用電極昇降装置において、前記電極に供給される電流の電流実測値を検出するとともに、前記電極に印加される電圧の電圧実測値を検出する電流電圧検出部と、前記電極に供給される電流の基準となる電流設定値の設定を可能にするとともに、前記電極に印加される電圧の基準となる電圧設定値の設定を可能にする電流電圧設定部と、前記電流実測値と前記電圧実測値から求められる前記アーク放電の実測インピーダンスと前記電流設定値と前記電圧設定値から求められる前記アーク放電の設定インピーダンスとのインピーダンス偏差を算出するインピーダンス偏差算出部と、前記インピーダンス偏差を基に、前記実測インピーダンスが前記設定インピーダンスに追従するように前記駆動装置を制御するための制御信号を生成するインピーダンス一定制御部と、前記インピーダンス偏差を基に、前記製鋼用アーク炉内の状況を判定する炉況判定部と、前記製鋼用アーク炉内の状況の判定結果を基に、前記電極の昇降駆動の感度及び不感帯を自動的に設定する感度不感帯自動設定部と、前記制御信号と、設定された前記感度及び不感帯と、を基に、前記駆動装置に入力する指令値を生成し、生成した前記指令値を前記駆動装置に入力する指令値生成部と、を備えたアーク炉用電極昇降装置である。
【発明の効果】
【0009】
電極の昇降動作の感度及び不感帯を簡単且つ確実に設定可能なアーク炉用電極昇降装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るアーク炉用電極昇降装置を模式的に表すブロック図である。
図2】指令値生成部の動作の一例を模式的に表すグラフ図である。
図3】炉況判定部の動作の一例を模式的に表す表である。
図4】感度不感帯自動設定部の動作の一例を模式的に表す表である。
図5】実施形態に係るアーク炉用電極昇降装置の動作の一例を模式的に表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係るアーク炉用電極昇降装置を模式的に表すブロック図である。
図1に表したように、アーク炉用電極昇降装置10は、変流器12と、変圧器14と、主幹制御装置16と、を備える。
【0013】
アーク炉用電極昇降装置10は、製鋼用アーク炉2に用いられる。製鋼用アーク炉2は、例えば、三相交流アーク炉である。但し、製鋼用アーク炉2は、三相交流アーク炉に限ることなく、直流アーク炉などでもよい。以下では、製鋼用アーク炉2を三相交流アーク炉として説明を行う。
【0014】
製鋼用アーク炉2は、炉体3と、電極4と、を備える。炉体3は、スクラップ5を装入可能としている。電極4は、炉体3の上方に配置される。電極4は、駆動装置6に接続され、駆動装置6によって昇降される。また、電極4は、炉用変圧器7の二次側に接続されている。炉用変圧器7の一次側は、三相交流電源(図示せず)に接続されている。これにより、炉用変圧器7を介して電極4に電流が供給される。
【0015】
駆動装置6は、モータやインバータなどからなる電動式でもよいし、油圧シリンダやモータなどからなる油圧式でもよい。駆動装置6の構成は、電極4を昇降可能な任意の構成でよい。
【0016】
製鋼用アーク炉2では、電極4をスクラップ5の上方に離間させて配置する。そして、電極4に電流を供給し、電極4とスクラップ5との間にアーク放電を発生させることにより、放電熱によって炉体3に装入されたスクラップ5を融解させる。これにより、製鋼用アーク炉2によって製鋼が行われる。
【0017】
なお、図1では図示を省略しているが、三相交流アーク炉では、三相交流の各相に対応する3本の電極4が設けられる。駆動装置6は、例えば、3本の電極4のそれぞれを個別に昇降する。各相の3本の電極4の動作は、実質的に同じである。従って、以下では、1つの相の1つの電極4の動作についてのみ説明を行う。
【0018】
変流器12は、炉用変圧器7の二次側と磁気的に結合している。これにより、変流器12は、電極4に供給される電流を検出する。電極4に供給される電流は、換言すれば、電極4とスクラップ5との間のアーク放電のアーク電流である。変流器12は、主幹制御装置16と接続されている。変流器12は、電極4に供給される電流の電流実測値Iを主幹制御装置16に入力する。変流器12は、実際には、各相の電流実測値Iを検出し、各相の電流実測値Iを主幹制御装置16に入力する。なお、電極4に供給される電流の検出は、変流器12に限ることなく、電極4に供給される電流を検出可能な任意の電流検出器でよい。
【0019】
変圧器14の一次側は、炉用変圧器7の二次側と接続されている。これにより、変圧器14は、電極4に印加される電圧を検出する。より詳しくは、変圧器14は、電極4とスクラップ5との間に印加される電圧を検出する。電極4に印加される電圧は、換言すれば、電極4とスクラップ5との間のアーク放電のアーク電圧である。変圧器14の二次側は、主幹制御装置16と接続されている。変圧器14は、電極4に印加される電圧の電圧実測値Vを主幹制御装置16に入力する。変圧器14は、実際には、各相の電圧実測値Vを検出し、各相の電圧実測値Vを主幹制御装置16に入力する。なお、電極4に印加される電圧の検出は、変圧器14に限ることなく、電極4に印加される電圧を検出可能な任意の電圧検出器でよい。
【0020】
主幹制御装置16は、入力された電流実測値I及び電圧実測値Vを基に、電極4とスクラップ5との間のアーク放電のインピーダンスを計算する。そして、主幹制御装置16は、計算したインピーダンスを基に、駆動装置6による電極4の昇降を制御するための指令値を生成し、生成した指令値を駆動装置6に入力する。主幹制御装置16は、例えば、電極4の昇降の速度を表す速度基準信号を指令値として生成し、駆動装置6に入力する。駆動装置6は、入力された速度基準信号に応じた速度となるように、電極4を昇降する。このように、アーク炉用電極昇降装置10は、製鋼用アーク炉2に用いられ、アーク放電を行うための電極4を昇降する駆動装置6と接続され、駆動装置6による電極4の昇降を制御する。
【0021】
主幹制御装置16は、例えば、インピーダンスが実質的に一定となるように速度基準信号を生成する。換言すれば、主幹制御装置16は、電極4とスクラップ5との間の距離が実質的に一定となるように速度基準信号を生成する。主幹制御装置16は、電極4とスクラップ5との間の距離が実質的に一定となるように、駆動装置6による電極4の昇降動作を制御する。これにより、電極4とスクラップ5との間において、アーク切れや過電流状態の発生を抑制し、安定したアーク放電を行うことができる。
【0022】
なお、主幹制御装置16の生成する指令値は、速度基準信号に限ることなく、インピーダンス(電極4とスクラップ5との間の距離)を実質的に一定に制御することができる任意の指令値でよい。指令値は、例えば、駆動装置6の構成などに応じて適宜設定すればよい。
【0023】
主幹制御装置16は、電流電圧検出部31と、電流電圧設定部32と、インピーダンス偏差算出部33と、インピーダンス一定制御部34と、炉況判定部35と、感度不感帯自動設定部36と、指令値生成部37と、を有する。
【0024】
電流電圧検出部31は、変流器12からの入力に基づいて電流実測値Iを検出するとともに、変圧器14からの入力に基づいて電圧実測値Vを検出する。
【0025】
電流電圧設定部32は、電極4に供給される電流の基準となる電流設定値Iの設定を可能にするとともに、電極4に印加される電圧の基準となる電圧設定値Vの設定を可能にする。電流電圧設定部32は、例えば、オペレータなどによる手動操作を受け付ける操作部を有し、操作部の操作に応じて電流設定値I及び電圧設定値Vを設定する。換言すれば、電流電圧設定部32は、操作部の操作によって入力された電流値及び電圧値をそれぞれ電流設定値I及び電圧設定値Vとして設定する。
【0026】
電流電圧設定部32の構成は、手動操作によって電流設定値I及び電圧設定値Vを設定する構成に限定されるものではない。電流電圧設定部32は、例えば、ネットワークなどを介して外部機器と接続され、外部機器からの入力に基づいて電流設定値I及び電圧設定値Vを設定する構成などでもよい。
【0027】
インピーダンス偏差算出部33は、電流電圧検出部31及び電流電圧設定部32と接続されている。電流電圧検出部31は、検出した電流実測値Iと電圧実測値Vとをインピーダンス偏差算出部33に入力する。電流電圧設定部32は、設定した電流設定値Iと電圧設定値Vとをインピーダンス偏差算出部33に入力する。
【0028】
インピーダンス偏差算出部33は、入力された電流実測値I、電圧実測値V、電流設定値I、及び電圧設定値Vからインピーダンス偏差Zを算出する。インピーダンス偏差算出部33は、電流実測値Iと電圧実測値Vから求められるアーク放電の実測インピーダンスと電流設定値Iと電圧設定値Vから求められるアーク放電の設定インピーダンスとのインピーダンス偏差Zを算出する。インピーダンス偏差算出部33は、例えば、Z=V/I−V/Iにより、インピーダンス偏差Zを算出する。
【0029】
インピーダンス偏差算出部33は、インピーダンス一定制御部34及び炉況判定部35と接続されている。インピーダンス偏差算出部33は、算出したインピーダンス偏差Zをインピーダンス一定制御部34及び炉況判定部35に入力する。
【0030】
インピーダンス一定制御部34は、入力されたインピーダンス偏差Zを基に、実測インピーダンス(V/I)が設定インピーダンス(V/I)に追従するように駆動装置6(電極4の高さ)を制御するための制御信号を生成する。インピーダンス一定制御部34は、例えば、VVVF制御などによって、インピーダンス偏差Zに基づく制御信号を生成する。インピーダンス一定制御部34は、指令値生成部37と接続されている。インピーダンス一定制御部34は、生成した制御信号を指令値生成部37に入力する。
【0031】
炉況判定部35は、入力されたインピーダンス偏差Zを基に、製鋼用アーク炉2内の状況(炉況)を判定する。炉況判定部35は、例えば、インピーダンス偏差Z及びインピーダンス偏差Zの継続した時間によって、製鋼用アーク炉2内の状況を判定する。製鋼用アーク炉2内の状況とは、例えば、溶解期、ボーリング期、精錬期など、製鋼用アーク炉2によるスクラップ5の溶解工程に関する状況である。炉況判定部35は、感度不感帯自動設定部36と接続されている。炉況判定部35は、製鋼用アーク炉2内の状況の判定結果を感度不感帯自動設定部36に入力する。
【0032】
感度不感帯自動設定部36は、入力された製鋼用アーク炉2内の状況の判定結果を基に、電極4の昇降駆動の感度及び不感帯を自動的に設定する。感度は、例えば、インピーダンス一定制御部34の出力を100%とする比例ゲインである。不感帯は、指令値生成部37で生成される指令値を0%に設定するインピーダンス偏差Zの範囲を表す。このように、感度及び不感帯を設定することにより、電極4の過敏な昇降動作を抑制することができる。感度不感帯自動設定部36は、指令値生成部37と接続されている。感度不感帯自動設定部36は、設定した感度及び不感帯を指令値生成部37に入力する。
【0033】
指令値生成部37は、インピーダンス一定制御部34から入力された制御信号と、感度不感帯自動設定部36から入力された感度及び不感帯と、を基に、駆動装置6に入力する指令値を生成し、生成した指令値を駆動装置6に入力する。指令値生成部37は、例えば、入力された制御信号と感度と不感帯とを基に、速度基準信号を生成し、速度基準信号を駆動装置6に入力する。
【0034】
図2は、指令値生成部の動作の一例を模式的に表すグラフ図である。
図2に表したように、指令値生成部37は、入力された感度Sと不感帯Snとを基に、感度関数Fsを生成する。感度Sは、例えば、インピーダンス偏差Zが100%の時の最大値(S)、及びインピーダンス偏差Zが−100%の時の最小値(−S)を表す。指令値生成部37は、例えば、不感帯Snの上限値と最大値Sとを結ぶ一次関数、及び不感帯Snの下限値と最小値−Sとを結ぶ一次関数により、感度関数Fsを生成する。
【0035】
指令値生成部37は、感度関数Fsを生成した後、インピーダンス偏差算出部33で算出されたインピーダンス偏差Zと感度関数Fsとに基づいて、比例ゲインを決定する。例えば、図2に表した例において、インピーダンス偏差算出部33で算出されたインピーダンス偏差Zが、−50%であった場合、指令値生成部37は、−50%を比例ゲインとして決定する。
【0036】
そして、指令値生成部37は、比例ゲインを決定した後、インピーダンス一定制御部34から入力された制御信号に比例ゲインを乗算することにより、駆動装置6に入力する指令値(速度基準信号)を生成する。
【0037】
なお、図2において、インピーダンス偏差Zの正側は、電極4の上昇する方向に対応する。すなわち、この例では、電極4の上昇する側にのみ不感帯Snが設定されている。不感帯Snは、インピーダンス偏差Zの0%を基準に、上昇側及び下降側の双方に設定してもよい。不感帯Snは、インピーダンス偏差Zの0%を基準とする所定の範囲に設定されていればよい。但し、不感帯Snは、少なくとも上昇側に設定されていることが好ましい。これにより、電極4の過度の上昇によるアーク切れを抑制することができる。
【0038】
図3は、炉況判定部の動作の一例を模式的に表す表である。
図3に表したように、炉況判定部35は、例えば、インピーダンス偏差Zと、インピーダンス偏差Zの継続時間と、製鋼用アーク炉2内の状況と、を関連付けたテーブルデータを有する。
【0039】
炉況判定部35は、例えば、操業を開始すると、製鋼用アーク炉2内の状況を「溶解期1」と判定する。炉況判定部35は、インピーダンス偏差Zがa以上の状態が、Ta秒継続した場合に、「溶解期1」が終了し、「溶解期2」に移行したと判定する。そして、炉況判定部35は、インピーダンス偏差Zがb以上a未満の状態が、Ta秒継続した場合に、「溶解期2」が終了し、「溶解期3」に移行したと判定する。炉況判定部35は、以下、同様の処理を行うことにより、インピーダンス偏差Zとインピーダンス偏差Zの継続時間とを基に、製鋼用アーク炉2内の状況を判定する。なお、インピーダンス偏差Zは、操業が進むに従って小さくなる。従って、bは、aよりも小さく、cは、bよりも小さい。
【0040】
図4は、感度不感帯自動設定部の動作の一例を模式的に表す表である。
図4に表したように、感度不感帯自動設定部36は、例えば、製鋼用アーク炉2内の状況と、感度と、不感帯と、を関連付けたテーブルデータを有する。感度不感帯自動設定部36は、炉況判定部35から入力された判定結果を基に、テーブルデータを参照する。そして、感度不感帯自動設定部36は、製鋼用アーク炉2内の状況に関連付けられた感度及び不感帯をテーブルデータから読み出すことにより、感度及び不感帯を自動的に設定する。感度不感帯自動設定部36が自動的に設定する感度は、前述のように、例えば、感度関数Fsを生成するための最大値(最小値)である。
【0041】
感度は、例えば、操業が進むに従って大きくなる。従って、例えば、図4の例においては、xa1、xa2、xa3の順に大きくなる。一方、不感帯は、例えば、操業が進むに従って小さくなる。従って、例えば、図4の例においては、ya1、ya2、ya3の順に小さくなる。但し、感度及び不感帯の設定は、上記に限ることなく、製鋼用アーク炉2内の状況に応じて適宜設定すればよい。
【0042】
図5は、実施形態に係るアーク炉用電極昇降装置の動作の一例を模式的に表すフローチャートである。
図5に表したように、アーク炉用電極昇降装置10は、運転指令の入力に応じて製鋼用アーク炉2の電極4の昇降駆動を開始する(図5のステップS1)。
【0043】
アーク炉用電極昇降装置10において昇降駆動を開始すると、電流電圧検出部31が、変流器12からの入力に基づいて電流実測値Iを検出するとともに、変圧器14からの入力に基づいて電圧実測値Vを検出し、検出した電流実測値I及び電圧実測値Vをインピーダンス偏差算出部33に入力する(図5のステップS2)。
【0044】
また、電流電圧設定部32によって電流設定値I及び電圧設定値Vが設定され、設定された電流設定値I及び電圧設定値Vがインピーダンス偏差算出部33に入力される(図5のステップS3)。
【0045】
インピーダンス偏差算出部33は、入力された電流実測値I、電圧実測値V、電流設定値I、及び電圧設定値Vからインピーダンス偏差Zを算出し、算出したインピーダンス偏差Zをインピーダンス一定制御部34及び炉況判定部35に入力する(図5のステップS4)。
【0046】
インピーダンス一定制御部34は、入力されたインピーダンス偏差Zを基に、実測インピーダンス(V/I)が設定インピーダンス(V/I)に追従するように駆動装置6を制御するための制御信号を生成し、生成した制御信号を指令値生成部37に入力する(図5のステップS5)。
【0047】
炉況判定部35は、入力されたインピーダンス偏差Zを基に、製鋼用アーク炉2内の状況を判定し、判定結果を感度不感帯自動設定部36に入力する(図5のステップS6)。炉況判定部35は、例えば、前述のように、入力されたインピーダンス偏差Zと、インピーダンス偏差Zの継続時間と、を基に、テーブルデータを参照することにより、製鋼用アーク炉2内の状況を判定する。
【0048】
感度不感帯自動設定部36は、入力された製鋼用アーク炉2内の状況の判定結果を基に、電極4の昇降駆動の感度及び不感帯を自動的に設定し、設定した感度及び不感帯を指令値生成部37に入力する(図5のステップS7、S8)。感度不感帯自動設定部36は、例えば、前述のように、入力された製鋼用アーク炉2内の状況を基に、テーブルデータを参照することにより、製鋼用アーク炉2内の状況に関連付けられた感度及び不感帯を自動的に設定する。
【0049】
指令値生成部37は、インピーダンス一定制御部34から入力された制御信号と、感度不感帯自動設定部36から入力された感度及び不感帯と、を基に、駆動装置6に入力する指令値を生成し、生成した指令値を駆動装置6に入力する(図5のステップS9)。
【0050】
指令値生成部37は、例えば、前述のように、入力された感度Sと不感帯Snとを基に、感度関数Fsを生成し、インピーダンス偏差算出部33で算出されたインピーダンス偏差Zと感度関数Fsとに基づいて、比例ゲインを決定し、インピーダンス一定制御部34から入力された制御信号に比例ゲインを乗算することにより、指令値を生成する。
【0051】
駆動装置6は、入力された指令値に基づいて電極4を昇降する。これにより、電流電圧設定部32で設定した電流設定値I及び電圧設定値Vに基づいて、アーク放電のインピーダンスが一定となるように電極4とスクラップ5との間の距離(電極4の高さ)が制御される。以下、アーク炉用電極昇降装置10は、操業終了の指令が入力されるまで、上記のステップS2〜S9の処理を繰り返す(図5のステップS10)。操業の終了は、例えば、炉況判定部35による製鋼用アーク炉2内の状況の判定結果に基づいて、自動的に判定してもよい。
【0052】
以上、説明したように、本実施形態に係るアーク炉用電極昇降装置10では、炉況判定部35が、インピーダンス偏差Zを基に、製鋼用アーク炉2内の状況を判定し、感度不感帯自動設定部36が、製鋼用アーク炉2内の状況の判定結果を基に、電極4の昇降駆動の感度及び不感帯を自動的に設定する。
【0053】
これにより、製鋼用アーク炉2内の状況に対して最適ではない感度及び不感帯が設定されてしまうことを抑制することができるとともに、感度及び不感帯の設定の変更に時間がかかってしまうことなども抑制することができる。従って、電極4の昇降動作の感度及び不感帯を簡単且つ確実に設定可能なアーク炉用電極昇降装置10を提供することができる。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
2 製鋼用アーク炉、 3 炉体、 4 電極、 5 スクラップ、 6 駆動装置、 7 炉用変圧器、 10 アーク炉用電極昇降装置、 12 変流器、 14 変圧器、 16 主幹制御装置、 31 電流電圧検出部、 32 電流電圧設定部、 33 インピーダンス偏差算出部、 34 インピーダンス一定制御部、 35 炉況判定部、 36 感度不感帯自動設定部、 37 指令値生成部
図1
図2
図3
図4
図5