(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に挙げた従来技術のうち、例えば非特許文献2に記載のポルフィリン誘導体は具体的な光電変換性能が示されているが、高電圧条件下でも量子効率が向上しない問題点が述べられている。
以上の状況を鑑み、光電変換部に用いた場合は極大吸収が400nm以上500nm以下の青色光を選択的に吸収することにより低電圧で効率的に機能し、光電変換部以外に用いた場合は良好なキャリアのリーク防止特性或いはキャリア輸送特性を示し、且つプロセス温度に対する耐熱性にも優れた撮像素子用の光電変換素子用材料、及び該光電変換材料を用いた有機光電変換素子が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる問題を克服すべく鋭意検討を行った結果、本発明者らは置換基を有する一群のDNTT誘導体は青色波長領域に選択的な吸収帯を有し、該誘導体を光電変換素子の光電変換部に用いた場合は低電圧で優れた光応答電流を示し、該誘導体を光電変換部以外に用いた場合は該光電変換素子の明暗比を著しく向上させることを見出し、これらの知見に基づいて上記課題を解決する手段として本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、
【0009】
[1]下記式(1)で表される有機化合物を含む有機光電変換素子、
【化1】
(上記式(1)中のR
1とR
2は水素原子又は置換基を有してもよい芳香族基を表す。複数存在するR
1、R
2はそれぞれ同一であっても異なってもよいが、R
1とR
2はいずれも水素原子を有する場合を除く。)
[2]式(1)中、R
1が置換基を有してもよい芳香族基を表し、R
2が水素原子である前項[1]に記載の有機光電変換素子、
[3]式(1)中、R
1が水素原子を表し、R
2が置換基を有してもよい芳香族基である前項[1]に記載の有機光電変換素子、
[4]薄膜又は固体状態において、光吸収帯の極大吸収が400nm以上500nm以下にある前項[1]〜[3]記載の有機光電変換素子、
[5]下記式(1)で表される有機化合物を含む有機光電変換素子用材料、
【化2】
(上記式(1)中のR
1とR
2は水素原子又は置換基を有してもよい芳香族基を表す。複数存在するR
1、R
2はそれぞれ同一であっても異なってもよいが、R
1とR
2はいずれも水素原子を有する場合を除く。)
[6]薄膜又は固体状態において、光吸収帯の吸収極大が400nm以上500nm以下にある前項[5]に記載の有機光電変換素子用材料、
[7]前項[5]又は[6]に記載の有機光電変換素子用材料を含む有機薄膜、
[8]前項[5]又は[6]に記載の有機光電変換素子用材料、又は前項[7]に記載の有機薄膜を含む有機光電変換素子、
[9]前項[1]〜[4]並びに[8]のいずれか一項に記載の有機光電変換素子を用いた光センサ、
[10]前項[1]〜[4]並びに[8]のいずれか一項に記載の有機光電変換素子を用いた有機撮像素子、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一般式(1)で表される有機化合物を用いた有機光電変換素子は、光吸収帯の極大吸収が400nm以上500nm以下の青色光を選択的に吸収することができ、且つ低電圧で優れた光応答電流を示すことから、青色光用の有機光電変換素子並びに有機撮像素子、その材料などへの利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。ここに記載する構成要件の説明については、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づくものである一方、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。
【0013】
本発明の有機光電変換素子は、下記式(1)で表される有機化合物を含むことを特徴とする。
【化3】
(上記式(1)中のR
1とR
2は水素原子又は置換基を有してもよい芳香族基を表す。複数存在するR
1、R
2はそれぞれ同一であっても異なってもよいが、R
1とR
2はいずれも水素原子を有する場合を除く。)
【0014】
一般式(1)中、R
1及びR
2が表す芳香族基は、置換基を有する芳香族基及び無置換の芳香族基の何れとしても制限されず、また、置換基を有する場合の置換位置と置換基数も特に制限されない。
尚、本発明において置換基を有する芳香族基とは、芳香族基が有する水素原子の一つ若しくは複数が置換基で置換された芳香族基を、無置換の芳香族基とは、芳香族基が有する水素原子が置換基で置換されていない芳香族基をそれぞれ意味する。
式(1)のR
1及びR
2が表す芳香族基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基及びピレニル基等の芳香族炭化水素基や、フラニル基、チエニル基、チエノチエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、インドリル基及びカルバゾリル基等の縮合系複素環基等が挙げられ、芳香族炭化水素基であることが好ましい。また、R
1とR
2異なることが好ましく、更にはR
1が芳香族基であり、且つR
2が水素原子であるか若しくはR
1とは異なる芳香族基であることが好ましい。
尚、式(1)は共鳴構造の一つを示したものに過ぎず、図示した共鳴構造に限定されるものではない。
【0015】
芳香族基が有することができる置換基について特に制限はないが、例えばアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、置換アミノ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基、アシル基、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルバモイル基、又はアルキルカルバモイル基等が挙げられる。
【0016】
上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基及びドデシル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。この内、炭素数1乃至6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1乃至3のアルキル基であることがより好ましい。上記アルコキシ基としては、酸素原子にアルキル基が結合したものが挙げられるが、酸素原子の数、位置、分岐数は問わない。上記アルキルチオ基としては、硫黄原子にアルキル基が結合したものが挙げられるが、硫黄原子の数、位置、分岐数は問わない。上記芳香族基の具体例は、前記式(1)中のR
1及びR
2が表す芳香族基と同様のものが挙げられ、その中でもフェニル基、ビフェニル基が好ましい。上記ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、その中でもフッ素原子、塩素原子が好ましい。上記置換アミノ基は、アミノ基の水素原子が上記の置換基で置換されたものが挙げられる。上記アシル基は、カルボニル基に上記芳香族基又はアルキル基が結合したものが挙げられる。上記アルキルスルファモイル基は、スルファモイル基の水素原子が上記アルキル基で置換されたものが挙げられる。上記アルキルカルバモイル基は、カルバモイル基の水素原子が上記アルキル基で置換されたものが挙げられる。
【0017】
即ち、一般式(1)におけるR
1及びR
2としては、それぞれ独立にアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子から成る群より選択される一種若しくは複数種の置換基を有する芳香族基、又は無置換の芳香族基が好ましく、それぞれ独立にアルキル基及び芳香族炭化水素基から成る群より選択される一種若しくは複数種の置換基を有する芳香族炭化水素基がより好ましい。より具体的には、上記の好ましい態様に於いて、R
1とR
2の一方が上記の置換基を有する若しくは無置換の芳香族基であり他方が水素原子であることが好ましく、R
1が置換基を有する若しくは無置換の芳香族基でありR
2が水素原子であることがより好ましい。
【0018】
前記式(1)で示される有機化合物の具体例として化合物(1)から化合物(36)を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、具体例として示した構造式は共鳴構造の一つを表したものに過ぎず、図示した共鳴構造に限定されない。
【0022】
前記式(1)で示される有機化合物の合成方法は公知の方法(例えば、特許第5901732号及び特許第5674916号)と同様の反応工程で合成可能である。これらの化合物の精製方法は特に限定されず、例えば洗浄、再結晶、カラムクロマトグラフィー、真空昇華等が採用でき、必要に応じてこれらの方法を組み合わせることができる。
【0023】
本発明の有機薄膜は、一般式(1)で表される有機化合物を含む有機光電変換素子用材料を用いることができる。本発明の有機薄膜は該有機光電変換素子用材料のみで構成されていてもよいが、別途公知の有機半導体材料を添加してもよい。また、如何なる構成であろうとも、一般式(1)で示された有機化合物を含む有機光電変換素子用材料を含み、該有機薄膜が分光光度計による波長−吸光度の測定を行ったとき、400nm以上500nm以下の青色光を吸収すれば、青色光を吸収する有機薄膜であり、光電変換層としては利用可能である。
【0024】
本発明における有機薄膜の形成方法には、一般的な乾式成膜法や湿式成膜法が挙げられる。具体的には真空プロセスである抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、溶液プロセスであるキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等が挙げられ、各層の成膜にはこれらの手法を複数組み合わせた方法を採用してもよい。各層の厚みは、それぞれの物質の抵抗値・電荷移動度にもよるので限定することはできないが、通常は0.5乃至5000nmの範囲であり、好ましくは1乃至1000nmの範囲、より好ましくは5乃至500nmの範囲である。
【0025】
一般式(1)で表される有機化合物、又は該有機光電変換素子用材料又は薄膜を用いて有機エレクトロニクスデバイスを作製することができる。有機エレクトロニクスデバイスとしては、例えば、薄膜トランジスタ、有機光電変換素子、有機太陽電池素子、有機EL素子、有機発光トランジスタ素子、有機半導体レーザー素子などが挙げられるが、本発明では特に有機光電変換素子に着目した。ここでは有機光電変換素子(光センサ、有機撮像素子を含む)について説明する。
【0026】
本発明の有機光電変換素子は、前記式(1)で表される有機化合物、これを含む有機光電変換素子用材料、又は該材料を含有する有機薄膜を用いることができる。特に有機光電変換素子に於ける光電変換層に用いることができる。青色光用の光電変換素子としては、先に述べた有機薄膜の形成方法である一般的な乾式成膜法や湿式成膜法により成膜した有機薄膜において、分光光度計による波長−吸光度の測定を行ったとき観測される可視光領域(380nm乃至780nm)の光を吸収する帯、即ち光吸収帯のうち、一般的にλmaxと称され、主たる光吸収帯の最も吸光度の高い波長位置を意味する極大吸収が400nm以上500nm以下であり、好ましくは420nm以上480nm以下であり、更に好ましくは430nm以上470nm以下である。
【0027】
有機光電変換素子は、対向する一対の電極膜間に光電変換部(膜)を配置した素子であって、電極膜の上方から光が光電変換部に入射されるものである。光電変換部は前記の入射光に応じて電子と正孔を発生するものであり、半導体により前記電荷に応じた信号が読み出され、光電変換膜部の吸収波長に応じた入射光量を示す素子である。光が入射しない側の電極膜には読み出しのためのトランジスタが接続される場合もある。光電変換素子は、アレイ状に多数配置されている場合、入射光量に加え入射位置情報をも示すため、撮像素子となる。又、より光源近くに配置された光電変換素子が、光源側から見てその背後に配置された光電変換素子の吸収波長を遮蔽しない(透過する)場合は、複数の光電変換素子を積層して用いてもよい。
【0028】
本発明においては、一般式(1)で表される有機化合物、有機光電変換素子用材料は光電変換部の構成材料として用いることができる。光電変換部は、光電変換層と、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層及び層間接触改良層等から成る群より選択される一種又は複数種の光電変換層以外の有機薄膜層とから成ることが多い。前記式(1)で表される有機化合物、有機光電変換素子用材料は光電変換層の有機薄膜層として用いることが好ましいが、他にも上記の有機薄膜層(特に、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層)としても利用することも可能である。又、光電変換層に用いる場合は前記式(1)で表される有機化合物、有機光電変換素子用材料のみで構成されていてもよいが、一般式(1)で表される有機化合物、有機光電変換素子用材料以外に有機半導体材料を含んでいてもよい。これらの有機薄膜層は積層構造でもよいが、材料を共蒸着して成る有機薄膜を含んでいてもよく、併せて、共蒸着膜や単膜或いは別の共蒸着膜が複数層形成されて成り、機能する様な有機薄膜であってもよい。
【0029】
本発明の有機光電変換素子で用いられる電極膜は、後述する光電変換部に含まれる光電変換層が、正孔輸送性を有する場合や光電変換層以外の有機薄膜層が正孔輸送性を有する正孔輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から正孔を取り出してこれを捕集する役割を果たし、又光電変換部に含まれる光電変換層が電子輸送性を有する場合や、有機薄膜層が電子輸送性を有する電子輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から電子を取り出して、これを吐出する役割を果たすものである。依って、電極膜として用い得る材料は、ある程度の導電性を有するものであれば特に限定されないが、隣接する光電変換層やその他の有機薄膜層との密着性や電子親和力、イオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択することが好ましい。電極膜として用い得る材料としては、例えば、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)及び酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属:ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質:ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマー:炭素等が挙げられる。これらの材料は、必要により複数を混合して用いてもよいし、複数を2層以上に積層して用いてもよい。電極膜に用いる材料の導電性も、光電変換素子の受光を必要以上に妨げなければ特に限定されないが、光電変換素子の信号強度や、消費電力の観点から出来るだけ高いことが好ましい。例えばシート抵抗値が300Ω/□以下の導電性を有するITO膜であれば、電極膜として充分機能するが、数Ω/□程度の導電性を有するITO膜を備えた基板の市販品も入手可能となっていることから、この様な高い導電性を有する基板を使用することが望ましい。ITO膜(電極膜)の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、通常5乃至500nm、好ましくは10乃至300nm程度である。ITOなどの膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法及び塗布法等が挙げられる。基板上に設けられたITO膜には必要に応じUV−オゾン処理やプラズマ処理等を施してもよい。
【0030】
電極膜のうち、少なくとも光が入射する側の何れか一方に用いられる透明電極膜の材料としては、ITO、IZO、SnO
2、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO
2、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)等が挙げられる。光電変換層の吸収ピーク波長における透明電極膜を介して入射した光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0031】
また、検出する波長の異なる光電変換層を複数積層する場合、それぞれの光電変換層の間に用いられる電極膜(これは上記記載の一対の電極膜以外の電極膜である)は、それぞれの光電変換層が検出する光以外の波長の光を透過させる必要があり、該電極膜には入射光の90%以上を透過する材料を用いることが好ましく、95%以上の光を透過する材料を用いることがより好ましい。
【0032】
電極膜はプラズマフリーで作製することが好ましい。プラズマフリーでこれらの電極膜を作成することにより、電極膜が設けられる基板にプラズマ与える影響が低減され、光電変換素子の光電変換特性を良好にすることができる。ここで、プラズマフリーとは、電極膜の成膜時にプラズマが発生しないか、又はプラズマ発生源から基板までの距離が2cm以上、好ましくは10cm以上、更に好ましくは20cm以上であり、基板に到達するプラズマが減ぜられるような状態を意味する。
【0033】
電極膜の成膜時にプラズマが発生しない装置としては、例えば、電子線蒸着装置(EB蒸着装置)やパルスレーザー蒸着装置等が挙げられる。EB蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をEB蒸着法と称し、パルスレーザー蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をパルスレーザー蒸着法と称する。
【0034】
成膜中プラズマを減ずることが出来るような状態を実現できる装置(以下、プラズマフリーである成膜装置という)としては、例えば、対向ターゲット式スパッタ装置やアークプラズマ蒸着装置等が考えられる。
【0035】
透明導電膜を電極膜(例えば第一の導電膜)とした場合、DCショート、あるいはリーク電流の増大が生じる場合がある。この原因の一つは、光電変換層に発生する微細なクラックがTCO(Transparent Conductive Oxide)などの緻密な膜によって被覆され、透明導電膜とは反対側の電極膜との間の導通が増すためと考えられる。そのため、Alなど膜質が比較して劣る材料を電極に用いた場合、リーク電流の増大は生じにくい。電極膜の膜厚を、光電変換層の膜厚(クラックの深さ)に応じて制御することにより、リーク電流の増大を抑制することができる。
【0036】
通常、導電膜を所定の値より薄くすると、急激な抵抗値の増加が起こる。本実施形態の光センサ用光電変換素子における導電膜のシート抵抗は、通常100乃至10000Ω/□であり、膜厚の自由度が大きい。又、透明導電膜が薄いほど吸収する光の量が少なくなり、一般に光透過率が高くなる。光透過率が高くなると、光電変換層で吸収される光が増加して光電変換能が向上するため非常に好ましい。
【0037】
本発明の有機光電変換素子が有する光電変換部は、光電変換層及び光電変換層以外の有機薄膜層を含む場合もある。光電変換部を構成する光電変換層には一般的に有機半導体膜が用いられるが、その有機半導体膜は一層若しくは複数の層であってもよく、一層の場合は、P型有機半導体膜、N型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。一方、複数の層である場合は、2〜10層程度であり、P型有機半導体膜、N型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)の何れかを積層した構造であり、層間にバッファ層が挿入されていてもよい。
【0038】
本発明の有機光電変換素子において、光電変換部を構成する光電変換層以外の有機薄膜層は、光電変換層以外の層、例えば、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層又は層間接触改良層等としても用いられる。特に電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層及び正孔ブロック層から成る群より選択される一種以上の薄膜層として用いることにより、弱い光エネルギーでも効率よく電気信号に変換する素子が得られるため好ましい。
【0039】
また、有機撮像素子は一般的には高コントラスト化や省電力化を目的として、暗電流の低減により性能向上を目指すと考えられる。この為、層構造内にキャリアブロック層を挿入する手法が用いられており、素子としては多層構造となる。この為、光電変換色素子用材料としては、例えば抵抗加熱蒸着の様な手法による薄膜作成が可能であることが望ましい。尚、上記のキャリアブロック層は、有機エレクトロニクスデバイス分野では一般に用いられており、それぞれデバイスの構成膜中において正孔若しくは電子の逆移動を制御する機能を有する。
【0040】
電子輸送層は、光電変換層で発生した電子を電極膜へ輸送する役割と、電子輸送先の電極膜から光電変換層に正孔が移動するのをブロックする役割とを果たす。正孔輸送層は、発生した正孔を光電変換層から電極膜へ輸送する役割と、正孔輸送先の電極膜から光電変換層に電子が移動するのをブロックする役割とを果たす。電子ブロック層は、電極膜から光電変換層への電子の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する役割を果たす。正孔ブロック層は、電極膜から光電変換層への正孔の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する機能を有する。
【0041】
図1に本発明の有機光電変換素子の代表的な素子構造を示すが、本発明はこの構造に限定されるものではない。
図1の態様例においては、1が絶縁部、2が一方の電極膜、3が電子ブロック層、4が光電変換層、5が正孔ブロック層、6が他方の電極膜、7が絶縁基材又は他の有機光電変換素子をそれぞれ表す。図中には読み出し用のトランジスタを記載していないが、2又は6の電極膜と接続されていればよく、更には光電変換層4が透明であれば、光が入射する側とは反対側の電極膜の外側に成膜されていてもよい。有機光電変換素子への光の入射は、光電変換層4を除く構成要素が、光電変換層の主たる吸収波長の光を入射することを極度に阻害することがなければ、上部若しくは下部からの何れからでもよい。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例中の有機光電変換素子の電流電圧の印加測定は、半導体パラメータアナライザ4200−SCS(ケースレーインスツルメンツ社製)を用いて行った。入射光の照射はPVL−3300(朝日分光社製)により、照射光半値幅20nmにて行った。実施例中の明暗比は、光照射を行った場合の電流値を同電圧印加時に於ける暗所での電流値で割ったものを意味する。
【0043】
[実施例1]化合物(1)を用いた有機光電変換素子の作製と評価
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、具体例に示した化合物(1)を抵抗加熱真空蒸着により200nmの膜厚に成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nm真空成膜し、本発明の有機光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、5Vの電圧を印加した際の、暗所での電流は3.88×10
−11A/cm
2であった。また、5Vの電圧を印加し、照射光波長が430nmの光照射を行った場合の電流は1.29×10
−5A/cm
2であった。5V電圧印加したときの明暗比は330000であった。
【0044】
[実施例2]化合物(4)を用いた有機光電変換素子の作製と評価
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、具体例に示した化合物(4)を抵抗加熱真空蒸着により200nmの膜厚に成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nm真空成膜し、本発明の有機光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として5Vの電圧を印加した際の、暗所での電流は1.93×10
−10A/cm
2であった。また、5Vの電圧を印加し、照射光波長が430nmの光照射を行った場合の電流は1.96×10
−6A/cm
2であった。5V電圧印加したときの明暗比は10000であった。
【0045】
[実施例3]化合物(8)を用いた有機光電変換素子の作製と評価
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、具体例に示した化合物(8)を抵抗加熱真空蒸着により200nmの膜厚に成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nmの膜厚に成膜し、本発明の有機光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として5Vの電圧を印加した際の、暗所での電流は1.16×10
−11A/cm
2であった。また、5Vの電圧を印加し、照射光波長が430nmの光照射を行った場合の電流は3.69×10
−6A/cm
2であった。5V電圧印加したときの明暗比は310000であった。
【0046】
[比較例1]DNTTを用いた有機光電変換素子の作製と評価
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、DNTTを抵抗加熱真空蒸着により200nmの膜厚に成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nmの膜厚に成膜し、比較用の有機光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として5Vの電圧を印加した際の、暗所での電流は6.02×10
−7A/cm
2であった。また、5Vの電圧を印加し、照射光波長430nmの光照射を行った場合の電流は2.74×10
−6A/cm
2であった。5V電圧印加したときの明暗比は4.5であった。
【0047】
[比較例2]クマリン30を用いた有機光電変換素子の作製と評価
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、クマリン30を抵抗加熱真空蒸着により200nmに成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nmの膜厚に成膜し、比較用の有機光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として5Vの電圧を印加した際の、暗所での電流は5.19×10
−6A/cm
2であった。また、5Vの電圧を印加し、照射光波長430nmの光照射を行った場合の電流は1.60×10
−5A/cm
2であった。5V電圧印加したときの明暗比は3.0であった。
【0048】
以上の結果より、式(1)で表される有機化合物(DNTT誘導体)を光電変換部として用いた実施例1乃至3の本発明の有機光電変換素子は、無置換のDNTTを光電変換部として用いた比較例1の有機光電変換素子や、青色光用材料としての用途が検討されている(例えばNHK技研R&D/No.132/2012.3)クマリン30を光電変換部として用いた比較例2の有機光電変換素子よりも暗電流の値が小さく、桁違いに高い明暗比を示していることは明らかである。即ち、無置換のDNTTやクマリン30を光電変換部として用いる場合には各種ブロック層等を併用しなければ実用的な有機光電変換素子を得ることが出来ないのに対して、式(1)で表される有機化合物(DNTT誘導体)を光電変換部として用いた本発明の有機光電変換素子は、各種ブロック層等を併用すること無しに高い明暗比を発現するものである。
しかも本発明の有機光電変換素子は低い印加電圧(5V)でも十分に駆動していることから、本発明の有機光電変換素子用材料が既存の青色用有機光電変換素子用材料よりも有機エレクトロニクスデバイス材料として有用であることは明白である。
【0049】
[実施例4]化合物(1)を有機薄膜層として用いた有機光電変換素子の作製と評価
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、具体例に示した化合物(1)を抵抗加熱真空蒸着により50nmに成膜した。次に、前記有機薄膜層上に、光電変換層としてキナクリドンを抵抗加熱真空蒸着により100nmの膜厚に成膜した。最後に、前記の光電変換層の上に、電極としてアルミニウムを抵抗加熱真空蒸着により100nmの膜厚に成膜し、本発明の有機光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として5Vの電圧を印加した際の、暗所での電流は1.57×10
−10A/cm
2であった。5Vの電圧を印加し、キナクリドンの光電変換波長である波長550nmの光照射を行った場合の電流は1.23×10
−5A/cm
2であった。5V電圧印加したときの明暗比は78000であった。
【0050】
[比較例3]キナクリドンを用いた有機光電変換素子の作製と評価
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、キナクリドンを抵抗加熱真空蒸着により200nmに成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nmの膜厚に成膜し、比較用の有機光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として5Vの電圧を印加した際の、暗所での電流は5.05×10
−9A/cm
2であった。また、5Vの電圧を印加し、照射光波長550nmの光照射を行った場合の電流は9.22×
−6A/cm
2であった。5V電圧印加したときの明暗比は1800であった。
【0051】
実施例4及び比較例3は光電変換部として用いたキナクリドンの光電変換波長である550nmの光を照射した場合の光電変換特性の評価結果であるが、実施例3で用いた化合物(1)は507nmに吸収端を有する400〜500nmの青色波長領域を選択的に吸収する有機化合物であり、550nmの照射光には応答しないものである。即ち、実施例3は化合物(1)を光電変換部以外の有機薄膜層(各種ブロック層等)として用いた態様であるが、キナクリドンのみを光電変換部として用いた比較例3と比べて、キナクリドンを光電変換部として用い、且つ化合物(1)を各光電変換部以外の有機薄膜層として用いた実施例4は高い明暗比を示している。即ち、本発明の有機光電変換素子用材料は、光電変換層以外の有機薄膜層として用いた場合でも光電変換素子の性能向上に寄与することが確認できる。
これらの結果から、本発明の有機光電変換素子用材料は、有機光電変換素子の光電変換部(光電変換層)としてのみならず、各種ブロック層等の光電変換部以外の有機薄膜層としても有用であることは明らかである。