(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面を参照しながら、本発明の一実施の形態を詳述する。本実施の形態では、レール据付装置1(またはレール据付システム100)は、例えば4本のレールを昇降路内に据付ける(位置出しを行い、固定する)。なお、この4本のレールのうち2本のレールは、エレベーターの乗りかごが上昇する際に沿うメインレールであり、残りの2本のレールは、カウンタウェイト(以下、CWTと表記)が昇降するCWTレールである。
【0012】
(1)装置構成
図1は、本発明の一実施の形態に係るレール据付装置の正面図である。
【0013】
まず、本実施の形態では、以下の事項を仮定とする。昇降路2内におけるエレベーターの据付位置は既に定まっている。また、最下部から最上部までの各レール3は昇降路2内に搬入済みであり、昇降路2の内壁面にレールブラケット14及びレールブラケット受け15で固定されていない状態で、昇降路2上部からワイヤ7等で吊下げられている。また、レール3の最下部は、下部テンプレート13にセットされている。
【0014】
本実施の形態に係るレール据付装置1は、昇降路2の内部で使用され、4本のレール3(用途で区別する場合は、「メインレール3A」または「CWTレール3B」と称する(
図3等参照))を昇降路2内に自動で据付ける装置である。
図1に示すように、レール据付装置1は、主に、昇降ユニット4、レール位置出しユニット5、及びレール固定ユニット6の3つのユニットから構成される。また、
図5を参照して後述するように、本実施の形態に係るレール据付システム100は、レール据付装置1と、レール据付装置1を構成する各ユニットの制御装置を統合的に制御するレール据付制御装置90とを備えて構成される。
【0015】
昇降ユニット4は、レール位置出しユニット5及びレール固定ユニット6を昇降路2内で自在に昇降させるためのユニットである。本例では、昇降ユニット4は、昇降路2の最上部に設置された揚重機40とそのロープ41に相当する。昇降路2内の途中あるいは最上部には、吊下げ梁43が取付けられており、吊下げ梁43に揚重機40が設置されている。また、揚重機40にはロープ41が巻装され、ロープ41の端部は、後述するレール固定ユニット6の作業床60に取付けられている。また、揚重機40は、センサ等によってロープ41の繰出量及び巻取量を検出するロープ繰出量/巻取量検出手段44と、揚重機40を駆動してロープ41のロープ長を制御する昇降ユニット制御装置42とを備えている。言い換えると、昇降ユニット制御装置42は、昇降ユニット4の動作を制御する。
【0016】
以上のように構成されることにより、昇降ユニット4は、昇降ユニット制御装置42の制御に基づいて、昇降路2内においてレール固定ユニット6を自在に昇降させることができる。
【0017】
レール位置出しユニット5は、据付けるレール3を把持しながら移動させて位置出しを行い、位置出しの結果に基づいてレール固定ユニット6がレール3を所定位置に固定するまで、レール3の位置を保持するためのユニットであって、所謂、レール3の位置出し(位置決め)を行うためのユニットである。以降の説明では、レール位置出しユニット5が位置出しを開始する位置を「位置出し開始位置」と称し、位置出しによって決定されたレール3の保持位置を「位置出し決定位置」と称し、位置出しの結果に基づいてレール固定ユニット6がレール3を固定する位置を「レール固定位置」と称する。
【0018】
なお、本実施の形態に係るレール据付装置1において、レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6の関係は、両ユニットが接続されて一体となって移動可能な「連結状態」と、両ユニットが離れて独立して移動可能な「分離状態」とがある。厳密には、本明細書で用いる「連結状態」は、少なくとも両ユニットが一体となって移動可能であればよく、両ユニットの接続部分が固結されているか否かは限定しない。また「分離状態」は、少なくとも両ユニットが独立して移動可能であればよく、分離状態において両ユニットの一部が物理的に接触していても構わない。詳細は後述するが、この連結/分離状態は、レール据付作業の作業工程(制御モードでいえば、昇降モード、レール位置出しモード、レール固定モード)に応じて切り替えられる。
【0019】
図2は、レール位置出しユニットの外観図である。
図2(A)には、レール位置出しユニット5の上面図が示され、
図2(B)には、レール位置出しユニット5の正面図が示されている。
【0020】
図2(A),(B)に示すように、レール位置出しユニット5は、レール3を把持するレール把持手段51と、把持したレール3を所定位置(位置出し決定位置)に移動するレール移動手段52と、昇降路2内におけるレール3の位置及び姿勢を検出するレール昇降路内座標検出手段53と、レール昇降路内座標検出手段53が取得したレール座標情報を基にレール位置出しユニット5を制御するレール位置出しユニット制御装置54と、を備えている。
【0021】
レール把持手段51の一例として、
図2(A),(B)には、2本のレール3を同時に把持できるように、レール芯出し雇い50の両端に2つのクランプ機構を備えた構造が示されている。このようなレール把持手段51では、レール芯出し雇い50の剛体部の長さが2本の所定のレール間距離と等しく、かつ、レール芯出し雇い50の両端のレール把持面が平行とすることにより、両端の2つのクランプ機構でレール3を把持した後、クランプを締め上げることで、把持した2本のレール3の間を、所定のレール間距離で平行に保つことができる。
【0022】
レール移動手段52の一例として、
図2(A),(B)には、レール把持手段51のレール芯出し雇い50の両端に取付けられた、水平方向に伸縮可能な複数の単管が示されている。レール移動手段52(単管)は、これらの単管の先端部を対向する昇降路2の内壁面に押付けた際に発生する反力を利用することで、レール3を前後左右に動かし、位置出し開始位置から位置出し決定位置まで移動させることができる。なお、位置出し決定位置は、レール3の固定に直結することから精密な位置を定める必要があるが、位置出し開始位置は、レール移動手段52によってレール3を移動可能なことから、単管の先端部を押付可能な昇降路2の内壁面が存在するといった諸条件を満たすなかで、ある程度の幅を持たせた位置であってよい。
【0023】
レール昇降路内座標検出手段53の一例として、
図2(A),(B)には、レール芯出し雇い50に取付けられた複数のフォトディテクタが示されている。フォトディテクタは、レーザー照射器11から昇降路2の長手方向に垂直に照射されるレーザー光12(
図1参照)を検出することで、レール3の昇降路内座標を算出する。
【0024】
ここで、
図1に示したように、昇降路2の最上部(最下部等であってもよい)には、エレベーターを据付ける基準となる上部テンプレート10が設置されており、上部テンプレート10には、昇降路2の長手方向に垂直にレーザー光12を照射する複数のレーザー照射器11が取付けられている。上述したように、このレーザー照射器11から照射されたレーザー光12が、昇降路2内の任意の座標を計測する基準となって、フォトディテクタによって検出される。なお、本例では、座標計測の基準としてレーザー光12を用いるが、これに限るものではなく、代替として例えば、上部テンプレート10から吊下げたピアノ線等を用いてもよい。
【0025】
レール固定ユニット6は、主に、レール位置出しユニット5によって位置決めされた位置出し決定位置に基づいて、昇降路2の内壁面の所定位置(レール固定位置)にレール3を固定する(取付ける、据付ける)ためのユニットである。本実施の形態においてレール3の具体的な固定方法は限定されないが、例えば、レール固定ユニット6は、レールブラケット14やレールブラケット受け15等のレール固定部品を用いて、レール固定位置にレール3を固定する。また、レール固定ユニット6は、レール3を固定する役割の他に、レール位置出しユニット5をレール固定位置の近辺(レール位置決め開始位置)まで運ぶ役割や、レール3の固定において必要な、壁面への穴開け加工用の部品を運ぶ役割も担う。
【0026】
図3は、レール固定ユニットの外観図である。
図3(A)には、レール固定ユニット6の上面図が示され、
図3(B)には、レール固定ユニット6周辺の正面図が示されている。
【0027】
図3(A),(B)に示すように、レール固定ユニット6は、ロープ41を介して接続され、昇降路2内を昇降可能な作業床60と、作業床60上に設置され、レール3を昇降路2の内壁面に取付けるための穴開け加工、レール固定部品の格納、把持、及び取付けを行うレール固定手段61と、レール固定位置とレール固定部品との位置関係を検出可能なレール固定位置検出手段62と、レール位置出しユニット5と連結/分離可能なレール位置出しユニット連結手段63と、レール固定ユニット6を制御するレール固定ユニット制御装置64と、を備える。
【0028】
作業床60は、十分な剛性を有し、床面に取付けられた装置の重みやその他の昇降路2内で発生する外力によって変形しないものとする。なお、作業床60に、最終的に人や荷物が乗るエレベーターのカゴ床を使用すると、レール据付作業の後に作業床60を昇降路2から取出さずに済むため、作業効率が向上する。
【0029】
レール固定手段61の一例として、
図3(A),(B)には、ロボットアームが示されている。ロボットアーム先端のエンドエフェクタ65は、用途に応じてハンド、ドリル、スパナ等に換装可能である。なお、ロボットアームのエンドエフェクタ65は、用途に応じて複数種類の部品を換装可能とする以外にも、予め複数種類の部品を装着しておき、用途に応じてロボットアームを回転させて使用する部品を選択するような機構であってもよく、このようにすることで、作業員による取り換えの必要がなくなり作業効率が向上する。また、ロボットアームの近傍には、レール3を固定するためのレール固定部品(具体的には例えば、レールブラケット14、レールブラケット受け15、及びボルト等)が収められた部品格納箱66がある。なお、レール固定手段61の形態は、レール3及びレール固定部品等を把持し、レール固定作業等が可能なものであれば、上記例に限定されるものではない。
【0030】
レール固定位置とレール固定部品との位置関係を検出するレール固定位置検出手段62の一例としては、ロボットアーム(レール固定手段61)に取付けたカメラや距離センサ等が挙げられる。
【0031】
次に、レール位置出しユニット連結手段63について詳しく説明する。レール位置出しユニット5に関して前述したように、本実施の形態においてレール位置出しユニット5とレール固定ユニット6の関係は「連結状態」と「分離状態」とがあり、レール位置出しユニット連結手段63は、このような連結/分離の状態を実現するための機構を有する。
【0032】
例えば、レール3の据付工程の昇降モード(詳細は後述する)では、次工程のレール位置出しモードにおいてレール移動手段52が位置出しを開始できるような所定位置(位置決め開始位置)にレール位置出しユニット5を昇降させる必要があるが、レール位置出しユニット5は、それ単体では昇降路2内を昇降できない。一方、レール固定ユニット6は、レール固定ユニット制御装置64による制御に基づいて、昇降路2内において作業床60を昇降させることができる。そこで本実施の形態では、レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6とを連結状態にして(例えば、レール固定ユニット6に載せた状態で)、レール位置出しユニット5及びレール固定ユニット6をともに昇降させる。
【0033】
ここで、
図3(A),(B)には、レール位置出しユニット連結手段63の一例として、台座が示されている。レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6とを連結状態にする場合、レール位置出しユニット5が台座にセットされることにより、レール固定ユニット6の作業床60上から落下しないようにすることができる。なお、連結時に固定する機構を有さない台座を用いる場合、連結状態においてレール位置出しユニット5はレール固定ユニット6に載置されているだけであるから、その後、レール固定ユニット6だけを下降させることによって、連結状態から分離状態に容易に移行させることができる。
【0034】
図4は、レール位置出しユニット連結手段の形状例を説明するための図である。
図4(A),
図4(B)には、分離状態と連結状態におけるレール位置出しユニット5及びレール固定ユニット6の外観図が示され、
図4(C),
図4(D)には、それぞれの状態におけるレール位置出しユニット連結手段63の拡大図が示されている。
【0035】
図4の例示では、レール固定ユニット6のレール位置出しユニット連結手段63は、円錐ソケットの形状を有する台座となっており、レール位置出しユニット5における連結部分は、台座の円錐ソケットに適合するよう、底面が円錐状に突起している。そして、
図4(C)及び
図4(D)に示したように、円錐ソケット形状の台座にレール位置出しユニット5の円錐状の突起部が収まることによって、レール位置出しユニット5はレール固定ユニット6に連結される(分離状態から連結状態に移行する)。レール位置出しユニット連結手段63の連結部分を
図4のような構造とする場合、連結時に多少の位置ずれが生じた場合でも受動的に位置が補正され、かつ、レール位置出しユニット5の自重によって補正位置に固定されるため、予定された位置で精度よく連結することができる。また、連結状態を固定するための動力(動力源)が不要なことから、動力源の追加によるレール据付装置1(レール位置出しユニット5、レール固定ユニット6)の大型化や重量増加を抑制し、各ユニットの応答性の低下を抑制することができる。
【0036】
なお、本実施の形態におけるレール位置出しユニット連結手段63の具体的な連結機構は、
図4の例示に限定されるものではない。他にも例えば、様々な形状の部材(ピン及びホール、コの字型の結合部材、ロック機構付きの結合部材等)を用いて物理的に連結/分離する連結機構であってもよいし、電磁気等によって連結/分離が制御される連結機構等であってもよい。なお、レール位置出しユニット5がレール固定ユニット6上に単純に載置されるだけの構成とした場合でも、レール位置出しユニット5の自重によって、所定程度の固定力をもって連結状態を形成することに期待できるが、上記のような様々な連結機構を採用することによって、連結位置の精度を高める等のさらなる効果に期待できる。
【0037】
また、本実施の形態では、レール位置出しユニット連結手段63において、レール位置出しユニット5と連結可能な部分の一部または全てに、ゴムやバネ等の弾性体を用いるようにしてもよい。このような弾性体は、レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6との間のクッションとなるため、連結時の衝撃を緩和する効果が得られるとともに、レール位置出しユニット5のレール把持手段51が、レール3を把持し、クランプ(レール把持手段51)を締め込んでいった際に生じるレール芯出し雇い50の傾きを吸収することができ、レール据付作業の精度を高める効果も得られる。
【0038】
そして、レール固定ユニット6は、上記の各構成に加えて、レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6との連結の有無を検出するユニット間連結検出手段67(具体的には例えば、近接センサや接触センサ等)や、レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6との相対位置を検出可能なユニット間相対位置検出手段68を備えるようにしてもよい。このような構成を備えることにより、各検出手段による検出結果を、各ユニットを連携動作させる際の状態量として用いることができるため、より高精度なレール据付作業を自動実行することが可能となる(
図5参照)。
【0039】
(2)レール据付作業
まず、本実施の形態に係るレール据付システム100による制御系統について説明する。本実施の形態に係るレール据付システム100は、レール据付装置1と、レール据付装置1を構成する各ユニットの制御装置を制御することによって、各ユニットの動作を統合制御するレール据付制御装置90とを備えて構成される。
【0040】
図5は、本発明の一実施の形態に係るレール据付システムにおける制御系統の概念図である。
図5では、レール据付装置1の各ユニットの構成要素について、所定対象の状態量を検出するものをまとめてセンサと称し、動作を実行するものをまとめて駆動部と称している。各構成要素とセンサまたは駆動部との対応については記載を省略し、付番も省略する。
【0041】
前述したように、レール据付装置1を構成する各ユニット(昇降ユニット4、レール位置出しユニット5、及びレール固定ユニット6)は、ユニットごとの制御装置(昇降ユニット制御装置42、レール位置出しユニット制御装置54、及びレール固定ユニット制御装置64)を備えている。各ユニットの制御装置は、自ユニットのセンサで検出された状態量をフィードバックし、駆動部に操作量を送ることによって自ユニットを制御する。そして、レール据付システム100は、上記各ユニットの制御装置(各ユニットの動作と置き換えてもよい)を統合的に制御するレール据付制御装置90を備えることにより、各ユニットの連携動作を制御することができる。
【0042】
図5に示すように、レール据付制御装置90が、各ユニットにおける状態信号を各ユニットの制御装置から受信し、当該受信した状態信号に基づいて指令値を生成し、当該生成した指令値を各ユニットの制御装置にフィードバックすることによって、レール据付システム100による制御系統を形成している。具体的には例えば、レール据付制御装置90は、以下に説明するレール据付工程の各制御モード(昇降モード、レール位置出しモード、レール固定モード)を切替えるとともに、各ユニットに対して必要な情報等を与えて、各ユニットの制御装置による動作制御を行うよう指示する。レール据付制御装置90がこのように全体を制御することによって、レール据付作業におけるレール位置決め作業とレール固定作業とを自動で実行することができる。このとき、前述したように、ユニット間連結検出手段67やユニット間相対位置検出手段68による検出結果を状態量として受信することによって、レール据付制御装置90は、レール位置出しユニット5及びレール固定ユニット6の連結状況(連結状態/分離状態)を正確に把握することができるため、各ユニットの連携動作をより高精度に制御することが可能となる。
【0043】
なお、
図3(A)では、レール据付制御装置90がレール固定ユニット6上に図示されているが、本実施の形態においてレール据付制御装置90の設置場所はこれに限定されるものではない。すなわち、レール据付制御装置90は、レール据付装置1の内部または近傍に設置されてもよいし、他にも例えば、昇降路2の上部等に配置される制御盤に設置されたり、無線通信または優先通信で接続される遠隔の管理センタ等に設置されたりしてもよい。
【0044】
次に、本実施の形態におけるレール据付工程の各制御モードについて説明する。
図6は、レール据付工程における制御モードの概略図である。
図6に示したように、レール据付工程における制御モードとして、昇降モード、レール位置出しモード、及びレール固定モードが存在する。
【0045】
昇降モードは、次工程のレール位置出しモードにおいてレール移動手段52が位置出しを開始できるような所定位置(位置決め開始位置)にレール位置出しユニット5を昇降させるための制御モードである。
図6(A)に示したように、昇降モード時には、レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6とは連結状態にある。また、昇降モード時、レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6は、レール3及び昇降路2の内壁面に接触していない状態にある。昇降モードでは、以上の状態において昇降ユニット4のロープ41のロープ長を制御することにより、レール位置出しユニット5及びレール固定ユニット6を昇降路2内で昇降移動させて、レール位置出しユニット5を位置出し開始位置に移動させる。なお、以後の説明では省略するが、ロープ41のロープ長の制御は、揚重機40によるロープ41の繰出/巻取の動作を制御することによって実現できる。
【0046】
レール位置出しモードは、レール位置出しユニット5によって、レール3を位置出しによる所定位置(位置出し決定位置)に移動させて保持させるための制御モードであって、昇降モードに続いて実行される。詳しく説明すると、レール位置出しモードが開始されるとまず、レール位置出しユニット5及びレール固定ユニット6が連結状態のまま、据付けようとするレール3がレール把持手段51によって把持される。本例では、同時に4本のレール3を据付可能としているため、レール把持手段51は4本のレール3を把持する。その後、昇降ユニット4のロープ41のロープ長を伸ばすことによって、レール固定ユニット6をレール固定位置の近傍まで降下させる。このとき、レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6は分離状態となる。次に、レール3を把持した状態のまま、レール位置出しユニット5のレール移動手段52(例えば単管)を伸縮させて、昇降路2の内壁面に接触させる。さらに、レール昇降路内座標検出手段53(例えばフォトディテクタ)を用いて、レール3の昇降路内座標を検出させ、検出結果に基づいてレール移動手段52によるレール3の位置調整を行うことで、レール3を位置出し決定位置まで移動させる。
【0047】
レール固定モードは、レール位置出しユニット5による位置決め結果に基づいて、レール位置出しユニット5によって保持されたレール3を、昇降路2の内壁面におけるレール固定位置に固定する(据付ける)ための制御モードであって、レール位置出しモードに続いて実行される。レール固定モードの開始時、レール位置出しモードの後半と同様に、レール位置出しユニット5とレール固定ユニット6は分離状態にある。また、レール位置出しモードによって、レール位置出しユニット5のレール把持手段51によって把持されたレール3は位置決め決定位置に保持されている。そこで、レール固定モードでは、このように保持されたレール3の位置に基づいて、レール固定手段61及びレール固定位置検出手段62が、昇降路2の内壁面に対する穴開け加工、レールブラケットの取付け、レール固定作業等を行って、レール3をレール固定位置に固定する。
【0048】
次に、本実施の形態におけるレール据付作業の手順を説明する。
図7は、本実施の形態におけるレール据付作業の手順例を示すフローチャートである。なお、レール据付装置1(またはレール据付システム100)によって自動で実行可能な作業は、
図7のステップS14〜S18の処理に相当する。
【0049】
図7によればまず、作業員等による初期準備を行う。具体的には、昇降路2内にレール据付装置1を搬入し(ステップS11)、レール据付装置1の組立を行い(ステップS12)、初期設定(例えば、昇降路内寸法、レール取付個数、レール取付間隔等の設定)を行う(ステップS13)。
【0050】
初期準備が終了した後、レール据付装置1(またはレール据付システム100)によるレール据付作業が開始される。具体的にはまず、昇降モードに制御することにより、レール固定ユニット6とともにレール位置出しユニット5を所定位置(位置出し開始位置)まで移動させる(ステップS14)。次に、レール位置出しモードに制御することにより、レール位置出しユニット5によるレール3の位置出し作業を行う(ステップS15)。その後、レール固定モードに制御することにより、レール固定ユニット6によるレール3の固定作業を行う(ステップS16)。
【0051】
以上のステップS14〜S16の処理が行われることによって、1段分のレール据付作業が完了する。なお、本例のレール据付装置1では、複数本(例えば4本)のレール3を並行して固定することができる。また一般的に、レール据付作業は、最下段から最上段(最上階)まで順次繰り返される。
【0052】
そこで本例でも、全段におけるレール3の固定が完了したか否かを確認し(ステップS17)、作業が残っている段があれば(ステップS17のNO)、ステップS14に戻り、次の段に対するレール3の据付作業を繰り返す。そして、全段におけるレール3の固定が完了した場合は(ステップS17のYES)、昇降モードを利用して、1階あるいは最下階まで、レール位置出しユニット5及びレール固定ユニット6を降下させ(ステップS18)、レール据付装置1を昇降路2の外に搬出する(ステップS19)。以上で、レール据付作業は終了する。
【0053】
なお、本実施の形態では、4本のレール3を同時(並行して)に据付可能な構造を有するレール据付装置1を開示したが、レール3の据付は必ずしも4本同時に行われる必要はなく、例えば、レール3を1本ずつ、あるいは2本ずつ据付ける等してもよい。また、複数本のレール3を並行して据付けるためのレール位置出しユニット5の配置構造は、
図2に例示したものに限定されず、例えば以下に説明するような変形例が採用されてもよい。
【0054】
(3)変形例
図8は、変形例におけるレール位置出しユニットの外観図である。
図8(A)には、レール位置出しユニット5の上面図が示され、
図8(B)には、レール位置出しユニット5の正面図が示されている。
【0055】
本実施の形態に係るレール据付装置1について、前述した
図2に示したレール位置出しユニット5は、2本のメインレール3Aを昇降路2の側面に据付け、2本のCWTレール3Bを昇降路2の奥側に据付けるものであった。
図2(A)からも分かるように、レール3がこのような配置関係にある場合、メインレール3Aの位置出しを行うレール位置出しユニット5とCWTレール3Bの位置出しを行うレール位置出しユニット5は、互いに交錯することがないため、同じ高さに設置することができる。
【0056】
しかし、レール3の据付場所はこれに限ったものではなく、建屋の構造上、昇降路2の奥行きに余裕が無い等の場合には、
図8に示したように、CWTレール3Bが昇降路2の一側面に設置される等のケースもある。このような変則的なケースに対処可能なレール据付装置1の変形例として、
図8に示すように、メインレール3Aの据付用のレール位置出しユニット5AとCWTレール3Bの据付用のレール位置出しユニット5Bとを、異なる高さにずらして設置することができる。
【0057】
このようにレール位置出しユニット5A,5Bを設置することにより、本実施の形態に係るレール据付装置1(またはレール据付システム100)は、メインレール3A及びCWTレール3Bを含む複数本のレール3の据付(位置出し及び固定)を、並行して実行することができる。
【0058】
(4)まとめ
以上に説明したように、本実施の形態に係るレール据付システム100によれば、据付対象のレール3に対する、位置や距離等の測定、レール固定位置等の計算、及び3次元空間における位置出しや傾きの調整といった一連のレール据付作業が自動化されることにより、これらが作業員によって実行されていた従来の方法と比べて処理時間を大幅に短縮することができる。すなわち、レール据付作業の高速化及び工期短縮の効果に期待できる。また、レール据付装置1による自動作業の合間に、作業員がエレベーターの設置に関する他の作業を並行して行う等も可能となるため、全体的な作業時間の短縮にも期待できる。
【0059】
また、本実施の形態に係るレール据付システム100(レール据付装置1)によれば、レール位置出しユニット5がレール固定ユニット6から分離可能に構成されることにより、レール位置出しの際(レール位置出しモード)、レール固定ユニット6の自重や振動がレール位置出しユニット5に伝達しないようにすることができ、高精度の位置出しが可能となる。この結果、レール据付作業の精度(品質)が向上することにより、レール据付作業における工程の出戻りの発生が抑制されるため、工期短縮の効果にも期待できる。
【0060】
また、本実施の形態に係るレール据付システム100(レール据付装置1)によれば、レール位置出しモードにおいて、レール位置出しユニット5がレール固定ユニット6から分離した状態でレール位置出しが行われるため、把持したレール3とレール据付装置1の全体を移動させる必要がなく、従来よりも小規模なユニットを移動させることができればよい。したがって、レール位置出しのために必要な動力を抑えることができ、大型のアクチュエータ等の動力源が不要となる。すなわち、レール位置出しユニット5の軽量化に繋がり、当該ユニットの応答性が向上する。かくして、レール据付作業(特に、昇降路2内へのレール据付装置1の搬入や、レール位置出し作業等)における作業速度の向上に期待できる。
【0061】
なお、本発明は上記した実施の形態やその変形例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施の形態の構成の一部について、追加・削除・置換をすることが可能である。
【0062】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。