特許第6911088号(P6911088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6911088
(24)【登録日】2021年7月9日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】多層紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20210715BHJP
【FI】
   D21H27/00 E
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-207417(P2019-207417)
(22)【出願日】2019年11月15日
(65)【公開番号】特開2021-80590(P2021-80590A)
(43)【公開日】2021年5月27日
【審査請求日】2021年5月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 公人
(72)【発明者】
【氏名】峯村 和美
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−46769(JP,A)
【文献】 特開2014−141773(JP,A)
【文献】 特開2008−69462(JP,A)
【文献】 特開2002−179044(JP,A)
【文献】 国際公開第2020/116465(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層の中層と、この中層の表裏に形成された一対の表層とを有し、
前記表層及び中層のパルプが、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプを80%以上含み、
前記表層のパルプフリーネスが375〜465mlであり、
前記中層のパルプフリーネスが460〜550mlであり、
前記中層は3層〜7層であり、
前記中層全体の坪量が600〜950g/m2、前記各表層の坪量が75〜260g/m2、多層紙全体の坪量が750〜1470g/m2であ
ことを特徴とする多層紙。
【請求項2】
折り曲げ強度が10.0N以上である請求項1記載の多層紙。
【請求項3】
縦方向の引張強度が50.00Mpa以上、かつ横方向の引張強度が40.00Mpa以上である請求項1記載の多層紙。
【請求項4】
縦方向の曲げ強度が5.00N以上、かつ横方向の曲げ強度が3.00N以上である請求項1記載の多層紙。
【請求項5】
多層紙の密度が0.65〜1.00g/cm3である請求項1記載の多層紙。
【請求項6】
前記表層にポリビニルアルコールを含有する表面塗工層を表面に有する請求項1記載の多層紙。
【請求項7】
前記中層及び前記各表層がポリアクリルアミドを12〜30kg/t添加している請求項1記載の多層紙。
【請求項8】
複数層の中層と、この中層の表裏に形成された一対の表層とを有する多層紙の製造にあたり、
パルプフリーネスが375〜465mlである表層用パルプ原料と、
パルプフリーネスが460〜550mlである中層用パルプ原料とを用い、
5層〜9層抄きの円網多筒式抄き合わせ抄紙機で、前記中層全体の坪量が600〜950g/m2、前記各表層の坪量が75〜260g/m2、多層紙全体の坪量が750〜1470g/m2である多層紙を製造する、
ことを特徴とする多層紙の製造方法。
【請求項9】
中層用パルプ原料及び表層用パルプ原料にポリアクリルアミドを12〜30kg/t添加させる請求項記載の多層紙の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の多層紙から形成される、食器、医療器具、家具、及び文具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使い捨て用の食器、医療器具、家具としては、プラスチック樹脂を成形されたものが広く用いられている。これら、従来のプラスチック樹脂の代わりに、竹、木製のものも存在するが、成形加工する必要から製造コストが高く、製造が煩雑になるという課題を有する。また、プラスチック製品は海洋汚染や海洋生物の生態系に影響を与えるため、近年、環境保護の観点から、プラスチック製の食器、医療器具、家具の代替技術の確立が求められている。
【0003】
これに対し、従来技術においては、代替材料として耐水性及び耐熱水性を向上させた紙製の攪拌用スティックやスプーンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。そして、1枚の厚紙を多重に折り重ねた医療器具、複数の厚紙を積層させた紙製の家具も提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4355283号公報
【特許文献2】実開昭59−102009号公報
【特許文献3】登実第3220813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の技術においては、食器、医療器具、家具など用途において要求される強度などについてはまだ十分ではない。
そこで、1枚の厚紙を積層させて強度などを満足させようとする形態では、積層工程が必要となりコスト高の要因となるばかりでなく、貼り合わせ積層に合成材料を必要とし、人体と直接触れる用途には適していない。
【0006】
したがって、本発明の主たる課題は、十分な厚さを有し、十分な強度なども発揮する多層紙を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明の多層紙は、
複数層の中層と、この中層の表裏に形成された一対の表層とを有し、
前記表層及び中層のパルプが、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプを80%以上含み、
前記中層は3層〜7層であり、
前記中層全体の坪量が600〜950g/m2、前記各表層の坪量が75〜260g/m2、多層紙全体の坪量が750〜1470g/m2である、ことを特徴とする。
【0008】
前記中層を3層〜7層とし、一対の表層を合わせて5層〜9層構造とするとともに、各層の坪量を高くしたことで、全体の坪量が750〜1470g/m2である従来例では得がたい高坪量の多層紙を得ることができる。
この多層紙は、折り曲げ強度などの強度特性に優れたものである。また、用途において積層構造ではなく、一枚の厚紙から対象物を得られ、コストや生産性が有利である。
【0009】
また、多層紙の製造方法は、
複数層の中層と、この中層の表裏に形成された一対の表層とを有する多層紙の製造にあたり、
パルプフリーネスが375〜465mlである表層用パルプ原料とパルプフリーネスが460〜550mlである中層用パルプ原料とを使用して、
5層〜7層抄きを行う円網多筒式抄き合わせ抄紙機を使用して、前記中層全体の坪量が600〜950g/m2、前記各表層の坪量が75〜260g/m2、多層紙全体の坪量が750〜1470g/m2であることを特徴とする。
【0010】
上記円網多筒式抄き合わせ抄紙機は、ワイヤーを張った円筒を槽の中で回転させ、水の圧力差により繊維層を形成し、厚みのある紙を抄造する抄紙機で、1機の円網抄紙機が連続する構成である。「抄き合わせ」とは、乾燥前の湿紙を重ね合わせることである。
【0011】
5層〜9層抄きを行う円網多筒式抄き合わせ抄紙機で抄紙することで、厚紙を容易に得ることができる。
厚紙であると、抄造工程で、例えばカレンダーロールにより部分的なシワを生じることが懸念される。これに対して、表層用パルプ原料のパルプフリーネスを、中層用パルプ原料のパルプフリーネスより低くしておくと、例えばカレンダーロールによる加圧力が集中せず分散するようになるので、表面における部分的なシワ(紙を手で扱いたときに生じるシワに類似するので「扱きシワ」とも称することとする。)の発生を抑制できる。その結果、外観が良好となり、一枚の厚紙から対象物を得やすくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分な厚さを有し、十分な強度なども発揮する多層紙及び多層紙の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る多層紙について詳説する。
<多層紙>
当該多層紙は、複数層の中層と、この中層の表裏に形成された一対の表層とを有する。前記中層は3層〜7層である。
【0014】
この多層紙の用途としては、「食器」、「医療器具」、「家具」、「文具」などを挙げることができる。そして「食器」は、皿、椀、箸、カップ、コースター、トレー、マドラー、スプーン、フォーク、紙器等の食器のみならず、ナイフ、包丁等の調理器具を含む広い概念である。「医療器具」は、舌圧子、耳かき、クシ、膿盆、その他、現状のプラスチック製医療器具の代替品を挙げることができる。「家具」は、ハンガー、その他現状のプラスチック製家具の代替品を挙げることができる。「文具」は、クリアボード、クリップ、ペンなど、その他現状のプラスチック製文具の代替品を挙げることができる。
【0015】
前記表層及び中層のパルプが、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプを80%以上含む。
好ましくは、古紙パルプを含まない。古紙パルプを過度に含むと強度の低下がみられるが、上限を20質量%とするのであれば、強度への影響が小さい。
【0016】
針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプを混合して配合することが望ましい。その結果、紙厚が厚くなり、十分な強度を確保できる。
また、表層における前記針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)を5/95以上40/60以下にすることで、比較的剛直で高密度化しやすい広葉樹クラフトパルプを多く含有するので、一対の表層は高密度で剛直な特性を得ることができ、強度に優れる。さらに、表層は、食品等の被対象物由来の水分又は油成分の内部への浸透抑制効果を高くすることができる。
一方、前記中層における前記針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)を20/80以上40/60以下にすることで、柔軟性に富む針葉樹クラフトパルプを多く含有するので、中層は良好な柔軟性を備える。
【0017】
(針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ)
ここで、針葉樹クラフトパルプは、例えば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)である。
また、広葉樹クラフトパルプは、例えば、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)である。これらのなかで、加工後の製品の外観及び強度を両立できる観点から、針葉樹晒クラフトパルプ及び広葉樹晒クラフトパルプを用いることが好ましい。
【0018】
当該多層紙の各層は、必要に応じて、例えば広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを適宜組合せて使用することができる。
実施の形態の多層紙は、例えば紙製食器に用いられる場合には、食品等の被対象物に直接接触されるものである。このため、当該多層紙に使用するその他のパルプとしては、化学パルプであることが好ましく、中でも、ECFパルプ、TCFパルプ、未晒しクラフトパルプ(UKP)がより好ましい。ECFパルプとは、塩素(Cl2)を使用せず、二酸化塩素(ClO2)で漂白して製造した無塩素漂白化学パルプである。TCFパルプとは、塩素(Cl2)を使用せず、酸素(O)や過酸化水素(P)、オゾン(Z)で漂白して製造した完全無塩素漂白化学パルプである。すなわち、ECFパルプ及びTCFパルプは、塩素イオンの含有量が微量または0であるため、低温焼却によってもダイオキシン類等の有機塩素化合物が生成される危険が少ないとの利点があり、結果として環境負荷を軽減できる。また、未晒クラフトパルプは、使用することで木材の色目に似せる事ができ、漂白工程を省くことでエネルギーの削減及びCO2の削減といった環境負荷の軽減を図ることができる。
【0019】
実施の形態の多層紙は、硬く折れ難いという特性を有する一対の表層と、柔軟性を有する中層とを組み合わせる多層抄き構造とすることで、表層が高密度ながら弾性を確保しつつ、歪みや折れを抑制できる。
【0020】
(表層フリーネス)
実施の形態の多層紙は、表層に用いるパルプのカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)の下限としては、375ml、特に410mlが好ましい。前記表層に用いるパルプのCSFが低い数値である場合、当該多層紙表層の抄紙時に濾水性が悪くなり、乾燥性に難を生じるおそれがある。その結果、表層の層間剥離に繋がるおそれがある。一方、前記表層に用いるパルプのCSFの上限としては、465ml、特に450mlが好ましい。CSFが高いと抄紙機でのパルプ繊維配向性の調整が難しくなることで多層紙の地合が悪くなり、また、紙器として用いるには紙力や剛性が低下するおそれがある。当該多層紙は、フリーネスの高い針葉樹晒クラフトパルプ及び広葉樹晒クラフトパルプを混合して配合することで、より紙厚が大きくなり、剛度を向上できる。ここで、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)は、JIS−P8220−1(2012)のパルプの離解方法に準拠して離解することによって離解パルプとし、この離解パルプをJIS−P8121−2(2012)のカナダ標準ろ水度試験方法に準拠して測定される値である。
【0021】
(中層)
前記一対の表層の間に配置される複数の中層を備える。中層は、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプを主成分とする。また、前記中層における前記針葉樹晒クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)としては、30/70以上40/60以下である。前記中層における前記針葉樹クラフトパルプの前記広葉樹クラフトパルプに対する質量比を前記範囲とすることで、柔軟性に富む針葉樹クラフトパルプを多く含有するので、中層は良好な柔軟性を備える。従って、上述したように剛度を有し、硬いが折れ易い傾向の一対の表層に柔軟な中層を組み合わされるので、当該多層紙は強靭性や耐久性に優れる。
【0022】
(中層フリーネス)
実施の形態の多層紙の中層に用いるパルプのカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)の下限としては、460ml、特に470mlが好ましい。前記CSFが低い数値の場合、抄紙機での脱水性が悪くなる。さらに、剛性が低くなるおそれがある。一方、前記中層に用いるパルプのCSFの上限としては、550ml、特に520mlが好ましい。前記CSFが過度に高い場合、フィブリル化が少なく強度や層間強度の低下を招くおそれがある。さらに、中層に用いるパルプのカナディアンスタンダードフリーネスが、一対の表層に用いるパルプのカナディアンスタンダードフリーネスよりも高いことが、中層の層間強度を維持しつつ、弾性力を確保する観点から好ましい。
【0023】
前記中層の総数としては、3層以上、特に5層が好ましい。前記中層の総数が3層以上であることで、多層紙の強靭性や耐久性をより向上できる。前記中層の総数の上限としては、層間強度を維持する観点から、7層以下であることが好ましい。
円網多筒式抄き合わせ抄紙機を使用する場合における層間強度を維持しながら操業を行ううえでは、3層〜7層が好適である。
【0024】
[添加剤]
当該多層紙は、表層及び中層に製紙用添加剤としてサイズ剤及び紙力増強剤を添加することが好ましい。
【0025】
(サイズ剤)
当該多層紙は、食品等の被対象物由来の水分又は油成分の内部への浸透をより抑制するために、各層にサイズ剤を添加することができる。サイズ剤としては、スチレン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水琥珀酸(ASA)、中性ロジンサイズ剤、ロジンサイズ剤、変性ロジンエマルジョンサイズ剤などが挙げられる。これらの中でもロジンサイズ剤及び変性ロジンエマルジョンサイズ剤が好ましい。
【0026】
前記ロジンサイズ剤は、製紙分野で従来公知のものであって、特に限定されない。ロジン系の物質は、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類をフマル酸、マレイン酸、アクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性した強化ロジンや、前記ロジン類をグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の多価アルコールを反応させて得られるロジンエステルを挙げることができる。また、本発明において、ロジン系サイズ剤には、これらの単独またはその混合物をエマルジョン化したもの、単独でエマルジョン化した後に混合したものも含まれる。さらに、前記エマルジョン化したものに、サイズ発現性をより向上させるために各種ポリマーを添加したものも含まれる。
【0027】
表層のサイズ剤の添加量としては、固形分で0.5kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。また、中層のサイズ剤の添加量としては、固形分で2.0kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。なお、「kg/t」はパルプ1tあたりの質量(kg)を示す。サイズ剤の添加量を前記範囲とすることで、耐水性を向上できる。
【0028】
(紙力増強剤)
当該多層紙は、各層に紙力増強剤サイズ剤を添加することができる。紙力増強剤を添加することで、各層に紙製食器として用いるために適切な諸強度を付与できる。
【0029】
紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミン系樹脂、アクリル樹脂系、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂など公知の種々のものを使用できる。これらの中でも、両性紙力増強剤を使用することが好ましい。両性ポリアクリルアミドとしては、アクリルアミドと前記のアニオン性モノマー及びカチオン性モノマーの共重合物、アクリルアミドと前記のアニオン性モノマーとの共重合物のマンニッヒ変性物、ホフマン分解物等が挙げられる。本発明者らの知見では、特に両性ポリアクリルアミドが好ましく、両性ポリアクリルアミドは、自己定着機能を有しているため、紙間強度を向上させるべく増添したとしても、カチオン過多になることがなく、変性ロジンエマルジョンサイズ剤を安定的に定着させることができる。
【0030】
各層の紙力増強剤の添加量としては、固形分で12kg/t以上30kg/t以下が好ましい。前記紙力増強剤の添加量を前記範囲とすることで、多層紙の層間強度などの各種紙力を付与することができる。紙力増強剤の添加量が前記範囲を下回ると層間強度が十分でないおそれがある。一方、紙力増強剤の添加量が前記範囲を超えると層間強度の向上はほぼ横ばいとなり、さらに、添加した紙力増強剤の歩留りが低下することで、抄紙機系内の汚れ、発泡などが発生し、操業性(脱水性の悪化)が低下するおそれがある。その結果、乾燥工程での乾燥不良がおきることで層間剥離が発生する可能性がある。
【0031】
(その他の添加剤)
また、当該多層紙は、本発明の目的とする効果を損ねない範囲でその他の各種製紙用添加剤を含有させてもよい。当該多層紙に添加可能なその他の添加剤としては、例えば、公知の製紙用薬剤などが挙げられる。
【0032】
[多層紙の物性]
(坪量)
坪量は、JIS−P8124(2011)に準拠して測定される。当該多層紙の各層の坪量は均等である必要はなく、表層及び中層の坪量は、特に限定されるものではないが、表層の坪量としては、1層あたり75.0g/m2以上260.0g/m2以下が好ましい。また、中層全体の坪量としては、600g/m2以上950g/m2以下が好ましい。
【0033】
当該多層紙全体の坪量の下限としては、十分な剛度を得る観点から、750g/m2が好ましく、860g/m2がより好ましい。当該多層紙全体の坪量の上限としては、1470g/m2が好ましく、1240g/m2がより好ましい。前記坪量が高いと、十分な剛度は得やすくなるが、厚みが増して抄造時にカレンダーロールで折れジワが発生しやすくなるおそれがある。
【0034】
当該多層紙全体の坪量に対する前記一対の表層の合計の坪量の割合としては、25.0%以上35.0%以下であることが好ましい。剛直性を有する一対の表層と柔軟性を有する中層を備える当該多層紙において、一対の表層の合計の坪量の割合を前記範囲とすることで、折れ曲がり難い特性を付与することができる。
【0035】
(紙厚)
紙厚は、JIS−P8118(2014)に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定される。当該多層紙の紙厚としては、750μm以上2,000μm以下が好ましい。当該多層紙の紙厚が前記範囲であることで、当該多層紙の紙層の剥がれを抑制できる。
【0036】
(密度)
当該多層紙の密度としては、0.65〜1.00g/cm3、特に0.73〜0.85g/cm3が好ましい。当該多層紙の密度が前記範囲であることで、高坪量で剛性が優れ、折れ難いという相反する性能を発揮する。前記多層紙の密度が0.65g/cm3未満の場合、曲げ強度はでるものの、扱きシワや層間剥離が発生しやすくなる可能性がある。一方、前記多層紙の密度が1.00g/cm3超える場合、扱きシワや層間剥離は発生し難いが、強度や剛性が下がる可能性がある。例えば、当該多層紙の密度は、表層又は中層のパルプフリーネスや灰分、カレンダー工程によって調節することができる。
【0037】
(水分)
JIS−P8127(2010)に準拠して測定される当該多層紙の水分としては、9.0%以上11.0%以下であることが好ましい。当該多層紙の前記水分が前記範囲であることで、柔軟性が向上するので、当該多層紙を用いて食器を製造する場合の折機での作業性及び折部の断裂抑制効果を向上できる。
【0038】
(灰分)
灰分は、JIS−P8251(2003)に準拠して測定される。当該多層紙の灰分としては、0.1%以上10.0%以下が好ましい。当該多層紙の灰分が前記範囲であることで、カールをフラットに調整でき、かつ、層間強度の低下を抑制できる。
【0039】
(表面強度)
表面強度は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.1 m−72による「表面強度試験方法」に準拠して測定される。当該多層紙の表面強度の下限としては、10Aが好ましい。当該多層紙の表面強度が前記範囲であることで、表層の脱落や搬送、加工段階での耐擦傷性を向上できる。
【0040】
(コブサイズ度)
コブサイズ度は、JIS−P8140(1998)に準拠して23℃の蒸留水を使用して測定される。当該多層紙のコブサイズ度の上限としては、50g/m2が好ましい。当該多層紙のコブサイズ度が前記上限以上の場合、当該多層紙が吸湿により波うちやシワの発生を招くおそれがある。
【0041】
(Z軸強度)
Z軸強度は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.18−1:2000に準拠して測定されるZ軸強度で380kN/mm2以上が好ましい。前記Z軸強度を有することで、食器成形時における層間剥離や皺の発生を抑制できる。
【0042】
(折り曲げ強度)
折り曲げ強度は、10.0N以上であることで、先端を鋭利な食器等に加工した際に、
折れが生じない 。
【0043】
(引張強度)
縦方向の引張強度は、50.00MPa以上かつ横方向の引張強度が40.00MPa以上であることで、荷重が長時間掛かる家具等に加工した際に、破断やネジレが生じない 。
【0044】
(曲げ強度)
縦方向の曲げ強度は、5.00N以上かつ横方向の曲げ強度が3.00N以上であることで、深堀り加工を要する食器等に加工した際に、断面の割れ等が生じない 。
【0045】
当該多層紙によれば、強靭性や耐久性に優れ、従来のプラスチック製食器に置き換わる紙製食器に好適に利用できる。
【0046】
[多層紙の製造方法]
多層紙の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の工程により、公知の多層抄き抄紙機を用いて製造することができる。
(1)パルプ繊維を水に分散させて得たスラリーに、各紙層に対応した添加剤を必要に応じ添加して混合し、各紙層の紙料を調製する。
【0047】
(2)次に、これらの原料スラリーを用いて、多層紙のpHが6以上8以下になるように中性域で抄紙機にて表層、単層又は複層の中層及び表層の抄合せで抄紙する。
抄紙方法は特に限定されるものではなく、公知の抄紙機、すなわち長網、円網、ハイブリッドフォーマー、ギャップフォーマー等の抄紙機を使用できるものの、特に好ましくは円網多筒式抄き合わせ抄紙機を使用し、5層以上の多層で抄紙される。抄紙工程では、サイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーターなどの塗工装置等を使用して、表層の表面に塗工液を塗工して表面塗工層を形成することができる。
【0048】
(3)次に、加圧ロールによりプレスし、水分を除去する。
【0049】
(4)次に、ドライヤーシリンダーにて乾燥する。
乾燥後には、ニップキャレンダー、スーパーキャレンダー、マシンキャレンダー、ソフトキャレンダー等のキャレンダー装置を用いて平滑化処理を行なってもよい。平滑化処理を行うことにより、多層紙に高い光沢度が付与されて高級感を有する紙製食器に好適に用いることができる。
【0050】
<その他の実施形態>
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、前記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例及び比較例の物性値の測定方法は以下のとおりである。
[フリーネス(mL)]
得られた多層紙をJIS−P8220−1(2012)のパルプの離解方法に準拠して離解することによって離解パルプとし、この離解パルプをJIS−P8121−2(2012)のカナダ標準ろ水度試験方法に準拠して測定した。
【0053】
[坪量(g/m2)]
JIS−P8124(2011)に記載の「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した。
【0054】
[紙厚(μm)]
JIS−P8118(2014)に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した。
【0055】
[密度(g/cm3)]
JIS−P8118(2014)に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した。
【0056】
[折り曲げ強度]
折り曲げ強度は、デジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製)により測定し、試験条件は以下の通りとした。巾15mm、長さ150mmの試験片を3点折り曲げ治具に固定し、フォースゲイジを下降させた。その際の、荷重を折り曲げ強度(N)とした。なお、試験環境は、温度26℃、湿度70%で行った。
【0057】
[引張強度]
引張強度は、JIS−P−8113(2006)に準拠して測定した値である。
【0058】
[曲げ強度]
曲げ強度は、JIS K7171:2016に準拠して測定した。試験片は、15mm巾、長さ150mmに調製した。
【0059】
[扱きシワ]
得られた多層紙を紙管(口径9インチ)に巻きつけて、多層紙表面の扱きシワについて以下の通り評価した。なお、使用できる扱きシワの範囲を3以上の評価値と判断した。
5:扱きシワがなく、外観に異常がない。
4:一部に小さい扱きシワがあるが、外観に異常がない。
3:扱きシワがあるが、外観に問題ないレベルである。
2:扱きシワがあり、外観に問題がある。
1:全面に扱きシワが目立ち、外観に異常がある。
【0060】
[層間剥離]
得られた多層紙を紙管(口径9インチ)に巻きつけて、多層紙表面の層間剥離について以下の通り評価した。なお、使用できる層間剥離の範囲を3以上の評価値と判断した。
5:層間剥離がなく、外観に異常がない。
4:一部に薄い層間剥離があるが、外観に異常がない。
3:層間剥離があるが、外観に問題ないレベルである。
2:層間剥離があり、外観に問題がある。
1:大きな層間剥離が目立ち、外観に異常がある。
【0061】
[実施例1]
(1)以下に表層及び中層の配合を示す。
(表層)
フリーネス440mlのNBKP:LBKPが10:90の100部のパルプスラリー中に、以下の原料を添加した。
ロジンエマルジョン系サイズ剤:固形分で0.8kg/パルプt
アクリルアミド系紙力増強剤:固形分で19.0kg/パルプt
(中層)
フリーネス440mlのNBKP:LBKPが35:65の100部のパルプスラリー中に、以下の原料を添加した。
変性ロジンエマルジョン系サイズ剤:固形分で6.0kg/パルプt
アクリルアミド系紙力増強剤:固形分で19.0kg/パルプt
(2)このパルプスラリーをワイヤーパートが円網多筒式抄き合わせ抄紙機を用いて一対の表層、5層の中層で、全7層構造で抄き合わせた。各層の坪量は表1及び表2に示すとおりである。
(3)表層の表面に、以下の塗工量となるようにポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含有する塗工液をカレンダー塗工して表面塗工層を形成し、実施例1の多層紙を得た。
ポリビニルアルコール:0.2g/m2
パラフィンワックス:0.2g/m2
表面サイズ剤:0.6g/m2
【0062】
[実施例2〜実施例7、比較例1〜比較例5及び参考例1〜参考例4]
原料の種類、含有量及び物性値を表1及び表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜実施例7、比較例1〜比較例5及び参考例1〜参考例4の多層紙を得た。
比較例4は中層のみから形成される多層紙である。
参考例1〜参考例4は、パルプフリーネスを変化させた多層紙の例である。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の多層多層紙は、紙製食器、紙製医療器具、紙製家具、紙製文具に好適に用いることができる。