(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、範囲を「〜」を用いて表示した場合、その範囲には「〜」の両端を含むものとする。例えば、A〜Bという範囲には、AおよびBを含む。
【0010】
[炭素質材料]
本発明の炭素質材料は、最小粒子径が3.00μm超、円形度が0.82以上0.94以下、アスペクト比が1.48以上1.65以下、かつ、ラマンR値が0.40超である。
本発明の炭素質材料を用いて得られるリチウムイオン二次電池用負極(負極)は、高密度である。これは、本発明の炭素質材料においては、最小粒子径が3.00μm超であり、すなわち、粒子径が3.00μm以下の微粉を除去されているためと推測される。
このような負極を用いたリチウムイオン二次電池は、放電容量や初回充放電効率などの電池特性に優れる。
【0011】
〈粒子径〉
本発明の炭素質材料の最小粒子径は、3.00μm超である。
負極がより高密度化し、電池特性がより優れるという理由から、本発明の炭素質材料の最小粒子径は、3.20μm以上が好ましく、3.40μm以上がより好ましく、3.60μm以上が更に好ましく、3.80μm以上が特に好ましく、4.00μm以上が最も好ましい。
一方、上限は特に限定されないが、本発明の炭素質材料の最小粒子径は、10.00μm以下が好ましく、9.00μm以下がより好ましく、8.00μm以下が更に好ましく、4.80μm以下が最も好ましい。
【0012】
本発明の炭素質材料の粒子径D
50は、5.00μm以上25.0μm以下が好ましく、10.0μm以上20.0μm以下がより好ましく、10.0μm以上18.0μm以下が更に好ましく、12.9μm以上17.5μm以下が最も好ましい。
粒子径D
50は、粒度分布の累積度数が体積百分率で50%となる粒子径である。
【0013】
〈円形度〉
本発明の炭素質材料の円形度は、0.82以上であり、0.83以上が好ましく、0.84以上がより好ましい。円形度が1に近いほど炭素質材料の形状は球形となり、負極がより高密度化する。
一方、実際に円形度を1にするコスト等を考慮すると、本発明の炭素質材料の円形度は、0.94以下であり、0.93以下が好ましく、0.92以下がより好ましく、さらに好ましくは0.91以下であり、最も好ましくは0.88未満である。
【0014】
〈アスペクト比〉
本発明の炭素質材料のアスペクト比は、1.65以下であり、1.60以下が好ましく、1.55以下がより好ましい。アスペクト比が1に近いほど炭素質材料の形状は球形となり、負極がより高密度化する。
一方、実際にアスペクト比を1にするコスト等を考慮すると、本発明の炭素質材料のアスペクト比は、1.48以上であり、1.49以上が好ましく、1.50以上がより好ましい。
【0015】
炭素質材料の粒子径は、レーザー式粒度分布測定装置(セイシン企業社製、LMS−200e)を用い、イオン交換水を分散媒とし、サンプル液の量を40mLとした条件で測定して求められる値である。
炭素質材料の円形度およびアスペクト比は、粒子形状測定装置(セイシン企業社製、PITA−1)を用い、イオン交換水を分散媒とし、サンプル液の量を1.25μLとした条件で測定して求められる値である。
【0016】
〈ラマンR値〉
本発明の炭素質材料のラマンR値は、0.40超である。ラマンR値が低すぎると、リチウムイオンの挿入または脱離に関わるエッジが少なすぎ、電池特性が不十分となる。
電池特性がより優れるという理由から、本発明の炭素質材料のラマンR値は、0.45以上が好ましく、0.50以上がより好ましく、さらに好ましくは0.50超である。
【0017】
一方、上限は特に限定されないが、ラマンR値が高いことは、炭素質材料の表面の非晶質炭素量が多いことを意味する。このため、ラマンR値が高いと、非晶質炭素の持つ不可逆容量の影響が大きくなり、電池容量が低下する場合がある。このような観点からは、本発明の炭素質材料のラマンR値は、1.20以下が好ましく、1.10以下がより好ましく、0.80以下が更に好ましい。
【0018】
炭素質材料のラマンR値は、次のように求める。
ラマン分光測定装置(堀場製作所社製、LabRAM ARAMIS)を用い、波長532nmで顕微ラマン分析を100回行ない、ラマンスペクトルを得る。得られたラマンスペクトルにおける、Dバンド(1350〜1370cm
−1の領域に存在するピーク)の強度I
Dと、Gバンド(1570〜1630cm
−1の領域に存在するピーク)の強度I
Gとの比を、ラマンR値(I
D/I
G)として算出する。
【0019】
〈比表面積〉
本発明の炭素質材料の比表面積は、特に限定されないが、1.0〜5.0m
2/gが好ましく、1.2〜3.0m
2/gがより好ましく、1.3〜2.6m
2/gがさらに好ましい。
炭素質材料の比表面積は、粉体分析装置(カンタクローム社製、Monosorb)を用いて、窒素ガス吸着によるBET1点法により求める。
【0020】
[炭素質材料の製造方法]
本発明の炭素質材料の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)は、上述した本発明の炭素質材料を製造する方法であって、原料であるコークスを粉砕し、黒鉛化し、せん断力および圧縮力を付与し、上記黒鉛化の前または後に、微粉を除去する。
【0021】
〈コークス〉
原料として、コークスを用いる。コークスとしては、例えば、石炭コークス、石油コークスが挙げられる。石炭コークスは、石炭を高温(約1000〜1100℃)で乾留して得られる、金属性光沢のある灰黒色の多孔質固体である。石油コークスは、石油の重質留分を高温で熱分解して得られるコークスである。
コークスは、か焼前のコークス(生コークス)であってもよく、か焼されたコークス(カルサインコークス)であってもよい。コークスのか焼は、例えば、ローターリーキルンなどを用いて、約900〜1500℃の温度で行なわれる。
負極がより高密度化し、電池特性がより優れるという理由から、石炭コークスを用いることが好ましく、か焼前の石炭コークスを用いることがより好ましい。
【0022】
〈粉砕〉
原料であるコークスを粉砕して、粉砕品を得る。
このとき、コークスを、平均粒子径が例えば5.00〜15.00μmとなるように粉砕する。
粉砕に用いる装置としては、特に限定されず、例えば、せん断式ミル、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コーンクラッシャーなどの粗粉砕機;ロールクラッシャー、ハンマーミルなどの中間粉砕機;機械式粉砕機、気流式粉砕機、旋回流式粉砕機などの微粉砕機;等が挙げられる。
なお、か焼前のコークス(生コークス)を原料として用いる場合は、粉砕前に、例えば100〜200℃で乾燥してもよい。
【0023】
〈黒鉛化〉
コークスの粉砕品を加熱することにより黒鉛化し、黒鉛化品を得る。
黒鉛化する際の加熱温度(黒鉛化温度)は、2500℃以上が好ましく、2800℃以上がより好ましい。一方、黒鉛化温度は、4000℃以下が好ましく、3500℃以下がより好ましい。黒鉛化温度がこの範囲であれば、黒鉛化品の結晶性などが良好となる。
【0024】
〈微粉の除去〉
粉砕品を黒鉛化する前または後に、微粉を除去する。すなわち、粒子径が3.00μm以下の微粉を除去する。これにより、最小粒子径が3.00μm超の炭素質材料が得られる。
黒鉛化の前に微粉を除去する場合は、粉砕品の微粉を除去する。一方、黒鉛化の後に微粉を除去する場合は、黒鉛化品の微粉を除去する。
【0025】
微粉除去の方法としては、特に限定されないが、例えば、風力分級機などを用いて乾式で分級する方法が挙げられる。
風力分級機の方式としては、例えば、内部ロータにより遠心力を発生させ、微粉のみ外部ブロアにより吸引させて分級する強制遠心分離式;内部ロータにより風を循環させ、被処理物の比重差によって分級する比重選別式;被処理物を気流に乗せて管内に投入し、慣性と気流の抵抗を利用して、被処理物の飛行軌跡の違いにより分級する重力慣性分離式;等が挙げられ、適宜選択できる。
【0026】
〈せん断力および圧縮力の付与〉
微粉が除去された黒鉛化品に、せん断力および圧縮力を付与する。こうして、本発明の炭素質材料が得られる。
具体的には、黒鉛化品に、いわゆるメカノケミカル処理を施す。このとき、円形度、アスペクト比およびラマンR値が上述した範囲を満たすように、メカノケミカル処理により付与されるせん断力や圧縮力などの強度を、適宜調整する。
メカノケミカル処理に用いる装置としては、例えば、ハイブリダイゼーション(奈良機械製作所社製)、メカノマイクロス(奈良機械製作所社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)等のせん断圧縮加工装置が好適に挙げられる。
【0027】
[リチウムイオン二次電池用負極(負極)]
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、本発明の炭素質材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極である。リチウムイオン二次電池用負極を単に「負極」ともいう。
【0028】
本発明の負極は、通常の負極に準じて作製される。
負極の作製時には、本発明の炭素質材料に結合剤を加えて予め調製した負極合剤を用いることが好ましい。負極合剤には、本発明の炭素質被覆黒鉛粒子以外の活物質や導電材が含まれていてもよい。
結合剤としては、電解質に対して、化学的および電気化学的に安定性を示すものが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂;ポリエチレン、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンゴムなどの樹脂;カルボキシメチルセルロース;等が用いられ、これらを2種以上併用することもできる。
結合剤は、通常、負極合剤の全量中の1〜20質量%程度の割合で用いられる。
【0029】
より具体的には、まず、任意で、本発明の炭素質材料を分級などにより所望の粒度に調整する。その後、本発明の炭素質材料を結合剤と混合し、得られた混合物を溶剤に分散させて、ペースト状の負極合剤を調製する。溶剤としては、水、イソピロピルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。混合や分散には、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどが用いられる。
【0030】
調製したペーストを、集電体の片面または両面に塗布し、乾燥する。こうして、集電体に均一かつ強固に密着した負極合剤層(負極)が得られる。負極合剤層の厚さは、10〜200μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。
負極合剤層を形成した後、プレス加圧などの圧着を行なうことにより、負極合剤層(負極)と集電体との密着強度をより高めることができる。
集電体の形状は、特に限定されないが、例えば、箔状、メッシュ、エキスパンドメタルなどの網状などである。集電体の材質としては、銅、ステンレス、ニッケルなどが好ましい。集電体の厚さは、箔状の場合で5〜20μm程度が好ましい。
【0031】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極を有するリチウムイオン二次電池である。
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極のほかに、更に、正極および非水電解質などを有する。本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、負極、非水電解質、正極の順で積層し、電池の外装材内に収容することにより構成される。
本発明のリチウムイオン二次電池は、用途、搭載機器、要求される充放電容量などに応じて、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの中から任意に選択できる。
【0032】
〈正極〉
正極の材料(正極活物質)は、充分量のリチウムを吸蔵/離脱し得るものを選択するのが好ましい。正極活物質としては、リチウムのほか、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそのリチウム化合物などのリチウム含有化合物;一般式M
XMo
6S
8−Y(式中Mは少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で表されるシェブレル相化合物;活性炭;活性炭素繊維;等が挙げられる。バナジウム酸化物は、V
2O
5、V
6O
13、V
2O
4、V
3O
8で示される。
【0033】
リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属とを固溶したものであってもよい。複合酸化物は単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM
11−XM
2XO
2(式中M
1、M
2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦1の範囲の数値である)、または、LiM
11−YM
2YO
4(式中M
1、M
2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で示される。
M
1、M
2で示される遷移金属元素は、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどであり、好ましいのはCo、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alなどである。好ましい具体例は、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiNi
0.9Co
0.1O
2、LiNi
0.5Co
0.5O
2などである。
リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物、水酸化物、塩類等を出発原料とし、これら出発原料を所望の金属酸化物の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600〜1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。
【0034】
正極活物質は、上述した化合物を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。例えば、正極中に炭酸リチウム等の炭素塩を添加できる。正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤などの各種添加剤を適宜に使用できる。
【0035】
正極は、例えば、正極活物質と、結合剤と、正極に導電性を付与するための導電剤とからなる正極合剤を、集電体の両面に塗布して正極合剤層を形成して作製される。
結合剤としては、負極の作製に使用される結合剤を使用できる。
導電剤としては、黒鉛化物、カーボンブラックなどの公知の導電剤が使用される。
集電体の形状は特に限定されないが、箔状または網状等が挙げられる。集電体の材質は、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等である。集電体の厚さは、10〜40μmが好ましい。
正極も、負極と同様に、ペースト状の正極合剤を、集電体に塗布、乾燥し、その後、プレス加圧等の圧着を行なってもよい。
【0036】
〈非水電解質〉
非水電解質は液状の非水電解質(非水電解質液)としてもよく、固体電解質またはゲル電解質などの高分子電解質としてもよい。
前者の場合、非水電解質電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池として構成される。後者の場合、非水電解質電池は、高分子固体電解質、高分子ゲル電解質電池などの高分子電解質電池として構成される。
【0037】
非水電解質としては、通常の非水電解質液に使用される電解質塩である、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiClO
4、LiB(C
6H
5)、LiCl、LiBr、LiCF
3SO
3、LiCH
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3CH
2OSO
2)
2、LiN(CF
3CF
2OSO
2)
2、LiN(HCF
2CF
2CH
2OSO
2)
2、LiN((CF
3)
2CHOSO
2)
2、LiB[{C
6H
3(CF
3)
2}]
4、LiAlCl
4、LiSiF
6などのリチウム塩が用いられる。酸化安定性の点からは、LiPF
6、LiBF
4が好ましい。
非水電解質液中の電解質塩の濃度は、0.1〜5.0mol/Lが好ましく、0.5〜3.0mol/Lがより好ましい。
【0038】
非水電解質液を調製するための溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート;1、1−または1、2−ジメトキシエタン、1、2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、1、3−ジオキソラン、4−メチル−1、3−ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;スルホラン、メチルスルホランなどのチオエーテル;アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル;ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−2−オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒;等が挙げられる。
【0039】
非水電解質を、固体電解質またはゲル電解質などの高分子電解質とする場合、マトリクスとして可塑剤(非水電解質液)でゲル化された高分子を用いることが好ましい。
マトリクスを構成する高分子としては、ポリエチレンオキサイド、その架橋体などのエーテル系高分子化合物;ポリ(メタ)アクリレート系高分子化合物;ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物;等が好適に用いられる。
可塑剤である非水電解質液中の電解質塩の濃度は、0.1〜5.0mol/Lが好ましく、0.5〜2.0mol/Lがより好ましい。
高分子電解質において、可塑剤の割合は、10〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。
【0040】
〈セパレータ〉
本発明のリチウムイオン二次電池においては、セパレータも使用できる。
セパレータは、その材質は特に限定されないが、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などが用いられる。これらのうち、合成樹脂製微多孔膜が好ましく、なかでも、ポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面でより好ましい。ポリオレフィン系微多孔膜としては、ポリエチレン製微多孔膜、ポリプロピレン製微多孔膜、これらを複合した微多孔膜などが好適に挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されない。
【0042】
〈実施例1〉
《炭素質材料の作製》
か焼前の石炭コークス(宝武炭材料科技有限公司製、負極用焦1号)(生コークスに該当)を、回転式キルンを用いて200℃で乾燥し、乾燥品を得た。乾燥品を、気流式粉砕機(セイシン企業社製、NSTJ−200)を用いて平均粒子径が10μmとなるように粉砕し、粉砕品を得た。
粉砕品を、黒鉛ルツボに封入した状態で、東海カーボン株式会社にて3000℃で加熱することにより黒鉛化し、黒鉛化品を得た。
黒鉛化品について、風力分級機(日本ドナルドソン社製、ドナセレック)を用いて、微粉を除去した。
その後、黒鉛化品に、乾式粉体複合化装置(ホソカワミクロン社製、メカノフュージョンシステムAMS−MINI)を用いて、メカノケミカル処理を施した。より詳細には、微粉が除去された黒鉛化品に対して、回転ドラムの回転数:5000rpm、処理時間:15分、回転ドラムと内部部材との距離:1mmの条件で、せん断力と圧縮力とを繰り返し付与した。
こうして、実施例1の炭素質材料を得た。
【0043】
《炭素質材料の物性》
実施例1の炭素質材料を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
図1に、実施例1の炭素質材料のSEM写真を示す。
更に、実施例1の炭素質材料について、上述した方法により、最小粒子径(D
min)、粒子径D
10、粒子径D
50、粒子径D
90、最大粒子径(D
max)、比表面積、円形度、アスペクト比、および、ラマンR値を求めた。
粒子径D
10は、粒度分布の累積度数が体積百分率で10%となる粒子径である。
粒子径D
90は、粒度分布の累積度数が体積百分率で90%となる粒子径である。
結果を下記表1に示す。
【0044】
《負極の作製》
炭素質材料(負極材料)98質量部、カルボキシメチルセルロース(結合剤)1質量部、および、スチレンブタジエンゴム(結合剤)1質量部を、水に入れ、攪拌することにより、負極合剤ペーストを調製した。
調製した負極合剤ペーストを、銅箔に均一な厚さで塗布し、真空中90℃で乾燥し、負極合剤層を形成した。次いで、この負極合剤層を、ロールプレスによって250MPaの圧力で加圧した。その後、銅箔および負極合剤層を、直径15.5mmの円柱状に打ち抜いた。こうして、銅箔からなる集電体に密着した負極を作製した。
負極の質量およびサイズから、負極の密度(単位:g/cm
3)を求めた。結果を下記表1に示す。
【0045】
《正極の作製》
リチウム金属箔をニッケルネットに押し付け、直径15.5mmの円形状に打ち抜いた。これにより、ニッケルネットからなる集電体に密着したリチウム金属箔(厚さ:0.5mm)からなる正極を作製した。
【0046】
《評価電池の作製》
評価電池として、
図2に示すボタン型二次電池を作製した。
図2は、ボタン型二次電池を示す断面図である。
図2に示すボタン型二次電池は、外装カップ1と外装缶3との周縁部が絶縁ガスケット6を介してかしめられ、密閉構造が形成されている。密閉構造の内部には、外装缶3の内面から外装カップ1の内面に向けて順に、集電体7a、正極4、セパレータ5、負極2、および、集電体7bが積層されている。
【0047】
図2に示すボタン型二次電池を、次のように作製した。
まず、エチレンカーボネート(33体積%)とメチルエチルカーボネート(67体積%)との混合溶媒に、LiPF
6を1mol/Lとなる濃度で溶解させることにより、非水電解質液を調製した。得られた非水電解質液を、ポリプロピレン多孔質体(厚さ:20μm)に含浸させることにより、非水電解質液が含浸したセパレータ5を作製した。
次に、作製したセパレータ5を、銅箔からなる集電体7bに密着した負極2と、ニッケルネットからなる集電体7aに密着した正極4との間に挟んで積層した。その後、集電体7bおよび負極2を外装カップ1の内部に収容し、集電体7aおよび正極4を外装缶3の内部に収容し、外装カップ1と外装缶3とを合わせた。更に、外装カップ1と外装缶3との周縁部を、絶縁ガスケット6を介在させて、かしめて密閉した。このようにして、ボタン型二次電池を作製した。
【0048】
作製したボタン型二次電池(評価電池)を用いて、以下に説明する充放電試験により、電池特性を評価した。結果を下記表1に示す。
以下の充放電試験においては、リチウムイオンを負極材料に吸蔵する過程を充電とし、負極材料からリチウムイオンが脱離する過程を放電とした。
【0049】
《充放電試験》
まず、0.9mAの電流値で、回路電圧が1mVに達するまで定電流充電を行なった。回路電圧が1mVに達した時点で定電圧充電に切替え、電流値が20μAになるまで充電を続けた。この間の通電量から、充電容量(単位:mAh/g)を求めた。その後、10分間休止した。次に、0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行なった。この間の通電量から、放電容量(単位:mAh/g)を求めた。これを第1サイクルとした。
【0050】
初回充放電効率は、下記式(1)から求めた。初回充放電効率の値が大きいほど、初回充放電効率が良好であると評価できる。
初回充放電効率[%]=100×{(第1サイクルの充電容量−第1サイクルの放電容量)/第1サイクルの放電容量}・・・(1)
【0051】
[電極剥離強度試験]
用いる試験片を
図3に示す。負極合剤ペーストを作製し、負極材10をプレスしていない状態で活物質側の一部を両面テープ11でアルミ板12に貼り付け作製した。試験片は、引張試験機(島津製作所製オートグラフ)を用いて負極材10の一部をつかみ180°方向(矢印方向13)に引張試験を行い、平均引張試験応力を剥離強度とした。
【0052】
〈実施例2〉
実施例1において、黒鉛化メーカーを商都▲郡▼集美新▲炭▼材科技▲発▼展有限公司で行う以外は、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
【0053】
〈実施例3〉
実施例2において、メカノケミカル処理時間を30分とする以外は、実施例2と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
【0054】
〈実施例4〉
実施例2において、分級条件を調整して最小粒子径Dminを4.76μmとする以外は、実施例2と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
【0055】
〈実施例5〉
実施例2において、メカノケミカル処理を大型乾式粉体複合化装置(ホソカワミクロン社製、メカノフュージョンシステムAMS-30F)を用いて処理時間を120分で実施した以外は、実施例1と同様にして評価した。
メカノケミカル処理の条件は、回転ドラムの回転数:1450rpm、処理時間:120分、回転ドラムと内部部材との距離:10mmとした。評価結果を表1に示した。
【0056】
〈実施例6〉
実施例2において、分級条件を調整して最小粒子径Dminを3.01μmとする以外は、実施例2と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
【0057】
〈比較例1〉
比較例1では、微粉を除去しなかった。
それ以外の点は、実施例1と同様にして、評価を行なった。結果を下記表1に示す。
【0058】
〈比較例2〉
比較例2では、か焼された石炭コークスを原料として使用し、かつ、微粉を除去しなかった。
それら以外の点は、実施例1と同様にして、評価を行なった。結果を下記表1に示す。
【0059】
〈比較例3〉
か焼された石油コークス(Phillips66社製、HNP)を、気流式粉砕機(セイシン企業社製、NSTJ−200)を用いて平均粒子径が10μmとなるように粉砕し、粉砕品を得た。粉砕品に石油系ピッチ(軟化点:250℃)を90/10の質量比(粉砕品/ピッチ)で加え、600℃で10時間混錬して、平均粒子径が20μm程度の造粒体を得た。造粒体を、黒鉛ルツボに封入した状態で、3000℃で加熱することにより黒鉛化し、黒鉛化品を得た。得られた黒鉛化品を、比較例3の炭素質材料とした。
比較例3の炭素質材料を用いて、実施例1と同様にして、評価を行なった。結果を下記表1に示す。
【0060】
〈比較例4〉
か焼前の石油コークス(Phillips66社製、GHNP)を原料として用いた点以外は、比較例3と同様にして、黒鉛化品を得た。得られた黒鉛化品を、比較例4の炭素質材料とした。
比較例4の炭素質材料を用いて、実施例1と同様にして、評価を行なった。結果を下記表1に示す。
【0061】
〈比較例5〉
比較例5では、微粉を除去せず、かつ、せん断力および圧縮力を付与しなかった。
それら以外の点は、実施例1と同様にして、評価を行なった。結果を下記表1に示す。
【0062】
〈比較例6〉
比較例6では、か焼前の石油コークスを原料として用い、黒鉛化前にせん断力および圧縮力を付与し、かつ、微粉を除去しなかった。
それら以外の点は、実施例1と同様にして、評価を行なった。結果を下記表1に示す。
【0063】
〈比較例7〉
実施例2において、分級条件を調整して最小粒子径Dminを2.23μmとする以外は、実施例2と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
【0064】
〈比較例8〉
実施例2において、微粉除去後にメカノケミカル処理を実施しなかった以外は、実施例2と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
〈評価結果まとめ〉
上記表1に示すように、炭素質材料の最小粒子径が3.00μm超である実施例1〜6は、これを満たさない比較例1〜8と比較して、負極が高密度であり、放電容量と初回充放電効率の電池特性のバランスがとれ、電極剥離強度も高かった。
リチウムイオン二次電池の負極材料として用いた場合に電池特性が優れる炭素質材料を提供する。本発明の炭素質材料は、最小粒子径が3.00μm超、円形度が0.82以上0.94以下、アスペクト比が1.48以上1.65以下、かつ、ラマンR値が0.40超である。