特許第6911545号(P6911545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6911545
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】負極及び非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20210715BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20210715BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20210715BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20210715BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20210715BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/485
   H01G11/50
   H01G11/06
   H01G11/46
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-111196(P2017-111196)
(22)【出願日】2017年6月5日
(65)【公開番号】特開2018-206615(P2018-206615A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】市川 慎之介
【審査官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−308837(JP,A)
【文献】 特開平07−307153(JP,A)
【文献】 特開平11−312518(JP,A)
【文献】 特開2004−327190(JP,A)
【文献】 特表2012−509564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/485
H01G 11/06
H01G 11/46
H01G 11/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウムと、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの組み合わせとを含む複合酸化物を主成分とする負極合材を備え、
上記複合酸化物におけるゲルマニウムに対する酸素の原子数比(O/Ge)が、2.1以上3.2以下である非水電解質蓄電素子用の負極(但し、上記複合酸化物がLiGeOである場合を除く。)
【請求項2】
0.0V(vs.Li/Li)まで充電した後の放電過程において、0.0〜2.0V(vs.Li/Li)の範囲で放電される電気量Q(0.0−2.0V)に対する0.0〜1.2V(vs.Li/Li)の範囲で放電される電気量Q(0.0−1.2V)の比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))が、80%以上である請求項1の負極。
【請求項3】
上記複合酸化物におけるゲルマニウムに対する遷移金属の原子数比が1未満である請求項1又は請求項2の負極。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項の負極を有する非水電解質蓄電素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極及び非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子の負極に含まれる活物質には、黒鉛等の炭素材料、金属酸化物等が用いられている。蓄電素子の大容量化等のために各種活物質の開発が進められており、非特許文献1においては、GeOを負極に用いたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Youngsik Kim,Haesuk Hwang,Katherine Lawler,Steve W.Martin,Jaephil Cho,“Electrochimica Acta”,2008年,Volume 53,p5058−5064
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質蓄電素子には、放電容量が大きいことに加え、その維持率が高いことが求められる。しかし、上記GeOを負極に用いた非水電解質蓄電素子は、ある程度の放電容量を有するものの、容量維持率が高いものではない。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、非水電解質蓄電素子に用いた場合、この非水電解質蓄電素子が十分な放電容量と高い放電容量維持率とを兼ね備えることができる負極、及びこの負極を有する非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、ゲルマニウムと、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの組み合わせとを含む複合酸化物を主成分とする負極合材を備え、上記複合酸化物におけるゲルマニウムに対する酸素の原子数比(O/Ge)が、2.1以上3.2以下である非水電解質蓄電素子用の負極である。
【0008】
本発明の他の一態様は、当該負極を有する非水電解質蓄電素子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非水電解質蓄電素子に用いた場合、この非水電解質蓄電素子が十分な放電容量と高い放電容量維持率とを兼ね備えることができる負極、及びこの負極を有する非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
図3図3は、実施例1〜3及び比較例1〜3の酸化物のX線回折図である。
図4図4は、実施例1の非水電解質蓄電素子の放電曲線である。
図5図5は、実施例2の非水電解質蓄電素子の放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る負極は、ゲルマニウムと、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの組み合わせとを含む複合酸化物を主成分とする負極合材を備え、上記複合酸化物におけるゲルマニウムに対する酸素の原子数比(O/Ge)が、2.1以上3.2以下である非水電解質蓄電素子用の負極である。
【0012】
当該負極を非水電解質蓄電素子に用いた場合、この非水電解質蓄電素子が十分な放電容量と高い放電容量維持率とを兼ね備えることができる。この理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。当該負極においては、負極合材の主成分である複合酸化物中のゲルマニウムに対する酸素の原子数比(O/Ge)が、2.1以上である。すなわち、GeO(O/Ge=2)等と比べて、充放電時に酸化還元しない酸素原子の含有割合が高い。このため、劣化の原因となる充放電時のゲルマニウムの酸化還元に伴うストレスが緩和され、容量維持率が高まっていると推測される。一方、上記複合酸化物中のゲルマニウムに対する酸素の原子数比(O/Ge)は、3.2以下であり、酸化還元が生じるゲルマニウムが十分な量存在し、リチウム等の拡散可能な経路が十分存在することで、十分な放電容量を有することができると推測される。
【0013】
ここで、負極合材の「主成分」とは、負極合材の中で含有割合の高い主要な成分をいう。例えば、負極合材の「主成分」は、含有割合が10質量%以上の成分であってよく、30質量%以上の成分であってよく、50質量%以上の成分であってよい。あるいは、負極合材の「主成分」は、負極合材の各成分の中で最も質量基準の含有割合が高い成分であってよい。
【0014】
なお、本明細書において、上記複合酸化物は負極活物質として作用するものであり、負極活物質(複合酸化物)に対してリチウムイオン等が吸蔵される還元反応を「充電」、リチウムイオン等が放出される酸化反応を「放電」という。
【0015】
当該負極においては、0.0V(vs.Li/Li)まで充電した後の放電過程において、0.0〜2.0V(vs.Li/Li)の範囲で放電される電気量Q(0.0−2.0V)に対する0.0〜1.2V(vs.Li/Li)の範囲で放電される電気量Q(0.0−1.2V)の比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))が、80%以上であることが好ましい。
【0016】
発明者らの知見によれば、約1.2V(vs.Li/Li)よりも高い電位での放電はコンバージョン反応が主体となり、この反応が容量維持率を低下させる要因となっていると推測される。これに対し、上記比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))が高いことは、1.2V(vs.Li/Li)以下の電位での反応が主体となっていることを示す。そのため、上記比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))が80%以上である場合、より容量維持率を高めることができる。
【0017】
当該負極の複合酸化物におけるゲルマニウムに対する遷移金属の原子数比が1未満であることが好ましい。このように遷移金属の含有割合が低く、相対的にゲルマニウムの含有割合が高い場合、より放電容量等が良好になる。また、例えば銅、コバルト、鉄、亜鉛等の遷移金属が含有されている場合、これらの遷移金属に由来するコンバージョン反応が高電位において進行する傾向がある。そのため、遷移金属の含有割合を低くすることで、容量維持率を下げる要因となるコンバージョン反応が生じ難い組成となり、容量維持率をより高めることができる。なお、「遷移金属」とは第3〜12族元素をいう。
【0018】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、当該負極を有する非水電解質蓄電素子である。当該非水電解質蓄電素子は、十分な放電容量と高い放電容量維持率とを兼ね備える。
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る負極、及び非水電解質蓄電素子について、順に詳説する。
【0020】
<負極>
本発明の一実施形態に係る負極は、非水電解質蓄電素子用の負極である。当該負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極合材層を備える。
【0021】
上記負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。また、負極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0022】
上記中間層は、負極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材と負極合材層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダ及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS−H−0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。
【0023】
上記負極合材層は、ゲルマニウムと、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの組み合わせ(以下、「アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの組み合わせ」を「特定金属元素」ともいう。)と含む複合酸化物を主成分とするいわゆる負極合材から形成される層である。上記複合酸化物は、負極活物質として機能する。上記負極合材は、必要に応じて、他の負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含むことができる。上記負極合材層は、負極合材のスラリーを塗工することなどによって形成される。
【0024】
上記複合酸化物は、構成元素として、ゲルマニウムと特定金属元素と酸素とを含む。この複合酸化物におけるゲルマニウムに対する酸素の原子数比(O/Ge)の下限は、2.1であり、2.2が好ましく、2.25がより好ましく、2.5がさらに好ましいこともある。この原子数比を上記下限以上とすることで、容量維持率を高めることができる。一方、上記原子数比(O/Ge)の上限は、3.2であり、3が好ましく、2.5がより好ましいこともある。この原子数比を上記上限以下とすることで、放電容量を大きくすることができる。
【0025】
上記複合酸化物に含まれる特定金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム等のアルカリ金属、及びマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム等アルカリ土類金属である。これらは、1種のみ含有されていてもよいし、2種以上含有されていてもよい。上記特定金属元素としては、アルカリ金属が好ましく、リチウムがより好ましい。また、上記特定金属元素がアルカリ土類金属である場合、アルカリ土類金属としては、マグネシウムが好ましい。
【0026】
上記複合酸化物における特定金属元素の含有量としては、特に限定されない。充放電によってリチウム等特定金属元素の組成比率が大きく変動すること、放電末状態では合成時よりも特定金属元素の組成比率が大きくなる可能性があること、合成の際に特定金属元素原料を理論組成比率よりも過剰に加えることが一般的に行われることなどから、上記複合酸化物における特定金属元素の含有量は、負極活物質としての性能等に大きな影響を与えるものでは無い。例えば、上記複合酸化物におけるゲルマニウムに対する特定金属元素(A)の原子数比(A/Ge)の下限としては、0.1であってよく、0.5であってもよい。また、この原子数比(A/Ge)の上限としては、5であってよく、2であってもよい。
【0027】
上記複合酸化物は、ゲルマニウム、特定金属元素及び酸素以外の他の元素が、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。このような他の任意元素としては、アルミニウム、ケイ素、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、等の金属元素(半金属元素を含む)、窒素、フッ素、臭素等の非金属元素が挙げられる。上記複合酸化物の全原子数に占めるこれらの任意元素の原子数比の上限としては、0.5が好ましく、0.2がより好ましく、0.1がさらに好ましく、0.01がよりさらに好ましく、0.001が特に好ましい。この任意元素は、実質的に含有されていなくてもよい。
【0028】
上記複合酸化物におけるゲルマニウムに対する遷移金属の原子数比が1未満であることが好ましい。上記複合酸化物におけるゲルマニウムに対する遷移金属の原子数比の上限は、さらに0.5が好ましく、0.1がより好ましく、0.01がさらに好ましい。上記複合酸化物においては、実質的に遷移金属が含有されていないことがより好ましい。このように遷移金属の含有割合が低い場合、より放電容量や容量維持率が良好になる。
【0029】
上記複合酸化物は、好適には下記式(1)で表すことができる。
Ge ・・・(1)
式(1)中、Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの組み合わせである。0<x、0<y、0<z、2.1≦z/y≦3.2である。)
【0030】
上記式(1)中のAとしては、アルカリ金属が好ましく、リチウム(Li)がより好ましい。Aは、1種又は2種以上であってよい。
【0031】
上記式(1)中のx及びyに関し、x/yの下限は、0.1であってよく、0.5であってもよい。一方、x/yの上限は、5であってよく、2であってもよい。
【0032】
上記式(1)中のy及びzに関し、z/yの下限は、2.2が好ましく、2.25がより好ましく、2.5がさらに好ましいこともある。一方、z/yの上限は、3が好ましく、2.5がより好ましいこともある。
【0033】
上記複合酸化物としては、LiGe、LiGe12、LiGeO、NaGe、NaGeO、KGe17、KGe、KGeO、MgGeO、MgGe、MgGeO、CaGe、CaGe、CaGeO、SrGe、SrGe、SrGeO、CaMgGe、BaMgGe、SrMgGe等を挙げることができる。これらは、上記式(1)で表される複合酸化物である。
【0034】
上記式(1)で表される複合酸化物以外の上記複合酸化物としては、LiCoGe、KGaGe、KTiGe、CsTiGe、RbTiGe、BaTiGe、RbNbGe、KTaGe、RbTaGe、CaZnGe、SrZnGe、KSnGe、CsSnGe、BaSnGe、CaCuGe12等を挙げることができる。
【0035】
上記複合酸化物は、結晶質であってもよく、非結晶質であってもよい。上記複合酸化物が結晶質である場合の結晶構造も特に限定されるものではない。上記複合酸化物は、例えばCMC21、Pcca、PBCA等の結晶構造を有するものであってよい。これらの中でも、上記複合酸化物は、CMC21又はPccaの結晶構造を有することが好ましい。但し、充放電の繰り返しによって、結晶構造は維持されない場合がある。従って、充放電を行う前の結晶構造が、上記空間群に帰属するものであることが好ましい。
【0036】
複合酸化物のX線回折測定は、X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いた粉末X線回折測定によって、線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとして行う。このとき、回折X線は、厚み30μmのKβフィルターを通り、高速一次元検出器(D/teX Ultra 2)にて検出される。また、サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。得られるX線回折データに基づいて、「RIETAN2000」プログラム(F.Izumi and T.Ikeda,Mater.Sci.Forum,198(2000).)を用いたリートベルト解析により、結晶構造を解析することができる。空間群は、総合粉末X線解析ソフトウェア「PDXL」(Rigaku社製)を用いても同じ結果が得られる。
【0037】
上記複合酸化物を得る方法については、限定されない。具体的には、例えばゲルマニウムを含む酸化物(GeO等)と特定金属元素を含む化合物(LiCO等)とを所定比率で混合し、焼成法、メカノケミカル法等によって処理することによって得ることができる。このような処理を経て得られる複合酸化物は、通常、粉末状である。
【0038】
上記負極合材層(負極合材)における上記複合酸化物の含有量の下限としては、例えば10質量%であり、30質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましく、65質量%がよりさらに好ましい。上記複合酸化物の含有量を上記下限以上とすることで、放電容量をより大きくすることなどができる。一方、この含有量の上限としては、例えば95質量%であってよく、80質量%であってもよい。上記複合酸化物の含有量を上記上限以下とすることで、十分な量の導電剤を含有させることなどができ、十分な導電性等を確保することなどができる。
【0039】
上記負極合材層(負極合材)に含有されていてもよい他の負極活物質としては特に限定されず、従来公知の負極活物質を挙げることができる。
【0040】
上記導電剤は、導電性を有する物質である。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。上記導電剤としては、蓄電素子性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられ、アセチレンブラックが好ましい。この理由は、以下の通りである。黒鉛やカーボンブラックは、負極活物質としても機能するが、これらの放電容量は上記複合酸化物の放電容量よりも小さい。そのため、放電容量を大きくするためには、これらの導電剤は、可能な限り少なくすることが好ましい。一方、アセチレンブラックは、粒子間が連結したネットワーク構造を形成できるといった性質を有する。これに対し、黒鉛は、通常このようなネットワーク構造を形成する性質を有さない。このため、アセチレンブラックを用いることで、少量であっても良好な導電パスを形成することができる。従って、アセチレンブラックを用いた場合、上記複合酸化物の含有量を十分に増やすことができ、良好な導電性を確保しつつ、放電容量をさらに大きくすることができる。
【0041】
上記負極合材層(負極合材)における上記導電剤の含有量の下限としては、例えば5質量%であり、10質量%が好ましい。上記導電剤の含有量を上記下限以上とすることで、十分な導電性を発揮することができる。一方、この含有量の上限としては、例えば30質量%であり、25質量%が好ましい。上記導電剤の含有量を上記上限以下とすることで、十分な量の複合酸化物を含有させることなどができ、放電容量をより大きくすることなどができる。
【0042】
上記バインダ(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0043】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0044】
上記フィラーとしては、蓄電素子性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0045】
当該負極においては、0.0V(vs.Li/Li)まで充電した後の放電過程において、以下の関係を満たすことが好ましい。0.0〜2.0V(vs.Li/Li)の範囲で放電される電気量をQ(0.0−2.0V)とする。このうち、0.0〜1.2V(vs.Li/Li)の範囲で放電される電気量をQ(0.0−1.2V)とする。上記電気量Q(0.0−2.0V)に対する上記電気量Q(0.0−1.2V)、すなわち比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))の下限が、80%であることが好ましく、90%であることがより好ましく、95%であることがさらに好ましい。比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))が上記下限以上であることで、コンバージョン反応が少ない充放電を行うことができ、容量維持率をより高めることができる。この比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))の上限は、100%であってよく、99%であってもよい。なお、上記の電位は、当該負極を負極として用いた蓄電素子の充放電過程における負極電位である。
【0046】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0047】
(正極)
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極合材層を有する。上記中間層は負極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0048】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、銅、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。
【0049】
上記正極合材層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極合材層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上述した負極合材層と同様のものを用いることができる。
【0050】
正極活物質としては、非水電解質蓄電素子の正極活物質として従来公知のものが用いられる。具体的な正極活物質としては、例えばLiMO(Mは、Mo以外の少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα―NaFeO型結晶構造を有するLiCoO,LiNiO,LiMnO,LiNiαCo(1−α),LiNiαMnβCo(1−α−β)等、スピネル型結晶構造を有するLiMn,LiNiαMn(2−α)等)、LiM’(XO(M’は、Mo以外の少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO,LiMnPO,LiNiPO,LiCoPO,Li(PO,LiMnSiO,LiCoPOF等)が挙げられる。
【0051】
(負極)
上記負極としては、本発明の一実施形態に係る負極が用いられる。当該負極の詳細は上述した通りである。
【0052】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0053】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0054】
(非水電解質)
上記非水電解質としては、非水電解質蓄電素子(二次電池)に通常用いられる公知の電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0055】
上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートなどを挙げることができる。
【0056】
電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
【0057】
非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0058】
当該非水電解質蓄電素子は、負極として本発明の一実施形態に係る負極を用いることによって製造することができる。当該製造方法は、例えば、正極を作製する工程、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)をケースに収容する工程、並びに上記ケースに上記非水電解質を注入する工程を備える。注入後、注入口を封止することにより非水電解質蓄電素子を得ることができる。
【0059】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記負極において、中間層を設けなくてもよく、負極合材は明確な層を形成していなくてもよい。例えば上記負極は、メッシュ状の負極基材に負極合材が担持された構造などであってもよい。また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0060】
図1に、当該非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子(二次電池)1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が容器(ケース)3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0061】
当該非水電解質蓄電素子(二次電池)の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例1](LiGeの合成)
炭酸リチウム(LiCO)(ナカライテスク社製)及び酸化ゲルマニウム(GeO)(高純度化学社製)を、Li:Geのモル比が1:2となるように秤取した。これらを直径5mmのジルコニア製ボールが90g(約250個)入った内容積80mLのジルコニア製ポットに投入した。このポットにさらにエタノール10mLを投入し、蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数300rpmで9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計6回繰り返した。この混合物を80℃の乾燥機で3時間以上乾燥し、混合粉体を得た。この混合粉体を容量30mLのアルミナ製るつぼ(型番:1−7745−07)に載置し、このるつぼを卓上真空・ガス置換炉(デンケン・ハイデンタル社の「KDF75」)に設置した。次いで、空気気流中、常圧下、10時間で常温から800℃まで昇温し、この温度で4時間保持した後、室温まで自然放冷した。このようにして、組成式LiGeで表されるリチウムゲルマニウム複合酸化物を作製した。
【0064】
[実施例2](LiGeOの合成)
LiCO及びGeOをLi:Geのモル比が2:1となるように秤取したこと、並びに10時間で常温から950℃まで昇温し、この温度で4時間保持したことを除いては、実施例1と同様の方法で、組成式LiGeOで表されるリチウムゲルマニウム複合酸化物を作製した。
【0065】
[実施例3](MgGeOの合成)
酸化マグネシウムMgO(ナカライテスク社製)及びGeOをMg:Geのモル比が1:1となるように秤取したこと、並びに10時間で常温から950℃まで昇温し、この温度で4時間保持したことを除いては、実施例1と同様の方法で、組成式MgGeOで表されるマグネシウムゲルマニウム複合酸化物を作製した。
【0066】
[比較例1]酸化ゲルマニウム(GeO
酸化ゲルマニウム(GeO)(高純度化学社製)を準備した。
【0067】
[比較例2](LiGeの合成)
LiCO及びGeOをLi:Geのモル比が3:1となるように秤取したこと、並びに10時間で常温から1050℃まで昇温し、この温度で4時間保持したことを除いては、実施例1と同様の方法で、組成式LiGeで表されるリチウムゲルマニウム複合酸化物を作製した。
【0068】
[比較例3](LiGeOの合成)
LiCO及びGeOをLi:Geのモル比が4:1となるように秤取したこと、並びに10時間で常温から850℃まで昇温し、この温度で4時間保持したことを除いては、実施例1と同様の方法で、組成式LiGeOで表されるリチウムゲルマニウム複合酸化物を作製した。
【0069】
[複合酸化物の解析]
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた酸化物について、以下の方法にて解析を行った。X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いて粉末X線回折測定を行った。線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとし、回折X線は厚み30μmのKβフィルターを通し高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra 2)にて検出した。サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとした。実施例1〜3及び比較例1〜3の酸化物のX線回折図を図3に示す。得られたX線回折データについて、上記「PDXL」プログラムを用いて解析を実施した。
【0070】
上記解析の結果、実施例及び比較例の各酸化物の解析の結果、帰属可能な空間群は以下のとおりである。PDFデータベースに記載の通りの結晶構造に帰属されることが確認できた。
・実施例1(LiGe
空間群Pcca(54)(PDFカード番号:00−037−1363)
・実施例2(LiGeO
空間群CMC21(36)(PDFカード番号:00−001−1146)
・実施例3(MgGeO
空間群PBCA(61)(PDFカード番号:00−000−5132)
・比較例1(GeO
空間群P3121(152)(PDFカード番号:00−001−0362)
・比較例2(LiGe
空間群P21/n(14)(PDFカード番号:01−075−1524)
・比較例3(LiGeO
空間群Bmmb(63)(PDFカード番号:01−072−1587)
【0071】
[非水電解質蓄電素子(試験電池)の作製]
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた各酸化物を負極活物質として用い、以下の要領で負極を作製した。合成した各酸化物の粉末2.275gとアセチレンブラック(AB)0.700gとをそれぞれ秤取した。これらを直径5mmのジルコニア製ボールが90g(約250個)入った内容積80mLのジルコニア製ポットに投入した。このポットにさらにエタノール10mLを投入し、蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数300rpmで9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計7回繰り返した。この混合物を乾燥機で75℃で3時間以上乾燥し、混合粉体を調製した。この混合粉体2.275g、PVDFの12質量%N−メチルピロリドン(NMP)溶液及びNMPを所定のプラスチック容器に入れ、アルゴン雰囲気を維持したグローブボックス中で蓋をした。これを撹拌脱泡装置(シンキー社の「あわとり練太郎」(商品名))にセットし、2000rpmで十分に混練することで、N−メチルピロリドン(NMP)を分散媒とするスラリーを調整した。スラリー中の負極活物質、AB及びPVDFの質量比は65:20:15である。このスラリーを厚さ20μmの銅箔基材の片面に塗布した。これを80℃のホットプレートに60分載置して分散媒を蒸発させた後、ロールプレスを行うことで負極を得た。
【0072】
上記各負極を作用極として試験電池を組立て、負極としての挙動を評価した。単独挙動を正確に観察する目的のため、対極には金属リチウムをニッケル箔集電体に密着させたものを用いた。ここで、試験電池の容量が対極によって制限されないように、十分な量の金属リチウムを配置した。電解質として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)が体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/LとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用い、正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように電極を収納した。次いで、上記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、上記電解液を注液後、注液孔を封止した。
【0073】
[充放電試験]
以下の試験は作用極と対極との間で電圧制御を行ったが、対極における金属リチウムの溶解・析出反応抵抗が極めて低いことから、充放電中の端子間電圧は、金属リチウムを用いた参照極に対する作用極の電位と等しいとみなすことができる。また、以下の試験では、電気化学的に吸蔵・放出可能なリチウムを含有する正極と組み合わせ、充電から開始することを想定した非水電解質蓄電素子の負極に用いる負極活物質として上記複合酸化物を評価することを目的としているため、上記複合酸化物に対して電気化学的にリチウムイオンが吸蔵される反応である還元方向に通電する操作から開始した。
【0074】
実施例1〜3及び比較例1〜3の各酸化物を用いて得られた非水電解質蓄電素子を用いて、25℃に設定した恒温槽内で充放電サイクル試験を行った。充電は定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電下限電位は0.0V(vs.Li/Li)、充電終止条件は、充電電流が2mA/gに減衰した時点又は充電下限電位に到達してから3時間又は15時間を経過した時点とした。この時間は、表1に「充電CV最大時間」として示す。放電は定電流(CC)放電とし、放電終止電位は2.0V(vs.Li/Li)とした。充電の定電流値は、負極が含有する負極活物質の質量に対して100mA/gとした。放電の定電流値は、負極が含有する負極活物質の質量に対して20mA/gとした。以上の充電及び放電を1サイクルとし、このサイクルを10サイクル実施した。各サイクルにおいて、充電後及び放電後に10分間の休止時間を設定した。この充放電サイクル試験における3サイクル目の放電容量を表1に示す。3サイクル目の放電容量に対する10サイクル目の放電容量の比を「容量維持率(%)」として求めた。この容量維持率も表1に示す。また、3サイクル目の放電過程における放電電気量比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))を求めた。この比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))も表1に示す。
【0075】
実施例1の3、7及び10サイクル目の放電曲線を図4に示す。実施例2の3、7及び10サイクル目の放電曲線を図5に示す。
【0076】
上記実施例及び比較例に係る作用極(負極)は、アセチレンブラック(AB)を含有している。従って、観測される充放電挙動はABの寄与分を含むため、その寄与分を考慮する必要がある。そこで、上記酸化物に代えて電気化学的に不活性なAlを用いたこと以外は実施例1と同様の手順で試験電池(以下、「AB電池」という。)を作製した。そして、充電終止条件を充電下限電位に到達してから15時間を経過した時点とし、充電の定電流値を10mA/g、放電の定電流値を10mA/gとしたこと以外は同様の条件にて充放電試験を行った。AB電池における3サイクル目のAl質量当たりの放電容量は69mAh/Al−g、比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))は、82.6%であった。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示されるように、O/Ge比が2.1以上3.2以上の複合酸化物を用いた実施例1〜3の非水電解質蓄電素子は、ABの寄与を除いた場合においても200mAh/g以上の大きな放電容量、かつ90%を超える高い容量維持率を有することがわかる。特に、特定金属元素としてリチウムを含む複合酸化物を用いた実施例1、2の非水電解質蓄電素子の放電容量は、黒鉛の理論容量(372mAh/g)と比べても顕著に大きいものである。そのため、負極合材の主成分として実施例1、2等の複合酸化物を用いた場合は、主成分として黒鉛を用いた場合と比しても放電容量を顕著に大きくすることができる。また、実施例1〜3の非水電解質蓄電素子は、比(Q(0.0−1.2V)/Q(0.0−2.0V))が、94.5%以上であり、1.2V(vs.Li/Li)以上の高い電位で生じる傾向にあるコンバージョン反応がほとんど生じず、これにより高い容量維持率が発揮されることが推測される。
【0079】
一方、O/Ge比が2.1を下回る酸化物を用いた比較例1は、放電容量は大きいものの容量維持率が低かった。また、O/Ge比が3.2を上回る酸化物を用いた比較例2、3は、容量維持率は高いものの、放電容量自体が小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池、及びこれに備わる負極、負極活物質などに適用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5