【実施例】
【0017】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0018】
本実施例は、軸体1と、この軸体1に被嵌され該軸体1に沿って往復直線移動する移動体2と、この軸体1と移動体2との間に設けられる金属製の保持器3と、この保持器3に保持される転動体4とから成る直動装置における前記保持器の製造方法であって、金属製の複数の薄板状部材をプレス成型により一体化することで製造する方法である。
【0019】
具体的には、本実施例は直動装置としてのボールスプラインに本発明を適用した例である。即ち、本実施例の直動装置は、
図1に図示したように、円筒状の移動体2が被嵌される丸棒状の軸体1の外周に、長手方向に沿って転動体4が配設される溝1aが設けられた構成である。
【0020】
また、本実施例の直動装置の転動体4が転動するレーストラック状の転動路(転動体無限循環路)は、負荷部10と無負荷部11とこれらの両端同士を連結するリターン部12とで構成されている。この転動路は4組設けられ、1つの保持器3で2組分の転動路を構成している。また、保持器3は軸体1の外周及びに移動体2の内周に沿った断面円弧状である。即ち、本実施例の直動装置は、断面視半円弧状の保持器3を一対(2つ)設けた構成としている。
【0021】
本実施例においては、保持器3、即ち薄板状部材は鋼製である。なお、鉄製等、他の金属製としても良い。
【0022】
本実施例は、前記転動体4が配設される転動溝5を有する基体6、転動体4が循環する転動路(負荷部10及びリターン部12)の外周側ガイド部を構成する外周側ガイド部構成部材7、前記転動路の内周側ガイド部を構成する内周側ガイド部構成部材8及び前記保持器3と前記移動体2とを位置決めする位置決め部材9を、夫々別体の前記薄板状部材としてこれらを積層した状態で(
図2参照)、一般的なプレス成型装置(カシメ機)により圧力を加えて塑性変形させ、一体化することで保持器3を製造する。
【0023】
本実施例においては、各薄板状部材は、夫々軸1の外周形状に沿って湾曲する湾曲板状としている。
【0024】
基体6は、
図3(a)に図示したように、負荷部10を構成する転動溝5が一対設けられ、また、転動溝5より幅狭の無負荷部11を構成するガイド溝18が一対設けられた構成である。また、基体6の幅方向両端部は所定角度で折り返されて、基体6に積層される他の薄板状部材の両端を夫々支持する上向き支持面19が形成されている(
図4参照)。
【0025】
外周側ガイド部構成部材7は、
図3(b)に図示したように、レーストラック状の転動路の無負荷部11を除く外周形状に沿った内形状を有する切欠部15が一対設けられた構成である。具体的には、負荷部10の外周壁を形成する中央基部20と、リターン部12の外周壁を形成する中央基部20の長手方向と直交する方向に突出する両端突出部21とで構成されている。外周側ガイド部構成部材7は、転動体4のガイド作用を発揮できる程度の所定の厚みを有する。
【0026】
内周側ガイド部構成部材8は、
図3(d)に図示したように、夫々、レーストラック状の転動路の内周形状に沿った外形状を有する(負荷部10、無負荷部11及びリターン部12の内周壁を形成する)一対の角丸矩形状の板部材である。内周側ガイド部構成部材8は、外周側ガイド部構成部材7と同程度の厚みを有する。
【0027】
位置決め部材9は、
図3(c)に図示したように、外周側ガイド部構成部材7と略同形状であり、中央基部22が、移動体2の内面に設けられ負荷溝が形成される不図示の凸条部間の間隙に配設されている。外周側ガイド部構成部材7と略同形状とすることにより、両端突出部23による転動体4の負荷部10及びリターン部12からの飛び出し防止機能が発揮される。なお、位置決め部材9は、転動体4の飛び出し防止機能が不要の場合(外周側ガイド部構成部材7のみで安定的に転動体4をガイドできる場合)には、中央基部22のみで両端突出部が無い構成、例えば矩形状の板部材などとしても良い。
【0028】
基体6の長手方向両端部には、プレス時に立ち上がるように折り曲げられて、外周側ガイド部構成部材7の長手方向両端部に設けられた凹部25に係止する爪部24が設けられている。また、外周側ガイド部構成部材7には、位置決め部材9の孔14に挿通せしめられる凸部13が設けられている。更に、基体6には、内周側ガイド部構成部材8の孔17に挿通せしめられる凸部16(バーリング)が設けられている。
【0029】
以上の各薄板状部材を積層しプレス成型することで、凹部25に爪部24を密着係止させると共に凸部13及び凸部16の突出先端をプレスで押し潰し抜け止め形状として、各薄板状部材同士をカシメ結合できる。
【0030】
以上の工程により、各薄板状部材同士が一体化され金属製の保持器3が製造される。
【0031】
なお、本実施例においては、予め軸1の外周形状に沿って湾曲する薄板状部材をプレス成型により一体化しているが、薄板状部材を湾曲していない平板状部材とし、プレス成型の際、同時に、各薄板状部材が軸体1の外周及びに移動体2の内周に沿った断面円弧状となるように湾曲させるようにしても良い。
【0032】
また、薄板状部材とする単位は上述の区分に限らず適宜設定でき、例えば外周側ガイド部構成部材7と位置決め部材9とを別体とせずに一体の薄板状部材とする構成等、他の構成としても良い。少なくとも保持器3を2つ以上の薄板状部材から成る構成とし、これらの部材をプレス成型により一体化するようにすれば、本発明の効果を得ることができる。
【0033】
本実施例は上述のように複数の薄板状部材を積層してプレス成型により一体化して保持器3を製造するから、個々の薄板状部材は、各薄板状部材を加工容易な形状に設定することで、一般的な打抜き加工や切削加工等により容易に高精度に加工することができ、この高精度に加工した薄板状部材をプレス(カシメ)成型により一体化することで低コストで高精度な保持部を製造することが可能となる。
【0034】
特に、ボールスプラインはブッシュに比して軸体1と移動体2との隙間が狭く、保持器3の設計の自由度が極めて低く、一枚の金属板をプレス成型して形成することは極めて困難であるところ、本実施例によれば、簡易に且つ安価にボールスプライン用の金属製保持器3を製造可能となる。
【0035】
よって、本実施例は、金属製の保持器を高精度に且つ安価に製造可能な画期的な保持器の製造方法となる。