(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912081
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】ダイキャスト用チルベント
(51)【国際特許分類】
B22D 17/22 20060101AFI20210715BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20210715BHJP
B22C 9/02 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
B22D17/22 G
B22C9/06 T
B22C9/02 103J
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-122895(P2017-122895)
(22)【出願日】2017年6月23日
(65)【公開番号】特開2019-5778(P2019-5778A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】306031825
【氏名又は名称】株式会社JAPAN MOLD TRADE
(74)【代理人】
【識別番号】100083633
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏
(72)【発明者】
【氏名】成 玉順
(72)【発明者】
【氏名】蔡 ▲オゥン▼材
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−246470(JP,A)
【文献】
実開平05−084457(JP,U)
【文献】
独国実用新案第20208464(DE,U1)
【文献】
特開2000−225453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 15/00−17/32
B22C 5/00− 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定チルブロック(1)と可動チルブロック(2)の対向面に連続する波形状のガス抜き経路(3)を備えたチルベントに於いて、前記固定チルブロック(1)を、基台(11)と摺動ブロック(12)とに分離し、該摺動ブロック(12)が前記可動チルブロック(2)側に押圧力を付勢させて、鋳造中に前記固定チルブロック(1)と前記可動チルブロック(2)が密着状態に確保されるための押圧手段(4)を設け、該押圧手段(4)として皿バネ(41)を用い、それを前記摺動ブロック(12)と前記基台(11)の間に装着させたことを特徴とするダイキャスト用チルベント。
【請求項2】
固定チルブロック(1)と可動チルブロック(2)の対向面に連続する波形状のガス抜き経路(3)を備えたチルベントに於いて、前記可動チルブロック(2)を、基台(21)と摺動ブロック(22)とに分離し、該摺動ブロック(22)が前記固定チルブロック(1)側に押圧力を付勢させて、鋳造中に前記固定チルブロック(1)と前記可動チルブロック(2)が密着状態に確保されるための押圧手段(4)を設け、該押圧手段(4)として皿バネ(41)を用い、それを前記摺動ブロック(22)と前記基台(21)の間に装着させたことを特徴とするダイキャスト用チルベント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶湯がキャビティに入った際に発生するガスが、効率良く外部へ排出することが出来るダイキャスト用チルベントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にダイキャスト鋳造を行う場合、金型の内部に残された空気や離型剤などによって発生する高温・高圧になったガスが溶湯内部に巻き込まれると、ピンホール等の欠陥が発生し、その鋳造品に気密性がなくなって漏れを生じると共に、該鋳造品を機械加工すると、切削面にもピンホールなどが生じ易かった。これらの欠点を解決するためにチルベントが使用される。このチルベントは金型のキャビティに連通され、成形の時にはキャビティ内の空気やガスをチルベントが介在されて金型の外部へ排出すると共に、キャビティ内に流入されたアルミニウムなどの溶湯が金型の外部へ流出する前に、このチルベントの内部でアルミニウムなどの溶湯を固化させるものである。この結果、前記空気やガスが略完全に抜かれて、ピンホールなどが生じない良い成形品が得られるのである。
【0003】
又、市販されている従来のチルベントは、固定型と可動型から成るチルブロックの対向面に連続する波形状のガス抜き経路を設けた構造であり、このガス抜き経路の隙間は、一般に0.6mm未満のものが殆どである。
【0004】
しかしながら、チルベントを取付けた金型で鋳造しても、チルベントは
図5に示すようにキャビティから離れていると共に金型の外側寄りに取付けられているので、キャビティの温度よりもチルベントの温度が低くなり、熱膨張量に差が生じる。この結果、チルベント側に隙間が生じ、チルベントから溶湯が外部へ漏れ出てしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2000−301313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は鋳造中に生じるキャビティの温度とチルベントの温度に差が生じ、熱膨張量の差によって発生するチルベントの機能低下を防止するダイキャスト用チルベントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記現状に鑑み成されたものであり、つまり、固定チルブロックと可動チルブロックの対向面に連続する波形状のガス抜き経路を備えたチルベントに於いて、一方のチルブロックを、基台と摺動ブロックとに分離し、該摺動ブロックが他方のチルブロック側に押圧力を付勢
させて、鋳造中に固定チルブロックと可動チルブロックの型合せ面が密着状態を確保できるための押圧手段を設け、該押圧手段として皿バネを用い、それを摺動ブロックと基台の間に装着させた構造とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のように固定チルブロック(1)と可動チルブロック(2)の対向面に連続する波形状のガス抜き経路(3)を備えたチルベントに於いて、固定チルブロック(1)を、基台(11)と摺動ブロック(12)とに分離し、該摺動ブロック(12)が可動チルブロック(2)側に押圧力を付勢
させて、鋳造中に固定チルブロック(1)と可動チルブロック(2)が密着状態に確保されるための押圧手段(4)を
設け、該押圧手段(4)として皿バネ(4)を用い、それを摺動ブロック(12)と基台(11)の間に装着させることにより、固定チルブロック(1)の摺動ブロック(12)が、可動チルブロック(2)の接触面
(型合せ面)に適宜な押圧力を付勢し続けて密着するため、常にチルベントの隙間を一定に確保でき、鋳造中に生じるチルベントの機能低下を防止できるため、生産性の高いダイキャスト作業が可能となる。
特に皿バネ(41)を装着することにより、構造が簡単となるので製造コストを抑えることが可能となると共に安定したガス排気量が確保されるため、バラツキのない品質の良い製品が作れる。
【0009】
請求項2のように
固定チルブロック(1)と可動チルブロック(2)の対向面に連続する波形状のガス抜き経路(3)を備えたチルベントに於いて、可動チルブロック(2)を、基台(21)と摺動ブロック(22)とに分離し、該摺動ブロック(22)が固定チルブロック(1)側に押圧力を付勢させて、鋳造中に固定チルブロック(1)と可動チルブロック(2)の型合せ面が密着状態に確保されるための押圧手段(4)を
設け、該押圧手段(4)として皿バネ(4)を用い、それを摺動ブロック(22)と基台(21)の間に装着させることにより、可動チルブロック(2)の摺動ブロック(22)が固定チルブロック(1)の接触面に適宜な押圧力を付勢し続けて密着するため、常にチルベントの隙間を一定に確保でき、鋳造中に生じるチルベントの機能低下を防止できるため、生産性の高いダイキャスト作業が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の要部を示す説明図である。
【
図4】
別発明の実施形態の要部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の実施形態を示す図である。(1)はダイキャスト用の工具鋼製で形成した固定チルブロックであり、該固定チルブロック(1)には、長方形の基台(11)と、該基台(11)と略同じ大きさ
で上下移動可能な摺動ブロック(12)とがある。前記基台(11)には、摺動ブロック(12)を取付けるための取付ネジ用の複数の座グリ付き取付穴(111)と、ガイドピン用の複数の挿入穴(112)と、コイルバネ
(42)をセットする複数の有底な装着穴(113)と、が穿設されている。また基台(11)の端部には段部(114)が形成されている。
尚、前記装着穴(113)は必ずしも必要ではない。
【0012】
前記摺動ブロック(12)の裏面側(チルベントの連続波形状を有した面と反対側)には、
図2に示すように取付ネジ用の複数の有底なネジ穴(121)と、コイルバネ用の複数の有底な装着穴(122)とが穿設され、且つ、後述する複数枚の皿バネ(41)を装着するための複数の凹部(123)が形成され、また摺動ブロック(12)の端部には、前記段部(114)と係合する段部(124)が形成されている。
尚、前記装着穴(122)は必ずしも必要ではない。
【0013】
(2)は工具鋼製で形成した可動チルブロックである。(3)は固定チルブロック(1)と可動チルブロック(2)の対向面に設けた連続する波形状のガス抜き経路であり、該ガス抜き経路(3)は後述するキャビティ(9)に連通している。
【0014】
(4)は摺動ブロック(12)が可動チルブロック(2)側に押圧力を付勢するために設けた押圧手段であり、該押圧手段(4)としては
皿バネ(41)を用い、それを摺動ブロック(12)と基台(11)の間に装着させる。尚、前記皿バネ(41)は複数枚を重ねて使用するが、コイルバネ(42)を装着させて用いても良い。また前記皿バネ(41)は、安定して押圧できるように2箇所以上に装着させると良く、
この時、前記皿バネ(41)を厚く製作すると作動力(撓み強さ)が大きくなるので、複数枚の皿バネ(41)を重ねて使用すれば、作動力が余り大きくならずに所定の縮み代が
得られる。
【0015】
(5)は摺動ブロック(12)
から突出して取付けられると共に挿入穴(112)に挿入されるガイドピンである。(6)は取付穴(111)の下方から挿入し、ネジ穴(121)に螺合させる取付ネジであり、該取付ネジ(6)の先端にはネジ山を削り、その先端が確実にネジ穴(121)の底面に当接させると共に、取付ネジ(6)を締め付けた際に、摺動ブロック(12)と基台(11)の間に若干の隙間が出来るように、取付ネジ(6)の長さが調節されている。前記若干の隙間は、皿バネ(41)の種類によって決定される。(7)は固定側の金型で、(8)は可動側の金型であり、(9)はキャビティである(
図5参照)。
【0016】
図4は
別発明の実施形態を示す図であり、これは前記実施形態と比べ、押圧手段(4)を可動チルブロック(2)側に
装着した点が異なる。つまり、固定チルブロック(1)は分離せず、可動チルブロック(2)が、長方形の基台(21)と、該基台(21)と略同じ大きさの摺動ブロック(22)とに分離する。前記基台(21)には、摺動ブロック(22)を取付けるための取付ネジ用の複数の座グリ付き取付穴(211)と、ガイドピン用の複数の挿入穴(212)と、コイルバネ
(42)を用いる場合用の複数の有底な装着穴(213)と、が穿設されている。また基台(21)の端部には段部(214)が形成されている。また前記摺動ブロック(22)の裏面側(チルベントの連続波形状を有した面と反対側)には、
図2に示すように取付ネジ用の複数の有底なネジ穴(221)と、コイルバネ
(42)を用いる場合用の複数の有底な装着穴(222)とが穿設され、且つ、後述する複数枚の皿バネ(41)を装着するための複数の凹部(223)が形成され、また摺動ブロック(22)の端部には、前記段部(214)と係合する段部(224)が形成されている(
図2参照)。
尚、前記装着穴(213),(222)は図中に記入されているが、必ずしも穿設しなくても良い。
【0017】
次に本発明の作用を
図3に基づいて説明する
。尚、図中にコイルバネ(42)が記載されているが、必ずしも必要ではない。
先ず鋳造を行なっていくと、キャビティ(9)とチルベント側に温度差を生じ、その温度差による熱膨張量の違いによって、チルベント
の型合せ面に隙間が徐々に広がり、溶湯の固化位置がチルベントの前側から後方へ移っていく。しかしながら、場合によってチルベントから溶湯が外部へ出てしまう
原因となっていた。このようにチルベント側のガス抜き経路(3)の隙間が設定隙間よりも大きくなって、固定チルブロック(1)と可動チルブロック(2)の密着面
(型合せ面)に隙間を生じ、ガス抜き経路(3)が
図3(a)から
図3(b)のように広がる。
【0018】
この結果、通常であれば、可動チルブロック(2)は固定チルブロック(1)から浮き上がり、チルベントの機能低下を生じるが、本発明に於いては、固定チルブロック(1)が、基台(11)と摺動ブロック(12)とに分離し、該摺動ブロック(12)が可動チルブロック(2)側に押圧力を常時付勢させるため、可動チルブロック(2)が浮き上がるのに伴って、摺動ブロック(12)も
図3(c)のよう浮き上がり、摺動ブロック(12)
の型合せ面は可動チルブロック(2)
の型合せ面と密着した状態が常時確保される。この時、摺動ブロック(12)が浮き上がるため、基台(11)と摺動ブロック(12)との間に、図中の如き隙間が生じる。
【0019】
尚、押圧手段(4)を可動チルブロック(2)側に設ける
別発明の実施形態の場合は、可動チルブロック(2)を、基台(21)と摺動ブロック(22)とに分離し、該摺動ブロック(22)が固定チルブロック(1)側に押圧力を常時付勢するので、可動チルブロック(2)が浮き上がるが、摺動ブロック(22)が固定チルブロック(1)を押圧し、可動チルブロック(2)は固定チルブロック(1)と密着した状態が常時確保され、上記同様に作用する。
【0020】
このように本発明は、
固定チルブロック(1)と可動チルブロック(2)の型合せ面が密着状態になり、ガス抜き経路(3)の設定隙間が確実に確保出来るので、溶湯はガス抜き経路(3)の途中で止まり、湯吹き(フラッシュ)が発生する恐れが殆どなくなる。尚、本発明品を用いて、従来通りの方法でダイキャスト品を10000個生産したが、湯吹き(フラッシュ)の発生は見られなかった。特に、真空仕様の場合、真空装置の中に湯が入ることなく、且つ、真空装置を中断することなく続行して使用することが出来た。この結果、本発明は生産性が向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0021】
1 固定チルブロック
11 基台
12 摺動ブロック
2 可動チルブロック
21 基台
22 摺動ブロック
3 ガス抜き経路
4 押し圧手段
41 皿バネ