特許第6912085号(P6912085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 松谷化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912085
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】ベーカリー製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20210715BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20210715BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20210715BHJP
【FI】
   A21D2/36
   A21D10/00
   A21D13/00
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-165966(P2017-165966)
(22)【出願日】2017年8月30日
(65)【公開番号】特開2019-41624(P2019-41624A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】辻本 直樹
【審査官】 吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6667954(JP,B2)
【文献】 特開2007−037539(JP,A)
【文献】 特開2012−070687(JP,A)
【文献】 特開平10−295253(JP,A)
【文献】 特表2014−511671(JP,A)
【文献】 特開2013−212104(JP,A)
【文献】 特開2015−165777(JP,A)
【文献】 米国特許第04219580(US,A)
【文献】 国際公開第2016/046867(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地原料中に酸焙焼もち種澱粉を含んでなるベーカリー製品。
【請求項2】
生地原料である澱粉質原料100質量部中に、酸焙焼もち種澱粉5〜25質量部を含んでなる、ベーカリー製品。
【請求項3】
酸焙焼もち種澱粉が、酸焙焼もち種馬鈴薯澱粉及び酸焙焼もち種コーン澱粉のいずれか一以上である、請求項1又は2に記載のベーカリー製品。
【請求項4】
酸焙焼もち種澱粉を含んでなる(但し、アルカリ焙焼澱粉との併用は除く)ベーカリー製品用ミックス粉。
【請求項5】
酸焙焼もち種澱粉を含んでなる(但し、アルカリ焙焼澱粉との併用は除く)ベーカリー製品用生地。
【請求項6】
生地原料中に酸焙焼もち種澱粉を配合する(但し、アルカリ焙焼澱粉との併用は除く)ことを特徴とする、ベーカリー製品の製造方法。
【請求項7】
澱粉質原料100質量部中に、酸焙焼もち種澱粉5〜25質量部を配合する(但し、アルカリ焙焼澱粉との併用は除く)ことを特徴とする、ベーカリー製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モチモチとした食感に優れたベーカリー製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、餅に限らず食品全般において、喫食時のモチモチ感(モチ食感)を好む消費者が増え、ベーカリー製品においてもモチ食感を有する製品が増加している。
【0003】
これまで、ベーカリー製品にモチ食感を付与する方法は種々開示されており、例えば、特許文献1には、小麦粉と油相含量3〜90質量%、水相含量10〜97質量%の乳化物とを少なくとも含有する種生地材料を、少なくとも該乳化物の水相中の水分を80〜100℃として混捏することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、もち米粉80〜85重量部とグルテン20〜15重量部とからなる穀粉100重量部と、マルトース1〜30重量部とを含んでなるパン・菓子用もち米粉組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、天然および/または化工ワキシーコーンスターチおよびα化澱粉を組み合わせたミックス粉を用いて製造した、やわらかいモチモチ感を有するベーカリー製品が開示されている。
【0006】
そして、特許文献4には、小麦粉62〜92.5質量部、ヒドロキシプロピル澱粉及び/ 又はアセチル澱粉7〜30質量部及びα化澱粉質0.5〜8質量部からなる原料粉を用いた、モチ食感を有するパン類が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1の湯種生地を利用する方法は、生地製造時に80℃〜100℃の熱水を使用するため、その温度管理及び工程が煩雑となって最終製品の品質にバラつきが生じ、量産には適さない。また、特許文献2のもち米粉パンは、喫食時に餅様にのびるパンであって、小麦粉パンとは異質な食感であることが記載され、実際、その外観には、パンらしいボリューム感はない。
【0008】
そして、特許文献3のミックス粉により焼成されたパン類は、モチ感が弱く、昨今求められるモチ感としては不十分であるし、特許文献4のモチ食感を有するパン類は、食品添加物に分類される加工澱粉を利用しており、食品添加物を極力使用したくないベーカリー製品には適さない。
【0009】
なお、特許文献5には、酸処理もち種馬鈴薯でん粉を含有するパン類であって、しっとり感を備えた復元性に優れたパン類が開示されているが、モチ感が付与されたとの記載はない。
【0010】
以上のように、食品添加物を極力添加しない、モチ食感に優れたベーカリー製品及びその製造方法は、いまだ提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−000029号公報
【特許文献2】特開2004−222548号公報
【特許文献3】特開平10−056946号公報
【特許文献4】特開平10−295253号公報
【特許文献5】特開2017−18123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、いわゆる食品添加物に分類されない原材料を使用して、モチ食感に優れたベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは前記課題を解決するため、鋭意検討する中で、酸焙焼したもち種澱粉を配合することにより、得られるベーカリー製品がもち食感に優れることを見出した。
【0014】
すなわち本発明は、以上の知見に基づき完成された、以下(1)〜(7)により構成される。
(1)酸焙焼もち種澱粉を含んでなるベーカリー製品。
(2)生地原料である澱粉質原料100質量部中に、酸焙焼もち種澱粉5〜25質量部を含んでなるベーカリー製品。
(3)酸焙焼もち種澱粉が、酸焙焼もち種馬鈴薯澱粉及び酸焙焼もち種コーン澱粉のいずれか一以上である、上記(1)又は(2)に記載のベーカリー製品。
(4)酸焙焼もち種澱粉を含んでなるベーカリー製品用ミックス粉。
(5)酸焙焼もち種澱粉を含んでなるベーカリー製品用生地。
(6)生地原料中に酸焙焼もち種澱粉を配合することを特徴とする、ベーカリー製品の製造方法。
(7)澱粉質原料100質量部中に、酸焙焼もち種澱粉5〜25質量部を配合することを特徴とする、ベーカリー製品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特別な製造設備を要することなく、簡便に、モチ食感に優れたベーカリー製品を提供することができる。また、本発明は、食品添加物でない酸焙焼澱粉を用いるため、安心・安全の意識が高い消費者に好まれる、モチ食感に優れたベーカリー製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、「澱粉質原料」とは、穀粉及び澱粉を指す。穀粉としては、小麦粉、コーンフラワー、米粉、タピオカ粉、馬鈴薯粉、甘藷粉、そば粉などが挙げられ、澱粉としては、小麦澱粉、米澱粉、コーン澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、サトイモ澱粉やそれらのもち種の澱粉が挙げられる。なお、ここでいう「澱粉」には、澱粉に物理的又は化学的処理を施した加工澱粉が包含される。
【0017】
食品の製造に用いられる澱粉は、「食品」又は「食品添加物」に分類される。日本において、「食品」に分類される澱粉としては、生澱粉、漂白澱粉、酸処理澱粉、焙焼澱粉が挙げられ、「食品添加物」に分類される澱粉としては、リン酸架橋澱粉やヒドロキシプロピル澱粉など、食品衛生法施行規則別表第1に記載される11種類の加工澱粉が挙げられる。
【0018】
本発明において、「酸焙焼澱粉」とは、原料澱粉と酸とを混合し、澱粉の水分含有率を5%以下にした後、100℃〜140℃で焙焼することにより得られる澱粉、すなわち、乾式による澱粉を指し、特許文献5の明細書[0011]及び[0012]段落に記載される、湿式酸処理澱粉を包含する「酸処理澱粉」とは異なる。
【0019】
本発明にいう「酸焙焼もち種澱粉」とは、もち種澱粉を原料澱粉とする酸焙焼澱粉を指し、例えば、もち種小麦澱粉、もち米澱粉、もち種コーン澱粉、もち種タピオカ澱粉、もち種馬鈴薯澱粉が挙げられる。そして、本発明のベーカリー製品、ベーカリー製品用ミックス粉及びベーカリー製品用生地は、もち種コーン澱粉又はもち種馬鈴薯澱粉のいずれか一以上を含有することが好ましく、もち種馬鈴薯澱粉であることが、より好ましい。
【0020】
上記の酸焙焼もち種澱粉の具体的な製造手順は、次のとおりである。まず、もち種澱粉と酸を均一になるまでよく混合する。この際に使用する酸は、固形分20%澱粉水溶液のpHが3.0〜3.5となる量とする。次に、該澱粉組成物を乾燥し澱粉の水分含有率を5%以下に調整した後、100〜140℃で30〜120分焙焼する。その後、該組成物を中和、濾過、乾燥、粉砕する。
【0021】
なお、上記の酸焙焼もち種澱粉の製造に使用できる酸としては、特に制限はなく、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸や、酢酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸が挙げられる。
【0022】
本発明のベーカリー製品の製造時に配合する酸焙焼もち種でん粉の量は、特に限定されないが、もち食感を顕著に生じさせる観点から、生地原料に用いる澱粉質原料100質量部のうち、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。但し、この酸焙焼もち種澱粉の使用量が25質量部を超えると、ベーカリー生地のグルテン形成が抑えられて焼成時の膨らみが不安定となるため、製造適性の観点からは、25質量部以下又は20質量部以下に設定するのがよい。
【0023】
本発明のベーカリー製品の製造には、原料の主となる澱粉質原料以外に、必要に応じて副原料を加えることができる。副原料とは、ベーカリー製品の製造の際に一般的に使用されるものを指し、例えば、食塩、パン酵母、砂糖、グルコース、異性化糖、希少糖、希少糖含有異性化糖、オリゴ糖、デキストリン及び還元澱粉分解物などの糖質、脱脂粉乳、全脂粉乳、牛乳及びチーズなどの乳製品、ショートニング、マーガリン、バター、粉末油脂及び乳化油脂などの油脂類、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びステアロイル乳酸カルシウムなどの乳化剤、シナモンやバジリコなどの香辛料、ブランデーやラム酒などの洋酒類、レーズンやドライチェリーなどのドライフルーツ、アーモンドやピーナッツなどのナッツ類、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコオキシターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ及びグルコースオキシターゼなどの酵素、ペクチン、グアガム分解物、アガロース、グルコマンナン、ポリデキストロース、アルギン酸ナトリウム、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、難消化性デキストリン及びシトラスファイバーなどの食物繊維類、活性グルテン、キサンタンガム等の増粘剤、卵、ココアパウダー、香料、高甘味度甘味料(例えば、アスパルテーム)等が挙げられる。なお、これら副原料は適宜使用することができるが、主となる澱粉質原料の配合量に影響を与えない量にとどめるのが望ましい。
【0024】
本発明のベーカリー製品の製造手順は、原料に酸焙焼もち種澱粉を配合する点を除き、公知のベーカリー製品の製造手順と変わるところはない。また、本発明の、酸焙焼もち種澱粉を配合した澱粉質原料は、ベーカリー製品用のミックス粉として利用することができ、この場合、当該ベーカリー製品用ミックス粉中の澱粉質原料100質量部に対し、酸焙焼もち種澱粉を5〜25質量部の範囲で含有させればよい。また、本発明の酸焙焼もち種澱粉を配合した澱粉質原料を、酵素等と組み合わせて品質改良剤とし、これをベーカリー製品用生地に添加することにより本発明のベーカリー製品を得ることもできる。さらに、酸焙焼もち種澱粉を配合した澱粉質原料は、予め生地の一部を湯で捏ねる湯捏法に利用することもできる。また、これらの生地は、冷蔵生地や冷凍生地に適用することもできる。
【0025】
本発明にいうベーカリー製品とは、主に、パン類及び焼き菓子類を指すが、イースト発酵の有無は問わない。例えば、パン類は、プルマン及びイギリス食パン等の食パン類、バケット及びパリジャンなどのフランスパン類、クロワッサンなどのデニッシュ類、バンズ、ベーグル、ナン、フォカッチャ、イングリッシュマフィン、テーブルロールなどの各種ロール類、アンパン、クリームパンなどの菓子パン類、ポービリア、ポンデケージョ、ピザ、トルティーヤ、中華まん、蒸しパンなどを指す。また、焼き菓子類としては、イーストドーナツ、ケーキドーナツ、蒸しケーキ、スポンジケーキ、バターケーキ、シフォンケーキ、ホットケーキ、マドレーヌ、マフィン、シュー生地、ワッフル、どら焼き、カステラ、たい焼き、今川焼、クッキーなどを挙げることができる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0027】
(酸焙焼澱粉の調製)
馬鈴薯澱粉、もち種馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、もち米澱粉、もち種コーン澱粉のいずれか3kgに対して2%塩酸水溶液を噴霧及び混合し、その混合物20gを適宜取り出し、その20%水溶液のpHが3〜3.5になるまで噴霧及び混合を続けた。次に、この酸及び澱粉混合物の水分含有率が5%以下になるよう100℃で1時間乾燥し、さらに120℃で1時間焙焼した。これを室温まで冷却後、1.5倍量の水で懸濁液とし、そのpHを水酸化ナトリウムで5.5〜6.0に調整後、濾過、乾燥、粉砕することにより各種酸焙焼澱粉を得た。
【0028】
(ベーカリー製品の食感評価の方法)
後述する手順で焼成した各ベーカリー製品を20℃で1時間放冷した後、よく訓練されたパネラー5名により、食感評価を行った。各パネラーには、表1に示す基準で点数を付すよう指示し、その平均点を「もち食感」の評価点とした。
【0029】
なお、もち食感の評価は、モチ食感付与目的で一般に使用されるヒドロキシプロピルタピオカ澱粉(食品添加物。商品名「松谷ゆり」松谷化学工業(株)製。)を原料小麦粉に一部代替したベーカリー製品を、モチ食感がもっとも強い「基準」(陽性対照)と位置付け、これと対比することにより行い、評価点(パネラーの平均点)が3.0未満のときは×(悪い)、3.0点以上3.5点未満のときは△(やや良い)、3.5点以上4.5点未満のときは○(良い)、4.5点以上のときは◎(非常に良い)と評価した。
【0030】
【表1】
【0031】
(澱粉種の検討)
「松谷ゆり」、もち種馬鈴薯澱粉、酸焙焼タピオカ澱粉、酸焙焼馬鈴薯澱粉、酸焙焼もち種コーン澱粉、酸焙焼もち種米澱粉又は酸焙焼もち種馬鈴薯澱粉を用い、表2に示す配合及び表3に示す工程により、実施例1〜3及び比較例1〜3の各食パンを作製した。作製した食パンの食感評価の結果は、表4に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
その結果、酸焙焼もち種澱粉を配合すると、モチ食感に優れた食パンが得られることがわかった(実施例1〜3)。
【0036】
(配合量の検討)
次に、酸焙焼もち種馬鈴薯澱粉を表5に示す各割合で配合し、実施例4〜8及び比較例4〜5の食パンを作製した。得られた食パンの食感評価は、表6に示す。
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
その結果、生地原料中の澱粉質原料100質量部のうち、酸焙焼もち種馬鈴薯澱粉が5質量部以上含まれる場合に、好ましいもち食感が得られた。一方、酸焙焼もち種馬鈴薯澱粉が30質量部含まれる場合は、好ましいもち食感は得られるものの、製造適性が悪かった。したがって、製造適性を含め総合評価すると、酸焙焼もち種馬鈴薯澱粉の配合量は、澱粉質原料の5〜25質量部が好ましく、10〜25質量部がより好ましいといえる。