【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、従来の微粒炭化タングステン粉末の製造方法、例えば、前記特許文献3に記載した従来の微粒炭化タングステン粉の製造方法において、その製造工程を見直し、調製した原料粉末を低温乾燥した後、引き続き行っていた窒素雰囲気下における還元炭化処理に先立ち、新たにアンモニア(NH
3)雰囲気下にて還元窒化処理を行い、その後、窒素、Ar等の不活性雰囲気(以下、「不活性雰囲気」という。)下における還元炭化処理、次いで、水素雰囲気下における炭化処理を行うことにより、より微細化した炭化タングステン粉末を得ることができることを見出したものである。
そこで、本発明者らは、アンモニア(NH
3)雰囲気での還元窒化処理後の反応生成物についてXRDスペクトルにより確認を行ったところ、還元窒化反応生成物として、酸窒化タングステン(WON)が生成していることが明らかとなり、しかも、生成した酸窒化タングステン(WON)粉のBET比表面積は10〜50m
2/gと極めて高いものであり、きわめて微粒のものであった。
そして、一部でも前記微粒の酸窒化タングステン(WON)が生成することにより、最終生成物である炭化タングステンの微粒化が進むため、前記したアンモニア(NH
3)雰囲気下での還元窒化処理温度について特に規定する必要はないが、アンモニア(NH
3)雰囲気での還元窒化処理温度を600〜800℃とすることにより、還元窒化反応生成物に占める酸窒化タングステン(WON)の比率が高まり、最終生成物である炭化タングステン粉末のBET比表面積と、それに対応するBET法換算の平均粒径は、BET比表面積6.0m
2/g以上、BET法換算の平均粒径64nm以下、更には、BET比表面積9.5m
2/g以上、BET法換算の平均粒径40nm以下となることから、アンモニア(NH
3)雰囲気での還元窒化処理温度は、600〜800℃とすることが好ましい。
なお、本発明において、アンモニア(NH
3)雰囲気での還元窒化工程にて生成する酸窒化タングステンを経由して得られる炭化タングステン粉末が、きわめて微粒となる理由については明らかではないが、前記還元窒化工程において得られる酸窒化タングステンが、高BET値で微粒であることに加え、得られた微粒の酸窒化タングステンが、次の窒素中での還元炭化工程、および、その次の水素中での炭化工程における反応中も粒子成長が極めて遅いことによるものと考えられる。
【0009】
そして、本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1)微粒炭化タングステン粉末の製造方法
であって、
(a)メタタングステン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、および、タングステン酸のいずれか一つのタングステン含有化合物と、炭素粉末とを配合したのち、
(a−1)乾式混合して原料粉末を調製するか、もしくは、
(a−2)水溶液または有機溶液にて湿式混合し、低温乾燥して、前記炭素粉末
に前記タングステン含有化合物を担持
させ原料粉末を調製
する、
工程と、
(b)前記原料粉末をアンモニア雰囲気中にて還元窒化
し、X-ray回折法により立方晶の結晶構造を有する微粒酸窒化タングステン粉と
前記炭素粉末を混合して含む還元窒化反応生成物を
生成
する工程と、
(c)前記還元窒化反応生成物を不活性雰囲気中にて還元
および炭化し、炭化タングステンを主体とし、残部
が一炭化二タングステン、金属タングステンおよび
前記炭素粉末からなり、酸化物や酸窒化物を含有しない還元炭化反応生成物を
生成
する工程と、
(d)前記還元炭化反応生成物を水素雰囲気中にて炭化
し微粒炭化タングステン粉末を生成する工程と、
を順に有することを特徴とする、微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
(2)微粒炭化タングステン粉末の製造方法
であって、
(a)メタタングステン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、および、タングステン酸のいずれか一つのタングステン含有化合物と、炭素粉末とを、前記タングステン含有化合物の
タングステン成分に対する原子比で、
炭素/
タングステン:1〜2を満足する割合に配合したのち、
(a−1)乾式混合して原料粉末を調製するか、もしくは、
(a−2)水溶液または有機溶液にて湿式混合し、350℃以下の温度にて、低温乾燥し
て、前記炭素粉末が前記タングステン含有化合物を担持してなる原料粉末を調製
する、
工程と、
(b)前記原料粉末をアンモニア雰囲気中、600〜800℃の温度にて還元窒化
し、X-ray回折法により立方晶の結晶構造を有する微粒酸窒化タングステン粉と
前記炭素粉末を混合して含む還元窒化反応生成物を
生成
する工程と、
(c)前記還元窒化反応生成物を不活性雰囲気中
、1000℃以上にて還元
および炭化し、炭化タングステンを主体とし、残部
が一炭化二タングステン、金属タングステンおよび
前記炭素粉末からなり、酸化物や酸窒化物を含有しない還元炭化反応生成物を
生成
する工程と、
(d)前記還元炭化反応生成物を水素雰囲気中
、1000℃以上にて炭化し
微粒炭化タングステン粉末を生成する工程と、
を順に有することを特徴とする、微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
(3)前記(1)または(2)に記載された微粒炭化タングステン粉末の製造方法において、
前記
微粒酸窒化タングステン
粉における窒素含有量が5〜7質量%、酸素含有量が4〜6質量%で、BET比表面積が10m
2/g以上であり、
前記微粒炭化タングステン粉末
におけるBET比表面積が、6.0m
2/g以上であり、BET法による平均粒径が、64nm以下であることを特徴とする微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
(4)前記(1)または(2)に記載された微粒炭化タングステン粉末の製造方法において、
前記
微粒酸窒化タングステン
粉における窒素含有量が5〜7質量%、酸素含有量が4〜6質量%で、BET比表面積が10m
2/g以上であり、
前記微粒炭化タングステン粉末
におけるBET比表面積が、9.5m
2/g以上であり、BET法による平均粒径が、40nm以下であることを特徴とする微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
(5)前記(1)〜4のいずれかに記載された微粒炭化タングステン粉末の製造方法において、
前記メタタングステン酸アンモニウム、
前記タングステン酸アンモニウム、
前記パラタングステン酸アンモニウム、
前記三酸化タングステン、および、
前記タングステン酸は、99.9質量%以上の純度を有し、
前記炭素粉末は、99.9質量%以上の純度を有することを特徴とする微粒炭化タングステン粉末の製造方法。」
に特徴を有するものである。
【0010】
以下では、本発明について、より詳細に説明する。
1.原料粉末
<原料の種類>
原料粉としては、メタタングステン酸アンモニウム(AMT)、タングステン酸アンモニウム(AT)、パラタングステン酸アンモニウム(APT)、タングステン酸、三酸化タングステンなど炭化タングステン粉末を製造する際に通常原料となるタングステン含有化合物粉末を用いることができる。
また、炭素粉末としては、カーボンブラックや活性炭など炭化タングステン粉末を製造する際に通常原料として用いる炭素粉末を用いることができる。
<原料の純度>
原料として用いるタングステン含有化合物および炭素粉末の純度を99.9質量%以上、あるいは、99.99質量%以上とすることにより高純度の炭化タングステン粉末を製造することができる。
2.原料粉末の混合
<タングステン含有化合物粉末と炭素粉末の混合比率>
タングステン含有化合物粉末中の
タングステン(W
)量に対する炭素粉末の炭素量の割合(C/W)が、原子比で1未満では、還元反応生成物中に酸化物が残存する一方、原子比にて2を超えると、還元反応生成物中に占める炭素の割合が多くなり、還元炭化処理後の遊離炭素が多量に残存するおそれがあるため、その割合を1〜2とすることが望ましい。
<原料粉末の混合方法>
タングステン含有化合物粉末と炭素粉末の混合方式は、乾式法および湿式法のいずれの方式でもよく、湿式法を用いる場合の分散媒は、水溶液、有機溶媒のいずれでもよい。
有機溶媒としては、メタノール、エタノールなどの低級アルコール、アセトン、ヘキサンなどが一般的であるが、乾燥性、環境負荷等を考慮するとエタノールが好ましい。
3.乾燥温度
湿式法により混合されたタングステン含有化合物粉末と炭素粉末は、低温乾燥され、炭素粉末がタングステン含有化合物を担持してなる原料粉末となる。
この乾燥温度が350℃を超えると、タングステン含有化合物の分解反応が起こり、分解後に生成されるタングステン化合物の粗大化により、次工程での加熱還元処理において生成される還元反応生成物の微細化が困難となるおそれがあるため、乾燥温度を350℃以下とすることが望ましい。
【0011】
4.アンモニア(NH
3)雰囲気中での還元窒化温度
タングステン含有化合物粉末と炭素粉末が混合されて得られた原料粉末は、還元窒化工程において、アンモニア(NH
3)雰囲気中で還元窒化され、微粒炭化タングステン粉の前駆体である酸窒化タングステン(WON)粉と炭素粉末を混合して含む還元窒化反応生成物を生成する。
アンモニア(NH
3)雰囲気中での還元窒化温度は、600℃未満では、還元反応および窒化反応が十分ではなく、前駆体である酸窒化タングステン(WON)の生成が満足に行われず、未反応のタングステン化合物が、次工程での還元炭化反応において、粒成長や粗粒子化の原因となるおそれがあり、また、800℃を超えるとアンモニアによる還元反応が進行し、生成するW粉の粒成長が生じるおそれがあるため、還元窒化温度を600℃〜800℃とすることが望ましい。
アンモニア(NH
3)雰囲気中での還元窒化は、例えば、原料粉末が配置された還元窒化装置内にアンモニア(NH
3)気流を導入し、所定温度に加熱することにより行うことができるが、その際の還元窒化装置内へのアンモニア(NH
3)流量については、特に上限を規定する必要はない。
ただし、流量が少なすぎると還元反応および窒化反応が十分ではなく、前駆体である酸窒化タングステン(WON)の生成が満足に行われず、未反応のタングステン化合物が、次工程での還元炭化反応において、粒成長や粗粒子化の原因となるおそれがあるため、流量は10リットル/分以上が望ましく、処理時間についても同様の理由から未反応のタングステン化合物が生成されず、しかも、長時間処理での粒成長や粗粒子化が起こらない1〜2時間程度が望ましい。
なお、本発明においては、炭素粉末の分散性の観点から、タングステン含有化合物粉末と炭素粉末を初期の段階で混合し、その後、アンモニア雰囲気中での還元窒化処理を行うことにより、微粒炭化タングステン粉を製造するものであるが、タングステン含有化合物粉末について、まず還元窒化処理を行い、生成される微粒酸窒化タングステン(WON)粉を炭素粉末と混合し、その後、還元炭化処理、炭化処理を行うことによっても微粒炭化タングステン粉を生成することができる。
【0012】
5.不活性雰囲気中での還元炭化温度
前記還元窒化反応生成物は、還元炭化工程において、窒素、Ar等の不活性雰囲気中で還元炭化され、炭化タングステン(WC)を主体とし、残部をW
2Cと金属タングステン、および、炭素粉末からなり、酸化物や酸窒化物を実質的に含有しない還元炭化反応生成物を生成する。
なお、前述したとおり、本件明細書および特許請求の範囲では、不活性雰囲気とは、窒素、Ar等の不活性雰囲気をいう。
不活性雰囲気中での還元炭化温度が、1000℃未満では、還元反応および炭化反応が十分に進行せず、金属タングステンへの還元が十分に行われないおそれがあるため、不活性雰囲気中での還元炭化温度を1000℃以上とすることが望ましい。
窒素不活性雰囲気中での還元炭化は、例えば、装置内への導入ガスを窒素気流に換えることにより行うことができる。その際の装置内への窒素流量については、流量が少なすぎると未反応のタングステン化合物が、次工程での炭化反応において、粒成長や粗粒子化の原因となるおそれがあるため10リットル/分以上とした。
また、処理時間は、短すぎると未反応のタングステン化合物が、次工程での炭化反応において、粒成長や粗粒子化の原因となるおそれがあり、長すぎると粒成長や粗粒子化が進み、微粒の炭化タングステン粒子が得られなくなるおそれがあるため1〜2時間程度が望ましい。
なお、還元炭化温度の上限は、特に規定していないが、高温での炭化処理は、WC粒子の粒成長や粗粒子化が進み、微粒の炭化タングステン粒子が得られなくなるため、1300℃以下が好ましい。
【0013】
6.水素雰囲気中での炭化温度
前記炭化反応生成物は、炭化工程において、水素雰囲気にて炭化され、微粒炭化タングステン粉が生成する。
水素雰囲気中での炭化温度が、1000℃未満では、炭化反応が十分に進行せず、金属タングステンおよび
一炭化二タングステン(W
2C
)の炭化タングステン(WC)への炭化が十分に行われないおそれがあるため、水素雰囲気中での炭化温度を1000℃以上とすることが望ましい。
また、処理時間は、短すぎると未反応のタングステン化合物が残存するおそれがあり、長すぎると粒成長や粗粒子化が進み、微粒の炭化タングステン粒子が得られなくなるおそれがあるため1〜2時間程度が望ましい。
炭化温度の上限は、特に規定していないが、高温での炭化処理は、WC粒子の粒成長や粗粒子化が進み、微粒の炭化タングステン粒子が得られなくなるため、1300℃以下が好ましい。
【0014】
7.炭化タングステン粉末
得られた炭化タングステン粉末の比表面積は、ガス吸着法により測定を行い、BET比表面積として示した。また、炭化タングステン粉末の平均粒径については、BET比表面積から算出されるBET法基準の平均粒径として示す。
なお、BET法による平均粒径とは、粒子を球体と見なし比表面積より算出するものであり、以下の式により求めることができる。
平均粒径(nm)={6/(理論密度(g/cm
3)×比表面積(m
2/g))}×1000
ここで、理論密度は、炭化タングステンWCについては、15.7(g/cm
3)を、酸窒化タングステン(WON)については、12.1(g/cm
3)を用いた。