特許第6912238号(P6912238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912238
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】微粒炭化タングステン粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/949 20170101AFI20210727BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20210727BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20210727BHJP
   B23B 27/14 20060101ALN20210727BHJP
【FI】
   C01B32/949
   H01M4/90 M
   H01M4/88 K
   !B23B27/14 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-63590(P2017-63590)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-165234(P2018-165234A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002683
【氏名又は名称】日本新金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】出原 稔久
(72)【発明者】
【氏名】安井 昇
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−112916(JP,A)
【文献】 特開2013−013999(JP,A)
【文献】 特開平10−194717(JP,A)
【文献】 特開2012−033492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
H01M 4/86−4/98
B23B 27/00−29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒炭化タングステン粉末の製造方法であって、
(a)メタタングステン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、および、タングステン酸のいずれか一つのタングステン含有化合物と、炭素粉末とを配合したのち、
(a−1)乾式混合して原料粉末を調製するか、もしくは、
(a−2)水溶液または有機溶液にて湿式混合し、低温乾燥して、前記炭素粉末前記タングステン含有化合物を担持させ原料粉末を調製する、
工程と
(b)前記原料粉末をアンモニア雰囲気中にて還元窒化、X-ray回折法により立方晶の結晶構造を有する微粒酸窒化タングステン粉と前記炭素粉末を混合して含む還元窒化反応生成物をする工程と
(c)前記還元窒化反応生成物を不活性雰囲気中にて還元および炭化し、炭化タングステンを主体とし、残部が一炭化二タングステン、金属タングステンおよび前記炭素粉末からなり、酸化物や酸窒化物を含有しない還元炭化反応生成物をする工程と
(d)前記還元炭化反応生成物を水素雰囲気中にて炭化し微粒炭化タングステン粉末を生成する工程と
を順に有することを特徴とする、微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
【請求項2】
微粒炭化タングステン粉末の製造方法であって、
(a)メタタングステン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、および、タングステン酸のいずれか一つのタングステン含有化合物と、炭素粉末とを、前記タングステン含有化合物のタングステン成分に対する原子比で、炭素タングステン:1〜2を満足する割合に配合したのち、
(a−1)乾式混合して原料粉末を調製するか、もしくは、
(a−2)水溶液または有機溶液にて湿式混合し、350℃以下の温度にて、低温乾燥し、前記炭素粉末が前記タングステン含有化合物を担持してなる原料粉末を調製する、
工程と、
(b)前記原料粉末をアンモニア雰囲気中、600〜800℃の温度にて還元窒化、X-ray回折法により立方晶の結晶構造を有する微粒酸窒化タングステン粉と前記炭素粉末を混合して含む還元窒化反応生成物をする工程と
(c)前記還元窒化反応生成物を不活性雰囲気中1000℃以上にて還元および炭化し、炭化タングステンを主体とし、残部が一炭化二タングステン、金属タングステンおよび前記炭素粉末からなり、酸化物や酸窒化物を含有しない還元炭化反応生成物をする工程と
(d)前記還元炭化反応生成物を水素雰囲気中1000℃以上にて炭化し微粒炭化タングステン粉末を生成する工程と、
を順に有することを特徴とする、微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された微粒炭化タングステン粉末の製造方法において、
前記微粒酸窒化タングステン粉における窒素含有量が5〜7質量%、酸素含有量が4〜6質量%で、BET比表面積が10m/g以上であり、
前記微粒炭化タングステン粉末におけるBET比表面積が、6.0m/g以上であり、BET法による平均粒径が、64nm以下であることを特徴とする微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載された微粒炭化タングステン粉末の製造方法において、
前記微粒酸窒化タングステンにおける窒素含有量が5〜7質量%、酸素含有量が4〜6質量%で、BET比表面積が10m/g以上であり、
前記微粒炭化タングステン粉末におけるBET比表面積が、9.5m/g以上であり、BET法による平均粒径が、40nm以下であることを特徴とする微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載された微粒炭化タングステン粉末の製造方法において、
前記メタタングステン酸アンモニウム、前記タングステン酸アンモニウム、前記パラタングステン酸アンモニウム、前記三酸化タングステン、および、前記タングステン酸は、99.9質量%以上の純度を有し、
前記炭素粉末は、99.9質量%以上の純度を有することを特徴とする微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具や、金型などの塑性加工用耐摩工具として用いられる炭化タングステン基超硬合金の製造原料であり、また、燃料電池用触媒としても用いられる微粒炭化タングステン(WC)粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭化タングステン焼結体を用いた切削工具用超硬材料においては、硬度や強度等の特性は、焼結後の炭化タングステン相を微粒化することにより向上することが知られており、そのために、原料粉末としての炭化タングステン粉末の一層の微粒子化が要求されており、また、燃料電池分野においては、燃料電池用触媒として貴金属に代替する触媒材料として、微粒炭化タングステンを用いることが提案されている。
【0003】
そして、これらの微粒炭化タングステン粉末の製造方法に関し、たとえば、特許文献1には、第1の熱処理工程において、微粒の酸化タングステンと炭素粉との混合物を不活性雰囲気中にて加熱し、中間生成物がW、WC、WCとなるまで還元および炭化した後、粉砕工程において、該中間生成物の凝集およびネッキングを粉砕し、次の第2の熱処理工程において、粉砕された前記中間生成物を水素中にて加熱炭化し、微粒径の炭化タングステン粉末を得た後、粉砕機により、機械的な微粉砕を行うことにより、比表面積が増加した微粒の炭化タングステン粉末を得ることが提案されており、得られる炭化タングステン粉末としては、その平均粒径を、BET比表面積から算出されるBET法基準の平均粒径で規定した場合、超硬合金において強度および硬度の十分な改善がなされるとの観点から、たとえば、3.9m/g以上のBET比表面積を有するものが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、燃料電池用触媒に用いる微粒の炭化タングステン粉末の製造方法が記載されており、具体的な実施例としては、原料化合物として、平均粒径が、250nmまたは50nmの三酸化タングステン(WO)粉末を用い、1)NHガス気流下630℃または680℃にて還元、窒化を行い、前駆化合物として窒化タングステン(WN)を得て、さらにこれをCH/Hの混合ガス下において、還元、炭化し、微粒のα-WC粉末を得ること、あるいは、2)Ar−H−HSガス気流下800〜850℃にて加熱処理を行い、前駆化合物として硫化タングステン(WS)を得て、さらにこれをCH/Hの混合ガス下において、還元、炭化し、微粒のα-WC粉末を得ることが記載されている。
また、その他、原料化合物として、W(CO)(CHCN)や、WClを用い、NHガス気流下500℃または630℃にて還元、窒化を行い、前駆化合物として窒化タングステン(WN)を得て、さらにこれをCH/Hの混合ガス下において、還元、炭化し、微粒のα-WC粉末を得ることや、原料化合物のW(CO)を硫黄と溶媒であるキシレンと混合撹拌し、沈殿物をアルゴン気流下、加熱処理を行い前駆化合物として硫化タングステン(WS)を得て、または、原料化合物として、(NHWSを用い、チオフェンを同伴させ、焼成管にHガスを導入しながら、反応させ、前駆化合物として硫化タングステン(WS)を得て、CH/Hの混合ガス下において、還元、炭化し、微粒のα-WC粉末を得ることが提案されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、粉砕工程を必要とすることなく、0.5μm以下の平均粒径(フィッシャー・サブ・シーブ・サイザー法(以下、「FSSS法」という。)基準)を有する微粒炭化タングステン粉末の製造方法が提案されており、具体的には、1)原料粉末としてメタタングステン酸アンモニウム(AMT)またはタングステン酸アンモニウム(AT)を用い、AMTまたはATの水溶液に炭素粉末を、AMTまたはATのタングステン成分に対して一定比率の原子比(C/W:3〜4)にて添加混合しスラリー化し、2)前記スラリーを350℃以下の温度にて低温乾燥を行い、炭素粉末により前記原料粉末を担持させ、3)前記原料粉末を窒素雰囲気中、900〜1600℃の温度にて還元処理を施し、組成式でWCを主体とし、残部をWCと金属タングステンからなり酸化物を含有しない還元反応生成物を形成し(一次炭化工程)、4)ついで、前記還元反応生成物に炭素粉末を、前記還元反応生成物中のタングステン成分に対し、原子比にて1:1のWCに炭化する割合にて配合・混合し、水素雰囲気中、900〜1600℃にて加熱すること(二次炭化工程)により、FSSS法による平均粒径が0.5μm以下の平均粒径を有する、炭化タングステン粉末の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4647244号公報
【特許文献2】特許第4815823号公報
【特許文献3】特許第4023711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したとおり、微粒炭化タングステン粉末の製造方法として種々の方法が提案されているが、例えば、特許文献1に記載された製造方法は、製造工程に粉砕工程を有するため、用いる容器やボールからのFeなどの混入が避けられず、一定レベル以下の平均粒径を有する微細炭化タングステン粉末は得られるものの、高純度の炭化タングステン粉末の製造においては問題を有するものであった。
また、特許文献2に記載された製造方法によって得られる炭化タングステン粉末の粒径は、XRD法により求められるとするが、実施例等において具体的な記載がなされておらず、また、気相法を用いて製造された炭化タングステン粉末についても具体的に記載されていない。
また、特許文献3に記載された製造方法では、製造工程に粉砕工程を含まないために、高純度の炭化タングステン粉末の製造は可能ではあるものの、製造原料として用いられたAMT(メタタングステン酸アンモニウム)またはAT(タングステン酸アンモニウム)と炭素の混合粉では、窒素雰囲気中の還元および炭化処理によって生成する粉末粒径を制御できず、最終生成物としての炭化タングステン粉末の平均粒径を小粒径化できないという課題を有していた。
そこで、本発明は、粉砕工程を有することなく、従来よりも微細な平均粒径を有する炭化タングステン粉末についても製造することができる新規な微粒炭化タングステン粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、従来の微粒炭化タングステン粉末の製造方法、例えば、前記特許文献3に記載した従来の微粒炭化タングステン粉の製造方法において、その製造工程を見直し、調製した原料粉末を低温乾燥した後、引き続き行っていた窒素雰囲気下における還元炭化処理に先立ち、新たにアンモニア(NH)雰囲気下にて還元窒化処理を行い、その後、窒素、Ar等の不活性雰囲気(以下、「不活性雰囲気」という。)下における還元炭化処理、次いで、水素雰囲気下における炭化処理を行うことにより、より微細化した炭化タングステン粉末を得ることができることを見出したものである。
そこで、本発明者らは、アンモニア(NH)雰囲気での還元窒化処理後の反応生成物についてXRDスペクトルにより確認を行ったところ、還元窒化反応生成物として、酸窒化タングステン(WON)が生成していることが明らかとなり、しかも、生成した酸窒化タングステン(WON)粉のBET比表面積は10〜50m/gと極めて高いものであり、きわめて微粒のものであった。
そして、一部でも前記微粒の酸窒化タングステン(WON)が生成することにより、最終生成物である炭化タングステンの微粒化が進むため、前記したアンモニア(NH)雰囲気下での還元窒化処理温度について特に規定する必要はないが、アンモニア(NH)雰囲気での還元窒化処理温度を600〜800℃とすることにより、還元窒化反応生成物に占める酸窒化タングステン(WON)の比率が高まり、最終生成物である炭化タングステン粉末のBET比表面積と、それに対応するBET法換算の平均粒径は、BET比表面積6.0m/g以上、BET法換算の平均粒径64nm以下、更には、BET比表面積9.5m/g以上、BET法換算の平均粒径40nm以下となることから、アンモニア(NH)雰囲気での還元窒化処理温度は、600〜800℃とすることが好ましい。
なお、本発明において、アンモニア(NH)雰囲気での還元窒化工程にて生成する酸窒化タングステンを経由して得られる炭化タングステン粉末が、きわめて微粒となる理由については明らかではないが、前記還元窒化工程において得られる酸窒化タングステンが、高BET値で微粒であることに加え、得られた微粒の酸窒化タングステンが、次の窒素中での還元炭化工程、および、その次の水素中での炭化工程における反応中も粒子成長が極めて遅いことによるものと考えられる。
【0009】
そして、本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1)微粒炭化タングステン粉末の製造方法であって、
(a)メタタングステン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、および、タングステン酸のいずれか一つのタングステン含有化合物と、炭素粉末とを配合したのち、
(a−1)乾式混合して原料粉末を調製するか、もしくは、
(a−2)水溶液または有機溶液にて湿式混合し、低温乾燥して、前記炭素粉末前記タングステン含有化合物を担持させ原料粉末を調製する、
工程と
(b)前記原料粉末をアンモニア雰囲気中にて還元窒化、X-ray回折法により立方晶の結晶構造を有する微粒酸窒化タングステン粉と前記炭素粉末を混合して含む還元窒化反応生成物をする工程と
(c)前記還元窒化反応生成物を不活性雰囲気中にて還元および炭化し、炭化タングステンを主体とし、残部が一炭化二タングステン、金属タングステンおよび前記炭素粉末からなり、酸化物や酸窒化物を含有しない還元炭化反応生成物をする工程と
(d)前記還元炭化反応生成物を水素雰囲気中にて炭化し微粒炭化タングステン粉末を生成する工程と
を順に有することを特徴とする、微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
(2)微粒炭化タングステン粉末の製造方法であって、
(a)メタタングステン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、および、タングステン酸のいずれか一つのタングステン含有化合物と、炭素粉末とを、前記タングステン含有化合物のタングステン成分に対する原子比で、炭素タングステン:1〜2を満足する割合に配合したのち、
(a−1)乾式混合して原料粉末を調製するか、もしくは、
(a−2)水溶液または有機溶液にて湿式混合し、350℃以下の温度にて、低温乾燥し、前記炭素粉末が前記タングステン含有化合物を担持してなる原料粉末を調製する、
工程と、
(b)前記原料粉末をアンモニア雰囲気中、600〜800℃の温度にて還元窒化、X-ray回折法により立方晶の結晶構造を有する微粒酸窒化タングステン粉と前記炭素粉末を混合して含む還元窒化反応生成物をする工程と
(c)前記還元窒化反応生成物を不活性雰囲気中1000℃以上にて還元および炭化し、炭化タングステンを主体とし、残部が一炭化二タングステン、金属タングステンおよび前記炭素粉末からなり、酸化物や酸窒化物を含有しない還元炭化反応生成物をする工程と
(d)前記還元炭化反応生成物を水素雰囲気中1000℃以上にて炭化し微粒炭化タングステン粉末を生成する工程と、
を順に有することを特徴とする、微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
(3)前記(1)または(2)に記載された微粒炭化タングステン粉末の製造方法において、
前記微粒酸窒化タングステン粉における窒素含有量が5〜7質量%、酸素含有量が4〜6質量%で、BET比表面積が10m/g以上であり、
前記微粒炭化タングステン粉末におけるBET比表面積が、6.0m/g以上であり、BET法による平均粒径が、64nm以下であることを特徴とする微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
(4)前記(1)または(2)に記載された微粒炭化タングステン粉末の製造方法において、
前記微粒酸窒化タングステンにおける窒素含有量が5〜7質量%、酸素含有量が4〜6質量%で、BET比表面積が10m/g以上であり、
前記微粒炭化タングステン粉末におけるBET比表面積が、9.5m/g以上であり、BET法による平均粒径が、40nm以下であることを特徴とする微粒炭化タングステン粉末の製造方法。
(5)前記(1)〜4のいずれかに記載された微粒炭化タングステン粉末の製造方法において、
前記メタタングステン酸アンモニウム、前記タングステン酸アンモニウム、前記パラタングステン酸アンモニウム、前記三酸化タングステン、および、前記タングステン酸は、99.9質量%以上の純度を有し、
前記炭素粉末は、99.9質量%以上の純度を有することを特徴とする微粒炭化タングステン粉末の製造方法。」
に特徴を有するものである。
【0010】
以下では、本発明について、より詳細に説明する。
1.原料粉末
<原料の種類>
原料粉としては、メタタングステン酸アンモニウム(AMT)、タングステン酸アンモニウム(AT)、パラタングステン酸アンモニウム(APT)、タングステン酸、三酸化タングステンなど炭化タングステン粉末を製造する際に通常原料となるタングステン含有化合物粉末を用いることができる。
また、炭素粉末としては、カーボンブラックや活性炭など炭化タングステン粉末を製造する際に通常原料として用いる炭素粉末を用いることができる。
<原料の純度>
原料として用いるタングステン含有化合物および炭素粉末の純度を99.9質量%以上、あるいは、99.99質量%以上とすることにより高純度の炭化タングステン粉末を製造することができる。
2.原料粉末の混合
<タングステン含有化合物粉末と炭素粉末の混合比率>
タングステン含有化合物粉末中のタングステン(量に対する炭素粉末の炭素量の割合(C/W)が、原子比で1未満では、還元反応生成物中に酸化物が残存する一方、原子比にて2を超えると、還元反応生成物中に占める炭素の割合が多くなり、還元炭化処理後の遊離炭素が多量に残存するおそれがあるため、その割合を1〜2とすることが望ましい。
<原料粉末の混合方法>
タングステン含有化合物粉末と炭素粉末の混合方式は、乾式法および湿式法のいずれの方式でもよく、湿式法を用いる場合の分散媒は、水溶液、有機溶媒のいずれでもよい。
有機溶媒としては、メタノール、エタノールなどの低級アルコール、アセトン、ヘキサンなどが一般的であるが、乾燥性、環境負荷等を考慮するとエタノールが好ましい。
3.乾燥温度
湿式法により混合されたタングステン含有化合物粉末と炭素粉末は、低温乾燥され、炭素粉末がタングステン含有化合物を担持してなる原料粉末となる。
この乾燥温度が350℃を超えると、タングステン含有化合物の分解反応が起こり、分解後に生成されるタングステン化合物の粗大化により、次工程での加熱還元処理において生成される還元反応生成物の微細化が困難となるおそれがあるため、乾燥温度を350℃以下とすることが望ましい。
【0011】
4.アンモニア(NH)雰囲気中での還元窒化温度
タングステン含有化合物粉末と炭素粉末が混合されて得られた原料粉末は、還元窒化工程において、アンモニア(NH)雰囲気中で還元窒化され、微粒炭化タングステン粉の前駆体である酸窒化タングステン(WON)粉と炭素粉末を混合して含む還元窒化反応生成物を生成する。
アンモニア(NH)雰囲気中での還元窒化温度は、600℃未満では、還元反応および窒化反応が十分ではなく、前駆体である酸窒化タングステン(WON)の生成が満足に行われず、未反応のタングステン化合物が、次工程での還元炭化反応において、粒成長や粗粒子化の原因となるおそれがあり、また、800℃を超えるとアンモニアによる還元反応が進行し、生成するW粉の粒成長が生じるおそれがあるため、還元窒化温度を600℃〜800℃とすることが望ましい。
アンモニア(NH)雰囲気中での還元窒化は、例えば、原料粉末が配置された還元窒化装置内にアンモニア(NH)気流を導入し、所定温度に加熱することにより行うことができるが、その際の還元窒化装置内へのアンモニア(NH)流量については、特に上限を規定する必要はない。
ただし、流量が少なすぎると還元反応および窒化反応が十分ではなく、前駆体である酸窒化タングステン(WON)の生成が満足に行われず、未反応のタングステン化合物が、次工程での還元炭化反応において、粒成長や粗粒子化の原因となるおそれがあるため、流量は10リットル/分以上が望ましく、処理時間についても同様の理由から未反応のタングステン化合物が生成されず、しかも、長時間処理での粒成長や粗粒子化が起こらない1〜2時間程度が望ましい。
なお、本発明においては、炭素粉末の分散性の観点から、タングステン含有化合物粉末と炭素粉末を初期の段階で混合し、その後、アンモニア雰囲気中での還元窒化処理を行うことにより、微粒炭化タングステン粉を製造するものであるが、タングステン含有化合物粉末について、まず還元窒化処理を行い、生成される微粒酸窒化タングステン(WON)粉を炭素粉末と混合し、その後、還元炭化処理、炭化処理を行うことによっても微粒炭化タングステン粉を生成することができる。
【0012】
5.不活性雰囲気中での還元炭化温度
前記還元窒化反応生成物は、還元炭化工程において、窒素、Ar等の不活性雰囲気中で還元炭化され、炭化タングステン(WC)を主体とし、残部をWCと金属タングステン、および、炭素粉末からなり、酸化物や酸窒化物を実質的に含有しない還元炭化反応生成物を生成する。
なお、前述したとおり、本件明細書および特許請求の範囲では、不活性雰囲気とは、窒素、Ar等の不活性雰囲気をいう。
不活性雰囲気中での還元炭化温度が、1000℃未満では、還元反応および炭化反応が十分に進行せず、金属タングステンへの還元が十分に行われないおそれがあるため、不活性雰囲気中での還元炭化温度を1000℃以上とすることが望ましい。
窒素不活性雰囲気中での還元炭化は、例えば、装置内への導入ガスを窒素気流に換えることにより行うことができる。その際の装置内への窒素流量については、流量が少なすぎると未反応のタングステン化合物が、次工程での炭化反応において、粒成長や粗粒子化の原因となるおそれがあるため10リットル/分以上とした。
また、処理時間は、短すぎると未反応のタングステン化合物が、次工程での炭化反応において、粒成長や粗粒子化の原因となるおそれがあり、長すぎると粒成長や粗粒子化が進み、微粒の炭化タングステン粒子が得られなくなるおそれがあるため1〜2時間程度が望ましい。
なお、還元炭化温度の上限は、特に規定していないが、高温での炭化処理は、WC粒子の粒成長や粗粒子化が進み、微粒の炭化タングステン粒子が得られなくなるため、1300℃以下が好ましい。
【0013】
6.水素雰囲気中での炭化温度
前記炭化反応生成物は、炭化工程において、水素雰囲気にて炭化され、微粒炭化タングステン粉が生成する。
水素雰囲気中での炭化温度が、1000℃未満では、炭化反応が十分に進行せず、金属タングステンおよび一炭化二タングステン(の炭化タングステン(WC)への炭化が十分に行われないおそれがあるため、水素雰囲気中での炭化温度を1000℃以上とすることが望ましい。
また、処理時間は、短すぎると未反応のタングステン化合物が残存するおそれがあり、長すぎると粒成長や粗粒子化が進み、微粒の炭化タングステン粒子が得られなくなるおそれがあるため1〜2時間程度が望ましい。
炭化温度の上限は、特に規定していないが、高温での炭化処理は、WC粒子の粒成長や粗粒子化が進み、微粒の炭化タングステン粒子が得られなくなるため、1300℃以下が好ましい。
【0014】
7.炭化タングステン粉末
得られた炭化タングステン粉末の比表面積は、ガス吸着法により測定を行い、BET比表面積として示した。また、炭化タングステン粉末の平均粒径については、BET比表面積から算出されるBET法基準の平均粒径として示す。
なお、BET法による平均粒径とは、粒子を球体と見なし比表面積より算出するものであり、以下の式により求めることができる。
平均粒径(nm)={6/(理論密度(g/cm)×比表面積(m/g))}×1000
ここで、理論密度は、炭化タングステンWCについては、15.7(g/cm)を、酸窒化タングステン(WON)については、12.1(g/cm)を用いた。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、微粒炭化タングステン粉末の製造方法に関し、粉砕工程を設けることなく、従来よりも微細な平均粒径を有する炭化タングステン粉末についても製造することが可能である新規な微粒炭化タングステン粉末の製造方法を提供するものである。
そして、特に、原材料の乾燥後、新たにアンモニア雰囲気による還元窒化工程を設け、還元温度を調整することにより、微粒炭化タングステン粉末の前駆体として、粒度の細かな酸窒化タングステン(WON)を生成させ、その後の還元炭化工程および炭化工程を経て、ナノレベルに至るまでの微細な炭化タングステン粉末を製造し、これを提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明に係る微粒炭化タングステン粉末の製造方法について、実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0017】
表1には、本発明例1〜11、従来例1について、原料として用いたW含有化合物原料の種類とFSSS平均粒径(μm)、炭素原料粉の種類とBET値(m/g)、C/Wの原子比、及び、W含有化合物原料と炭素原料粉との混合方式を示すとともに、合わせて、還元窒化工程における、還元窒化温度、処理時間、雰囲気ガスおよびその流量、還元窒化反応生成物の生成相の種類、BET値(m/g)、N%、O%、C%について示す。
また、表2には、還元炭化工程における、還元温度、処理時間、雰囲気ガスおよび流量、還元炭化反応生成物の生成相の種類とBET値(m/g)、および、炭化工程における、処理温度、処理時間、雰囲気ガス、および、得られた炭化タングステン粉の特性値(BET比表面積、BET換算粒径、炭素量、Fe含有量)を示す。
具体的には、本発明例1〜11では、タングステン含有化合物原料として、AMT、APT、三酸化タングステン、および、タングステン酸を用意し、炭素原料粉としては、平均粒径が0.1μm以下のカーボンブラック、または、活性炭を用意し、湿式混合においては、純水、または、エタノールまたはメタノールを溶媒として攪拌機、またはアトライター等の混合装置にて混合しスラリーとし、350℃にて低温乾燥を行い、原料粉末を得た。また、乾式混合においても同様の混合装置を乾式で用いて混合し、原料粉末を得た。
【0018】
次いで、前記原料粉末を、アンモニア(NH)雰囲気中にて、600〜800℃の温度にて、還元窒化を行い、還元窒化反応生成物の一部を取り出し、XRD(X線回折)によりピーク強度を確認したところ、本発明例のものでは、いずれも、立方晶の結晶構造を有する酸窒化タングステン(WON)が生成していることを確認した。
なお、酸窒化タングステン(WON)のBET比表面積に関して、酸窒化タングステン(WON)は、炭素微粒粉と混合した状態で微粒化しているため、炭素微粒粉を除いた状態での酸窒化タングステン(WON)のみでのBET比表面積として求めた。
【0019】
次いで、不活性雰囲気としては窒素雰囲気を用い、前記還元窒化反応生成物を窒素雰囲気中1000℃以上にて所定時間保持し、還元および炭化して得られた還元炭化反応生成物の一部を取り出しX線回折にて確認したところ、本発明例のものはいずれも、炭化タングステン(WC)を主体とし、残部をWCと金属タングステンからなるものであった。
【0020】
次いで、還元炭化反応生成物を水素雰囲気中1000℃以上にて所定時間保持し、炭化を行い、得られた炭化反応生成物をX線回折にて確認したところ、本発明例のものでは、還元炭化反応生成物はいずれも、炭化タングステン(WC)となっていた。
また、BET法により得られたBET比表面積はいずれも6.0m/g以上を有するものであり、BET換算の平均粒径は、64nm以下のナノレベルの炭化タングステンが得られていた。
【0021】
これに対し、従来例1では、還元窒化工程を経ていないため、酸窒化タングステン(WON)が中間生成物として得られておらず、BET比表面積は3.20m/gと小さく、BET換算粒径は119nmであり、サブミクロンオーダーの大きなものであった。
【0022】
さらに、表3に、本発明例1〜11、および、従来例1にて得られた炭化タングステン粉末を用い、1800℃、加圧力30MPaの条件にてホットプレス焼結を行うことによって得られた焼結体について、その硬度、抗折力および密度を示す。本発明例1〜11の炭化タングステン粉末を用いて製造されたWC焼結体は、いずれも、ビッカース硬度2100kg/mm以上、抗折力120kg/mm以上、および、密度は98.1%以上であり、従来例に対し、硬度、抗折力、および、密度のいずれにおいても優れたものとなっていた。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、微粒炭化タングステン粉末の製造方法に関し、粉砕工程を設けることなく、従来よりも微細な平均粒径を有する炭化タングステン粉末についても製造することが可能である新規な微粒炭化タングステン粉末の製造方法を提供するものであるから極めて有用なものである。
そして、本発明の製造方法により得られる、微粒炭化タングステン粉末は、6.0m/g以上の高BET比表面積を有し、BET法換算の平均粒径は、64nm以下のナノレベルであり、その焼結体は高硬度であることから、切削工具や、金型などの塑性加工用耐摩工具として用いられる超硬合金の製造用原料にととまらず、燃料電池用触媒としても極めて有用である。