(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の中空無機粒子を含み、ASTM D3102−78に準拠してグリセロール法により測定される上記中空無機粒子の耐圧強度が10MPa以上である絶縁電線である。
【0013】
当該絶縁電線は、このように、絶縁層中に含まれる中空無機粒子のASTM D3102−78に準拠してグリセロール法により測定される耐圧強度が10MPa以上であるので、絶縁層製造工程で力がかかることによるシェルの割れが抑制され、中空無機粒子が安定して分散された絶縁層を備えることができる。その結果、絶縁層内に形成される各気孔が無機材料で構成されるシェルで囲まれるので、各中空無機粒子内の中空部同士が連通し難く、絶縁層に粗大な気孔が生じ難くなる。従って、粗大な気孔による絶縁層の強度低下を抑制しつつ、絶縁被膜の低誘電率化を図ることにより、コロナ放電開始電圧を向上させることができる。さらに、中空無機粒子の無機フィラーとしての効果により耐サージ性を付与することができ、使用時に過電圧(サージ電圧)が加わった時の加熱による劣化を抑制することができる。例えば、絶縁層を押出成型により形成する場合でも、力がかかることによるシェルの割れが抑制され、中空無機粒子が安定して分散された絶縁層を備えることができる。
【0014】
上記中空無機粒子の耐圧強度としては、20MPa以上が好ましい。上記中空無機粒子の耐圧強度を20MPa以上とすることで、シェルの割れがより抑制され、中空無機粒子の分散性を向上することができる。
【0015】
上記中空無機粒子のシェルの平均厚さとしては、0.5μm以上2.0μm以下が好ましい。このように、上記中空無機粒子のシェルの平均厚さを上記範囲内とすることで、絶縁層の強度低下を抑制しつつ、絶縁層の気孔率を高めることができる。ここで、「気孔率」とは、中空無機粒子を含む絶縁層の体積に対する中空無機粒子による気孔の容積の百分率を意味する。
【0016】
上記中空無機粒子のメジアン径としては、50μm以下が好ましい。このように、上記中空無機粒子のメジアン径を上記範囲内とすることで、中空無機粒子の耐圧強度の低下が抑制される。ここで、メジアン径とは、JIS−Z8825(2013)に規定されるメジアン径を意味する。
【0017】
上記中空無機粒子の比重としては、0.3以上0.7以下が好ましい。このように、中空無機粒子の比重が上記範囲内であることにより、中空無機粒子の占める体積に対して効率よく気孔率を高めることができる。また、中空無機粒子の中空率が大きくなり過ぎず、中空無機粒子の耐圧強度の低下が抑制される。ここで、「比重」とは、JIS−K0061(2001)に規定される比重を意味する。
【0018】
上記中空無機粒子を含む絶縁層のマトリックスが熱可塑性樹脂を含有するとよい。このように、上記中空無機粒子を含む絶縁層のマトリックスが熱可塑性樹脂を含有することで、押出成型においても中空無機粒子を含む絶縁層を良好に形成することができる。
【0019】
本発明の一態様に係る絶縁層形成用樹脂組成物は、絶縁電線を構成する1又は複数の絶縁層の少なくとも1層の形成に用いる絶縁層形成用樹脂組成物であって、マトリックスを形成する熱可塑性樹脂組成物と、この熱可塑性樹脂組成物中に分散する複数の中空無機粒子とを含有し、ASTM D3102−78に準拠してグリセロール法により測定される上記中空無機粒子の耐圧強度が10MPa以上である絶縁層形成用樹脂組成物である。
【0020】
当該絶縁層形成用樹脂組成物は、このように、熱可塑性樹脂組成物中に分散する複数の中空無機粒子のASTM D3102−78に準拠してグリセロール法により測定される耐圧強度が10MPa以上である。その結果、絶縁層製造工程で力がかかることによるシェルの割れが抑制され、中空無機粒子が安定して分散された絶縁層を備えることができる。絶縁層内に形成される各気孔が無機材料で構成されるシェルで囲まれているので、各中空無機粒子内の中空部同士が連通し難く、絶縁層に粗大な気孔が生じ難くなる。従って、粗大な気孔による絶縁層の強度低下を抑制しつつ、絶縁被膜の低誘電率化を図ることができる。
【0021】
当該絶縁電線の製造方法は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、サイドフィーダ付き押出機を用い、上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層のマトリックスを形成する熱可塑性樹脂組成物を上記押出機で混錬する工程と、上記押出機のサイドフィーダから複数の中空無機粒子を上記熱可塑性樹脂組成物に混合する工程と、上記混合工程後の絶縁層形成用樹脂組成物を上記導体の外周面側に押し出す工程とを備える絶縁電線の製造方法である。
【0022】
当該絶縁電線の製造方法は、このように、上記熱可塑性樹脂組成物を上記サイドフィーダ付き押出機で先に混練した後に、上記押出機のサイドフィーダから複数の中空無機粒子を上記熱可塑性樹脂組成物に混合するので、中空無機粒子の割れを抑制しつつ、中空無機粒子が均一に分散された絶縁層を形成することができる。従って、絶縁層の強度低下を抑制しつつ、絶縁被膜の低誘電率化を図ることができ、コロナ放電開始電圧を向上させることができる絶縁電線を製造することができる。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る絶縁電線の実施形態について、図面を参照しつつ詳説する。
【0024】
[第1実施形態]
<絶縁電線>
図1の当該絶縁電線は、線状の導体1と、この導体1の外周面に積層される1層の第1絶縁層2とを備える。この第1絶縁層2は、複数の中空無機粒子3を含む。また、中空無機粒子3を含む第1絶縁層2のマトリックスが熱可塑性樹脂を含有する。
【0025】
<導体>
導体1は、例えば断面が円形状の丸線とされるが、断面が正方形状の角線又は長方形状の平角線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0026】
導体1の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。導体1は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
【0027】
導体1の平均断面積の下限としては、0.01mm
2が好ましく、0.1mm
2がより好ましい。一方、導体1の平均断面積の上限としては、10mm
2が好ましく、5mm
2がより好ましい。導体1の平均断面積が上記下限に満たないと、導体1に対する第1絶縁層2の体積が大きくなり、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、導体1の平均断面積が上記上限を超えると、誘電率を十分に低下させるために第1絶縁層2を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0028】
<絶縁層>
第1絶縁層2は、
図1に示すように複数の中空無機粒子3を含む。つまり、第1絶縁層2は、中空無機粒子3による複数の気孔を含む。
【0029】
第1絶縁層2は、絶縁性を有する樹脂組成物、及びこの樹脂組成物中に散在する中空無機粒子3で形成される。この第1絶縁層2は、後述する当該絶縁層形成用樹脂組成物を用いて押出成型により導体1の外周面に形成される。
【0030】
第1絶縁層2の気孔率の下限としては5体積%が好ましく、8体積%がより好ましい。一方、第1絶縁層2の気孔率の上限としては、80体積%が好ましく、50体積%がより好ましい。第1絶縁層2の気孔率が上記下限に満たない場合、第1絶縁層2の誘電率が十分に低下せず、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。逆に、第1絶縁層2の気孔率が上記上限を超える場合、第1絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。
【0031】
第1絶縁層2の誘電率の上限としては、3.0が好ましく、2.9がより好ましい。第1絶縁層2の誘電率が上記上限を超える場合、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。
【0032】
第1絶縁層2の平均厚さの下限としては、100μmが好ましく、120μmがより好ましい。一方、第1絶縁層2の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、450μmがより好ましい。第1絶縁層2の平均厚さが上記下限に満たない場合、絶縁性が低下するおそれがある。中空無機粒子3の存在により第1絶縁層2表面に凹凸形状が形成され易くなるおそれがある。逆に、第1絶縁層2の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0033】
(中空無機粒子)
上記中空無機粒子3は、
図2に示すような中空のシェル4を有する。
【0034】
シェル4は無機材料で構成される。このような無機材料としては、例えば単結晶材料、セラミック、ガラスなどが挙げられる。これらの中でも、シェル4の材質としてはガラスが好ましい。シェル4の材質をガラスとすることで、当該絶縁電線の第1絶縁層2の強度をさらに向上させることができる。
【0035】
中空無機粒子3の形状は、特に限定されないが、例えば
図2に示すような球状が好ましい。球状の中空無機粒子3を用いることにより、絶縁層製造工程において中空無機粒子と熱可塑性樹脂組成物との混練時等でシェル4の表面にかかる力によるシェル4の割れが生じ難い。その結果、中空無機粒子3による気孔が連通し難く、粗大な気孔が生じ難くなる。ここで、「球状」とは、真球に限らず、例えば真球度が1.0以上1.3以下の球の形状を意味する。
【0036】
中空無機粒子3の耐圧強度は、ASTM D3102−78に準拠したグリセロール法による測定で、中空無機粒子の体積が10%減少する時の圧力をいう。中空無機粒子3の耐圧強度の下限としては、10MPaであり、20MPaが好ましく、25MPaがより好ましく、30MPaがさらに好ましい。中空無機粒子3の耐圧強度が上記下限に満たないと、絶縁層製造工程における中空無機粒子と熱可塑性樹脂組成物との混練時にシェル4の表面に力がかかることによりシェル4の割れが生じ易くなり、中空無機粒子3による気孔の連通抑制効果が十分に得られないおそれがある。なお、中空無機粒子3の耐圧強度の上限としては、特に制限はないが、例えば250MPaが好ましい。中空無機粒子3の耐圧強度が上記上限を超えると、中空無機粒子3のコストが高くなり、当該絶縁電線の製品コストが増加するおそれがある。
【0037】
中空無機粒子3のメジアン径の下限としては、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、中空無機粒子3のメジアン径の上限としては、50μmが好ましく、45μmがより好ましい。中空無機粒子3のメジアン径が上記下限に満たないと、中空率の上限が小さくなり中空率を所定以上に大きくできないため、第1絶縁層2に含まれる中空無機粒子3の体積割合が大きくなる。その結果、第1絶縁層2の絶縁性が低下するおそれがある。逆に、中空無機粒子3のメジアン径が上記上限を超えると、中空率が大きくなり過ぎることにより中空無機粒子の耐圧強度が低下するおそれがある。
【0038】
無機材料で構成される上記中空無機粒子のシェル4の平均厚さの下限としては、0.5μmが好ましく、0.6μmがより好ましい。一方、シェル4の平均厚さの上限としては2.0μmが好ましく、1.8μmがより好ましい。シェル4の平均厚さが上記下限に満たないと、絶縁層製造工程において中空無機粒子と熱可塑性樹脂組成物との混練時等でシェル4の表面にかかる力によるシェル4の割れが生じ易くなり、中空無機粒子3による気孔の連通抑制効果が十分に得られず、粗大な気孔による絶縁層の強度低下が生じるおそれがある。逆に、シェル4の平均厚さが上記上限を超えると、中空無機粒子3の体積に対して形成される気孔の体積が小さくなり過ぎるため、第1絶縁層2に含まれる中空無機粒子3の体積割合が大きくなる。その結果、第1絶縁層2の絶縁性が低下するおそれがある。
【0039】
中空無機粒子3の比重の下限としては、0.3が好ましく、0.4がより好ましい。一方、中空無機粒子3の比重の上限としては0.7が好ましく、0.6がより好ましい。中空無機粒子3の比重が上記下限に満たないと、中空無機粒子の中空率が大きくなり過ぎ、中空無機粒子の耐圧強度が低下するおそれがある。逆に、中空無機粒子3の比重が上記上限を超えると、絶縁層の気孔率が低下して、絶縁層の誘電率を十分に低下できないおそれがある。
【0040】
中空無機粒子3の配合量の下限としては、上記熱可塑性樹脂組成物に対して20体積%が好ましく、25体積%がより好ましい。一方、上記配合量の上限としては、上記熱可塑性樹脂組成物に対して40体積%が好ましく、35体積%がより好ましい。中空無機粒子3の配合量が上記下限に満たないと、絶縁層の誘電率が十分に低下せず、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。逆に、中空無機粒子3の配合量が上記上限を超えると、絶縁層の機械的強度を維持できないおそれがある。
【0041】
(絶縁層形成用樹脂組成物)
当該絶縁層形成用樹脂組成物は、上記絶縁電線の第1絶縁層2の形成に用いる樹脂組成物である。当該絶縁層形成用樹脂組成物は、マトリックスを形成する熱可塑性樹脂組成物と、この熱可塑性樹脂組成物中に分散する複数の中空無機粒子3とを含有する。
【0042】
上記熱可塑性樹脂組成物としては、例えばポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂を主成分とするものが使用できる。
【0043】
<絶縁電線の製造方法>
次に、当該絶縁電線の製造方法について説明する。当該絶縁電線は、第1絶縁層2が押出成型により形成される。この絶縁電線の製造方法は、マトリックスを形成する熱可塑性樹脂組成物に、中空無機粒子3を分散させることで当該絶縁層形成用樹脂組成物(第1絶縁層形成用樹脂組成物ともいう。)を調製する工程(第1絶縁層形成用樹脂組成物調製工程)及び上記第1絶縁層形成用樹脂組成物を上記導体1の外周面に押出被覆する工程(押出工程)を備える。
【0044】
(第1絶縁層形成用樹脂組成物調製工程)
上記第1絶縁層形成用樹脂組成物調製工程は、より詳細には、熱可塑性樹脂組成物を押出機で融点以上に加熱しつつ熱可塑性樹脂組成物を均一に混錬する工程と、複数の中空無機粒子を熱可塑性樹脂組成物に混合する工程とを有する。第1絶縁層形成用樹脂組成物の調製には、サイドフィーダ又はサイドホッパを備える通常の二軸または三軸などの多軸押出機又は単軸押出機を用いることができる。第1絶縁層形成用樹脂組成物の調製方法としては、例えば二軸押出機等を用いて熱可塑性樹脂組成物を溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を均一に混錬した後に、サイドフィーダ又はサイドホッパから中空無機粒子を投入して溶融した熱可塑性樹脂組成物と混合する。熱可塑性樹脂組成物と中空無機粒子との混合に際しては、中空無機粒子の割れを抑制しつつ、上記熱可塑性樹脂組成物に効率よく均一に分散することができる観点から、上記押出機のサイドフィーダから複数の中空無機粒子を上記熱可塑性樹脂組成物に混合する方法が好ましい。
【0045】
上記第1絶縁層形成用樹脂組成物は、必要に応じて潤滑剤、酸化防止剤、光安定剤等の各種添加剤及び改質剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0046】
なお、中空無機粒子を予め別途混合装置により主原料の熱可塑性樹脂と混合してマスターバッチとして上記第1絶縁層形成用樹脂組成物を調製後、上記押出機に投入してもよい。
【0047】
(押出工程)
押出工程においては、上記第1絶縁層形成用樹脂組成物調製工程の混合工程後の上記第1絶縁層形成用樹脂組成物を上記導体の外周面側に押し出す押出成型が行われる。このようにして導体1の外周面が第1絶縁層2により被覆される。押出成型により、中空無機粒子を含む第1絶縁層2が形成されて当該絶縁電線が得られる。押出工程で形成された第1絶縁層2に含まれる中空無機粒子3により、第1絶縁層2内に気孔が形成される。
【0048】
当該絶縁電線は、第1絶縁層2に含まれる気孔が中空無機粒子3により形成される。このような中空無機粒子3による気孔は無機材料で構成されるシェル4で囲まれているので、シェル4同士が当接しても中空無機粒子3内の中空部同士が連通し難いため、中空無機粒子3よりも大きい気孔が生じ難い。これにより、当該絶縁電線は、粗大な気孔による絶縁層の強度低下を抑制しつつ絶縁被膜の低誘電率化を図ることができる。
【0049】
当該絶縁電線の部分放電開始電圧の下限としては、1200Vpが好ましく、1300Vpがより好ましい。上記部分放電開始電圧が上記下限に満たないと、早期に絶縁破壊を生じ、絶縁電線の寿命が短くなるおそれがある。
【0050】
当該絶縁電線の絶縁破壊電圧の下限としては、10kVが好ましく、11kVがより好ましい。上記絶縁破壊電圧が上記下限に満たないと、高電圧下で使用される機器に当該絶縁電線を用いることができないおそれがある。
【0051】
<利点>
当該絶縁電線は、絶縁層製造工程における中空無機粒子のシェルの割れが抑制され、気孔を有する中空無機粒子が安定して分散された絶縁層を備える。従って、絶縁層の強度低下を抑制しつつ、絶縁被膜の低誘電率化を図ることができ、コロナ放電開始電圧を向上させることができる。さらに、中空無機粒子の無機フィラーとしての効果により耐サージ性を付与することができる。また、当該絶縁層形成用樹脂組成物は、絶縁層製造工程における中空無機粒子のシェルの割れが抑制されて、中空無機粒子を安定して分散させることができる。従って、絶縁層の強度低下を抑制しつつ、絶縁被膜の低誘電率化を図ることができる。また、当該絶縁電線の製造方法は、熱可塑性樹脂組成物をサイドフィーダ付き押出機で先に混練した後に、押出機のサイドフィーダから複数の中空無機粒子を上記熱可塑性樹脂組成物に混合するので、中空無機粒子の割れを抑制しつつ、中空無機粒子が均一に分散された絶縁層を形成することができる。従って、絶縁層の強度低下を抑制しつつ、絶縁被膜の低誘電率化を図ることができ、コロナ放電開始電圧を向上させることができる絶縁電線を製造することができる。
【0052】
[第2実施形態]
<絶縁電線>
当該第2実施形態に係る絶縁電線は、中空無機粒子を含む第1絶縁層と導体との間に焼付により中空無機粒子が含まれない第2絶縁層(以下、第2絶縁層ともいう)を積層させたものである。
【0053】
図3の当該第2実施形態に係る絶縁電線は、線状の導体1と、この導体1の外周面に焼付により積層される第2絶縁層5と、この第2絶縁層5の外周面に積層され、最外層を構成する第1絶縁層2とを備える。また、第1絶縁層2が中空無機粒子3を含むのに対し、第2絶縁層5は中空無機粒子を含有しない。なお、導体1及び第1絶縁層2は、第1実施形態と同様であるので同一番号を付して説明を省略する。
【0054】
(第2絶縁層)
上記第2絶縁層5は、導体1を被覆するように上記導体1の周面側に積層される。第2絶縁層5は、後述する絶縁層形成用ワニスを塗布、焼付けして形成されたものである。本発明の第2実施形態に係る絶縁電線は、絶縁層形成用ワニスを塗布、焼付けして第2絶縁層5を形成しているので、第2絶縁層5と導体1との密着性に優れる。
【0055】
第2絶縁層5の誘電率の上限としては、3.7が好ましく、3.6がより好ましい。第2絶縁層5の誘電率が上記上限を超える場合、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。
【0056】
第2絶縁層5の平均厚さの下限としては、特に限定されないが、10μmが好ましく、15μmがより好ましい。また、上記平均厚さの上限としては、150μmが好ましく、100μmがより好ましい。上記平均厚さが上記下限未満である場合、十分な電気絶縁性や耐傷性、耐加工性等を発揮できないおそれがある。一方、上記平均厚さが上記上限を超える場合、溶媒揮発時に発泡するおそれがある。
【0057】
(絶縁層形成用ワニス)
絶縁層形成用ワニスは、焼付により形成される第2絶縁層5の製造に用いる樹脂組成物である。上記絶縁層形成用ワニスは、主ポリマーと、希釈用溶剤、硬化剤等とを含む組成物である。上記主ポリマーとしては特に限定されないが、熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂を使用する場合、例えばポリビニルホルマール前駆体、熱硬化ポリウレタン前駆体、熱硬化アクリル樹脂前駆体、エポキシ樹脂前駆体、熱硬化ポリエステル前駆体、熱硬化ポリエステルイミド前駆体、熱硬化ポリエステルアミドイミド前駆体、熱硬化ポリアミドイミド前駆体、ポリイミド前駆体等が使用できる。これらの中でも、絶縁層形成用ワニスを塗布し易くできると共に、第2絶縁層5の強度及び耐熱性を向上させ易い点において、ポリイミド前駆体が好ましい。
【0058】
希釈用溶剤としては、絶縁ワニス用として公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロロフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン等が挙げられ、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いられる。
【0059】
また、上記樹脂組成物に、硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、チタン系硬化剤、イソシアネート系化合物、ブロックイソシアネート、尿素やメラミン化合物、アミノ樹脂、アセチレン誘導体、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物等が例示される。これらの硬化剤は、使用する樹脂組成物が含有する主ポリマーの種類に応じて、適宜選択される。例えば、ポリアミドイミド系の場合、硬化剤として、イミダゾール、トリエチルアミン等が好ましく用いられる。
【0060】
なお、上記チタン系硬化剤としては、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネート等が例示される。上記イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの炭素数5〜18の脂環式イソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、これらの変性物等が例示される。上記ブロックイソシアネートとしては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート等が例示される。上記メラミン化合物としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミン等が例示される。上記アセチレン誘導体としては、エチニルアニリン、エチニルフタル酸無水物等が例示される。
【0061】
上記有機溶剤により希釈した絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、15質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。一方、絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限に満たないと、1回のワニスの塗布で形成できる厚さが小さくなるため、所定の厚さの第2絶縁層5を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、ワニス塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超えると、ワニスが増粘することにより、ワニスの保存安定性が悪化するおそれや、ワニス塗布時の付着性が悪化するおそれがある。
【0062】
<第2実施形態の絶縁電線の製造方法>
当該第2実施形態の絶縁電線の製造方法としては、例えば導体1の外周面に第2絶縁層5を積層させた後に、第1実施形態の絶縁電線の製造方法の第1絶縁層形成用樹脂組成物調製工程及び押出工程を行う方法が挙げられる。
【0063】
(第2絶縁層5の形成方法)
第2絶縁層5の形成方法は、第2絶縁層5を形成するための上記絶縁層形成用ワニスを調製する工程(ワニス調製工程)、上記絶縁層形成用ワニスを上記導体1の外周面に塗布する工程(ワニス塗布工程)、及び上記絶縁層形成用ワニスを焼付ける工程(焼付工程)を備える。
【0064】
<ワニス調製工程>
ワニス調製工程において、まず、第2絶縁層5を形成する主ポリマーを溶剤で希釈することにより、第2絶縁層5を形成する絶縁層形成用ワニスを調製する。
【0065】
<ワニス塗布工程>
ワニス塗布工程において、上記ワニス調製工程で調製した絶縁層形成用ワニスを導体1の外周面に塗布する。
【0066】
<焼付工程>
次に、焼付工程において、絶縁層形成用ワニスが塗布された導体1を焼付炉に通して絶縁層形成用ワニスを焼付けることで、導体1表面に焼付層を形成する。
【0067】
導体1表面に積層される複数の焼付層の合計厚さが所定の厚さとなるまで、上記ワニス塗布工程及び焼付工程を繰り返すことにより、複数の焼付層からなる第2絶縁層5が形成される。
【0068】
なお、ワニス塗布工程において、ワニス塗布後に、塗布ダイスにより導体1のワニスの塗布量の調節及び塗布されたワニス面の平滑化を行ってもよい。上記塗布ダイスは開口部を有し、絶縁層形成用ワニスを塗布した導体1がこの開口部を通過することで余分なワニスが除去され、ワニスの塗布量が調整される。これにより、当該絶縁電線は、第2絶縁層5の厚さが均一になり易く、均一な電気絶縁性を得易くなる。
【0069】
導体1表面に第2絶縁層5を積層させた後に、上述した第1実施形態の絶縁電線の製造方法の第1絶縁層形成用樹脂組成物調製工程及び押出工程を行うことにより、第2絶縁層5の外周面に中空無機粒子を含む第1絶縁層2を積層し、当該第2実施形態の絶縁電線を得ることができる。
【0070】
<利点>
当該絶縁電線が、中空無機粒子を含む当該絶縁層形成用樹脂組成物から形成される絶縁層を備えるので、上記第1実施形態に係る絶縁電線と同様に、絶縁層の強度低下を抑制しつつ、絶縁被膜の低誘電率化が図れ、コロナ放電開始電圧を向上させることができる。さらに、中空無機粒子の無機フィラーとしての効果により耐サージ性を付与することができる。また、当該絶縁電線が、中空無機粒子を含む絶縁層と導体との間に、導体との密着性が良好な焼付絶縁層を設けているので、導体と絶縁層との間の密着性を向上することができる。さらに、当該絶縁電線が、導体の外周面に積層される複数の絶縁層を備えることにより、絶縁電線の機械的強度を向上させることができる。
【0071】
[第3実施形態]
<絶縁電線>
当該第3実施形態に係る絶縁電線は、中空無機粒子を含む第1絶縁層と導体との間に押出成型により中空無機粒子が含まれない第2絶縁層を積層させたものである。
【0072】
中空無機粒子を含む第1絶縁層と導体との間に積層される第2絶縁層の形成に用いる熱可塑性樹脂組成物は、第1実施形態の第1絶縁層形成用樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂組成物と同様である。
【0073】
第2絶縁層の平均厚さの下限としては、特に限定されないが、50μmが好ましく、60μmがより好ましい。一方、第2絶縁層の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、450μmがより好ましい。第2絶縁層の平均厚さが上記下限に満たない場合、絶縁性が低下するおそれがある。一方、第2絶縁層の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0074】
<第3実施形態の絶縁電線の製造方法>
当該第3実施形態の絶縁電線の製造方法としては、例えば導体1の外周面に上記熱可塑性樹脂組成物を押出成型することにより第2絶縁層を積層した後に、第1絶縁層2の形成に用いる中空無機粒子3を含む第1絶縁層形成用樹脂組成物を押出成型により積層する方法が挙げられる。
【0075】
<利点>
当該絶縁電線が、中空無機粒子を含む当該絶縁層形成用樹脂組成物から形成される絶縁層を備えるので、上記第1実施形態に係る絶縁電線と同様、絶縁層の強度低下を抑制しつつ、絶縁被膜の低誘電率化を図れ、コロナ放電開始電圧を向上させることができる。さらに、中空無機粒子の無機フィラーとしての効果により耐サージ性を付与することができる。また、当該絶縁電線が、導体の外周面に積層される複数の絶縁層を備えることにより、絶縁電線の機械的強度を向上することができる。
【0076】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0077】
上記実施形態においては、1層の第1絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線及び導体1と中空無機粒子3を含む第1絶縁層との間に1の第2絶縁層が積層される絶縁電線について説明したが、導体1と中空無機粒子を含む第1絶縁層との間に複数の絶縁層が積層されてもよい。また、中空無機粒子を含む第1絶縁層の外周面に、押出工程に形成される1又は複数の絶縁層が積層されてもよい。このように、複数の絶縁層が積層される絶縁電線において、少なくとも1の絶縁層に中空無機粒子が含まれればよい。つまり、2以上の絶縁層に中空無機粒子が含まれてもよい。2以上の絶縁層に中空無機粒子が含まれる場合、これらのそれぞれの絶縁層が低誘電率化に寄与する。このように複数の絶縁層のうち少なくとも1層に複数の中空無機粒子が含まれる絶縁電線も、本発明の意図する範囲内である。また、このように導体の外周面に複数の絶縁層を積層することにより、絶縁電線の機械的強度を向上することができる。
【0078】
また、中空無機粒子の表面処理を行うことにより、中空無機粒子とマトリックスを形成する熱可塑性樹脂組成物との密着性を向上させてもよい。
【0079】
また、例えば当該絶縁電線において、導体と絶縁層との間にプライマー処理層等のさらなる層が設けられてもよい。プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
【0080】
導体と絶縁層との間にプライマー処理層を設ける場合、このプライマー処理層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル及びフェノキシ樹脂の中の一種又は複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、密着性向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって導体と絶縁層との間にプライマー処理層を形成することで、導体と絶縁層との間の密着性を向上することが可能であり、その結果、当該絶縁電線の可撓性や、耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
【0081】
また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、メラミン樹脂等を含んでもよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
【0082】
プライマー処理層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、プライマー処理層の平均厚さの上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。プライマー処理層の平均厚さが上記下限に満たないと、導体との十分な密着性を発揮できないおそれがある。逆に、プライマー処理層の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【実施例】
【0083】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0084】
[絶縁電線No.1〜No.12]
導体径(直径)1mmの導線の外周面に、表1に記載する条件に従って絶縁層を積層することにより、絶縁電線No.1〜No.12を試作した。絶縁層は、導線の外周面に中空無機粒子を含有しない第2絶縁層、中空無機粒子を含有する第1絶縁層の順に積層した。なお、No.9は、第1絶縁層の形成において、中空無機粒子を押出機のサイドフィーダから熱可塑性樹脂組成物に混合して第1絶縁層形成用樹脂組成物を作成した。
【0085】
(1)第2絶縁層の形成
(押出成型による第2絶縁層)
中空無機粒子を含有しない押出成型による第2絶縁層の形成に用いる熱可塑性樹脂組成物としては、ポリエーテルスルホン又はポリエーテルエーテルケトンを用いた。上記熱可塑性樹脂組成物を二軸押出機に投入し、融点以上に加熱しつつ混練を行うことにより第1絶縁層形成用樹脂組成物を作成した。次に、上記第2絶縁層形成用樹脂組成物を二軸押出機に投入し、融点以上に加熱しつつ混練を行った後、導線の外周面に押出成型して第2絶縁層を形成した。
【0086】
(焼付による第2絶縁層)
焼付による第2絶縁層の形成に用いる熱硬化性樹脂組成物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応して得られるポリイミド前駆体をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させて作製した。次に、導線の表面に上記焼付用の熱硬化性樹脂組成物を塗布後加熱(焼付)し、これを複数回繰り返して第2絶縁層を形成した。
【0087】
(2)第1絶縁層の形成
(中空無機粒子)
中空無機粒子としては、スリーエムジャパン株式会社の「グラスバブルズ iM30K、iM16K、S42XHS、S38、S22、K20」を用いた。
【0088】
(中空無機粒子の物性値)
用いた中空無機粒子の物性値として、耐圧強度(MPa)、シェルの平均厚さ(μm)、メジアン径(μm)、比重を表1に示す。なお、上記耐圧強度は、上述した通り、ASTM D3102−78に準拠したグリセロール法による測定で、中空無機粒子の体積が10%減少する時の圧力を示した。上記比重は、中空無機粒子の真密度(g/cm
3)から求めた。
【0089】
(押出成型による中空無機粒子含有第1絶縁層の形成)
中空無機粒子を含有する第1絶縁層の形成に用いる第1絶縁層形成用樹脂組成物としては、二軸押出機で加熱混練した上記第2絶縁層形成用樹脂組成物に中空無機粒子をサイドホッパから投入後加熱混練し、第1絶縁層形成用樹脂組成物を作成した。中空無機粒子の配合量としては、上記第1絶縁層形成用樹脂組成物に対して30体積%とした。次に、導線又は第2絶縁層の外周面に上記第1絶縁層形成用樹脂組成物を押出成型により積層し、絶縁電線を作成した。
【0090】
<評価>
以上のようにして得られた絶縁電線No.1〜No.12について、(1)誘電率、(2)部分放電開始電圧、(3)絶縁破壊電圧及び(4)外観の評価結果を表1に合わせて示す。
【0091】
(1)誘電率
得られた各絶縁電線を温度100℃の恒温槽に入れ、1時間乾燥させた後、最外層を構成する絶縁層表面の任意の3箇所に銀ペーストを塗布して測定用のサンプルを作製した。次いで、導線と銀ペーストとの間の静電容量をLCRメータ(エヌエフ回路設計ブロック社の「インピーダンスアナライザーZA5405」)で測定し、測定した静電容量の平均値及び絶縁層の平均厚みから誘電率を算出した。なお、測定は、温度30℃、相対湿度50%の条件で行った。
【0092】
(2)部分放電開始電圧
作製した絶縁電線2本を撚り合わせ、2本の絶縁電線の両端に交流電圧を印加して電圧を10V/secの速度で上げ、50pC以上の放電が3秒間続いたときの電圧を測定値とした。評価においては、1200Vp以上をA、1200Vp未満をBとした。
【0093】
(3)絶縁破壊電圧
絶縁破壊電圧の測定は、グリセリンと飽和食塩水とを17:3の質量割合で混合したグリセリン溶液中に絶縁電線を1mずつ浸漬させ、絶縁電線の導体と上記グリセリン溶液との間に、50Hz又は60Hzの正弦波に近い波形を有する交流電圧を500V/sで昇圧して加えたときの破壊電圧を測定した。ここで絶縁破壊の検出電流は5mAとした。この測定を、絶縁電線30mを1m毎に連続して合計30箇所で行った。30箇所の絶縁破壊電圧の平均値を算出して、絶縁破壊電圧の測定値とした。評価においては、10kV以上をA、10kV未満をBとした。
【0094】
(4)外観
(4−1)絶縁層表面、(4−2)中空無機粒子の分散性及び(4−3)中空無機粒子の割れを評価した。
(4−1)絶縁層表面
絶縁層の表面については、目視判定により滑らかで凹凸がないものをA、一部ざらつき感があるものをB、全体的に凹凸があるものをCとした。
(4−2)中空無機粒子の分散性
中空無機粒子の分散性については、走査型電子顕微鏡(SEM)による電線皮膜の断面観察を行い、中空無機粒子が均一に分散している場合をA、中空無機粒子の凝集がわずかに存在する場合をB、中空無機粒子の凝集が複数個所で存在する場合をCとした。
(4−3)中空無機粒子の割れ
中空無機粒子の割れについては、走査型電子顕微鏡(SEM)による電線皮膜の断面観察を行い、割れが存在しない場合をA、割れがわずかに存在する場合をB、割れが多数存在する場合をCとした。
【0095】
上記特性の評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
上記表1の結果から、絶縁電線No.1〜No.9については、(1)誘電率、(2)部分放電開始電圧、(3)絶縁破壊電圧及び(4)外観の全てにおいて良好な結果が得られることを確認できた。一方、中空無機粒子の耐圧強度が10MPa未満であり、比重が0.3未満である絶縁電線No.10は、中空無機粒子の割れが多数存在していた。また、中空無機粒子の耐圧強度が10MPa未満であり、比重が0.3未満であり、メジアン径が50μmを超える絶縁電線No.11は、中空無機粒子の割れが多数存在すると共に、部分放電開始電圧が1200Vp未満であった。絶縁層に中空無機粒子を含まないNo.12においては、部分放電開始電圧が1200Vp未満であった。