(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて、本実施の形態に係るミシン10について説明する。なお、図面において適宜示される矢印UPは、ミシン10の上側を示し、矢印FRは、ミシン10の前側を示し、矢印RHは、ミシン10の右側(幅方向一方側)を示している。以下、上下、前後、左右の方向を用いて説明する場合は、ミシン10の上下、前後、左右を示すものとする。
【0019】
図2及び
図3に示されるように、ミシン10は、ミシン本体12と、縫製対象物を上方側から押える押えユニット70と、押えユニット70を駆動するための上送り駆動機構30と、を含んで構成されている。以下、各構成について説明する。
【0020】
<ミシン本体について>
図2に示されるように、ミシン本体12は、上下方向に延在された押え棒14を有している。この押え棒14の上部には、圧縮コイルスプリングとして構成された押えバネ16が装着されている。
図3にも示されるように、押え棒14の下端部には、後述する上送り駆動機構30を押え棒14に連結するための連結体18が設けられている。この連結体18は、左右方向を軸方向とする略円柱状に形成されており、連結体18の軸方向中間部に、押え棒14の下端部が上下方向に相対移動可能に挿通されている。この連結体18には、幅方向外側へ突出された左右一対の支持軸18L,18Rが設けられており、支持軸18L,18Rは、同軸上に配置されている。
【0021】
また、ミシン本体12は、針機構20を有している。この針機構20は、押え棒14の前側において、上下方向に延在された針棒21を備えており、針棒21は、上下方向に往復移動可能に構成されている。また、針棒21の下端部には、「針」としての縫針22が装着されており、ミシン10の作動時に、針棒21が上下方向に往復(反転)移動することで、縫針22によって縫製対象物を縫製するようになっている。さらに、針棒21における縫針22の装着部分には、後述するスライド機構90を駆動させるためのスライド駆動軸24が設けられており、スライド駆動軸24は、左右方向を軸方向として針機構20から右側へ突出されている。さらに、針機構20の下側には、針板26(
図2参照)が上下方向を板厚方向として配置されており、針板26上に縫製対象物が載置される構成になっている。また、針板26の下側には、下送り機構を構成する下送り歯28(
図2参照)が配置されている。
【0022】
<上送り駆動機構について>
上送り駆動機構30は、後述する押えユニット70における上送り機構80を駆動させるための「送り駆動部」としての送り駆動機構部32と、後述する押えユニット70に対する押えバネ16の付勢力を解放させるためのバネ押え解放機構50と、を含んで構成されている。
【0023】
(送り駆動機構部について)
送り駆動機構部32は、送り軸34と、第1送りアーム36と、第2送りアーム40と、を含んで構成されている。送り軸34は、左右方向を軸方向とした略丸棒状に形成されている。この送り軸34は、下送り機構(図示省略)と連結されて、下送り機構の作動に連動して、自身の軸回りに回動するように構成されている。そして、本実施の形態では、後述する上送り機構80における上送り歯86の送り軸34(送り駆動機構部32)による送り量が、下送り機構(下送り歯28)の送り量と略同じ量に設定されている。
【0024】
第1送りアーム36は、略上下方向を長手方向とした略長尺ブロック状に形成されている。第1送りアーム36の上端部は、送り軸34の左端部に一体回動可能に固定されており、第1送りアーム36の下端部は、略前後方向に延在された送りリンク38の後端部に、左右方向を軸方向として回動可能に連結されている。
【0025】
第2送りアーム40は、第1送りアーム36の前斜め下方に配置されており、左側から見た側面視で、略L字形板状に形成されている。具体的には、第2送りアーム40は、上下方向に延在されたアーム本体部40Aと、アーム本体部40Aの下端部から前方側へ延出されたアーム連結部40Bと、を含んで構成されている。そして、アーム本体部40Aの上端部が、送りリンク38の前端部に、左右方向を軸方向として回動可能に連結されている。また、アーム連結部40Bの前端部には、円形状の連結孔40Cが貫通形成されており、連結孔40Cは、後述する切換アーム68を介して、連結体18の左側の支持軸18Lに回動可能に連結されている。これにより、送り軸34が軸回りに回動することで、第2送りアーム40が、支持軸18Lの軸回りに回動する構成になっている。
【0026】
また、前述した連結体18の右側には、左右方向を板厚方向とした補助プレート42が配置されており、補助プレート42は左側から見た側面視で略L字形状に形成されている。そして、補助プレート42の前端部が、連結体18における右側の支持軸18Rに回動可能に支持されている。さらに、連結体18の後側(詳しくは、第2送りアーム40と補助プレート42との間)には、略L字形ブロック状を成すスペーサ44が配置されている。そして、補助プレート42が、スペーサ44を介して、一対のネジによって第2送りアーム40に締結固形されている。
【0027】
また、第2送りアーム40(のアーム連結部40B)には、後述する上送り機構80(上送り足84)を連結するための前後一対の連結シャフト40F,40Rが設けられており、連結シャフト40F,40Rは、左右方向を軸方向としてアーム連結部40Bから右側へ突出されている。
【0028】
(バネ押え解放機構について)
バネ押え解放機構50は、カム52と、従動レバー54と、押え棒抱き58と、バネ受け60と、解放ホルダ62と、ベルクランク64と、切換アーム68と、を含んで構成されている。
カム52は、送り軸34の前側に配置され、左右方向を板厚方向とした略円板状の板カムとして構成されており、カム52の外周面がカム面とされている。カム52は、左右方向を軸方向とした上軸46に一体回動可能に固定されており、上軸46は、カム52の中心に対して偏心した位置に配置されている。
【0029】
ここで、上軸46は、前述した針機構20を駆動させるための軸としても構成されており、上軸46の左側の端部に、針棒21の上端部が、図示しないクランク機構を介して連結されている。さらに、上軸46は、下送り機構(下送り歯28)を駆動させるための下軸(不図示)と連結されており、下軸が回動することで、下送り歯28が前後方向及び上下方向に駆動するように構成されている。
【0030】
従動レバー54は、カム52の後側において、前述した送り軸34に回動(揺動)可能に支持されている。また、従動レバー54の右端部には、前方側(カム52側)へ突出されたレバー部54Aが設けられている。そして、従動レバー54は、付勢バネ56によって前方側(カム52側)へ付勢されており、レバー部54Aの先端部がカム52のカム面に当接されている。これにより、カム52が回動することで、従動レバー54がカム面の形状に対応して、送り軸34の軸回りに揺動するようになっている。また、従動レバー54の左端部には、後述するベルクランク64を従動レバー54に連結するための従動側連結軸54Bが一体に設けられており、従動側連結軸54Bは、左右方向を軸方向として配置されている。
【0031】
押え棒抱き58は、前後方向に延在された略直方体ブロック状に形成されており、押え棒抱き58の前端部が押え棒14の長手方向中間部に固定されている。バネ受け60は、上下方向を軸方向とした略円筒状に形成されている。そして、バネ受け60の内部に、押え棒14が相対移動可能に挿通されており、バネ受け60が、押え棒抱き58の前端部の上側に隣接して配置されている。
【0032】
解放ホルダ62は、前方から見た正面視で、右側へ開放された略U字形板状に形成されている。そして、解放ホルダ62の内側(上下壁の間)に、押え棒抱き58の前端部及びバネ受け60が配置された状態で、解放ホルダ62の上下壁に押え棒14が相対移動可能に挿通されている。また、解放ホルダ62の上壁は、押えバネ16の下端部を支持しており(
図2参照)、押えバネ16の付勢力によって解放ホルダ62が下側へ付勢されている。これにより、押えバネ16の付勢力が、解放ホルダ62の上壁、バネ受け60、及び押え棒抱き58を介して押え棒14に伝達される構成になっている。
【0033】
また、解放ホルダ62の左壁には、上下方向を長手方向とする長孔62Aが形成されており、当該長孔62A内には、押え棒抱き58に形成された突起58Aが相対移動可能に挿入されている。これにより、解放ホルダ62は、押え棒抱き58に対して所定の範囲内で上下方向に相対移動可能に構成されている。すなわち、解放ホルダ62が、押えバネ16の付勢力に抗して、押え棒抱き58及びバネ受け60に対して上側へ相対移動すると、押え棒14に対する押えバネ16の付勢力が解放される構成になっている。さらに、解放ホルダ62の左壁には、押え棒14に対して後側の位置において、右側へ突出された切換軸62Bが設けられている。
【0034】
ベルクランク64は、左右方向を板厚方向とした略三角形プレート状に形成されて、解放ホルダ62の後側に配置されている。このベルクランク64の下端部には、右側へ突出された略円筒状の連結筒部64Aが設けられており、連結筒部64A内に解放ホルダ62の切換軸62Bが回動可能に挿入されている。また、ベルクランク64の上端部には、右側へ突出された第1連結軸64Bが設けられており、第1連結軸64Bには、前後方向に延在された連結リンク66の前端部が回動可能に連結されている。この連結リンク66の後端部は、前述した従動レバー54の従動側連結軸54Bに回動可能に連結されている。これにより、カム52が回動して、カム52のカム面の形状に対応して従動レバー54が揺動されることで、ベルクランク64(すなわち、バネ押え解放機構50)が作動する構成になっている。さらに、ベルクランク64には、左側へ突出された第2連結軸64Cが設けられており、第2連結軸64Cは、後述する切換アーム68を回動可能に支持している。
【0035】
切換アーム68は、第2送りアーム40の左側において、上下方向に延在されると共に、左右方向を板厚方向とした略長尺板状に形成されている。この切換アーム68の下端部には、右側へ突出された略円筒状の連結筒部68Aが一体に形成されており、連結筒部68Aは、第2送りアーム40の連結孔40C内に挿入されて、第2送りアーム40の下端部を回動可能に支持している。また、連結筒部68A内には、前述した連結体18の左側の支持軸18Lが挿入されており、連結筒部68Aが支持軸18Lに回動可能に支持されている。一方、切換アーム68の上端部は、ベルクランク64の第2連結軸64Cに回動可能に連結されている。
【0036】
<押えユニットについて>
図4及び
図5に示されるように、押えユニット70は、縫製対象物を上方側から押えるための押え72と、前述した下送り歯28と共に縫製対象物を後方側へ送るための上送り機構80と、を含んで構成されている。
【0037】
(押えについて)
押え72は、「ホルダ」としての押えホルダ74と、押え片78と、を有している。
押えホルダ74は、全体として下側へ開放された略箱状に形成されている。この押えホルダ74の前端部は、ホルダ連結部74Aとされており、ホルダ連結部74Aは、正面視で下側へ開放された略逆U字形状に形成されている。また、ホルダ連結部74Aの略幅方向中央部には、ホルダ固定部74Bが一体に形成されており、ホルダ固定部74Bは、ホルダ連結部74Aの略幅方向中央部から上側へ延出されている。さらに、ホルダ固定部74Bの長手方向中央部には、前側へ開放された固定溝74Cが左右方向に貫通形成されており、固定溝74Cは側面視で略C字形状に形成されている。そして、押え棒14の下端部がホルダ固定部74Bの右側に配置されると共に、固定ネジSが固定溝74C内に左側から挿入されて、当該固定ネジSによって押えホルダ74(ホルダ固定部74B)が押え棒14に締結固定される構成になっている。なお、ホルダ連結部74Aの下端部には、後述する押え片78を取付けるための取付溝(図示省略)が形成されており、取付溝は、前後方向に延在されると共に、前方側へ開放されている。
【0038】
また、押えホルダ74は、ホルダ本体74Dを有しており、ホルダ本体74Dは、ホルダ連結部74A及びホルダ固定部74Bの後側に配置されて、両者に一体に形成されている。このホルダ本体74Dの上壁には、後述する上送り足84を配置するための配置孔74Eが上下方向に貫通形成されており、配置孔74Eは前後方向に延在されている。また、ホルダ本体74Dの上壁における右側端部には、後述するスライド機構90の作動アーム96を収容するための収容溝74Fが上下方向に貫通形成されており、収容溝74Fは、前後方向に延在されると共に、前側へ開放されている。
【0039】
さらに、
図6及び
図7に示されるように、ホルダ本体74Dの内部には、後述するスライド機構90を保持するための「ホルダ」としてのリンクホルダ76が設けられており、リンクホルダ76は、上方側へ開放された略U字形板状に形成されて、ホルダ本体74D(
図6及び
図7では、不図示)と一体的に設けられている。このリンクホルダ76の左右の側壁における後部には、左右方向を軸方向とした回動軸76Aが架け渡されており、回動軸76Aは、リンクホルダ76に回動可能に支持されている。また、回動軸76Aの右端部は、リンクホルダ76に対して右側へ突出されている。さらに、リンクホルダ76の右壁には、回動軸76Aよりも前側の位置において、後述するリヤリンク104を支持するためのリンク支持軸76Bが設けられており、リンク支持軸76Bは、左右方向を軸方向として当該右壁から左側へ突出されている。また、リンクホルダ76の右壁には、回動軸76Aとリンク支持軸76Bとの間において、ガイド孔76C(
図1参照)が貫通形成されており、ガイド孔76Cは、回動軸76Aの軸心を中心とする円弧状に湾曲された長孔として構成されている。
【0040】
押え片78は、略上下方向を板厚方向とし且つ前後方向を長手方向とした略矩形板状に形成されている。また、押え片78の前端部は、側面視で前側へ向かうに従い上側へ滑らかに傾斜されている。さらに、押え片78の左右の側壁には、幅方向内側へ突出された一対のボス(図示省略)が形成されており、当該ボスが押えホルダ74(
図4及び
図5参照)の取付溝内に挿入されて、押え片78が、押えホルダ74に取付けられている。また、押え片78には、後述する上送り歯86を配置するための配置孔78Aが貫通形成されており、配置孔78Aは、平面視で前側へ開放された略U字形状に形成されている。
【0041】
(上送り機構について)
図6及び
図7に示されるように、上送り機構80は、送り足支持部材82と、上送り足84と、上送り歯86と、「連動機構」としてのスライド機構90と、を含んで構成されている。
送り足支持部材82は、平面視で前側へ開放された略U字形板状に形成されて、リンクホルダ76(
図4及び
図5参照)の内側で且つ回動軸76Aの上側に配置されている。送り足支持部材82の左右の側壁における後部には、幅方向外側へ突出された左右一対の連結ピン82Aが一体に形成されており、連結ピン82Aは、前述した押えホルダ74のホルダ本体74Dに回動可能に支持されている。また、連結ピン82Aには、図示しないトーションバネが装着されており、当該トーションバネによって送り足支持部材82が右側から見た側面視で右回りに付勢されている。さらに、送り足支持部材82の左右の側壁には、後述する上送り足84を連結するための左右一対のクランク溝82Bが貫通形成されている。
【0042】
上送り足84は、送り足支持部材82の幅方向内側で且つ押えホルダ74の配置孔74E内に配置されると共に、右側から見た側面視で、略逆L字形矩形棒状に形成されている。具体的には、上送り足84は、前後方向に延在された上側足部84Aと、上側足部84Aの前端部から下側へ延出された中間足部84Bと、中間足部84Bの下端部から前斜め下方へ延出された下側足部84Cと、を含んで構成されている。
【0043】
上側足部84Aの後端部には、上側へ延出され且つ前方側へ折り返された連結片84Dが一体に形成されている。これにより、上側足部84Aの後端部には、前方側へ開放されたリヤ連結溝84Eが形成されており、リヤ連結溝84Eには、前述した第2送りアーム40の後側の連結シャフト48Rが嵌入されている(
図2参照)。また、上側足部84Aの前端部には、上側へ開放されたフロント連結溝84Fが形成されており、フロント連結溝84Fは左右方向に貫通されている。このフロント連結溝84Fは断面略C字形状に形成されており、前述した第2送りアーム40の前側の連結シャフト48Fがフロント連結溝84F内に嵌入されている(
図2参照)。これにより、上送り足84が、第2送りアーム40に着脱可能に取付けられている。
【0044】
中間足部84Bには、幅方向外側へ突出された左右一対の連結ピン84Pが一体に形成されており、連結ピン84Pは、送り足支持部材82のクランク溝82B内に摺動可能に挿入されている。さらに、下側足部84Cには、略円形状の支持孔84Gが形成されており、支持孔84Gは下側足部84Cの延在方向に沿って貫通されている。すなわち、支持孔84Gは、前側へ向かうに従い下側へ傾斜する方向に沿って貫通形成されている。そして、支持孔84G内には、後述するスライド機構90を構成するスライド軸92が摺動可能(スライド可能)に挿入されており、スライド軸92における先端側(下側足部84Cとは反対側)の端部には、略直方体状を成す連結部材94が固定されている。
【0045】
上送り歯86は、平面視で前側へ開放された略U字形状に形成されており、上送り歯86の後端部は、上方側へ隆起された連結部86Aとされている。連結部86Aの幅方向中央部には、上側へ開放された溝部86Bが形成されており、溝部86B内には、連結部材94の先端部が配置されている。そして、連結部86A及び連結部材94には、左右方向を軸方向とした略丸棒状の連結棒88が回動可能に挿入されており、上送り歯86が、連結部材94に対して相対回動可能に連結されている。これにより、上送り歯86がスライド軸92によって上送り足84にスライド可能(進退可能)に連結(支持)されており、スライド軸92が上送り足84に対して前後方向にスライドすることで、上送り歯86が上送り足84に対して前後方向に相対変位する構成になっている。そして、以下の説明では、上送り歯86が上送り足84に対して最も接近した位置(
図8(D)に示される位置)を「待機位置」と称し、上送り歯86が待機位置から上送り足84に対して前側へ変位して上送り足84に対して最も離間した位置(
図1及び
図8(A)に示される位置)を「進出位置」と称する。
【0046】
また、上送り歯86は、連結部86Aの幅方向両端部から前方側へ延出された左右一対のアーム部86Cを有しており、アーム部86Cは、押え片78の配置孔78A内に配置されている。また、アーム部86Cに下面には、断面略三角形状を成す複数の歯が形成されており、当該歯は前後方向に並んで配置されている。
【0047】
(スライド機構について)
次に、本発明の要部であるスライド機構90について説明する。
図1、
図6、及び
図7にも示されるように、スライド機構90は、前述したスライド軸92及び連結部材94と、作動アーム96と、リンク機構100と、を含んで構成されている。
作動アーム96は、リンクホルダ76の右側に配置され、左右方向を板厚方向とした略長尺板状に形成されると共に、側面視で略前側へ開放されたY字形状に形成されている。具体的には、作動アーム96は、作動アーム96の基端側の部分を構成するアーム本体96Aと、アーム本体96Aの先端部において二股状に分岐されて作動アーム96の先端側へ延出された一対の係合アーム部96Bと、を含んで構成されている。そして、アーム本体96Aの基端部が、前述した回動軸76Aの右端部に一体回動可能に固定されている。
【0048】
また、作動アーム96における一対の係合アーム部96Bの間の部分が係合溝96Cとされており、係合溝96C内には、針機構20のスライド駆動軸24が挿入されている(
図4参照)。これにより、針機構20(のスライド駆動軸24)が上下に往復移動することで、スライド駆動軸24が係合アーム部96Bの一方に係合して、作動アーム96が回動軸76Aの軸回りを上下に往復(反転)回動する構成になっている。そして、以下の説明では、針機構20が上死点に配置されたときの作動アーム96の位置を「上反転位置」(
図8(B)及び
図1において実線で示された位置を参照)とし、針機構20が下死点に配置されたときの作動アーム96の位置を「下反転位置」(
図8(E)に示される位置を参照)としている。
【0049】
さらに、アーム本体96Aには、回動軸76Aに対して作動アーム96の先端側の位置において、「ピン」としてのガイドピン96Dが設けられている。このガイドピン96Dは、左右方向を軸方向としてアーム本体96Aから左側へ突出されると共に、前述したリンクホルダ76のガイド孔76C内に配置されている。
【0050】
リンク機構100は、リンクホルダ76の右壁と上送り足84との間に配置されている。また、リンク機構100は、「第1リンク」としてのフロントリンク102と、「第2リンク」としてのリヤリンク104と、を含んで構成されている。
フロントリンク102は、左右方向を板厚方向とした略矩形板状に形成されている。そして、フロントリンク102の一端部が、連結部材94の右側部に、左右方向を軸方向とした第1リンクピンP1によって回動可能に連結されている。
【0051】
一方、リヤリンク104は、左右方向を板厚方向とした略長尺板状に形成されて、略前後方向に延在されている。また、リヤリンク104の長手方向中間部における上端部には、リヤリンク104が左右方向(板厚方向)に重なるように下方側へ折り返えされた屈曲部104Aが形成されており、リヤリンク104の一端部(前端部)が後端部(他端部)に対してリヤリンク104の略板厚分だけ左側に配置されている。そして、リヤリンク104において当該重なる部分が重合部104Bとされており、重合部104Bに、図示しない支持孔が貫通形成されて、当該支持孔がリンクホルダ76のリンク支持軸76Bに回動可能に支持されている。
【0052】
リヤリンク104の一端部は、フロントリンク102の右側に配置されて、左右方向を軸方向とした第2リンクピンP2によってフロントリンク102の他端部に回動可能に連結されている。これにより、リヤリンク104が、リンク支持軸76Bの軸回りに回動することで、リンク機構100が作動するようになっている。具体的には、リヤリンク104の他端部が上側へ変位するようにリヤリンク104がリンク支持軸76Bの軸回りに回動されることで、リンク機構100が略直線状に延びるように展開されて、上送り歯86(スライド軸92)が進出位置に配置される設定になっている。一方、リヤリンク104の他端部が下側へ変位するようにリヤリンク104がリンク支持軸76Bの軸回りに回動されることで、リンク機構100が側面視で上側へ凸となるように屈曲(格納)され、上送り歯86(スライド軸92)が待機位置に配置される設定になっている。
【0053】
また、リヤリンク104の他端部は、作動アーム96のガイドピン96Dの上側に配置されている。このリヤリンク104の他端部における下側の外周部には、「切替部」としてのカム部104Cが形成されており、カム部104Cは、動作カム部104C1と不動作カム部104C2とを含んで構成されている。具体的には、動作カム部104C1が、カム部104Cにおける前部を構成し、不動作カム部104C2が、カム部104Cにおける後部を構成しており、動作カム部104C1と不動作カム部104C2との接続部分が、側面視で下側へ突出された略三角形状に形成されている(
図1の部分拡大図を参照)。そして、カム部104Cが、スライド駆動軸24に当接可能に構成されている。
【0054】
さらに、
図7に示されるように、リンクホルダ76の右壁とリヤリンク104の重合部104Bとの間には、トーションバネ106(広義には、「付勢部材」として把握される要素である)が配置されており、トーションバネ106は、リンク支持軸76Bに支持されている。そして、トーションバネ106の一端部が、リヤリンク104に係止されると共に、トーションバネ106の他端部が、リンクホルダ76の右壁に係止されており、トーションバネ106の付勢力によって、リヤリンク104が、左側から見た側面視で、リンク支持軸76Bの軸回りを左回り(
図1の矢印D1側)に付勢されている。これにより、リヤリンク104のカム部104Cがガイドピン96Dの外周面に当接されて、作動アーム96の回動に連動してリンク機構100が作動するようになっている。
【0055】
すなわち、具体的には後述するが、
図1に示されるように、作動アーム96が上方側へ回動するときには、ガイドピン96Dがリヤリンク104の動作カム部104C1を押し上げながら動作カム部104C1上を摺動して、リヤリンク104の他端側が上側へ変位するようになっている。そして、作動アーム96の上反転位置の手前において(
図8(A)及び
図1において2点鎖線で示される位置において)、ガイドピン96Dが動作カム部104C1と不動作カム部104C2との境界部に到達して、リンク機構100が展開されると共に、上送り歯86(スライド軸92)が進出位置に配置される設定になっている(以下、このときの針機構20の位置を「上死点手前位置」と称し、作動アーム96の位置を「上反転手前位置」と称する)。
【0056】
また、作動アーム96が上反転手前位置から上反転位置側(上側)へ回動されるときには、作動アーム96のガイドピン96Dがリヤリンク104の動作カム部104C1と不動作カム部104C2との境界部を乗り越えて不動作カム部104C2上を摺動するようになっている。このときには、リヤリンク104の姿勢が維持されるように、カム部104Cの形状が設定されている。具体的には、
図1に示されるリヤリンク104の位置において、不動作カム部104C2が、側面視で、回動軸76Aを中心とし且つガイドピン96Dの動作軌跡と略一致する円弧状に形成されている。このため、作動アーム96が上反転手前位置と上反転位置との間を回動するときには、リンク機構100の作動が停止する設定になっている。
【0057】
一方、針機構20が上死点手前位置から下降して、作動アーム96が上反転手前位置から下側へ回動するときには、作動アーム96のガイドピン96Dがリヤリンク104の動作カム部104C1上を摺動しながら下側へ変位する。これにより、リヤリンク104の他端側が下側へ変位するように、リンク機構100が作動するようになっている。そして、縫針22の先端(下端)が針板26の上面に到達する手前の位置(
図8(D)に示される位置であり、以下、このときの縫針22(針機構20)の位置を「針板手前位置」と称し、作動アーム96のこの位置を「下反転手前位置」と称する)において、リンク機構100が格納されて、上送り歯86(スライド軸92)が待機位置に配置される設定になっている。
【0058】
このように、本実施の形態では、リヤリンク104(リンク機構100)の動作が、リヤリンク104のカム部104Cによって、切替わるように構成されている。具体的には、作動アーム96のガイドピン96Dがリヤリンク104の動作カム部104C1に係合するときには、リヤリンク104(リンク機構100)が作動アーム96の回動位置に応じて回動(作動)するようになっている(以下、このリヤリンク104(リンク機構100)における動作の区間を、「動作区間」という)。一方、作動アーム96のガイドピン96Dがリヤリンク104の不動作カム部104C2に係合するときには、リヤリンク104(リンク機構100)が作動アーム96の回動位置に応じず回動(作動)しない構成になっている(以下、このリヤリンク104(リンク機構100)における動作の区間を、「不動作区間」という)。
【0059】
また、本実施の形態のミシン10では、上述のように、上送り歯86に対する送り量が、送り駆動機構部32による送り量に加えて、スライド機構90による送り量分だけ大きくなるように設定されている。換言すると、上送り歯86に対する送り量が、下送り歯28に対する送り量に比べて、大きくなるように設定されている。
【0060】
さらに、本実施の形態のミシン10では、針機構20が下方側へ変位して針板手前位置に到達した時点において、送り駆動機構部32による上送り歯86及び下送り歯28に対する後側への送りが完了するように設定されている。また、本実施の形態のミシン10では、針機構20が針板手前位置から下死点を経由して上死点手前位置に到達した時点において、送り駆動機構部32によって上送り歯86及び下送り歯28が送り前の状態に復帰するように設定されている。
【0061】
<作用及び効果>
次に、ミシン10における動作を説明しつつ、本実施の形態の作用及び効果について説明する。なお、以下の動作説明では、ミシン10を左側から見た側面視で説明する。
【0062】
(針機構20が上死点手前位置から上死点へ上昇し且つ上死点から針板手前位置まで下降するときの動作について)
図8(A)〜
図8(D)に示されるように、この動作のときには、上軸46(
図8では不図示)が自身の軸回りに回動することで、針機構20が、クランク機構によって、上死点手前位置から上死点へ上昇し且つ上死点から針板手前位置まで下降する。また、このときには、上軸46の回動に連動して下軸が回動されて、下送り機構の下送り歯28が上方且つ後方側へ変位して、縫製対象物を後方側へ送る。そして、針機構20が、
図8(D)に示される針板手前位置に到達した時点で、下送り歯28の後方側への送りが完了する。
【0063】
また、このときには、下送り機構(下送り歯28)の作動に伴って、送り駆動機構部32の送り軸34が、左回り(
図2の矢印A1側)へ回動される。これにより、第1送りアーム36が、送り軸34を中心に左回りに回動すると共に、第2送りアーム40が支持軸18Lを中心に右回り(
図2の矢印B1側)に回動する。そして、上送り足84は、第2送りアーム40の連結シャフト40F,40Rに連結されているため、上送り足84が、第2送りアーム40と共に支持軸18Lを中心に右回りに回動する。このため、上送り足84の下端部(下側足部84C)にスライド軸92を介して連結された上送り歯86が後方側へ変位して、縫製対象物に対する上送り歯86の送りが開始される。そして、針機構20が
図8(A)に示される上死点手前位置から
図8(D)に示される針板手前位置に到達するまで、上送り歯86が下送り歯28と共に縫製対象物を後方側へ送る。
【0064】
一方、
図8(A)に示されるように、スライド機構90では、作動アーム96が上反転手前位置に配置されている。すなわち、リンク機構100が前後方向に略直線状に展開されており、上送り歯86が進出位置に配置されている。よって、縫製対象物に対する上送り歯86の送り開始時には、上送り歯86が上送り足84(下側足部84C)に対して前方側へ突出した位置に配置されている。
【0065】
そして、
図8(A)〜
図8(C)に示されるように、針機構20の作動に伴いスライド機構90の作動アーム96が上反転手前位置から上反転位置(
図8(B)参照)を経由し上反転手前位置(
図8(C)参照)に再び到達するまでの間は、作動アーム96のガイドピン96Dが、リヤリンク104の不動作カム部104C2に係合すると共に、不動作カム部104C2上を摺動する。このため、リヤリンク104(リンク機構100)の動作が、不動作区間とされており、この不動作区間では、リヤリンク104の不動作カム部104C2の形状により、リヤリンク104の姿勢が維持されて、リンク機構100の作動が停止される。具体的には、
図8(B)から(C)の区間の位置関係における円弧状を成す不動作カム部104C2の中心は、作動アーム96の回転中心(つまりガイドピン96Dの回転中心)である回動軸76Aと同一となる。したがって、不動作区間におけるガイドピン96Dの動作軌跡は不動作カム部104C2と同心を持つ相似形のため、実質的なカムリフト量(カム部104Cによってリヤリンク104を持上げる量)がゼロとなり、リヤリンク104はガイドピン96Dの動作に連動せず、リヤリンク104の姿勢が停止した状態で維持される。したがって、上送り歯86の後方側への送り開始後に作動アーム96が上反転手前位置から上反転位置側(上側)へ回動されても、スライド機構90によって上送り歯86が前方側へ変位することが抑制される。つまり、駆動機構部32による上送り歯86の後方側への送りを阻害しないように、スライド機構90の作動が停止される。
【0066】
そして、
図8(C)に示されるように、針機構20の作動に伴い作動アーム96が上反転手前位置から下方側(
図8(C)の矢印C1側)へ回動すると、作動アーム96のガイドピン96Dが、下方側へ変位して、動作カム部104C1に接触する。これにより、リヤリンク104(リンク機構100)の動作が、不動作区間から動作区間に切替わり、リンク機構100及びスライド機構90の作動が開始される。具体的には、作動アーム96の下方側への変位に伴い、ガイドピン96Dが不動作カム部104C2上を摺動しながら、リヤリンク104がリンク支持軸76Bを中心に左回り(
図8(C)の矢印D1側)に回動する。これにより、リヤリンク104の一端部が上方側へ変位するため、フロントリンク102の他端部が、第2リンクピンP2によって上方側へ持ち上げられながら、第2リンクピンP2を中心に右回り(
図8(C)の矢印E1側)に回動される。その結果、スライド軸92が上送り足84側(後方側)へスライドして、上送り歯86が進出位置から待機位置側(
図8(C)の矢印F1側)へスライドする。そして、
図8(D)に示されるように、針機構20が針板手前位置に到達すると、上送り歯86が待機位置に配置される。以上により、送り駆動機構部32による上送り歯86の後方側への送り中において、上送り歯86が、スライド機構90によって上送り足84に対して後側へ相対変位しながら、縫製対象物を後方側へ送る。
【0067】
なお、上送り歯86及び下送り歯28によって縫製対象物を後方側へ送るときには、押えバネ16による付勢力が、バネ押え解放機構50によって解放されて、押え片78に作用しないようになっている。具体的には、上軸46の回動に伴い、カム52が回動して、従動レバー54が送り軸34の軸回りを右回りに回動される。このとき、従動レバー54の従動側連結軸54Bに連結リンク66によって連結されたベルクランク64が、切換軸62Bの軸回りを左回りに回動しようとする。すなわち、ベルクランク64の第2連結軸64Cに連結された切換アーム68及び支持軸18Lが下側へ変位しようとする。一方、上送り歯86は、下送り歯28によって下側への変位が制限されているため、上送り歯86に、上送り足84及び第2送りアーム40を介して連結された支持軸18Lの下側への変位が制限される。このため、ベルクランク64が第2連結軸64Cを中心として左回りに回動して、切換軸62Bが上方側へ変位するようになる。これにより、解放ホルダ62が上方側へ持ち上げられて、押えバネ16による付勢力が、バネ押え解放機構50によって解放されて、押え片78に作用しない。そして、針機構20が針板手前位置まで下降する間に、カム52のカム面の形状によって、従動レバー54の回動が反転されて、解放ホルダ62が下側へ変位する。これにより、針機構20の針板手前位置において、押えバネ16による付勢力が、押え片78に再び作用する。
【0068】
(針機構20が針板手前位置から下死点へ下降し且つ下死点から上死点手前位置に上昇するときの動作について)
図8(D)〜
図8(F)に示されるように、この動作のときには、上軸46が自身の軸回りに回動することで、針機構20が、クランク機構によって、針板手前位置から下死点へ下降し且つ下死点から針板手前位置まで上昇する。また、このときには、上軸46の回動に連動して下軸が回動されて、下送り機構の下送り歯28が下方且つ前方側へ変位して、縫製対象物を送る前の状態に復帰される。
【0069】
さらに、下送り機構(下送り歯28)の作動に伴って、送り駆動機構部32の送り軸34は、右回り(
図2の矢印A2側)に回動される。これにより、第1送りアーム36が、送り軸34を中心に右回りに回動すると共に、第2送りアーム40が支持軸18Lを中心に左回り(
図2の矢印B2側)に回動する。そして、上述のように、上送り足84は、第2送りアーム40の連結シャフト40F,40Rに連結されているため、上送り足84が、第2送りアーム40と共に支持軸18Lを中心に左回りに回動する。これにより、上送り足84の下端部(下側足部84C)にスライド軸92を介して連結された上送り歯86が前方側へ変位する。
【0070】
なお、バネ押え解放機構50では、上軸46の回動によって、カム52が回動することで、従動レバー54が送り軸34を中心に左回りに回動される。これにより、従動レバー54に連結リンク66を介して連結されたベルクランク64の第1連結軸64Bに前方側への荷重が作用して、ベルクランク64が切換軸62Bを中心に右回りに回動する。これにより、ベルクランク64に連結された切換アーム68が上方側へ変位すると共に、支持軸18Lが上方側へ変位する。このため、
図8(E)及び(F)に示されるように、第2送りアーム40及び上送り足84を介して支持軸18Lに連結された上送り歯86も上方側へ変位する。したがって、上送り歯86が下送り歯28に対して上側へ離間しつつ、前方側へ変位する。
【0071】
一方、
図8(D)に示されるように、スライド機構90では、針機構20の針板手前位置において、上送り歯86が待機位置に配置されている。そして、針機構20が針板手前位置から下死点位置へ下降すると、これに伴い、スライド機構90の作動アーム96が下反転手前位置から下反転位置側(
図8(D)の矢印C1側)へ回動される。このとき、スライド機構90では、上送り足84及び作動アーム96の位置に応じて、上送り歯86の待機位置の状態が維持される。すなわち、上送り歯86の待機位置の状態が維持されつつ、上送り歯86が下送り歯28に対して上側へ離間しつつ、前方側へ変位する。
【0072】
そして、
図8(E)に示されるように、針機構20が下死点から上昇すると、リンク機構100の作動が再び開始される。すなわち、針機構20が下死点から上昇すると、作動アーム96が下反転位置から上反転手前位置側(
図8(E)の矢印C2側)へ回動される。これにより、作動アーム96のガイドピン96Dが、上方側へ変位すると共に、リヤリンク104の動作カム部104C1を上方側へ押し上げる。このため、リヤリンク104がリンク支持軸76Bを中心に右回り(
図8(E)の矢印D2側)に回動する。その結果、リヤリンク104の一端部が下方側へ変位するため、フロントリンク102の他端部が、第2リンクピンP2によって下側へ押し下げられながら、フロントリンク102が第2リンクピンP2を中心に左回り(
図8(E)の矢印E2側)に回動する。したがって、スライド軸92が上送り足84から前方側へスライドして、上送り歯86の待機位置から進出位置側(
図8(E)の矢印F2側)へのスライドが開始する。
【0073】
さらに、
図8(F)に示されるように、針機構20の下死点と上死点手前位置までの間では、針機構20の上昇が継続されているため、針機構20の上昇に伴って作動アーム96の回動が継続される。このため、作動アーム96が上反転手前位置に到達するまで、スライド機構90では、上送り歯86が下送り歯28に対して上側へ離間した状態で、上送り歯86の進出位置側へのスライドが継続される。そして、作動アーム96が上反転手前位置に到達すると、上送り歯86が進出位置に配置されて、上送り歯86が、送り開始前の状態に復帰する(
図8(A)に示される状態に復帰する)。
【0074】
以上説明したように、本実施の形態のミシン10によれば、上送り機構80が、スライド機構90を有しており、スライド機構90が、針機構20の上下往復移動に連動して作動して上送り歯86を前後方向に往復移動させる。このため、上送り歯86に対する送り量が、送り駆動機構部32による送り量に加えて、スライド機構90による送り量分だけ大きくなるように設定されている。つまり、上送り歯86に対する送り量が、下送り歯28に対する送り量に比べて、大きくなる。
また、本実施の形態では、上述のように、上送り歯86の送り量が、送り駆動機構部32による送り量に、スライド機構90による送り量を加えた量になる。このため、背景技術に記載したミシンを応用した比較例(すなわち、送り駆動機構部32のみによって上送り歯86に対する送り量を大きくするミシン)と比べて、送り駆動機構部32による上送り歯86に対する送り量を小さくすることができる。換言すると、送り駆動機構部32による上送り歯86に対する送り量を、過度に大きくする必要がなくなる。これにより、上記比較例と比べて、送り駆動機構部32の上送り歯86に対する送り性能の低下を抑制することができる。
したがって、送り駆動機構部32の上送り歯86に対する送り性能の低下を抑制しつつ、上送り歯86の送り量を下送り歯28の送り量と比べて大きくすることができる。その結果、縫製対象物の素材に起因する縫いずれの発生を抑制できると共に、ひいては、いせ込み縫い等の特殊な縫製にも対応することができる。
【0075】
また、上送り歯86が、スライド機構90によって上送り足84に連結されると共に、待機位置と、待機位置に対して前側に位置する進出位置と、の間で進退可能(スライド可能)に構成されている。また、上送り歯86は、スライド機構90によって針機構20の上下往復移動に連動して、上送り歯86が待機位置と進出位置との間でスライドされる。さらに、上送り歯86による送り開始時には、上送り歯86が進出位置に配置されており、上送り歯86による送り時に、上送り歯86が進出位置から待機位置へスライドする。これにより、上送り歯86を上送り足84に対してスライドさせるための他の動力を設けることなく、上送り歯86を待機位置と進出位置との間でスライドさせることができる。したがって、針機構20の上下往復移動を活用して、上送り歯86の送り量を大きくすることができる。
【0076】
また、本実施の形態のミシン10では、スライド機構90が、作動アーム96及びリンク機構100を含んで構成されている。そして、作動アーム96が針機構20の上下移動に連動して回動すると、リンク機構100が作動して、上送り歯86が待機位置と進出位置との間でスライドされる。これにより、スライド機構90を簡易な構成にしつつ、針機構20の上下運動をスライド機構90によって前後運動に変換して、上送り歯86の送り量を大きくすることができる。
【0077】
さらに、リンク機構100は、フロントリンク102及びリヤリンク104を含んで構成されており、リヤリンク104(リンク機構100)が作動アーム96の回動に連動して作動する。具体的には、上述のように、作動アーム96の下反転位置から上反転手前位置側(上側)への回動時にフロントリンク102とリヤリンク104とが側面視で直線状に配置(展開)されて、上送り歯86が進出位置に配置される。そして、作動アーム96の上反転手前位置から下反転手前位置側への回動時には、リヤリンク104の他端部が下側へ変位して、リヤリンク104の一端部が上側へ変位するように、フロントリンク102が回動される。これにより、フロントリンク102の他端部が上方側へ変位して、リンク機構100(フロントリンク102及びリヤリンク104)が上側へ凸となるように格納された状態になる。したがって、作動アーム96の下側への回動時に、リンク機構100の全長が短くなるため、上送り歯86を進出位置から退避位置へスライドさせることができる。
【0078】
また、上記構成のミシン10によれば、作動アーム96に連動するリヤリンク104の動作が、カム部104Cによって、動作区間または不動作区間に切替わる。具体的には、針機構20の縫針22が上昇から下降に転ずる付近では、カム部104Cの不動作カム部104C2の作用によって、リヤリンク104の動作が不動作区間になり、リヤリンク104の姿勢が維持される。これにより、本来タイミングの異なる縫針22(針機構20)の上下運動と上送り機構80とを連動させることにより生じる機構の矛盾、つまり、一方向に布を送っている最中に上送り歯86の動きの向きが逆転してしまう、ということを解消することができる。なおかつ、リンク機構100の連結自体を物理的に離隔させることなく、カム部104Cのカム形状によって、リヤリンク104の動作が動作区間又は不動作区間に切替わるため、動作区間と不動作区間との切替時の騒音・振動の発生を最小限に抑えることができ、縫針22の上下運動の一部を効率よくスライド機構90に変換することができる。
【0079】
さらに、上記構成のミシン10によれば、上送り足84は、リヤ連結溝84E及びフロント連結溝84Fを有しており、リヤ連結溝84E及びフロント連結溝84Fには、第2送りアーム40の連結シャフト40F,40Rが嵌入されている。このため、上送り足84(上送り機構80)を、上送り駆動機構30に着脱可能に構成することができる。これにより、例えば、スライド機構90におけるスライド量の異なる上送り機構を予め用意しておくことで、各種生地に対応して、上送り歯86の送り量を適宜変更することができる。したがって、使用者に対する利便性を向上することができる。
【0080】
また、リヤリンク104は、重合部104Bを有しており、重合部104Bでは、リヤリンク104が左右方向に重なるように配置されている。そして、リヤリンク104が、重合部104Bの部位において、リンク支持軸76Bに回動可能に支持されている。これにより、リヤリンク104における支持強度を高くすることができる。
【0081】
また、リヤリンク104には、カム部104C(動作カム部104C1及び不動作カム部104C2)が形成されており、動作カム部104C1が作動アーム96のガイドピン96Dに当接されて、リヤリンク104が作動アーム96の回動に連動するように構成されている。このため、カム部104Cの形状を適宜変更することで、リンク機構100(スライド機構90)の作動タイミングを容易に変更することができる。
【0082】
なお、本実施の形態では、作動アーム96の上反転手前位置と上反転位置との間で、リンク機構100の作動が停止する設定になっているが、作動アーム96における上反転手前位置の各位置は任意に変更可能である。すなわち、上述のように、動作カム部104C1の形状を任意に変更して、作動アーム96における上反転手前位置を任意に変更してもよい。
【0083】
また、本実施の形態では、作動アーム96が上反転手前位置から下反転手前位置に到達したときに、リンク機構100の作動による上送り歯86の進出位置から待機位置へのスライドが完了するになっているが、上送り歯86が待機位置にスライドされるタイミングは任意に設定可能である。例えば、作動アーム96が上反転手前位置から下反転位置に到達したときに、リンク機構100の作動による上送り歯86の進出位置から待機位置へのスライドが完了してもよい。
【0084】
また、本実施の形態では、トーションバネ106の付勢力によって、リンク機構100のリヤリンク104の他端側を、ガイドピン96D側へ付勢するように構成しているが、リヤリンク104を付勢する部材は、これに限らない。例えば、引張コイルスプリングによって、リヤリンク104の他端側をガイドピン96D側へ付勢するように構成してもよい。