(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属部材と、当該金属部材と接合しているとともに、当該金属部材の表面に存在する第1官能基に対し可逆的に解離及び結合可能な動的共有結合を有する樹脂部材と、を備え、前記金属部材と前記樹脂部材とは、前記樹脂部材の表面に存在する第2官能基と、前記第1官能基との間で前記動的共有結合を形成することで接合している樹脂金属複合体を解体する方法であって、
前記金属部材と前記樹脂部材との接合部分を加熱し、前記金属部材と前記樹脂部材との接合を解くことで、前記第1官能基と前記第2官能基との間に形成された前記動的共有結合を切断し、前記金属部材と前記樹脂部材とを分離して前記樹脂金属複合体を解体することを特徴とする、樹脂金属複合体の解体方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。なお、各図において同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、第一実施形態の樹脂金属複合体10の斜視図である。樹脂金属複合体10は、可逆的に解離及び結合する共有結合(以下、動的共有結合という)を有する樹脂部材1と、金属部材2とを備えて構成される。樹脂部材1と金属部材2とは、樹脂部材1の表面に存在する官能基と金属部材2の表面に存在する官能基との間で動的共有結合が形成されることで、接合している。
【0013】
樹脂部材1としては、硬化時にエステル結合を形成するモノマー、又はモノマー骨格としてのエステル結合を含む構造であることが好ましい。硬化時にエステル結合を形成するモノマーとしては、例えば多官能のエポキシ基を有するエポキシ化合物のほか、カルボン酸無水物又は多価カルボン酸から成ることが好ましい。多官能のエポキシ基を有するエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型樹脂、ノボラック型樹脂、脂環式樹脂、グリシジルアミン樹脂が好ましい。エポキシ化合物のさらなる具体例としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテルフェノール、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、レゾシノールジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル、テトラブロムビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールヘキサフロロアセトンジグリシジルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
カルボン酸無水物又は多価カルボン酸の例としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3−ドデセニル無水コハク酸、オクテニルコハク酸無水物、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ドデシル無水コハク酸、無水クロレンディック酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメート)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、多価脂肪酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
また、樹脂部材1は、ヒドロキシル基、エステル基及び2つ以上のビニル基を有するビニルモノマー、及び、そのビニルモノマーを重合させる重合開始触媒を含んでもよい。
【0016】
ビニルモノマーの具体例としては、2−ヒドロキシメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ジビニルエチレングリコール、モノメチルフマレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、エチル2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、グリセロールジメタクリレート、アリルアクリレート、メチルクロトネート、メチルメタクリレート、メチル3,3−ジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリラート、エチレングリコールジメタクリラート、トリエチレングリコールジメタクリラート、ジメチルフマレート、フマル酸、1,4−ブタンジオールジメタクリラート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリラート、1,3−ブタンジオールジメタクリラート、テトラエチレングリコールジメタクリラート、テトラエチレングリコールジアクリラート、ビニルクロトネート、クロトン酸無水物、マレイン酸ジアリル、ネオペンチルグリコールジアクリラート、ネオペンチルグリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリアクリラート、トリメチロールプロパントリメタクリラート、ビスフェノールAグリセロラートジメタクリラート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
重合開始触媒としては、過酸化物重合開始剤、アゾ化合物重合開始剤等が挙げられ、具体例として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等のアゾ化合物、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール類、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート等のパーオキシエステル類、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート等のペルオキシカーボネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
また、樹脂部材1には、動的共有結合の組み換えを生じさせる(結合する官能基を変化させる)エステル交換反応触媒が通常は含まれる。エステル交換反応触媒としては、混合物中で均一に分散し、エステル交換反応を促進するものであることが好ましい。例えば、酢酸亜鉛(II)、亜鉛(II)アセチルアセトナート、ナフテン酸亜鉛(II)、アセチルアセトン鉄(III)、アセチルアセトンコバルト(II)、アセチルアセトンコバルト(III)、アルミニウムイソプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、メトキシド(トリフェニルホスフィン)銅(I)錯体、エトキシド(トリフェニルホスフィン)銅(I)錯体、プロポキシド(トリフェニルホスフィン)銅(I)錯体、イソプロポキシド(トリフェニルホスフィン)銅(I)錯体、メトキシドビス(トリフェニルホスフィン)銅(II)錯体、エトキシドビス(トリフェニルホスフィン)銅(II)錯体、プロポキシドビス(トリフェニルホスフィン)銅(II)錯体、イソプロポキシドビス(トリフェニルホスフィン)銅(II)錯体、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)、ナフテン酸コバルト(II)、ステアリン酸コバルト(II)、二酢酸すず(II)、ジ(2−エチルヘキサン酸)すず(II)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、トリアザビシクロデセン、トリフェニルホスフィン、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
また、
図1に示す樹脂部材1としては、動的共有結合を有する架橋成分を導入した熱可塑型樹脂であってもよい。使用可能な熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルクロライド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、この熱可塑性樹脂に含まれる架橋成分としては、アルコキシアミン骨格、ジアリールビベンゾフラン骨格、ジオキサボラン骨格を有するものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
さらに、樹脂部材1は繊維を含んでいてもよい。即ち、樹脂部材1は、動的共有結合を有する繊維強化樹脂(FRP)であってもよい。樹脂部材1が繊維を含むことで、樹脂部材1の強度及び剛性を向上させることができる。
【0021】
樹脂部材1に含有可能な繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が挙げられ、一方向の連続繊維、連続繊維の織物、短繊維、長繊維のいずれでもよい。繊維を含む樹脂部材1を作製する方法としては、樹脂を含浸させた繊維を重ねて加圧及び加熱する方法、繊維を敷いた金型内に樹脂を注入して加熱する方法、樹脂中に繊維を混練して射出成型する方法等が挙げられる。
【0022】
さらに、樹脂部材1としては、繊維を含んだ樹脂(繊維強化樹脂)を複数枚重ねてもよい。樹脂部材1は、前記のように動的共有結合を有する樹脂である。そのため、従来の熱硬化性樹脂を用いた繊維強化樹脂とは異なり、硬化後であっても、加熱することで、複数重ねた繊維強化樹脂間で樹脂同士が化学的に結合する。これにより、繊維強化樹脂間の強度を向上させることができる。
【0023】
前記の
図1に示す樹脂金属複合体10に備えられる金属部材2は、例えば自動車、航空機、鉄道車両等に使用される金属であり、例えばアルミニウム、鉄等の金属の単体又はその金属を含む化合物のほか、例えばステンレス(SUS304等)等の合金でもよい。
【0024】
金属部材2の形状は、前記の
図1では平板状であるが、金属部材2は任意の形状に加工又は成形したものを使用することができる。また、予め加工又は成形した金属部材2を使用して樹脂金属複合体10を製造するようにしてもよいし、例えば平板状の金属部材2を平板状の樹脂部材1と張り合わせて得られた樹脂部材1と金属部材2との一体物を任意に加工又は成形したものとすることができる。
【0025】
また、金属部材2の表面には、補助的に、自然酸化又は酸化処理が施されてもよい。自然酸化又は酸化処理が施されることにより、金属部材2の表面に水酸基を確実に導入することができる。そして、これにより、導入された水酸基と樹脂部材1とが化学的に結合する際、即ちエステル交換反応が生じる際、金属部材2の表面の水酸基とエステル基とが反応することで、樹脂部材1と金属部材2とがより強固に接着する。なお、金属部材2の表面は、通常は酸化されることから、水酸基が存在する。そのため、意図的に酸化処理を行わなくても、動的共有結合を利用して、樹脂部材1と金属部材2とを接合することができる。
【0026】
なお、樹脂部材1と金属部材2とは、接合を補強するために、ボルト、ビス、リベット等を使用してこれらを圧着させることができる。
【0027】
図2は、第一実施形態の樹脂金属複合体10における、樹脂部材1の官能基と金属部材2の官能基との作用を示す図であり、樹脂部材1と金属部材2とが接合している状態を示す図である。樹脂部材1は、前記のように、動的共有結合を有する。具体的には、この
図2に示す例では、樹脂部材1を構成するカルボキシル基と、金属部材2を構成するヒドロキシル基との間でエステル結合が形成されることで、樹脂部材1と金属部材2とが接合している。そして、このエステル結合が前記の動的共有結合であり、
図2に示す二重波線部で可逆的に切断(及び結合)されるものである。
【0028】
図3は、第一実施形態の樹脂金属複合体10を製造する方法である。樹脂金属複合体10は、例えば平板状の樹脂部材1と、平板状の金属部材2とを重ね合わせた後、加熱することで、製造される。ここで、樹脂部材1及び金属部材2のそれぞれの表面構成について、
図4を参照しながら説明する。
【0029】
図4は、第一実施形態の樹脂金属複合体10を製造する際に使用される樹脂部材1及び金属部材2の表面構成を説明する図である。樹脂部材1の表面には、動的共有結合として、エステル基を構成するC−O結合(
図4における二重波線部)の部分で可逆的に切断(及び結合)可能なエステル結合が複数存在する。なお、この結合は、例えば加熱されることで切断される。一方で、金属部材2の表面には、水酸基が存在する。
【0030】
そして、これらの表面を有する樹脂部材1と金属部材2とを重ね合わせて(接触させて)加熱すると、前記のように、樹脂部材1の表面に存在するエステル基の共有結合が切断される。この切断は、前記の
図4における二重波線部の位置で行われる。共有結合が切断されて生成したカルボニル基は不対電子を有しているため、反応性が高い。そのため、樹脂部材1の表面に生成したカルボニル基は、金属部材2の表面に存在する水酸基と結合する。これにより、前記の
図2を参照して説明したように、樹脂部材1と金属部材2とが接合する。
【0031】
図5は、第一実施形態の樹脂金属複合体10を解体する方法である。樹脂金属複合体10が使用済となり廃棄されることになった際に、樹脂部材1と金属部材2とを分けて廃棄するために、
図5に示す方法が適用可能である。
【0032】
樹脂金属複合体10のうち、樹脂部材1と金属部材2との接合部分(
図5に示す例では樹脂金属複合体10の全体)を加熱すると、樹脂部材1と金属部材2との間で形成されているエステル結合のうち、
図2の二重波線部で結合が切断される。これにより、樹脂部材1と金属部材2との間での結合力が失われ、樹脂部材1と金属部材2との接合が解かれる。この結果、金属部材2から樹脂部材1を容易に剥離することができる。即ち、加熱により、これらの間での接合が解かれる。この結果、金属部材2から樹脂部材1を容易に剥離してこれらを容易に分離することができ、樹脂金属複合体10を容易に解体することができる。従って、樹脂金属複合体10を容易にリサイクルすることができる。
【0033】
なお、分離された後の樹脂部材1においては、不対電子を有するカルボニル基が存在する。このカルボニル基は前記のように反応性が高いことから、樹脂部材1の表面に存在する水酸基と結合する。これにより、樹脂部材1の表面において新たなエステル基が生成し、前記の
図4に示す状態に戻ることになる。
【0034】
これらの
図2〜
図5を参照しながら説明した加熱(接合するために行う加熱、及び、分離するために行う加熱)は、任意の方法で行うことができる。例えば、加熱は、恒温槽等で全体を加熱してもよいし、所望の位置にマイクロ波又は赤外線を照射して部分的に加熱してもよい。さらには、例えば、電気ヒータ等を用いて加熱した金属板を所望の位置に押しつけることで、加熱してもよい。
【0035】
また、接合の際には、樹脂部材1と金属部材2との積層方向にプレスしながら(押す力を加えながら)加熱してもよいし、プレスせずに加熱してもよい。また、プレスせずに加熱する場合には、例えば加熱後にプレスを行うこともできる。一方で、分離の際には、樹脂部材1と金属部材2との積層方向に引く力を加えながら加熱してもよいし、そのような力を加えずに加熱してもよい。また、そのような力を加えずに加熱する場合には、加熱後に引く力を加えてこれらを分離することもできる。
【0036】
加熱温度は、樹脂部材1の材料組成及び配合比率によって異なるが、例えば150℃〜300℃程度である。また、加熱時間は、例えば1時間〜10時間とすることができる。また、加熱温度及び加熱時間は、樹脂部材1と金属部材2とを接合させるときと、これらを分離するときとで、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
また、
図2〜
図5を参照しながら説明した加熱として、樹脂金属複合体10を高温高湿環境下に放置するようにしてもよい。特に、高湿下に晒すことで空気中の水分によってエステル結合の加水分解が促され、より容易に、樹脂部材1と金属部材2とを接合及び分離することができる。
【0038】
高温高湿環境の具体的な条件は特に制限されないが、例えば、100℃〜200℃において、相対湿度が60%〜95%とすることができる。また、高温高湿環境での処理時間は、例えば3時間〜20時間とすることができる。なお、高温高湿環境の具体的な条件は、樹脂部材1と金属部材2とを接合させるときと、これらを分離するときとで、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
図6は、第二実施形態の樹脂金属複合体20の斜視図である。樹脂金属複合体20では、前記の樹脂金属複合体10と同様、樹脂部材1及び金属部材2が備えられる。ただし、この
図6に示す樹脂金属複合体20では、樹脂部材1と金属部材2との間には接着層3が形成され、これらは接着層を介して接合している。従って、この樹脂金属複合体20では、前記のような樹脂部材1と金属部材2との間で生じる作用(
図2参照)のほか、この接着層3によっても、樹脂部材1と金属部材2とが接合する。
【0040】
接着層3は、樹脂部材1と金属部材2とを補助的に接合するものであり、例えばエポキシ系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系等の各種樹脂により構成される。ただし、この接着層3には、動的共有結合が含まれることが好ましい。動的共有結合が含まれることで、樹脂部材1と接着層3との間で、前記の
図2を参照しながら説明したような作用を生じさせることができる。これにより、樹脂部材1と接着層3との間でより強固に接合可能になるとともに、接着層3を含む樹脂部材1と、金属部材2との分離がより容易に可能となる。動的共有結合を含む樹脂としては、例えば、前記の樹脂部材1を構成する樹脂と同じものを用いることができる。
【0041】
図7は、第三実施形態の樹脂金属複合体30の斜視図である。樹脂金属複合体30では、前記の樹脂金属複合体10,20と同様に、樹脂部材1及び金属部材2が備えられる。ただし、この
図7に示す樹脂金属複合体30では、樹脂部材1と金属部材2との間にカップリング剤4が備えられ、これらはカップリング剤4を介して接合している。
【0042】
カップリング剤4は、前記樹脂部材1が有する動的共有結合と結合可能なカップリング基(エポキシ基等)を、金属部材2の表面に配置させるものである。従って、この樹脂金属複合体30では、前記のような樹脂部材1と金属部材2との間で生じる作用(
図2参照)のほか、金属部材2に配置されたカップリング剤4と樹脂部材1との間での生じる作用が利用される。これにより、樹脂部材1と金属部材2とがより強固に接合可能になるとともに、樹脂部材1と、カップリング剤4を含む金属部材2との分離が容易に可能となる。
【0043】
カップリング剤4としては、例えば、エポキシ基、水酸基、酸無水物基等の、樹脂部材1と化学結合を形成可能な官能基を有するアルコキシシラン等を使用することができる。アルコキシシランとしては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシランが挙げられる。また、カップリング剤4を金属部材2に配置する方法としては、例えば、カップリング剤4を任意の有機溶剤で希釈し、金属部材2を浸漬させることで、金属部材2の表面にカップリング剤4を配置することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0045】
<実施例1>
特許第5749354号公報の実施例1に記載の方法に沿って樹脂組成物(樹脂部材)を作製した。具体的には、まず、10.7gのDER332エポキシ樹脂(ダウケミカル社製)と、0.81gの亜鉛(II)アセチルアセトネートとをビーカに入れた。さらに、3.5gの無水グルタル酸を加え、ビーカを恒温槽に入れ加熱し、これらが完全に溶解するまで混合した。次いで、均一になった溶液をテトラフルオロエチレン製の型に流し込み、140℃で8時間加熱プレスし、樹脂部材として、平板状の樹脂組成物を作製した。そして、作製した樹脂部材をアルミ板(金属部材)と重ね合わせ、200℃で3時間加熱しながらプレスを行い、室温まで自然冷却することで、前記の
図1に示す形状の樹脂金属複合体を得た。
【0046】
この樹脂金属複合体において、樹脂部材と金属部材との境目に金属製の刃を挿入しようとしたところ、刃が樹脂金属複合体の内部に侵入しなかった。また、手で樹脂部材を金属部材から剥離しようとしたところ、これらはしっかりと接合しており、樹脂部材と金属部材との剥離は生じなかった。従って、ここで作製した樹脂金属複合体では、樹脂部材と金属部材とは強固に接合していることが確認された。
【0047】
また、作製した樹脂金属複合体を恒温槽に入れ、その全体を200℃で1時間加熱した。1時間の加熱直後、樹脂部材と金属部材との境目に金属製の刃を挿入した。そうすると、刃が容易に樹脂金属複合体の内部に侵入し、樹脂部材を金属部材から容易に剥離することができた。従って、樹脂金属複合体では、加熱前には強固に接合しているものの、加熱により容易に剥離可能であることが確認された。
【0048】
<実施例2>
まず、国際公開第2016/178345号の実施例1に記載の液状ワニスを作製した。具体的には、スチレン(東京化成社製、重合によりポリスチレンが得られる)3.0gと、ビスフェノールAグリセロラートジメタクリラート(アルドリッチ社製)3.0gと、2−ヒドロキシメタクリレート0.77gと、過酸化物重合開始剤CT50(日立化成社製)0.11gと、ナフテン酸亜鉛(II)(東京化成社製)0.32gとをガラス製のスクリュー瓶に入れた。そして、ミックスロータを用いてスクリュー瓶中の試薬を攪拌し、均一な液状ワニスを作製した。
【0049】
ここで作製した液状ワニスを、炭素繊維を織物状に編んだクロスに含浸させた。含浸後、ワニスを乾燥し、樹脂を含浸したクロスを得た。得られたクロスを4枚重ね、120℃で4時間加熱しながらプレスを行った後、室温まで冷却することで、樹脂部材として、繊維強化樹脂を作製した。そして、作製した樹脂部材をアルミ板(金属部材)と重ね合わせ、120℃で3時間加熱しながらプレスを行い、室温まで自然冷却することで、前記の
図1に示す形状の樹脂金属複合体を得た。
【0050】
得られた樹脂金属複合体について、実施例1と同様にして刃を挿入しようとしたところ、刃は樹脂金属複合体の内部に侵入しなかった。また、実施例1と同様にして手で樹脂部材を金属部材から剥離しようとしたところ、これらはしっかりと接合しており、樹脂部材と金属部材との剥離は生じなかった。従って、実施例2においても、樹脂部材と金属部材とは強固に接合していることが確認された。
【0051】
また、作製した樹脂金属複合体について、温度を200℃に代えて120℃としたこと以外は実施例1と同様にして加熱し、加熱直後、実施例1と同様に刃を挿入した。そうすると、刃が容易に樹脂金属複合体の内部に侵入し、樹脂部材を金属部材から容易に剥離することができた。従って、実施例2においても、樹脂金属複合体では、加熱前には強固に接合しているものの、加熱により容易に剥離可能であることが確認された。
【0052】
<実施例3>
前記の実施例2と同様の方法により、液状ワニスを作製した。作製した液状ワニスをテトラフルオロエチレン製のビーカに入れ、120℃の恒温槽中で4時間加熱することで硬化物を得た。硬化物をビーカから取り出し、乳鉢で十分に粉砕することで、粉体状の硬化物を得た。この硬化物は、前記の
図6を参照しながら説明した接着層3に相当するものである。
【0053】
一方で、前記の実施例2と同様の方法と同様の方法により、繊維強化樹脂(樹脂部材)を作製した。そして、ここで作製した繊維強化樹脂の表面に、前記の粉体状の硬化物を散らし、その上にアルミニウム板(金属部材)を載せた。即ち、実施例2に記載の繊維強化樹脂とアルミニウム板との間に、作製した粉体状の硬化物(接着層)を挟んだ。次いで、これらの全体を120℃で3時間加熱しながらプレスを行い、室温まで自然冷却することで、前記の
図1に示す形状の樹脂金属複合体を得た。
【0054】
得られた樹脂金属複合体について、実施例1と同様にして刃を挿入しようとしたところ、刃は樹脂金属複合体の内部に侵入しなかった。また、実施例1と同様にして手で樹脂部材を金属部材から剥離しようとしたところ、これらはしっかりと接合しており、樹脂部材と金属部材との剥離は生じなかった。従って、実施例3においても、樹脂部材と金属部材とは強固に接合していることが確認された。
【0055】
また、作製した樹脂金属複合体について、温度を200℃に代えて120℃としたこと以外は実施例1と同様にして加熱し、加熱直後、実施例1と同様に刃を挿入した。そうすると、刃が容易に樹脂金属複合体の内部に侵入し、樹脂部材を金属部材から容易に剥離することができた。従って、実施例3においても、樹脂金属複合体では、加熱前には強固に接合しているものの、加熱により容易に剥離可能であることが確認された。
【0056】
<実施例4>
エポキシ基を有するシランカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン)の0.5%水溶液にアルミニウム板を浸漬させ、空気中で乾燥させた。この操作により、アルミニウム板(金属部材)の表面に、前記の
図7を参照しながら説明したカップリング剤4が配置されたことになる。次いで、このアルミニウム板と、前記の実施例2で作製した繊維強化樹脂(樹脂部材)とを重ね合わせ、前記の実施例2と同様にして樹脂金属複合体を得た。
【0057】
得られた樹脂金属複合体について、実施例1と同様にして刃を挿入しようとしたところ、刃は樹脂金属複合体の内部に侵入しなかった。また、実施例1と同様にして手で樹脂部材を金属部材から剥離しようとしたところ、これらはしっかりと接合しており、樹脂部材と金属部材との剥離は生じなかった。従って、実施例4においても、樹脂部材と金属部材とは強固に接合していることが確認された。
【0058】
また、作製した樹脂金属複合体について、温度を200℃に代えて120℃としたこと以外は実施例1と同様にして加熱し、加熱直後、実施例1と同様に刃を挿入した。そうすると、刃が容易に樹脂金属複合体の内部に侵入し、樹脂部材を金属部材から容易に剥離することができた。従って、実施例4においても、樹脂金属複合体では、加熱前には強固に接合しているものの、加熱により容易に剥離可能であることが確認された。
【0059】
<実施例5>
前記の実施例2に記載の方法と同様の方法により、樹脂金属複合体を作製した。なお、この方法で作製された樹脂金属複合体の接合強度が強固であることは、前記の実施例2において確認されている。
【0060】
そして、ここで作製した樹脂金属複合体を、IEC(International Electrotechnical Commission)68−2−66の条件に沿って、温度130℃、相対湿度85%に設定された加熱装置の中に入れ、10時間晒した。10時間経過後、加熱装置から樹脂金属複合体を取り出した直後、実施例1と同様に刃を挿入した。そうすると、刃が特に容易に樹脂金属複合体の内部に侵入し、樹脂部材を金属部材から容易に剥離することができた。従って、実施例2においても、樹脂金属複合体では、加熱前には強固に接合しているものの、高温高湿環境での熱処理により特に容易に剥離可能であることが確認された。
【0061】
<実施例6>
Science、356、62−65ページの記載に従って、ポリメタクリル酸をジオキサボラン誘導体で架橋した樹脂部材を作製した。作製した樹脂部材とステンレス板(SUS304、金属部材)とを重ね合わせ、190℃で1時間加熱プレスし、樹脂金属複合体を得た。
【0062】
得られた樹脂金属複合体について、実施例1と同様にして刃を挿入しようとしたところ、刃は樹脂金属複合体の内部に侵入しなかった。また、実施例1と同様にして手で樹脂部材を金属部材から剥離しようとしたところ、これらはしっかりと接合しており、樹脂部材と金属部材との剥離は生じなかった。従って、実施例6においても、樹脂部材と金属部材とは強固に接合していることが確認された。
【0063】
また、作製した樹脂金属複合体について、温度を200℃に代えて120℃としたこと以外は実施例1と同様にして加熱し、加熱直後、実施例1と同様に刃を挿入した。そうすると、刃が容易に樹脂金属複合体の内部に侵入し、樹脂部材を金属部材から容易に剥離することができた。従って、実施例6においても、樹脂金属複合体では、加熱前には強固に接合しているものの、加熱により容易に剥離可能であることが確認された。
【0064】
<比較例>
比較例として、特許第5749354号公報の比較例1に記載の方法を一部変更した方法により樹脂組成物(樹脂部材)を作製した。ここで作製した樹脂組成物は、動的共有結合を有しないものである。まず、10.7gのDER332エポキシ樹脂(ダウケミカル社製)をビーカに入れた。さらに、3.5gの無水グルタル酸を加え、ビーカを恒温槽に入れ加熱し、これらが完全に溶解するまで混合した。次いで、均一になった溶液を使用して、前記の実施例1と同様にすることで、平板状の樹脂組成物(樹脂部材)、及び、前記の
図1に示す形状の樹脂金属複合体を得た。
【0065】
この樹脂金属複合体において、樹脂部材と金属部材との境目に金属製の刃を挿入したところ、容易に刃が樹脂金属複合体の内部に侵入し、樹脂部材と金属部材とが簡単に分離してしまった。従って、ここで作製した樹脂金属複合体では、実施例1とは異なり、単に樹脂部材と金属部材とは熱圧着により接着しているのみであって、弱い接合に過ぎないことが確認された。