(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係る強度試験システム1は、
図1に示すように、航空機100の強度試験に適用されるものである。荷重を負荷する航空機100の強度試験(載荷試験)では、航空機100の機体の自重をキャンセルして無重力状態とした上で、実運用時の状態に相当する鉛直荷重、空力荷重等に相当する荷重を機体に加える。機体の自重をキャンセルするには機体を吊り上げるが、そのために自重補正部10が用いられる。機体上に選定された例えば数十〜100程度の荷重点P1の各々に、自重補正部10により荷重が加えられる。なお、
図1は、一部の荷重点P1だけが示されている。水平荷重印加部20における荷重点P2、鉛直荷重印加部30における荷重点P3も同様である。
【0018】
強度試験システム1は、複数の自重補正部10と、複数の水平荷重印加部20と、複数の鉛直荷重印加部30と、水平荷重印加部20及び鉛直荷重印加部30の動作を制御する制御部40と、を備えている。
【0019】
複数の荷重点P1のそれぞれに対応する自重補正部10は、天秤を基本的な構成要素としており、竿11と、竿11を鉛直方向の下方から支持する支持点13と、竿11の一端側から吊り下げられるとともに胴体101に固定される吊ワイヤ15と、竿11の他端側から吊り下げられる錘17と、を備える。自重補正部10は、竿11の他方側に吊り下げられる錘17の鉛直方向の下向き荷重を、竿11、支持点13及び吊ワイヤ15を介して、胴体101の荷重点P1において上向きに作用させる。
なお、竿11、支持点13、吊ワイヤ15及び錘17が、本発明の第二天秤を構成する。
【0020】
以上のようにして自重補正部10は、荷重点P1に配分された自重の影響を除く。
竿11及び支持点13は必要な機械的な強度を有する材料、一例として金属材料としては構造用鋼などで構成される。
【0021】
また、吊ワイヤ15は、一例として数本〜数10本の素線を単層または多層により合わせたストランドを、例えば6本を心綱の周りに所定のピッチでより合わせて作製される。
【0022】
錘17は、荷重点P1に配分された自重に対応する重量を有する。
錘17は、重量を変更できるように、例えば、複数の鋼板を積層して構成することが好ましく、必要な枚数の鋼板を積層することにより配分された自重に対応する。水平荷重印加部20の錘27も同様である。
【0023】
図1に示す例では、胴体101の先端側、胴体101の中間及び胴体101の後端側のそれぞれに自重補正部10を設けているが、これはあくまで一例にすぎず、実際の航空機100の強度試験においては、他の複数の部位にも自重補正部10が設けられる。
【0024】
[水平荷重印加部20]
水平荷重印加部20は、自重補正部10により自重が補正された航空機100に、アクチュエータの本体部分が天秤に吊り下げられた状態で水平方向Hに試験荷重を加える。
【0025】
水平荷重印加部20は、竿21と、竿21を鉛直方向Vの下方から支持する支持点23と、竿21の一端側から吊り下げられる吊ワイヤ25と、吊ワイヤ25に支持されるアクチュエータ26と、竿21の他端側から吊り下げられる錘27と、を備える。竿21はアクチュエータ26と錘27とを支持点23を跨いで支持する。なお、竿21、支持点23、吊ワイヤ25及び錘27が、本発明の第一天秤を構成する。
【0026】
アクチュエータ26は、例えば油圧シリンダから構成され、シリンダチューブ26Aと、シリンダチューブ26Aに対して進退移動するピストンロッド26Bと、を備える。シリンダチューブ26Aが吊ワイヤ25の先端に接続され、ピストンロッド26Bの先端が航空機100の荷重点P2に接続される。シリンダチューブ26Aと吊ワイヤ25の接続、及び、ピストンロッド26Bと航空機100の接続は、ピン結合による。なお、ここではアクチュエータ26の要素としてシリンダチューブ26Aとピストンロッド26Bを示しているが、ピストンロッド26Bと一体とされ、シリンダチューブ26Aの内部に配置されるピストンなどの他の要素を含んでいる。また、油圧シリンダとしては、単動型と復動型の双方を適用できるが、復動型を用いれば、航空機100に水平方向Hに正・負の荷重を容易に加えることができる。
【0027】
図1に示す例では、胴体101の先端、胴体101の中間及び垂直尾翼103のそれぞれに水平荷重印加部20を設けているが、これはあくまで一例にすぎず、実際の航空機100の強度試験においては、他の複数の部位にも水平荷重印加部20が設けられる。次に説明する鉛直荷重印加部30についても同様である。
【0028】
[鉛直荷重印加部30]
鉛直荷重印加部30は、自重補正部10により自重補正された航空機100を、鉛直方向Vに支持された胴体101、主翼102に鉛直方向Vの試験荷重を加える。
【0029】
鉛直荷重印加部30は、水平荷重印加部20のアクチュエータ26と同様に、例えば油圧シリンダから構成され、シリンダチューブ31Aと、シリンダチューブ31Aに対して進退移動するピストンロッド31Bと、を備えるアクチュエータ31からなる。シリンダチューブ31Aの後端が図示を省略する基礎、例えば架構に接続され、ピストンロッド31Bの先端が航空機100に接続される。シリンダチューブ31Aと基礎の接続、及び、ピストンロッド31Bと航空機100の接続は、ピン結合による。その他、アクチュエータ31はアクチュエータ26と同様の構成を備える。
【0030】
強度試験システム1は、水平荷重印加部20及び鉛直荷重印加部30に作動油を供給する油供給源50を備える。油供給源50は、作動油を蓄えており、この作動油は制御部40からの指示により水平荷重印加部20及び鉛直荷重印加部30のそれぞれに必要な量だけ供給される。
【0031】
[制御部40]
制御部40は、航空機100の強度試験を行う際に、水平荷重印加部20及び鉛直荷重印加部30から航空機100に負荷する荷重を制御する。この荷重の制御は、油供給源50から水平荷重印加部20及び鉛直荷重印加部30に供給する作動油又は水平荷重印加部20及び鉛直荷重印加部30から油供給源50に戻す作動油の量を調整することにより実行される。
【0032】
[強度試験]
さて、強度試験システム1による航空機100の強度試験は、補正荷重印加ステップと、試験荷重印加ステップと、を備える。以下、順に説明する。
【0033】
[補正荷重印加ステップ]
補正荷重印加ステップは、航空機100に設定された多数の荷重点P1のそれぞれに対して、対応する自重補正部10により、錘17の荷重が竿11、吊ワイヤ15を介して上向きに作用させることで、航空機100の自重を補正する。
【0034】
個々の荷重点P1には航空機100の自重の影響を除くために必要な荷重が配分されており、それぞれの自重補正部10はこの配分に応じた重量の錘17が取り付けられる。
【0035】
[試験荷重印加ステップ]
補正荷重印加ステップに引き続いて、試験荷重印加ステップが行われる。
試験荷重印加ステップは、制御部40の指示に基づいて水平荷重印加部20及び鉛直荷重印加部30に供給する作動油または戻す作動油を調整することにより行われる。作動油の調整は、航空機100の強度試験をするのに必要な所定の荷重を機体の適宜な位置に負荷するために行われる。
【0036】
強度試験は、荷重条件が相違する複数の試験ケースからなり、水平荷重印加部20及び鉛直荷重印加部30により荷重が加えられる位置や荷重の大きさ等を含む荷重条件が試験ケース毎に定められている。
試験ケースに基づいて、例えば、主翼102に、上方への曲げ変形を生じさせる空力荷重を模擬した荷重が加えられる。
【0037】
[効 果]
以上説明した強度試験システム1が奏する効果を説明する。
強度試験システム1は、竿11,21と支持点13,23の間に摩擦は生じるものの、この摩擦は吊ワイヤ15,25を滑車で支持する場合に吊ワイヤ15,25と滑車の間に生じる摩擦に比べて極めて小さいので、試験結果への摩擦の影響を無視できる。したがって、強度試験システム1によれば、自重補正を行う構造に伴う試験結果の誤差を抑えることができる。
【0038】
また、強度試験システム1は、自重補正部10及び水平荷重印加部20の双方が天秤構造を用いているので、滑車を用いる載荷装置のように、吊ワイヤ15,25が摩擦により摩耗することがない。
したがって、強度試験システム1によれば、吊ワイヤ15,25の交換頻度を小さくできるので、保守の負担を軽減できる。
【0039】
さらに、強度試験システム1は、対象構造体である航空機100の自重補正だけでなく、強度試験を実行する水平荷重印加部20の自重補正を行うことができる。したがって、強度試験システム1は、強度試験システム1の全体としての自重の影響を排除できるので、航空機100の無重力状態を精度よく再現し、高い精度の試験結果を得ることができる。
【0040】
[第2実施形態]
次に、
図2を参照して本発明の第2実施形態に係る強度試験システム2を説明する。
強度試験システム2は、自重補正部10を省く一方、自重補正部10の機能を鉛直荷重印加部30が担う点で、第1実施形態の強度試験システム1と異なる。
つまり、強度試験システム2は、天秤構造を用いて自重補正を行うのは、水平荷重印加部20と、水平荷重印加部20と航空機100を接続する負荷治具のように水平荷重印加部20及び鉛直荷重印加部30の一方又は双方からの負荷ではその自重補正をできない部材である。
【0041】
一方で、対象構造体である航空機100の自重及び鉛直荷重印加部30と航空機100を接続する負荷治具などについては、上向きの試験荷重を負荷するための鉛直荷重印加部30の荷重制御によって自重補正が行われる。この荷重制御は、試験荷重に加えて、航空機100の配分された自重に対応する補正荷重を考慮して行われる。これにより、無重力状態が再現可能とされるので、強度試験システム2は無重力状態で試験荷重を印加することができる。
なお、航空機100、鉛直荷重印加部30及び鉛直荷重印加部30と航空機100を接続する負荷治具などの自重は、鉛直荷重印加部30を介して図示を省略する基礎あるいは架構で負担される。
【0042】
以上の強度試験システム2によれば、強度試験システム1で説明した効果に加えて、天秤構造を含む自重補正部10を製作する作業及び設置する作業の負担をなくすことができるので、強度試験に要するコスト、設置スペース及び強度試験に要する期間を低減できる。
また、強度試験システム2によれば、荷重制御の対象が鉛直荷重印加部30のアクチュエータ31だけになり、自重補正部10の荷重制御を省けるので、システム全体としての荷重制御が容易になる。
【0043】
[第3実施形態]
次に、
図3を参照して、本発明の第3実施形態に係る強度試験システム3を説明する。
強度試験システム3は、自重補正部10及び水平荷重印加部20における、竿11,21に対する支持点13,支持点23の位置を変位が可能である。なお、この位置が変位可能なのは、第1実施形態で説明した補正荷重印加ステップの間であり、試験荷重印加ステップにおいては変位が止められる。つまり、強度試験の待機状態において、支持点13,支持点23の変位が可能とされる。
【0044】
強度試験システム3は、
図3(a)に示すように、天秤構造を用いる点を含め、基本的な構成は強度試験システム1と同じであるから、以下では強度試験システム1との相違点を中心に説明する。また、ここでは強度試験システム1の構成を例にして第3実施形態を説明するが、強度試験システム2の構成に対しても第3実施形態を適用できる。後述する第4実施形態、第5実施形態についても同様である。
【0045】
はじめに、
図3(b),(c)を参照して、竿11,21に対する天秤構造の支持点13,23の位置を変位可能とすることによる、負荷する錘17,27の調整について説明する。ここでは、この天秤構造による補正荷重Faを10とし、補正するのに要する錘17,27の重量をFwとする。
図3(b)の上段に示すように、支持点13,23の位置が竿11,21の中央Cにあり、アーム比が1:1だとすると、錘重量Fwは10とされる。なお、アーム比とは、支持点13,23から補正荷重Faが作用する位置までの距離Daと錘重量Fwが作用する位置までの距離Dwの比である。
【0046】
例えば、
図3(b)の中段に示すように、補正荷重Faが10のままでアーム比を1:2とすれば、錘重量Fwは5で足りる。このことは、以下の効果を示唆している。
つまり、補正荷重Faが一定だとして、アーム比を変えることにより錘重量Fwを低減、この例では半減できるので、錘17,27に要するコストを低減できるのに加えて、錘17,27を竿11,21に吊り下げる作業負担を軽減上できる。特に、自重補正部10及び鉛直荷重印加部30は多数の箇所に設けられるので、コスト低減の効果及び作業負担軽減の効果は大きい。
【0047】
また、強度試験システム3は、実行される強度試験によっては、自重補正部10のそれぞれが負担する補正荷重Fa及び鉛直荷重印加部30のそれぞれが負担する補正荷重Faが変化する可能性がある。この場合に、錘重量Fwを変えずに、支持点13,23の位置を変える、換言すればアーム比を変えることによって要求される補正荷重Faを満足できる。例えば、錘重量Fwが5で一定だとして、要求される補正荷重Faが5であればアーム比を1:1にすればよく、また、要求される補正荷重Faが10であればアーム比を1:2にすればよい。この観点からも、支持点13,23の位置を変えることができれば、錘17,27に関するコストを低減できる。
【0048】
ここで、実際には補正荷重Fa、錘重量Fwのバランスは竿11,21の自重によっても変化する。したがって、
図3(b)の下段に示すように、支持点13,23の位置を変えたことによる竿11,21の重量バランスの変化を考慮して、このアンバランス分の影響αを差し引いた重量を錘重量Fwとして設定することになる。例えば、
図3(b)の下段の例では、錘重量Fwが5−αとなる。
【0049】
以上の例では竿11,21に対して支持点13,23の位置が変位可能であることにしているが、支持点13,23の他に、補正荷重Faを負荷する位置Pa又は錘重量Fwを負荷する位置Pwを変えることによっても、同様の効果が得られる。つまり、第3実施形態は、支持点13,23、荷重の作用点である位置Pa及び位置Pwの少なくとも一つを可変とすることを許容する。特に、支持点13,23、位置Pa及び位置Pwのすべてを可変とすれば、補正荷重Faに対する錘重量Fwの微調整が実現される。この場合、例えば
図3(c)に示すように、支持点13,23、位置Pa及び位置Pwのそれぞれの可動範囲が設定される。このように位置の微調整が可能となることによって、試験スペースの有効活用、治具との干渉などが発生した際の対応が容易にできるようになる。
【0050】
次に、支持点13,23が変位可能である具体的な構造例のいくつかを
図4に示す。
図4(a)は、H型鋼からなる竿11,21の長手方向にそれぞれが独立した複数の支持孔11Aを形成する例を示している。それぞれの支持孔11Aは、竿11,21のウェブ部分の表裏を貫通する。支持孔11Aには、支持ピン11Bが竿11,21に対して回転可能に挿入される。この支持ピン11Bには、支持点13,23を構成する他の部材が固定される。
【0051】
図4(a)は、左端の支持孔11Aに支持ピン11Bが挿入されているが、例えば、支持ピン11Bを挿入するのを真ん中の支持孔11Aにしたり、支持ピン11Bを挿入するのを右端の支持孔11Aにしたりすることにより、支持点13,23の位置を変えることができる。つまり、複数の支持孔11Aが設けられる範囲で、支持点13,23の位置を段階的に変えることができる。
【0052】
図4(b)は、支持点13,23の位置を変える作業を容易にできる構造を示している。つまり、
図4(b)に示される構造は、
図4(a)のように独立した支持孔11Aを設けるのではなく、竿11,21の長手方向に連通する変位スリット11Cを設ける。そして、この変位スリット11Cの上縁Uに支持ピン11Bが係合される複数の支持溝11Dが設けられる。
【0053】
図4(b)の構造例によれば、支持ピン11Bが変位スリット11Cを通って任意の支持溝11Dに移動できるので、支持ピン11Bを抜き挿しすることなく、支持点13,23の位置を段階的に変えることができる。
【0054】
図4(c)は、支持点13,23の位置を変える作業をさらに容易にできる構造を示している。つまり、
図4(c)に示される構造は、竿11,21の長手方向に連通する変位スリット11Cを設け、さらに変位スリット11Cの上縁U及び下縁Lのそれぞれにレール11E,11Eを設ける。そして、レール11E,11Eのそれぞれを摺動するスライダ11F,11Fを設けるとともに、スライダ11F,11Fの間に支持ピン11Bが支持されている。また、スライダ11F,11Fは、水平方向Hの両側にストッパ11G,11Gが設けられることにより、水平方向Hへの変位が阻止される。ストッパ11G,11Gは、スライダ11F,11Fを変位する際には取り外されるが、所定の位置まで変位した後に取り付けられる。
【0055】
図4(c)の構造例によれば、ストッパ11G,11Gを取り外してから、スライダ11F,11Fとともに支持ピン11Bを移動できるので、支持点13,23の位置を容易に変えることができる。しかも、
図4(c)の構造例によれば、レール11E,11Eが設けられる範囲ので連続的に位置を変えて支持ピン11Bを固定できるので、アーム比を弾力的に設定できる。
図4(c)の構造例を採用する場合には、レール11E,11Eに目盛りを付けることにより、スライダ11F,11F、つまり支持点13,23の位置を正確に設定することができる。
【0056】
以上、
図4を参照して支持点13,23の位置を変える具体的な構造例を示したが、これはあくまで例示にすぎず、ダブルチャンネル断面の部材を用いるなど、他の構造を本発明に適用できることは言うまでもない。
また、支持孔11A、変位スリット11Cを設けることによる強度不足を補うために、ダブリング補強、リブ設置などの補強手段を採用してもよい。
【0057】
[第4実施形態]
次に、
図5を参照して、本発明の第4実施形態に係る強度試験システム4を説明する。
強度試験システム4は、自重補正部10及び水平荷重印加部20が備える天秤構造の竿11,21を水平方向Hにも回転可能とすることによって、天秤構造の設置位置の調整を可能とする。なお、この水平方向Hにも回転可能なのは、第1実施形態で説明した補正荷重印加ステップの間であり、試験荷重印加ステップにおいては回転が止められる。つまり、強度試験の待機状態において、竿11,21を水平方向Hの回転が可能とされる。
【0058】
天秤構造は、支持点13,23における竿11,21の可動方向は、通常、
図5(a),(b)に示すように、鉛直方向Vの特定の平面内の回転に限られる。これに対して、強度試験システム4は、
図5(a),(c)に示すように、鉛直方向Vに加えて水平方向Hにも回転可能とされる。ただし、上述したように、試験荷重印加ステップの間には、竿11,21の水平方向Hの回転は止められる。
水平方向Hにも竿11,21を回転可能にする手段は任意であるが、支持点13,23と竿11,21を例えばユニバーサルジョイントなどで連結すればよい。ただし、竿が部材軸回りに回転するような不安定状態は回避するなど、必要に応じて回転を拘束する方向があってもよい。
【0059】
強度試験システム4によれば、竿11,21が水平方向Hにも回転可能であり、竿11,21の水平方向Hの位置を変えることができるので、自重補正部10及び水平荷重印加部20の周囲に置かれる試験冶具・機器類を避けるように水平方向Hにおける竿11,21の位置を設定できる。これにより、強度試験システム4によれば、自重補正部10及び鉛直荷重印加部30の周囲のスペースを有効利用できるので、試験スペースの低減を図ることができる。
【0060】
[第5実施形態]
次に、
図6及び
図7を参照して、本発明の第5実施形態に係る強度試験システム5を説明する。
強度試験システム5は、自重補正部10及び水平荷重印加部20を構成する天秤構造について、航空機100が水平方向Hにも動く場合に、吊ワイヤ15,25に作用する横力をゼロとすることを可能とする。
【0061】
航空機100の強度試験において、航空機100は機体の自重補正のために荷重を印加する方向、つまり鉛直方向Vだけでなく、3次元的に変位することがあり、これにより、
図6(a)に示すように、自重補正方向と直交する方向、つまり水平方向Hに変位Hdが生ずる。そうすると、
図7(a)に示すように、吊ワイヤ15,25に鉛直方向Vに対して角度βがついてしまう。したがって、吊ワイヤ15,25には、鉛直方向Vの縦力Fyだけでなく、角度βに応じた横力Fxが作用することになる。この横力Fxは対象構造体である航空機100の強度試験において想定外の力である。
【0062】
横力Fxの対策として、
図7(b)に示すように、吊ワイヤ15,25を長くすることによって、航空機100の同じ変位量に対する角度βを小さくできる。しかし、吊ワイヤ15,25を長尺化した場合、試験装置が大規模なものになるとともに、横力Fxも完全にゼロにすることができない。したがって、自重補正部10及び水平荷重印加部20を設ける箇所の数が多いほど、強度試験に対する影響は大きくなり、所望される本来の荷重の印加状態とは異なる状態を作り出してしまうことになる。
【0063】
そこで、強度試験システム5は、
図6(a),(b)に示すように、支持点13,23を基礎Bに対して変位自在なスライド機構14,24を設ける。スライド機構14,24は、水平方向Hの全方位に対して変位が自在であり、このスライド機構14,24の変位に伴って、竿11,21を含む天秤構造の全体が基礎Bに対して変位する。このスライド機構14,24は、航空機100が水平方向Hに変位するのに追従してその変位が生じるように構成される。
なお、スライド機構14,24による変位は、試験荷重印加ステップにおいてなされる。また、基礎Bは、図示を省略する架構または強度試験システムが設けられる床面が該当する。
【0064】
強度試験システム5によれば、強度試験において航空機100に水平方向Hの変位が生じると、これに追従して自重補正部10及び水平荷重印加部20が変位することで、航空機100の変位を相殺する。これにより、自重補正部10及び水平荷重印加部20における天秤構造を構成する吊ワイヤ15,25に横力Fxが発生するのを防ぐことができるので、不要な横力Fxの影響を除いた強度試験の結果を得ることができる。しかも、強度試験システム5によれば、吊ワイヤ15,25を長尺化する必要がないので、鉛直方向Vにおける試験スペースを拡げる必要がない。
【0065】
なお、以上ではスライド機構14,24が航空機100の変位に追従して受動的に変位が生じることにしているが、航空機100の変位の検知結果に基づいてスライド機構14,24を能動的に変位させることもできる。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、本実施形態は対象構造体として航空機を例にしたが、本発明の試験対象は航空機に限るものではなく自重補正が必要な構造体に広く適用できる。
【0067】
また、以上説明した実施形態では、全ての自重補正部、水平荷重印加部について天秤構造を採用する例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、一部の自重補正部、水平荷重印加部については、天秤構造ではなく滑車を用いることもできる。