特許第6912412号(P6912412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6912412-炭化珪素質多孔体及びその製造方法 図000005
  • 特許6912412-炭化珪素質多孔体及びその製造方法 図000006
  • 特許6912412-炭化珪素質多孔体及びその製造方法 図000007
  • 特許6912412-炭化珪素質多孔体及びその製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912412
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】炭化珪素質多孔体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/577 20060101AFI20210727BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20210727BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20210727BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20210727BHJP
   B01J 29/072 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   C04B35/577
   C04B38/00 303Z
   C04B41/85 D
   B01J35/04 301P
   B01J29/072 Z
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-70028(P2018-70028)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-178053(P2019-178053A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】児玉 優
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 真
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−178721(JP,A)
【文献】 特表2005−516877(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/128149(WO,A1)
【文献】 特開2014−189447(JP,A)
【文献】 特表2006−513127(JP,A)
【文献】 特開2018−197182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00
C04B 35/577
C04B 41/85
B01D 39/20
B01J 29/072
B01J 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)骨材となる炭化珪素粒子と、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種とを含み、前記(A)及び/又は(B)の表面に、非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOを有する炭化珪素質多孔体であって、
前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOの中に含まれるα−クリストバライトが6質量%以下であり、
前記(A)及び(B)の合計質量100部に対して、無機バインダーを1〜5質量部含有し、前記無機バインダーがスメクタイトである炭化珪素質多孔体。
【請求項2】
前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOの厚みが0.5μm以上である請求項1に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項3】
前記スメクタイトがモンモリロナイトである請求項1または2に記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項4】
ナトリウムの含有量がNa2O換算で0〜0.12質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項5】
ナトリウムの含有量がNa2O換算で0〜0.05質量%である請求項1〜4のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項6】
気孔率が55%以上である請求項1〜5のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体により構成されるハニカム構造体。
【請求項8】
(A)炭化珪素粒子原料に、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種と、有機バインダーと、スメクタイトである無機バインダーを添加して混合した後、所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素含有雰囲気で仮焼して該成形体中の有機バインダーを除去した後、本焼成することにより、前記(A)及び/又は(B)の表面に非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiO生成させることを含む請求項1〜のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法であって、
前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOを生成させた後の炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%に制御することを含む炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項9】
(A)炭化珪素粒子原料に、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種と、有機バインダーと、スメクタイトである無機バインダーを添加して混合した後、所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素含有雰囲気で仮焼して該成形体中の有機バインダーを除去した後、本焼成を行い、次いで、酸素含有雰囲気で500〜1400℃の温度範囲で熱処理することにより、前記(A)及び/又は(B)の表面に非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiO生成させることを含む請求項1〜のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法であって、
前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOを生成させた後の炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%に制御することを含む炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項10】
(A)炭化珪素粒子原料に、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種と、有機バインダーと、スメクタイトである無機バインダーを添加して混合した後、所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素含有雰囲気で仮焼して該成形体中の有機バインダーを除去した後、本焼成を行い、次いで、珪素と酸素を含む溶液を用いて、前記(A)及び/又は(B)の表面をコートした後、熱処理することにより、前記(A)及び/又は(B)の表面に非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiO生成させることを含む請求項1〜のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法であって、
前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOを生成させた後の炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%に制御することを含む炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項11】
前記無機バインダー内のナトリウムの一部又は全部を非金属イオンに置換してから、前記炭化珪素粒子原料に添加する請求項8〜10のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項12】
前記スメクタイトがモンモリロナイトである請求項8〜11のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項13】
前記炭化珪素質多孔体がハニカム構造体である請求項8〜12のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素質多孔体及びその製造方法に関する。とりわけ、自動車排気ガス浄化用のフィルターや触媒担体等に使用される炭化珪素質多孔体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン排気ガスのような含塵流体中に含まれる粒子状物質を捕集除去するためのフィルター、あるいは排気ガス中の有害物質を浄化する触媒成分を担持するための触媒担体として、多孔質のハニカム構造体が広く使用されている。また、このようなハニカム構造体の構成材料として、炭化珪素(SiC)粒子のような耐火性粒子を使用することが知られている。
【0003】
具体的な関連技術として、例えば特許文献1には、所定の比表面積と不純物含有量を有する炭化珪素粉末を出発原料とし、これを所望の形状に成形、乾燥後、1600〜2200℃の温度範囲で焼成して得られるハニカム構造の多孔質炭化珪素質触媒担体が開示されている。
【0004】
この手法で作製された焼結体をディーゼルエンジンから排出される排気ガス中に含まれるパティキュレートを除去するためのディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)の材料として用いる場合には、フィルター再生のため、フィルターに補集され堆積したパティキュレートを燃焼させようとすると、熱伝導率が小さいために局所的な発熱が生じ破壊に至るという問題点があった。
【0005】
この問題点に対して、特許文献2は、骨材となる炭化珪素粒子と金属珪素とを含み、該炭化珪素粒子及び該金属珪素の表面に酸素を含む相(酸化皮膜)を有する多孔質であるとともに、含有する酸素量が0.5〜15重量%であることを特徴とする炭化珪素質多孔体により、高い熱伝導率を有するとともに耐酸化性、耐酸性、耐パティキュレート反応性、及び耐熱衝撃性等が向上すると開示している。
【0006】
一方、最近、特に、集塵用フィルタの処理能力を向上させる必要性から、上記のような多孔質ハニカム構造体の中でも、圧力損失が低い、高気孔率の多孔質ハニカム構造体が求められている。このような高気孔率のハニカム構造体の製造方法としては、例えば、成形原料としての、主成分材料、水、有機バインダ(ハニカム形状への押出成形は、成形原料だけでは可塑性、成形性が不十分で円滑に成形することができないことから、メチルセルロース等の有機バインダを可塑性の向上のため用いる必要がある)及び造孔剤(グラファイト等の有機物質)等を混練し、可塑性を向上させて坏土を調製し、この坏土を押出成形、乾燥して、ハニカム成形体を作製し、このハニカム成形体を焼成して多孔質ハニカム構造体を得る多孔質ハニカム構造体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。このような製造方法によれば、ハニカム成形体を焼成する際に、有機バインダや造孔剤が焼失して気孔が形成されるため、高気孔率の多孔質ハニカム構造体を得ることができる。
【0007】
しかしながら、有機バインダの添加量が多いと、仮焼(脱バインダ)時に有機バインダが焼失して、成形時に有機バインダが占有していた空間が欠陥となって得られる仮焼体、延いては多孔質ハニカム構造体の強度が低下するという問題があった。また、大型の構造体においては、仮焼(脱バインダ)時に有機バインダが燃焼する際、燃焼熱により成形体内部の方が外部よりも高温となり、成形体の内外温度差による熱応力のため、仮焼体にクラック等の欠陥を発生させ、構造体としての機械的強度を低下させるだけでなく、歩留まりを大幅に低下させるという問題があった。
【0008】
この問題に対して、特許文献4は、非酸化物セラミックス、又は、非酸化物セラミックス及び金属からなる主成分材料並びに有機バインダを含有する成形原料と造孔剤とを混練して坏土を調製し、調製された前記坏土を成形、乾燥してハニカム形状の成形体(ハニカム成形体)を作製し、作製された前記ハニカム成形体を仮焼成して仮焼体とした後に前記仮焼体を本焼成して多孔質のハニカム構造体を得る多孔質ハニカム構造体の製造方法であって、前記成形原料として、前記主成分材料及び前記有機バインダに加えて、層状構造を有する無機材料(スメクタイト等)を、前記主成分材料100質量部に対して、0.01〜1質量部さらに含有したものを用いる多孔質ハニカム構造体の製造方法を開示している。当該方法により、仮焼(脱バインダ)後においてクラック等の欠陥の少ない、高強度な仮焼体を得ることが可能で、最終的に高気孔率で高品質な多孔質ハニカム構造体を得ることが可能な多孔質ハニカム構造体の製造方法及びこの製造方法によって得られる高気孔率で高品質の多孔質ハニカム構造体が提供される。
【0009】
さらに、特許文献5は、酸化物セラミック材料を含む、成形セラミック基材であって、前記成形セラミック基材は、約1200ppm未満の元素ナトリウム含有量を有し、少なくとも約55%の多孔率を有する、成形セラミック基材を採用することで、選択的触媒還元(SCR)用触媒との化学的相互作用を低減し、高いNOx浄化性能を得られると開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−182228号公報
【特許文献2】特許第4426083号公報
【特許文献3】特開2002−219319号公報
【特許文献4】特許第4745964号公報
【特許文献5】特表2016−523800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
昨今、需要が高まっている選択的還元触媒担持用に材料として、炭化珪素質多孔体が選択的還元触媒を多く担持するために高気孔率であることが望ましいが、高気孔率化しようとすると、造孔剤の有機物を多量に添加する必要があり、製造プロセスにおける脱脂後の強度を保つためには無機バインダーとして機能する層状無機材料の添加量を増やす必要があるが、無機バインダーとしての機能に最も優れ、広く実用化されているNa型モンモリロナイトをはじめとするアルカリイオン型スメクタイト(特許文献4参照)の添加量を増やすと、アルカリ金属の含有量が多くなり、そのアルカリ金属が酸化皮膜中のα−クリストバライト相の形成を促進してしまうため、α−クリストバライトのα→β相転移による熱膨張が大きくなり、耐熱衝撃性が低下してしまう。
【0012】
また、特許文献2に係る発明の場合、炭化珪素質多孔体の比表面積が増加し、それに伴い酸化皮膜の量が多くなり、酸化皮膜中に含まれるα−クリストバライトのα→β相転移による熱膨張が大きくなるため、耐熱衝撃性がさらに低下してしまう。
【0013】
特許文献5に係る発明、即ち、成形セラミック基材中の元素ナトリウム含有量を制御する発明は成形セラミック基材に含まれるナトリウムと選択的還元触媒との化学的相互作用低減に着目するものであり、上記耐熱衝撃性の問題点を一切意識していない。さらに、特許文献5において成形セラミック基材として使用される、触媒担体用コージェライト又はチタン酸アルミニウムについては、主原料の工業用アルミナの製法上、アルカリ金属の低減には限界があり、ナトリウム含有量500ppm以下の材料を作ることは工業的に極めて困難。そのため、上記耐熱衝撃性の問題点を根本的に解決できない。
【0014】
本発明は、上記問題点を勘案してされたものであり、高い耐熱衝撃性を有する炭化珪素質多孔体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討の結果、炭化珪素質多孔体の各種原料中の不純物、あるいは焼成雰囲気(焼成サヤの形状・材質、酸化処理温度)などを制御することにより酸化皮膜へのナトリウムの混入を低減するなどの方法で酸化皮膜中のα−クリストバライトの形成、熱膨張係数の増大を抑制し、高い耐熱性と耐熱衝撃性を有する炭化珪素質多孔体を得られることを知見し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下のように特定される。
(1)(A)骨材となる炭化珪素粒子と、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種とを含み、前記(A)及び/又は(B)の表面に、非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOを有する炭化珪素質多孔体であって、
前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOの中に含まれるα−クリストバライトが6質量%以下である炭化珪素質多孔体。
(2)前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOの厚みが0.5μm以上である(1)に記載の炭化珪素質多孔体。
(3)前記(A)及び(B)の合計質量100部に対して、無機バインダーを1〜5質量部含有する(1)又は(2)に記載の炭化珪素質多孔体。
(4)前記無機バインダーがスメクタイトである(3)に記載の炭化珪素質多孔体。
(5)前記スメクタイトがモンモリロナイトである(4)に記載の炭化珪素質多孔体。
(6)ナトリウムの含有量がNa2O換算で0〜0.12質量%である(1)〜(5)いずれかに記載の炭化珪素質多孔体。
(7)ナトリウムの含有量がNa2O換算で0〜0.05質量%である(1)〜(6)いずれかに記載の炭化珪素質多孔体。
(8)気孔率が55%以上である(1)〜(7)のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体。
(9)(1)〜(8)のいずれか一項に記載の炭化珪素質多孔体により構成されるハニカム構造体。
(10)(A)炭化珪素粒子原料に、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種と、有機バインダーと、無機バインダーを添加して混合した後、所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素含有雰囲気で仮焼して該成形体中の有機バインダーを除去した後、本焼成することにより、前記(A)及び/又は(B)の表面に非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiO生成させることを含む請求項1〜9のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法であって、
前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOを生成させた後の炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%に制御することを含む炭化珪素質多孔体の製造方法。
(11)(A)炭化珪素粒子原料に、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種と、有機バインダーと、無機バインダーを添加して混合した後、所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素含有雰囲気で仮焼して該成形体中の有機バインダーを除去した後、本焼成を行い、次いで、酸素含有雰囲気で500〜1400℃の温度範囲で熱処理することにより、前記(A)及び/又は(B)の表面に非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiO生成させることを含む請求項1〜9のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法であって、
前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOを生成させた後の炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%に制御することを含む炭化珪素質多孔体の製造方法。
(12)(A)炭化珪素粒子原料に、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種と、有機バインダーと、無機バインダーを添加して混合した後、所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素含有雰囲気で仮焼して該成形体中の有機バインダーを除去した後、本焼成を行い、次いで、珪素と酸素を含む溶液を用いて、前記(A)及び/又は(B)の表面をコートした後、熱処理することにより、前記(A)及び/又は(B)の表面に非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiO生成させることを含む請求項1〜9のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法であって、
前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOを生成させた後の炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%に制御することを含む炭化珪素質多孔体の製造方法。
(13)前記無機バインダー内のナトリウムの一部又は全部を非金属イオンに置換してから、前記炭化珪素粒子原料に添加する(10)〜(12)のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
(14)前記無機バインダーがスメクタイトである(10)〜(13)のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
(15)前記スメクタイトがモンモリロナイトである(14)に記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
(16)前記炭化珪素質多孔体がハニカム構造体である(10)〜(15)のいずれかに記載の炭化珪素質多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い耐熱衝撃性を有する炭化珪素質多孔体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の炭化珪素質多孔体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の炭化珪素質多孔体の一の実施形態のセルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の一の実施形態の炭化珪素質多孔体を適用したハニカム触媒体における、セルの流路方向に垂直な断面を拡大した拡大断面図である。
図4】本発明の一の実施形態の炭化珪素質多孔体の製造条件を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0019】
(骨材となる炭化珪素粒子)
本実施形態の炭化珪素質多孔体は、(A)骨材となる炭化珪素粒子を含む。炭化珪素にはα−SiC、β−SiCという多形が存在するが、本発明の炭化珪素質多孔体は、含有される炭化珪素が全てβ−SiCであるか、α−SiCとβ−SiCの両方を含有するものであることが好ましい。α−SiCとβ−SiCの両方を含有するものである場合には、α−SiCとβ−SiCの合計に対する、β−SiCの含有割合は、下限が、好ましくは5質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、上限が、好ましくは100質量%未満、更に好ましくは90質量%以下、特に好ましくは80質量%以下である。β−SiCの含有割合が上記数値範囲内であると、強度を十分なものとすることができる。なお、β−SiCの含有割合が5質量%未満であると、強度が不十分となる傾向にある。また、炭化珪素粉末は、平均粒径10〜50μmのものを使用することが好ましい。
【0020】
本実施形態の炭化珪素質多孔体を構成する炭化珪素には、通常、少なくとも一部のβ−SiCは粒子の状態で含まれている。この粒子状のβ−SiCの少なくとも一部は、本発明の炭化珪素質多孔体の製造に使用した炭素原料が珪素と反応して形成されたものであるが、このβ−SiCは前記炭素原料の粒子形状を維持しているか、又は前記炭素原料の粒子形状が大きく変化することなく、前記炭素原料の粒子形状に類似した形状を呈した状態で炭化珪素質多孔体中に含有されていることが好ましい。β−SiCの少なくとも一部が、このような形状で含有されていると、高気孔率かつ大気孔径な炭化珪素質多孔体が得られやすい。
【0021】
(金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種)
本実施形態の炭化珪素質多孔体は、上述した骨材のほか、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種を含有する。
【0022】
耐火性粒子である炭化珪素粒子の結合に金属珪素を利用したことにより、耐火性粒子の結合にガラス質を利用した従来の構造体に比して高い熱伝導率を有するので、例えばDPFに使用した場合において、フィルター再生のために堆積したパティキュレートを燃焼させても、フィルターを損傷させるような局所的な温度上昇が生じない。また、金属珪素粉末は、平均粒径1〜20μmのものを使用することが好ましい。
【0023】
また、原料混合物に含有させる金属の少なくとも一部にAlを使用して、炭化珪素質多孔体を製造する場合には、焼成過程でAlが酸化し、炭化珪素質多孔体中にアルミナ(Al23)が形成される。原料として添加されたAlは、SiCと珪素(シリコン(Si))あるいは珪化物(シリサイド)との濡れ性を向上させる作用があり、これにより炭化珪素質多孔体中のSiCの粒成長が促進されて、粒径の大きいSiCを骨材とする組織が得られ、高強度な炭化珪素質多孔体となる。
【0024】
ムライト(3Al23・2SiO2)はアルミナ源とすることができる。
【0025】
コーディエライトは、例えばシリカ(SiO2)が42〜56質量%、アルミナ(Al23)が30〜45質量%、マグネシア(MgO)が12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合された原料からなるセラミックスである。具体的には、例えば、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルク、シリカ、カオリン等の中から選ばれた複数の無機原料を、上記化学組成となるような割合で含むセラミックス原料を焼成することによって得ることができる。
【0026】
上記(A)と(B)の質量比は特に限定されないが、例えば質量比で90:10〜60:40程度が好ましい。
【0027】
(非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiO)
本実施形態の炭化珪素質多孔体は、前述の(A)及び/又は(B)の表面に、非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiO(以下、単に「酸化皮膜」と称する。)を有する。酸化皮膜を有するために、DPFとして使用されるような低酸素雰囲気下で高温に晒された場合においても、(A)又は(B)の酸化分解が抑制される。すなわち、本発明の炭化珪素質多孔体においては耐酸化性が向上しているために、フィルター再生時の炭化珪素や金属珪素の酸化反応などによる発熱でフィルターが損傷されるようなことはない。また、これらの組成からなる相を(A)及び/又は(B)の表面に有することにより、耐酸化性、耐酸性、耐パティキュレート反応性、及び耐熱衝撃性の向上が効果的になされる。
【0028】
酸化皮膜は、前述の(A)及び/又は(B)の一部の表面にあれば上記効果を得ることができるが、前述の(A)及び/又は(B)の全表面にあることが好ましい。また、上記の効果をさらに向上させる観点から、非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOの厚みが0.5μm以上であることが好ましい。
【0029】
ここで、酸化皮膜の厚みの測定方法としては、樹脂にて包含した炭化珪素質多孔体をダイヤモンドスラリー等を用いて鏡面研磨したものを観察試料とし、この断面研磨面について、SEMを用いて750倍の倍率で炭化珪素質多孔体本体の周囲の酸化皮膜を観察し、酸化皮膜と細孔との界面から、酸化皮膜と炭化珪素粒子との界面までの厚さを計測し酸化皮膜の厚みとする。750倍の倍率の視野の中から、15箇所の任意の箇所を選び、計測した酸化皮膜の厚さの平均値を上記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOの厚みとする。
【0030】
(α−クリストバライト)
本実施形態において、非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOの中に含まれるα−クリストバライトが6質量%以下である。
【0031】
前述のように、酸化皮膜中のα−クリストバライトが多い場合、α−クリストバライトのα→β相転移による熱膨張が大きくなり、耐熱衝撃性が低下してしまうので、α−クリストバライトを6質量%以下に制御することが肝要である。α−クリストバライトの制御方法は後述する。
【0032】
酸化皮膜中のα−クリストバライトの含有量の測定方法として、X線解析(XRD)測定により結晶相を同定し、リートベルト解析により各結晶相の定量を行うことができる。
【0033】
(無機バインダー)
本実施形態の炭化珪素質多孔体は、前述の(A)及び(B)の合計質量100部に対して、無機バインダーを1〜5質量部含有することができる。
【0034】
例えば、無機バインダーとして、層状構造を有する無機材料(無機層状材料)を含むことができる。ここで「層状構造」とは、例えば、1986年丸善株式会社発行の「セラミックス辞典」に記載されているように、「特に原子が密に充填された面が互いにやや弱い結合力(例えば、ファンデルワールス力や層間陽イオンを介した静電的な力など)で平行に並んでいるような構造」を意味する。
【0035】
本実施形態に用いられる無機層状材料(鉱物群)としては、例えば、パイロフィライト−タルク(具体的には、タルク、層間陽イオン:なし)、スメクタイト(具体的には、モンモリロナイト、ヘクトライト、層間陽イオン:Na、Ca)、バーミキュライト(具体的には、バーミキュライト、層間陽イオン:Mg、(Na、K、Ca))、雲母(具体的には、白雲母、イライト、層間陽イオン:K、Na、Ca(Mg、Fe))、脆雲母(具体的には、マーガライト、層間陽イオン:Ca)、ハイドロタルサイト(具体的には、ハイド ロタルサイト、層間陽イオン:なし)等を挙げることができる。このように、本実施形態に用いられる無機層状材料は、ナトリウム、カルシウム、カリウム等の元素(陽イオン)を含んでいるものが多い。
【0036】
本実施形態においては、無機層状材料の含有割合を、(A)と(B)の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部とし、好ましくは、1.0〜5.0質量%としている。0.01質量部未満であると、仮焼(脱バインダ)後のハニカム成形体にクラックを発生させたり、強度を低下させ、10質量部を超えると、本焼成の際に酸化物の焼成収縮に起因する気孔率の低下を招く。なお、本発明に用いられる無機層状材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本実施形態においては、無機層状材料として、スメクタイトを用いることが価格、組成の観点から好ましい。スメクタイトとは、主に、アルミニウム(Al)又はマグネシウム(Mg)と酸素(O)とからなる八面体層の上下を、主に、ケイ素(Si)又はアルミニウム(Al)と酸素(O)とからなる四面体層で挟持したシートを1単位として、その層間にアルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンを保持した構造を特徴とする粘土鉱物群を意味し、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等の粘土鉱物が含まれる。また、モンモリロナイトを多く含む粘土を一般的にベントナイトということがある。
【0038】
本実施形態においては、スメクタイトとして、層間陽イオンがアルカリイオンであるアルカリイオン型スメクタイトを用いることが、坏土の可塑性、成形性を向上させる点から好ましい。
【0039】
本実施形態においては、スメクタイトとして、層間陽イオンがアルカリ土類金属イオンであるアルカリ土類金属型スメクタイトを用いることが、焼成時のアルカリ金属の蒸発を抑制することができる点から好ましい。
【0040】
本実施形態においては、無機層状材料として、ハイドロタルサイトを用いることが焼成時のアルカリ金属の蒸発を抑制することができる点から好ましい。タルクを用いてもよい。タルクを用いてもハイドロタルサイトと同様の効果を得ることができる。
【0041】
(ナトリウムの含有量)
本実施形態において、炭化珪素質多孔体のナトリウム含有量はNa2O換算で0〜0.12質量%であることが好ましい。ナトリウム含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%とすることにより、酸化皮膜中のα−クリストバライト相の形成の促進を抑制することができるので、酸化皮膜中のα−クリストバライトを6質量%以下に制御することが容易になる。この観点から、炭化珪素質多孔体のナトリウム含有量はNa2O換算で0〜0.05質量%であることがさらに好ましい。
ナトリウム含有量の制御方法は後述する。
【0042】
(気孔率)
本実施形態において、炭化珪素質多孔体の気孔率は55%以上であることが好ましい。気孔率を55%以上とすることにより、圧力損失を低減できるとともに、選択的還元触媒を多く担持することができる。後述の方法により、酸化皮膜中のα−クリストバライトが6質量%以下に制御しつつ、炭化珪素質多孔体の気孔率を55%以上とすることは可能である。
【0043】
気孔率は、水銀圧入法(JIS R 1655準拠)による全細孔容積(単位:cm3/g)と、水中アルキメデス法による見掛け密度(単位:g/cm3)から算出することができる。
【0044】
(その他)
本実施形態においては、高気孔率の炭化珪素質多孔体とするため、成形原料中に造孔剤をさらに含有させてもよい。このような造孔剤は、気孔の鋳型となるもので、所望の形状、大きさ、分布の気孔を、炭化珪素質多孔体に形成し、気孔率を増大させ、高気孔率の多孔質ハニカム構造体を得ることができる。このような造孔剤としては、例えば、グラファイト、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、又は発泡樹脂(アクリロニトリル系プラスチックバルーン)等を挙げることができる。これらは気孔を形成する代わりに自身は焼失する。中でも、CO2や有害ガスの発生及びクラックの発生を抑制する観点から、発泡樹脂が好ましい。なお、造孔剤を用いる場合、造孔剤の含有割合を、(A)と(B)の合計100質量部に対して50質量部以下とすることが好ましく、20質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態においては、成形原料である(A)及び(B)中に分散媒をさらに含有させてもよい。このような分散媒としては、例えば、水、ワックス等を挙げることができる。分散媒を含有させる割合は、用いる成形原料によって異なるため一義的に決定することは困難であるが、成形時における坏土が適当な硬さを有するものとなるようにその量を調整することが好ましい。
【0046】
(炭化珪素質多孔体)
本発明において、炭化珪素質多孔体の形状は特に限定されないが、例えば、図1図2に示すハニカム構造体100である。このハニカム構造体100は、上述した本発明の多孔質材料により構成されている。そして、ハニカム構造体100は、一方の端面である第一端面11から他方の端面である第二端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1を備える形状のものである。なお、図示ではハニカム構造体が円柱状であるが、ハニカム構造体の形状としては、特に限定されず、円筒状、底面が多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)の筒状等を挙げることができる。
【0047】
隔壁1の厚さは、100〜500μmであることが好ましく、125〜400μmであることが更に好ましい。上記隔壁1の厚さが下限値未満であると、強度が低下するため、ハニカム構造体を缶体に収納する時にハニカム構造体が破損するおそれがある。上記上限値超であると、圧力損失が上昇するおそれがある。
【0048】
ハニカム構造体100のセル形状(セルが延びる方向に直交する断面におけるセル形状)としては、特に制限はない。セル形状としては、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。四角形のなかでは、正方形または長方形が好ましい。
【0049】
ハニカム構造体100のセル密度は、15〜77セル/cm2であることが好ましく、20〜62セル/cm2が更に好ましく、23〜54セル/cm2が特に好ましい。上記セル密度が下限値未満であると、強度が低下するため、ハニカム構造体を缶体に収納する時にハニカム構造体が破損するおそれがある。上記セル密度が上限値超であると、圧力損失が上昇するおそれがある。
【0050】
ハニカム構造体100は、図1図2に示すように、複数個の柱状のハニカムセグメント17と、これら複数個のハニカムセグメント17の側面同士を接合するように配置された接合層15と、を備えている。このようなセグメント構造とすることにより、ハニカム構造体をフィルターとして使用する際にハニカム構造体が受ける応力を緩和させることができる。
【0051】
ハニカム構造体100は、第一端面11における所定のセル2(流出セル2b)の開口部及び第二端面12における残余のセル2(流入セル2a)の開口部に配設された目封止部8を備えている。本発明のハニカム構造体をDPF等として使用する場合には、このような構造であることが好ましい。即ち、目封止部8を備えることにより、本発明のハニカム構造体に流入した排ガスは、隔壁でろ過されるため、排ガス中の粒子状物質を良好に捕集することができる。なお、ハニカム構造体100において流入セル2aと流出セル2bとは、交互に並んでいる。それによって、ハニカム構造体100の第一端面11及び第二端面12のそれぞれに、目封止部8と「セルの開口部」とにより、市松模様が形成されている。
【0052】
目封止部8の材質とハニカムセグメント17の材質とは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
【0053】
ハニカム構造体100は、図1図2に示すように、その外周に外周コート層20を有していてもよい。この外周コート層20は、ハニカムセグメントと同じ材質とすることができる。外周コート層20を形成することにより、ハニカム構造体100の搬送中などに外力を受けたとしても欠けなどの欠陥を生じ難くなる。
【0054】
本実施形態の炭化珪素質多孔体は、隔壁に触媒を担持することにより、排気ガスに含まれる一酸化炭素等の被浄化成分を浄化する触媒体として用いることができる。例えば、図3においては、セル2を区画形成する隔壁1の気孔を埋めるように触媒22が付着している。ここで、図3は、本実施形態の炭化珪素質多孔体を適用したハニカム触媒体における、セルの流路方向に垂直な断面を拡大した拡大断面図である。なお、図示では触媒22はドット状に分布しているが、触媒22の分布状態は特に限定されない。
【0055】
このような触媒としては、例えば、ガソリンエンジン排気ガス浄化三元触媒、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジン排気ガス浄化用の酸化触媒、NOx選択還元用SCR触媒等の触媒を挙げることができる。具体的には、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属元素や銅イオン交換ゼオライトを含む単体又は化合物を挙げることができる。
【0056】
一般に、ある流路内を排気ガスが通過する際における、排気ガスに含まれる被浄化成分の伝達し易さは、その流路の水力直径の二乗に反比例する。そして、触媒を担持したハニカム構造体において、セルの水力直径と、気孔の水力直径とでは、気孔の水力直径の方が格段に小さい。このため、ハニカム構造体において、セルの内表面に担持された触媒からなる触媒層(以下、「セル表面触媒層」ということがある)と、気孔の内表面に担持された触媒からなる触媒層(以下、「気孔表面触媒層」ということがある)とでは、気孔表面触媒層の方が、排気ガスに含まれる被浄化成分がより伝達され易い。従って、セル表面触媒層に含有される触媒(例えば、上記貴金属)の量に比して、気孔表面触媒層に含有される触媒の量を増やすことにより、排気ガスの浄化効率を向上させることができる。
【0057】
(製造方法)
以下、本発明の炭化珪素質多孔体の製造方法を説明する。
本発明の炭化珪素質多孔体の製造方法は、(A)炭化珪素粒子原料に、(B)金属珪素、アルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトからなる群により選択される少なくとも一種と、有機バインダーと、無機バインダーを添加して混合した後、所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素含有雰囲気で仮焼して該成形体中の有機バインダーを除去した後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気において本焼成することにより、前記(A)及び/又は(B)の表面に非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiO生成させることを含む炭化珪素質多孔体の製造方法であって、前記非晶質及び/又は結晶質のSiO2若しくはSiOを生成させた後の炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%に制御することを含む炭化珪素質多孔体の製造方法である。
【0058】
まず、上述の成形原料を混練して、必要に応じて、界面活性剤、造孔剤、水等を添加して、坏土を調製し、調製された坏土を成形、乾燥してハニカム形状等の成形体を作製し、作製された成形体を仮焼成して仮焼体とした後に仮焼体を本焼成して多孔質のハニカム構造体等を得るが、以下、工程ごとに具体的に説明する。
【0059】
成形原料を混練して坏土を調製する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。なお、成形原料Fe、Al、Caなどの微量の不純物を含有するケースがあるが、そのまま使用してもよく、薬品洗浄などの化学的な処理を施して精製したものを用いてもよい。また、ハニカム構造体をフィルターとして使用する場合には、気孔率を高める目的で、坏土の調合時に造孔剤を添加してもよい。
【0060】
造孔剤としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
造孔剤の含有量は、骨材粉体及び結合材用原料の合計100質量部に対して、0.3〜40質量部であることが好ましい。
【0062】
造孔剤の平均粒子径は、10〜70μmであることが好ましい。
【0063】
有機バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。有機バインダーの含有量は、骨材粉体及び結合材用原料の合計100質量部に対して、3〜10質量部であることが好ましい。
【0064】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、骨材粉体及び結合材用原料の合計100質量部に対して、3質量部以下であることが好ましい。
【0065】
前記坏土をハニカム形状等をはじめとする所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素含有雰囲気で仮焼して成形体中の有機バインダーを除去(脱脂)した後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気において本焼成を行うことにより、酸化皮膜が(A)及び/又は(B)の表面に形成されてなる所定の形状を有する炭化珪素質多孔体を製造することができる。なお、成形する形状や成形方法は、特に限定されず、用途に合わせて適宜決定することができる。
【0066】
したがって、酸素含有雰囲気で仮焼することにより、例えば下記式(1)あるいは(2)にしたがって酸化反応が進行し、シリカの酸化皮膜が形成される。
SiC+2O2→SiO2+CO2↑…(1)
Si+O2→SiO2…(2)
【0067】
次に、本発明に係る炭化珪素質多孔体の製造方法の別の例を説明する。すなわち、前記調合粉あるいは坏土をハニカム形状等をはじめとする所定の形状に成形し、得られた成形体を仮焼して成形体中の有機バインダーを除去(脱脂)した後、本焼成を行い、さらに酸素含有雰囲気で熱処理を実施することによっても、酸化皮膜が前記(A)及び/又は(B)の表面に形成されてなる所定の形状を有する炭化珪素質多孔体を製造することができる。
【0068】
なお、本実施形態の炭化珪素質多孔体の製造方法においては、前記酸素含有雰囲気下で実施する熱処理は500〜1400℃とすることが好ましく、550〜1350℃とすることがさらに好ましく、600〜1300℃とすることがさらに好ましい。500℃未満の場合は、酸化皮膜の形成が不十分であり、逆に、1400℃を超える場合は、所定の形状を保てない場合があるために好ましくない。したがって、当該温度範囲に規定した本発明の炭化珪素質多孔体の製造方法によれば、酸化皮膜を成形体の表面に効果的に形成することが可能である。
【0069】
次に、本発明に係る炭化珪素質多孔体の製造方法のさらに別の例を説明する。すなわち、前記調合粉あるいは坏土をハニカム形状等をはじめとする所定の形状に成形し、得られた成形体を仮焼して成形体中の有機バインダーを除去(脱脂)した後、本焼成を行い、さらに珪素と酸素を含む溶液を用いて、成形体を構成する(A)及び/又は(B)の表面をコートする。次いで熱処理を行うことにより、酸化皮膜が(A)及び/又は(B)の表面に形成されてなる所定の形状を有する炭化珪素質多孔体を製造することができる。したがって、酸化反応によって酸化皮膜を設ける手法と異なり、珪素と酸素を含むコート液を用いることによっても、目的とする炭化珪素質多孔体を製造することができる。
【0070】
このときに用いる、珪素と酸素を含む液体は、例えばシリコンアルコキシド、シリカゾル、又は、水ガラス等を主成分とするものを採用することができ、必要に応じてこれらを混合して使用してもよい。また、コート後の熱処理は、50℃〜1400℃で10分〜4週間行えばよい。コートすることによって設ける酸化皮膜の厚さは、液体の珪素濃度を調整することによって適宜コントロールすることができる。又は、液体への浸漬と乾燥を繰り返し行うことによって相の厚さを厚くすることも可能である。さらには、液体中から被コート体を取り出す速度を調整することによっても、相の厚さをコントロールすることができる。
【0071】
また、本実施形態の炭化珪素質多孔体の製造方法においては、本焼成後の成形体の表面をコートした後に実施する熱処理を、50〜1400℃で実施することが好ましく、100〜1300℃で実施することがさらに好ましく、150〜1200℃で実施することがさらに好ましい。50℃未満の場合は、(A)及び/又は(B)の表面に酸化皮膜が十分に形成されるまでに長時間を要し、逆に、1400℃を超える場合は、金属珪素の融点に近くなり、所定の形状を保てない場合があるために好ましくない。したがって、当該温度範囲に規定した本発明の炭化珪素質多孔体の製造方法は、酸化皮膜を(A)及び/又は(B)の表面に効果的に形成することが可能である。
【0072】
なお、本実施形態の炭化珪素質多孔体の製造方法においては、仮焼は金属珪素が溶融する温度より低い温度にて実施することが好ましい。具体的には、150〜700℃程度の所定の温度で一旦保持してもよく、また、所定温度域で昇温速度を50℃/hr以下に遅くして仮焼してもよい。また、所定の温度で一旦保持する手法については、使用した有機バインダーの種類と量により、一温度水準のみの保持でも複数温度水準での保持でもよく、さらに複数温度水準で保持する場合には、互いに保持時間を同じにしても異ならせてもよい。また、昇温速度を遅くする手法についても同様に、ある一温度区域間のみ遅くしても複数区間で遅くしてもよく、さらに複数区間の場合には、互いに速度を同じとしても異ならせてもよい。
【0073】
耐火性粒子が金属珪素で結合された組織を得るためには、金属珪素が軟化する必要がある。金属珪素の融点は1410℃であるので、本焼成の際の焼成温度は1410℃以上とすることが好ましい。さらに最適な焼成温度は、微構造や特性値から決定される。ただし、1600℃を超える温度では金属珪素の蒸発が進行し、金属珪素を介した結合が困難になるため、焼成温度としては1410〜1600℃が適当であり、1420〜1580℃が好ましい。
【0074】
上記いずれの実施形態の炭化珪素質多孔体の製造方法においても、酸化皮膜を生成させた後の炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%に制御することが肝要である。酸化皮膜を生成させた後の炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量をNa2O換算で0〜0.12質量%であれば、α−クリストバライトの生成が抑えられるため、酸化皮膜中に含まれるα−クリストバライトを6質量%以下とすることが可能となる。
【0075】
炭化珪素質多孔体の中のナトリウムの含有量を制御する方法として、まず、原料に含まれるナトリウムを低減することが考えられる。具体的には、無機バインダー中のナトリウムの一部又は全部を非金属イオンに置換してから、前記炭化珪素粒子原料に添加することが考えられる。
【0076】
非金属イオンとしては限定されないが、例えばアンモニウムイオン(NH4+)が考えられる。置換の方法は、種々の公知の方法を用いることができる。
【0077】
また、酸化皮膜中に含まれるα−クリストバライトの形成は、炭化珪素質多孔体の中のナトリウムが原因であると考えられるほか、炭化珪素質多孔体の焼成において環境から酸化皮膜に混入するナトリウムも一因であると考えられる。そのため、炭化珪素質多孔体の製造途中、焼成雰囲気(焼成レンガ、窯道具の材質、窯道具の形状、不活性ガスの流量)などを制御することにより酸化皮膜へのナトリウムの混入を低減することで、酸化皮膜中に含まれるα−クリストバライトの形成を抑制することができる。
【0078】
図4は、成形体4を仮焼及び本焼成する際の一般的な環境条件を示す図である。成形体4の仮焼及び本焼成は焼成炉31内で行われる(説明のため図4では一部の炉壁のみを示す。)。成形体4は棚板32上に載置され、成形体4と棚板32との間には、通常溶着防止のための目砂34が敷かれている。棚板32上の成形体4は、サヤと呼ばれる囲33によって包囲される。
なお、図示では棚1段につき成形体4を一つのみ示しているが、1段あたりの成形体数は必要及び設備条件に応じて適宜設定でき、例えば1段あたり6〜12本程度の成形体4を設置することができる。
【0079】
成形体4を仮焼して該成形体中の有機バインダーを除去するためには、酸素が必要であるので、サヤ33を通気するためには窓331を設ける必要がある(図4(a)参照)。
【0080】
成形体4の焼成において環境から酸化皮膜に混入するナトリウムには、炉31の壁やサヤ33から発せられるものがある。そのため、炉31の壁からのナトリウムの混入を防止するために、仮焼後、窓331のあるサヤ33を窓のないサヤに入れ替え(図4(b)参照)、本焼成を行うことが考えられる。また、ナトリウム含有量が少ない材料からなる炉31又はサヤ33を使用することも考えられる。
【0081】
さらに、炉31内の雰囲気を調製することも考えられる。具体的には、不活性ガスの流量を増やすことにより、炉31やサヤ33から発せられるナトリウム蒸気の濃度を薄めることでナトリウムの混入を抑制することも考えられる。
【0082】
焼成後のハニカム成形体4をハニカムセグメントとして利用し、複数のハニカムセグメントの側面同士を接合材で接合して一体化し、ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体とすることができる。ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体は例えば以下のように製造することができる。各ハニカムセグメントの両底面に接合材付着防止用マスクを貼り付けた状態で、接合面(側面)に接合材を塗工する。
【0083】
次に、これらのハニカムセグメントを、ハニカムセグメントの互いの側面同士が対向するように隣接して配置し、隣接するハニカムセグメント同士を圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、隣接するハニカムセグメントの側面同士が接合材によって接合されたハニカム構造体を作製する。ハニカム構造体に対しては、外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、外周面にコーティング材を塗工した後、加熱乾燥させて外周壁を形成してもよい。
【0084】
接合材付着防止用マスクの材料は、特に制限はないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)等の合成樹脂を好適に使用可能である。また、マスクは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。
【0085】
接合材付着防止用マスクとしては、例えば厚みが20〜50μmの粘着フィルムを好適に使用することができる。
【0086】
接合材としては、例えば、セラミックス粉末、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダー、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するセラミックスであることが好ましく、ハニカム構造体と同材質であることがより好ましい。バインダーとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)などを挙げることができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0088】
表1に示されるセラミック粉末(A)と、セラミック粉末(B)とを用意し、(A)と(B)合計100質量部に対し、表1に示される各実施例及び比較例の組成となるように、無機バインダー、造孔剤、有機バインダー及び水を所定の質量部加え、均一に混合及び混練して成形用の坏土を得た。得られた坏土を、押出成形機にて隔壁の厚さが0.30mm、セル密度が46セル/cm2、一辺36mmの正四角形の端面を有し、長さが141mmの四角柱状のハニカム成形体に成形した。
なお、表1において、「Naレスアルミナ」中のNa量は約0.05質量%であり、「Naレスシリカ」中のNa量は0.01質量%以下であり、「Naレスモンモリロナイト」中のNa量は約0.07質量%であり、「Naレスデンプン」中のNa量は約0.01質量%である。
【0089】
ハニカム成形体について、表2に示される条件で、仮焼、本焼成及び酸化処理を行い、酸化皮膜を有する炭化珪素質多孔体を作成した。
なお、表2において、「SINSIC」はNGKアドレック社製品であり、「SUS」はワナミテック社製SUS304である。
【0090】
(α−クリストバライト)
各実施例及び比較例の炭化珪素質多孔体について、酸化皮膜中に含まれるα−クリストバライトの量を以下のように測定した。
まず、X線回折装置(Bruker AXS社製、D8 ADVANCE)を用いて酸化皮膜のX線回折パターンを得た。(主な測定条件:CuKαの特性X線、管球電圧10kV、管球電流20mA、回析角2θ=5〜100°)。次に、解析ソフトTOPAS(Bruker AXS社製)を用いて、リートベルト法により得られたX線回折データを解析して各結晶相を定量した。
【0091】
(酸化皮膜の厚み)
樹脂にて包含した炭化珪素質多孔体をダイヤモンドスラリーを用いて鏡面研磨したものを観察試料とし、この断面研磨面をSEMを用いて750倍の倍率で炭化珪素の周囲の酸化膜を観察し、酸化膜と細孔との界面から、酸化皮膜と炭化珪素粒子との界面までの厚さを計測し酸化膜の厚さとした。750倍の倍率の視野の中から、15箇所の任意の箇所を選び、計測した酸化膜の厚さの平均値を、多孔質材料の酸化膜厚さとした。
【0092】
(ナトリウム(Na2O)及びその他化学成分)
ナトリウム(Na2O)及びその他化学成分は、ICP発行分光法で定量分析を行った。
【0093】
(気孔率)
気孔率は、水銀圧入法(JIS R 1655準拠)による全細孔容積(単位:cm3/g)と、水中アルキメデス法による見掛け密度(単位:g/cm3)から算出した。
【0094】
(熱膨張係数)
熱膨張係数は、JIS R 1618に準拠する方法で測定した。
【0095】
(耐熱衝撃性試験)
耐熱衝撃性試験として、急速冷却試験(電気炉スポーリング試験)で評価を行った。具体的には、各実施例及び比較例の四角柱状の炭化珪素質多孔体(ハニカムセグメント)を接合材層を介して合計16個組み合わせた後、外周研削・コーティングを施して作製した円筒状のハニカム構造体を用いた。ハニカム構造体の作製方法を以下に示す。
まず、ハニカムセグメントの接合は、炭化珪素とセラミックスファイバーを主成分として含み、無機接着材としてコロイダルシリカを含む接合材を用い、加圧接合した後、140℃にて2時間乾燥させることにより、ハニカムセグメント接合体を得た。次に得られたハニカムセグメント接合体の外周を円筒状に切削した後、炭化珪素とセラミックスファイバーを主成分として含み、無機接着材としてコロイダルシリカを含む外周コート材を塗布した後、600℃にて2時間乾燥硬化させて得られたハニカム構造体を試験サンプルとした。
炭化珪素質多孔体のハニカム構造体を電気炉にて所定の開始温度(350℃または400℃)で2時間加熱し、全体を均一な温度にした後、電気炉から取り出して、室温まで急速冷却した。そして、その急速冷却後、ハニカム構造体にクラックが発生していたか否かにより、耐熱衝撃性を評価した。開始温度400℃でクラックの発生が認められない場合を「良」、開始温度400℃でクラックの発生が認められるが、開始温度350℃でクラックの発生が認められない場合を「可」、開始温度350℃でクラックの発生が認められる場合を「不可」とした。
【0096】
(耐酸化性試験)
炭化珪素のアクティブ酸化が発生しやすい所定の低酸素雰囲気下(酸素濃度1%)での重量増加率で評価を行った。
具体的には、炭化珪素質多孔体を一辺が約10mmの立方体状に切り出して測定試料とし、重量(A)を測定した。測定試料を雰囲気制御可能な電気炉を用いて酸素濃度1%雰囲気下で昇温速度300℃/hの速度で1200℃まで昇温し、10分間保持し、その後、300℃/hで室温まで降温し、電気炉から取り出した後、重量(B)を測定した。熱処理による測定試料の重量増加率((B−A)/A)が0.2%以下の場合は「良」、0.2%より多く1.0%以下の場合は「可」、1.0%よりも多い場合は「不可」とした。
【0097】
(NOx浄化性能試験)
NOx浄化性能試験として、ディーゼル排ガスを模擬したモデルガス試験にて評価を行った。
具体的には、炭化珪素質多孔体を乳鉢で目開き150μmの篩を通る程度まで粉砕した。粉砕した多孔質材料とCu置換ゼオライト触媒とを3:1の重量比率で混合した。混合した粉末を、直径30mmの金型を用いて一軸プレス成形した。成形して得たペレットを2〜3ミリメートルの粒状に解砕した試料を10%の水蒸気を含んだ酸化性雰囲気で、850℃、16時間保持し、熱処理したものを評価試料とした(重量10g)。
この評価試料に対し、自動車排ガス分析装置(SIGU1000:堀場製作所社製)を用いて評価を行った。評価条件としては、温度200℃で、O2を10%、CO2を8%、H2Oを5%、NOを150ppm、NH3を300ppm含む混合ガスを反応ガスとして導入し、測定試料を経た排出ガスの各成分の濃度を排ガス測定装置(MEXA−6000FT:堀場製作所社製)を用いて分析し、NOガスの減少した比率を評価した。NOx変換率が70%以上であったものを良、NOx変換率が50%以上70%未満であったものを可、NOx変換率が50%未満であったものを不可とした。
【0098】
【表1-1】
【0099】
【表1-2】
【0100】
【表2】
【0101】
(考察)
表1に示す結果から、本発明の実施例では、高い耐熱衝撃性を有することが分かった。特に、気孔率が55%以上となれば、高い耐熱衝撃性のほか、NOx浄化性能試験で望ましい結果を得られたことが分かった。また、従来では達成が困難であった、ナトリウム含有量500ppm以下(0.05質量%以下)の水準を達成できたことが分かる。
一方、比較例では酸化皮膜中に含まれるα−クリストバライトが6質量%を超えたため、耐熱衝撃性の評価はいずれも不可となった。
【符号の説明】
【0102】
1…隔壁
100…ハニカム構造体
2…セル
2a…流入セル
2b…流出セル
8…目封止部
11…第一端面
12…第二端面
15…接合層
17…ハニカムセグメント
20…外周コート層
22…触
1…炉
32…棚板
33…サヤ
331…窓
34…目砂
4…ハニカム成形体
図1
図2
図3
図4