特許第6912429号(P6912429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6912429マルチカーエレベーター装置、及びマルチカーエレベーター装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912429
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】マルチカーエレベーター装置、及びマルチカーエレベーター装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 1/18 20060101AFI20210727BHJP
【FI】
   B66B1/18 F
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-144507(P2018-144507)
(22)【出願日】2018年7月31日
(65)【公開番号】特開2020-19614(P2020-19614A)
(43)【公開日】2020年2月6日
【審査請求日】2020年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 勇来
(72)【発明者】
【氏名】前原 知明
(72)【発明者】
【氏名】山下 幸一
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷部 訓
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 貴大
(72)【発明者】
【氏名】松熊 利治
(72)【発明者】
【氏名】棚林 颯
【審査官】 八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−193443(JP,A)
【文献】 特開2004−250191(JP,A)
【文献】 特開平06−199481(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/112079(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0272220(US,A1)
【文献】 特開2008−308239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00−1/52
B66B 9/00−9/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各階にドアを有する昇降路内において上下方向に移動可能に設けられた複数の乗りかごと、
前記昇降路内における前記複数の乗りかごの動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
特定利用客が乗車するための特定呼びが登録された特定階に向けて前記上下方向のいずれかの移動方向に走行する前記複数の乗りかごのうち、前記特定階に対して前記移動方向の手前、又は前記特定階にある少なくとも一つの前記乗りかごを特定かごに割当てるかご割当部と、
前記特定階から前記特定かごの前記移動方向に含まれる複数の前記階を特定運転ゾーンとして設定する特定運転ゾーン設定部と、
前記特定かご以外の前記乗りかごであって、前記特定かごと前記移動方向が同じである前記乗りかごの位置と、前記特定運転ゾーンとの関係に応じて、前記乗りかごの走行を制御し、前記特定階以外の前記階に前記乗りかごを停止させる走行制御部と、
前記特定階以外の前記階に停止した前記乗りかごに乗車する一般利用客に対して降車を促すための制御を行う降車制御部と、を備える
マルチカーエレベーター装置。
【請求項2】
前記走行制御部は、前記特定かごが割当てられた前記乗りかごが前記特定階に到着する前に、前記特定階とは異なる最寄り階に前記乗りかごを停止させる
請求項1に記載のマルチカーエレベーター装置。
【請求項3】
前記走行制御部は、前記一般利用客が乗車した前記特定かごの位置が前記特定運転ゾーン外にあって、前記一般利用客が登録した行先階が前記特定階に対して前記移動方向の手前にあれば、前記行先階に前記特定かごを停止させ、前記行先階が前記特定階に対して前記移動方向の奥にあれば、前記特定階より手前であり、前記特定階とは異なる最寄り階に前記特定かごを停止させる
請求項1に記載のマルチカーエレベーター装置。
【請求項4】
前記走行制御部は、前記一般利用客が乗車した前記乗りかごの位置が前記特定運転ゾーン内にあって、前記一般利用客が登録した行先階が前記特定階に対して前記移動方向の奥にあれば、前記行先階に前記乗りかごを停止させる
請求項1に記載のマルチカーエレベーター装置。
【請求項5】
前記走行制御部は、前記一般利用客が登録した複数の前記行先階のうち、前記乗りかごの前記移動方向の手前の前記行先階に前記乗りかごを停止させる
請求項4に記載のマルチカーエレベーター装置。
【請求項6】
前記走行制御部は、前記一般利用客が乗車した前記乗りかごの位置が前記特定運転ゾーン外にあって、前記特定階に対して前記移動方向の手前に前記乗りかご、前記特定かごの順にあれば、前記特定階の手前の前記階で前記乗りかごを停止させる
請求項1に記載のマルチカーエレベーター装置。
【請求項7】
前記走行制御部は、前記一般利用客が登録した複数の行先階がいずれも前記特定階に対して前記移動方向の手前にあれば、複数の前記行先階毎に前記乗りかごを停止させる
請求項6に記載のマルチカーエレベーター装置。
【請求項8】
前記乗りかごは、表示部又は放音部の少なくともいずれか一つを備え、
前記降車制御部は、前記表示部に降車を促す案内を表示させ、又は前記放音部に前記案内を放音させる
請求項1〜6のいずれか一項に記載のマルチカーエレベーター装置。
【請求項9】
各階にドアを有する昇降路内において上下方向に移動可能に設けられた複数の乗りかごと、
前記昇降路内における前記複数の乗りかごの動作を制御する制御部と、を備えるマルチカーエレベーター装置の制御方法であって、
前記制御部が、特定利用客のための特定呼びが登録された特定階に向けて走行する前記複数の乗りかごのうち、前記特定階に対して、前記乗りかごが移動可能な上下方向のうちのいずれか一つの移動方向の手前、又は前記特定階にある少なくとも一つの前記乗りかごを特定かごに割当てる処理と、
前記特定階から前記特定かごの前記移動方向に含まれる複数の前記階を特定運転ゾーンとして設定する処理と、
前記特定かご以外の前記乗りかごであって、前記特定かごと前記移動方向が同じである前記乗りかごの位置と、前記特定運転ゾーンとの関係に応じて、前記乗りかごの走行を制御し、前記特定階以外の前記階に前記乗りかごを停止させる処理と、
前記特定階以外の前記階に停止した前記乗りかごに乗車する一般利用客に対して降車を促すための制御を行う処理と、を含む
マルチカーエレベーター装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の乗りかごが昇降するマルチカーエレベーター装置、及びマルチカーエレベーター装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、一又は複数の昇降路内に複数の乗りかごが循環移動するマルチカーエレベーター装置に関する技術として、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1には、通常の使用中は、乗りかごをグループ内モードで動作させ、特殊な要求を満たす動作を行わせるときには、乗りかごをグループ外モードで動作させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/126688号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、乗りかごには、一般利用客以外にVIP(Very Important Person)と称される人物や、VIPと同等レベルの警護を要する人物等(以下、これらの人物をまとめて「VIP利用客」と称する。)がエレベーターを利用することがある。VIP利用客に対しては、乗りかごに乗車している間の身の安全を確保することが求められる。
【0005】
このため、VIP利用客に対しては、一般利用客とは異なる対応が求められる。しかし、特許文献1に開示された技術は、単にエレベーターかごを動作させるグループを分けたに過ぎず、グループ外モードではエレベーターかごがどのように動作させるか明確でない。このため、マルチカーエレベーター装置において、VIP利用客を対象とする乗りかごをどのように動作させれば適切であるか示されておらず、VIP利用客が乗車する乗りかごに一般利用客も乗車するおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、マルチカーエレベーター装置において特定利用客が乗車する特定かごに一般利用客が乗車しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るマルチカーエレベーター装置は、各階にドアを有する昇降路内において上下方向に移動可能に設けられた複数の乗りかごと、昇降路内における複数の乗りかごの動作を制御する制御部と、を備える。制御部は、特定利用客が乗車するための特定呼びが登録された特定階に向けて上下方向のいずれかの移動方向に走行する複数の乗りかごのうち、特定階に対して移動方向の手前、又は特定階にある少なくとも一つの乗りかごを特定かごに割当てるかご割当部と、特定階から特定かごの移動方向に含まれる複数の階を特定運転ゾーンとして設定する特定運転ゾーン設定部と、特定かご以外の乗りかごであって、特定かごと移動方向が同じである乗りかごの位置と、特定運転ゾーンとの関係に応じて、乗りかごの走行を制御し、特定階以外の階に乗りかごを停止させる走行制御部と、特定階以外の階に停止した乗りかごに乗車する一般利用客に対して降車を促すための制御を行う降車制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定呼びが登録された特定階以外の階に停止した乗りかごに乗車する一般利用客に対して降車を促すための制御が行われ、一般利用客が降車するため、特定利用客が乗車する特定かごに一般利用客が乗車しなくなる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係るマルチカーエレベーター装置の概略構成図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る乗りかごの概略構成図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る全体コントローラーの内部構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の一実施の形態に係るマルチカーエレベーター装置の動作例(前半部分)を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施の形態に係るマルチカーエレベーター装置の動作例(後半部分)を示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施の形態に係る一般利用客が乗車しているVIP割当てかごから登録された最も近い行先階がVIP階より手前であるときのVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。
図7】本発明の一実施の形態に係る一般利用客が乗車しているVIP割当てかごで登録された最も近い行先階がVIP階より奥であるときのVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。
図8】本発明の一実施の形態に係る一般利用客が乗車する乗りかごのかご位置がVIP運転ゾーン内にあるときの乗りかご及びVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。
図9】本発明の一実施の形態に係るVIP割当てかごの手前にいる乗りかごで登録された行先階がVIP運転ゾーン内であるときの乗りかご及びVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。
図10】本発明の一実施の形態に係る一般利用客が乗車する乗りかごで登録された行先階がVIP運転ゾーン外であるときの乗りかご及びVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0011】
[一実施形態]
<マルチカーエレベーター装置の構成>
始めに、一実施形態に係るマルチカーエレベーター装置の構成例について、図1図2を参照して説明する。
図1は、マルチカーエレベーター装置100の概略構成図である。
図2は、乗りかご1の概略構成図である。
【0012】
マルチカーエレベーター装置100は、建築物の上下方向に貫通して設けられた2つの昇降路20と、昇降路20内において上下方向に循環移動可能に設けられた複数対(ここでは一例として三対)の乗りかご1とを有する。また、マルチカーエレベーター装置100は、乗りかごA1〜C2の運行を制御する制御装置6を備える。
【0013】
昇降路20の各階には乗り場ドア9,10及び降り場ドア11,12が設けられる。以下の説明では、それぞれの乗りかご1を区別しやすくするため、図中の乗りかご1毎にかごドアの上に付した符号により、乗りかごA1,A2,B1,B2,C1,C2とも呼ぶ。本実施の形態において、乗りかご1に乗車する利用客は、一般利用客とVIP利用客(特定利用客の一例)とで区別される。ただし、一般利用客とVIP利用客とを区別しない場合には、単に「利用客」と呼ぶ。
【0014】
<乗りかごの設置状態>
昇降路20内における乗りかごA1〜C2の設置状態として、始めに一対の乗りかごA1,A2を例に挙げて説明する。一対の乗りかごA1,A2のそれぞれは、無端状の第1主索21と、無端状の第2主索22とを把持する。第1主索21は、一対の駆動プーリー23(駆動綱車の一例)と下部プーリー25(下部綱車の一例)とに張架される。第2主索22は、一対の駆動プーリー24(駆動綱車の一例)と下部プーリー26(下部綱車の一例)とに張架される。第1主索21及び第2主索22は、乗りかご1の対に合わせて3組設けられている。一対の乗りかごA1,A2は、一組の第1主索21及び第2主索22を把持した状態において、互いの釣り合い重りとして機能するように、対称となる位置に配置されている。
【0015】
同様に、一対の乗りかごB1,B2は、互いに釣り合い重りとして機能するように、別の組の第1主索21と第2主索22とを把持する。また、一対の乗りかごC1,C2は、互いに釣り合い重りとして機能するように、さらに別の組の第1主索21と第2主索22とを把持する。なお、3本の第1主索21は、同軸上に設けられた3つの駆動プーリー23のうちの1つと、同軸上に設けられた3つの下部プーリー25のうちの1つに、それぞれ分配して張架されている。同様に、3本の第2主索22は、同軸上に設けられた3つの駆動プーリー24のうちの1つと、同軸上に設けられた3つの下部プーリー26のうちの1つとに、それぞれ分配して張架されている。
【0016】
以上のように設置された三対の乗りかごA1〜C2は、3つの駆動プーリー23、及び3つの駆動プーリー24のそれぞれの駆動により、制限された範囲の各速度で昇降路20内において、同一の軌道上を循環移動し、同一の軌道上において停止する構成となっている。例えば、三対の乗りかごA1〜C2は、時計回りの循環方向2に合わせて昇降路20の内部を循環移動する。なお、駆動プーリー23,24の回転方向が制御されることにより、三対の乗りかごA1〜C2の循環方向が反転可能である。
【0017】
また、駆動プーリー24には、エンコーダー5が取付けられており、駆動プーリー24の回転方向及び回転量を検出し、それぞれのループコントローラー7に対して検出信号を出力することが可能である。
【0018】
<乗りかごの構成>
乗りかご1は、それぞれ図2の上面図(A)に示すかごドア14,15を備える。かごドア14は、乗りかご1の前面に設けられ、かごドア15は、乗りかご1の背面に設けられる。かごドア14は利用客が乗りかご1に乗車するために用いられ、かごドア15は利用客が乗りかご1から降車するために用いられる。乗りかご1の停止階には、かごドア14,15に対応する位置に、それぞれ乗り場ドア9,10及び降り場ドア11,12が設けられる。
【0019】
図2の側面図(B)は、乗りかご1の内部から、かごドア14の方向を視認したときの様子を表す。かごドア14の左横には、行先ボタン16、モニター17及びスピーカー18が設けられる。行先ボタン16は、乗りかご1に乗車した利用客が行先階を登録する操作(かご呼び)を行うためのボタンである。モニター17は、乗りかご1が走行又は停止している階数の他、利用客に降車を促す案内等を表示する表示部の一例として用いられ、例えば液晶ディスプレイパネルによって構成される。スピーカー18は、乗りかご1が到着した階数を報知する他、利用客に降車を促す案内等を放音する放音部の一例として用いられる。モニター17及びスピーカー18の動作は、後述する図3に示す降車制御部35によって制御される。なお、乗りかご1には、モニター17又はスピーカー18のいずれかが設けられてもよい。
【0020】
<各階の乗り場ドア及び降り場ドア>
再び、図1に戻って説明を続ける。
乗りかご1が上昇する方向には、上昇用の乗り場ドア9及び降り場ドア11が設けられる。図1では、昇降路20の左側の各階に上昇用の乗り場ドア9及び降り場ドア11を並べて表す。乗りかご1が上昇する途中で到着した階の乗り場ドア9にかごドア14が係合し、降り場ドア11にかごドア15が係合する。そして、かごドア14の開閉に追従して、乗り場ドア9が開閉し、かごドア15の開閉に追従して、降り場ドア11が開閉する。
【0021】
一方、乗りかご1が下降する方向には、下降用の乗り場ドア10及び降り場ドア12が設けられる。図1では、昇降路20の右側の各階に下降用の乗り場ドア10及び降り場ドア12を並べて表す。乗りかご1が下降する途中で到着した階の乗り場ドア10にかごドア14が係合し、降り場ドア12にかごドア15が係合する。そして、かごドア14の開閉に追従して、乗り場ドア10が開閉し、かごドア15の開閉に追従して、降り場ドア12が開閉する。
【0022】
なお、乗りかご1が上昇して最上階に達した後、駆動プーリー23,24を経て、下降するまでの間、乗りかご1に利用客が乗車することは禁止される。このため、最上階では、乗りかご1の利用客が降車しなければならない。そこで、乗りかご1が上昇した最上階では上昇用の降り場ドア11だけが設けられる。逆に、乗りかご1が下降を開始する最上階では、乗りかご1に利用客が乗り込んでよいが、降車する利用客はいない。このため、乗りかご1が下降を開始する最上階には、下降用の乗り場ドア10だけが設けられる。
【0023】
同様に、乗りかご1が下降して最下階に達した後、下部プーリー25,26を経て、上昇するまでの間、乗りかご1に利用客が乗車することは禁止される。このため、最下階では、乗りかご1の利用客が降車しなければならない。そこで、乗りかご1が下降した最下階では下降用の降り場ドア12だけが設けられる。逆に、乗りかご1が上昇を開始する最下階では、乗りかご1に利用客が乗り込んでよい。このため、乗りかご1が上昇を開始する最下階には、上昇用の乗り場ドア9だけが設けられる。
【0024】
<乗り場装置>
各階の乗り場ドア9,10の近くには、一般利用客が乗りかご1を利用するためのホール呼びを登録するホールボタン13が設けられる。ホールボタン13が押下されると、通常のかご呼び信号(「通常呼び信号」と呼ぶ)が制御装置6に送信され、ホール呼びが登録される。そして、制御装置6は、最寄り階にいる乗りかご1をホール呼びが登録された階まで移動させる。これにより、ホールボタン13を押下した一般利用客は、乗りかご1に乗車することが可能となる。
【0025】
また、特定の階には、VIP利用客が乗りかご1を利用するためのVIP呼びを登録するVIPボタン19が設けられる。VIP利用客等によりVIPボタン19が押下されると、VIP利用客に対応したかご呼び信号(「VIP呼び信号」と呼ぶ)が制御装置6に送信される。その後、制御装置6は、後述するVIP運転ゾーン(特定運転ゾーンの一例)に従った乗りかご1及びVIP割当てかご(VIP呼びに対して割当てられた乗りかご1)の制御を行って、VIP運転を行う。VIP運転とVIP運転ゾーンとの関係については、詳細な説明を後述する。
【0026】
なお、例えば、カードキーから読み出した情報により、一般利用客又はVIP利用客を特定可能な構成としてもよい。この場合、ホールボタン13及びVIPボタン19は、一つのカードリーダーに代えることができる。そして、全体コントローラー8は、カードリーダーがカードキーから読み出した情報に基づいて、カードキーを使用する利用客を認証し、認証した利用客が一般利用客又はVIP利用客のいずれであるかに応じて、乗りかご1の運転を変えることが可能である。
【0027】
<制御装置>
制御装置6は、マルチカーエレベーター装置100の運行を制御するためのものであって、計算機によって構成されている。計算機は、いわゆるコンピュータとして用いられるハードウェアである。計算機は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を備える。さらに、計算機は、不揮発性ストレージ及びネットワークインタフェースを備える。また制御装置6が備える各部によって実施される制御の手順は、ROMに保存されたプログラム、または外部装置からRAMにロードされて保存されたプログラムであることとする。
【0028】
このような制御装置6は、駆動プーリー23,24を駆動することで乗りかごA1〜C2の移動又は停止を制御する3つのループコントローラー7と、3つのループコントローラー7の動作を集中制御する全体コントローラー8とを備える。
【0029】
<ループコントローラー>
3つのループコントローラー7のうちの1つ(図中の「ループコントローラA」)は、一対の乗りかごA1,A2が把持する第1主索21及び第2主索22が張架された1組の駆動プーリー23,24を同期させて駆動制御するように構成されている。同様に、他の1つのループコントローラー7(図中の「ループコントローラB」)は、一対の乗りかごB1,B2が把持する第1主索21及び第2主索22が張架された1組の駆動プーリー23,24を同期させて駆動制御するように構成されている。さらに他の1つのループコントローラー7(図中の「ループコントローラC」)は、一対の乗りかごC1,C2が把持する第1主索21及び第2主索22が張架された1組の駆動プーリー23,24を同期させて駆動制御するように構成されている。
【0030】
各ループコントローラー7は、エンコーダー5から入力する検出信号に基づいて、各ループコントローラー7が制御する乗りかご1の移動方向及び移動量を求めることができる。これにより、各ループコントローラー7は、各ループコントローラー7が制御する乗りかご1毎に、乗りかご1の現在の位置、及び走行速度を求め、全体コントローラー8に乗りかご1の現在の位置、及び走行速度の情報を出力する。
【0031】
全体コントローラー8は、各ループコントローラー7から入力する乗りかご1の現在の位置、及び走行速度の情報に基づいて、昇降路20内における全ての乗りかご1の動作を制御する。そして、全体コントローラー8は、通常運転モードと、VIP運転モードの2つの運転モードで、駆動プーリー23,24の駆動を制御することが可能である。
【0032】
通常運転モードとは、一般利用客が乗りかご1に乗車可能な運転モードである。通常運転モードであれば、一般利用客は、ホールボタン13を押してホール呼びを登録することができる。そして、各乗りかご1に乗車した一般利用客は、行先ボタン16を押してかご呼びを登録した行先階に行くことができる。
【0033】
VIP運転モードとは、VIP利用客が乗りかご1に乗車可能な運転モードである。VIP利用客と一般利用客は、同じ乗りかご1に乗車することが禁止される。このため、VIP運転モードに変わると、既に乗りかご1に乗車していた一般利用客は、降車するよう指示される。一般利用客が降車した後、乗りかご1が、VIP利用客がいる階に到着するため、VIP利用客だけが乗りかご1に乗車して希望する行先階に行くことができる。
【0034】
図3は、全体コントローラー8の内部構成例を示すブロック図である。
全体コントローラー8は、運転モード変更部31、かご割当部32、VIP運転ゾーン設定部33、走行制御部34、及び降車制御部35を備える。
【0035】
運転モード変更部31は、ホールボタン13から通常呼び信号を受信している状態では動作せず、通常運転モードのままとする。しかし、VIPボタン19からVIP呼び信号を受信すると、運転モードを通常運転モードからVIP運転モードに変更する。そして、運転モード変更部31は、VIP運転モードに変更すると、既に登録された呼びの解除、新たなホール呼び、及びかご呼びの新規登録の禁止を設定する。そして、VIP運転モードによりマルチカーエレベーター装置100が動作する。走行制御部34によるVIP運転が終了すると、運転モード変更部31は、運転モードをVIP運転モードから通常運転モードに変更する。これにより、新たなホール呼び、及びかご呼びの新規登録が可能となる。
【0036】
かご割当部32は、VIP階に向けて上下方向のいずれかの移動方向に走行する複数の乗りかご1のうち、VIP階に対して移動方向の手前、又はVIP階にある少なくとも一つの乗りかご1をVIP割当てかごに割当てる。本実施の形態において、VIP呼びに対して割当てられる乗りかご1の台数は、1台とする。以下の説明で、VIP呼びに対して割当てられた乗りかご1を「VIP割当てかご」と呼ぶ。また、VIP利用客が乗車するためのVIP呼びが登録される階を「VIP階」と呼ぶ。VIP呼びが登録されるとVIP利用客はVIP階から乗りかご1に乗車することが可能である。
【0037】
VIP運転ゾーン設定部33は、運転モード変更部31によってVIP運転モードに変更されると、VIP運転ゾーンを設定する。VIP運転ゾーンは、特定の乗りかご1をVIP割当てかごとして移動させるために設定される。VIP運転ゾーンでは、VIP利用客以外の一般利用客がVIP割当てかごに乗車したり、VIP運転ゾーン内に乗客が乗車する乗りかご1がいることが禁止される。VIP運転ゾーンは、VIP階からVIP割当てかごの移動方向に含まれる複数の階を含む。例えば、VIP運転ゾーンは、VIPボタン19が押されてVIP呼びが登録された階を始点として、VIP割当てかごの上下いずれかの方向の終点の階までの各階を含む。VIP割当てかごが上昇する場合、最上階が終点となり、VIP割当てかごが下降する場合、最下階が終点となる。後述する図6図10には、VIP運転ゾーンの一例として、VIP階である4階を含み、4階から9階に設定されたVIP運転ゾーン45について記載されている。
【0038】
走行制御部34は、通常運転モードにおける乗りかご1の通常運転の他、VIP運転モードにおける乗りかご1及びVIP割当てかごのVIP運転を制御する。このため、走行制御部34は、VIP割当てかご以外の乗りかご1であって、VIP割当てかごと移動方向が同じである乗りかご1の位置と、VIP運転ゾーンとの関係に応じて、乗りかご1の走行を制御し、VIP階以外の階に乗りかご1を停止させる。例えば、走行制御部34は、一般利用客が乗車している乗りかご1を最寄り階に停止させたり、VIP利用客が乗車する乗りかご1を、VIPボタン19が押された階に停止させたりする制御を行う。
【0039】
降車制御部35は、VIP階以外の階に停止した乗りかご1に乗車する一般利用客に対して降車を促すための制御を行う。このため、降車制御部35は、VIP運転ゾーン設定部33によって設定されたVIP運転ゾーンと乗りかご1の位置との関係に応じて、既に乗りかご1に乗車していた一般利用客に対して降車を促す。降車制御部35の制御により、例えば、モニター17にメッセージが表示され、又はスピーカー18にメッセージが放音される。
【0040】
<マルチカーエレベーター装置の動作例>
次に、マルチカーエレベーター装置100の動作例について、図4及び図5に示すフローチャートと共に、該当するステップにおける乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を図6図10を適宜参照して説明する。なお、説明の便宜のため、図6図10には、昇降路20内に設けられた一対又は二対の乗りかご1と、上昇用の乗り場ドア9及び降り場ドア11だけを記載する。昇降路20が設けられた建物は、1階から9階まであるものとする。また、VIP割当てかごが割当てられた乗りかご1の上部に「VIP」と記載する。また、VIP利用客41を胴体が黒塗りとされた人形アイコンで表し、一般利用客42を胴体が白塗りとされた人形アイコンで表し、かご呼びにより登録された行先階を「*:アスタリスク」で表す。
【0041】
図4は、マルチカーエレベーター装置100の動作例(前半部分)を示すフローチャートである。本実施の形態では、全体コントローラー8がマルチカーエレベーター装置100の動作を制御する。そして、本フローチャートに示される一連の処理は、周期的に実行される。図4図5のフローチャートでは、乗りかご1を「かご」と略記する。
【0042】
始めに、運転モード変更部31は、VIP呼びがあるか否かを判断する(S1)。VIP呼びの有無は、VIPボタン19からのVIP呼び信号の入力があったか否かにより判断される。VIP呼びがなければ(S1のNO)、本処理を終了する。
【0043】
一方、VIP呼びがあれば(S1のYES)、運転モード変更部31は、通常運転モードからVIP運転モードに変更する(S2)。そして、運転モード変更部31は、既に登録されている全てのホール呼びを解除し、さらに、ホール呼び、及びかご呼びの新規登録を禁止する(S3)。このため、VIP運転モードに変更された後は、VIPボタン19が押される前に一般利用客がホールボタン13を押して登録していたホール呼びが解除される。そして、一般利用客がホールボタン13を押してもホール呼び、及びかご呼びが登録できなくなる。
【0044】
次に、VIP運転ゾーン設定部33は、VIP呼びが行われた階をVIP階として、VIP運転ゾーンを設定する(S4)。
【0045】
次に、かご割当部32は、VIP呼びに対して乗りかご1が割当てられたか否かを判断する(S5)。VIP呼びに対して乗りかご1が割当てられていなければ(S5のNO)、かご割当部32は、VIP呼びに対してVIP階の最寄りにいる乗りかご1にVIP割当てかごを割当て(S6)、本処理を終了する。一方、VIP呼びに対して乗りかご1が割当てられていれば(S5のYES)、全体コントローラー8が、ステップS4以降の処理を全ての乗りかご1に対して、1台ずつ判定及び処理を行う。以降の処理は、結合子Aにより結合される図5を参照して説明する。
【0046】
図5は、マルチカーエレベーター装置100の動作例(後半部分)を示すフローチャートである。
【0047】
始めに、走行制御部34は、乗りかごA1〜C2から選択した1台の乗りかご1が、VIP割当てかごであるか否かを判断する(S7)。この乗りかご1がVIP割当てかごであれば(S7のYES)、走行制御部34は、VIP割当かごで既に登録された最も近い行先階が、VIP呼びが登録された階(以下、「VIP階」と呼ぶ)より手前であるか否かを判断する(S8)。
【0048】
既に登録された最も近い行先階がVIP階より手前でなければ(S8のNO)、走行制御部34は、最寄り階に乗りかご1(VIP割当かご)を止め、降車用のかごドア15を開ける制御を行う(S10)。既に登録された最も近い行先階がVIP階より手前であれば(S8のYES)、走行制御部34は、既に登録された最も近い行先階に乗りかご1(VIP割当かご)を止め、降車用のかごドア15を開ける制御を行う(S9)。
【0049】
そして、ステップS9又はS10の後、降車制御部35は、ドアタイムを変更する(S11)。ドアタイムとは、かごドア15及び降り場ドア11が開いている時間である。降車制御部35が、VIP運転モードにおけるドアタイムを、通常運転モードにおけるドアタイムよりも長く変更することで、一般利用客42のスムーズな降車を促すことができる。ただし、降車制御部35は、VIP運転モードにおけるドアタイムを、通常運転モードにおけるドアタイムより短く変更してもよい。
【0050】
また、降車制御部35は、乗りかご1に乗車している一般利用客42に降車を促す案内表示及び放送を行うための制御を行う(S12)。このとき、モニター17に降車を促すメッセージが表示され、スピーカー18から降車を促すメッセージが放音される。その後、走行制御部34は、VIP階まで、乗りかご1を走行させる制御を行って(S13)、本処理を終了する。
【0051】
ここで、ステップS8のYES,S9,S13の処理について図6を参照して説明する。
図6は、一般利用客42が乗車しているVIP割当てかごで登録された最も近い行先階がVIP階より手前であるときのVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。この処理では、走行制御部34は、VIP割当てかごが割当てられた乗りかご1がVIP階に到着する前に、VIP階とは異なる最寄り階に乗りかご1を停止させる。ここで、走行制御部34は、一般利用客42が乗車したVIP割当てかごの位置がVIP運転ゾーン45外にあって、一般利用客42が登録した行先階がVIP階に対してVIP割当てかごの移動方向の手前にあれば、行先階にVIP割当てかごを停止させる。一方、行先階がVIP階に対してVIP割当てかごの移動方向の奥にあれば、VIP階より手前であり、VIP階とは異なる最寄り階にVIP割当てかごを停止させる。
【0052】
図6の説明図(A)は、ステップS8がYESであるときにおけるVIP割当てかごの動作例を表す。4階にいるVIP利用客41がVIPボタン19を押したことにより、既に2名の一般利用客42が乗車している乗りかご1がVIP割当てかごとなる。ここで、VIP割当かごになる前に、乗りかご1に乗車している一般利用客42により登録された行先階は、VIP階より手前の階を含む3階の他に、5階である。そして、VIP割当てかごとなった乗りかご1は、VIP階より前の1階と2階の間を走行している。VIP呼びが登録された4階までの間にVIP割当てかごが停止可能な行先階(3階)がある。このため、VIP割当てかごには、一般利用客42の降車を促すために、例えば、モニター17に「3階で降車してください」と表示され、又はスピーカー18から「3階で降車してください」と放音される。
【0053】
図6の説明図(B)は、ステップS9におけるVIP割当てかごの動作例を表す。VIP割当てかごがVIP階である4階に到着する前に、既に登録された行先階である3階に一旦停止する。VIP割当てかごが停止したときに、モニター17又はスピーカー18から降車を促すメッセージが出力されてもよい。そして、VIP割当てかごに乗車している一般利用客42に対して降車が促され、一般利用客42は全員、3階で降車する。
【0054】
図6の説明図(C)は、ステップS13におけるVIP割当てかごの動作例を表す。VIP割当てかごがVIP階である4階に到着する。そして、VIP利用客41は、VIP割当てかごに乗車して行先ボタン16を押下してかご呼びを登録し、希望する階に行くことができる。
【0055】
次に、ステップS8のNO,S10,S13の処理について図7を参照して説明する。
図7は、一般利用客42が乗車しているVIP割当てかごで登録された最も近い行先階がVIP階より奥であるときのVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。この処理では、一般利用客42が乗車した乗りかご1の位置がVIP運転ゾーン45外にあって、一般利用客42が登録した行先階がVIP階に対してVIP割当てかごの移動方向の奥にある。このため、走行制御部34は、VIP階より手前であり、かつ、VIP階とは異なる最寄り階に乗りかご1を停止させる。
【0056】
図7の説明図(A)は、ステップS8がNOであるときにおける乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。VIP割当かごになる前に、乗りかご1に乗車している一般利用客42により登録された行先階は、VIP階より奥の5階、6階である。しかし、VIP割当てかごには、VIP利用客41が乗車するため、VIP階よりも手前の階で一般利用客42が降車しなければならない。そこで、モニター17又はスピーカー18から降車を促すメッセージが出力される。
【0057】
図7の説明図(B)は、ステップS10における乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。既に登録された行先階がVIP階より奥であったため、VIP割当てかごは、VIP階より手前、かつ最寄り階である2階に停止する。このとき、モニター17又はスピーカー18から降車を促すメッセージが出力されてもよい。そして、一般利用客42は、2階で全員が降車する。
【0058】
図7の説明図(C)は、ステップS13における乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。図6の説明図(C)と同様に、VIP利用客41は、VIP割当てかごに乗車してかご呼びを登録し、希望する階に行くことが可能となる。
【0059】
再び、図4に戻って説明を続ける。
ステップS7において、乗りかご1がVIP割当てかごでないと判断されると(S7のNO)、降車制御部35は、VIP運転ゾーン45にかご呼び(行先階)が登録されているか否かを判断する(S14)。
【0060】
VIP運転ゾーン45にかご呼び(行先階)が登録されていれば(S14のYES)、降車制御部35は、かご呼び(行先階)を登録した乗りかご1の現在のかご位置がVIP運転ゾーン45内であるか否かを判断する(S15)。乗りかご1の現在のかご位置がVIP運転ゾーン45内でなければ(S15のNO)、走行制御部34は、乗りかご1の最寄り階に乗りかご1を停止させ、降車制御部35は、降車用のかごドア15を開ける制御を行う(S17)。一方、乗りかご1の現在のかご位置がVIP運転ゾーン45内であれば(S15のYES)、走行制御部34は、乗りかご1に最も近いかご呼び階(行先階)に乗りかご1を停止させ、降車制御部35は、降車用のかごドア15を開ける制御を行う(S16)。
【0061】
そして、ステップS16又はS17の後、降車制御部35は、ドアタイムを変更する(S19)。ドアタイムの変更は、ステップS11における処理と同様に行われる。さらに、降車制御部35は、乗りかご1に乗車している一般利用客42に降車を促す案内表示及び放送を行う(S20)。一般利用客42に降車を促す案内表示及び放送は、ステップS12における処理と同様に行われる。その後、走行制御部34は、VIP運転ゾーン45の外まで乗りかご1を待避させる制御を行って(S21)、本処理を終了する。
【0062】
ここで、ステップS15のYES,S16,S21の処理について図8を参照して説明する。
図8は、一般利用客42が乗車する乗りかご1のかご位置がVIP運転ゾーン45内にあるときの乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。この処理では、一般利用客42が乗車した乗りかご1の位置がVIP運転ゾーン45内にあって、この乗りかご1に乗車する一般利用客42が登録した行先階がVIP階に対してVIP割当てかごの移動方向の奥にある。このため、走行制御部34は、既に登録された行先階に乗りかご1を停止させる。ただし、複数の行先階が登録されていれば、走行制御部34は、走行制御部34は、一般利用客42が登録した複数の行先階のうち、乗りかご1の移動方向の手前の行先階に乗りかご1を停止させる。
【0063】
図8の説明図(A)は、ステップS15がYESであるときにおける乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。4階にいるVIP利用客41がVIPボタン19を押したとき、既に2名の一般利用客42が乗車している乗りかご1は、VIP階である4階を通過して5階を走行中である。そして、8階と9階にかご呼び(行先階)が登録された状態である。このため、一般利用客42が乗車している乗りかご1から早めに一般利用客42が降車する必要がある。また、現在2階にいる乗りかご1がVIP割当てかごとなる。
【0064】
図8の説明図(B)は、ステップS16における乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。一般利用客42が乗車している乗りかご1は、かご呼び(行先階)が登録された複数の階のうち、最寄り階である8階に停止する。そして、乗りかご1に乗車している一般利用客42に対して降車が促され、一般利用客42は全員、8階で降車する。その後、乗りかご1は、VIP運転ゾーン45の外に行くように走行する。
【0065】
図8の説明図(C)は、ステップS21における乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。VIP割当てかごがVIP階である4階に到着すると、VIP利用客41は、VIP割当てかごに乗車して行先ボタン16を押下してかご呼びを登録し、希望する階に行くことができる。一方、一般利用客42が降車した乗りかご1は、VIP運転ゾーン45外である下降方向に走行する。
【0066】
次に、ステップS15のNO,S17,S21の処理について図9を参照して説明する。
図9は、VIP割当てかごの手前にいる乗りかご1で登録された行先階がVIP運転ゾーン45内であるときの乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。この処理では、一般利用客42が乗車した乗りかご1の位置がVIP運転ゾーン45外にあって、VIP階に対してVIP割当てかごの移動方向の手前に乗りかご1、VIP割当てかごの順にある。このため、走行制御部34は、VIP階の手前の階で乗りかご1を停止させる。ただし、一般利用客42が登録した複数の行先階がいずれもVIP階に対してVIP割当てかごの移動方向の手前にあれば、走行制御部34は、複数の行先階毎に乗りかご1を停止させる。
【0067】
図9の説明図(A)は、ステップS15がNOであるときにおける乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。VIP割当てかごには、一般利用客42が乗車していない状態である。一方、VIP割当てかごより手前の1階にいる乗りかご1には、2名の一般利用客42が乗車しており、この乗りかご1のかご呼びで登録された行先階は、VIP運転ゾーン45内である、VIP階より奥の8階、9階である。ここで、VIP割当てかごにVIP利用客41が乗車することには何ら問題がないが、既に乗りかご1に乗車していた一般利用客42にとっては、VIP割当てかごにVIP利用客41が乗車するまで乗りかご1内で待たされることとなる。このため、乗りかご1に乗車した一般利用客42を一旦降車させた方がよい。
【0068】
図9の説明図(B)は、ステップS17における乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。一般利用客42が乗車していた乗りかご1はVIP呼びが登録されたときの最寄り階である2階に停止する。そして、乗りかご1に乗車している一般利用客42に対して降車が促され、一般利用客42は全員、2階で降車する。
【0069】
図9の説明図(C)は、ステップS21における乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。VIP割当てかごがVIP階である4階に到着すると、VIP利用客41は、VIP割当てかごに乗車して行先ボタン16を押下してかご呼びを登録し、希望する階に行くことができる。
【0070】
再び、図4に戻って説明を続ける。
ステップS14において、VIP運転ゾーン45にかご呼び(行先階)が登録されていないと判断されると(S14のNO)、走行制御部34は、かご呼びが登録された階(行先階)に順次、乗りかご1を停止させ、降車用のかごドア15を開ける制御を行う(S18)。これにより、一般利用客42は、かご呼びを登録した階に降車することができる。その後、本処理を終了する。
【0071】
ここで、ステップS14のNO、S18の処理について、図10を参照して説明する。
図10は、一般利用客42が乗車する乗りかご1で登録された行先階がVIP運転ゾーン45外であるときの乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を示す説明図である。
【0072】
図10の説明図(A)は、ステップS14がNOであるときにおける乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。4階にいるVIP利用客41がVIPボタン19を押すと、現在3階にいる乗りかご1がVIP割当てかごになる。また、VIP呼びが登録されたとき、既に2名の一般利用客42が乗車している乗りかご1から2階と3階にかご呼び(行先階)が登録された状態である。2階と3階はいずれもVIP運転ゾーン45外である。このため、かご呼び(行先階)が登録された階は、VIP階よりも手前にある。そこで、乗りかご1に乗車している一般利用客42は、乗りかご1がVIP階に到着する前に、かご呼び(行先階)を登録した階に降車することができる。
【0073】
図10の説明図(B)は、ステップS18における乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。かご呼び(行先階)が登録された2階に乗りかご1が一旦停止する。このため、2階にかご呼びを登録した一般利用客42は、2階に降車することができる。
【0074】
図10の説明図(C)は、ステップS18における乗りかご1及びVIP割当てかごの動作例を表す。図10の説明図(B)に示したように、乗りかご1が2階に停止した後、乗りかご1が上昇して、かご呼び(行先階)が登録された3階に一旦停止する。このため、3階にかご呼びを登録した一般利用客42は、3階に降車することができる。
【0075】
以上説明した一実施の形態に係るマルチカーエレベーター装置100では、VIP呼びが登録されると、VIP運転ゾーン45が設定される。そして、一般利用客42が乗車する乗りかご1の位置がVIP運転ゾーン45内にあるか、VIP運転ゾーン45外にあるかによって、乗りかご1の制御を変え、一般利用客42をVIP階以外の階に降車させることができる。これにより、VIP割当てかごに一般利用客42が乗車したまま、VIP利用客41が乗車することになる事態を避けることができる。
【0076】
また、VIP割当てかごが通過する範囲(VIP運転ゾーン45)内に存在する乗りかご1を最寄り階に停止させ、一般利用客42を降車させることができる。乗りかご1が停車した後、乗りかご1に乗車している一般利用客42に対して、案内表示又は音声等により降車が促される。これにより、一般利用客42は、自身がかご呼びを登録した階でなくても、降車しなければならないことが分かり、乗りかご1の降車を滞りなく行うことができる。
【0077】
また、一般利用客42が降車した後は、かごドア14,15、及び乗り場ドア9,10が全閉される。このため、VIP階以外で一般利用客42がVIP割当てかごに乗車することはなく、VIP運転を妨げないように一般利用客42を待避させることができる。
【0078】
[変形例]
なお、上述した実施の形態では、VIP割当てかごが上昇するときに設定されるVIP運転ゾーン45と、乗りかご1の動作例とを説明したが、VIP割当てかごが下降するときにも同様にVIP運転ゾーン45が設定される。例えば、8階にいるVIP利用客41がVIP呼びを登録すると、8階又は9階にいる乗りかご1がVIP割当てかごとなる。そして、VIP階である8階から下の1階までがVIP運転ゾーン45として設定される。
【0079】
また、VIPボタン19は、図6図10に示した4階以外の任意の階に設けられてもよい。また、VIP利用客41がホールボタン13に対して特殊な操作を行うことで、ホールボタン13がVIPボタン19の機能を有するように構成してもよい。
【0080】
また、VIPボタン19は、最上階又は最下階に設けられてもよい。この場合、VIP割当てかごとして割当てられる乗りかご1の移動方向は、VIP割当てかごの移動方向とは逆向きとなる。例えば、最下階がVIP階であれば、駆動プーリー23の駆動によりVIP割当てかごの移動方向は上昇する方向である。一方、VIP割当てかごとして割当てられる乗りかご1の移動方向は、駆動プーリー24の駆動により、下降する方向となる。このとき、VIP運転ゾーン45には、全階が含まれる。
【0081】
また、乗りかご1に乗車している一般利用客42が、VIP階に行先階を登録することもある。この場合、乗りかご1がVIP階の手前の階又は最寄り階で一般利用客42が降車する制御が行われてもよいし、乗りかご1がVIP階に到着した後、一般利用客42がVIP階で降車する制御が行われてもよい。
【0082】
また、上述した実施の形態では、乗りかご1がかごドア14,15を備えるものとして説明したが、乗りかご1は一つのかごドアだけを備えるものでもよい。この場合、上昇用の乗り場ドア9及び降り場ドア11を一つのドアとしてもよく、下降用の乗り場ドア10及び降り場ドア12を一つのドアとしてもよい。
【0083】
また、マルチカーエレベーター装置としては、制御装置6に全体コントローラー8を設けず、各ループコントローラー7が乗りかご1の運行を制御するように構成してもよい。各ループコントローラー7が、全体コントローラー8に設けられた各機能部を有し、ループコントローラー7毎に通信し合うことによって、各ループコントローラー7が駆動制御する乗りかご1の状況を把握することができる。そして、VIP呼びが登録された際には、VIP階に向かう方向に移動可能であって、VIP階に最も近い乗りかご1を駆動制御するループコントローラー7が、この乗りかご1をVIP割当てかごとし、上述した実施の形態に係るVIP割当てかごと、他の乗りかご1との駆動制御を行ってもよい。
【0084】
また、マルチカーエレベーター装置としては、各乗りかごにモーター等の駆動装置及び制御装置を設け、乗りかごが独立して自走可能な構成としてもよい。この場合、乗りかごは対で設ける必要がなく、複数の乗りかご毎に走行が制御される。そして、VIP呼びが登録された際には、VIP階に向かう方向に移動可能であって、VIP階に最も近い乗りかごを駆動制御する制御装置が、この乗りかごをVIP割当てかごとし、VIP運転ゾーン45を設定する。そして、他の乗りかごを駆動制御する制御装置は、それぞれ乗りかごがVIP運転ゾーン45の内外いずれにあるかに応じて、他の乗りかごの駆動制御を行ってもよい。
【0085】
また、マルチカーエレベーター装置としては、同一の昇降路内の上側に配置された1台の乗りかごと、下側に配置された1台の乗りかごとが、それぞれ独立して昇降可能な構成としてもよい。この場合、各乗りかごの運行を制御するのは、上述した実施の形態に係る全体コントローラー、又は乗りかご毎に駆動制御する乗りかごコントローラーのいずれであってもよい。この場合においても、VIP呼びが登録された際には、VIP階に向かう方向に移動可能であって、VIP階に最も近い乗りかごを駆動制御する全体コントローラー又は乗りかごコントローラーが、この乗りかごをVIP割当てかごとする。そして、上述した実施の形態に係るVIP割当てかごと、他の乗りかごとの駆動制御を行うことが可能である。
【0086】
なお、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するためにマルチカーエレベーター装置の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、本実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1…乗りかご、5…エンコーダー、6…制御装置、7…ループコントローラー、8…全体コントローラー、9,10…乗り場ドア、11,12…降り場ドア、13…ホールボタン、31…運転モード変更部、32…かご割当部、33…運転ゾーン設定部、34…走行制御部、35…降車制御部、41…VIP利用客、42…一般利用客、45…VIP運転ゾーン、100…マルチカーエレベーター装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10