特許第6912477号(P6912477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6912477微生物の化学物質への暴露に対する反応の決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912477
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】微生物の化学物質への暴露に対する反応の決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20210727BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20210727BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20210727BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   G01N21/65
   G01N33/15 B
   C12Q1/04
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
【請求項の数】16
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-527229(P2018-527229)
(86)(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公表番号】特表2019-506590(P2019-506590A)
(43)【公表日】2019年3月7日
(86)【国際出願番号】FR2016053100
(87)【国際公開番号】WO2017089727
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年10月17日
(31)【優先権主張番号】1561446
(32)【優先日】2015年11月27日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノヴェーリ ルソー アーメル
(72)【発明者】
【氏名】エスパニョン イザベル
(72)【発明者】
【氏名】ジョッソ クァンタン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥエ アリス
(72)【発明者】
【氏名】マラルド フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ギャル オリビエ
【審査官】 赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−525850(JP,A)
【文献】 特表2012−507283(JP,A)
【文献】 特表2005−509847(JP,A)
【文献】 特表2014−520575(JP,A)
【文献】 特表2014−515276(JP,A)
【文献】 特表2009−508531(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0143332(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/83
G01N 33/15
G01N 33/48−33/98
C12Q 1/00− 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光法の分析を実施することによって、抗生物質への暴露に対する、少なくとも1つの目的細菌の反応を決定する方法であって、
上記目的細菌を含有し得る生物学的サンプルを取得する取得工程と、
生存する1つ以上の上記目的細菌を含む、上記生物学的サンプルの少なくとも2つの画分を調製する調製工程と、
それぞれの画分において、結合パートナーを用いて生存する1つ以上の上記目的細菌を捕捉する捕捉工程と、
上記画分の少なくとも1つを、少なくとも1種類の濃度の少なくとも1つの所定の抗生物質に暴露し、他の画分を対照画分とする暴露工程と、
上記画分に含まれる捕捉された目的細菌に入射光を照射し、ラマン分光法により捕捉された目的細菌のラマン散乱光を分析して、細菌と同数のラマンスペクトルを得る工程と、
上記抗生物質への暴露に対する目的細菌の反応のスペクトルシグニチャ及び対照のスペクトルシグニチャを得るために上記ラマンスペクトルを処理する工程と、
目的細菌ごとに得られた上記スペクトルシグニチャを、異なる細菌及び少なくとも上記抗生物質について上記と同じ条件下で決定された参照ベースと比較する比較工程と、
上記抗生物質に対して、上記目的細菌の感受性臨床プロファイルを決定する決定工程と、
からなる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
上記生物学的サンプルの2つ以上の画分が調製され、少なくとも2つの画分がそれぞれ、増加する濃度の上記抗生物質に暴露される
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
画分がそれぞれ暴露される抗生物質の濃度は、疫学的カットオフ、臨床的ブレークポイントの閾値、又は、参照の方法で使用される濃のパネルを含む、抗生物質/生物種の対に特異的な値から選択される少なくとも1つの値を含む濃度範囲を構成する少なくとも1つ値を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法において、
上記画分に存在する上記目的細菌が、支持体上に直接的又は間接的に固定化された結合パートナーによって捕捉される
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
上記結合パートナーは、上記目的細菌と特異的に相互作用することができ、好ましくは、タンパク質、抗体、抗原、アプタマー、ファージ、ファージタンパク質から選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法において、
捕捉された細菌は、例えば画像化又は分光光度法によって、特定され及び分類される
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法において、
上記目的細菌に入射光を照射する前に、捕捉されていない細菌を除去する
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
上記細菌は、上記抗生物質に暴露する上記暴露工程の前又は後に除去される
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法において、
上記画分についての上記暴露工程の後で、上記画分と上記対照画分とを濃縮し、それに引き続いて上記捕捉工程を実施する
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法において、
上記抗生物質を、上記目的細菌を少なくとも生存させておくことのできる生理的溶液に入れておく、
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法において、
上記抗生物質への暴露を18℃以上40℃以下の温度範囲で実施する
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法において、
上記抗生物質への暴露を、10分以上4時間以下のインキュベーション時間とよばれる時間で実施する
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法において、
上記スペクトルシグニチャを得るために、上記抗生物質に暴露された各画分について、対照のラマンスペクトルを上記生物学的サンプルのラマンスペクトルからそれぞれ差し引く
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法において、
対象菌株が上記抗生物質に対して、感受性あり、中間、又は、耐性あり、のいずれの状態であるかを決定する
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
上記対象菌株の上記抗生物質についての最小発育阻止濃度を決定する
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の方法において、
少なくとも2つ、好ましくは少なくとも5つのシグナルを得るために、各画分が少なくとも2つ、好ましくは5つの目的細菌を含む
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の抗生物質に対する感受性表現型の分析の領域に含まれる。本発明は、ラマン分光法による分析及びその適用による、対象とする少なくとも1つの微生物の抗生物質への暴露に対する反応の決定に関する。
【背景技術】
【0002】
「微生物」という用語は、細菌又は酵母のような抗生物質への暴露に対して反応し得るあらゆる微生物を包む。以下では、本発明について細菌と関係づけてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0003】
この決定は、健康、食品、環境の分野の微生物学的診断において主に興味が持たれ、薬理学、新しい分子(特に抗生物質)のスクリーニング、又は、例えば牛乳等の食品中に存在する細胞傷害性化合物の探索において重要である。この適用の選択は完全網羅的なものではなく、本発明は、一般に、細胞の化学的又は生物学的化合物への暴露に対する反応の問題が提起されたときに、あらゆる分野に適用を見出すことができる。
【0004】
ラマン効果は、大部分の分子で起こる光散乱現象である。分光法での実測によって、分子、微生物、溶液(培地)(medium)を同定(特定)することが可能である。それは、実施が簡単で、迅速で、費用対効果が高く、水による強い影響を受けず(つまり、水によって妨害されず)且つ標識又は対照物質を必要としないという生物学における重要な利点を有する。
【0005】
これに関する非特許文献1(A.I.M. Athamnehらによる文献、(2014)Antimicrob Agents Chemother,58,1302−1314)によると、この著者らは、基準(ベースライン)を設定する目的で、抗生物質の5つのファミリーを代表する15種類の既知の抗生物質に対する大腸菌培養物の感受性を特定するためにラマン分光法を用いた。この目的のために、上記に記載の方法は、大腸菌培養物を生成し、MIC(最小発育阻止濃度)(minimum concentration. inhibitor)の3倍の濃度の抗生物質に対してこの培養物のサンプルを暴露し、上記の細胞を少なくとも30分間抗生物質に接触させて維持し、細菌性細胞を採取して洗浄し、細胞懸濁液を収集し、ラマン分光法によって細胞層を分析するための処理をする、という工程を含む。分析の結果は、多数の細胞を含む各サンプルについて得られた多数のスペクトルの平均から導き出され、参照ベースに統合される。この参照ベースは、一度設定されると、その抗生物質に対する大腸菌培養物の感受性に基づいて、未知の抗生物質を上記5つのファミリーのうちの1つに割り当てるために利用することができる。このようにして得られた分類性能によって、未知の分子の分類について、薬理学的研究に役に立ち得る要素を得ることが可能となる。しかし、得られた結果は、研究された細菌の感受性表現型に関する情報又は臨床用途に都合のよい情報を与えてはくれない。
【0006】
特許文献1には、特にラマン分光法を用いて生体液中の細菌を同定する方法が記載されている。上記の生体液の細菌培養物のサンプルに入射光を照射し、散乱光をラマン分光法によって分析する。次いで、読み取られたシグナルは、同じ条件下で決定された、異なる微生物のスペクトルのシグニチャ(特徴)(signature)を列挙する参照データベースから解釈される。この方法は、抗生物質に対して上記の細菌を暴露する工程を更に含む。読み取ったシグナルは、上記の抗生物質がこれらの細菌に与える影響を反映している。その測定された抗生物質の効果は、特に、細菌細胞の生存能力又は培養の進行(development of the culture)に影響される。この方法の欠点は、培養工程の利用にある。それは応答を得るのを長引かせるだけでなく、予測される応答を得るために必要な追加の工程の習得を必要とするからである。
【0007】
ラマン分光法を使用して、抗生物質に対する目的細菌の感受性臨床プロファイル(sensitivity clinical profile)の決定の負担を軽くすることができる。しかし、その一方で、上記の先行技術によれば、約18〜24時間以内に取得する細菌培養物に対しては、迅速な判定方法を実現しないという事実に変わりはない。これは、診断における患者の効果的なケアの主な障害となる。
【0008】
非特許文献2(U.Munchbergetらによる文献、(2014)Anal Bioanal Chem 406:3041−3050)において、その著者らは、患者への適切な抗生物質の投与を急速にすることの問題、及び、患者が既に抗生物質の投与を受けているときは、細胞培養を用いる技術に困難さがあるという問題を提起した。その著者らは培養工程を省き、個々の細菌にラマン分光法を適用する。この研究は、潜在的な誤診の原因となる、抗生物質に対して以前に暴露された細菌を同定する問題を解決する。この問題を解決するために、著者らは、最小発育阻止濃度よりも低い様々な濃度の、抗生物質に暴露されなかった個々の細胞及び抗生物質に暴露された細胞に対して行われたラマン分析の結果を含む参照ベースを設定する。この研究の結論は、これらの条件下で細菌を同定することに大きな困難はないということである。この著者らは、細菌のスペクトルに対して抗生物質が実質的な変化を与えることには言及しておらず、変化が生じている可能性はあっても、それはばらつきが大きい領域で観測されており、使用不能であると結論付けた。
【0009】
これらはいずれも、抗生物質に対する目的細菌の感受性臨床プロファイルを決定する信頼できる方法を予測することを可能にせず、特に、抗生物質に対する耐性又は感受性を、数時間という短時間(その日の診断を可能とする)で決定することを可能にしない。この欠点は、非効率的な抗生物質療法、患者の感染を悪化させるリスク、及び、患者が既に治療を受けている場合に正確な診断を確立することの困難さの原因となる。この欠点は、複数の抗生物質に耐性のある菌が出現し、まん延した際には特に重大である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2013/093913号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】A.I.M. Athamnehら、Antimicrob Agents Chemother,2014,58,1302−1314.
【非特許文献2】U.Munchbergetら,Anal Bioanal Chem,2014,406,3041−3050.
【発明の概要】
【0012】
本発明は、抗生物質への暴露に対する目的細菌株の反応を決定する方法を用いて、この問題に対する答えを提供する。本発明は、培養を必要とせず、約2時間で結果を得ることができ、最先端の方法(36時間〜72時間)と比較しても非常に速く、また信頼性が高い。
【0013】
本発明は、ラマン分光法の分析を実施することによって、抗生物質への暴露に対する、目的細菌等の対象とする少なくとも1つの微生物の反応を決定する方法に関する。本発明は、目的細菌を含有し得る生物学的サンプルを取得する取得工程と、生存する1つ以上の上記目的細菌を含む、上記生物学的サンプルの少なくとも2つの画分(fractions)を調製する調製工程と、それぞれの画分において、結合パートナー(binding partner)を用いて生存する1つ以上の目的細菌を捕捉する捕捉工程と、これらの画分の少なくとも1つを、少なくとも1種類の濃度の少なくとも1つの所定の抗生物質に暴露し、他の画分を対照画分とする暴露工程と、画分に含まれる目的細菌に入射光を照射し、ラマン分光法により目的細菌のラマン散乱光を分析して、細菌と同数のラマンスペクトルを得る工程と、支持体(support)のいくつかのラマンスペクトルを得るために、画分中の支持体を構成する物質に入射光を照射し、ラマン分光法により上記支持体のラマン散乱光を分析する工程と、上記抗生物質への暴露に対する目的細菌の反応のシグニチャ及びその対照(細菌)のシグニチャを得るために上記ラマンスペクトルを処理する工程と、目的細菌ごとに得られたシグニチャを、異なる細菌及び少なくとも上記抗生物質について上記と同じ条件下で決定された参照ベースと比較する比較工程と、上記抗生物質に対して、上記目的細菌の感受性臨床プロファイルを決定する決定工程と、からなる。
【0014】
前述の先行技術と比較した本発明に係る方法の利点は、個々の細胞について、ラマン分光法を用いて、テスト化合物に対する暴露に応答して、微生物が化学修飾されることに相関した関連シグナルを得ることが可能になるということである。本発明は、細胞の培養工程を省くだけでなく、分析された細胞ごとの情報も与えてくれる。既知の方法とは異なり、分析結果の平均を計算して情報を得るわけでも、また、物理的な平均の測定値を得ることによって情報を得るわけでもない。異質性を隠すような結果の平均がもたらす変動性とは実質的に異なる変動性を検出することができるという点で、関連性のより高い情報をもたらすのは、細胞ごとの結果の表現である。もちろん、考慮される適用によっては、いくつかの個々の細胞の結果から情報を得ることができる。
【0015】
本発明によれば、ラマン分光法による抗生物質への暴露に対する細菌の反応を決定するための方法が提供される。本発明は、上記の全ての適用に適している。本発明は、生物学的サンプル中の抗生物質に対する目的細菌の感受性臨床プロファイルを特定することに実際に用いられるが、抗生物質分子のスクリーニングのために調整することもできる。培養工程を実施しないので、培養不能細胞(non−culturable cells)の分析にも適している。
【0016】
本発明に係る方法のより詳細な説明をする前に、使用するいくつかの用語を以下に定義する。
【0017】
生物学的サンプルとは、組織、液体、並びに、上記組織及び液体の成分を意味する。本方法の適用分野及び非限定的な例によって、上記生物学的サンプルは血液、尿、唾液、母乳等のヒト由来又は動物由来のものであってもよい。またそれは、植物由来、食品抽出物、又は、土壌の抽出物であってもよい。
【0018】
目的細菌等の対象とする微生物の抗生物質(ATB)への暴露に対する反応とは、あらゆる変化(修飾)(modification)を意味し、例えば、抗生物質に暴露されていない同じ細菌について、ラマン分光法によって検出することができる代謝修飾(metabolic modification)を意味する。
【0019】
所定の細菌に対する抗生物質の最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration、MIC)とは、細菌増殖(bacterial growth)を停止させることができる希釈範囲での、上記の抗生物質の最低濃度であり、μg/mlの単位で表される。
【0020】
臨床的ブレークポイント(clinical breakpoint)とは、微生物学的基準並びに薬物動態学的及び薬力学的データに基づいて、EUCAST(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing)によって決定された、ある生物種について定められた抗生物質の所定の濃度である。従来より、閾値とよばれる2つの異なるブレークポイントが定義され、濃度範囲(interval of concentrations)が決定される。テストされた菌株のMICがこの濃度範囲よりも低い場合、そのテスト菌株は感受性があるとされ、すなわち生体内で抑制されることを意味する。これは、治療成功の可能性が高いことを意味する。MICがこの濃度範囲内にあれば、その細菌は中間細菌とよばれる。そして、MICがこの濃度範囲を超えているときは、その細菌は耐性菌とよばれ、生体内で許容されるよりも高い抗生物質の濃度に耐えるので、治療失敗の可能性が高いことを意味する。
【0021】
対象とする微生物のある化合物への暴露に対する反応のシグニチャとは、上記の化合物との接触に特異的に反応し、上記の微生物のあらゆる変化、例えば代謝的変化又は組成変化であって、ラマン分光法によって検出することができる変化を意味する。これらの変化をより簡単に目立たせるための、テストを実施するために使用されるシグナルを生むラマンスペクトルのデータを処理する1つ以上の工程の結果もまた、シグニチャとよぶことができる。例えば、初期状態、すなわち、目的細菌が化合物に暴露されていない状態のスペクトルを、その化合物に暴露されたその細菌について得られたスペクトルから差し引くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る方法を実施するためのシステムの実装のブロック図である。
図2図1に示すシステムに属する微生物の調整装置(コンディショニングデバイス)のブロック図である。
図3図2に示す調整装置のスライドガラス上におけるサンプルの配置を示す。
図4】ゲンタマイシンに対する「EC10」の大腸菌株の反応を表す。
図5】N=5の場合で、ゲンタマイシンに対する「EC21」の大腸菌株の反応を表す。
図6】N=11の場合で、アモキシシリンの存在下で、「EC10」の大腸菌の感受性株について得られた混同行列(confusion matrix)を表す。
図7】N=11の場合で、アモキシシリンの存在下で、「EC21」の大腸菌の感受性株について得られた混同行列を表す。
図8】N=11の場合で、ゲンタマイシンに対して暴露された細菌で訓練された分類器でテストしたアモキシシリンの存在下で、「EC21」の大腸菌の感受性株について得られた混同行列を表す。
図9】異なる濃度のゲンタマイシン濃度について得られたシグニチャを示す。
図10】実施例4の原理の簡略ブロック図を示す。
図11】異なる濃度のシプロフロキサシンに対して暴露された細菌株の反応を表す。
図12】N=9の場合で、キサシリン(MIC=0.25μg/ml)の存在下、「SA44」の黄色ブドウ球菌の感受性株について得られた交絡行列(confounding matrices)を表す。
図13】N=9の場合で、オキサシリン(MIC=0.25μg/ml)の存在下、「SA44」の黄色ブドウ球菌の感受性株について得られた混同行列を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る方法の好ましい態様は、以下に示される。それらは、単独で、又は、組み合わせで考慮されなければならない。これらは、診断の適用にさらに適しており、細菌の生物学的サンプル中の抗生物質に対する感受性臨床プロファイルを決定するのにまさに適している。しかし、本発明に係る方法は、前述のように、そのような適用に限定されない。
【0024】
細菌の抗生物質に対する感受性臨床プロファイルを決定することは、まず第1に、細菌の抗生物質に対する感受性表現型を同定することからなる。したがって、好ましくは、上記生物学的サンプルの2つ以上の画分が調製され、少なくとも2つの画分がそれぞれ、増加する(漸増する)濃度の抗生物質に暴露される。本発明に係る方法の態様によれば、上記生物学的サンプルの少なくとも3つの画分、又は、4つもしくは5つ以上の画分が、増加する濃度の抗生物質にそれぞれ暴露される。
【0025】
上記抗生物質の濃度は、生体内でのテストの従来の濃度を反映する値の範囲内で選択されることが好ましい。したがって、現在の参照データ(例えば、微量希釈テスト)との比較が可能となる。好ましい態様によれば、画分がそれぞれ暴露される抗生物質の濃度は、テストできる生物種/抗生物質の対についての典型的なMIC及び臨床的ブレークポイントの閾値、又は、参照の方法で使用される濃度のパネル(concentration panels)から選択された値の少なくとも1つを含む値の範囲に含まれる。したがって、本発明に係る方法の診断への適用において、これらの濃度は、考慮される細菌/抗生物質の対にしたがって特異的に選択される。例えば、典型的なMIC又は疫学的カットオフ(epidemiological cut−off)が2μg/mlであり、2つの臨床的ブレークポイントが2μg/ml及び4μg/mlである大腸菌(E.coli)/ゲンタマイシンの対については、それらは、1μg/ml、2μg/ml、4μg/ml、8μg/ml及び16μg/mlから選択される値の少なくとも1つ、好ましくは2つ〜4つ、又はこれらの5つの値を含む範囲に含まれる。
【0026】
本発明に係る方法は、結合パートナーによって目的細菌を捕捉する捕捉工程を含む。本発明の結合パートナーは、分析するために捕捉する目的細菌を、特異的に又は非特異的に認識する。細菌との相互作用の間、結合パートナーは、遊離状態で培地中に存在していてもよく、又は予め支持体上に固定化されていてもよい。結合パートナーと細菌の結合が培地中で起こる場合は、その次に上記パートナーを支持体上に固定化してもよい。支持体上への固定化とは、当業者に周知のあらゆる手段によって上記支持体上に上記結合パートナーを直接的又は間接的に固定化することを意味する。本発明の結合パートナーは、生物学的及び/又は化学的性質のものであってもよい。したがって、例えば、細胞を非特異的又は包括的に(generic)捕捉する場合、それはある化合物で構成されていてもよいし、又は、細胞と相互作用するような化学的機能を運んでいてもよい。それは、キトサン、ポリ−L−リジン、ポリエチレンイミン及びポリアニリンタイプのポリマー等の例が挙げられる。それは、タンパク質、抗体、抗原、アプタマー、ファージ、ファージタンパク質から選択されるような生体分子で構成されていてもよい。これは、一般的に、細胞の特異的捕捉である。本発明の好ましい態様において、結合パートナーは支持体上に固定化され、次いで細菌が上記の固定化された結合パートナーによって捕捉される。
【0027】
捕捉工程は、上記画分を濃縮した後、抗生物質に暴露された1つ以上の細菌の画分及び対照画分で行うことができる。例えば、上記画分を遠心分離によって濃縮し、次に沈殿物(pellets)を回収しこれに捕捉工程を実施する。捕捉は、独立した沈殿物の濃縮工程なしに生体サンプル中で直接実施されるのが好ましい。
【0028】
捕捉工程の後、捕捉された細菌は特定され、分類される。この工程は、例えば画像化又は分光光度法によって行われる。捕捉されていない細菌は除去することができる。
【0029】
細菌の抗生物質に対する暴露の好ましい条件を以下に説明する。
【0030】
抗生物質は、目的細菌を少なくとも生存させておくことができる生理的溶液に入れておく。
【0031】
抗生物質に対する暴露は、臨床的に関心のある菌株について、約18℃〜約40℃、典型的には28℃〜37℃の考慮された菌株の培養温度で実施される。
【0032】
抗生物質への暴露は、参照の方法で必要とされる時間よりもはるかに短いインキュベーション時間(incubation time)とよばれる時間で行われる。本発明によれば、インキュベーション時間は10分以上4時間以下が好ましい。
【0033】
抗生物質に対して暴露された各画分についてのシグニチャの取得を実施例に示す。
【0034】
一般に、結果を得るために、取得したデータを処理するためのいくつかの方法を実施することができる。可能な限り関連性を持たせるために、個々のレベルでスペクトルを処理するための完全な方法を実施することが好ましい。これは、関心のあるシグナルの抽出を最大化するためのスペクトルの処理からなる前処理工程と、実際の対象のテストを実行し、関心のある結果を得ることを可能にする分類工程との2つの主要な工程に分けられる。
【0035】
前処理工程は、以下に述べる操作の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てを含む。
【0036】
− 飽和スペクトルの除去 −
飽和スペクトルの除去は、スペクトルを前処理する最初の工程である。この工程は、得られた生の(raw)スペクトルから実施する。対象とする振動数の領域の20%以上が最大強度の99%を超える強度を有するスペクトルは飽和しているものとする。
【0037】
− 宇宙線の除去 −
「宇宙線」とよばれる光線は、太陽光、銀河系、又は銀河系外から発せられる高エネルギーの帯電した粒子である。これらは絶えずCCD検出器(電荷結合素子、電荷移動デバイス)に衝突する。それらはスペクトルに無秩序に現れる非常に鋭いシグナルピークの原因となる。これらのピークの探索は、最初に生スペクトルの二次導関数を計算することから実行される。この二次導関数と平滑化された生スペクトルの二次導関数とを比較することにより、平滑化によってピークの高さが著しく減少した非常に鋭いピーク(すなわち宇宙線)を特定することができる。宇宙線に関連するピークは直線で置き換えられる。
【0038】
− 再調整(Realignment) −
異なる日付で撮影された一連のスペクトルの間にわずかな差異が認められる。この差異は、スペクトル全体にわたって一定である。それを修正することが望ましい。
【0039】
この方法は、2つのピーク位置1001cm−1及び1126cm−1で構成される「参照」に関して、すべてのスペクトルを再調整することからなる。再調整されるスペクトルのピーク位置は、アフィンバックグラウンド(affine background)上のガウス関数(Gaussian)で構成されるモデルによるピークの調整から決定される。
【0040】
個々の細菌のスペクトルは、一般に、(ノイズが多すぎる)スペクトルによる再調整を許容しない。したがって、再調整は、好ましくは、(SNIPアルゴリズムによるバックグラウンドの除去後に)細菌の平均スペクトルから行われる。再調整される平均正味スペクトルにおける2つのピーク位置と、これらの同じ2つのピークの参照値との間の比較は、差異を見積もることを可能にする。細菌のスペクトルから見出された補正は、支持体を構成する材料で取得した同じ日付の環境スペクトルに適用される。
【0041】
− 特定のシグナルの抽出 −
バックグラウンドの差し引きは2つの工程で行われる。支持体を構成する材料の平均スペクトルからなる第1のバックグラウンドは、ガラス支持体の場合には細菌スペクトルに対して例えば450〜650cm−1の間で調整されるが、それはこの領域がスペクトルに対してガラスの影響が存在する領域だからである。この調整は、この領域の細菌におけるスペクトル以下にするという制限が課される。第2の工程は、SNIPアルゴリズムによってバックグラウンドを差し引くことからなる。
【0042】
− 異常(deviants)の除去 −
異常スペクトルの自動除去モジュールが開発された。異常の探索に使用されるスペクトルは、後続の分析で使用される規格化された正味スペクトルである。異常の探索は、所定の抗生物質濃度及び所定の日付の株に対応するスペクトル群に適用される。この方法は、各スペクトルとスペクトル群の平均スペクトルとの間のユークリッド距離(Euclidean distance)を計算することに基づいている。この異常の除去は、連続して2回行われる。その1回目は、平均スペクトルに大きな影響を及ぼすかなり異常なスペクトルを除去することを可能にする。
【0043】
− 対象(目的)領域とシグナルの規格化 −
スペクトルが互いに比較される対象領域の選択は重要である。スペクトルは400〜3080cm−1のエネルギーオフセットで測定される。対象領域は、[650−1750]cm−1及び/又は[2800−3050]cm−1である。正味シグナルを互いに直接比較できるように規格化することが不可欠である。規格化間隔は[650−1750]cm−1又は[2800−3050]cm−1である。正味のシグナルは、この区間における正味のシグナルの平均値で除算される。好ましい実施形態では、取得された個々の細菌の全てのスペクトルから細菌の参照状態を減算する。使用された基準状態は、S0からのスペクトルから構成される基準状態である。この操作により、成長条件の変動、界面(表面)Iの変動(図2参照)を克服し、変化する抗生物質濃度への暴露に関連したシグニチャ(特徴)とよばれるシグナルを抽出することが可能になる。
【0044】
上記のように、この方法は、目的細菌の臨床的表現型プロファイルを決定し、特にその感度又は抗生物質に対する耐性を決定し、そして好ましくは、上記細菌の上記抗生物質に対するMICを決定するので、その適用に強い関心が持たれる。
【0045】
上記において、関連する結果を得るためには、少なくとも2個、好ましくは少なくとも5個のシグナルを得るように、各画分が少なくとも2個、好ましくは少なくとも5個の目的細菌を含むことが好ましい。
【0046】
本発明の他の態様によれば、比較される細菌は実質的に同じ成長段階にある。
【0047】
一般に、本発明に係る方法は、以下の要素を含むシステムで実施することができる。
【0048】
− サンプルのラマン分析を可能とする分光器 −
使用されるラマン分光器は、レーザーによる励起後のラマン散乱光のスペクトルを生成させる分析台と、これと連結した分析される体積を顕微鏡レンズにより共焦点体積(confocal volume)に空間的に限定してラマンスペクトル測定を実施する共焦点顕微鏡台とからなるという意味で、先行技術では共焦点ラマン顕微分光器とよばれている。顕微鏡台では、装置内のカメラにより、又はもっと簡単に顕微分光器に組み込まれたもしくは独立した光源を使用して接眼レンズを介して直接観察することにより、画像を従来通りに取得することもできる。
【0049】
− スペクトル解析のための微生物の調整装置(コンディショニングデバイス)(device for conditioning microorganisms) −
− 顕微分光器の操作、収集されたデータの保存、及び下記の方法を実行する専用ソフトウェアを用いてこれらのデータを解析するためのコンピュータ −
上述の微生物の調整装置、並びにこれと任意選択的に結合された本発明に係る方法を実施するための分光器及びコンピュータも本発明の目的である。
【0050】
本発明に係る方法を実施することを可能にする上述のシステムを図1に示す。その実施(実現化)は、以下でより詳細に説明する実施例において行われる。
【0051】
このシステムは、微生物の大きさ(0.5〜100μm)の物体による散乱光の共焦点分析を可能にするラマン顕微分光器を含む。例えば、品番44080の100xPlan−NeofluarタイプのZEISS社製顕微鏡レンズを備えたHORIBAブランドのAramis分光器等が挙げられる。この顕微分光器は、測定位置のサンプルを観察することを可能にする手動(接眼レンズ)又はデジタル(IDSブランドでμeye UI−1240MLモデルのCCDカメラ等)の観察手段(viewing means)が実装されている。ラマン測定パラメータは、測定対象に対して適切に選択される。以下の実施例において、共焦点体積は、不要なスペクトル寄与を制限するために、細菌(典型的には、使用されるARAMISモデルにおける300μmの共焦点孔(confocal hole)のサイズに近づけて適合されている。
【0052】
本システムはまた、本発明の目的である調整装置を備えており、その好ましい形態Dが図2に示されている。この装置は、1組のチャンバー(C1〜CN)に相当する凹部を含む部分Pを含む。ここで、Nは少なくとも2であり、上記チャンバーは場合によっては流体的に(fluidly)分離可能である。
【0053】
本システムは、流体管理システムへの流体チャンバーの接続を可能にする任意のポートP1からP2Nのセット、微生物のスペクトル測定と互換性のある機能化された又は機能化されていない光学的表面I、及び表面Iと部分Pとの間の組立を保証する任意部分J、を含む。
【0054】
本発明の調整装置の簡略化された態様によれば、部分Pを構成するのは標準的な顕微鏡スライドI(例えば、VWR社製の品番631−1551の25mm×75mm×1mm)であってもよく、密封部材Jを構成するのは流体チャンバー(例えば、一般的に「ジーンフレーム」とよばれるThermo Scientific社製の品番AB−0577)及び表面Iを構成するのはスライドガラス(例えば、Marienfeldの品番0107052)である。
【0055】
表面Iは、溶液中の微生物において一般的に遭遇する特性に基づいた「包括的な(ジェネリック)」捕捉化学(capture chemistry)とよばれる捕捉化学、又は「特異的」捕捉化学とよばれる捕捉化学によって、そして、対象とする種の特定の特性に基づいて、機能化することができる。例えば、「ジェネリック」捕捉化学の物質は、ポリカチオン性分子(ポリエチレンイミン、ポリ−L−リシン又はキトサン等)をスライドガラス上で吸収することによって実現でき、特異的捕捉化学は、タンパク質、抗体、抗原、アプタマー、ファージ又はファージタンパク質等の生体分子をガラス表面に吸着させて目的の微生物を捕捉することによって実現できる。
【0056】
調整装置は、対象とする微生物が代謝活性を有することを可能にする物理化学的条件(温度、ガス等)を保証する。
【0057】
もちろん、この装置(形態)Dの変形も可能であり、本発明の範囲内に入る。
【0058】
好ましい実施形態では、以下の工程が実行される。
【0059】
− それぞれの流体接続ポートP1〜PNを用いて、チャンバーC1〜CNに対象とする微生物を含む溶液を入れる。
【0060】
− 対象とする微生物を機能化された表面Iとの相互作用によって表面Iに付着させるために潜伏時間(latency time)とよばれる時間を考慮する。
【0061】
− 増加する一連の濃度の溶液中のテスト化合物(C2〜CN)及び所定量の生理的溶液をそれぞれの流体チャンバーC1〜CNに入れる。
【0062】
− チャンバーC1(対照)(control)を除いて、各チャンバーの微生物が化学物質に暴露されるインキュベーション時間とよばれる時間を実測する。
【0063】
− 表面I上に捕捉された微生物の同定及び分類を行う。
【0064】
− 各流体チャンバーC1〜CNの各々の微生物について得られたスペクトルからなる1組のスペクトルS1〜SNを得るまで、前の工程で分離された微生物についてラマンスペクトル測定を行う。
【0065】
− C1〜CNのスペクトルの変化を、前に構成されたデータベースと比較することによって、又は有意な変化のあった一組のスペクトルを決定してスペクトルのシグニチャを探索することによって、取得されたスペクトルの直接分析を実行する。
【0066】
− 分析の結果は、濃度Ci、及び、Ciの基準閾値との比較又は濃度に応じたスペクトルSiのいくつかの特徴の変化の表出からなる。それは、テスト化合物に対する分析された微生物の表現型の挙動を認定することを可能にする。
【0067】
上記のように、そして測定のための所望の目的にしたがって、一般的な原理は変えずにいくつかの適合(調整)を行うことができる(テストした濃度の数や、インキュベーション時間等)。
【0068】
本発明の詳細及び利点は、以下の図面を参照して下記の実施例から明らかになる。
【0069】
図1は、図2に示した本発明の装置を統合し、本発明に係る方法を実施することを可能にするシステムの完全な実装のブロック図である。
【0070】
図2は、図1に示すシステムに属する微生物の調整装置(コンディショニングデバイス)のブロック図である。
【0071】
図3は、図2に示す調整装置のスライドガラス上におけるサンプルの配置を示す。
【0072】
図4は、本発明に係る方法にしたがって得られた、ゲンタマイシンに対する「EC10」とよばれる参照記号ATCC25922の大腸菌株の反応を表す。
【0073】
図5は、N=5の場合、本発明に係る方法にしたがって得られたゲンタマイシンに対する「EC21」とよばれる参照記号ATCC35421の大腸菌株の反応を表す。
【0074】
図6は、N=11の場合、アモキシシリン(MIC=6μg/ml)の存在下、「EC10」とよばれる参照記号ATCC25922の大腸菌の感受性株について得られた混同行列(confusion matrix)を表す。
【0075】
図7は、N=11の場合、アモキシシリンの存在下、「EC21」とよばれる参照記号ATCC35421の大腸菌の感受性株について得られた混同行列を表す。
【0076】
図8は、N=11の場合、ゲンタマイシンに対して暴露された細菌で訓練された分類器でテストしたアモキシシリンの存在下で、「EC21」とよばれる参照記号ATCC35421の大腸菌の感受性株について得られた混同行列を表す。
【0077】
図9は、0μg/ml、2μg/ml及び8μg/mlのゲンタマイシン濃度について得られたシグニチャを示す。
【0078】
図10は、実施例4の原理の簡略ブロック図を示す。
【0079】
図11は、本発明に係る方法にしたがって得られた、異なる濃度のシプロフロキサシンに対して暴露された細菌株の反応を表す。
【0080】
図12は、2つの実験についてN=9についてオキサシリン(MIC=0.25μg/ml)の存在下、「SA44」とよばれる参照記号ATCC25923の黄色ブドウ球菌の感受性株について得られた交絡行列(confounding matrices)を表す。この細菌は、液体培地中での培養から得られたものである。
【0081】
図13は、N=9の場合、オキサシリン(MIC=0.25μg/ml)の存在下、「SA44」とよばれる参照記号ATCC25923の黄色ブドウ球菌の感受性株について得られた混同行列を表す。細菌はペトリ皿の中の寒天培地での培養で得られたものである。
【実施例】
【0082】
(実施例1)
−ゲンタマイシンに対する「EC10」とよばれる参照記号ATCC25922の大腸菌株の感受性表現型を決定するための本発明に係る方法の適用−
使用された調整装置は、2つの流体チャンバーから構成される。2つの抗生物質濃度c0「抗生物質なし」及びc1「耐性テスト」がテストされる。
【0083】
c1をゲンタマイシンの濃度:c1=8μg/mlとする。これは、EUCASTによって定義された臨床的ブレークポイントに対応する濃度4μg/mlの2倍に対応する。このテストの目的は、細菌がEUCASTによる定義にしたがって耐性があると考えられるかどうかを決定することである。
【0084】
テストされる細菌を含有する溶液をテストサンプルとして使用する。この溶液は、例えば採尿のような臨床サンプル中で遭遇する可能性のある濃度となるように5.10CFU/mlを懸濁させることによって得られる。この細菌溶液を、ポリエチレンイミン(PEI)(ジェネリックキャプチャ)(generic capture)を吸着することによって機能化された表面Iと接触させる。細菌が、機能化された表面Iと接触するのを可能にする10分の捕捉時間の後、表面Iを水溶液で洗浄する。この任意の工程により溶液中の捕捉されていない細菌の余剰を除去することが可能になる。この実施例で用いられる生理的溶液は、Bouillon TSB−T Trypcase Soy broth(トリプケースソイブロス)(例えば、BioMerieuxの品番42100)と、PBS10x(例えば、AppliChemブランドの品番A91620100のPBS錠剤から得られる)との比(割合)が1:9の混合物で十分に濃縮されていないものである。この生理的溶液を2つの画分に分けた後、ある量のゲンタマイシン(例えば、Sigma−Aldrichtの品番G1397−10ML)をこれらの各画分にそれぞれ添加し、異なる濃度c0又はc1のゲンタマイシンを得ることができる。それに応じて生成される濃度c0及びc1の溶液は、それぞれチャンバーC0又はC1に入れられる。表面I上のサンプルから直接捕捉された細菌は、適切な培地中に、それらが存在するチャンバーに応じて異なる抗生物質濃度に暴露される。
【0085】
次いで、装置を37℃の温度に到達させるために2時間加熱し、顕微分光器上の測定位置に置く。捕捉された細菌の検出は、画像分析に基づく自動手順、又は顕微分光器のカメラ及び適切な光源による粒子を検出するための従来の手法によって実施される。この検出は、各チャンバーC0及びC1に存在する個々の細菌で得られた一連のラマンスペクトル(それぞれS0及びS1)を自動的に取得することを可能にする。データセットを構成するために取得すべきスペクトルの数は、実施されるテストの性能に要求されるレベルに依存する。
【0086】
前述のように、結果を得るためには、取得したデータを処理するいくつかの方法がある。この実施例では、目的のシグナル及び分類の抽出を最大限にするために、上記のすべての段階を含む前処理工程を個別のレベルで含むスペクトルを処理するための完全な方法が実施される。
【0087】
この実施例では、取得されたスペクトルの総数M個の組から抽出された少なくとも2N個のスペクトルの組が使用される。すなわち、S0からのN個のスペクトル及びS1からのN個のスペクトルである。これらのスペクトルは、利用可能なM個のスペクトルの間で置き換えずに描かれる。S0からのN個のスペクトルの平均をS1からのN個のスペクトル及びS0からのN個のスペクトルのそれぞれから差し引き、これらの2組は「対照テストサンプル」及び「耐性テストサンプル」を構成する。
【0088】
分類のために、ラジアルカーネル(radial kernel)を有するサポートベクターマシン(Support Vector Machine)(SVM)を使用して得られた分類器を使用(train)する。このために、この実施例では、実施された日付が異なり培地が異なる前の同様の実験から得られた参照データベースが使用される。この分類器は、抗生物質を含まない状態でのスペクトルからの「抗生物質効果なし」と、参照データベースで使用された菌株のMICより高い濃度の条件下での以前に得られたスペクトルからの「抗生物質効果あり」の2つの分類を認識するように使用される。N個の差スペクトルからなる各テストサンプルについて、これらの差スペクトルを分類器で個別にテストし、グループの要素のうちの多数の分類にN個のスペクトルのグループを割り当てる。この多数への割り当ては、得られた結果と参照方法との良好な相関関係に基づいているが、テストの他のいくつかのパラメータを考慮するために変更することができる。例えば、多数とは異なる閾値の選択である(vote to a threshold)。ここで、効果のない細菌の数が30%を超えると、「抗生物質効果なし」という結果が保守的に(conservatively)割り当てられる。この閾値は、インキュベーション時間を考慮するために調整することもできる。例えば、抗生物質への暴露時間が大きく減少した場合、又はテストした微生物の典型的な倍加時間がより遅い場合、このスペクトル群に「抗生物質効果あり」の結果を割り当てるために、より低い閾値を使用することを考慮する必要がある。最後に、各細菌が完全に個別の方法で考慮される、微妙に異なったシステムを適用することができる。この最後の実施形態は、本発明に係る方法が研究目的のために実施される場合に有利である。
【0089】
得られる性能を説明するために、取得した294の全スペクトル(M=294)のうち、濃度あたりの5つのスペクトル(N=5)の組み合わせで得られるすべての結果について得られた平均スコアが、図4に示されている。この行列は、縦の列において、「抗生物質効果なし」及び「抗生物質効果あり」の状態を示し、横の列において、テストした抗生物質の2つの濃度を示す。スコアは、前述の分類器によって所定の分類に割り当てられたテストサンプルのパーセンテージを示す。したがって、「対照テストサンプル」のN=5の細菌の99%が「抗生物質効果なし」と分類され、テスト濃度に暴露された細菌からなる「感受性テストサンプル」の97.1%が「抗生物質効果あり」と分類される。したがって、本発明によれば、菌株は、ほんのわずかの個々の細菌分析に基づいて、高い信頼性をもって感受性があると説明することができる。その結果は、参照方法[BioMerieux Products ETEST(登録商標)GM256(品番412368)及びVITEK(登録商標)カードN233(品番413117)]から得られる結果のMIC=1μg/mlと一致し、そのMICは規定された閾値を厳密に超えておらず、細菌がEUCASTによって耐性がないとされることを裏付けている。
【0090】
(実施例2)
−ゲンタマイシンに対する「EC21」とよばれる参照記号ATCC35421の大腸菌株の感受性表現型を決定するための本発明に係る方法の適用−
「EC21」とよばれるATCC35421株について、実施例1の大腸菌とは別の菌株であるが実施例1と同じテストを行い、測定の差別化の性能を確認する。結果を図5に示す。
【0091】
参照方法ではこの菌株について、MIC>256μg/mlとなっている。これはEUCASTによると耐性があることを意味する。
【0092】
本発明に係る方法は、N=5及びM=133の場合、実施されたテストの100%が抗生物質の特徴的な効果のプロファイルを示さないことが読み取れるので、上記の結果を裏付ける。
【0093】
(実施例3)
−アモキシシリンに対する大腸菌の2株の最小発育阻止濃度(MIC)の決定−
この実施例では、実施例1及び実施例2とは異なる態様を示す抗生物質アモキシシリンについて、「EC10」とよばれる参照記号ATCC25922の大腸菌株の感受性の表現型を決定し、その最小発育阻止濃度の枠組みを特定することが目的である。
【0094】
この方法の差別化の性能を示すために、アモキシシリンに耐性のある「EC21」とよばれる大腸菌ATCC35421の菌株についても同様にして実施されたテストもまた示されている。
【0095】
アモキシシリンの以下の濃度についてテストが実施された。EC10感受性株(MICREF=6μg/ml)は、0μg/ml、2μg/ml、4μg/ml、8μg/ml、及び、16μg/mlの濃度、EC21耐性株(MICREF=256μg/ml)は、0μg/ml、4μg/ml及び8μg/mlの濃度である。
【0096】
この実施例では、説明した代替方法に相当(対応)する、テストの他の形態が示される。
【0097】
テストされた細菌であるEC10又はEC21を含む溶液をテストサンプルとして使用する。この溶液は、例えば採尿のような臨床サンプルで遭遇する可能性のある濃度とするために、5×10CFU/mlを水に懸濁させることによって得られる。この細菌溶液は、1本のチューブ当たり150μLの割合で5つのフィルターチューブ(例えば、MilliporeのMicrocon YM100)に分配される。生理的溶液の最後の250μLについて、これらのチューブの各々に十分な量を添加することで、1xの最終濃度のPBS(AppliChemブランドの品番A9162,0100のPBS錠剤から得られる)と、培養液TSB0.1X(例えば、BioMerieuxの品番42100のBouillon TSB−T Trypcase Soyブロスから得られる)と、最終濃度が以下に示すc0〜c4となるような量のアモキシシリン(例えば、シグマ−アルドリッチ社製の品番A8523−10ML)と、の混合物のこの実施例での培養(成長)が可能となる。
【0098】
上記のc0〜c4は、c0=0μg/ml、c1=2μg/ml、c2=4μg/ml、c3=8μg/ml、及びc4=16μg/mlである。
【0099】
上記のように得られた5本のチューブを、撹拌しながら37℃で2時間培養する。使用した容器(例えば、Eppendorfブランドの8415Cモデル)に適合した遠心分離機を用いて1200gで8分間遠心分離すると、各チューブのフィルター部分の細菌ペレットを回収して培地を除去することができる。細菌ペレットは、遠心分離(1200g、10分間)によって再びペレット化される前に常にチューブのフィルター部分上で洗浄を行うために、それぞれ水に再懸濁される。これらのペレットは、表面Iを構成するマリエンフィールドタイプ(Marienfield type)の(この構成では機能化されていない)スライドガラス上に、C0〜C4の対応するチャンバー内のスワブによって分配される。この構成では、異なる条件間での交換が不可能であるため、チャンバーは物理的な観点から必ずしも分離されていない。したがって、図3に示すように、各濃度について仮想画分が明確に識別されたスライドガラスを使用することが可能である。仮想画分は、この実施例では、細菌が付着したスライドの反対側に予め作成されたラベリングによって具現化された区切りによって定義される。スライドガラスは、次に、上記の調整装置の密封部材Jを構成する「ジーンフレーム(geneframe)」に堆積される。
【0100】
捕捉された細菌は、この実施例では、顕微分光器のカメラによって取得された画像及び実験者によって適用された光源の操作者による視覚的分析に基づく、手動の方法によって特定される。この特定によって、各チャンバーC0〜C4内にそれぞれ存在する個々の細菌について取得された少なくともN個の一連のラマンスペクトルを取得することが可能となる。データセットを構成するために取得するスペクトルの数は、実施されるテストの性能に要求されるレベルによる。
【0101】
ここで提案されたデータ処理の態様は、実施例1及び2のデータ処理の態様、すなわち、最初の前処理工程と、それに続く、分類器を使用して取得されたスペクトルを分類する工程、と同じである。下記の実施例では、分類器は、アモキシシリン抗生物質のない状況(0μg/ml)におけるEC10細菌の以前に得られた「抗生物質効果なし」スペクトル、及び8μg/mlのアモキシシリンの存在化におけるEC10細菌の「抗生物質効果あり」スペクトルを含む基準ベースを用いて分類器を使用する。得られた結果は、図6のコンフュージョンマトリックス(混同行列)に示されている。前述のように、この行列は、多数のテストの結果を与えることによって、方法のロバストネス(頑健性、信頼性、堅牢性)(robustness)を実証できる。
【0102】
「抗生物質効果なし」のカテゴリーのスペクトル群の「抗生物質効果あり」のカテゴリーへの移行は、4μg/mlと8μg/mlの間で観察される。したがって、分析によれば、4μg/ml〜8μg/mlのMICがこの菌株に割り当てられる。このタイプの分析において希釈係数についてのこの変動性は一般にみられる。例えば、EUCASTは、MICディスク拡散テストの品質管理の間、この菌株ATCC25922についてのMIC変動の範囲が[2−8]μg/mlであることを示唆しており、予想される結果とつじつまが合う。参照方法[BioMerieux Products ETEST(登録商標)AM256(品番412253)及びVITEK(登録商標)カードN233(品番413117)]によって得られたこの菌株についての結果は6μg/mlであり、これも上記の結果とつじつまが合う。
【0103】
アモキシシリンに耐性のある菌株「EC21」に対して実施された同じタイプの実験により、図7に示す結果が得られる。移行はみられず、測定された群の大部分は「抗生物質効果なし」のカテゴリーに割り当てられる。このテストではMIC>8μg/mlをこの菌株に割り当てることができ、これもまた参照方法によって得られた結果とつじつまが合う。
【0104】
図8に示されているように、例えば先の実施例のゲンタマイシンのような、異なるファミリーに属する別の抗生物質分子のMICより大きな濃度のものに暴露された細菌の「抗生物質効果あり」の細菌スペクトル、及び、抗生物質に暴露されていない細菌の「抗生物質効果なし」を認識するための細菌スペクトルを含む参照ベースで分類器を使用することによって、同じ結果が得られる。
【0105】
以前に暴露されたものと同様の結果が見られる。この実施例は、上記のようにしてテストした菌株に対する、未知の物質の抗生物質効果を調べることが可能であり、したがって分子スクリーニングに適用できることを示している。
【0106】
(実施例4)
−菌株に対する未知の物質(substance)の効果の決定−
この実施例は、未知と考えられる物質に対する、例えば「EC10」とよばれる参照記号ATCC25922の大腸菌株等の細菌株の感受性表現型を決定すること、及び、その最小発育阻止濃度の枠組みを特定することが目的である。
【0107】
テスト目的のために、以前に使用された抗生物質ファミリーには属していないが既知の抗生物質分子である、フルオロキノロンのファミリーからのシプロフロキサシンが使用される。前の実施例の実施形態がこの実施例に使用される。
【0108】
この分子について抗生物質効果が迅速に検出されるため、最初の4つの濃度について得られた結果のみが明示的に示される。C0からC3の各チャンバーについて一連のN個のラマンスペクトルが取得される。実施された濃度c0〜c3は、c0=0μg/ml、c1=0.005μg/ml、c2=0.015μg/ml、c3=0.064μg/mlである。
【0109】
前述のように、スペクトルの前処理のために、飽和スペクトルの除去の工程、宇宙線の除去の工程、再調整の工程、特定の細菌シグナルの抽出の工程、異常の除去の工程、関心領域とシグナル規格化の工程、が実施された。
【0110】
テストを行うために、各テスト濃度について得られたN個のスペクトルの平均をとり、その結果から濃度c0のN個のスペクトルの平均を差し引く。濃度c0については、参照状態の減算に使用されたN個のスペクトルとは異なるN個のスペクトルが選択される。この操作は、測定条件下で、抗生物質への暴露と相関しないすべての変動を取り除くことを目的とする。このようにして、各濃度を代表する一連の4つのテストスペクトルが得られる。
【0111】
この実施例では、抗生物質効果の少なくとも1つのスペクトルシグニチャ特性の探索及び使用に基づく、管理されていない(unsupervised)分類方法を使用することを選択する。このシグニチャを同定するために、前もって得られたデータセットが、ゲンタマイシン及び菌株EC10に使用される。この抗生物質についてはMIC(1μg/ml)が既知である。特徴的な効果を抽出するために、MICより高濃度の1つ(又は複数の)の濃度に暴露された細菌について得られたN個の前処理されたスペクトルからなるデータセットを用いる。データセットのN(又はn×N)個のスペクトルの組の平均をとり、その結果から抗生物質の非存在下で取得したN個のスペクトルの平均を差し引く。この結果を参照シグニチャとよぶ。この参照シグニチャは、細菌をシプロフロキサシンに暴露することによって得られたデータを適格と認定するために使用される。適格かどうかは、未知である。
【0112】
このように構成されたシグニチャセットは図9に示されている。濃度c1及びc3について得られた2つのシグニチャは同じである。同じピークが修正されるが、強度はここで濃度と相関する。強度のこの差異は、所定の濃度の影響を定量するために使用され得るが、特定の菌株/抗生物質の構成においてのみ使用されることに留意すべきである。
【0113】
8μg/mlのゲンタマイシン濃度から抽出したシグニチャを用いて、3組のテストスペクトルを分析する。これを行うために、選択されたシグニチャに対する各テストスペクトルの近接度を評価する。この実施例では、テストスペクトルとシグニチャとの間の距離の評価は、スペクトル空間における単純なユークリッド距離を使用して行われるが、他の多くの距離でこの近接度を評価することが可能である(マハラビス(Mahalanobis)、Ll等)。閾値は、以前に実施された他の同一の参照実験と比較して経験的に定義され、この閾値の選択は、適用対象(IVD診断、製薬スクリーニング等)で大きく異なる要求される結果のレベルに応じて、従来の方法(ROC等)によって最適化され得る。次いで、選択されたシグニチャと、未知とされる分子が異なる濃度での存在下で取得された差スペクトルとの間の近接度を決定するために、得られた距離の測定値をこの閾値と比較する。その距離が閾値を下回る場合、テストは陽性であり、抗生物質分子の効果が検出される。その距離がこの閾値を上回る場合、効果は検出されない。
【0114】
好ましい実施形態では、いくつかのより厳密な検出閾値を確立することが可能である。この実施例では、この原理にしたがって以下の2つの閾値が使用される。第1の閾値は、スペクトルの有意な変化の検出が可能であり、第2の閾値は、より厳密であり、シグニチャに対する変更の大きな近接度を検出することが可能である。したがって、シグニチャに対するテストスペクトルの距離のテストは、第1の閾値と比較して実施される。テストをパスしない場合、効果は検出されない。テストにパスすると、測定された距離は、第1の閾値を下回っており、効果が検出される。次いで、第2の閾値を用いて第2のテストが実施され、このテストにパスすると、「抗生物質効果あり」の結果が全体のテストに割り当てられる。この第2のテストにパスしなかった場合は、「その他の効果」の結果が全体のテストに割り当てられる。この構成により、所定の濃度に達しても、参照シグニチャと十分に同等でないスペクトルの変化を容易に検出することができる。したがって、この構成は、テストの間の潜在的な危険の大部分(捕捉表面の強い不均一性、寄生粒子の存在等)を容易に克服することができる。簡略図を図10に示す。
【0115】
同等のテストを実行するもう1つの方法は、ユークリッドの基準又はテストスペクトルの他の基準を直接使用し、それを、測定の態様に関連した古典的な変動(センサノイズレベル、生物学的変動性等)を無視するように選択された重要性の高い閾値と比較することによってテストを実施すること、そして単一の厳密な閾値値でテストを実施することである。その基準が一定の閾値を超える場合、濃度の変化がなければスペクトルはほぼゼロの差スペクトルとは有意に異なり、厳密に参照シグニチャと比較することができる。例えば、使用される標準によるシグニチャとの距離を測定することによって行われる。
【0116】
得られた結果を図11に示す。0.005μg/ml以上の濃度での効果が検出された。したがって、シプロフロキサシンの抗生物質効果は、0.005μg/mlを超える濃度についてテストした菌株に起因する可能性がある。したがって、このテストはMICとして0.005μg/mlの濃度を規定する。必要に応じて、0〜0.005μg/mlの低濃度を加えることにより、新しいテストを実施することが可能である。この株菌についてのEUCASTデータは、0.008μg/mlの既知のMIC及び0.004μg/ml〜0.016μg/mlの許容できる変動範囲を示す。ETEST(bioMerieux)を用いて行ったテストは0.008μg/mlのMICを測定を可能にし、得られた結果は、参照方法[BioMerieux Products ETEST(登録商標)Cl32(品番412311)及びVITEK(登録商標)カードN233(参考文献413117)]と一致することが裏付けられる。
【0117】
(実施例5)
−オキサシリンに対する「SA44」とよばれる参照記号ATCC25923の黄色ブドウ球菌株の感受性表現型を決定するための本発明に係る方法の適用−
選択された調整装置は2つの流体チャンバーで構成され、2つの抗生物質濃度(c0:「抗生物質なし」及びc1:「耐性テスト」)がテストされる。
【0118】
c1をオキサシリンの濃度(c1=8μg/ml)とし、これは、EUCASTによって定義された臨床的ブレークポイントに対応する濃度0.25μg/mlを32倍することに相当する。このテストの目的は、菌株がEUCASTによって提案された定義の意味において耐性があると考えられるかどうかを決定することである。
【0119】
テストされる細菌を含有する溶液をテストサンプルとして使用する。この溶液は、5.10CFU/mlに懸濁させることによって得られ、臨床サンプル、例えば採尿で遭遇する可能性のある濃度を表す。細菌は、液体培地中の培養物又はペトリ皿の寒天培地中の培養物から得ることができる。この細菌溶液を、ポリエチレンイミン(PEI)(一般的な捕捉剤)の吸着によって機能化された表面Iと接触させる。細菌が機能化された表面Iと接触するのを可能にする10分の捕捉時間の後、表面Iを水溶液で洗浄し、溶液中のまだ捕捉されていない細菌の余剰を除去する。この実施例で使用される生理的溶液は、BHI Brain Heart Infusion Broth(例えば、bioMerieuxの品番42081)とPBS10xとの混合物(1:9の比)であり、充分に濃縮されていないものである。この生理的溶液の2つの画分に分割した後、それぞれゲンタマイシンc0又はc1の異なる濃度を得るために、これらの画分のそれぞれにオキサシリン(例えば、TCI Europeの品番O0353)を所定の量添加した。このようにして生成された濃度c0及びc1の溶液は、それぞれチャンバーC0又はC1に入れられる。したがって、表面I上のサンプルから直接捕捉された細菌は、適切な培地中で、それが存在するチャンバーによって異なる濃度の抗生物質溶液に暴露される。
【0120】
次いで、2時間装置を加熱して37℃の温度に到達させ、顕微分光器上の測定位置に置く。捕捉された細菌は、画像分析に基づく自動手順、顕微分光器のカメラ及び適切な光源によって取得される標準的な粒子検出手順によって特定される。この特定により、C0及びC1の各チャンバーに存在する個々の細菌について得られた一連のラマンスペクトル(それぞれS0及びS1)を自動的に得ることが可能になる。データセットを構成するために取得されるスペクトルの数は、実施されるテストの性能に要求されるレベルに依存する。
【0121】
前述のように、結果を得るために、取得したデータを処理するいくつかの方法が実施できる。この実施例では、個々のレベルでスペクトルを処理する完全な方法が実施される。これは、関心のあるシグナルの抽出及び分類を最大にするために、上述のすべての段階を含む前処理工程を含む。
【0122】
この実施例では、取得された総数M個のスペクトルの組から抽出された少なくとも2N個のスペクトルの組、すなわちS0からのN個スペクトルとS1からのN個のスペクトル、を使用する。これらのスペクトルはM個の利用可能なスペクトルの置換なしで描かれる。S1からのN個のスペクトル及びS0からのN個のスペクトルのそれぞれは、S0からのN個のスペクトルの平均から差し引かれ、これらの2つのバッチは「対照テストサンプル」及び「耐性テストサンプル」を構成する。
【0123】
分類のために、この実施例では参照データベースが使用される。この参照データベースは、ラジアルカーネルを有するサポートベクターマシン(SVM)を用いて得られる分類器を取得するために、異なる日付及び異なる培養から以前に実施された同様の実験から得られたものである。この分類器は、抗生物質を含まない状態からのスペクトルからの「抗生物質効果なし」と、濃度が参照データベースで用いられる菌株のMICより高い以前に得られたスペクトルからの「抗生物質効果あり」と、の2つの分類を認識するように訓練されている。N個の差スペクトルからなる各テストサンプルについて、これらの差スペクトルは分類器に対して個別にテストされ、各グループには各グループの要素の多数の分類が割り当てられる。この多数の割り当ては、得られた結果と参照方法との良好な相関関係に基づいているが、テストの他の特定のパラメータを考慮するために大きく修正することができる。例えば、効果のない細菌の数が30%を超えると、「抗生物質効果なし」の結果を保守的に(conservatively)に割り当てることができる。この閾値は、インキュベーション時間を考慮して調整してもよい。例えば、抗生物質への暴露時間が大幅に短くなった場合や、テスト細菌の典型的な倍加時間が遅い場合、このスペクトル群に「抗生物質効果あり」の結果を割り当てるために、閾値をより低くすることが必要である。最後に、各細菌が完全に個別の方法で検討される、異なったシステムを採用することもできる。この最後の実施形態は、本発明に係る方法が研究目的で使用される場合に有利であり得る。
【0124】
得られた性能を説明するために、合計337個の全スペクトル(M=337)から取得される濃度ごと9個のスペクトル(N=9)の組み合わせで得られるすべての結果についての平均スコアが図12及び図13に示されている。これらの行列は、縦の列に、「抗生物質効果なし」及び「抗生物質効果あり」を示し、横の列にテストした抗生物質の濃度を示す。スコアは、上記の分類器によって所与の分類に割り当てられたテストサンプルのパーセンテージを示す。図12では、「対照テストサンプル」のN=9の細菌のサンプルの100%が「抗生物質効果なし」と分類され、テスト濃度に暴露された細菌からなる「感受性テストサンプル」の97%を超える数が「抗生物質効果あり」と分類される。したがって、本発明によって、個々の細菌について少し分析するだけで、それに基づいて高い信頼性をもって、菌株を感受性あるものと説明することができる。これらの図から観察される結果は、参照方法[BioMerieux社製ETEST(登録商標)OX256(品番412432)又はVITEK(登録商標)カードP631(品番414961)]と矛盾のないMIC=0.25μg/mlという結果を与える。このMICは規定された閾値を厳密に超えておらず、菌株がEUCASTによって耐性がないとされていることと一致する。
図1
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図10
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図13