【実施例】
【0082】
(実施例1)
−ゲンタマイシンに対する「EC10」とよばれる参照記号ATCC25922の大腸菌株の感受性表現型を決定するための本発明に係る方法の適用−
使用された調整装置は、2つの流体チャンバーから構成される。2つの抗生物質濃度c0「抗生物質なし」及びc1「耐性テスト」がテストされる。
【0083】
c1をゲンタマイシンの濃度:c1=8μg/mlとする。これは、EUCASTによって定義された臨床的ブレークポイントに対応する濃度4μg/mlの2倍に対応する。このテストの目的は、細菌がEUCASTによる定義にしたがって耐性があると考えられるかどうかを決定することである。
【0084】
テストされる細菌を含有する溶液をテストサンプルとして使用する。この溶液は、例えば採尿のような臨床サンプル中で遭遇する可能性のある濃度となるように5.10
7CFU/mlを懸濁させることによって得られる。この細菌溶液を、ポリエチレンイミン(PEI)(ジェネリックキャプチャ)(generic capture)を吸着することによって機能化された表面Iと接触させる。細菌が、機能化された表面Iと接触するのを可能にする10分の捕捉時間の後、表面Iを水溶液で洗浄する。この任意の工程により溶液中の捕捉されていない細菌の余剰を除去することが可能になる。この実施例で用いられる生理的溶液は、Bouillon TSB−T Trypcase Soy broth(トリプケースソイブロス)(例えば、BioMerieuxの品番42100)と、PBS10x(例えば、AppliChemブランドの品番A91620100のPBS錠剤から得られる)との比(割合)が1:9の混合物で十分に濃縮されていないものである。この生理的溶液を2つの画分に分けた後、ある量のゲンタマイシン(例えば、Sigma−Aldrichtの品番G1397−10ML)をこれらの各画分にそれぞれ添加し、異なる濃度c0又はc1のゲンタマイシンを得ることができる。それに応じて生成される濃度c0及びc1の溶液は、それぞれチャンバーC0又はC1に入れられる。表面I上のサンプルから直接捕捉された細菌は、適切な培地中に、それらが存在するチャンバーに応じて異なる抗生物質濃度に暴露される。
【0085】
次いで、装置を37℃の温度に到達させるために2時間加熱し、顕微分光器上の測定位置に置く。捕捉された細菌の検出は、画像分析に基づく自動手順、又は顕微分光器のカメラ及び適切な光源による粒子を検出するための従来の手法によって実施される。この検出は、各チャンバーC0及びC1に存在する個々の細菌で得られた一連のラマンスペクトル(それぞれS0及びS1)を自動的に取得することを可能にする。データセットを構成するために取得すべきスペクトルの数は、実施されるテストの性能に要求されるレベルに依存する。
【0086】
前述のように、結果を得るためには、取得したデータを処理するいくつかの方法がある。この実施例では、目的のシグナル及び分類の抽出を最大限にするために、上記のすべての段階を含む前処理工程を個別のレベルで含むスペクトルを処理するための完全な方法が実施される。
【0087】
この実施例では、取得されたスペクトルの総数M個の組から抽出された少なくとも2N個のスペクトルの組が使用される。すなわち、S0からのN個のスペクトル及びS1からのN個のスペクトルである。これらのスペクトルは、利用可能なM個のスペクトルの間で置き換えずに描かれる。S0からのN個のスペクトルの平均をS1からのN個のスペクトル及びS0からのN個のスペクトルのそれぞれから差し引き、これらの2組は「対照テストサンプル」及び「耐性テストサンプル」を構成する。
【0088】
分類のために、ラジアルカーネル(radial kernel)を有するサポートベクターマシン(Support Vector Machine)(SVM)を使用して得られた分類器を使用(train)する。このために、この実施例では、実施された日付が異なり培地が異なる前の同様の実験から得られた参照データベースが使用される。この分類器は、抗生物質を含まない状態でのスペクトルからの「抗生物質効果なし」と、参照データベースで使用された菌株のMICより高い濃度の条件下での以前に得られたスペクトルからの「抗生物質効果あり」の2つの分類を認識するように使用される。N個の差スペクトルからなる各テストサンプルについて、これらの差スペクトルを分類器で個別にテストし、グループの要素のうちの多数の分類にN個のスペクトルのグループを割り当てる。この多数への割り当ては、得られた結果と参照方法との良好な相関関係に基づいているが、テストの他のいくつかのパラメータを考慮するために変更することができる。例えば、多数とは異なる閾値の選択である(vote to a threshold)。ここで、効果のない細菌の数が30%を超えると、「抗生物質効果なし」という結果が保守的に(conservatively)割り当てられる。この閾値は、インキュベーション時間を考慮するために調整することもできる。例えば、抗生物質への暴露時間が大きく減少した場合、又はテストした微生物の典型的な倍加時間がより遅い場合、このスペクトル群に「抗生物質効果あり」の結果を割り当てるために、より低い閾値を使用することを考慮する必要がある。最後に、各細菌が完全に個別の方法で考慮される、微妙に異なったシステムを適用することができる。この最後の実施形態は、本発明に係る方法が研究目的のために実施される場合に有利である。
【0089】
得られる性能を説明するために、取得した294の全スペクトル(M=294)のうち、濃度あたりの5つのスペクトル(N=5)の組み合わせで得られるすべての結果について得られた平均スコアが、
図4に示されている。この行列は、縦の列において、「抗生物質効果なし」及び「抗生物質効果あり」の状態を示し、横の列において、テストした抗生物質の2つの濃度を示す。スコアは、前述の分類器によって所定の分類に割り当てられたテストサンプルのパーセンテージを示す。したがって、「対照テストサンプル」のN=5の細菌の99%が「抗生物質効果なし」と分類され、テスト濃度に暴露された細菌からなる「感受性テストサンプル」の97.1%が「抗生物質効果あり」と分類される。したがって、本発明によれば、菌株は、ほんのわずかの個々の細菌分析に基づいて、高い信頼性をもって感受性があると説明することができる。その結果は、参照方法[BioMerieux Products ETEST(登録商標)GM256(品番412368)及びVITEK(登録商標)カードN233(品番413117)]から得られる結果のMIC=1μg/mlと一致し、そのMICは規定された閾値を厳密に超えておらず、細菌がEUCASTによって耐性がないとされることを裏付けている。
【0090】
(実施例2)
−ゲンタマイシンに対する「EC21」とよばれる参照記号ATCC35421の大腸菌株の感受性表現型を決定するための本発明に係る方法の適用−
「EC21」とよばれるATCC35421株について、実施例1の大腸菌とは別の菌株であるが実施例1と同じテストを行い、測定の差別化の性能を確認する。結果を
図5に示す。
【0091】
参照方法ではこの菌株について、MIC>256μg/mlとなっている。これはEUCASTによると耐性があることを意味する。
【0092】
本発明に係る方法は、N=5及びM=133の場合、実施されたテストの100%が抗生物質の特徴的な効果のプロファイルを示さないことが読み取れるので、上記の結果を裏付ける。
【0093】
(実施例3)
−アモキシシリンに対する大腸菌の2株の最小発育阻止濃度(MIC)の決定−
この実施例では、実施例1及び実施例2とは異なる態様を示す抗生物質アモキシシリンについて、「EC10」とよばれる参照記号ATCC25922の大腸菌株の感受性の表現型を決定し、その最小発育阻止濃度の枠組みを特定することが目的である。
【0094】
この方法の差別化の性能を示すために、アモキシシリンに耐性のある「EC21」とよばれる大腸菌ATCC35421の菌株についても同様にして実施されたテストもまた示されている。
【0095】
アモキシシリンの以下の濃度についてテストが実施された。EC10感受性株(MIC
REF=6μg/ml)は、0μg/ml、2μg/ml、4μg/ml、8μg/ml、及び、16μg/mlの濃度、EC21耐性株(MIC
REF=256μg/ml)は、0μg/ml、4μg/ml及び8μg/mlの濃度である。
【0096】
この実施例では、説明した代替方法に相当(対応)する、テストの他の形態が示される。
【0097】
テストされた細菌であるEC10又はEC21を含む溶液をテストサンプルとして使用する。この溶液は、例えば採尿のような臨床サンプルで遭遇する可能性のある濃度とするために、5×10
7CFU/mlを水に懸濁させることによって得られる。この細菌溶液は、1本のチューブ当たり150μLの割合で5つのフィルターチューブ(例えば、MilliporeのMicrocon YM100)に分配される。生理的溶液の最後の250μLについて、これらのチューブの各々に十分な量を添加することで、1xの最終濃度のPBS(AppliChemブランドの品番A9162,0100のPBS錠剤から得られる)と、培養液TSB0.1X(例えば、BioMerieuxの品番42100のBouillon TSB−T Trypcase Soyブロスから得られる)と、最終濃度が以下に示すc0〜c4となるような量のアモキシシリン(例えば、シグマ−アルドリッチ社製の品番A8523−10ML)と、の混合物のこの実施例での培養(成長)が可能となる。
【0098】
上記のc0〜c4は、c0=0μg/ml、c1=2μg/ml、c2=4μg/ml、c3=8μg/ml、及びc4=16μg/mlである。
【0099】
上記のように得られた5本のチューブを、撹拌しながら37℃で2時間培養する。使用した容器(例えば、Eppendorfブランドの8415Cモデル)に適合した遠心分離機を用いて1200gで8分間遠心分離すると、各チューブのフィルター部分の細菌ペレットを回収して培地を除去することができる。細菌ペレットは、遠心分離(1200g、10分間)によって再びペレット化される前に常にチューブのフィルター部分上で洗浄を行うために、それぞれ水に再懸濁される。これらのペレットは、表面Iを構成するマリエンフィールドタイプ(Marienfield type)の(この構成では機能化されていない)スライドガラス上に、C0〜C4の対応するチャンバー内のスワブによって分配される。この構成では、異なる条件間での交換が不可能であるため、チャンバーは物理的な観点から必ずしも分離されていない。したがって、
図3に示すように、各濃度について仮想画分が明確に識別されたスライドガラスを使用することが可能である。仮想画分は、この実施例では、細菌が付着したスライドの反対側に予め作成されたラベリングによって具現化された区切りによって定義される。スライドガラスは、次に、上記の調整装置の密封部材Jを構成する「ジーンフレーム(geneframe)」に堆積される。
【0100】
捕捉された細菌は、この実施例では、顕微分光器のカメラによって取得された画像及び実験者によって適用された光源の操作者による視覚的分析に基づく、手動の方法によって特定される。この特定によって、各チャンバーC0〜C4内にそれぞれ存在する個々の細菌について取得された少なくともN個の一連のラマンスペクトルを取得することが可能となる。データセットを構成するために取得するスペクトルの数は、実施されるテストの性能に要求されるレベルによる。
【0101】
ここで提案されたデータ処理の態様は、実施例1及び2のデータ処理の態様、すなわち、最初の前処理工程と、それに続く、分類器を使用して取得されたスペクトルを分類する工程、と同じである。下記の実施例では、分類器は、アモキシシリン抗生物質のない状況(0μg/ml)におけるEC10細菌の以前に得られた「抗生物質効果なし」スペクトル、及び8μg/mlのアモキシシリンの存在化におけるEC10細菌の「抗生物質効果あり」スペクトルを含む基準ベースを用いて分類器を使用する。得られた結果は、
図6のコンフュージョンマトリックス(混同行列)に示されている。前述のように、この行列は、多数のテストの結果を与えることによって、方法のロバストネス(頑健性、信頼性、堅牢性)(robustness)を実証できる。
【0102】
「抗生物質効果なし」のカテゴリーのスペクトル群の「抗生物質効果あり」のカテゴリーへの移行は、4μg/mlと8μg/mlの間で観察される。したがって、分析によれば、4μg/ml〜8μg/mlのMICがこの菌株に割り当てられる。このタイプの分析において希釈係数についてのこの変動性は一般にみられる。例えば、EUCASTは、MICディスク拡散テストの品質管理の間、この菌株ATCC25922についてのMIC変動の範囲が[2−8]μg/mlであることを示唆しており、予想される結果とつじつまが合う。参照方法[BioMerieux Products ETEST(登録商標)AM256(品番412253)及びVITEK(登録商標)カードN233(品番413117)]によって得られたこの菌株についての結果は6μg/mlであり、これも上記の結果とつじつまが合う。
【0103】
アモキシシリンに耐性のある菌株「EC21」に対して実施された同じタイプの実験により、
図7に示す結果が得られる。移行はみられず、測定された群の大部分は「抗生物質効果なし」のカテゴリーに割り当てられる。このテストではMIC>8μg/mlをこの菌株に割り当てることができ、これもまた参照方法によって得られた結果とつじつまが合う。
【0104】
図8に示されているように、例えば先の実施例のゲンタマイシンのような、異なるファミリーに属する別の抗生物質分子のMICより大きな濃度のものに暴露された細菌の「抗生物質効果あり」の細菌スペクトル、及び、抗生物質に暴露されていない細菌の「抗生物質効果なし」を認識するための細菌スペクトルを含む参照ベースで分類器を使用することによって、同じ結果が得られる。
【0105】
以前に暴露されたものと同様の結果が見られる。この実施例は、上記のようにしてテストした菌株に対する、未知の物質の抗生物質効果を調べることが可能であり、したがって分子スクリーニングに適用できることを示している。
【0106】
(実施例4)
−菌株に対する未知の物質(substance)の効果の決定−
この実施例は、未知と考えられる物質に対する、例えば「EC10」とよばれる参照記号ATCC25922の大腸菌株等の細菌株の感受性表現型を決定すること、及び、その最小発育阻止濃度の枠組みを特定することが目的である。
【0107】
テスト目的のために、以前に使用された抗生物質ファミリーには属していないが既知の抗生物質分子である、フルオロキノロンのファミリーからのシプロフロキサシンが使用される。前の実施例の実施形態がこの実施例に使用される。
【0108】
この分子について抗生物質効果が迅速に検出されるため、最初の4つの濃度について得られた結果のみが明示的に示される。C0からC3の各チャンバーについて一連のN個のラマンスペクトルが取得される。実施された濃度c0〜c3は、c0=0μg/ml、c1=0.005μg/ml、c2=0.015μg/ml、c3=0.064μg/mlである。
【0109】
前述のように、スペクトルの前処理のために、飽和スペクトルの除去の工程、宇宙線の除去の工程、再調整の工程、特定の細菌シグナルの抽出の工程、異常の除去の工程、関心領域とシグナル規格化の工程、が実施された。
【0110】
テストを行うために、各テスト濃度について得られたN個のスペクトルの平均をとり、その結果から濃度c0のN個のスペクトルの平均を差し引く。濃度c0については、参照状態の減算に使用されたN個のスペクトルとは異なるN個のスペクトルが選択される。この操作は、測定条件下で、抗生物質への暴露と相関しないすべての変動を取り除くことを目的とする。このようにして、各濃度を代表する一連の4つのテストスペクトルが得られる。
【0111】
この実施例では、抗生物質効果の少なくとも1つのスペクトルシグニチャ特性の探索及び使用に基づく、管理されていない(unsupervised)分類方法を使用することを選択する。このシグニチャを同定するために、前もって得られたデータセットが、ゲンタマイシン及び菌株EC10に使用される。この抗生物質についてはMIC(1μg/ml)が既知である。特徴的な効果を抽出するために、MICより高濃度の1つ(又は複数の)の濃度に暴露された細菌について得られたN個の前処理されたスペクトルからなるデータセットを用いる。データセットのN(又はn×N)個のスペクトルの組の平均をとり、その結果から抗生物質の非存在下で取得したN個のスペクトルの平均を差し引く。この結果を参照シグニチャとよぶ。この参照シグニチャは、細菌をシプロフロキサシンに暴露することによって得られたデータを適格と認定するために使用される。適格かどうかは、未知である。
【0112】
このように構成されたシグニチャセットは
図9に示されている。濃度c1及びc3について得られた2つのシグニチャは同じである。同じピークが修正されるが、強度はここで濃度と相関する。強度のこの差異は、所定の濃度の影響を定量するために使用され得るが、特定の菌株/抗生物質の構成においてのみ使用されることに留意すべきである。
【0113】
8μg/mlのゲンタマイシン濃度から抽出したシグニチャを用いて、3組のテストスペクトルを分析する。これを行うために、選択されたシグニチャに対する各テストスペクトルの近接度を評価する。この実施例では、テストスペクトルとシグニチャとの間の距離の評価は、スペクトル空間における単純なユークリッド距離を使用して行われるが、他の多くの距離でこの近接度を評価することが可能である(マハラビス(Mahalanobis)、Ll等)。閾値は、以前に実施された他の同一の参照実験と比較して経験的に定義され、この閾値の選択は、適用対象(IVD診断、製薬スクリーニング等)で大きく異なる要求される結果のレベルに応じて、従来の方法(ROC等)によって最適化され得る。次いで、選択されたシグニチャと、未知とされる分子が異なる濃度での存在下で取得された差スペクトルとの間の近接度を決定するために、得られた距離の測定値をこの閾値と比較する。その距離が閾値を下回る場合、テストは陽性であり、抗生物質分子の効果が検出される。その距離がこの閾値を上回る場合、効果は検出されない。
【0114】
好ましい実施形態では、いくつかのより厳密な検出閾値を確立することが可能である。この実施例では、この原理にしたがって以下の2つの閾値が使用される。第1の閾値は、スペクトルの有意な変化の検出が可能であり、第2の閾値は、より厳密であり、シグニチャに対する変更の大きな近接度を検出することが可能である。したがって、シグニチャに対するテストスペクトルの距離のテストは、第1の閾値と比較して実施される。テストをパスしない場合、効果は検出されない。テストにパスすると、測定された距離は、第1の閾値を下回っており、効果が検出される。次いで、第2の閾値を用いて第2のテストが実施され、このテストにパスすると、「抗生物質効果あり」の結果が全体のテストに割り当てられる。この第2のテストにパスしなかった場合は、「その他の効果」の結果が全体のテストに割り当てられる。この構成により、所定の濃度に達しても、参照シグニチャと十分に同等でないスペクトルの変化を容易に検出することができる。したがって、この構成は、テストの間の潜在的な危険の大部分(捕捉表面の強い不均一性、寄生粒子の存在等)を容易に克服することができる。簡略図を
図10に示す。
【0115】
同等のテストを実行するもう1つの方法は、ユークリッドの基準又はテストスペクトルの他の基準を直接使用し、それを、測定の態様に関連した古典的な変動(センサノイズレベル、生物学的変動性等)を無視するように選択された重要性の高い閾値と比較することによってテストを実施すること、そして単一の厳密な閾値値でテストを実施することである。その基準が一定の閾値を超える場合、濃度の変化がなければスペクトルはほぼゼロの差スペクトルとは有意に異なり、厳密に参照シグニチャと比較することができる。例えば、使用される標準によるシグニチャとの距離を測定することによって行われる。
【0116】
得られた結果を
図11に示す。0.005μg/ml以上の濃度での効果が検出された。したがって、シプロフロキサシンの抗生物質効果は、0.005μg/mlを超える濃度についてテストした菌株に起因する可能性がある。したがって、このテストはMICとして0.005μg/mlの濃度を規定する。必要に応じて、0〜0.005μg/mlの低濃度を加えることにより、新しいテストを実施することが可能である。この株菌についてのEUCASTデータは、0.008μg/mlの既知のMIC及び0.004μg/ml〜0.016μg/mlの許容できる変動範囲を示す。ETEST(bioMerieux)を用いて行ったテストは0.008μg/mlのMICを測定を可能にし、得られた結果は、参照方法[BioMerieux Products ETEST(登録商標)Cl32(品番412311)及びVITEK(登録商標)カードN233(参考文献413117)]と一致することが裏付けられる。
【0117】
(実施例5)
−オキサシリンに対する「SA44」とよばれる参照記号ATCC25923の黄色ブドウ球菌株の感受性表現型を決定するための本発明に係る方法の適用−
選択された調整装置は2つの流体チャンバーで構成され、2つの抗生物質濃度(c0:「抗生物質なし」及びc1:「耐性テスト」)がテストされる。
【0118】
c1をオキサシリンの濃度(c1=8μg/ml)とし、これは、EUCASTによって定義された臨床的ブレークポイントに対応する濃度0.25μg/mlを32倍することに相当する。このテストの目的は、菌株がEUCASTによって提案された定義の意味において耐性があると考えられるかどうかを決定することである。
【0119】
テストされる細菌を含有する溶液をテストサンプルとして使用する。この溶液は、5.10
7CFU/mlに懸濁させることによって得られ、臨床サンプル、例えば採尿で遭遇する可能性のある濃度を表す。細菌は、液体培地中の培養物又はペトリ皿の寒天培地中の培養物から得ることができる。この細菌溶液を、ポリエチレンイミン(PEI)(一般的な捕捉剤)の吸着によって機能化された表面Iと接触させる。細菌が機能化された表面Iと接触するのを可能にする10分の捕捉時間の後、表面Iを水溶液で洗浄し、溶液中のまだ捕捉されていない細菌の余剰を除去する。この実施例で使用される生理的溶液は、BHI Brain Heart Infusion Broth(例えば、bioMerieuxの品番42081)とPBS10xとの混合物(1:9の比)であり、充分に濃縮されていないものである。この生理的溶液の2つの画分に分割した後、それぞれゲンタマイシンc0又はc1の異なる濃度を得るために、これらの画分のそれぞれにオキサシリン(例えば、TCI Europeの品番O0353)を所定の量添加した。このようにして生成された濃度c0及びc1の溶液は、それぞれチャンバーC0又はC1に入れられる。したがって、表面I上のサンプルから直接捕捉された細菌は、適切な培地中で、それが存在するチャンバーによって異なる濃度の抗生物質溶液に暴露される。
【0120】
次いで、2時間装置を加熱して37℃の温度に到達させ、顕微分光器上の測定位置に置く。捕捉された細菌は、画像分析に基づく自動手順、顕微分光器のカメラ及び適切な光源によって取得される標準的な粒子検出手順によって特定される。この特定により、C0及びC1の各チャンバーに存在する個々の細菌について得られた一連のラマンスペクトル(それぞれS0及びS1)を自動的に得ることが可能になる。データセットを構成するために取得されるスペクトルの数は、実施されるテストの性能に要求されるレベルに依存する。
【0121】
前述のように、結果を得るために、取得したデータを処理するいくつかの方法が実施できる。この実施例では、個々のレベルでスペクトルを処理する完全な方法が実施される。これは、関心のあるシグナルの抽出及び分類を最大にするために、上述のすべての段階を含む前処理工程を含む。
【0122】
この実施例では、取得された総数M個のスペクトルの組から抽出された少なくとも2N個のスペクトルの組、すなわちS0からのN個スペクトルとS1からのN個のスペクトル、を使用する。これらのスペクトルはM個の利用可能なスペクトルの置換なしで描かれる。S1からのN個のスペクトル及びS0からのN個のスペクトルのそれぞれは、S0からのN個のスペクトルの平均から差し引かれ、これらの2つのバッチは「対照テストサンプル」及び「耐性テストサンプル」を構成する。
【0123】
分類のために、この実施例では参照データベースが使用される。この参照データベースは、ラジアルカーネルを有するサポートベクターマシン(SVM)を用いて得られる分類器を取得するために、異なる日付及び異なる培養から以前に実施された同様の実験から得られたものである。この分類器は、抗生物質を含まない状態からのスペクトルからの「抗生物質効果なし」と、濃度が参照データベースで用いられる菌株のMICより高い以前に得られたスペクトルからの「抗生物質効果あり」と、の2つの分類を認識するように訓練されている。N個の差スペクトルからなる各テストサンプルについて、これらの差スペクトルは分類器に対して個別にテストされ、各グループには各グループの要素の多数の分類が割り当てられる。この多数の割り当ては、得られた結果と参照方法との良好な相関関係に基づいているが、テストの他の特定のパラメータを考慮するために大きく修正することができる。例えば、効果のない細菌の数が30%を超えると、「抗生物質効果なし」の結果を保守的に(conservatively)に割り当てることができる。この閾値は、インキュベーション時間を考慮して調整してもよい。例えば、抗生物質への暴露時間が大幅に短くなった場合や、テスト細菌の典型的な倍加時間が遅い場合、このスペクトル群に「抗生物質効果あり」の結果を割り当てるために、閾値をより低くすることが必要である。最後に、各細菌が完全に個別の方法で検討される、異なったシステムを採用することもできる。この最後の実施形態は、本発明に係る方法が研究目的で使用される場合に有利であり得る。
【0124】
得られた性能を説明するために、合計337個の全スペクトル(M=337)から取得される濃度ごと9個のスペクトル(N=9)の組み合わせで得られるすべての結果についての平均スコアが
図12及び
図13に示されている。これらの行列は、縦の列に、「抗生物質効果なし」及び「抗生物質効果あり」を示し、横の列にテストした抗生物質の濃度を示す。スコアは、上記の分類器によって所与の分類に割り当てられたテストサンプルのパーセンテージを示す。
図12では、「対照テストサンプル」のN=9の細菌のサンプルの100%が「抗生物質効果なし」と分類され、テスト濃度に暴露された細菌からなる「感受性テストサンプル」の97%を超える数が「抗生物質効果あり」と分類される。したがって、本発明によって、個々の細菌について少し分析するだけで、それに基づいて高い信頼性をもって、菌株を感受性あるものと説明することができる。これらの図から観察される結果は、参照方法[BioMerieux社製ETEST(登録商標)OX256(品番412432)又はVITEK(登録商標)カードP631(品番414961)]と矛盾のないMIC=0.25μg/mlという結果を与える。このMICは規定された閾値を厳密に超えておらず、菌株がEUCASTによって耐性がないとされていることと一致する。