(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912503
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】防水性を高めたステータコア及び電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20210727BHJP
【FI】
H02K1/18 B
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-19983(P2019-19983)
(22)【出願日】2019年2月6日
(65)【公開番号】特開2020-127344(P2020-127344A)
(43)【公開日】2020年8月20日
【審査請求日】2020年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】細田 明広
【審査官】
小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭54−129701(JP,U)
【文献】
実開昭53−068002(JP,U)
【文献】
特開平07−163083(JP,A)
【文献】
特開2018−067999(JP,A)
【文献】
特開2007−060800(JP,A)
【文献】
実開昭61−104743(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0028717(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径薄板を複数積層していて前記大径薄板の外周縁バリが互いに向かい合うように反転配置された第1コアブロック及び第2コアブロックと、
前記第1コアブロックと前記第2コアブロックとの間に挟持されていて前記大径薄板の外径より小さい外径を有する小径薄板と、
を備えることを特徴とする電動機のステータコア。
【請求項2】
外周面に封止剤をさらに備える、請求項1に記載の電動機のステータコア。
【請求項3】
前記小径薄板が、外周縁バリと、前記外周縁バリとは反対方向に突出する内周縁バリとを有しており、前記小径薄板の前記内周縁バリが薄板間の隙間に収まる、請求項1又は2に記載の電動機のステータコア。
【請求項4】
前記小径薄板が、外周縁バリと、前記外周縁バリと同一方向に突出する内周縁バリと、を有する、請求項1又は2に記載の電動機のステータコア。
【請求項5】
前記大径薄板の内周縁バリが前記大径薄板の前記外周縁バリと同一方向に突出しており、前記小径薄板の内径が前記大径薄板の内径より大きい、請求項1又は2に記載の電動機のステータコア。
【請求項6】
前記反転配置によって前記第1コアブロックと前記第2コアブロックとの間に段スキューが形成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の電動機のステータコア。
【請求項7】
前記第1コアブロック、前記第2コアブロック、及び前記小径薄板を備える第1コアセットと、前記第1コアセットと同一構成を有していて前記第1コアセットとの間で段スキューを形成する第2コアセットと、を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の電動機のステータコア。
【請求項8】
前記第1コアセットと前記第2コアセットとの間にセット間薄板をさらに備え、前記セット間薄板の内径が前記大径薄板の内径より大きい、請求項7に記載の電動機のステータコア。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のステータコアを備え、前記ステータコアの外周面を被覆するハウジングを省略した電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関し、特に防水性を高めたステータコア及び電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板を打抜き加工した薄板を複数積層してステータコアを製造する場合、薄板の周縁部に打抜きバリが形成される。斯かるバリに関する先行技術としては、下記文献が公知である。
【0003】
特許文献1には、電磁鋼板を一方の板面側から可動型で打抜いたコアプレートを複数積層したステータコアにおいて、一方の板面が軸方向一方側に向くコアプレートと、一方の板面が軸方向他方側に向くコアプレートとを軸方向で交互に積層し、積層したコアプレート間の隙間から接着材料を充填することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、薄片積層体を2つの部分薄片積層体に分割し、隣接する薄片の接合箇所で打抜きバリが互いに離れる方向を向くように、2つの部分薄片積層体を組み合わせて1つの薄片積層体を形成することにより、薄片積層体の軸方向誤差もしくは幅誤差を抑えることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、打抜かれた電磁鋼板の周縁部の板厚を、電磁鋼板の板厚と打抜き時に発生するバリ高との差より小さくすることにより、バリによる電磁鋼板間の絶縁不良を防止することが開示されている。
【0006】
特許文献4には、ステータコアの外周面を被覆するハウジングを省略した電動機において、ステータコアを挟持する前部支持部材及び後部支持部材を備え、各支持部材がステータコアに隣接する夫々の端面の近傍に、外周面から半径方向外方へ突出する環状突起を有し、環状突起の間に位置する両支持部材の外周面及びステータコアの外周面を被覆するように、封止剤が塗着され且つ固化された防水式電動機が開示されている。
【0007】
特許文献5には、薄板の周縁より凹んだ破断面に、隣接する薄板の剪断面から派生したバリが覆うように、薄板を複数積層したステータヨークが開示されている。
【0008】
特許文献6には、プレス加工によって生じた「かえり」の突出方向が異なる一対の鋼板を交互に重積し、「かえり」を互いに突き合せた一対の鋼板の突合せ部のみを短絡させることにより、多数重積した鋼板の縁部が全面的に短絡するのを防止することが開示されている。
【0009】
特許文献7には、外径の異なる2種類のステータ素材を交互に積層することにより、ステータ素材の打抜き端面が揃わないように形成し、打抜き端面による渦電流を防止するステータコアが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016−32331号公報
【特許文献2】特開2009−65831号公報
【特許文献3】特開2004−140966号公報
【特許文献4】特開平7−163083号公報
【特許文献5】特開平4−244748号公報
【特許文献6】特開昭53−89902号公報
【特許文献7】特開2000−341913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図9Aはステータコアの一部断面図であり、
図9Bはステータコアの一部側面図である。薄板90を複数積層してステータコアを製造する際、モータ特性向上等(特に段スキューによるコギング低減)のために薄板90を反転させて積層することがある。この際、破線91で示すように薄板90に形成されたバリ92の先端同士が向い合う箇所では、バリ92間に比較的大きな隙間を生じる。斯かる隙間は10μm以上あり、経時変化によって70−80μmに達することもある。従って、ステータコアの防水性に影響が出る。特にステータコアの外周面を被覆するハウジングを省略した電動機を工作機械等に適用した場合には、切削液等が矢印93で示す方向から電動機に侵入することがある。
【0012】
そこで、モータ特性を向上しつつ、ステータコアの防水性を高める技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一態様は、大径薄板を複数積層していて大径薄板の外周縁バリが互いに向かい合うように反転配置された第1コアブロック及び第2コアブロックと、第1コアブロックと第2コアブロックとの間に挟持されていて大径薄板より小さい外径を有する小径薄板と、を備えるステータコアを提供する。
本開示の他の態様は、本開示のステータコアを備え、ステータコアの外周面を被覆するハウジングを省略した電動機を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、小径薄板によってコアブロック間の防水性を高めたステータコアを提供できる。特に本開示のステータコアは、ステータコアの外周面を被覆するハウジングを省略した電動機に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2A】一実施形態における大径薄板の表側を示す平面図である。
【
図2B】一実施形態における大径薄板の裏側を示す平面図である。
【
図3】一実施形態におけるステータコアの一部断面図である。
【
図6】ステータコアの他の変形例を示す断面図である。
【
図8】ステータコアの別の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。各図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の符号が付与されている。また、以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲及び用語の意義を限定するものではない。本明細書において、用語「前方」とは電動機の負荷側、出力側を意味し、用語「後方」とは電動機の反負荷側、反出力側を意味することに留意されたい。
【0017】
図1は、本実施形態における電動機10の側面図である。本例の電動機10は、工作機械、産業用ロボット等に用いるサーボモータであるが、これに限定されるものではなく、ステータコアの外周面を被覆するハウジングを省略した電動機であれば、他の電動機にも適用できることに留意されたい。電動機10は、前方ハウジング11と後方ハウジング12との間に挟持されたステータコア13を備えている。ステータコア13は、第1コアブロック20と、第2コアブロック21と、第1コアブロック20と第2コアブロック21との間に挟持された小径薄板22とを備えている。第1コアブロック20及び第2コアブロック21は、電磁鋼板を打抜き加工した大径薄板(
図2参照。)を複数積層している。小径薄板22の外径は、大径薄板の外周全体にわたって大径薄板の外径より小さい。
【0018】
図2Aは大径薄板30の表側を示す平面図であり、
図2Bは大径薄板30の裏側を示す平面図である。大径薄板30は、概して3つの打抜き工程を経て成形される。第1工程では電動機10のロータ部分(図示せず)を打抜き、第2工程では大径薄板30の内形部分及びスロット部分を打抜き、第3工程では大径薄板30の外形部分を打抜く。本例では、大径薄板30の内形部分及びスロット部分が電磁鋼板の表側から裏側へ打抜かれるため、大径薄板30の内周縁バリ(
図3参照。)は大径薄板30の裏側に形成される。また、大径薄板30の外形部分は電磁鋼板の裏側から表側へ打抜かれるため、大径薄板30の外周縁バリ(
図3参照。)は大径薄板30の表側に形成される。
【0019】
また、大径薄板30は、上下左右で非対象な位置に複数の極歯31を備えていることが好ましい。これにより、例えば2枚の大径薄板30を反転配置した場合、薄板間で複数の極歯31が周方向で位置ずれるため、段スキューを形成できる。
【0020】
図3は、本実施形態におけるステータコア13の一部断面図である。理解を容易にするため、
図3では6枚の大径薄板30のみが示されているが、ステータコア全体で140−150枚程度の薄板が積層される点に留意されたい。また理解を容易にするため、本開示ではバリが比較的大きく描かれている点にも留意されたい。第1コアブロック20は、大径薄板30の外周縁バリ30aが同一方向を向くように大径薄板30を複数積層している。第2コアブロック21は、第1コアブロック20と同一構成を有するものの、第1コアブロック20及び第2コアブロック21は、大径薄板30の外周縁バリ30aが互いに向かい合うように反転配置される。前述の通り、反転配置によってコアブロック間で複数の極歯31(
図2参照。)が周方向で位置ずれするため、第1コアブロック20と第2コアブロック21との間に段スキューが形成される。これにより、電動機10のコギングが低減される。
【0021】
ステータコア13の外周面には封止剤40が塗着され、さらに封止剤40の外周面には塗装剤41が塗装される。第1コアブロック20又は第2コアブロック21の外周面ではバリ先端同士がぶつからないため、隙間が形成され難い。従って、ステータコア13の外周面を被覆するハウジングを省略した電動機では、封止剤40、塗装剤41等によって防水性が保たれる。しかし、破線で示すコアブロック間42の外周面ではバリ先端同士がぶつかるため、コアブロック間42に大径薄板30の外径Aより小さい外径Bを有する小径薄板22を挿入することによって比較的大きな隙間を無くし、防水性を高める。
【0022】
また、小径薄板22は、外周縁バリ22aと、外周縁バリ22aとは反対方向に突出する内周縁バリ22bとを有している。本例の小径薄板22の内径Cは大径薄板30の内径Dと同一であり、小径薄板22の内周縁バリ22bの突出側の薄板間の隙間が他の薄板間の隙間と比べて狭いため、小径薄板22の内周縁バリ22bの先端が隣の大径薄板30を外方へ押出し、破線で示すコアブロック間42の外周面に二次的な隙間を生じさせる可能性がある。従って、小径薄板22の内周縁バリ22bは大径薄板30の外周縁バリ30aより小さく、薄板間の隙間に収まることが好ましい。バリ高の制御は、パンチ及びダイ間のクリアランス調整や、小径薄板22と大径薄板30との間の板厚調整等(小径薄板22の板厚を大径薄板30の板厚より薄くする等)によって行うことができる。
【0023】
図4は、ステータコア13の変形例を示す断面図である。本例のステータコア13は、第1コアブロック20、第2コアブロック21、及び小径薄板22を有する第1コアセット50と、第1コアセット50と同一構成を有していて第1コアセット50との間で段スキューを形成する第2コアセット51と、を備えている。破線で示すコアセット間43でもバリ先端同士がぶつかるため、コアセット間43には大径薄板30の内径Dより大きい内径Eを有するセット間薄板23を挿入することによって比較的大きな隙間を無くし、防水性を高める。
【0024】
図5は、小径薄板の変形例を示す断面図である。本例の小径薄板24の内周縁バリ24bは小径薄板24の外周縁バリ24aと同一方向に突出している点で、前述のものとは異なる。小径薄板24の内周縁バリ24bの突出側の薄板間の隙間は他の薄板間の隙間より広いため、小径薄板24の内周縁バリ24bの先端が隣の大径薄板30を外方へ押出すことはない。これにより、破線で示すコアブロック間42の外周面には二次的な隙間が生じ難い。また、本例の小径薄板24はバリ高を制御する必要もない。
【0025】
図6は、ステータコア13の他の変形例を示す断面図である。本例のステータコア13は、第1コアブロック20、第2コアブロック21、及び小径薄板24を有する第1コアセット52と、第1コアセット52と同一構成を有していて第1コアセット52との間で段スキューを形成する第2コアセット53と、を備えている。破線で示すコアセット間43でもバリ先端同士がぶつかるため、コアセット間43には大径薄板30の内径Dより大きい内径Eを有するセット間薄板25を挿入することによって比較的大きな隙間を無くし、防水性を高める。
【0026】
図7は、大径薄板の変形例を示す断面図である。本例では、大径薄板32の内周縁バリ32bが大径薄板32の外周縁バリ32aと同一方向に突出しており、小径薄板26の内径Eが大径薄板32の内径Dより大きい点で、前述のものとは異なる。これにより、大径薄板32の内周縁バリ32bの先端が小径薄板26の内周縁バリ26bの先端とぶつからないため、破線で示すコアブロック間42の外周面には二次的な隙間が生じ難い。また、本例の小径薄板26もバリ高を制御する必要がない。
【0027】
図8は、ステータコア13の別の変形例を示す断面図である。本例のステータコア13は、第1コアブロック27、第2コアブロック28、及び小径薄板26を有する第1コアセット54と、第1コアセット54と同一構成を有する第2コアセット55と、を備えている。本例では、破線で示すコアセット間43でバリ先端同士がぶつからないため、コアセット間にセット間薄板を挿入する必要がない。
【0028】
以上の実施形態によれば、小径薄板22、24、26によってコアブロック間の防水性を高めたステータコア13を提供できる。また、セット間薄板23、25によってコアセット間の防水性も高めることができる。特に本開示のステータコア13は、ステータコアの外周面を被覆するハウジングを省略した電動機に有用である。
【0029】
本明細書において種々の実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更を行えることを認識されたい。
【符号の説明】
【0030】
10 電動機
11 前方ハウジング
12 後方ハウジング
13 ステータコア
20、27 第1コアブロック
21、28 第2コアブロック
22、24、26 小径薄板
22a、24a 外周縁バリ
22b、24b 内周縁バリ
23、25 セット間薄板
30、32 大径薄板
30a、32a 外周縁バリ
30b、32b 内周縁バリ
31 極歯
40 封止剤
41 塗装剤
42 コアブロック間
43 コアセット間
50、52、54 第1コアセット
51、53、55 第2コアセット
A 大径薄板の外径
B 小径薄板の外径
C 小径薄板の内径
D 大径薄板の内径
E セット間薄板の内径