(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ターゲットが設置される前記液体を収容する液体収容容器と、前記液体を注入するための注入管と、生成された金属ナノコロイドを含む液体を回収する回収容器とを備え、前記液体収容容器内の液体が0.1ml/sec以下で流動している状態にして、前記液体収容容器内の液体をオーバーフローさせながら前記レーザ照射を行うことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の金属ナノコロイド生成方法。
前記パルスレーザのレーザ波長が355nm以上1070nm以下で、かつスポット径Dは5以上50μm以下で、かつパルス幅は30ns以下で、かつパルス周波数は10kHz以上で、かつ走査速度は5mm/sec以上で、かつ照射時間は30分以下で、かつレンズ先端からターゲット表面までの最短距離が50mm以上250mm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の金属ナノコロイド生成方法。
前記パルスレーザの照射条件を、k>df[d:前記パルスレーザのレーザスポットの直径(mm)、f:前記パルスレーザの繰り返し周波数(Hz)、k:前記パルスレーザのスキャンスピード(mm/sec)]として、前記パルスレーザの隣り合うレーザスポット同士を一定間隔以上離してパルス照射することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の金属ナノコロイド生成方法。
前記パルスレーザの照射条件を、k=df[d:前記パルスレーザのレーザスポットの直径(mm)、f:前記パルスレーザの繰り返し周波数(Hz)、k:前記パルスレーザのスキャンスピード(mm/sec)]として、前記パルスレーザの隣り合うレーザスポット同士を隣接させてパルス照射することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の金属ナノコロイド生成装置方法。
【背景技術】
【0002】
金属ナノコロイドは1nm〜100nm程度(ナノメータオーダー)の極微細な粒子(金属コロイド、金属微粒子、金属ナノ粒子、金属ナノコロイド粒子、金属コロイド粒子)を指し、ナノ酸化チタンや金コロイドや白金コロイドや銀コロイドなどがある。コロイドとは1nm〜100nm程度の極微細な粒子が、液体・気体・固体などの媒体中に分散している状態を指す。金属ナノコロイドの物性は、一般的な塊状のバルク金属の物性とは異なり研究が進められている。
【0003】
酸化チタンは、塗料やインキ、紙、プラスチック、繊維、ゴム、化粧品など幅広く使用され、特に、白色顔料としての酸化チタン(顔料酸化チタン)は可視光の散乱が最大となるよう、平均一次粒子径は150〜500nm程度となっている。それよりも小さい粒子径100nm以下のナノ粒子の場合、ナノ酸化チタンと呼ばれ、物性に変化が生じる。例えば微粒化によって単位重量当たりの粒子個数が多くなるため紫外線を反射する確率が上がり、紫外線遮蔽能が向上する。また微粒子のサイズが、可視光の波長である400nm〜700nmの10分の1程度となるために可視光の散乱が急激に低下して透明性が向上し、白色顔料の特性である不透明性を失う。そして比表面積が大きくなることで触媒能が向上する。このような物性を利用して、ナノ酸化チタンは紫外線遮蔽を目的とした日焼け止め化粧品の他、透明フィルムや光触媒やファインセラミックス等の分野で使用され、新たな分野への展開が進んでいる。
金コロイドは、1マイクロメータ以下の金微粒子が流体中に分散したコロイドを指し、その光学特性から、生命科学や工学分野において広く利用されている。金コロイドの光学的特性として、表面プラズモン共鳴が知られる。これは金コロイド表面の自由電子と、金コロイド近傍を伝播する光の振動電場が相互作用することによって生じる。すなわち、特定の波長の光(可視光周波数)が金コロイド表面上の電子と共鳴振動をして集団振動現象を起こすことで、光の強い減光(吸収および散乱)を生じる。発生する光の波長や周波数は、金コロイドのサイズ、形状、表面の修飾および凝集状態に強く依存する。例えば30nm程度の単分散の金コロイドの場合、約450nmの青から緑のスペクトル領域の光が、表面プラズモン共鳴現象によって吸収され、約700nmの赤色波長が反射されるため赤色系統の発色となる。金コロイドの粒径が大きくなると、表面プラズモン共鳴によって吸収される波長は、長波長側の赤色に移る。したがって溶液は赤色が吸収されて青色が反射されるため、淡青色や紫色になる。さらに粒径が大きくなると、表面プラズモン共鳴波長はさらに長波長側の赤外領域にシフトして、可視光のほとんどが反射され、溶液は透明または半透明になる。したがって、様々な用途に応じた光学特性の異なる金コロイド得るためには、金コロイドを生成する際にその大きさや形状を調整することが重要といえる。
その他、白金コロイドは、白金の触媒作用によって皮膚や腸内の活性酸素除去に働くことで抗酸化作用を持つとされ、化粧品や健康食品などの添加物として利用される。銀コロイドは、その高い電気伝導率や低い焼結温度を持つ性質から、太陽電池やセンサー等の導電性インクや充填剤などに利用されており、金コロイドと同様に、銀コロイドの表面プラズモン共鳴も良く知られている。
【0004】
これらの金属ナノコロイドを生成する方法は化学的手法と物理的手法とに大別できる。例えばナノ酸化チタンを生成する化学的手法には、一般的製法として塩素法と硫酸法等が知られている。ナノ酸化チタンを塩素法で生成する場合、合成ルチルをコークスと塩素ガスとに反応させて四塩化チタンを得た後、該四塩化チタンを水蒸気量、反応温度、そして予熱温度などを調整しながら1300℃程度の高温で酸化することでナノ酸化チタンを生成する。塩素法では気相反応を行うため凝集は起こりにくいが、一次粒子径を小さくすることが困難であり、30nm前後の微粒子粉末を得ようとすると極めて高度な技術を必要としていた。ナノ酸化チタンを硫酸法で生成する場合、イルメナイト鉱石を濃硫酸で溶解することで鉱石中の鉄分を分離して硫酸チタニルを得て、それを加水分解することで含水酸化チタンを得る。その後、得られた含水酸化チタンを化学処理して酸化雰囲気下で加熱する焼成工程を行うことでナノ酸化チタンを生成する。しかし、硫酸法は液相反応を行うため粉末はスラリー状で得られ、スラリー状の粉末を乾燥させる際に粉末間に強い凝集が生じて酸素、水素等で架橋した化学結合を含む凝集体となる。この凝集体は機械的な分散法では解きほぐすことが困難なため、凝集体となった微粒子粉末の二次粒子径が大きくなってしまい、ナノ酸化チタンの物性である紫外線遮蔽性や、透明性が低下するというデメリットがある。
また、金コロイドを化学的手法によって生成する場合、テトラクロロ金(III)酸を液中で激しく攪拌しながら還元剤を用いて還元する方法が知られる。この攪拌は微粒子の大きさを均一にするために行われ、金ナノコロイド同士が凝集しないよう添加剤を加えられる場合が多い。具体的にはトゥルケヴィッチ法、ブラスト法等が知られ、トゥルケヴィッチ法ではテトラクロロ金(III)酸と、クエン酸ナトリウムが使用され、クエン酸ナトリウム中のクエン酸イオンが還元剤及び安定剤として働く。ブラスト法では、テトラクロロ金(III)酸のトルエン溶液と、テトラオクチルアンモニウムブロミドのトルエン溶液と、水素化ホウ素ナトリウムを用いる。この方法では、水素化ホウ素ナトリウムが還元剤として働き、テトラオクチルアンモニウムブロミドが安定剤兼触媒として働く。従って、金コロイドを化学的手法によって生成する場合、還元剤や界面活性剤を必要とするため、金コロイド溶液中でそれらが不純物となる。従って純粋な金コロイド溶液を得るためにはさらに透析などの工程が必要となる。
その他、白金ナノコロイド溶液を化学的手法によって生成する方法として、特許文献1には、白金塩と、ポリアクリル酸塩と、アルコールと、水とを含有する溶液を還流した後、当該溶液からアルコール及び水を一部が残留するように蒸発させ、アルコールを加えた後再度アルコール及び水を蒸発させる方法が公開されている。
【0005】
一方で、金属ナノコロイドを生成する物理的手法として、パルスレーザアブレーションがある。この手法は、液体中に沈められたターゲット(金属プレート)の表面にパルスレーザを照射する方法である。パルスレーザの照射により一部剥離したターゲットの物質は液体中で再核生成して、金属ナノコロイドを形成する(特許文献2−4)。
【0006】
特許文献2には、「ナノ粒子コロイドを生成する方法において、超短パルスレーザビームを100kHzより大きいパルス繰返率で発生し、各パルスレーザビームは10μJより小さいパルスエネルギと最大で10ピコ秒(ps)のパルス幅を有し、ターゲット材料の変性から生じる金属又は金属合金ナノ粒子を生成するための原料物質であり、上記パルスレーザビームの波長では光を伝播する液体中に配置されたターゲットを、該パルスレーザビームによって照射し、前記液体はいずれの安定化化学物質も実質的に含むことはなく、少なくとも前記パルスレーザビームの運動によって上記パルスレーザビームと該ターゲット間の相対運動を提供し、ナノ粒子における熱の蓄積を軽減し、前記パルス繰返率で前記液体中に形成されたナノ粒子コロイドからの散乱と吸収によりレーザパルスを実質的に妨げないようにし、100kHzより大きい前記パルス繰返率においてナノ粒子によって支配される粒度分布は前記レーザパルスにおける粒子の細分化から生じ、高い安定性を有するナノ粒子コロイドは、前記液体が安定化化学物質を実質的に含まないことにかかわらず、前記発生、照射及び提供のステップにより生成される方法(請求項1)。」が開示されている。特許文献3は、特許文献2の分割出願であり同様の内容が開示されている。
【0007】
特許文献4は、「液体中に設置した金板に、パルスレーザをレーザスポットが前記金属板上で重ならないように下記1式、A、及びBの条件でスキャンして照射し、個数基準粒径分布において全体の99%以上が1nm以上80nm以下にある金ナノ粒子を前記液体中に分散させる金ナノ粒子の製造方法であって、 前記液体が還元剤や界面活性剤を含まないことを特徴とする金ナノ粒子の製造方法。 k>df (1式)[d:レーザスポットの直径(mm)、f:レーザの繰り返し周波数(Hz)、k:スキャンスピード(mm/sec)][A:前記パルスレーザが繰り返し周波100kHz〜4MHz、パルス幅10ps〜100psであり、1パルスあたりの出力エネルギーが1μJ/pulse以上である][B:前記レーザスポットの直径が1〜30μmであり、前記パルスレーザのスキャンスピードが90m/sec以上である](請求項1)。」を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2−4記載の方法では、パルス幅をピコ秒やフェムト秒としたパルスレーザを使用するため、パルス幅がナノ秒のパルスレーザと比較して装置コストが高くなる。また特許文献2−4記載の方法でナノ秒のパルスレーザを搭載させて照射した場合、生成した金属ナノ粒子の粒度分布はパルス幅をピコ秒やフェムト秒とした場合と比較して分布幅が広くなるため、サイズや形態に応じた金属ナノコロイドの性質を得られにくくなる。例えば、プラズマ吸収波長のシフトや吸光度の変化によってバイオセンシングを行う場合、金属ナノコロイドの粒度分布幅は狭い方が良く、粒度分布幅の広い金属ナノコロイドは不向きとなる。また従来の方法ではナノコロイドの凝集を抑制させて安定化させるための分散剤(界面活性剤)等、何らかの化学物質を加える場合が多い。そのため生成した金属ナノコロイド溶液にはそれらの不純物が混ざるため、金属ナノコロイドの本来の物性が低下する。
【0010】
そこで本発明の目的は、分散剤(界面活性剤)などの不純物を含まず、粒度分布が狭く均一で、粒径が小さな金属ナノコロイドを生成する方法を提供することにある。またパルス幅がピコ秒やフェムト秒の高価なパルスレーザを使用しなくとも、粒度分布が従来と比較して非常に狭く均一となった、粒径約1〜20nmの金属ナノコロイドを生成する方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、液体中に設置したターゲットにパルスレーザを
隣り合うレーザスポットが重複しないように照射する金属ナノコロイド生成方法であって、
パルスレーザの照射箇所であるレーザスポットを前記ターゲットの表面に連続して照射して複数の前記レーザスポット同士によって直線状に形成された直線照射箇所を平行に複数形成するとともに、形成された隣り合う
前記直線照射箇所同士の最短距離
が前記レーザスポットのレーザスポット径の10倍以上(L≧10D
;Lは、隣り合う直線照射箇所同士のスポット径中心間ピッチを意味する。スポット径Dは、パルス照射されたレーザスポットの直径を意味する。)を維持したまま、前記直線照射箇所をできるだけ多く形成するステップを1つのサイクルとし、既に照射したことにより前記ターゲット表面に形成された凹凸部と未照射部分を同時に照射しないことを条件に前記ターゲットの同一表面上でこの照射サイクルを複数回繰り返すことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、スポット径中心間ピッチをスポット径の10倍以上離して照射するため、先にレーザ光照射した照射箇所に既に生じた熱の影響を受けない範囲を、新たにレーザ光照射することが出来る。従って、照射位置周りの局部的な高温箇所を効率良く冷却させる効果があり、本来の目的物以外の夾雑物が生成されにくく、従来に比べ粒度分布が狭く均一で純度の高い金属ナノ粒子の生成が可能である。また、ターゲット上面に滞留している金属ナノコロイドにレーザ光が再照射される可能性が低減し、ターゲットに照射されるエネルギーの均一化が図れる。例えば、チタンナノコロイドの生成実験では、スポット径中心間ピッチLが1D〜5Dの場合の粒度分布幅は、約35nmであるが、10D以上になると約20nm〜26nmの粒度分布幅となる。すなわち、スポット径中心間ピッチLをスポット径Dの10倍以上離して照射することにより、粒度分布幅が約10nm〜15nm程度狭く均一となった粒径の金属ナノコロイドが生成できる。
【0013】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、水面から前記ターゲットまでの距離を一定に保ち、かつ前記水面とターゲット表面を平行とし、前記パルスレーザを等速で照射することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、水面からターゲットまでの距離を一定に保ち、かつ前記水面と前記ターゲット表面を平行とすることで屈折率を一定に保つことで、粒度分布が狭く均一なナノ粒子を得ることが可能となる。またパルスレーザを等速で照射することで金属ナノコロイドの生成がより安定化され、粒度分布が狭く均一なナノ粒子を得ることができる。
【0015】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、水面の波立ちを抑えることで前記水面から前記ターゲットまでの距離と屈折率を一定に保ち、等速で照射することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、水面の波立ちを抑えることで水面からターゲットまでの距離と屈折率を一定に保ち、かつ前記水面と前記ターゲット表面を平行とすることが可能となる。したがって、金属ナノコロイドの粒度分布が狭く均一な粒子を得ることができる。
【0017】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、前記ターゲット表面を研磨またはレーザクリーニングして凹凸部を平坦にした後に、前記パルスレーザを照射することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、集光レンズからターゲット表面までの距離を一定にすることができるため、金属ナノコロイドの粒度分布が狭く均一な粒子を生成することができる。すなわち、ターゲットに対してレーザ照射を繰り返した場合、照射によって生じる照射痕の凹凸によって集光レンズからターゲット表面までの距離がスポット毎に異なることとなり、粒度分布幅が広く不均一な粒子が生成されてしまうが、ターゲット表面を研磨またはレーザクリーニングして凹凸部を平坦にした後に、パルスレーザを照射することで、このような粒度分布幅が広く不均一な粒子の生成を抑えることができる。
【0019】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、水面から前記ターゲット表面までの距離が5mm以下になるように前記ターゲットを設置することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、前記水面から前記ターゲット表面までの距離を5mm以下とすることでレーザアブレーションが生じ、目的とする幅狭く均一な粒度分布の金属ナノコロイドを得ることができる。
【0021】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、前記パルスレーザはナノパルスレーザであり、レーザアブレーションにより金属ナノコロイドを生成することを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、パルス幅がアト秒、ピコ秒、フェムト秒の超短パルスレーザもしくは短パルスレーザと比較して、安価なナノパルスレーザを用いて、粒度分布と均一性が同等以上(粒度分布1〜20nm)の金属ナノコロイドを生成することができる。従って、生成物の物性を低下させることなく装置コストを抑えることができる。
【0023】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、前記パルスレーザのレーザ波長が355nm以上1070nm以下で、かつスポット径は5以上50μm以下で、かつパルス幅は30ns以下で、かつパルス周波数は10kHz以上で、かつ走査速度は5mm/sec以上で、かつ
照射時間は30分以下で、かつレンズ先端からターゲット表面までの最短距離が50mm以上250mm以下であることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、従来に比べ非常に幅狭い粒度分布の金属ナノ粒子が生成可能である。
【0025】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、隣り合う平行な2つの直線照射箇所の中間位置に、前記2つの直線照射箇所と平行な、新たな直線照射箇所を形成させることを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、隣り合う直線照射箇所同士の照射順序に時間的隔たりがあるため、隣り合う直線照射箇所同士の間で熱の影響を受けにくい。従って新たにレーザ光照射する際に、先に照射した箇所に既に生じた熱影響を受けにくくすることができ、夾雑物が生成されにくい。また隣り合う直線照射同士の照射順序に時間的隔たりがあることで、滞留する金属ナノコロイドの浮遊物を水流によって除去した後にレーザ光照射をすることが容易となる。したがって金属ナノコロイドの滞留によって生じるレーザ光阻害を受けにくく、均一に照射でき、粒度分布の幅狭い均一な金属ナノコロイドを生成することが可能となる。
【0027】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、前記パルスレーザの照射条件を、k≧df[d:前記パルスレーザのレーザスポットの直径(mm)、f:前記パルスレーザの繰り返し周波数(Hz)、k:前記パルスレーザのスキャンスピード(mm/sec)]として、前記パルスレーザの隣り合うレーザスポット同士を一定間隔以上離してパルス照射することを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、k≧dfとすることで複数のレーザスポット同士が重なり合わないため、ターゲット表面上において、前のレーザ照射によって既に凹凸が形成された箇所を避けて、新たなレーザ照射をすることができ、均一なナノコロイドを安定的に生成することができる。
【0029】
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、前記パルスレーザの照射条件を、k=df[d:前記パルスレーザのレーザスポットの直径(mm)、f:前記パルスレーザの繰り返し周波数(Hz)、k:前記パルスレーザのスキャンスピード(mm/sec)]として、前記パルスレーザの隣り合うレーザスポット同士を一定間隔以上離してパルス照射することを特徴とする。
【0030】
本発明によれば、k=dfとすることで、ターゲット表面上の凹凸の無い箇所を無駄なくレーザ照射でき、最も効率の良い照射を行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば従来の方法と比較して、粒径が小さく、粒度分布が狭く均一な金属ナノコロイドを生成することが可能である。従来技術において例えば金ナノ粒子を生成する場合、粒度分布は粒径1〜50nmと幅広い。本発明によれば、従来に比べ非常に幅狭い粒度分布が1〜20nmの範囲の金ナノ粒子が生成可能である。また、分散剤(界面活性剤)を使用していないため不純物を含まない純粋な金属ナノコロイドが生成可能である。金属ナノコロイドは不純物を含まず、粒径は均一である方が、安定した効能(医薬品等)、性能(電子部品等)が期待できるため付加価値が高い。
また従来の技術では、パルス幅をピコ秒、フェムト秒としたパルスレーザを使用しているものが多いが、加工方法および、水面の状態を最適化することにより、コスト安のナノ秒レーザで同等以上(粒度分布1〜20nm)の結果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明を実施するための形態を以下に説明する。
【0034】
(第1の実施形態)
本実施形態の金属ナノコロイド生成方法
図1は、第1の実施形態の金属ナノコロイド生成方法を示す金属ナノコロイド生成装置100の側面図である。
図2は、本実施形態の金属ナノコロイド生成方法を示すターゲット4の平面図である。
図2の実線矢印12はパルスレーザの照射移動軌跡を示し、破線矢印13はパルスレーザを未照射にしてレーザヘッド(光スキャナ)を移動させた際の未照射移動軌跡を示している。
本実施の形態の金属ナノコロイド生成方法は、液体5中に設置したターゲット4に、パルスレーザ1をスキャンして照射する、金属ナノコロイド生成方法であって、スポット径中心間ピッチLをスポット径Dの10倍以上(L≧10D)離して照射する(
図2)。すなわち、ある直線的照射箇所とその次の直線照射箇所(9aと9b、9bと9c、・・・、9eと9f)の距離をL≧10Dとして照射する(
図2)。言い換えれば、n番目(n=1、2、3、・・・)の照射箇所とn+1番目の照射箇所の距離をL≧10Dとして照射する。
本実施の形態の金属ナノコロイド生成方法では、
図2に示すように、ターゲット4上部の1サイクル目の照射開始点10から直線的に照射して第1の照射箇所9aを形成し、前記第1の直線照射箇所9aから所定間隔離して、第1の直線照射箇所9aと平行に第2の照射箇所9bを形成し、以下同様に平行照射を繰り返して複数の照射箇所(9c、9d、・・・)を形成し、1サイクル目の照射終点11にレーザスポット9を到達させる。ここで、第2の照射箇所9bは第1の照射箇所9aに対し、ターゲット4上において、上側、下側、左側、右側のいずれの方向に所定間隔離しても良いが、等間隔で照射するために、第2の照射箇所9bを第1の照射箇所9aから所定間隔離した方向と同じ方向へ、第3以降の照射箇所(9c、9d、・・・)も等間隔離して照射する(
図2)。なお1サイクル目の照射開始点10から1サイクル目の照射終点11までのレーザ照射を、レーザ照射の1サイクルとする。
本実施形態における「スポット径中心間ピッチL」とは、重なり合った複数のレーザスポット9同士によって直線的形状となった直線照射箇所(9a、9b、9c、・・・)に関して、平行に隣り合う直線照射箇所同士(9aと9b、9bと9c、9cと9d、・・・)の距離を意味する(
図2)。また「スポット径Dとは」パルス照射されたレーザスポット9の直径を意味する(
図2)。
なお、液体5中に設置したターゲット4に対してパルスレーザ1をスキャンして照射する際、パルスレーザ1の照射条件は、k≧df[d:レーザスポットの直径(mm)、f:レーザの繰り返し周波数(Hz)、k:スキャンスピード(mm/sec)]として、パルスレーザ1の隣り合うレーザスポット9同士を一定間隔以上離してパルス照射することが好ましい(
図2)。これにより、複数のレーザスポット9同士が重なり合わないため、ターゲット表面上において、前のレーザ照射によって既に凹凸が形成された箇所を避けて、新たなレーザ照射をすることができ(
図2)、均一なナノコロイドを安定的に生成することができる。またより好ましくは、k=dfとすることで、ターゲット表面上の凹凸の無い箇所を無駄なくレーザ照射でき(
図3)、最も効率の良い照射を行うことができる。なお本実施例において、パルスレーザ1で照射された照射箇所は、断続的直線形状(k>df)(
図2)、あるいは数珠状の直線形状(k=df)となる(
図3)。
【0035】
レーザ照射の1サイクル終了後、2サイクル目の照射開始点14を、1サイクル目の照射開始点10からスポット径D分オフセットした位置(移動させた位置)にして、1サイクル目と同様パルスレーザ1でレーザ照射する(
図2)。すなわち2サイクル目の照射開始点14から直線的に照射して、2サイクル目の第1の直線照射箇所9gを形成し、2サイクル目の第1の直線照射箇所9gから所定間隔離して、2サイクル目の第1の直線照射箇所9gと平行な照射を繰り返して複数の直線照射箇所を形成し、2サイクル目の照射終点まで到達させる。したがって異なるサイクル数の直線照射箇所同士、例えば1サイクル目の第1の直線照射箇所9aと、2サイクル目の第1の直線照射箇所同士9gはL≧10Dとはならないが、1サイクル目の最後の照射箇所9fと2サイクル目の第1の直線照射箇所9gはL≧10Dとし、n番目(n≧1)の照射箇所とn+1番目の照射箇所の距離はL≧10Dとして照射をする。その後も新しいサイクルの開始毎に同様の照射開始点のオフセットを繰り返す。サイクル数が増加すると、新しい照射開始点と1サイクル目の第2の直線照射箇所9bの照射開始点との距離がスポット径D以下となり、ターゲット4を隙間なく照射し終えることとなる。サイクル数が増加して、ターゲット4表面を隙間なく照射した後は、既存の照射箇所の上から重なるようにして直線照射を行っても良い。例えば1サイクル目の照射開始点10から1サイクル目の直線照射箇所9aに重なるようにして直線照射を行う。なおこの時も、n番目(n≧1)の照射箇所とn+1番目の照射箇所の距離はL≧10Dとして照射をする。
なお、2サイクル目の照射開始点14は、1サイクル目の照射開始点10からスポット径D分オフセットした位置としたが、その他、1サイクル目の第1の直線照射箇所9aと、1サイクル目の第2の照射箇所9bの中間位置とすることもできる。また、隣り合う直線照射箇所同士のスポット径中心間ピッチLをスポット径Dの10倍以上(L≧10D)を満たすように照射させても良く、レーザ照射のサイクル数は、スポット径中心間ピッチLがスポット径Dの10倍未満(L<10D)となる前迄に終了させても良い。
【0036】
本実施形態において、好ましくは液面(水面)5aから前記ターゲット表面4aまでの距離7が5mm以下になるように前記ターゲットを設置し、パルスレーザ1はナノ秒レーザを用いて等速でスキャン(走査)する。また液面5aの波立ちを抑える等して、液面5aからターゲットまでの距離や、パルスレーザ1から溶液5へ向けて出射されたレーザ光3の屈折率を一定に保つことが好ましい(
図1)。また溶液5は泡立ちが発生しないことが好ましい。
【0037】
パルスレーザ1について
本発明において、パルスレーザ1は光学レンズ2や光スキャナやレーザヘッドを備え、レーザ光3を照射するために使用される。パルスレーザ1はパルス光を発生できるレーザであれば特に限定されず、例えば、レーザ光3のパルス幅がアト秒からナノ秒の、アト秒レーザ、フェムト秒レーザ、ピコ秒レーザ、ナノ秒レーザ等を用いることが出来る。アト秒、フェムト秒、ピコ秒のパルスレーザを利用いる場合熱が生じにくい。そして比熱加工の他に多光子吸収が起こるため波長と材料の相性を気にせずにアブレーション加工が可能である。装置コストを安価に抑えつつ、粒度分布幅を狭く均一にするためには、ナノ秒レーザ(ナノパルスレーザ)を用いることが好ましい。
ターゲット4に対するパルスレーザ1の条件としては、好ましくは、レーザ波長は355〜1070nmであり、ワーキングディスタンス15(集光レンズ3先端からターゲット1表面までの距離。
図2を参照)は50〜250mmであり、スポット径Dは5〜50μmであり、パルスエネルギは10〜300μJであり、パルス幅は30ns以下であり、パルス周波数は10kHz以上であり、走査速度は5mm/sec以上であり、照射時間は30分以下とし、粒径が小さく、粒度分布が幅狭くなる。また、より好ましくは、実施例1に示す条件(レーザ波長:355nm、パルス周波数:20kHz、パルス幅:30ns、スポット径D:20μm、パルスエネルギ:180〜230μJ、水面5aからターゲット表面4aまでの距離:1mm、走査速度:15mm/sec、照射時間:15分)とし、これによりさらに粒径が小さく、粒度分布が幅狭く均一となり、例えば白金ナノコロイドの粒度分布は1〜10nmとなり、金ナノコロイドの粒度分布は1〜20nmとなる。
なおレーザ光3の照射強度は上記条件の他、ターゲットがレーザ光3によってアブレーション現象が生じるエネルギー密度であれば良く、レーザの出力とパルス幅の値によってパルスエネルギの値を調節する。スポット径Dは細かな粒子を生成するためには小さい方が好ましい。走査速度は金属ナノコロイド8の粒度分布幅が狭く均一になるように等速であることが好ましく、パルス周波数が10kHz以下の場合、金属ナノコロイド8の生成効率が低下するため避けることが望ましい。
パルスレーザ1のレーザ光3を走査(スキャン)するために使用される光スキャナは、走査速度が5mm/sec以上となるものであれば良く、例えばレーザ光3を反射させるためのミラーを回転(往復揺動)させてレーザ光3を走査するガルバノスキャナ(ガルバノミラー)や、ミラーを振動させてレーザ光3を走査するMEMS光スキャナ等が使用される。なお、光スキャナは内部のミラーを操作してレーザ光を移動させるが、レーザヘッドはXY軸ロボット等に搭載してロボットの操作によりレーザ光を移動させるものである。本実施の形態では、光スキャナとレーザヘッドのどちらを使用しても良いが、好ましくは水面5aに波立ちが生じにくい(ロボット等の動作振動がない)光スキャナが望ましい。
【0038】
集光レンズ2について
使用する集光レンズ2の焦点距離は、ワーキングディスタンスの15最適条件と同じであり、好ましくは50〜250mmである。
【0039】
ターゲット4について
本発明において、ターゲット4は金属または金属合金を含むプレートとするが、金属ナノコロイド8を生成するものであれば何でも良い。例えば、既存の方法で製造された金、白金、チタン、銀などからなる金属プレート(金属板)とし、純度も特に限定されない。ただし、不純物をなるべく含まない金属ナノコロイド8を生成するためには金属純度は高いものが良い。例えば純度99%以上が好ましく、純度99.5%以上がより好ましい。
ターゲット4に対してレーザ照射を繰り返すと、ターゲット表面4aに照射痕の凹凸が形成される(不図示)。凹凸が形成されると、パルスレーザ1が備える集光レンズ2からターゲット表面4aまでの距離がレーザスポット9毎に異なることになり、金属ナノコロイド8の粒径の均一性に影響を及ぼす。従ってターゲット4の使用にあたっては以下の条件に従うことが好ましい。(1)金属ナノコロイド8の粒子の粒度分布幅が35nmを超えたら、新品のターゲット4又はターゲット4の裏面を使用する。(2)ターゲット4が高価な場合は、ターゲット4表面(照射面)を研磨またはレーザクリーニングし、凹凸部を平坦にした後に、パルスレーザ照射する。(3)
図2の加工軌跡の場合、ターゲット4を有効利用するために、レーザ照射の1サイクル終了後に、2サイクル目のスタート位置をスポット径D分オフセットした位置にし、その後もサイクル毎に同様のオフセットを繰り返す。なお、(3)の方法をとることで、ターゲット4の未照射面にアブレーション加工を施すことが可能となり、またターゲット4全体を対象に満遍なく照射を行うことが出来る。また(1)の方法については新品のターゲット4使用時に最も均一な粒径が得られることが試験で確認されている。
【0040】
液体5について
ターゲット4が設置される液体5としては、蒸留水や脱イオン水などの精製水、超純水、またはアルコールやヘキサンなどの有機溶媒を使用することができる。液体5の種類は特に限定されないが、照射するレーザ光3の波長を吸収しにくい液体5(すなわち吸光度が小さい液体)で、例えば脱イオン水やメタノール、エタノールなどが好ましい。またメタノールやエタノールは不純物を含むため、不純物が少ない金属ナノコロイドを生成する場合は、精製水、超純水などが好ましい。
【0041】
容器6について
容器6には循環装置によって液体5が絶えず循環しており(不図示)、液体5の流速は水面5aに波が立たない速さとし、水面5aからターゲット表面4aまでの最短距離7は常に一定に保たれていることが好ましい(
図1)。精製した金属ナノコロイド8が回収されず液体5中に滞留する場合、レーザ照射の阻害要因なり、ターゲット4へのエネルギーが不均一となり、金属ナノコロイド8の生成が不安定化し、金属ナノコロイドの粒度分布が幅広かつ不均一となるためである。液体3の流速は好ましくは0.1ml/secとし、水面5aからターゲット表面4aまでの距離7は5mm以下とする。循環装置および方法は特に限定はされないが、例えば容器6の側面6aまたは底面6bに注入管を備え、注入管から液体5を注入して、容器6から金属ナノコロイド8を含む液体5をオーバーフローさせ、オーバーフローさせた金属ナノコロイド8を含む液体5を、回収容器によって回収することにより、水面5aが波立たず、かつ水面5aからターゲット表面4aまでの距離7を一定に保ちながら循環させることができる。その他、容器6の側面6aまたは底面6bに注入管および排出管を備え、液体5の流入速度と排出速度を等速にして循環させる方法でも同様の効果を得ることができる。
水面5aの波立ち抑制方法について
水面(液面)5aの波立ちを抑制する方法は特に限定はされないが、例えば(1)液体5の流速を0.1ml/sec以下とする、(2)移動テーブル14を使用しない構成とする、(3)液体5を循環させる場合に、容器6中の液体5オーバーフローさせる方法で循環させる、(4)液体5の流れを制御するための制御板を容器6内に配設する、(5)予め求めた液面の振動モデルに基づいて、液面の波立ちを制振するようフィードバック制御を行う機構を備える、(6)金属ナノコロイド生成装置100や容器6が防振ゴムや動吸振器等の制動機構を配設すること等が挙げられる。
【0042】
(第2の実施形態)
本実施形態の金属ナノコロイド生成方法
図3は、第2の実施形態の金属ナノコロイド生成方法を示すターゲット4の平面図である。
図3は
図2の応用例であり、ターゲット4に対するパルスレーザ1の照射方法が
図2と異なり、パルスレーザ1をK=dfとしてターゲット4上のレーザスポット9同士を隣接させて照射した場合を例示している。第1の実施の形態と同様の点については記載を省略する。
本実施の形態の金属ナノコロイド生成方法は、
図3に示すように、ターゲット4上部の1サイクル目の照射開始点10から直線的にパルス照射して第1の直線照射箇所9aを形成し、前記第1の直線照射箇所9aから所定間隔離して、第1の直線照射箇所9aと平行に第2の直線照射箇所9bを形成し、第1の直線照射箇所9aと第2の直線照射箇所9bの中間位置に第3の直線照射箇所9cを平行に形成し、第1の直線照射箇所9aと第3の直線照射箇所9cとの中間位置に第4の直線照射箇所9dを平行に形成し、第3の直線照射箇所9cと第2の直線照射箇所9bの中間位置に第5の直線照射箇所9eを平行に形成させる方法である(
図3)。言い換えれば、隣り合う平行な2つの直線照射箇所の中間位置に、前記2つの直線照射箇所と平行な、新たな直線照射箇所を形成させる方法である。なお、レーザ照射は、隣り合う直線照射箇所同士のスポット径中心間ピッチLがスポット径Dの10倍以上(L≧10D)を満たすまでとし、スポット径中心間ピッチLがスポット径Dの10倍未満(L<10D)となる前に終了する。
本実施の形態では、第1の実施の形態と比較して、隣り合う直線照射箇所同士の照射順序に時間的隔たりがあるため、隣り合う直線照射箇所同士の間で熱の影響を受けにくい。従って、第1の実施の形態と比較して、新たにレーザ光照射する際に、先に照射した箇所に既に生じた熱影響をさらに受けにくくすることが出来、本来の目的物以外の夾雑物が生成されにくい。また既に生成されて滞留する金属ナノコロイドの浮遊物(又は沈殿物)を循環装置などによって除去している場合、隣り合う直線照射同士の照射順序に時間的隔たりがあることによって、滞留する金属ナノコロイドの浮遊物(又は沈殿物)が解消された後に、レーザ光照射をしやすい。したがって金属ナノコロイドの滞留によって生じるレーザ光阻害を受けにくく、均一に照射でき、粒度分布の幅狭い均一な金属ナノコロイドを生成することが可能となる。
【0043】
図4は、その他の実施形態の金属ナノコロイド生成方法を示すターゲット4の平面図である。
図2や
図3と同様に、
図4の実線矢印12はパルスレーザ1の照射移動軌跡を示し、破線矢印13はパルスレーザ1を未照射にして光スキャナまたはレーザヘッドを移動させた際の未照射移動軌跡を示している。その他、第1の実施の形態と同様の点については記載を省略する。
本発明の金属ナノコロイド生成方法は、複数のレーザスポット9同士を重なるようにパルス照射する際に、曲線的に照射移動させて曲線形状の照射箇所を形成することも可能であるし、また必ずしも直線形状の照射箇所同士を平行に照射する必要はない。この場合、隣り合う曲線形状ないし直線形状の照射箇所同士の最短距離をスポット径中心間ピッチLとして、スポット径中心間ピッチLがスポット径Dの10倍以上(L≧10D)を満たすように照射する(
図4)。その他、例えば渦巻き線的に照射移動させて渦巻き形状の照射箇所を形成する場合にも、隣り合う照射箇所同士の最短距離をスポット径中心間ピッチLとして、L≧10Dを満たすように照射する。また点照射により点照射箇所を形成させた場合、点照射箇所同士の最短距離をスポット径中心間ピッチLとして、L≧10Dを満たすように照射しても良い。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
白金ナノコロイドに関する生成方法
本発明の実施例1を以下に説明する。
図5は本実施例の金属ナノコロイド生成装置100を側面からみて例示した構造図である。本実施例の金属ナノコロイド生成装置100は、レーザ光3を照射するためのパルスレーザ1は集光レンズ2を備え、光スキャナとしてガルバノスキャナを備える。
本実施例では、
図5に示す金属ナノコロイド生成装置100を用いて金属ナノコロイドを生成し、縦横10mm、厚み0.5mmのターゲット4(白金:純度99.98%)を容器底部6b上面に載置し、溶液5として9mlの精製水を加え、水面5aからターゲット表面4aまでの距離7は1mmとした。ターゲット4に対してレーザ光3(波長:355nm、パルス周波数:20kHz、パルス幅:30ns、スポット径:20μm、パルスエネルギ:180〜230μJ)をガルバノスキャナと集光レンズ2を介して照射した。スポット径中心間ピッチLは、スポット径Dの10倍以上の0.25mmとし、15mm/secの走査速度で15分間照射した。
【0045】
金属ナノコロイド8のマッピング分析結果
図6は、本実施例で生成された金属ナノコロイド8のマッピング分析結果である。
図6(a)はマッピング前の画像で、
図6(b)はマッピング後の画像であり、白金は黄色に着色される。生成された金属ナノコロイド8をマッピング分析した結果、粒径の大小に関わらず全ての粒子が黄色に着色しているため、生成された金属ナノコロイド8は白金であることが確認された。
【0046】
白金ナノコロイドのTEM像と、元素分析結果
図7は、本実施例で生成された白金ナノコロイドのTEM像である。
図8は本実施例で生成された金属ナノコロイド8の元素分析結果である。本実施例で生成された白金ナノコロイドをTEM像で観察した結果、粒度分布は1〜10nmであった(
図7)。また、生成された白金ナノコロイドの元素を確認するために元素分析をした結果、Pt(白金)が主として検出された(
図8)。その他の物質も検出されているが、金属ナノコロイド8のマッピング分析結果からも、生成された金属ナノコロイド8は白金であり、Pt(白金)以外に検出された物質は、電子顕微鏡ホルダーと試料支持メッシュの信号であることが確認された。よって、不純物がない純粋な白金ナノコロイドが生成されていることが証明された。
【0047】
金ナノコロイドに関する従来技術との比較
図9は本実施例の実験条件を用いて生成された金ナノコロイドのTEM像である。従来技術との比較をするため、他特許においてターゲット4として多用されている金(純度:99.95%)に、本実施例(白金ナノコロイドの生成実験)と同条件で照射を行った。生成された金ナノコロイドをTEM像で観察した結果、粒度分布は1〜20nmであった。従来技術の場合、生成される金ナノコロイドの粒度分布は1〜50nmと幅広いが、本実施例では粒度分布は1〜20nmとなり、非常に粒度分布幅が狭く、均一な金属ナノコロイド8を生成できることが確認された。
【0048】
(実施例2)
チタンを用いたスポット径中心間ピッチLとスポット径Dに関する検証実験
本発明の実施例2を以下に説明する。
図10は第2の実施例の金属ナノコロイド生成装置100を側面からみて例示した構造図である。
本発明では、スポット径中心間ピッチLをスポット径Dの10倍以上離して照射するが、これは金属ナノコロイド8を生成する際に、1)既に生じた熱影響の排除することと、2)既に生成された金属ナノコロイド8によるレーザ光照射阻害を抑制するためである。
すなわち、本発明ではレーザ照射によって所定形状の照射箇所を形成させて金属ナノコロイド8を生成させるが、パルスレーザ1のパルス幅によっては熱が生じる可能性があり、その場合、ターゲット4上の照射箇所、生成した金属ナノコロイド、そして溶液5などが熱を帯びる。この時、スポット径中心間ピッチLが十分長い場合、後にレーザ照射して所定形状の照射箇所を新たに形成させて金属ナノコロイドを新たに生成させたとしても、スポット径中心間ピッチLが長いため、既に生じていた前記熱と新たに形成させた照射箇所との距離が遠く、新たな金属ナノコロイドの生成の際に前記熱の影響を受けることはない。一方で、スポット径中心間ピッチLが短い場合、既に生じていた前記熱と新たに形成させた照射箇所との距離が近いため、新たな金属ナノコロイドを生成させる際に前記熱の影響を受け、本来期待していない生成物(例えば低次酸化チタン等)が生じる可能性がある。
また同様に、本発明ではレーザ照射によって所定形状の照射箇所を形成させて金属ナノコロイド8を生成させるが、生成された金属ナノコロイドは溶液中において、例えば白色不透明な浮遊物(或いは沈殿物)となって照射箇所上部に滞留しやすい。この時、スポット径中心間ピッチLが長い場合、後にレーザ照射して所定形状の照射箇所を新たに形成させて金属ナノコロイドを新たに生成させたとしても、スポット径中心間ピッチが十分長いために、前記既に生成された金属ナノコロイドの浮遊物と新たに形成させた照射箇所との距離が遠く、新たな金属ナノコロイドの生成の際、前記既に生じていた金属ナノコロイドの影響を受けにくい。一方で、スポット径中心間ピッチLが短い場合、前記既に生成された金属ナノコロイドの浮遊物と新たに形成させた照射箇所との距離が近いため、新たな金属ナノコロイドを生成させるためにレーザ光照射をさせた際に、前記既に生成された金属ナノコロイドの浮遊物によってレーザ光照射が阻害され、ターゲット4に対して均一に照射できない可能性がある。
このように、スポット径中心間ピッチLの長短によって、熱影響やレーザ光照射阻害の程度に差が生じて、生成される金属ナノコロイド8の粒度分布や均一性に差が生じる可能性がある。
【0049】
そこで本実施例では、スポット径中心間ピッチLの長短によって生じる熱影響の差が、生成される金属ナノコロイドの粒径にどのような変動を与えるかを検証するため、熱加工可能なパルス幅が長い発振器(パルス幅を調整可能)を使用した。
本実施例では、
図10に示す金属ナノコロイド生成装置100を用いて金属ナノ粒子を生成し、縦横10mm、厚み0.25mmのターゲット4(チタン:純度99.5%)を容器底部6bに設置し、溶液5として9mlの精製水を加え、水面5aからターゲット表面4aまでの距離は、容器6を静置させて水面に波立ちがない状態で3mmとした。ターゲット4に対してレーザ光3(波長:1070nm、パルス周波数:10kHz、パルス幅:0.1ms、スポット径:7,14,28μm)を、パルスレーザ1のレーザヘッドと集光レンズ2を介して照射した。スポット径中心間ピッチLは、1D、5D、10D、35Dとし、15mm/secの走査速度で30分間照射した。
【0050】
チタンナノコロイドの粒度分布測定結果
本実施例によって生成されたチタンナノコロイドの粒度分布測定結果を表1に示す。表1はスポット径中心間ピッチL毎の粒度分布幅の変動を示している。
【0051】
【表1】
スポット径中心間ピッチLが1D〜5Dの場合の粒度分布幅は、約35nmであるが、10D以上になると20〜26nmと分布幅が狭くなる。
以上の結果から、スポット径中心間ピッチLをスポット径Dの10倍以上離して照射することにより、粒度分布幅が狭く均一となった粒径の金属ナノコロイドが生成されることが確認できた。なお、スポット径Dの大小における生成粒径に変化は見られなかった(表1)。
【0052】
チタンを用いた水面の状態に関する検証実験
また本実施例では水面5aからターゲット4までの距離と屈折率の変動が、生成される金属ナノコロイドの粒径にどのような変動を与えるかを検証するため、水面の波立ちを発生させる移動テーブル14を設けた。すなわち容器6及びターゲット4を移動させるための移動テーブル14を設置し、移動テーブル14上に容器6を載置させた。また、レーザ光3のスキャン(走査)方法としてミラーによる光路操作は行わず、移動テーブル14を用いてターゲット4を移動させることで光路操作を行った。従って、レーザ照射する際に水面5aに波立ちが発生して、水面5aからターゲット4までの距離と屈折率が変動する。
波立ちが小さくなるよう、走査速度を5mm/secとして生成したチタンコロイドを粒度分布測定した結果を表2に示す。なお、その他の条件は本実施例の条件から変更しない。
【0053】
【表2】
結果、スポット径:7μm、スポット径中心間ピッチ:1D(7μm)、走査速度:5mm/secとした時、粒度分布幅は26.47nmとなった。従って、比較対象となる表1の試験No.1(走査速度:15mm/secで、他の条件は変わらない)の粒度分布幅:37.18nmと比較して粒度分布が狭くなった。また、スポット径:7μm、スポット径中心間ピッチ:35D(245μm)、走査速度:5mm/secとした時、粒度分布幅は18.72nmとなった。従って、比較対象となる表1の試験No.4(走査速度:15mm/secで、他の条件は変わらない)の粒度分布幅:26.29nmと比較して粒度分布が狭くなった。
以上の結果から、波立ちを少なくすることにより、粒度分布幅が狭く均一となった粒径の金属ナノコロイドが生成されることを確認した。したがって本実施例により、粒度分布幅が狭く均一となった粒径の金属ナノコロイドが生成するためには、スポット径中心間ピッチLをスポット径Dの10倍以上離して照射することと、波立ちを少なくすることが重要であることを確認した。
【0054】
本発明は上述した実施の形態や実施例に限定されるものではない。例えば、実施例1と同様の実験条件において、パルスレーザ1としてフェムト秒レーザを使用し、金からなるターゲット4を使用した場合、生成された金ナノコロイドは粒度分布が1nm〜10nmであった。実施例1(金ナノコロイドの粒度分布:1nm〜20nm)と比較し、粒度分布の幅が狭くなっていることが分かる。これは、フェムト秒レーザを使用することにより多光子吸収が起こり、波長と材料の相性に関係なくアブレーション加工が実施された結果である。なお、白金からなるターゲット4を使用した場合、実施例1(白金ナノコロイドの粒度分布:1nm〜10nm)と同様に粒度分布は1nm〜10nmであった。このように、各種実施例は、適宜組み合わせて使用することが可能であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。