特許第6912554号(P6912554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912554
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/14 20060101AFI20210727BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   A61B3/14
   A61B3/10 100
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-238206(P2019-238206)
(22)【出願日】2019年12月27日
(62)【分割の表示】特願2016-26400(P2016-26400)の分割
【原出願日】2016年2月15日
(65)【公開番号】特開2020-44452(P2020-44452A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2019年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】窪田 篤司
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼田 寛一
【審査官】 増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−000565(JP,A)
【文献】 特開2000−296108(JP,A)
【文献】 特開2012−217665(JP,A)
【文献】 特開2007−007454(JP,A)
【文献】 特開2013−153791(JP,A)
【文献】 特開2011−120610(JP,A)
【文献】 特開昭60−060831(JP,A)
【文献】 特開2004−141563(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0194545(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0085252(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1810202(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズと、前記対物レンズを介して一の被検眼に光を照射する照射光学系と、前記対物レンズを介して前記一の被検眼に固視光束を投射する固視系とを含む光学系と、
前記対物レンズを含む前記光学系の少なくとも一部を3次元的に移動可能な移動機構と、
前記一の被検眼に対する前記光学系のアライメントのための前記移動機構の制御を行いつつ前記固視光束の形状を変化させるための前記固視系の制御を行う制御部と
を備える眼科装置。
【請求項2】
前記照射光学系により光が照射される前記一の被検眼の部位を指定するための指定部を備え、
前記制御部は、前記指定部により指定された前記部位に応じて、前記固視光束の形状の変化の態様を切り替える
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
操作部を備え、
前記移動機構は、前記操作部を用いて行われた操作に応じて前記光学系の少なくとも一部を移動する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記移動機構は、前記制御部により制御されるアクチュエータを含み、
前記制御部は、前記アクチュエータと前記固視系とを連係制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記移動機構により移動される前記光学系の少なくとも一部の位置を特定する位置特定部を備え、
前記制御部は、前記位置特定部により特定された前記位置に基づいて前記固視系の制御を実行する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科検査(検査、測定、撮影等、被検眼のデータを取得するための任意の行為を含む)では、被検眼の所望の部位を検査するために固視が行われる。固視は、被検者に所定方向に提示された固視標を注視させることにより実現される。
【0003】
固視には、内部固視、外部固視、及び周辺固視がある。内部固視は、ドットマトリクス液晶ディスプレイ(LCD)やマトリクス発光ダイオード(LED)などにより形成された輝点像を、検査光学系の対物レンズを介して眼底に投影する固視方式であり、固視標(内部固視標と呼ばれる)の形状や位置を詳細に設定できるという特徴を持つ。外部固視は、検査光学系が格納された筐体の外側に設けられた光源(LED等)を用いて行われ、内部固視が行えない場合に僚眼の視線を誘導することで被検眼の向きを調整する固視方式である。周辺固視は、対物レンズの周囲に配置された複数の光源(LED等)を用いて行われ、これら光源を選択的に点灯することで所望の方向に被検眼を大きく回旋させる固視方式である。周辺固視は、眼底周辺部の検査において使用される。
【0004】
特許文献1には、移動中の内部固視標を被検者が見失うことを防ぐために、内部固視標を移動させながらその大きさを変更する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−141563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内部固視標の視認性を考慮すべき場面はその移動中に限られない。例えば、検査光学系を被検眼に対してアライメントするとき、内部固視標が提示された状態で検査光学系(光学ヘッド)を被検眼に近づけていく。視神経乳頭を検査するときのように対物レンズの光軸から離れた位置を内部固視光束が通過する場合、光学ヘッドと被検眼との距離が短いときには内部固視光束は眼底に到達するが、距離が長い状態では内部固視光束は眼底に到達しない。つまり、光学ヘッドを被検眼に近づけていくと、或る段階で内部固視標が突然視野の端に現れる。そのため、被検者が内部固視標を認識できず、アライメントを適正に行えない場合があった。また、内部固視標が視野に入ったときに被検眼が急に回旋して観察画像にフレアが発生し、被検眼の観察やアライメントを邪魔する場合もあった。
【0007】
本発明に係る眼科装置の1つの目的は、内部固視標の視認性の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の眼科装置は、光学系と、移動機構と、制御部とを備える。光学系は、対物レンズと、対物レンズを介して一の被検眼に光を照射する照射光学系と、対物レンズを介して当該一の被検眼に固視光束を投射する固視系とを含む。移動機構は、対物レンズを含む光学系の少なくとも一部を3次元的に移動可能である。制御部は、一の被検眼に対する光学系のアライメントのための移動機構の制御を行いつつ固視光束の形状を変化させるための固視系の制御を行う。
【発明の効果】
【0009】
実施形態によれば、内部固視標の視認性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図。
図2】実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図。
図3】実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図。
図4】実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図。
図5】実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図。
図6】実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図。
図7】実施形態に係る眼科装置の動作の一例を表すフロー図。
図8A】実施形態に係る眼科装置の動作の一例を説明するための概略図。
図8B】実施形態に係る眼科装置の動作の一例を説明するための概略図。
図8C】実施形態に係る眼科装置の動作の一例を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の幾つかの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。実施形態は、対物レンズを介して被検眼に光を照射する照射光学系と、対物レンズを介して被検眼に固視光束を投射する固視系とを含む、任意の眼科装置であってよい。このような眼科装置として、光干渉断層計(OCT)、眼底カメラ、走査型レーザ検眼鏡(SLO)、レーザ治療装置(光凝固装置)、視野計などがある。OCTや眼底カメラやSLOには、照射光学系により照射された光の被検眼からの戻り光を検出する光学系が更に設けられる。以下、スウェプトソースOCTと眼底カメラとを組み合わせた眼科装置について説明するが、実施形態はこれに限定されない。
【0012】
〈構成〉
図1に示すように、眼科装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2には、従来の眼底カメラとほぼ同様の光学系が設けられている。OCTユニット100には、OCTを実行するための光学系や機構が設けられている。演算制御ユニット200はプロセッサを含む。被検者の顔を支持するための顎受けや額当てが、眼底カメラユニット2に対向する位置に設けられている。
【0013】
なお、本明細書において「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(たとえば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を意味する。プロセッサは、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。
【0014】
〈眼底カメラユニット2〉
眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efを撮影するための光学系が設けられている。眼底Efを撮影して得られる画像(眼底像、眼底写真等と呼ばれる)には、観察画像や撮影画像がある。観察画像は、例えば、近赤外光を用いた動画撮影により得られる。撮影画像は、例えば、可視フラッシュ光を用いて得られるカラー画像若しくはモノクロ画像、又は近赤外フラッシュ光を用いて得られるモノクロ画像である。眼底カメラユニット2は、更に、フルオレセイン蛍光画像やインドシアニングリーン蛍光画像や自発蛍光画像などを取得可能でもよい。
【0015】
眼底カメラユニット2は、照明光学系10と撮影光学系30とを含む。照明光学系10は被検眼Eに照明光を照射する。撮影光学系30は、被検眼Eからの照明光の戻り光を検出する。OCTユニット100からの測定光は、眼底カメラユニット2内の光路を通じて被検眼Eに導かれ、その戻り光は、同じ光路を通じてOCTユニット100に導かれる。
【0016】
照明光学系10の観察光源11は、例えばハロゲンランプ又はLED(Light Emitting Diode)である。観察光源11から出力された光(観察照明光)は、曲面状の反射面を有する反射ミラー12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ17、18、絞り19及びリレーレンズ20を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(特に眼底Ef)を照明する。
【0017】
被検眼Eからの観察照明光の戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この戻り光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に結像される。CCDイメージセンサ35は、例えば所定のフレームレートで戻り光を検出する。なお、撮影光学系30のピントが眼底Efに合っている場合には眼底Efの観察画像が得られ、ピントが前眼部に合っている場合には前眼部の観察画像が得られる。
【0018】
撮影光源15は、例えば、キセノンランプ又はLEDを含む可視光源である。撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。被検眼Eからの撮影照明光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、集光レンズ37によりCCDイメージセンサ38の受光面に結像される。
【0019】
LCD39は、被検眼Eを固視させるための固視標を表示する。LCD39から出力された光束(固視光束)は、その一部がハーフミラー33Aにて反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した固視光束は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。LCD39の画面における固視標の表示位置を変更することにより被検眼Eの固視位置を変更できる。
【0020】
固視光束を出力する光束出力部はLCD39には限定されない。光束出力部は、固視位置を変更可能な構成であればよく、例えば、複数のLEDが2次元的に配列されたマトリクスLEDや、光源と可変絞り(液晶絞り等)との組み合わせなどであってよい。
【0021】
眼底カメラユニット2にはアライメント光学系50とフォーカス光学系60が設けられている。アライメント光学系50は、被検眼Eに対する光学系のアライメントに用いられるアライメント指標を生成する。フォーカス光学系60は、被検眼Eに対するフォーカス調整に用いられるスプリット指標を生成する。
【0022】
アライメント光学系50のLED51から出力されたアライメント光は、絞り52及び53並びにリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により被検眼Eに投射される。
【0023】
アライメント光の角膜反射光は、対物レンズ22、ダイクロイックミラー46及び上記孔部を経由し、その一部がダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を通過し、ミラー32により反射され、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33に反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に投影される。CCDイメージセンサ35による受光像(アライメント指標像)に基づき、従来と同様のマニュアルアライメントやオートアライメントを行うことができる。
【0024】
フォーカス光学系60は、撮影光学系30の光路(撮影光路)に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、照明光学系10の光路(照明光路)に沿って移動される。反射棒67は、照明光路に対して挿脱可能である。
【0025】
フォーカス調整を行う際には、反射棒67の反射面が照明光路に斜設される。LED61から出力されたフォーカス光は、リレーレンズ62を通過し、スプリット視標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。
【0026】
フォーカス光の眼底反射光は、アライメント光の角膜反射光と同じ経路を通ってCCDイメージセンサ35により検出される。CCDイメージセンサ35による受光像(スプリット指標像)に基づき、従来と同様のマニュアルアライメントやオートアライメントを行うことができる。
【0027】
撮影光学系30は、視度補正レンズ70及び71を含む。視度補正レンズ70及び71は、孔開きミラー21とダイクロイックミラー55との間の撮影光路に選択的に挿入可能である。視度補正レンズ70は、強度遠視を補正するためのプラス(+)レンズであり、例えば+20D(ディオプター)の凸レンズである。視度補正レンズ71は、強度近視を補正するためのマイナス(−)レンズであり、例えば−20Dの凹レンズである。視度補正レンズ70及び71は、例えばターレット板に装着されている。ターレット板には、視度補正レンズ70及び71のいずれも適用しない場合のための孔部が形成されている。
【0028】
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用の光路とOCT用の光路とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCTに用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。OCT用の光路には、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、ミラー44、及びリレーレンズ45が設けられている。
【0029】
光路長変更部41は、図1に示す矢印の方向に移動可能とされ、OCT用の光路の光路長を変更する。この光路長の変更は、被検眼Eの眼軸長に応じた光路長の補正や、干渉状態の調整などに利用される。光路長変更部41は、例えばコーナーキューブと、これを移動する機構とを含む。
【0030】
光スキャナ42は、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。光スキャナ42は、OCT用の光路を通過する測定光LSの進行方向を変更する。それにより、被検眼Eが測定光LSでスキャンされる。光スキャナ42は、xy平面の任意方向に測定光LSを偏向可能であり、例えば、測定光LSをx方向に偏向するガルバノミラーと、y方向に偏向するガルバノミラーとを含む。
【0031】
〈OCTユニット100〉
図2に例示するように、OCTユニット100には、被検眼EのOCTを実行するための光学系が設けられている。この光学系の構成は、従来のスウェプトソースOCTと同様である。すなわち、この光学系は、波長掃引型(波長走査型)光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eからの測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光を検出する干渉光学系を含む。干渉光学系により得られる検出結果(検出信号)は、干渉光のスペクトルを示す信号であり、演算制御ユニット200に送られる。
【0032】
光源ユニット101は、一般的なスウェプトソースOCTと同様に、出射光の波長を高速で変化させる波長掃引型(波長走査型)光源を含む。波長掃引型光源は、例えば、近赤外レーザ光源である。
【0033】
光源ユニット101から出力された光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。更に、光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。
【0034】
参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、コーナーキューブ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。
【0035】
コーナーキューブ114は、入射した参照光LRの進行方向を逆方向に折り返す。コーナーキューブ114に対する参照光LRの入射方向と出射方向は互いに平行である。コーナーキューブ114は、参照光LRの入射方向に移動可能であり、それにより参照光LRの光路長が変更される。
【0036】
図1及び図2に示す構成では、測定光LSの光路(測定光路、測定アーム)の長さを変更するための光路長変更部41と、参照光LRの光路(参照光路、参照アーム)の長さを変更するためのコーナーキューブ114の双方が設けられているが、光路長変更部41とコーナーキューブ114のいずれか一方のみが設けられもよい。また、これら以外の光学部材を用いて、測定光路長と参照光路長との差を変更することも可能である。
【0037】
コーナーキューブ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整され、光ファイバ119によりアッテネータ120に導かれて光量が調整され、光ファイバ121によりファイバカプラ122に導かれる。
【0038】
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127により導かれてコリメータレンズユニット40により平行光束に変換され、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、ミラー44及びリレーレンズ45を経由し、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに入射する。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱・反射される。被検眼Eからの測定光LSの戻り光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
【0039】
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを合成して(干渉させて)干渉光を生成する。ファイバカプラ122は、所定の分岐比(例えば1:1)で干渉光を分岐することにより、一対の干渉光LCを生成する。一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバ123及び124を通じて検出器125に導かれる。
【0040】
検出器125は、例えばバランスドフォトダイオード(Balanced Photo Diode)である。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらによる検出結果の差分を出力する。検出器125は、その検出結果(検出信号)をDAQ(Data Acquisition System)130に送る。
【0041】
DAQ130には、光源ユニット101からクロックKCが供給される。クロックKCは、光源ユニット101において、波長掃引型光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニット101は、例えば、各出力波長の光L0を分岐することにより得られた2つの分岐光の一方を光学的に遅延させた後、これらの合成光を検出した結果に基づいてクロックKCを生成する。DAQ130は、検出器125から入力される検出信号をクロックKCに基づきサンプリングする。DAQ130は、検出器125からの検出信号のサンプリング結果を演算制御ユニット200に送る。
【0042】
〈演算制御ユニット200〉
演算制御ユニット200は、眼底カメラユニット2、表示装置3及びOCTユニット100の各部を制御する。また、演算制御ユニット200は、各種の演算処理を実行する。例えば、演算制御ユニット200は、一連の波長走査毎に(Aライン毎に)、検出器125により得られた検出結果に基づくスペクトル分布にフーリエ変換等の信号処理を施すことにより、各Aラインにおける反射強度プロファイルを形成する。更に、演算制御ユニット200は、各Aラインの反射強度プロファイルを画像化することにより画像データを形成する。そのための演算処理は、従来のスウェプトソースOCTと同様である。
【0043】
演算制御ユニット200は、例えば、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクドライブ、通信インターフェイスなどを含む。ハードディスクドライブ等の記憶装置には各種コンピュータプログラムが格納されている。演算制御ユニット200は、操作デバイス、入力デバイス、表示デバイスなどを含んでよい。
【0044】
〈制御系〉
眼科装置1の制御系の構成例を図3に示す。
【0045】
〈制御部210〉
制御部210は、眼科装置1の各部を制御する。制御部210はプロセッサを含む。制御部210には、主制御部211と、記憶部212と、固視設定部213と、位置情報生成部214とが設けられている。
【0046】
〈主制御部211〉
主制御部211は各種の制御を行う。例えば、主制御部211は、撮影合焦レンズ31、CCD(イメージセンサ)35及び38、LCD39、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、フォーカス光学系60、反射棒67などを制御する。また、主制御部211は、光源ユニット101、参照駆動部114A、検出器125、DAQ130などを制御する。参照駆動部114Aは、参照光路に設けられたコーナーキューブ114を移動させる。それにより、参照光路の長さが変更される。
【0047】
眼科装置1は移動機構150を備える。移動機構150は、例えば眼底カメラユニット2(又は、それに格納された光学系の少なくとも一部)を移動する。移動機構150は、OCTユニット100(又は、それに格納された光学系の少なくとも一部)を移動可能であってもよい。移動機構150は1以上のアクチュエータ151を含む。アクチュエータ151は、例えば、主制御部211により制御されるパルスモータ等を含み、眼底カメラユニット2等を移動するための駆動力を発生する。パルスモータ151により生成された駆動力は、図示しない機構によって伝達されて眼底カメラユニット2等を移動する。それにより、眼底カメラユニット2等が3次元的に移動される。移動機構150は、例えば、第1アクチュエータとそれにより発生された第1駆動力をx方向の移動に変換する機構とを備えたx移動機構、第2アクチュエータとそれにより発生された第2駆動力をy方向の移動に変換する機構とを備えたy移動機構、及び、第3アクチュエータとそれにより発生された第3駆動力をz方向の移動に変換する機構とを備えたz移動機構を含む。
【0048】
〈記憶部212〉
記憶部212は各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、例えば、OCT画像の画像データ、眼底像の画像データ、被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者情報や、左眼/右眼の識別情報や、電子カルテ情報などを含む。
【0049】
更に、記憶部212は、固視に関する制御を行うための情報(固視情報)を予め記憶してもよい。固視情報の一例では、眼の部位と固視標の態様とが対応付けられている。この固視情報は、眼の2以上の部位のそれぞれに対し、LCD39における固視標の表示位置を対応付けている。或いは、この固視情報は、眼の2以上の部位のそれぞれに対し、LCD39に表示される固視標の形状を対応付けている。
【0050】
固視情報に記録された固視標の態様は、固視標の変化の態様を含んでよい。本実施形態では、被検眼Eに対する固視光束の投射位置及び形状の少なくとも一方が、眼底カメラユニット2等の移動に応じて変化される。このような制御を実現するために、固視情報は、眼底カメラユニット2等の位置と、固視光束の投射位置及び/又は形状とを対応付けている。眼底カメラユニット2等の位置は任意の方法で検出される。この位置検出は、例えば、移動機構150又は眼底カメラユニット2等に設けられたエンコーダを用いて行われる。或いは、この位置検出は、主制御部211による移動機構150の制御履歴を参照して行われてよい。或いは、この位置検出は、特開2013−248376号公報に開示された、2以上の前眼部カメラを用いた方法でもよい。
【0051】
LCD39の画面の構成の例を図4に示す。本例のLCD39はドットマトリクスLCDであり、その画面39aには51画素(x方向)×51画素(y方向)が配列されている。x方向(横方向)の配列には、左方から右方に向かって順に座標0〜50が付与され、y方向(縦方向)の配列には、下方から上方に向かって順に座標0〜50が付与されている。
【0052】
画面39aの幾つかの画素に付されている文字は、眼の部位に対応する固視標(輝点)の位置を示している。被検眼が右眼の場合、(x,y)=(25,25)の画素「M」は黄斑に対応する固視標を示し、(x,y)=(20,26)の画素「C」は眼底中心に対応する固視標を示し、(x,y)=(17,26)の画素「W」はワイドスキャンに対応する固視標を示し、(x,y)=(10,26)の画素「C」は視神経乳頭に対応する固視標を示す。また、被検眼が左眼の場合、(x,y)=(25,25)の画素「M」は黄斑に対応する固視標を示し、(x,y)=(30,26)の画素「C」は眼底中心に対応する固視標を示し、(x,y)=(33,26)の画素「W」はワイドスキャンに対応する固視標を示し、(x,y)=(40,26)の画素「C」は視神経乳頭に対応する固視標を示す。また、円形状に配列された8個の画素「2」〜「9」は、眼底周辺部の8個の位置に対応する固視標を示す。なお、対物レンズ22の光軸(対物光軸)は、画素「M」の左下の角に配置されている。
【0053】
固視情報の例を図5に示す。固視情報212aは、検査対象である眼の部位(固視位置)に対して、固視標の初期位置及び最終位置を対応付けている。部位「黄斑」には、初期位置及び最終位置の双方に画素「M」が対応付けられている。部位「眼底中心」には、初期位置「M」と最終位置「C」とが対応付けられている。部位「ワイド」には、初期位置「M」と最終位置「W」とが対応付けられている。部位「視神経乳頭」には、初期位置「M」と最終位置「D」とが対応付けられている。
【0054】
本例では、部位「黄斑」については固視標の位置は不変であるが、部位「眼底中心」、「ワイド」及び「視神経乳頭」については固視標が移動される。また、眼底周辺部に対応する画素「2」〜「9」についても同様に、初期位置として画素「M」を設定することができる。なお、例えば「眼底中心」や「ワイド」のように、最終位置が対物光軸に比較的近い部位については、固視標の位置は不変であってもよい。
【0055】
部位「眼底中心」、「ワイド」、「視神経乳頭」及び眼底周辺部に関する初期位置は画素「M」以外でもよい。例えば、初期位置は、最終位置よりも黄斑「M」側の任意の位置に設定されてよい。
【0056】
固視情報の他の例を図6に示す。固視情報212bは、検査対象である眼の部位(固視位置)に対して、固視標の初期形態及び最終形態を対応付けている。部位「黄斑」には、初期形態及び最終形態の双方に画素「M」が対応付けられている。部位「眼底中心」には、初期形態「Line MC」と最終形態「C」とが対応付けられている。「Line MC」は、画素「M」と画素「C」とを結ぶ直線(線分)を示す。部位「ワイド」には、初期形態「Line MW」と最終形態「W」とが対応付けられている。「Line MW」は、画素「M」と画素「W」とを結ぶ直線を示す。部位「視神経乳頭」には、初期形態「Line MD」と最終形態「D」とが対応付けられている。「Line MD」は、画素「M」と画素「D」とを結ぶ直線(線分)を示す。
【0057】
本例では、部位「黄斑」については固視標の形態は不変であるが、部位「眼底中心」、「ワイド」及び「視神経乳頭」については固視標の形態が変化する。具体的には、これら部位については、固視標の形状は、図5に示す初期位置と最終位置とを結ぶ輝線から、最終位置を示す輝点まで変化する。眼底周辺部に対応する画素「2」〜「9」についても同様であってよい。なお、例えば「眼底中心」や「ワイド」のように、最終位置が対物光軸に比較的近い部位については、固視標の形態は不変であってもよい。
【0058】
固視情報はこれらに限定されない。例えば、固視標の形態は直線や点には限定されず、任意の1次元形状又は任意の2次元形状であってよい。また、固視標とは別の情報をLCD39に表示させることも可能である。例えば、固視標の最終位置を指し示す矢印の画像が、画素「M」及びその周囲の画素を用いて表示される。
【0059】
〈固視設定部213〉
本実施形態では、検査対象である眼の部位(固視位置)が指定される。部位の指定は、例えば、ユーザインターフェイス240を用いて手動で行われる。或いは、検査モードや解析モードの選択結果に基づいて制御部210が部位を指定するようにしてもよい。また、経過観察や術前術後観察などにおいては、制御部210が、過去の検査にて指定された部位を電子カルテ情報等から取得して再度指定することができる。
【0060】
固視設定部213は、このようにして指定された眼の部位に基づいて、固視標(固視光束)の初期形態及び最終形態を設定する。この処理は、記憶部212に記憶された固視情報(例えば固視情報212a又は212b)を参照して行われる。例えば、眼の部位として視神経乳頭が指定された場合、固視設定部213は、固視情報212aにおいて「視神経乳頭」に対応付けられた初期位置「M」と最終位置「D」とを取得する。これらが固視標の制御のための情報として設定される。
【0061】
固視設定部213は、固視標の制御のために更なる情報を設定するよう構成されてもよい。例えば、固視標を変化させるタイミングを示す情報を設定することが可能である。図5に示す固視情報212aが適用される場合、固視設定部213は、例えば、固視標を初期位置から最終位置まで画素ごとに徐々に移動させるときの各段階の移動タイミングを設定する。その具体例として、被検眼Eからの距離が最も遠くなる眼底カメラユニット2等の位置(最後退位置)と作動距離(ワーキングディスタンス)に相当する位置との間の距離(z方向における距離)を、初期位置と最終位置との間の画素数で除算することで、最後退位置と作動距離位置との間の複数の位置と、初期位置と最終位置との間の複数の画素とを対応付けることができる。
【0062】
図6に示す固視情報212bが適用される場合も同様に、輝線の長さを短くしていくタイミングを、z方向における複数の位置(例えば最後退位置と作動距離位置との間の複数の位置)に対応付けることが可能である。また、固視標の最終位置を指し示す矢印画像を表示するタイミングと非表示にするタイミングとを、z方向における複数の位置に対応付けて設定することが可能である。例えば、最後退位置から所定距離以内の範囲に眼底カメラユニット2等が位置するときには矢印画像を表示し、この範囲の外に眼底カメラユニット2等が位置するときには矢印画像を表示させないように、LCD39を制御することができる。
【0063】
〈位置情報生成部214〉
位置情報生成部214は、眼底カメラユニット2等の位置を表す位置情報を生成する。
移動機構150又は眼底カメラユニット2等にエンコーダが設けられている場合、位置情報生成部214は、このエンコーダから出力された信号に基づき眼底カメラユニット2等の位置を求めることができる。また、移動機構150の制御を主制御部211が実行する場合、位置情報生成部214は、主制御部211による移動機構150の制御履歴に基づき眼底カメラユニット2等の位置を求めることができる。また、2以上の前眼部カメラが設けられている場合、位置情報生成部214は、特開2013−248376号公報に開示された演算処理を実行することにより、眼底カメラユニット2等と被検眼Eとの間の相対位置を求めることができる。
【0064】
このように、位置情報生成部214は、所定の座標系(例えば、移動機構150による移動状態を表すxyz座標系)で表現された眼底カメラユニット2等の位置情報を生成してもよいし、或いは、眼底カメラユニット2等と被検眼Eとの間の相対位置を表す位置情報を生成してもよい。
【0065】
〈画像形成部220〉
画像形成部220は、DAQ130から入力された検出信号のサンプリング結果に基づいて、眼底Efの断面像の画像データを形成する。この処理には、従来のスウェプトソースOCTと同様に、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、FFT(Fast Fourier Transform)などの信号処理が含まれる。画像形成部220により形成される画像データは、スキャンラインに沿って配列された複数のAライン(z方向のライン)における反射強度プロファイルを画像化することにより形成された一群の画像データ(一群のAスキャン像データ)を含むデータセットである。
【0066】
画像形成部220は、例えば、プロセッサ及び専用回路基板の少なくともいずれかを含む。なお、本明細書では、「画像データ」と、それに基づく「画像」とを同一視することがある。また、被検眼Eの部位とそれを表す画像とを同一視することがある。
【0067】
〈データ処理部230〉
データ処理部230は、画像形成部220により形成された画像に対して画像処理や解析処理を施す。例えば、データ処理部230は、画像の輝度補正や分散補正等の補正処理を実行する。また、データ処理部230は、眼底カメラユニット2により得られた画像(眼底像、前眼部像等)に対して画像処理や解析処理を施す。データ処理部230は、例えば、プロセッサ及び専用回路基板の少なくともいずれかを含む。
【0068】
〈ユーザインターフェイス240〉
ユーザインターフェイス240は表示部241と操作部242とを含む。表示部241は表示装置3を含む。操作部242は各種の操作デバイスや入力デバイスを含む。ユーザインターフェイス240は、例えばタッチパネルのような表示機能と操作機能とが一体となったデバイスを含んでいてもよい。ユーザインターフェイス240の少なくとも一部を含まない実施形態を構築することも可能である。例えば、表示デバイスは、眼科装置に接続された外部装置であってよい。
【0069】
〈動作〉
眼科装置1の動作について説明する。動作の一例を図7に示す。
【0070】
(S1:撮影部位を指定する)
まず、OCTや眼底撮影の対象となる被検眼Eの部位が指定される。撮影部位の指定は、前述のように、ユーザ(検者)又は制御部210により行われる。
【0071】
(S2:固視標の初期形態と最終形態を設定する)
固視設定部213は、ステップS1で指定された眼の部位に基づいて、固視標(固視光束)の初期形態及び最終形態を設定する。この処理は、記憶部212に記憶された固視情報を参照して行われる。例えば、ステップS1において撮影部位「視神経乳頭」が指定された場合、固視設定部213は、図5に示す固視情報212aにおいて「視神経乳頭」に対応する初期位置「M」及び最終位置「D」を取得する。
【0072】
(S3:初期形態の固視標を表示する)
主制御部211は、ステップS2で設定された初期形態の固視標をLCD39に表示させる。例えばステップS2で初期位置「M」が設定された場合、主制御部211は、LCD39の画面39aに配列された複数の画素のうち(x,y)=(25,25)に位置する画素「M」のみを点灯させる。前述のように、画素「M」は対物光軸上に配置されている(より詳細には、画素「M」は対物光軸に最も近い4つの画素のうちの1つである)。
【0073】
(S4:光学系を後退させて前眼部を観察する)
ユーザ又は主制御部211は、移動機構150を動作させることにより被検眼Eの前眼部を観察するために光学系(眼底カメラユニット2等)を後退させて、例えば最後退位置に配置させる。前眼部観察は、前述した観察照明光(近赤外光)を用いて得られる前眼部の観察画像(動画像)を主制御部211が表示部241に動画表示させることにより行われる。或いは、前眼部カメラ5A及び5Bの少なくとも一方により得られる前眼部の動画像であってもよい。なお、前眼部カメラ5A及び5Bについては後述する。
【0074】
光学系が後退されているときの固視標の提示状態を図8Aに示す。この段階では、画素「M」が初期形態の固視標(初期固視標T)として点灯されている。初期固視標Tは対物光軸22a上に配置されているので、画素「M」から出力された固視光束は対物レンズ22を通じて被検眼Eの眼底Efに投射される。よって、被検者は初期固視標Tを視認することができる。
【0075】
固視標Tは「視神経乳頭」に対応する画素「D」であり、本例では最終固視標として用いられる。本例では初期固視標Tが最初に表示されるが、従来の眼科装置では画素「D」が最初から最後まで表示される。ステップS4の段階では、画素「D」から出力される固視光束DPは対物レンズ22を通過できないため、眼底Efに投射されない。よって、従来の眼科装置の場合には、被検者はこの段階で固視標を視認できない。
【0076】
なお、図8Aにおける符号4は、光学系が格納された筐体を表す。筐体4には、例えば、眼底カメラユニット2とOCTユニット100が格納されている。筐体4の被検眼E側の面(前面)には、特開2013−248376号公報に開示された2つの前眼部カメラ5A及び5Bが設けられている。位置情報生成部214は、前眼部カメラ5A及び5Bにより異なる方向から実質的に同時に取得された2つの前眼部像を解析することにより被検眼Eの3次元位置を求める。この3次元位置は、前眼部カメラ5A及び5B(つまり眼底カメラユニット2等に格納された光学系)に対する被検眼Eの相対位置である。また、2つの前眼部像の解析は、特開2013−248376号公報に開示された解析と同様であってよい。
【0077】
(S5:前眼部像の中心に瞳孔中心を合わせる)
ユーザ又は主制御部211は、前眼部の観察画像を解析することにより、被検眼Eの瞳孔中心が観察画像のフレーム中心(又はフレーム中心を含む所定範囲内)に配置されるように筐体4をx方向やy方向に移動させる。それにより、被検眼Eの瞳孔中心に対物光軸22aが配置されるように光学系のx位置及びy位置が調整される。
【0078】
(S6:光学系の前進を開始する)
ユーザ又は主制御部211は、移動機構150を動作させることにより筐体4の前進を開始する。それにより、筐体4は、例えば最後退位置から被検眼Eに向けて+z方向に移動される。
【0079】
2つの前眼部カメラ5A及び5Bは所定の時間間隔(撮影レート)で動画撮影を行い、位置情報生成部214は被検眼Eと光学系との間の相対位置をリアルタイムで逐次に演算する。
【0080】
(S7:固視標の形態変化を開始する)
主制御部211は、位置情報生成部214により逐次に取得される位置情報に基づいて、固視標の形態を変化させる。本例では、主制御部211は、被検眼Eと光学系との相対位置の変化に応じて、LCD39に表示される固視標の位置を変更する。例えば、主制御部211は、被検眼Eと光学系との間のz方向の距離が所定の単位量だけ変化したことに対応して、固視標の表示位置を所定の単位距離だけ移動する。その具体例として、主制御部211は、被検眼Eと光学系との間のz方向の距離が単位量だけ減少(又は増加)するごとに、固視標の表示位置を初期固視標T側から最終固視標T側に1画素ずつ移動させる。ここで、所定の単位量及び所定の単位距離は、例えば固視情報に予め記録されている。
【0081】
初期固視標Tと最終固視標Tとの間に固視標が表示されている状態を図8Bに示す。この段階では、筐体4は最後退位置とワーキングディスタンスに相当する位置(ワーキングディスタンス位置)との間に位置し、LCD39には初期固視標Tと最終固視標Tとの間に中間固視標Tが表示されている。筐体4の移動中の任意のタイミングにおいて、中間固視標Tの表示位置は、固視光束HPが対物レンズ22を通過するように(つまり被検眼Eが中間固視標Tを視認できるように)制御される。この制御は、例えば固視情報に基づき行われる。なお、図8Bに示す状態では、画素「D」から出力される固視光束DPは、依然として対物レンズ22を通過できない。よって、従来の眼科装置の場合には、この段階においても被検者は固視標を視認できない。
【0082】
(S8:WD位置(近傍)に到達したか?)
筐体4がワーキングディスタンス位置(の近傍)に到達したと判定されるまで、光学系の前進及び固視標の形態変化が実行される。筐体4がワーキングディスタンス位置(の近傍)に到達したか否かは、位置情報生成部214によりリアルタイムで得られる位置情報に基づき判断される。
【0083】
なお、ワーキングディスタンスの「近傍」は、少なくとも、画素「D」から出力される固視光束DPが対物レンズ22を通過する範囲において事前に設定される。また、筐体4が所定位置まで前進されたことに対応し、主制御部211は、光学系の焦点を前眼部観察用焦点から眼底観察用焦点に切り替えるための前置レンズ(図示せず)が挿入される。筐体4がワーキングディスタンス位置に到達する前に、表示される観察画像は前眼部観察画像から眼底観察画像に切り替わる。
【0084】
(S9:最終形態の固視標が表示される)
筐体4がワーキングディスタンス位置(の近傍)に到達したとき、主制御部211は、画素「D」を点灯させることにより最終固視標Tを表示させる。最終固視標Tは、ステップS1において指定された撮影部位(つまりOCTや眼底撮影の対象部位)である視神経乳頭に対応する固視標の位置である。
【0085】
最終固視標Tが表示されている状態を図8Cに示す。この段階では、筐体4はワーキングディスタンス位置に配置され、LCD39には最終固視標Tが表示されている。このように、本例においては、最後退位置からワーキングディスタンス位置まで筐体4を移動させる間、被検者は常に固視標を視認することができる。具体的には、被検者は、最初はLCD39の中心(画素「M」)に表示されている初期固視標Tを視認し、中間段階では最終固視標Tに向かって徐々に移動する中間固視標Tを視認する。それにより、被検眼Eの固視位置が、撮影部位に相当する最終固視標Tに誘導される。
【0086】
なお、筐体4の前進を開始した後に後退させることもある。その場合、主制御部211は、筐体4が後進された距離(被検眼Eと光学系との間の相対距離の増加量)に応じて、固視標の表示位置を初期固視標T側に移動させることができる。
【0087】
(S10:アライメントの微調整を行う)
ユーザ又は眼科装置1は、例えば、アライメント指標に基づいて、被検眼Eに対する光学系のアライメントを行う。これにより、ステップS6〜S9で行われたアライメントの結果が微調整される。なお、2つの前眼部カメラ5A及び5Bにより得られる一対の前眼部観察画像に基づいてアライメントの微調整を行うことも可能である。
【0088】
(S11:撮影条件の調整を行う)
ユーザ又は眼科装置1は、スキャン位置の微調整、測定アーム長や参照アーム長の微調整、固視標の提示位置の微調整、フォーカス調整、小瞳孔絞りの挿入など、各種撮影条件の調整を行う。
【0089】
(S12:眼底を撮影する)
眼科装置1は、眼底EfのOCTや撮影を実行する。取得されたデータは記憶部212や外部ストレージに保存される。また、眼科装置1又は他の装置は、取得されたデータに基づく画像化処理や解析処理を実行する。
【0090】
〈作用・効果〉
実施形態に係る眼科装置の作用及び効果について説明する。
【0091】
実施形態の眼科装置は、光学系と、移動機構と、制御部とを備える。光学系は、対物レンズと、対物レンズを介して被検眼に光を照射する照射光学系と、対物レンズを介して被検眼に固視光束を投射する固視系とを含む。上記実施形態において、対物レンズ22が対物レンズに相当し、照明光学系10や測定アームが照射光学系に相当し、LCD39から対物レンズ22までの光路が固視系に相当する。
【0092】
移動機構は、対物レンズを含む光学系の少なくとも一部を移動するよう動作する。上記実施形態において、移動機構150が移動機構に相当する。
【0093】
制御部は、移動機構による光学系の少なくとも一部の移動に応じて固視系を制御することにより、固視光束の投射位置及び形状の少なくとも一方を変化させる。上記実施形態において、制御部210が制御部に相当する。
【0094】
このような実施形態によれば、アライメント等において固視標が提示された状態で光学系を移動するときに、固視光束の投射位置や形状を光学系の移動に応じて変化させることができる。したがって、被検者が固視標を継続して視認できるように、固視標の視認性を向上させることが可能である。これにより、アライメント等を適正に行うことができる。また、固視標が視野に入ったときに被検眼が急に回旋して観察画像にフレアが発生するといった不都合も生じない。
【0095】
実施形態の眼科装置は、照射光学系により光が照射される被検眼の部位を指定するための指定部を備えていてよい。この場合、制御部は、指定部により指定された部位に応じて、固視光束の投射位置及び形状の少なくとも一方の変化の態様を切り替えることができる。部位の指定は、手動又は自動で実行される。
【0096】
上記実施形態において、ユーザインターフェイス240や制御部210が指定部に相当する。更に、上記実施形態の制御部210は、図5に示す固視情報212aを参照することで、指定された部位(黄斑、視神経乳頭など)に応じて、固視光束の最初の投射位置(初期位置)と最後の投射位置(最終位置)とを切り替えることができる。ここで、初期位置と最終位置との間に配置される1以上の投射位置や、投射位置を変更するタイミングを表す情報を、固視情報212aに含めることが可能である。この場合、制御部210は、固視情報212aに応じた3以上の投射位置に固視光束を順次に投影させる制御や、固視情報212aに応じたタイミングで投射位置を変更する制御を実行する。
【0097】
他の例として、制御部210は、図6に示す固視情報212bを参照することで、指定された部位(黄斑、視神経乳頭など)に応じて、固視光束の最初の形状(初期形態)と最後の形態(最終形態)とを切り替えることができる。ここで、初期形態と最終形態との間に適用される1以上の中間形態や、形態を変更するタイミングを表す情報を、固視情報212bに含めることが可能である。この場合、制御部210は、固視情報212bに応じた3以上の形態に固視光束の形態を変更させる制御や、固視情報212bに応じたタイミングで固視光束の形態を変更する制御を実行する。
【0098】
このような構成によれば、固視光束の投射位置や形状を、指定部位(撮影部位等)に応じた態様で変化させることが可能である。したがって、被検者が固視標を継続して視認できるようにするための制御を指定部位に応じて実行することができる。それにより、指定部位に関わらず視認性向上を図ることが可能である。
【0099】
実施形態において、制御部は、指定部により指定された部位に基づいて固視光束の初期態様及び最終態様を設定する設定部を備えてよい。この場合、制御部は、固視光束の投射位置及び形状の少なくとも一方を初期態様から最終態様まで変化させることができる。
【0100】
上記実施形態において、固視設定部213が設定部に相当する。また、初期態様の例として図5の初期位置や図6の初期形態があり、最終態様の例として図5の最終位置や図6の最終形態がある。
【0101】
このような構成によれば、光学系の移動に伴う固視標の変化の態様を指定部位に応じて自動で設定することが可能である。よって、眼科装置の操作性や利便性が向上される。
【0102】
設定部は、初期態様の固視光束と対物レンズの光軸との間の距離が、最終態様の固視光束と対物レンズの光軸との間の距離よりも短くなるように、初期態様及び最終態様を設定するよう構成されてよい。
【0103】
上記実施形態では、例えば指定部位が視神経乳頭である場合、固視設定部213は、対物光軸22a上の画素「M」を初期位置として設定し、かつ、対物光軸22aから離れた位置の画素「D」を最終位置として設定することができる。また、同様に指定部位が視神経乳頭である場合、固視設定部213は、対物光軸22a上の画素「M」とそれから離れた位置の画素「D」とを結ぶ直線を初期形態として設定し、かつ、対物光軸22aから離れた位置の画素「D」を最終位置として設定することができる。
【0104】
このような構成によれば、視認可能性が高い対物光軸の近傍から固視標の態様(投射位置、形状)の変化を開始しつつ、指定部位まで固視を誘導することができる。
【0105】
実施形態において、制御部は、移動機構による対物レンズと被検眼との間の距離の短縮に応じて、固視光束の投射位置及び形状の少なくとも一方を初期態様から最終態様まで変化させるように構成されてよい。
【0106】
上記実施形態では、例えば指定部位が視神経乳頭である場合に、制御部210は、筐体4が被検眼Eに近づくにつれて、固視標の表示位置を画素「M」から画素「C」まで変化させることができる。
【0107】
このように、実施形態は次のように構成されてよい:固視系が、固視光束を出力する光束出力部(LCD39)を含む;設定部が、光束出力部による固視光束の初期出力位置と最終出力位置とを設定する;制御部が、対物レンズと被検眼との間の距離の短縮に応じて、光束出力部による固視光束の出力位置を初期出力位置から最終出力位置まで変化させる。
【0108】
また、上記実施形態では、指定部位が視神経乳頭である場合、制御部210は、筐体4が被検眼Eに近づくにつれて、画素「M」と画素「C」とを結ぶ輝線から、画素「C」における輝点まで固視標を変化させることができる。
【0109】
このように、実施形態は次のように構成されてよい:固視系が、固視光束を出力する光束出力部(LCD39)を含む;設定部が、光束出力部による固視光束の初期出力形状と最終出力形状とを設定する;制御部が、対物レンズと被検眼との間の距離の短縮に応じて、光束出力部による固視光束の出力形状を初期出力形状から最終出力形状まで変化させる。
【0110】
実施形態の眼科装置は、操作部(例えば操作部242)を備えてよい。更に、移動機構は、操作部を用いて行われた操作に応じて光学系の少なくとも一部を移動するよう構成されてよい。すなわち、実施形態の眼科装置は、マニュアル操作によって光学系を移動するよう構成されてよい。それにより、マニュアルアライメントにおける固視標の視認性向上を図ることができる。
【0111】
実施形態において、移動機構は、制御部により制御されるアクチュエータ(例えばアクチュエータ151)を含んでよい。更に、制御部は、アクチュエータと固視系とを連係制御するよう構成されてよい。それにより、光学系の移動と固視標の移動や変形とを連動させることができ、オートアライメントにおける固視標の視認性向上を図ることが可能となる。
【0112】
実施形態の眼科装置は、移動機構により移動される光学系の少なくとも一部の位置を特定する位置特定部を備えてよい。上記実施形態において、位置特定部は位置情報生成部214を含み、光学系の位置の特定は、例えば、移動機構150又は眼底カメラユニット2等に設けられたエンコーダを用いて行われるか、主制御部211による移動機構150の制御履歴を参照して行われるか、或いは、2以上の前眼部カメラを用いて行われる。更に、制御部は、位置特定部により特定された光学系の位置に基づいて固視系の制御を実行する。
【0113】
この構成によれば、光学系の位置をモニタしながら固視光束の投射位置や形状を好適に変化させることが可能である。
【0114】
以上に説明した実施形態は本発明の一例に過ぎない。本発明を実施しようとする者は、本発明の要旨の範囲内における変形(省略、置換、付加等)を任意に施すことが可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 眼科装置
10 照明光学系
22 対物レンズ
39 LCD
100 OCTユニット
150 移動機構
210 制御部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C