特許第6912666号(P6912666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6912666テーパローラを備えた低ヒステリシスのカム機構
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912666
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】テーパローラを備えた低ヒステリシスのカム機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/12 20060101AFI20210727BHJP
   F16D 43/26 20060101ALI20210727BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   F16H25/12 D
   F16D43/26 B
   F16D13/52 C
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-525141(P2020-525141)
(86)(22)【出願日】2018年6月20日
(86)【国際出願番号】JP2018023411
(87)【国際公開番号】WO2019244268
(87)【国際公開日】20191226
【審査請求日】2020年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】川田 和隆
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/149829(WO,A1)
【文献】 特開2017−161065(JP,A)
【文献】 特開2001−41230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/12
F16D 43/26
F16D 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の周りに差動を生じる手段と組み合わせて軸力を発生するカム機構であって、
前記軸の周りに回転可能であって、前記差動を受容するべく前記手段と結合したカムプレートと、
前記カムプレートに軸方向に対向し、軸方向に可動なプレッシャプレートと、
前記カムプレートおよび前記プレッシャプレートにそれぞれ形成されて互いに対向し、それぞれ前記軸に直交する周面に対して周方向に傾斜している、一対のカム面と、
前記一対のカム面間に介在して前記差動に応じて前記各カム面上を転動して前記軸力を前記プレッシャプレートに発生させる複数のテーパローラであって、それぞれ前記軸に直交する径方向に関して回転対称であって前記軸に向かって先細な円錐面をなす転動面を備えた複数のテーパローラと、
前記カム面および前記転動面の一以上に形成された、各前記テーパローラが各前記径方向に対して捻れることに抵抗となるテクスチャと、
を備えたカム機構。
【請求項2】
前記テクスチャはそれぞれ1乃至500μmの幅であって互いに実質的に平行な複数の溝または突起を含み、前記溝または前記突起の間のピッチは1乃至3mmである、請求項1のカム機構。
【請求項3】
前記テクスチャは等方的な凹凸を含む、請求項1のカム機構。
【請求項4】
前記テクスチャは、前記カム面および前記転動面の全てに形成されている、請求項1のカム機構。
【請求項5】
前記カム面の前記テクスチャと、前記転動面の前記テクスチャとは、互いに噛合するよう寸法付けられている、請求項4のカム機構。
【請求項6】
前記複数のテーパローラは、それぞれ径方向に外方に面した外周面を備え、前記カムプレートおよび前記プレッシャプレートの何れか一以上は前記外周面に接している、請求項1のカム機構。
【請求項7】
軸の周りにそれぞれ回転可能な第1の回転体と第2の回転体との間でトルクの伝達を制御するためのクラッチ装置であって、
前記軸の周りに回転可能なカムプレートと、
前記カムプレートを前記第1の回転体に対して制御可能に制動するべく前記カムプレートと結合した制動装置と、
前記カムプレートに軸方向に対向し、前記第2の回転体と共に回転し軸方向に可動なプレッシャプレートと、
前記カムプレートおよび前記プレッシャプレートにそれぞれ形成されて互いに対向し、それぞれ前記軸に直交する周面に対して周方向に傾斜している、一対のカム面と、
前記一対のカム面間に介在して前記差動に応じて前記各カム面上を転動して前記軸力を前記プレッシャプレートに発生させる複数のテーパローラであって、それぞれ前記軸に直交する径方向に関して回転対称であって前記軸に向かって先細な円錐面をなす転動面を備えた複数のテーパローラと、
前記カム面および前記転動面の一以上に形成された、各前記テーパローラが各前記径方向に対して捻れることに抵抗となるテクスチャと、
前記プレッシャプレートに軸方向に押圧されると前記第1の回転体と前記第2の回転体との間で前記トルクを伝達するクラッチと、
を備えたクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、テーパローラを利用して軸力を発生するカム機構、およびかかるカム機構を備えたクラッチ装置のごとき動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に車両は幾つかのクラッチを利用する。例えば二輪駆動(2WD)モードと四輪駆動(4WD)モードとを切り替える目的で、2つのシャフトの間にクラッチが介在し、その連結−脱連結をアクチュエータが制御することがある。クラッチを連結するに十分な軸力を単独の手段によって発生することは難しいので、その出力を増大するために、カム機構を組み合わせることがある。
【0003】
カム機構を滑らかに作動させる目的で、カム部材の間にボールを介在させることがある。相対的に回転するカム面の間でボールが転動することにより、ボールは摺動抵抗を著しく減ずる。これはアクチュエータの負担を軽減するが、カム面とボールとは点接触するに過ぎないので、大きな軸力をカム機構に負担させるには問題がある。ボールに代えて線接触が可能なローラを利用することは、かかる問題を解決する手段の一であろう。特許文献1は、関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際特許出願公開WO2017/149829A1
【発明の概要】
【0005】
線接触するローラによればより大きな軸力を発生することができるが、本発明者らは他の新たな問題を見出した。上述の関連技術によれば、アクチュエータに印加する電流に応じてカム機構はプレッシャリングをクラッチに押圧し、以ってクラッチを連結してこれにトルクを伝達させる。トルク伝達の制御性の観点からは、印加した電流に対して伝達されるトルクが一意的であることが理想である。ところが本願図1に例示するごとく、印加した電流Iに対して伝達されるトルクTの曲線Cは、電流増大の過程(クラッチを連結させようとする過程)Pと電流減少の過程(脱連結させようとする過程)Pとで乖離し、無視しえないヒステリシスを呈する。いうまでもなくヒステリシスは制御性を損なう要因である。本発明者らは、ヒステリシスを低減することを目的としてカム機構の構造を検討し、以下の機構ないし装置に想到した。
【0006】
以下の開示は、テーパローラを利用しながらヒステリシスの低減を可能にするカム機構およびこれを備えたクラッチ装置のごとき動力伝達装置に関する。
【0007】
一局面によれば、軸の周りに差動を生じる手段と組み合わせて軸力を発生するカム機構は、前記軸の周りに回転可能であって、前記差動を受容するべく前記手段と結合したカムプレートと、前記カムプレートに軸方向に対向し、軸方向に可動なプレッシャプレートと、前記カムプレートおよび前記プレッシャプレートにそれぞれ形成されて互いに対向し、それぞれ前記軸に直交する周面に対して周方向に傾斜している、一対のカム面と、前記一対のカム面間に介在して前記差動に応じて前記各カム面上を転動して前記軸力を前記プレッシャプレートに発生させる複数のテーパローラであって、それぞれ前記軸に直交する径方向に関して回転対称であって前記軸に向かって先細な円錐面をなす転動面を備えた複数のテーパローラと、前記カム面および前記転動面の一以上に形成された、各前記テーパローラが各前記径方向に対して捻れることに抵抗となるテクスチャと、を備える。
【0008】
他の局面によれば、軸の周りにそれぞれ回転可能な第1の回転体と第2の回転体との間でトルクの伝達を制御するためのクラッチ装置は、前記軸の周りに回転可能なカムプレートと、前記カムプレートを前記第1の回転体に対して制御可能に制動するべく前記カムプレートと結合した制動装置と、前記カムプレートに軸方向に対向し、前記第2の回転体と共に回転し軸方向に可動なプレッシャプレートと、前記カムプレートおよび前記プレッシャプレートにそれぞれ形成されて互いに対向し、それぞれ前記軸に直交する周面に対して周方向に傾斜している、一対のカム面と、前記一対のカム面間に介在して前記差動に応じて前記各カム面上を転動して前記軸力を前記プレッシャプレートに発生させる複数のテーパローラであって、それぞれ前記軸に直交する径方向に関して回転対称であって前記軸に向かって先細な円錐面をなす転動面を備えた複数のテーパローラと、前記カム面および前記転動面の一以上に形成された、各前記テーパローラが各前記径方向に対して捻れることに抵抗となるテクスチャと、前記プレッシャプレートに軸方向に押圧されると前記第1の回転体と前記第2の回転体との間で前記トルクを伝達するクラッチと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、カム機構におけるヒステリシスの例を示すグラフである。
図2A図2Aは、テーパローラにかかる力を説明するカム機構の模式的な縦断面図である。
図2B図2Bは、径方向に直交する面におけるカム機構の模式的な断面図である。
図2C図2Cは、テーパローラが転動面を転動した状態を表すカム機構の模式的な断面図である。
図3図3は、一実施形態によるカム機構を含むクラッチ装置の縦断面図である。
図4図4は、カム機構の部分切断斜視図である。
図5A図5Aは、テクスチャを有するテーパローラとカム面との平面図である。
図5B図5Bは、他の例によるテーパローラとカム面との平面図である。
図6A図6Aは、転動面またはカム面上のテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
図6B図6Bは、他の例によるテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
図6C図6Cは、他の例によるテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
図6D図6Dは、他の例によるテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
図6E図6Eは、他の例によるテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
図7図7は、転動面上およびカム面上のテクスチャが互いに噛合した態様を表す模式的な断面図である。
図8A図8Aは、テーパローラの外周面にカムプレートの一部が接する例による、テーパローラおよびカムプレートの断面図である。
図8B図8Bは、他の例によるテーパローラおよびカムプレートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。以下の説明および請求の範囲を通じて、特段の説明がなければ、軸はカム機構の回転軸の意味であり、また軸方向はこれに平行な方向であり径方向はこれに直交する方向を意味である。クラッチ装置の回転軸はカム機構の回転軸と通常は一致するが、必ずしもこれに限られない。
【0011】
図2A,2Bを参照するに、カム機構がカムプレート5とプレッシャプレート9と、その間に介在したテーパローラ11とを備えるとき、テーパローラ11の転動面11はカムプレート5のカム面5cと線接触し、プレッシャプレート9のカム面9cとも線接触し、なおかつこれらの接触線は径方向に対して傾斜している。かかる状態において軸力Fがカム機構に印加されると、接触線の傾斜に基づきテーパローラ11には径方向に外向きに向かうラジアル反力Fが生ずる。ラジアル反力Fは、テーパローラ11の外周面11fをカムプレート5の内周面5fおよびプレッシャプレート9の内周面9fに押し付ける。これはテーパローラ11の転動を妨げる摩擦力の原因となる。
【0012】
かかる状態で、図2Cに示すごとく、カムプレート5がプレッシャプレート9に対して軸周りに差動Mを起こす(クラッチを連結させようとする過程)と、押し付けられた接触面においてテーパローラ11を捻る力が生ずる。テーパローラ11は、カム面5c,9c上において転動Mを起こしてその傾斜面を登り、以ってプレッシャプレート9は軸動Mxを起こすが、かかる運動は摩擦力および捻る力の影響下である。
【0013】
このときカム作用により軸力F’は当初より増大しており、従って外周面11fを内周面5f,9fに押し付けるラジアル反力も増大し、一方、軸動Mxはカムプレート5とプレッシャプレート9とを引き離すので、外周面11fと内周面5f,9fとの接触面積は減少する。ここでラジアル反力の増大は転動を妨げるが、接触面積の減少は転動を促す要素である。
【0014】
一方、図2Cに示す状態から図2Bに示す状態に戻そうとする(クラッチを脱連結させようとする過程)と、差動が逆向きであるからテーパローラ11を捻る力も逆向きに作用し、軸力F’は減少するが外周面11fと内周面5f,9fとの接触面積は増大する。
【0015】
印加した電流Iに対して伝達されるトルクTの曲線Cに現れるヒステリシスは、これらの作用の複合がもたらすものと見られる。本発明者らは、転動抵抗を増やすことなくテーパローラを捻る力に対処することにより、問題を解決することを考え、以って以下の各実施形態に想到した。
【0016】
本実施形態によるカム機構3は、例えば図3に例示するクラッチ装置1に適用することができるが、必ずしもこれに限られない。クラッチ装置1は、それぞれ軸X周りに回転する第1の回転体と第2の回転体との間でトルクの伝達を断続ないし制御する装置であって、この例では第1の回転体はクラッチケース21であり、第2の回転体はシャフト23である。
【0017】
クラッチケース21とシャフト23との間にはクラッチ25が介在してトルク伝達を仲介する。この例ではクラッチ25は多板クラッチだが、他の形式の摩擦クラッチでもよい。クラッチ25の複数のアウタプレートはクラッチケース21にラグ等により結合しており、アウタプレートと交互に並ぶ複数のインナプレートはシャフト23にラグ等により結合している。カム機構3がクラッチ25に軸力を及ぼすことにより、アウタプレートとインナプレートとが摩擦的に連結し、クラッチケース21とシャフト23との間でトルクが伝達される。また軸力を増減することにより伝達されるトルクが増減する。
【0018】
クラッチ装置1は、また、カム機構3を作動させるべく、差動を生じる手段27を備え、手段27は概してパイロットクラッチ29とこれを作動させるソレノイド31とを備える。手段27は、この例ではカムプレート35を制動することによりこれにプレッシャプレート39に対して差動を生じさせる機構だが、あるいはカムプレート35をプレッシャプレート39に対して相対的に軸X周りに回転させるモータないしギア機構であってもよい。
【0019】
パイロットクラッチ29もこの例では多板クラッチだが、他の形式の摩擦クラッチでもよい。パイロットクラッチ29の複数のアウタプレートはクラッチケース21にラグ等により結合しており、アウタプレートと交互に並ぶ複数のインナプレートはカムプレート35にラグ等により結合している。
【0020】
ソレノイド31は、さらに、その磁束を導くがギャップを備えたコア32と、ギャップを跨ぐように配置されたアーマチャ33とを備え、コア32とアーマチャ33とはパイロットクラッチ29を挟むように配置されている。ソレノイド31が励磁されると磁束はアーマチャ33をコア32に向けて誘引し、以ってアウタプレートとインナプレートとの間に摩擦が生じてカムプレート35を制動する。すなわち、クラッチケース21とシャフト23との間に角速度差があるときには、それに応じてカムプレート35にはプレッシャプレート39に対して差動が生じる。
【0021】
図3に組み合わせて図4を参照するに、カム機構3は、概して、カムプレート35と、プレッシャプレート39と、その間に介在した複数のテーパローラ41と、を備える。図示されていないが、カムプレート35とプレッシャプレート39との間には、テーパローラ41の向きを一定に保つようにこれを支持する円環状のサポートがさらに介在していてもよい。
【0022】
カムプレート35は軸X周りに回転可能であって、既に述べた通り差動を受容するべく、手段27のインナプレートとラグ等により結合している。カムプレート35は、また図2B,2Cにおけるのと同様に、テーパローラ41の転動面41に接するカム面を備える。カム面はテーパローラ41を転動せしめて軸方向に移動せしめるよう、軸Xに直交する周面に対して周方向に僅かに傾斜している。
【0023】
プレッシャプレート39も軸X周りに回転可能であって、カムプレート35に軸方向に対向しており、かつクラッチ25を押圧するよう、クラッチ25にも軸方向に対向し軸方向に可動である。またシャフト23と共に回転するよう、シャフト23に係合している。従ってカムプレート35は、制動されればプレッシャプレート39に対して差動を生じる。プレッシャプレート39も、図2B,2Cにおけるのと同様に、テーパローラ41の転動面41に接するカム面39cを備える。カム面39cも、テーパローラ41の転動によりプレッシャプレート39を軸方向に移動せしめるよう、軸Xに直交する周面に対して周方向に僅かに傾斜している。あるいは、傾斜は両カム面の何れか一方にのみ与えられていてもよい。
【0024】
複数のテーパローラ41は軸Xに対して対称的に配置されている。テーパローラ41の数は図示の例では3だが、もちろんこれに限らない。プレート35,39間の平行を保つ点からは3以上が好ましいが、あまりに多数でも通常その多くは軸力の負担に寄与しない。
【0025】
各テーパローラ41は概して円錐台に近い形状であり、略円錐面をなす転動面41と、それぞれ平面に近い外周面41fおよび内周面を有する。各テーパローラ41は、軸Xに対して径方向に向けられており、その側面である転動面41は、カム面39cに接してその上を転動する。かかる転動面41は、径方向に関して回転対称であり、また軸Xに向かって先細である。
【0026】
各テーパローラ41の内周面と外周面41fとは共に、軸Xに平行な平面であってもよく、あるいは曲面ないし球面であってもよい。外周面41fが曲面ないし球面であれば、図8Aに示すごとくカムプレート35との接触が点に限定されるので、摩擦を減じ、また捻れを防止するのに役立つ。
【0027】
図3,4に戻って参照するに、好ましくは、転動面41の延長が軸X上において頂点を結ぶように、転動面41とカム面39cとは寸法づけられる。これは、転動面41とカム面39cとの間にすべりが生じることを防止するのに役立つ。
【0028】
転動面41とカム面39cとの接触は、実質的にその全長にわたって線接触であり、これはカム機構3が大きな軸力を負担するのに役立つ。転動面41は、外周面41fおよび内周面に向かって僅かに丸められ(一部の技術分野においてクラウニングないしチャンファリングと呼ばれる)ていてもよい。これは、その中央においてカム面39cに対する接触を強く、両端に向かって接触を弱める。あるいはこれに代えて、あるいは加えて、カム面39cが僅かに丸められていてもよい。これらは線接触を維持するものの、接触の端部に向かって応力が増大するのを防止し、以ってテーパローラ41を捻る力が発生するのを防止するのに役立つ。丸みが大きすぎてはカム機構3が大きな軸力を負担する妨げになりうるので、丸みによる傾きは、母線に対して例えば1/100を限度とし、より好ましくは1/10000を限度とする。
【0029】
本技術分野における常識によれば、転動体およびそれを支持する転動面が粗であれば、その転動抵抗を増大する。そこで通常にはこれらはできる限り滑らかに、例えば鏡面に、仕上げられるべきであると考えられる。ところが本実施形態においては、図5A,5Bに例示されるごとく、これらの一方あるいは両方は、適宜の凹凸よりなるテクスチャを備える。以下に述べるごとく、一定の場合には、転動面41および/またはカム面39c上のテクスチャは、テーパローラ41を捻る力に対して抵抗となる一方で、転動に対して顕著な抵抗を生じない。すなわちテクスチャは捻れのない円滑な転動を実現するのに役立つ。
【0030】
図5A,5Bに組み合わせて図6Aから図6Eまでを参照するに、転動面41はテクスチャ41を備える。あるいは転動面41上のテクスチャ41に代えて、またはこれに加えて、カム面39cがテクスチャ39を備えてもよい。図に表れていないが、カムプレート35のカム面もテクスチャを備えてもよい。言うまでもなく、両カム面および転動面41の全てにテクスチャが形成されていてもよい。
【0031】
テクスチャ41は、例えば互いに平行な複数の溝または突起である。図5A,6Aはテクスチャ41が軸Xに関して径方向に実質的に平行な例であり、図5B,6Bは周方向に沿う例である。転動面上のテクスチャとカム面上のテクスチャとは好ましくは同方向に走るが、あるいは異方向であってもよい。
【0032】
あるいは図6Cに示すように、テクスチャが径方向と周方向の両方に走ってもよく、あるいは図6Dに示すように、いずれの方向に対しても傾きを持っていてもよい。
【0033】
テクスチャ39,41の溝または突起のそれぞれの幅およびピッチは、大きいほうが捻りに対する抵抗として有効であろうが、小さいほうが転動抵抗の観点からは有利であろう。そこで、幅はそれぞれ1乃至500μmの範囲にすることができ、ピッチは1乃至3mmの範囲にすることができる。溝の深さまたは突起の高さは、ごく小さくすることができ、例えば1μmの程度であっても、捻りに対する抵抗として作用しうる。むしろ深さまたは突起が大き過ぎれば、転動抵抗を増大しうる。
【0034】
これらのテクスチャは、機械加工によって容易に形成することができる。意図的にこのような構造を形成することができるし、あるいは機械加工により不可避的に生ずる傷を、部分的ないし全面的に面上に残すことによってもよい。さらにあるいは、平滑な面上にレーザーないし電子ビームを走査することによって形成してもよいし、あるいはダイないしモールド上のテクスチャを面に押圧して転写することによってもよい。
【0035】
さらにまた、テクスチャは特定の方向に延びた構造を持たなくてもよく、例えば図6Eに示すように等方的でランダムな凹凸であってもよい。かかる構造は、例えば局部的な酸洗で形成することができるし、またショットピーニング等の方法によることもできる。かかる例においても、凹凸の高さないし深さは、ごく小さくすることができ、例えば1μmの程度であっても、捻りに対する抵抗として作用しうる。
【0036】
これらのテクスチャは、テーパローラ41を径方向に向けて維持するとともに、テーパローラ41が径方向に対して捻れることに抵抗となりうる。
【0037】
転動面41上のテクスチャ41と、カム面39c上のテクスチャ39とは、図7に示すように、互いに噛合するように寸法付けられていてもよい。これはテーパローラ41が捻れないように保持するテクスチャの作用を、より強める。またこの場合には、テクスチャの突起および溝は比較的に大きくすることができ、その場合でも転動抵抗を著しく増大することがない。かかる関係は、もちろん、転動面41とカムプレート35のカム面との間にも成り立っていてもよい。
【0038】
図8Aを参照するに、カムプレート35およびプレッシャプレート39の一方、または両方は、テーパローラ41の外周面41fを支持するべく、周壁を備える。既に述べた通り、外周面41fと周壁とは点接触する。このことは摩擦を減じ、またテーパローラ41の捻れを防止するのに役立つ。点接触は、周壁の縁において起こってもよく、あるいは周壁の内面の何れかにおいて起こってもよい。また点接触は、図8Aに例示される通り、外周面41fの略中心であってもよく、図8Bに例示される通り、中心から離れていてもよい。点接触する面は径方向に直交する面に対して角度αを有してもよい。
【0039】
各実施形態による電流I−トルクT曲線は、図1の破線に示すごとく、従来技術よりも縮小されたヒステリシスCを示す。ヒステリシスの程度はボールカムによる例と比較しても遜色はなく、十分に実用的である。これはテーパローラが軸に対して捻れることなく円滑に転動できることによる。
【0040】
またボールカムによる例と比較すると、始点Oから電流Iを増加する過程PにおいてトルクTの上昇が相対的に停滞することが認められ、また終点Eの付近から電流Iを減少する過程PにおいてトルクTの減少が相対的に停滞することが認められ、すなわち曲線はS字形状である。しかし前者の停滞過程Pがあることは、即座にトルク伝達が増大しないことにつながるので、むしろ所謂引き摺りトルクの低減に役立つ。また後者の停滞過程Pがあることは、意図しないクラッチの脱連結を防止するのに役立つ。
【0041】
総合すると、開示した各実施形態は、ヒステリシスを抑えて制御性のよいカム機構ないし動力伝達機構を提供している。
【0042】
幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8A
図8B