(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記テクスチャはそれぞれ1乃至500μmの幅であって互いに実質的に平行な複数の溝または突起を含み、前記溝または前記突起の間のピッチは1乃至3mmである、請求項1のカム機構。
前記複数のテーパローラは、それぞれ径方向に外方に面した外周面を備え、前記カムプレートおよび前記プレッシャプレートの何れか一以上は前記外周面に接している、請求項1のカム機構。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、カム機構におけるヒステリシスの例を示すグラフである。
【
図2A】
図2Aは、テーパローラにかかる力を説明するカム機構の模式的な縦断面図である。
【
図2B】
図2Bは、径方向に直交する面におけるカム機構の模式的な断面図である。
【
図2C】
図2Cは、テーパローラが転動面を転動した状態を表すカム機構の模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態によるカム機構を含むクラッチ装置の縦断面図である。
【
図5A】
図5Aは、テクスチャを有するテーパローラとカム面との平面図である。
【
図5B】
図5Bは、他の例によるテーパローラとカム面との平面図である。
【
図6A】
図6Aは、転動面またはカム面上のテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
【
図6B】
図6Bは、他の例によるテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
【
図6C】
図6Cは、他の例によるテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
【
図6D】
図6Dは、他の例によるテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
【
図6E】
図6Eは、他の例によるテクスチャを平面に展開した模式的平面図である。
【
図7】
図7は、転動面上およびカム面上のテクスチャが互いに噛合した態様を表す模式的な断面図である。
【
図8A】
図8Aは、テーパローラの外周面にカムプレートの一部が接する例による、テーパローラおよびカムプレートの断面図である。
【
図8B】
図8Bは、他の例によるテーパローラおよびカムプレートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。以下の説明および請求の範囲を通じて、特段の説明がなければ、軸はカム機構の回転軸の意味であり、また軸方向はこれに平行な方向であり径方向はこれに直交する方向を意味である。クラッチ装置の回転軸はカム機構の回転軸と通常は一致するが、必ずしもこれに限られない。
【0011】
図2A,2Bを参照するに、カム機構がカムプレート5とプレッシャプレート9と、その間に介在したテーパローラ11とを備えるとき、テーパローラ11の転動面11
Rはカムプレート5のカム面5cと線接触し、プレッシャプレート9のカム面9cとも線接触し、なおかつこれらの接触線は径方向に対して傾斜している。かかる状態において軸力Fがカム機構に印加されると、接触線の傾斜に基づきテーパローラ11には径方向に外向きに向かうラジアル反力F
Rが生ずる。ラジアル反力F
Rは、テーパローラ11の外周面11fをカムプレート5の内周面5fおよびプレッシャプレート9の内周面9fに押し付ける。これはテーパローラ11の転動を妨げる摩擦力の原因となる。
【0012】
かかる状態で、
図2Cに示すごとく、カムプレート5がプレッシャプレート9に対して軸周りに差動M
Dを起こす(クラッチを連結させようとする過程)と、押し付けられた接触面においてテーパローラ11を捻る力が生ずる。テーパローラ11は、カム面5c,9c上において転動M
Rを起こしてその傾斜面を登り、以ってプレッシャプレート9は軸動Mxを起こすが、かかる運動は摩擦力および捻る力の影響下である。
【0013】
このときカム作用により軸力F’は当初より増大しており、従って外周面11fを内周面5f,9fに押し付けるラジアル反力も増大し、一方、軸動Mxはカムプレート5とプレッシャプレート9とを引き離すので、外周面11fと内周面5f,9fとの接触面積は減少する。ここでラジアル反力の増大は転動を妨げるが、接触面積の減少は転動を促す要素である。
【0014】
一方、
図2Cに示す状態から
図2Bに示す状態に戻そうとする(クラッチを脱連結させようとする過程)と、差動が逆向きであるからテーパローラ11を捻る力も逆向きに作用し、軸力F’は減少するが外周面11fと内周面5f,9fとの接触面積は増大する。
【0015】
印加した電流Iに対して伝達されるトルクTの曲線C
pに現れるヒステリシスは、これらの作用の複合がもたらすものと見られる。本発明者らは、転動抵抗を増やすことなくテーパローラを捻る力に対処することにより、問題を解決することを考え、以って以下の各実施形態に想到した。
【0016】
本実施形態によるカム機構3は、例えば
図3に例示するクラッチ装置1に適用することができるが、必ずしもこれに限られない。クラッチ装置1は、それぞれ軸X周りに回転する第1の回転体と第2の回転体との間でトルクの伝達を断続ないし制御する装置であって、この例では第1の回転体はクラッチケース21であり、第2の回転体はシャフト23である。
【0017】
クラッチケース21とシャフト23との間にはクラッチ25が介在してトルク伝達を仲介する。この例ではクラッチ25は多板クラッチだが、他の形式の摩擦クラッチでもよい。クラッチ25の複数のアウタプレートはクラッチケース21にラグ等により結合しており、アウタプレートと交互に並ぶ複数のインナプレートはシャフト23にラグ等により結合している。カム機構3がクラッチ25に軸力を及ぼすことにより、アウタプレートとインナプレートとが摩擦的に連結し、クラッチケース21とシャフト23との間でトルクが伝達される。また軸力を増減することにより伝達されるトルクが増減する。
【0018】
クラッチ装置1は、また、カム機構3を作動させるべく、差動を生じる手段27を備え、手段27は概してパイロットクラッチ29とこれを作動させるソレノイド31とを備える。手段27は、この例ではカムプレート35を制動することによりこれにプレッシャプレート39に対して差動を生じさせる機構だが、あるいはカムプレート35をプレッシャプレート39に対して相対的に軸X周りに回転させるモータないしギア機構であってもよい。
【0019】
パイロットクラッチ29もこの例では多板クラッチだが、他の形式の摩擦クラッチでもよい。パイロットクラッチ29の複数のアウタプレートはクラッチケース21にラグ等により結合しており、アウタプレートと交互に並ぶ複数のインナプレートはカムプレート35にラグ等により結合している。
【0020】
ソレノイド31は、さらに、その磁束を導くがギャップを備えたコア32と、ギャップを跨ぐように配置されたアーマチャ33とを備え、コア32とアーマチャ33とはパイロットクラッチ29を挟むように配置されている。ソレノイド31が励磁されると磁束はアーマチャ33をコア32に向けて誘引し、以ってアウタプレートとインナプレートとの間に摩擦が生じてカムプレート35を制動する。すなわち、クラッチケース21とシャフト23との間に角速度差があるときには、それに応じてカムプレート35にはプレッシャプレート39に対して差動が生じる。
【0021】
図3に組み合わせて
図4を参照するに、カム機構3は、概して、カムプレート35と、プレッシャプレート39と、その間に介在した複数のテーパローラ41と、を備える。図示されていないが、カムプレート35とプレッシャプレート39との間には、テーパローラ41の向きを一定に保つようにこれを支持する円環状のサポートがさらに介在していてもよい。
【0022】
カムプレート35は軸X周りに回転可能であって、既に述べた通り差動を受容するべく、手段27のインナプレートとラグ等により結合している。カムプレート35は、また
図2B,2Cにおけるのと同様に、テーパローラ41の転動面41
Rに接するカム面を備える。カム面はテーパローラ41を転動せしめて軸方向に移動せしめるよう、軸Xに直交する周面に対して周方向に僅かに傾斜している。
【0023】
プレッシャプレート39も軸X周りに回転可能であって、カムプレート35に軸方向に対向しており、かつクラッチ25を押圧するよう、クラッチ25にも軸方向に対向し軸方向に可動である。またシャフト23と共に回転するよう、シャフト23に係合している。従ってカムプレート35は、制動されればプレッシャプレート39に対して差動を生じる。プレッシャプレート39も、
図2B,2Cにおけるのと同様に、テーパローラ41の転動面41
Rに接するカム面39cを備える。カム面39cも、テーパローラ41の転動によりプレッシャプレート39を軸方向に移動せしめるよう、軸Xに直交する周面に対して周方向に僅かに傾斜している。あるいは、傾斜は両カム面の何れか一方にのみ与えられていてもよい。
【0024】
複数のテーパローラ41は軸Xに対して対称的に配置されている。テーパローラ41の数は図示の例では3だが、もちろんこれに限らない。プレート35,39間の平行を保つ点からは3以上が好ましいが、あまりに多数でも通常その多くは軸力の負担に寄与しない。
【0025】
各テーパローラ41は概して円錐台に近い形状であり、略円錐面をなす転動面41
Rと、それぞれ平面に近い外周面41fおよび内周面を有する。各テーパローラ41は、軸Xに対して径方向に向けられており、その側面である転動面41
Rは、カム面39cに接してその上を転動する。かかる転動面41
Rは、径方向に関して回転対称であり、また軸Xに向かって先細である。
【0026】
各テーパローラ41の内周面と外周面41fとは共に、軸Xに平行な平面であってもよく、あるいは曲面ないし球面であってもよい。外周面41fが曲面ないし球面であれば、
図8Aに示すごとくカムプレート35との接触が点に限定されるので、摩擦を減じ、また捻れを防止するのに役立つ。
【0027】
図3,4に戻って参照するに、好ましくは、転動面41
Rの延長が軸X上において頂点を結ぶように、転動面41
Rとカム面39cとは寸法づけられる。これは、転動面41
Rとカム面39cとの間にすべりが生じることを防止するのに役立つ。
【0028】
転動面41
Rとカム面39cとの接触は、実質的にその全長にわたって線接触であり、これはカム機構3が大きな軸力を負担するのに役立つ。転動面41
Rは、外周面41fおよび内周面に向かって僅かに丸められ(一部の技術分野においてクラウニングないしチャンファリングと呼ばれる)ていてもよい。これは、その中央においてカム面39cに対する接触を強く、両端に向かって接触を弱める。あるいはこれに代えて、あるいは加えて、カム面39cが僅かに丸められていてもよい。これらは線接触を維持するものの、接触の端部に向かって応力が増大するのを防止し、以ってテーパローラ41を捻る力が発生するのを防止するのに役立つ。丸みが大きすぎてはカム機構3が大きな軸力を負担する妨げになりうるので、丸みによる傾きは、母線に対して例えば1/100を限度とし、より好ましくは1/10000を限度とする。
【0029】
本技術分野における常識によれば、転動体およびそれを支持する転動面が粗であれば、その転動抵抗を増大する。そこで通常にはこれらはできる限り滑らかに、例えば鏡面に、仕上げられるべきであると考えられる。ところが本実施形態においては、
図5A,5Bに例示されるごとく、これらの一方あるいは両方は、適宜の凹凸よりなるテクスチャを備える。以下に述べるごとく、一定の場合には、転動面41
Rおよび/またはカム面39c上のテクスチャは、テーパローラ41を捻る力に対して抵抗となる一方で、転動に対して顕著な抵抗を生じない。すなわちテクスチャは捻れのない円滑な転動を実現するのに役立つ。
【0030】
図5A,5Bに組み合わせて
図6Aから
図6Eまでを参照するに、転動面41
Rはテクスチャ41
Tを備える。あるいは転動面41
R上のテクスチャ41
Tに代えて、またはこれに加えて、カム面39cがテクスチャ39
Tを備えてもよい。図に表れていないが、カムプレート35のカム面もテクスチャを備えてもよい。言うまでもなく、両カム面および転動面41
Rの全てにテクスチャが形成されていてもよい。
【0031】
テクスチャ41
Tは、例えば互いに平行な複数の溝または突起である。
図5A,6Aはテクスチャ41
Tが軸Xに関して径方向に実質的に平行な例であり、
図5B,6Bは周方向に沿う例である。転動面上のテクスチャとカム面上のテクスチャとは好ましくは同方向に走るが、あるいは異方向であってもよい。
【0032】
あるいは
図6Cに示すように、テクスチャが径方向と周方向の両方に走ってもよく、あるいは
図6Dに示すように、いずれの方向に対しても傾きを持っていてもよい。
【0033】
テクスチャ39
T,41
Tの溝または突起のそれぞれの幅およびピッチは、大きいほうが捻りに対する抵抗として有効であろうが、小さいほうが転動抵抗の観点からは有利であろう。そこで、幅はそれぞれ1乃至500μmの範囲にすることができ、ピッチは1乃至3mmの範囲にすることができる。溝の深さまたは突起の高さは、ごく小さくすることができ、例えば1μmの程度であっても、捻りに対する抵抗として作用しうる。むしろ深さまたは突起が大き過ぎれば、転動抵抗を増大しうる。
【0034】
これらのテクスチャは、機械加工によって容易に形成することができる。意図的にこのような構造を形成することができるし、あるいは機械加工により不可避的に生ずる傷を、部分的ないし全面的に面上に残すことによってもよい。さらにあるいは、平滑な面上にレーザーないし電子ビームを走査することによって形成してもよいし、あるいはダイないしモールド上のテクスチャを面に押圧して転写することによってもよい。
【0035】
さらにまた、テクスチャは特定の方向に延びた構造を持たなくてもよく、例えば
図6Eに示すように等方的でランダムな凹凸であってもよい。かかる構造は、例えば局部的な酸洗で形成することができるし、またショットピーニング等の方法によることもできる。かかる例においても、凹凸の高さないし深さは、ごく小さくすることができ、例えば1μmの程度であっても、捻りに対する抵抗として作用しうる。
【0036】
これらのテクスチャは、テーパローラ41を径方向に向けて維持するとともに、テーパローラ41が径方向に対して捻れることに抵抗となりうる。
【0037】
転動面41
R上のテクスチャ41
Tと、カム面39c上のテクスチャ39
Tとは、
図7に示すように、互いに噛合するように寸法付けられていてもよい。これはテーパローラ41が捻れないように保持するテクスチャの作用を、より強める。またこの場合には、テクスチャの突起および溝は比較的に大きくすることができ、その場合でも転動抵抗を著しく増大することがない。かかる関係は、もちろん、転動面41
Rとカムプレート35のカム面との間にも成り立っていてもよい。
【0038】
図8Aを参照するに、カムプレート35およびプレッシャプレート39の一方、または両方は、テーパローラ41の外周面41fを支持するべく、周壁を備える。既に述べた通り、外周面41fと周壁とは点接触する。このことは摩擦を減じ、またテーパローラ41の捻れを防止するのに役立つ。点接触は、周壁の縁において起こってもよく、あるいは周壁の内面の何れかにおいて起こってもよい。また点接触は、
図8Aに例示される通り、外周面41fの略中心であってもよく、
図8Bに例示される通り、中心から離れていてもよい。点接触する面は径方向に直交する面に対して角度αを有してもよい。
【0039】
各実施形態による電流I−トルクT曲線は、
図1の破線に示すごとく、従来技術よりも縮小されたヒステリシスC
Iを示す。ヒステリシスの程度はボールカムによる例と比較しても遜色はなく、十分に実用的である。これはテーパローラが軸に対して捻れることなく円滑に転動できることによる。
【0040】
またボールカムによる例と比較すると、始点Oから電流Iを増加する過程P
LにおいてトルクTの上昇が相対的に停滞することが認められ、また終点Eの付近から電流Iを減少する過程P
RにおいてトルクTの減少が相対的に停滞することが認められ、すなわち曲線はS字形状である。しかし前者の停滞過程P
Lがあることは、即座にトルク伝達が増大しないことにつながるので、むしろ所謂引き摺りトルクの低減に役立つ。また後者の停滞過程P
Rがあることは、意図しないクラッチの脱連結を防止するのに役立つ。
【0041】
総合すると、開示した各実施形態は、ヒステリシスを抑えて制御性のよいカム機構ないし動力伝達機構を提供している。
【0042】
幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。