特許第6912685号(P6912685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912685
(24)【登録日】2021年7月12日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20210727BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20210727BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   C04B35/5831
   B23B27/14 B
   B23B27/20
【請求項の数】7
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2021-503621(P2021-503621)
(86)(22)【出願日】2020年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2020027903
(87)【国際公開番号】WO2021010476
(87)【国際公開日】20210121
【審査請求日】2021年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2019-133027(P2019-133027)
(32)【優先日】2019年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 麻佑
(72)【発明者】
【氏名】諸口 浩也
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−214065(JP,A)
【文献】 特開2007−254249(JP,A)
【文献】 特開2003−236710(JP,A)
【文献】 特開平09−136203(JP,A)
【文献】 特開2011−189421(JP,A)
【文献】 特開2011−219360(JP,A)
【文献】 特開2012−096934(JP,A)
【文献】 特開2019−156692(JP,A)
【文献】 特表2020−514235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5831
B23B 27/14
B23B 27/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上80体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合相は、第1結合材粒子と、第2結合材粒子とを含み、
前記第1結合材粒子及び前記第2結合材粒子のそれぞれは、チタンと、ジルコニウム、ハフニウム、周期律表の第5族元素、第6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素と、窒素及び炭素の一方又は両方と、からなる1種の化合物を含み、
前記第1結合材粒子において、前記チタンの原子数と前記第1金属元素の原子数の合計に対する、前記第1金属元素の原子数の比率は0.01%以上10%未満であり、
前記第2結合材粒子において、前記チタンの原子数と前記第1金属元素の原子数の合計に対する、前記第1金属元素の原子数の比率は10%以上80%以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記第1結合材粒子と前記第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、前記界面から前記第2結合材粒子側に、前記チタン及び前記第1金属元素の原子数基準の含有量を測定した場合、前記界面からの距離が15nm以内の領域において、前記界面からの距離の増加に伴い、前記チタンの含有量が減少傾向を示し、かつ、前記第1金属元素の含有量が増加傾向を示す、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記第1結合材粒子と前記第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、前記界面から前記第2結合材粒子側に、前記チタン及び前記第1金属元素の原子数基準の含有量をSEM−EDXにより線上に測定し、前記第1金属元素の含有量の最大値をX1、前記チタン及び前記第1金属元素の含有量の合計に対する前記第1金属元素の含有量の比率が10%の時の前記第1金属元素の含有量をX2、前記X1と前記X2の平均値をX3とした場合、
前記第1金属元素の含有量が前記X2である位置Aから、前記第1金属元素の含有量が前記X3である位置Eまでの距離L1が5nm以上である、請求項1又は請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記距離L1が15nm以上である、請求項3に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記第1金属元素は、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素からなる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項6】
前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、35体積%以上75体積%以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項7】
前記第1結合材粒子及び前記第2結合材粒子の合計質量に対する、前記第2結合材粒子の質量の比率は5%以上90%以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体に関する。本出願は、2019年7月18日に出願した日本特許出願である特願2019−133027号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
切削工具等に用いられる高硬度材料として、立方晶窒化硼素焼結体(以下、「cBN焼結体」ともいう。)がある。cBN焼結体は、通常、立方晶窒化硼素粒子(以下、「cBN粒子」ともいう。)と結合相とからなり、cBN粒子の含有割合や結合相の組成によってその特性が異なる傾向がある。
【0003】
このため、切削加工の分野においては、被削材の材質、要求される加工精度等によって、切削工具に適用されるcBN焼結体の種類が使い分けられる。
【0004】
例えば、特開2017−030082号公報(特許文献1)には、高硬度鋼の断続切削加工に用いることのできるcBN焼結体として、立方晶窒化硼素粒子と、結合相としてTiC相を含む立方晶窒化硼素焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−030082号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、20体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上80体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合相は、第1結合材粒子と、第2結合材粒子とを含み、
前記第1結合材粒子及び前記第2結合材粒子のそれぞれは、チタンと、ジルコニウム、ハフニウム、周期律表の第5族元素、第6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素と、窒素及び炭素の一方又は両方と、からなる1種の化合物を含み、
前記第1結合材粒子において、前記チタンの原子数と前記第1金属元素の原子数の合計に対する、前記第1金属元素の原子数の比率は0.01%以上10%未満であり、
前記第2結合材粒子において、前記チタンの原子数と前記第1金属元素の原子数の合計に対する、前記第1金属元素の原子数の比率は10%以上80%以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示のcBN焼結体をSEMで観察して得られた反射電子像の一例を示す画像である。
図2図2は、図1の反射電子像を画像処理ソフトに読み込んだ画像である。
図3図3は、上の画像は反射電子像であり、下の画像は該反射電子像から得られた濃度断面グラフである。
図4図4は、黒色領域及び結合相の規定方法を説明するための図である。
図5図5は、黒色領域と結合相との境界を説明するための図である。
図6図6は、図1の反射電子像を二値化処理した画像である。
図7図7は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体のニオブの元素マッピング像の一例を示す画像である。
図8図8は、図7の元素マッピング像において、Nb含有量(原子%)/(Ti含有量(原子%)+Nb含有量(原子%))が10%未満の領域を表示しないように設定した画像である。
図9図9は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体のHAADF−STEM(High−angle Annular Dark Field Scanning TEM:高角散乱環状暗視野走査透過型電子顕微鏡)像の一例である。
図10図10は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体のBF−STEM(Bright Field Scanning TEM:明視野走査透過型電子顕微鏡)像の一例である。
図11図11は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体の元素マッピング像の一例であり、硼素の分布状態を示す画像である。
図12図12は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体の元素マッピング像の一例であり、チタンの分布状態を示す画像である。
図13図13は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体の補正元素マッピング像の一例であり、ニオブの分布状態(Nb含有量(原子%)/(Ti含有量(原子%)+Nb含有量(原子%))が10%未満をカット)を示す画像である。
図14図14は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体のHAADF−STEM像の一例である。
図15図15は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体のBF−STEM像の一例である。
図16図16は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体の元素マッピング像の一例であり、等高線図を示す画像である。
図17図17は、ライン分析の結果を示すグラフの一例である。
図18図18は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体のX線スペクトルを示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
自動車のギアやシャフト、ベアリング部品には、高い強度及び靱性を有する焼入鋼が用いられている。近年、これらの部品に対して、より高トルクに耐えうる機械特性が要求されている。焼入鋼の機械特性を向上させるため、例えば、焼入鋼素地に硬質粒子を分散させた高強度焼入鋼が開発されている。
【0009】
高強度焼入鋼は、非常に高い硬度を有するため、工具での加工が非常に困難である。特に、高能率加工の場面では、欠損による工具寿命の低下が生じにくい工具が求められている。
【0010】
本開示は、工具の材料として用いた場合に、特に高強度焼入鋼の高能率加工においても、工具の長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、工具の材料として用いた場合に、特に高強度焼入鋼の高能率加工においても、工具の長寿命化を可能とする。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、
20体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上80体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合相は、第1結合材粒子と、第2結合材粒子とを含み、
前記第1結合材粒子及び前記第2結合材粒子のそれぞれは、チタンと、ジルコニウム、ハフニウム、周期律表の第5族元素、第6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素と、窒素及び炭素の一方又は両方と、からなる1種の化合物を含み、
前記第1結合材粒子において、前記チタンの原子数と前記第1金属元素の原子数の合計に対する、前記第1金属元素の原子数の比率は0.01%以上10%未満であり、
前記第2結合材粒子において、前記チタンの原子数と前記第1金属元素の原子数の合計に対する、前記第1金属元素の原子数の比率は10%以上80%以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0013】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、工具の材料として用いた場合に、特に高強度焼入鋼の高能率加工においても、工具の長寿命化を可能とする。
【0014】
(2)前記第1結合材粒子と前記第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、前記界面から前記第2結合材粒子側に、前記チタン及び前記第1金属元素の原子数基準の含有量を測定した場合、前記界面からの距離が15nm以内の領域において、前記界面からの距離の増加に伴い、前記チタンの含有量が減少傾向を示し、かつ、前記第1金属元素の含有量が増加傾向を示すことが好ましい。
【0015】
これによると、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面における結合力が向上し、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が向上する。
【0016】
(3)前記第1結合材粒子と前記第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、前記界面から前記第2結合材粒子側に、前記チタン及び前記第1金属元素の原子数基準の含有量をSEM−EDXにより線上に測定し、前記第1金属元素の含有量の最大値をX1、前記チタン及び前記第1金属元素の含有量の合計に対する前記第1金属元素の含有量の比率が10%の時の前記第1金属元素の含有量をX2、前記X1と前記X2の平均値をX3とした場合、
前記第1金属元素の含有量が前記X2である位置Aから、前記第1金属元素の含有量が前記X3である位置Eまでの距離L1が5nm以上であることが好ましい。
【0017】
これによると、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面における結合力が更に向上し、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が更に向上する。
【0018】
(4)前記距離L1が15nm以上であることが好ましい。これによると、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面における結合力が更に向上し、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が更に向上する。
【0019】
(5)前記第1金属元素は、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素からなることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が更に向上する。
【0020】
(6)前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、35体積%以上75体積%以下であることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体において、耐欠損性と耐摩耗性とがバランスよく向上する。
【0021】
(7)前記第1結合材粒子及び前記第2結合材粒子の合計質量に対する、前記第2結合材粒子の質量の比率は5%以上90%以下であることが好ましく、10%以上50%以下が更に好ましい。これによると、第1結合材粒子と第2結合材粒子との格子定数が異なるため、界面が不整合になり、残留応力や格子欠陥の効果で焼結体の強度が向上する。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0023】
本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0024】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「TiNbCN」と記載されている場合、TiNbCNを構成する原子数の比は、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。このことは、「TiNbCN」以外の化合物の記載についても同様である。
【0025】
[第1の実施形態:立方晶窒化硼素焼結体]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、20体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上80体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、結合相は、第1結合材粒子と、第2結合材粒子とを含み、第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれは、チタンと、ジルコニウム、ハフニウム、周期律表の第5族元素、第6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素と、窒素及び炭素の一方又は両方と、からなる1種の化合物を含み、第1結合材粒子において、チタンの原子数と前記第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率は0.01%以上10%未満であり、第2結合材粒子において、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率は10%以上80%以下である。
【0026】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、工具の材料として用いた場合に、特に高強度焼入鋼の高能率加工においても、工具の長寿命化を可能とする。この理由は明らかではないが、下記(i)〜(iii)の通りと推察される。
【0027】
(i)本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、優れた強度及び靱性を有する立方晶窒化硼素粒子を20体積%以上80体積%以下含む。このため、cBN焼結体も優れた強度及び靱性を有することができる。従って、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、高強度焼入鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有することができる。
【0028】
(ii)本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、結合相に含まれる第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれは、チタンと、ジルコニウム、ハフニウム、周期律表の第5族元素、第6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素と、窒素及び炭素の一方又は両方と、からなる1種の化合物(以下、「結合相化合物」ともいう)を含む。該結合相化合物は、従来の結合相に用いられていたTiN、TiC、TiCNに、チタン(Ti)と原子半径が異なる第1金属元素が固溶して成る。このため、該結合相化合物には、格子欠陥(転位や積層欠陥)が多量に導入されている。
【0029】
結合相化合物中に格子欠陥が存在すると、工具の使用時に発生した亀裂進展のエネルギーが、格子欠陥の原子の不整合部分に吸収されるため、亀裂の伝播が抑制されると推察される。従って、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、高強度焼入鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有することができる。
【0030】
(iii)本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、結合相に含まれる第1結合材粒子と第2結合材粒子とは、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率が異なる。このため、第1結合材粒子と第2結合材粒子とは格子定数が異なる。結合相において、第1結合材粒子と第2結合材粒子とが接すると、第2結合材粒子中の格子欠陥が残存しやすい。
【0031】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、結合相が格子欠陥を有するため、結合相において亀裂の伝播が抑制され、耐欠損性が向上している。よって、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、高強度焼入鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有することができる。
【0032】
《組成》
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、20体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上80体積%以下の結合相と、を備える。該cBN焼結体は、cBN粒子と結合相とからなることができる。また、cBN焼結体は、原材料、製造条件等に起因する不可避不純物を含み得る。本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、cBN粒子の含有割合、結合相の含有割合、及び、不可避不純物の含有割合の合計は、100体積%となる。
【0033】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、cBN粒子の含有割合、及び、結合相の含有割合の合計の下限は、95体積%以上、96体積%以上、97体積%以上、98体積%以上、99体積%以上とすることができる。本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、cBN粒子の含有割合、及び、結合相の含有割合の合計の上限は、100体積%以下、100体積%未満とすることができる。本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、cBN粒子の含有割合、及び、結合相の含有割合の合計は、95体積%以上100体積%以下、96体積%以上100体積%以下、97体積%以上100体積%以下、98体積%以上100体積%以下、99体積%以上100体積%以下、95体積%以上100体積%未満、96体積%以上100体積%未満、97体積%以上100体積%未満、98体積%以上100体積%未満、99体積%以上100体積%未満とすることができる。
【0034】
cBN焼結体におけるcBN粒子の含有割合(体積%)及び結合相の含有割合(体積%)は、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製の「JSM−7800F」(商品名))付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)「Octane Elect(オクタンエレクト) EDS システム」(商品名))を用いて、cBN焼結体に対し、組織観察、元素分析等を実施することによって確認することができる。
【0035】
cBN粒子の含有割合(体積%)の測定方法は下記の通りである。まず、cBN焼結体の任意の位置を切断し、cBN焼結体の断面を含む試料を作製する。断面の作製には、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。次に、上記断面をSEMにて5000倍で観察して、反射電子像を得る。反射電子像においては、cBN粒子が存在する領域が黒色領域となり、結合相が存在する領域が灰色領域又は白色領域となる。
【0036】
次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(三谷商事(株)の「WinROOF」)を用いて二値化処理を行う。二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める暗視野に由来する画素(cBN粒子に由来する画素)の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、cBN粒子の含有割合(体積%)を求めることができる。
【0037】
二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める明視野に由来する画素(結合相に由来する画素)の面積比率を算出することにより、結合相の含有割合(体積%)を求めることができる。
二値化処理の具体的な方法について、図1図6を用いて説明する。
【0038】
図1は、cBN焼結体をSEMで観察して得られた反射電子像の一例である。該反射電子像を画像処理ソフトに読み込む。読み込んだ画像を図2に示す。図2に示されるように、読み込んだ画像において、任意のラインQ1を引く。
【0039】
ラインQ1に沿って、濃度断面図の計測を行い、GRAY値を読み取る。ラインQ1をX座標とし、GRAY値をY座標としたグラフ(以下、「濃度断面グラフ」ともいう。)を作製する。cBN焼結体の反射電子像と、該反射電子像の濃度断面グラフを図3に示す(上の画像が反射電子像であり、下のグラフが濃度断面グラフである)。図3において、反射電子像の幅と濃度断面グラフのX座標の幅(23.27μm)とは一致している。従って、反射電子像におけるラインQ1の左側端部から、ラインQ1上の特定の位置までの距離は、濃度断面グラフのX座標の値で示される。
【0040】
図3の反射電子像においてcBN粒子が存在する黒色領域を任意に3箇所選ぶ。黒色領域は、例えば、図4の反射電子像において、符号cの楕円で示される部分である。
【0041】
該3箇所の黒色領域のそれぞれのGRAY値を濃度断面グラフから読み取る。該3箇所の黒色領域のそれぞれのGRAY値は、図4の濃度断面グラフにおいて、符号cの楕円で囲まれる3箇所の各部分におけるGRAY値の平均値とする。該3箇所のそれぞれのGRAY値の平均値を算出する。該平均値をcBNのGRAY値(以下、Gcbnともいう。)とする。
【0042】
図3の反射電子像において灰色で示される結合相が存在する領域を任意に3箇所選ぶ。結合相は、例えば、図4の反射電子像において、符号dの楕円で示される部分である。
【0043】
該3箇所の結合相のそれぞれのGRAY値を濃度断面グラフから読み取る。該3箇所の結合相のそれぞれのGRAY値は、図4の濃度断面グラフにおいて、符号dの楕円で囲まれる3箇所の各部分におけるGRAY値の平均値とする。該3箇所のそれぞれのGRAY値の平均値を算出する。該平均値を結合相のGRAY値(以下、Gbinderともいう。)とする。
【0044】
(Gcbn+Gbinder)/2で示されるGRAY値を、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面のGRAY値と規定する。例えば、図4の濃度断面グラフにおいて、黒色領域(cBN粒子)のGRAY値GcbnはラインGcbnで示され、結合相のGRAY値GbinderはラインGbinderで示され、(Gcbn+Gbinder)/2で示されるGRAY値はラインG1で示される。
【0045】
上記の通り、濃度断面グラフにおいて、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面を規定することにより、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面におけるX座標及びY座標の値を読み取ることができる。界面は任意に規定することができる。例えば、図5の上部の反射電子像では、界面を含む部分の一例として、符号eの楕円で囲まれる部分が挙げられる。図5の反射電子像において、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面は、例えば符号eの楕円で示される部分である。図5の下部の濃度断面グラフにおいて、上記の符号eの楕円に相当する黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面は矢印eで示される部分である。該矢印eの先端は、GRAY値の濃度断面グラフと、GRAY値(Gcbn+Gbinder)/2を示すラインG1と、の交点の位置を示す。該矢印eの先端のX座標及び矢印eの先端のY座標の値が、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面におけるX座標及びY座標の値に該当する。
【0046】
黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面におけるX座標及びY座標の値を閾値として二値化処理を行う。二値化処理後の画像を図6に示す。図6において、点線で囲まれる領域が、二値化処理が行われた領域である。なお、二値化処理後の画像は、明視野と暗視野の他に、二値化処理前の画像において白色であった領域に対応する白色領域(明視野よりも白い箇所)を含んでいてもよい。
【0047】
図6において、測定視野の面積に占める暗視野に由来する画素(cBN粒子に由来する画素)の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、cBN粒子の含有割合(体積%)を求めることができる。
【0048】
図6において、測定視野の面積に占める明視野に由来する画素(結合相に由来する画素)の面積比率を算出することにより、結合相の含有割合(体積%)を求めることができる。
【0049】
cBN焼結体中のcBN粒子の含有割合は、35体積%以上75体積%以下が好ましく、45体積%以上74.5体積%以下がより好ましい。
【0050】
cBN焼結体中の結合相の含有割合は、25体積%以上65体積%以下が好ましく、25.5体積%以上55体積%以下がより好ましい。
【0051】
《cBN粒子》
cBN粒子は、硬度、強度、靱性が高く、cBN焼結体中の骨格としての役割を果たす。cBN粒子のD50(平均粒径)は特に限定されず、例えば、0.1〜10.0μmとすることができる。通常、D50が小さい方がcBN焼結体の硬度が高くなる傾向があり、粒径のばらつきが小さい方が、cBN焼結体の性質が均質となる傾向がある。cBN粒子のD50は、例えば、0.5〜4.0μmとすることが好ましい。
【0052】
cBN粒子のD50は次のようにして求められる。まず上記のcBN粒子の含有割合の求め方に準じて、cBN焼結体の断面を含む試料を作製し、反射電子像を得る。次いで、画像解析ソフトを用いて反射電子像中の各暗視野(cBNに相当)の円相当径を算出する。5視野以上を観察することによって100個以上のcBN粒子の円相当径を算出することが好ましい。
【0053】
次いで、各円相当径を最小値から最大値まで昇順に並べて累積分布を求める。累積分布において累積面積50%となる粒径がD50となる。なお円相当径とは、計測されたcBN粒子の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。
【0054】
《結合相》
結合相は、難焼結性材料であるcBN粒子を工業レベルの圧力温度で焼結可能とする役割を果たす。また、鉄との反応性がcBNより低いため、高強度焼入鋼の切削において、化学的摩耗及び熱的摩耗を抑制する働きを付加する。また、cBN焼結体が結合相を含有すると、高強度焼入鋼の高能率加工における耐摩耗性が向上する。
【0055】
本開示のcBN焼結体において、結合相は、第1結合材粒子と、第2結合材粒子とを含む。第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれは、チタンと、ジルコニウム、ハフニウム、周期律表の第5族元素、第6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素と、窒素及び炭素の一方又は両方と、からなる1種の化合物を含み、該第1結合材粒子において、該チタンの原子数と該第1金属元素の原子数の合計に対する、該第1金属元素の原子数の比率は0.01%以上10%未満であり、該第2結合材粒子において、該チタンの原子数と該第1金属元素の原子数の合計に対する、該第1金属元素の原子数の比率は10%以上80%以下である。第1結合材粒子と第2結合材粒子とは、チタンの原子数及び第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率が異なる。
【0056】
第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれは、結合相化合物のみからなることができる。又、第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれは、結合相化合物に加えて、他の成分を含むことができる。他の成分を構成する元素としては、例えば、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、レニウム(Re)を挙げることができる。
【0057】
ここで、周期律表の第5族元素は、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)を含む。第6族元素は、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)を含む。
【0058】
第1金属元素は、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素からなることが好ましい。
【0059】
チタンと第1金属元素と窒素とを含む化合物(窒化物)としては、例えば、窒化チタンジルコニウム(TiZrN)、窒化チタンハフニウム(TiHfN)、窒化チタンバナジウム(TiVN)、窒化チタンニオブ(TiNbN)、窒化チタンタンタル(TiTaN)、窒化チタンクロム(TiCrN)、窒化チタンモリブデン(TiMoN)、窒化チタンタングステン(TiWN)、窒化チタンアルミニウム(TiAlN、TiAlN、TiAlN)等を挙げることができる。
【0060】
チタンと第1金属元素と炭素とを含む化合物(炭化物)としては、例えば、炭化チタンジルコニウム(TiZrC)、炭化チタンハフニウム(TiHfC)、炭化チタンバナジウム(TiVC)、炭化チタンニオブ(TiNbC)、炭化チタンタンタル(TiTaC)、炭化チタンクロム(TiCrC)、炭化チタンモリブデン(TiMoC)、炭化チタンタングステン(TiWC)、炭化チタンアルミニウム(TiAlC、TiAlC、TiAlC)等を挙げることができる。
【0061】
チタンと第1金属元素と炭素と窒素とを含む化合物(炭窒化物)としては、例えば、炭窒化チタンジルコニム(TiZrCN)、炭窒化チタンハフニウム(TiHfCN)、炭窒化チタンバナジウム(TiVCN)、炭窒化チタンニオブ(TiNbCN)、炭窒化チタンタンタル(TiTaCN)、炭窒化チタンクロム(TiCrCN)、炭窒化チタンモリブデン(TiMoCN)、炭窒化チタンタングステン(TiWCN)、炭窒化チタンアルミニウム(TiAlCN、TiAlCN)等を挙げることができる。
【0062】
結合相は、上記の化合物由来の固溶体を含むことができる。ここで、上記の化合物由来の固溶体とは、2種類以上のこれらの化合物が互いの結晶構造内に溶け込んでいる状態を意味し、侵入型固溶体や置換型固溶体を意味する。
【0063】
結合相は、第1結合材粒子及び第2結合材粒子のみからなることができる。又、結合相は、第1結合材粒子及び第2結合材粒子に加えて、他の成分を含むことができる。他の成分を構成する元素としては、例えば、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、レニウム(Re)を挙げることができる。
【0064】
cBN焼結体に含まれる結合相の全体としての組成は、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製の「JSM−7800F」(商標))付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)「Octane Elect(オクタンエレクト) EDS システム」(商標))を用いた組織観察、元素分析等と、XRD(X線回折測定)(装置:RIGAKU社製の「MiniFlex600」(商標))による結晶構造解析等を組み合わせることで確認することができる。
【0065】
第1結合材粒子において、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率は0.01%以上10%未満である。第1金属元素の原子数の比率が0.01%以上10%未満であると、第1結合材粒子と第2結合材粒子との格子定数の相違が大きくなる。この場合、第1結合材粒子と第2結合材粒子とが接すると、第2結合材粒子中の格子欠陥が残存しやすく、結合相において亀裂の伝播が抑制され、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が顕著に向上する。更に、第1金属元素の原子数の比率が10%未満であると、第1結合材粒子の耐摩耗性が向上するため、立方晶窒化硼素焼結体において、耐欠損性と耐摩耗性とがバランスよく向上する。
【0066】
第1結合材粒子において、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率は、0.01%以上10%未満であり、0.02%以上5%以下が好ましく、0.05%以上3%以下が更に好ましい。
【0067】
第2結合材粒子において、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率は10%以上80%以下である。第2金属元素の原子数の比率が10%以上であると、第2結合材粒子中の格子欠陥が増加し、結合相において亀裂の伝播が抑制され、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が顕著に向上する。第2金属元素の原子数の比率が80%以下であると、第2結合材粒子は優れた強度を有することができ、立方晶窒化硼素焼結体の強度が向上する。
【0068】
第2結合材粒子において、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率は、10%以上80%以下であり、11.5%以上60%以下が好ましく、13%以上50%以下が更に好ましい。
【0069】
第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれの組成、並びに、第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれにおける、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率(以下、「第1金属元素の比率」ともいう。)の測定方法の手順について、下記(1−1)〜(1−5)に説明する。
【0070】
(1−1)cBN焼結体からサンプルを採取し、アルゴンイオンスライサーを用いて、サンプルを30〜100nmの厚みに薄片化して切片を作製する。該切片を透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」ともいう。)にて3万倍、5万倍で観察してHAADF−STEM像である第1画像を得る。第1画像において、cBN粒子は黒色として観察され、結合相及び粒子間の界面は白色または灰色として観察される。
【0071】
(1−2)第1画像において、cBN粒子(黒色)以外の領域が視野の中心となるように位置決めを行い、観察倍率を10万倍に変更して観察することにより、第2画像を得る。
【0072】
(1−3)次に、第2画像に対し、EDXによる元素マッピング分析を実施して、チタン、第1金属元素、炭素及び窒素の分布を分析する。
【0073】
(1−4)第1金属元素の元素マッピング像において、第1金属元素の信号が最強の点(分析範囲:約2nm)と最低の点(分析範囲:約2nm)を特定し、かつその領域に硼素が15原子%以上存在しないことを確認する。硼素が存在する場合は、第1結合材粒子及び第2結合材粒子とみなさない。ここで、第1金属の信号が最強の点は、第2結合材粒子内に存在し、第1金属の信号が最低の点は、第1結合材粒子内に存在するものである。それぞれの点において、チタン、第1金属元素、炭素及び窒素の定量分析を行う。
【0074】
(1−5)上記(1−4)の結果から、第1金属の信号が最強の点における組成を特定する。該組成は、第2結合材粒子の組成に該当する。また、第1金属の信号が最強の点における、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率(第1金属元素の比率)を算出する。該比率を10視野以上にて算出する。該10視野以上における第1金属元素の比率の平均値が、第2結合材粒子中の第1金属元素の比率に該当する。
【0075】
上記(1−4)の結果から、第1金属の信号が最低の点における組成を特定する。該組成は、第1結合材粒子の組成に該当する。また、第1金属の信号が最低の点における、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、第1金属元素の原子数の比率(第1金属元素の比率)を算出する。該比率を10視野以上にて算出する。該10視野以上における第1金属元素の比率の平均値が、第1結合材粒子中の第1金属元素の比率に該当する。
【0076】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、界面から前記第2結合材粒子側に、チタン及び第1金属元素の原子数基準の含有量を測定した場合、界面からの距離が15nm以内の領域において、界面からの距離の増加に伴い、チタンの含有量が減少傾向を示し、かつ、第1金属元素の含有量が増加傾向を示すことが好ましい。
【0077】
これによると、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面における結合力が向上し、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が向上する。
【0078】
ここで、「第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、界面から第2結合材粒子側に、チタン及び第1金属元素の含有量を測定する方法」(以下、「元素ライン分析」ともいう。)の手順について、下記(2−1)〜(2−9)に説明する。
【0079】
(2−1)cBN焼結体からサンプルを採取し、日本電子社製のイオンスライサ「EM−09100IS」(商品名)を用いて、サンプルを30〜100nmの厚みに薄片化して切片を作製する。
【0080】
(2−2)上記(2−1)で作製された切片を透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子社製の「JEM−2100F/Cs」(商品名))にて10万倍で観察し、TEM付帯のエネルギー分散型X線分光法(EDX、AMETEK社製の「EDAX」(商品名))を用いて元素マッピング分析を行い、元素マッピング像を得る。元素マッピング分析では、チタン、各第1金属元素(ジルコニウム、ハフニウム、周期律表の第5族元素に含まれる元素、第6族元素に含まれる元素、アルミニウム)及び硼素の分布を分析する。
【0081】
(2−3)上記(2−2)で得られた元素マッピング像と同一の視野に対して、高角散乱環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(日本電子社製の「JEM−2100F/Cs」(商品名))を用いて、HAADF−STEM像を得る。
【0082】
(2−4)上記(2−2)で得られた元素マッピング像と同一の視野に対して、明視野走査透過型電子顕微鏡(日本電子社製の「JEM−2100F/Cs)を用いて、BF−STEM像を得る。
【0083】
(2−5)上記(2−2)で得られた元素マッピング像に基づき、第1金属元素(以下、「M」とも記す。)が観察される領域(以下、「第1領域」ともいう。)を特定する。次に、上記で得られた第1金属元素(M)のマッピング像において、M含有量(原子%)/(Ti含有量(原子%)+M含有量(原子%))が10%未満の領域を表示しないように設定した画像を得る。該画像において、上記(2−2)で得られた硼素のマッピング像において硼素が観察されない領域、かつ、第1金属元素(M)の独立した各々のマッピング領域が第2結合材粒子に該当する。当該第2結合材粒子を示すマッピング領域を結晶粒と定義し、該マッピング領域の境目を結晶粒界として特定する。
【0084】
(2−6)上記(2−2)で得られた硼素及びチタンの元素マッピング像、並びに、M含有量(原子%)/(Ti含有量(原子%)+M含有量(原子%))が10%未満の領域を表示しないように設定した第1金属元素の元素マッピング像が、以下の(a)〜(c)の全てを満たす領域(以下、「第2領域」ともいう。)を特定する。
(a)硼素が観察されない。
(b)チタンが観察される。
(c)第1金属元素が観察されない。
【0085】
更に、上記(2−3)で得られたHAADF−STEM像及び上記(2−4)で得られたBF−STEM像に基づき、上記(2−5)で特定された第2結合材粒子に隣接し、かつ、第2領域を含む一つの結晶粒を特定する。該結晶粒は第1結合材粒子に該当する。該結晶粒の結晶粒界は下記の方法で特定する。まず、上記で得られた第1金属元素(M)のマッピング像において、M含有量(原子%)/(Ti含有量(原子%)+M含有量(原子%))が10%以上の領域を表示しないように設定した画像を得る。該画像において、第1金属元素(M)のマッピング領域を結晶粒と定義し、該第1金属元素(M)のマッピング領域の境目を結晶粒界として特定する。
【0086】
(2−7)上記(2−5)で特定された第2結合材粒子、及び、上記(2−6)で特定された第1結合材粒子を含む領域をTEMにて30万倍で観察し、TEM付帯のエネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて元素マッピング分析を行い、元素マッピング像を得る。元素マッピング分析では、各第1金属元素(ジルコニウム、ハフニウム、周期律表の第5族元素に含まれる元素、第6族元素に含まれる元素、アルミニウム)の分布を分析する。
【0087】
(2−8)上記(2−7)で得られた元素マッピング像において、第1金属元素の信号が強く観察される領域において等高線図をとり、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、界面から第2結合材粒子側に、元素ライン分析を実施し、チタン及び第1金属元素の含有量を測定する。ここで、界面に対して垂直な方向とは、界面の伸長方向の接線に対して90°±5°の角度で交差する直線に沿う方向を意味する。また、界面に対して垂直な方向は、試料の断面において第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面(境界線)に垂直、かつ、該断面に平行な方向である。元素ライン分析のビーム径は0.3nm以下とし、スキャン間隔は0.1〜0.7nmとする。
【0088】
上記(2−1)〜(2−8)の手順により、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、界面から第2結合材粒子側に、チタン及び第1金属元素の含有量を測定することができる。
【0089】
上述の測定に関し、理解を容易とするために、図7図17を用いて詳述する。
【0090】
図7は、第1結合材粒子及び第2結合材粒子がTiNbCNの組成を含むcBN焼結体に対して、元素マッピング分析を実施し、ニオブ(Nb)の分布を分析した時に得られる元素マッピング像である。なお、実際の元素マッピング像では、ニオブの存在する位置は濃色の発光色を示すが、図7では該元素マッピング像が白黒表示されているため、ニオブの存在する位置は淡色として表示されている。
【0091】
図7と同一視野におけるHAADF−STEM像を図9に示す。図9において、cBN粒子は黒色として観察され、結合相は白色又は灰色として観察される。
【0092】
図7と同一視野におけるBF−STEM像を図10に示す。図10において、cBN粒子は白色として観察され、結合相は黒色又は灰色として観察される。
【0093】
図11は、上記のcBN焼結体に対して、元素マッピング分析を実施し、硼素(B)の分布を分析した時に得られる元素マッピング像である。なお、実際の元素マッピング像では、硼素の存在する位置は濃色の発光色を示すが、図11では該元素マッピング像が白黒表示されているため、硼素の存在する位置は淡色として表示されている。
【0094】
図12は、上記のcBN焼結体に対して、元素マッピング分析を実施し、チタン(Ti)の分布を分析した時に得られる元素マッピング像である。なお、実際の元素マッピング像では、チタンの存在する位置は濃色の発光色を示すが、図12では該元素マッピング像が白黒表示されているため、チタンの存在する位置は淡色として表示されている。
【0095】
図7の元素マッピング像に基づき、ニオブが観察される第1領域を特定する。更に、図9のHAADF−STEM像及び図10のBF−STEM像に基づき、該第1領域を含む一つの結晶粒を特定する。該結晶粒の結晶粒界は下記の方法で特定する。まず、上記で得られたニオブのマッピング像において、Nb含有量(原子%)/(Ti含有量(原子%)+Nb含有量(原子%))が10%未満の領域を表示しないように設定した画像を得る。該画像において、ニオブのマッピング領域を結晶粒と定義し、該ニオブのマッピング領域の境目を結晶粒界として特定する。該結晶粒は第2結合材粒子に該当する。図8においてニオブの観察される領域と、図11において硼素の観察される領域とが重ならない領域が第2結合材粒子を示す。第2結合材粒子を示す領域を図9に点線で示す。
【0096】
図7図11及び図12の元素マッピング像に基づき、以下の(a)〜(c)の全てを満たす第2領域を特定する。
(a)硼素が観察されない。
(b)チタンが観察される。
(c)ニオブが観察されない。
【0097】
更に、図9のHAADF−STEM像及び図10のBF−STEM像に基づき、第2領域を含む一つの結晶粒を特定する。該結晶粒は第1結合材粒子に該当する。図9の実線で囲まれる領域は、該第1結合材粒子を示す。
【0098】
図13は、図9の点線で囲まれる部分(第2結合材粒子)を含む領域に対して、元素マッピング分析を実施し、ニオブ(Nb)の分布を分析した時に得られる元素マッピング像において、ニオブの含有量が10原子%以下の部分をカットして得られた補正元素マッピング像である。参考までに、図13と同一視野におけるHAADF−STEM像を図14に示し、図13と同一視野におけるBF−STEM像を図15に示す。図15において、点線で囲まれる部分は第2結合材粒子を示し、実線で囲まれる部分は第1結合材粒子を示す。
【0099】
図13の補正元素マッピング像において、ニオブの信号が強く観察される領域における等高線図を図16に示す。図16において、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面に対して垂直方向(界面の接線に対して90°±5°の角度で交差する直線に沿う方向)(図16の矢印aで示される方向)に沿って、元素ライン分析を実施する。
【0100】
図17は、元素ライン分析の結果を示すグラフの一例である。該グラフにおいて、横軸(X軸)は図16におけるラインの距離(nm)を示し、縦軸(Y軸)はチタン及びニオブの含有量(原子%)を示す。
【0101】
次に、「界面からの距離が15nm以内の領域において、界面からの距離の増加に伴い、チタンの含有量が減少傾向を示し、第1金属元素の含有量が増加傾向を示す」ことの確認方法の具体的な手順について、図17を用いて説明する。下記では、第1金属元素がニオブの場合として説明するが、第1金属元素が他の元素であっても、同様の方法で確認することができる。
【0102】
図17において、点線はチタンを示し、実線はニオブを示す。また、X1はニオブの含有量の最大値を示し、X2はチタン及びニオブの含有量の合計に対するニオブの含有量の比率が10%の時のニオブの含有量を示す。X4はチタンの含有量の最小値を示す。
【0103】
含有量X2を示す直線とニオブのスペクトルとの交点であるAと、含有量X1を示す直線とニオブのスペクトルとの交点であるBを結んだ直線Mを引く。直線Mとニオブのスペクトル(以下、「Nbスペクトル」ともいう。)とのずれを、AとBとの間において等間隔に10点測定する(A、Bは含まない)。ここで、直線MとNbスペクトルとのずれは、同一の距離におけるNbスペクトル上のニオブ含有量と、直線M上のニオブ含有量との差を意味する。7点以上において、直線MとNbスペクトルとのずれが±10原子%以内の場合は、「ニオブ(第1金属元素)の含有量が増加傾向を示す。」ことが確認される。
【0104】
上記交点Aの距離におけるチタンのスペクトル(以下、「Tiスペクトル」ともいう。)上の点Cと、含有量X4を示す直線とTiスペクトルとの交点であるDを結んだ直線Nを引く。直線NとTiスペクトルとのずれを、CとDとの間において等間隔に10点測定する(C、Dは含まない)。ここで、直線NとTiスペクトルとのずれは、同一の距離におけるTiスペクトル上のチタン含有量と、直線N上のチタン含有量との差を意味する。7点以上において、直線NとTiスペクトルとのずれが±10原子%以内の場合は、「チタンの含有量が減少傾向を示す。」ことが確認される。
【0105】
6視野分の元素マッピング像において上述の分析を繰り返し実施し、1視野分以上において、上記の増加傾向及び減少傾向を示すことが確認された場合、当該cBN焼結体は、「界面からの距離が15nm以内の領域において、界面からの距離の増加に伴い、チタンの含有量が減少傾向を示し、第1金属元素の含有量が増加傾向を示す」とみなす。
【0106】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、界面から第2結合材粒子側に、チタン及び第1金属元素の含有量を測定し、第1金属元素の含有量の最大値をX1、チタン及び第1金属元素の含有量の合計に対する第1金属元素の含有量の比率が10%の時の第1金属元素の含有量をX2、X1とX2の平均値をX3とした場合、第1金属元素の含有量がX2である位置Aから、第1金属元素の含有量が前記X3である位置Eまでの距離L1が5nm以上であることが好ましい。
【0107】
これによると、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面における結合力が更に向上し、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が更に向上する。距離L1は、5nm以上300nm以下が好ましく、15nm以上200nm以下がより好ましく、30nm以上150nm以下が更に好ましい。
【0108】
距離L1の測定方法の具体的な手順について、図17を用いて説明する。図17のY軸において、ニオブの含有量の最大値はX1で示され、チタン及びニオブの含有量の合計に対するニオブの含有量の比率が10%の時のニオブの含有量はX2で示され、X1とX2の平均値はX3で示される。Nbスペクトルにおいて、ニオブの含有量がX2である位置はAで示され、ニオブの含有量がX3である位置はEで示される。図17のX軸において、AからEまでの距離が、距離L1に該当する。
【0109】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、第1結合材粒子及び第2結合材粒子の合計質量に対する、第2結合材粒子の質量の比率は5%以上90%以下であることが好ましい。これによると、格子定数が異なる結晶粒が隣り合うことで粒界が不整合となり、格子欠陥、応力の効果により強度が向上し、耐欠損性が向上する。第1結合材粒子及び第2結合材粒子の合計質量に対する、第2結合材粒子の質量の比率は10%以上70%以下がより好ましく、20%以上50%以下が更に好ましい。
【0110】
第1結合材粒子と第2結合材粒子の合計質量に対する、第2結合材粒子の質量の比率はX線回折法により測定することができる。具体的な測定方法について、下記(3−1)〜(3−3)に具体的に説明する。
【0111】
(3−1)立方晶窒化硼素焼結体をダイヤモンド砥石電着ワイヤーで切断し、切断面を観察面とする。
【0112】
(3−2)X線回折装置(Rigaku社製「MiniFlex600」(商品名))を用いて立方晶窒化硼素焼結体の切断面のX線スペクトルを得る。このときのX線回折装置の条件は、下記の通りとする。
特性X線: Cu−Kα(波長1.54Å)
管電圧: 40kV
管電流: 15mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ−2θ法
スキャン速度: 4度/分
【0113】
(3−3)得られたX線スペクトルにおいて、下記のピーク強度A、ピーク強度Bを測定する。
【0114】
ピーク強度A:回折角2θ=60°付近のピーク強度から、バックグランドを除いた第1結合材粒子の(220)面のピーク強度。
【0115】
ピーク強度B:回折角2θ=60°付近のピーク強度から、バックグラウンドを除いた第2結合材粒子の(220)面のピーク強度。
【0116】
第1結合材粒子及び第2結合材粒子の合計質量に対する、第2結合材粒子の質量の比率は、ピーク強度B/(ピーク強度A+ピーク強度B)の値を算出することにより得られる。具体的には、XRD分析ソフト(RIGAKU社製「PDXL2」にスペクトルを読み込む。スペクトルの情報として表示され、(220)面に相当する高さをピーク強度として計算する。このピーク高さはバックグラウンドを除いたピーク強度を示している。本開示の立方晶窒化硼素焼結体のX線スペクトルの一例を図18に示す。
【0117】
図18に示されるように、第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれのピークは一部が重なり、1つのピークSの高角度側又は低角度側にショルダーが観察される場合がある。この場合は、分析ソフトにより2つのピークS1(第1結合材粒子の(220)面由来のピーク)、S2(第2結合材粒子の(220)面由来のピーク)として認識させて分析する。分析ソフトが自動で2つのピークを認識しない場合は、1つのピークの低角度側のショルダー部分を第2結合材粒子のピークと見做して、ピーク追加機能により追加し、フィッティングを行う。
【0118】
[第2の実施形態:立方晶窒化硼素焼結体の製造方法]
本開示のcBN焼結体の製造方法について説明する。本開示のcBN焼結体の製造方法は、立方晶窒化硼素粉末(以下、「cBN粉末」ともいう)と、第1結合材粉末と、第2結合材粉末とを準備する工程(以下、「準備工程」ともいう。)と、前記cBN粉末と、第1結合材粉末と、第2結合材粉末とを混合して、混合粉末を調製する工程(以下、「調製工程」ともいう。)と、混合粉末を焼結して、立方晶窒化硼素焼結体を得る工程(以下、「焼結工程」ともいう。)と、を備えることができる。以下、各工程について詳述する。
【0119】
<準備工程>
まず、cBN粉末及び結合材粉末を準備する。cBN粉末とは、cBN焼結体に含まれるcBN粒子の原料粉末である。cBN粉末は、特に限定されず、公知のcBN粉末を用いることができる。結合材粉末とは、cBN焼結体に含まれる結合相の原料粉末である。
【0120】
本開示のcBN焼結体の結合相に含まれる化合物は、TiC(x≧0、y≧0、x+y>0である。)に、チタン(Ti)と原子半径が異なる第1金属元素が固溶して成り、TiM2C(x≧0、y≧0、x+y>0であり、M2は1以上の第1金属元素を示す。Tiの原子数とM2の原子数の合計に対する、M2の原子数の比率は10%以上80%以下である。)の組成を有する。以下、該TiM2Cの組成を有する結合材を主結合材という。
【0121】
チタンに原子半径の異なる金属元素を固溶させることは、従来の一般的な方法では困難である。本発明者らは、鋭意検討の結果、主結合材の原料を1800℃以上の高温で熱処理(以下、「高温熱処理」ともいう。)を行うことにより、チタンに原子半径の異なる金属元素が固溶した主結合材粉末を作製できることを見出した。更に、主結合材に含まれる元素粉末を粉末熱プラズマ処理を行うことによっても、チタンに原子半径の異なる金属元素が固溶した主結合材粉末を作製できることを見出した。高温熱処理及び粉末熱プラズマ処理の詳細について、下記に説明する。
【0122】
(高温熱処理を用いる方法)
高温熱処理を用いて主結合材粉末を作製する方法の一例について説明する。
【0123】
TiO粉末、ジルコニウム、ハフニウム、周期律表の第5族元素、第6族元素及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物粉末、及び、炭素(C)粉末を混合して主結合材用混合粉末を得る。
【0124】
第1金属元素の酸化物粉末としては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化バナジウム(V)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、酸化クロム(Cr)、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)を挙げることができる。
【0125】
TiO粉末と第1金属元素の酸化物粉末と炭素粉末との混合割合は、原子%基準で、チタン:第1金属元素:炭素=0.9〜0.2:0.1〜0.8:0.1〜0.9となるように配合することが好ましい。
【0126】
得られた主結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、1800℃〜2200℃で60分間熱処理する。これにより、TiM2Cの組成を有する単相化合物が合成される。該単相化合物を湿式粉砕法で所望の粒径まで粉砕し、TiM2Cの組成を有する主結合材粉末を得ることができる。
【0127】
(粉末熱プラズマ処理を用いる方法)
粉末熱プラズマ処理を用いて主結合材粉末を作製する方法の一例について説明する。
【0128】
チタン(Ti)粉末、M(第1金属元素)粉末、及び、炭素(C)粉末を混合して結合材用混合粉末を得る。チタン(Ti)粉末とM(第1金属元素)粉末と炭素(C)粉末との混合割合は、重量比で、チタン(Ti)粉末:M(第1金属元素)粉末:炭素(C)粉末=20〜80:10〜80:1〜20とすることができる。
【0129】
得られた結合材用混合粉末を、熱粉末プラズマ装置(JEOL製、TP−40020NPS)にて処理する。例えば、熱粉末プラズマ装置のチャンバ内に主結合材用混合粉末をセットし、出力6kWの条件でNガスを30L/分の流量で導入して処理する。これにより、TiM2Cの組成を有する主結合材粉末を得ることができる。
【0130】
cBN粉末と上記の主結合材粉末とを焼結するためには、TiAlN及び/又はTiAlCを副結合材として用いることが好ましい。副結合材を用いることにより、cBN粒子と主結合材との結合が促進される。更に、主結合材粉末と副結合材粉末とを混合して焼結することにより、主結合材粉末に含まれる第1金属元素(M2)の一部と、副結合材粉末とから、TiM1C(x≧0、y≧0、x+y>0であり、M1は上記M2と同一の第1金属元素を示す。Tiの原子数とM1の原子数の合計に対する、M1の原子数の比率は0.01%以上10%未満である。)の組成を有する化合物が生成される。該TiM1Cの組成を有する化合物は、cBN焼結体において第1結合材粒子を構成する。
【0131】
以下に、副結合材粉末として、TiAlC粉末を作製する方法の一例について説明する。チタン(Ti)粉末とアルミニウム(Al)粉末とTiC粉末とを、重量比でチタン(Ti)粉末:アルミニウム(Al)粉末:TiC粉末=37:22:41の割合で混合して副結合材用混合粉末を得る。
【0132】
得られた副結合材用混合粉末を、アルゴン雰囲気下、1500℃で60分間熱処理する。これにより、TiAlCの組成を有する単相化合物が合成される。該単相化合物を湿式粉砕法で所望の粒径まで粉砕し、TiAlCの組成を有する副結合材粉末を得ることができる。
【0133】
<調製工程>
本工程は、cBN粉末と結合材粉末とを混合して、混合粉末を調製する工程である。ここで、結合材粉末は、主結合材粉末と副結合材粉末とを含むことができる。
【0134】
cBN粉末と結合材粉末との混合割合は、混合粉末中のcBN粉末の割合が20体積%以上80体積%以下、かつ、結合材粉末の割合が20体積%以上80体積%以下となるように調整する。結合材粉末として主結合材粉末と副結合材粉末とを用いる場合は、主結合材粉末と副結合材粉末との混合割合は、副結合材が焼結後にTiM1CとAlに分解すると仮定し、重量比でTiM1C:TiM2C=10〜95:90〜5となるように計算して配合する。
【0135】
なお、混合粉末中のcBN粉末と、結合材粉末との混合割合は、該混合粉末を焼結して得られるcBN焼結体におけるcBN粒子と、結合相との割合と実質的に同一となる。したがって、混合粉末中のcBN粉末と、結合材粉末との混合割合を調節することにより、cBN焼結体中のcBN粒子と結合相との割合を、所望の範囲とすることができる。
【0136】
cBN粉末と、結合材粉末との混合方法は特に制限されないが、効率よく均質に混合する観点から、ボールミル混合、ビーズミル混合、遊星ミル混合、及びジェットミル混合等を用いることができる。各混合方法は、湿式でもよく乾式でもよい。
【0137】
cBN粉末と、結合材粉末とは、エタノール、アセトン等を溶媒に用いた湿式ボールミル混合により混合されることが好ましい。また、混合後は自然乾燥により溶媒が除去される。その後、熱処理により、表面に吸着した水分等の不純物を揮発させ表面を清浄化する。これにより、混合粉末が調製される。
【0138】
<焼結工程>
本工程は、混合粉末を焼結してcBN焼結体を得る工程である。本工程において、混合粉末が高温高圧条件下に曝されて焼結されることにより、cBN焼結体が製造される。
【0139】
まず、混合粉末中の水分や不純物除去のため、真空下で高温(例えば900℃以上)熱処理(以下、「脱ガス処理」ともいう。)を行う。脱ガス処理後の混合粉末を、超高圧焼結用のカプセルに充填して、真空下で金属をシール材に用いて、真空シールする。
【0140】
次に、超高温高圧装置を用いて、真空シールされた混合粉末を焼結処理する。焼結条件は、例えば、5.5〜8GPa及び1200℃以上1800℃未満で、5〜60分が好ましい。特に、コストと焼結性能とのバランスの観点から、6〜7GPa及び1400〜1600℃で、10〜30分が好ましい。これにより、cBN焼結体が製造される。
【0141】
[第3の実施形態:工具]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、工具の材料として用いることができる。工具は、基材として上記cBN焼結体を含むことができる。また工具は、基材となるcBN焼結体の表面に被膜を有していてもよい。
【0142】
工具の形状及び用途は特に制限されない。例えばドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、クランクシャフトのピンミーリング加工用チップなどを挙げることができる。
【0143】
また、本実施形態に係る工具は、工具の全体がcBN焼結体からなるもののみに限らず、工具の一部(特に刃先部位(切れ刃部)等)のみがcBN焼結体からなるものも含む。例えば、超硬合金等からなる基体(支持体)の刃先部位のみがcBN焼結体で構成されるようなものも本実施形態に係る工具に含まれる。この場合は、文言上、その刃先部位を工具とみなすものとする。換言すれば、cBN焼結体が工具の一部のみを占める場合であっても、cBN焼結体を工具と呼ぶものとする。
【0144】
本実施形態に係る工具によれば、上記cBN焼結体を含むことから、長寿命化が可能となる。
【実施例】
【0145】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0146】
<試料1>
(準備工程)
cBN粉末(平均粒径:3μm)と主結合材粉末と副結合材粉末とを準備した。主結合材粉末は、高温熱処理を用いる方法で作製した。具体的には、TiO粉末とNb粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、57.19:16.79:26.02の割合で混合し、主結合材用混合粉末を得た。該主結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、2100℃で60分間熱処理して、TiNbCN組成の単相化合物を合成した。該単相化合物を湿式粉砕法で粒径0.5μmまで粉砕し、TiNbCN粉末を得た。
【0147】
該TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)とを混合して結合材粉末を準備した。TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合は、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が1重量%となるように調整した。
【0148】
(調製工程)
cBN粉末と結合材粉末とを、体積比で、cBN粉末:結合材粉末=65:35の割合で混合し、ボールミルにより均一に混合して混合粉末を得た。
【0149】
(焼結工程)
得られた混合粉末を、WC−6%Coの超硬合金製円盤に接した状態でTa製の容器に充填して真空シールし、ベルト型超高圧高温発生装置を用いて、6.5GPa、1500℃で15分間焼結した。これにより、cBN焼結体が作製された。
【0150】
<試料2>
準備工程において、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が2重量%となるように調整した以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0151】
<試料3>
準備工程において、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が4重量%となるように調整した以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0152】
<試料4>
準備工程において、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が7重量%となるように調整した以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0153】
<試料5>
準備工程において、TiO粉末とNb粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、43.83:31.25:24.92の割合で混合し、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が4重量%となるように調整した以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0154】
<試料6>
準備工程において、TiO粉末とNb粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、28.66:47.67:23.67の割合で混合し、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が4重量%となるように調整した以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0155】
<試料7>
準備工程において、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が4重量%となるように調整し、焼結工程において焼結温度を1750℃とした以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0156】
<試料8>
準備工程において、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が4重量%となるように調整し、焼結工程において焼結温度を1250℃とした以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0157】
<試料9>
準備工程において、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が0.5重量%となるように調整した以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0158】
<試料10>
準備工程において、TiO粉末とNb粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、7.49:70.58:21:93の割合で混合し、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が4重量%となるように調整した以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0159】
<試料11>
主結合材粉末として、TiNbCN粉末に代えて、TiZrCN粉末を用いた以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0160】
TiZrCN粉末は、以下の方法で作製した。TiO粉末とZrO粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、58.35:15.88:25.77の割合で混合し、結合材用混合粉末を得た。該結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、2100℃で60分間熱処理して、TiZrCN組成の単相化合物を合成した。該単相化合物を湿式粉砕法で粒径0.5μmまで粉砕し、TiZrCN粉末を得た。
【0161】
<試料12>
主結合材粉末として、TiNbCN粉末に代えて、TiMoCN粉末を用いた以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0162】
TiMoCN粉末は、以下の方法で作製した。TiO粉末とMoO粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、55.99:17.80:26.21の割合で混合し、結合材用混合粉末を得た。該結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、2100℃で60分間熱処理して、TiMoCN組成の単相化合物を合成した。該単相化合物を湿式粉砕法で粒径0.5μmまで粉砕し、TiMoCN粉末を得た。
【0163】
<試料13>
主結合材粉末として、TiNbCN粉末に代えて、TiHfCN粉末を用いた以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0164】
TiHfCN粉末は、以下の方法で作製した。TiO粉末とHfO粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、52.45:24.38:23.17の割合で混合し、結合材用混合粉末を得た。該結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、2100℃で60分間熱処理して、TiHfCN組成の単相化合物を合成した。該単相化合物を湿式粉砕法で粒径0.5μmまで粉砕し、TiHfCN粉末を得た。
【0165】
<試料14>
主結合材粉末として、TiNbCN粉末に代えて、TiTaCN粉末を用いた以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0166】
TiTaCN粉末は、以下の方法で作製した。TiO粉末とTa粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、51.467:25.116:23.417の割合で混合し、結合材用混合粉末を得た。該結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、2100℃で60分間熱処理して、TiTaCN組成の単相化合物を合成した。該単相化合物を湿式粉砕法で粒径0.5μmまで粉砕し、TiTaCN粉末を得た。
【0167】
<試料15>
主結合材粉末として、TiNbCN粉末に代えて、TiWCN粉末を用いた以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0168】
TiWCN粉末は、以下の方法で作製した。TiO粉末とWO粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、51.53:26.39:22.08の割合で混合し、結合材用混合粉末を得た。該結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、2100℃で60分間熱処理して、TiWCN組成の単相化合物を合成した。該単相化合物を湿式粉砕法で粒径0.5μmまで粉砕し、TiWCN粉末を得た。
【0169】
<試料16>
主結合材粉末として、TiNbCN粉末に代えて、TiVCN粉末を用いた以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0170】
TiVCN粉末は、以下の方法で作製した。TiO粉末とV粉末(高純度化学製)と炭素(C)粉末とを、重量比で、63.62:11.65:24.73の割合で混合し、結合材用混合粉末を得た。該結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、2100℃で60分間熱処理して、TiVCN組成の単相化合物を合成した。該単相化合物を湿式粉砕法で粒径0.5μmまで粉砕し、TiVCN粉末を得た。
【0171】
<試料17>
主結合材粉末として、TiNbCN粉末に代えて、TiCrCN粉末を用いた以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0172】
TiCrCN粉末は、以下の方法で作製した。TiO粉末とCr粉末(高純度化学製)と炭素(C)粉末とを、重量比で、62.64:10.52:26.84の割合で混合し、結合材用混合粉末を得た。該結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、2100℃で60分間熱処理して、TiCrCN組成の単相化合物を合成した。該単相化合物を湿式粉砕法で粒径0.5μmまで粉砕し、TiCrCN粉末を得た。
【0173】
<試料18>
主結合材粉末として、TiNbCN粉末に代えて、TiAlCN粉末を用いた以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0174】
TiAlCN粉末は、以下の方法で作製した。TiO粉末とAl粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、64.89:7.31:27.80の割合で混合し、結合材用混合粉末を得た。該結合材用混合粉末を、窒素雰囲気下、2100℃で60分間熱処理して、TiAlCN組成の単相化合物を合成した。該単相化合物を湿式粉砕法で粒径0.5μmまで粉砕し、TiAlCN粉末を得た。
【0175】
<試料19>
調整工程において、cBN粉末と結合材粉末とを、体積比で、cBN粉末:結合材粉末=50:50の割合で混合した以外は、試料3と同じ製法でcBN焼結体を作製した。
【0176】
<試料20>
調整工程において、cBN粉末と結合材粉末とを、体積比で、cBN粉末:結合材粉末=80:20の割合で混合した以外は、試料3と同じ製法でcBN焼結体を作製した。
【0177】
<試料21>
調整工程において、cBN粉末と結合材粉末とを、体積比で、cBN粉末:結合材粉末=10:90の割合で混合した以外は、試料3と同じ製法でcBN焼結体を作製した。
【0178】
<試料22>
調整工程において、cBN粉末と結合材粉末とを、体積比で、cBN粉末:結合材粉末=90:10の割合で混合した以外は、試料3と同じ製法でcBN焼結体を作製した。
【0179】
<試料23>
準備工程の結合材粉末の準備において、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)とを混合することに代えて、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とAl粉末(ミナルコ社製「ミナルコ900F」(商品名))とを混合して結合材粉末を準備した以外は、試料3と同じ製法でcBN焼結体を作製した。なお、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とAl粉末との混合割合は、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が4重量%となるように調整した。
【0180】
<試料24>
調整工程において、cBN粉末と結合材粉末とを、体積比で、cBN粉末:結合材粉末=20:80の割合で混合した以外は、試料3と同じ製法でcBN焼結体を作製した。
【0181】
<試料25>
準備工程において、TiO粉末とNb粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、62.10:11.48:26.42の割合で混合した以外は、試料3と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0182】
<試料26>
準備工程において、TiO粉末とNb粉末と炭素(C)粉末とを、重量比で、10.17:67.68:22.15の割合で混合した以外は、試料3と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0183】
<試料27>
準備工程において、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が13重量%となるように調整した以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0184】
<試料28>
準備工程において、TiNbCN粉末(主結合材粉末)とTiAlC粉末(副結合材粉末)との混合割合を、結合材粉末中のアルミニウム(Al)の割合が17重量%となるように調整した以外は、試料1と同一の製法でcBN焼結体を作製した。
【0185】
[評価]
《cBN粒子及び結合相の含有割合》
試料1〜試料28のcBN焼結体について、cBN粒子及び結合相のそれぞれの含有割合(体積%)を走査電子顕微鏡(SEM)付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて測定した。具体的な測定方法は第1の実施形態に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1〜表3の「cBN粒子(体積%)」、「結合相(体積%)」の欄に示す。
【0186】
測定の結果、全ての試料において、cBN焼結体中のcBN粒子及び結合相のそれぞれの含有割合は、cBN粉末及び結合相粉末の合計(体積%)(すなわち、混合粉末)におけるcBN粉末及び結合材粉末のそれぞれの含有割合を維持していることが確認された。
【0187】
《第1結合材粒子及び第2結合材粒子の組成、第1金属元素の比率》
試料1〜試料28のcBN焼結体について、第1結合材粒子及び第2結合材粒子の組成、並びに、第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれにおける構成元素の含有量(原子数基準)をTEM−EDXを用いて測定した。具体的な測定方法は第1の実施形態に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0188】
測定の結果、各試料において、第1結合材粒子及び第2結合材粒子とともに、TiB、AlN及びAlが確認された。各試料における第1結合材粒子及び第2結合材粒子の具体的な結合材組成を、それぞれ、表1〜表3の「第1結合材粒子」の「組成」欄、及び「第2結合材粒子」の「組成」欄に示す。
【0189】
更に、第1結合材粒子及び第2結合材粒子のそれぞれにおいて、チタンの原子数と第1金属元素の原子数の合計に対する、チタンの原子数の比率及び第1金属元素の原子数の比率を算出した。結果を、表1〜表3の「第1結合材粒子」の「Ti比率(%)」欄、「M1比率(%)」欄、「第2結合材粒子」の「Ti比率(%)」欄、「M2比率(%)」欄に示す。
【0190】
《元素ライン分析》
試料1〜試料28のcBN焼結体について、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、界面から第2結合材粒子側に、チタン及び第1金属元素の含有量を元素ライン分析により測定した。具体的な測定方法は第1の実施形態に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0191】
元素ライン分析の結果、試料1〜試料22、試料24〜試料28のcBN焼結体は、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、界面から前記第2結合材粒子側に、チタン及び第1金属元素の含有量を測定した場合、界面からの距離が15nm以内の領域において、界面からの距離の増加に伴い、チタンが減少傾向を示し、第1金属元素が増加傾向を示すことが確認された。試料23では、結合相が第2結合材粒子、TiB、AlN及びAlから形成され、第1結合材粒子が存在しないため、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面における組成の分布は測定できなかった。
【0192】
元素ライン分析の結果から、第1結合材粒子と第2結合材粒子との界面に対して垂直な方向に、界面から第2結合材粒子側に、チタン及び第1金属元素の含有量を測定し、第1金属元素の含有量の最大値をX1、チタン及び第1金属元素の含有量の合計に対する第1金属元素の含有量の比率が10%の時の第1金属元素の含有量をX2、X1とX2の平均値をX3とした場合、第1金属元素の含有量がX2である位置Aから、第1金属元素の含有量が前記X3である位置Eまでの距離L1を測定した。具体的な測定方法は第1の実施形態に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1〜表3の「L1(nm)」欄に示す。
【0193】
《第1結合材粒子と第2結合材粒子の合計質量に対する、第2結合材粒子の質量の比率》
第1結合材粒子と第2結合材粒子の合計質量に対する、第2結合材粒子の質量の比率をX線回折法により測定した。具体的な測定方法は第1の実施形態に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1〜表3の「第2結合材粒子の質量比率」欄に示す。
【0194】
《切削試験》
試料1〜試料28のcBN焼結体を刃先に用いた切削工具(工具型番:DNGA150412、刃先処理S01225)を作製した。これを用いて、下記の切削条件下で切削試験を実施した。
切削速度:180m/min.
送り速度:0.2mm/rev.
切込み:0.17mm
クーラント:DRY
切削方法:断続切削
旋盤:LB400(オークマ株式会社製)
被削材:焼入鋼(SKD11、硬度58HRC、外周部がV溝の断続切削)
上記の切削条件は、高強度焼入鋼の高能率加工に該当する。
【0195】
切削距離0.1km毎に刃先を観察し、刃先のチッピングの大きさを測定した。刃先のチッピングの大きさは、切削前の刃先稜線の位置を基準とし、主分力方向の欠けの大きさと定義した。刃先のチッピングの大きさが0.1mm以上となる時点の切削距離を測定した。なお、切削距離が長いほど、切削工具の寿命が長いことを意味する。結果を表1〜表3の「距離(km)」欄に示す。
【0196】
【表1】
【0197】
【表2】
【0198】
【表3】
【0199】
《考察》
試料1〜試料8、試料11〜試料20、試料24〜試料28のcBN焼結体は実施例に該当する。これらの試料のcBNは、工具の材料として用いた場合に、高強度焼入鋼の高能率加工においても、優れた工具寿命を示すことが確認された。
【0200】
試料9のcBN焼結体は、第1結合材粒子における第1金属元素の原子数の比率が0.001%であり、比較例に該当する。試料9のcBN焼結体は、工具の材料として用いた場合に、工具寿命が上記の実施例よりも短かった。
【0201】
試料10のcBN焼結体は、第2結合材粒子における第1金属元素の原子数の比率が85%であり、比較例に該当する。試料10のcBN焼結体は、工具の材料として用いた場合に、工具寿命が上記の実施例よりも短かった。
【0202】
試料21のcBN焼結体は、cBN粒子の含有割合が10体積%であり、比較例に該当する。試料21のcBN焼結体は、工具の材料として用いた場合に、工具寿命が上記の実施例よりも短かった。
【0203】
試料22のcBN焼結体は、cBN粒子の含有割合が90体積%であり、比較例に該当する。試料22のcBN焼結体は、工具の材料として用いた場合に、工具寿命が上記の実施例よりも短かった。
【0204】
試料23のcBN焼結体は、第1結合材粒子を含まず、比較例に該当する。試料23のcBN焼結体は、工具の材料として用いた場合に、工具寿命が上記の実施例よりも短かった。
【0205】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0206】
1 第1結合材粒子、 2 第2結合材粒子
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