(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、海洋沿岸部近傍の海域では水産資源の減少が問題となっており、その原因の1つとして鉄分の減少が考えられている。
【0003】
また、沿岸部近傍の海域においては、底質が泥化する問題が起きており、この底質の泥化も水産資源の減少の原因の1つとなるため、海洋生物の生息に好適な底質へと適宜改質することが求められている。
【0004】
底質の泥化を改善する方法として、底質を透水性の高い砂状に改質することが挙げられる。
【0005】
透水性の高い砂状への改質による底質泥化対策としては、鉄鋼メーカーを中心に製鋼スラグを用いた環境補修材の開発が進められているが、このような環境補修材の多くは、粒径が比較的大きい水和固化体であるため、強度が高く水環境中で砂状へ変化しにくい。
【0006】
そこで、水和固化体である環境補修材を粉砕等により粒径を調整した砂状のスラグとして直接海域に投入する方法も考えられるが、粉砕等を行なうと、スラグの運搬や海域へ投入する施工過程で発塵して作業環境が悪化しやすく、取扱性が悪い。
【0007】
また、施工後においては、水和固化と共に膨張反応による圧縮作用が働いて硬度が上昇するため、生物の生息しにくい底質に変化する可能性も考えられる。
【0008】
粒径の小さい製鋼スラグの取り扱い方法としては、例えば特許文献1等のように、ココナッツ繊維製の袋につめて海域へ投入して施工する方法が知られている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
【0018】
スラグ成形体は、海洋沿岸部のような海水等の水環境において環境補修材等として使用される。そして、水環境へ投入されて海底に沈設して施工されることで、環境補修作用あるいは施肥作用を奏する。
【0019】
このスラグ成形体は、主原料としての製鋼スラグと混合物としてのペクチン含有物である柑橘類外皮とが混合されている。
【0020】
また、スラグ成形体は、主原料や混合物等の原料の他に、バインダーとしてリグニンスルホン酸が混合されていると好ましい。
【0021】
スラグ成形体は、運搬や施工等における取扱性の観点や、施工した際のスラグ成形体同士の間で間隙が生じやすくする観点から粒体に成形されている。
【0022】
このスラグ成形体は、粒体の寸法、すなわち粒径または全長が40mmより大きいと、施工後の膨張時の圧縮緩衝作用が低下して硬化しやすくなる可能性があるとともに、施工後にスラグ成形体が砂状に崩壊するまでに時間がかかってしまう可能性がある。また、粒体の寸法が10mmより小さいと発塵しやすくなる可能性が考えられるとともに、造粒能率が低下してしまう可能性がある。したがって、スラグ成形体の粒径または全長(直径)は、10mm以上40mm以下が好ましい。
【0023】
主原料である製鋼スラグは、鉄鋼製品製造における製鋼プロセスにおいて副産物として多量に生成されるものであり、粒状または粉状で用いられる。
【0024】
この製鋼スラグは、鉄(Fe)を多く含み、その他にも、例えば、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、珪素(Si)およびリン(P)等の元素を含有している。そして、水環境でスラグ成形体が崩壊することで、製鋼スラグに含まれている元素が溶出して、環境補修あるいは施肥における有効成分として作用する。
【0025】
また、水環境におけるスラグ成形体の崩壊後の粒径は、粒状に成形する前の製鋼スラグの粒径に影響されると考えられるため、水環境での崩壊後の状態を考慮して、製鋼スラグの粒径を適宜調整してもよい。
【0026】
混合物である柑橘類外皮は、例えば、ジュース製造工程(搾汁工程)の副産物として発生するみかんやレモン等の外皮である。
【0027】
このような柑橘類外皮は、アルカリに可溶なペクチンを多く含んでいるため、スラグ成形体において製鋼スラグから溶出したアルカリによって分解が促進される。その結果、粒体内にも間隙が生じ、スラグ成形体の施工後に固結することなく崩壊しやすくなり、スラグ成形体の水環境での崩壊性向上作用を奏する。
【0028】
また、粒体内での間隙は、膨張反応が生じた際に圧縮を緩める作用を奏し、膨張反応による硬度の上昇を抑制する。
【0029】
また、柑橘類外皮に含まれている有機酸が鉄のキレート作用を奏するため、鉄の溶出量を向上でき、スラグ成形体の水環境での鉄溶出量向上作用を奏し、環境補修作用および施肥作用の観点からも有効である。
【0030】
柑橘類外皮は、湿潤状態では、腐敗が進みやすく長期保管するのに適さず、冷凍保管することも可能であるが、冷凍するためのエネルギー(電力)が必要で保管コストが上昇してしまう。さらに、スラグ成形体を製造する際には、適切な水分量で造粒(ブリケッティング)しないと、強度や造粒工程での歩留が低下する可能性があるが、柑橘類外皮が湿潤状態であると、水分濃度が不安定になるため、造粒の際の水分量の制御が困難になる可能性がある。したがって、柑橘類外皮は、主原料等と混合する際に乾燥した状態で用いられることが好ましい。
【0031】
また、柑橘類外皮は、均一に混合しやすいように、5mm以下に粉砕された状態で混合されることが好ましい。
【0032】
また、柑橘類外皮は、混合する際の含有量が2質量%未満であると水環境での崩壊性向上作用を確保できない可能性があり、一方、柑橘類外皮の混合する際の含有量が20質量%を超えると、スラグ成形体の強度が必要以上に低下してしまう可能性がある。したがって、柑橘類外皮の含有量は、2質量%以上が好ましく、より好ましくは、2質量%以上20質量%以下である。
【0033】
柑橘類外皮を乾燥状態にするための前処理乾燥としては、その温度が60℃未満であると乾燥までに時間がかかって非効率であり、80℃を超えると焦げて炭化してしまう可能性がある。したがって、柑橘類外皮の前処理乾燥温度は、60℃以上80℃以下が好ましい。
【0034】
なお、混合物としては、強度上昇や鉄溶出量増加等を目的として、ペクチン含有物である柑橘類外皮に加えて他のものも適宜混合してもよい。
【0035】
また、混合物は、柑橘類外皮に限定されず、ペクチンを含有しているペクチン含有物であればよい。柑橘類外皮以外のペクチン含有物としては、例えば柑橘類の搾汁工程で得られるパルプや果実の内皮や果実自体等がある。なお、パルプは、搾り汁から更に沈降分離した不要な固形分である。また、果実自体を使用する場合は、熟成前に強風等で落ちてしまい食物として出荷できない落下果実等が好ましい。
【0036】
さらに、ペクチン含有物は、粒体(スラグ成形体)におけるペクチンの含有量が0.6質量%未満であると、アルカリによる分解促進作用を十分に奏さない可能性があるため、粒体におけるペクチンの含有量は0.6質量%以上であることが好ましい。
【0037】
なお、乾燥状態の柑橘類外皮には、約30質量%のペクチンが含まれているため、混合物として柑橘類外皮を2質量%以上含有させると、粒体におけるペクチンの含有量が0.6質量%以上となる。
【0038】
バインダーであるリグニンスルホン酸およびその金属塩は、鉄キレート作用による鉄分溶出量の増加作用を奏するとともに、スラグ成形体を粒状に造粒する際の歩留を向上させる。
【0039】
主原料および混合物とともにバインダーとしてリグニンスルホン酸やその金属塩を混合する場合には、バインダーの添加量が5質量%未満であると、キレート作用および強度の両方が低下する可能性がある。そのため、バインダーを添加する場合には、その含有量は5質量%以上とすることが好ましい。
【0040】
上記スラグ成形体を製造する際には、まず、転炉スラグ等の製鋼スラグを粒状に粉砕し、篩い分けによって所定の粒径、例えば5mm以下等に調整する。なお、製鋼スラグは、粒状に粉砕したものをさらに所定の大きさ、例えば200μm以下等に粉砕して、粉状にしてもよい。
【0041】
また、混合物である柑橘類外皮を湿潤状態で5mm以下に粉砕し、前処理として所定の温度に乾燥させる。なお、必要に応じて、乾燥後にさらに所定の大きさ、例えば1mm以下等に粉砕してもよい。
【0042】
これら主原料(製鋼スラグ)および混合物(柑橘類外皮)に適宜水分を添加して、混練機にて混合する。なお、混合する際には、主原料および混合物とともに、必要に応じてバインダーを添加してもよい。
【0043】
混練機で混合したものを例えばブリケットマシン等で所定の粒径、例えば10mm以上40mm以下に造粒成形して粒体とする。
【0044】
そして、この造粒した粒体を、所定の温度、例えば105℃にて乾燥処理して、製鋼スラグが得られる。
【0045】
次に、上記一実施の形態の作用および効果を説明する。
【0046】
上記スラグ成形体は、粒体であるため、海洋沿岸部等の水環境に投入されると、スラグ成形体同士の間に間隙が生じた状態で沈設される。
【0047】
沈設されたスラグ成形体は、水との接触や、製鋼スラグから溶出されるアルカリによる柑橘類外皮の分解作用によって、徐々に崩壊する。その結果、崩壊して砂状に変化した製鋼スラグにより砂状の底質に変化する。
【0048】
また、製鋼スラグの分解に伴って、製鋼スラグから鉄分等の有効成分が溶出するが、柑橘類外皮の有機酸が鉄のキレート作用を奏するため、単に製鋼スラグから鉄分が溶出するより効果的に水環境に鉄分が供給されて、環境補修作用および施肥作用を奏する。
【0049】
そして、上記スラグ成形体によれば、粒体であるため、水環境への施工前、すなわち運搬や施工等の際に発塵しにくく、取扱性が良好である。
【0050】
また、水環境への施工後は、柑橘類外皮が分解されることによる崩壊性向上作用、および、柑橘類外皮に含まれる有機酸による鉄溶出量向上作用によって、鉄分を効果的に水環境に供給できるとともに、崩壊性を向上できる。そのため、環境補修および施肥のいずれの観点からも有効で水環境を効果的に改善できるとともに、水環境の底質を効果的に改善できる。
【0051】
また、バインダーとしてリグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方を含有することにより、鉄キレート作用によって鉄溶出量を向上できるとともに、スラグ成形体を製造する際の造粒時に歩留りを向上できる。
【0052】
製鋼スラグを構成する粒体の粒径または全長を10mm以上40mm以下とすることにより、水環境へ施工した後の膨張時の圧縮緩衝作用を確保でき、製鋼スラグが必要以上に硬化することを抑制できる。
【0053】
柑橘類外皮は、5mm以下のものを混合することにより、均一に混合されやすく、崩壊性向上作用および鉄溶出量向上作用を確保しやすい。
【0054】
また、柑橘類外皮の含有量を2質量%以上にすることで、崩壊性向上作用および鉄溶出量向上作用を確保しやすい。
【実施例】
【0055】
以下、本実施例および比較例について説明する。
【0056】
種々の条件で製鋼スラグを製造し、鉄分溶出性を評価するための溶出試験、および、崩壊性を評価するための実海域浸漬試験を行なった。
【0057】
製鋼スラグを製造する際には、主原料として、粒状の製鋼スラグ、または、粉状の製鋼スラグを用いた。
【0058】
粒状の製鋼スラグは、転炉スラグを粉砕した後、篩い分けして5mm以下に調整したものであり、粉状の製鋼スラグは、粒状の製鋼スラグをさらに200μm以下に粉砕したものである。
【0059】
混合物としては、柑橘類外皮であるみかん外皮およびレモン外皮の他に、比較例として、廃木材チップ、腐植土、廃竹チップおよび赤土を用いた。
【0060】
柑橘類外皮は、湿潤状態で5mm以下に粉砕したものを80℃にて4時間乾燥した後、1mm以下に粉砕した。また、比較例の混合物は、いずれもそのまま1mm以下に粉砕した。
【0061】
バインダーを添加する場合には、リグニンスルホン酸であるサンエキスM100(サンエキスは登録商標である。)を用いた。
【0062】
そして、主原料および混合物とともに、適宜バインダーおよび水分を添加して混練機にて混合した。
【0063】
また、混練機での混合後、ブリケットマシンで粒径約30mmに造粒成形し、その造粒物を105℃で24時間乾燥して、スラグ成形体の各種サンプルとした。
【0064】
溶出試験では、2Lのビーカーにスラグ成形体100gと人工海水100mlを入れ、回転速度100rpmのプロペラにて1週間連続で攪拌した。
【0065】
攪拌後、人工海水中の鉄濃度を酸分解−誘導結合プラズマ質量分析法にて測定して、Fe溶出量(μg/L)とした。
【0066】
実海域浸漬試験は、溶出試験で鉄分の溶出が認められなかったNo.7およびNo.9以外のサンプルを用いて行なった。
【0067】
この実海域浸漬試験では、プラスチック容器に約30kgのスラグ成形体を充填し、瀬戸内海沿岸の海水に1年間浸漬させた。
【0068】
また、浸漬後のサンプルを採取し、105℃にて24時間乾燥処理した後、その乾燥したサンプルを20mm以下に篩い分けした。
【0069】
そして、篩い分けによる篩下の重量が20kg以上の場合を崩壊性が良好(○)と評価し、篩下の重量が20kg未満の場合を崩壊性が不良(×)と評価した。
【0070】
本実施例および比較例の詳細な製造条件、実海域浸漬試験結果、および、溶出試験結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、本実施例であるNo.1ないしNo.6のいずれも、鉄分の溶出が認められ、かつ、崩壊性が良好であった。
【0073】
これに対して比較例であるNo.7は、鉄分の溶出が認められなかった。これは混合物もバインダーも添加していないため、鉄キレートが生成されないからであると考えられる。
【0074】
比較例であるNo.8は、鉄分の溶出は認められたものの、崩壊性が不良であった。これは、混合物を混合せず原料が製鋼スラグのみのため、殆ど分解されなかったと考えられる。
【0075】
比較例であるNo.9は、鉄分の溶出が認められなかった。これは混合物として廃木材チップを混合し、バインダーを添加していないため、鉄キレートが生成されないからであると考えられる。
【0076】
比較例であるNo.10およびNo.11は、鉄分の溶出は認められたものの、崩壊性が不良であった。これは、混合物として用いた廃木材チップが分解されにくいからであると考えられる。
【0077】
比較例であるNo.12は、鉄分の溶出は認められたものの、崩壊性が不良であった。これは、混合物として用いた腐植土が分解されにくいからであると考えられる。
【0078】
比較例であるNo.13は、鉄分の溶出は認められたものの、崩壊性が不良であった。これは、混合物として用いた廃竹チップが分解されにくいからであると考えられる。
【0079】
比較例であるNo.14は、鉄分の溶出は認められたものの、崩壊性が不良であった。これは、混合物として用いた赤土が殆ど分解されないからであると考えられる。