(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両のヘッドライト(前照灯)からの照射は、上向き(水平方向)に配光するハイビームと下向きに配光するロービームとのいずれかを選択することによって行われる。
ハイビームとロービームとの選択は、車両周囲の条件により行われるが、ハイビームは遠方の視界が確保されるため、車両の走行中はなるべくハイビームを維持することが好ましい。このため、夜間走行時は、ハイビームの常時点灯が推奨される。
【0003】
しかしながら、常時、ハイビームにすると、対向車の視界の妨げになるなど、ハイビームに維持し続けることが難しい場合があり、ロービームを選択せざるを得ない状況が出ている。
このような場合、フロントウインドを通して見える運転者の視界は、遠方が明瞭に見える状況から、車両の前方近くだけが明瞭に見える状況へと変わる。
【0004】
車両の前方近くだけが明瞭に見える状況は、ロービームからハイビームへ変更ができる状況にならない限り続く。つまり、この間は、視覚的に不安な状況が続くので、運転者には負担となる。特に夜間走行の不得手な人は、かなりの負担となりやすい。
従来、ヘッドライドの点灯制御を見る限り、特許文献1,2のように自動でハイビームとロービームとに切換えられるようにした技術が見られるだけである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を
図1から
図6に示す一実施形態にもとづいて説明する。
図1はパワーユニット(図示しない)の駆動力で走行が可能な車両を示し、
図2は同車両の前部側を示し、
図6は
図1中の矢視Aから見たフロントウインドの一部を示している。
車両の各部を説明すると、
図1中の符号1は車体、3は車体前端部の左右両側に設けられた一対のヘッドライト(片側しか図示せず:本願の前照灯に相当)、5は車体1の車室内に設けられたフロントシート、7は同じくリヤシート、9は車両のフロントウインド11とフロントシート5の間に設けられたインストルメントパネルである。ちなみにヘッドライト3は、一点鎖線の如く点灯条件により、上向き(水平方向)に照射光が照射されるハイビームaと、実線の如く下向きに照射光が照射されるロービームbとに選択可能である。また
図2に示されるように車体1の左右両側にはフロントドア13(一部だけ図示)が設けられている。
図2中の符号15は、各フロントドア13に設けられたドアミラーを示している。
【0012】
また
図1中の符号17は、インストルメントパネル9から突き出るように配置されたステアリングホイール、19はステアリングホイール17を支持する支持部(図示しない)から外方へ突き出たライト操作レバー、21はフロントウインド11の上段に設けられたルームミラーである。ライト操作用レバー19は、手動で方向指示器の操作(レバーの前後回動)をしたり、手動でライティング操作をしたりするものである。手動のライティング操作については後述する。
【0013】
ライト操作用レバー19には、オートライト操作と手動ライト操作とに切換えるオートライトスイッチ23が設けられている。オートライトスイッチ23は、オンすると、自動ライトオンや自動でハイビームとロービームの切換えを可能にする(オートライト機能)。ちなみに車体1の前部には、車外の明るさが所定値以上になると、自動ライトオンさせるための明るさ検出部25(例えば明るさセンサ)が設けられる。また車体1の前端部には、自動でハイビーム、ロービームの切換えを行うための対向車検出部27(対向車検出手段に相当)が設けられる。対向車検出部27は、対向車の有無を検出するセンサ(例えばレーダー機器)から構成されるものである。
【0014】
ちなみにオートライトスイッチ23は、オフすると、手動でライトオンおよびハイビームとロービームとの切換えを可能にする。このオートライトスイッチ23のオフのときは、例えばレバー端に設けたライトスイッチ(図示しない)の操作でライトオン、さらに手動でライト操作用レバー19を前後に回動すると、ハイ・ロービーム手動操作スイッチ29が働き、ハイビームとロービームとの切換えが行える。
【0015】
この車両には、ロービームからハイビームへ変更ができない状況における運転者の視覚不安を解消する機能を有する前照灯制御装置31が搭載されている。
ここで、ロービームからハイビームへ変更ができない状況を説明するため、その一例となるオートライト機能について説明する。
オートライド機能は、例えば
図3に示されるようにECU33(例えばマイクロコンピュータで構成)に、ヘッドライト3、オートライトスイッチ23、明るさ検出部25、対向車検出部27を接続し、ECU33に自動切換モードや手動切換モードを設定することにより構成される。これにより、オートライトスイッチ23をオンすると、予め設定された設定情報にしたがい、自動でライトオン、さらに自動でハイ・ロービーム切換えを行う自動切換モードに切換わる。オフすると、ライト操作用レバー19を用いた手動でライトオン、ハイ・ロービーム切換えが可能な手動切換モードに切換わる。つまり、切換手段30を構成している。
【0016】
すなわち自動切換モードは、明るさ検出部25で検出される車外の明るさが所定以下の明るさ値になると、ライトオンを指示する。さらにヘッドライド3の照射は、常時はハイビームを選択し、対向車検出部27にて対向車が検出されると、ハイビームから、一時的にロービームへ切換える。
このとき、フロントウインド11を通して見える運転者の視界は、遠方が明瞭に見える状況(ハイビーム)から、車両の前方近くだけが明瞭に見える状況(ロービーム)に変わる。車両の前方近くだけが明瞭に見える状況は、ロービームからハイビームへ変更ができる状況にならない限り続くために(対向車がなくなるまで)、この間、運転者は、視覚的に不安な状況が強いられる。
【0017】
この運転者の視覚不安ができるだけ軽減されるよう、前照灯制御装置31には、
図1に示されるようにフロントシート5に着座している運転者Mの視線方向に、ハイビーム状態の前方視界を表示させる手法が用いられる。
すなわち、運転者Mの視線方向における表示には、例えばフロントウインド11のウインド面に画像を投影する画像投影装置32(投影手段に相当)が用いられる。つまり、運転者Mの視線前方に配置されるフロントウインド11のウインド面の全体が表示面となる(表示部に相当)。この画像投影装置32に、複数のカメラ35(撮像部に相当)や視線検出センサ37(視線検出手段に相当)が組み合わさり、運転者Mの視線先のフロントウインド11のウインド面に、運転者Mの視線先のハイビーム相当の視界が投影されるようにしている。本実施形態では、この運転者Mの視線先の視界を、ハイビーム相当で運転者Mの視線上に映し出すモードを視界サポートモードという。
【0018】
視界サポートモードは、視界サポートモードスイッチ34のオンオフ操作によって、求める場合だけ作動される。視界サポートモードスイッチ34は、車室内の一部である、例えばインストルメントパネル9に設けた計器パネル9a(
図6に図示)の一部に設けられる。視界サポートモードスイッチ34は、使い勝手の良い場所であれば、どこでも構わない。
【0019】
視界サポートモードについて具体的に説明すると、カメラ35は、車両前方視界の各部を撮像するものである。ここでは例えばカメラ35は、三台用いられ、そのうちの一台は例えばルームミラー21の背部に設けられ、残る二台は左右のドアミラー15のミラーハウジングにそれぞれ設けられる。ルームミラー21に設けたカメラ35は、車両の前方中央の視界が撮像する。各ドアミラー15に設けたカメラ35は、同中央視界の両側の視界、つまり車両の左右両側(車幅方向)の視界を撮像する。つまり、各カメラ35により、
図6中のフロントウインド11の下段のロービーム領域βを除く、中・上段のうち中央や左右両側といったハイビーム領域αの各部の画像が取得される。これらカメラ35は、いずれも人間が目視するときの明るさより、明るい像が得られるカメラ、例えばレンズF値1.0以下を使用したカメラが用いられ、
図1および
図2に示されるような中央、左右両側といった視界毎のハイビーム領域の画像、さらに述べればハイビーム相当の輝度を有する視界の画像が取得されるようになっている。
【0020】
視線検出センサ37は、例えばフロントシート5に着座する運転者Mの前方のインストルメントパネル9部分に、例えば画像投影装置32と共に設けられる。視線検出センサ37は、例えば運転者Mの瞳を検出する機能や、瞳の動きを検出する機能(いずれも図示しない)を有している。つまり、視線検出センサ37は、運転者Mの瞳位置に基づき、運転中、随時、運転者Mの視線方向が検出されるようになっている。
【0021】
カメラ35、視線検出センサ37は、ECU33に接続される。ECU33は、本願の表示制御部を兼ねている。このECU33には、運転者Mの視線先のフロントウインド11のウインド面に、運転者Mの視線先のハイビーム相当の視界を映し出す機能が設定されている。この機能は、視界サポートモードスイッチ34をオンすると、オートライト機能のロービームへの切換えと同期して、視線検出センサ37の検出情報により運転者Mの視線方向を検出する機能、各カメラ35により車両前方の各視界域(ハイビーム)を撮像する機能と、運転者Mの視線の動きに追従して、撮像した画像を切り換える機能、同じく運転者Mの視線の動きに追従して画像投影装置32の投影方向を変える機能などから構成される。こうした機能により、運転者Mの視線方向先の視界(ハイビーム)が、運転者Mの視線先となるフロントウインド11の各ウインド面域(いずれもハイビーム領域α)に映し出される。
【0022】
さらに述べると、フロントウインド11のウインド面は、カメラ35(三台)の撮像域と対応して、例えば
図6中の二点鎖線や細線の枠線に示されるように仮想的にフロントウインド11の車幅方向中央域C、車幅方向左側域L、車幅方向右側域Rに分けられる。そして、視線の検出により、運転者Mの視線先のウインド面域が選ばれ、
図6に示されるように運転者Mの視線方向先の視界(ハイビーム状態時の視界)が、その視線先に有るフロントウインド11の車幅方向中央域Cや、車幅方向左側域Lや、車幅方向右側域Rのウインド面域にだけ、ハイビーム相当の輝度で映し出されるよう設定されている。もちろん、映し出される画像、映し出されるウインド面は、運転者Mの視線方向の動きに追従して、随時、変わる。
【0023】
こうした機能により、ロービームの照射時、さらに述べればオートライト機能がもたらすロービームからハイビームへ変更ができない場合、それを補うべく、運転者Mの視線先のウインド面域(ディスプレイ)に、運転者Mの視線先の車両前方視界が画像表示される。それも擬似的に作られたハイビーム状態の画像で表示される。
またECU33には、手動操作でロービームにしたときにおける運転者の視覚的な不安が軽減されるよう、視界サポートモードスイッチ34のオン時、手動操作でロービームに切換えたときも、運転者Mの視線方向先の視界が、運転者Mの視線先となるフロントウインド11の各ウインド面域(車幅方向中央域C、車幅方向左側域L、車幅方向右側域R)のウインド面にだけ、ハイビーム相当の輝度で映し出す機能が設定されている。
【0024】
図4および
図5のフローチャートは、こうしたハイビーム相当の画像を夜間走行中、フロントウインド11のウインド面に表示させる制御が示され、
図6(
図1中の矢視A)にはこのときの様子が示されている。
つぎに、
図4〜
図6を参照して、この前照灯制御装置31の作用を説明する。
例えば車両が夜間走行中、オートライトスイッチ23をオン、視界サポートモードスイッチ34をオンする。これにより、オートライト機能や視界サポートモードが作動可能となる。
【0025】
すると、
図4のフローチャートは、ステップS1から、ステップS3を経てステップS5へ進む。このとき、車外の明るさは所定値以下になっているので(夜間走行)、ECU33は、明るさ検出部25の検出を受けて、ライトオンを指示する。
ここで、オートライト機能は、常時、ハイビーム設定なので、ヘッドライト3は、ステップS5に示されるように当初からハイビームで照射される。
【0026】
続くステップS7は、対向車検出部27により、自車両の前方に対向車が有るか否かを判定している。
ハイビーム状態で走行中の自車両前方に対向車が有る場合、自車両のハイビームが対向車の前方の視界を妨げる。
そのため、対向車が有ると判定された場合、ハイビームに維持し続けることは難しく、オートライト機能により、ヘッドライト3の照射をロービームの照射に切換える。
【0027】
ここで、フロントウインド11を通して見える運転者Mの視界は、ハイビームによる遠方が明瞭に見える状況から、ロービームによる車両の前方近くだけが明瞭に見える状況へと変わる。そのため、視界の変化から、運転者は不安になりやすい。車両前方近くだけが明瞭に見える状況は、ロービームからハイビームへ変更ができる状況にならない限り続くので、この間は不安な状況は続く。
【0028】
こうした運転者の視覚的な不安要素を軽減するべく、対向車が有る場合、ステップS9へと進む。これにより、視界サポートモードは作動する。
視界サポートモードは、まず、
図5に示されるフローチャートのステップS23のようにロービームの切換えと連動して、視線検出センサ37からの検出信号を受け、フロントシート5に着座している運転者M(運転姿勢)の瞳位置から視線方向(目線)を検出する。さらにステップS25に示されるように各カメラ35がオンし、各カメラ35によりハイビーム相当の視界となる車両前方の各視界域(車両前方中央域、左側域、右側域)が撮像される。
【0029】
ステップS27へ進むと、ECU33は、運転者Mの視線方向と対応する視界の画像を取得する。具体的には、運転者Mの視線が車両中央へ向けられるときは、ルームミラー21の背部のカメラ35で捉えた車両前方中央の視界画像が取得され、運転者Mの視線が車両左側へ向けられるときは、左側のドアミラー15のカメラ35で捉えた車両前方左側の視界画像が取得され、運転者Mの視線が車両右側へ向けられるときは、右側のドアミラー15のカメラ35で捉えた車両前方右側の視界画像が取得される。取得された視界画像は、いずれもロービーム下におけるハイビーム領域αの画像である。
【0030】
ステップS29へ進むと、ECU33は、視線検出センサ37からの視線方向の情報に基づき、フロントウインド11のハイビーム領域αのウインド面領域L,C、Rの中から、運転者Mの視線先と対応したウインド面領域を選ぶ。さらにECU33は、視線検出センサ37からの視線方向の情報に基づき画像投影装置32の投影方向を制御して、選択したウインド面領域(いずれもハイビーム領域α)上に、視線先の画像を投影する。
【0031】
すなわち運転者Mの視線方向が、車両前方中央に有るときは、中央のウインド面領域C上に視線先の画像が投影される。運転者Mの視線方向が、車両前方左側に有るときはウインド面領域L上に視線先の画像が投影され、さらに車両前方右側に有るときはウインド面領域R上に視線先の画像が投影される。
もちろん、
図6に示されるように運転者Mの視線方向が中央から右側へ変われば、中央のウインド面領域Cに車両前方中央の視界が表示された状態から、右側のウインド面領域Rに車両前方右側の視界が表示される状態へと変わり、運転者Mの視線が中央から左側へ変われば、中央のウインド面領域Cに車両前方中央の視界が表示された状態から、左側のウインド面領域Lに車両前方左側の視界が表示される状態へと変わる。
【0032】
つまり、表示される視界の画像や表示されるウインド面領域は、運転者Mの目線に応じて随時、変わる。
これにより、運転者Mの視線先となるハイビーム領域αの画像が、運転者Mの視線(目線)上に、ハイビーム相当の輝度(カメラ35のレンズによる)で表示される。つまり、運転者Mの視線先には、視線先のハイビーム状態の視界が再現され続ける。
【0033】
それ故、運転者Mは、運転者Mの視線上で再現された車両前方の遠方のハイビーム状態の視界を視認することにより、ロービームにおける運転者の視覚不安が解消され、車両の操縦安全性の向上が図れる。
特に、ロービームからハイビームへ変更が難しいオートライト機能には、有効である。
しかも、
図3のフローチャートのステップS11〜S19のように視界サポートモードスイッチ34をオンしておけば、オートライトスイッチ23のオフのとき、手動操作、すなわちライト操作レバー端のライトスイッチ(図示しない)でライトオン、さらにライト操作用レバー19の回動操作(前後)でハイ・ロー切換えられるときでも問題はない(手動切換モード)。
【0034】
すなわち、手動切換モード下で、ロービームからハイビームへの変更が難しく、ロービームが余儀なくされるような場合でも、上記と同様、ロービーム時には、運転者Mの視線先のフロントウインド11の各ウインド面(ウインド面領域L,C,R)に、運転者Mの視線先の視界(ハイビーム状態)が表示されるので、手動でハイ・ロービームを切換えるときでも、運転者の視覚の不安さは解消される。
【0035】
なお、本発明は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば一実施形態では、ハイビーム相当の画像は、明るいレンズF値をもつカメラを用いて得たが、これに限らず、例えば通常のカメラで取得したハイビーム領域の画像の輝度をハイビーム相当まで変換する画像処理を行い、画像投影装置でフロントウインドのウインド面に映し出すようにしてもよい。またECUでの画像処理により、常時は輝度を変換せず、運転者の視線方向が移動した先の画像のみの輝度を高めるようにしてもよい。また一実施形態では、運転者の視線方向に配置される表示部として、フロントウインドをディスプレイとして用いた例を挙げたが、これに限らず、例えばヘッドアップディスプレイやバイザなどでもよく、運転者の目線上で表示できるものであればよい。