(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記浴液は、得られる多孔質構造体の目詰まりを抑えるクッションの役割を果たすに過ぎず、特許文献1の製造技術では、得られる多孔質構造体の微視的及び巨視的な形態を柔軟に調整することができない。なお、本明細書において、多孔質とは、内部に空隙を有する形態一般を指し、不織布状の形態も含む概念とする。
【0005】
本発明の目的は、得られる多孔質構造体の微視的及び巨視的な形態を柔軟に調整することができる製造技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る多孔質構造体製造方法は、
多孔質構造体の原料と前記原料の溶媒とを含む原料溶液を、前記溶媒が可溶で且つ前記原料の溶解度が前記溶媒より小さい貧溶媒液の気液界面に向けて
、糸条が形成されるように電界紡糸法によって線状に射出し、前記気液界面又は前記貧溶媒液中に、前記原料と前記溶媒とを含む集積物を形成する集積物形成工程と、
前記集積物中に前記溶媒が残留している間に、前記集積物に外力を加えることにより、前記集積物を前記貧溶媒液中で成形し、多孔質構造体と成す成形工程と、
を有する。
【0007】
前記集積物形成工程では、前記集積物を前記気液界面に形成し、
前記成形工程では、前記気液界面に形成された前記集積物の一部を、前記貧溶媒液中に引き込むことにより、前記集積物に前記外力として少なくとも引っ張り力を加える、
こととしてもよい。
【0008】
前記気液界面への前記集積物の形成と、前記集積物の前記貧溶媒液中への引き込みとが連続的に行われるように、前記原料溶液を射出しつつ前記集積物の引き込みを行う、
こととしてもよい。
【0009】
前記糸条を被接合部材に接合させる事前工程、をさらに有し、
前記事前工程に続けて、前記原料溶液の射出を継続したまま、前記糸条よりなる前記集積物が前記気液界面に保持される速度で、前記被接合部材を前記貧溶媒液中に引き込むことにより、前記集積物の形成と、前記集積物の引き込みとを連続的に行う、
こととしてもよい。
【0010】
前記被接合部材が、前記原料溶液を引きつけるクーロン引力が生じるように、前記原料溶液との間に電位差が形成される電極であってもよい。
【0011】
前記成形工程では、前記集積物の前記貧溶媒液中への引き込みを行いながら、その引き込みの速度を変化させる、
こととしてもよい。
【0012】
本発明に係る多孔質構造体製造装置は、
多孔質構造体の原料と前記原料の溶媒とを含む原料溶液が貯められるシリンジと、
前記シリンジに対向して配置され、前記溶媒が可溶で且つ前記原料の溶解度が前記溶媒より小さい貧溶媒液が貯められる液槽と、
前記貧溶媒液を介して前記シリンジと対向する位置に配置される電極と、
前記電極と前記シリンジとの間に電位差を与えることにより、前記シリンジから前記貧溶媒液の気液界面に向けて前記原料溶液を射出させる電源回路と、
前記原料溶液が前記気液界面に入射することにより前記液槽内に形成される集積物に対して、前記集積物中に前記溶媒が残留している間に外力を加えることにより、前記集積物を前記貧溶媒液中で成形する成形手段と、
を備える。
【0013】
前記電極が、前記貧溶媒液中に配置され、
前記成形手段が、前記電極を前記貧溶媒液中で移動させる移動装置を有する、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、集積物中に溶媒が残留している間に集積物を成形するので、得られる多孔質構造体の微視的及び巨視的な形態を柔軟に調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る多孔質構造体製造方法及び多孔質構造体製造装置について説明する。図中、同一又は対応する部分に同一の符号を付す。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る多孔質構造体製造装置100は、原料溶液LAが貯められるシリンジ10と、シリンジ10の吐出口10aに対向して配置され、貧溶媒液LBが貯められる液槽20とを備える。
【0018】
原料溶液LAは、多孔質構造体の原料を溶媒に溶解してなる液体である。即ち、原料溶液LAは、多孔質構造体の原料と、その原料の溶媒とを含む。なお、原料溶液LAは、多孔質構造体の原料及び溶媒以外の添加物を含んでもよい。
【0019】
多孔質構造体の原料としては、例えば、コラーゲン、エラスチン、若しくはこれら以外の生体高分子、生体吸収性高分子、生分解性高分子、ポリグリコール酸、ポリウレタン系高分子、ポリアクリル酸エステル系ニトリル、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、6−ナイロン、6,6−ナイロン、全芳香族ポリアミド高分子、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、アクリル、シクロオレフィン高分子、ポリ乳酸、キチンといった高分子、又はこれらの共重合体若しくは混合物を使用できる。
【0020】
溶媒としては、用いる多孔質構造体の原料に応じて、例えば、水、エタノール、メタノール、プロパノール、ケトン、アセトン、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、キシレン、フェノール、ジオキサン、アニリン、ホルムアルデヒド、ホルムアミド、アセトアルデヒド、蟻酸、酢酸、硫酸、塩酸、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、トリクロロメタン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、各種のイオン液体、又はこれらの混合物を使用できる。
【0021】
貧溶媒液LBは、上記溶媒が可溶であり且つ上記多孔質構造体の原料の溶解度が上記溶媒より小さいことを必須要件とする液体である。
【0022】
貧溶媒液LBには、誘電率が高い液体、具体的には、空気よりも比誘電率が高い液体、即ち比誘電率が1.00059以上の液体を用いることが好ましい。より具体的には、貧溶媒液LBの比誘電率は、例えば10以上であることが好ましい。このような観点から、貧溶媒液LBとして、ピリジン、アセトン、アセトアルデヒド、アルコール、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、トリフルオロ酢酸、グリセリン、ジメチルスルホキシド、ギ酸、ホルムアミド、若しくはこれらと水との混合溶媒、電解質の水溶液、各種のイオン液体、又は水が例示される。また、貧溶媒液LBとして、シアン化水素や水銀等も用いられうる。
【0023】
また、貧溶媒液LBには、表面張力の大きな液体を用いることが好ましい。具体的には、貧溶媒液LBの表面張力は、用いる原料溶液LAの表面張力以上であることが好ましい。表面張力が大きいという観点からは、貧溶媒液LBとして、例えば、水、N,N−ジメチルホルムアミド、o−トルイジン、p−ニトロアニソール、o−ニトロトルエン、アニリン、ニトロベンゼン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、キノリン、o−ニトロアニソール、p−ニトロフェノール、グリセリン、又はこれらと水との混合溶媒が例示される。
【0024】
なお、上記必須要件を満たすと共に、誘電率が高く、且つ表面張力が大きい貧溶媒液LBとしては、例えば、水やその電解質溶液、グリセリン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、o−ニトロアニソール、各種のイオン液体等が挙げられる。
【0025】
また、多孔質構造体製造装置100は、電界紡糸法によって、原料溶液LAを貧溶媒液LBに射出させる機構を有する。即ち、多孔質構造体製造装置100は、貧溶媒液LBを介してシリンジ10と対向する位置、具体的には、貧溶媒液LB中に配置される電極30と、電極30−シリンジ10間に電位差を与える電源回路40とを備える。
【0026】
電極30は、金属よりなる網状の板体で構成されており、貧溶媒液LBの気液界面IFと略平行な姿勢で、貧溶媒液LB中に配置される。
【0027】
また、多孔質構造体製造装置100は、得られる多孔質構造体の微視的及び巨視的な形態を調整するために、電極30を貧溶媒液LB中で移動させる移動装置50も備える。
【0028】
移動装置50は、電極30につながれた支持棒51と、支持棒51をその長さ方向に昇降させる昇降機構52とを有する。昇降機構52は、液槽20の外部、具体的には液槽20の下方に配置されている。支持棒51は、昇降機構52から、液槽20の底面を貫通して液槽20内に進入し、電極30につながれている。なお、支持棒51は、電源回路40と電極30とを電気的に接続する役割も担っている。
【0029】
液槽20の底面における支持棒51が貫通する部分は、シール部材53によって液密性が保たれている。昇降機構52が支持棒51を昇降させたとき、シール部材53において貧溶媒液LBの漏れを防止する液密性が保たれた状態で、支持棒51がシール部材53に対して摺動する。
【0030】
以下、上述した多孔質構造体製造装置100を用いた多孔質構造体製造方法について説明する。
【0031】
予め、昇降機構52によって、電極30の表面を気液界面IFより上方に位置させた状態で、電源回路40によって、電極30とシリンジ10との間への電位差の印加を開始する。すると、まずシリンジ10の吐出口10aの部分に、テイラーコーンと呼ばれる、原料溶液LAの液だまりが形成される。
【0032】
テイラーコーンへの電荷の蓄積が進行し、蓄積した電荷間の斥力がテイラーコーンの表面張力を上回ったとき、帯電した原料溶液LAが、糸条YAを形成するように、シリンジ10の吐出口10aから線状に射出される。
【0033】
以降、多孔質構造体の製造を終えるまで、糸条YAの射出が継続される。シリンジ10が空にならないように、適宜に原料溶液LAがシリンジ10に補充される。以下、
図2を参照し、多孔質構造体の成長プロセスの全体の流れを説明する。
図2(A)から(D)の順にプロセスが進行する。
【0034】
図2(A)に示すように、射出された糸条YAは、この糸条YAと逆の極性に帯電した電極30へとクーロン引力によって引き付けられ、電極30の表面に入射する。電極30の表面に入射した糸条YAは、クーロン引力によって電極30と接合する。なお、上述したように、このとき電極30の表面は、気液界面IFより上方に位置している。
【0035】
図2(B)に示すように、電極30上にある程度の糸条YAが堆積すると、糸条YAによって集積物NWが構成される。本実施形態においては、集積物NWは、平面視でほぼ円形をなしている。
【0036】
なお、集積物NW中には、原料溶液LA中の溶媒がまだ残留している。つまり、糸条YAが電極30に至る過程で、糸条YAから溶媒が蒸発するが、本実施形態では、溶媒が完全に蒸発してしまわないように、即ち、溶媒を含んだ集積物NWが形成されるように、
図1に示すシリンジ10の吐出口10aの口径や、吐出口10aと気液界面IFとの間隔や、電源回路40による印加電圧等の条件が調整される。
【0037】
そして、
図2(B)に示したように、電極30上に集積物NWが構成されたタイミングで、
図1に示した昇降機構52が、電極30の貧溶媒液LB中への引き込みを開始する。以降、昇降機構52によって電極30の降下が継続される。
【0038】
図2(C)に示すように、絶えず入射する糸条YAによって集積物NWを構成しつつ、集積物NWの一部を電極30と共に貧溶媒液LB中に引き込むことで、集積物NWと電極30との間に、中空管状の多孔質構造体PSが形成される。多孔質構造体PSは、集積物NWから溶媒が逸散したものよりなる。
【0039】
図2(D)に示すように、多孔質構造体PSは、電極30の引き込みと共に、液槽20の深さ方向に成長してゆく。以下、
図2(B)から(C)へ移行する過程で多孔質構造体PSが形成されるメカニズムについて、
図3を参照して詳細に説明する。
図3(A)から(D)の順にプロセスが進行する。
【0040】
図3(A)に示すように、集積物NWが堆積した電極30が、気液界面IFより僅か下方に引き込まれたとき、集積物NWの一部が貧溶媒液LBに浸漬する。なお、上述したように、集積物NW中には、原料溶液LA中の溶媒が残留している。
【0041】
集積物NW中の溶媒は、貧溶媒液LBに対して可溶であるため、集積物NWから貧溶媒液LBへの溶媒の逸散が進行する。また、集積物NWから溶媒が消失するまでの間に、貧溶媒液LB中で集積物NWを構成する糸条YA同士の架橋が進行する。集積物NWにおいて溶媒の濃度が低下した部分は、相対的に可塑性が小さくなる。
【0042】
図3(B)に、溶媒の逸散によって相対的に可塑性が小さくなった部分(以下、低可塑性部という。)FMが形成された集積物NWを示す。貧溶媒液LBに浸漬している時間が長い程、溶媒の逸散が進行するため、低可塑性部FMは、集積物NWの表層以外の、電極30と接合している部分に形成される。なお、
図3(B)では、理解を容易にするために、低可塑性部FMにハッチングを付したが、低可塑性部FMの境界は必ずしも明確ではない。
【0043】
図3(C)に示すように、低可塑性部FMが接合された電極30を貧溶媒液LB中に引き込むと、集積物NWの低可塑性部FM以外の表層部分と、低可塑性部FMとが、貧溶媒液LBの深さ方向に分離し、両者はリング状の境界部分BPのみでつながるようになる。これは、集積物NWにおける低可塑性部FM以外の表層部分は、浮力と貧溶媒液LBの表面張力とによって気液界面IFにとどまろうとする一方、低可塑性部FMは、電極30と接合しているため、電極30と共に下方に引きずられるためである。
【0044】
低可塑性部FMが電極30と共に下方に引きずられる過程で、集積物NWにおける低可塑性部FM以外の表層部分と低可塑性部FMとの境界や、低可塑性部FMに、引っ張り力が作用し、これらが塑性変形する。つまり、低可塑性部FMが成形される。
【0045】
図3(D)に示すように、集積物NWにおける低可塑性部FM以外の表層部分と、低可塑性部FMとが完全には分離せずに、両者間のリング状の境界部分BPが維持されると共に、浮力と貧溶媒液LBの表面張力とによって、集積物NWにおける低可塑性部FM以外の表層部分が気液界面IFに保持され、且つ電極30と低可塑性部FMとの接合、及び低可塑性部FMの組織の連続性が保たれる速度で、電極30が降下する。これにより、低可塑性部FMよりなる中空管状体が液槽20の深さ方向に成長する。低可塑性部FMから溶媒が逸散すると、低可塑性部FMが固化し、多孔質構造体PSと成る。
【0046】
以上説明したように、本実施形態では、糸条YAよりなる集積物NWを電極30に接合させる事前工程に続けて、糸条YAの射出を継続したまま、集積物NWが気液界面IFに保持される速度で、電極30を貧溶媒液LB中に引き込む。これにより、気液界面IFに集積物NWを形成する集積物形成工程と、集積物NW中に溶媒が残留している間に、集積物NWの低可塑性部FMに引っ張り力を加えることで、低可塑性部FMを貧溶媒液LB中で成形し、多孔質構造体PSと成す成形工程とを連続的に行う。
【0047】
このように、集積物NWの低可塑性部FM中に溶媒が残留している間に、集積物NWの低可塑性部FMを成形することで、得られる多孔質構造体PSの微視的及び巨視的な形態を柔軟に調整することができる。
【0048】
ここで、巨視的形態とは、多孔質構造体PSの全体としての形態を指す。具体的には、本実施形態では、低可塑性部FMが形成された集積物NWに引っ張り力を加えて、集積物NWを成形したことで、多孔質構造体PSの巨視的な形態を中空管状に調整することができた。
【0049】
また、微視的形態とは、多孔質構造体PSの組織の形態を指す。具体的には、本実施形態では、低可塑性部FMに引っ張り力を加えたことで、その引っ張り力が作用する方向に引き伸ばされた形状の空隙を有する多孔質構造体PSを形成できる。また、低可塑性部FMにおける架橋の進行度合いによっても、多孔質構造体PSの微視的形態を調整できる。架橋の進行度合いは、電極30の引き込みの開始のタイミングや、電極30の降下速度や、原料溶液LA又は貧溶媒液LBの成分構成によって制御できる。
【0050】
また、本実施形態では、集積物NWを気液界面IFに保持させたので、電極30を降下させるだけで、多孔質構造体PSの微視的及び巨視的な形態を制御するための引っ張り力を低可塑性部FMに与えることができた。集積物NWを気液界面IFにとどめることは、
図1に示すシリンジ10の吐出口10aの口径や、吐出口10aと気液界面IFとの間隔や、電源回路40による印加電圧や、電極30の降下速度等の条件の調整によって実現できることは当業者に理解できるであろう。
【0051】
また、本実施形態では、貧溶媒液LBとして表面張力が高いものを用いることで、糸条YAが気液界面IFを貫通しにくくなるため、容易に集積物NWを気液界面IFにとどめることができる。
【0052】
また、本実施形態では、貧溶媒液LBとして高い誘電率を有するものを用いることで、貧溶媒液LB中では電場が弱められる結果、気液界面IFと電極30との間の電場が、気液界面IFとシリンジ10との間の電場よりも著しく小さくなる。このことも、糸条YAが気液界面IFを貫通することを抑制し、集積物NWを気液界面IFにとどめることに役立っている。
【0053】
以下、多孔質構造体PSを具体的に製造した実施例について説明する。
【0054】
多孔質構造体PSの原料としてのポリメタクリル酸メチルを、溶媒としての1,4ジオキサンに溶解してなる濃度8.0質量%の原料溶液LAを準備した。貧溶媒液LBには、水を用いた。そして、
図1に示す多孔質構造体製造装置100によって、原料溶液LAを貧溶媒液LBに射出させつつ、
図2及び
図3に示した要領で電極30を降下させた。
【0055】
この結果、
図4(A)に示すように、中空管状の多孔質構造体PSが製造されることが確認された。また、多孔質構造体PSの微視的な組織を調べたところ、電極30の降下に伴う引っ張り力を与えたことで、
図5(B)に示す多孔質な組織が、
図5(A)に示すように調整されることが確認された。即ち、引っ張り力を加えることで、組織中の空隙が特に引っ張り力を与えた方向に大きくなる。なお、
図5(A)中の矢印が、引っ張り力を与えた方向を示す。
【0056】
また、電極30の降下速度と得られる多孔質構造体PSの長さとの関係、及び電極30の降下速度と得られる多孔質構造体PSの直径との関係を調べた。これらの結果を
図6と
図7に示す。
図6と
図7において、原料溶液LAの吐出速度を6.111×10
−5[ml/sec]とした場合のプロットを丸印で示し、原料溶液LAの吐出速度を1.222×10
−4[ml/sec]とした場合のプロットを三角印で示し、原料溶液LAの吐出速度を1.83×10
−4[ml/sec]とした場合のプロットを四角印で示す。
【0057】
図6に示すように、得られる多孔質構造体PSの長さは、電極30の降下速度にほぼ比例する。従って、電極30の降下速度によって多孔質構造体PSの長さを調整できる。また、
図7に示すように、得られる多孔質構造体PSの直径も、電極30の降下速度にほぼ比例する。従って、電極30の降下速度によって多孔質構造体PSの直径を調整できる。つまり、
図2及び
図3に示した集積物NWの貧溶媒液LB中への引き込みを行いながら、その引き込みの速度を変化させることで、長さ方向の位置によって直径が異なる多孔質構造体PSを得ることができる。
【0058】
実際、
図4(B)に示すように、電極30の降下速度を相対的に高めることで、直径が相対的に小さいくびれ部PSaを形成できた。また、
図4(C)に示すように、電極30の降下速度を連続的に変化させることで、球面状をなす球面状部PSbを形成することもできた。このように、得られる多孔質構造体PSの巨視的な形態を、電極30の降下速度によって調整できることが確認された。
【0059】
以上、本発明の実施形態と実施例について説明したが、本発明はこれらに限られない。例えば、以下の変形も可能である。
【0060】
上記実施形態及び実施例では、多孔質構造体PSの巨視的な形態を中空管状に調整した例を示したが、巨視的な形態はこれに限られない。例えば、内部に巨視的な意味での中空部を有する袋状等の閉曲面状の多孔質構造体を形成することもできるし、内部に巨視的な意味での中空部のない形状の多孔質構造体を得ることもできる。
【0061】
上記実施形態及び実施例では、集積物NWに引っ張り力を加えたが、集積物NWに加える外力は、引っ張り力に限られない。貧溶媒液LBと電極30との相対移動によって、集積物NWに任意の力を与えることができる。例えば、貧溶媒液LB中で電極30を上昇させることで、集積物NWに圧縮力やせん断力を与えることもできる。
【0062】
上記実施形態及び実施例では、貧溶媒液LBの気液界面IFに集積物NWを形成したが、貧溶媒液LBの内部に集積物NWを形成し、これを貧溶媒液LB中で成形してもよい。また、上記実施形態及び実施例では、電界紡糸法を用いたが、電界紡糸法を用いずに、例えば機械的な圧力によって、原料溶液LAを貧溶媒液LBに射出させてもよい。
【0063】
以下、上記実施形態によって得られる多孔質構造体の用途について、例示的に述べる。多孔質構造体は、例えば、培養する細胞を固定するためのスキャホルドとして使用できる。本実施形態では、得られる多孔質構造体の微視的及び巨視的な形態を柔軟に制御できるため、血管として再生するための管状のスキャホルドや、腸管や心臓や肺等の臓器の形状を有するスキャホルドを構成できる。複数の多孔質構造体をビルディングブロックとして組み合わせることで、所望形状のスキャホルドと成してもよい。
【0064】
得られる多孔質構造体が充分な通気率を有するように、多孔質構造体の微視的形態を調整することで、スキャホルドとして使用した場合に、深部まで充分に物質を循環させることができる。このため、深部に固定された細胞に対しても充分な栄養と酸素の供給が可能であり、深部の細胞が飢餓又は窒息状態に陥りにくい。
【0065】
この他、上記実施形態によって得られる多孔質構造体は、薬剤徐放性カプセル、生成物から微生物の分離を必要としない微生物発酵反応槽の構成等、医学・薬学・醗酵工学への応用が可能である。
【0066】
本発明は、その広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な変形が可能とされる。上記実施形態及び上記実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、上記実施形態及び上記実施例ではなく、特許請求の範囲によって示される。