【文献】
Applied materials & interfaces,2013年,Vol.5, No.12,pp.5592-5600
【文献】
Journal of Biomedical Materials Research. Part A,2014年,Vol.103 No.6,pp.2045-2056
【文献】
Journal of Biomedical Materials Research. Part A,2005年,Vol.75A No.3,pp.742-753
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の細胞培養用基材は、多糖類(A)の架橋剤(B)による架橋物(C)を含有する細胞培養用基材であって、架橋剤(B)が活性水素基と反応し得る官能基(b)を少なくとも2個有する有機化合物であり、細胞培養用基材の37℃における貯蔵弾性率G’が1000〜1×10
10Paである細胞培養用基材である。
【0010】
多糖類(A)としては、単糖(a)が10個以上グリコシド結合により結合したもの及びこれらの誘導体が含まれる。
単糖(a)としては、炭素数3〜7の単糖(a1)又は前記(a1)が有するヒドロキシル基及び/若しくはヒドロキシメチル基がカルボキシル基、アミノ基、N−アセチルアミノ基、スルホオキシ基、メトキシカルボニル基及びカルボキシメチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基(E)で置換された単糖(a2)が含まれる。
【0011】
炭素数3〜7の単糖(a1)としては、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース及びヘプトース等が挙げられる。
トリオースとしては、ジヒドロキシアセトン及びグリセルアルデヒド等が挙げられる。
テトロースとしては、エリトロース、トレオース及びエリトルロース等が挙げられる。
ペントースとしては、アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース及びデオキシリボース等が挙げられる。
ヘキソースとしては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース、フコース、フクロース及びラムノース等が挙げられる。
ヘプトースとしては、セドヘプツロース等が挙げられる。
【0012】
単糖(a2)としては、1つ以上のヒドロキシメチル基(−CH
2OH)がカルボキシル基(−COOH)で置換された単糖(a2−1)、1つ以上のヒドロキシル基(−OH)がアミノ基(−NH
2)で置換された単糖(a2−2)、1つ以上のヒドロキシル基がN−アセチルアミノ基(−NHCOCH
3)で置換された単糖(a2−3)、1つ以上のヒドロキシル基がスルホオキシ基(−OSO
3H)で置換された単糖(a2−4)、1つ以上のヒドロキシメチル基がメトキシカルボニル基(−COOCH
3)で置換された単糖(a2−5)、1つ以上のヒドロキシメチル基がカルボキシメチル基(−CH
2COOH)で置換された単糖(a2−6)及び2つ以上のヒドロキシル基及び/又はヒドロキシメチル基が複数種類の置換基(E)で置換された単糖(a2−7)等が挙げられる。
【0013】
前記(a2−1)としては、グルクロン酸、イズロン酸、マンヌロン酸及びガラクツロン酸等のウロン酸等が挙げられる。
前記(a2−2)としては、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン及びムラミン酸等のアミノ糖等が挙げられる。
前記(a2−3)としては、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルマンノサミン、N−アセチルガラクトサミン及びN−アセチルムラミン酸等が挙げられる。
前記(a2−4)としては、ガラクトース−3−硫酸等が挙げられる。
前記(a2−5)としては、グルコースメチルエステル及び前記(a2−1)中のカルボン酸をメチルエステル化したもの等が挙げられる。
前記(a2−7)としては、N−アセチルグルコサミン−4−硫酸、イズロン酸−2−硫酸、グルクロン酸−2−硫酸、N−アセチルガラクトサミン−4−硫酸、ノイラミン酸及びN−アセチルノイラミン酸等が挙げられる。
【0014】
多糖類(A)として具体的には、セルロース、アミロース、アミロペクチン、グリコサミノグリカン、アルギン酸、カラギーナン、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストリン、グルカン、フルクタン、キチン、タマリンドシードガム、グァーガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、カラヤガム、ペクチン、キサンタンガム、ジュランガム、アグロバクテリウムスクシノグリカン、ダイユータンガム、マンナン、グルコマンナン、キトサン、タラガム、サイリウムシードガム及びこれらの誘導体(カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。
多糖類(A)のうち、産業利用性及び分解性の観点から、セルロース、アミロース、アミロペクチン、グリコサミノグリカン、アルギン酸、カラギーナン、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストリン、グルカン、フルクタン、キチン、タマリンドシードガム、グァーガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、カラヤガム、ペクチン、キサンタンガム、ジュランガム、アグロバクテリウムスクシノグリカン、ダイユータンガム、マンナン、グルコマンナン、キトサン、タラガム、サイリウムシードガム及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、さらに好ましくはセルロース、アルギン酸、カラギーナン、ヒアルロン酸、キサンタン、アミロース、デキストラン及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくはカルボキシメチルセルロースである。
【0015】
カルボキシメチルセルロースにおいて、ヒドロキシル基のカルボキシメチル基による置換率は、水溶性の観点から、0.02〜3が好ましく、さらに好ましくは0.2〜2である。
【0016】
本発明において、架橋剤(B)は、活性水素基と反応し得る官能基(b)を少なくとも2個有する有機化合物である。
官能基(b)としては、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基及び酸ハライド基等が挙げられる。
これらのうち、反応性及び架橋物(C)の強度の観点から、カルボキシル基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0017】
架橋剤(B)は、官能基(b)として1種を有しているものでもよく、2種以上を有しているものでもよい。
【0018】
架橋剤(B)において、カルボキシル基を有しているものとしては、ポリカルボン酸が含まれる。
ポリカルボン酸として、具体的には、2個のカルボキシル基を有しているもの{炭素数2〜50のアルカンジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、レパルギン酸及びセバシン酸等)及び炭素数8〜36の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等)、炭素数4〜50の不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸及び炭素数12〜46のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸等)等}、3個以上のカルボキシル基を有しているもの{炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、炭素数6〜36の脂肪族トリカルボン酸(ヘキサントリカルボン酸等)等が挙げられる。
【0019】
カルボキシル基を有しているものとして、これらのカルボン酸の無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステル(メチルエステル、エチルエステル及びイソプロピルエステル等)化物を用いてもよく、無水物及び/又は低級アルキルエステル化物と上記カルボキシル基を有しているものと併用してもよい。
【0020】
また、架橋剤として不飽和モノカルボン酸を用いて、不飽和モノカルボン酸中のカルボキシル基を多糖類(A)の活性水素と反応させて、さらに二重結合を反応させることにより架橋してもよい。
不飽和モノカルボン酸としては、炭素数2〜30の不飽和モノカルボン酸が含まれ、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、プロピオル酸、2−ブチン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、3−ブテン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、4−ペンテン酸、2−エチル−2−ブテン酸、10−ウンデセン酸、2,4−ヘキサジエン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸及びネルボン酸等が挙げられる。
【0021】
カルボキシル基を有しているもののうち、反応性及び架橋物(C)の強度の観点から、好ましいものは、アジピン酸、炭素数12〜46のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、フマル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの併用である。また、これらの酸の無水物や低級アルキルエステルも同様に好ましい。
【0022】
エポキシ基を有しているものとしては、具体的には、ポリグリシジルエーテル(エチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル及びフェノールノボラックグリシジルエーテル化物等)等が挙げられる。
【0023】
イソシアネート基を有しているものとしては、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環族ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネート化合物が含まれる。
【0024】
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下においてHDIと略記する)、ペンタメチレンジイソシアネート,1,2−プロピレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート及び2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0025】
脂環族ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,3−シクロペンテンジイソシアネート,1,3−シクロへキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(以下においてIPDIと略記する)、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(以下において水添MDIと略記する)、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート及び水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0026】
芳香族ジイソシアネート化合物としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(2,4−トリレンジイソシアネート及び2,6−トリレンジイソシアネート、以下においてTDIと略記する)、2,2’一ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下においてMDIと略記する)、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
イソシアネート基を有しているものとして、反応性及び架橋物(C)の強度の観点から、好ましいものは炭素数6〜15の芳香族ジイソシアネート、炭素数4〜12の脂肪族ジイソシアネート及び炭素数4〜15の脂環式ジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましいものはTDI、MDI、HDI、水添MDI及びIPDIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
架橋剤(B)としては、反応性及び架橋物(C)の強度の観点から、エポキシ基を有しているものが好ましく、さらに好ましくはポリグリシジルエーテルである。
【0029】
本発明の細胞培養用基材は、架橋物(C)を含有するものであれば特に限定はないが、細胞接着性の観点から、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン及び下記最小アミノ酸配列(X)を有する細胞接着性ペプチド(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞接着因子を含有することが好ましい。
最小アミノ酸配列(X):RGD配列、LDV配列、REDV配列(1)、YIGSR配列(2)、PDSGR配列(3)、RYVVLPR配列(4)、LGTIPG配列(5)、RNIAEIIKDI配列(6)、IKVAV配列(7)、LRE配列、DGEA配列(8)、GVKGDKGNPGWPGAP配列(9)、GEFYFDLRLKGDK配列(10)、HAV配列及びYKLNVNDS配列(11)からなる群より選ばれる少なくとも1種。
なお、本発明において、「配列(1)」は「配列表における配列番号(1)」を意味し、配列(1)以外の配列についても同様である。
【0030】
フィブロネクチン、コラーゲン及びラミニンは、細胞接着分子として一般的に知られているものである。
なお、本発明において、「細胞接着性」とは、特定の最小アミノ酸配列が細胞のインテグリンレセプターに認識され、細胞が基材に接着しやすくなる性質を意味する(大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58〜66頁、1992年)。
【0031】
最小アミノ酸配列(X)としては、「病態生理、第9巻 第7号、527〜535頁、1990年」や「大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58〜66頁、1992年」に記載されているもの等が知られており、細胞接着性の観点から、上記配列(1)〜(11)が好ましく、さらに好ましくはRGD配列である。
【0032】
細胞接着性ペプチド(D)は、最小アミノ酸配列(X)を1分子中に少なくとも1個有すればよいが、細胞接着性の観点等から、1分子中に1〜50個有するものが好ましく、さらに好ましくは2〜50個、つぎに好ましくは3〜30個、特に好ましくは4〜20個、最も好ましくは5〜15個有するものである。なお、2種以上の最小アミノ酸配列(X)が一分子中に含まれてもよい。
【0033】
細胞接着性ペプチド(D)は、最小アミノ酸配列(X)以外に、細胞接着性ペプチド(D)の熱安定性向上の観点等から、補助アミノ酸配列(Y)を有することが好ましい。
【0034】
補助アミノ酸配列(Y)としては、最小アミノ酸配列(X)以外のアミノ酸配列が使用でき、細胞接着性ペプチド(D)の熱安定性の観点から、G(グリシン)及び/又はA(アラニン)を有する配列が好ましい。
【0035】
補助アミノ酸配列(Y)としては、(GA)
a配列、(GAGAGS)
b配列、(GAGAGY)
c配列、(GAGVGY)
d配列、(GAGYGV)
e配列、{DGG(A)
fGGA}
g配列、(GVPGV)
h配列、(G)
i配列、(A)
j配列、(GGA)
k配列、(GVGVP)
m配列、(GPP)
n配列、(GAQGPAGPG)
o配列、(GAPGAPGSQGAPGLQ)
p配列及び/又は(GAPGTPGPQGLPGSP)
q配列を有する配列等が含まれる。
これらのうち、熱安定性の観点から、(GA)
a配列、(GAGAGS)
b配列、(GAGAGY)
c配列、(GAGVGY)
d配列、(GAGYGV)
e配列、{DGG(A)
fGGA}
g配列、(GVPGV)
h配列、(GVGVP)
m配列及び(GPP)
n配列からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するものが好ましく、さらに好ましくは(GAGAGS)
b配列、(GVPGV)
h配列、(GVGVP)
m配列及び(GPP)
n配列からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するものであり、特に好ましくは(GAGAGS)
b配列を有するものである。
なお、aは5〜100の整数、bは1〜33の整数、c、d及びeは2〜33の整数、fは1〜194の整数、gは{1}〜{200/(6+f)}の小数点以下を切り捨てした整数、hは2〜40の整数、i及びjは10〜200の整数、kは3〜66の整数、mは2〜40の整数、nは3〜66の整数、oは1〜22の整数、p及びqは1〜13の整数である。
【0036】
補助アミノ酸配列(Y)は、G(グリシン)及び/又はA(アラニン)を含むことが好ましい。G(グリシン)及びA(アラニン)を含む場合、これらの合計含有割合(%)は、補助アミノ酸配列(Y)の全アミノ酸個数に基づいて、10〜100が好ましく、さらに好ましくは20〜95、特に好ましくは30〜90、最も好ましくは40〜85である。この範囲であると、熱安定性がさらに良好となる。
G(グリシン)及びA(アラニン)の両方を含む場合、これらの含有個数割合(G/A)は、0.03〜40が好ましく、さらに好ましくは0.08〜13、特に好ましくは0.2〜5である。この範囲であると、熱安定性がさらに良好となる。
【0037】
補助アミノ酸配列(Y)には、以上の例示の他に、他のアミノ酸{A(アラニン)、G(グリシン)、S(セリン)、T(トレオニン)、V(バリン)、L(ロイシン)、I(イソロイシン)、C(システイン)、M(メチオニン)、F(フェニルアラニン)、Y(チロシン)、P(プロリン)、W(トリプトファン)、N(アスパラギン)、Q(グルタミン)、D(アスパラギン酸)、E(グルタミン酸)、R(アルギニン)、K(リジン)及びH(ヒスチジン)等}を含んでいてもよい。
【0038】
(GA)
a配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(12)〜(14)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GAGAGS)
b配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(15)〜(17)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GAGAGY)
c配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(18)〜(20)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GAGVGY)
d配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(21)〜(23)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GAGYGV)
e配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(24)〜(26)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
{DGG(A)
fGGA}
g配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(27)〜(29)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GVPGV)
h配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(30)〜(33)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(G)
i配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(34)〜(36)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(A)
j配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(37)〜(39)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GGA)
k配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(40)〜(42)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GVGVP)
m配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(43)〜(45)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GPP)
n配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(46)〜(48)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GAQGPAGPG)
o配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(49)〜(51)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GAPGAPGSQGAPGLQ)
p配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(52)〜(54)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(GAPGTPGPQGLPGSP)
q配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(55)〜(57)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
【0039】
これらの補助アミノ酸配列のうち、配列番号(12)、(13)、(15)、(16)、(17)、(18)、(19)、(21)、(22)、(24)、(25)、(27)、(28)、(29)、(30)、(31)、(33)、(34)、(35)、(37)、(38)、(40)、(41)、(43)、(44)、(46)、(47)、(49)、(50)、(52)、(53)、(55)又は(56)で表されるアミノ酸配列が好ましく、さらに好ましくは配列番号(13)、(15)、(16)、(17)、(19)、(22)、(25)、(29)、(30)、(31)、(32)、(33)、(35)、(38)、(41)、(44)、(47)、(50)、(53)又は(56)で表されるアミノ酸配列、特に好ましくは配列番号(15)、(16)又は(33)で表されるアミノ酸配列である。
【0040】
補助アミノ酸配列(Y)を含む場合、(Y)の含有個数は、熱安定性の観点等から、細胞接着性ペプチド(D)1分子中に、2〜50が好ましく、さらに好ましくは3〜30、特に好ましくは4〜20、最も好ましくは5〜15である。また、細胞接着性ペプチド(D)は、2種以上の補助アミノ酸配列(Y)を含んでもよい。
【0041】
細胞接着性ペプチド(D)は、細胞接着性及び熱安定性の観点等から、最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)とが、必要により(X)と(Y)の間に他のアミノ酸配列を介して、交互に化学結合してなる構造であることが好ましく、(X)の両端に介在アミノ酸配列(Z)を含むアミノ酸配列と(Y)とが交互に化学結合してなる構造であることがさらに好ましい。この場合、最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)との繰り返し単位(X−Y)の数(個)は、細胞接着性の観点等から、1〜50が好ましく、さらに好ましくは2〜40、特に好ましくは3〜30、最も好ましくは4〜20である。
【0042】
また、介在アミノ酸配列(Z)を有してもよい。
介在アミノ酸配列(Z)としては、最小アミノ酸配列(X)のN末端には、細胞接着性の観点から、GAAVTG配列(58)、GLPGPKGD配列(59)、GPAVTG配列(60)、AGPKGADGSPGPAVTG配列(61)、GAAVCEPG配列(62)、GAALCVSEPG配列(63)、SPASAALCVSEPG配列(64)、SPASAAVCEPG配列(65)、AGPKGADGSPGPAVCEPG配列(66)、AGPKGADGSPGPALCVSEPG配列(67)、GPAVCEPG配列(68)、GPALCVSEPG配列(69)及びGAAPGAS配列(70)からなる群より選ばれる少なくとも1種の介在アミノ酸配列(Z)を結合していることが好ましく、GAAVTG配列(58)、GLPGPKGD配列(59)、GPAVTG配列(60)及びAGPKGADGSPGPAVTG配列(61)からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、GAAVTG配列(58)が特に好ましい。
【0043】
介在アミノ酸配列(Z)としては、最小アミノ酸配列(X)のC末端には、細胞接着性の観点から、SPASAAGY配列(71)、SPASAALCVS配列(72)、SPASAAVC配列(73)、AGPKGADGSPGP配列(74)、AGPKGADGSPGPAVC配列(75)、AGPKGADGSPGPALCVS配列(76)、AGPKGADGSP配列(77)、SPASAAGPVGSP配列(78)、CDAGY配列(79)、CDAGPVGSP配列(80)及びSAGPSAGY配列(81)からなる群より選ばれる少なくとも1種の介在アミノ酸配列(Z)を結合していることが好ましく、SPASAAGY配列(71)、SPASAALCVS配列(72)、SPASAAVC配列(73)、AGPKGADGSPGP配列(74)、AGPKGADGSPGPAVC配列(75)、AGPKGADGSPGPALCVS配列(76)、AGPKGADGSP配列(77)及びSPASAAGPVGSP配列(78)からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、SPASAAGY配列(71)が特に好ましい。
【0044】
細胞接着性ペプチド(D)は、分岐鎖を含んでいてもよく、一部が架橋されていてもよく、環状構造を含んでいてもよい。しかし、細胞接着性ペプチド(D)は、架橋されていないことが好ましく、さらに好ましくは架橋されていない直鎖構造、特に好ましくは環状構造を持たず架橋されていない直鎖構造である。なお、直鎖構造には、β構造(直鎖状ペプチドが折れ曲がってこの部分同士が平行に並び、その間に水素結合が作られる二次構造)も含まれる。
【0045】
細胞接着性ペプチド(D)は、細胞接着性及び熱安定性の観点等から、最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)とが、必要により(X)と(Y)の間に他のアミノ酸配列を介して、交互に化学結合してなる構造であることが好ましく、(X)の両端に介在アミノ酸配列(Z)を含むアミノ酸配列と(Y)とが交互に化学結合してなる構造であることがさらに好ましい。この場合、最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)との繰り返し単位(X−Y)の数(個)は、細胞接着性の観点等から、1〜50が好ましく、さらに好ましくは2〜40、特に好ましくは3〜30、最も好ましくは4〜20である。
【0046】
また、最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)との含有個数は同じでも異なっていてもよい。異なっている場合は、いずれかの含有個数が他方の含有個数より1個少ないことが好ましい{この場合、補助アミノ酸配列(Y)が少ないことが好ましい}。細胞接着性ペプチド(D)中の最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)との含有個数割合(X/Y)は、0.5〜2が好ましく、さらに好ましくは0.9〜1.4、特に好ましくは1〜1.3である。
【0047】
また、細胞接着性ペプチド(D)の末端部分(最小アミノ酸配列(X)又は補助アミノ酸配列(Y)からペプチド末端まで)に他のアミノ酸を含んでもよい。他のアミノ酸を含む場合、その含有個数は、細胞接着性ペプチド(D)1個当たり、1〜1000個が好ましく、さらに好ましくは3〜300、特に好ましくは10〜100である。
【0048】
細胞接着性ペプチド(D)の重量平均分子量(以下、Mw)は、1,000〜1,000,000が好ましく、さらに好ましくは2,000〜700,000、特に好ましくは3,000〜400,000、最も好ましくは4,000〜200,000である。
【0049】
なお、細胞接着性ペプチド(D)のMwは、SDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法により、測定サンプル{ポリペプチド等}を分離し、泳動距離を標準物質と比較する方法等の公知の方法によって求められる(以下、同じ)。
【0050】
細胞接着性ペプチド(D)は、化合物(AM)でさらに修飾されていてもよい。化合物(AM)としては、1〜3級のアミノ基を含有する化合物及びその塩並びにアンモニウム塩(AM−1)、カルボキシル基を含有する化合物(AM−2)、スルホ基を含有する化合物(AM−3)並びにヒドロキシル基を含有する化合物(AM−4)が含まれる。(AM)で修飾されていると、細胞増殖性がさらに良好となる。
【0051】
1〜3級のアミノ基を含有する化合物及びその塩並びにアンモニウム塩を含有する化合物(AM−1)としては、ポリアミン、アミノアルコール、アミノ基を有するハロゲン化物、アミノ基含有モノマー及びアミノ基含有モノマーを構成単量体とする重合体、並びにこれらのハロゲン化水素塩及び4級化物等が使用できる。
ポリアミンとしては、少なくとも1個の1級アミノ基又は2級アミノ基を有するポリアミン(炭素数2〜56)等が用いられ、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、複素環式ポリアミン及び芳香族ポリアミン等が用いられる。
【0052】
脂肪族ポリアミンとしては、アルキレンジアミン(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等)、アルキレン基の炭素数が2〜6であるポリアルキレンポリアミン(ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びペンタエチレンヘキサミン等)、並びにこれらのアルキル(炭素数1〜18)置換体(ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、メチルエチルアミノプロピルアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N,N−ジオクタデシルエチレンジアミン、トリオクタデシルエチレンジアミン及びメチルイミノビスプロピルアミン等)等が挙げられる。
【0053】
脂環式ポリアミンとしては、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(メチルアミノ)シクロヘキサン、1,3−ビス(ジヒドロキシアミノ)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン及び4,4’−メチレンジシクロヘキサンジアミン等が挙げられる。
【0054】
複素環式ポリアミンとしては、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−アミノエチルピペラジン及び1,4−ジアミノエチルピペラジン等が挙げられる。
【0055】
芳香族ポリアミンとしては、フェニレンジアミン、N,N’−ジメチルフェニレンジアミン、N,N,N’−トリメチルフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン及び2,6−ジアミノピリジン、トリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、4,4’−ビス(メチルアミノ)ジフェニルメタン及び1−メチル−2−メチルアミノ−4−アミノベンゼン等が挙げられる。
【0056】
アミノアルコールとしては、炭素数2〜58のアミノアルコール等が用いられ、炭素数2〜10のアルカノールアミン[モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン及びN,N、N’、N’−テトラキス(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等]、これらのアルキル(炭素数1〜18)置換体[N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−オクタデシルジエタノールアミン、N,N−ジエチル−N’,N’−ビス(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N−ジオクタデシル−N’,N’−ビス(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン及びN,N,N’−トリオクタデシル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミン等]等が挙げられる。
【0057】
アミノ基を有するハロゲン化物としては、炭素数2〜17のアルキルアミンのハロゲン(塩素及び臭素等)化物等が用いられ、アミノエチルクロリド、N−メチルアミノプロピルクロリド、N,N−ジメチルアミノエチルクロリド、N,N−ジエチルアミノエチルクロリド、N,N−ジベンジルアミノエチルブロミド、N,N−ジメチルアミノプロピルブロミド、N,N−ジエチルアミノプロピルクロリド及びN,N−ジベンジルアミノプロピルクロリド等が挙げられる。
【0058】
アミノ基含有モノマーとしては、炭素数5〜21のアミノ基含有ビニル化合物、エチレンイミン及び炭素数2〜20のアミノ酸等が用いられる。
アミノ基含有ビニル化合物としては、アミノ基含有(メタ)アクリレート、アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、アミノ基含有芳香族ビニル炭化水素及びアミノ基含有アリルエーテル等が用いられる。
【0059】
アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、アミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ベンジル−N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジベンジルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジベンジルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート及びN−メチルピペチジノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
アミノ基含有(メタ)アクリルアミドとしては、アミノエチルアクリルアミド、N−メチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ベンジル−N−メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モルホリノエチル(メタ)アクリルアミド及びN−メチルピペチジノエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0061】
アミノ基含有芳香族ビニル炭化水素としては、アミノエチルスチレン、N−メチルアミノエチルスチレン、N,N−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジプロピルアミノスチレン及びN−ベンジル−N−メチルアミノスチレン等が挙げられる。
【0062】
アミノ基含有アリルエーテルとしては、アミノエチルアリルエーテル、N−メチルアミノエチルアリルエーテル、N,N−ジメチルアミノエチルアリルエーテル及びN,N−ジエチルアミノエチルアリルエーテル等が挙げられる。
【0063】
アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、システイン、リシン、セリン、グリシン、3−アミノプロピオン酸、8−アミノアクタン酸及び20−アミノエイコサン酸等が挙げられる。
【0064】
アミノ基含有モノマーの重合体としては、アミノ基含有ビニル化合物からなるビニルポリマー、ポリエチレンイミン及びポリペプチド((B1)は含まない。)等が挙げられる。
アミノ基含有モノマーの重合体の重量平均分子量は、500〜100万が好ましく、さらに好ましくは1,000〜80万、特に好ましくは2,000〜50万である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる{基準物質:分子量420〜20,600,000のポリスチレンスタンダード(東ソー製)等}。
【0065】
ハロゲン化水素塩としては、上記アミノ基含有化合物とハロゲン化物(フッ化水素、塩化水素、臭化水素及びヨウ化水素等)との塩が挙げられる。
具体的には、塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリド及び塩酸N,N−ジエチルアミノエチルクロリド等が挙げられる。
【0066】
これらの4級化物としては、これらのアミノ基を4級化剤(メチルクロリド、エチルクロリド、ベンジルクロリド、ジメチル炭酸、ジメチル硫酸及びエチレンオキシド等)によって4級化したもの等が挙げられる。
【0067】
これらの1〜3級のアミノ基を含有する化合物及びその塩並びにアンモニウム塩(AM−1)のうち、細胞増殖性の観点から、塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリド及び塩酸N,N−ジエチルアミノエチルクロリドが好ましく、さらに好ましくは塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリドである。
【0068】
カルボキシル基を含有する化合物(AM−2)としては、炭素数2〜30のカルボン酸であり、具体的には、ぎ酸、酢酸、プロピオン酸、こはく酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、くえん酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、メシル酸、サリチル酸、4−ヒドロキシ安息香酸及びフェニル酢酸等が挙げられる。また、これらカルボキシル基を有するハロゲン化物等も使用できる。具体的には、クロロ酢酸及びクロロぎ酸等が挙げられる。これらのカルボキシル基を含有する化合物(AM−2)のうち、細胞増殖性の観点からクロロ酢酸が好ましい。
【0069】
スルホ基を含有する化合物(AM−3)としては、炭素数2〜30のスルホン酸であり、具体的には、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルファニル酸及びシクロヘキシルアミノスルホン酸等が挙げられる。また、これらスルホ基を有するハロゲン化物等も使用できる。具体的には、クロロスルホン酸及びクロロエタンスルホン酸等が挙げられる。これらのスルホン基を含有する化合物(AM−3)のうち、細胞増殖性の観点からクロロエタンスルホン酸が好ましい。
【0070】
ヒドロキシル基を含有する化合物(AM−4)としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。また、これらヒドロキシル基を有するハロゲン化物等も使用できる。具体的には、クロロエタノール及びクロロプロパノール等が挙げられる。これらのヒドロキシル基を含有する化合物(AM−4)のうち、細胞増殖性観点からクロロエタノールが好ましい。
【0071】
化合物(AM)で修飾する方法としては、(1)化合物(AM)と、修飾前の細胞接着性ペプチド(D)とを化学結合{共有結合、イオン結合及び/又は水素結合等}させる方法が適用できる。
これらのうち、細胞増殖性の観点等から、(1)の化学結合させる方法が好ましく、さらに好ましくは共有結合である。
【0072】
(1)化合物(AM)と、修飾前の細胞接着性ペプチド(D)とを化学結合{共有結合、イオン結合及び/又は水素結合等}させる方法において、化学結合させるために、細胞接着性ペプチド(D)がアミノ酸残基として反応性基{ヒドロキシル基、カルボキシル基、メルカプト基、及び1級又は2級アミノ基等}をもつアミノ酸を持っていることが好ましい。反応性基のうち、細胞増殖性の観点から、ヒドロキシル基、カルボキシル基及び1級アミノ基が好ましく、さらに好ましくはヒドロキシル基及びカルボキシル基、特に好ましくはヒドロキシル基である。また、細胞接着性ペプチド(D)の1分子中に反応性基を少なくとも1個有すればよいが、細胞増殖性の観点から、1分子中に2〜50個有するものが好ましく、さらに好ましくは1分子中に3〜30個、特に好ましくは1分子中に5〜20個有するものである。
【0073】
化学結合させる方法としては、公知の方法が適用でき、特開2007−51127号公報等に記載の方法が挙げられる。化学結合形成反応には反応溶媒を使用してもよく、反応溶媒としては公知のものが使用でき、例えば、水、臭化リチウム水溶液、過塩素酸リチウム水溶液、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミド及びテトラヒドロフランが挙げられる。
【0074】
化合物(AM)と修飾前の細胞接着性ペプチド(D)とを共有結合させる具体例としては、細胞接着性ペプチド(D)中の側鎖にヒドロキシル基を含有するアミノ酸(例えば、Ser及びTyr)を1〜3級のアミノ基、及び/又はアンモニウム塩、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基を有するアルキルハロゲン化物でアルキルエーテル化する方法、及び側鎖にカルボキシル基を含有するアミノ酸(例えば、Asp及びGlu)をアミノ基、及び/又はアンモニウム塩を有するアルコールでエステル化する方法が挙げられる。
【0075】
好ましい細胞接着性ペプチド(D)の一部を以下に例示する。
(1)最小アミノ酸配列(X)がRGD配列(x1)の場合
RGD配列(x1)の13個と(GAGAGS)
9配列(16)(y1)の12個とを有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有するMw約11万のポリペプチド(配列(82)){「プロネクチンF」、プロネクチンは三洋化成工業(株)の登録商標(日本及び米国)である。三洋化成工業(株)製<以下同じ>};
プロネクチンFを化合物(AM)で修飾したタンパク質であり、具体的には、化合物(AM)として塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリドを用いて修飾したポリペプチド(「プロネクチンFプラス」);
(x1)の5個と(GAGAGS)
3配列(15)(y2)の5個とを有しこれらが交互に化学結合してなる構造を有するMw約2万のポリペプチド(配列(83))(「プロネクチンF2」);(x1)の3個と(GVPGV)
2GG(GAGAGS)
3配列(33)(y3)の3個とを有しこれらが交互に化学結合してなる構造を有するMw約1万のポリペプチド(配列(84))(「プロネクチンF3」)等。
【0076】
(2)最小アミノ酸配列(X)がIKVAV配列(x2)の場合
プロネクチンF、プロネクチンF2又はプロネクチンF3のRGD配列(x1)をIKVAV配列(7)(x2)に変更した「プロネクチンL」、「プロネクチンL2」、又は「プロネクチンL3」等。
【0077】
(3)最小アミノ酸配列(X)がYIGSR配列(x3)の場合
プロネクチンF、プロネクチンF2又はプロネクチンF3のRGD配列(x1)をYIGSR配列(x3)に変更した「プロネクチンY」、「プロネクチンY2」、又は「プロネクチンY3」等。
【0078】
細胞接着性ペプチド(D)は、人工的に合成されるもの(人工ポリペプチド)が含まれ、例えば、有機合成法(固相合成法、液相合成法等)及び生化学的合成法[遺伝子組換え微生物(酵母、細菌、大腸菌等)]等によって製造する。すなわち、細胞接着性ペプチド(D)としては、動物由来のコラーゲンやフィブロネクチン等の細胞接着性蛋白質を含まない。
【0079】
有機合成法に関しては、例えば、日本生化学会編「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)」第641〜694頁(昭和62年5月20日;株式会社東京化学同人発行)に記載されている方法等が用いられる。生化学的合成法に関しては、例えば、特表平3−502935号公報に記載されている方法等が用いられる。細胞接着性ペプチド(D)を容易に合成できる点で、遺伝子組換え微生物による生化学的合成法が好ましく、特に好ましくは遺伝子組換え大腸菌を用いて合成する方法である。
【0080】
細胞接着因子としては、細胞接着性の観点から、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、プロネクチンF及びプロネクチンFプラスからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0081】
本発明の細胞培養用基材において、細胞接着因子の含有量は、細胞接着性の観点から、細胞培養用基材の重量を基準として、0〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0〜5重量%である。
【0082】
本発明の細胞培養用基材の形状は、特に制限はなく、例えば、シート状、繊維状、ロッド状及び球状(ビーズ状等)等の形状が挙げられる。これらのうち、細胞培養に用いやすい観点から、シート状及び球状が好ましい。
シートである場合、シートの厚さとしては特に制限はないが、細胞培養のしやすさ及び分解性の観点から、0.5〜500nmのものが好ましく挙げられる。
【0083】
本発明の細胞培養用基材は、37℃における貯蔵弾性率G’が1000〜1×10
10Paであり、好ましくは1×10
4〜1×10
8である。貯蔵弾性率G’が1000Pa未満であると、細胞の接着性低下、接着細胞の形状変化が起こる問題がある。また、1×10
10Paを超えると、細胞培養用基材の作製が困難であり、また後述する分解剤(E)により分解されにくい問題がある。
貯蔵弾性率G’はレオメータにより測定した値である。
【0084】
本発明の細胞培養用基材の細胞培養表面における水(37℃)に対する接触角は、細胞接着性の観点から、20〜60°が好ましく、さらに好ましくは30〜50°である。
【0085】
本発明の細胞培養用基材の細胞培養表面における表面粗さ(Ra)は、細胞接着性の観点から、1μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0086】
本発明の細胞培養用基材の製造方法としては、例えば、多糖類(A)がカルボキシメチルセルロースであり、下記(1)〜(5)の工程を含むものが挙げられる。
(1)カルボキシメチルセルロース(以下において、CMCと略記する)を水に溶解させる工程。
(2)前記(1)で得られた基材に架橋剤(B)を添加し、架橋反応を進行させる工程。
(3)前記(2)で得られた基材をシート状、もしくはビーズ状に加工する工程。
(4)前記(3)で得られた基材を乾燥させ、水分を除去する工程。
(5)前記(4)で得られた基材に細胞接着性ペプチド(D)を修飾する工程。
【0087】
CMCを水に溶解させる方法としては、例えば攪拌機で水を撹拌しながら、CMCを添加する方法等が挙げられる。溶解液の均一さを確保するため、好ましくはCMCを徐々に添加する方法が含まれる。
【0088】
CMCを水に溶解させる攪拌方法としては、例えば撹拌子をスターラーで回す方法、撹拌羽で撹拌する方法、前記2つの方法にさらに加熱をする方法等が挙げられる。
CMC溶解液の粘度が高いため、撹拌羽で撹拌する方法が好ましく、さらに好ましくは加熱しながら撹拌羽で撹拌する方法である。
【0089】
架橋剤(B)の添加方法としては、例えば攪拌機でCMC溶解液を撹拌しながら、架橋剤(B)を添加する方法等が挙げられる。この場合、架橋剤(B)は一度に全量添加してもよく、ポンプ等を用いて徐々に添加してもよいが、架橋反応を均一に進行させる観点から、ポンプ等を用いて徐々に添加する方法が好ましい。
【0090】
架橋剤(B)添加後のCMC溶解液をシャーレ上に均一にシート状に加工する方法としては、例えば浸漬塗り、吹付、ローラー塗り及びスピンコート等が挙げられる。
生産性及びハンドリング性の観点から、浸漬塗りは好ましくなく、吹付、ローラー塗り及びスピンコートが好ましい。塗膜の均一性の観点から、より好ましくはローラー塗り、スピンコートである。塗布から乾燥までの効率の観点から、最も好ましくはスピンコートである。
【0091】
架橋剤(B)添加後のCMC溶解液をビーズ状に加工する方法としては、例えば、CMC溶液を乾燥後に物理的に粉砕して粒子状にする粉砕法及び架橋剤添加後のCMC溶解液を疎水性有機溶剤中に分散させる分散法等が挙げられる。
【0092】
粉砕法としては、まず、乾燥物を粗粉砕し、次いで微粉砕することが好ましい。この際ジェット気流中で衝突板に衝突させて粉砕したり、ジェット気流中で粒子同士を衝突させて粉砕したり、機械的に回転するローターとステーターの狭いギャップで粉砕する方式が好ましく用いられる。
【0093】
分級工程では、前記粉砕工程にて得られた粉砕物を分級し、所定粒径の粒子に調整する。分級は、例えば、サイクロン、デカンター及び遠心分離等により、微粒子部分を取り除くことにより行うことができる。
【0094】
分散法において、架橋剤(B)添加後のCMC溶解液を有機溶剤中に分散させる方法としては、逆相懸濁法等が挙げられ、粒子径の均一性、粒子の円形度及び粒子表面形状の滑らかさの観点から、逆相懸濁法による分散が好ましい。
疎水性有機溶媒は公知(特許第3363000号、特開2003−147005号公報記載)のものが使用でき、基本的に水に溶け難ければいかなるものも使用できる。その一例を挙げれば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン及びn−オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
分散剤としては、逆相懸濁重合分散剤として公知のものが使用でき、例えば、アニオン分散剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(特開平6−93008号公報記載)、モノアルキルリン酸塩(特開昭61−209201号公報記載のもの等)等)、ノニオン分散剤(ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物及びアルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物等)等が挙げられる。
【0095】
余分な水分を除去する方法としては特に限定されず、乾燥機を用いた乾燥方法があげられる。例えば、ディスクドライヤー、ターボドライヤー及びドラムドライヤー等の乾燥機を使用して乾燥する方法が挙げられる。
乾燥温度は、60〜230℃が好ましく、さらに好ましくは100〜200℃である。乾燥温度が、60℃以上であると、乾燥に長くの時間を必要とせずエネルギー消費量の点で経済的であり、一方、230℃以下であると、副反応や樹脂の分解などが起こらないので好ましい。乾燥雰囲気は常圧下でも減圧下(例えば500mmHg以下)でもよい。
【0096】
乾燥後の含水率は、貯蔵弾性率G‘が1000〜1×10
10Paになる水分量で規定される。貯蔵弾性率G‘が1000Pa未満では、細胞培養用基材の形状がビーズ状の場合、粒子同士が合着する問題がある。また、細胞培養用基材の形状がシート状の場合は他の材料と触れたときに変形又は接着する問題がある。
【0097】
貯蔵弾性率G‘が1000〜1×10
10Paになる水分量は、細胞培養用基材の重量を基準として、40重量%以下が好ましく、貯蔵弾性率を向上させる観点から、さらに好ましくは30重量%以下である。一方、水分量が減少しすぎると、体積収縮によって表面粗さRaが大きくなるため、10%重量以上がより好ましい。
【0098】
細胞接着性ペプチド(D)を細胞培養基材へ修飾する方法としては、(1)化学結合{共有結合、イオン結合及び/又は水素結合等}させる方法、(2)細胞接着ペプチド(D)を物理吸着(ファンデルワールス力による吸着)させる方法、並びに、(3)酵素修飾させる方法が挙げられる。
【0099】
化学結合する方法(1)としては、細胞接着性ペプチド(D)が有するの反応性基(−OH、−COOH、−NH−、−NH
2、−SH等)と多糖類(A)が有する反応性基(−OH、−COOH、−CHO、−C(=O)−、−NH−、−NH
2及び−SH等)を架橋することにより行われる方法等が挙げられる。
物理的吸着する方法(2)としては、所定濃度の細胞接着性ペプチド(D)を含有する溶液と細胞培養用基材とを所定時間共存させてることにより物理吸着させる方法等が挙げられる。
酵素修飾する方法(3)としては、グリコシドトランスフェラーゼ等の酵素を用いて細胞接着性ペプチド(D)に多糖類(A)を結合させる方法等が挙げられる。
【0100】
本発明の細胞の生産方法は、上記細胞培養用基材を用いて細胞(X)を培養する細胞の生産方法である。
【0101】
細胞(X)としては細胞であれば制限がないが、本発明の細胞培養用基材を用いると細胞増殖性が高いため、医薬品等の有用物質生産や治療等に用いられる哺乳動物由来の正常細胞、哺乳動物由来の株化細胞及び昆虫細胞が適している。
【0102】
哺乳動物由来の正常細胞としては、皮膚に関与する細胞(上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞等)、血管に関与する細胞(血管内皮細胞、平滑筋細胞及び線維芽細胞等)、筋肉に関与する細胞(筋肉細胞等)、脂肪に関与する細胞(脂肪細胞等)、神経に関与する細胞(神経細胞等)、肝臓に関与する細胞(肝細胞等)、膵臓に関与する細胞(膵ラ島細胞等)、腎臓に関与する細胞(腎臓細胞、腎上皮細胞、近位尿細管上皮細胞及びメサンギウム細胞等)、肺・気管支に関与する細胞(上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞等)、目に関与する細胞(視細胞、角膜上皮細胞及び角膜内皮細胞等)、前立腺に関与する細胞(上皮細胞、間質細胞及び平滑筋細胞等)、骨に関与する細胞(骨芽細胞、骨細胞及び破骨細胞等)、軟骨に関与する細胞(軟骨芽細胞及び軟骨細胞等)、歯に関与する細胞(歯根膜細胞及び骨芽細胞等)、血液に関与する細胞(白血球及び赤血球等)、及び幹細胞{例えば、骨髄未分化間葉系幹細胞、骨格筋幹細胞、造血系幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞(oval cell、small hepatocyte等)、脂肪組織幹細胞、iPS細胞、胚性幹(ES)細胞、表皮幹細胞、腸管幹細胞、精子幹細胞、胚生殖幹(EG)細胞、膵臓幹細胞(膵管上皮幹細胞等)、白血球系幹細胞、リンパ球系幹細胞、角膜系幹細胞等}、前駆細胞(脂肪前駆細胞、血管内皮前駆細胞、軟骨前駆細胞、リンパ球系前駆細胞、NK前駆細胞等)等}等が挙げられる。
【0103】
哺乳動物由来の株化細胞としては、CRFK細胞、3T3細胞、A549細胞、AH130細胞、B95−8細胞、BHK細胞、BOSC23細胞、BS−C−1細胞、C3H10T1/2細胞、C−6細胞、CHO細胞、COS細胞、CV−1細胞、F9細胞、FL細胞、FL5−1細胞、FM3A細胞、G−361細胞、GP+E−86細胞、GP+envAm12細胞、H4−II−E細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、HEp−2細胞、HL−60細胞、HTC細胞、HUVEC細胞、IMR−32細胞、IMR−90細胞、K562細胞、KB細胞、L細胞、L5178Y細胞、L−929細胞、MA104細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、MIA PaCG−2細胞、N18細胞、Namalwa細胞、NG108−15細胞、NRK細胞、OC10細胞、OTT6050細胞、P388細胞、PA12細胞、PA317細胞、PC−12細胞、PER.C6細胞、PG13細胞、QGH細胞、Raji細胞、RPMI−1788細胞、SGE1細胞、Sp2/O−Ag14細胞、ST2細胞、THP−1細胞、U−937細胞、V79細胞、VERO細胞、WI−38細胞、ψ2細胞、及びψCRE細胞等が挙げられる{細胞培養の技術(日本組織培養学会編集、株式会社朝倉書店発行、1999年)}。
【0104】
昆虫細胞としては、カイコ細胞(BmN細胞及びBoMo細胞等)、クワコ細胞、サクサン細胞、シンジュサン細胞、ヨトウガ細胞(Sf9細胞及びSf21細胞等)、クワゴマダラヒトリ細胞、ハマキムシ細胞、ショウジョウバエ細胞、センチニクバエ細胞、ヒトスジシマカ細胞、アゲハチョウ細胞、ワモンゴキブリ細胞及びイラクサキンウワバ細胞(Tn−5細胞、HIGH FIVE細胞及びMG1細胞等)等が挙げられる{昆虫バイオ工場(木村滋 編著、株式会社工業調査会 発行、2000年)。
【0105】
これらの細胞(X)のうち、医薬品等の有用物質生産や治療等の観点から、哺乳動物由来の正常細胞及び哺乳動物由来の株化細胞が好ましい。そして、治療に有用な点で、さらに好ましくは腎臓細胞、筋肉細胞、肝細胞、骨芽細胞、上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、幹細胞及び前駆細胞である。また、医薬品等の有用物質生産に有用な点で、さらに好ましくはCRFK細胞、3T3細胞、BHK細胞、CHO細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、L−929細胞、MDCK細胞、PER.C6細胞、VERO細胞及びWI−38細胞、特に好ましくはCRFK細胞、MDCK細胞及びVERO細胞である。
【0106】
本発明の細胞の生産方法に用いられる培地(ME)としては、無血清培地(STEMPRO hESC SFM17、TeSR 2、E8培地、hESF9培地、hESF−FX培地、hESF92ai、StemFit AK02N、S−medium、mTeSR
TM、Grace培地、IPL−41培地、Schneider’s培地、Opti−PRO
TMSFM培地、Opti−MEM
TMI培地、VP−SFM培地、CD293培地、293SFMII培地、CD−CHO培地、CHO−S−SFMII培地、FreeStyle
TM293培地、CD−CHO ATG
TM培地及びこれらの混合培地等);一般の培地(RPMI培地、MEM培地、Eagle’sMEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMEM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、ASF103培地、ASF104培地、ASF301培地、TC−100培地、Sf−900II培地、Ex−cell405培地、Express−Five培地、Drosophila培地及びこれらの混合培地);及びこれらの混合培地等が挙げられる。
【0107】
また、これらの培地には、血清を添加することができる。
血清としては、ヒト血清、及び動物血清(ウシ血清、ウマ血清、ヤギ血清、ヒツジ血清、ブタ血清、ウサギ血清、ニワトリ血清、ラット血清、及びマウス血清等)が含まれる。
血清を添加する場合、これらのうち、ヒト血清、ウシ血清、及びウマ血清が好ましい。また、動物血清の由来は、成体由来の血清、仔由来の血清、新生由来の血清、及び胎児由来の血清等が挙げられる。血清を添加する場合、これらのうち、仔由来の血清、新生由来の血清、及び胎児由来の血清が好ましく、さらに好ましくは新生由来の血清、及び胎児由来の血清、特に好ましくは胎児由来の血清である。血清を添加する場合、さらに血清は、非働化処理や、抗体の除去処理等を行ってもよい。
【0108】
血清を使用する場合、血清の使用量(重量%)は、培地の重量に基づいて、0.1〜50が好ましく、さらに好ましくは0.3〜30、特に好ましくは1〜20である。
【0109】
培地中には、必要に応じて、細胞増殖因子を含有させることができる。細胞増殖因子を含有させることにより、細胞の増殖速度を高めたり、細胞活性を高めたりすることができる。
【0110】
細胞増殖因子としては、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、上皮細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、インシュリン様増殖因子、血管内皮増殖因子、神経成長因子、幹細胞因子、白血病阻害因子、骨形成因子、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子、神経栄養因子、結合組織成長因子、アンジオポエチン、サイトカイン、インターロイキン、アドレナモジュリン及びナトリウム利尿ペプチド等の生理活性ペプチドが含まれる。これらのうち、適用できる細胞の範囲が広く、治癒期間がより短縮できるという観点から、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、インシュリン様増殖因子及び骨形成因子が好ましく、さらに好ましくは線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子及びインシュリン様増殖因子である。
【0111】
細胞増殖因子を使用する場合、細胞増殖因子の含有量(重量%)は細胞増殖因子の種類によって異なるが、培地の重量に基づいて、10
-16〜10
-3が好ましく、さらに好ましくは10
-14〜10
-5、特に好ましくは10
-12〜10
-7である。
【0112】
これらの培地には、さらに抗菌剤(アンホテリシンB、ゲンタマイシン、ペニシリン及びストレプトマイシン等)を含有させることができる。抗菌剤を含有させる場合、この含有量(重量%)は抗菌剤の種類によって異なるが、培地の重量に基づいて、10
-6〜10が好ましく、さらに好ましくは10
-5〜1、特に好ましくは10
-4〜0.1である。
【0113】
培地に分散させる細胞の濃度(個/mL)としては特に制限はないが、培地1mL当たり、100〜1億が好ましく、さらに好ましくは1000〜1千万、特に好ましくは1万〜100万である。
【0114】
細胞の個数の計数方法は公知の方法が使用でき、例えば、トリパンブルー又はクリスタルバイオレットを用いた細胞核計数法で測定することができる{細胞培養の技術(日本組織培養学会編集、株式会社朝倉書店発行、1999年)}。
また、培地に投入する細胞培養用基材の乾燥重量(g)は、培養する細胞の種類等によって適宜決定できるが、培地1L当たり、0.005〜800が好ましく、さらに好ましくは0.02〜200、特に好ましくは0.1〜40である。
【0115】
培養条件としては、特に制限は無く、二酸化炭素(CO
2)濃度1〜20体積%、5〜45℃で1時間〜100日間、必要に応じて1〜10日毎に培地交換しなら培養する条件等が適用できる。好ましい条件としては、CO
2濃度3〜10体積%、30〜40℃、1〜20日間、1〜3日毎に培地交換しながら培養する条件である。
【0116】
本発明の細胞の生産方法は、上記細胞培養用基材を用いて細胞(X)を培養するものであれば特に制限はないが、産業利用性の観点から、細胞培養用基材上で細胞(X)を培養後、分解剤(E)により細胞培養用基材を分解する工程を含んでいることが好ましい。
分解剤(E)としては、多糖類分解酵素(E1)、有機酸(E2)及び無機酸(E3)等が挙げられる。
これらのうち、多糖類分解酵素(E1)が好ましい。
多糖類分解酵素(E1)としては、多糖を分解する酵素として知られているものを制限なく使用でき、具体的には、セルラーゼ、アミラーゼ、デキストラナーゼ、カラギナーゼ、アルギン酸リアーゼ、ヒアルロニダーゼ、キチナーゼ及びキトサナーゼ等が挙げられる。
細胞培養用基材を分解剤(E)で分解することにより、増殖した細胞の形状を壊さずに細胞を回収することができるので、例えば、シート状、球状及び組織状の細胞を得ることができる。
【0117】
好ましい多糖類分解酵素(E1)としては、細胞培養用基材の分解性の観点から、細胞培養用基材を構成する架橋物(C)に用いられている多糖(A)により適宜選択されるが、具体的には下記の組み合わせが好ましい。
多糖(A){セルロース、カルボキシメチルセルロース及びその他のセルロース誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種}と分解剤(E){セルラーゼ}との組み合わせ。
多糖(A){デキストリン及びデキストリン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種}と分解剤(E){デキストラナーゼ}との組み合わせ。
多糖(A){カラギーナン及びカラギーナン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種}と分解剤(E){カラギナーゼ}との組み合わせ。
多糖(A){アルギン酸及びアルギン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種}と分解剤(E){アルギン酸リアーゼ}との組み合わせ。
多糖(A){ヒアルロン酸及びヒアルロン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種}と分解剤(E){ヒアルロニダーゼ}との組み合わせ。
多糖(A){キチン及びキチン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種}と分解剤(E){キチナーゼ}との組み合わせ。
多糖(A){キトサン及びキトサン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種}と分解剤(E){キトサナーゼ}との組み合わせ。
【0118】
分解剤(E)は分解剤(E)溶液として用いることができる。
分解剤(E)溶液中の分解剤(E)の濃度は、使用する分解剤(E)の種類及び細胞培養用基材を構成する架橋物(C)に用いられている多糖(A)の種類により適宜選択されるが、細胞毒性及び細胞培養用基材の分解性の観点から、分解剤(E)溶液の重量を基準として、0.1〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。
【0119】
細胞の生産方法として、好ましい具体例を以下に示す。
(1)一般的な細胞培養による細胞の生産方法
接着性細胞(X−1)を、上記細胞培養用基材を用いて所定期間培養する。培養後、分解剤(E)を用いて細胞培養基材から細胞を回収する。
(2)細胞シートの培養
接着性細胞(X−1)を、上記細胞培養用基材を用いて所定期間培養する。細胞がコンフルエントになった後、分解剤(E)を用いて細胞培養基材から細胞シートを回収する。
(3)細胞構成物の培養
接着性細胞(X−1)を、望ましい構造に成形した上記細胞培養用基材を用いて所定期間培養する。培養後、分解剤(E)により細胞培養基材を除去し、細胞構成物を得る。
【0120】
本発明の細胞培養用キットは、上記細胞培養用基材及び上記分解剤(E)を含むものである。
細胞培養用基材及び分解剤(E)として好ましいものは、上記と同様である。
また、分解剤(E)は上記分解剤(E)溶液としてキットに含まれていてもよい。
【実施例】
【0121】
以下に実施例として掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、以下において、特記しない限り部は重量部を、%は重量%を意味する。
【0122】
<実施例1>
撹拌装置を備えた容器に水800部を入れ、CMC(第一工業製薬(株)、「セロゲン F−SC」)を100部、撹拌(50rpm)しながらダマにならないように徐々に添加し、CMC溶解液を得た。その後、架橋剤(B)としてエポキシ基を有する化合物であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)、「デナコールEX−810」)100部を撹拌しながら添加した。
得られた溶液を直径70mmの円形ガラス板上スピンコーター((株)井元製作所製、「スピンコーター7094」)を用いて塗布し、100℃の乾燥機で架橋反応を進行させながら3時間乾燥させ、含水率20重量%のシート状(直径70mm、厚み0.1mm)の細胞培養用基材(1)を得た。得られた基材(1)の貯蔵弾性率G‘は10
8Paであった。
【0123】
<実施例2>
架橋剤(B)の添加量を「100部」に代えて「67部」とする以外は、実施例1と同様にして、含水率20重量%のシート状(直径70mm、厚み0.1mm)の細胞培養用基材(2)を得た。得られた基材(2)の貯蔵弾性率G‘は10
6Paであった。
【0124】
<実施例3>
架橋剤(B)の添加量を「100部」に代えて「50部」とする以外は、実施例1と同様にして、含水率20重量%のシート状(直径70mm、厚み0.1mm)の細胞培養用基材(3)を得た。得られた基材(3)の貯蔵弾性率G‘は10
4Paであった。
【0125】
<実施例4>
実施例2で得られた細胞培養用基材(2)を、細胞接着性ペプチド(D)であるプロネクチンF(配列番号(82)の配列を有するMw約11万のポリペプチド、三洋化成工業(株)製)を0.001重量%含有するPronectinF溶液(37℃)中に2時間浸漬し、物理的吸着によりPronectinFを表面に修飾した細胞培養用基材(4)を得た。
【0126】
<実施例5>
実施例2で得られた細胞培養用基材(2)を、フィブロネクチン(和光純薬工業(株)製、「Fibronectin Solution, from Human Plasma」)を0.001重量%含有するフィブロネクチン溶液(37℃)中に2時間浸漬し、物理的吸着によりフィブロネクチンを表面に修飾した細胞培養用基材(5)を得た。
【0127】
<実施例6>
実施例2で得られた細胞培養用基材(2)を、コラーゲン(新田ゼラチン(株)製、「Cell matrix Type I−A」)を0.3重量%含有するコラーゲン溶液(37℃、pH3)中に2時間浸漬し、物理的吸着によりコラーゲンを表面に修飾した細胞培養用基材(6)を得た。
【0128】
<比較例1>
架橋剤(B)を加えない以外は、実施例1と同様にして含水率20重量%のシート状(直径70mm、厚み0.1mm)の比較用の細胞培養用基材(1’)を得た。得られた基材(1’)の貯蔵弾性率G‘は800Paであった。
【0129】
<比較例2>
架橋剤(B)の添加量を「100部」に代えて「200部」とする以外は、実施例1と同様にして含水率20重量%の比較用の細胞培養用基材(2’)を得た。得られた基材(2’)の貯蔵弾性率G‘は1×10
11Paであった。なお、スピンコーターで成形する前にダマ状になってしまい、シート状に成形することができなかった。
【0130】
<比較例3>
細胞培養用96ウェルプレート(Nunc社製)を比較用の細胞培養用基材(3’)として用いた。
【0131】
<比較例4>
撹拌装置を備えた容器に、水800部を入れ、アルギン酸(和光純薬工業(株)製、「アルギン酸ナトリウム300〜400」)を2.4部、撹拌(800rpm)しながらダマにならないように徐々に添加し、アルギン酸溶解液を得た。得られた溶液を直径70mmの円形ガラス板上スピンコーター(株式会社 井元製作所製、「スピンコーター7094」)を用いて塗布し、1M塩化カルシウム溶液へ3時間浸漬させアルギン酸を架橋した。1M塩化カルシウム溶液から取り出し、100℃の乾燥機で1時間乾燥し、含水率20重量%のシート状(直径70mm、厚み0.1mm)の細胞培養用基材(4’)を得た。得られた基材(4’)の貯蔵弾性率G‘は900Paであった。
【0132】
<比較例5>
特開2001−321157の記載に準じてセルロースフィルム(Whatman社製、「純セルロースペーパー」)にフィブロネクチン(和光純薬工業(株)製、「Fibronectin Solution, from Human Plasma」)を修飾し、比較用の細胞培養用基材(5’)を得た。
【0133】
<細胞培養用基材の物性評価>
貯蔵弾性率G’:JIS K7244−10「プラスチック―動的機械特性の試験方法―第10部:平行平板振動レオメータによる複素せん断粘度」に準じて、粘弾性測定装置[機器名「ARES−24A」、レオメトリック(株)製]を用いて、37℃での貯蔵弾性率を測定した。
水(37℃)に対する接触角:JIS R3257に準拠して測定した。
表面粗さ(Ra):市販のカンチレバー及び原子間力顕微鏡[機器名「E−sweep」、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製]を用いて表面粗さを測定した。測定範囲を4μmとして、一定速度(0.3Hzから1.2Hz)で走査させ、高さ像(立体像)を計測した。JIS B0601に定義された方法に準じて、計測結果より表面粗さ(Ra)を算出した。
【0134】
<細胞毒性の評価:細胞生存率>
細胞培養用基材(1)〜(6)及び(1’)〜(5’)に3×10
5個/cm
2でVERO細胞を播種し、DMEM培地(10重量%FBSを含有)中で37℃、5体積%CO
2、湿潤条件(湿度100%RH)で培養した。24時間後、DMEM培地を除去し、分解剤(E)としてセルラーゼ(エンドラーゼ 5000L、ノボザイムズ社製)100倍希釈液を0.1ml添加し2時間、37℃、5体積%CO
2、湿潤条件(湿度100%RH)で培養した。2時間後、培養液に生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク(株)製)を10μl/100μlとDMEM培地(10重量%FBSを含有)を100μl添加し、1時間後450nm(参照波長600nm)を測定した。細胞生存率は分解剤(E)未添加のもの(ブランク)を細胞生存率100%として算出した。
また、比較例3の細胞培養基材(3)においては、「セルラーゼを0.1ml」に代えて「トリプシン/EDTA(Trypsin/EDTA Solution、Thermo製)を0.1ml」用いる以外は同様にして細胞生存率を評価した。
細胞生存率(%)=[サンプルの吸光度−ブランクの吸光度]/[未添加の吸光度−ブランクの吸光度]×100
【0135】
<細胞培養の評価:接着率>
細胞培養用基材(1)〜(6)及び(1’)〜(5’)に3×10
5個/cm
2でVERO細胞を播種し、DMEM培地(10重量%FBSを含有)中で37℃、5体積%CO
2、湿潤条件(湿度100%RH)で培養した。
2時間培養後、非接着の細胞をリン酸緩衝液(PBS)で洗浄して除去した。PBSを除去後、生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク(株)製)を10μl/100μlとDMEM培地(10重量%FBSを含有)を100μlを添加し、1時間後450nm(参照波長600nm)を測定した。非接着細胞の除去処理を行わなかったものを100%として細胞接着率を算出した。
【0136】
<細胞培養の評価:剥離時間>
細胞培養用基材(1)〜(6)及び(1’)〜(5’)に3×10
5個/cm
2でVERO細胞を播種し、DMEM(10%FBS)中で37℃、5体積%CO
2、湿潤条件(湿度100%RH)で培養した。
24時間後、細胞培養液に分解剤(E)としてセルラーゼ(エンドラーゼ 5000L、ノボザイムズ社製)100倍希釈液を添加し、経時的な細胞の剥離具合を確認し、細胞が完全に剥離した時間(分)を計測した。
【0137】
【表1】
【0138】
表1から、貯蔵弾性率G’が1000〜1×10
10Paの範囲内である実施例1〜6の細胞培養用基材は、細胞培養に適した形状に成形しやすいことがわかる。一方、貯蔵弾性率G’が10
11である比較例2の細胞培養用基材は、細胞培養に適した形状に成形できなかった。
また、実施例1〜6の細胞培養用基材は、細胞生存率及び細胞接着率が極めて高く、分解剤により分解されやすく、細胞の剥離時間が短いことから、細胞培養に極めて適していることがわかる。特に、実施例4〜6の細胞培養用基材の結果から、細胞接着因子を含有することで、細胞接着率を向上させることができることがわかる。一方、比較例1(架橋していないもの)及び4(金属架橋であるもの)の細胞培養用基材では、細胞生存率及び分解性は高いものの、細胞接着性が低く、細胞培養に適していないことがわかる。また、比較例3の細胞剥離にタンパク質分解酵素を使用する必要がある細胞培養用基材では、細胞毒性が高く、細胞生存率が低いことがわかる。また、比較例5(セルロース)の細胞培養用基材は、貯蔵弾性率が5×10
10と高すぎるため、分解剤により分解されにくく、細胞を剥離するのに長時間かかることがわかる。