(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0022】
本開示のジフルオロリン酸リチウムの製造方法(以下、「本開示の製造方法」ともいう)は、下記式(I)で表されるボロキシン化合物と、ヘキサフルオロリン酸リチウムと、を反応させることにより、ジフルオロリン酸リチウムを得る反応工程を有する。
【0024】
式(I)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、無置換のアリール基又は炭素数1〜12の脂肪族基を表す。
【0025】
反応工程では、式(I)で表されるボロキシン化合物と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)と、を反応させることにより、以下の反応スキームによってジフルオロリン酸リチウム(LiPO
2F
2)が生成される。
【0027】
反応工程では、反応副生成物(LiF、Li
2PO
3F、等)の生成が抑制され、ジフルオロリン酸リチウムの質量分率が高い反応生成物が得られる。
このため、本開示の製造方法によれば、ジフルオロリン酸リチウムを高収率で製造できる。
本明細書中では、反応生成物中におけるジフルオロリン酸リチウムの質量分率を、「ジフルオロリン酸リチウムの純度」と称することがある。
【0028】
反応工程において、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)と反応させる式(I)で表されるボロキシン化合物は、以下のとおりである。
【0030】
式(I)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、無置換のアリール基又は炭素数1〜12の脂肪族基を表す。
【0031】
式(I)中、R
1、R
2、及びR
3で表される無置換のアリール基としては、それぞれ独立に、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基などが挙げられるが、フェニル基が好ましい。
【0032】
式(I)中、R
1、R
2、及びR
3で表される炭素数1〜12の脂肪族基は、それぞれ独立に、直鎖状の脂肪族基であってもよいし、分岐状の脂肪族基であってもよいし、環状構造を有する脂肪族基であってもよい。
式(I)中、R
1、R
2、及びR
3で表される炭素数1〜12の脂肪族基は、それぞれ独立に、飽和脂肪族基(即ち、アルキル基)であってもよいし、不飽和脂肪族基(即ち、アルケニル基又はアルキニル基)であってもよい。
【0033】
R
1、R
2、及びR
3で表される炭素数1〜12の脂肪族基の具体例としては、
メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、1−エチルプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−メチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などの、直鎖状又は分岐状の飽和脂肪族基(即ち、アルキル基);
ビニル基、1−プロペニル基、アリル基(2−プロペニル基)、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、ヘキセニル基、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基(プロパルギル基と同義)、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−メチル−3−ブチニル基、2−メチル−3−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、1,1−ジメチル−2−プロピニル、1,1−ジメチル−2−ブチニル基、1−ヘキシニル基などの、直鎖状又は分岐状の不飽和脂肪族基(即ち、アルケニル基又はアルキニル基);
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、1−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基などの、環状構造を有する脂肪族基;
などが挙げられる。
【0034】
R
1、R
2、及びR
3で表される炭素数1〜12の脂肪族基としては、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、又はシクロヘキシル基が好ましく、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0035】
式(I)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、又はフェニル基であることがより好ましい。メチル基又はフェニル基であることが更に好ましい。
【0036】
式(I)で表されるボロキシン化合物として、特に好ましくは、下記式(I−1)又は下記式(I−2)で表される化合物である。
【0038】
式(I)で表されるボロキシン化合物は、例えば、後述の式(II)で表されるボロン酸化合物を脱水反応させることによって得られる。
後述の式(II)で表されるボロン酸化合物を1種のみ用い、これを脱水反応させた場合には、R
1、R
2、及びR
3が同一である態様の式(I)で表されるボロキシン化合物が生成される。
後述の式(II)で表されるボロン酸化合物を2種以上用い、これらを脱水反応させた場合には、R
1、R
2、及びR
3が異なる態様の式(I)で表されるボロキシン化合物が、1種又は2種以上生成される。
ここで、「R
1、R
2、及びR
3が異なる」との概念には、R
1、R
2、及びR
3が互いに異なる状態だけでなく、R
1、R
2、及びR
3のうちの2つが同一であり、残りの1つが他の2つと異なる状態も包含される。
【0039】
反応工程では、式(I)で表されるボロキシン化合物の1種と、ヘキサフルオロリン酸リチウムと、を反応させてもよいし、式(I)で表されるボロキシン化合物の2種以上と、ヘキサフルオロリン酸リチウムと、を反応させてもよい。
ジフルオロリン酸リチウムの収率をより向上させる観点から、反応工程では、式(I)で表されるボロキシン化合物の1種と、ヘキサフルオロリン酸リチウムと、を反応させることが好ましい。
【0040】
反応工程における反応は、溶媒の存在下で行うことができる。
反応工程における反応を溶媒の存在下で行う具体的な態様としては特に限定はないが、
ヘキサフルオロリン酸リチウムを溶媒に溶解させた溶液に対し、式(I)で表されるボロキシン化合物を添加する態様、又は、
式(I)で表されるボロキシン化合物を溶媒に溶解させた溶液に対し、ヘキサフルオロリン酸リチウムを添加する態様
が好ましい。
【0041】
溶媒としては、例えば、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トルエン、キシレン(オルト、メタ、パラ)、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン(キュメン)、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、メシチレンメチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン等の溶媒が挙げられる。
【0042】
反応工程における反応は、常圧下又は減圧下で行うことができる。
反応工程における反応は、ジフルオロリン酸リチウムの生成を阻害する成分(例えば水分)の混入を防ぐ観点から、不活性雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、等)で行うことが好ましい。
【0043】
反応工程における反応温度は、20℃〜150℃であることが好ましく、20℃〜100℃であることがより好ましく、20℃〜60℃であることがさらに好ましい。
反応温度が20℃以上であると、ジフルオロリン酸リチウムの生成が促進されやすい。
反応温度が150℃以下であると、生成したジフルオロリン酸リチウムの分解が抑制され、生成率が向上しやすい。
【0044】
反応工程における反応時間は、反応を効率よく進行させる観点から、30分〜12時間であることが好ましく、1時間〜8時間であることがより好ましい。
【0045】
反応工程で得られたジフルオロリン酸リチウムを取り出す方法については特に制限はない。
例えば、反応工程により、ジフルオロリン酸リチウムが溶媒に分散されたスラリーが得られた場合には、スラリーから溶媒を分離し、乾燥させることにより、ジフルオロリン酸リチウムを取り出すことができる。
また、反応工程により、ジフルオロリン酸リチウムが溶媒に溶解された溶液が得られた場合には、加熱濃縮等によって溶液から溶媒を留去することによってジフルオロリン酸リチウムを取り出すことができる。
また、反応工程により、ジフルオロリン酸リチウムが溶媒に溶解された溶液が得られた場合には、溶液に対し、ジフルオロリン酸リチウムが溶解しない溶媒を加えることによってジフルオロリン酸リチウムを析出させ、次いで溶液から溶媒を分離し、乾燥させることにより、ジフルオロリン酸リチウムを取り出すこともできる。
【0046】
取り出されたジフルオロリン酸リチウムの乾燥方法としては、従来公知の方法を任意に選択し実施することができる。乾燥方法としては、例えば、棚段式乾燥機での静置乾燥法;コニカル乾燥機での流動乾燥法;ホットプレート、オーブン等の装置を用いて乾燥させる方法;ドライヤーなどの乾燥機で温風又は熱風を供給する方法;等が挙げられる。
【0047】
取り出されたジフルオロリン酸リチウムを乾燥する際の圧力は、常圧、減圧のいずれであってもよい。
取り出されたジフルオロリン酸リチウムを乾燥する際の温度は、20℃〜150℃であることが好ましく、20℃〜100℃であることがより好ましく、20℃〜60℃であることがさらに好ましい。
温度が20℃以上であると乾燥効率に優れる。
温度が150℃以下であると、ジフルオロリン酸リチウムを安定して取り出しやすい。
【0048】
取り出されたジフルオロリン酸リチウムは、そのまま用いてもよいし、例えば、溶媒中に分散又は溶解させて用いてもよいし、他の固体物質と混合して用いてもよい。
【0049】
本開示の製造方法は、更に、上述した反応工程の前に、下記式(II)で表されるボロン酸化合物を脱水反応させることにより、前述の式(I)で表されるボロキシン化合物を得る工程(本明細書中では、「工程A」ともいう)を有していてもよい。
本開示の製造方法が工程Aを有する場合、反応工程では、工程Aで得られた式(I)で表されるボロキシン化合物と、ヘキサフルオロリン酸リチウムと、を反応させる。
但し、工程Aは、任意の工程である。即ち、本開示の製造方法では、予め準備しておいた式(I)で表されるボロキシン化合物を用いて反応工程を実施してもよい。
【0051】
式(II)中、R
0は、無置換のアリール基又は炭素数1〜12の脂肪族基を表す。
【0052】
式(II)中のR
0の好ましい形態は、式(I)中のR
1の好ましい形態と同様である。
【0053】
式(II)で表されるボロン酸化合物としては、メチルボロン酸、エチルボロン酸、イソプロピルボロン酸、又はフェニルボロン酸が好ましく、メチルボロン酸又はフェニルボロン酸が更に好ましい。
ここで、メチルボロン酸は、下記式(II−1)で表される化合物であり、フェニルボロン酸は、下記式(II−2)で表される化合物である。
【0055】
工程Aでは、式(II)で表されるボロン酸化合物の1種を脱水反応させてボロキシン化合物を得てもよいし、式(II)で表されるボロン酸化合物の2種以上を脱水反応させてボロキシン化合物を得てもよい。
式(II)で表されるボロン酸化合物の2種以上を脱水反応させた場合には、式(I)で表されるボロキシン化合物の2種以上が生成される場合がある。
【0056】
工程Aは、溶媒の存在下で実施してもよい。
工程Aで用い得る溶媒としては、反応工程で用い得る溶媒と同様のものが挙げられる。
【0057】
工程A及び反応工程の各々を溶媒の存在下で行う場合、工程Aにおける溶媒と、反応工程における溶媒と、は同種であっても異種であってもよいが、ジフルオロリン酸リチウムの製造効率の観点から、同種であることが好ましい。
【0058】
本開示の製造方法が工程Aを有する場合において、ジフルオロリン酸リチウムの生産性の観点からみた特に好ましい形態は、工程Aにおいて、式(II)で表されるボロン酸化合物を溶媒(以下、溶媒Aともいう)の存在下で脱水反応させることにより、式(I)で表されるボロキシン化合物を含む溶液を得、次いで、反応工程において、この溶液にヘキサフルオロリン酸リチウムを添加することにより、溶媒Aの存在下、式(I)で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとを反応させる形態である。
【0059】
以上で説明した、本開示の製造方法は、特にリチウムイオン電池(好ましくはリチウムイオン二次電池)用非水電解液に添加される添加剤としてのジフルオロリン酸リチウムの製造に好適である。
即ち、本開示の製造方法によれば、ジフルオロリン酸リチウムを収率よく製造できるため、ジフルオロリン酸リチウムの生産性が向上する。
本開示の製造方法によって製造されたジフルオロリン酸リチウムは、非水電解液に添加した場合に、電池特性の向上に寄与することが期待される。
【実施例】
【0060】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
以下、「工程A」は、前述のとおり、反応工程の前に設けられる、式(II)で表されるボロン酸化合物を脱水反応させることにより式(I)で表されるボロキシン化合物を得る工程である。
【0061】
〔実施例1〕(工程A無し)
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、及び排気ラインを備えた100mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、トリフェニルボロキシン(即ち、前述の式(I−2)で表される化合物)6.85g(0.022mol)とジメチルカーボネート50gとを入れ、室温(25℃)で攪拌することにより、トリフェニルボロキシンを溶解させた。得られた溶液中に、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.00g(0.033mol)を加えた。得られた液体を加熱し、60℃に到達してから1時間撹拌することにより、トリフェニルボロキシンとヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応を行った(反応工程)。
上記1時間の攪拌によって得られた反応液は、固体が析出したスラリーであった。このスラリーを室温(25℃。以下同じ。)まで冷却した後、濾過により固体(ウェットケーキ)を別け取った。得られたウェットケーキを、10kPa以下の減圧下、60℃で乾燥させることにより、固体生成物3.50gを得た。
【0062】
得られた固体生成物を分析し、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO
2F
2)の純度(即ち、固体生成物中におけるLiPO
2F
2の質量分率(質量%))を求めたところ、100質量%であった。
また、LiPO
2F
2の収率は、98.3モル%であった(表1参照)。
ここで、LiPO
2F
2の純度及び収率は以下のようにして求めた。
【0063】
(LiPO
2F
2の純度)
得られた固体生成物を重水溶媒に溶解し、得られた溶液について
19F−NMR分析を行い、得られた
19F−NMRスペクトルの積分値に基づき、質量基準の百分率法によりLiPO
2F
2の純度を算出した。
19F−NMRスペクトルの帰属は以下の通りである。
LiPF
6:−71.4ppm、−73.3ppm(分子量:151.9、F数:6)
Li
2PO
3F:−75.0ppm、−77.5ppm(分子量:111.9、F数:1)
LiPO
2F
2:−81.0ppm、−83.5ppm(分子量:107.9、F数:2)
LiF :−120.0ppm(分子量:25.9、F数:1)
その他の成分:その他のピーク(分子量及びF数は、それぞれ、LiPF
6の分子量及びF数と同じと仮定)
【0064】
19F−NMR分析で得られた
19F−NMRスペクトルから、固体生成物中における各化合物について、それぞれ、上記帰属並びに下記式(a)及び下記式(b)により、質量分率(質量%)を求めた。固体生成物中におけるLiPO
2F
2の質量分率(質量%)を純度とした。
以下では、特定の1種の化合物を、「化合物X」とする。式(b)における「各化合物の質量部の総和」は、式(a)により各化合物の質量部を個別に求め、得られた各化合物の質量部を合計することによって求める。
(化合物Xに由来するピークの積分値/化合物XのF数)×(化合物Xの分子量)=(化合物Xの質量部) … 式(a)
(化合物Xの質量部)/(各化合物の質量部の総和)×100=化合物Xの質量分率(%) … 式(b)
【0065】
(LiPO
2F
2の収率)
得られた固体生成物の質量に、上記で算出された純度を乗じてLiPO
2F
2の質量を求めた。このLiPO
2F
2の質量からLiPO
2F
2のモル数を算出し、得られた値をモル数1とした。
次に、原料として仕込んだLiPF
6の質量からLiPF
6のモル数を算出し、得られた値をモル数2とした。
LiPO
2F
2の収率(モル%)は、モル数2に対するモル数1の割合((モル数1/モル数2)×100)として求めた。
【0066】
〔実施例2〕(工程A有り)
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、排気ライン、及び、ディーンシュターク管を備えた100mLのフラスコを準備した。ディーンシュターク管には、生成水の除去用のトルエンを満たした。
上記100mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、フェニルボロン酸(即ち、式(II−2)で表される化合物)8.05g(0.066mol)と、トルエン70gと、を入れ、得られた液体を撹拌しながら加熱した。更に、100〜110℃の温度でトルエンが還流する状態が維持されるようにして、液体の加熱及び撹拌を続けた。還流するトルエンに水の同伴留去が無くなった段階で加熱を止め、液体を室温(25℃)まで冷却した。以上により、フェニルボロン酸の脱水反応を行い、トリフェニルボロキシン(即ち、式(I−2)で表される化合物)を生成させた(以上、工程A)。
上記で冷却された液体に、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.00g(0.033mol)を加え、再度加熱を行い、60℃で1時間撹拌することにより、フェニルボロン酸の脱水反応生成物であるトリフェニルボロキシンと、ヘキサフルオロリン酸リチウムと、の反応を行った(反応工程)。
上記1時間の攪拌によって得られた反応液は、固体が析出したスラリーであった。このスラリーを室温(25℃)まで冷却した後、濾過により固体(ウェットケーキ)を別け取った。次いで、得られたウェットケーキを10kPa以下の減圧下、60℃で乾燥させることにより、固体生成物3.28gを得た。
【0067】
得られた固体生成物について、実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの純度及び収率を求めた。
その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は100質量%であり、ジフルオロリン酸リチウムの収率は92.1モル%であった(表1参照)。
【0068】
〔実施例3〕(工程A無し)
トリフェニルボロキシン(即ち、前述の式(I−2)で表される化合物)6.85g(0.022mol)を、トリメチルボロキシン(即ち、前述の式(I−1)で表される化合物)2.76g(0.022mol)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
得られた固体生成物の質量は3.52gであり、ジフルオロリン酸リチウムの純度は100質量%であり、ジフルオロリン酸リチウムの収率は98.8モル%であった(表1参照)。
【0069】
〔実施例4〕(工程A有り)
フェニルボロン酸(即ち、式(II−2)で表される化合物)8.05g(0.066mol)を、メチルボロン酸(即ち、式(II−1)で表される化合物)1.80g(0.066mol)に変更したこと以外は実施例2と同様の操作を行った。
得られた固体生成物の質量は3.32gであり、ジフルオロリン酸リチウムの純度は100質量%であり、ジフルオロリン酸リチウムの収率は93.2モル%であった(表1参照)。
なお、本実施例4の工程Aでは、メチルボロン酸の脱水反応を行い、トリメチルボロキシン(即ち、式(I−1)で表される化合物)を生成させた。
【0070】
〔比較例1〕
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、及び排気ラインを備えた100mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、ヘキサメチルジシロキサン10.72g(0.066mol)とジメチルカーボネート50gとを入れ、室温(25℃)で攪拌して混合させた。得られた溶液中に、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.00g(0.033mol)を加えた。得られた液体を加熱し、60℃に到達してから1時間撹拌することにより、ヘキサメチルジシロキサン[(CH
3)
3O−Si−O(CH
3)
3]とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応を行った。
上記1時間の攪拌によって得られた反応液は、固体が析出したスラリーであった。このスラリーを室温(25℃)まで冷却した後、濾過により固体(ウェットケーキ)を別け取った。次いで、得られたウェットケーキを10kPa以下の減圧下、60℃で乾燥させることにより、固体生成物3.29gを得た。
【0071】
得られた固体生成物について、実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの純度及び収率を求めた。
その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は96.1質量%であり、ジフルオロリン酸リチウムの収率は88.8モル%であった。固体生成物には、反応副生成物として、LiFが3.9質量%含まれていた(以上、表1参照)。
【0072】
〔比較例2〕
温度計、圧力計、ガスの導入ラインおよび排気ラインを備えた200mLのハステロイC製密閉反応容器(以下、単に「反応容器」ともいう)を、乾燥窒素ガスでパージされたグローブボックス内に入れた。グローブボックス内において、反応容器中に、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.0g(0.033mol)、五酸化二リン(P
2O
5)3.1g(0.022mol)、及びリン酸トリリチウム(Li
3PO
4)2.5g(0.022mol)の各粉体をマグネチックスターラーの攪拌子と共に入れ、反応容器に蓋をして密閉した。次に、この反応容器をグローブボックスから取り出し、スターラーで300rpm、1時間撹拌混合を行った。
上記1時間撹拌混合後の反応容器を加熱し、200℃で8時間反応させることにより、LiPO
2F
2を含む粗生成物を得た。
【0073】
上記8時間の反応後の反応容器を室温(25℃)まで冷却し、次いで反応容器の内部を窒素ガスでパージした。窒素ガスでパージされた反応容器を、乾燥窒素ガスでパージされたグローブボックス内に入れ、反応容器の蓋を開けた。
次に、反応容器内に酢酸エチル150gを入れ、反応容器に蓋をしてグローブボックスから取り出し、60℃に加熱しながらスターラーで300rpm、1時間撹拌を行うことにより、上記粗生成物が溶解した溶液を得た。
【0074】
その後、直ちに反応容器の蓋を開け、反応容器内の溶液(即ち、粗生成物が溶解した溶液)を、フィルターを備えた濾過器に注ぎ、減圧濾過により溶媒不溶の固形分(不純物)を濾別し、溶液(濾液)を回収した。回収した溶液を、エバポレーターで溶媒留去することにより、LiPO
2F
2を含むウェットケーキを得た。このウェットケーキを、60℃、10kPa以下にて減圧乾燥することにより、乾燥後質量で8.60gの固体生成物を得た。
【0075】
得られた固体生成物について、実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの純度及び収率を求めた。
その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は95.2質量%であり、ジフルオロリン酸リチウムの収率は76.6モル%であった。固体生成物には、反応副生成物として、モノフルオロリン酸リチウム(Li
2PO
3F)(3.5質量%)、LiF(0.6質量%)、及びその他の生成物(0.7質量%)が含まれていた(以上、表1参照)。
【0076】
下記表1に、以上の実施例及び比較例の結果をまとめた。
以下において、(I−1)、(I−2)、(II−1)、及び(II−2)は、それぞれ、(I−1)で表される化合物、(I−2)で表される化合物、(II−1)で表される化合物、及び(II−2)で表される化合物を意味する。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、式(I)で表されるボロキシン化合物((I−1)、(I−2))と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)と、を反応させた実施例1〜4では、比較例1及び2と比較して、目的物であるジフルオロリン酸リチウム(LiPO
2F
2)が高収率で得られた。
なお、実施例1〜4における収率が100モル%でない理由は、原料の一部が揮発することにより、ロスが生じたためと考えられる。実施例2及び4の収率が実施例1及び2よりも低い理由は、実施例2及び4では、出発物質としてボロキシン化合物((I−1)、(I−2))ではなく、ボロン酸化合物((II−1)、(II−2))を用いたことにより、実施例1及び2と比較して、原料の揮発によるロスが大きくなったためと考えられる。