特許第6912992号(P6912992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912992
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】細胞賦活剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20210727BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20210727BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210727BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20210727BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20210727BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20210727BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   A61K38/08
   A61K8/64ZNA
   A61P43/00 107
   A61P17/02
   A61K38/16
   A61Q19/00
   C07K7/06
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-200013(P2017-200013)
(22)【出願日】2017年10月16日
(65)【公開番号】特開2019-73469(P2019-73469A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼介
(72)【発明者】
【氏名】川端 慎吾
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−177452(JP,A)
【文献】 特開2014−148502(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129541(WO,A1)
【文献】 特開2014−062048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/08
A61P 43/00
A61P 17/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列としてVGVPG配列(1)を必須部分として含み、VGVPG配列(1)のN末端又はC末端に少なくとも1個のアミノ酸を有するポリペプチド(A)を含有し、
アミノ酸配列がGVGVPGAGAGS配列(2)であるポリペプチド(A)を含有する細胞賦活剤。
【請求項2】
ポリペプチド(A)のゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)による分子量 が0.4
〜200kDaである請求項に記載の細胞賦活剤。
【請求項3】
細胞賦活剤の重量に基づいて、ポリペプチド(A)の含有量が 0.000000001〜30重量%である請求項1または2に記載の細胞賦活剤。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の細胞賦活剤を含む創傷治癒剤。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の細胞賦活剤を含む化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞賦活剤に関する。詳しくは、細胞の遊走や増殖を促進する作用を有し、創傷治癒や皮膚状態の改善に適した細胞賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷治癒や皮膚状態の改善は、炎症細胞や繊維芽細胞等の移動、増殖、新たな血管の形成及び細胞間質の蓄積等のような組織反応が順次起こることによりなされる。
このような創傷治癒や皮膚状態の改善に関連した一連の過程は、損傷部位組織の種々の細胞、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)上皮成長因子(EGF)等の多様な種類のサイトカイン及びコラーゲン、フィブロネクチン及びプロテオグリカン等のような細胞間質等の相互作用によりなされている。
【0003】
近年、創傷治癒や皮膚状態の改善を促進する為の組成物として上述したサイトカインを含む組成物等が開発されている。
例えば、線維芽細胞増殖因子は繊維芽細胞の増殖を促進することにより、創傷治癒や皮膚状態の改善を促進するものとして知られており、これを利用した創傷治療剤等が開発されている(特許文献1)。
一般的に、上述の線維芽細胞増殖因子のような多数のアミノ酸からなるタンパク質(ペプチド)は生体内に投与すれば、代謝されてペプチド結合が切断され、医薬品や化粧品等として製品化する段階で分解され易い短所がある。
【0004】
従って、ペプチドの長さをなるべく短くして分解されにくくするのが好ましいものの、その活性は維持されなければならないので、細胞賦活活性を有する最小アミノ酸配列を見出すことは有益な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5155214号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、繊維芽細胞遊走能及び増殖能に優れ、創傷の治癒や皮膚状態の改善を促進することができる細胞賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、アミノ酸配列としてVGVPG配列(1)を必須部分として含み、VGVPG配列(1)のN末端又はC末端に少なくとも1個のアミノ酸を有するポリペプチド(A) を含有する細胞賦活剤;並びにこの細胞賦活剤を含む創傷治癒剤及び化粧料である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の細胞賦活剤は、繊維芽細胞遊走能及び増殖能に優れ、細胞を賦活化させることで創傷の治癒や皮膚状態の改善を促進するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の細胞賦活剤について具体的な実施形態を示しながら説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0010】
本発明の細胞賦活剤は、アミノ酸配列としてVGVPG配列(1)を必須部分として含み、VGVPG配列(1)のN末端又はC末端に少なくとも1個のアミノ酸を有するポリペプチド(A) を含有する。
本発明の細胞賦活剤が、上記構成であることにより、繊維芽細胞遊走能及び増殖能に優れ、細胞を賦活化させることができる。したがって、創傷の治癒や皮膚状態の改善を促進することが期待される。
【0011】
本発明において、細胞賦活剤とは細胞賦活性を高めるものであり、細胞賦活性とは細胞の繊維芽細胞遊走能や増殖能を高める性能である。
【0012】
まず、本発明の細胞賦活剤に含有されるポリペプチド(A)について説明する。
ポリペプチド(A)は、天然物からの抽出、有機合成法(酵素法、固相合成法及び液相合成法等)及び遺伝子組み換え法等によって得られる。
有機合成法に関しては、「生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」又は「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)(昭和62年5月20日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」に記載されている方法等が適用できる。
遺伝子組み換え法に関しては、特許第3338441号公報に記載されている方法等が適用できる。
天然物からの抽出、有機合成法及び遺伝子組み換え法はともに、ポリペプチド(A)を得られるが、アミノ酸配列を簡便に変更でき、安価に大量生産できるという観点等から、遺伝子組み換え法が好ましい。
【0013】
ポリペプチド(A)はアミノ酸配列としてVGVPG配列(1)を必須部分として含み、VGVPG配列(1)のN末端又はC末端に少なくとも1個のアミノ酸を有するポリペプチド(A) である。
また、ポリペプチド(A)は、細胞賦活性の向上の観点から、上記アミノ酸配列を1〜200個有することが好ましく、さらに好ましくは1〜150個であり、1〜100個有することが特に望ましい。
【0014】
ポリペプチド(A)が、VGVPG配列(1)のアミノ酸配列を2個以上有する場合、各アミノ酸配列は同一でも異なっていてもよい。
また、同一のアミノ酸配列を複数含む場合、連続していてもよい。具体的には、(VGVPG)配列を含むものであってもよい。
なお、上記においてaは、アミノ酸配列の連続する個数であり、2〜200の整数である。
アミノ酸配列が連続する個数のaは、細胞賦活性の向上の観点から、2〜100が好ましく、さらに好ましくは2〜50であり、特に好ましくは2〜10である。
【0015】
また、ポリペプチド(A)において、アミノ酸配列が連続するものである場合、VGVPG配列(1)のアミノ酸配列の連続する個数のaは、同一でも異なっていてもよい。
【0016】
また、ポリペプチド(A)としては、細胞賦活性の向上の観点から、アミノ酸配列としてGVGVPGAGAGS配列(2)を含むポリペプチドが好ましい。
さらに、ポリペプチド(A)は、GVGVPGAGAGS配列(2)を1〜50個有していることが好ましく、1〜40個有することがさらに好ましく、1〜20個有することが最も好ましい。
【0017】
また、ポリペプチド(A)が、GVGVPGAGAGS配列(2)を2個以上有する場合、GVGVPGAGAGS配列(2)は連続していてもよい。具体的には、ポリペプチド(A)は(GVGVPGAGAGS)配列を含むものであってもよい。
なお、上記においてbはGVGVPGAGAGS配列(2)の連続する数であり、整数である。
GVGVPGAGAGS配列(2)が連続する数は、細胞賦活性の向上の観点から、bは2〜30が好ましく、さらに好ましくは2〜10である。
【0018】
ポリペプチド(A)は、さらに、VGVPG配列(1)及びGVGVPGAGAGS配列(2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列同士の間に、介在アミノ酸配列(Z)を有していてもいい。
介在アミノ酸配列(Z)は、アミノ酸1個又はアミノ酸が2個以上結合したアミノ酸配列である。介在アミノ酸配列(Z)を構成するアミノ酸の数は、細胞及び組織への親和性の観点から、1〜30個が好ましく、さらに好ましくは1〜15個、特に好ましくは1〜10個である。
介在アミノ酸配列(Z)の具体例としては、VAAGY配列(5)、GAAGY配列(6)及びLGP配列(7)等が挙げられる。
【0019】
ポリペプチド(A)のN末端及び/又はC末端には、末端アミノ酸配列(S)があってもよい。
末端アミノ酸配列(S)は、アミノ酸1個又はアミノ酸が2個以上結合したペプチド配列である。末端アミノ酸配列(S)を構成するアミノ酸の数は、細胞及び組織への親和性の観点から、1〜100個が好ましく、さらに好ましくは1〜50個、特に好ましくは1〜40個である。
末端アミノ酸配列(S)の具体例としては、MDPVVLQRRDWENPGVTQLNRLAAHPPFASDPM配列(8)等が挙げられる。
【0020】
ポリペプチド(A)は、上記の末端アミノ酸配列(S)以外に、発現させたポリペプチド(A)の精製又は検出を容易にするために、ポリペプチド(A)のN末端及び/又はC末端に特殊なアミノ酸配列を有するタンパク質又はペプチド(以下、これらを「精製タグ」と称する)を有してもいい。
【0021】
精製タグとしては、アフィニティー精製用のタグが利用される。そのような精製タグとしては、ポリヒスチジンからなる6×Hisタグ、V5タグ、Xpressタグ、AU1タグ、T7タグ、VSV−Gタグ、DDDDKタグ、Sタグ、CruzTag09TM、CruzTag22TM、CruzTag41TM、Glu−Gluタグ、Ha.11タグ及びKT3タグ等がある。
【0022】
以下に、各精製タグ(i)とそのタグを認識結合するリガンド(ii)との組み合わせの一例を示す。
(i−1)グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GTS)と(ii−1)グルタチオンとの組み合わせ
(i−2)マルトース結合タンパク質(MBP)と(ii−2)アミロースとの組み合わせ
(i−3)HQタグと(ii−3)ニッケルとの組み合わせ
(i−4)Mycタグと(ii−4)抗Myc抗体との組み合わせ
(i−5)HAタグと(ii−5)抗HA抗体との組み合わせ
(i−6)FLAGタグと(ii−6)抗FLAG抗体との組み合わせ
(i−7)6×Hisタグと(ii−7)ニッケル又はコバルトとの組み合わせ
【0023】
前記の精製タグ配列の導入方法としては、発現用ベクターにおけるポリペプチド(A)をコードする核酸の5’又は3’末端に精製タグをコードする核酸を挿入する方法や市販の精製タグ導入用ベクターを使用する方法等が挙げられる。
【0024】
ポリペプチド(A)のゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)による分子質量は、細胞賦活性の向上の観点から、0.4〜200kDaが好ましく、さらに好ましくは0.4〜120kDaである。
【0025】
なお、GPC法による分子質量の測定条件は以下の通りである。
装置:ACQUITY UPLCシステム
カラム:Shodex OHpak SB−806M HQ
移動相:0.15M リン酸緩衝液 pH7.0
流速:0.5ml/min
検出器:ACQUITY UPLC RID検出器
温度:40℃
【0026】
本発明の細胞賦活剤として有用なポリペプチド(A)の例としては、(i)VGVPG配列(1)を含むポリペプチドである。
(i)のうち、さらに好ましい例としては、(ii)GVGVPGAGAGS配列(2)を含むポリペプチド;
(iii)(GAGAGS)配列(3)及び(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(4)を含むポリペプチドが挙げられる。
【0027】
これらの好ましいポリペプチド(A)の具体例としては、(GAGAGS)配列(3)を12個及び(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(4)を13個有し、これらが交互に化学結合してなるポリペプチドに、さらに、(GAGAGS)配列(9)が1個化学結合した、分子質量が約80kDaの配列(10)のポリペプチド(SELP8K);
(GAGAGS)配列(9)を17個及び(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(4)を17個有し、これらが交互に化学結合してなる、分子質量が約82kDaの配列(11)のポリペプチド(SELP0K)等が挙げられる。
【0028】
本発明の細胞賦活剤は、上記ポリペプチド(A)を含有するものである。
ポリペプチド(A)の含有量は、細胞賦活性の向上の観点から、細胞賦活剤の重量を基準として、0.000000001〜30重量%が好ましく、さらに好ましくは0.00000001〜10重量%である。
【0029】
本発明の細胞賦活剤には、ポリペプチド(A)以外に、水を含んでもよい。
水としては、特に限定するものではなく、滅菌されたものが好ましい。滅菌方法としては、0.20μm以下の孔径を持つ精密ろ過膜を通した水、限外ろ過膜を通した水、逆浸透膜を通した水及びオートクレーブで121℃20分加熱して過熱滅菌したイオン交換水等が挙げられる。
【0030】
本発明の細胞賦活剤は、人間の体液と同等にするという観点から、さらに無機塩を含んでもいい。
無機塩として、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム及び炭酸水素マグネシウム等が挙げられる。
細胞賦活剤中の無機塩の含有量は、人間の体液と同等にするという観点から、細胞賦活剤の重量を基準として0.5〜1.3重量%が好ましく、さらに好ましくは0.7〜1.1重量%、特に好ましくは0.85〜0.95重量%である。
【0031】
本発明の細胞賦活剤は、細胞や組織との親和性の観点から、さらにリン酸及び/又はリン酸塩を含んでもいい。
リン酸塩としては、リン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が挙げられ、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩等が挙げられる。
細胞賦活剤中のリン酸(塩)の含有量は、細胞や組織との親和性の観点から、細胞賦活剤の重量を基準として0.10〜0.30重量%が好ましく、さらに好ましくは0.12〜0.28重量%、特に好ましくは0.14〜0.26重量%である。
【0032】
細胞賦活剤のpHは、細胞賦活剤の安定性及び細胞や組織との親和性の観点から、6.8〜8.8が好ましく、さらに好ましくは7.3〜8.3である。
【0033】
本発明の細胞賦活剤は、各成分を混合することにより得られ、製造方法は特に限定されるものではない。
【0034】
本発明の細胞賦活剤は、細胞や、組織等の生体材料を培養する際に、該生体材料の細胞賦活性を向上させる目的で、該生体材料の培地に加えてもよい。
生体材料の培地としては、特に限定されないが、例えば、RPMI1640培地、DMEM培地及びαMEM培地等が挙げられる。
また、本発明の細胞賦活剤は、最終濃度が0.000000001〜30重量%となるように培地に加えられることが好ましく、0.00000001〜10重量%となるように加えられることが望ましい。
培養対象の生体材料としては、特に限定されないが、移植用細胞、移植用組織等が挙げられる。また、本発明の細胞賦活剤を培地に加え、該培地を生体の創傷部位及び皮膚に適用してもよい。すなわち、生体に直接使用してもよい。
【0035】
本発明の細胞賦活剤は、細胞賦活性を向上させる目的で、創傷治癒剤、化粧料、皮膚外用剤、医薬品、研究用試薬等に用いることができる。これらの中で、特に創傷治癒剤や化粧料として皮膚表面に塗布されることが好ましい。
【0036】
本剤を創傷治癒剤として用いる場合には、皮膚への塗布によって投与する場合のほか、皮下注射、経皮投与等の投与方法を用いることができる。
形状としては、特に限定されないが、例えば、粉末状、液状、注射剤、スポンジ形状及びフィルム形状等が挙げられる。また、添加剤として基剤、乳化剤、溶剤及び安定剤等を配合することができる。
【0037】
本剤を化粧料組成物の有効成分原料としての化粧料として用いる場合には、化粧料基材に配合することによって製造することができる。
化粧料の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状などのいずれであっても良く、このような化粧料を肌に適用することによって、皮膚繊維芽細胞の細胞遊走作用や細胞増殖作用等の細胞賦活作用をもたらすことができる。
化粧料基剤は、一般に化粧料に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される基剤等を配合することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0039】
製造例1 <ポリペプチド(A−1)の作製>
ペプチド受託合成(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)によりアミノ酸配列がGVGVPGAGAGS (2)であるポリペプチド(A−1)を得た。
【0040】
製造例2 <ポリペプチド(A−2)の作製>
ペプチド受託合成によりアミノ酸配列が(GVGVP)GKGVP(GVGVP)(GAGAGS)(12)であるポリペプチド(A−2)を得た。
【0041】
製造例3 <SELP8K[ポリペプチド(A−3)]の作製>
<SELP8K生産株の作製>
特許第4088341号公報の実施例記載の方法に準じて、SELP8KをコードしたプラスミドpPTS0345を作製した。
作製したプラスミドを大腸菌にトランスフォーメーションし、SELP8K生産株を得た。
以下、このSELP8K生産株を用いて、本発明のポリペプチド(A)の一種である(GAGAGS)配列(3)を12個及び(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(4)を13個有し、これらが交互に化学結合した構造を有する分子質量が約80kDaの配列(10)のポリペプチドであるSELP8K[ポリペプチド(A−3)]を生産する方法を示す。
【0042】
<SELP8K生産株の培養>
30℃で生育させたSELP8K生産株の一夜培養液を使用して、250mlフラスコ中のLB培地50mlに接種した。このLB培地に、カナマイシンを最終濃度50μg/mlとなるように加えて培養液とし、培養液を30℃で、200rpmで攪拌しながらインキュベートした。培養液の濁度がOD600=0.8(吸光度計UV1700:島津製作所製を使用)となった時に、培養液40mlを、40℃に温められた別のフラスコに移し、40℃で約2時間培養した。
その後、培養した培養液を氷上で冷却し、培養液の濁度OD600を測定し、遠心分離にて大腸菌を集菌した。
【0043】
<SELP8Kの精製>
集菌した大腸菌を用い、下記の工程1:菌体溶解、工程2:遠心分離による不溶性細片の除去、工程3:硫安沈殿、工程4:限外濾過、工程5:陰イオン交換クロマトグラフィー、工程6:限外濾過、工程7:凍結乾燥により、大腸菌バイオマスからタンパク質を精製した。
このようにして、分子質量が約80kDaの精製したSELP8K[ポリペプチド(A−3)]を得た。
【0044】
工程1:菌体溶解
集菌した大腸菌100gに対して、脱イオン水200gを加えて、高圧ホモジナイザー(55MPa)にて菌体溶解し、溶解した菌体を含む菌体溶解液を得た。その後、菌体溶解液を氷酢酸にてpH4.0に調整した。
【0045】
工程2:遠心分離による不溶性細片の除去
さらに菌体溶解液を遠心分離(6300rpm、4℃、30分間)して、上清を回収した。
【0046】
工程3:硫安沈殿
工程2で回収した上清に硫安濃度が25重量%となるように飽和硫安溶液を投入した。
その後、8〜12時間静置した後、遠心分離にて沈殿物を回収した。回収した沈殿物を脱イオン水に溶解した。次に、溶解した液に対して、硫安濃度が25重量%となるように飽和硫安溶液を投入した。その後、8〜12時間静置した後、遠心分離にて沈殿物を回収した。回収した沈殿物を脱イオン水に溶解し、溶液を得た。
【0047】
工程4:限外濾過
工程3で得た溶液を分子質量30,000カットの限外濾過装置(ホロファイバー:GEヘルスケア製)に供した。工程3で得た溶液に対して、20倍量の脱イオン水を用いて、限外濾過を実施し、限外濾過後のポリペプチド溶液を得た。
【0048】
工程5:陰イオン交換クロマトグラフィー
ポリペプチドの濃度が20g/Lとなるように限外濾過後のポリペプチド溶液を、10mM酢酸ナトリウム緩衝液に加え、その後、陰イオン交換カラムHiPrepSP XL16/10(GEヘルスケア社製)をセットしたAKTAPrime(アマシャム社製)に供した。溶出液として500mM酢酸ナトリウム緩衝液を用いて、溶出画分を回収した。
【0049】
工程6:限外濾過
工程5で得た溶出画分を上記「4:限外濾過」と同様にして処理し、限外濾過後のポリペプチド溶液を得た。
【0050】
工程7:凍結乾燥
ポリペプチド濃度が3g/Lとなるように、工程6で得たポリペプチド溶液を脱イオン水で希釈し、水位が10mm以下となるようにステンレス製のバットに入れた。その後、凍結乾燥機(日本テクノサービス社製)に入れて、−30℃、24時間かけて凍結させた。凍結後、真空度が5Pa以下、−30℃で、110時間かけて1次乾燥、真空度が5Pa以下、30℃で、48時間かけて2次乾燥させ、SELP8K[ポリペプチド(A−3)]を得た。
【0051】
精製したポリペプチド(A−3)を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供した後、ポリフッ化ビニリデン膜にトランスファーした。
その後、一次抗体に抗ラビットSELP8K抗体、2次抗体に抗ラビットIgG HRP標識抗体(GEヘルスケア社製)を用いたウエスタンブロット分析を行った。
この精製物の見かけ分子質量は約80kDaであった。
【0052】
製造例4 <動物試験に使用するタンパク質の作製>
製造例3において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に換えて、「SLP4.1.3をコードしたプラスミドpPT0102」を用いる以外は同様にして、分子質量が約150kDaの配列(13)のタンパク質を得た。このタンパク質は動物試験に使用する。
【0053】
比較製造例1 <比較例のためのポリペプチド(A’−1)>
ペプチド受託合成によりアミノ酸配列がVPGVG(14)であるポリペプチド(A’−1)を得た。
【0054】
比較製造例2 <比較例のためのポリペプチド(A’−2)>
ペプチド受託合成によりアミノ酸配列がVGVPG(15)であるポリペプチド(A’−2)を得た。
【0055】
<実施例1〜3および比較例1と2>
それぞれ5μg/mlのマイトマイシンC(ナカライテスク社製)、1%ウシ胎児血清(FBS)(Biosera社製)及び1%ペニシリン&ストレプトマイシン(ナカライテスク社製)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で、ポリペプチド(A−1)〜(A−3)および(A’−1)と(A’−2)の含有量がそれぞれ0、0.000000001、0.0000001、0.00001、0.001、0.1、10重量%になるように添加して調製し、線維芽細胞遊走性試験に使用した。
【0056】
<線維芽細胞の遊走性試験>
繊維芽細胞の遊走作用は、スクラッチアッセイ法で評価した。
遊走性試験には、マウス繊維芽細胞であるL929細胞を使用し、滅菌シャーレに播種し、37℃、5%COの条件下で培養を行った。培地は10%FBS及び1%ペニシリン&ストレプトマイシンを含むDMEM培地を使用した。
10cmのシャーレで培養したサブコンフルエント状態のL929細胞を5mLの1×PBS(−)で1回洗浄し、1mLのトリプシン溶液(ナカライテスク社製)を加えた。37℃で1分間加温し、10%FBS及び1%ペニシリン&ストレプトマイシンを含むDMEM培地を4mL加えてピペッティングし、細胞を回収した。血球計算盤を用いて細胞濃度を測定し、2×10個/mLになるように細胞懸濁液を調製した。24穴プレートに細胞懸濁液を500μLずつ添加し、37℃、5%COの条件下で7日間培養した。
7日目にマイクロチップを用いて細胞培養面をひっかき、細胞を剥離し、細胞が存在しない線状の領域を作製した。1×PBS(−)で2回洗浄した後、実施例1で調製した溶液を0.5mL添加した。37℃、5%COの条件下で、培養開始前と、24時間後に、顕微鏡(BZ−X700、キーエンス社製)を用いて撮影を行った。細胞の遊走距離をBZ−X解析アプリケーションを用いて測定した。ランダムに10箇所の距離を測定し、その平均値を細胞の遊走した距離(μm)とした。
【0057】
細胞遊走距離は以下の式から算出される。
細胞遊走距離(μm)=培養開始前の細胞が存在しない領域(μm)−24時間後の細胞が存在しない領域(μm)
細胞遊走性(%)は以下の式から算出される。
細胞遊走性(%)=[ポリペプチド含有条件の細胞遊走距離(μm)/ポリペプチド非含有条件の細胞遊走距離(μm)]×100
このとき、ポリペプチド非含有条件の細胞遊走性は以下の式から算出した。
ポリペプチド非含有条件の細胞遊走性(%)=[ポリペプチド非含有条件の細胞遊走距離(μm)/ポリペプチド非含有条件の細胞遊走距離(μm)]×100
結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
また、実施例1で調製した溶液に代えて、実施例2と3で調製した溶液若しくは比較例1と2で調製した溶液を使用して、上記<線維芽細胞遊走性試験>に記載の方法と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0060】
<実施例4〜6および比較例3と4>
それぞれ10%FBS(Biosera社製)及び1%ペニシリン&ストレプトマイシン(ナカライテスク社製)を含むDMEM培地でポリペプチド(A−1)〜(A−3)および(A’−1)と(A’−2)の含有量が0、0.000000001、0.0000001、0.00001、0.001、0.1、10重量%になるように添加して調製し、線維芽細胞の増殖試験に使用した。
【0061】
<比較例5>
10%FBS(Biosera社製)及び1%ペニシリン&ストレプトマイシン(ナカライテスク社製)を含むDMEM培地でbFGF(PeproTech社製)の含有量が0、0.000000001、0.0000001、0.00001、0.001、0.1、10重量%になるように添加して調製し、試験に使用した。
【0062】
<線維芽細胞の増殖試験>
増殖試験にはマウス繊維芽細胞であるL929細胞を使用し、10cmの滅菌シャーレに播種して37℃、5%COの条件下で培養を行った。培地は10%FBS及び1%ペニシリン&ストレプトマイシンを含むDMEM培地を使用した。
10cmのシャーレで培養したサブコンフルエント状態のL929細胞を5mLの1×PBS(−)で1回洗浄し、1mLのトリプシン溶液を加えた。37℃で1分間加温し、10%FBS及び1%ペニシリン&ストレプトマイシンを含むDMEM培地を4mL加えてピペッティングし、細胞を回収した。血球計算盤を使用して細胞数を計数した。実施例4で調製した溶液と混合して、播種細胞数が1×10個/ウェルとなるように96穴プレートに播種した。
37℃、5%COの条件下で培養を行い、培養3日目及び7日目にCell Count Reagent SF(ナカライテスク社製)を使用して450nmの吸光度を測定した。
【0063】
細胞増殖性は以下の式から算出される。
3日目の細胞増殖性(%)=[3日目のポリペプチド含有条件の450nmの吸光度/3日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度]×100
7日目の細胞増殖性(%)=[7日目のポリペプチド含有条件の450nmの吸光度/7日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度]×100
【0064】
このとき、ポリペプチド非含有条件の細胞増殖性は以下の式から算出される。
3日目のポリペプチド非含有条件の細胞増殖性(%)=[3日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度/3日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度]×100
7日目のポリペプチド非含有条件の細胞増殖性(%)=[7日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度/7日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度]×100
【0065】
また、実施例4で調製した溶液に替えて、実施例5〜6で調製した溶液若しくは比較例3〜5で調製した溶液を使用して、上記<線維芽細胞増殖試験>に記載の方法と同様に測定した。
培養3日目の結果を表2に、培養7日目の結果を表3に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
<実施例7と8>
製造例4で作製したタンパク質の含有量が20重量%及びポリペプチド(A−1)、(A−2)の含有量がそれぞれ20重量%になるようにDPBS(gibco製)に添加して調製し、後述の動物試験に使用した。
【0069】
<実施例9>
ポリペプチド(A−3)の含有量が20重量%になるようにDPBSに添加して調製し、動物試験に使用した。
【0070】
<比較例6と7>
タンパク質の含有量が20重量%、及びポリペプチド(A’−1)、(A’−2)の含有量が20重量%になるようにDPBSに添加して調製し、動物試験に使用した。
【0071】
<比較例8>
タンパク質の含有量が20重量%、及びbFGFの含有量が20重量%になるようにDPBSに添加して調製し、動物試験に使用した。
【0072】
<動物試験>
糖尿病マウスを用いたIV度褥瘡モデルでの治療実験を行い、ポリペプチドを評価した。
(1)病理標本の作製(病理標本は、それぞれ9個作製した。)
遺伝的糖尿病マウス♀(日本クレア)8週齢を麻酔下で除毛し、大腿第三転子部の皮膚を圧迫(400g/8mm×2時間×4)し、褥瘡(直径8mm)を作製した。圧迫終了後5日目に壊死組織を除去し、実施例7〜9及び比較例6〜8で調製した溶液をそれぞれ56μl注入し、ポリウレタンフィルムを貼付した。
その後、創傷部の上にガーゼをあてて、シルキーテックス(アルケア社製)で固定した。治療期間14日目に検体を擬死させ、創傷部を含む皮膚を採取し、病理標本(HE染色)を作製した。
【0073】
(2)組織学的検査
作製した病理標本用いて、組織学的検査を実施した。
未熟な毛細血管と繊維芽細胞が一体となった良好な肉芽組織を肉芽組織とみなした。ガス嚢胞やコレステリン血漿を含む肉芽組織は、肉芽組織ではないものとみなした。
肉芽組織の形成を、以下の5段階の評価基準で評価し、点数化した。なお、点数が高いほど、より肉芽組織形成が促進されており、組織再生用材料の肉芽組織形成促進作用が優れていることを示している。評価結果は表4に示す。
【0074】
1点:欠損部に対して全く肉芽組織が形成していない状態
2点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が0%より大きく25%未満
3点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が25%以上50%未満
4点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が50%以上75%未満
5点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が75%以上
【0075】
【表4】
【0076】
表1の実施例1〜3で調製した溶液を用いると、繊維芽細胞の遊走性が、比較例1と2で調製した溶液を用いた場合、及びブランクと同等又はそれ以上であった。
また、表2の実施例4〜6で調製した溶液を用いると、培養3日目の繊維芽細胞の増殖が比較例3〜5で調製した溶液を用いた場合、及びブランクと同等又はそれ以上であった。また、表3の培養7日目においては実施例4〜6で調製した溶液を用いると、比較例3〜5で調製した溶液を用いた場合、及びブランクと比較して有意に繊維芽細胞の増殖が上昇した。
また、表4の実施例7〜9で調製した溶液を用いると、動物試験における肉芽組織形成が比較例6〜8で調製した溶液を用いた場合と比較して顕著に上昇した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の細胞賦活剤は、繊維芽細胞遊走能及び増殖能に優れ、細胞を賦活化させることで創傷の治癒や皮膚状態の改善を促進することができる。従って、創傷治癒剤、医薬部外品、及び機能性化粧品への添加剤として医療及び化粧品用途に有用である。