【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0039】
製造例1 <ポリペプチド(A−1)の作製>
ペプチド受託合成(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)によりアミノ酸配列がGVGVPGAGAGS (2)であるポリペプチド(A−1)を得た。
【0040】
製造例2 <ポリペプチド(A−2)の作製>
ペプチド受託合成によりアミノ酸配列が(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3(GAGAGS)
4(12)であるポリペプチド(A−2)を得た。
【0041】
製造例3 <SELP8K[ポリペプチド(A−3)]の作製>
<SELP8K生産株の作製>
特許第4088341号公報の実施例記載の方法に準じて、SELP8KをコードしたプラスミドpPTS0345を作製した。
作製したプラスミドを大腸菌にトランスフォーメーションし、SELP8K生産株を得た。
以下、このSELP8K生産株を用いて、本発明のポリペプチド(A)の一種である(GAGAGS)
4配列(3)を12個及び(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(4)を13個有し、これらが交互に化学結合した構造を有する分子質量が約80kDaの配列(10)のポリペプチドであるSELP8K[ポリペプチド(A−3)]を生産する方法を示す。
【0042】
<SELP8K生産株の培養>
30℃で生育させたSELP8K生産株の一夜培養液を使用して、250mlフラスコ中のLB培地50mlに接種した。このLB培地に、カナマイシンを最終濃度50μg/mlとなるように加えて培養液とし、培養液を30℃で、200rpmで攪拌しながらインキュベートした。培養液の濁度がOD600=0.8(吸光度計UV1700:島津製作所製を使用)となった時に、培養液40mlを、40℃に温められた別のフラスコに移し、40℃で約2時間培養した。
その後、培養した培養液を氷上で冷却し、培養液の濁度OD600を測定し、遠心分離にて大腸菌を集菌した。
【0043】
<SELP8Kの精製>
集菌した大腸菌を用い、下記の工程1:菌体溶解、工程2:遠心分離による不溶性細片の除去、工程3:硫安沈殿、工程4:限外濾過、工程5:陰イオン交換クロマトグラフィー、工程6:限外濾過、工程7:凍結乾燥により、大腸菌バイオマスからタンパク質を精製した。
このようにして、分子質量が約80kDaの精製したSELP8K[ポリペプチド(A−3)]を得た。
【0044】
工程1:菌体溶解
集菌した大腸菌100gに対して、脱イオン水200gを加えて、高圧ホモジナイザー(55MPa)にて菌体溶解し、溶解した菌体を含む菌体溶解液を得た。その後、菌体溶解液を氷酢酸にてpH4.0に調整した。
【0045】
工程2:遠心分離による不溶性細片の除去
さらに菌体溶解液を遠心分離(6300rpm、4℃、30分間)して、上清を回収した。
【0046】
工程3:硫安沈殿
工程2で回収した上清に硫安濃度が25重量%となるように飽和硫安溶液を投入した。
その後、8〜12時間静置した後、遠心分離にて沈殿物を回収した。回収した沈殿物を脱イオン水に溶解した。次に、溶解した液に対して、硫安濃度が25重量%となるように飽和硫安溶液を投入した。その後、8〜12時間静置した後、遠心分離にて沈殿物を回収した。回収した沈殿物を脱イオン水に溶解し、溶液を得た。
【0047】
工程4:限外濾過
工程3で得た溶液を分子質量30,000カットの限外濾過装置(ホロファイバー:GEヘルスケア製)に供した。工程3で得た溶液に対して、20倍量の脱イオン水を用いて、限外濾過を実施し、限外濾過後のポリペプチド溶液を得た。
【0048】
工程5:陰イオン交換クロマトグラフィー
ポリペプチドの濃度が20g/Lとなるように限外濾過後のポリペプチド溶液を、10mM酢酸ナトリウム緩衝液に加え、その後、陰イオン交換カラムHiPrepSP XL16/10(GEヘルスケア社製)をセットしたAKTAPrime(アマシャム社製)に供した。溶出液として500mM酢酸ナトリウム緩衝液を用いて、溶出画分を回収した。
【0049】
工程6:限外濾過
工程5で得た溶出画分を上記「4:限外濾過」と同様にして処理し、限外濾過後のポリペプチド溶液を得た。
【0050】
工程7:凍結乾燥
ポリペプチド濃度が3g/Lとなるように、工程6で得たポリペプチド溶液を脱イオン水で希釈し、水位が10mm以下となるようにステンレス製のバットに入れた。その後、凍結乾燥機(日本テクノサービス社製)に入れて、−30℃、24時間かけて凍結させた。凍結後、真空度が5Pa以下、−30℃で、110時間かけて1次乾燥、真空度が5Pa以下、30℃で、48時間かけて2次乾燥させ、SELP8K[ポリペプチド(A−3)]を得た。
【0051】
精製したポリペプチド(A−3)を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供した後、ポリフッ化ビニリデン膜にトランスファーした。
その後、一次抗体に抗ラビットSELP8K抗体、2次抗体に抗ラビットIgG HRP標識抗体(GEヘルスケア社製)を用いたウエスタンブロット分析を行った。
この精製物の見かけ分子質量は約80kDaであった。
【0052】
製造例4 <動物試験に使用するタンパク質の作製>
製造例3において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に換えて、「SLP4.1.3をコードしたプラスミドpPT0102」を用いる以外は同様にして、分子質量が約150kDaの配列(13)のタンパク質を得た。このタンパク質は動物試験に使用する。
【0053】
比較製造例1 <比較例のためのポリペプチド(A’−1)>
ペプチド受託合成によりアミノ酸配列がVPGVG(14)であるポリペプチド(A’−1)を得た。
【0054】
比較製造例2 <比較例のためのポリペプチド(A’−2)>
ペプチド受託合成によりアミノ酸配列がVGVPG(15)であるポリペプチド(A’−2)を得た。
【0055】
<実施例1〜3および比較例1と2>
それぞれ5μg/mlのマイトマイシンC(ナカライテスク社製)、1%ウシ胎児血清(FBS)(Biosera社製)及び1%ペニシリン&ストレプトマイシン(ナカライテスク社製)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で、ポリペプチド(A−1)〜(A−3)および(A’−1)と(A’−2)の含有量がそれぞれ0、0.000000001、0.0000001、0.00001、0.001、0.1、10重量%になるように添加して調製し、線維芽細胞遊走性試験に使用した。
【0056】
<線維芽細胞の遊走性試験>
繊維芽細胞の遊走作用は、スクラッチアッセイ法で評価した。
遊走性試験には、マウス繊維芽細胞であるL929細胞を使用し、滅菌シャーレに播種し、37℃、5%CO
2の条件下で培養を行った。培地は10%FBS及び1%ペニシリン&ストレプトマイシンを含むDMEM培地を使用した。
10cmのシャーレで培養したサブコンフルエント状態のL929細胞を5mLの1×PBS(−)で1回洗浄し、1mLのトリプシン溶液(ナカライテスク社製)を加えた。37℃で1分間加温し、10%FBS及び1%ペニシリン&ストレプトマイシンを含むDMEM培地を4mL加えてピペッティングし、細胞を回収した。血球計算盤を用いて細胞濃度を測定し、2×10
4個/mLになるように細胞懸濁液を調製した。24穴プレートに細胞懸濁液を500μLずつ添加し、37℃、5%CO
2の条件下で7日間培養した。
7日目にマイクロチップを用いて細胞培養面をひっかき、細胞を剥離し、細胞が存在しない線状の領域を作製した。1×PBS(−)で2回洗浄した後、実施例1で調製した溶液を0.5mL添加した。37℃、5%CO
2の条件下で、培養開始前と、24時間後に、顕微鏡(BZ−X700、キーエンス社製)を用いて撮影を行った。細胞の遊走距離をBZ−X解析アプリケーションを用いて測定した。ランダムに10箇所の距離を測定し、その平均値を細胞の遊走した距離(μm)とした。
【0057】
細胞遊走距離は以下の式から算出される。
細胞遊走距離(μm)=培養開始前の細胞が存在しない領域(μm)−24時間後の細胞が存在しない領域(μm)
細胞遊走性(%)は以下の式から算出される。
細胞遊走性(%)=[ポリペプチド含有条件の細胞遊走距離(μm)/ポリペプチド非含有条件の細胞遊走距離(μm)]×100
このとき、ポリペプチド非含有条件の細胞遊走性は以下の式から算出した。
ポリペプチド非含有条件の細胞遊走性(%)=[ポリペプチド非含有条件の細胞遊走距離(μm)/ポリペプチド非含有条件の細胞遊走距離(μm)]×100
結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
また、実施例1で調製した溶液に代えて、実施例2と3で調製した溶液若しくは比較例1と2で調製した溶液を使用して、上記<線維芽細胞遊走性試験>に記載の方法と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0060】
<実施例4〜6および比較例3と4>
それぞれ10%FBS(Biosera社製)及び1%ペニシリン&ストレプトマイシン(ナカライテスク社製)を含むDMEM培地でポリペプチド(A−1)〜(A−3)および(A’−1)と(A’−2)の含有量が0、0.000000001、0.0000001、0.00001、0.001、0.1、10重量%になるように添加して調製し、線維芽細胞の増殖試験に使用した。
【0061】
<比較例5>
10%FBS(Biosera社製)及び1%ペニシリン&ストレプトマイシン(ナカライテスク社製)を含むDMEM培地でbFGF(PeproTech社製)の含有量が0、0.000000001、0.0000001、0.00001、0.001、0.1、10重量%になるように添加して調製し、試験に使用した。
【0062】
<線維芽細胞の増殖試験>
増殖試験にはマウス繊維芽細胞であるL929細胞を使用し、10cmの滅菌シャーレに播種して37℃、5%CO
2の条件下で培養を行った。培地は10%FBS及び1%ペニシリン&ストレプトマイシンを含むDMEM培地を使用した。
10cmのシャーレで培養したサブコンフルエント状態のL929細胞を5mLの1×PBS(−)で1回洗浄し、1mLのトリプシン溶液を加えた。37℃で1分間加温し、10%FBS及び1%ペニシリン&ストレプトマイシンを含むDMEM培地を4mL加えてピペッティングし、細胞を回収した。血球計算盤を使用して細胞数を計数した。実施例4で調製した溶液と混合して、播種細胞数が1×10
4個/ウェルとなるように96穴プレートに播種した。
37℃、5%CO
2の条件下で培養を行い、培養3日目及び7日目にCell Count Reagent SF(ナカライテスク社製)を使用して450nmの吸光度を測定した。
【0063】
細胞増殖性は以下の式から算出される。
3日目の細胞増殖性(%)=[3日目のポリペプチド含有条件の450nmの吸光度/3日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度]×100
7日目の細胞増殖性(%)=[7日目のポリペプチド含有条件の450nmの吸光度/7日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度]×100
【0064】
このとき、ポリペプチド非含有条件の細胞増殖性は以下の式から算出される。
3日目のポリペプチド非含有条件の細胞増殖性(%)=[3日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度/3日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度]×100
7日目のポリペプチド非含有条件の細胞増殖性(%)=[7日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度/7日目のポリペプチド非含有条件の450nmの吸光度]×100
【0065】
また、実施例4で調製した溶液に替えて、実施例5〜6で調製した溶液若しくは比較例3〜5で調製した溶液を使用して、上記<線維芽細胞増殖試験>に記載の方法と同様に測定した。
培養3日目の結果を表2に、培養7日目の結果を表3に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
<実施例7と8>
製造例4で作製したタンパク質の含有量が20重量%及びポリペプチド(A−1)、(A−2)の含有量がそれぞれ20重量%になるようにDPBS(gibco製)に添加して調製し、後述の動物試験に使用した。
【0069】
<実施例9>
ポリペプチド(A−3)の含有量が20重量%になるようにDPBSに添加して調製し、動物試験に使用した。
【0070】
<比較例6と7>
タンパク質の含有量が20重量%、及びポリペプチド(A’−1)、(A’−2)の含有量が20重量%になるようにDPBSに添加して調製し、動物試験に使用した。
【0071】
<比較例8>
タンパク質の含有量が20重量%、及びbFGFの含有量が20重量%になるようにDPBSに添加して調製し、動物試験に使用した。
【0072】
<動物試験>
糖尿病マウスを用いたIV度褥瘡モデルでの治療実験を行い、ポリペプチドを評価した。
(1)病理標本の作製(病理標本は、それぞれ9個作製した。)
遺伝的糖尿病マウス♀(日本クレア)8週齢を麻酔下で除毛し、大腿第三転子部の皮膚を圧迫(400g/8mm×2時間×4)し、褥瘡(直径8mm)を作製した。圧迫終了後5日目に壊死組織を除去し、実施例7〜9及び比較例6〜8で調製した溶液をそれぞれ56μl注入し、ポリウレタンフィルムを貼付した。
その後、創傷部の上にガーゼをあてて、シルキーテックス(アルケア社製)で固定した。治療期間14日目に検体を擬死させ、創傷部を含む皮膚を採取し、病理標本(HE染色)を作製した。
【0073】
(2)組織学的検査
作製した病理標本用いて、組織学的検査を実施した。
未熟な毛細血管と繊維芽細胞が一体となった良好な肉芽組織を肉芽組織とみなした。ガス嚢胞やコレステリン血漿を含む肉芽組織は、肉芽組織ではないものとみなした。
肉芽組織の形成を、以下の5段階の評価基準で評価し、点数化した。なお、点数が高いほど、より肉芽組織形成が促進されており、組織再生用材料の肉芽組織形成促進作用が優れていることを示している。評価結果は表4に示す。
【0074】
1点:欠損部に対して全く肉芽組織が形成していない状態
2点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が0%より大きく25%未満
3点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が25%以上50%未満
4点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が50%以上75%未満
5点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が75%以上
【0075】
【表4】
【0076】
表1の実施例1〜3で調製した溶液を用いると、繊維芽細胞の遊走性が、比較例1と2で調製した溶液を用いた場合、及びブランクと同等又はそれ以上であった。
また、表2の実施例4〜6で調製した溶液を用いると、培養3日目の繊維芽細胞の増殖が比較例3〜5で調製した溶液を用いた場合、及びブランクと同等又はそれ以上であった。また、表3の培養7日目においては実施例4〜6で調製した溶液を用いると、比較例3〜5で調製した溶液を用いた場合、及びブランクと比較して有意に繊維芽細胞の増殖が上昇した。
また、表4の実施例7〜9で調製した溶液を用いると、動物試験における肉芽組織形成が比較例6〜8で調製した溶液を用いた場合と比較して顕著に上昇した。