特許第6913012号(P6913012)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913012
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20210727BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   F16F13/10 H
   B60K5/12 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-240143(P2017-240143)
(22)【出願日】2017年12月15日
(65)【公開番号】特開2019-108895(P2019-108895A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2020年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】植木 哲
(72)【発明者】
【氏名】長島 康寿之
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 健一郎
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−214482(JP,A)
【文献】 特開昭59−219538(JP,A)
【文献】 特開平10−252807(JP,A)
【文献】 特開昭59−219537(JP,A)
【文献】 特開2012−122539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00− 13/30
B62D 21/00
B60K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材、および他方に連結される第2取付部材と、
前記第1取付部材と前記第2取付部材とを連結した弾性体と、
前記第1取付部材内の液室を、前記第1取付部材の中心軸線に沿う軸方向に沿って、前記弾性体を隔壁の一部に有する第1液室、および第2液室に仕切るとともに、前記第1液室と前記第2液室とを連通するオリフィス通路が形成された仕切部材と、を備えた防振装置であって、
前記弾性体において、前記第1液室を画成する内面に、前記軸方向から見て前記中心軸線回りに沿う周方向に延びる突条部が、前記軸方向から見て前記中心軸線に交差する径方向に沿って複数形成され
複数の前記突条部は、前記弾性体の内面に径方向に連ねられて配置されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記突条部の少なくとも一部は、前記オリフィス通路における前記第1液室側の開口と前記軸方向で対向していることを特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記突条部は、前記第1液室内に向けて尖る角部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記突条部は、全周にわたって連続して延びていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車や産業機械等に適用され、エンジン等の振動発生部の振動を減衰、吸収する防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の防振装置として、従来から、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材、および他方に連結される第2取付部材と、第1取付部材と第2取付部材とを連結した弾性体と、第1取付部材内の液室を、第1取付部材の中心軸線に沿う軸方向に沿って、弾性体を隔壁の一部に有する第1液室、および第2液室に仕切る仕切部材と、を備える構成が知られている。仕切部材には、第1液室と第2液室とを連通するオリフィス通路が形成されている。この防振装置では、振動の入力時に、第1取付部材および第2取付部材が、弾性体を弾性変形させながら相対的に変位し、第1液室の液圧を変動させてオリフィス通路に液体を流通させることで、振動を減衰、吸収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−107640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この防振装置では、例えば路面の凹凸等から大きな荷重(振動)が入力され、第1液室の液圧が急激に上昇した後、弾性体のリバウンド等によって逆方向に荷重が入力されたときに、第1液室が急激に負圧化されることがある。すると、この急激な負圧化により液室内で多数の気泡が発生し、さらにこの気泡が崩壊する、いわゆるキャビテーション崩壊に起因して、乗員が異音を感知することがある。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、乗員がキャビテーション崩壊に起因した異音を感知するのを抑制することができる防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る防振装置は、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材、および他方に連結される第2取付部材と、前記第1取付部材と前記第2取付部材とを連結した弾性体と、前記第1取付部材内の液室を、前記第1取付部材の中心軸線に沿う軸方向に沿って、前記弾性体を隔壁の一部に有する第1液室、および第2液室に仕切るとともに、前記第1液室と前記第2液室とを連通するオリフィス通路が形成された仕切部材と、を備えた防振装置であって、前記弾性体において、前記第1液室を画成する内面に、前記軸方向から見て前記中心軸線回りに沿う周方向に延びる突条部が、前記軸方向から見て前記中心軸線に交差する径方向に沿って複数形成され、複数の前記突条部は、前記弾性体の内面に径方向に連ねられて配置されていることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、弾性体の内面に突条部が形成されているので、防振装置に大きな荷重が入力され、第1液室が急激に負圧化されたときに、突条部で優先的に気泡を発生させ、この気泡により第1液室の急激な負圧化を抑えることが可能になり、例えばオリフィス通路内、および液中等で気泡が発生するのを抑制することができる。
したがって、気泡が仮に崩壊するにしても、液室で発生した気泡の多くを弾性体の内面上で崩壊させることにより、この崩壊に起因した衝撃力を、主として弾性体に受け止めさせることで、効果的に減衰、吸収することが可能になり、この衝撃力が、第1取付部材等の他の部材に伝播するのを抑制することできる。
また、突条部では、平滑な面の面積を広く確保することができないので、突条部で発生した気泡が成長するのを抑えることができる。したがって、第1液室の負圧時に発生した気泡の多くを、成長させずに小さく保つことが可能になり、気泡が仮に崩壊したとしても、発生する衝撃力を低く抑えることができる。
以上より、乗員がキャビテーション崩壊に起因した異音を感知するのを抑制することができる。
【0008】
また、弾性体の内面に突条部が形成されていて、弾性体の内面の表面積が広くなっていることから、第1液室の負圧時に、気泡を弾性体の内面における広範囲にわたって発生させることが可能になり、弾性体の内面以外の箇所で気泡が発生するのを確実に抑制することができる。
また、突条部が周方向に延びているので、弾性体の内面に突条部を形成したことで、弾性体の前記軸方向のばねが高くなるのを抑制することができる。
また、突条部が、キャビテーション崩壊に起因した衝撃力では変形しない程度の剛性(大きさ)を有する場合、第1液室の急激な負圧時に、突条部が変形しにくくなり、突条部で優先的に気泡を発生させることを確実に実現することができる。
【0009】
ここで、前記突条部の少なくとも一部は、前記オリフィス通路における前記第1液室側の開口と前記軸方向で対向してもよい。
【0010】
この場合、防振装置に大きな荷重が入力されて、第1液室が急激に負圧化されるときに、弾性体の内面のうち、比較的流速の速い液体が流れて大きな負圧が及ぼされ易い、オリフィス通路における第1液室側の開口と前記軸方向で対向している部分に、突条部の少なくとも一部が位置している。これにより、第1液室が急激に負圧化されたときに、突条部のうち、少なくともオリフィス通路における第1液室側の開口と前記軸方向で対向している部分には、気泡が確実に発生することになる。したがって、第1液室において、比較的負圧が大きくなり易く、液中に気泡が発生し易い、オリフィス通路における第1液室側の開口と前記軸方向で対向している部分の負圧を小さく抑えることが可能になるので、第1液室の急激な負圧時に、弾性体の内面以外の箇所で気泡が発生するのを効果的に抑制することができる。
【0011】
また、前記突条部は、前記第1液室内に向けて尖る角部を有してもよい。
【0012】
この場合、突条部が、第1液室内に向けて尖る角部を有するので、第1液室が急激に負圧化されたときに、突条部の角部で優先的に気泡を発生させること、およびこの気泡を成長させずに小さく保つことを確実に実現することができる。
【0013】
また、前記突条部は、全周にわたって連続して延びてもよい。
【0014】
この場合、突条部が、全周にわたって連続して延びているので、弾性体の内面の表面積を容易に広くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乗員がキャビテーション崩壊に起因した異音を感知するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係る防振装置の縦断面図である。
図2図1に示す防振装置における弾性体の内面の一部拡大図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る防振装置における弾性体の内面の一部拡大図である。
図4】本発明の第3実施形態に係る防振装置における弾性体の内面の一部拡大図である。
図5】本発明の第4実施形態に係る防振装置における弾性体の内面の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る防振装置の実施の形態について、図1および図2に基づいて説明する。
図1に示すように、防振装置1は、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材11、および他方に連結される第2取付部材12と、第1取付部材11と第2取付部材12とを連結した弾性体13と、第1取付部材11内を後述する主液室(第1液室)14と副液室(第2液室)15とに仕切る仕切部材16と、を備えた液体封入型の防振装置である。
この防振装置1が例えば自動車に装着される場合、第2取付部材12が振動発生部としてのエンジンに連結され、第1取付部材11が振動受部としての車体に連結される。これにより、エンジンの振動が車体に伝達することが抑えられる。
【0018】
以下、第1取付部材11の中心軸線Oに沿う方向を軸方向という。また、軸方向に沿う第2取付部材12側を上側、仕切部材16側を下側という。また、防振装置1を軸方向から見た平面視において、中心軸線Oに交差する方向を径方向といい、中心軸線O周りに周回する方向を周方向という。
なお、第1取付部材11、第2取付部材12、および弾性体13はそれぞれ、平面視した状態で円形状若しくは円環状に形成されるとともに、中心軸線Oと同軸に配置されている。
【0019】
第2取付部材12は、軸方向に延びる柱状部材であり、下端部が下方に向けて膨出する半球面状に形成されるとともに、この半球面状の下端部より上方に鍔部12aを有している。第2取付部材12には、その上端面から下方に向かって延びるねじ孔12bが形成され、このねじ孔12bにエンジン側の取付け具となるボルト(図示せず)が螺合される。第2取付部材12は、弾性体13を介して、第1取付部材11の上端開口部に配置されている。
【0020】
弾性体13は、第1取付部材11の上端開口部と第2取付部材12の下部の外周面とにそれぞれ加硫接着されて、これらの間に介在させられたゴム体であって、第1取付部材11の上端開口部を上側から閉塞している。弾性体13は、その上端部が第2取付部材12の鍔部12aに当接することで、第2取付部材12に充分に密着し、第2取付部材12の変位により良好に追従するようになっている。弾性体13の下端部には、第1取付部材11における内周面と下端開口縁の内周部とを液密に被覆するゴム膜17が一体に形成されている。なお、弾性体13としては、ゴム以外にも合成樹脂等からなる弾性体を用いることも可能である。
【0021】
第1取付部材11は、下端部にフランジ18を有する円筒状に形成され、フランジ18を介して振動受部としての車体等に連結される。第1取付部材11の内部のうち、弾性体13より下方に位置する部分が、液室19となっている。本実施形態では、第1取付部材11の下端部に仕切部材16が設けられ、さらにこの仕切部材16の下方にダイヤフラム20が設けられている。仕切部材16の外周部22の上面は、第1取付部材11の下端開口縁に当接している。
【0022】
ダイヤフラム20は、ゴムや軟質樹脂等の弾性材料からなり、有底円筒状に形成されている。ダイヤフラム20の上端部は、仕切部材16の外周部22の下面と、仕切部材16より下方に位置するリング状の保持具21と、によって軸方向に挟まれている。仕切部材16の外周部22の上面に、ゴム膜17の下端部が液密に当接している。
【0023】
このような構成のもとに、第1取付部材11の下端開口縁に、仕切部材16の外周部22、および保持具21が下方に向けてこの順に配置されるとともに、ねじ23によって一体に固定されることにより、ダイヤフラム20は、仕切部材16を介して第1取付部材11の下端開口部に取り付けられている。なお図示の例では、ダイヤフラム20の底部が、外周側で深く中央部で浅い形状になっている。ただし、ダイヤフラム20の形状としては、このような形状以外にも、従来公知の種々の形状を採用することができる。
【0024】
そして、このように第1取付部材11に仕切部材16を介してダイヤフラム20が取り付けられたことにより、前記したように第1取付部材11内に液室19が形成されている。液室19は、第1取付部材11内、すなわち平面視して第1取付部材11の内側に配設され、弾性体13とダイヤフラム20とにより液密に封止された密閉空間となっている。そして、この液室19に液体Lが封入(充填)されている。
【0025】
液室19は、仕切部材16によって、弾性体13を隔壁の一部に有する主液室14と、ダイヤフラム20を隔壁の一部に有する副液室15と、に軸方向に仕切られている。主液室14は、弾性体13のうち、下方を向く内面27を壁面の一部として有し、この弾性体13と第1取付部材11の内周面を液密に覆うゴム膜17と仕切部材16とによって囲まれた空間であり、弾性体13の変形によって内容積が変化する。副液室15は、ダイヤフラム20と仕切部材16とによって囲まれた空間であり、ダイヤフラム20の変形によって内容積が変化する。このような構成からなる防振装置1は、主液室14が鉛直方向上側に位置し、副液室15が鉛直方向下側に位置するように取り付けられて用いられる、圧縮式の装置である。
【0026】
仕切部材16の外周部22の下面に、ダイヤフラム20の上端部を液密に保持する保持溝16aが形成されており、これによってダイヤフラム20と仕切部材16の外周部22の下面との間が液密に閉塞されている。仕切部材16の外周部22における主液室14側の上面に、前記ゴム膜17の下端部を液密に保持する保持溝16bが形成されており、これによってゴム膜17と仕切部材16の外周部22の上面との間が液密に閉塞されている。
仕切部材16には、主液室14と副液室15とを連通するオリフィス通路24が形成されている。オリフィス通路24における主液室14側の開口24aは、主液室14に上方に向けて開口し、オリフィス通路24における副液室15側の開口24bは、副液室15に下方に向けて開口している。
【0027】
そして、本実施形態では、弾性体13において、主液室14を画成する内面27に、周方向に延びる突条部26が、径方向に沿って複数形成されている。突条部26は、キャビテーション崩壊に起因した衝撃力では変形しない程度の剛性(大きさ)を有する。
【0028】
図示の例では、突条部26は、主液室14内に向けて尖る角部26aを有する。突条部26は、全周にわたって連続して延びている。複数の突条部26は、互いに同等の形状に形成されている。複数の突条部26のうち、少なくとも径方向の中間部に位置する一部は、互いに同等の大きさで形成されている。なお、複数の突条部26のうちの少なくとも一部の形状は互いに異ならせてもよい。
【0029】
ここで、弾性体13の内面27は、径方向の外側に向かうに従い漸次、下方に向けて延びる周面27bを備える。図示の例では、弾性体13の内面27は、上端に位置して下方を向く頂面27aと、頂面27aの外周縁から下方に向かうに従い漸次、径方向の外側に向けて延びる周面27bと、を備える。周面27bは、径方向の外側に向けて窪む曲面状に形成されている。
なお、弾性体13の内面27は、周面27bが、径方向の外側に向かうに従い漸次、下方に向けて真っ直ぐ延びる構成、または、頂面27a、および周面27bのうちのいずれか一方からなる構成を採用する等、適宜変更してもよい。
【0030】
突条部26は、弾性体13の内面27の周面27bに形成されている。突条部26は、周面27bにおける全域にわたって形成されている。突条部26は、図2に示されるように、弾性体13の内面27から径方向の内側に向けて突出する第1表面26bと、弾性体13の内面27から下方に向けて突出し、第1表面26bにおける径方向の内端に接続された第2表面26cと、を備え、第1表面26bにおける径方向の内端と、第2表面26cの下端と、が角部26aを介して接続されている。
【0031】
複数の突条部26は、周面27bに径方向に連ねられて配置されている。すなわち、複数の突条部26は、互いに隣り合う突条部26のうち、一方の突条部26における第1表面26bの径方向の外端と、他方の突条部26における第2表面26cの上端と、が接続された状態で、周面27bに配置されている。
突条部26の一部は、オリフィス通路24における主液室14側の開口24aと軸方向で対向している。
【0032】
このような構成からなる防振装置1では、振動の入力時に、第1取付部材11および第2取付部材12が弾性体13を弾性変形させながら相対的に変位する。すると、主液室14の液圧が変動し、主液室14内の液体Lがオリフィス通路24を通って副液室15に流入し、また、副液室15内の液体Lがオリフィス通路24を通って主液室14に流入する。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る防振装置1によれば、弾性体13の内面27に突条部26が形成されているので、防振装置1に大きな荷重が入力され、主液室14が急激に負圧化されたときに、突条部26で優先的に気泡を発生させ、この気泡により主液室14の急激な負圧化を抑えることが可能になり、例えばオリフィス通路24内、および液中等で気泡が発生するのを抑制することができる。
したがって、気泡が仮に崩壊するにしても、液室19で発生した気泡の多くを弾性体13の内面27上で崩壊させることにより、この崩壊に起因した衝撃力を、主として弾性体13に受け止めさせることで、効果的に減衰、吸収することが可能になり、この衝撃力が、第1取付部材11等の他の部材に伝播するのを抑制することできる。
また、突条部26では、平滑な面の面積を広く確保することができないので、突条部26で発生した気泡が成長するのを抑えることができる。したがって、主液室14の負圧時に発生した気泡の多くを、成長させずに小さく保つことが可能になり、気泡が仮に崩壊したとしても、発生する衝撃力を低く抑えることができる。
以上より、乗員がキャビテーション崩壊に起因した異音を感知するのを抑制することができる。
【0034】
また、弾性体13の内面27に突条部26が形成されていて、弾性体13の内面27の表面積が広くなっていることから、主液室14の負圧時に、気泡を弾性体13の内面27における広範囲にわたって発生させることが可能になり、弾性体13の内面27以外の箇所で気泡が発生するのを確実に抑制することができる。
また、突条部26が周方向に延びているので、弾性体13の内面27に突条部26を形成したことで、弾性体13の軸方向のばねが高くなるのを抑制することができる。
また、突条部26が、キャビテーション崩壊に起因した衝撃力では変形しない程度の剛性(大きさ)を有しているので、主液室14の急激な負圧時に、突条部26が変形しにくくなり、突条部26で優先的に気泡を発生させることを確実に実現することができる。
【0035】
また、防振装置1に大きな荷重が入力されて、主液室14が急激に負圧化されるときに、弾性体13の内面27のうち、比較的流速の速い液体が流れて大きな負圧が及ぼされ易い、オリフィス通路24における主液室14側の開口24aと軸方向で対向している部分に、突条部26の少なくとも一部が位置している。これにより、主液室14が急激に負圧化されたときに、突条部26のうち、少なくともオリフィス通路24における主液室14側の開口24aと軸方向で対向している部分には、気泡が確実に発生することになる。したがって、主液室14において、比較的負圧が大きくなり易く、液中に気泡が発生し易い、オリフィス通路24における主液室14側の開口24aと軸方向で対向している部分の負圧を小さく抑えることが可能になるので、主液室14の急激な負圧時に、弾性体13の内面27以外の箇所で気泡が発生するのを効果的に抑制することができる。
【0036】
また、突条部26が、主液室14内に向けて尖る角部26aを有するので、主液室14が急激に負圧化されたときに、突条部26の角部26aで優先的に気泡を発生させること、およびこの気泡を成長させずに小さく保つことを確実に実現することができる。
また、突条部26が、全周にわたって連続して延びているので、弾性体13の内面27の表面積を容易に広くすることができる。
【0037】
次に、本発明の第2実施形態に係る防振装置2を、図3を参照しながら説明する。
なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0038】
この防振装置2では、互いに隣り合う突条部26の大きさが異なっている。図示の例では、互いに同じ形状の、小さい突条部26と大きい突条部26とが径方向に交互に配置されている。
このような構成においても、前記実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0039】
次に、本発明の第3実施形態に係る防振装置3を、図4を参照しながら説明する。
なお、この第3実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0040】
この防振装置3では、弾性体13の内面27に、突条部26と、周方向に延びる溝部31と、が径方向に交互に連ねられて配置されている。図示の例では、溝部31は、弾性体13の内面27から径方向の外側に向けて窪んでいる。溝部31は、上方に位置して下方を向く上面31aと、下方に位置して上方を向く下面31bと、上面31aおよび下面31bそれぞれにおける径方向の外端同士を連結し、径方向の内側を向く底面31cと、を備える。溝部31の上面31aは、突条部26の第1表面26bにおける径方向の外端に段差なく連なり、溝部31の下面31bは、突条部26の第2表面26cの上端に連なっている。溝部31は、全周にわたって連続して延びている。なお、溝部31は、周方向に断続的に延びてもよい。
このような構成においても、前記実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0041】
次に、本発明の第4実施形態に係る防振装置4を、図5を参照しながら説明する。
なお、この第4実施形態においては、第3実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0042】
この防振装置4では、突条部32が、弾性体13の内面27から下方に向けて突出し、かつ径方向の内側を向く内周面32aと、内周面32aより径方向の外側に位置し、弾性体13の内面27から下方に向けて突出し、かつ径方向の外側を向く外周面32bと、内周面32aおよび外周面32bの各下端を連結し、下方を向く下面32cと、を備える。突条部32では、内周面32aおよび外周面32bの各下端と、下面32cと、が、主液室14内に向けて尖る角部32dを介して接続されている。
溝部33は、弾性体13の内面27から上方に向けて窪んでいる。溝部33は、突条部32の外周面32bの上端から径方向の外側に向けて延び、下方を向く上面33aと、上面33aにおける径方向の外端から下方に向けて延び、突条部32の内周面32aの上端に段差なく連なる側面33bと、を備える。
このような構成においても、前記実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0043】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば前記実施形態では、突条部26、32として、主液室14内に向けて尖る角部26a、32dを有する構成を示したが、角部26a、32dを有さず突曲面状に形成された突条部を採用してもよい。
また、前記実施形態では、突条部26、32として、全周にわたって連続して延びる構成を示したが、周方向に断続的に延びる突条部を採用してもよい。
【0044】
また、前記実施形態では、仕切部材16を第1取付部材11の下端部に配置し、仕切部材16の外周部22を第1取付部材11の下端開口縁に当接させているが、例えば仕切部材16を第1取付部材11の下端開口縁より充分上方に配置し、この仕切部材16の下側、すなわち第1取付部材11の下端部にダイヤフラム20を配設することで、第1取付部材11の下端部からダイヤフラム20の底面にかけて副液室15を形成するようにしてもよい。
【0045】
また、前記実施形態では、支持荷重が作用することで主液室14に正圧が作用する圧縮式の防振装置1〜4について説明したが、主液室14が鉛直方向下側に位置し、かつ副液室15が鉛直方向上側に位置するように取り付けられ、支持荷重が作用することで主液室14に負圧が作用する吊り下げ式の防振装置にも適用可能である。
また、前記実施形態では、仕切部材16が、第1取付部材11内の液室19を、弾性体13を隔壁の一部に有する主液室14、および副液室15に仕切るものとしたが、これに限られるものではない。例えば、ダイヤフラム20を設けるのに代えて弾性体を設け、副液室15を設けるのに代えて、この弾性体を隔壁の一部に有する受圧液室を設けてもよい。例えば、仕切部材16が、液体Lが封入される第1取付部材11内の液室19を、第1液室14および第2液室15に仕切り、第1液室14および第2液室15のうちの少なくとも1つが、弾性体13を隔壁の一部に有する他の構成に適宜変更することが可能である。
また、本発明に係る防振装置1〜4は、車両のエンジンマウントに限定されるものではなく、エンジンマウント以外に適用することも可能である。例えば、建設機械に搭載された発電機のマウントにも適用することも可能であり、或いは、工場等に設置される機械のマウントにも適用することも可能である。
【0046】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1〜4 防振装置
11 第1取付部材
12 第2取付部材
13 弾性体
14 主液室(第1液室)
15 副液室(第2液室)
16 仕切部材
19 液室
24 オリフィス通路
24a オリフィス通路における主液室側の開口
26、32 突条部
26a、32d 角部
27 弾性体の内面
L 液体
O 中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5