【文献】
Honeychurch J. et al.,Cancer Immunol Immunother.,45(3-4) (1997),171-3
【文献】
Torisu-Itakura H.et al.,J Immunother.,34(8) (2011),597-605.
【文献】
Riedle S.ら,In vivo activation and expansion of T cells by a bi-specific antibody abolishes metastasis formation,Int J Cancer.,1998年,75,908-918.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
疾病の治療を必要とする患者における疾病の治療に使用するための、CD3及びCEAに特異的に結合することができるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を含む医薬であって、
T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、配列番号22の配列を含む2つのポリペプチド、配列番号56の配列を含む1つのポリペプチド、配列番号57の配列を含む1つのポリペプチド、及び配列番号58の配列を含む1つのポリペプチドを含み、かつ
疾病は、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、大腸がん(colon cancer)、大腸がん(colorectal cancer)、直腸がん、胃がん、前立腺がん、血液がん、皮膚がん、扁平上皮がん、骨がん、及び腎臓がんから選択されるがんである、
医薬。
疾病の治療を必要とする患者における疾病の治療に使用するための医薬の製造のための、CD3及びCEAに特異的に結合することができるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の使用であって、
T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、配列番号22の配列を含む2つのポリペプチド、配列番号56の配列を含む1つのポリペプチド、配列番号57の配列を含む1つのポリペプチド、及び配列番号58の配列を含む1つのポリペプチドを含み、かつ
疾病は、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、大腸がん(colon cancer)、大腸がん(colorectal cancer)、直腸がん、胃がん、前立腺がん、血液がん、皮膚がん、扁平上皮がん、骨がん、及び腎臓がんから選択されるがんである、
使用。
【発明を実施するための形態】
【0044】
定義
本明細書の用語は、以下で特に定義されない限り、当該技術分野で一般に使用されるように使用される。
本明細書において使用される用語「抗原結合分子」は、その最も広い意味において、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。抗原結合分子の例は、免疫グロブリン及び誘導体、例えば、その断片である。
【0045】
用語「二重特異性」とは、抗原結合分子が少なくとも二つの異なる抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。一般的に、二重特異性抗原結合分子は、各々が異なる抗原決定基に特異的な二つの抗原結合部位を含む。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、二つの抗原決定基、特に二つの別個の細胞上に発現した二つの抗原決定基に同時に結合することができる。
【0046】
本明細書において使用される用語「価」は、抗原結合分子内における特定数の抗原結合部位の存在を意味する。したがって、「抗原に結合する一価」という表現は、抗原結合分子内において、抗原に特異的な一つの(且つ一つを超えない)抗原結合部位の存在を意味する。
【0047】
「抗原結合部位」は、抗原との相互作用を提供する抗原結合分子の部位、即ち、一又は複数のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)由来のアミノ酸残基を含む。天然免疫グロブリン分子は、一般に二つの抗原結合部位を有し、Fab分子は一般に単一の抗原結合部位を有する。
【0048】
本明細書で使用される「抗原結合部分」は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一実施態様では、抗原結合部分は、それが結合するエンティティ(例えば、第2の抗原結合部分)を標的部位へ、例えば特定の型の腫瘍細胞又は抗原決定基を有する腫瘍間質へと直接方向付けることができる。別の実施態様では、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合抗原を通してシグナル伝達を活性化することができる。抗原結合部分には、抗体及びその断片が含まれる。これについては後述する。特定の抗原結合部分には、抗体重鎖可変領域及び抗体軽鎖可変領域を含む、抗体の抗原結合ドメインが含まれる。特定の実施態様では、抗原結合部分は、本明細書で更に定義し、且つ当該技術分野において既知であるように、抗体定常領域を含むことができる。有用な重鎖定常領域は、五つのアイソタイプ:α、δ、ε、γ、又はμのいずれかを含む。有用な軽鎖定常領域は、二つのアイソタイプ:κ及びλのいずれかを含む。
【0049】
本明細書において使用される用語「抗原決定基」は、「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分が結合し、抗原結合部分−抗原複合体を形成するポリペプチド巨大分子上の部位(例えば、アミノ酸の連続的広がり又は非連続的アミノ酸の異なる領域から形成される立体配座構造)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面に、ウイルス感染細胞の表面に、他の疾患細胞の表面に、免疫細胞の表面に、血清中に遊離した状態で、及び/又は細胞外基質(ECM)に見出すことができる。特に断らない限り、本明細書において抗原と呼ばれるたんぱく質(例えば、MCSP、CEA、CD3)は、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス、ラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来のタンパク質の任意の天然型を指す。特定の実施態様では、抗原はヒトタンパク質である。本明細書において特定のタンパク質が言及される場合、その用語は「完全長」の未処理のタンパク質と、細胞内での処理により得られる任意の形態のタンパク質とを包含する。その用語はまた、天然に存在するタンパク質の変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体を包含する。抗原として有用な例示的なヒトタンパク質には、限定されないが:コンドロイチン硫酸塩プロテオグリカン4(CSPG4、UniProt no.Q6UVK1(version70)、NCBI RefSeq no.NP_001888.2)としても知られるメラノーマ関連コンドロイチン硫酸塩プロテオグリカン(MCSP);がん胎児性抗原関連細胞接着分子5(CEACAM5、UniProt no.P06731(version 119)、NCBI RefSeq no.NP_004354.2)としても知られるがん胎児性抗原(CEA);及びCD3、特にCD3のエプシロンサブユニット(UniProt no.P07766(version 130)、NCBI RefSeq no.NP_000724.1、ヒト配列の配列番号103;又はUniProt no.Q95LI5(version 49)、NCBI GenBank no.BAB71849.1、カニクイザル配列[Macaca fascicularis]の配列番号104を参照)が含まれる。特定の実施態様では、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、様々な種由来のCD3又は標的抗原の中でも保存された、CD3又は標的細胞抗原のエピトープに結合する。特定の実施態様では、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、CD3及びCEACAM5に結合するが、CEACAM1又はCEACAM6には結合しない。「特異的に結合」とは、結合が、抗原について選択的であり、望ましくない相互作用又は非特異的相互作用とは区別可能であることを意味する。抗原結合部分の、特定の抗原決定基への結合能は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)又は当業者によく知られた他の技術、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore計器上での解析)(Liljeblad et al., Glyco J 17, 323-329 (2000))、及び古典的結合アッセイ(Heeley, Endocr Res 28, 217-229 (2002))により測定することができる。一実施態様では、抗原結合部分の無関係なタンパク質への結合の程度は、例えばSPRによって測定した場合、抗原結合部分の抗原への結合の約10%未満である。特定の実施態様では、抗原に結合する抗原結合部分、又は抗原結合部分を含む抗原結合分子は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10
−8M以下、例えば10
−8M〜10
−13M、例えば、10
−9M〜10
−13M)の解離定数(K
D)を有する。
【0050】
「親和性」とは、分子(例えば、受容体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、リガンド)との間の非共有相互作用の総和の強度を指す。本明細書では、特に明記しない限り、「結合親和性」は、結合対(例えば、抗原結合部分と抗原、又は受容体とそのリガンド)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、通常、解離定数(K
D)によって表される。この解離定数(K
D)は、解離速度定数と会合速度定数(それぞれ、k
off及びk
on)の比である。したがって、等価な親和性は、速度定数の比が同じままである限り、異なる速度定数を含みうる。親和性は、本明細書に記載したものを含む、当該技術分野で既知の十分に確立された方法によって測定することができる。親和性を測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0051】
例えばFc受容体への結合減少といった「結合減少」は、例えばSPRによって測定される、各相互作用に対する親和性の減少を指す。明確に示すために、用語はゼロ(又は分析方法の検出限界を下回る値)への親和性の減少、即ち相互作用の完全な消失も含む。逆に、「結合増大」は、各相互作用に対する親和性の増大を指す。
【0052】
本明細書において使用される「T細胞活性化」は、活性化マーカーの増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子放出、細胞傷害性活性化、及び発現から選択される、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の一又は複数の細胞応答を指す。本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、T細胞活性化を誘導することができる。T細胞活性化を測定するために適切なアッセイは、本明細書において記載される技術分野で既知である。
【0053】
本明細書において使用される「標的細胞抗原」は、標的細胞、例えばがん細胞又は腫瘍間質の細胞といった腫瘍内細胞の表面に提示される抗原決定基を指す。
【0054】
本明細書において、抗原結合部分などに関して使用される用語「第1」及び「第2」は、部分の各種類が複数存在するとき、便宜上区別するために使用されている。このような用語の使用は、明瞭に述べているのでない限り、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の特定の順序又は方向を付与することを意図しているのではない。
【0055】
「Fab分子」は、免疫グロブリンの、重鎖(「Fab重鎖」)のVH及びCH1ドメインと、軽鎖(「Fab軽鎖」)のVL及びCLドメインとからなるタンパク質を指す。
【0056】
「融合した」とは、複数の成分(例えば、Fab分子及びFcドメインサブユニット)が、直接又は一又は複数のペプチドリンカーを介して、ペプチド結合により結合していることを意味する。
【0057】
本明細書において使用される用語「一本鎖」は、ペプチド結合により線形に結合したアミノ酸モノマーを含む分子を指す。特定の実施態様では、抗原結合部分の一つは、一本鎖Fab分子、即ちFab軽鎖とFab重鎖とがペプチドリンカーにより接続されて一本のペプチド鎖を形成しているFab分子である。このような特定の一実施態様では、一本鎖Fab分子においてFab軽鎖のC末端がFab重鎖のN末端に接続している。
【0058】
「クロスオーバーFab分子」(「Crossfab」とも表記される)は、Fab重鎖及び軽鎖の可変領域又は定常領域が交換されているFab分子を意味し、即ち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変領域と重鎖定常領域からなるペプチド鎖、及び重鎖可変領域と軽鎖定常領域からなるペプチド鎖を含んでいる。明瞭には、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常領域を含むペプチド鎖を、本明細書ではクロスオーバーFab分子の「重鎖」と呼ぶ。逆に、Fab軽鎖とFab重鎖の定常領域が交換されているクロスオーバー分子では、重鎖可変領域を含むペプチド鎖を、本明細書ではクロスオーバーFab分子の「重鎖」と呼ぶ。
【0059】
これに対して、「従来の」Fab分子とは、その天然フォーマットにおけるFab分子、即ち重鎖可変領域と定常領域(VH−CH1)からなる重鎖、及び軽鎖可変領域と定常領域(VL−CL)からなる軽鎖を含むFab分子を意味する。
【0060】
用語「免疫グロブリン分子」は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している二つの軽鎖と二つの重鎖からなる約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に、各重鎖は可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有し、その後に重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)が続いている。同様に、N末端からC末端に、各軽鎖は可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有し、その後に軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインが続いている。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、又はμ(IgM)と呼ばれる五つの種類のうちの一つに割当てることができ、それらのいくつかは更にサブタイプ、例えばγ
1(IgG
1)、γ
2(IgG
2)、γ
3(IgG
3)、γ
4(IgG
4)、α
1(IgA
1)及びα
2(IgA
2)に分けられる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプのいずれかに割り当てることができる。免疫グロブリンは、基本的に、免疫グロブリンのヒンジ領域を介して結合された二つのFab分子とFcドメインからなる。
【0061】
用語「抗体」は最も広い意味で用いられ、様々な抗体構造を包含し、限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及び所望の抗原結合活性を示す限りにおいて抗体断片を含む。
【0062】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例には、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’−SHは、F(ab’)
2、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子(例えばscFv)、及び単一ドメイン抗体が含まれる。特定の抗体断片の総説については、Hudson et al. Nat. Med. 9:129-134 (2003)を参照。scFv断片の総説については、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp. 269-315 (1994)を参照;また、国際公開第93/16185号;及び米国特許第5571894号及び第5587458号も参照。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、かつインビボ半減期を増加させたFab及びF(ab’)
2断片の議論については、米国特許第5869046号を参照のこと。ダイアボディは2価又は二重特異性でありうる二つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、EP404097号;国際公開第1993/01161号;Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003);及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)を参照。トリアボディ及びテトラボディもHudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003)に記載されている。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべて又は一部、又は軽鎖可変ドメインのすべて又は一部を含む抗体断片である。ある実施態様において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6248516B1号を参照)。抗体断片は様々な技術で作成することができ、限定されないが、本明細書に記載するように、インタクトな抗体のタンパク分解、並びに組換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による生産を含む。
【0063】
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部又は全部に結合し、且つ抗原の一部又は全部に相補的な領域を含む抗体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、一又は複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)により提供される。特に、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)を含む。
【0064】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は一般に、各々が四つの保存されたフレームワーク領域(FR)と三つの超可変領域(HVR)とを含む類似構造を有する。例えば、Kindt et al., Kuby Immunology, 6
th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)を参照されたい。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するのに十分でありうる。
【0065】
本明細書で使用される用語「超可変領域」又は「HVR」は、配列が超可変であるか、及び/又は構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成する抗体可変ドメインの各領域を指す。一般的に、天然型4鎖抗体は、VH(H1、H2、H3)に三つ、及びVL(L1、L2、L3)に三つの六つのHVRSを含む。HVRは、一般的に超可変ループ由来及び/又は「相補性決定領域」(CDR)由来のアミノ酸残基を含み、後者は、最高の配列可変性を有し、及び/又は抗原認識に関与している。VHのCDR1の例外を除いて、CDRは一般的に超可変ループを形成するアミノ酸残基を含む。超可変領域(HVR)は、「相補性決定領域」(CDR)とも呼ばれ、これらの用語は、抗原結合領域を形成する可変領域の部分に言及して本明細書では交換可能に使用される。このような特定の領域は、Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, Sequences of Proteins of Immunological Interest (1983) and by Chothia et al., J Mol Biol 196:901-917 (1987)に記載されており、その定義には、互いに比較されたときのアミノ酸残基の重複又はサブセットが含まれる。それでも、抗体又はその変異体のCDRに言及していずれかの定義が適用される場合、本明細書において定義及び使用される用語の範囲に含まれることが意図されている。上記文献の各々により定義されるCDRを包含する適切なアミノ酸残基は、比較として以下の表Aに明記した。特定のCDRを包含する正確な残基数は、CDRの配列及び大きさに応じて変化するであろう。当業者であれば、抗体の可変領域のアミノ酸配列を前提に、いずれの残基が特定のCDRを含むかを、常套的に決定することができる。
【0067】
Kabatらは、あらゆる抗体に適用可能な可変領域配列の番号付けシステムも定義した。当業者であれば、配列自体を超える実験データに頼らなくとも、この「カバット番号付け」のシステムをあらゆる可変領域配列に明確に割り当てることができる。ここで使用される「カバット番号付け」は、Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequence of Proteins of Immunological Interest" (1983)によって規定された番号付けシステムを指す。特に断らない限り、抗体可変領域内における特定のアミノ酸残基の位置の番号付けへの言及は、カバット番号付けシステムに従っている。
【0068】
配列リストのポリペプチド配列は、カバット番号付けシステムに従って番号付けされている。しかしながら、当業者には、配列リストの番号付けをカバット番号付けに変換することは周知である。
【0069】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般的に四つのFRのドメイン、即ちFR1、FR2、FR3、及びFR4で構成される。したがって、HVR及びFR配列は一般にVH(又はVL)の以下の配列に現れる:FR1−H1(L1)−FR2−H2(L2)−FR3−H3(L3)−FR4。
【0070】
抗体又は免疫グロブリンの「クラス」は、その重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。抗体の五つの主要なクラス、即ちIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのいくつかは、更にサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG
1、IgG
2、IgG
3、IgG
4、IGA
1、及びIgA
2に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0071】
本明細書の用語「Fcドメイン」又は「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域と変異体Fc領域を含む。IgG重鎖のFc領域の境界はわずかに変化しうるが、通常、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226又はPro230から重鎖のカルボキシル末端まで延びると定義される。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在しても、存在してなくともよい。特に断らない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。本明細書において使用されるFcドメインの「サブユニット」は、二量体Fcドメインを形成する二つのポリペプチドの一方、即ち、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含み、安定な自己会合能を有するポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0072】
「Fcドメインの第1及び第2のサブユニットの会合を促す修飾」とは、Fcドメインのサブユニットを含むポリペプチドの、同一のポリペプチドとの会合結合によるホモダイマーの形成を低減又は抑制する、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。本明細書において使用される会合を促す修飾には、特に、会合することが望ましい二つのFcドメインサブユニット(即ち、Fcドメインの第1及び第2のサブユニット)の各々に対して行われる別々の修飾が含まれ、これらの修飾は、二つのFcドメインサブユニットの会合を促進するために互いに相補的である。例えば、会合を促す修飾は、Fcドメインサブユニットの一方又は両方の構造又は電荷を変化させることにより、それらの会合を、それぞれ立体的に又は静電的に好ましいものにすることができる。このように、(ヘテロ)二量体化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと、第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間で起こり、これらのポリペプチドは、サブユニットの各々に融合した更なる成分(例えば、抗原結合部分)が同じでないという意味で非同一であり得る。いくつかの実施態様では、結合を促す修飾は、Fcドメイン内におけるアミノ酸変異、特にアミノ酸置換を含む。特定の実施態様では、会合を促す修飾は、Fcドメインの二つのサブユニットの各々における別々のアミノ酸変異、特にアミノ酸置換を含む。
【0073】
用語「エフェクター機能」は、抗体のアイソタイプにより変わる、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、サイトカイン分泌、抗原提示細胞による免疫複合体媒介抗原取り込み、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション、及びB細胞の活性化が含まれる。
【0074】
本明細書において使用される「改変する、改変された、改変」などの用語は、ペプチド骨格のいずれかの操作、又は天然に存在するポリペプチド又は組換えポリペプチド又はその断片の翻訳後修飾を含むと考慮される。改変には、アミノ酸配列、グリコシル化パターン、又は個々のアミノ酸の側鎖基の修飾と、このような手法の組合せが含まれる。
【0075】
本明細書で使用される用語「アミノ酸変異」は、アミノ酸の置換、欠失、挿入、及び修飾を包含することを意図している。置換、欠失、挿入、及び修飾のあらゆる組み合わせは、最終的なコンストラクトが所望の特性、例えば、Fc受容体に対する結合の低減、又は別のペプチドとの会合の増大を保持することを前提に、最終的なコンストラクトに到達するために行うことができる。アミノ酸配列の欠失及び挿入には、アミノ末端及び/又はカルボキシ末端の欠失、並びにアミノ酸の挿入が含まれる。特定のアミノ酸変異はアミノ酸の置換である。Fc領域の結合特性などを変更する目的で、非保存的アミノ酸置換、即ち、一のアミノ酸を、異なる構造及び/又は化学特性を有する別のアミノ酸で置換することは、特に好ましい。アミノ酸置換には、20の標準のアミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン、3−メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5−ヒドロキシリジン)の天然に存在するアミノ酸誘導体又は天然に存在しないアミノ酸による置換が含まれる。アミノ酸変異体は、当該技術分野で周知の遺伝学的方法又は化学的方法を用いて生成することができる。遺伝学的方法は、部位特異的変異原性、PCR、遺伝子合成などを含みうる。遺伝学的改変以外の方法、例えば化学的修飾によるアミノ酸の側鎖基の変更方法も有用でありうると考えられる。本明細書では、同じアミノ酸変異を示すために、種々の表記が使用される。例えば、Fcドメインの位置329におけるプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G
329、P329G、又はPro329Glyとして示される。
【0076】
本明細書において使用される用語「ポリペプチド」は、アミノ結合(ペプチド結合としても知られる)により線形に結合したモノマー(アミノ酸)からなる分子を指す。用語「ポリペプチド」は、二つ以上のアミノ酸の任意の鎖を指し、特異的な長さの生成物を指すのではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、又は二つ以上のアミノ酸の鎖を指す他のいずれの用語も「ポリペプチド」の定義に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これら用語のいずれかの代わりに、又はいずれかと交換可能に、使用することができる。用語「ポリペプチド」は、ポリペプチドの発現後修飾の成果を指すことも意図しており、このような成果には、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク分解的切断、又は天然に存在しないアミノ酸による修飾が含まれる。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源から得られるか、又は組換え技術により生成されるが、必ずしも指定の核酸配列から翻訳されるものではない。ポリペプチドは、化学合成を含むあらゆる手法で生成されてよい。本発明のポリペプチドは、約3以上、5以上、10以上、20以上、25以上、50以上、75以上、100以上、200以上、500以上、1000以上、又は2000以上の大きさのアミノ酸からなってよい。ポリペプチドは、規定された三次元構造を有することができるが、必ずしもそのような構造を有するものではない。既定の三次元構造を有するポリペプチドは、折り畳まれていると言われ、既定の三次元構造を有さず、多数の異なる形態をとりうるポリペプチドは折り畳まれていないと言われる。
【0077】
「単離された」ポリペプチド若しくは変異体、又はその誘導体は、その自然の環境にない目的のポリペプチドである。特定のレベルのどのような精製も必要でない。例えば、単離されたポリペプチドは、その天然又は自然の環境から除去することができる。宿主細胞に発現される、組換えにより生成されたポリペプチド及びタンパク質を、任意の適切な技術により分離、画分化、又は部分的若しくは実質的に精製された天然又は組換えポリペプチドのように、本発明のために単離することが考慮される。
【0078】
「参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入した後、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のための配列比較は、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST−2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大の整列を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性の値は、配列比較コンピュータープログラムALIGN−2を使用することによって生成される。ALIGN−2配列比較コンピュータープログラムはジェネンテック社によって作製され、ソースコードは米国著作権庁、ワシントンD.C.,20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN−2プログラムは、ジェネンテック社、サウスサンフランシスコ、カリフォルニアから公的に入手可能であるか、又はそのソースコードからコンパイルすることができる。ALIGN−2プログラムは、デジタルUNIXのV4.0Dを含む、UNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされるべきである。すべての配列比較パラメータは、ALIGN−2プログラムによって設定され変動しない。アミノ酸配列比較にALIGN−2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(或いは、所与のアミノ酸配列Bと、又はそれに対して特定の%アミノ酸配列同一性を有する又は含む所与のアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
100×分率X/Y
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN−2により、そのプログラムのAとBのアラインメントにおいて完全一致のスコアを得たアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なりうることは理解されるであろう。特に断らない限り、本明細書で使用されるすべての%アミノ酸配列同一性値が、ALIGN−2コンピュータープログラムを使用し、直前の段落で説明したように得られる。
【0079】
用語「ポリヌクレオチド」は、単離された核酸分子又はコンストラクト、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)、ウイルス由来のRNA、又はプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、一般的なホスホジエステル結合又は非一般的結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を含みうる。用語「核酸分子」は、ポリヌクレオチド中に存在する、任意の一又は複数の核酸セグメント、例えばDNA又はRNA断片を指す。
【0080】
「単離された」核酸分子又はポリヌクレオチドは、その天然環境から除去された目的の核酸分子、DNA又はRNAである。例えば、ベクターに含有されるポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドを、本発明の目的のために単離することが考慮される。単離されたポリヌクレオチドの更なる例には、異種宿主細胞内に維持される組換えポリヌクレオチド、又は溶液中の精製された(部分的に又は実質的に)ポリヌクレオチドが含まれる。単離されたポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド分子を通常含む細胞に含まれるポリヌクレオチド分子を含むが、そのポリヌクレオチド分子は、染色体外又はその自然の染色体上の位置とは異なる染色体位置に存在している。単離されたRNA分子は、インビボ又はインビトロの本発明のRNA転写物、並びにポジティブ及びネガティブな鎖形式、及び二重鎖形式を含む。本発明の単離されたポリヌクレオチド又は核酸は、更に、合成により生成されたそのような分子を含む。加えて、ポリヌクレオチド又は核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位、又は転写ターミネーターといった制御要素を含んでも含まなくてもよい。
【0081】
少なくとも、例えば、本発明の参照ヌクレオチド配列と少なくとも例えば95%「同一」であるヌクレオチド配列を有する核酸又はポリヌクレオチドにより、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が参照配列と、ポリヌクレオチド配列が参照ヌクレオチド配列のそれぞれ100のヌクレオチドにつき最大5ポイントの変異を含んでよいという点以外は同一であることが意図される。換言すれば、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列中最大5%のヌクレオチドが削除又は別のヌクレオチドで置換されてよいか、又は参照配列に含まれるすべてのヌクレオチドの最大5%まで複数のヌクレオチドが参照配列に挿入されてよい。参照配列のこのような変更は、参照ヌクレオチド配列の5’又は3’末端の位置で、又はこれら末端の間のいずれかで、参照配列に含まれる残基中において個々に散在して、又は参照配列内部の一又は複数の連続する群において、発生してよい。特定の事項として、いずれか特定のポリヌクレオチド配列が、本発明のヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるかどうかは、ポリペプチドについて上述したもの(例えばALIGN−2)などの既知のコンピュータープログラムを用いて常套的に決定することができる。
【0082】
用語「発現カセット」は、組換えにより又は合成により、標的細胞内の一連の特定の核酸の転写を許可する特定の核酸要素を用いて生成されたポリヌクレオチドを指す。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルス、又は核酸断片中に取り込むことができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分には、他の配列の中でも、転写される核酸配列及びプロモーターが含まれる。特定の実施態様では、本発明の発現カセットは、本発明の二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0083】
用語「ベクター」又は「発現ベクター」は、「発現コンストラクト」と同義であり、標的細胞内においてそれが作用可能に結合する特定の遺伝子の発現を導入及び方向付けするために使用されるDNA分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、並びにそれが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。本発明の発現ベクターは、発現カセットを含む。発現ベクターは、大量の安定なmRNAの転写を可能にする。発現ベクターが標的細胞内部に入ると、遺伝子によってコードされるリボ核酸分子又はタンパク質が、細胞転写及び/又は翻訳機械により生成される。一実施態様では、本発明の発現ベクターは、本発明の二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列又はその断片を含む発現カセットを含む。
【0084】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養」は、互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」を含み、それには、継代の数に関係なく、それに由来する初代形質転換細胞及び子孫が含まれる。子孫は親細胞と核酸含量が完全に同一ではないかもしれないが、突然変異が含まれる場合がある。本明細書には、最初に形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物活性を有する変異型子孫が本含まれる。宿主細胞は、本発明の二重特異性抗原結合分子を生成するために使用することができるいずれかの種類の細胞系である。宿主細胞は、培養細胞、例えばいくつか例を挙げると、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YO骨髄腫細胞、P3X63マウス骨髄腫細胞、PER細胞、PER.C6細胞、又はハイブリドーマ細胞といった哺乳動物の培養細胞、酵母細胞、昆虫細胞、及び植物細胞を含み、更には、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物、又は培養された植物若しくは動物組織内部に含まれる細胞も含む。
【0085】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインの結合に続いて、エフェクター機能を実行するように受容体保有細胞を刺激するシグナル伝達現象を生じさせるFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体には、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、及びFcαRI(CD89)が含まれる。
【0086】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)は、免疫エフェクター細胞により抗体でコートされた標的細胞の溶解を招く免疫機構である。標的細胞は、Fc領域を含む抗体又はその誘導体が通常Fc領域に対するN末端であるタンパク質部分を介して特異的に結合する細胞である。本明細書で使用される用語「ADCCの低下」は、標的細胞を囲む媒質中の所定の抗体濃度において、上記に定義したADCCの機構により所定の時間内に溶解する標的細胞の数、及び/又は、ADCCの機構により所定の時間内に所定の数の標的細胞を溶解させるために必要な、標的細胞を囲む媒質中の抗体濃度の上昇のいずれかと定義される。ADCCの低下は、同じ標準的な生成、精製、製剤化、及び貯蔵方法(当業者に既知の)を用いて、但し改変されていない、同じ型の宿主細胞により生成される同じ抗体により媒介されるADCCと相対的なものである。例えば、そのFcドメインにADCCを低下させるアミノ酸置換を含む抗体により媒介されるADCCの低下は、このアミノ酸置換をFcドメインに含まない同じ抗体によって媒介されるADCCと比較される。ADCCを測定するための適切なアッセイは、当該技術分野でよく知られている(例えば、国際公開第2006/082515号又は同第2012/130831号参照)。
【0087】
「有効量の」薬剤は、それが投与される細胞又は組織中に生理的変化をもたらすために必要な量を指す。
【0088】
薬剤、例えば、薬学的組成物の「治療的有効量」とは、所望の治療的又予防的結果を達成するために必要な用量及び期間での、有効な量を指す。治療的有効量の薬剤は、疾患の有害作用を、例えば、排除する、低下させる、遅延させる、最小化する、又は防止する。
【0089】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウス及びラット)が含まれる。特に、個体又は対象はヒトである。
【0090】
用語「薬学的組成物」は、その中に有効で含有される活性成分の生物学的活性を許容するような形態であって、製剤が投与される対象にとって許容できない毒性を有する他の成分を含まない調製物を指す。
【0091】
「薬学的に許容される担体」は、対象に非毒性である、有効成分以外の薬学的組成物の成分を指す。薬学的に許容される担体には、限定されないが、緩衝剤、賦形剤、安定剤、又は保存剤が含まれる。
【0092】
本明細書で用いられる場合、「治療」(及び「治療する(treat)」又は「治療している(treating)」など文法上の変形)は、治療されている個体の疾患の自然経過を変えようと試みる臨床的介入を指し、予防のために、又は臨床病理の過程において実行できる。治療の望ましい効果には、限定されないが、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移を予防すること、疾患の進行の速度を遅らせること、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。いくつかの実施態様では、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、疾患の発症を遅延させるか又は疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0093】
用語「パッケージ挿入物」は、効能、用法、用量、投与、併用療法、禁忌についての情報、及び/又はそのような治療用製品の使用に関する警告を含む、治療用製品の商用パッケージに慣習的に含まれている指示書を指すために使用される。
【0094】
実施態様の詳細な説明
第1の態様において、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供し、この分子は、
(i)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号8、配列番号9、配列番号10からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む第1の抗原結合部分;並びに
(ii)標的細胞抗原に特異的に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分
を含む。
【0095】
一実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号3、配列番号32及び配列番号33からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7及び配列番号31からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0096】
一実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0097】
特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、CEAに特異的に結合することができ、配列番号24、配列番号25及び配列番号26からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29及び配列番号30からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0098】
別の特定の実施態様では、CEAに特異的に結合することができる第2の抗原結合部分は、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0099】
別の特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、MCSPに特異的に結合することができ、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号35、配列番号37、配列番号38及び配列番号40からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号44、配列番号45、配列番号48、配列番号49及び配列番号50からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0100】
別の特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、MCSPに特異的に結合することができ、配列番号14、配列番号15及び配列番号16からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号18、配列番号19及び配列番号20からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0101】
別の特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、MCSPに特異的に結合することができ、配列番号13、配列番号34、配列番号36、配列番号39及び配列番号41からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17、配列番号43、配列番号46、配列番号47及び配列番号51からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0102】
別の特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、MCSPに特異的に結合することができ,配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0103】
一実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供し、この分子は、
(i)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号8、配列番号9、配列番号10からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む第1の抗原結合部分;並びに
(ii)CEAに特異的に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分であって、配列番号24、配列番号25及び配列番号26からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29、配列番号30からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む第2の抗原結合部分
を含んでいる。
【0104】
一実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供し、この分子は、
(i)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第1の抗原結合部分、並びに
(ii)CEAに特異的に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分であって、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第2の抗原結合部分
を含んでいる。
【0105】
一実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供し、この分子は、
(i)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号8、配列番号9、配列番号10からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む第1の抗原結合部分;並びに
(ii)MCSPに特異的に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分であって、配列番号14、配列番号15及び配列番号16からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号18、配列番号19、配列番号20からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む第2の抗原結合部分
を含んでいる。
【0106】
一実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供し、この分子は、
(i)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第1の抗原結合部分、並びに
(ii)MCSPに特異的に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分であって、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第2の抗原結合部分
を含んでいる。
【0107】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である。
【0108】
一実施態様では、第2の抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0109】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖及びFab重鎖の定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原結合部分は一般的なFab分子である。更に特定の実施態様では、第1及び第2の抗原結合部分は、任意選択的にペプチドリンカーを介して、互いに融合している。
【0110】
特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、安定に結合することができる第1及び第2のサブユニットからなるFcドメインを更に含む。
【0111】
更なる特定の実施態様では、CD3に特異的に結合することができる一を超えない抗原結合部分がT細胞活性化二重特異性抗原結合分子中に存在する(即ち、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子はCD3に対する一価の結合を提供する)。
【0112】
T細胞活性化二重特異性抗原結合分子のフォーマット
T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の成分は、様々な構造で互いに融合することができる。例示的構造を
図1、3及び5に示す。
【0113】
特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、安定に結合することができる第1及び第2のサブユニットからなるFcドメインを含む。いくつかの実施態様では、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0114】
このような一実施態様では、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。このような特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、基本的に、第1及び第2の抗原結合部分、第1及び第2のサブユニットからなるFcドメイン、並びに任意選択的に一又は複数のペプチドリンカーからなり、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。任意選択的に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とは、更に互いに融合していてよい。
【0115】
別のこのような実施態様では、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。このような特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、基本的に、第1及び第2の抗原結合部分、第1及び第2のサブユニットからなるFcドメイン、及び任意選択的に一又は複数のペプチドリンカーからなり、第1及び第2の抗原結合部分はそれぞれ、Fab重鎖のC末端においてFcドメインのサブユニットのうちの一つのN末端に融合している。
【0116】
他の実施態様では、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0117】
このような特定の一実施態様では、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。このような特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、基本的に、第1及び第2の抗原結合部分、第1及び第2のサブユニットからなるFcドメイン、並びに任意選択的に一又は複数のペプチドリンカーからなり、第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。任意選択的に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とは、更に互いに融合していてよい。
【0118】
抗原結合部分は、Fcドメインに対して、又は互いに、直接又はペプチドリンカーを介して融合していてよく、一又は複数のアミノ酸、典型的には約2〜20のアミノ酸を含む。ペプチドリンカーは当分野において既知であり、本願明細書に記載される。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G
4S)
n,(SG
4)
n,(G
4S)
n 又は
4(SG
4)
nペプチドリンカーが含まれる。「n」は、通常は1〜10、典型的には2〜4の数である。第1及び第2の抗原結合部分のFab軽鎖を互いに融合させるための特定の適切なペプチドリンカーは(G
4S)
2である。第1及び第2の抗原結合部分のFab重鎖を接続するために適した例示的ペプチドリンカーはEPKSC(D)−(G
4S)
2(配列番号105及び106)である。加えて、リンカーは免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含むことができる。特に抗原結合部分がFcドメインのサブユニットのN末端に融合している場合には、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介して、追加のペプチドリンカーを用いて又は用いずに、融合することができる。
【0119】
標的細胞抗原に特異的に結合することができる単一の抗原結合部分を有するT細胞活性化二重特異性抗原結合分子(例えば、
図1A、1D、1F又は1H)は、特に高親和性抗原結合部分の結合に続いて標的細胞抗原の内部移行が予想される場合に有用である。このような場合、標的細胞抗原に特異的な一を超える抗原結合部分の存在は、標的細胞抗原の内部移行を亢進し、それによりその利用可能性を低下させる。
【0120】
しかしながら、他の多くの場合、標的細胞抗原に特異的な二つ以上の抗原結合部分を含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子(例えば、
図1B、1C、1E又は1Gに示す)を有することは、例えば標的部位へのターゲティングを最適化するため、又は標的細胞抗原の架橋を可能にするために有利であろう。
【0121】
したがって、特定の実施態様では、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、標的細胞抗原に特異的に結合することができる第3の抗原結合部分を更に含む。一実施態様では、第3の抗原結合部分は、一般的なFab分子である。一実施態様では、第3の抗原結合部分は、第2の原結合部分と同じ標的細胞抗原に特異的に結合することができる。特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に特異的に結合することができ、第2及び第3の抗原結合部分は標的細胞抗原に特異的に結合することができる。特定の実施態様では、第2及び第3の抗原結合部分は同一である(即ち、それらは同じアミノ酸配列を含む)。
【0122】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分はCD3に特異的に結合することができ、第2及び第3の抗原結合部分はCEAに特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号24、配列番号25及び配列番号26からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29及び配列番号30からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む。
【0123】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に特異的に結合することができ、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号8、配列番号9、配列番号10からなる群より選択される少なくとも一つ軽鎖CDRとを含み;第2及び第3の抗原結合部分はCEAに特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号24、配列番号25及び配列番号26からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29及び配列番号30からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む。
【0124】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に特異的に結合することができ、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号8、配列番号9、配列番号10からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含み;第2及び第3の抗原結合部分はCEAに特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号24、配列番号25及び配列番号26からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29及び配列番号30からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む。
【0125】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に特異的に結合することができ、配列番号3、配列番号32及び配列番号33からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7及び配列番号31からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでおり、第2及び第3の抗原結合部分はCEAに特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0126】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に特異的に結合することができ、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでおり、第2及び第3の抗原結合部分はCEAに特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0127】
一実施態様では、第1の抗原結合部分はCD3に特異的に結合することができ、第2及び第3の抗原結合部分はMCSPに特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号35、配列番号37、配列番号38及び配列番号40からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号44、配列番号45、配列番号48、配列番号49及び配列番号50からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0128】
特定の一実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に特異的に結合することができ、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号8、配列番号9、配列番号10からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含み;第2及び第3の抗原結合部分はMCSPに特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号35、配列番号37、配列番号38及び配列番号40からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号44、配列番号45、配列番号48、配列番号49及び配列番号50からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0129】
一実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に特異的に結合することができ、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号8、配列番号9、配列番号10からなる群より選択される少なくとも一つ軽鎖CDRとを含み;第2及び第3の抗原結合部分はMCSPに特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号14、配列番号15及び配列番号16からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号18、配列番号19及び配列番号20からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む。
【0130】
一実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に特異的に結合することができ、 配列番号3、配列番号32及び配列番号33からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7及び配列番号31からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでおり、第2及び第3の抗原結合部分はMCSP特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号13、配列番号34、配列番号36、配列番号39及び配列番号41からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17、配列番号43、配列番号46、配列番号47及び配列番号51からなる群より選択されるアミノ酸と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0131】
一実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に特異的に結合することができ、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでおり、第2及び第3の抗原結合部分はMCSPに特異的に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0132】
一実施態様では、第3の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。更に特定の実施態様では、第2及び第3の抗原結合部分は、それぞれFab重鎖のC末端においてFcドメインのサブユニットのうちの一つのN末端に融合しており、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。任意選択的に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とは、更に互いに融合していてよい。
【0133】
第2及び第3の抗原結合部分は、直接又はペプチドリンカーを介してFcドメインに融合することができる。特定の実施態様では、第2及び第3の抗原結合部分はそれぞれ、免疫グロブリンヒンジ領域を介してFcドメインに融合している。特定の実施態様では、免疫グロブリンヒンジ領域は、ヒトIgG
1ヒンジ領域である。一実施態様では、第2及び第3の抗原結合部分及びFcドメインは、免疫グロブリン分子の一部である。特定の実施態様では、免疫グロブリン分子はIgGクラスの免疫グロブリンである。更に特定の実施態様では、免疫グロブリンはIgG
1サブクラスの免疫グロブリンである。別の実施態様では、免疫グロブリンはIgG
4サブクラスの免疫グロブリンである。更に特定の実施態様では、免疫グロブリンはヒト免疫グロブリンである。他の実施態様では、免疫グロブリンは、キメラ免疫グロブリン又はヒト化免疫グロブリンである。一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、基本的に、標的細胞抗原に特異的に結合することができる免疫グロブリン分子、及びCD3に特異的に結合することができる抗原結合部分であって、任意選択的にペプチドリンカーを介して、免疫グロブリン重鎖のうちの一つのN末端に融合するFab分子、特にクロスオーバーFab分子である抗原結合部分からなる。
【0134】
特定の実施態様では、第1及び第3の抗原結合部分は、それぞれFab重鎖のC末端においてFcドメインのサブユニットのうちの一つのN末端に融合しており、第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。このような特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、基本的に、第1、第2及び第3の抗原結合部分、第1及び第2のサブユニットからなるFcドメイン、並びに任意選択的に一又は複数のペプチドリンカーからなり、第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、ここで第3の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。任意選択的に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とは、更に互いに融合していてよい。
【0135】
一実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供し、この分子は、
(i)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号4の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号5の重鎖CDR2、配列番号6の重鎖CDR3、配列番号8の軽鎖CDR1、配列番号9の軽鎖CDR2、及び配列番号10の軽鎖CDR3を含み、第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;並びに
(ii)それぞれがCEAに特異的に結合することができるFab分子である第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号24の重鎖CDR1、配列番号25の重鎖CDR2、配列番号26の重鎖CDR3、配列番号28の軽鎖CDR1、配列番号29の軽鎖CDR2、及び配列番号30の軽鎖CDR3を含む第2及び第3の抗原結合部分
を含んでいる。
【0136】
一実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供し、この分子は、
(i)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;並びに
(ii)各々がCEAに特異的に結合することができるFab分子である第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第2の抗原結合部分
を含んでいる。
【0137】
一実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供し、この分子は、
(i)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号4の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号5の重鎖CDR2、配列番号6の重鎖CDR3、配列番号8の軽鎖CDR1、配列番号9の軽鎖CDR2、及び配列番号10の軽鎖CDR3を含み、第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;並びに
(ii)各々がMCSPに特異的に結合することができる第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号14の重鎖CDR1、配列番号15の重鎖CDR2、配列番号16の重鎖CDR3、配列番号18の軽鎖CDR1、配列番号19の軽鎖CDR2、及び配列番号20の軽鎖CDR3を含む第2及び第3の抗原結合部分
を含んでいる。
【0138】
一実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供し、この分子は、
(i)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;並びに
(ii)各々がMCSPに特異的に結合することができるFab分子である第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第2及び第3の抗原結合部分
を含んでいる。
【0139】
上記四つの実施態様のいずれかによるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、更に、(iii)安定に結合することができる第1及び第2のサブユニットからなるFcドメインを含むことができ、ここで、第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0140】
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のいくつかにおいては、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とが、任意選択的にリンカーペプチドを介して、互いに融合している。第1及び第2の抗原結合部分の構造によっては、第1の抗原結合部分のFab軽鎖は、そのC末端において、第2の抗原結合部分のFab軽鎖のN末端に融合しうる、又は第2の抗原結合部分のFab軽鎖は、そのC末端において、第1の抗原結合部分のFab軽鎖のN末端に融合しうる。第1及び第2の抗原結合部分のFab軽鎖の融合は更に、マッチしないFab重鎖とFab軽鎖の誤対合を低減し、また本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のいくつかの発現に必要なプラスミドの数を低減する。
【0141】
特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域が第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(即ち、第1の抗原結合部分が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域により置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含んでいる)、第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域がFcドメインのサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VL
(1)−CH1
(1)−CH2−CH3(−CH4))ポリペプチドと、第2の抗原結合部分のFab重鎖がFcドメインサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VH
(2)−CH1
(2)−CH2−CH3(−CH4))ポリペプチドとを含んでいる。いくつかの実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は更に、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域(VH
(1)−CL
(1))、及び第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド(VL
(2)−CL
(2))と共有するポリペプチドを含む。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0142】
代替的な実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域が第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(即ち、第1の抗原結合部分が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域により置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含んでいる)、第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域がFcドメインのサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VH
(1)−CL
(1)−CH2−CH3(−CH4))ポリペプチドと、第2の抗原結合部分のFab重鎖がFcドメインサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VH
(2)−CH1
(2)−CH2−CH3(−CH4))ポリペプチドとを含んでいる。いくつかの実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は更に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域(VL
(1)−CH1
(1))、及び第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド(VL
(2)−CL
(2))と共有するポリペプチドを含む。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0143】
いくつかの実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域が第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(即ち、第1の抗原結合部分が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域が、第2の抗原結合部分のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、第2の抗原結合部分のFab重鎖がFcドメインサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VL
(1)−CH1
(1)−VH
(2)−CH1
(2)−CH2−CH3(−CH4))ポリペプチドを含む。他の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域が第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(即ち、第1の抗原結合部分が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域が、第2の抗原結合部分のFab重鎖とカルボキシ端末ペプチド結合を共有し、第2の抗原結合部分のFab重鎖がFcドメインサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VH
(1)−CL
(1)−VH
(2)−CH1
(2)−CH2−CH3(−CH4))ポリペプチドを含む。また別の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、第2の抗原結合部分のFab重鎖が、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域が第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(即ち、第1の抗原結合部分が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域が、Fcドメインサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VH
(2)−CH1
(2)−VL
(1)−CH1
(1)−CH2−CH3(−CH4))ポリペプチドを含む。他の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、第2の抗原結合部分のFab重鎖が、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域が第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(即ち、第1の抗原結合部分が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域が、Fcドメインサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VH
(2)−CH1
(2)−VH
(1)−CL
(1)−CH2−CH3(−CH4))ポリペプチドを含む。
【0144】
これらのうちのいくつかの実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は更に、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域(VH
(1)−CL
(1))、及び第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド(VL
(2)−CL
(2))と共有する、第1の抗原結合部分のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチドを含む。これらのうちの他の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は更に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域(VL
(1)−CH1
(1))、及び第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド(VL
(2)−CL
(2))と共有する、クロスオーバーFab軽鎖ポリペプチドを含む。これらのうちの更に他の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は更に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域が、第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域が第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VL
(1)−CH1
(1)−VL
(2)−CL
(2))ポリペプチド、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域が第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域が第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチドとカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VH
(1)−CL
(1)−VL
(2)−CL
(2))ポリペプチド、第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチドが第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域が第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VL
(2)−CL
(2)−VL
(1)−CH1
(1))ポリペプチド、又は第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチドが第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域が第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(VL
(2)−CL
(2)−VH
(1)−CL
(1))ポリペプチドを含む。
【0145】
これらの実施態様によるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は更に、(i)Fcドメインサブユニットポリペプチド(CH2−CH3(−CH4))、又は(ii)第3の抗原結合部分のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を、Fcドメインのサブユニット(VH
(3)−CH1
(3)−CH2−CH3(−CH4))及び第3の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド(VL
(3)−CL
(3))と共有するポリペプチドを含みうる。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0146】
上記実施態様のいずれによっても、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子(例えば、抗原結合部分、Fcドメイン)の成分は、直接融合するか、又は様々なリンカー、特に一又は複数のアミノ酸、典型的には約2〜20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して融合する。このようなリンカーは本明細書に記載されているか、又は当該技術分野で既知である。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G
4S)
n,(SG
4)
n,(G
4S)
n又はG
4(SG
4)
nペプチドリンカーが含まれ、ここでnは通常1〜10、典型的には2〜4の数である。
【0147】
Fcドメイン
T細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖からなる。例えば、免疫グロブリン G(IgG)分子のFcドメインはダイマーであり、その各サブユニットはCH2及びCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。Fcドメインの二つのサブユニットは、互いに安定に結合することができる。一実施態様では、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、一を超えないFcドメインを含む。
【0148】
本発明による一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFcドメインはIgG Fcドメインである。特定の実施態様では、FcドメインはIgG
1 Fcドメインである。別の実施態様では、FcドメインはIgG
4のFcドメインである。更に特定の実施態様では、Fcドメインは、S228(カバット番号付け)の位置にアミノ酸置換を、特にアミノ酸置換S228Pを含む、IgG
4 Fcドメインである。このアミノ酸置換は、IgG
4抗体のインビボでのFabアーム交換を低減する(Stubenrauch et al., Drug Metabolism and Disposition 38, 84-91 (2010)参照)。更に特定の実施態様では、Fcドメインはヒトである。ヒトIgG
1 Fc領域の例示的配列は、配列番号107に提示されている。
【0149】
ヘテロ二量体化を促すFcドメインの修飾
本発明によるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、Fcドメインの二つのサブユニットの一方又は他方に融合した複数の異なる抗原結合部分を含み、したがってFcドメインの二つのサブユニットは、通常二つの非同一なポリペプチド鎖に含まれている。これらのポリペプチドの組換え同時発現とそれに続く二量体化は、二つのポリペプチドの複数の可能な組合わせをもたらす。したがって、組換え生成におけるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の収率及び純度を改善するために、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFcドメイン内に所望のポリペプチドの会合を促す修飾を導入することが有利であろう。
【0150】
即ち、特定の実施態様では、本発明によるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、Fcドメインの第1及び第2のサブユニットの会合を促す修飾を含んでいる。ヒトIgG Fcドメインの二つのサブユニット間においてタンパク質−タンパク質相互作用が最大である部位は、FcドメインのCH3ドメインである。したがって、一実施態様では、前記修飾はFcドメインのCH3ドメイン内で行われる。
【0151】
特定の一実施態様では、前記修飾はいわゆる「ノブ−イントゥ−ホール(knob−into−hole)」修飾であり、Fcドメインの二つのサブユニットの一方に「ノブ」修飾を、Fcドメインの二つのサブユニットの他方に「ホール」修飾を、それぞれ含んでいる。
【0152】
ノブ−イントゥ−ホール技術は、例えば、米国特許第5731168号;同第7695936号;Ridgway et al., Prot Eng 9, 617-621 (1996) and Carter, J Immunol Meth 248, 7-15 (2001)に記載されている。通常、方法は、隆起がそれに対応する空洞内に位置できるように、第1のポリペプチドの接触面に隆起(「ノブ」)を、及び第2のポリペプチドの接触面に対応する空洞を、それぞれ導入することにより、ヘテロ二量体形成を促進し、且つホモ二量体形成を妨害することを伴う。隆起は、第1のポリペプチドの接触面由来の小さなアミノ酸側鎖を大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)で置き換えることにより構築される。隆起と同じか又は同様のサイズの相補的空洞は、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)で置き換えることにより、第2のポリペプチドの接触面に作り出される。
【0153】
このように、特定の一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基がそれよりも大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部の空洞内に配置可能な隆起が生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内に、アミノ酸残基がそれよりも小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部の隆起を配置可能な空洞が生成される。
【0154】
隆起と空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を、例えば部位特異的突然変異誘発により、又はペプチド合成により、変化させることにより作り出すことができる。
【0155】
特定の実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、366の位置のスレオニン残基がトリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、407の位置のチロシン残基がバリン残基で置き換えられる(Y407V)。一実施態様では、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて更に、366の位置のスレオニン残基がセリン残基で置き換えられ(T366S)、368の位置のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられる(L368A)。
【0156】
また更なる実施態様ではFcドメインの第1のサブユニットにおいて更に、354の位置のセリン残基がシステイン残基で置き換えられ(S354C)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて更に、349の位置のチロシン残基がシステイン残基で置き換えられる(Y349C)。これら二つのシステイン残基の導入により、Fcドメインの二つのサブユニット間にジスルフィド架橋が形成され、更にダイマーを安定させる(Carter, J Immunol Methods 248, 7-15 (2001))。
【0157】
特定の実施態様では、CD3に結合することができる抗原結合部分は、(任意選択的に、標的細胞抗原に結合することができる抗原結合部分を介して)Fcドメインの第1のサブユニット(「ノブ」修飾を含んでいる)に融合する。理論に縛られることを望まないが、CD3に結合することができる抗原結合部分の、Fcドメインのノブ含有サブユニットへの融合は(更に)、CD3に結合することができる二つの抗原結合部分を含む抗原結合分子の生成を最小化する(二つのノブ含有ポリペプチドの立体的衝突)。
【0158】
代替的な位置実施態様では、Fcドメインの第1及び第2のサブユニットの会合を促す修飾は、例えば、国際公開第2009/089004号に記載されているような静電ステアリング効果を媒介する修飾を含む。通常、この方法は、ホモ二量体形成が静電的に望ましくなくなり、ヘテロ二量体化が静電的に望ましくなるような、荷電アミノ酸残基による二つのFcドメインサブユニットの接触面における一又は複数のアミノ酸残基の置き換えを伴う。
【0159】
Fc受容体の結合及び/又はエフェクター機能を低減するFcドメインの修飾
Fcドメインは、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子に望ましい薬物動態特性を付与し、そのような薬物動態特性には、標的組織中への良好な蓄積に貢献する長い血清半減期、及び望ましい組織−血液分布比が含まれる。しかしながら、同時に、Fcドメインは、好ましい抗原保有細胞ではなく、Fc受容体を発現する細胞へのT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の望ましくないターゲティングの原因となりうる。更には、Fc受容体シグナル伝達経路の同時活性化はサイトカイン放出の原因となりえ、サイトカイン放出は、T細胞活性化特性及び抗原結合分子の長い半減期と組み合わさって、サイトカイン受容体の過剰な活性化を招き、全身投与されると重い副作用性をを引き起こす。T細胞以外の(Fc受容体保有)免疫細胞の活性化は、例えばNK細胞によるT細胞の破壊の可能性により、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の有効性を更に低下させることすらある。
【0160】
したがって、特定の実施態様では、本発明によるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、天然のIgG
1 Fcドメインと比較した場合に、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を呈する。このような一実施態様では、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子)は、天然のIgG
1 Fcドメイン(又は天然のIgG
1 Fcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子)と比較して、50%未満、好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満、及び最も好ましくは5%未満の、Fc受容体への結合親和性を呈する、及び/又は、天然のIgG
1 Fcドメイン(又は天然のIgG
1 Fcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子)と比較して、50%未満、好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満、及び最も好ましくは5%未満の、エフェクター機能を呈する。一実施態様では、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子)は、Fc受容体に実質的に結合しない、及び/又はエフェクター機能を誘導しない。特定の一実施態様では、Fc受容体はFcγ受容体である。一実施態様では、Fc受容体はヒトFc受容体である。一実施態様では、Fc受容体は活性化Fc受容体である。特定の一実施態様では、Fc受容体は活性化ヒトFcγ受容体であり、具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、更に具体的にはヒトFcγRIIIaである。一実施態様では、エフェクター機能は、CDC、ADCC、ADCP、及びサイトカイン分泌の群から選択される一又は複数である。特定の一実施態様では、エフェクター機能はADCCである。一実施態様では、Fcドメインは、天然IgG
1 Fcドメインと比較して実質的に同様の、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性を呈する。実質的に同様のFcRnに対する結合親和性は、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子)が、天然IgG
1 Fcドメイン(又は天然IgG
1 Fcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子)の約70%、特に約80%、更には特に約90%を上回るFcRnに対する結合親和性を呈するとき、達成される。
【0161】
特定の実施態様では、Fcドメインは、改変されていないFcドメインと比較して小さな、Fc受容体への結合親和性及び/又はエフェクター機能を有するように改変される。特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させる一又は複数のアミノ酸変異を含む。典型的には、同じ一又は複数のアミノ酸変異がFcドメインの二つのサブユニットの各々に存在する。一実施態様では、アミノ酸変異はFcドメインのFc受容体に対する結合親和性を低下させる。一実施態様では、アミノ酸変異は、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1、又は少なくとも10分の1に低下させる。FcドメインのFc受容体に対する結合親和性を低下させる複数のアミノ酸変異が存在する一実施態様では、これらアミノ酸変異の組合せにより、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性が、少なくとも10分の1、少なくとも20分の1、又は少なくとも50分の1にまで低下する。一実施態様では、改変されたFcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、改変されていないFcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子と比較して、20%未満、特に10%未満、更には5%未満のFc受容体に対する結合親和性を呈する。特定の一実施態様では、Fc受容体はFcγ受容体である。いくつかの実施態様では、Fc受容体はヒトFc受容体である。いくつかの実施態様では、Fc受容体は活性化Fc受容体である。特定の一実施態様では、Fc受容体は活性化ヒトFcγ受容体であり、具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、更に具体的にはヒトFcγRIIIaである。好ましくは、これら受容体の各々への結合は低減する。いくつかの実施態様では、補体成分に対する結合親和性、特にC1qに対する結合親和性も低減する。一実施態様では、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性は低減しない。FcRnに対する実質的に同様の結合、即ち、前記受容体に対するFcドメインの結合親和性の保存は、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子)がFcドメインの改変されていない形態(又はFcドメインの前記改変されていない形態を含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子)の約70%を上回るFcRnに対する結合親和性を呈するとき、達成される。Fcドメイン、又は前記Fcドメインを含む本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、このような親和性の約80%、及び場合によっては約90%を上回る親和性を呈しうる。特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、改変されていないFcドメインと比較してエフェクター機能が低下するように改変される。エフェクター機能の低下は、限定しないが、補体依存性細胞傷害(CDC)の低減、抗体依存性T細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低減、抗体依存性細胞貪食(ADCP)の低減、サイトカイン分泌の低減、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込みの低減、NK細胞に対する結合の低減、マクロファージに対する結合の低減、単球に対する結合の低減、多形核細胞に対する結合の低減、アポトーシスを誘導する直接的シグナル伝達の低減、標的結合抗体の架橋の低減、樹状細胞成熟の低減、又はT細胞プライミングの低減のうちの一又は複数を含むことができる。一実施態様では、エフェクター機能の低下は、CDCの低減、ADCCの低減、ADCPの低減、及びサイトカイン分泌の低下からなる群より選択される一又は複数である。特定の一実施態様では、エフェクター機能の低下はADCCの低減である。一実施態様では、低減したADCCは、改変されていないFcドメイン(又は改変されていないFcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子)によって誘導されるADCCの20%未満である。
【0162】
一実施態様では、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させるアミノ酸の変異は、アミノ酸置換である。一実施態様では、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。具体的な実施態様では、Fcドメインは、L234、L235及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの実施態様では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む。このような一実施態様では、FcドメインはIgG
1のFcドメイン、特にヒトIgG
1のFcドメインである。一実施態様では、FcドメインはP329の位置にアミノ酸置換を含む。具体的な実施態様では、アミノ酸置換はP329A又は P329G、特にP329Gである。一位実施態様では、Fcドメインは、P329の位置にアミノ酸置換を、更にE233、L234、L235、N297及びP331から選択される位置にアミノ酸置換を含む。具体的な実施態様では、更なるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。特定の実施態様では、Fcドメインは、P329、L234及びL235の位置にアミノ酸置換を含む。更に特定の実施態様では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」)を含む。このような一実施態様では、FcドメインはIgG
1のFcドメイン、特にヒトIgG
1のFcドメインである。アミノ酸置換の「P329G LALA」の組合せは、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる国際公開第2012/130831号に記載のように、ヒトIgG
1 FcドメインのFcγ受容体(並びに補体)結合をほぼ完全に無効にする。国際公開第2012/130831号には、このような変異Fcドメインを調製する方法、及びFc受容体結合又はエフェクター機能といったその特性を決定する方法も記載されている。
【0163】
IgG
4抗体は、IgG
1抗体と比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及びエフェクター機能の低下を呈する。よって、いくつかの実施態様では、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、IgG
4 Fcドメイン、特にヒトIgG
4Fcドメインである。一実施態様では、IgG
4 Fcドメインは、S228の位置におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228Pを含む。Fc受容体に対するその結合親和性及び/又はそのエフェクター機能を更に低下させるために、一実施態様では、IgG
4Fcドメインは、L235の位置におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換L235Eを含む。別の実施態様では、IgG
4 Fcドメインは、P329の位置におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換P329Gを含む。特定の実施態様では、IgG
4 Fcドメインは、S228、L235及びP329の位置におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228P、L235E及びP329Gを含む。このようなIgG
4 Fcドメインの変異及びそれらのFcγ受容体結合特性は、国際公開第2012/130831号に記載されており、これは参照によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0164】
特定の実施態様では、天然のIgG
1 Fcドメインと比較してFc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を呈するFcドメインは、アミノ酸置換L234A、L235A及び任意選択的にP329Gを含むヒトIgG
1 Fcドメインであるか、又はアミノ酸置換S228P、L235E及び任意選択的にP329Gを含むヒトIgG
4 Fcドメインである。
【0165】
特定の実施態様ではFcドメインのNグリコシル化は排除されている。このような一実施態様では、FcドメインはN297の位置におけるアミノ酸置換、具体的にはアラニン(N297A)又はアスパラギン酸(N297D)酸によりアスパラギンを置き換えるアミノ酸置換を含む。
【0166】
本明細書及び国際公開第2012/130831号において記載されるFcドメインに加えて、Fc受容体結合及び/又はエフェクター機能の低下を有するFcドメインは、Fcドメイン残基238、265、269、270、297、327及び329の一又は複数の置換を有するものも含む(米国特許第6737056号)。このようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの置換を有する、いわゆる「DANA」Fc変異体を含む、アミノ酸位置265、269、270、297及び327の二つ以上における置換を有するFc変異体を含む(米国特許第7332581号)。
【0167】
変異Fcドメインは、当該技術分野で周知の遺伝学的又は化学的方法を用いたアミノ酸の削除、置換、挿入、又は修飾により調製することができる。遺伝学的方法は、コード化DNA配列の部位特異的突然変異、PCR、遺伝子合成などを含みうる。正確なヌクレオチドの変化は、例えば配列決定により検証することができる。
【0168】
Fc受容体に対する結合は、例えばELISAにより、又はBIAcore器具(GE Healthcare)のような標準の器具類を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)により容易に決定することができ、このようなFc受容体は組換え発現により得ることができる。このような適切な結合アッセイは本明細書に記載される。代替的に、Fcドメイン、又はFcドメインを含む細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFc受容体に対する結合親和性は、特定のFc受容体を発現することが知られている細胞株、例えばFcγIIIa受容体を発現するNK細胞を用いて評価してもよい。
【0169】
Fcドメイン、又はFcドメインを含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のエフェクター機能は、当該技術分野で既知の方法により測定することができる。ADCCを測定するための適切なアッセイは本明細書に記載される。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの他の例が、米国特許第5500362号;Hellstrom et al. Proc Natl Acad Sci USA 83, 7059-7063 (1986) and Hellstrom et al., Proc Natl Acad Sci USA 82, 1499-1502 (1985);米国特許第5821337号;Bruggemann et al., J Exp Med 166, 1351-1361 (1987)に記載されている。或いは、非放射性アッセイ法を用いることができる(例えば、フローサイトメトリー用のACTI
TM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA);及びCytoTox96(登録商標)非放射性細胞毒性アッセイ(Promega, Madison, WI)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。或いは又は加えて、目的の分子のADCC活性は、Clynes et al., PNAS USA 95:652-656 (1998)に開示されるように、例えば動物モデルにおいて、インビボで評価することができる。
【0170】
いくつかの実施態様では、補体成分に対するFcドメインの結合、特にC1qに対する結合が低減する。したがって、Fcドメインがエフェクター機能が低下するように改変されているいくつかの実施態様では、前記エフェクター機能の低下はCDCの低下を含む。C1q結合アッセイは、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子がC1qに結合できるかどうか、それによりCDC活性を有するかどうかを決定するために実行される。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996); Cragg, et al., Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg, and Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。
【0171】
抗原結合部分
本発明の抗原結合分子は二重特異性であり、即ち二つの異なる抗原決定基に特異的に結合することができる少なくとも二つの抗原結合部分を含む。本発明によれば、抗原結合部分はFab分子(即ち、各々が可変及び定常領域を含む重鎖と軽鎖とからなる抗原結合ドメイン)である。一実施態様では、前記Fab分子はヒトである。別の実施態様では、前記Fab分子はヒト化されている。また別の実施態様では、前記Fab分子はヒト重鎖及び軽鎖定常領域を含む。
【0172】
抗原結合部分の少なくとも一つはクロスオーバーFab分子である。このような修飾は、異なるFab分子由来の重鎖と軽鎖との誤対合を防ぎ、それにより組換え生成において本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の収率及び純度を向上させる。本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分に有用な特定のクロスオーバーFab分子では、Fab軽鎖とFab重鎖の定常領域が交換されている。本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子に有用な別のクロスオーバーFab分子では、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域が交換されている。
【0173】
本発明による特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、標的細胞抗原、特に腫瘍細胞抗原、及びCD3に同時結合することができる。一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、標的細胞抗原とCD3に同時結合することにより、T細胞と標的細胞を架橋することができる。更に特定の実施態様では、このような同時結合は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を引き起こす。一実施態様では、このような同時結合は、T細胞の活性化を引き起こす。他の実施態様では、このような同時結合は、活性化マーカーの増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子放出、細胞傷害性活性化、及び発現から選択される、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の細胞応答を引き起こす。一実施態様では、標的細胞への同時結合を含まないT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のCD3に対する結合は、T細胞の活性化を引き起こさない。
【0174】
一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、T細胞の細胞傷害性活性を標的細胞へと再指向することができる。特定の一実施態様では、前記再指向は、標的細胞によるMHC媒介性ペプチド抗原の提示及び/又はT細胞の特異性と無関係である。
【0175】
特に、本発明の実施態様のいずれかによるT細胞は、細胞傷害性T細胞である。いくつかの実施態様では、T細胞はCD4
+又はCD8
+T細胞、特にCD8
+T細胞である。
【0176】
CD3結合部分
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、CD3に結合することができる少なくとも一つの抗原結合部分(本明細書では「CD3抗原結合部分」又は「第1の抗原結合部分」とも呼ぶ)を含む。特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、最大で一つの、CD3に特異的に結合することができる抗原結合部分を含む。一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、CD3に対する一価の結合を提供する。CD3抗原結合は、クロスオーバーFab分子、即ち、Fab重鎖及び軽鎖の可変領域又は定常領域が交換されているFab分子である。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子に含まれる標的細胞抗原に特異的に結合することができる、一を上回る抗原結合部分が存在する実施態様では、好ましくはCD3に特異的に結合することができる抗原結合部分はクロスオーバーFab分子であり、標的細胞抗原に特異的に結合することができる抗原結合部分は一般的なFab分子である。
【0177】
特定の実施態様では、CD3はヒトCD3(配列番号103)又はカニクイザルCD3(配列番号104)、特にヒトCD3である。特定の実施態様では、CD3抗原結合部分は、ヒト及びカニクイザルのCD3に交差反応性(即ち、特異的に結合する)である。いくつかの実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3のエプシロンサブユニットに特異的に結合することができる。
【0178】
CD3抗原結合部分は、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号8、配列番号9、配列番号10の群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含む。
【0179】
一実施態様では、CD3抗原結合部分は、配列番号4の重鎖CDR1、配列番号5の重鎖CDR2、配列番号6の重鎖CDR3、配列番号8の軽鎖CDR1、配列番号9の軽鎖CDR2、及び配列番号10の軽鎖CDR3を含む。
【0180】
一実施態様では、CD3抗原結合部分は、配列番号3、配列番号32及び配列番号33の群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号7及び配列番号31の群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含んでいる。
【0181】
一実施態様では、CD3抗原結合部分は、配列番号3、配列番号32及び配列番号33の群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7及び配列番号31の群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0182】
一実施態様では、CD3抗原結合部分は、配列番号3と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号7と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含んでいる。
【0183】
一実施態様において、CD3抗原結合部分は、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0184】
一実施態様では、CD3抗原結合部分は、配列番号3の重鎖可変領域配列と、配列番号7の軽鎖可変領域配列とを含んでいる。
【0185】
標的細胞抗原結合部分
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、標的細胞抗原に結合することができる少なくとも一つの抗原結合部分(本明細書では「標的細胞抗原結合部分」又は「第2の」又は「第3の」抗原結合部分とも呼ぶ)を含む。特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、標的細胞抗原に結合することができる二つの抗原結合部分を含む。このような特定の実施態様では、これら抗原結合部分の各々は、同じ抗原決定基に特異的に結合する。更に特定の実施態様では、これら抗原結合部分のすべては同一である。一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、標的細胞抗原に特異的に結合することができる免疫グロブリン分子を含む。一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、標的細胞抗原に結合することができる最大で二つの抗原結合部分を含む。
【0186】
標的細胞抗原結合部分は、通常、Fab分子、特に特異的な抗原決定基に結合して、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を標的部位、例えば抗原決定基を保持する特定の型の腫瘍細胞に方向付けることができる一般的なFab分子である。
【0187】
特定の実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、細胞表面抗原に特異的に結合する。特定の実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、細胞表面抗原の膜近位領域に特異的に結合する。このような特定の実施態様では、細胞表面抗原は、がん胎児性抗原(CEA)であり、膜近位領域はCEAのB3ドメインである(配列番号119の残基208〜286)。別のこのような特定の実施態様では、細胞表面抗原はメラノーマ関連コンドロイチン硫酸塩プロテオグリカン(MCSP)であり、膜近位領域はMSCPのD3ドメインである(配列番号118)。
【0188】
特定の実施態様では、標的細胞の抗原結合部分は、病状に関連付けられる抗原、例えば、腫瘍細胞又はウイルス感染細胞上に現れる抗原に方向付けられる。適切な抗原は、細胞表面抗原、例えば、限定されないが、細胞表面受容体である。特定の実施態様では、抗原はヒト抗原である。特定の実施態様では、標的細胞抗原は、メラノーマ関連コンドロイチン硫酸塩プロテオグリカン(MCSP、CSPG4)及びがん胎児性抗原(CEA、CEACAM5)から選択される。
【0189】
いくつかの実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、メラノーマ関連コンドロイチン硫酸塩プロテオグリカン(MCSP)に特異的な少なくとも一つの抗原結合部分を含む。一実施態様では、MCSPに特異的な抗原結合部分は、配列番号14、配列番号15、 配列番号16、配列番号35、配列番号37、配列番号38及び配列番号40からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号44、配列番号45、配列番号48、配列番号49及び配列番号50の群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0190】
一実施態様では、MCSPに特異的な抗原結合部分は、配列番号14、配列番号15及び配列番号16からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号18、配列番号19及び配列番号20の群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0191】
一実施態様では、MCSPに特異的な抗原結合部分は、配列番号14の重鎖CDR1、配列番号15の重鎖CDR2、配列番号16の重鎖CDR3、配列番号18の軽鎖CDR1、配列番号19の軽鎖CDR2、及び配列番号20の軽鎖CDR3を含む。
【0192】
更なる実施態様では、MCSPに特異的な抗原結合部分は、配列番号13、配列番号34、配列番号36、配列番号39及び配列番号41の群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号17、配列番号43、配列番号46、配列番号47及び配列番号51の群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含んでいる。
【0193】
更なる実施態様では、MCSPに特異的な抗原結合部分は、配列番号13、配列番号34、配列番号36、配列番号39及び配列番号41の群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17、配列番号43、配列番号46、配列番号47及び配列番号51の群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0194】
更なる実施態様では、MCSPに特異的な抗原結合部分は、配列番号13と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列、及び配列番号17と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列、又は機能性を保持するその変異体を含んでいる。
【0195】
一実施態様では、MCSPに特異的な抗原結合部分は、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0196】
一実施態様では、MCSPに特異的な抗原結合部分は、配列番号13の重鎖可変領域配列と配列番号17の軽鎖可変領域配列とを含んでいる。
【0197】
一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、配列番号12と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号53と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号54と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号55と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0198】
特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、がん胎児性抗原(CEA)に特異的な少なくとも一つの抗原結合部分を含む。一実施態様では、CEAに特異的な抗原結合部分は、配列番号24、配列番号25及び配列番号26からなる群より選択される少なくとも一つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29及び配列番号30からなる群より選択される少なくとも一つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0199】
一実施態様では、CEAに特異的な抗原結合部分は、配列番号24の重鎖CDR1、配列番号25の重鎖CDR2、配列番号26の重鎖CDR3、配列番号28の軽鎖CDR1、配列番号29の軽鎖CDR2、及び配列番号30の軽鎖CDR3を含む。
【0200】
更なる実施態様では、CEAに特異的な抗原結合部分は、配列番号23と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列、及び配列番号27と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列、又は機能性を保持するその変異体を含んでいる。
【0201】
一実施態様では、CEAに特異的な抗原結合部分は、配列番号23のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号27のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0202】
一実施態様では、CEAに特異的な抗原結合部分は、配列番号23の重鎖可変領域配列と配列番号27の軽鎖可変領域配列とを含んでいる。
【0203】
一実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、配列番号22と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号56と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号57と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号58と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0204】
ポリヌクレオチド
本発明は更に、本明細書に記載のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリヌクレオチド又はその断片を含む。いくつかの実施態様において、前記断片は抗原結合断片である。
【0205】
本発明のポリヌクレオチドは、その機能的断片又は変異体を含め、配列番号63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97及び98に規定される配列と約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるものを含む。
【0206】
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドは、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子全体をコードする単一のポリヌクレオチドとして、又は同時発現される複数(例えば、二つ以上)のポリヌクレオチドとして発現されうる。同時発現されるポリヌクレオチドによりコードされたポリペプチドは、例えばジスルフィド結合又は他の手段を介して会合し、機能的T細胞活性化二重特異性抗原結合分子を形成することができる。例えば、抗原結合部分の軽鎖部分は、抗原結合部分の重鎖部分、Fcドメインサブユニット、及び任意選択的に別の抗原結合部分(の一部)を含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の部分とは別のポリヌクレオチドによってコードされうる。同時発現されるとき、重鎖ポリペプチドは軽鎖ポリペプチドと会合して抗原結合部分を形成することができる。別の例では、二つのFcドメインサブユニットの一方び任意選択的に一又は複数の抗原結合部分(の一部)を含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の部分は、二つのFcドメインサブユニットの他方及び任意選択的に抗原結合部分(の一部)を含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の部分とは別のポリヌクレオチドによってコードされうる。同時発現されるとき、Fcドメインサブユニットは会合してFcドメインを形成する。
【0207】
いくつかの実施態様では、単離されたポリヌクレオチドは、本発明によるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子全体を本明細書に鬼才のようにコードする。他の実施態様では、単離されたポリヌクレオチドは、本発明によるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子に含まれるポリヌクレオチドを、本明細書に記載のようにコードする。
【0208】
別の実施態様では、本発明は、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリヌクレオチド又はその断片を目的とし、このポリヌクレオチドは、配列番号3、7、13、17、23、27、31、32、33、34、36、39、41、43、46、47又は51に示される可変領域配列をコードする配列を含む。別の実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリヌクレオチド又はその断片を目的とし、このポリヌクレオチドは、配列番号22、56、57、58、12、53、54及び55に示されるポリペプチド配列をコードする配列を含む。別の実施態様では、本発明は更に、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリペプチド又はその断片を目的とし、このポリヌクレオチドは、配列番号63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97又は98に示されるヌクレオチド配列と、少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含む。別の実施態様では、本発明は、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリヌクレオチド又はその断片を目的とし、このポリヌクレオチドは、配列番号63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97又は98に示される核酸配列を含む。別の実施態様では、本発明は、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリヌクレオチド又はその断片を目的とし、このポリヌクレオチドは、配列番号3、7、13、17、23、27、31、32、33、34、36、39、41、43、46、47又は51のアミノ酸配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である可変領域配列をコードする配列を含む。別の実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリヌクレオチド又はその断片を目的とし、このポリヌクレオチドは、配列番号22、56、57、58、12、53、54又は55のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるポリペプチド配列をコードする配列を含む。本発明は、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリペプチド又はその断片を包含し、このポリヌクレオチドは、保存的アミノ酸置換を有する配列番号3、7、13、17、23、27、31、32、33、34、36、39、41、43、46、47又は51の可変領域配列をコードする配列を含む。本発明はまた、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリペプチド又はその断片を包含し、このポリヌクレオチドは、保存的アミノ酸置換を有する配列番号22、56、57、58、12、53、54又は55のポリペプチド配列をコードする配列を含む。
【0209】
特定の実施態様では、ポリヌクレオチド又は核酸はDNAである。他の実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)の形態の、RNAである。本発明のRNAは一本鎖又は二本鎖である。
【0210】
組換え法
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、例えば、固相ペプチド合成(例えばメリフィールド固相合成)又は組換え生成によって得ることができる。組換え生成のために、例えば上述したように、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子(断片)をコードする一又は複数のポリヌクレオチドが単離され、宿主細胞内での更なるクローニング及び/又は発現のために一又は複数のベクターに挿入される。このようなポリヌクレオチドは、一般的な手順を使用して容易に単離され配列決定されうる。一実施態様において、本発明のポリヌクレオチドの一又は複数を含むベクタ−、好ましくは発現ベクターが提供される。当業者によく知られている方法は、適切な転写/翻訳制御シグナルとともに、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子(断片)のコード配列を含む発現ベクターを構築するために使用することができる。これらの方法は、インビトロでの組換えDNA技術、合成技術及びインビボでの組換え/遺伝子組換えを含む。例えば、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y. (1989); 及びAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and Wiley Interscience, N.Y (1989)に記載される技術を参照。発現ベクターはプラスミド、又はウイルスの一部とすることができるか、又は核酸断片でよい。発現ベクターは、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子(断片)(即ち、コード領域)をコードするポリヌクレオチドが、プロモーター及び/又は他の転写又は翻訳制御エレメントと作動可能に結合するようにクローニングされる発現カセットを含む。本発明で使用される場合、「コード領域」は、アミノ酸に翻訳されるコドンからなる核酸の一部である。「終止コドン」(TAG、TGA、又はTAA)はアミノ酸に翻訳されないが、存在する場合にはコード領域の一部と考えられ、しかし、任意の隣接配列、例えばプロモーター、リボソーム結合部位、転写ターミネーター、イントロン、5’及び3’非翻訳領域などはコード領域の一部ではない。二つ以上のコード領域が、単一のポリヌクレオチドコンストラクト、例えば単一のベクター上に、又は別々のポリヌクレオチドコンストラクトの中に、例えば別の(異なる)ベクター上に存在することができる。更に、任意のベクターは、単一のコード領域を含んでいてもよいし、二つ以上のコード領域を含んでいてもよく、例えば本発明のベクターは、タンパク質分解性切断を介して、翻訳後又は翻訳と同時に最終タンパク質中に分離された一又は複数のポリペプチドをコードしてもよい。加えて、本発明のベクター、ポリヌクレオチド、又は核酸は、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子(断片)、又はその変異体若しくは誘導体をコードするポリヌクレオチドに融合又は非融合された異種コード領域をコードしうる。異種コード領域は、限定しないが、特殊化要素又はモチーフ、例えば分泌シグナルペプチド又は異種機能ドメインを含む。作動可能に結合とは、ポリペプチドなどの遺伝子産物のコード領域が、制御配列の影響下又は制御下において遺伝子産物の発現を配置するように、一又は複数の制御配列と結合するときである。(ポリペプチドコード領域及びそれに結合するプロモーターのような)二つのDNA断片は、プロモーター機能の誘導が所望の遺伝子産物をコードするmRNAの転写をもたらす場合、及び二つのDNA断片間の連結の性質が、遺伝子産物の発現を導く発現制御配列の能力を妨げないか又は転写されるべきDNA鋳型の能力を妨げない場合、「作動可能に結合している」。したがって、プロモーター領域は、プロモーターがその核酸の転写をもたらすことができる場合にポリペプチドをコードする核酸に作動可能に結合される。プロモーターは所定の細胞においてのみDNAの実質的な転写を導く細胞特異的プロモーターであってもよい。プロモーターの他に他の転写制御エレメント、例えばエンハンサー、オペレーター、リプレッサー、及び転写終結シグナルが、細胞特異的転写を導くポリヌクレオチドと作動可能に結合することができる。適切なプロモーター及び他の転写制御領域は本明細書に開示されている。種々の転写制御領域が当業者に知られている。これらには、限定されないが、脊椎動物細胞において機能する転写制御領域、例えば、限定されないが、サイトメガロウイルス由来のプロモーター及びエンハンサーセグメント(例えばイントロン−Aと連動した即初期プロモーター)、サルウイルス40(例えば初期プロモーター)、及びレトロウイルス(例えばラウス肉腫ウイルスなど)が含まれる。他の転写制御領域は、脊椎動物の遺伝子、例えばアクチン、熱ショックタンパク質、ウシ成長ホルモン及びウサギ−αグロビン、並びに、真核細胞における遺伝子発現を制御することができる他の配列に由来するものを含む。更なる適切な転写制御領域は、組織特異的プロモーター及びエンハンサー並びに誘導性プロモーター(例えば、プロモーター誘導性テトラサイクリン)を含む。同様に、種々の翻訳制御エレメントが当業者に知られている。これらには、限定されないが、リボソーム結合部位、翻訳開始及び終結コドン、及びウイルス系由来の要素(特に、配列内リボソーム進入部位、又はCITE配列とも呼ばれるIRES)が含まれる。発現カセットはまた、例えば、複製起点、及び/又はレトロウイルスの長い末端反復配列(LTR)又はアデノ随伴ウイルス(AAV)の末端反転型配列(ITR)など染色体組み込み要素といった他の特徴を含んでいてもよい。
【0211】
本発明のポリヌクレオチド及び核酸コード領域は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの分泌を指示する分泌ペプチド又はシグナルペプチドをコードする更なるコード領域と結合させることができる。例えば、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の分泌が望まれる場合、シグナル配列をコードするDNAが、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子又はその断片をコードする核酸の上流に配置されうる。シグナル仮説によると、哺乳類細胞によって分泌されるタンパク質はシグナルペプチド又は分泌リーダー配列を有し、これは粗面小胞体上で成長するタンパク質鎖の排出が開始されると成熟タンパク質から切断される。当業者は、脊椎動物細胞によって分泌されるポリペプチドが通常、ポリペプチドの分泌型又は「成熟」型を生成するために翻訳されたポリペプチドから切断されるポリペプチドのN末端に融合されたシグナルペプチドを有することを認識している。特定の実施態様では、天然のシグナルペプチド、例えば免疫グロブリン重鎖又は軽鎖シグナルペプチド又は作動可能に結合しているポリペプチドの分泌を指示する能力を保持するその配列の機能的誘導体が使用される。或いは、異種哺乳動物シグナルペプチド、又はその機能的誘導体を使用することができる。例えば、野生型リーダー配列は、ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)又はマウスβ−グルクロニダーゼのリーダー配列で置換されてもよい。分泌型のシグナルペプチドの例示的なアミノ酸及びポリヌクレオチド配列は配列番号108〜116に示されている。
【0212】
後の精製を容易にするため又はT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の標識化における補助のために使用されうる短タンパク質配列(例えば、ヒスチジンタグ)をコードするDNAは、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子(断片)をコードするポリヌクレオチドの中又は末端に含まれうる。
【0213】
更なる実施態様では、本発明の一又は複数のポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供される。特定の実施態様では、本発明の一又は複数のベクターを含む宿主細胞が提供される。ポリヌクレオチド及びベクターは、ポリヌクレオチド及びベクターそれぞれに関連して本明細書に記載される特徴のいずれかを単独で又は組み合わせて組み込むことができる。そのような一実施態様において、宿主細胞は、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子(の一部)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む(例えば該ベクターで形質転換又はトランスフェクトされている)。本明細書で使用される場合、「宿主細胞」なる用語は、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子又はその断片を生成するよう改変できるいずれかの種類の細胞系を指す。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の複製及び発現の補助に適切な宿主細胞は当分野でよく知られている。このような細胞は特定の発現ベクターで適切にトランスフェクト又は形質導入することができ、大量のベクター含有細胞を、臨床利用のための十分な量のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を得るために、大規模発酵槽での播種用に増殖させることができる。適切な宿主細胞は、原核生物微生物、例えば大腸菌、又は様々な真核生物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、昆虫細胞などを含む。例えば、特に、グリコシル化が必要でない場合には、ポリペプチドは細菌中で生成することができる。発現の後、ポリペプチドは可溶性画分において細菌の細胞ペーストから単離され得、更に精製することができる。原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、菌類や酵母菌株を含むポリペプチドをコードするベクターのための適切なクローニング宿主又は発現宿主であり、そのグリコシル化経路は「ヒト化」されており、部分的又は完全なヒトのグリコシル化パターンを有するポリペプチドの生成をもたらす。Gerngross, Nat Biotech 22, 1409-1414 (2004),及びLi et al., Nat Biotech 24, 210-215 (2006)を参照。(グリコシル化)ポリペプチドの発現に適した宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物と脊椎動物)から派生している。無脊椎動物細胞の例としては、植物及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株が同定されており、これらは特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と組み合わせて使用することができる。植物細胞培養を宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5959177号、第6040498号、第6420548号、第7125978号及び第6417429号(トランスジェニック植物における抗体生成に関するPLANTIBODIES
TM技術を記載)を参照。脊椎動物細胞も宿主として用いることができる。例えば、懸濁液中で増殖するように適応された哺乳動物細胞株は有用でありうる。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS−7)で形質転換されたサル腎臓CV1株、ヒト胚腎臓株(Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977)に記載された293細胞又は293T細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスのセルトリ細胞(例えば、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980)に記載されるTM4細胞)、サル腎細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76)、ヒト子宮頚癌細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝細胞(HepG2)、マウス乳腺腫瘍細胞(MMT060562)、(例えばMather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)に記載される)TRI細胞、MRC5細胞、及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、dhfr−CHO細胞(Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;及びYO、NS0、P3X63及びSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。タンパク質生成に適した特定の哺乳動物宿主細胞系の総説については、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003)を参照。宿主細胞は、培養細胞、例えばいくつか挙げると、哺乳動物の培養細胞、酵母細胞、昆虫細胞、細菌細胞及び植物細胞、並びにトランスジェニック動物、トランスジェニック植物又は培養植物又は動物組織内部に含まれる細胞を含む。一実施態様において、宿主細胞は、真核生物細胞、好ましくは哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞、又はリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。
【0214】
これらの系において外来遺伝子を発現する標準的な技術が当技術分野で知られている。抗体などの抗原結合ドメインの重鎖又は軽鎖を含むポリペプチドを発現する細胞は、発現された生成物が重鎖及び軽鎖の両方を有する抗体であるように、抗体鎖の他方を発現するように改変することができる。
【0215】
一実施態様において、本発明によるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を産生する方法が提供され、この方法は、本明細書に与えられるように、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の発現に適した条件下で、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を培養し、宿主細胞(又は宿主細胞培地)からT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を回収することを含む。
【0216】
T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の成分は、通常互いに融合している。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、その成分が互いに直接的に、又はリンカー配列を介して間接的に融合するように、設計することができる。リンカーの組成及び長さは、当該技術分野で周知の方法に従って決定することができ、有効性について試験することができる。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の異なる成分間のリンカー配列の例は、本明細書に提供される配列に見出される。必要に応じて、融合の個々の成分を分離するための切断部位を取り込むために、追加的配列、例えばエンドペプチダーゼ認識配列も含めることができる。
【0217】
特定の実施態様では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の一又は複数の抗原結合部分は、抗原決定基に結合することができる抗体可変領域を少なくとも含む。可変領域は、天然に又は非天然に存在する抗体及びその断片の一部を形成することができ、且つそのような抗体及び断片から誘導することができる。ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を生成する方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Harlow and Lane, 「Antibodies, a laboratory manual」, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。非天然に存在する抗体は、固相−ペプチド合成を使用して構築されるか、組換え的に生成されるか(例えば米国特許第4186567号に記載のように)、又は例えば可変重鎖及び可変軽鎖を含むコンビナトリアルライブラリーのスクリーニング(例えばMcCaffertyの米国特許第5969108号を参照)によって得ることができる。
【0218】
あらゆる動物種の抗体、抗体断片、抗原結合ドメイン又は可変領域を、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子に用いることができる。本発明において有用な非限定的抗体、抗体断片、抗原結合ドメイン又は可変領域は、マウス、霊長類、又はヒト起源のものでありうる。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子がヒトでの使用を意図する場合、定常領域がヒトに由来する抗体のキメラ形態を使用することができる。ヒト化又は完全ヒト形態の抗体も、当分野でよく知られている方法に従って調製されうる(例えばWinterの米国特許第5565332号を参照)。ヒト化は、様々な方法によって達成することができ、それら方法には、限定されないが、(a)非ヒト(例えば、ドナー抗体)のCDRを、重要なフレームワーク残基(例えば、良好な抗原結合親和性又は抗体機能を維持するために重要であるもの)の保持を伴う又は伴わないヒト(例えば、レシピエント抗体)のフレームワーク領域及び定常領域の上に移植すること、(b)非ヒト特異性決定領域(SDR又はa−CDR;抗体−抗原相互作用に重要な残基)のみをヒトフレームワーク領域及び定常領域上に移植すること、又は(c)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、表面残基の置換によってヒト様切片で「覆い隠す」ことが含まれる。ヒト化抗体及びそれらの製造方法は、例えば、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)に総説され、更に、例えばRiechmann et al., Nature 332, 323-329 (1988); Queen et al., Proc Natl Acad Sci USA 86, 10029-10033 (1989);米国特許第5821337号、同第7527791号、同第6982321号、及び同第7087409号;Jones et al., Nature 321, 522-525 (1986);Morrison et al., Proc Natl Acad Sci 81, 6851-6855 (1984);Morrison and Oi, Adv Immunol 44, 65-92 (1988);Verhoeyen et al., Science 239, 1534-1536 (1988);Padlan, Molec Immun 31(3), 169-217 (1994);Kashmiri et al., Methods 36, 25-34 (2005) (describing SDR (a-CDR) grafting);Padlan, Mol Immunol 28, 489-498 (1991) (describing “resurfacing”);Dall’Acqua et al., Methods 36, 43-60 (2005) (describing “FR shuffling”);及びOsbourn et al., Methods 36, 61-68 (2005) and Klimka et al., Br J Cancer 83, 252-260 (2000) (describing the “guided selection” approach to FR shuffling)に記載されている。ヒト抗体及びヒト可変領域は、当技術分野において既知の様々な技術を用いて生産することができる。ヒト抗体は一般的にvan Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-74 (2001)及びLonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450-459 (2008)に記載されている。ヒト可変領域は、ハイブリドーマ法によって作製されたヒトモノクローナル抗体の一部を形成することができ、且つそのような抗体から誘導することができる(例えば、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987)を参照)。ヒト抗体及びヒト可変領域は、抗原チャレンジに応答して、インタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を持つインタクトな抗体を生成するように修飾されたトランスジェニック動物に、免疫原を投与することにより調製することができる(例えば、Lonberg, Nat Biotech 23, 1117-1125 (2005)を参照)。ヒト抗体及びヒト可変領域はまた、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変領域配列を単離することによって生成することができる(例えば、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178, 1-37 (O’Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001);及びMcCafferty et al., Nature 348, 552-554; Clackson et al., Nature 352, 624-628 (1991))。ファージは、通常、抗体断片を、単鎖Fv(scFv)断片、又はFab断片として表示する。
【0219】
特定の実施態様では、本発明において有用な抗原結合部分は、例えば米国特許出願公開第2004/0132066号(この全内容を出典明記によってここに援用する)に開示される方法に従い、増強された結合親和性を有するように改変される。特定の抗原決定基に結合する本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の能力は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)又は当業者によく知られている他の技術、例えば表面プラズモン共鳴技術(BIAcoreT100システムで解析される)(Liljeblad,et al.,Glyco.J.17:323-329(2000))及び古典的な結合アッセイ(Heeley,R.P.,Endocr.Res.28:217-229(2002))によって測定することができる。競合アッセイを、特定の抗原への結合について参照抗体と競合する抗体、抗体断片、抗原結合ドメイン又は可変ドメインを同定するため、例えばCD3への結合についてV9抗体と競合する抗体を同定するために使用することができる。特定の実施態様では、このような競合する抗体は、参照抗体によって結合される同じエピトープ(例えば直鎖状又は立体構造エピトープ)に結合する。抗体が結合するエピトープをマッピングするための典型的な方法の詳細が、Morris (1996) “Epitope Mapping Protocols," in Methods in Molecular Biology vol. 66 (Humana Press, Totowa, NJ)に提供されている。例示的な競合アッセイにおいて、固定化抗原(例えばCD3)は、抗原に結合する第一の標識された抗体(例えばV9抗体、米国特許第6054297号に記載)、及び抗原への結合について第一の抗体と競合するその能力について試験されている第二の未標識抗体を含む溶液中でインキュベートされる。第二抗体はハイブリドーマ上清中に存在してもよい。コントロールとして、固定化抗原が、第一の標識された抗体を含むが第二の未標識抗体は含まない溶液中でインキュベートされる。第一の抗体の抗原への結合を許容する条件下でインキュベートした後、過剰な未結合抗体が除去され、固定化された抗原に結合した標識の量が測定される。固定化抗原に結合した標識の量が、コントロールサンプルと比較して試験サンプル中で実質的に減少している場合、それは、第二抗体が、抗原への結合において第一の抗体と競合していることを示している。Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual ch.14 (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY)を参照。
【0220】
本明細書で記載のように調製されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、当分野で知られている技術、例えば高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどによって精製されうる。特定のタンパク質を精製するために使用される実際の条件は、一部には正味荷電、疎水性、親水性などの要因に依存し、当業者に明瞭であろう。アフィニティークロマトグラフィー精製では、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子が結合する抗体、リガンド、受容体又は抗原が使用されうる。例えば、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のアフィニティークロマトグラフィー精製では、プロテインA又はプロテインGを伴うマトリックスが使用されうる。逐次的なプロテインA又はGアフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーが、基本的に実施例に記載されるようにT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を単離するために使用されうる。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の純度は、ゲル電気泳動、高圧液体クロマトグラフィーなどを含む様々な周知の分析方法の何れかによって決定されうる。例えば、実施例に記載されるように発現される重鎖融合タンパク質は、インタクトで、且つSDS−PAGEの低減により実証されるように適切に構築されていることが示された(
図4参照)。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の軽鎖、、及び重鎖/軽鎖融合タンパク質の予測される分子量に対応する、概ねMr25000、Mr50000及びMr75000における三つの帯域が分離された。
【0221】
アッセイ
本明細書で提供されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子が、同定され、当技術分野で既知の様々なアッセイによってその物理的/化学的性質及び/又は生物学的活性についてスクリーニングされる、又は特徴づけられる。
【0222】
アフィニティーアッセイ
Fc受容体又は標的抗原に対するT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の親和性を、実施例に規定される方法に従い、BIAcore機器(GE Healthcare)のような標準的器具類と、受容体又は組み換え発現により得られるもののような標的タンパク質とを用いて、プラズモン共鳴アッセイ(SPR)により決定することができる。代替的に、異なる受容体又は標的抗原に対するT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の結合は、特定の受容体又は標的抗原を発現する細胞株を用いて、例えばフローサイトメトリー(FACS)により、評価することができる。結合親和性を測定するための特定の説明的で例示的な実施態様は、後述及び以下の実施例に記載されている。
【0223】
一実施態様によれば、K
Dは、25 ℃でBIACORE(登録商標)T100マシン(GE Healthcare)を用いる表面プラズモン共鳴により測定される。
【0224】
Fc−部分とFc受容体との相互作用を分析するために、Hisタグを付した組換えFc受容体を、CM5チップ上に固定化された抗ペンタHis抗体(Qiagen)により捕捉し、、二重特異性コンストラクトを被分析物として使用する。簡単に言うと、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、GE Healthcare)を、供給業者の指示書に従ってN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシニミド(NHS)で活性化する。抗ペンタ−His抗体を、10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)で40μg/mlに希釈した後、結合したタンパク質のおよそ6500反応単位(RU)を達成するために5μl/分の流速で注入する。リガンドの注入後、未反応群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入する。その後、Fc受容体を4又は10nMで60秒間捕捉する。反応速度論的な測定のため、二重特異性コンストラクトの4倍の連続希釈物(500nM〜4000nMの)を、25℃のHBS−EP(GE Healthcare、10mMのHEPES、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.05%の界面活性剤P20、pH 7.4)に流速30μl/分で120秒間注入する。
【0225】
標的抗原に対する親和性を決定するため、二重特異性コンストラクトを、抗ペンタ−His抗体について記載したように、活性化されたCM5−センサーチップ表面上に固定化されている抗ヒトFab特異性抗体(GE Healthcare)により捕捉する。結合したタンパク質の最終的な量は、約12000RUである。二重特異性コンストラクトは、300nMで90秒間捕捉される。標的抗原は、流速30μl/分且つ濃度範囲250〜1000nMでフローセルに180秒間通過させる。解離を180秒間モニタする。
【0226】
バルク屈折率の差異は、基準フローセルで取得される応答を差し引くことにより修正される。定常応答を使用して、ラングミュア結合等温線の非線形曲線適合により解離定数K
Dを得た。会合センサーグラム及び解離センサーグラムを同時にフィットさせることによる単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one−to−one Langmuir binding model)(BIACORE(登録商標)T100Evaluationソフトウェアバージョン1.1.1)を用いて、会合速度(k
on)と解離速度(k
off)を算出する。平衡解離定数(K
D)はk
off/k
on比として算出される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999)を参照のこと。
【0227】
活性のアッセイ
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の生物活性は、実施例に記載される様々なアッセイにより測定することができる。生物活性には、例えば、T細胞の増殖の誘導、T細胞中のシグナル伝達の誘導、T細胞中の活性マーカーの発現の誘導、T細胞によるサイトカイン分泌の誘導、腫瘍細胞などの標的細胞の溶解の誘導、及び腫瘍後退の誘導及び/又は生存率の改善が含まれる。
【0228】
投与の組成、製剤、及び経路
更なる態様において、本発明は、例えば下記の治療法のいずれかに使用される、本明細書で提供されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のいずれかを含む薬学的組成物を提供する。一実施態様では、薬学的組成物は、本明細書で提供されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のいずれかと、薬学的に許容される担体とを含む。別の他の実施態様において、薬学的組成物は、本明細書で提供されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のいずれかと、少なくとも1つの追加的な治療剤を、例えば後述するように含む。
【0229】
更には、インビボでの投与に適した形態の、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を製造する方法が提供され、この方法は、(a)本発明によるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を得ること、及び(b)少なくとも一つの薬学的に許容される担体を用いてT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を製剤化することであって、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の調製物が、インビボでの投与のために製剤化される、製剤化することを含む。
【0230】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体中に溶解又は分散された一又は複数のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の治療的有効量を含む。「薬学的に許容される又は薬理学的に許容される」という表現は、用いられる用量及び濃度においてレシピエントに非毒性であり、即ち、例えばヒトなどの動物に必要に応じて投与されたとき、副作用、アレルギー反応、又は他の望ましくない応答を生じさせない分子的実態及び組成物を指す。少なくとも一つのT細胞活性化二重特異性抗原結合分子と、任意選択的に追加的な活性成分とを含む薬学的組成物の調製物は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed.Mack Printing Company, 1990によって例示されているように、本開示内容の検知から当業者には既知であろう。この文献は参照により本明細書に包含される。更に、動物(例えば、ヒト)への投与のために、調製物は、FDA Office of Biological Standards又は他の国の対応する官庁によって必要とされる滅菌状態、発熱性、一般的安全性、及び純度の基準を満たさねばならない。好ましい組成物は、凍結乾燥製剤又は水溶液である。本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」には、当技術者に既知のように、あらゆる溶媒、バッファー、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存料(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、抗酸化剤、タンパク質、薬物、薬物安定剤、ポリマー、ゲル、結合剤、賦形剤、分解剤、潤滑剤、甘味料、香料、染料、それらの類似物質及び組合せが含まれる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed.Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照。この文献は参照により本明細書に包含される)。いずれの一般的な担体も、活性成分と不適合でない限り、治療的又は薬学的組成物におけるその使用が考慮される。
組成物は、それが固体、液体、又はエアロゾルの形態で投与されるかどうかに応じて、及びそれが注射のような投与経路のために無菌である必要があるかどうかに応じて、異なる種類の担体を含むことができる。本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子(及び任意の追加的治療剤)は、当業者に既知であるように、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病巣内、頭蓋内、関節内、前立腺内、脾臓内、腎臓内、胸膜内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜内、心膜内、臍帯内、眼球内、経口、局所内、局部内に、吸入(例えば、エアロゾル吸入)、注射、注入、連続的注入、標的細胞を直接浸す局所的かん流により、カテーテル経由で、洗浄により、クリームで、脂質組成物(例えば、リポソーム)で、又は他の方法、又は上記のいずれかの組合せで投与することができる。(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed.Mack Printing Company, 1990参照。この文献は参照により本明細書に包含される)。非経口投与、特に静脈内注入が、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子のようなポリペプチド分子を投与するために最も一般的に使用される。
【0231】
非経口組成物には、注射による投与、例えば皮下、皮内、病巣内、静脈内、動脈内、筋肉内、髄腔内又は腹腔内への注射用に考案されたものが含まれる。注射の場合、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、水溶液、好ましくはハンクス液、リンゲル液、又は生理食塩水バッファーといった生理的に適合性のバッファー中において製剤化される。溶液は、懸濁化剤、安定剤、及び/又は分散剤といった製剤関連薬剤を含有することができる。代替的には、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、使用前は、適切なビヒクル、例えば滅菌ピロゲンを含まない水を用いた組成に適した粉末形態であってもよい。無菌の注射可能な溶液は、必要量の本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を、必要に応じて以下に列挙する他の様々な成分を含む適切な溶媒中に取り込むことにより調製される。滅菌状態は、例えば、滅菌濾過膜を通して濾過することにより、達成することができる。通常、分散液は、基本的な分散媒体及び/又は他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に、滅菌された様々な活性成分を取り込むことにより調製される。無菌の注射可能な溶液、懸濁液、又は乳濁液を調製するための無菌の粉末の場合、好ましい調製方法は、その直前の滅菌濾過された液体媒質から活性成分の粉末と任意の所望の追加的成分とを生む真空乾燥又は凍結乾燥技術である。液体媒質は、必要であれば適切にバッファーリングされなければならず、十分な食塩水又はグルコースを注射される前に、液体はまず希釈されて等張性にされる。組成物は、製造及び貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌といった微生物の汚染作用から保護されなければならない。エンドトキシンの汚染が安全レベル、例えばタンパク質1mgあたり0.5ng未満で最小限に保たれなければならない。薬学的に許容される適切な担体としては、限定されないが;リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸のようなバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチオルベンジルアンモニウムクロライド;ヘキサメトニウムクロライド;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン;マンノサッカライド、ジサッカライド、及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。水性注射懸濁液には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストランなどの懸濁液の粘度を上昇させる化合物が含有されていてよい。任意選択的に、懸濁液は、適切な安定剤、又は化合物の溶解度を上昇させて高濃度の溶液の調製を可能にする薬剤も含有することができる。加えて、活性化合物の懸濁液は、適切な油性注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒又はビヒクルには、ごま油のような脂肪油、又はエチルクリート若しくはトリグリセリドのような合成脂肪酸エステルが含まれる。
【0232】
活性成分は、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合法によって作られたマイクロカプセル、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン−マイクロカプセル及びポリ−(メチルメタクリレート(methylmethacylate))マイクロカプセルに、コロイド薬物送達系(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフィア、ミクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)に、又はマクロエマルジョンに封入されてもよい。これらの技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(18th Ed. Mack Printing Company, 1990)に開示されている。持続放出性調製物が調製される。徐放性製剤の適切な例は、ポリペプチドを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリックスが成形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。特定の実施態様では、注射可能な組成物の吸収を、例えばモノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、又はそれらの組合せといった吸収を遅延させる薬剤を組成物に使用することにより持続させることができる。
【0233】
上記の組成物に加えて、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、デポー製剤として製剤化することもできる。このような長時間作用型の製剤は、注入(例えば、皮下若しくは筋肉内)により、又は筋肉内注射により投与することができる。したがって、例えば、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、適切なポリマー性若しくは疎水性物質(例えば、許容可能なオイル中の乳濁液としての)又はイオン交換樹脂を用いて、又は難溶性の誘導体として、例えば難溶性の塩として製剤化することができる。
【0234】
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を含む薬学的組成物は、一般的な混合、溶解、乳化、カプセル化、封入、又は凍結乾燥方法により製造することができる。薬学的組成物は、一又は複数の生理的に許容される担体、希釈材、賦形剤、又は薬学的に使用可能な調製物へのタンパク質の処理を容易にする補助剤を用いる一般的な方法で製剤化することができる。適当な製剤は、選択される投与経路によって決定する。
【0235】
T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、遊離酸又は遊離塩基の、天然又は塩の形態の組成物に製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、遊離酸又は遊離塩基の生物活性を実質的に保持する塩である。これらには、酸付加塩、例えば、タンパク質性組成物の遊離アミノ基で形成されたもの、又は例えば塩酸若しくはリン酸といった無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸若しくはマンデル酸といった有機酸で形成されたものが含まれる。また、遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、又は水酸化第二鉄といった無機塩基;又はイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、又はプロカインといった有機塩基から誘導することができる。薬学的塩は、対応する遊離塩基形態より、水性及び他のプロトン性溶媒に溶け易い。
【0236】
治療的方法及び組成物
本明細書において提供されるいずれのT細胞活性化二重特異性抗原結合分子も、治療法に使用することができる。本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、例えばがんの治療において、免疫療法薬剤として使用することができる。
【0237】
治療法において使用される場合、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、医学行動の規範に則って製剤化、投薬、及び投与される。この観点において考慮すべき要因は、治療される特定の障害、治療される特定の患者、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤送達部位、投与方法、投与日程及び医療従事者が知る他の要因を包含する。
【0238】
一態様では、医薬としての使用のための本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子が提供される。更なる態様では、疾患の治療において使用される本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子が提供される。特定の実施態様では、治療法において使用される本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子が提供される。一実施態様では、本発明は、治療を必要とする個体の疾患の治療に使用される、本明細書に記載のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供する。特定の実施態様では、本発明は、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の治療的有効量を個体に投与することを含む、疾患を有する個体の治療法において使用されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供する。特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性疾患である。特定の一実施態様では、疾患はがんである。特定の実施態様では、方法は更に、個体に対して少なくとも一つの追加の治療剤、例えば、治療される疾患ががんであれば抗がん剤の治療的有効量を投与することを含む。更なる実施態様では、本発明は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解の誘導に使用される、本明細書に記載のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供する。特定の実施態様では、本発明は、個体に対し、標的細胞の溶解を誘導するためにT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の有効量を投与することを含む、個体の標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法に使用されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を提供する。上記実施態様のいずれかによる「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0239】
更なる態様では、本発明は、医薬の製造又は調製における本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の使用を提供する。一実施態様では、医薬は、治療を必要とする個体の疾患の治療を目的とするものである。更なる実施態様において、本医薬は、疾患を有する個体に対し、医薬の治療的有効量を投与することを含む、疾患を治療する方法で使用するためのものである。特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性疾患である。特定の一実施態様では、疾患はがんである。一実施態様では、方法は更に、個体に対し、少なくとも一つの追加の治療剤、例えば、治療される疾患ががんであれば抗がん剤の治療的有効量を投与することを含む。更なる実施態様では、医薬は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導するためのものである。また更なる実施態様では、医薬は、個体に対し、標的細胞の溶解を誘導するために医薬の有効量を投与することを含む、個体の標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法における使用を目的とする。上記実施態様のいずれかによる「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトとすることができる。
【0240】
更なる態様において、本発明は、疾患を治療する方法を提供する。一実施態様では、方法は、そのような疾患を有する個体に対し、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の治療的有効量を投与することを含む。一実施態様では、薬学的に許容される形態の本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を含む組成物が、前記個体に対して投与される。特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性疾患である。特定の一実施態様では、疾患はがんである。特定の実施態様では、方法は更に、個体に対して少なくとも一つの追加の治療剤、例えば、治療される疾患ががんであれば抗がん剤の治療的有効量を投与することを含む。上記実施態様のいずれかによる「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトとすることができる。
【0241】
更なる態様では、本発明は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法を提供する。一実施態様では、方法は、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の存在下において、標的細胞に本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を接触させることを含む。更なる態様において、個体の標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法が提供される。このような一実施態様では、方法は、標的細胞の溶解を誘導するために、個体に対してT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の有効量を投与することを含む。一実施態様において、「個体」はヒトである。
【0242】
特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性疾患、特にがんである。がんの非限定的な例には、前立腺がん、脳のがん、頭部及び頸部のがん、膵臓がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、血液がん、皮膚がん、扁平上皮癌、骨のがん、及び腎臓がんが含まれる。本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を用いて治療することができる他の細胞増殖性疾患には、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭部及び頸部、神経系(中枢及び末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸部、及び泌尿生殖器系に位置する腫瘍が含まれる。前がん性の状態又は病変及びがん転移も含まれる。特定の実施態様では、がんは、腎細胞がん、皮膚がん、肺がん、結腸直腸がん、乳がん、脳のがん、頭部及び頸部のがんからなる群より選択される。当業者は、多くの場合T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は治癒をもたらさず、部分的恩恵を提供するだけであることを認識する。いくつかの実施態様では、いくつかの恩恵を有する生理的変化も治療的に有益と考えられる。したがって、いくつかの実施態様では、生理的変化をもたらすT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の量は、「有効量」又は「治療的有効量」と考えられる。治療を必要とする被検体、患者、又は個体は、典型的には哺乳動物であり、具体的にはヒトである。
【0243】
いくつかの実施態様では、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の有効量が細胞に投与される。他の実施態様では、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の治療的有効量が、疾患の治療のために個体に投与される。
【0244】
疾患の予防又は治療のために、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の適切な容量は(単独で使用されるか、或いは一又は複数の他の追加的治療剤との組み合わせで使用されるときの)、治療される疾患の種類、投与経路、患者の体重、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の種類、疾患の重症度及び経過、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子が予防又は治療いずれの目的で投与されるか、直前又は同時に行われる治療的介入、患者の病歴及びT細胞活性化二重特異性抗原結合分子に対する応答、並びに主治医の裁量によって決定される。投与の責任を負う施術者は、いずれにしろ、組成物中の活性成分の濃度及び個別の被験者に適切な用量を決定する。限定されないが、様々な時点にわたる、単一又は複数回投与、ボーラス投与、パルス注入を含む様々な投与スケジュールが本明細書で考慮される。
【0245】
T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、患者に対して、単回、又は一連の治療にわたって適切に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば一回以上の別個の投与によるか、連続注入によるかに関わらず、約1μg/kg〜15mg/kg(例えば0.1mg/kg〜10mg/kg)のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子が患者への投与のための初期候補用量となりうる。一つの典型的な一日あたり用量は、上記要因に応じて約1μg/kg〜100mg/kg又はそれ以上の範囲である。数日間以上にわたる反復投与の場合には、状態に応じて、治療は疾患症状の望まれる抑制が起こるまで持続するであろう。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の一つの例示的用量は、約0.005mg/kg〜約10mg/kgであろう。他の非限定的実施例では、用量は、一回の投与につき、体重1kgあたり約1マイクログラム、体重1kgあたり約5マイクログラム、体重1kgあたり約10マイクログラム、体重1kgあたり約50マイクログラム、体重1kgあたり約100マイクログラム、体重1kgあたり約200マイクログラム、体重1kgあたり約350マイクログラム、体重1kgあたり約500マイクログラム、体重1kgあたり約1ミリグラム、体重1kgあたり約5ミリグラム、体重1kgあたり約10ミリグラム、体重1kgあたり約50ミリグラム、体重1kgあたり約100ミリグラム、体重1kgあたり約200ミリグラム、体重1kgあたり約350ミリグラム、体重1kgあたり約500ミリグラム、体重1kgあたり約1000mg以上及びそこから導かれるあらゆる範囲を含む。本明細書に列挙される数字から導かれる範囲の非限定的な例では、上記の数字に基づいて、体重1kgあたり約5mg〜体重1kgあたり約100mg、体重1kgあたり約5マイクログラム〜体重1kgあたり約500ミリグラムなどが投与されうる。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、5.0mg/kg又は10mg/kgの一又は複数の用量(又はこれらのいずれかの組み合わせ)を患者に投与してよい。このような用量は断続的に、例えば毎週又は3週毎(例えば患者が約2〜約20投与量、又は例えば約6投与量のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を受けるように)投与してよい。初期の高負荷用量の後、一つ以上の低用量を投与してよい。しかしながら、他の用量用法も使用してよい。この治療法の進行は従来の手法及び試験により容易にモニタされる。
【0246】
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、通常、意図された目的を達成するために有効な量で使用される。疾患状態を治療又は予防するための使用のために、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子、又はその薬学的組成物は、治療的有効量で投与又は適用される。治療的有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示内容を踏まえると十分に当業者の能力の範囲内である。
【0247】
全身投与の場合、治療的に有効な用量は、まずは細胞培養アッセイのようなインビトロアッセイに基づいて推定することができる。次いで用量を、細胞培養物において決定されるIC
50を含む循環濃度範囲を達成するために、動物モデルにおいて製剤化することができる。このような情報は、ヒトにおいて有用な用量を更に正確に決定するために使用することができる。
【0248】
初期投与量は、インビボデータ、例えば動物モデルから、当該技術分野で周知の技術を用いて推定することもできる。当業者であれば、動物データに基づいて、ヒトへの投与を容易に最適化することができるであろう。
【0249】
投与の量及び間隔は、治療効果を維持するために十分なT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の血漿レベルを提供するために個別に調整される。注射による投与のための通常の患者への投与量は、約0.1〜50mg/kg/日、典型的には約0.5〜1mg/kg/日にわたる。治療的に有効な血漿レベルは、毎日複数の用量を投与することにより達成することができる。血漿中のレベルは、例えばHPLCにより測定することができる。
【0250】
局所投与又は選択的取り込みの場合、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の有効な局所濃度は血漿濃度に関連していなくともよい。当業者であれば、過度の実験をしなくとも、治療的に有効な局所投与量を最適化することができるであろう。
【0251】
本明細書に記載されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の治療的に有効な用量は、通常、実質的な毒性なしで治療的恩恵を提供する。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の毒性及び治療効果は、細胞培養又は実験動物における標準の薬学的手順により決定することができる。細胞培養アッセイ及び動物の研究は、LD
50(集団の50%を死に至らしめる用量)及びED
50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するために使用することができる。毒性と治療効果との用量比が治療指数であり、比LD
50/ED
50と表現することができる。大きな治療指数を呈するT細胞活性化二重特異性抗原結合分子が好ましい。一実施態様では、本発明によるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、高い治療指数を呈する。細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用に適した一定範囲の投与量の製剤化に使用することができる。投与量は、好ましくは、毒性を殆ど又は全く伴わないED
50を含む、一定範囲の循環濃度内にある。投与量は、種々の要因、例えば、用いられる投与形態、使用される投与経路、対象の状態などに応じてこの範囲内で変動しうる。正確な製剤、投与経路、及び用量は、患者の状態を考慮して個々の医師により選択されうる(例えば、Fingl et al., 1975, in:ThePharmacological Basis of Therapeutics, Ch. 1, p. 1参照。この文献は参照により本明細書に包含される)。
【0252】
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を用いて治療される患者の主治医には、毒性、器官不全などにより、いつ及びどのようにして投与を終了、中断、又は調整するかが分かるであろう。逆に、主治医は、臨床応答が十分でなかった場合には(毒性なしで)、治療レベルを上げるように調整することも分かっているであろう。対象となる障害の管理において投与される用量の大きさは、治療される状態の重症度、投与経路などによって変動する。例えば、状態の重症度は、部分的には標準の予後評価方法により評価される。更に、用量及び恐らくは投薬回数も、個々の患者の年齢、体重、及び応答により変動する。
【0253】
その他の薬剤及び治療
本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、療法において、一又は複数の他の薬剤との組み合わせで投与される。例えば、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、少なくとも一つの追加的治療剤と共投与される。用語「治療剤」は、症状又は疾患を治療するために、そのような治療を必要とする個体に投与されるあらゆる薬剤を包含する。このような追加的な治療剤は、治療されている特定の兆候に適したあらゆる活性成分、好ましくは、互いに打ち消し合うことのない相補的活性を有する活性成分を含む。特定の実施態様では、追加的治療剤は、免疫調節剤、細胞増殖抑制剤、細胞接着の阻害剤、細胞傷害性剤、細胞アポトーシスの活性剤、又はアポトーシス誘導因子に対する細胞の感受性を増大させる薬剤である。特定の実施態様では、追加的治療剤は、抗がん剤、例えば微小管破壊因子、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレーター、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化因子、又は抗血管新生剤である。
【0254】
このような他の薬剤は、好適には、意図した目的に有効な量で組み合わされて存在する。このような他の薬剤の有効量は、使用されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の量、障害又は治療の種類、及び上記他の要因によって決まる。T細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、一般的に、本明細書に記載されるものと同じ用量及び投与経路において、又は本明細書に記載された用量の1%〜99%で、又は経験的に/臨床的に妥当であると決定された任意の用量及び任意の経路により使用される。
【0255】
上記のこうした併用療法は、併用投与(二つ以上の治療剤が、同一又は別々の組成物に含まれている)、及び本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子の投与が、追加の治療剤及び/又はアジュバントの投与の前、投与と同時、及び/又は投与の後に起きうる分離投与を包含する。本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、放射線療法と組み合わせて使用することもできる。
【0256】
製造品
本発明の別の態様では、上述した障害の治療、予防、及び/又は診断に有用な材料を含む製造品が提供される。製造品は、容器と容器上又は容器に付随するラベル又はパッケージ挿入物を含む。好適な容器は、例としてボトル、バイアル、シリンジ、IV輸液バッグなどを含む。容器はガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成されうる。容器は、症状の治療、予防、及び/又は診断に有効な、単独の又はその他の組成物と併用される化合物を収容し、無菌のアクセスポートを有することができる(例えば、容器は皮下注射針により穿孔可能なストッパーを有する静脈内溶液のバッグ又はバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも一つの活性な薬剤は、本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子である。ラベル又はパッケージ挿入物は、組成物が特定の症状の治療のために使用されることを示している。更に、製造品は、(a)本発明のT細胞活性化二重特異性抗原結合分子を包含する組成物を中に含む第一の容器;及び(b)更なる細胞障害性又はその他の治療的薬剤を中に含む組成物を含む第2の容器を含みうる。本発明の本実施態様における製造品は、組成物が特定の疾患を治療するために使用できることを示すパッケージ挿入物を更に含んでいてもよい。或いは、又は加えて、製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液を含む第二(又は第三)の容器を更に含んでもよい。これは、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含む、商業的に及びユーザーの立場から望まれる他の物質を更に含んでもよい。
【実施例】
【0257】
以下は本発明の方法及び組成物の実施例である。上記に提供される一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様が実施されうることが理解される。
【0258】
一般的方法
組換えDNA技術
標準的な方法を使用して、Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載されているようにDNAを操作した。分子生物学的試薬を、製造元の指示に従って使用した。ヒト免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖のヌクレオチド配列に関する一般情報は以下に与えられている:Kabat, E.A. et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5
thed., NIH Publication No. 91-3242.
【0259】
DNA配列決定
DNA配列は、二本鎖配列決定により決定された。
【0260】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントは、必要に応じて、適切なテンプレートを用いてPCRによって生成するか、又は自動化された遺伝子合成による合成オリゴヌクレオチド及びPCR生成物からGeneart AG(Regensburg,Germany)により合成した。正確な遺伝子配列が入手可能でない場合、最も近いホモログ由来の配列に基づいてオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、適切な組織を起源とするRNAからRT−PCRによって遺伝子を単離した。特異的な制限エンドヌクレアーゼ切断部位に隣接する遺伝子セグメントを、標準のクローニング/シーケンシングベクター中にクローニングした。形質転換した細菌からプラスミドDNAを精製し、UV分光法により濃度を決定した。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定によって確認した。遺伝子セグメントは、それぞれの発現ベクター中へのサブクローニングを可能にする適切な制限部位を用いて設計された。すべてのコンストラクトは、真核細胞内の分泌のためにタンパク質を標的とするリーダーペプチドをコードする5’末端DNA配列を含むように設計された。典型的リーダーペプチド及びそれらをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号108〜116で示される。
【0261】
PBMCからの初代ヒトpan T細胞の単離
末梢血単核細胞(PBMC)を、地方血液銀行から、又は健常なヒトドナーの新鮮血から得られた濃縮したリンパ球調製物(バフィーコート)のHistopaque密度遠心分離により調製した。簡潔には、血液を滅菌PBSで希釈し、Histopaqueグラジエント上に慎重に重ねた(Sigma、H8889)。室温で450×gで30分間遠心分離した後(ブレーキをオフに切り替えて)、PBMCを含有する界面相の上の血漿の部分を棄てた。PBMCを新しい50mlのFalconチューブに移し、総体積50mlになるまでチューブをPBSで満たした。混合物を室温で10分間400×g(ブレーキをオンに切り替えて)で遠心分離した。上清を棄て、PBMCペレットを滅菌PBSで2回洗浄した(遠心分離工程は4℃で10分間、350×gで行った)。その結果得られたPBMC集団を自動カウントし(ViCell)、インキュベーター内において、37℃、5%CO
2で10%のFCS及び1%のL−アラニル−L−グルタミン(Biochrom,K0302)を含有するRPMI1640培地中に、アッセイ開始まで保管した。
【0262】
PBMCからのT細胞濃縮は、製造元の指示に従って、Pan T細胞単離キットII(Miltenyi Biotec#130−091−156)を用いて実行された。簡潔には、細胞ペレットを、細胞1000万個あたり40μlの冷バッファー(0.5%のBSA、2mMのEDTAを含むPBS、滅菌濾過)で希釈し、細胞1000万個あたり10μlのビオチン抗体カクテルで10分間4℃でインキュベートした。細胞1000万個あたり30μlの冷バッファー及び20μlの抗ビオチン磁気ビーズを加え、混合物を更に15分間4℃でインキュベートした。バッファーの現在の体積の10〜20×を加え、続いて300×gで10分間の遠心分離工程を行うことにより細胞を洗浄した。最大1億個の細胞を500μlのバッファーに再懸濁した。非標識ヒトpan T細胞の磁気分離を、製造元の指示に従ってLSカラム(Miltenyi Biotec#130−042−401)を用いて実行した。その結果得られたT細胞集団を自動カウントし(ViCell)、インキュベーター内において、37℃、5%CO
2でAIM−V培地中に、アッセイ開始まで(24時間以内)保管した。
【0263】
PBMCからの初代ヒト天然T細胞の単離
末梢血単核細胞(PBMC)を、地方血液銀行から、又は健常なヒトドナーの新鮮血から得られた濃縮したリンパ球調製物(バフィーコート)のHistopaque密度遠心分離により調製した。PBMCからのT細胞濃縮は、Miltenyi Biotec社のNaive CD8
+T細胞単離キット(#130−093−244)を製造元の指示に従って用い、但し最後のCD8
+T細胞の単離工程を省いて実行された(初代ヒトpan T細胞の単離についての記載も参照)。
【0264】
脾細胞からのマウスpan T細胞の単離
C57BL/6マウスから脾臓を単離し、MACSバッファー(PBS+0.5%BSA+2mM EDTA)を含むGentleMACS C−チューブ(Miltenyi Biotech #130−093−237)に移し、製造元の指示に従ってGentleMACS Dissociatorを用いて解離させ、単一細胞の懸濁液を得た。細胞懸濁液をプリセパレーションフィルターに通し、解離していない残りの組織粒子を除去した。400×gで4分間、4℃で遠心分離した後、ACK溶解バッファーを加えて赤血球を溶解させた(室温で5分間のインキュベーション)。残りの細胞をMACSバッファーで2回洗浄し、カウントし、マウスpan T細胞の単離に使用した。陰性(磁気性)選択を、製造元の指示に従って、Pan T細胞単離Kit II(Miltenyi Biotec#130−090−861)を用いて実行した。その結果得られたT細胞集団を自動カウントし(ViCell)、更なるアッセイに直ちに使用した。
【0265】
ヘパリン添加血液からの一次的カニクイザルPBMCの単離
末梢血単核細胞(PBMC)を、以下のようにして健常なカニクイザルドナーの新鮮血から密度遠心分離により調製した。ヘパリン添加血液を、滅菌PBSで1:3に希釈し、Lymphoprep培地(Axon Lab#1114545)を滅菌PBSで90%に希釈した。希釈した血液の二つの体積を、希釈した密度勾配の一体積上に重ね、PBMC画分を、ブレーキなし及び室温で、30分間にわたり520×gで遠心分離した。PBMCバンドを新しい50mlのFalconチューブに移し、10分間にわたる4℃で400×gでの遠心分離により滅菌PBSで洗浄した。一回の低速遠心分離を実行して血小板を除去し(150×gで15分間、4℃)、その結果得られたPBMC集団を自動カウントし(ViCell)、更なるアッセイに直ちに使用した。
【0266】
標的細胞
MCSP標的二重特異性抗原結合分子の評価のために、以下の腫瘍細胞株、即ち:悪性メラノーマの転移部位由来の、高レベルのヒトMCSPを発現するヒトメラノーマ細胞株WM266−4(ATCC#CRL−1676);中レベルのヒトMCSPを発現するヒトメラノーマ細胞株MV−3(Radboud University Nijmegen Medical Centreの寄贈);高レベルのMCSPを発現するヒト悪性メラノーマ(原発腫瘍)細胞株A375(ECACC#88113005);MCSPを発現しないヒト結腸癌細胞株HCT−116(ATCC#CCL−247);及びMCSPを発現しないヒト白色人種結腸腺癌細胞株LS180(ECACC#87021202)を使用した。
【0267】
CEA標的二重特異性抗原結合分子の評価のために、以下の腫瘍細胞株、即ち:極めて高レベルのヒトCEAを発現するヒト胃がん細胞株MKN45(DSMZ#ACC409);高レベルのヒトCEAを発現するヒト膵臓腺癌細胞株HPAF−II(Roche Nutleyの寄贈);中レベルのヒトCEAを発現するヒト原発膵臓腺癌細胞株BxPC−3(ECACC#93120816);中レベルのヒトCEAを発現するヒト女性白色人種結腸腺癌細胞株LS−174T(ECACC#87060401);低レベルのヒトCEAを発現するヒト膵臓腺癌細胞株ASPC−1(ECACC#96020930);(極めて)低レベルのヒトCEAを発現するヒト累上皮膵臓癌細胞株Panc−1(ATCC#CRL−1469);CEAを発現しないヒト結腸癌細胞株HCT−116(ATCC#CCL−247);室内で安定にトランスフェクトされてヒトCEAを発現するヒト腺癌肺胞基底上皮細胞株A549−huCEA;及び室内で改変されてヒトCEAを安定に発現するマウス結腸癌細胞株MC38−huCEAを使用した。
【0268】
加えて、ヒトT細胞白血病細胞株であるJurkat(ATCC#TIB−152)を使用して、細胞上での異なる二重特異性コンストラクトのヒトCD3に対する結合を評価した。
【0269】
実施例1
抗MCSP抗体M4−3/ML2の親和性成熟
オリゴヌクレオチド指定突然変異誘発手順を介して親和性成熟が行われた。このために、重鎖変異体M4−3及び軽鎖変異体ML2を、Hoogenboomにより記載されたものと同様、ファージミドベクター中にクローニングした(Hoogenboom et al., Nucleic Acids Res. 1991, 19, 4133-4137)。ランダム化される残基は、まず古典的なホモロジーモデリングによるその抗体の3Dモデルを作製し、次いで重鎖及び軽鎖の相補性決定領域(CDR)の溶媒接近可能残基を同定することにより同定された。表1に示すトリヌクレオチド合成に基づくランダム化を伴うオリゴヌクレオチドは、Ella Biotech(Munich,Germany)から購入した。古典的なPCRにより三つの独立のサブライブラリーが作製され、それらはCDR−H1とCDR−H2とに、又はCDR−L1とDR−L2とに、ランダム化を含んでいた。CDR−L3は別の手法でランダム化した。これらライブラリーのDNA断片を、制限消化及びライゲーションを介してファージミド中にクローニングし、その後TG1細菌中に電気穿孔した。
【0270】
ライブラリー選択
こうして作製された抗体変異体は、各粒子内にパッケージされたM13の遺伝子III産物への融合体として、繊維状ファージ粒子から一価型で提示された。次いで、ファージディスプレイされた変異体は、それらの生物活性(ここでは結合親和性)についてスクリーニングされ、一又は複数の改善活性を有する候補が更なる開発に使用された。ファージディスプレイライブラリーの作製方法は、Lee et al., J. Mol. Biol. (2004) 340, 1073-1093に見ることができる。
【0271】
すべての親和性成熟ライブラリーによる選択が、以下の手順によって液中で実施された:1.各親和性成熟ライブラリーの〜1012個のファージミド粒子を、100nMのビオチン化hu−MCSP(D3ドメイン)−avi−his(配列番号118)に0.5時間で1mlの総体積において結合させ、2.ビオチン化hu−MCSP(D3ドメイン)−avi−his及び特異的に結合したファージ粒子を、5.4×10
7個のストレプトアビジンでコートされた磁気ビーズを10分間加えることにより捕捉し、3.ビーズを、5〜10×1mlのPBS/Tween−20及び5〜10×1mlのPBSを用いて洗浄し、4.ファージ粒子を、1mlの100mM TEA(トリエチルアミン)を加えることにより10分間溶出し、500μlの1M Tris/HCl(pH7.4)を加えることにより中和させ、5.指数関数的に増殖する大腸菌TG1細菌を再感染させ、ヘルパーファージVCSM13で感染させ、その後ファージミド粒子をPEG/NaCl沈降させて次の選択ラウンドに使用する。選択は、一定濃度の又は漸減濃度(10
−7Mから2×10
−9Mへ)の抗原を用いて、3〜5ラウンドにわたって行った。2ラウンド目では、ストレプトアビジンビーズの代わりにニュートラアビジンプレートを用いて抗原ファージ複合体の捕捉を行った。ELISAにより、以下のようにして特異的結合剤が同定された。1ウェルあたり、100μlの10nMビオチン化hu−MCSP(D3ドメイン)−avi−hisをニュートラアビジンプレートにコートした。Fab含有細菌の上清を加え、抗Flag/HRP二次抗体を用いることにより、結合するFabをそれらのFlagタグにより検出した。ELISA陽性クローンが、96ウェルフォーマットにおいて可溶型Fab断片として細菌により発現され、上清には、ProteOn XPR36(BioRad)を用いたSPR分析による動態スクリーニング実験が行われた。最も高い親和性定数でFabを発現するクローンが同定され、対応するファージミドが配列決定された。
【0272】
表1(Cysは常に除外され、オリゴヌクレオチドが逆プライマーであった場合にはMet.Lysが一番に除外された)
【0273】
【0274】
図2は、非成熟親クローンと対照させた親和性成熟抗MCSPクローンの配列比較を示している(M4−3 ML2)。重鎖ランダム化はCDR1及び2のみで行われた。軽鎖ランダム化はCDR1及び2で、並びに独立してCDR3で行われた。
選択の間、フレームワーク内でクローンG3におけるF71Y又はクローンE10におけるY87Hのようないくつかの突然変異が起こった。
【0275】
ヒトIgG
1の生成及び精製
親和性成熟した変異体の重鎖及び軽鎖DNA配列の可変領域を、それぞれのレシピエント哺乳動物発現ベクター中に事前挿入された定常重鎖又は定常軽鎖を有するフレームにサブクローニングした。抗体発現は、MPSVプロモーターによりドライブされたもので、CDSの3’末端に合成ポリAシグナル配列を有する。加えて、各ベクターはEBV OriP配列を含有していた。
【0276】
分子は、ポリエチレンイミン(PEI)を用いて哺乳動物発現ベクターによりHEK293−EBNA細胞をコトランスフェクトすることにより生成された。細胞は、対応する発現ベクターを1:1の比で用いてトランスフェクトされた。トランスフェクションのために、HEK293 EBNA細胞を、CD CHO培地において血清を含まない懸濁液中で培養した。500mlの振盪フラスコ内での生成のために、4億個のHEK293 EBNA細胞をトランスフェクションの24時間前に播種した。トランスフェクションのために、細胞を210×gで5分間遠心分離し、予め温めておいた20mlのCD CHO培地により上清を置き換えた。発現ベクターを、DNAの量が最終的に200μgになるまで20mlのCD CHO培地中で混合した。540μlのPEI溶液を加えた後、混合物を15秒間ボルテックスし、その後室温で10分間インキュベートした。その後細胞を、DNA/PEI溶液と混合し、500mlの振盪フラスコに移し、5%CO
2雰囲気のインキュベーター内において37℃で3時間インキュベートした。インキュベート時間の後、160mlのF17培地を加え、細胞を24時間培養した。トランスフェクションの一日後、1mMのバルプロ酸及び7%のFeed1(Lonza)を加えた。7日後、210×gで15分間の遠心分離により精製のために培養物の上清を収集し、溶液を滅菌濾過し(0.22μmのフィルター)、最終濃度0.01%w/vのアジ化ナトリウムを加えて4℃に維持した。
【0277】
分泌されたタンパク質を、プロテインAを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより細胞培養物の上清から精製した。上清を、40mlの20mMリン酸ナトリウム、20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)で平衡化したHiTrap Protein A HPカラム(CV=5mL、GE Healthcare)に充填した。結合していないタンパク質を、少なくとも10カラム容量の20mMリン酸ナトリウム、20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)で洗浄することにより除去した。標的タンパク質を、20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)から20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH2.5)の20カラム容量にわたる勾配中に溶出した。タンパク質溶液を、1/10の0.5Mリン酸ナトリウム(pH8)を加えることにより中和させた。標的タンパク質を、濃縮し、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム溶液(pH6.0)で平衡化したHiLoad Superdex 200カラム(GE Healthcare)に充填する前に濾過した。
【0278】
精製したタンパク質試料のタンパク質濃度が、アミノ酸配列に基づいて計算されたモル吸光係数を用いて280nmにおける光学濃度(OD)を測定することにより決定された。分子の純度及び重量が、還元剤の存在下及び非存在下において、CE−SDS分析により分析された。Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper Life Sciences)が、製造元の指示に従って使用された。2μgの試料が分析に使用された。抗体試料の凝集物含有量を、25mのMK
2HPO
4、125mMのNaCl、200mMのL−アルギニン一塩酸塩、0.02%(w/v)のNaN
3(pH6.7、25℃のランニングバッファー)中において、TSKgel G3000 SW XL分析的サイズ除外カラム(Tosoh)を用いて分析した。
【0279】
【0280】
親和性決定
ProteOn分析
K
Dの測定を、ProteOn XPR36マシン(BioRad)を用いた表面プラズモン共鳴アッセイにより、25℃で、CM5チップ上へのアミン結合とそれに続く細菌上清又は精製されたFab調製物からのFabの捕捉により固定化された抗ヒトF(ab’)2断片特異的捕捉抗体(Jackson ImmunoResearch#109−005−006)を用いて行った。簡潔には、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5,GE Healthcare)を、供給元の指示に従ってN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化した。抗ヒトF(ab’)2断片特異的捕捉抗体を、10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)で50μg/mlに希釈した後、結合した捕捉抗体タンパク質のおよそ10000反応単位(RU)を達成するために10μl/分の流速で注入した。捕捉抗体の注入後、反応しない群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入する。反応速度論的な測定のため、細菌の上清由来のFab又は精製されたFabを、10μl/分の流速で300秒間、捕捉ベースラインの安定のために300秒の解離で注入した。捕捉レベルは100〜500RUの範囲内であった。次の工程において、ヒトMCSP(D3ドメイン)−avi−his被分析物を、単一濃度として、又はHBS−EP+(GE Healthcare、10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%界面活性剤P20、pH7.4)中に希釈した(100nM〜250pMの範囲のクローン親和性に応じて)連続する濃度として、25℃において50μl/分の流速で注入した。センサーチップの表面を、グリシン(pH1.5)を30秒間90μl/分で注入し、それに続いてNaOHを20秒間同じ流速で注入することにより再生した。会合センサーグラム及び解離センサーグラムを同時にフィットさせることによる単純な一対一ラングミュア結合モデル(ProteOn XPR36評価ソフトウェア又はScrubberソフトウェア(BioLogic))を用いて、結合速度(k
on)と解離速度(k
off)を算出した。平衡解離定数(K
D)はk
off/k
on比として算出した。このデータを使用して、親和性成熟変異体と親抗体の比較結合親和性を決定した。表3aは、これらのアッセイから生成されたデータを示している。
【0281】
軽鎖のG3、E10、C5、及び重鎖のD6、A7、B7、B8、C1が、ヒトIgG
1フォーマットへの変換のために選ばれた。軽鎖のCDR1及び2を、CDR3とは別にランダム化し、得られたCDRをIgG変換の間に組み合わせた。
IgGフォーマットにおいて、ヒトMCSP抗原(配列番号118)に対する親和性と、更にはカニクイザルの相同体(配列番号117)に対する親和性を測定した。
【0282】
使用される方法は、哺乳動物産出物由来の精製されたIgGだけを用いて、Fab断片について記載された通りに使用された。
【0283】
【0284】
Biacore T200を用いた表面プラズモン共鳴アッセイ(SPR)による親和性決定
親和性成熟IgGの親和性及び結合活性を決定するための表面プラズモン共鳴(SPR)実験を、ランニングバッファーとしてHBS−EP(0.01MのHEPES(pH7.4)、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%の界面活性剤P20、Biacore、Freiburg/Germany)を用い、25℃で、Biacore T200で行った。
【0285】
ヒト及びカニクイザルMCSP D3に対する様々な抗MCSP IgGの相互作用の結合活性を分析するために、約9500共鳴単位(RU)の抗Penta His抗体(Qiagen)の直接結合を、標準のアミン結合キット(Biacore、Freiburg/Germany)を用いてpH5.0でCM5チップ上で実行した。抗原はそれぞれ30nMで60秒間10μl/分で捕捉された。IgGは、濃度0.0064〜100nM、流速30μl/分で、280秒間にわたりフローセルに通した。解離は180秒間モニタした。バルク屈折率の差異を、基準フローセルにおいて得られた応答を差し引くことにより修正した。ここで、IgGは、固定化された抗Penta His抗体を有する表面上に流したが、その上にはヒトMCSP D3又はカニクイザルMCSP D3ではなくHBS−EPが注入されていた。
【0286】
親和性測定のために、固定化された抗ヒトFcを有するCM5センサーチップ表面上にIgGを捕捉した。捕捉IgGは、標準のアミン結合キット(Biacore,Freiburg/Germany)を用いたpH5.0における約9500共鳴単位(RU)の直接的固定化により、センサーチップの表面に結合した。IgGは、10nMを30μl/分で、25秒間捕捉される。ヒト及びカニクイザルMCSP D3は、濃度0.0064〜100nM、流速30μl/分で、120秒間にわたりフローセルに通した。解離は60秒間モニタした。166〜500nMの濃度について、それぞれ1200及び600秒間、会合及び解離をモニタした。バルク屈折率の差異は、基準フローセルで取得される応答差し引くことにより修正された。ここで、抗原は、固定化された抗ヒトFc抗体を有する表面上に流したが、その上には抗MCSP IgGではなくHBS−EPが注入されていた。
【0287】
運動定数を、Biacore T200 Evaluation Software(vAA,Biacore AB,Uppsala/Sweden)を用いて導出し、数値積分法により、1:1ラングミュア結合の反応速度式に当てはめた。
【0288】
Biacore T200を用いた表面プラズモン共鳴測定により、ヒト及びカニクイザルMCSP D3に対するより高い親和性が確認された。加えて、結合活性測定値により、二価の結合に最大3倍の上昇が示された(表3b)。
【0289】
【0290】
実施例2
抗MCSP抗体としてM4−3(C1)ML2(G3)を、抗CD3抗体としてヒト化CH2527を含むMCSP TCB(2+1Crossfab−IgG P329G LALA反転型)の調製
【0291】
重鎖及び軽鎖DNA配列の可変領域を、それぞれのレシピエント哺乳動物発現ベクターに予め挿入された定常重鎖又は定常軽鎖とインフレームでサブクローニングした。抗体発現は、MPSVプロモーターによって駆動され、CDSの3’末端に合成ポリAシグナル配列を含む。加えて、各ベクターはEBV OriP配列を含有する。
【0292】
分子は、ポリエチレンイミン(PEI)を使用してHEK293−EBNA細胞に哺乳動物発現ベクターをコトランスフェクトすることにより生成された。細胞は、1:2:1:1の比(「ベクター重鎖Fc(ホール)」:「ベクター軽鎖」:「ベクター軽鎖Crossfab」:「ベクター重鎖Fc(ノブ)−FabCrossfab」)の対応発現ベクターでトランスフェクトされた。
トランスフェクションのために、HEK293 EBNA細胞を、CD CHO培地において血清を含めないで懸濁培養した。500mlの振盪フラスコ内での生成のために、4億個のHEK293 EBNA細胞をトランスフェクションの24時間前に播種した。トランスフェクションのために、細胞を210×gで5分間遠心分離し、予め温めた20mlのCD CHO培地により上清を置き換えた。発現ベクターを、DNAの量が最終的に200μgになるまで20mlのCD CHO培地中で混合した。540μlのPEI溶液を加えた後、混合物を15秒間ボルテックスし、その後室温で10分間インキュベートした。その後細胞を、DNA/PEI溶液と混合し、500mlの振盪フラスコに移し、5%CO
2雰囲気のインキュベーター内において37℃で3時間インキュベートした。インキュベート時間の後、160mlのF17培地を加え、細胞を24時間培養した。トランスフェクションの一日後、1mMのバルプロ酸及び7%のFeed1(Lonza)を加えた。7日後、210×gで15分間の遠心分離によって培養物の上清を精製のために収集し、溶液を滅菌濾過し(0.22 μmのフィルター)、最終濃度0.01%w/vのアジ化ナトリウムを加えて4℃に維持した。
【0293】
分泌されたタンパク質を、プロテインAを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより細胞培養物の上清から精製した。上清を、40mlの20mMリン酸ナトリウム、20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)で平衡化したHiTrap Protein A HPカラムに充填した(CV=5mL、GE Healthcare)。結合していないタンパク質を、少なくとも10カラム体積の20mMリン酸ナトリウム、20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)で洗浄することにより除去した。標的タンパク質を、20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)から20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH2.5)の20カラム体積にわたる勾配中に溶出した。タンパク質溶液を、1/10の0.5Mリン酸ナトリウム、リン酸エステル、リン酸塩又はリン酸エステル(pH 8)を加えることにより中和させた。標的タンパク質を、濃縮し、濾過した後、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム溶液(pH6.0)で平衡化したHiLoad Superdex 200カラム(GE Healthcare)に充填した。
【0294】
精製されタンパク質試料のタンパク質濃度を、アミノ酸配列に基づいて計算されたモル吸光係数を用いて、280nmにおける光学濃度(OD)を測定することにより決定した。
【0295】
分子の純度及び分子量は、還元剤の存在下及び非存在下において、CE−SDS分析により分析した。Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper lifescience)を、製造元の指示に従って使用した。2μgの試料を分析に使用した。
【0296】
抗体試料の凝集物含有量を、25mMのK
2HPO
4、125mMのNaCl、200mMのL−アルギニン一塩酸塩、0.02%(w/v)のNaN
3(pH6.7、25℃のランニングバッファー)中において、TSKgel G3000 SW XL 分析的サイズ除外カラム(Tosoh)を用いて分析した。
【0297】
【0298】
図3は、MCSP TCB(2+1Crossfab−IgG P329G LALA反転型)分子の模式図である。
【0299】
図4及び表4bは、MCSP TCB(2+1 Crossfab−IgG P329G LALA反転型)分子(配列番号12、53、54、及び55)のCE−SDS分析を示している。
【0300】
【0301】
実施例3
抗CEA抗体としてCH1A1A 98/99 2F1を、抗CD3抗体としてヒト化CH2527を含有するCEA TCB(2+1Crossfab−IgG P329G LALA反転型)の調製
重鎖及び軽鎖DNA配列の可変領域を、それぞれのレシピエント哺乳動物発現ベクターに予め挿入された定常重鎖又は定常軽鎖とインフレームでサブクローニングした。抗体発現は、MPSVプロモーターによりドライブされたもので、CDSの3’末端に合成ポリAシグナル配列を有する。加えて、各ベクターはEBV OriP配列を含む。
【0302】
分子は、ポリエチレンイミン(PEI)を用いて哺乳動物発現ベクターでHEK293−EBNA細胞をコトランスフェクトすることにより生成された。細胞は、1:2:1:1の比で対応する発現ベクター(「ベクター重鎖Fc(ホール)」:「ベクター軽鎖」:「ベクター軽鎖Crossfab」:「ベクター重鎖Fc(knob)−FabCrossfab」)を用いてトランスフェクトされた。
【0303】
トランスフェクションのために、HEK293 EBNA細胞を、CD CHO培地において血清を含めないで懸濁培養した。500mlの振盪フラスコ内での生成のために、4億個のHEK293 EBNA細胞をトランスフェクションの24時間前に播種した。トランスフェクションのために、細胞を210×gで5分間遠心分離し、予め温めた20mlのCD CHO培地により上清を置き換えた。発現ベクターを、DNAの量が最終的に200μgになるまで20mlのCD CHO培地中で混合した。540μlのPEI溶液を加えた後、混合物を15秒間ボルテックスし、その後室温で10分間インキュベートした。その後細胞を、DNA/PEI溶液と混合し、500mlの振盪フラスコに移し、5%CO
2雰囲気のインキュベーター内において37℃で3時間インキュベートした。インキュベート時間の後、160mlのF17培地を加え、細胞を24時間培養した。トランスフェクションの一日後、1mMのバルプロ酸及び7%のFeed1(Lonza)を加えた。7日後、210×gで15分間の遠心分離によって培養物の上清を精製のために収集し、溶液を滅菌濾過し(0.22μmのフィルター)、最終濃度0.01%w/vのアジ化ナトリウムを加えて4℃に維持した。
【0304】
分泌されたタンパク質を、プロテインAを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより細胞培養物の上清から精製した。上清を、40mlの20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、0.5Mの塩化ナトリウム(pH7.5)で平衡化したHiTrap Protein A HPカラム(CV=5mL、GE Healthcare)に充填した。結合していないタンパク質を、少なくとも10カラム容量の20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、0.5Mの塩化ナトリウム(pH7.5)で洗浄することにより除去した。標的タンパク質を、20mM クエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)から20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH2.5)の20カラム容量にわたる勾配中に溶出した。タンパク質溶液を、1/10の0.5Mリン酸ナトリウム(pH8)を加えることにより中和させた。標的タンパク質を、濃縮し、20mMスチジン、140mM塩化ナトリウム溶液(pH6.0)で平衡化したHiLoad Superdex 200column(GE Healthcare)に充填する前に濾過した。
【0305】
精製したタンパク質試料のタンパク質濃度が、アミノ酸配列に基づいて計算されたモル吸光係数を用いて280nmにおける光学濃度(OD)を測定することにより決定された。
【0306】
分子の純度及び分子量が、還元剤の存在下及び非存在下において、CE−SDS分析により分析された。Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper lifescience)が、製造元の指示に従って使用された。2μgの試料が分析に使用された。
【0307】
抗体試料の凝集物含有量を、25mMのK
2HPO
4、125mMのNaCl、200mMのL−アルギニン一塩酸塩、0.02%(w/v)のNaN
3(pH6.7、25℃のランニングバッファー)中において、TSKgel G3000 SW XL 分析的サイズ除外カラム(Tosoh)を用いて分析した。
【0308】
【0309】
図5は、CEA TCB(2+1Crossfab−IgG P329G LALA反転型)分子の概略図である。
【0310】
図6及び表6は、CEA TCB(2+1Crossfab−IgG P329G LALA反転型)分子(配列番号22、56、57、及び58)のCE−SDS分析を示している。
【0311】
【0312】
代替的な精製方法では、CEA TCBは、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー(MabSelect SuRe)により、回収及び清澄化した発酵上清から捕捉された。次いでプロテインA溶出液を陽イオン交換クロマトグラフィー(Poros50HS)に供し、その後プロテインA溶出液を分画してSE−HPLC及びキャピラリー電気泳動により分析した。断片を含有する生成物をプールし、結合−溶出モードにおいて室温で疎水性相互作用クロマトグラフィー(Butyl−Sepharose4FF)に供した。次いでその溶出液を分画し、SE−HPLC及びキャピラリー電気泳動により分析した。断片を含有する生成物をプールし、その後流水モードにおいて陰イオン交換クロマトグラフィー(Q−Sepharose FF)に供した。この精製方法を用いて得られた物質のモノマー含有量は>98%であった。
【0313】
実施例4
MCSP発現細胞及びCD3発現細胞に対するMCSP TCBの結合
MCSP TCBの結合を、MCSP発現ヒト悪性メラノーマ細胞株(A375)及びCD3発現不死化Tリンパ細胞株(Jurkat)において試験した。簡潔には、細胞は、回収され、カウントされ、生存率をチェックされて、FACSバッファー(100μl PBS 0.1% BSA)中、1mlあたり2×10
6個の細胞に再懸濁された。100μlの細胞懸濁液(0.2×10
6個の細胞を含有)を、漸増濃度のMCSP TCB(2.6pM〜200nM)と共に丸底96ウェルプレートで30分間4℃でインキュベートし、冷たいPBS0.1%BSAで2回洗浄し、PE−コンジュゲートAffiniPure F(ab’)2断片ヤギ抗ヒトIgG Fcγ断片特異的二次抗体(Jackson Immuno Research Lab PE#109−116−170)と共に更に30分間4℃で再インキュベートし、冷たいPBS0.1%BSAで2回洗浄し、DAPI陰性の生細胞をゲーティングすることによりFACS CantoII(Software FACS Diva)を用いるFACSにより直ちに分析した。GraphPadPrism5を用いて結合曲線を得た(
図7A、A375細胞に対する結合、EC
50=3381pM;
図7B、JurkaT細胞に対する結合)。
【0314】
実施例5
MCSP TCB抗体により誘導されるT細胞死滅
MCSP TCB抗体によって媒介されるT細胞死滅を、異なるレベルでMCSPを発現する腫瘍細胞株のパネル(A375=高MCSP、MV−3=中MSCP、HCT−116=低MCSP、LS180=MCSP陰性)を用いて評価した。簡潔には、標的細胞を、トリプシン/EDTAを用いて収集し、洗浄し、平底96ウェルプレートを用いて25000細胞/ウェルの密度で播いた。細胞を一晩放置して付着させた。末梢血単核(PBMC)を、健常なヒトドナーから得られた濃縮リンパ球調製物(バフィーコート)のHistopaque密度遠心分離により調製した。新鮮血を滅菌PBSで希釈し、Histopaqueグラジエント上に重ねた(Sigma、H8889)。遠心分離(450×g、30分、室温)後、PBMCを含有する界面相上の血漿を棄て、PBMCを新しいfalconチューブに移し、その後50mlのPBSを満たした。混合物を遠心分離(400×g、10分間、室温)し、上清を棄て、PBMCペレットを滅菌PBSを用いて2回洗浄した(遠心分離工程:350×g、10分間)。その結果得られたPBMCの集団を自動カウントし(ViCell)、細胞インキュベーター内において、37℃、5%CO
2で10%のFCS及び1%のL−アラニル−L−グルタミン(Biochrom、K0302)を含有するRPMI1640培地中に、更なる使用まで(24時間以内)保管した。死滅アッセイのために、抗体を示された濃度(1pM〜10nMの範囲で3通り)になるように加えた。PBMCを標的細胞に、最終的なエフェクター対標的(E:T)の比が10:1となるように加えた。標的細胞の死滅を、37℃、5%CO
2での24時間のインキュベーションの後に、アポトーシス/壊死細胞による細胞上清中に放出されたLDHの定量化(LDH検出キット、Roche Applied Science、#11 644 793 001)により評価した。標的細胞の最大溶解(=100%)が、1%Triton X−100と共になされた標的細胞のインキュベーションにより達成された。最小溶解(=0%)は、二重特異性コンストラクトなしでエフェクター細胞と共にコインキュベートした標的細胞を指す。結果は、MCSP TCBが、MCSP陰性細胞株を死滅させずに、強力且つ標的特異的なMCSP陽性標的細胞株の死滅を誘導したことを示すものである(
図8A−D)。GraphPadPrism5を用いて計算した死滅アッセイに関連するEC
50値を表7に示す。
【0315】
【0316】
実施例6
MCSP TCB抗体によって誘導されたMCSP発現腫瘍細胞のT細胞死滅後の、CD8
+及びCD4
+エフェクター細胞上におけるCD25及びCD69のアップレギュレーション
MCSP TCB抗体によって媒介されるMCSP発現MV−3腫瘍細胞のT細胞死滅後の、CD8
+及びCD4
+T細胞の活性化を、T細胞活性化マーカーCD25(後期活性化マーカー)及びCD69(初期活性化マーカー)を認識する抗体を用いたFACS解析により評価した。抗体及び死滅アッセイの条件は、基本的に上述した通り(実施例5)であり、同じ抗体濃度範囲(1pM〜10nM、3通り)、E:T比10:1、及びインキュベーション時間24時間が使用された。
【0317】
インキュベーション後、PBMCを丸底96ウェルプレートに移し、350×gで5分間遠心分離し、0.1%BSAを含有するPBSで2回洗浄した。CD8(FITC抗ヒトCD8、BD#555634)、CD4(PECy7抗ヒトCD4、BD#557852)、CD69(PE抗ヒトCD69、Biolegend#310906)及びCD25(APC抗ヒトCD25、BD#555434)の表面染色を、供給者の指示に従って実行した。細胞を、0.1%BSAを含有する150μl/ウェルのPBSを用いて2回洗浄し、100μl/ウェルの固定化バッファー(BD#554655)を用いて4℃で15分間固定した。遠心分離後、試料を200μl/ウェルのDAPI含有PBS0.1%BSAに再懸濁し、FACS測定のために死細胞を除いた。試料をBD FACS Fortessaで分析した。結果は、MCSP TCBが、死滅後にCD8
+T細胞(
図9A、B)及びCD4
+T細胞(
図9C、D)上において強力且つ標的特異的な活性化マーカー(CD25、CD69)のアップレギュレーションを誘導したことを示している。
【0318】
実施例7
MCSP TCB抗体によって誘導されたMCSP発現腫瘍細胞のT細胞死滅後の、ヒトエフェクター細胞によるサイトカイン分泌
MCSP TCB抗体によって誘導されたMCSP発現MV−3腫瘍細胞のT細胞死滅後のヒトPBMCによるサイトカイン分泌を、死滅アッセイ後に細胞上清のFACS解析により評価した。
【0319】
同じ抗体が用いられ、基本的に上述した通りに(実施例5及び6)死滅アッセイが実行され、10:1のE:T比及び24時間のインキュベーション時間が使用された。
【0320】
インキュベーション時間の最後に、プレートを350×gで5分間遠心分離し、上清を新しい96ウェルプレートに移し、−20℃でその後の分析まで保管した。細胞上清中に分泌されたグランザイムB、TNFα、IFN−γ、IL−2、IL−4及びIL−10を、FACS CantoIIにおいて製造元の指示に従い、BD CBAヒト可溶型タンパク質Flex Setを用いて検出した。以下のキットが使用された:BD CBAヒトグランザイムB BD CBAヒトグランザイムB Flex Set#BD560304;BD CBAヒトTNF Flex Set#BD558273;BD CBAヒトIFN−γ Flex Set#BD558269;BD CBAヒトIL−2 Flex Set#BD558270;BD CBAヒトIL−4 Flex Set#BD558272;BD CBAヒトIL−10 Flex Set#BD558274。
結果は、MCSP TCBが、死滅によりIL−2、IFN−γ、TNFα、グランザイムB及びIL−10(但しIL−4はなし)の分泌を誘導したことを示している(
図10A−F)。
【0321】
まとめると、これらの実施例はMCSP CD3二重特異性抗体が、
・MCSP陽性A375細胞に対する良好な結合を示したこと、
・強力且つ標的特異的なMCSP陽性標的細胞株の死滅を誘導したが、MCSP陰性細胞株の死滅は誘導しなかったこと、
・死滅後、CD8
+及びCD4
+T細胞上に活性化マーカー(CD25、Cd69)の強力且つ標的特異的なアップレギュレーションを誘導したこと、
・死滅時に、IL−2、IFN−γ、TNFα、グランザイムB及びIL−10(Il−4はなし)の分泌を誘導したこと
を示すものである。
【0322】
実施例8
CEA−及びCD3−発現細胞に対するCEA TCBの結合
CEA TCBの結合を、トランスフェクトされたCEA−発現肺腺癌細胞(A549−huCEA)並びにCD3−発現不死化ヒト及びカニクイザルTリンパ細胞株(それぞれJurkat及びHSC−F)上で試験した。非標的TCB(配列番号59、60、61及び62;実施例24参照)をコントロールとして使用した。簡潔には、細胞は、回収され、カウントされ、生存率をチェックされて、FACSバッファー(100μl PBS0.1%BSA)中、1mlあたり2×10
6個の細胞で再懸濁された。100μlの細胞懸濁液(0.2×10
6個の細胞を含有)を、漸増濃度のCEA TCB(61pM−1000nM)を用いて丸底96ウェルプレートで30分間4℃でインキュベートし、冷たいPBS0.1%BSAで2回洗浄し、FITCコンジュゲートAffiniPure F(ab’)2断片ヤギ抗ヒトIgG F(ab’)2断片特異的二次抗体(Jackson Immuno Research Lab FITC#109−096−097)を用いて更に30分間4℃で再インキュベートし、冷たいPBS0.1%BSAで2回洗浄し、PI陰性の生細胞をゲーティングすることによりFACS CantoII又はFortessa(Software FACS Diva)を用いてFACSにより直ちに分析した。GraphPadPrism5を用いて結合曲線を得た(
図11A、A549細胞に対する結合(EC
50 6.6nM);
図11B、JurkaT細胞に対する結合;
図11C、HSC−F細胞に対する結合)。
【0323】
実施例9
CEA TCB抗体によって誘導されるCEA発現腫瘍標的細胞のT細胞媒介性死滅
CEA TCB抗体によって誘導される標的細胞のT細胞媒介性死滅を、HPAFII(高CEA)、BxPC−3(中CEA)及びASPC−1(低CEA)ヒト腫瘍細胞において評価した。HCT−116(CEA陰性腫瘍細胞株)及び非標的TCBをネガティブコントロールとして使用した。ヒトPBMCをエフェクターとして使用し、二重特異性抗体と共になされたインキュベーションの24時間後及び48時間後に死滅を検出した。簡潔には、標的細胞を、トリプシン/EDTAを用いて回収し、洗浄し、平底96ウェルプレートを用いて1ウェルあたり細胞25000個の密度で播いた。細胞を一晩付着させた。末梢血単核(PBMC)を、健常なヒトドナーから得られた濃縮リンパ球調製物(バフィーコート)のHistopaque密度遠心分離により調製した。新鮮血を滅菌PBSで希釈し、Histopaqueグラジエント上に重ねた(Sigma、H8889)。遠心分離(450×g、30分、室温)後、PBMCを含有する界面相上の血漿を棄て、PBMCを新しいfalconチューブに移し、その後50mlのPBSを満たした。混合物を遠心分離(400×g、10分間、室温)し、上清を棄て、PBMCペレットを滅菌PBSを用いて2回洗浄した(遠心分離工程:350×g、10分間)。その結果得られたPBMCの集団を自動カウントし(ViCell)、細胞インキュベーター内において(37℃、5%CO
2)10%のFCS及び1%のL−アラニル−L−グルタミン(Biochrom、K0302)を含有するRPMI1640培地中に、更なる使用まで(24時間以内)貯蔵した。死滅アッセイのために、抗体を指定の濃度になるように加えた(6pM〜100nMの範囲で3重に)。PBMCを標的細胞に、最終的なE:Tの比が10:1となるように加えた。標的細胞の死滅を、インキュベーションの24時間後及び48時間後に、細胞上清中に放出されたLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)の、アポトーシス/壊死細胞(LDH検出キット、Roche Applied Science,#11 644 793 001)による定量化により評価した。標的細胞の最大溶解(=100%)が、1%Triton X−100を用いた標的細胞のインキュベーションにより達成された。最小溶解(=0%)は、二重特異性抗体なしでエフェクター細胞を用いてコインキュベートされた標的細胞を指す。結果は、CEA TCBが、強力且つ標的特異的なCEA陽性標的細胞の死滅を誘導したことを示すものである(
図12A−H)。GraphPadPrism5を用いて計算した死滅アッセイに関連するEC
50値を表8に示す。
【0324】
【0325】
実施例10
CEA発現腫瘍標的細胞のCEA TCB媒介性死滅の5日後の、T細胞増殖及び活性化
HPAFII(高CEA)、BxPC−3(中CEA)及びASPC−1(低CEA)細胞で評価されたCEA発現腫瘍標的細胞のCEA TCB−媒介性死滅の5日後に、T細胞増殖及び活性化を検出した。HCT−116(CEA陰性腫瘍細胞株)及び非標的TCBをネガティブコントロールとして使用した。増殖アッセイの実験条件は、実施例9において記載したものと類似であったが、標的細胞は、96平底プレートの1ウェルあたり10000個のみ撒いた。T細胞増殖を評価するために、新しく単離したPBMCをCFSE(Sigma#21888)を用いて標識した。簡潔には、CFSE貯蔵液を希釈して100μMの希釈標準溶液を得た。予め温めた90mlのPBSに90×10
6個のPBMC細胞を再懸濁し、90μlのCFSE希釈標準溶液を補充した。直ちに細胞を混合し、37℃で15分間インキュベートした。予め温めた10mlのFCSを細胞に加えて反応を止めた。細胞を400gで10分間遠心分離し、50mlの培養液に再懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を温かい培養液で1回洗浄し、カウントし、培養液中に再懸濁し、標的細胞に加え、死滅アッセイと、続く10:1のE:Tでの細胞増殖及び活性化の測定とを行った。増殖は、CD4及びCD8陽性T細胞上において、CFSE色素希釈の定量化により死滅の5日後に評価した。CD25の発現を、抗ヒトCD25抗体を用いて同じT細胞サブセット上で評価した。簡潔には、遠心分離(400×gで4分間)後、細胞を再懸濁し、FACSバッファーで洗浄し、25μlの希釈したCD4/CD8/CD25抗体混合物と共にて4℃で30分間インキュベートした(APC/Cy7抗ヒトCD4#317418、APC抗ヒトCD8#301014、PE/Cy7抗ヒトCD25#302612)。次いで細胞を3回洗浄して未結合の抗体を除去し、最後にヨウ化プロピジウム(PI)を含有する200μlのFACSバッファーに再懸濁して死細胞を除き、FACS測定値を行った。BD FACS CantoIIを用いて蛍光性を測定した。結果は、CEA TCBが強力且つ標的特異的なCD8
+及びCD4
+T細胞の増殖(
図13A−D)と、CD25活性化マーカーのアップレギュレーションにより検出されるそれらの活性化(
図13E−H)とを誘導したことを示すものであった。
【0326】
実施例11
CEA TCBによって誘導されたCEA発現腫瘍細胞のT細胞媒介性の死滅後の、ヒトエフェクター細胞によるサイトカイン分泌
CEA TCBによって誘導されたCEA発現MKN45腫瘍細胞のT細胞媒介性の死滅後のヒトPBMCによるサイトカイン分泌を、死滅の48時間後に細胞上清のFACS解析(CBAキット)により評価した。
【0327】
実験条件は、実施例9に記載したものと同一であった。インキュベーション時間の最後に、プレートを350×gで5分間遠心分離し、上清を新しい96ウェルプレートに移し、−20℃でその後の分析まで保管した。細胞上清中に分泌された(A)IFN−γ,(B)TNFα,(C)グランザイムB,(D)IL−2,(E)IL−6及び(F)IL−10を、FACS CantoIIにおいて製造元の指示に従い、BD CBAヒト可溶型タンパク質Flex Setを用いて検出した。以下のキットが使用された:BD CBAヒトIL−2 BD Flex Set#BD558270;BD CBAヒトグランザイムB BD Flex Set#BD560304;BD CBAヒトTNF Flex Set#BD558273;BD CBAヒトIFN−γ Flex Set#BD558269;BD CBAヒトIL−4 Flex Set #BD558272;BD CBAヒトIL−10 Flex Set#BD558274。
【0328】
結果は、CEA TCB媒介性の死滅がIFN−γ TNFα、グランザイムB、IL−2、IL−6及びIL−10(
図14A−F)の分泌を誘導したことを示すものである(非標的TCBコントロールは死滅を媒介しなかった)。
【0329】
実施例12
漸増濃度のshed CEA(sCEA)の存在下における標的細胞のT細胞媒介性死滅
漸増濃度のshed CEA(sCEA2.5ng/ml−5μg/ml)の存在下においてCEA TCB抗体によって誘導されるCEA発現腫瘍標的細胞(LS180)のT細胞媒介性死滅を評価した。ヒトPBMCをエフェクター細胞として使用し、二重特異性抗体及びsCEAと共になされたインキュベーションの24時間後及び48時間後に死滅を検出した。簡潔には、標的細胞を、トリプシン/EDTAを用いて回収し、洗浄し、平底96ウェルプレートを用いて1ウェルあたり細胞25000個の密度で播いた。細胞を一晩付着させた。末梢血単核(PBMC)を、健常なヒトドナーから得られた濃縮リンパ球調製物(バフィーコート)のHistopaque密度遠心分離により調製した。新鮮血を滅菌PBSで希釈し、Histopaqueグラジエント上に重ねた(Sigma、H8889)。遠心分離(450×g、30分間、室温)後、PBMC含有界面相上の血漿を棄て、PBMCを新しいFalconチューブに移した後、50mlのPBSを満たした。混合物を遠心分離(400×g、10分間、室温)し、上清を棄て、PBMCペレットを滅菌PBSを用いて2回洗浄した(遠心分離工程:350×g、10分間)。その結果得られたPBMCの集団を自動カウントし(ViCell)、細胞インキュベーター内において(37℃、5% CO
2)10%のFCS及び1%のL−アラニル−L−グルタミン(Biochrom、K0302)を含有するRPMI1640培地中に、更なる使用まで(24時間以内)貯蔵した。死滅アッセイのために、CEA TCB抗体を1nMの固定濃度で使用し、sCEAを2.5ng〜5μg/mlの濃度範囲で実験にスパイクした。PBMCを標的細胞に、最終的なE:Tの比が10:1となるように加えた。標的細胞の死滅を、インキュベーションの24時間後及び48時間後に、アポトーシス/壊死細胞により細胞上清中に放出されたLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)の定量化(LDH検出キット、Roche Applied Science、#11 644 793 001)により評価した。標的細胞の最大溶解(=100%)が、1%Triton X−100と共になされた標的細胞のインキュベーションにより達成された。最小溶解(=0%)は、二重特異性抗体なしでエフェクター細胞を用いてコインキュベートされた標的細胞を指す。sCEAの非存在下においてCEA TCBによって媒介された死滅を100%に設定し、漸増濃度のsCEAの存在下において得られた死滅をそれに合わせて正規化した。結果は、sCEAがCEA発現標的細胞のCEA TCB媒介性死滅に小さな影響しか与えなかったことを示すものである(
図15A、B)。0.2μg/mlまでのsCEAではT細胞死滅に対する影響は検出されなかった。0.2μg/mlを上回るsCEA濃度も、全体の死滅に小さな影響しか持たなかった(10〜50%の低減)。
【0330】
実施例13
ヒト及びカニクイザルのPBMCをエフェクター細胞として用いた標的細胞のT細胞媒介性死滅
CEA TCB抗体とエフェクター細胞としてのヒトPBMC又はカニクイザルPBMCと共になされたインキュベーションの21時間後及び40時間後に評価されたヒトCEAを過剰発現するA549(肺腺癌)細胞(A549−hCEA)のT細胞媒介性死滅を評価した。簡潔には、標的細胞を、トリプシン/EDTAを用いて回収し、洗浄し、平底96ウェルプレートを用いて1ウェルあたり細胞25000個の密度で播いた。細胞を数時間付着させた。末梢血単核(PBMC)を、健常なヒトドナー又は健常なカニクイザルから得られた濃縮リンパ球調製物(バフィーコート)のHistopaque密度遠心分離により調製した。以降は、90%のHistopaque−PBS密度勾配が使用された。新鮮血を滅菌PBSで希釈し、Histopaqueグラジエント上に重ねた(Sigma、H8889)。遠心分離(ヒトPBMCの場合は450×g、30分間、室温で、カニクイザルPBMCの場合は520×g、30分間、室温で)後、PBMC含有界面相上の血漿を棄て、PBMCを新しいFalconチューブに移した後、50mlのPBSを満たした。混合物を遠心分離(400×g、10分間、室温)し、上清を棄て、PBMCペレットを滅菌PBSを用いて2回洗浄した(遠心分離工程:350×g、10分間)。カニクイザルPBMCの調製のために、追加の低速遠心分離工程を150×gで15分間実行した。その結果得られたPBMCの集団を、自動カウントし(ViCell)し、細胞インキュベーター内において(37℃、5%CO
2)10% FCS及び1%L−アラニル−L−グルタミン(Biochrom、K0302)を含有するRPMI1640培地中において更なる使用まで(4時間以内)保存した。死滅アッセイのために、抗体を指定の濃度になるように6pM〜100nMの範囲で3重に)。PBMCを標的細胞に、最終的なE:T比が10:1となるようにえた。標的細胞の死滅を、インキュベーションの21時間後及び40時間後に、細胞上清中に放出されたLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)の、アポトーシス/壊死細胞(LDH検出キット、Roche Applied Science、#11 644 793 001)による定量化により評価した。標的細胞の最大溶解(=100%)が、1%Triton X−100を用いた標的細胞のインキュベーションにより達成された。最小溶解(= 0%)は、二重特異性抗体なしでエフェクター細胞を用いてコインキュベートされた標的細胞を指す。結果は、CEA TCBが、ヒト(
図16A、C)及びカニクイザル(
図16B、D)エフェクター細胞(PBMC)の両方を使用して、CEA陽性標的細胞の標的特異的な死滅を媒介したことを示すものである。GraphPadPrism5を用いて算出された、40時間の死滅に関するEC
50値は、ヒトPBMCの場合は306pMであり、カニクイザルPBMCの場合は102pMである。
【0331】
実施例14
CEA TCB抗体によって誘導されるCEA−発現ヒト結腸直腸がん細胞株のT細胞媒介性死滅
ヒトPBMCと、0.8nM、4nM及び20nMのCEA TCB抗体とを用いたインキュベーションの48時間後の、CEA発現ヒト結腸直腸がん細胞株のT細胞媒介性死滅を評価した。簡潔には、PBMCを、単一の健常ドナーから得た白血球コーンから単離した。細胞を、PBS(1:10)で希釈し、50mLのFalconチューブ内でLymphoprep上に重ねた。遠心分離(1800rpmで25分間)後、PBMC層を接触面から取り除き、PBSで4回洗浄した。PBMCをカウントし、1mLあたり40×10
6個の細胞に制御された速度の凍結条件下でFCS中において10% DMSOで凍結させ、更なる使用まで液体窒素中に保管した。T細胞死滅アッセイのために、凍結したストックから腫瘍細胞を直接96ウェルプレートに播いた。細胞を急速に温め、直ぐに予め温めた培地中に移し、遠心分離し、完全培地(DMEM,Iscoves又はRPMI−1640、すべて10%FCS及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンを補充)中に再懸濁し、1ウェルあたり2.5×10
4個の細胞という密度で播いた。次いでプレートを、加湿した10%CO
2インキュベーター内において37℃でインキュベートし、培地を翌日1%グルタミン及び50μL CEA TCBを含む100μLのRPMI 2%FCS(6.4〜20000pMの最終濃度、1:5の滴定工程、各条件につき二つのウェル)で置き換えた。アッセイには新しく解凍したPBMCを使用し(アッセイ開始前2時間以内に凍結したバイアルから解凍)、各ウェルに50μL(3×10
5)を加え、エフェクター:標的(E:T)比を10:1にした。トリトンX100(4%を50μL)を150μLの標的細胞に加え、最大放出値を得た。プレートを37℃で48時間インキュベートし、死滅活性を、製造元の指示に従いラクトースデヒドロゲナーゼ細胞傷害性検出キット(Roche)を用いて検出した。特異的細胞溶解割合を、[試料放出−自然放出]/[最大放出−自然放出]×100で計算した。
図17A〜Cは、CEA発現(QIFIKITを用いて定量化した受容体コピー数、以下参照)と31の結腸直腸がん細胞株(x軸上に列挙)の%死滅との相関を示している。
図17Dは、CEA発現とCEA TCB20nMにおける%特異的溶解との相関(スピアマンの相関=0.7289、p<0.0001、n=31)を示しており、大きなCEA受容体コピー数(>50000)を呈する腫瘍細胞がCEA TCBにより効率的に溶解する一方、小さなCEA受容体コピー数(<10000)を呈する細胞のクラスタが同じ実験条件下でCEA TCBにより溶解しないことが示されている。
図17Eは、CEA発現とCEA TCBのEC
50との相関を示している。相関は統計的には有意でないが(スピアマンの相関=−0.3994、p=0.1006、R
2=0.1358)、グラフは、大きなCEA受容体コピー数を発現する腫瘍細胞株ほど良好なCEA TCB効力(即ち、EC
50値が低い)を有するというパターンを明らかに示している。
【0332】
がん細胞株におけるCEA表面発現の分析のために、Qifikit(DakoCytomation、Glostrup、Denmark)を使用して蛍光性シグナルを較正し、細胞毎の結合部位の数を決定した。細胞を、マウス抗ヒトCEACAM5モノクローナル抗体(5×105細胞について0.5μg、クローン:CI−P83−1、sc−23928、Santa Cruz)と共に氷上で30分間インキュベートし、PBS1X−BSA0.1%で2回洗浄した後、Qifikitで提供されたポリクローナルフルオレセインイソチオシアネート−コンジュゲートヤギ抗マウス抗体と共に45分間インキュベートした。死細胞を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)染色を用いて分析から除いた。試料をCyAn
TMADP Analyzer(Beckman Coulter)で分析した。すべての平均蛍光強度(MFI)は、Summit4.3ソフトウェアを用いたデータ解析後に得られた。これらMFIは、較正曲線(Qifikitキャリブレーション用ビーズ)から得られた等式を用いて細胞株上の抗体結合部位の相対数(結果的CEAコピー数と呼ぶ)を決定するために使用された。
【0333】
T細胞死滅アッセイ及びCEA表面発現定量化に使用される結腸直腸がんの細胞株は、クリオバイアル(cryovial)から播種した。凍結ストックを維持するために使用される方法は、Brachtら(Bracht et al.(2010), Br J Cancer 103, 340-346)に記載されていた。
【0334】
実施例15
ヒトPBMC(E:T比5:1)を共移植したLS174T−fluc2ヒト結腸癌におけるCEA TCBのインビボでの抗腫瘍効果
NOG(NOD/Shi−scid/IL−2Rγnull)マウス(n=12)に対し、予めヒトPBMCと混合した、PBS中総体積100μl、E:T比5:1の、1x10
6個のLS174T−fluc2細胞を皮下注射した。LS174T−fluc2細胞は、ルシフェラーゼを発現するように改変されており、バイオルミネセンス(BLI)により非侵襲的且つ高度に感受性に腫瘍進行をモニタすることができた。早期及び遅延治療効果を評価するために、マウスは、腫瘍細胞/PBMSの皮下共移植後1日目(早期治療)又は7日目(遅延治療)を開始日として、2週間に1回0.5又は2.5mg/kgのCEA TCBを静脈内注入された。コントロールとして、1グループのマウスは、2週間に1回CEA TCBと同じフォーマットを有する2.5mg/kgのコントロールTCBを静脈内注入され(この場合、LS174T−fluc2細胞はMCSPを発現しないため、MCSP TCBは非標的コントロールの役割を果たした)、もう1つのコントロールグループは1日目を開始日としてPBS(ビヒクル)のみを投与された。腫瘍体積はデジタルキャリパーにより週に一度測定した。更に、マウスにはD−ルシフェリンを週に一度腹腔内注入し、生腫瘍細胞のバイオルミネセンス光の発光をIVIS Spectrum(Perkin Elmer)を用いて測定した。治療は腫瘍細胞接種の19日後まで行われ、この日に試験を終了した。実験の結果を
図18A〜Dに示す。結果は、異なる試験グループ((A、B)早期治療、(C、D)遅延治療)における、キャリパーにより(A及びC)、及びバイオルミネセンスにより(全光束、B及びD)測定した12匹のマウスの腫瘍体積に基づく平均及びSEMを示している。
【0335】
実施例16
ヒトPBMC(E:T比1:1)を共移植したLS174T−fluc2ヒト結腸癌におけるCEA TCBのインビボでの抗腫瘍効果
NOG(NOD/Shi−scid/IL−2Rγnull)マウス(n=10)に対し、ヒトPBMCと予め混合した、PBS中総体積100μl、E:T比1:1の、1×10
6個のLS174T−fluc2細胞を皮下注射した(実施例15参照)。早期及び遅延治療効果を評価するために、マウスは、腫瘍細胞インキュベーション後1日目(早期治療)又は7日目(遅延治療)を開始日として、2週間に1回2.5mg/kgのCEA TCBを静脈内注入された。コントロールとして、1グループのマウスは2週間に1回2.5mg/kgのMCSP TCBを静脈内注入され(実施例15参照)、もう一つのコントロールグループは1日目からPBS(ビヒクル)のみを投与された。腫瘍体積はデジタルキャリパーにより週に一度測定した。更に、マウスにはD−ルシフェリンを週に一度腹腔内注入し、生腫瘍細胞のバイオルミネセンス光の発光をIVIS Spectrum(Perkin Elmer)を用いて測定した。治療は腫瘍細胞接種の23日後まで行われ、この日に試験を終了した。この実験の結果を
図19に示す。結果は、異なる試験群(n=10匹)における、キャリパー(A)及びバイオルミネセンス(B)により測定された腫瘍体積の平均及びSEMを示している。
【0336】
実施例17
免疫担当性huCD3ε/huCEA トランスジェニックマウスのPanco2−huCEA同所性腫瘍モデルにおけるマウス化CEA TCBのインビボでの有効性
huCD3ε/huCEAトランスジェニックマウス(n=10)に対し、PBS中総体積10μlの、2×10
5個のPanco2−huCEA細胞を膵臓内注入した。マウス細胞はCEAを発現しないので、マウスの膵臓癌細胞株Panco2を、CEA TCBの標的抗原としてヒトCEAを過剰発現するように改変した。マウスには、1週間に2度、0.5mg/kgのマウス化CEA TCBを、又はコントロールグループ(ビヒクル)としてPBSを静脈内注入し、生存率をモニタした。動物は、臨床症状及び有害作用の検出について毎日コントロールされた。動物の終了基準は、視認できる病気、即ち汚い毛皮、曲がった背中、呼吸不全、運動障害であった。全生存としての結果を
図20に示す。結果は、各時点の生存動物の割合を示している。対応スチューデントt検定を用いて(p=0.078)、治療群の有意性をPBSコントロールグループと比較した。
【0337】
実施例18
表面プラズモン共鳴(SPR)による、CEA及びCD3に対するCEA TCBの親和性
表面プラズモン共鳴(SPR)実験をBiacore T100において、ランニングバッファーとしてHBS−EP(0.01MのHEPES(pH7.4)、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%の界面活性剤P20、Biacore,Freiburg/Germany)を用いて25℃で行った。
【0338】
親和性測定のために、固定化された抗ヒトFab(GE Healthcare#28−9583−25)を用いてCEA TCBをCM5センサーチップ表面に捕捉した。捕捉IgGは、標準のアミン結合キット(Biacore、Freiburg/Germany)を用いたpH5.0での約10000共鳴単位(RU)の直接的固定化により、センサーチップの表面に結合した。
【0339】
ヒトCD3ε stalk−Fc(ノブ)−Avi/CD3δ−stalk−Fc(ホール)(それぞれ、配列番号120及び121)への相互作用を分析するために、50nMのCEA TCBを10μl/分で30秒間捕捉した。CD3ε/CD3δは、濃度0.68〜500nM、流速30μl/分で、360秒間にわたりフローセルに通した。解離を360秒間モニタした。
【0340】
CEA TCBと組換え腫瘍標的抗原ヒトNABA−avi−his(C末端avi 6hisタグを有するヒトCEACAM1のN、A1及びA2ドメインによって取り囲まれたヒトCEAのB3ドメイン(CEACAM5)を含有;配列番号119参照)との相互作用のK
D値を、10μl/分で40秒間TCB分子を捕捉することにより決定した。0.68〜500nMの濃度範囲の抗原を、流速30μl/分でフローセルに240秒間流した。解離を240秒間モニタした。
【0341】
バルク屈折率の差異は、基準フローセルで取得される応答差し引くことにより修正された。ここで、抗原は、固定化された抗ヒトFab抗体を有する表面に流したが、その上には、CEAではなく、HBS−EPが注入されていた。
【0342】
運動定数を、Biacore T200 Evaluation Software(vAA、Biacore AB、Uppsala/Sweden)を用いて導出し、数値積分法により、1:1ラングミュア結合の反応速度式に当てはめた。相互作用の半減期(t
1/2)を、式:t
1/2=ln2/k
offを用いて計算した。
【0343】
CEA TCBは、nM−範囲で腫瘍標的及びCD3ε/CD3δに結合し、K
D値はヒトNABAについては62nM、ヒトCD3ε/CD3δについては75.3nMであった。NABAに対する一価の結合の半減期は5.3分であり、CD3ε/CD3δに対する結合の半減期は5.7分である。動態値を表9にまとめる。
【0344】
【0345】
実施例19
表面プラズモン共鳴(SPR)によるMCSP及びCD3に対するMSCP TCBの親和性
表面プラズモン共鳴(SPR)実験をBiacore T100において、ランニングバッファーとしてHBS−EP(0.01MのHEPES(pH7.4)、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%の界面活性剤P20、Biacore、Freiburg/Germany)を用いて25℃で行った。
【0346】
親和性測定のために、固定化された抗ヒトFab(GE Healthcare#28−9583−25)を用いてMCSP TCBをCM5センサーチップ表面に捕捉した。捕捉IgGは、標準のアミン結合キット(Biacore、Freiburg/Germany)を用いたpH5.0における約7500共鳴単位(RU)の直接的固定化により、センサーチップの表面に結合した。MSCP TCBは、30nMを10μl/分で60秒間捕捉した。ヒト及びカニクイザルMCSP D3(それぞれ、配列番号118及び117)は、濃度0.024〜50nM、流速30μl/分で、90秒間にわたりフローセルに通した。ヒト及びカニクイザルのCD3ε stalk−Fc(knob)−Avi/CD3δ−stalk−Fc(孔)の濃度範囲は1.17〜600nMであった。マウスMCSP D3(配列番号122)との相互作用は弱いと思われたため、この抗原の濃度範囲を3.9〜500nMに選択した。すべての相互作用の解離を120秒間モニタした。バルク屈折率の差異を、基準フローセルで得られる応答を差し引くことにより修正した。ここで、抗原は、固定化された抗ヒトFab抗体を有する表面に流したが、その上には、MCSP TCBではなく、HBS−EPが注入された。
【0347】
速度定数を、Biacore T200 Evaluation Software(vAA、Biacore AB、Uppsala/Sweden)を用いて導出し、数値積分法により、1:1ラングミュア結合の反応速度式に当てはめた。MCSP TCBのマウスMCSP D3との相互作用を、定常状態において決定した。相互作用の半減期(t
1/2)を、式:t
1/2=ln2/k
offを用いて計算した。
【0348】
MCSP TCBは、pM範囲の腫瘍標的に、ヒトについては0.15nM、カニクイザル抗原については0.12nMのK
D値で結合した。組換えCD3ε/CD3δには、78nM(ヒト)及び104nM(カニクイザル)のK
D値でMCSP TCBが結合する。一価の結合の半減期は、腫瘍標的については最大260分、及びCD3e/CD3dについては2.9分である。親和性成熟すると、MCSP抗体は組換えマウスMCSP D3にいくらか結合する。この相互作用のK
D値はmM範囲(1.6mM)内である。動態値を表10にまとめる。
【0349】
【0350】
実施例20
CEA TCBの熱的安定性
CEA TCBの熱的安定性を、Dynamic Light Scattering(DLS)によりモニタした。タンパク質濃度0.5 mg/mlの30μgの濾過済みタンパク質試料を二つ、Dynaproプレートリーダー(Wyatt Technology Corporation;USA)に適用した。温度勾配は、0.05℃/分で25から75℃であり、半径及び総散乱強度が収集された。
【0351】
結果を
図21に示す。CEA TCBの凝集温度は55℃で測定された。
【0352】
実施例21
MCSP TCBの熱的安定性
MCSP TCBの熱的安定性を、Dynamic Light Scattering(DLS)によりモニタした。タンパク質濃度0.5 mg/mlの30μgの濾過済みタンパク質試料を二つ、Dynaproプレートリーダー(Wyatt Technology Corporation;USA)に適用した。温度勾配は、0.05℃/分で25から75℃であり、半径及び総散乱強度が収集された。
【0353】
結果を
図22に示す。MCSP TCBの凝集温度は55℃で測定された。
【0354】
実施例22
MCSP TCB及びMCSP1+1CrossMab抗体によって誘導されるMCSP発現腫瘍標的細胞のT細胞媒介性死滅
MCSP TCB及びMCSP1+1CrossMab TCB(MCSP TCBと同じCD3及びMCSP結合配列を有し、分子フォーマットが
図1Dに示されるT細胞活性化二重特異性抗体)抗体によって誘導される標的細胞のT細胞媒介性死滅を、A375(高MCSP)、MV−3(中MCSP)及びHCT−116(低MCSP)腫瘍標的細胞において評価した。LS180(MCSP陰性腫瘍細胞株)をネガティブコントロールとして使用した。腫瘍細胞の死滅を、抗体及びエフェクター細胞(ヒトPBMC)を用いた標的細胞のインキュベーションの24時間後及び48時間後に評価した。簡潔には、標的細胞を、トリプシン/EDTAを用いて回収し、洗浄し、平底96ウェルプレートを用いて1ウェルあたり細胞25000個の密度で播いた。細胞を一晩付着させた。末梢血単核(PBMC)を、健常なヒトドナーから得られた濃縮リンパ球調製物(バフィーコート)のHistopaque密度遠心分離により調製した。新鮮血を滅菌PBSで希釈し、Histopaqueグラジエント上に重ねた(Sigma、H8889)。遠心分離(450×g、30分間、室温)後、PBMC含有界面相上の血漿を棄て、PBMCを新しいFalconチューブに移し、その後50mlのPBSで満たした。混合物を遠心分離(400×g、10分間、室温)し、上清を棄て、PBMCペレットを滅菌PBSを用いて2回洗浄した(遠心分離工程:350×g、10分間)。その結果得られたPBMCの集団を自動カウントし(ViCell)、細胞インキュベーター内において(37℃、5%CO
2)10%のFCS及び1%のL−アラニル−L−グルタミン(Biochrom、K0302)を含有するRPMI1640培地中に、更なる使用まで(24時間以内)貯蔵した。死滅アッセイのために、抗体を指定の濃度になるように加えた(0.01pM〜10nMの範囲で3重に)。PBMCを標的細胞に、最終的なE:Tの比が10:1となるように加えた。標的細胞の死滅を、インキュベーションの24時間後及び48時間後に、細胞上清中に放出されたLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)の、アポトーシス/壊死細胞(LDH検出キット、Roche Applied Science、#11 644 793 001)による定量化により評価した。標的細胞の最大溶解(=100%)が、1%Triton X−100を用いた標的細胞のインキュベーションにより達成された。最小溶解(=0%)は、二重特異性抗体なしでエフェクター細胞を用いてコインキュベートされた標的細胞を指す。結果は、MCSP TCBが両時点ですべての腫瘍標的細胞に対してより強力なMCSP陽性標的細胞の死滅を誘導することから、MCSP TCBの能力がMCSP1+1CrossMab TCBより高いことを示している(
図23A−H)。GraphPadPrism5を用いて計算された死滅アッセイに関するEC
50値を表11に示す。
【0355】
【0356】
実施例23
MCSP TCB抗体及びMCSP1+1CrossMab抗体によって誘導されたMCSP−発現腫瘍細胞のT細胞媒介性死滅後の、CD8
+及びCD4
+エフェクター細胞上におけるCD25及びCD69のアップレギュレーション
MCSP TCB及びMCSP1+1CrossMab抗体によって媒介されるMCSP−発現腫瘍細胞(A375及びMV−3)のT細胞死滅後の、CD8
+及びCD4
+T細胞の活性化を、T細胞活性化マーカーCD25(後期活性化マーカー)及びCD69(初期活性化マーカー)を認識する抗体を用いたFACS解析により評価した。抗体及び死滅アッセイの条件は、基本的に上述した通り(実施例22)であり、同じ抗体濃度範囲(0.01pM〜10nM、3重)、E:T比10:1、及び48時間のインキュベーション時間)を用いた。
【0357】
インキュベーション後、PBMCを丸底96ウェルプレートに移し、350×gで5分間遠心分離し、0.1%BSAを含有するPBSで2回洗浄した。CD8(FITC抗ヒトCD8、BD#555634)、CD4(PECy7抗ヒトCD4、BD#557852)、CD69(PE抗ヒトCD69、Biolegend#310906)及びCD25(APC抗ヒトCD25、BD #555434)の表面染色を、供給者の指示に従って実行した。細胞を、0.1%BSAを含有する150μl/ウェルのPBSを用いて2回洗浄し、100μl/ウェルの固定バッファー(BD#554655)を用いて4℃で15分間固定した。遠心分離後、試料を200μl/ウェルのDAPI含有PBS0.1%BSAに再懸濁し、FACS測定のために死細胞を除いた。試料をBD FACS Fortessaで分析した。結果は、MCSP TCBが、死滅後にCD8
+T細胞(
図24A、B(A375細胞)及びE、F(MV−3細胞))上、並びにCD4
+T細胞(
図24C、D(A375細胞)及びG、H(MV−3細胞))上において強力且つ標的特異的な活性化マーカー(CD25、CD69)のアップレギュレーションを誘導したことを示している。死滅の結果に関して、T細胞の活性化は、MCSP TCBの方がMCSP1+1CrossMabより強力であった。
【0358】
実施例24
非結合抗体としてDP47 GSを、抗CD3抗体としてヒト化CH2527を含有する、DP47 GS TCB(2+1Crossfab−IgG P329G LALA反転型=「非標的TCB」)の調製
上記実験では「非標的TCB」をコントロールとして使用した。二重特異性抗体は、CD3εに結合するが、他のいずれの抗原にも結合しないので、T細胞をいずれの標的細胞にも架橋させることができない(且つその後死滅をまったく誘導することができない)。したがって、二重特異性抗体は、任意の非特異的T細胞活性化をモニタするためのアッセイにおいてネガティブコントロールとして使用された。
【0359】
重鎖及び軽鎖DNA配列の可変領域を、それぞれのレシピエント哺乳動物発現ベクター中に予め挿入された定常重鎖又は定常軽鎖とインフレームでサブクローニングした。抗体発現は、MPSVプロモーターによりドライブされ、CDSの3’末端に合成ポリAシグナル配列を有する。加えて、各ベクターはEBV OriP配列を含有する。
【0360】
分子は、ポリエチレンイミン(PEI)を用いて哺乳動物発現ベクターによりHEK293−EBNA細胞をコトランスフェクトすることにより生成された。細胞は、1:2:1:1の比で、対応する発現ベクター(「ベクター重鎖Fc(ホール)」「ベクター軽鎖」:「ベクター軽鎖Crossfab」:「ベクター重鎖Fc(ノブ)−FabCrossfab」)を用いてトランスフェクトされた。
【0361】
トランスフェクションのために、HEK293 EBNA細胞を、CD CHO培地において血清を含まない懸濁液で培養した。500mlの振盪フラスコ内での生成のために、4億個のHEK293 EBNA細胞をトランスフェクションの24時間前に播種した。トランスフェクションのために、細胞を210xgで5分間遠心分離した。上清は、予め温めた20mlのCD CHO培地により置き換える。発現ベクターを、DNAの量が最終的に200μgになるまで20mlのCD CHO培地中で混合した。540μlのPEI溶液を加えた後、混合物を15秒間ボルテックスし、その後室温で10分間インキュベートした。その後細胞を、DNA/PEI溶液と混合し、500mlの振盪フラスコに移し、5%CO
2雰囲気のインキュベーター内において37℃で3時間インキュベートした。インキュベート時間の後、160mlのF17培地を加え、細胞を24時間培養した。トランスフェクションの一日後、1mMのバルプロ酸及び7%のFeed1(Lonza)を加えた。7日後、210×gで15分間の遠心分離によって培養物の上清を収集し、溶液を滅菌濾過し(0.22μmのフィルター)、最終濃度0.01%w/vのアジ化ナトリウムを加えて4℃に維持した。
【0362】
分泌されたタンパク質を、プロテインAを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより細胞培養物の上清から精製した。上清を、40mlの20mMリン酸ナトリウム、20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)で平衡化したHiTrap Protein A HPカラム(CV=5mL、GE Healthcare)に充填した。結合していないタンパク質を、少なくとも10カラム容量の20mMリン酸ナトリウム、20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)で洗浄することにより除去した。標的タンパク質を、20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH7.5)から20mMクエン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム(pH 2.5)の20カラム容量にわたる勾配中に溶出した。タンパク質溶液を、1/10の0.5Mリン酸ナトリウム、リン酸エステル、リン酸塩又はリン酸エステル(pH 8)を加えることにより中和させた。標的タンパク質を、濃縮し、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム溶液(pH6.0)で平衡化したHiLoad Superdex200カラム(GE Healthcare)に充填する前に濾過した。
【0363】
精製したタンパク質試料のタンパク質濃度が、アミノ酸配列に基づいて計算されたモル吸光係数を用いて280nmにおける光学濃度(OD)を測定することにより決定された。
【0364】
分子の純度及び分子量が、還元剤の存在下及び非存在下においてCE−SDS分析により分析された。Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper lifescience)が、製造元の指示に従って使用された。2μgの試料が分析に使用された。
抗体試料の凝集物含有量を、25mMのK
2HPO
4、125mMのNaCl、200mMのL−アルギニン一塩酸塩、0.02%(w/v)NaN
3(pH6.7、25℃のランニングバッファー)中において、TSKgel G3000 SW XL 分析的サイズ除外カラム(Tosoh)を用いて分析した。
【0365】
【0366】
図25及び表13は、非結合抗体としてDP47 GSを、及び抗CD3抗体としてヒト化CH2527を含有するDP47 GS TCB(2+1 Crossfab−IgG P329G LALA 反転型)のCE−SDS分析を示している。(配列番号59、60、61及び62)。
【0367】
【0368】
前述の発明は、理解を明確にするために例示及び実施例によってある程度詳細に説明されているが、説明及び実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。すべての特許及び本明細書に引用される科学文献の開示内容は、参照によりその全体が本明細書に包含される。