特許第6913166号(P6913166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6913166スクリュ形状推定装置、スクリュ形状推定方法、スクリュ形状推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913166
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】スクリュ形状推定装置、スクリュ形状推定方法、スクリュ形状推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20210727BHJP
   B29C 45/60 20060101ALI20210727BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20210727BHJP
   B29C 48/40 20190101ALI20210727BHJP
【FI】
   B29C45/76
   B29C45/60
   B29B7/48
   B29C48/40
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-524609(P2019-524609)
(86)(22)【出願日】2017年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2017021871
(87)【国際公開番号】WO2018229881
(87)【国際公開日】20181220
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】富山 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】福澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】竹内 貴季
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−159390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
B29B 7/48
B29C 45/60
B29C 48/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂物性を含む入力情報を取得すると共に、混練後の樹脂または混練装置に関する物理量の要求値を出力情報として取得する情報取得部と、
前記入力情報、前記物理量、および複数のスクリュ形状の相関関係を含む知識情報を記憶する記憶部と、
前記入力情報および前記知識情報に基づいて、前記要求値を満足するスクリュ形状を推定する形状推定部と
を備え
前記知識情報には、樹脂物性を含むプロセス種別、押出量を含む運転条件、およびスクリュ形状を含む構成データを解析条件とし、該解析条件に基づく数値解析により得られる解析結果として生成された学習情報に基づいて学習された、プロセス種別、運転条件、構成データ、および解析結果の相関関係が反映されている
ことを特徴とするスクリュ形状推定装置。
【請求項2】
前記解析条件に基づく数値解析により得られる解析結果を前記学習情報として生成する情報生成部と、
前記学習情報に基づいてプロセス種別、運転条件、構成データ、および解析結果の相関関係を学習し、前記知識情報に反映させる相関関係学習部と
を更に備えることを特徴とする請求項1記載のスクリュ形状推定装置。
【請求項3】
前記情報取得部は、所定のプロセス種別、運転条件、および構成データを実験条件として実施された実験により得られる、前記物理量を含む実験結果を取得し、
前記情報生成部は、前記実験結果を前記学習情報に反映させる
ことを特徴とする請求項2記載のスクリュ形状推定装置。
【請求項4】
前記実験結果の実験条件と共通する解析条件の解析結果が前記学習情報に含まれているか否かを判定する情報判定部を更に備え、
前記情報生成部は、前記実験結果の実験条件と共通する解析条件の解析結果が前記学習情報に含まれていると判定された場合、該実験結果と該解析結果とに共通する物理量の差分を誤差情報として前記学習情報に反映する
ことを特徴とする請求項3記載のスクリュ形状推定装置。
【請求項5】
前記実験結果の実験条件と共通する解析条件の解析結果が前記学習情報に含まれていないと判定された場合、該解析条件により数値解析を行う数値解析部を更に備え、
前記情報生成部は、数値解析部により解析された解析結果を前記学習情報に反映すると共に、該実験結果と該解析結果とに共通する物理量の差分を誤差情報として前記学習情報に反映する
ことを特徴とする請求項4記載のスクリュ形状推定装置。
【請求項6】
前記相関関係学習部による学習は、プロセス種別および複数のスクリュ形状を入力データとし、前記物理量を教師データとした深層学習である
ことを特徴とする請求項2記載のスクリュ形状推定装置。
【請求項7】
スクリュ形状推定装置が実行するスクリュ形状推定方法であって、
樹脂物性を含む入力情報を取得すると共に、混練後の樹脂または混練装置に関する物理量の要求値を出力情報として取得し、
前記入力情報、前記物理量、および複数のスクリュ形状の相関関係を含む知識情報を記憶部に記憶し、
前記入力情報および前記知識情報に基づいて、前記要求値を満足するスクリュ形状を推定し、
前記知識情報には、樹脂物性を含むプロセス種別、押出量を含む運転条件、およびスクリュ形状を含む構成データを解析条件とし、該解析条件に基づく数値解析により得られる解析結果として生成された学習情報に基づいて学習された、プロセス種別、運転条件、構成データ、および解析結果の相関関係が反映されている
ことを特徴とするスクリュ形状推定方法。
【請求項8】
コンピュータを、
樹脂物性を含む入力情報を取得すると共に、混練後の樹脂または混練装置に関する物理量の要求値を出力情報として取得する情報取得部と、
前記入力情報、前記物理量、および複数のスクリュ形状の相関関係を含む知識情報を記憶する記憶部と、
前記入力情報および前記知識情報に基づいて、前記要求値を満足するスクリュ形状を推定する形状推定部
として機能させ、
前記知識情報には、樹脂物性を含むプロセス種別、押出量を含む運転条件、およびスクリュ形状を含む構成データを解析条件とし、該解析条件に基づく数値解析により得られる解析結果として生成された学習情報に基づいて学習された、プロセス種別、運転条件、構成データ、および解析結果の相関関係が反映されている
ことを特徴とするスクリュ形状推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、射出成形機や押出成形機に代表されるスクリュにより樹脂等の材料を混練する混練装置の押出条件を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂ペレットの連続生産やフィルム・シート製品などの樹脂製品の連続生産においては押出成形機(以後、押出機と称する)が用いられる。この押出プロセスにおいては吐出される樹脂の品質を目的レベル以上に達成させることが大前提である。この「品質」とは、複数原料の十分な混練状態が達成出来ること、混練過多による劣化物などの異物が存在しないこと、混練過少による樹脂の未溶融成分や原料の凝集塊が存在しないこと、過度の温度上昇による熱劣化成分が存在しないこと、など多くの基準に基づいており、これら基準をすべてクリアしなければ製造販売に至ることができない。使用原料が既に決定されており原料自体の改質が行えない前提では、基準達成のためには押出機のスクリュ形状最適化と運転・操作条件の最適化が極めて重要となる。
【0003】
関連する技術に、金型で樹脂成形品を成形すべく金型に溶融樹脂材料を押し出すためのプランジャ部材が設けられた射出成形機の運転条件を設定する方法であって、射出成形機から金型への溶融樹脂材料の注入により製品となる樹脂成形品を成形する運転条件下で、射出成形機から計測手段に溶融樹脂材料を射出し、射出成形機のプランジャ部材の複数の押出位置毎における計測手段内での溶融樹脂材料の流動長を計測し、他の射出成形機から金型への樹脂材料の注入により樹脂成形品を製造するに先立ち、他の射出成形機から計測手段内に溶融樹脂材料を射出するについて押出位置毎に対応する他の射出成形機の押出位置毎で、各押出位置毎の計測された流動長に等しい流動長を得るべく他の射出成形機の運転条件を設定することを特徴とする、射出成形機の運転条件設定方法が知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−007951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したスクリュ形状は押出機の心臓部ともいえる最重要部品であり、この形状決定に要する時間がプロセスの開発期間を支配する要因となる。しかしながら、スクリュ形状を最適化するためには多くの経験に基づいた知識やノウハウが必要とされ、経験の浅い技術者ではその形状を考案することは容易ではないという問題があった。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、混練装置のスクリュ形状を推定するスクリュ形状推定装置、スクリュ形状推定方法、およびスクリュ形状推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様は、樹脂物性を含む入力情報を取得すると共に、混練後の樹脂または混練装置に関する物理量の要求値を出力情報として取得する情報取得部と、前記入力情報、前記物理量、および複数のスクリュ形状の相関関係を含む知識情報を記憶する記憶部と、前記入力情報および前記知識情報に基づいて、前記要求値を満足するスクリュ形状を推定する形状推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、混練装置のスクリュ形状を推定することができる。本発明のその他の効果については、以下の発明を実施するための形態の項でも説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態におけるスクリュ形状の推定対称となる2軸スクリュ式の押出機を示す概略縦断面図である。
図2】実施形態に係るスクリュ形状推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】実施形態に係るスクリュ形状推定装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図4】実施形態に係る学習ファイルのデータ構造を示す図である。
図5】実施形態に係るスクリュ形状推定装置が機能として有する学習部による深層学習を説明するための図である。
図6】実施形態に係るスクリュ形状推定処理を示すフローチャートである。
図7】スクリュ形状推定処理における学習処理を示すフローチャートである。
図8】学習処理における解析学習処理を示すフローチャートである。
図9】学習処理における実測学習処理を示すフローチャートである。
図10】スクリュ形状推定処理における推定処理を示すフローチャートである。
図11】最適化データに含まれるスクリュの描画された形状データを示す図である。
図12】実施例におけるスクリュの混練領域の場所を説明するための図である。
図13】混練領域におけるスクリュに用いるエレメントの種類を示す表である。
図14】数値解析時に用いた混練領域のスクリュ形状を示す表である。
図15】実験および解析結果を示す表であり、(a)は押出量10kg/hの場合を示し、(b)は押出量30kg/hの場合を示す。
図16】推定処理により推定された指定条件を満たす最適なスクリュ形状を示す表である。
図17】最適なスクリュ形状を用いた実験および解析結果を示す表である。
図18】スクリュ形状推定プログラムが情報処理装置に適用される場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
本実施形態に係るスクリュ形状推定装置は、人工知能アルゴリズムを有すると共に、数値解析ソフトウェアが組み込まれたものであり、数値解析結果や実験結果を人工知能により学習し、指定した条件に最適なスクリュ形状およびその押出条件を推定する装置である。スクリュ形状の推定対称となる押出機を図1に例示する。図1は、実施形態におけるスクリュ形状の推定対称となる2軸スクリュ式の押出機を示す概略縦断面図である。本実施形態に係るスクリュ形状推定装置は、図1に示されるような、樹脂材料を溶融するためのシリンダ1と、シリンダ1の上流側に設けられ樹脂材料が投入されるホッパ2と、シリンダ1内に回転自在に設けられ、樹脂材料を溶融混練すると共にシリンダ1先端部(下流側)へ搬送する2軸のスクリュ3とを備える押出機4の当該スクリュ3の最適な形状を推定するものとして以後説明を行う。なお、推定対称を2軸のスクリュ3とするが、これに限定されるものではなく、単軸スクリュや、シングルまたはダブルフライトスクリュ等の他種多様なスクリュをその推定対象とすることができる。
【0012】
(装置構成)
先ず、本実施形態に係るスクリュ形状推定装置の装置構成について図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係るスクリュ形状推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図2に示されるように、スクリュ形状推定装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、メモリ12、入力部13、入出力IF(InterFace)14、表示部15、記憶装置16、を備える。
【0013】
CPU11はメモリ12上に展開されるOS(Operating System)、BIOS(Basic Input/Output System)、汎用アプリケーション等の各種プログラムを実行し、スクリュ形状推定装置10の制御を行う。
【0014】
メモリ12は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性の記憶領域であり、実行されるプログラムの作業領域として利用される。
【0015】
入力部13は、スクリュ形状推定装置10を使用するユーザからの入力を受け付けるものであり、例えば、ディスプレイ上の特定の位置を指定するためのポインティングデバイスであるマウスや、文字または特定の機能等が割り当てられた複数のキーが配列されたキーボードである。
【0016】
入出力IF14は、スクリュ形状推定装置10による外部の機器への信号やデータの入出力を行うためのインターフェイスであり、本実施形態においては外部装置のデータベース20に格納された実測データ202の取得を行う。この実測データ202は、各種装置において実験された結果を有するものであり、実験毎に纏められたデータである。実測データ202の詳細については後述する。
【0017】
表示部15は、OSおよびOS上で動作するアプリケーションのGUI(Graphical User Interface)や解析結果を表示するディスプレイ等の出力装置である。このような出力装置により、例えば、ユーザが入力するプロセス種別等の項目や、後述するスクリュ形状推定処理により推定されたスクリュ形状を2次元に描画して表示する。
【0018】
記憶装置16は、HDD(Hard disk drive)等の不揮発性の記憶領域であり、スクリュ形状推定処理において用いられる各種パラメータや当該処理により算出される各物理量、後述する学習ファイル161や知識ファイル162(図2参照)といったデータが格納される。
【0019】
(機能構成)
次に、スクリュ形状推定装置10の機能構成について図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態に係るスクリュ形状推定装置の機能構成を示す機能ブロック図である。図3に示されるように、スクリュ形状推定装置10は、取得部101と、判定部102と、解析部103と、ファイル生成部104と、学習部105と、探索部106と、形状作成部107とを機能として有する。これら機能は、CPU11やメモリ12等の前述したハードウェア資源が協働することにより実現され、これらの機能により後述するスクリュ形状推定処理が実行される。
【0020】
取得部101は、数値解析により所定の物理量を算出するための各種パラメータや、解析結果、実験結果等のデータを取得する。これらのデータはユーザにより手入力されたものを取得してもよく、外部装置のデータベース20から取得してもよい。本実施形態においては、プロセス種別、運転条件、構成データをパラメータとして取得する。これらの各パラメータについての詳細は後述する。
【0021】
判定部102は、データベース20が更新されたか否かや、解析学習処理や実測学習処理を実行するか否か等、後述するスクリュ形状推定処理における各種判定を行う。
【0022】
解析部103は、取得された各種パラメータに基づいて数値解析、具体的にはCAE(Computer Aided Engineering)解析を行い、解析結果として吐出樹脂温度等の各種物理量の算出を行う。この解析部103による数値解析としては、格子メッシュ法やFAN(Flow Analysis Network)法、2次元または3次元流動計算等、既存の溶融モデルや計算フローを用いた手法が挙げられ、物理量を算出可能なものであればよい。この解析部103は、既存の数値解析ソフトウェア(シミュレーションソフトウェア)を読み込むことにより実現されてもよく、このようなソフトウェアとしては、例えば株式会社日本製鋼所製の「TEX−FAN」等が挙げられる。ここで算出される物理量としては、吐出樹脂温度、比動力(Esp.)固相占有率、滞留時間、混練領域最大樹脂圧力、混練領域充満長、モータ動力、最大トルク等が挙げられる。
【0023】
ファイル生成部104は、解析部103の解析結果や、取得部101による実験結果としてのパラメータの取得に応じて学習ファイル161を生成し、記憶装置16内に格納する。学習ファイル161は、学習部105による学習を行わせるためのものであり、プロセス種別を識別するプロセス種別番号、押出量(原料供給量)等の運転条件、スクリュやシリンダ形状等の構成データ、および解析結果や実験結果としての吐出樹脂温度等の各種物理量の項目が設けられて各項目に値が入力されたものである。学習ファイル161の詳細については後述する。
【0024】
学習部105は、記憶装置16内に格納された学習ファイル161にアクセスし、これに基づいてプロセス種別、運転条件、構成データ、および物理量の相関関係を学習、具体的には深層学習(ディープラーニング)を行い、学習結果を知識ファイル162として記憶装置16内に格納する。この学習は学習ファイル161が生成される度に行われ、知識ファイル162がその都度更新される。学習部105による学習および知識ファイル162の詳細については後述する。
【0025】
探索部106は、ユーザによる指定条件の入力に応じて、記憶装置16内に格納された知識ファイル162にアクセスし、当該指定条件を満足する最適なスクリュ形状を探索する。なお、スクリュ形状に限らず、シリンダ等の構成データや、各種運転条件を探索してもよい。
【0026】
形状作成部107は、記憶装置16内に予め格納されたIDリスト163にアクセスし、探索部106により探索されたスクリュ形状をIDリスト163に示される形状データに基づき2次元データとして作成し、ユーザに視認可能に表示部15に表示させる。
【0027】
(学習ファイル161)
次に、上述した学習ファイル161について図4を用いて説明する。図4は、本実施形態に係る学習ファイルのデータ構造を示す図である。図4に示されるように、本実施形態に係る学習ファイル161は、押出条件、即ち解析条件や実験条件として設定された必須項目である基本項目161aと、実験結果として計測された数値を示す実測項目161bと、解析結果として算出された数値を示す解析項目161cと、実測項目161bと解析項目161cとにおける対応する項目のそれぞれの数値の差を示す誤差項目161dとを有する。
【0028】
基本項目161aには、押出条件である、プロセス種別、押出機の運転条件、押出機の構成データが含まれており、具体的には、プロセス種別としてプロセス種別番号、運転条件として押出量、スクリュ回転数、構成データとして押出機サイズ番号、スクリュ構成番号1〜n、およびシリンダ構成番号1〜nを有する。実測項目161bには、基本項目161aの条件での実験により計測された物理量として、実測吐出樹脂温度、実測比動力、実測固相占有率、実測滞留時間、実測混練領域最大(樹脂)圧力、実測最大トルクを有する。
【0029】
解析項目161cには、基本項目161aの条件での数値解析結果として算出された物理量として、解析吐出樹脂温度、解析比動力、解析固相占有率、解析滞留時間、解析混練領域最大(樹脂)圧力、および解析最大トルクを有する。誤差項目161dには、実測項目161bと解析項目161cとで共通する項目、例えば誤差吐出樹脂温度、誤差比動力等を有する。これらの基本項目161a、実測項目161b、解析項目161c、および誤差項目161dには、それぞれ数値が入力される。
【0030】
実際の押出機による押出プロセスでは、樹脂原料の違いやフィラーなどの副原料の有無、それに伴うシリンダ設定温度の違い、押出機のサイズ、押出量やスクリュ回転数の違いなど、実に様々な種別に分類される。特に、原料の種類が変わると、それぞれの供給位置や供給配分を考慮したシリンダ構成と、どの領域で混練を必要とするかの考えに基づくスクリュ構成が大幅に変わる。このことから、本実施形態においては学習ファイルに樹脂原料の情報つまりプロセス種別の情報を有する。プロセス種別番号は、例えば1=「ポリプロピレン+粉体系フィラー」、2=「ポリプロピレン+繊維系フィラー」等で示される大枠の分類である。これは数値解析と比較して実験による数千、数万パターンのデータを収集することは、時間、費用的に困難であるため、プロセス種別を細かく分類すると1つの種別あたりのデータ数が低下し、延いては知識ファイル162の精度の低下に繋がる。したがって、本実施形態においてはプロセス種別を大枠の括りとして設定することにより1つの種別あたりのデータ数の低下を避け、知識ファイルの精度向上を実現している。
【0031】
また、押出機サイズ番号は、押出機のサイズ、例えばシリンダやスクリュの全長を固有に示す番号である。スクリュ構成番号1〜nは、この押出機サイズに応じたスクリュを構成するニーディングディスク等の部品(エレメント)を、その位置と共に示す番号であり、例えば1,2,4,6の値が設定されて入れば、それらの番号に固有に紐づけられたスクリュのディスクが組み合わされてスクリュが構成されていることを示す。なお、樹脂を搬送する搬送領域と樹脂を溶融混練する混練領域をここで併せて示すようにすることが好ましい。シリンダ構成番号1〜nは、押出機サイズに応じたシリンダを構成する部品を、その位置と共に示す番号であり、シリンダ内径のサイズに対応するものである。
【0032】
なお、基本項目161aとしては、上述したデータに限らず、主原料のかさ密度、複数樹脂の混練や無機フィラーの混練プロセスを考慮した副原料の種類、供給量や共有位置データ、脱揮プロセスにおける原料供給時の原料樹脂への含有溶剤濃度、等の項目を含めてもよい。同様に、実測項目161bおよび解析項目161cに、混練領域充満長や、モーター動力、吐出樹脂の溶融状態(未融解の有無)等の項目を含めてもよい。吐出樹脂の溶融状態については、未融解無し、即ち完全溶融であれば1、未融解有りであれば2などの番号で示せばよい。なお、解析項目161cは、実測項目161bと同一であるが、実際の計測が困難であるが数値解析で算出可能な物理量に関しては、解析項目161cに固有に項目が設定されてもよい。例えば、分散混練の指標となる剪断応力や、分配混練の指標となる剪断ひずみの累積値の項目を更に設けることにより、そのスクリュ形状が発現する分散混練や分配混練の指標の学習を行わせることができる。
【0033】
なお、本実施形態においては、実測項目161bは、解析項目161cと同一の項目を有しているが、上述したように実験によっては計測していない項目もある。その場合には学習ファイルの生成時に当該項目に対して「9999」や「−」等の誤差の算出には適用しないと設定した値が入力される。これは解析項目161cにおいても同様であり、数値解析時に算出されない項目については「9999」や「−」等の値を入力すればよい。本実施形態においては、実測項目161b自体の項目数を減らして実験結果として計測が容易な実測吐出樹脂温度、実測比動力のみを実測項目161bとしてもよい。
【0034】
(深層学習)
次に、本実施形態に係る学習部105の深層学習について図5を用いて説明する。図5は、実施形態に係るスクリュ形状推定装置が機能として有する学習部による深層学習を説明するための図である。図5に示されるように、学習部105は、主として入力層31、中間層(隠れ層)32、出力層33を有する多層構造のニューラルネットワーク30により実現される機能である。ニューラルネットワーク30は、入力層31、中間層32、出力層33に複数のノードが含まれる。ニューラルネットワーク30は、例えば入力層31の1以上のノード311a〜311dが中間層32の1以上のノード32(1)と接続され、中間層32内で多段に配されたノード32(1)〜32(n)が中間層32内においてそれぞれ隣接するノード間で接続され、中間層32の1以上のノード32(n)と出力層33の1以上のノード331a〜dが接続され、入力層31から出力層33まで多段にノードを接続した構成となっている。
【0035】
各ノード311,32(1)〜32(n),および331間を接続する経路34(1)〜34(n+1)には、それぞれ重み係数が設定されており、あるノードの演算結果が重み係数に基づいて他のノードに伝達することとなる。また、各ノードには活性化関数が設定されており、伝達された演算結果が正規化処理される。
【0036】
学習部105は、入力層31のノード311への入力パターン(入力データ)として既知である基本項目161aの値を与え、出力層33のノード331の出力パターン(教師データ)として既知である解析項目161cおよび誤差項目161dの値を与える。これにより、押出条件と入力ノード311とが対応付けられ、解析結果および実験結果との誤差を示す物理量が出力ノード331と対応付けられる。
【0037】
例えば入力ノード311aはプロセス種別番号の値を受け付け、入力ノード311bは押出機サイズ番号の値を受け付ける、と設定される。また、入力ノード311cはスクリュ構成番号の値を受け付け、入力ノード311dはシリンダ構成番号の値を受け付ける、と設定される。また、例えば出力ノード331aは物理量として吐出樹脂温度の値を出力し、出力ノード331bは物理量として比動力の値を出力する、と設定される。また、例えば出力ノード331cは物理量として吐出樹脂温度誤差の値を出力し、出力ノード331dは物理量として比動力誤差の値を出力する、と設定される。
【0038】
このように設定することにより、あるプロセス種別やスクリュ形状により中間層32を経た学習を行うことで出力層33つまり出力値が得られる。この学習で得られた出力値と、予め教師データとして与えていた出力層の値に差異が生じている場合は、学習の精度が不十分であることを意味する。そのため、所定の結果や当該結果に誤差が生じることを学び、経路34(1)〜34(n+1)の経路における各ノードに対する重み係数を調整して決定する。この時、誤差項目161dに関する出力ノードについては、その値が最小(例えば0)に近くなるよう重み係数が調整される。これを繰り返すことにより、次第に学習によって得られる出力層33の値と教師データとの差異が縮まり、その誤差がほぼ無くなったと判断できる状態になった段階で学習を終了させる。この段階になると、ある条件に対するスクリュ形状に代表される他の条件の最適値を割り出すような学習が完了したと見なすことができる。
【0039】
知識ファイル162は、この学習結果そのものであり、ある条件に対するスクリュ形状に代表される他の条件の最適値を網羅したものである。換言すれば、押出条件(プロセス種別、運転条件、および/または構成データ)と、解析結果や実験結果としての物理量との相関関係を示すノウハウである。したがって、例えばあるプロセス種別により所望の吐出樹脂温度の要求値を満足するスクリュ形状がどのような形状であるかの情報が知識ファイルには含まれているといえる。学習部105は入力パターンと出力パターンとが与えられるたびに深層学習を行うため、必然的に知識ファイル162が更新されることとなり、知識ファイル162の精度が高まる。
【0040】
学習部105による重み係数を決定する手法としては、バックプロパゲーション等の既存の手法を用いればよく、活性化関数についても同様である。したがって、重み係数や活性化関数を決定する手法についての詳細は省略する。
【0041】
(処理動作)
以下、図面を用いて本実施形態に係るスクリュ形状推定装置10の動作の詳細を説明する。図6は、実施形態に係るスクリュ形状推定処理を示すフローチャートである。なお、この処理において算出される各値は、適宜メモリ12または記憶装置16に格納される。そのため、本フロー内においては各値の格納処理は割愛する。
【0042】
図6に示されるように、スクリュ形状推定装置10の起動後、判定部102は、学習を行うための学習処理を実行するか、スクリュ形状の推定を行うための推定処理を実行するかの選択肢を表示部15に表示させ(S101)、ユーザにより学習処理が選択されたか否かを判定する(S102)。学習処理および推定処理についての詳細は後述する。学習処理が選択された場合(S102,YES)、学習処理が実行される(S103)。学習処理後、取得部101は、続けて推定処理を実行するか否かの選択肢を表示部15に表示させ(S104)、判定部102は、ユーザにより推定処理を実行する選択がなされたか否かを判定する(S105)。推定処理を実行する選択がなされた場合(S105,YES)、推定処理が実行され(S106)、本フローは終了となる。
【0043】
一方、ステップS102の判定処理において、学習処理が選択されなかった、即ち推定処理が選択された場合(S102,NO)、ステップS106の推定処理に移行する。また、ステップS105の判定処理において、推定処理を実行しない選択がなされた場合(S105,NO)、本フローは終了となる。
【0044】
次に、上述した学習処理の詳細を図面を参照しつつ説明する。図7は、学習処理を示すフローチャートである。
【0045】
図7に示されるように、先ず判定部102は、解析結果を学習するための解析学習処理を実行するか、実験結果を学習するための実測学習処理を実行するかの選択肢を表示部15に表示させ(S201)、ユーザにより解析学習処理が選択されたか否かを判定する(S202)。解析学習処理が選択された場合(S202,YES)、後述する解析学習処理が実行される(S203)。解析学習処理後、取得部101は、続けて実測学習処理を実行するか否かの選択肢を表示部15に表示させ(S204)、判定部102は、ユーザにより実測学習処理を実行する選択がなされたか否かを判定する(S205)。実測学習処理を実行する選択がなされた場合(S205,YES)、後述する実測学習処理が実行され(S206)、本フローは終了となる。
【0046】
一方、ステップS202の判定処理において、解析学習処理が選択されなかった、即ち実測学習処理が選択された場合(S202,NO)、ステップS206の推定処理に移行する。また、ステップS205の判定処理において、実測学習処理を実行しない選択がなされた場合(S205,NO)、本フローは終了となる。
【0047】
次に、上述した解析学習処理の詳細を図面を参照しつつ説明する。図8は、解析学習処理を示すフローチャートである。
【0048】
図8に示されるように、先ず取得部101は、入力フォームを表示部15に表示させ(S301)、学習ファイル161を生成するための各種パラメータを取得する(S302)。ここで取得するパラメータは、数値解析を行うための解析条件(押出条件)であり、樹脂物性、運転条件、構成データに関するパラメータである。必要なパラメータは数値解析の手法や解析結果にどのような物理量を必要とするかにもよるが、樹脂物性としては、例えばプロセス種別番号、粘度フィッティングによるモデルパラメータ、固体および液体の密度、比熱、熱伝導率、融点、溶融熱量等が挙げられる。運転条件としては、例えば押出量、スクリュ回転数、スクリュ先端圧力、シリンダ設定温度、シリンダ設定温度境界位置、スクリュ位置、メッシュ刻み数、計算サイクル数、計量樹脂量、原料樹脂温度、背圧等が挙げられる。構成データとしては、例えばスクリュ構成番号、シリンダ構成番号、シリンダ径、スクリュ径、スクリュ溝深さ、スクリュリード、メインフライト幅、メインフライトクリアランス、サブフライト開始位置、サブフライト終了位置、サブフライトクリアランス等が挙げられる。なお、ユーザはプロセス種別番号、スクリュ構成番号、シリンダ構成番号についての入力を行う際、これら番号とその内容(樹脂名やエレメント形状、シリンダ形状等)とが対応付いたID対比表を参照するとよい。このID対比表は予め記憶装置16に格納されていることが好ましい。
【0049】
パラメータ取得後、解析部103は、取得されたパラメータに基づいて数値解析を行い、解析結果として各種物理量を算出する(S303)。ここで算出される物理量は、当該パラメータや数値解析の手法にもよるが、例えば吐出樹脂温度、比動力、固相占有率、混練領域最大樹脂圧力、滞留時間、混練領域充満長、モータ動力、最大トルク、可塑化能力等が挙げられる。算出された各種物理量は、ファイル生成部104により読み取り可能な形式、例えば学習ファイル161の解析項目161cと同一の項目を有し、当該項目に各値が入力されたファイルとして保存される。
【0050】
数値解析後、ファイル生成部104は、取得された解析条件および解析結果に基づいて学習ファイル161を生成する(S304)。具体的には、解析条件から基本項目161aに相当する情報を取得すると共に、解析結果から解析項目161cに相当する情報を取得し、これらから学習ファイル161を生成する。なお、ここでの段階では生成された学習ファイル161の実測項目161b、誤差項目161dには「9999」等の学習には使用しないことを示す値が入力される。
【0051】
なお、解析条件からの基本項目161aの情報取得を可能とするために、樹脂物性と、樹脂および/またはフィラーと、プロセス種別とを紐付けたテーブルを予め記憶装置16内に格納することが好ましい。これにより、ステップS301においてユーザが樹脂やフィラーを選択するのみで数値解析処理に必要な樹脂物性の各パラメータの値を自動に取得することができ、また、学習ファイル161の生成時には選択された樹脂および/またはフィラーのプロセス種別を自動に取得することができる。また、ステップS301において樹脂物性のパラメータを入力する際に、入力フォームにプロセス種別を選択する項目を設けることでユーザにプロセス種別を決定させるようにしてもよい。
【0052】
学習ファイル161生成後、判定部102は、表示部15に学習を実行するか否かの選択肢を表示させ(S305)、学習を実行するとユーザが選択したか否かを判定する(S306)。学習を実行しないと選択された場合(S306,NO)、他にも学習させたい数値解析があると判断し、ステップS301の入力フォーム表示の処理へ移行する。一方、学習を実行すると選択された場合(S306,YES)、学習部105は生成された学習ファイル161に基づいて深層学習を実行し(S307)、知識ファイル162が更新され(S308)、本フローは終了となる。
【0053】
次に、上述した実測学習処理の詳細を図面を参照しつつ説明する。図9は、実測学習処理を示すフローチャートである。
【0054】
図9に示されるように、先ず判定部102は、外部装置のベータベース20にアクセスし、データベース20に更新があったか否かを判定する(S401)。具体的には、データベース20内に、取得していない実測データ202が格納されているか否かを判定する。データベース20に更新があった場合(S401,YES)、取得部101は、取得していない実測データを選択し(S402)、当該データから学習ファイルへ反映する反映情報を取得する(S403)。
【0055】
実測データ202は、例えば実験時の実験条件(押出条件)としてプロセス種別、運転条件、構成データが含まれ、実験結果として吐出樹脂温度(押出機先端樹脂温度)や比動力(Esp.)等の計測された各種物理量が含まれる。本実施形態においては、この実測データ202は取得部101およびファイル生成部104により読み取り可能な形式、例えば学習ファイル161の基本項目161aおよび実測項目161bと同一の項目を有し、当該項目に各値が入力されたファイルとして保存される。したがって、上述した反映情報は、実測データ202における基本項目161aおよび実測項目161bと同一の項目の各値である。
【0056】
反映情報取得後、判定部102は、反映情報に対応する学習ファイル161があるか否かを判定する(S404)。具体的には判定部102は、反映情報の基本項目の各値と、学習ファイル161の基本項目161aの各値とが同一、即ち同一押出条件であるか否かを判定する。反映情報に対応する学習ファイル161がある場合(S404,YES)、ファイル生成部104は、反映情報に対応すると判定された学習ファイル161の実測項目161bの各値(学習しないとされた値9999等)を反映情報の実測項目の各値に書き換え、当該実測項目161bの値と該実測項目161bに対応する解析項目161cの値との差分を算出し、当該学習ファイル161の誤差項目の各値(学習しないとされた値9999等)を算出した各値に書き換えて学習ファイル161を更新する(S405)。
【0057】
学習ファイル161更新後、判定部102は、データベース20にアクセスし、未選択の実測データがあるか否かを判定する(S406)。未選択の実測データがある場合(S406,YES)、ステップS402の実測データの選択処理へ移行する。一方、未選択の実測データがない場合(S406,NO)、判定部102は表示部15に実測データの手入力を行うかの選択肢を表示させ(S407)、手入力を行うとユーザが選択したか否かを判定する(S408)。
【0058】
手入力を行わないと選択された場合(S408,NO)、学習部105は更新された学習ファイル161に基づく深層学習を行い(S409)、知識ファイル162が更新され(S410)、本フローは終了となる。
【0059】
一方、ステップS401の判定処理において、データベース20に更新がなかった場合(S401,NO)、取得部101は、入力フォームを表示部15に表示させ(S411)、反映情報を取得する(S402)。なお、ここで表示され得る入力フォームは、ステップS301の入力フォーム表示処理時に表示した入力フォームと同様の形式でよく、したがってユーザはID対比表を参照してプロセス種別番号やスクリュ構成番号等の入力を行えばよい。
【0060】
また、ステップS404の判定処理において、反映情報に対応する学習ファイル161がない場合(S404,NO)、解析部103は反映情報における基本項目の情報に基づき数値解析処理を実行する(S412)。解析処理後、ファイル生成部104は、数値解析結果に基づいて、基本項目161a、解析項目161cに解析条件や解析結果の値が、実測項目161b、誤差項目161dに学習しないとされた値9999等が入力された学習ファイル161を生成し(S413)、ステップS405の学習ファイル161の更新処理へ移行する。また、ステップS408の判定処理において、手入力を行うと選択された場合(S408,YES)、他の学習すべき実験結果があると判断してステップS411の入力フォーム表示処理へ移行する。
【0061】
次に、上述した推定処理の詳細を図面を参照しつつ説明する。図10は、推定処理を示すフローチャートである。
【0062】
図10に示されるように、先ず取得部101は、入力フォームを表示部15に表示させ(S501)、ユーザから指定条件の入力を促してこれらを取得する(S502)。指定条件は、少なくとも押出条件と所望の要求物理量を含むものであり、ここでの押出条件は、プロセス種別等の学習ファイル161における基本項目161aの各種項目に対応する。要求物理量は、吐出樹脂温度等の実測項目161bや解析項目161cの各種項目に対応するものであり、要求物理量を設定する際にはその要求値も併せて入力する。なお、押出条件として何を入力するかは適宜であるが、少なくともプロセス種別が入力されることが好ましい。これはプロセス種別が異なることにより解析結果や実験結果が大きく異なるため、プロセス種別が設定されていない場合、推定処理結果が膨大になる可能性があるためである。また、押出条件としてのスクリュ形状番号を推定対象であることを示す空欄(入力せず)に設定する。スクリュ回転数等の他の押出条件も併せて推定したい場合には、当該条件も空欄とすればよい。なお要求物理量以外の物理量については、空欄等の要求しないことを示す設定を行うことにより、スクリュ形状が推定された段階で最適な押出条件も推定されるため、装置サイドで自動に予測値(以後、予測情報と称する)が出力されることとなる。
【0063】
例えば、ユーザがポリエチレンを吐出樹脂温度200℃で押出成形するための最適なスクリュ形状を知りたい場合、プロセス種別をポリエチレン、スクリュ形状番号の各値を空欄、要求物理量を吐出樹脂温度、その要求値を200℃と入力フォームに入力すればよい。なお、当該入力フォームは、学習ファイル161の各項目に基づいて生成するようにしてもよい。これにより、学習ファイル161に新たな項目が設けられ学習がなされた際に、自動に推定処理の対象とすることができる。
【0064】
指定条件取得後、探索部106は知識ファイル162にアクセスすることにより、指定条件に含まれる押出条件での要求物理量の要求値を満足する最適なスクリュ形状を探索し(S503)、当該スクリュ形状を選定する(S504)。押出条件の値は不変であるが、要求値については多少の誤差が含まれる。これは要求値の物理量が出力パターンとして学習されたためである。したがって、ここでの「要求値を満足」とは、設定した値から所定の範囲の誤差を含むものであり、その誤差は学習の精度によって適宜設定される。なお、複数パターンのスクリュ形状で要求値を満足するとされた場合には、その全てまたは要求値の一致度から上位数パターンを選定する等すればよい。
【0065】
最適スクリュ形状選定後、形状作成部107は、記憶装置16に予め格納されているスクリュ構成番号とエレメント毎の形状データとが紐付いたIDリスト163にアクセスし、選定されたスクリュ形状のスクリュ構成番号に対応する形状データを読み込む(S505)。当該形状データは2Dデータであればよいが、3Dデータとしてもよい。読み込み後、形状作成部107は、読み込んだ形状データに基づいてスクリュ形状を作成(描画)し(S506)、当該スクリュ形状と共に、空欄に設定した押出条件の最適値や、例えば当該押出条件での吐出樹脂温度や押出機4の負荷状態等の予測情報を、最適化データとして提示して(S507)、本フローは終了となる。
【0066】
図11は、最適化データに含まれるスクリュの描画された形状データを示す図である。図11に示されるようにスクリュ形状は、ユーザが視覚的にイメージ可能に表示される。なお、ここでは「L/D」、「リード、角度」、「条数」、および「外径φ」の項目が表示されているが、これはIDリスト163のスクリュ構成番号に紐付いているものであり、IDリスト163にアクセスした段階でこれら情報を取得している。
【0067】
(実施例)
以下、図面を用いて本実施形態に係るスクリュ形状推定装置10を用いた実施例について説明する。図12は本実施例におけるスクリュの混練領域の場所を説明するための図であり、図13は混練領域におけるスクリュに用いるエレメントの種類を示す表であり、図14は数値解析時に用いた混練領域のスクリュ形状を示す表である。本実施例においては、2軸スクリュを有する2軸スクリュ式押出機によるポリプロピレンの解析、実験結果をスクリュ形状推定装置10に学習させ、所望の要求物理量の要求値を満足するスクリュ形状の推定を行った。
【0068】
学習を目的としたスクリュ形状の評価を行うために用いた押出機は、シリンダ内径=φ26.5mm(以後、この寸法をDとする)、スクリュ全長であるL/D=52.5mm(Lは実長[mm])の仕様のTEX25αIIIとした。当該押出機に挿入したスクリュは、図12における符号40に示されるL/D=4の部位を樹脂の溶融可塑化を行う混練領域とし、それ以外は全て搬送を目的としたフルフライトスクリュとした。L/D=4の混練領域を構成する混練スクリュは、図13に示される順ねじれニーディングディスク、逆ねじれニーディングディスク、および直交ニーディングディスクの3種を、それぞれスクリュ長0.5,1.0,1.5の3種を用意し、計9形状のニーディングディスクのみから構成させるものとした。L/D=4における9形状のニーディングディスクの組み合わせは4万6090通りあり、本実施例においては全通りで解析を行い、図14に示されるスクリュA〜Dの4種のスクリュ形状のみを実験の対象とした。
【0069】
押出実験ではプロセス種別をポリプロピレンとし、その流動性の評価指標であるMFRは9.0である。運転条件として押出量10kg/hでスクリュ回転速度100,200,300の3パターンを各スクリュ形状A〜Dのそれぞれで、また押出量30kg/hでスクリュ回転速度200,300,400の3パターンを各スクリュ形状A〜Dのそれぞれで押出実験を行った。シリンダ設定温度は全実験で同一とした。即ち、押出実験においては押出量とスクリュ回転数のみを変更して実験を行った。また、これらスクリュ形状の全押出条件について、シミュレーションソフト「TEX−FAN」で数値解析処理を実施した。
【0070】
図15は、実験および解析結果を示す表であり、(a)は押出量10kg/hの場合を示し、(b)は押出量30kg/hの場合を示す。図15に示されるように、実験結果においては、押出量10kg/hでは全ての条件で未溶融成分の吐出は確認されなかったが、30kg/hでは多くの条件で未溶融成分が発生した。これは、スクリュ形状A〜Dでは樹脂を溶融可塑化させるに十分な混練エネルギーを付与できていないことを意味し、吐出樹脂温度が200℃を超えた条件においても均一な混練ができていないことが示唆される。解析結果と実験結果では吐出樹脂温度にいくらかの差異が生じているものの、未溶融成分の発生予測は実際の傾向を良好に予測できている。高回転領域では予測結果の方が実測よりも15℃程度高く樹脂温度を予測しているが、全体的にその傾向は類似している。
【0071】
次に、L/D=4の混練領域を構成可能な4万6090通りのスクリュ形状全てを対象とし、「TEX−FAN」を用いて数値解析を行った。解析条件は前述した押出条件と同一である。得られた解析結果は総数28万件弱となったが、これらの解析結果と実験結果とをスクリュ形状推定装置10に入力し(未融解の有無も含む)、学習処理S103により図14に示した解析結果と実験結果とからなる学習ファイル161と、これら以外の上記解析結果からなる学習ファイル161とを生成し、深層学習を行わせた。また、当該深層学習により得られた知識ファイル162を用い、推定処理S106を実施した。指定条件としては、プロセス種別をポリプロピレン、押出機のサイズ番号を上記TEX25αIIIの番号、押出量を30kg/h、スクリュ回転数を空欄、要求物理量を吐出樹脂温度、その要求値を200℃、未融解を無し(完全溶融)とした。
【0072】
図16は、推定処理により推定された指定条件を満たす最適なスクリュ形状を示す表である。図16に示されるように、推定処理S106を実施した結果、スクリュ形状はスクリュE〜スクリュHが推定された。また、指定条件を満たすと推定されたスクリュ回転数はいずれのスクリュ形状においても300rpmであった。推定されたスクリュE〜Hは、図14に示されるスクリュA〜Dと比較して、搬送能力が高い順ねじれニーディングディスクの採用が少なく、混練領域の樹脂圧力を上昇させる効果の高い逆ねじれニーディングディスクや混練性能自体が最も長けている直交ニーディングディスクの採用が多いことがわかる。これは図15(b)に示される30kg/h押出で混練エネルギーが低かったことをスクリュ形状推定装置10が学習したことを裏付けるものであり、その結果として混練能力がより高いスクリュE〜Hを推奨形状として出力したことが示唆される。
【0073】
図17は、最適なスクリュ形状を用いた実験および解析結果を示す表である。指定条件を満たす押出量は300rpmであるが、検証のために250〜400rpmまで50rpm間隔の評価を行った。図17の解析の欄に示されるように、いずれのスクリュ形状およびスクリュ回転数においても予測された吐出樹脂温度は要求値の200℃を超えている。これは、図15(b)に示す過去の実験結果で解析結果が実測値よりも高く予測されていたことをスクリュ形状推定装置10が学習した結果によるものと推察される。また、これらスクリュ形状では全ての条件で未溶融成分の吐出は生じないと予測された。
【0074】
一方、実際の二軸押出機を用いた検証実験結果を示す図17の実測の欄に示されるように、300rpmにて全てのスクリュ形状において未溶融成分の発生は確認されず、また吐出温度も200℃±1℃程度の誤差範囲内を示すことがわかった。このことから、スクリュ形状推定装置10における深層学習を用いた機械学習を実施し、推定した最適スクリュ形状が精度良く求まったことを実証できた。つまり、本実施例によれば、学習およびスクリュ形状を含む指定条件の最適化を行うスクリュ形状推定装置10は、押出機のスクリュ形状決定において極めて有用であり、かつ高精度で指定条件の出力を得られることが判明した。
【0075】
以上に説明したように、本実施形態に係るスクリュ形状推定装置10によれば、知識ファイル162を用いることにより、指定条件に応じた最適なスクリュ形状を推定でき、これをユーザに提示することができる。したがって、スクリュ形状についての知識やノウハウを有さない経験の浅いユーザであっても、容易に指定条件に応じた最適なスクリュ形状を認識することができる。
【0076】
また、押出量といった運転条件や解析結果および実験結果で得られる物理量を学習ファイル161に組み込み、学習を行わせることにより、最適なスクリュ形状を採用した場合の最適な押出条件や予測情報も同時に推定することが可能となる。したがって、ユーザは理想とする押出機の装置構成および押出条件を把握することができる。
【0077】
また、本実施形態によれば、最適化データを提案する際に、形状作成部107によりスクリュ形状を描画することができるため、ユーザに視覚的なイメージを与えることができ、実際の押出機への適用利便性の向上が可能となる。
【0078】
以上に説明した実施形態においては、実験結果と押出条件が同一の解析結果を有する学習ファイル161がない場合には数値解析が実行される。そのため、学習ファイル161には、解析結果のみを含む、即ち実測項目161bと誤差項目161dとに値を有さないものと、解析結果および実験結果とを含むものの2種類があると説明した。しかしながら、実験結果と押出条件が同一の解析結果を有する学習ファイル161がない場合に数値解析を行わず、実験結果のみを含む、即ち解析項目161cと誤差項目161dとに値を有さない学習ファイル161による深層学習がなされるようにしてもよい。また、ステップS103の学習処理において、ステップS206の実測学習処理を省き、即ち知識ファイル162を数値解析結果のみからなる学習ファイル161を用いた深層学習により生成するようにしてもよい。
【0079】
以上に説明した実施形態においては、スクリュ形状推定装置10側で最適なスクリュ形状を選定し、これを表示部15に表示したが、これに限定する必要はない。例えば要求物理量の要求値を満足するとされた数値範囲以上の数値範囲を設定し、最適なスクリュ形状としてより広い範囲でユーザに提示するようにしてもよく、探索結果をリスト化して表示するようにしてもよい。リスト化した場合、要求値(複数あれば各要求値)の一致度によりソートし、上から順に最適とされたものを列挙してユーザに選択されたもののみをステップS506のスクリュ形状作成処理にかけて描画するようにしてもよい。
【0080】
以上に説明した実施形態においては、形状作成部107がスクリュ形状を描画すると説明したが、IDリスト163にシリンダ構成番号とその形状データとを含め、シリンダ形状も視覚的にイメージ可能に描画するようにしてもよい。
【0081】
以上に説明した実施形態においては、実績データ202または入力フォームから反映情報を取得して基本項目161aが一致する学習ファイル161に反映情報を落とし込む手法をとっているが、これに限定される必要はない。実績データ202または入力フォームから一度基本項目161aおよび実測項目161bのみに値が入力された学習ファイル161を生成、格納した後に、基本項目161aが一致し且つ解析項目161cに値が入力されている学習ファイル161を読み込んで情報の統合を行うようにしてもよい。
【0082】
以上に説明した実施形態においては、最適化データの提示により推定処理を終えているが、最適化データを提示すると共に、解析部103による最適化データを用いた数値解析を行うようにしてもよい。このようにすることにより、最適化データの検証を自動的に行うことができると共に、解析結果として樹脂がどのような物性で押し出されるか等の予測を併せて出力することができる。
【0083】
本発明は、その要旨または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施形態は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、全て本発明の範囲内のものである。
【0084】
また、実施の形態にて述べたスクリュ形状推定装置10における各種ステップを、スクリュ形状推定プログラムとして、図18に示されるような、コンピュータにより読み取り可能な可搬型の記録媒体8に記憶させ、当該記録媒体8を情報処理装置9に読み込ませることにより、前述した機能を情報処理装置9に実現させることができる。記録媒体8としては、例えば、光ディスク(CD−ROM、DVDディスク等)、磁気ディスク(ハードディスクドライブ等)、フラッシュメモリ、ICカード、更にネットワークを介することで伝送可能な媒体等、コンピュータで読み取りや実行が可能な全ての媒体が含まれる。
【符号の説明】
【0085】
10 スクリュ形状推定装置、16 記憶装置(記憶部)、161 学習ファイル(学習情報)、162 知識ファイル(知識情報)、101 取得部(情報取得部)、102 判定部(情報判定部)、103 解析部(数値解析部)、104 ファイル生成部、105 学習部(相関関係学習部)、106 探索部、107 形状作成部(形状推定部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18