特許第6913186号(P6913186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913186
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】シールリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20210727BHJP
【FI】
   F16J15/18 C
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-570698(P2019-570698)
(86)(22)【出願日】2019年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2019003000
(87)【国際公開番号】WO2019155945
(87)【国際公開日】20190815
【審査請求日】2020年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2018-20955(P2018-20955)
(32)【優先日】2018年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勇介
(72)【発明者】
【氏名】渡部 浩二
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−055645(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104930193(CN,A)
【文献】 特開平02−240457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16−15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油の油圧制御のために軸と該軸が挿入される軸孔との間の環状の隙間の密封を図るためのシールリングであって、
軸線周りに環状であり、
外周側に面する前記軸線周りに環状の外周面と、
周方向において互いに離間して形成された前記外周面から内周側に凹む複数の凹部とを備え、
前記複数の凹部は、前記軸線方向において一方の側面から他方の側面に達しない位置までの間に広がっており、
前記外周面は、前記他方の側面から前記他方の側面に達しない位置までの間に環状の面である接触面と、前記複数の凹部の周方向において互いに隣接する凹部の間に、前記軸線方向において前記一方の側面と前記他方の側面に達しない位置との間に延びる面であるリブ面とを有しており、
前記一方の側面は高圧の作動油側の側面であり、前記他方の側面は低圧の作動油側の側面であることを特徴とするシールリング。
【請求項2】
前記リブ面は、周方向に等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1記載のシールリング。
【請求項3】
前記凹部の各々は、外周側に面する面である底面を有しており、
前記底面は、前記凹部の周方向における一端から沈むように前記リブ面に対して斜めに前記凹部の周方向における他端まで延びていることを特徴とする請求項1又は2記載のシールリング。
【請求項4】
前記底面は平面であることを特徴とする請求項3記載のシールリング。
【請求項5】
前記底面は曲面であることを特徴とする請求項3記載のシールリング。
【請求項6】
前記凹部の各々は、外周側に面する面である底面を有しており、
前記底面は、前記凹部の周方向における両端から沈むように内周側に凹んでいることを特徴とする請求項1又は2記載のシールリング。
【請求項7】
前記凹部の前記軸線の方向における幅は、前記外周面の前記軸線の方向における幅よりも大きいことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のシールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸とこの軸が挿入される軸孔との間の密封を図るためのシールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動変速機(AT)や無段変速機(CVT)等において、油圧制御に用いられる作動油の漏洩の防止を図るために、従来から密封装置が用いられている。このような密封装置の中にはシールリングがあり、シールリングは、軸とこの軸が挿入される軸孔との間を密封するために用いられる。具体的には、シールリングは、軸の外周面に形成された溝に取り付けられ、溝の側面と軸孔の内周面とに接触することにより、軸と軸孔との間の空間を密封し、軸と軸孔との間における作動油の油圧を保持するようにしている。
【0003】
このような従来のシールリングには、軸が回転駆動されると、軸孔の内周面にシールリングの外周面が押し付けられて、シールリングが軸孔に対して摺動せず、溝の側面がシールリングの側面に対して摺動する側面摺動タイプのシールリングがある。このような側面摺動タイプのシーリングにおいては、シールリングの側面と溝の側面との間に発生する摺動抵抗を低減するために、シールリングの側部に凹部を設ける等してシールリングの側面を減少させ、シールリングの溝の側面との接触面積の低減を図り、シールリングの側面から溝の側面に加えられるシールリングの押し付け荷重の低減を図っているものがある(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011−105513号
【特許文献2】国際公開第2015−111707号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来のシールリングにおいては、上述のように、シールリングの摺動抵抗の低減を図ることができるが、シールリングの摺動抵抗の低減は、取付対象の構造によって影響を受ける。具体的には、軸と軸孔との間の隙間の大きさや溝の形状によって、シールリングの側面と軸の溝の側面との間の接触面積が増減する。シールリングの溝の側面との接触面積が減少していくと、シール性能が低下してしまう。このため、従来のシールリングにおいては、取付対象の構造に応じてシールリングのシール性能が変化してしまう場合があった。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、取付対象の構造に応じてシールリングのシール性能が変化しないようにできるシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るシールリングは、軸と該軸が挿入される軸孔との間の環状の隙間の密封を図るためのシールリングであって、軸線周りに環状であり、外周側に面する前記軸線周りに環状の外周面と、周方向において互いに離間して形成された前記外周面から内周側に凹む複数の凹部とを備え、前記複数の凹部は、前記軸線方向において一方の側面から他方の側面に達しない位置までの間に広がっており、前記外周面は、前記他方の側面から前記他方の側面に達しない位置までの間に環状の面である接触面と、前記複数の凹部の周方向において互いに隣接する凹部の間に、前記軸線方向において前記一方の側面と前記他方の側面に達しない位置との間に延びる面であるリブ面とを有していることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係るシールリングにおいて、前記リブ面は、周方向に等間隔に配置されている。
【0009】
本発明の一態様に係るシールリングにおいて、前記凹部の各々は、外周側に面する面である底面を有しており、前記底面は、前記凹部の周方向における一端から沈むように前記リブ面に対して斜めに前記凹部の周方向における他端まで延びている。
【0010】
本発明の一態様に係るシールリングにおいて、前記底面は平面である。
【0011】
本発明の一態様に係るシールリングにおいて、前記底面は曲面である。
【0012】
本発明の一態様に係るシールリングにおいて、前記凹部の各々は、外周側に面する面である底面を有しており、前記底面は、前記凹部の周方向における両端から沈むように内周側に凹んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るシールリングによれば、取付対象の構造に応じてシールリングのシール性能が変化しないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るシールリングの概略構成を示す一方の側の側面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係るシールリングの概略構成を示す正面図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係るシールリングの概略構成を示す他方の側の側面図である。
図4】本発明の第1の実施の形態に係るシールリングの概略構成を示す部分拡大斜視図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係るシールリングが取付対象としての油圧装置のハウジング及びこのハウジングに形成された貫通孔である軸孔に挿入された軸に取り付けられた使用状態におけるシールリングの部分拡大断面図である。
図6】本発明の第1の実施の形態に係るシールリングが取付対象としての油圧装置のハウジング及びこのハウジングに形成された貫通孔である軸孔に挿入された軸に取り付けられた使用状態におけるシールリングの他の断面における部分拡大断面図である。
図7】本発明の第1の実施の形態に係るシールリングにおけるリブ部の変形例を示すシールリングの拡大側面図である。
図8】本発明の第2の実施の形態に係るシールリングの概略構成を示すシールリングの一方の側の側面の一部を拡大して示す部分拡大側面図である。
図9】本発明の第2の実施の形態に係るシールリングにおける凹部の第1の変形例を示すシールリングの一方の側の側面の部分拡大側面図である。
図10】本発明の第2の実施の形態に係るシールリングにおける凹部の第2の変形例を示すシールリングの一方の側の側面の部分拡大側面図である。
図11】本発明の第2の実施の形態に係るシールリングにおける凹部の第3の変形例を示すシールリングの一方の側の側面の部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るシールリング1の概略構成を示す一方の側の側面図であり、図2は、シールリング1の概略構成を示す正面図であり、図3は、シールリング1の概略構成を示す他方の側の側面図である。また、図4は、シールリング1の概略構成を示す部分拡大斜視図である。本実施の形態に係るシールリング1は、軸とこの軸が挿入される軸孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であり、車両や汎用機械において、互いに相対回転する軸とハウジング等に形成されたこの軸が挿入される軸孔との間を密封するために用いられる。シールリング1は、例えば、自動変速機や無段変速機において、作動油の油圧を保持するために、軸の外周面に形成された溝に取り付けられて用いられる。なお、本発明の実施の形態に係るシールリング1が適用される対象(取付対象)は、上記に限られない。
【0016】
図1に示すように、シールリング1は、軸線x周りに環状であり、外周側に面する軸線x周りに環状の外周面2と、周方向において互いに離間して形成された外周面2から内周側に凹む複数の凹部3とを備えている。複数の凹部3は、軸線x方向において一方の側面4から他方の側面5に達しない位置までの間に広がっている。外周面2は、他方の側面5から上述の他方の側面5に達しない位置までの間に環状の面である接触面6と、複数の凹部3の周方向において互いに隣接する凹部3の間に、軸線x方向おいて一方の側面4と上述の他方の側面5に達しない位置との間に延びる面であるリブ面7とを有している。
【0017】
具体的には、外周面2は、外周側に面する面であり、後述する使用状態において軸が挿通される軸孔の内周面に押し付けられてこの内周面上を摺動する摺動面として形成された面である。外周面2は、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面上に延びている。一方の側面4は、後述する使用状態において高圧の作動油が作用する側の側面であり、以下、高圧側側面4ともいう。また、他方の側面5は、後述する使用状態において低圧の作動油が作用する側の側面であり、軸に形成された溝の溝側面に押し付けられる側面であり、以下、低圧側側面5ともいう。
【0018】
シールリング1は、図1〜3に示すように、軸線xに沿う面における断面の形状が矩形又は略矩形であり、前述の外周面2、高圧側側面4及び低圧側側面5と、内周側に面する面である内周面8とを有している。高圧側側面4及び低圧側側面5は、例えば、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に広がる環状の面であり、互いに背向している。また、内周面8は、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面であり、外周面2に背向している。高圧側側面4及び低圧側側面5は、外周面2と内周面8との間に広がっている。
【0019】
図1,2に示すように、シールリング1の外周側の部分には、外周面2から内周側に凹んだ部分である凹部3が周方向に並んで複数形成されている。凹部3は、例えば、夫々同一であり、軸線x周りに等角度間隔又は略等角度間隔に形成されている。各凹部3は、軸線x方向において、高圧側側面4から低圧側側面5に達しない軸線x方向におけるシールリグ1の幅の途中の位置(溝側面位置L(図2参照))まで広がっている。図2に示すように、凹部3は、径方向において外周側から見て、矩形又は略矩形の形状をしている。
【0020】
具体的には、図4に示すように、凹部3は、高圧側側面4から高圧側側面4側に開放しており、また、外周面2から外周側に開放しており、周方向の両端及び低圧側側面5側の端部において閉じられている。凹部3は、例えば、図4に示すように、外周側に面する面である底面31と、底面31の周方向の両端から外周側に向かって延びる面である前壁面32及び後壁面33と、底面31の低圧側側面5側の端から外周側に向かって延びる面である横壁面34とを有している。底面31は、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面上に広がる曲面である。底面31は平面であってもよい。前壁面32及び後壁面33は、軸線xから軸線xに平行に又は略平行に延びる平面又は略平面上に延びており、底面31と外周面2(リブ面7)との間に延びている。前壁面32は、後述する使用状態におけるシールリングの回転方向(シールリング回転方向(図1,4参照))において前側に位置しており、後壁面33は、シールリング回転方向において後側に位置している。横壁面34は、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面上に延びており、底面31と外周面2(接触面6)との間に延びている。このように、凹部3は、底面31、前壁面32、後壁面33、及び横壁面34によって画成されており、内部に略矩形板状の空間を形成している。
【0021】
周方向において互いに隣接する凹部3の間には、底面31から外周側に外周面2(リブ面7)まで突出する部分であるリブ部35が形成されており、リブ部35は軸線xに平行又は略平行に延びており、互いに背向する前壁面32及び後壁面33と、リブ面7と、高圧側側面4とによって画成されている。また、凹部3夫々と低圧側側面5との間には、底面31から外周側に外周面2(接触面6)まで突出する環状の部分である接触突部36が形成されており、接触突部36は、低圧側側面5と、横壁面34と、接触面6とによって画成されている。
【0022】
外周面2は、上述のように、1つの接触面6と複数のリブ面7とを有している。図4に示すように、接触面6は、具体的には、軸線x方向において、低圧側側面5と溝側面位置Lとの間に広がる軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面である。また、各リブ面7は、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面上に軸線xに平行又は略平行に延びる略矩形状の面である。外周面2は、後述する使用状態において、軸孔の内周面に接触してこの内周面上を摺動する摺動面となる。つまり、接触面6及びリブ面7は、後述する使用状態において、摺動面となる。後述する使用状態において、シールリング1に加わる摺動抵抗を低減させるために、接触面6の軸線x方向における幅は小さい方が好ましい。
【0023】
シールリング1は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材から形成されている。シールリング1の外周面2(接触部6)の周長は、軸が挿通される軸孔の内周面の周長よりも短くなっており、軸孔に対して締め代を持たないようになっている。このため、使用状態において流体圧力がシールリング1に作用していない状態においては、シールリング1の外周面2は軸孔の内周面から離れた状態となる。
【0024】
また、シールリング1は、無端ではなく、図1〜3に示すように、周方向の1箇所に合口部9が設けられている。合口部9は、シールリング1の熱膨張又は熱収縮によりシールリング1の周長が変化しても安定したシール性能を維持可能にする公知の構造となっている。合口部9の構造としては、例えば、外周面2側及び両側面4,5側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカット構造や、ストレートカット構造、バイアスカット構造、ステップカット構造等がある。また、シールリング1の材料として、低弾性の材料(PTFE等)を採用した場合には、シールリング1には合口部9を設けずに、シールリング1を無端としてもよい。
【0025】
次いで、上述の構成を有するシールリング1の作用について説明する。
【0026】
図5は、シールリング1が取付対象としての油圧装置100のハウジング101及びこのハウジング101に形成された貫通孔である軸孔102に挿入された軸110に取り付けられた使用状態におけるシールリング1の部分拡大断面図である。軸110はハウジング101に対して相対回転可能になっており、軸110の外周面111には、中心側に凹む環状の溝112が形成されている。溝112は、断面形状が矩形又は略矩形であり、平面状の側面113,114と底面115とによって画成されている。油圧装置100において、軸孔102の内周面103と軸110の外周面111との間には環状の空間が形成されており、軸110及びハウジング101には、図示しない作動油が充填される油圧経路が形成されている。シールリング1は溝112に取り付けられて油圧経路内の作動油の油圧の損失を防止するために、軸110と軸孔102との間の隙間Gを密封する。図5においては、溝112の右側が油圧経路となっており、溝112の左側の側面113がシールリング1の押し付けられる接触側面となり、溝112の右側(H側)が高圧に、溝112の左側(L側)が低圧となる。シールリング1は、低圧側側面5が溝112の接触側面113と対向するように溝112に取り付けられる。
【0027】
油圧経路に作動油が導かれると油圧経路が高圧となり、シールリング1の外周面2及び低圧側側面5が夫々軸孔102の内周面103及び溝112の接触側面113に押し付けられる。これにより、環状の隙間Gにおいて油圧経路が密封され、油圧の保持が図られる。このとき、各凹部3と軸孔102の内周面103との間には、高圧側(H)に開放された空間Sが形成されており、この空間S内に高圧の作動油が入り込んでいる。そして、図5に示すように、高圧の作動油の圧力による力(図5の矢印PL)が内周面8に加わり、また、高圧の作動油の圧力による力(図5の矢印PU)が凹部3の底面31に加わる。凹部3は、シールリング1の幅において高圧側側面4から途中(横側面位置L)まで延びており、内周面8に加わる力PLの大部分は凹部3の底面31に加わる力PUによって相殺される。これにより、シールリング1の高圧側側面4に加わる高圧の作動油の圧力による力(図5の矢印PS)の方が、外周面2(接触面6及びリブ面7)を軸孔102の内周面103に押し付ける力(PL−PU)よりも大きくなる。このため、軸110が回転すると、軸110と共にシールリング1が回転し、シールリング1の外周面2が軸孔102の内周面103に対して摺動する。また、シールリング1の低圧側側面5は、溝112の接触面113に接触したままでいる。
【0028】
このように、シールリング1は、取付対象である油圧装置100における軸孔102と軸110との間の隙間Gの径方向の幅や軸110の偏心等によって溝112の接触側面113との接触面積が変わることなく、外周面2(接触面6及びリブ面7)が取付対象である油圧装置100(軸孔102の内周面103)に対して摺動する。このため、取付対象である油圧装置100の構造に応じてシールリング1のシール性能が変化しない。
【0029】
また、図6に示すように、使用状態において、リブ部35が形成されている範囲では、シールリング1は、両側面4,5の間全体において軸孔102の内周面103に接触している。つまり、凹部3が形成されている範囲においても、リブ部35のリブ面7が軸孔102の内周面103に接触している。このため、接触面6が軸孔102の内周面103に対して傾くことを防止することができ、接触面6の軸孔102の内周面103に対する接触状態を安定させることができる。また、同様に、低圧側側面5が溝112の側面113に対して傾くことを防止することができ、低圧側側面5の溝112の側面113に対する接触状態を安定させることができる。これにより、シールリング1のシール性能を安定させることができる。また、これにより、シールリング1のシール性能の安定性を維持しつつ接触面6の幅をより小さくすることができる。
【0030】
また、凹部3により、シールリング1の軸孔102の内周面103に対する接触面積を低減することができ、シールリング1に対する軸孔102の摺動抵抗を低減させることができる。
【0031】
また、シールリング1は、上述のようにシールリング1に対する軸孔102の摺動抵抗を低減することができるため、使用時に摺動部に発生する発熱を抑制することができ、更なる高PV条件下での使用が可能になる。また、軟質な軸110に対してもシールリング1を使用することができる。
【0032】
このように、本発明の第1の実施の形態に係るシールリング1によれば、取付対象の構造に応じてシールリング1のシール性能が変化しないようにできる。
【0033】
上述のように、使用状態においてシールリング1は軸110と共に回転し、外周面2は軸孔102の内周面103に対して摺動し、凹部3は軸孔102の内周面103に沿って動く。このため、凹部3内に入り込んだ作動油が凹部3と共に軸孔102の内周面103に沿って動き、リブ部35によって作動油の動圧効果が発生し、リブ面7と軸孔102の内周面103との間に油膜が形成される。これにより、シールリング1に加わる摺動抵抗を低減することができる。動圧効果を考慮すると、リブ部35の形状はシールリング1の回転方向において滑らかなものがよい。例えば、図7に示すリブ部35の変形例のように、リブ部35が角部を有していない形状とすることにより、動圧効果によりリブ面7に形成される作動油の膜厚を増加させることができる。具体的には、変形例に係るリブ部35においては、凹部3の底面31と前壁面32とは曲面によって滑らかに繋がっており、前壁面32とリブ面7とは曲面によって滑らかに繋がっており、リブ面7と後壁面33とは曲面によって滑らかに繋がっており、後壁面33と底面31とは曲面によって滑らかに繋がっている。底面31と前壁面32及び後壁面33とは曲面ではなく斜めに延びる1つ又は複数の平面によって滑らかに繋がっていてもよく、同様に、リブ面7と前壁面32及び後壁面33とは曲面ではなく斜めに延びる1つ又は複数の平面によって滑らかに繋がっていてもよい。
【0034】
次いで、本発明の第2の実施の形態に係るシールリング10について説明する。図8は、シールリング8の概略構成を示すシールリング10の一方の側の側面の一部を拡大して示す部分拡大側面図である。本発明の第2の実施の形態に係るシールリング10は、上述の本発明の第1の実施の形態に係るシールリング1に対して、凹部及びリブ部の構造が異なる。以下、本発明の第2の実施の形態に係るシールリング10について、本発明の第1の実施の形態に係るシールリング1と同一又は同様の機能を有する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0035】
図8に示すように、シールリング10は、シールリング1の凹部3と同様に周方向に並んで形成された複数の凹部40を有しており、互いに隣接する凹部40の間にはリブ面7を有するリブ部46が形成されている。凹部40の底面41は、凹部40の周方向における両端から沈むように内周側に凹んでいる。具体的には、底面41は、底部42と、前壁部43と、後壁部44とから形成されており、底部42は、内周側に凸に湾曲する曲面であり、前壁部43及び後壁部44は、外周側に凸に湾曲する曲面である。前壁部43は内周側の端部において滑らかに底部42に繋がっており、また、後壁部44は内周側の端部において滑らかに底部42に前壁部43とは反対側において繋がっている。このように凹部40の底面41は、滑らかな曲面を形成し、前壁部43、底部42、及び後壁部44によって画成されている。また、凹部40において、前壁部43、底部42、及び後壁部44の低圧側側面5側の縁から接触面6まで延びる、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面である横壁面45が形成されている。この横壁面45、接触面6、及び低圧側側面5によって環状の接触突起36が画成されている。リブ部46は、周方向において互いに背向する前壁部43及び後壁部44と、前壁部43と後壁部44との間に延びるリブ面7とによって画成されている。
【0036】
上述のように、本発明の第2の実施の形態に係るシールリング10においては、凹部40の底面41が底部42から前壁部43又は後壁部44を介して滑らかにリブ面7に繋がっており、凹部40における作動油の動圧効果を高めることができる。このため、使用状態において、リブ面7と軸孔102の内周面103との間により厚い作動油の膜を形成することができ、シールリング10に加わる摺動抵抗をより低減することができる。
【0037】
このように、本発明の第2の実施の形態に係るシールリング10によれば、上述の本発明の第1の実施の形態に係るシールリング1の奏する作用効果に加えて、シールリング10に加わる摺動抵抗をより低減する効果を奏することができる。
【0038】
次いで、上述のシールリング10の凹部40の変形例について説明する。
【0039】
図9は、上述のシールリング10の凹部40の第1の変形例を示すシールリング10の一方の側の側面の部分拡大側面図である。図9に示すように、第1の変形例に係る凹部40は、底面41が凹部40の周方向における両端からV字状に沈むように内周側に凹んでいる。具体的には、底面41は、底部42を有しておらず、リブ部46を画成する前壁部43及び後壁部44によって形成されている。前壁部43は、凹部40の周方向における一端から、リブ面7から沈み込むようにリブ面7に対して斜めに延びている平面又は略平面であり、後壁部44は、凹部40の周方向における他端から、リブ面7から沈み込むようにリブ面7に対して斜めに延びている平面又は略平面である。前壁部43と後壁部44とは、内周側の端部において接続している。
【0040】
図10は、上述のシールリング10の凹部40の第2の変形例を示すシールリング10の一方の側の側面の部分拡大側面図である。図10に示すように、第2の変形例に係る凹部40は、凹部40の周方向における一端から沈むようにリブ面7に対して斜めに凹部40の周方向における他端まで延びている。具体的には、底面41は、凹部40のシールリング回転方向における後側の端である、リブ面7のシールリング回転方向における前側の縁から、沈むようにリブ面7に対して斜めに周方向に延びている。底面41は、平面又は略平面である。リブ面7のシールリング回転方向における後側の縁からは、径方向に延びる平面又は略平面である前壁面32が延びており、凹部40において、底面41は周方向における凹部40の他端(凹部40のシールリング回転方向における前側の端)まで延びており、ここで前壁面32に接続している。リブ部46は、底面41及び前壁面32によって画成されている。
【0041】
図11は、上述のシールリング10の凹部40の第3の変形例を示すシールリング10の一方の側の側面の部分拡大側面図である。図11に示すように、第3の変形例に係る凹部40は、凹部40の周方向における一端から沈むようにリブ面7に対して斜めに凹部40の周方向における他端まで延びている。具体的には、底面41は、凹部40のシールリング回転方向における後側の端である、リブ面7のシールリング回転方向における前側の縁から、沈むようにリブ面7に対して斜めに周方向に延びている。底面41は、曲面である。リブ面7のシールリング回転方向における後側の縁からは、径方向に延びる平面又は略平面である前壁面32が延びており、凹部40において、底面41は周方向における凹部40の他端(凹部40のシールリング回転方向における前側の端)まで延びており、ここで前壁面32に接続している。底面41は、シールリング回転方向における後側のリブ面7から延びる後壁部44と、後壁部44にシールリング回転方向における前側において接続する底部42とを有している。底部42は、内周側に凸に湾曲する曲面であり、後壁部44は、外周側に凸に湾曲する曲面である。後壁部44は底部42に滑らかに繋がっている。底部42は、シールリング回転方向における前側において前壁面32に接続している。このように凹部40の底面41は、滑らかな曲面を形成し、底部42及び後壁部44によって画成されている。底部42は、前壁面32との接続部分よりも内周側に凹んでいてもよく、前壁面32との接続部分よりも内周側に凹んでいなくてもよい。リブ部46は、前壁面32、リブ面7、及び後壁部44によって画成されている。なお、後壁部44は、リブ面7から沈み込むようにリブ面7に対して斜めに延びる平面又は略平面であってもよい。
【0042】
上述の変形例に係る凹部40も、シールリング2において上述の凹部40と同様に作用し、同様の効果を奏する。
【0043】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係るシールリング1,10に限定されるものではなく、本発明の概念及び請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。また、例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0044】
リブ面7は、上述のように円筒面又は略円筒面(外周面2)上に延びる面としたが、リブ面7の形状はこれに限られない。リブ面7は、例えば、外周面2とは異なる曲率の円筒面又は略円筒面であってもよく、他の曲面であってもよく、平面と曲面の組み合わせであってもよい。また、リブ面7は、外周面2上において面を形成していなくてもよい。例えば、リブ面7は、前壁面32と後壁面33とが外周側において接続し、前壁面32及び後壁面33の外周側の部分によって形成されていてもよい。同様に、例えば、リブ面7は、前壁部43と後壁部44とが外周側において接続し、前壁部43及び後壁部44の外周側の部分によって形成されていてもよい。また同様に、例えば、リブ面7は、前壁面32又は後壁面33と後壁部44又は前壁部43とが夫々外周側において接続し、前壁面32及び後壁部44の外周側の部分によって、又は後壁面33及び前壁部43の外周側の部分によって形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1,10・・・シールリング、2・・・外周面、3,40・・・凹部、4・・・高圧側側面、5・・・低圧側側面、6・・・接触面、7・・・リブ面、8・・・内周面、9・・・合口部、31,41・・・底面、32・・・前壁面、33・・・後壁面、34,45・・横壁面、35,46・・・リブ部、36・・・接触突部、42・・・底部、43・・・前壁部、44・・・後壁部、100・・・油圧装置、101・・・ハウジング、102・・・軸孔、103・・・内周面、110・・・軸、111・・・外周面、112・・・溝、113,114・・・側面、115・・・底面、G・・・隙間、L・・・溝側面位置、S・・・空間、x・・・軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11