(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、車載用のミリ波レーダーにおいては、電磁波を受発振するアンテナと、そのアンテナを駆動する駆動回路および電源を含む電子回路とによって構成されている。
【0003】
電磁波を受発振するアンテナのサイズ(寸法)は、アンテナの形式にも依存するが、多くの場合、電磁波の周波数が高いほど波長が短くなるため、同形式のアンテナでは周波数が高いほど小さくなる。また、電子回路としては、半導体技術の進歩により集積化、微細化が進み、この分野に限らず、急激に小型化が進んでいる。
【0004】
これに対して、従来の低周波数のレーダー製品や、半導体技術がそれほど進歩していない時代の電子回路搭載製品では、アンテナおよび電子回路のサイズ(寸法)が大きいため、アンテナおよび電子回路が別筐体となっており、たとえ同一筐体であってもアンテナおよび電子回路が筐体内で独立して配置されることが多かった。
【0005】
ミリ波レーダーの電気的な構成部品であるアンテナおよび電子回路の小型化によって、これらのアンテナおよび電子回路を同一の筐体内に収納可能としたレーダーカバーが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
このように、アンテナおよび電子回路が同一の筐体内に収納可能となったり、或いは、近接された状態で搭載されることになったので、アンテナと電子回路とを物理的に仕切って区分けすることが困難となり、アンテナと電子回路との境界が不明確になりつつある。
【0007】
一方、これらのミリ波レーダーの構成部品を収納する筐体の設計においては、電磁波(ミリ波)の有効活用の観点、および、電子機器に要求される不要電磁波の放射抑制の観点から、筐体の電磁波伝搬特性を考慮する必要がある。
【0008】
従来のように、アンテナおよび電子回路が別筐体となっていたり、互いに独立して配置されていた場合、ミリ波レーダーの有効活用と不要電磁波の放射抑制の2つの観点を考慮してそれぞれ単独に筐体を設計することができた。
【0009】
しかしながら、アンテナおよび電子回路の小型化が進み、アンテナおよび電子回路が非常に近接した状態で搭載される近年のミリ波レーダーでは、電磁波(ミリ波)の有効活用の観点、および、電子機器に要求される不要電磁波の放射抑制の観点を同時に満足する筐体設計が困難となっている。
【0010】
具体的には、ミリ波レーダーの部位ごとに筐体材料への電磁波の透過性、或いは、遮蔽性の要求が異なるため、部位ごとに筐体材料の設計仕様が異なっていた。
図17は、要求される設計仕様を部位A、Bと周波数帯I、IIとに分けてまとめたものである。
【0011】
部位については、ミリ波レーダーとして使用するミリ波を透過・遮蔽させる観点から、電磁波(ミリ波)を受発振する部位A(レーダーではレドームに相当する部分)と、当該部位Aを除き、ミリ波レーダーを収納する残りの部位Bとの2つに分けられている。
【0012】
また、設計を考慮する周波数についても、機能上、電磁波として使用するミリ波帯の周波数帯I(76.5GHz)と、不要電磁波の放射抑制および外部からの電磁波侵入を考慮すべき広い周波数帯、特に1GHz以下のEMC(Electromagnetic Compatibility)領域(ノイズ対策領域)の周波数帯II(約1GHz以下)との2つに分けられている。なお、ミリ波帯の周波数帯Iとしては、76.5GHzに限らず、76GHz〜81GHzの範囲で任意に設定されてもよい。
【0013】
これらの部位A、B、および、周波数帯I(76.5GHz)、周波数帯II(約1GHz以下)を考慮したときの筐体材料に対する電磁波の透過率Tは、部位A、B、周波数帯I(76.5GHz)、周波数帯II(約1GHz以下)ごとに設定する必要がある。
【0014】
例えば、部位Aかつ周波数帯I(約76.5GHz以下)の領域AIでは、ミリ波レーダーのレーダー機能を実現させるためにミリ波の電磁波を透過させる必要性があるので、その電磁波に対する筐体材料の透過率Tは「1」であることが望ましい。ここで、透過率Tが「1」であるというのは、筐体材料が電磁波を透過する全透過の状態のことをいう。
【0015】
特に、レーダー用途の場合、理論上、電磁波がミリ波レーダーのアンテナと対象物との間の距離の2乗に比例して減衰する。このため、アンテナから送信した後、対象物に反射して戻ってくる往復の距離で考えると、電磁波は距離の4乗に比例して減衰することになり、筐体材料の透過率Tは、製品としての性能(検出感度、確度、精度)に大きく影響する。
【0016】
例えば、部位Bかつ周波数帯I(76.5GHz)の領域BIでは、機能上、ミリ波の電磁波を透過させる必要性がなく、むしろ外部の他の機器から電磁波の干渉、混信を防ぐためにミリ波の侵入を防止したい。すなわち、ミリ波の電磁波を遮蔽させるために筐体材料の透過率Tは「0」であることが望ましい。ここで、透過率Tが「0」であるというのは、筐体材料が電磁波を一切透過させない全遮蔽の状態のことをいう。
【0017】
部位Aかつ周波数帯II(約1GHz以下)の領域AII、および、部位Bかつ周波数帯II(約1GHz以下)の領域BIIにおいても、不要電磁波の放射抑制の観点から、EMC領域における周波数帯II(約1GHz以下)の電磁波を透過させることなく遮蔽させるために筐体材料の透過率Tは「0」であることが望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<実施の形態>
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。ここでは、説明の便宜上、
図1および
図2において、ミリ波レーダー用カバー1の正面側を矢印a方向とし、背面側を矢印b方向とする。
【0031】
<ミリ波レーダー用カバーの全体構成>
図1および
図2に示すように、ミリ波レーダー用カバー1は、ミリ波の周波数帯(30〜300GHz)のうち、例えば76.5GHzの電磁波を受発振する発振源としてのアンテナ30と、そのアンテナ30を駆動する駆動回路および電源等を含む電子回路40とを収納するとともに外部から保護する筐体である。
【0032】
ミリ波レーダー用カバー1は、電磁波を受発振するアンテナ30の正面に配置されるレドームに相当する第1の部位Aと、その第1の部位Aを除き、アンテナ30および電子回路40を収納する収容空間が形成された有底角筒形状の収容部に相当する第2の部位Bと、を備えている。
【0033】
図3(A)および(B)に示すように、ミリ波レーダー用カバー1の第1の部位Aには、第1構成材11と、当該第1構成材11を正面側(矢印a方向)および背面側(矢印b方向)の双方から挟持する第2構成材12とにより積層された3層の積層構造体10を用いている。
【0034】
また、ミリ波レーダー用カバー1の第2の部位Bは、鉄等の金属製のシールド材料または樹脂等に金属メッキが施された複合材料によって形成されており、電子回路40からの不要電磁波の放射抑制および外部の電子機器からの干渉、混信を防止している。すなわち、第2の部位Bについては、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)、および、EMC領域の周波数帯II(約1GHz以下)の何れにおいても透過率Tは「0」である。
【0035】
なお、第1の部位Aは、上述したように、ミリ波帯の周波数帯I(76.5GHz)では、ミリ波レーダーのレーダー機能を実現させるためにミリ波を通過させる必要性があるので、電磁波に対する積層構造体10の透過率Tは「1」であることが望ましい。一方、第2の部位Bは、EMC領域(ノイズ対策領域)の周波数帯II(約1GHz以下)では、不要電磁波の放射抑制の観点から、電磁波を透過させることなく遮蔽させるために積層構造体10の透過率Tは「0」であることが望ましい。
【0036】
<積層構造体の構成>
このように第1の部位Aにおいては、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)では透過率Tが「1」、EMC領域の周波数帯II(約1GHz以下)では透過率Tが「0」となるような全く正反対の特性が要求されている。この正反対の要求を満足する材料は存在しないため、本発明では人工物である積層構造体10を用いることにした。
【0037】
積層構造体10において、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において見かけ上の透過率Tが「1」、EMC領域の周波数帯II(約1GHz以下)において見かけ上の透過率Tが「0」を同時に満足させる筐体として、
図3に示すように、第1構成材11および第2構成材12を用いる。ただし、透過率Tが「1」または「0」というのは、あくまで理論上の値であり、実際に実現および評価可能な値として、透過率T=1に対しては透過率T=0.95(−0.45dB)以上の1近傍の値、透過率T=0に対しては透過率T=0.1(−20dB)以下の0近傍の値とする。
【0038】
図3(A)、(B)に示したように、この場合の積層構造体10は、正面側(矢印a方向)に配置された第2構成材12と背面側(矢印b方向)に配置された第2構成材12との間に第1構成材11を挟み付けて接着剤等により一体に形成した3層のサンドイッチ構造である。ただし、これに限るものではなく、第2構成材12と第1構成材11とをそれぞれ少なくとも1層以上積層していれば、2層であってもよく、または第2構成材12および第1構成材11がそれぞれ複数積層された4層以上の多層積層構造体であってもよい。
【0039】
図4に示すように、第1構成材11は、全体的に矩形状を有し、例えば銅(金属)のような電子伝導性の導電性材料であって、例えば銅の金属線を用いて網戸のような格子状に形成されている。なお、第1構成材11は、矩形状に限らず、レーダーの形状に応じて、円形、楕円形等のその他種々の形状であってもよい。またなお、第1構成材11の導電性材料としては、銅等の金属全般に限るものではなく、カーボン、導電性高分子、導電性ポリマー等や、これら(金属、カーボン、導電性高分子、導電性ポリマー等)を樹脂やゴム、エラストマー等に配合し、導電性を付与した材料等であってもよい。
【0040】
具体的には、第1構成材11は、格子を形成している枠の厚みt、枠幅d、枠の配列間隔aによって格子の大きさや数等が決定される。なお、配列間隔aは、格子を構成している互いに隣接した枠の内側端と枠の内側端との間の距離としているが、これに限るものではなく、枠の中心と枠の中心との間のセンター間距離としてもよい。
【0041】
第2構成材12は、ミリ波レーダー用カバー1の筐体として必要な材料強度、耐性を有する樹脂(例えば、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン等)、ゴム等の誘電体によって形成されている。この第2構成材12は、第1構成材11と同様に全体的に矩形状を有し、当該第1構成材11と同じ大きさ、または、第1構成材11がはみ出ることのない僅かに大きなサイズである。
【0042】
ここで、
図5に示すように、積層構造体10は、自由空間に配置されるため、当該積層構造体10の正面側(矢印a方向)の表面10aと、積層構造体10の内部面10bとの2界面でアンテナ30から放射された電磁波の反射が起こる状況である。
【0043】
このような状況において、自由空間に配置される積層構造体10の透過率Tは、反射率Γとの関係で成立し、次の式(1)に示すように、空気および積層構造体10のような異なる物質の波動インピーダンスηによって決まる。すなわち、積層構造体10の透過率Tは、自由空間(空気)の波動インピーダンスη1、当該積層構造体10と等価的な波動インピーダンスη2によって決まる。なお、反射率Γ=(η2−η1)/(η2+η1)である。
【0044】
T=1+Γ
=1+(η2−η1)/(η2+η1)
=2・η2/(η2+η1)………………………………………………………(1)
T:透過率
Γ:反射率
η1:入射側の物質(空気)の波動インピーダンス
η2:出射側の物質(積層構造体10)の波動インピーダンス
【0045】
したがって、式(1)により、入射側の物質(空気)の波動インピーダンスη1と、出射側の物質(積層構造体10)の波動インピーダンスη2とを等しくすれば透過率T=1とすることができる。これは、逆に、出射側の物質(積層構造体10)の波動インピーダンスη2が波動インピーダンスη1よりも小さければ透過率T≒0とすることができることを意味する。
【0046】
ここで、波動インピーダンスηは、その物質の誘電率と透磁率で定められ、次の式(2)によって表される。
η=√(μ0・μr/ε0・εr)……………………………………………………(2)
μ0:真空の透磁率
μr:比透磁率
ε0:真空の誘電率
εr:比誘電率
【0047】
したがって、入射側の物質(空気)の波動インピーダンスη1は、次の式(3)で表され、出射側の物質(積層構造体10)の波動インピーダンスη2は、次の式(4)で表される。
【0048】
η1=√(μ0・μr1/ε0・εr1)……………………………………………(3)
η2=√(μ0・μr2/ε0・εr2)……………………………………………(4)
【0049】
このように波動インピーダンスη1、η2は、式(3)、式(4)で表されるため、自由空間(空気)の比透磁率μr1、比誘電率εr1、および、積層構造体10の等価的な比透磁率μr2、比誘電率εr2によって透過率Tが決まることになる。
【0050】
ここで、式(3)において、自由空間(空気)の比透磁率μr1、比誘電率εr1は双方ともにほぼ「1」と考えると、積層構造体10の等価的な比透磁率μr2と比誘電率εr2とが同一の値であれば、空気の波動インピーダンスη1と、積層構造体10の等価的な波動インピーダンスη2とが同一の値となり、透過率T=1を実現できることになる。
【0051】
逆に、積層構造体10の等価的な比透磁率μr2と比誘電率εr2との比が小さくなれば、すなわち、分母である比誘電率εr2が負の値であり、かつ、絶対値が大きくなれば、波動インピーダンスη2が「0」に近づくため、透過率T=0を実現できることになる。
【0052】
しかしながら、非磁性体の比透磁率μrはほぼ1の値をとるが、一般的に利用される非磁性体の工業用材料として、最も低いとされるポリテトラフルオロエチレンでも比誘電率εrは2であり、比誘電率εrと比透磁率μrとを同等とするためには磁性材料を配合し、比透磁率μrを上げる必要がある。しかし、磁性材料は電磁波の損失が大きいため使用には適さず、同様に、磁性材料単体でも使用には適さない。
【0053】
そこで、本発明では、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において負の比誘電率εrを持つ人工材料からなる第1構成材11と、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において通常の正の比誘電率εrを持つ第2構成材12を積層させた積層構造体10を形成することにより、当該積層構造体10としての等価的な比透磁率μr2と比誘電率εr2とが同一になるように設定することができる。
【0054】
この積層構造体10では、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において当該積層構造体10の等価的な比誘電率εrを等価的な比透磁率μr=1に合わせ、かつ、EMC領域(ノイズ対策領域)の周波数帯II(約1GHz以下)においては、積層構造体10の等価的な比誘電率εrが負であり、かつ、絶対値としては大きくさせる必要がある。
【0055】
積層構造体10を形成する第1構成材11は、例えば、一般的に金属からなる電子伝導性の導電性材料からなる。ただし、第1構成材11は金属である必要は必ずしもなく、イオン伝導やホール伝導ではなく電子伝導性の導電性材料であればよい。例えば、金属以外には、カーボン、導電性高分子、導電性ポリマー等や、これらを樹脂やゴム、エラストマー等に配合し、導電性を付与した材料等がある。
【0056】
第1構成材11に用いられる導電性材料の比誘電率εrは、電子伝導についてのモデルであるドルーデモデルにより記述され、
図6に示すように、プラズマ振動数fp以上の周波数f(f≧fp)では正の値を示し、プラズマ振動数fpよりも低い周波数f(f<fp)では負の値を示す。ドルーデモデルでは、金属の比誘電率εrは、電子の質量、電荷、および、伝導電子数で与えられ、プラズマ振動数fpは、比誘電率εrが0となる周波数である。
【0057】
この場合、第1構成材11に用いられる金属の導電性材料では、一般的にプラズマ振動数fpが光の領域の周波数帯にあるので、
図7に示すように、このプラズマ振動数fpをマイクロ波、ミリ波からテラヘルツ波の領域近傍に設定し、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)がプラズマ振動数rpよりも僅かに低く、比誘電率εrが0より小さい負の値を持つようにする。このようにした場合、EMC領域(ノイズ対策領域)の周波数帯II(約1GHz以下)については、比誘電率εrが−500以下の負の値を持つようになる。
【0058】
光の領域の周波数帯にあるプラズマ振動数fpをミリ波の領域の周波数帯I(76.5GHz)の近傍に設定するには、導電性材料における伝導電子数を制限(減少)することにより、金属からなる導電性材料のプラズマ振動数fpを光の領域からミリ波の領域近傍に設定することが可能となる。
【0059】
伝導電子数を制限するには、具体的には、導電性材料の物理的な寸法や面積を小さくすれば、導電性材料の全体の伝導電子数を減らすことができるので可能である。具体的には、
図4に示したように、第1構成材11を格子状に形成し、導電性材料を幾何学的に配置することにより実現することが可能である。すなわち、第1構成材11の面積を減らして電子の数を物理的に制限すればよい。
【0060】
なお、第1構成材11は、必ずしも金属からなる格子(以下、これを「金属格子」とも呼ぶ。)である必要はない。例えば、第1構成材11としては、ポリイミドフィルムの面に銅箔パターンを印刷した後、エッチングにより格子状に形成することも可能である。第1構成材11の材料や製法については、全体の伝導電子数を制限して所望の比誘電率εrを得ることができれば、いずれの材料、製法であってもよい。
【0061】
図7には、格子を形成している枠の厚みt=0.2mm、枠幅d=0.06mm、配列間隔a=1.2mmとした場合の第1構成材11の比誘電率εrの計算結果を示す。第1構成材11を格子状として全体の面積を小さくして電子の数を制限するようにしたことにより、
図8に示すように、積層構造体10の等価的な比誘電率εrを等価的な比透磁率μr=1に合わせるとともに、光の領域の周波数帯にあるプラズマ振動数fpをミリ波の領域の周波数帯I(76.5GHz)の近傍に設定することができる。その結果、第1構成材11の周波数帯I(76.5GHz)における比誘電率εrは、積層する第2構成材12の誘電率εにも依るが、設計値として比誘電率εrを0より小さく-25より大きく、望ましくは−1以下−10以上程度の−5以下の負の値を持つようにする。周波数帯II(約1GHz以下)については、積層する第2構成材12の誘電率εにも依るが、比誘電率εrは−500以下の負の値を持つようになる。
【0062】
ただし、第1構成材11の格子については、所望の比誘電率εrに合わせて、枠の厚みt、枠幅d、配列間隔aを適宜設定することが可能であり、丸形状、三角形状等の任意の形状を選択することができる。また、格子の配置パターンについても均等である必要はなく、格子のばらつき具合等の粗密についても任意に設定することが可能である。
【0063】
第2構成材12は、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において通常の正の比誘電率εrを持つ誘電体である。第2構成材12は、レーダーカバーとして必要な材料強度、加工性、各種耐久性を有していれば適用可能であるが、一段と性能を向上させるために電気的な損失が少ないことが望ましい。具体的には、第2構成材12では、材料の周波数帯I(76.5GHz)における誘電率εを複素誘電率で表した場合の虚数部ε′′が小さい方が望ましく、例えば、0.001以下、さらに望ましくは0.005以下が好適である。
【0064】
このように、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において負の比誘電率εr(−5以下)を有する第1構成材11、および、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において正の比誘電率εrを有する第2構成材12をそれぞれ少なくとも1層以上積層した積層構造体10を形成する。
【0065】
これにより、
図8に示すように、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において2枚の第2構成材12および1枚の第1構成材11からなる3層構造の積層構造体10の等価的な比誘電率εrを当該積層構造体10の等価的な比透磁率μr=1に合わせ、かつ、EMC領域の周波数帯II(約1GHz以下)においては、積層構造体10の等価的な比誘電率εrを負の方向に大きく(−500以下)させることが可能となる。
【0066】
具体的には、積層構造体10の周波数帯I(76.5GHz)における等価的な比誘電率εrをほぼ1、具体的には0.9〜1.3、より好ましくは1.0に設定し、かつ、積層構造体10の周波数帯II(約1GHz以下)における等価的な比誘電率εrを−370以下、好ましくは、−500以下に設定することが望ましい。
【0067】
かくして、積層構造体10の等価的な比透磁率μrと比誘電率εrとが同一となり、空気の波動インピーダンスη1と、積層構造体10の等価的な波動インピーダンスη2とが同一の値となる。この結果、
図9に示すように、周波数帯I(76.5GHz)において積層構造体10の見かけ上の透過率T=1が実現できることになる。
【0068】
同時に、積層構造体10の等価的な比透磁率μrと比誘電率εrとの比が小さくなり、分母である比誘電率εr2が負の値であり、かつ、絶対値が大きければ、波動インピーダンスη2が「0」に近づくため、周波数帯II(約1GHz以下)において見かけ上の透過率T=0が実現できることになる。
【0069】
<作用および効果>
以上の構成において、ミリ波レーダー用カバー1では、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において負の比誘電率を有する第1構成材11と、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)において正の比誘電率を有する第2構成材12とが少なくとも1層以上積層された積層構造体10をレドームとして第1の部位Aに用いるようにした。
【0070】
この積層構造体10は、第2構成材12により内部のアンテナ30および電子回路40を保護する同時に、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)では透過率T=1、EMC領域の周波数帯II(約1GHz以下)では透過率T≒0を実現している。
【0071】
これによりミリ波レーダー用カバー1では、アンテナ30からのミリ波の電磁波を積層構造体10による電気的な減衰なく透過させ、またその反射波を積層構造体10による電気的な減衰なく受信することができる。同時に、ミリ波レーダー用カバー1では、積層構造体10を介して、EMC領域の不要電磁波の放射を抑制し、かつ、外部の他の機器から電磁波の干渉、混信を防ぐことができる。
【0072】
<実施例>
積層構造体10の具体的な構成として、例えば、第1構成材11が銅の金属格子からなり、第2構成材12がポリイミドからなり、第1構成材11および第2構成材12の双方共に200×200mmの大きさで、第2構成材12、第1構成材11、第2構成材12の順番で3層積層構造とした。
【0073】
第1構成材11は、厚みt=0.08mmの銅箔を線幅d=0.06mm、縦方向の配列間隔aおよび横方向の配列間隔a=1.2mmとして格子状にエッチングすることにより制作されている。このときの第1構成材11における比誘電率εrは、光の領域の周波数帯にあるプラズマ振動数fpをミリ波の領域の周波数帯I(76.5GHz)の近傍に設定することができる。第2構成材12は、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)における複素比誘電率が3.25-j0.001のポリイミドとし、その厚さを0.31mmとした。
【0074】
第2構成材12、第1構成材11、第2構成材12の順番に積層した状態で、かつ、接着剤を用いて、60tの圧力によりプレス成型し、3層積層構造の積層構造体10を形成した。この結果、形成された積層構造体10の厚みは0.62mmとなった。すなわち、これは、第1構成材11は2つの第2構成材12によって挟まれた状態で潰され、3層の間に空気が入っていない状態である。
【0075】
この場合、3層積層構造の積層構造体10は、接着剤を含めてミリ波の周波数帯I(76.5GHz)における透過率T=1、EMC領域の周波数帯II(約1GHz以下)における透過率T≒0を実現するように第1構成材11、第2構成材12の比誘電率εr、比透磁率μr等が適宜調整される。
【0076】
この積層構造体10の等価的な比誘電率εr、比透磁率μrを測定した結果は、
図8に示した通りである。さらに、この積層構造体10の透過率Tは、
図9に示した通り、ミリ波の周波数帯I(76.5GHz)における透過率T=1、EMC領域の周波数帯II(約1GHz以下)における透過率T≒0が実現されている。
【0077】
<湾曲状積層構造体の構成>
ところで、このようなミリ波レーダー用カバー1では、3層構造の積層構造体10を介してミリ波を照射し、その反射波の強度、反射波の時間差等に基づいて周辺、特に前方の物体(例えば、前方車両、人間等の対象物)の移動速度、距離、および、大きさ等を検出することができる。
【0078】
実際上、前方の物体(対象物)を検出する際、水平方向に物理的(メカニカルスキャン)または電気的(デジタルビームフォーミング、アレイアンテナ等)な方法でミリ波の電磁波によって前方の対象物をスキャンしながら走査する。なお、スキャンの方法については、アンテナ30を物理的に動かして照射方向を変更したり、アンテナ30を物理的に動かすことなく電気的な方法により照射方向を変更してもよく、特に限定されるものではない。
【0079】
これにより、目的の方向に出射されたミリ波の電磁波は当該目的の方向の対象物によって反射された後、アンテナ30により受信することができるので、前方の水平方向における一定範囲内に存在する物体(対象物)の検出が可能となる。
【0080】
ただし、物体(対象物)からの反射波を受信する際、目的の方向以外からのミリ波の飛来があり得る。例えば、物体(対象物)の形状や周囲の反射物(ガードレール、他車両、地面等)によって伝播経路が異なる所謂マルチパスや、自車以外や車載以外のミリ波レーダーからの照射波や反射波等の飛来によるものがある。
【0081】
通常、ミリ波レーダーにおいては、水平方向の分解能を上げるために、アンテナ30のビーム幅を狭めているので、目的の方向以外からのミリ波の電磁波をアンテナ30で受信することは難くなっているが、飛来したミリ波の電磁波がミリ波レーダー内に侵入してしまうとバックグランドノイズが上昇し、検出感度に影響を与えてしまう。
【0082】
そこで、
図10に示すように、ミリ波レーダーにおいて、水平方向の物体(対象物)を検出する際、目的方向へのミリ波の電磁波の照射時に、目的方向以外からのミリ波の電磁波が当該ミリ波レーダーに入射することがないような構成を有する湾曲状積層構造体10Wを用いる。
【0083】
この湾曲状積層構造体10Wは、上述した積層構造体10と同一の基本構造を有し、第1構成材11と、当該第1構成材11を正面側(矢印a方向)および背面側(矢印b方向)の双方から挟持する第2構成材12とにより積層された3層構造品である。ここで、湾曲状積層構造体10Wと積層構造体10との大きな違いは、ミリ波レーダーの発振源であるアンテナ30から離間する正面側(矢印a方向)の外部方向へ向かって全体として凸状に湾曲されていることである。
【0084】
この湾曲状積層構造体10Wは、ミリ波の電磁波が当該積層構造体10に対して垂直に入射(以下、これを「垂直入射」という。)されるときに透過率Tが高く、垂直入射以外の角度で入射されるときに透過率Tが低くなるという斜入射透過率特性を有していることが特徴である。
【0085】
具体的には、湾曲状積層構造体10Wは、ミリ波の電磁波の発振源であるアンテナ30を中心とし、当該湾曲状積層構造体10Wに対して電磁波がアンテナ30から何れの方向へ入射されるときにも垂直となるように、当該アンテナ30から離間する方向(レーダー外部)に向かって凸状に湾曲されている。
【0086】
この場合、湾曲状積層構造体10Wは、アンテナ30を中心として何れの部分においても半径r0=r1の半円形状となる曲率で湾曲されているのが理想的である。このような理想的な湾曲状積層構造体10Wであれば、当該湾曲状積層構造体10Wの何れの部分においてもアンテナ30から照射されたミリ波の電磁波を垂直入射させることができると同時に、当該湾曲状積層構造体10Wに対して外部から垂直入射されるミリ波の電磁波についてもアンテナ30で受信させることができる。
【0087】
同時に、湾曲状積層構造体10Wでは、垂直入射以外の方向からのミリ波の反射波やマルチパスにより飛来する反射波については湾曲状積層構造体10Wに対して垂直ではなく、ある角度を持った状態で入射することになるため透過率Tは低下する。
【0088】
図11(A)乃至(C)に示すように、湾曲状積層構造体10Wに対して入射するミリ波の電磁波の入射角度が0度すなわち垂直の場合に透過率T=1となり、入射角度が0度よりも小さく、または、大きい場合には透過率T<1となる。ここで、入射角度が0度とは、ミリ波の電磁波が、第2構成材12の接線に対して垂直に交わる法線の状態(法線に沿った角度)で入射されることをいう。湾曲状積層構造体10Wが半径r0=r1の半円形状の場合、アンテナ30からα度だけ傾斜した状態でミリ波の電磁波が照射された場合であっても、当該ミリ波の電磁波は湾曲状積層構造体10Wに対して垂直に入射されることになる。
【0089】
ただし、入射角度が0度とは、第2構成材12の接線に対してミリ波の電磁波が垂直に交わる法線の場合であるとしたが、厳密には接線に対して±2度の範囲で傾斜していても、ミリ波の電磁波の入射角度が第2構成材12に対して垂直であると考える。
【0090】
この場合、湾曲状積層構造体10Wは、必ずしも半径r0=r1の半円形状でなくともよく、例えば、半径r0<r1であるが、接線に対して±2度の範囲で傾斜する程度を限度とした非球面形状(この場合、楕円形状)のように全体的に薄型化して凸状に突出する度合を小さくするようにしてもよい。
【0091】
このような構造の湾曲状積層構造体10Wでは、アンテナ30から目的の方向へ照射したミリ波の電磁波については透過して対象物に到達させることができる。一方、湾曲状積層構造体10Wでは、目的の方向以外からのミリ波の電磁波については透過せず、アンテナ30に到達することがないので、バックグランドノイズが上昇することもなく、検出感度に影響を与えずに済む。
【0092】
これによりミリ波レーダーでは、例えばアンテナ30を中心として±40度程度の広範囲に照射方向を操作しながら、水平方向に物体(対象物)を検出する照射時、対象物の存在しない方向からのミリ波の電磁波の侵入を湾曲状積層構造体10Wにより防止することができる。
【0093】
図11(A)乃至(C)に示したように、湾曲状積層構造体10Wの第2構成材12に対してアンテナ30からのミリ波の電磁波が垂直に入射される場合、すなわち第2構成材12、第1構成材11および第2構成材12の接線に対してミリ波の電磁波が垂直入射される場合に透過し、それ以外では透過しない。
【0094】
ここで、「透過する(○)」とは、透過率T=0.95以上を意味し、「透過しない(×)」とは、透過率T=0.95未満を意味する。ただし、これに限るものではなく、用途や測定側の検出精度を考慮して透過率Tの数値は任意に設定すればよい。例えば、「透過する(○)」とは、透過率T=0.95以上を意味し、「透過しない(×)」とは、透過率T=0.95未満を意味するようにしてもよい。
【0095】
具体的には、
図12に示すように、湾曲状積層構造体10Wに対するミリ波の電磁波の入射角度が0度であれば透過率T≒1となるが、ミリ波の電磁波の入射角度が5度ずれると、透過率T=0.93となり、10度ずれると透過率T<0.8となる。
【0096】
このような斜入射透過率特性を持つ3層構造体からなる湾曲状積層構造体10Wは、第2構成材12における誘電体の厚さ、誘電率、および、第1構成材11における金属格子の厚みt、線幅d、縦方向および横方向の配列間隔aを適切に設定することにより実現することができる。
【0097】
特に、所望の斜入射透過率特性を実現するためには、第1構成材11における金属格子の厚みtが重要であり、その厚みtを0.5mm〜2.0mm、より好ましくは0.8mm〜1.5mmとし、その他の寸法は必要に応じた設計値とすればよい。
【0098】
また、
図13に示すように、湾曲状積層構造体10Wと同様に、目的方向へのミリ波の電磁波の照射時に、目的方向以外からのミリ波の電磁波が当該ミリ波レーダーに入射することがない構成を有する誘電体レンズ一体型の湾曲状積層構造体(以下、これを「誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体」ともいう。)100Wを用いることも可能である。
【0099】
この誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体100Wにおいては、湾曲状積層構造体10Wにおける第2構成材12とアンテナ30との間に、当該アンテナ30から入射するミリ波の電磁波を屈折する所定の誘電率の凸レンズからなる誘電体レンズ20が配置され、当該第2構成材12と当該誘電体レンズ20とが一体化された構造体である。
【0100】
この誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体100Wでは、誘電体レンズ20と一体化されており、誘電体レンズ20の誘電率によって内側へミリ波の電磁波が屈折される。したがって、誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体100Wでは、その分だけミリ波の電磁波をアンテナ30から広角化して照射した場合であっても垂直入射させることができるとともに、半径r10<r11とした非球面形状(この場合、楕円形状)のように全体的に薄型化することが可能となる。
【0101】
図14(A)乃至(C)に示すように、誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体100Wに対して入射するミリ波の電磁波の入射角度が0度すなわち垂直の場合に透過率T=1となり、入射角度が0度よりも小さく、または、大きい場合には透過率T<1となる。
【0102】
また、誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体100Wでは、誘電体レンズ20の誘電率によって内側へミリ波の電磁波が屈折されるので、アンテナ30からα度だけ傾斜した状態でミリ波の電磁波が照射された場合であっても、当該ミリ波の電磁波は誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体100Wに対して垂直に入射されることになる。
【0103】
この場合、
図15に示すように、誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体100Wでは、ミリ波レーダー用カバー1の内部Rin のアンテナ30から誘電体レンズ20に対して所定の角度θ1を持って入射されたミリ波の電磁波が誘電体レンズ20により僅かに内側へ屈折されて角度θ2となり、当該誘電体レンズ20の内側を進行した後、湾曲状積層構造体10Wを介して外部Rout へ照射される。
【0104】
また、誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体100Wでは、誘電体レンズ20を一体に有していることにより、湾曲状積層構造体10Wだけの場合に比べて凸状に突出する度合(曲率)を小さくして一段と薄型化することができる。
【0105】
<他の実施の形態>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係るミリ波レーダー用カバー1に限定されるものではなく、本発明の概念および請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題および効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0106】
また、上述した実施の形態においては、凸レンズからなる誘電体レンズ20と一体化された誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体100Wを用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば
図16(A)および(B)に示すように凹レンズからなる誘電体レンズ21と一体化された誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体200Wを用いるようにしてもよい。
【0107】
具体的には、
図16(A)に示すように、誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体200Wは、湾曲状積層構造体10Wにおける外周側の第2構成材12に対して、アンテナ30から湾曲状積層構造体10Wを通過して入射するミリ波の電磁波を屈折する所定の誘電率の凹レンズからなる誘電体レンズ21が積層された一体化構造体である。この凹レンズである誘電体レンズ21についても、湾曲状積層構造体10Wの第2構成材12と同様の曲率で湾曲されている。
【0108】
図16(B)に示すように、この誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体200Wでは、アンテナ30から湾曲状積層構造体10Wの内周側の第2構成材12の接線に対して垂直(角度θ1=0度)に入射されたミリ波の電磁波が誘電体レンズ21を通過する際に外側へ角度θ2(θ2>θ1)だけ屈折されて外部Rout へ照射される。したがって、誘電体レンズ一体型湾曲状積層構造体200Wでは、凹レンズからなる誘電体レンズ21と一体化されたことによりミリ波の電磁波を広角化して出射できるとともに、全体としても更に薄型化することができる。