特許第6913249号(P6913249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913249
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20210727BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-525641(P2020-525641)
(86)(22)【出願日】2019年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2019023399
(87)【国際公開番号】WO2019244758
(87)【国際公開日】20191226
【審査請求日】2020年8月18日
(31)【優先権主張番号】特願2018-115451(P2018-115451)
(32)【優先日】2018年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】宮園 昌幸
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−257067(JP,A)
【文献】 特開2005−69345(JP,A)
【文献】 特開平5−172228(JP,A)
【文献】 特開平5−172226(JP,A)
【文献】 特開平2−283957(JP,A)
【文献】 特開昭62−167961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02,61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに巻き掛けられたベルトとを有する油圧式の無段変速機の制御装置であって、
制御パラメータの目標値と制御パラメータの実際値との偏差と制御ゲインとに基づいて油圧制御弁をフィードバック制御することにより、前記プライマリプーリ又は前記セカンダリプーリの油室の作動油の油圧を制御し、変速比が目標変速比となるように変速制御を行う制御手段と、
前記変速比を前記目標変速比に変更させる変速指令速度と、前記油圧の指令値である油圧指令値と、前記油圧制御弁の前後圧力差と、前記油室の容積とを含む複数の油圧応答関連パラメータのうちの少なくとも2つのパラメータに基づいて油圧応答感度を算出し、算出した前記油圧応答感度に基づいて前記制御ゲインを変更するゲイン変更手段を備える、
無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記ゲイン変更手段は、前記変速指令速度と、前記油圧指令値と、前記前後圧力差と、前記油室の容積との4つの油圧応答関連パラメータのうちの3つのパラメータに基づいて前記油圧応答感度を算出する、
請求項1に記載された無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン変更手段は、前記油圧応答感度に基づいて前記制御ゲインを段階的に変更する、
請求項1又は2に記載された無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記ゲイン変更手段は、前記油圧応答感度に基づいて前記制御ゲインを二段階に変更する、
請求項3に記載された無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記プライマリプーリに対して前記フィードバック制御することにより前記変速制御を行い、
前記ゲイン変更手段は、前記プライマリプーリの油室の容積が最大であるものとして、前記変速指令速度と、前記油圧指令値と、前記前後圧力差との、3つの油圧応答関連パラメータの特性に基づいて前記油圧応答感度を演算する、
請求項1〜4の何れか1項に記載された無段変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧によって変速比を制御する無段変速機に用いて好適な無段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動変速機を油圧制御する際に、油圧応答性を考慮する必要がある。この油圧応答性は、油圧を変化させる前の油圧が高いときには、立ち上がりが速く且つ立ち下がりが遅くなり、また、油圧を変化させる前の油圧が低いときには、これとは逆に、立ち上がりが遅く且つ立ち下がりが速くなるという特性を有している。
【0003】
特許文献1には、自動変速機の作動油圧の変更時に油圧応答性に対応した最適なゲインを設定して安定性を確保しつつ応答性の良いフィードバック制御を実現しようとする技術が開示されている。具体的には、変速状態が変わった時の変化する前の作動油圧の値を検出し、この検出した変化前油圧に基づいてフィードバック制御のゲインを変更している。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術のように、自動変速機の作動油圧の変更時に、フィードバック制御のゲインを単に変化前の油圧に応じて規定すると、油圧応答性の感度(以下、「油圧応答感度」と略称する。)とゲインとの関係が適正にならない場合がある。油圧応答感度に対してゲインが大き過ぎても小さ過ぎても制御の不安定を招くことがある。
また、油圧応答感度に対してゲインが小さ過ぎると、制御応答性を不必要に低下させてしまう場合もある。自動変速機に無段変速機を適用した場合にも、このような不具合の発生が懸念される。特に、無段変速機の変速比をフィードバック制御する場合、制御応答性の低下やこれに伴う制御応答性の変動は制御性能を大きく低下させることになり、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−272567号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、このような課題に着目して創案されたもので、無段変速機において作動油圧を変更するフィードバック制御を行う際に、油圧応答感度の低下を抑制することができる無段変速機の制御装置を提供することを目的としている。
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに巻き掛けられたベルトとを有する油圧式の無段変速機の制御装置であって、制御パラメータの目標値(例えば目標変速比)と制御パラメータの実際値(例えば実変速比)との偏差と制御ゲインとに基づいて油圧制御弁をフィードバック制御することにより、前記プライマリプーリ又は前記セカンダリプーリの油室の作動油の油圧を制御し、変速比が目標変速比となるように変速制御を行う制御手段と、前記変速比を前記目標変速比に変更させる変速指令速度と、前記油圧の指令値である油圧指令値と、前記油圧制御弁の前後圧力差と、前記油室の容積とを含む複数の油圧応答関連パラメータのうちの少なくとも2つのパラメータに基づいて油圧応答感度を算出し、算出した前記油圧応答感度に基づいて前記制御ゲインを変更するゲイン変更手段を備える。
【0008】
(2)前記ゲイン変更手段は、前記変速指令速度と、前記油圧指令値と、前記前後圧力差と、前記油室の容積との4つの油圧応答関連パラメータのうちの3つのパラメータに基づいて前記油圧応答性を算出することが好ましい。
【0009】
(3)前記ゲイン変更手段は、前記油圧応答性に基づいて前記制御ゲインを段階的に変更することが好ましい。
【0010】
(4)前記ゲイン変更手段は、前記油圧応答性に基づいて前記制御ゲインを二段階に変更することが好ましい。
【0011】
(5)前記制御手段は、前記プライマリプーリに対して前記フィードバック制御することにより前記変速制御を行い、前記ゲイン変更手段は、前記プライマリプーリの油室の容積が最大であるものとして、前記変速指令速度と、前記油圧指令値と、前記前後圧力差との、3つの油圧応答関連パラメータの特性に基づいて前記油圧応答性を演算することが好ましい。
【0012】
本発明によれば、フィードバック制御により変速比を制御する際に、油圧応答感度を適切に算出し、これに基づいて制御ゲインを設定することで制御安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る無段変速機とその制御装置の要部を示す構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る無段変速機の制御装置の油圧制御系統を説明するブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る無段変速機の制御装置の油圧制御系統のフィードバック制御を説明するブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る油圧応答関連パラメータの1つである油室容積の変速比との関係を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る油圧応答関連パラメータの1つである油圧制御弁の前後圧力差と変速比との関係を示す図であり、(a)はアップシフト時に関し、(b)はダウンシフト時に関する。
図6】本発明の一実施形態に係る油圧応答関連パラメータの1つである変速指令速度と調圧位置との関係を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る油圧応答関連パラメータの1つである油圧指令値と作動油の体積弾性係数kとの関係を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る油圧応答関連パラメータに対する油圧応答感度の特性を示すグラフであり、(a)は前後圧力差及び油室容積が一定のときの変速指令速度及び油圧指令値に関する等応答線を示し、(b)は前後圧力差及び変速指令速度が一定のときの油室容積及び油圧指令値に関する等応答線を示し、(c)は前後圧力差が一定のときの変速指令速度,油室容積及び油圧指令値に関する等応答線を示す。
図9】本発明の一実施形態に係る無段変速機の制御装置によるフィードバック制御に用いる制御ゲインの油圧応答感度に対する設定の着目点を説明する図である。
図10】本発明の一実施形態に係る無段変速機の制御装置によるフィードバック制御ゲインを設定するための油圧応答感度ωの演算手法を説明する図であり、(a)は特定前後圧力差のときの例を示し、(b)は一般前後圧力差のときの例を示す。
図11】本発明の一実施形態に係る無段変速機の制御装置によるフィードバック制御ゲインを設定するための油圧応答感度ωを演算する際の、前後圧力差に対する油圧応答感度ωの補間演算手法を説明する図である。
図12】本発明の一実施形態に係る無段変速機の制御装置により油圧応答感度ωからフィードバック制御ゲインを設定するマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することや適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
[全体システム構成]
図1は、本実施形態に係る無段変速機とその制御装置の要部を示す構成図である。
図1に示すように、無段変速機(CVT)1は、駆動源である図示しないエンジン(内燃機関)の出力軸と駆動連結された入力軸2と、入力軸2と平行に配置され図示しない駆動輪と駆動連結された出力軸3と、入力軸2と連結されたプライマリプーリ4と、出力軸3と連結されたセカンダリプーリ5と、プライマリプーリ4とセカンダリプーリ5とに巻き掛けられた無端状のベルト6と、を備えている。
【0016】
プライマリプーリ4は、固定シーブ41と、可動シーブ42と、可動シーブ42を軸方向に移動させるプライマリ油室43とを有する。
セカンダリプーリ5は、固定シーブ51と、可動シーブ52と、可動シーブ52を軸方向に移動させるセカンダリ油室53とを有する。
【0017】
無段変速機1は、プライマリ油室43及びセカンダリ油室53に作動油を供給するために、油圧ポンプ61と、油圧ポンプ61から吐出された作動油を所定のライン圧PLに調圧するライン圧制御弁(プレッシャレギュレータ弁)62と、ライン圧PLを元圧としてプライマリ圧Ppriに調圧するプライマリ圧制御弁63と、ライン圧PLを元圧としてセカンダリ圧Psecに調圧するセカンダリ圧制御弁64とを備えている。各制御弁62,63,64はソレノイドで作動する制御弁であって、CVTECU(CVT電子制御ユニット)7によって、各ソレノイド62a,63a,64aへの電流を制御することにより、出力する油圧が調整される。
【0018】
CVTECU7には、プライマリプーリ4の回転速度(単位時間回転数、プライマリプーリ回転数)Npriを検出するプライマリ回転センサ81、セカンダリプーリ5の回転速度(単位時間回転数、セカンダリプーリ回転数)Nsecを検出するセカンダリ回転センサ82、プライマリ油室43の圧力(プライマリ圧)Ppriを検出するプライマリ圧センサ83、セカンダリ油室53の圧力(セカンダリ圧)Psecを検出するセカンダリ圧センサ84等の各種センサが接続され、これらのセンサ情報やスイッチ情報が入力される。また、CVTECU7は、エンジンECU(エンジン電子制御ユニット)8と情報伝達可能に接続されている。
【0019】
無段変速機1は、ベルト6とプーリ4,5との間で滑りが発生しない範囲でできるだけ低い推力を各プーリ4,5に付与し、変速比Rを変更する際には、プライマリプーリ4とセカンダリプーリ5との間に差推力を加えて目標変速比Rtが達成されるように各可動シーブ42,52を軸方向に駆動する。これらの推力及び差推力は、CVTECU7によりプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを制御することによって行う。
【0020】
[油圧制御系の構成]
このため、CVTECU7は、ライン圧PLを制御するライン圧制御部71、プライマリ圧Ppriを制御するプライマリ圧制御部72、セカンダリ圧Psecを制御するセカンダリ圧制御部73を備えている。
また、CVTECU7は、プライマリプーリ回転数Npri及びセカンダリプーリ回転数Nsecから実変速比Rrを算出する変速比演算部74を備えている。
【0021】
ライン圧制御部71は、所定の制御指令(ライン圧指示値PL_c)をライン圧ソレノイド62aに出力する。
プライマリ圧制御部72は、所定のプライマリ圧目標値Ppri_tを得る制御指令(プライマリ圧指示値Ppri_c)をプライマリ油圧ソレノイド64aに出力する。
セカンダリ圧制御部73は、所定のセカンダリ圧目標値Psec_tを得る制御指令(セカンダリ圧指示値Psec_c)をセカンダリ油圧ソレノイド63aに出力する。
【0022】
次に、基本的なセカンダリ圧指示値Psec_c,プライマリ圧指示値Ppri_c,ライン圧指示値PL_cの設定を説明する。
セカンダリ圧制御部73は、図2に示すように、エンジンECU8から入手した出力情報に基づいて無段変速機1により伝達するトルク容量(必要トルク伝達容量)を算出し、この伝達トルク容量から必要推力に応じたセカンダリ圧目標値Psec_tを導出してセカンダリ圧指示値Psec_cを設定する。なお、セカンダリ圧指示値Psec_cはこのセカンダリ圧目標値Psec_tに、セカンダリ実圧Psecに基づくフィードバック補正量を加算することで設定する。
【0023】
プライマリ圧制御部72は、図2に示すように、エンジンECU8から入手した目標変速比Rtと変速比演算部74で演算した実変速比Rrとセカンダリ圧指示値Psec_cとから、プライマリ圧目標値Ppri_tを設定し、このプライマリ圧目標値Ppri_tとプライマリ実圧Ppriとからプライマリ圧指示値Ppri_cを設定する。つまり、プライマリ圧制御部72では、目標変速比Rtと実変速比Rrとの偏差(Rt−Rr)に基づくフィードバック制御によって、セカンダリ圧指示値Psec_cとの関係が目標差推力に応じたものとなるプライマリ圧目標値Ppri_tを与えてプライマリ実圧Ppriを考慮しながらプライマリ圧指示値Ppri_cを設定する。
【0024】
ライン圧制御部71はセカンダリ圧指示値Psec_c及びプライマリ圧指示値Ppri_cに基づいて、セカンダリ圧指示値Psec_c及びプライマリ圧指示値Ppri_cを達成可能とするように、セカンダリ圧指示値Psec_c及びプライマリ圧指示値Ppri_cのうち大きい方よりもマージン分(差圧ΔP0)だけ高いライン圧指示値PL_cを設定する。
【0025】
ところで、プライマリ圧制御部72による油圧制御は、実変速比Rrを目標変速比Rtに近づけるフィードバック制御であるが、プライマリ圧Ppriの変更時には、フィードバック制御の制御ゲインが一定であると、制御の不安定を招くことがある。つまり、油圧応答感度に対して制御ゲインが大き過ぎても小さ過ぎても、制御の不安定を招くことがある。また、油圧応答感度に対して制御ゲインが小さ過ぎると、制御応答性を不必要に低下させてしまう場合もある。変速制御において制御の不安定を招くと、変速フィーリングを悪化させ、変速性能を低下させることになる。
【0026】
そこで、本装置では、CVTECU7が、プライマリ圧Ppriの変更時に、油圧応答性に基づいてフィードバック制御の制御ゲインを変更するゲイン変更部(ゲイン変更手段)75を備えている。
ゲイン変更部75は、油圧応答性に相関するパラメータ(油圧応答関連パラメータ)に着目して、この油圧応答関連パラメータから油圧応答感度ωを算出して、油圧応答感度ωから制御ゲイン(ゲイン係数)Κを設定する。
【0027】
油圧応答関連パラメータには、変速指令速度dx/dtと、プライマリ圧Ppriの指令値であるプライマリ圧指示値Ppri_c(油圧指令値)と、プライマリ圧制御弁63(油圧制御弁)の前後圧力差(油圧制御弁であるプライマリ圧制御弁63に対して上流側と下流流側との圧力差)ΔPと、プライマリ油室43の容積V(プランジャボリューム)とがある。
【0028】
このうち、プライマリ油室43の容積Vは、図4に示すように、変速比Rに応じて変化し、可動シーブ42のストローク量xに対して略線形に変化するが、変速比RがLOW側ほど、変速比Rに対するストローク量xが小さい。したがって、変速比RがLOW側ほど、油圧応答感度ωが高くなる。
【0029】
プライマリ圧制御弁63の前後圧力差ΔPは、アップシフト時には、図5(a)に示すように、プライマリ実圧Ppriがセカンダリ実圧Psec以上であれば、ライン圧指示値PL_cとプライマリ実圧Ppriとの差(=PL_c−Ppri=ΔP0)となるが、プライマリ実圧Ppriがセカンダリ実圧Psec未満であれば、セカンダリ実圧Psecとプライマリ実圧Ppriとの差にマージン分の差圧ΔP0を加えた値(=Psec−Ppri+ΔP0)となる。
また、ダウンシフト時には、図5(b)に示すように、作動油はドレーンするため、前後圧力差ΔPは、プライマリ実圧Ppriと大気圧Patmとの差(=Ppri−Patm)となる。
なお、前後圧力差ΔPが大きいほど、油圧応答感度ωが高くなる。
【0030】
変速指令速度α(=dx/dt)は、プライマリ圧制御弁63の絞り比(A2/A1、ただしA1はプライマリ圧制御弁63の上流の流路面積、A2はプライマリ圧制御弁63における流路面積)に相当し、図6に示すように、プライマリ圧制御弁63の調圧位置に依存する。
つまり、図示しないが、制御弁は、スプール室と、スプール室の周囲に形成された各ポートと、スプール室内に軸方向移動可能に装備されたスプールとを備え、スプールには、各ポートとラップしてポートを閉塞するランド部と、縮径した環状油路部と、ランド部の端部外周に油路部と連通するように切り欠かれたノッチ部とを有する。プライマリ圧制御弁63の調圧位置には、ランド部がポートとラップしてポートを閉塞するラップ位置と、ノッチ部がポートに開口するノッチ位置と、環状油路部がポートに開口するポート位置とがある。図6に示すように、調圧位置がバルブのラップ位置であれば、変速指令速度αは0、調圧位置がバルブのノッチ位置であれば、変速指令速度αはノッチ部がポートの開口する量に応じて増大し、調圧位置がバルブのポート位置であれば、環状油路部がポートの開口する量に応じてさらに増大する。
このような調圧位置は変速流量で決まり、変速流量は変速速度に依存する。
そして、変速指令速度αが大きいほど油圧応答感度ωが高くなる。
変速指令速度αは、変速比Rを実変速比Rrから目標変速比Rtに変更させる速度(変速比Rの時間変化率)を設定する値であり、主に目標変速比Rt、実変速比Rr、作動油の温度、変速方向(アップシフトかダウンシフトか)などに基づいて設定される。
【0031】
プライマリ圧指示値Ppri_cは、作動油の体積弾性係数kに影響を与え、図7に示すように、プライマリ圧指示値Ppri_cが高くなるほど作動油の体積弾性係数kも大きくなる。
また、作動油の体積弾性係数kが大きいほど油圧応答感度ωが高くなるので、プライマリ圧指示値Ppri_cが高くなるほど油圧応答感度ωが高くなる。
【0032】
次に、図8を参照して、複数の油圧応答関連パラメータに対する油圧応答感度ωの特性を説明する。
図8(a)は、前後圧力差ΔP及び油室容積Vが一定のときの変速指令速度(dx/dt)及びプライマリ圧指示値Ppri_cに関する等応答線(油圧応答感度ωが等しい点を結んだ線)を示し、変速指令速度(dx/dt)及びプライマリ圧指示値Ppri_cから油圧応答感度ωを求める二次元マップに対応する。
図8(b)は、前後圧力差ΔP及び変速指令速度(dx/dt)が一定のときの油室容積V及びプライマリ圧指示値Ppri_cに関する等応答線を示し、油室容積V及びプライマリ圧指示値Ppri_cから油圧応答感度ωを求める二次元マップに対応する。
図8(c)は、前後圧力差ΔPが一定のときの変速指令速度(dx/dt),油室容積V及びプライマリ圧指示値Ppri_cに関する等応答線を示し、図8(a)及び図8(b)を合成した変速指令速度(dx/dt),油室容積V及びプライマリ圧指示値Ppri_cから油圧応答感度ωを求める三次元マップに対応する。
なお、図8(c)中に斜線を付す三次元領域は、油圧応答感度ωが低過ぎて制御不安定を招くなど、制御上好ましくないゾーン(危険ゾーン)である。
【0033】
次に、油圧応答感度ωに対応して制御ゲインΚを設定する際の着目点を説明する。
図9は、プライマリ圧指示値Ppri_cに対する油圧応答感度ωの特性を示すグラフ(右上、油圧応答感度図)と、フィードバック制御ゲインΚに対する油圧応答感度ωの特性を示すグラフ(左上、油圧応答とゲイン余裕の図)と、フィードバック制御ゲインΚに対する回転偏差の特性を示すグラフ(左下、制御ゲインと回転偏差の図)とを、相関させて示す図である。
図9において、実線の矢印及び丸印は作動油の高流量時の応答特性(例えばキックダウン時など)を示し、破線の矢印及び丸印は作動油の低流量時の応答特性(例えばロードロード走行時など)を示している。
【0034】
油圧応答感度図では、実線の丸印で示すように、高流量時の油圧応答感度ωは高く、低流量時の油圧応答感度ωは低い。
油圧応答とゲイン余裕の図では、斜線領域は制御安定限界を超えた領域であり、油圧応答性に対する制御ゲインΚをこの斜線領域から一定以上離隔した領域に設定することで、制御安定性を担保することができる。ただし、斜線領域から過剰に離隔することは新たな制御上の課題を発生することになる。
【0035】
高流量時の油圧応答感度ωは高いので、制御ゲインΚを比較的高く設定しても制御安定性を担保することができる。この油圧応答感度ωが高いときに制御ゲインΚを比較的低く設定すると、安定性を確保できるが、回転偏差が大きくなり変速性能(オーバーシュート量)が目標値を大きく超えてしまうことになり、新たな制御上の課題が発生する。
一方、低流量時の油圧応答感度ωは低いので、制御ゲインΚを比較的低く設定しなくては制御安定性を担保することができない。
そこで、制御ゲインと回転偏差の図に示すように、高流量時の油圧応答感度ωが高い場合は制御ゲインΚを高く、低流量時の油圧応答感度ωが低い場合は制御ゲインΚを低く設定することが好ましい。
【0036】
次に、本実施形態の油圧応答感度ωの演算及び油圧応答感度ωから制御ゲインΚを設定する手法を図10図12を参照して説明する。
上記のように、油圧応答関連パラメータが4つあり、この4つのパラメータを全て用いて油圧応答感度ωを求めようとすると、二次元マップ×二次元マップを用いることになり、演算構成が複雑になって、動作の予測、定数の管理も難しくなるため、本実施形態では、4つのうちの3つのパラメータを用いて油圧応答感度ωを求めることとする。
【0037】
ここでは、4つのパラメータのうち、変速指令速度dx/dtと、プライマリ圧Ppriの指令値であるプライマリ圧指示値Ppri_cと、プライマリ圧制御弁63の前後圧力差ΔPとの3つを用いて、プライマリ油室43の容積Vについては最も条件の悪い(制御安定性を確保し難い)最大容積(変速比Rとしては最ハイ)であるものとして油圧応答感度ωを求める。
【0038】
図10(a),(b)に示すように、前後圧力差ΔP1〜ΔPn(所定の間隔に取ったn個の前後圧力差値)のそれぞれにおける変速指令速度dx/dtとプライマリ圧指示値Ppri_cとに関する等ω線(等応答線)を作成する。これにより、前後圧力差ΔPk,変速指令速度dx/dt,プライマリ圧指示値Ppri_cから油圧応答感度ωを求めることができる。
ただし、実際の前後圧力差ΔPxが図10(a),(b)に示すΔPn上にない場合があるので、この場合は、図11に示すように、その値ΔPxに近い2つのΔPk,ΔP(k+1)、k:1〜(1−n)についての線形補間法を用いて油圧応答感度ωxを求める。
【0039】
このようにして、油圧応答感度ωを求めたら、図12に示すように、油圧応答感度ωに対応して制御ゲインΚを設定する。
図12に示す例では、油圧応答感度ωが閾値ω0以上なら相対的に高い制御ゲインΚを設定し、油圧応答感度ωが閾値ω0未満なら相対的に低い制御ゲインΚを設定する。
【0040】
例えば、変速比のフィードバック制御にPID制御を用いる場合は、図3に示すように、目標値(目標変速比)Rtと実際値(実変速比)Rrとの偏差e(t)を算出する一方で、油圧応答関連パラメータ(変速指令速度dx/dt、プライマリ圧指示値Ppri_c、プライマリ圧制御弁63の前後圧力差ΔP、プライマリ油室43の容積V)のうちの複数のパラメータから油圧応答感度ωを算出し、油圧応答感度ωからそれぞれの制御ゲインΚp,Κi,Κdを設定する。
そして、P制御量Κpe(t)、I制御量Κi∫e(t) dt、D制御量Κd de(t)/dtをそれぞれ算出し、これらの和をPID制御に制御量とする。
ただし、フィードバック制御はPID制御に限らない。
【0041】
[作用及び効果]
本実施形態にかかる無段変速機の制御装置は、上述のように構成されているので、セカンダリ圧目標値Psec_tとセカンダリ実圧Psecとに基づくフィードバック制御により、セカンダリ圧が制御されて所定の推力が確保され、目標変速比Rtと実変速比Rrとの偏差(Rt−Rr)に基づくフィードバック制御によって、プライマリ圧が制御されて所定の差推力が確保されて変速が行われる。
【0042】
特に、変速に係るフィードバック制御の制御ゲインΚは、変速指令速度、油圧指令値、油圧制御弁の前後圧力差に基づいて、油圧応答感度ωを算出し、油圧応答感度ωが大きいと制御ゲインΚも大きく、油圧応答感度ωが小さいと制御ゲインΚも小さく設定するので、高流量時等の油圧応答感度ωが高い場合の制御応答性の確保や制御のオーバーシュート等の制御上の課題を発生させることなく、低流量時等の油圧応答感度ωの低い場合の制御安定性を確保することができる。これにより、変速を安定的に滑らか且つ速やかに行うことができる。
【0043】
また、本実施形態では、4つのパラメータのうちの3つのパラメータを用いて油圧応答感度ωを求めるので、演算構成が複雑になって、動作の予測、定数の管理が難しくなることも回避される。
【0044】
また、本実施形態では油圧応答感度ωに基づいて制御ゲインΚを高低の二段階に切り替えるようにしているので、制御ゲインΚの変更がシンプルになると共に、制御ゲインΚの変更に起因する制御の不安定化を回避することができる。つまり、制御ゲインΚの頻繁な変化は制御の非線形化を招くおそれがある。油圧応答感度ωに基づいて制御ゲインΚを無段階に変更すると、制御の非線形化を招くことになる。このため、制御の非線形化を防止するためには、制御ゲインΚを油圧応答感度ωに基づいて段階的に変更することが好ましく、特に、二段階〜三段階に段階を抑えることが好ましい。
【0045】
[その他]
なお、本発明は、4つのパラメータのうちの何れか2つのパラメータを用いてもよく、何れか3つのパラメータを用いてもよく、4つのパラメータ全ても用いてもよい。
また、上記の実施形態では、制御パラメータとして直に変速比を用いており、制御パラメータの目標値を目標変速比Rtとし、制御パラメータの実際値を実変速比Rrとしているが、制御パラメータには変速比に相関する値であれば何れを用いてもよい。
図1
図2
図3
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図5
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図11
図12