特許第6913274号(P6913274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6913274BTKキナーゼ阻害剤の結晶形およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913274
(24)【登録日】2021年7月14日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】BTKキナーゼ阻害剤の結晶形およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20210727BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20210727BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210727BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210727BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   C07D487/04 140
   C07D487/04CSP
   A61K31/5025
   A61P35/00
   A61P43/00 111
   A61P37/06
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-530708(P2018-530708)
(86)(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公表番号】特表2019-500357(P2019-500357A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】CN2016111051
(87)【国際公開番号】WO2017118277
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2019年12月19日
(31)【優先権主張番号】201610006080.0
(32)【優先日】2016年1月5日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510166892
【氏名又は名称】ジエンス ヘンルイ メデイシンカンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU HENGRUI MEDICINE CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100153394
【弁理士】
【氏名又は名称】謝 卓峰
(74)【代理人】
【識別番号】100145056
【弁理士】
【氏名又は名称】當別當 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100116311
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 忠行
(72)【発明者】
【氏名】ウ、グアイリ
(72)【発明者】
【氏名】チユ、ジェンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ルウ、シー
(72)【発明者】
【氏名】ルウ、ユン
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/007185(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶が、Cu-Kα線を用いて得られ、2θ角と面間隔で表される、2θ±0.2: 9.91, 12.20, 17.24, 17.64および21.48に特徴的なピークがあるX線粉末回折スペクトルを有することを特徴とする、(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンのI型結晶。
【請求項2】
2θ±0.2: 7.86, 9.91, 12.20, 13.73, 17.24, 17.64, 19.02, 19.93, 20.72, 21.48, 22.64, 24.81, 27.44および27.87に特徴的なピークを有することを特徴とする、請求項1に記載のI型結晶。
【請求項3】
2θ±0.2: 5.11, 7.86, 9.91, 12.20, 13.73, 15.44, 17.24, 17.64, 19.02, 19.93, 20.72, 21.48, 22.64, 23.12, 24.81, 25.43, 26.24, 27.44, 27.87および29.03に特徴的なピークがある、X線粉末回折スペクトルを有することを特徴とする、請求項1に記載のI型結晶。
【請求項4】
以下の工程:
1)固体の(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンの何らかの結晶形またはアモルファス形を加熱下適量の有機溶媒に溶解した後、溶液を冷却し、結晶を析出する工程(ここで、該溶媒は、4個以下の炭素原子を有するアルコール、ケトン、ニトリル、エーテルおよびエステルのいずれか1つ以上、または上記の1種以上の溶媒と水との混合溶媒から選択される。)、および
2)該結晶を濾過した後、洗浄し、乾燥する工程
を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンのI型結晶の製造方法。
【請求項5】
工程1)における溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、またはテトラヒドロフラン、またはエタノール/水、N,N-ジメチルホルムアミド/水、または1,4-ジオキサン/水であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該溶媒は、エタノールであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンのI型結晶、および薬学的に許容される担体を含有する、医薬組成物。
【請求項8】
BTKキナーゼ関連疾患を治療する薬剤の製造における、請求項1〜3のいずれか1項に記載のI型結晶または請求項7に記載の医薬組成物の使用。
【請求項9】
B細胞悪性腫瘍および自己免疫疾患を治療する薬剤の製造における、請求項1〜3のいずれか1項に記載のI型結晶または請求項7に記載の医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の技術分野】
【0001】
本発明はBTKキナーゼ阻害剤の結晶形およびその製造方法に関する。具体的に、本発明は、(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンの結晶形およびその製造方法に関する。本発明の方法によって製造された式(I)の化合物は、B細胞悪性腫瘍および自己免疫疾患の治療に使用することができる。
【発明の背景】
【0002】
免疫細胞は、通常、T細胞とB細胞に分けることができる。B細胞の主な機能は、あらゆる種類の外来侵襲から身体を保護するための様々な抗体を分泌することである。Brutonチロシンプロテインキナーゼ(BTK)は、チロシンプロテインキナーゼ亜群の一員であり、Tec系統群キナーゼに属している。これは主にB細胞の中で発現され、リンパ系、造血系および血液系に分布している。B細胞受容体(BCR)は、慢性リンパ球性白血病(CLL)および非ホジキンリンパ腫(NHL)の亜型、マントル細胞リンパ腫(MCL)およびびまん性大型B細胞リンパ腫(DLBCL)から選択される様々なリンパ腫の増殖および生存の制御において決定的な役割を果たしている。さらに、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症および他の免疫疾患の発病におけるB細胞の役割が臨床で証明されている。Brutonチロシンプロテインキナーゼ(BTK)は、BCRシグナル伝達経路における重要なプロテインキナーゼである。BTKは、正常なB細胞の成熟および分化を制御することができ、様々なB細胞リンパ組織障害の疾患にも密接に関連している。従って、BTKを標的とする小分子阻害剤はB細胞悪性腫瘍および自己免疫疾患の治療に有用である。
【0003】
イブチニブは、PharmacyclicsとJanssenによって共同開発された第一世代小分子BTK阻害剤である。2013年11月にマントル細胞リンパ腫(MCL)の治療薬として初めてFDAに承認され、その後2014年2月に慢性リンパ球性白血病(CLL)の治療薬として承認された。イブチニブは、そのマイケル受容体を介してBTKキナーゼ上のATP結合ドメインのシステイン481に不可逆的に結合する。これにより、BTKの下流シグナル伝達を阻害し、腫瘍細胞の増殖を効果的に制御することができる。
【0004】
PCT/US14/61393は、式(I)の化合物、即ち、(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンに関する。該化合物は、新規なBTKキナーゼ阻害剤であり、そのキナーゼ選択性、臨床における薬効または効能および安全性の面で改良されている。しかし、該特許出願では、該化合物の結晶形に関する研究はなされていなかった。
【化1】
【0005】
薬学的な活性成分の結晶構造は、薬物の化学的安定性にしばしば影響を及ぼす。異なる結晶化条件および保存条件は、化合物の結晶構造の変化をもたらし、時には他の結晶形の生成を伴うことがある。一般に、アモルファス薬物製品は規則的な結晶構造を有さず、しばしば製品の安定性が悪い、結晶が微細であり、濾過し難い、凝集し易いおよび流動性が低いことなどの他の欠陥を有する。従って、上記製品の諸特性を改良する必要がある。高純度で良好な化学的安定性を有する新規な結晶形を見出すことが必要となる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンのI型結晶およびその製造方法を提供することである。
【0007】
本出願人は種々の結晶化条件下で得られた一連の式(I)の化合物の結晶生成物を調べ、得られた結晶生成物についてX線回折および示差走査熱量(DSC)の測定を行った。本発明の結晶化条件下で式(I)の化合物の安定な結晶形(I型結晶と称する)は得られることが分かった。本願のI型結晶のDSCスペクトルは約236.23℃に融解吸熱ピークを示す。Cu-Kα線を用いて得られ、2θ角と面間隔で表されるX線粉末回折スペクトルにおいて、2θ±0.2: 9.91, 12.20, 17.24, 17.64および21.48に特徴的なピークがある。
また、該I型結晶は、2θ±0.2: 7.86, 9.91, 12.20, 13.73, 17.24, 17.64, 19.02, 19.93, 20.72, 21.48, 22.64, 24.81, 27.44および27.87に特徴的なピークがある。
さらに、該I型結晶のX線粉末回折スペクトルは図3に示し、2θ±0.2: 5.11 (17.30), 7.86 (11.24), 9.91 (8.92), 12.20 (7.25), 13.73 (6.45), 15.44 (5.73), 17.24 (5.14), 17.64 (5.02), 19.02 (4.66), 19.93 (4.45), 20.72 (4.28), 21.48 (4.13), 22.64 (3.92), 23.12 (3.84), 24.81 (3.59), 25.43 (3.50), 26.24 (3.39), 27.44 (3.25), 27.87 (3.20)および29.03 (3.07)に特徴的なピークがある。
【0008】
また、本発明は式(I)の化合物のI型結晶の製造方法を提供する。具体的に、該方法は次の工程を含む。
1)固体の(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンの何らかの結晶形またはアモルファス形を加熱下適量の有機溶媒に溶解した後、溶液を冷却し、結晶を析出する工程、および
2)該結晶を濾過した後、洗浄し、乾燥する工程。
【0009】
工程1)において、該溶媒が4個以下の炭素原子を有するアルコール、ケトン、ニトリル、エーテルおよびエステルのいずれか1つ以上、または上記の1種以上の溶媒と水との混合溶媒から選択される。該溶媒は、好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、またはエタノール/水、N,N-ジメチルホルムアミド/水、または1,4-ジオキサン/水である。前記の有機溶媒を単独に、または混合した溶媒を結晶化に用いることができる。
さらに、該単一溶媒は、最も好ましくは、エタノールである。
【0010】
再結晶の方法は特に限定されず、通常の再結晶の工程により行うことができる。例えば、加熱しながら、材料、即ち式(I)の化合物を有機溶媒に溶解した後、溶液を徐々に冷却し、撹拌しながら結晶を沈殿させることができる。結晶化が完了した後、濾過および乾燥により所望の結晶を得ることができる。特に通常では、濾過により得られた結晶を減圧下および30〜100℃程度、好ましくは40〜60℃程度の加熱条件で乾燥させ、再結晶の溶媒を除去する。
【0011】
示差走査熱量測定(DSC)およびX線回折スペクトルにより生成した結晶形を同定し、また、得られた結晶中の残留溶媒も測定する。
【0012】
本発明の方法に従って製造された式(I)の化合物の結晶には、残留溶媒が含まれず、または日本薬局方で規定されている薬品中の残留溶媒の制限に関する要件を満たす程度の比較的低い含量の残留溶媒しか含まれない。従って、本発明の結晶を薬効成分としてうまく使用することができる。
【0013】
実験の結果、本発明に従って製造された式(I)の化合物のI型結晶の照明、高温および高湿度の条件における安定性はアモルファス試料より有意に良好であることが示される。I型結晶は、粉砕、圧力および加熱の条件においても安定であるため、医薬品の製造、輸送および貯蔵におけるニーズを満たす。該製造工程は安定で、再現可能であり、また制御可能であるため、工業生産には適している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】式(I)の化合物のアモルファス固形物のX線粉末回折スペクトルを示す。
図2】式(I)の化合物のアモルファス固形物のDSCスペクトルを示す。
図3】式(I)の化合物のI型結晶のX線粉末回折スペクトルを示す。
図4】式(I)の化合物のI型結晶のDSCスペクトルを示す。
【発明の詳細な説明】
【0015】
本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明の実施例は本発明の技術的解決法を記載することのみを意図するものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
実験で用いた試験装置
1.DSCスペクトル
装置タイプ:Mettler Toledo DSC 1 Staree System
パージガス:窒素
加熱速度:10.0℃/分
温度範囲:40〜350℃
2.X線回折スペクトル
装置タイプ:Bruker D8 Focus X線粉末回折計
光線:単色Cu-Kα線 (λ=1.5406)
スキャンモード:θ/2θ、スキャン範囲:2〜40°
電圧:40 KV、電流:40 mA
【実施例1】
【0017】
(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンの製造方法は次の3つの部分から成る。
第1部:化合物1bの製造
【化2】
酢酸ナトリウムのエタノール溶液(160 ml、質量分率21%、0.49 mmol)を110 mlのエタノールに加え、氷浴中でシュウ酸ジエチル(64 ml、0.47mol)を加えた。混合物を30分間撹拌した。次いで、(E)-ヘキサ-3-エニトリル1a(16 g、0.15 mmol)のエタノール溶液(30 ml)を加え、混合物を室温で一晩撹拌した。氷浴で冷却した後、懸濁液を濾過した。固体を少量のエタノールで洗浄した後、380 mlの水に溶解した。塩酸で溶液をpH 4に酸性化し、多量の固体を沈殿させた。固体を濾過し、水で洗浄し、乾燥させて11.9 gの1bを黄色固体として得た。
第2部:化合物2の製造
【化3】
工程A
2,6-ジフルオロフェノール(3.0 g、21.3 mmol)、1-フルオロ-4-ニトロベンゼン(3.04 g、23.4 mmol)および炭酸カリウム(4.4 g、32 mmol)を50 mlのアセトニトリルに加え、混合物を16時間還流した。室温に冷却した後、溶媒を除去した。水を加え、混合物を酢酸エチルで3回抽出した。有機抽出物を水および鹹水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、濃縮して4.9 gの2aを油状物として得た。
工程B
1,3-ジフルオロ-2-(4-ニトロフェノキシ)ベンゼン2a(4.9 g、19.5 mmol)、5 mlの塩化アンモニウム飽和溶液および鉄粉(5.5 g、97.5 mmol)を40 mlのメタノールに加え、混合物を3時間還流した。混合物を濾過し、濾液に水を加え、混合物を酢酸エチルで3回抽出した。有機抽出物を水および鹹水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、濃縮して4.1 gの2bを淡黄色の油状物として得た。
工程C
0℃で4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)アニリン2b(4.1 g、18.5 mmol)を2M硫酸溶液(50 ml)に加えた後、20 mlの亜硝酸ナトリウム水溶液(6.4 g、92.7 mmol)を添加した。混合物を40分間撹拌し、次いで臭化銅(5.3 g、37 mmol)を添加した。生成した混合物を16時間還流した。室温に冷却後、混合物を酢酸エチルで3回抽出した。有機抽出物を水および鹹水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、濃縮して1.6 gの2cを無色油状物として得た。
工程D
2-(4-ブロモフェノキシ)-1,3-ジフルオロベンゼン2c(1.6 g, 3.6 mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(1.71 g、6.7 mmol)、KOAc(830 mg、8.4 mmol)およびPd(PPh3)2Cl2(126 mg、0.18 mmol)を40 mlの1,4-ジオキサンに加え、混合物を窒素雰囲気下および80℃で16時間攪拌した。室温に冷却した後、溶媒を除去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、1.6 gの2を無色油状物として得た。
第3部:(R)-4-アミノ-1-(1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル)-3-(4-(2,6-ジフルオロフェノキシ)フェニル)-1H-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-7(6H)-オンの製造
【化4】
工程A
1.5 gの1bを84 mlの酢酸エチルに加え、溶液を60℃に加熱した。次いで、(R)-1-tert-ブトキシカルボニル-3-アミノピロリジン(1.41 g)の酢酸エチル溶液(21 ml)を滴下した。混合物を4時間還流した。室温に冷却した後、溶媒を除去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、0.686 gの3aを得た。
工程B
0℃で0.686 gの3aを120 mlのジクロロメタンに加え、Br2(3.7 g)のジクロロメタン溶液(5 ml)をゆっくり滴下した。混合物を1.5時間撹拌し、次いで10%チオ硫酸ナトリウム溶液および重炭酸ナトリウム飽和溶液でクエンチした。2つの相を分離し、水相をジクロロメタンで抽出した。合わせた有機抽出物を過剰のBoc2Oで処理し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、0.342 gの3bを得た。
工程C
窒素雰囲気下で3b(198 mg、0.48 mmol)、2(160 mg、0.48 mmol)およびK3PO4・3H2O(188 mg、0.72 mmol)を1,4-ジオキサン/水(10 ml/1 ml)に加えた。次いで、Pd2(dba)3(22 mg、0.024 mmol)およびP(Cy)3(14 mg、0.048 mmol)を添加した。生成した混合物を窒素雰囲気下で16時間還流した。室温に冷却した後、混合物を濾過し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、59 mgの3cを白色固体として得た。
MS (ESI): m/z=538 [M+H]+.
工程D
3c(72 mg、0.13 mmol)および1 mlのN2H4・H2Oを5 mlのエタノールに加え、混合物を16時間還流した。室温に冷却した後、溶媒を除去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して、24 mgの3dを白色固体として得た。
MS (ESI): m/z=524 [M+H]+.
工程E
3d(40 mg、0.08 mmol)を5 mlのジクロロメタンに加えた後、1 mlのトリフルオロ酢酸を添加した。混合物を室温で3時間撹拌した後、濃縮して49 mgの3eを油として得た。ブタ-2-イニル酸(13 mg、0.16 mmol)、カルボジイミド(31 mg、0.16 mmol)および無水トリフルオロ酢酸(17 mg、0.16 mmol)を3e(49 mg)のジクロロメタン溶液(5 ml)に加えた。生成した混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、20 mgの標記化合物3を白色固体として得た。該固体試料のX線回折スペクトルを図1に示すが、そこには結晶の特徴的な吸収ピークはない。該固体試料のDSCスペクトルを図2に示すが、そこには350℃未満で融解吸熱ピークはない。従って、該生成物をアモルファス固形物と同定した。
MS (ESI): m/z=490 [M+H]+.
【実施例2】
【0018】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を50 mlの一口フラスコに入れ、続いて15 mlの無水エタノールを添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(805 mg、収率:80.5%)を得た。該結晶試料のX線粉末回折スペクトルを図3に示すが、そこには約5.11 (17.30), 7.86 (11.24), 9.91 (8.92), 12.20 (7.25), 13.73 (6.45), 15.44 (5.73), 17.24 (5.14), 17.64 (5.02), 19.02 (4.66), 19.93 (4.45), 20.72 (4.28), 21.48 (4.13), 22.64 (3.92), 23.12 (3.84), 24.81 (3.59), 25.43 (3.50), 26.24 (3.39), 27.44 (3.25), 27.87 (3.20)および29.03 (3.07)に特徴的なピークがある。そのDSCスペクトルを図4に示すが、その236.23℃に融解吸熱ピークがある。該結晶形をI型結晶と定義した。
【実施例3】
【0019】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を50 mlの一口フラスコに入れ、続いて15 mlの無水メタノールを添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(765 mg、収率:76.5%)を得た。そのX線回折スペクトルおよびDSCスペクトルを研究・比較した結果、該生成物をI型結晶と同定した。
【実施例4】
【0020】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を50 mlの一口フラスコに入れ、続いて15 mlのイソプロパノールを添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(745 mg、収率:74.5%)を得た。そのX線回折スペクトルおよびDSCスペクトルを研究・比較した結果、該生成物をI型結晶と同定した。
【実施例5】
【0021】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を50 mlの一口フラスコに入れ、続いて10 mlの酢酸エチルを添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(690 mg、収率:69.0%)を得た。そのX線回折スペクトルおよびDSCスペクトルを研究・比較した結果、該生成物をI型結晶と同定した。
【実施例6】
【0022】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を50 mlの一口フラスコに入れ、続いて10 mlのアセトンを添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(660 mg、収率:66.0%)を得た。そのX線回折スペクトルおよびDSCスペクトルを研究・比較した結果、該生成物をI型結晶と同定した。
【実施例7】
【0023】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を50 mlの一口フラスコに入れ、続いて10 mlのアセトニトリルを添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(810 mg、収率:81.0%)を得た。そのX線回折スペクトルおよびDSCスペクトルを研究・比較した結果、該生成物をI型結晶と同定した。
【実施例8】
【0024】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を25 mlの一口フラスコに入れ、続いて3 mlのテトラヒドロフランを添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(587 mg、収率:58.7%)を得た。そのX線回折スペクトルおよびDSCスペクトルを研究・比較した結果、該生成物をI型結晶と同定した。
【実施例9】
【0025】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を25 mlの一口フラスコに入れ、続いて7 mlのエタノール/水(V:V = 1:1)を添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(657 mg、収率:65.7%)を得た。そのX線回折スペクトルおよびDSCスペクトルを研究・比較した結果、該生成物をI型結晶と同定した。
【実施例10】
【0026】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を25 mlの一口フラスコに入れ、続いて7 mlのN,N-ジメチルホルムアミド/水(V:V = 1:1)を添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(600 mg、収率:60.0%)を得た。そのX線回折スペクトルおよびDSCスペクトルを研究・比較した結果、該生成物をI型結晶と同定した。
【実施例11】
【0027】
式(I)の化合物(1.0 g、2.04 mmol)(実施例1に従って製造)を25 mlの一口フラスコに入れ、続いて10 mlの1,4-ジオキサン/水(V:V = 1:2)を添加した。混合物を、溶液が透明になるまで加熱還流した。溶液を冷却し、多量の固体を沈殿させた。混合物を濾過し、乾燥させて固体(793 mg、収率:79.3%)を得た。そのX線回折スペクトルおよびDSCスペクトルを研究・比較した結果、該生成物をI型結晶と同定した。
【実施例12】
【0028】
実施例1で製造されたアモルファス型の試料および実施例2で製造されたI型結晶の試料を空気中で平らに広げ、それぞれ照明(4500 Lux)、加熱(40℃、60℃)および高湿度(RH 75%、RH 90%)の条件における安定性試験を行った。試料採取は5日目および10日目に行った。そのHPLC検出法による純度を表1に示す。
【表1】
I型結晶およびアモルファス型の試料を空気中で平らに広げ、照明、高温および高湿度の条件下での安定性を試験し、比較した。安定性試験の結果は、照明、高温および高湿度の条件下でI型結晶の安定性がアモルファス型の試料より著しく良好であることを示した。
【実施例13】
【0029】
実施例2の方法に従って製造した式(I)の化合物のI型結晶を粉砕し、加熱し、打錠した。その結果は、該結晶形が安定であることを示した。詳細な実験データを下の表2に示す。
【表2】
図1
図2
図3
図4