特許第6913405号(P6913405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6913405
(24)【登録日】2021年7月14日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/14 20060101AFI20210727BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20210727BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20210727BHJP
   C04B 35/14 20060101ALI20210727BHJP
   B28B 1/00 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   B28B1/14 G
   C03B20/00 C
   C04B35/622
   C04B35/14
   B28B1/00 L
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-24301(P2020-24301)
(22)【出願日】2020年2月17日
【審査請求日】2021年1月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392017004
【氏名又は名称】湖北工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 勝博
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 久仁子
(72)【発明者】
【氏名】朴 秋月
(72)【発明者】
【氏名】金田 安生
(72)【発明者】
【氏名】高村 一雅
(72)【発明者】
【氏名】荒木 治人
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−097078(JP,A)
【文献】 特開2005−280087(JP,A)
【文献】 特開2001−105414(JP,A)
【文献】 特開平04−077352(JP,A)
【文献】 特開2018−080370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00 − 1/54
C03B 20/00
C04B 35/14
C04B 35/622
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属無機材料から成る粉体、溶媒、分散剤、硬化性樹脂を含む原料溶液と硬化剤とを混合して成形型に注入する注入工程と、
前記原料溶液と前記硬化剤の混合物を前記成形型内で硬化させて所定の硬さの一次硬化体を形成する型内硬化工程と、
前記一次硬化体を前記成形型から脱離させる脱型工程と、
前記成形型から脱離された前記一次硬化体の硬化反応を進行させることにより所定の硬さの二次硬化体を得る型外硬化工程と、
前記二次硬化体を乾燥する乾燥工程と、
乾燥後の二次硬化体を脱脂する脱脂工程と、
脱脂後の二次硬化体を焼結する焼結工程と
を順に実行することにより成形体を製造する方法であって、
前記型外硬化工程が、前記一次硬化体を液体に浸漬した状態で硬化反応を進行させる液中硬化工程を有し、
前記一次硬化体の硬さが、前記型外硬化工程で得られた二次硬化体の硬さの40%〜70%である、成形体製造方法。
【請求項2】
前記非金属無機材料がシリカガラスである、請求項1に記載の成形体製造方法。
【請求項3】
前記非金属無機材料がセラミックスである、請求項1に記載の成形体製造方法。
【請求項4】
前記液中硬化工程において、常温の液体中で硬化反応を進行させる第1工程と、加熱された液体中で硬化反応を進行させる第2工程が順に行われる請求項1〜3のいずれかに記載の成形体製造方法。
【請求項5】
前記型外硬化工程が、前記液中硬化工程の後に行われる工程であって、前記液体から取り出された硬化体を、前記液中硬化工程における前記液体よりも高温で且つ、乾燥工程における温度よりも低温の気体中に放置し、硬化反応を進行させる気体中硬化工程を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の成形体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラスやセラミックス等の非金属無機材料を原料に含む成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の伝送路やレーザガイド等に使用される光ファイバは、屈折率の高いコアと、その周りを取り囲む、屈折率の低いクラッド層とから構成され、シリカガラス、フッ化物ガラス等の非金属無機物質を主な材料とする。通信技術の進歩にともない、一般的なシングルモードファイバに加え、マルチコアファイバ、空孔アシストファイバ、フォトニック結晶型ファイバ、パンダファイバ(PANDA(Polarization-maintaining AND Absorption-reducing)ファイバ)等の特殊な構造の光ファイバが開発されている。
【0003】
特殊な構造の光ファイバは一般的な構造の光ファイバに比べて光ファイバ母材の製造工程が複雑であり、手間とコストがかかる。例えば空孔アシストファイバは、以下のようにして製造される。まず、VAD法(気相軸付け法:Vapor phase Axial Deposition method)によってコアとその外周を覆うクラッド層を形成し、第1母材を得る。次いで第1母材のクラッド層内に該母材の長手方向に延びる複数の貫通孔をドリルを用いて、あるいは超音波で切削することにより形成し、第2母材(貫通孔付き第1の母材)を得る。そして、第2母材の洗浄、脱水、乾燥工程を経てファイバ母材が完成する。このようにして得られたファイバ母材を線引きすることにより光ファイバが完成する(特許文献1)。
【0004】
ところが、ドリルや超音波による切削加工では、貫通孔の内径寸法や真円度、真直度等を所望の値に調整することが難しい。特に貫通孔の内径寸法が小さく、且つ、長さ寸法が大きいファイバ母材の場合には、貫通孔の真円度、真直度を高精度に調整することが困難になる。
また、マルチコアファイバ用のファイバ母材の場合は、上述した製造方法に、第2母材の貫通孔に別工程で製造されたコア材を挿入し、貫通孔の内表面に溶着させる工程が加わるが、ドリルや超音波による切削加工では貫通孔の内表面粗さを小さくすることが難しい。そのため、コアとクラッド層との境界部分における光損失(散乱損失、吸収損失等)が大きくなってしまう。
【0005】
上記の問題を解決するため、成形により光ファイバを製造する方法が提案されている(特許文献2)。この方法では、シリカガラス粉末、蒸留水、分散剤、硬化性樹脂からなるガラス原料溶液に硬化剤を混合し、この混合物をコア用金属ロッドが配置された成形型に注入する。成形型内では硬化性樹脂が硬化することにより混合物が固化するため、その固化体から成形型及びコア用金属ロッドを脱離させる。その後、固化体を乾燥させ、焼成することにより光ファイバ母材が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-339004号公報
【特許文献2】特開2013-147384号公報
【特許文献3】特開2007-136912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の方法では、真円度、真直度の優れたコア用金属ロッドを用いることにより、貫通孔の真円度、真直度を高めることができる。また、コア用金属ロッドの外表面粗さによって貫通孔の内表面粗さが決まるため、該ロッドの外表面を鏡面研磨加工しておくことにより貫通孔の内表面を滑らかな状態にすることができる。切削により貫通孔を形成する場合に比べると、真円度、真直度に優れたコア用金属ロッドを製造したり、コア用金属ロッドの外表面を鏡面研磨加工したり作業の方が容易であるため、光ファイバ母材の製造にかかる手間やコストを抑えることができる。
【0008】
ところで、成形品の製造現場では、固化体から脱離された成形型は、その表面から汚れが取り除かれた後、再び成形品の製造に使用される。従って、成形品の製造工程における成形型の使用時間、つまり特許文献2に記載の製造方法においては、ガラス原料溶液と硬化剤を成形型に注入してから固化体から成形型を脱離させるまでの時間、を短くすることができれば、該成形型の利用効率を高めることができる。
【0009】
ガラス原料溶液と硬化剤の混合物が固化するまでにかかる時間は、ガラス原料溶液に含まれる硬化性樹脂と硬化剤の組み合わせや硬化反応の条件によって決まる。従って、硬化性樹脂と硬化剤の組み合わせや反応条件を適宜に設定することにより、ある程度は固化時間を短縮することができるものの、限界があった。
【0010】
なお、ここでは光ファイバを例に挙げて説明したが、シリカガラスやセラミックス等の非金属無機材料から成る様々な製品を成形型を用いて製造する場合には同様の問題があった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、非金属無機材料を含む製品を成形型を用いて製造する場合における成形型の利用効率を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明は、
非金属無機材料から成る粉体、溶媒、分散剤、硬化性樹脂を含む原料溶液と硬化剤とを混合して成形型に注入する注入工程と、
前記原料溶液と前記硬化剤の混合物を前記成形型内で硬化させて所定の硬さの一次硬化体を形成する型内硬化工程と、
前記一次硬化体を前記成形型から脱離させる脱型工程と、
前記成形型から脱離された前記一次硬化体の硬化反応を進行させることにより所定の硬さの二次硬化体を得る型外硬化工程と、
前記二次硬化体を乾燥する乾燥工程と、
乾燥後の二次硬化体を脱脂する脱脂工程と、
脱脂後の二次硬化体を焼結する焼結工程と
を順に実行することにより成形体を製造する方法であって、
前記型外硬化工程が、前記一次硬化体を液体に浸漬した状態で硬化反応を進行させる液中硬化工程を有し、
前記一次硬化体の硬さが、前記型外硬化工程で得られた二次硬化体の硬さの40%〜70%であること、好ましくは45%〜65%であることを特徴とする。
【0013】
上記方法において「硬さ」とは、典型的にはデュロメータ硬度であるが、押し込み硬さを表す、例えばバーコール硬度、モノトロン硬度を用いることができる。また、デュロメータ硬度、バーコール硬度、モノトロン硬度等に換算可能な物理量で「硬さ」を表すことも可能である。このような物理量としては、ヤング率等の弾性変形率が挙げられる。
【0014】
一次硬化体の「所定の硬さ」とは、該一次硬化体を成形型から脱離させることができる硬さをいう。また、二次硬化体の「所定の硬さ」とは、一般的には硬化反応が終了した状態にあるときの硬さをいうが、乾燥工程、脱脂工程、焼結工程で不具合(例えば割れやヒビ)が発生しなければ、硬化反応が完全に終了していない状態の硬さでも良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る成形体の製造方法においては、原料溶液と硬化剤の混合物を成形型内で硬化させることで得られる一次硬化体の硬さが、成形型から一次硬化体を脱離させた後、型外硬化工程で一次硬化体の硬化反応を進行させることにより得られる二次硬化体の硬さの40%〜70%、好ましくは45%〜65%になるようにした。言い換えると、成形型内における硬化性樹脂と硬化剤の硬化反応が終了する前の状態で硬化体(一次硬化体)から成形型を脱離させ、残りの硬化反応を成形型の外で行うようにした。従って、成形型の使用時間を短縮することができるため、成形型の利用効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る成形体の製造方法の工程図。
図2】成形時間とデュロメータ硬度との関係を示すグラフ。
図3】各工程における硬さの変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、非金属無機材料から成る粉体、溶媒、分散剤、硬化性樹脂を含む原料溶液と硬化剤とを混合して成形型に注入する注入工程と、前記原料溶液と前記硬化剤の混合物を前記成形型内で硬化させて所定の硬さの一次硬化体を形成する型内硬化工程と、前記一次硬化体を前記成形型から脱離させる脱型工程と、前記成形型から脱離された前記一次硬化体の硬化反応を進行させることにより所定の硬さの二次硬化体を得る型外硬化工程と、前記二次硬化体を乾燥する乾燥工程と、乾燥後の二次硬化体を脱脂する脱脂工程と、脱脂後の二次硬化体を焼結する焼結工程とを順に実行することにより成形体を製造する方法であって、前記一次硬化体の硬さが、前記型外硬化工程で得られた二次硬化体の硬さの40%〜70%である、成形体製造方法である。
【0018】
ここで、非金属無機材料としては、シリカ(SiO)ガラス、フッ化カルシウム(CaF)ガラス、セラミックス等を挙げることができる。また、セラミックスとしては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。非金属無機材料から成る粉体は、単一の材料から構成されていても良く、複数種類の材料が混合されていても良い。また、原料溶液には金属不純物が含まれていても良い。
【0019】
硬化性樹脂とは重合反応により3次元網目構造を形成するものをいい、液状であることが好ましい。硬化性樹脂の例として、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリル酸樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができる。
硬化剤としては、例えばアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリアミド系硬化剤等を用いることができるが、硬化性樹脂との組合せにより適宜のものを採用するとよい。
【0020】
本発明に係る成形体の製造方法では、原料溶液と硬化剤の混合物の硬化反応が完全に硬化する前であって、硬さが所定値にある硬化体(一次硬化体)を成形型から脱離させる。一次硬化体の硬さが所定値にあるか否かは、原料溶液と硬化剤を混合した後の経過時間と混合物の硬さとの関係を予め調べておくことにより、前記経過時間から判断することができる。
【0021】
上記の製造方法では、硬化性樹脂が完全に硬化する前の状態にある、つまり、硬さが低く、比較的軟らかい一次硬化体を成形型から脱離させる。成形型から脱離させた後の一次硬化体の形状を維持できなければ、本来の目的を逸脱することになるため、そのような不具合が生じないように、成形型から脱離させる際の一次硬化体の硬さは設定される。
【0022】
本発明の製造方法では、一次硬化体を成形型から脱離させた後、該一次硬化体の硬化反応を進行させるための型外硬化工程を行う。型外硬化工程は、硬化性樹脂の硬化反応がほぼ終了するまで行われる。硬化反応がほぼ終了した状態とは、それ以上、型外硬化工程を継続しても二次硬化体の硬さがほとんど変化しない状態をいう。本発明においては、二次硬化体の硬さを100%とすると、一次硬化体の硬さが40〜70%、好ましくは45〜65%となるようにする。
【0023】
二次硬化体の硬化反応がほぼ終了した状態にあるか否かは、成形型から一次硬化体を脱離させてから経過した時間、或いは、型外硬化工程を開始してから経過した時間と硬化体(一次硬化体)の硬さとの関係を予め調べておくことにより、前記経過時間から判断することができる。
【0024】
型外硬化工程は、常温下で行っても良く、加熱雰囲気下で行っても良い。硬化反応の進行を早めることができる点では加熱雰囲気下で型外硬化工程を行うことが好ましい。また、まずは常温下で硬化反応を進行させ、その後、加熱雰囲気下でさらに硬化反応を進行させるようにしても良い。加熱雰囲気の温度は、原料溶液に含まれる硬化性樹脂と硬化剤の組合せや硬化性樹脂と硬化剤の配合比等によって適宜の値に設定すればよい。
【0025】
また、型外硬化工程は、一次硬化体を液体に浸漬した状態で行うことが好ましい。特に、加熱する場合は、一次硬化体を液体に浸漬することで、一次硬化体の急激な温度上昇を緩和したり、次の乾燥工程における急激な乾燥を防いだりすることができる。このため、製造された成形体に割れやヒビ等の欠陥が生じたり、成形体が変形したりすることを防止できる。
【0026】
一次硬化体を浸漬する液体は、通常は前記混合物に含まれる溶媒と同じであるが、前記混合物に含まれる溶媒と性質が同じであれば異なる種類の液体を用いることができる。典型的には、液体は水であるが、非金属無機材料の種類、成形体の用途等により、アルコール類、有機溶媒などを用いることができる。
【0027】
なお、特許文献3には、セラミックス粉体、分散剤、硬化性樹脂、及び溶媒を含む混合物を成形型内に注入し、そこに硬化剤を入れて硬化させ、硬化体を成形型から脱離させた後、該硬化体を溶媒に浸漬して熱処理し、乾燥、脱脂、焼結を経てセラミック成形体を製造する方法が開示されている。この方法では、脱型工程と乾燥工程の間に硬化体を加熱しており、一見すると本発明に係る製造方法と類似する。しかし、特許文献3の方法では、十分に硬化した状態にある硬化体から成形型を脱離させており、脱型工程と乾燥工程の間の加熱処理では硬化体の硬化反応はほとんど進行しない。また、特許文献3の方法における、脱型工程と乾燥工程の間の加熱工程は、硬化体の乾燥時の割れを抑えることを目的としており、本発明における型外硬化工程とは異なる。
【0028】
次に、本発明をガラス成形体の製造方法に適用した実施形態について説明する。図1は、ガラス成形体の製造方法の一例を示している。この例では、まず、原料溶液の材料であるシリカ(SiO)ガラス粉体、蒸留水、分散剤、硬化性樹脂をボールミルに入れて混ぜ合わせる(S1)。これにより、各材料が微細に粉砕され、且つ均一に混ぜ合わされた状態の原料溶液が得られる。
【0029】
次に、ボールミルから原料溶液を取り出し、これと硬化剤の混合物を成形型に注入し(S2)、成形型内で自己硬化反応により混合物を硬化(型内硬化反応)させて一次硬化体を得る(S3)。一次硬化体は、完全に硬化する前の状態であって、所定の硬さを有する。一次硬化体の硬さについては後述する。
続いて、一次硬化体を成形型から脱離させる(S4)。その後、常温下又は/及び加熱雰囲気下で一次硬化体の硬化反応(型外硬化反応)を進行させる(S5)。型外硬化反応は、一次硬化体を液体に浸漬した状態又は/及び気体(空気)中に放置した状態で行われる。これにより、硬化反応が略終了した状態の二次硬化体が得られる。
また、二次硬化体を乾燥(S6)、脱脂(S7)、及び焼結(S8)させることで、成形体が完成する。
【0030】
本実施形態では、原料溶液と硬化剤の混合物が完全に硬化する前の状態の一次硬化体を成形型から脱離させる。したがって、一つの成形体を得るために使用する成形型の使用時間を短縮することができ、成形型の利用効率を上げることができる。
【0031】
以下、実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
表1に示す処方の原料溶液をボールミルに入れ、24時間混合した。そして、ボールミルから混合物を取り出した後、この混合物と硬化剤(表1参照)を成形型に注入し、20℃で、45分、55分、180分、360分、1050分の時間放置した。その後、成形型内で硬化した混合物(以下、硬化体)を成形型から脱離させた。
【0032】
【表1】
【0033】
硬化体の硬さと放置時間(原料溶液と硬化剤を混合した後の経過時間、つまり硬化時間)を調べるため、成形型から脱離させた直後の硬化体のデュロメータ硬度を測定した。デュロメータ硬度の測定には、株式会社テクロック製デュロメータ(GS−719G、Aタイプ)を用いた。表2に、硬化時間と硬化体のデュロメータ硬度との関係を示す。表2に掲載されているデュロメータ硬度は、各硬化時間につき作製した3個の硬化体のデュロメータ硬度の平均値である。また、360分の硬化時間については、2回に分けてそれぞれ3個の硬化体を作製した。
【表2】
【0034】
次に、成形型を脱離させた後の硬化体を蒸留水に浸漬し、常温で18時間放置(常温放置)した後、蒸留水を55℃に加熱し、さらに2時間放置(55℃加熱)した。常温及び55℃で計20時間放置する工程を以下、「液中硬化工程」ともいう。液中硬化工程の後、蒸留水から硬化体を取り出して、60℃の雰囲気下で48時間放置した(以下、「気体中硬化工程」という)後、120℃で48時間乾燥した(以下、「乾燥工程」という)。液中硬化工程及び気体中硬化工程から本発明の型外硬化工程が構成される。また、常温の蒸留水中で放置する工程、55℃の蒸留水中で放置する工程は、それぞれ本発明の第1工程、第2工程に相当する。
【0035】
液中硬化工程における常温放置の後、及び55℃加熱の後、気体中硬化工程の後、乾燥工程の後における硬化体のデュロメータ硬度を測定した。それら測定結果のうち、硬化時間が55分である硬化体の脱型後及びその後の各工程の後におけるデュロメータ硬度を表3に、硬化時間が360分である硬化体の、脱型後及びその後の各工程の後におけるデュロメータ硬度を表4に、それぞれ代表して示す。これらの結果から分かるように、硬化時間が55分、360分の硬化体の間には脱型後の硬度に大きな差がみられたが、液中硬化(55℃)の後の硬度、気体中硬化(60℃)の後の硬度には大きな違いは見られなかった。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
[実施例2]
実施例2は、原料溶液に含まれるシリカガラス粉体の粒径が実施例1と異なる以外は、実施例1とほぼ同じである。すなわち、表5に示す処方の原料溶液をボールミルに入れ、実施例1と同じ手順、同じ条件で混合物を作製し、この混合物と表5に示す硬化剤を成形型に注入した。混合物と硬化剤を成形型に注入した後、20℃で、55分、65分、70分、180分、360分、1050分の間放置した。その後、成形型内で硬化した混合物(以下、硬化体)を成形型から脱離させ、硬化体を得た。次に、実施例1と同様に、成形型を脱離させた後の硬化体に対して、型外硬化工程(液中硬化工程(常温、55℃)、気体中硬化工程(60℃))、乾燥工程を順に実行した。
【0039】
【表5】
【0040】
実施例1と同様、成形型から脱離させた直後、液中硬化工程における常温放置の後、及び55℃加熱の後、気体中硬化工程の後、乾燥工程の後における硬化体のデュロメータ硬度を測定した。その結果を表6〜表8に示す。表6は、硬化時間と成形型から脱離させた直後の硬化体のデュロメータ硬度との関係を示している。また、表7は硬化時間が70分である硬化体の、脱型後及びその後の各工程の後におけるデュロメータ硬度を、表8は硬化時間が360分である硬化体の脱型後及びその後の各工程の後におけるデュロメータ硬度を、それぞれ示している。表6〜8から分かるように、実施例2においても、実施例1と同様の結果が得られた。
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
【0043】
【表8】
【0044】
図2は、実施例1及び実施例2における、脱型直後の硬化体のデュロメータ硬度と硬化時間との関係を示すグラフである。同グラフの横軸は硬化時間を、縦軸はデュロメータ硬度を表している。また、三角印(△)が実施例1の、丸印(〇)が実施例2の結果を表している。このグラフから分かるように、硬化時間が360分を超えるとその長さに関係なく硬化体のデュロメータ硬度はほぼ一定であったことから、実施例1及び実施例2においては、360分で混合物中の硬化性樹脂の硬化反応がほぼ終了することが分かった。また、このとき、硬化体から蒸留水が排出されて該硬化が収縮していたため、成形型から硬化体を容易に脱離させることができた。
【0045】
一方、硬化時間が180分〜360分のときは、硬化がかなり進んでいるにも関わらず、収縮率が小さいため、硬化体を成形型から脱離させるときに割れが発生した。
【0046】
これに対して、硬化時間が40分〜180分の範囲であれば、硬化体が変形したり、割れが生じたりすることなく、成形型から硬化体を脱離させることができることが分かった。なお、硬化時間が40分〜180分の範囲では、硬化体から水分が排出されておらず、従って収縮もしていないため、硬化体が成形型の内面に固着した状態にある。しかし、この時点では硬化体の硬さが小さいため、成形型を脱離させる際に該成形型の内面から硬化体を剥がすようにしても、硬化体に割れが生じることはなかった。
一方、硬化時間が40分よりも短いときは、成形型から脱離させる際に硬化体が伸びて変形してしまい、硬化体の形状を維持することができなかった。
【0047】
また、図2から明らかなように、実施例1と実施例2の間で、硬化時間とデュロメータ硬度の間に大きな違いがみられなかった。このことから、原料溶液に含まれるシリカガラス粉体の粒径が硬化体の硬さに及ぼす影響は小さいと推測された。
【0048】
図3は、表3、表4、表7及び表8に示されている結果をグラフに表したものである。同グラフの縦軸はデュロメータ硬度を表している。また、図3において、三角印(△)で示す折線は硬化時間が55分(実施例1)及び70分(実施例2)で脱型、つまり硬化反応が十分に進んでいない状態で脱型した硬化体の結果を示している。また、丸印(○)で示す折線は硬化時間が360分(実施例1及び2)で脱型、つまり硬化反応がほぼ終了した状態で脱型した硬化体の結果を示している。
【0049】
図3から分かるように、硬化反応が十分に進んでいない状態で脱型した硬化体の脱型直後のデュロメータ硬度の値は、硬化反応がほぼ終了した状態で脱型した硬化体の脱型直後のデュロメータ硬度の値の約半分であったが、液中硬化工程(常温)が終了した時点で両者のデュロメータ硬度はほぼ同程度になった。そして、液中硬化工程(55℃)により、両者の硬化反応はさらに進行してデュロメータ硬度が上がり、乾燥工程が終了した時点の両者のデュロメータ硬度は同等であった。また、実施例1と実施例2ともに同じような結果が得られたことから、原料溶液に含まれるシリカガラス粉体の粒径が脱型後の硬化反応に及ぼす影響は小さいと推測された。
【0050】
[実施例3]
表9に示す処方の原料溶液をボールミルに入れ、実施例1と同じ手順、同じ条件で混合物を作製し、この混合物と表9に示す硬化剤を成形型に注入した。これを、以下の表10に示す条件で硬化させた後、脱型し、型外硬化工程(液中硬化(常温)、液中硬化(55℃))、乾燥工程、脱脂工程を経て焼結させ、直径2mm、長さ5mmの石英ガラスキャピラリを製造した。その結果、乾燥工程、脱脂工程、焼結工程のいずれにおいても、硬化体に割れが生じることがなく、良好なシリカガラス成形体が得られた。
【0051】
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
[実施例4]
表11に示す処方の原料溶液をボールミルに入れ、実施例3と同じ手順、同じ条件で混合物を作製し、この混合物と表11に示す硬化剤を成形型に注入した。これを、以下の表12に示す条件で硬化させた後、脱型し、型外硬化工程(液中硬化(常温)、液中硬化(55℃))、乾燥工程、脱脂工程を経て焼結させ、直径2mm、長さ5mmのセラミックキャピラリを製造した。その結果、乾燥工程、脱脂工程、焼結工程のいずれにおいても、硬化体に割れが生じることがなく、良好なセラミック成形体が得られた。
【表11】
【表12】
【要約】
【課題】非金属無機材料を含む製品を成形型を用いて製造する場合における成形型の利用効率を高める。
【解決手段】本発明は、非金属無機材料から成る粉体、溶媒、分散剤、硬化性樹脂を含む原料溶液と硬化剤とを混合して成形型に注入する注入工程と、前記原料溶液と前記硬化剤の混合物を前記成形型内で硬化させて所定の硬さの一次硬化体を形成する型内硬化工程と、前記一次硬化体を前記成形型から脱離させる脱型工程と、前記成形型から脱離された前記一次硬化体の硬化反応を進行させることにより所定の硬さの二次硬化体を得る型外硬化工程と、前記二次硬化体を乾燥する乾燥工程と、乾燥後の二次硬化体を脱脂する脱脂工程と、脱脂後の二次硬化体を焼結する焼結工程とを順に実行することにより成形体を製造する方法であって、前記一次硬化体の硬さが、前記型外硬化工程で得られる二次硬化体の硬さの40%〜70%である、成形体製造方法である。
【選択図】図1
図1
図2
図3