(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
予め試験により作成した非破壊検査の物性値と、クリープ損傷率との関係を示すマスターカーブを用いて、配管の所望の部位のクリープ損傷率を求めるクリープ損傷評価法において、
配管の溶接の熱影響部の非破壊検査結果から、前記熱影響部のボイド面積率法のマスターカーブを用いて前記熱影響部の仮のクリープ損傷率の下限と上限を特定し、
前記熱影響部の仮のクリープ損傷率の下限および上限から、クリープ損傷率の定義と機器の実使用時間とに従って、前記熱影響部のクリープ寿命である仮の破断時間の上限および下限を特定し、
前記熱影響部の仮の破断時間の上限および下限から、ラーソンミラーパラメータの定義と機器の実使用時間に従って、ラーソンミラーパラメータの上限および下限を特定し、
前記熱影響部のラーソンミラーパラメータの上限および下限から、クリープ破断曲線を用いて前記熱影響部の第一の仮のクリープ破断応力の上限および下限を特定し、
前記熱影響部に隣接する領域の配管の母材の非破壊検査結果から、母材の結晶粒変形係数法のマスターカーブを用いて前記母材の仮のクリープ損傷率の下限と上限を特定し、
前記母材の仮のクリープ損傷率の下限および上限から、クリープ損傷率の定義と機器の実使用時間に従って、前記母材のクリープ寿命である仮の破断時間の上限および下限を特定し、
前記母材の仮の破断時間の上限および下限から、ラーソンミラーパラメータの定義と機器の実使用時間に従って、ラーソンミラーパラメータの上限および下限を特定し、
前記母材のラーソンミラーパラメータの上限および下限から、クリープ破断曲線を用いて前記母材の第二の仮のクリープ破断応力の上限および下限を特定し、
前記母材の第二の仮のクリープ破断応力の上限および下限により定められる前記母材のクリープ破断応力範囲と、前記熱影響部の第一の仮のクリープ破断応力の上限および下限により定められる前記熱影響部のクリープ破断応力範囲と、に重複する範囲があるかどうかを判定し、
前記母材の第二の仮のクリープ破断応力と前記熱影響部の第一の仮のクリープ破断応力の範囲とに重複がある場合には、前記母材と前記熱影響部とで重複したクリープ破断応力の範囲の下限と上限を特定し、
前記重複したクリープ破断応力範囲の下限および上限から、前記母材のクリープ破断曲線を用いて、前記母材の新しいラーソンミラーパラメータの上限および下限を求め、
前記重複したクリープ破断応力範囲の下限および上限から、前記熱影響部のクリープ破断曲線を用いて、前記熱影響部の新しいラーソンミラーパラメータの上限および下限を求め、
前記母材の新しいラーソンミラーパラメータの上限および下限から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、前記母材の新しい真の破断時間の上限および下限を求め、
前記熱影響部の新しいラーソンミラーパラメータの上限および下限から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、前記熱影響部の新しい真の破断時間の上限および下限を求め、
前記母材の真の破断時間と前記熱影響部の真の破断時間とで重複した真の破断時間の下限と上限に基づき、クリープ損傷率を算出する、
ことを特徴とするクリープ損傷評価法。
予め試験により作成した非破壊検査の物性値と、クリープ損傷率との関係を示すマスターカーブを用いて、配管の所望の部位のクリープ損傷率を求めるクリープ損傷評価法において、
配管の溶接の熱影響部の非破壊検査結果から、前記熱影響部のボイド面積率法のマスターカーブを用いて前記熱影響部の仮のクリープ損傷率の下限と上限を特定し、
前記熱影響部の仮のクリープ損傷率の下限および上限から、クリープ損傷率の定義と機器の実使用時間とに従って、前記熱影響部のクリープ寿命である仮の破断時間の上限および下限を特定し、
前記熱影響部のクリープ破断曲線を用いて使用応力を破断応力とする前記熱影響部のラーソンミラーパラメータを特定し、
前記熱影響部のラーソンミラーパラメータと前記熱影響部の仮の破断時間の上限と下限から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、前記熱影響部の第一の仮のクリープ破断温度の下限および上限を特定し、
前記熱影響部に隣接する領域の配管の母材の非破壊検査結果から、母材の結晶粒変形係数法のマスターカーブを用いて前記母材の仮のクリープ損傷率の下限と上限を特定し、
前記母材の仮のクリープ損傷率の下限および上限から、クリープ損傷率の定義と機器の実使用時間に従って、前記母材のクリープ寿命である仮の破断時間の上限および下限を特定し、
前記母材のクリープ破断曲線を用いて破断応力とする母材のラーソンミラーパラメータを求め、
前記母材のラーソンミラーパラメータと前記母材の破断時間の上限と下限から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、前記母材の第二の仮のクリープ破断温度の下限および上限を特定し、
前記母材の第二の仮のクリープ破断温度の下限と上限により定められる母材のクリープ破断温度範囲と、前記熱影響部のクリープ破断温度の下限および上限により定められる前記熱影響部のクリープ破断温度範囲と、に重複する範囲があるかどうかを判定し、
前記母材の第二の仮のクリープ破断温度範囲と前記熱影響部の第一の仮のクリープ破断温度範囲とに重複がある場合には、重複したクリープ破断温度範囲の下限と上限を特定し、
重複したクリープ破断温度範囲の下限と上限と、使用応力とクリープ破断曲線から求めた前記母材の新しいラーソンミラーパラメータとから、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、前記母材の真の破断時間の上限と下限を特定し、
重複したクリープ破断温度範囲の下限と上限と、使用応力とクリープ破断曲線から求めた前記熱影響部の新しいラーソンミラーパラメータとから、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、前記熱影響部の真の破断時間の上限と下限を特定し、
前記母材の真の破断時間の上限と下限と、前記熱影響部の真の破断時間の上限と下限とに基づきクリープ損傷率を算出する、
ことを特徴とするクリープ損傷評価法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
長期間使用する機器では材料特性等の差が累積して、最終的には大きな損傷あるいは寿命の差となる。従って、損傷を過大あるいは過小評価にならずに適正な損傷評価を実現するには評価対象個々の部材の実際の材料特性で評価することが望ましい。しかし、評価対象個々の部材のあらゆる材料特性を取得することは、技術・時間・コストの面で現実的ではない。従って、効率的に評価対象個々の材料特性を考慮しながら損傷評価する技術が求められている。使用中の機器の部材のクリープ損傷を、予め試験等により作成したそれぞれの評価線図(マスターカーブ)を用いて評価するマスターカーブ法の課題の1つとして、マスターカーブを作成するための試験結果のばらつきがあげられる。
【0009】
特許文献1、2の部材の微視的組織の変化を用いる評価技術の何れにも材料特性のばらつきは考慮されていない。従って、安全側の評価をするにはマスターカーブは材料特性のばらつきの下限(最大限度)を用いることになる。しかし、そのような運用をした場合には、個々の部材には過大に損傷を評価することになる。
【0010】
一方、材料の特性のばらつきを特許文献3のように定量的に考慮する場合にも、材料強度特性のばらつきを確率論的に評価するため、安全側に評価しようとすると、過大に損傷を評価することとなる。
【0011】
本発明は上記実状に鑑み創案されたものであり、高精度に供用中の機器の余寿命を評価できるクリープ損傷評価方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記、課題を解決するため、本発明のクリープ損傷評価方法は、配管の溶接熱影響部とそれに近接する母材における発生応力・温度が等しいことを利用して、非破壊検査によるクリープ損傷評価結果から、真のクリープ損傷を推定している。
【0013】
具体的には、予め試験により作成した非破壊検査の物性値と、クリープ損傷率との関係を示すマスターカーブを用いて、配管の所望の部位のクリープ損傷率を求めるクリープ損傷評価法において、
配管の溶接の熱影響部の非破壊検査結果と、熱影響部のマスターカーブとを用いて熱影響部の仮のクリープ損傷率を特定し、前記熱影響部の仮のクリープ損傷率と実使用時間とから、熱影響部の仮の破断時間を特定し、前記熱影響部の仮の破断時間より、第一の仮のクリープ破断応力を特定し、
前記熱影響部に隣接する領域の母材の非破壊検査結果より、母材のマスターカーブを用いて母材の仮のクリープ損傷率を特定し、前記母材の仮のクリープ損傷率と実使用時間とから、母材の仮の破断時間を特定し、前記母材の仮の破断時間より、第二の仮のクリープ破断応力を特定し、
前記第一及び第二の仮のクリープ破断応力より、真の破断応力を特定し、
前記真の破断応力より、熱影響部の真の破断時間及び母材の真の破断時間を特定し、
前記真の破断時間に基づきクリープ損傷を評価することを特徴とする、クリープ損傷評価法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高精度に機器のクリープ損傷による余寿命を評価できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
高温機器の健全性評価には温度変化や、該温度変化の際の部材内の温度分布による熱応力が繰返し加わることを考慮する必要がある。そのため、クリープやクリープ疲労などの高温で特徴的な損傷モードに対する評価が重要となる。これら高温機器を構成する部材には起動停止や負荷変動などの非定常運転により繰り返し負荷がかかる場合には、結晶粒内の転位すなわち微視的レベルでの結晶粒のすべりが発生、増加してすべり帯を形成する。さらに、繰り返し負荷がかかる場合にすべり帯が発達して結晶粒程度の微小き裂となる。
【0017】
一方、定常運転では、クリープにより結晶粒界に現れる空洞のボイドや微小き裂といった微視的な損傷が発生し、成長し、ボイドや微小き裂が結合して粒界程度のき裂に成長する。例えば、ステンレス鋼などの場合、600℃以上の高温ではクリープにより結晶粒内の転位が発生し、成長する転位クリープが支配的であるが、600℃以下では析出物やクリープボイドが発生し、成長する拡散クリープが支配的となる。さらに、損傷が蓄積すると、これらのき裂がさらに成長して最終的に致命的な破損に至ると考えられている。
【0018】
したがって、ボイドや微小き裂といった微視的な損傷の発生や、その後の成長が機器の健全性を支配すると考えられる。クリープ特性などの材料特性のばらつきの影響なども考慮して、運用中の機器の部材の現在の損傷状態を評価する技術が求められている。
【0019】
高温機器の健全性評価として、補修や交換の時期を予知するために余寿命を評価することが良く用いられる。主に、クリープによる損傷が支配的な機器の場合、使用中の機器の部材のクリープ損傷を評価し,そのクリープ損傷から余寿命を推定することが一般的である。
【0020】
使用中の機器の部材のクリープ損傷を評価する技術としては、部材表面のレプリカを採取し、クリープボイドや析出物などの部材の微視的組織の変化からクリープ損傷を評価するレプリカ法や超音波を用いる超音波法あるいは電気抵抗の変化により評価する電気抵抗法などが用いられている。何れの技術も、予め試験により、例えば単位面積当たりのクリープボイドの面積(ボイド面積率)や電気抵抗などの測定するパラメータとクリープ損傷との関係を求めた評価線図(マスターカーブ)を作成し、使用中に測定した結果から当該評価線図を用いてクリープ損傷を評価するマスターカーブ法と呼ばれる手法である。
【0021】
図4に、評価パラメータとクリープ損傷率の関係を示すマスターカーブの例を示す。一般的なマスターカーブ法では、クリープ損傷をクリープ損傷率あるいは寿命比で表わしている。様々な試験条件、試験時間で、クリープ損傷率と評価パラメータの関係を求める。しかし、この試験結果にはばらつきが存在しているため、
図4では最小二乗近似曲線を求め、マスターカーブとした。
【0022】
マスターカーブを作成するため、試験体に、一定試験温度、一定荷重を負荷して、任意の試験時間保持するクリープ試験を実施し、当該試験体を用いて評価パラメータの測定を行う。
【0023】
評価パラメータとしては、(1)レプリカ法、(2)物理的検査法、(3)硬さ測定法等でそれぞれ数値化したものが適用可能である。
【0024】
(1)レプリカ法は、機器材料の複製を評価する。レプリカ法としては、組織対比法、ボイド面積率法、結晶粒変形係数法、Aパラメータ法等がある。
【0025】
組織対比法はデータベースにある予め取得した組織と実際の機器の組織をボイドの発生、析出物等で対比する。
ボイド面積率法は、ボイドがある面積率で評価する。SEM、光学顕微鏡等により、観察視野の面積とその視野内で観察されたボイドの面積の比を特定する。単位は無次元あるいは%である。
結晶粒変形係数法は、結晶粒の変形を損傷率との関係で定量化して表す。SEMや光学顕微鏡による観察視野内の結晶の最大径の方向と、その視野に負荷された応力の方向とのなす角度のヒストグラムを正規分布と仮定して求めた標準偏差であり、単位は無次元である。Aパラメータ法は、ある線上における観察粒界数に対するボイドがある粒界数の比で表す。
【0026】
(2)物理的検査法は、非破壊で物理的性質の変化を検査する方法である。物理的検査法は、超音波法、電磁超音波共鳴法、電気抵抗法等がある。
【0027】
超音波法は、圧電素子を機器に接触させて超音波を発生させ、反射波を測定する。電磁超音波共鳴法は、機器に非接触で電磁超音波を発生させ、共鳴波をセンシングする。電気抵抗法は、機器材料の経時変化を供試体の2点間に電圧を印加した時の電気抵抗値(単位はΩ)で測定する。
【0028】
(3)硬さ測定法
硬さ測定法は、ビッカース硬さやロックウェル硬さなどの材料の硬さにより、例えば、ビッカース硬度計で機器材料の硬度(単位はHV)を測定し、硬度の変化で機器材料の変化を評価する。
【0029】
図4は、レプリカ法のボイド面積率を評価パラメータとしたマスターカーブの例を模式的に示す図である。平均的近似曲線であるマスターカーブ301に対して,99%信頼性区間の下限302と上限303を1点破線で示している。99%信頼性区間の下限302と上限303では、同じボイド面積率0.04に対し、クリープ損傷率で約0.2の差が生じる。
【0030】
この結果を用い、余寿命の診断を行うが、近接する溶接部と母材では、負荷された温度および応力が同じであっても、それぞれの非破壊検査から推定される破断応力は一致しない。従って、それぞれで特定される破断応力範囲より、真の破断応力範囲及び破断時間範囲を推定することにより、クリープ損傷評価、余寿命の評価精度を向上できる。
【0031】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
図1および
図2に、クリープ損傷の評価に係る処理フローの実施例、
図3に、対象となる配管の溶接部近傍の断面を模式的に示す。
【0033】
配管の母材201を溶接金属202で溶接すると、母材201と溶接金属202との境界には母材が溶接時の熱により材料特性が母材とは異なる熱影響部203が生じる。一般的には熱影響部は母材よりもクリープ強度が低下すると言われている。これらは、配管の局所的な範囲に存在するため、実使用時には、これらの領域では同じ応力および温度が負荷される。
【0034】
本実施例では、評価パラメータとして母材ではレプリカ法の結晶粒径変形係数、熱影響部では同じくレプリカ法であっても、異なる指標であるボイド面積率を用いている。
【0035】
まず,最初のステップ102では、母材の非破壊検査結果(本実施例では結晶粒変形係数)から、
図5に示す母材の結晶粒変形係数法のマスターカーブを用いてクリープ損傷率を求める。
図5では、実線401が平均的近似曲線であり,1点破線402および403がそれぞれ99%信頼性区間の上限および下限を示している。この99%信頼性区間の上限および下限を用いて、検査結果から、クリープ損傷率の推定される下限Φ
b1および上限Φ
b2を求める。
【0036】
次にステップ103では、熱影響部の非破壊検査結果(本実施例では結晶粒変形係数)から、
図4に示す熱影響部のボイド面積率法のマスターカーブを用いてクリープ損傷率を求める。検査の結果得られたボイド面積率Aから、
図4の99%信頼性区間の上限および下限を用いて、クリープ損傷率の下限Φ
w1および上限Φ
w2を求める。
【0037】
次にステップ104で、母材のクリープ損傷率の下限Φ
b1および上限Φ
b2から、クリープ損傷率の定義に従って、以下の式により破断時間(クリープ寿命)の上限t
b1および下限t
b2を求める。ここでtは、機器の使用時間である。
【0038】
t
b1 = t / Φ
b1 式(1)
【0039】
t
b2 = t / Φ
b2 式(2)
次にステップ105では、熱影響部のクリープ損傷率の下限Φ
w1および上限Φ
w2から、クリープ損傷率の定義に従って、以下の式により破断時間(クリープ寿命)の上限t
w1および下限t
w2を求める。ここでtは、機器の使用時間である。
【0040】
t
w1 = t / Φ
w1 式(3)
【0041】
t
w2 = t / Φ
w2 式(4)
次にステップ106では、母材の破断時間(クリープ寿命)の上限t
b1および下限t
b2から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、以下の式により、ラーソンミラーパラメータの上限P
b1および下限P
b2を求める。ここで、Tは機器の使用温度、Cは材料ごとに定まる定数である。
【0042】
P
b1 = {log(t
b1)+C} × T 式(5)
【0043】
P
b2 = {log(t
b2)+C} × T 式(6)
次にステップ107では、熱影響部の破断時間(クリープ寿命)の上限t
w1および下限t
w2から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、以下の式により、ラーソンミラーパラメータの上限P
w1および下限P
w2を求める。
【0044】
P
w1 = {log(t
w1)+C} × T 式(7)
【0045】
P
w2 = {log(t
w2)+C} × T 式(8)
次にステップ108では、母材のラーソンミラーパラメータの上限P
b1および下限P
b2から、
図6に模式的に示すように、クリープ破断曲線を用いてクリープ破断応力の上限σ
b2および下限σ
b1を求める。
図6では、横軸がラーソンミラーパラメータ、縦軸がクリープ破断応力である。また、実線601は母材のクリープ破断曲線、破線602は熱影響部のクリープ破断曲線である。
【0046】
次にステップ109では、熱影響部のラーソンミラーパラメータの上限P
w1および下限P
w2から、
図7に模式的に示すように、クリープ破断曲線を用いてクリープ破断応力の上限σ
w2および下限σ
w1を求める。
【0047】
熱影響部とその近傍の母材は、同じ温度および応力の負荷を受けてクリープ損傷が生じていると想定される。従って、前述した手順によって、それぞれの損傷状態から推定される破断応力は理論的には一致する。一方、実際は前述したように、マスターカーブを作成する試験結果にはばらつきがあり、推定されるそれぞれのクリープ破断応力にも範囲がある。従って、母材と熱影響部の共通する真のクリープ破断応力は、それぞれのクリープ破断応力範囲の重複する範囲の中に含まれると考えられる。
【0048】
そこでステップ110では、ステップ108で求めた,母材のクリープ破断応力の上限σ
b2および下限σ
b1により定められる母材のクリープ破断応力範囲と熱影響部のクリープ破断応力の上限σ
w2および下限σ
w1により定められる熱影響部のクリープ破断応力範囲に重複する範囲があるかどうかを判定する。
【0049】
図8にステップ108とステップ109の結果を模式的に重ねて示す。本実施例では,母材のクリープ破断応力の上限σ
b2から熱影響部のクリープ破断応力の下限σ
w1の範囲が重複している。
【0050】
本実施例のように、母材と熱影響部のクリープ破断応力の範囲に重複がある場合には,ステップ111に進む。重複がない場合にはステップ116に進み、ステップ104、105の結果や、それぞれのマスターカーブを用いた従来の評価手法で評価して終了する。
【0051】
ステップ111では,重複したクリープ破断応力範囲の下限をσ
1(本実施例では、σ
1=σ
w1)、上限をσ
2(本実施例では、σ
2=σ
b2)とする。
【0052】
次に、ステップ112では、
図9に模式的に示すように、重複したクリープ破断応力範囲の下限σ
1および上限σ
2から、母材のクリープ破断曲線601を用いて新しいラーソンミラーパラメータの上限P’
b1および下限P’
b2を求める。
【0053】
次に、ステップ113では、
図10に模式的に示すように、重複したクリープ破断応力範囲の下限σ
1および上限σ
2から、熱影響部のクリープ破断曲線602を用いて新しいラーソンミラーパラメータの上限P’
w1および下限P’
w2を求める。
【0054】
次にステップ114では、母材の新しいラーソンミラーパラメータの上限P’
b1および下限P’
b2から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、以下の式9および式10により母材の新しい破断時間(クリープ寿命)の上限t’
b1および下限t’
b2を求める。ここで、Tは使用温度である。
【0055】
log(t'
b1) = P'
b1 / T - C 式(9)
【0056】
log(t'
b2) = P'
b2 / T - C 式(10)
次にステップ115では、熱影響部の新しいラーソンミラーパラメータの上限P’
w1および下限P’
w2から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、以下の式11および12により熱影響部の新しい破断時間(クリープ寿命)の上限t’
w1および下限t’
w2を求める。ここで、Tは使用温度である。
【0057】
log(t'
w1) = P'
w1 / T - C 式(11)
【0058】
log(t'
w2) = P'
w2 / T - C 式(12)
【0059】
この結果を補正された破断時間(クリープ寿命)範囲として出力し、処理を終了する。母材および熱影響部の新しい破断時間(クリープ寿命)の範囲は、ステップ104および105で求めた当初の仮に算出された破断時間(クリープ寿命)の範囲より狭まるか、等しくなり、精度が向上する。
【0060】
結果として得られるクリープ寿命の上下限をどのように使用するかは、従来と同様に行うことができ、監視対象とするための抽出等、安全側の場合は最も短いクリープ寿命値、故障後の入れ替えで問題のない部品については長く等、適宜設定できる。
【0061】
上記のとおり、従来のクリープ寿命の算出方法に比して、本実施例の手法により、クリープ寿命の予測精度が向上する。
【実施例2】
【0062】
図11に実施例2を示す。実施例1では、一の機器の使用温度Tを使用して、算出したクリープ破断応力の範囲から、クリープ寿命範囲を推定している。本実施例2は、使用破断応力Pを固定し、算出した熱履歴の温度範囲から、クリープ寿命範囲を推定する方法を述べる。
【0063】
まず、ステップ1102からステップ1105は、
図1の実施例1のステップ102からステップ105と同様である。母材および熱影響部の非破壊検査結果からそれぞれの非破壊検査に対応したマスターカーブを用いて、それぞれの99%信頼性区間の上限および下限から母材の破断時間(クリープ寿命)の上限t
b1と下限t
b2および熱影響部の破断時間(クリープ寿命)の上限t
w1と下限t
w2を求める。
【0064】
次にステップ1106では、
図13に模式的に示すように、使用応力σから母材のクリープ破断曲線601を用いてσを破断応力とする母材のラーソンミラーパラメータP
bを求める。
【0065】
次にステップ1107では、
図13に模式的に示すように、使用応力σから熱影響部のクリープ破断曲線602を用いてσを破断応力とする熱影響部のラーソンミラーパラメータP
wを求める。
【0066】
次にステップ1108では、母材のラーソンミラーパラメータP
bと母材の破断時間(クリープ寿命)の上限t
b1と下限t
b2から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って以下の式により、クリープ破断温度の下限T
b1および上限T
b2を求める。
【0067】
T
b1 = P
b / {log(t
b1)+C} 式(13)
【0068】
T
b2 = P
b / {log(t
b2)+C} 式(14)
【0069】
次にステップ1109では、熱影響部のラーソンミラーパラメータP
wと熱影響部の破断時間(クリープ寿命)の上限t
w1と下限t
w2から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って以下の式により、クリープ破断温度の下限T
w1および上限T
w2を求める。
【0070】
T
w1 = P
w / {log(t
w1)+C} 式(15)
【0071】
T
w2 = P
w / {log(t
w2)+C} 式(16)
ステップ1110では、ステップ1108で求めた、母材のクリープ破断温度の下限T
b1と上限T
b2により定められる母材のクリープ破断温度範囲とステップ1109で求めた、熱影響部のクリープ破断温度の下限T
w1および上限T
w2により定められる熱影響部のクリープ破断温度範囲に重複する範囲があるかどうかを判定する。母材と熱影響部のクリープ破断温度の範囲に重複がある場合には,ステップ1111に進む。重複がない場合にはステップ1114に進み、ステップ1104、1105の結果や、それぞれのマスターカーブを用いた従来の評価手法で評価し、終了する。
【0072】
ステップ1111では、重複したクリープ破断温度範囲の下限を新たにT
1、上限をT
2とする。
【0073】
ステップ1112では、新しいクリープ破断温度範囲の下限をT
1、上限をT
2と、ステップ1106で使用応力σとクリープ破断曲線から求めた母材のラーソンミラーパラメータP
bから、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、以下の式により母材の破断時間(クリープ寿命)の上限t’
b1と下限t’
b2を求める。
【0074】
ステップ1113では、新しいクリープ破断温度範囲の下限をT
1、上限をT
2と、ステップ1107で使用応力σとクリープ破断曲線から求めた熱影響部のラーソンミラーパラメータP
w から、ラーソンミラーパラメータの定義に従って、以下の式により熱影響部の破断時間(クリープ寿命)の下限T
w1および上限T
w2を求める。
【0075】
この結果、母材および熱影響部の新しい破断時間(クリープ寿命)の範囲は、ステップ1104および1105で求めた通常の破断時間(クリープ寿命)の範囲より狭まるか、等しくなり、クリープ寿命の予測精度が向上する。
【0076】
最終的には、これらの最も短いクリープ寿命を評価個所のクリープ寿命とすることが安全側の評価と考える。
【0077】
上述の通り、溶接熱影響部と、それに近接する母材における発生応力・経験した温度履歴が等しいことを利用して、非破壊検査によるクリープ損傷評価結果から、真のクリープ損傷を推定することで、高精度に機器の余寿命を評価できる。