特許第6913566号(P6913566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913566
(24)【登録日】2021年7月14日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/72 20060101AFI20210727BHJP
   C10M 169/02 20060101ALI20210727BHJP
   C10M 113/08 20060101ALN20210727BHJP
   C10M 113/12 20060101ALN20210727BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20210727BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20210727BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20210727BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20210727BHJP
【FI】
   C10M105/72
   C10M169/02
   !C10M113/08
   !C10M113/12
   C10N20:06 Z
   C10N30:00 Z
   C10N40:04
   C10N50:10
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-160123(P2017-160123)
(22)【出願日】2017年8月23日
(65)【公開番号】特開2019-38894(P2019-38894A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】池島 昌三
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 岩樹
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕
(72)【発明者】
【氏名】市村 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】伊佐 一希
(72)【発明者】
【氏名】浅田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 恭司
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽山 昌史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敏造
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/016376(WO,A1)
【文献】 特開2000−026883(JP,A)
【文献】 特開2008−222997(JP,A)
【文献】 特開昭54−041905(JP,A)
【文献】 特開2005−060482(JP,A)
【文献】 特開2012−031275(JP,A)
【文献】 中国実用新案第205226148(CN,U)
【文献】 特開平04−279698(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/066792(WO,A1)
【文献】 米国特許第02748081(US,A)
【文献】 特表2001−516323(JP,A)
【文献】 米国特許第03196109(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油及び増ちょう剤を含み、組成物の全質量を基準にして、硫黄元素に換算して5質量%以上の硫黄分を含むことを特徴とする、自動車のマグネットクラッチ用グリース組成物であって、前記基油が、硫化脂肪酸、硫化油脂、及びポリサルファイドから選ばれる少なくとも1種である、前記グリース組成物。
【請求項2】
前記増ちょう剤として金属の酸化物を含む請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記金属の酸化物がシリカである請求項記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記シリカの1次粒径が300nm以下である請求項記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いトルク伝達性能と優れた凝着防止性能が要求される潤滑部、具体的には回転動力の伝達および遮断を行う電磁クラッチの潤滑部等に好適に使用できるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置の圧縮機は、走行用エンジンからベルトを介して駆動力を得ており、その作動制御は電磁クラッチのオン、オフによるトルク伝達のオン、オフで行うのが一般的である。
電磁クラッチは、走行用エンジンから出力される回転駆動力によって回転する磁性材料であるロータ(駆動側回転体)と、ロータと連結されることによって回転する磁性材料であるアーマチュアと、通電されることによってロータとアーマチュアとを連結させる電磁力を発生させる電磁石とを有している。アーマチュアはハブを介して圧縮機の回転軸に連結されており、アーマチュアが電磁石の電磁力によって吸引されてロータと連結することでトルクを伝達し、圧縮機の回転軸が回転して圧縮機が作動する。
電磁クラッチのロータとアーマチュアとが連結すると、接触面を通して両磁性材料間に吸引力が作用して互いが接合する。両磁性材料の表面は、微視的には平滑でないため、両磁性材料同士は真実接触部で接触している。真実接触部では結合(凝着)が生じ、それを引き離すのに要するせん断力が摩擦力として作用する。凝着部においてせん断や破壊が起こると、磁性材料表面から材料が徐々に失われていく、いわゆる凝着摩耗がおこり、やがて面荒れが発生する。この面荒れにより、異音(所謂面荒れ異音)が発生するという問題があった。また、更に凝着摩耗が進むと最終的には摺動面がくっついて離れなくなってしまうという問題もあった。
そのため摩擦面には一般的に潤滑剤が塗布されており、リンとイオウを含んだ極圧潤滑剤(特許文献1)や、リン化合物と特定の有機酸塩とを含有する潤滑油組成物(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−71483
【特許文献2】特開2006−152092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の自動車の軽量化に伴い、電磁クラッチも小型化、軽量化が求められ、使用条件が過酷化している。そのため、電磁クラッチには従来に比べてより高いトルク伝達性能と優れた凝着防止性能が要求されている。
よって、本発明が解決しようとする課題は、高いトルク伝達性能と優れた凝着防止性能とを両立するグリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはこの課題に対し、グリース中に特定量以上の硫黄分を含有するグリース組成物で対処できることを見出した。すなわち、本発明により、以下のグリース組成物を提供する:
1.基油及び増ちょう剤を含み、組成物の全質量を基準にして、硫黄元素に換算して5質量%以上の硫黄分を含むことを特徴とする、自動車のマグネットクラッチ用グリース組成物。
2.前記基油が、硫化脂肪酸、硫化油脂、及びポリサルファイドから選ばれる少なくとも1種である前記1項記載のグリース組成物。
3.前記増ちょう剤として金属の酸化物を含む前記1又は2項記載のグリース組成物。
4.前記金属の酸化物がシリカである前記3項記載のグリース組成物。
5.前記シリカの1次粒径が300nm以下である前記4項記載のグリース組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明のグリース組成物は、トルク伝達性と凝着防止性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のグリース組成物は、硫黄元素に換算して5質量%以上の硫黄分を含むことを特徴とする。
本発明の硫黄分は、トルク伝達性と凝着防止性の観点から、硫黄元素換算で5質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上であるのがより好ましい。20質量%以上であることが更に好ましく、30質量%であることが最も好ましい。耐腐食性の観点から、50質量%以下であるのが好ましい。
本発明で用いられる基油としては、その構造中に硫黄原子を有する硫黄系化合物を用いることができる。このような硫黄系化合物としては、硫化脂肪酸、硫化油脂、ポリサルファイドから選ばれる少なくとも1種が好ましい。硫化油脂、ポリサルファイドがより好ましい。
硫化脂肪酸は、脂肪酸の硫化物をいう。代表的な化合物は、下記式(1)又は(2)により表される(式中、RはHであり、xは1以上の数である)。商業的に入手できる硫化脂肪酸としては、例えば、DAILUBE GS−550、DAILUBE GS−520(以上DIC製)、Additin RC2715(ラインケミー製)、SOR−B(マルニ製油製)があげられる。
【0008】
硫化油脂は硫化エステルともいい、脂肪酸グリセリンエステルおよび脂肪酸エステルの硫化物をいう。代表的な化合物は、下記式(1)又は(2)により表される(式中、Rは炭化水素基であり、xは1以上の数である)。商業的に入手できる硫化油脂ないし硫化エステルとしては、例えば、DAILUBE GS−110、DAILUBE GS−210、DAILUBE GS−240、DAILUBE GS−215、DAILUBE GS−225、DAILUBE GS−235、DAILUBE GS−235S、DAILUBE GS−245、DAILUBE FS−200(以上DIC製)、Additin RC2411、Additin RC2415、Additin RC2418、Additin RC2310、Additin RC2315、Additin RC2317(以上ラインケミー製)、L−18A、10B(以上マルニ製油製)があげられる。
ポリサルファイドは、一般式R−Sn−R’(式中、R及びR’は互いに同一でも異なっていてもよく、直鎖又は分岐アルキル基(前記アルキル基はフェニル基等の芳香環、シクロヘキシル基等のシクロアルカンで置換されていてもよく、及び/又は鎖中に硫黄などのヘテロ原子を含んでいてもよい)等の炭化水素基を表す。nは2以上の数である)で表われる化合物をいう。なお、オレフィンの硫化物であって、その硫化物が混合物である場合を硫化オレフィンと呼び、その硫化物が単一物である場合をポリサルファイドと区別して呼ぶこともあるようであるが、本明細書では、硫化物が混合物であるか単一物であるかにより両者を区別せず、硫化オレフィンはポリサルファイドの下位概念として扱う。代表的なポリサルファイドは、下記式(3)〜(6)により表される(式中、Rは炭化水素基である)。商業的に入手できるポリサルファイドとしては、例えば、DAILUBE IS−30、DAILUBE IS−35、DAILUBE GS−440L、DAILUBE GS−420(以上DIC製)、Additin RC2520、Additin RC2540、Additin RC2541、Additin RC2940(以上ラインケミー製)、TNPS537、TBPS454(以上シェブロンフィリップス製)、TPS32、TPS44(アルケマ製)があげられる。炭化水素部分がオレフィンのみからなるポリオレフィンを特に硫化オレフィンと呼ぶこともある。
【0009】
【化1】
【0010】
本発明の組成物は、硫黄分が硫黄元素換算で5質量%以上であれば、その構造中に硫黄原子を有する合成油に加え、グリースに慣用的に使用される別の基油をさらに含んでいてもよい。併用できる基油としては、鉱油及び合成油、例えばジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油;ポリαオレフィン(PAO)、ポリブデン等の合成炭化水素油;アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油;シリコーン油;フッ素化油があげられる。
本発明の基油の40℃における動粘度は、耐熱性および低温性の観点から、10〜200mm2/sであるのが好ましく、15〜100mm2/sであるのがより好ましい。20〜50mm2/sであるのが更に好ましい。なお、本明細書において、動粘度は、JIS K2220 23.に従って測定した値をいう。
本発明の組成物における基油の割合は、組成物の全質量を基準として、50〜95質量%であるのが好ましく、75〜95質量%であるのがより好ましい。85〜95質量%であるのが更に好ましい。
【0011】
本発明において使用できる増ちょう剤は特に限定されない。具体的には、Li石けんや複合Li石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、シリカに代表される無機系増ちょう剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に代表される有機系増ちょう剤等が挙げられる。トルク伝達性の観点から増ちょう剤がウレア等のウレア系増ちょう剤またはシリカ等の無機系増ちょう剤を含むのが好ましく、シリカ等の無機系増ちょう剤を含むのがより好ましい。増ちょう剤がシリカを含むのが更に好ましい。増ちょう剤がシリカのみからなるのが最も好ましい。
本発明において増ちょう剤として用いられるシリカは、耐摩耗性の観点から、1次粒径が300nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのがより好ましい。50nm以下であるのがさらに好ましい。トルク伝達性の観点から、5nm以上であるのが好ましい。10〜12μm程度であるのが特に好ましい。なお、本明細書において、シリカの1次粒径は、電子顕微鏡観察写真より粒子直径を解析した平均値をいう。
【0012】
本発明において増ちょう剤として用いられるシリカは、シラン等により疎水性の表面処理がされていてもよい。耐水性の観点から、ジメチルジクロロシランにより表面処理されているのが好ましい。
増ちょう剤の含有量は、本発明のグリース組成物の全質量を基準として、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは7〜20質量%である。5質量%以上あると、グリースが適度な硬さを有し、潤滑部からの漏洩を防止して、十分な潤滑寿命を満足することができる。一方、25質量%以下で好適な流動性を担保し、潤滑部への流入も円滑であり、十分な潤滑性を満足することができる。
【0013】
本発明のグリース組成物には必要に応じて汎用の添加剤を添加しても良い。例えば、錆止め剤、耐荷重添加剤、酸化防止剤などを必要に応じて含有することができる。錆止め剤としては、亜鉛スルホネート、カルシウムスルホネートの有機スルホン酸塩等があげられる。耐荷重添加剤としては、二硫化モリブデン、ジチオリン酸塩、ジチオカルバミン酸塩等があげられる。本発明の硫黄分は添加剤由来でもよい。酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤系があげられる。これら任意の添加剤の含有量は、本発明のグリース組成物の全質量を基準として、通常、0.5〜5質量%である。
【0014】
本発明のグリース組成物の混和ちょう度は、使用目的に合わせて調整されるが、好ましくは200〜400である。漏洩性と潤滑部への流動性の観点からは、250〜350がより好ましい。なお、本明細書における混和ちょう度はJIS K 2220 7.により測定される60回混和ちょう度をいう。
【0015】
本発明のグリース組成物は、高い摩擦係数と優れた凝着防止性を要求される潤滑部、詳しくはクラッチやトルクリミッタ機構の潤滑部に好適に使用される。より具体的には自動車のマグネットクラッチに好適に用いることができる。潤滑部の表面が鋼である部材であるのが好ましい。
【実施例】
【0016】
〔グリース組成物の調製〕
実施例1〜3,5〜7及び比較例1〜4
表1及び表2に示した増ちょう剤及び基油を容器中で混合し、撹拌しながら昇温及び冷却して、ベースグリースを得た。得られたベースグリースを3本ロールミルで混練し、60回混和ちょう度(試験方法JIS K2220 7.)が300になるように調製し、グリース組成物を得た。
実施例4
表1に示した基油中で、4.4’−ジフェニルメタンジイソシアネート1モルに対オクタデシルアミン2モルの比率で反応させ、ベースグリースを得た。得られたベースグリースを3本ロールミルで混練し、60回混和ちょう度(試験方法JIS K2220 7.)が300になるように調製し、グリース組成物を得た。
上で調製したグリース組成物を下記試験に供した。試験結果を表1及び表2に示す。
【0017】
〔トルク伝達性能〕
試験には線接触型の摩擦摩耗試験機を用いる。試験片をもう片方の試験片に面接触させ、この状態で荷重を加えながら試験片を回転させることにより、発生する摩擦力から試験開始初期の最大摩擦係数を求める。
試験条件は以下の通りである。
荷重 :900 N
回転数 :1 rpm
判定基準 :0.13≦μ ○○○
0.11≦μ<0.13 ○○
0.09≦μ<0.11 ○
μ<0.09 ×
【0018】
〔凝着防止性能〕
試験には線接触型の摩擦摩耗試験機を用いる。試験片をもう片方の試験片に線接触させ、この状態で荷重を加えながら試験片を回転させる。荷重を徐々に増加させ、摩擦係数が0.5以上に上昇しない限界荷重を測定する。
試験条件は以下の通りである。
回転数 :500 rpm
判定基準 :500N≦限界荷重 ○○
400N≦限界荷重<500N ○
限界荷重<400N ×
【0019】
〔硫黄量の測定〕
グリース組成物中の硫黄量は、JIS K 2541−3に従って測定した。表1及び表2中の質量%は、グリース組成物の全質量を基準とした値である。
〔基油の動粘度の測定〕
基油の40℃における動粘度は、JIS K2220 23.に従って測定した。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】