特許第6913611号(P6913611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913611
(24)【登録日】2021年7月14日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】レーザ切換装置
(51)【国際特許分類】
   F42B 3/113 20060101AFI20210727BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20210727BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20210727BHJP
   G02F 1/33 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   F42B3/113
   H01S3/10 Z
   H01S3/00 A
   G02F1/33
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-217357(P2017-217357)
(22)【出願日】2017年11月10日
(65)【公開番号】特開2019-86266(P2019-86266A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池 康宏
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−209797(JP,A)
【文献】 特開平06−231482(JP,A)
【文献】 特開2006−118444(JP,A)
【文献】 特開平09−288286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 3/113
G02F 1/33
H01S 3/00
H01S 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生するレーザ光源と、
前記レーザ光源をオン及びオフするレーザスイッチと、
前記レーザ光源から発せられて第1の光軸を通る前記レーザ光を前記レーザ光の照射対象物へ出力する出力部と、
前記レーザ光源から発せられて前記第1の光軸とは異なる第2の光軸を通る前記レーザ光を受光する受光部と、
超音波を発生する超音波発生部と、
前記超音波発生部をオン及びオフする超音波スイッチと、
前記超音波発生部からの前記超音波の印加により屈折率が変化し、前記レーザ光源からの前記レーザ光の照射方向を前記第1の光軸と前記第2の光軸で切り換える透光性のAO結晶と、を備え
前記超音波が前記AO結晶に印加されているとき、前記レーザ光は前記AO結晶により屈折して前記第1の光軸を経て前記出力部へ向かい、
前記超音波が前記AO結晶に印加されていないとき、前記レーザ光は前記AO結晶により屈折されずに前記第2の光軸を経て前記受光部へ向かう、レーザ切換装置。
【請求項2】
前記AO結晶により屈折した前記レーザ光を前記出力部側へ反射するように前記出力部と前記受光部との間に配置されたミラーを備えている、請求項1に記載のレーザ切換装置。
【請求項3】
前記出力部と前記照射対象物との間に前記レーザ光の光路が設けられている、請求項1又は2に記載のレーザ切換装置。
【請求項4】
前記光路は光ファイバである、請求項3に記載のレーザ切換装置。
【請求項5】
前記受光部により受光された前記レーザ光を検出するセンサをさらに備え、
前記レーザスイッチは、前記センサによる検出結果が所定条件を満たすと、前記レーザ光源をオフにするように構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ切換装置。
【請求項6】
前記受光部により受光された前記レーザ光を検出するセンサ、及び、前記センサが検出した前記レーザ光の状態を表示する表示部をさらに備えている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ切換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ切換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ切換装置を用いた例として、たとえば、特許文献1のレーザ着火式点火具及び特許文献2のレーザ着火火工品用セーフアーム装置が知られている。この特許文献1のレーザ着火式点火具は、偏光性を有した状態で入力されたレーザ光を平行光に変換するコリメートレンズと、平行光のレーザ光を集光する集光レンズと、集光されたレーザ光の焦点近傍に配置された点火薬とを備えている。また、点火薬へ至るまでの経路にシャッタ部材が配置されており、シャッタ部材によりレーザ光の透過と遮断が制御されている。
【0003】
また、特許文献2のレーザ着火火工品用セーフアーム装置は、着火用レーザ光を発光するレーザ発振装置と、着火用レーザ光を受光する複数の光ファイバを有している。このレーザ発振装置はレーザ発振装置取付架台に搭載され、レーザ発振装置取付架台が回転することにより着火用レーザ光の照射方向を制御されて、複数の光ファイバへの伝送が切り換えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−057447号公報
【特許文献2】特開2006−118444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のレーザ着火式点火具では、シャッタ部材がレーザ光を遮断している間、シャッタ部材にはレーザ光が照射されている。このため、シャッタ部材にレーザ光のエネルギが蓄積され、高出力のレーザ光では破壊されるおそれがある。この場合、レーザ光がシャッタ部材を貫通してしまい、ユーザの意図に反し点火薬が点火されてしまうことがある。
【0006】
また、上記特許文献2のレーザ着火火工品用セーフアーム装置では、レーザ発振装置取付架台が回転することにより着火用レーザ光の照射方向が変更される。このため、レーザ発振装置取付架台が回転するスペースが必要であり、装置が大型化してしまう。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、大型化を抑制しつつ切り換えが可能であり、かつ、高出力レーザであってもより高い安全性を確保することができるレーザ切換装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様に係るレーザ切換装置は、レーザ光を発生するレーザ光源と、前記レーザ光源をオン及びオフするレーザスイッチと、前記レーザ光源から発せられて第1の光軸を通る前記レーザ光を出力する出力部と、前記レーザ光源から発せられて前記第1の光軸とは異なる第2の光軸を通る前記レーザ光を受光する受光部と、超音波を発生する超音波発生部と、前記超音波発生部をオン及びオフする超音波スイッチと、前記超音波発生部からの前記超音波の印加により屈折率が変化し、前記レーザ光源からの前記レーザ光の照射方向を前記第1の光軸と前記第2の光軸で切り換える透光性のAO結晶と、を備えている。
【0009】
この構成によれば、例えば、ユーザが点火薬を点火する場合、超音波スイッチをオンにした上で、レーザスイッチをオンにする。この場合、超音波発生部からの超音波の印加によりAO結晶の屈折率が変化し、レーザ光がAO結晶で屈折して第1の光軸を経て出力部へ照射される。このため、AO結晶が回転等の移動しないため、レーザ切換装置の大型化が防止される。
【0010】
一方、超音波スイッチがオフの状態では、レーザスイッチをオンにしても、超音波がAO結晶に印加されていないため、レーザ光はAO結晶を通過し、第2の光軸を経て受光部へ照射される。これにより、レーザ光は出力部を介して点火薬等に照射されずに、ユーザの意図に反し点火薬が点火されることを防止し、安全性を確保することができる。また、AO結晶は透光性であるため、レーザ光のエネルギが蓄積されず、レーザ光による破損を防止され、安全性が保たれる。
【0011】
このレーザ切換装置では、前記超音波が印加されているとき、前記レーザ光は前記AO結晶により屈折して前記第1の光軸を経て前記出力部へ向かい、前記超音波が印加されていないとき、前記レーザ光は前記AO結晶により屈折されずに前記第2の光軸を経て前記受光部へ向かってもよい。
【0012】
この構成によれば、仮に超音波スイッチの故障等によりAO結晶に超音波が印加されなければ、レーザ光が発生しても、レーザ光は出力部へ向かわず、レーザ切換装置の安全性の向上が図られる。また、仮にAO結晶が破損した状態で、レーザ光が発生しても、レーザ光はAO結晶で屈折されずに、受光部へ向かうため、ユーザの意図に反しレーザ光が出力部へ向かわず、安全性を確保することができる。
【0013】
このレーザ切換装置では、前記出力部と対象物との間に前記レーザ光の光路が設けられていてもよい。この構成によれば、光路によりレーザ切換装置と対象物とを離すことができるため、レーザ切換装置に設けられている電線に漏洩が生じても、この漏洩電流により対象物が点火することを防止することができ、レーザ切換装置の安全性の向上が図られる。
【0014】
このレーザ切換装置では、前記光路は光ファイバであってもよい。この構成によれば、光ファイバによって出力部と対象物とを離して設けることができる。また、光ファイバによって出力部からのレーザ光を任意の位置に導くことができ、対象物の設置位置の自由度を高めることができる。
【0015】
このレーザ切換装置では、前記受光部により受光された前記レーザ光を検出するセンサをさらに備え、前記レーザスイッチは、前記センサによる検出結果が所定条件を満たすと、前記レーザ光源をオフにするように構成されていてもよい。この構成によれば、仮に超音波スイッチの故障等によりAO結晶に超音波が印加されない場合、レーザ光が発生しても、レーザ光は受光部へ照射される。これをセンサによって検出し、この検出結果が所定条件を満たすと、レーザ光源がオフされる。このため、レーザ切換装置の安全性の向上が図られる。
【0016】
このレーザ切換装置では、前記受光部により受光された前記レーザ光を検出するセンサ、及び、前記センサが検出した前記レーザ光の状態を表示する表示部をさらに備えていてもよい。この構成によれば、レーザ光源が起動した状態でAO結晶の屈折率を変化させることにより、レーザ光源で発生したレーザ光をAO結晶で屈折させて出力部から所望のタイミングで出力することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上に説明した構成を有し、大型化を抑制しつつ切り換えが可能であり、かつ、高出力レーザであってもより高い安全性を確保することができるレーザ切換装置を提供することができるという効果を奏する。
【0018】
本発明の上記目的、他の目的、特徴及び利点は、添付図面を参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態1に係るレーザ切換装置を概略的に示す図である。
図2図1の超音波スイッチをオフ状態にしたレーザ切換装置を概略的に示す図である。
図3】本発明の実施の形態2に係るレーザ切換装置を概略的に示す図である。
図4】本発明の実施の形態3に係るレーザ切換装置を概略的に示す図である。
図5】本発明のその他の実施の形態に係るレーザ切換装置を概略的に示す図である。
図6】本発明のさらに別の実施の形態に係るレーザ切換装置を概略的に示す図である。
図7】本発明のさらに別の実施の形態に係るレーザ切換装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0021】
(実施の形態1)
<レーザ切換装置の構成>
まず、実施の形態1に係るレーザ切換装置10は、レーザ光を出力するか否かを切り換え可能な装置である。以下では、レーザ切換装置10をロケットモータ20用の着火装置に適用した場合について説明するが、レーザ光を所望のタイミングで出力するものであれば、レーザ切換装置10の適用例はこれに限定されない。また、レーザ切換装置10から出力されるレーザ光により燃焼される内燃機関は、ロケットモータ20等のロケット推進機関に限定されない。
【0022】
レーザ切換装置10は、入射部30、切換部40、出力部50、受光部60及びケース70を備えている。レーザ切換装置10では、入射部30により入射されたレーザ光の照射方向を切換部40により、出力部50又は受光部60に切り換えている。なお、レーザ切換装置10は、図5に示すように、ケース70を備えていなくてもよい。
【0023】
入射部30は、レーザ光源31、レーザスイッチ32、光ファイバ(第1光ファイバ33)、入力部34及びコリメートレンズ35を有している。なお、入射部30は、図5に示すように、第1光ファイバ33及びコリメートレンズ35を備えていなくてもよい。また、入射部30は入力部34を備えていなくてもよい。
【0024】
レーザ光源31、レーザスイッチ32及び第1光ファイバ33はケース70の外に配置されている。入力部34は、ケース70外の第1光ファイバ33からのレーザ光がケース70内に入力されるようにケース70の壁に設けられている。コリメートレンズ35はケース70の中に収容されている。なお、レーザ光源31、レーザスイッチ32、第1光ファイバ33、入力部34及びコリメートレンズ35のケース70に対する位置がこれに限定されない。
【0025】
レーザ光源31は、最高でクラス4の出力のレーザ光を発生する光源であって、例えば、レーザダイオード等が用いられる。レーザ光源31は、レーザスイッチ32を介して電源(図示せず)に電線36によって接続している。レーザスイッチ32は、レーザ光源31と電源との接続回路(図示せず)もしくは電源自体をオン(ON)及びオフ(OFF)して、レーザ光源31を作動及び停止させる。なお、レーザ光源31は、図5に示すように電源に直接、接続されていてもよいし、電線36以外の接続部材で接続されていてもよい。
【0026】
入力部34は、第1光ファイバ33を介してレーザ光源31に接続している。ケース70の外にあるレーザ光源31で発生したレーザ光は、第1光ファイバ33を通り入力部34に達し、入力部34からケース70内に入力する。入力部34は、入力するレーザ光の光軸a0がコリメートレンズ35及び切換部40を通過し受光部60に至るように配置されている。なお、入力部34は、第1光ファイバ33以外の接続部材によりレーザ光源31に接続していてもよい。
【0027】
コリメートレンズ35は、入力部34により入力されたレーザ光を平行光に変換する。なお、適宜、集光レンズ等の他のレンズが入射部30に備えられていてもよい。
【0028】
切換部40は、ケース70内において、コリメートレンズ35と出力部50及び受光部60との間に配置されている。切換部40は、AO(Acoustic Optical)結晶41、超音波発生部42、超音波スイッチ43及び超音波吸収部44を有している。なお、超音波発生部42は、図5に示すように、超音波吸収部44を有していなくてもよい。
【0029】
AO結晶41は、例えば、合成石英及びモリブデン酸鉛等により形成されており、用いるレーザ光の波長領域で透光性の材料である。このため、入力部34により照射されたレーザ光は透光性のAO結晶41にほとんど吸収されずに通過する。
【0030】
AO結晶41は、超音波の印加により屈折率を変化させる。超音波が印加されている場合、入力部34から入射されたレーザ光は、AO結晶41で屈折して第1の光軸a1に沿ってAO結晶41を通過し、出力部50へ照射する。一方、超音波が印加されていない場合、入力部34から入射されたレーザ光は、AO結晶41で屈折せずに第2の光軸a2に沿ってAO結晶41を通過し、受光部60へ照射する。
【0031】
この第1の光軸a1は第2の光軸a2と異なる。第1の光軸a1上に出力部50を配置し、第2の光軸a2上に受光部60を配置する。
【0032】
超音波発生部42は、AO結晶41に超音波を印加するように配置されている。超音波スイッチ43は、電源及び超音波発生部42に電線45によって接続している。超音波スイッチ43が、超音波発生部42と電源との接続回路(図示せず)もしくは電源自体をオン及びオンして、超音波発生部42を作動及び停止させる。なお、超音波スイッチ43は、電源及び超音波発生部42に、図5に示すように直接、接続していてもよいし、電線45以外の接続部材によって接続していてもよい。
【0033】
超音波吸収部44は、超音波発生部42との間にAO結晶41を挟んで、超音波発生部42が配置されているAO結晶41の面と反対の面に配置されている。超音波吸収部44が、超音波発生部42から与えられてAO結晶41を通過する超音波を吸収することにより、所定の振動数及び所定の音速の超音波がAO結晶41を伝搬することができる。
【0034】
出力部50は、ケース70内のAO結晶41で屈折したレーザ光が入射し、且つ、入射したレーザ光がケース70外へ射出されるように、ケース70の壁に配置されている。この実施の形態では、出力部50と受光部60との間にミラー51が配置されている。ミラー51は、AO結晶41で屈折したレーザ光がミラー51において受光部60と反対側へ反射されて出力部50に入射するように配置されている。このように、レーザ光をミラー51で受光部60と反対側へ反射することにより、出力部50を受光部60から離すことができる。このため、AO結晶41に超音波を印加しているにも係わらず、レーザ光が受光部60に照射されずに出力部50に照射されることを確実に防止することができる。
【0035】
出力部50は、光ファイバ(第2光ファイバ52)によりケース70の外にあるロケットモータ20に接続している。ロケットモータ20は、燃焼してロケットに推力を与える推進剤21、及び、推進剤21を点火する点火薬22を搭載している。なお、出力部50は、直接又は第2光ファイバ52以外の接続部材でケース70に接続されていてもよい。
【0036】
受光部60は、AO結晶41で屈折せずにレーザ光が入射するように、入力部34との間にAO結晶41を挟んでケース70内に配置されている。例えば、受光部60は、光検出センサ及び光電変換素子等のレーザ光を検出するセンサ61の受光素子である。
【0037】
センサ61は、レーザスイッチ32へ検知信号を送信可能に信号線62により接続されている。センサ61は、受光部60で受光したレーザ光を検知し、検出結果をレーザスイッチ32へ出力する。レーザスイッチ32は、検出結果が所定条件を満たすとレーザ光源31を停止する。
【0038】
このレーザ光源31を停止する条件は、1つ又は複数の条件の組み合せであってもよい。この条件として、例えば、センサ61がレーザ光の光量を検出する場合、レーザスイッチ32は、この検出された光量が所定量以上の場合にレーザ光源31を停止するようにしてもよい。
【0039】
<切換部におけるレーザ光の切り換え>
図2に示すように、AO結晶41は、超音波の印加により屈折率を変化させる。超音波が印加されていない場合、入力部34から入射したレーザ光は、AO結晶41で屈折せずにAO結晶41を直線状に通過して出射し、受光部60へ照射される。このAO結晶41を出射するレーザ光の第2の光軸a2は、入力部34から入射したレーザ光の光軸a0と一致する。
【0040】
一方、図1に示すように、超音波が印加されると、入力部34から入射したレーザ光は、AO結晶41で屈折してAO結晶41を出射し、出力部50へ照射される。AO結晶41を出射するレーザ光の第1の光軸a1は、入力部34により照射されたレーザ光の光軸a0の延長線に(第2の光軸a2)対して傾斜する。
【0041】
この傾斜角度の半角は、ブラッグ角θbである。θb=λf/2Vと表すことができる。ここで、λはレーザ光の波長であり、fは超音波の振動数であり、VはAO結晶41中の超音波の速さ(音速)である。
【0042】
例えば、レーザ光の波長λが1.08μmであり、超音波の振動数fが500MHzであり、モリブデン酸鉛のAO結晶41中の音速Vが3.63mm/usである。この場合、ブラッグ角θbは8.4degとなる。
【0043】
なお、レーザ光の波長λをより長く、超音波の振動数fをより高く、AO結晶41中の音速Vをより小さくすることにより、ブラッグ角θbを大きくすることができる。これにより、受光部60と出力部50との間隔を広げて、これらを離すことができる。このため、AO結晶41に超音波を印加していないにも係わらず、レーザ光が出力部50に照射されてしまうことを一層確実に防止することができる。
【0044】
<レーザ切換装置の動作>
図1に示すように、レーザ切換装置10を動作させる場合、まず、超音波スイッチ43をオンにする。これにより、超音波発生部42が超音波を発生し、この超音波によって、屈折したレーザ光の第1の光軸a1上にミラー51が位置するようにAO結晶41の屈折率が変化する。
【0045】
この状態で、レーザスイッチ32をオンにすると、レーザ光源31がレーザ光を発生する。レーザ光は、レーザ光源31から第1光ファイバ33を通り入力部34に達し、入力部34からケース70内に入射される。入射されたレーザ光は、コリメートレンズ35で平行光に変換されて、AO結晶41に向かう。レーザ光は、AO結晶41で屈折されて、ミラー51へ照射され、ミラー51で出力部50側へ入射される。出力部50に達したレーザ光は、出力部50を介してケース70の外の第1光ファイバ33を通って、ロケットモータ20へ出力される。ここで、レーザ光は、ロケットモータ20の点火薬22に照射されて、点火薬22を点火し、推進剤21を燃焼する。
【0046】
一方、図2に示すように、超音波スイッチ43がオフに設定されている場合、超音波発生部42で超音波が発生しない。このため、AO結晶41の屈折率が変化せず、AO結晶41を通過するレーザ光の第2の光軸a2上に受光部60が位置する。このため、この状態で、仮に、レーザスイッチ32がオンされて、レーザ光が入力部34からAO結晶41に入射しても、レーザ光はAO結晶41で屈折せずに、センサ61の受光部60へ照射される。
【0047】
センサ61は、受光部60で受光したレーザ光の光量を検知し、光量が所定量以上の光量に達すると、検知信号をレーザスイッチ32へ信号線62を介して出力する。レーザスイッチ32は、検知信号を受けて、オフに切り換わる。これにより、レーザ光源31が停止し、レーザ光の照射が止まる。
【0048】
<作用、効果>
上記構成のレーザ切換装置10では、AO結晶41は、透光性であるため、レーザ光をほとんど吸収しない。よって、レーザ光のエネルギ蓄積によるAO結晶41の損傷がほとんどなく、レーザ切換装置10の安全性が維持される。
【0049】
さらに、ユーザが意図せずに、超音波スイッチ43がオフの状態でレーザスイッチ32がオンになると、レーザ光はセンサ61の受光部60に照射される。この場合、受光部60で受光したレーザ光の光量が所定量以上の光量に達すると、センサ61はレーザスイッチ32をオフに切り換える。これにより、ユーザの意図に反したレーザ光の照射は停止され、レーザ切換装置10の安全性が担保される。また、これによって、レーザ光によるAO結晶41へのエネルギ蓄積時間を抑えることができる。
【0050】
また、入力部34からのレーザ光の光軸a0上に受光部60があって出力部50がない。このため、超音波スイッチ43等の故障により超音波がAO結晶41に印加されない場合、入力部34からのレーザ光は受光部60に達して出力部50には入射されない。よって、故障などの異常事態であってもレーザ切換装置10の安全性が保たれる。
【0051】
さらに、ロケットモータ20とレーザ切換装置10が第2光ファイバ52により接続されているため、ロケットモータ20の点火薬22とレーザ切換装置10の電線36、45とを離して配置することができる。このため、電線36、45による漏電が生じても、漏洩電流により点火薬22が点火してしまうことが防止でき、レーザ切換装置10の安全性がさらに向上する。また、第2光ファイバ52は出力部50からのレーザ光を任意の位置に導くことができるため、点火薬22の設置位置の自由度を高めることができる。
【0052】
また、AO結晶41の回転等の移動をさせる必要がなく、この移動スペースが必要なく、レーザ切換装置10の大型化を抑制することができる。また、回転機構の固着による不意のレーザ照射が起きる故障モードをなくすことができる。
【0053】
また、レーザ切換装置10から高出力のレーザ光がロケットモータ20へ出力するため、ロケットモータ20の点火薬22がレーザ光により短時間で着火し、精密なタイミングで点火薬22を点火することができる。
【0054】
さらに、レーザ光を偏光させる等が必要なく、レーザ光源31の制限を受けにくい。
【0055】
(実施の形態2)
実施の形態1に係るレーザ切換装置10では、超音波スイッチ43をオンにしてからレーザスイッチ32をオンにしてレーザ光を出力部50から出力していた。これに対し、実施の形態2に係るレーザ切換装置10では、レーザスイッチ32をオンにしてから超音波スイッチ43をオンにしてレーザ光を出力部50から出力する。
【0056】
また、実施の形態2に係るレーザ切換装置10では、図3に示すように、センサ61は、レーザスイッチ32と信号線62により接続されておらず、受光部60で検知した光量を表示する表示部63に接続されている。
【0057】
具体的には、レーザ光を出力部50から出力する場合、レーザスイッチ32をオンに設定する。このレーザスイッチ32からの信号によりレーザ光源31が作動し、レーザ光源31においてレーザ光が発生する。
【0058】
レーザ光は、レーザ光源31から第2光ファイバ52を通り入力部34に至り、入力部34から照射される。このレーザ光はコリメートレンズ35を介してAO結晶41に入射する。ここでは、超音波スイッチ43がオフに設定されているため、超音波がAO結晶41に印加されておらず、AO結晶41の屈折率は変化してない。このため、レーザ光は、AO結晶41で屈折せずに、センサ61の受光部60へ入射する。
【0059】
センサ61は、受光部60により受光されたレーザ光の光量を検知し、表示部63に表示する。レーザ光源31で発生するレーザ光の光量は、安定するまで時間がかかり、作動開始からの時間の経過とともに上昇してから一定になる。そこで、表示部63に表示されているレーザ光の光量に基づきユーザは、所望のタイミングで超音波スイッチ43にオンに設定する。
【0060】
これにより、AO結晶41の屈折率が変化して、レーザ光はAO結晶41で屈折し、ミラー51を介して出力部50に至り、出力部50から出力される。出力されたレーザ光は、第2光ファイバ52を通りロケットモータ20へ入射し、ロケットモータ20の点火薬22を点火する。
【0061】
上記構成のレーザ切換装置10では、超音波の印加によりAO結晶41の屈折率を変化させる時間は、所望の光量を発生するまでのレーザ光源31の起動時間よりも短く、例えば、μs〜ns(10-6〜10-9s)オーダである。このため、レーザ光源31を予め起動した状態でAO結晶41に超音波を印加して屈折率を変化させることにより、AO結晶41で屈折して出力部50からレーザ光が出力するタイミングを一層高精度に所望のタイミングと合わせることができる。
【0062】
また、表示部63に表示されたレーザ光の光量によって、所望の光量のレーザ光が発生していることを確認した上で、超音波を印加して、レーザ光を屈折させて出力部50から出力させることができる。
【0063】
なお、実施の形態2に係るレーザ切換装置10は、実施の形態1に係るレーザ切換装置10と同じ構成を有する点については、このレーザ切換装置10と同様の作用、効果を奏する。
【0064】
(実施の形態3)
実施の形態3に係るレーザ切換装置10は、図4に示すように、実施の形態1に係るレーザ切換装置10に相当する第1装置部分11と実施の形態2に係るレーザ切換装置10に相当する第2装置部分12とを組み合わせた構成を備えている。ただし、第1装置部分11の出力部50は、第2装置部分12の入力部34に接続している。また、第2装置部分12は、レーザ光源31、レーザスイッチ32、第1光ファイバ33を備えず、入力部34がレーザ光源31ではなく第1装置部分11の出力部50に接続している。
【0065】
このレーザ切換装置10では、レーザ光を出力部50から出力する場合、まず、第1装置部分11の超音波スイッチ43をオンに設定して、超音波発生部42からAO結晶41に超音波を印加させて、AO結晶41の屈折率を変化させる。そして、レーザスイッチ32をオンにして、レーザ光源31でレーザ光を発生させて、入力部34からAO結晶41へレーザ光を入射する。このAO結晶41でレーザ光は屈折し、出力部50へ照射される。
【0066】
レーザ光は、第1装置部分11の出力部50から第2光ファイバ52を通り、第2装置部分12の入力部34へ導かれる。この第2装置部分12において、レーザ光は入力部34からAO結晶41に照射される。ここでは、超音波スイッチ43がオフになっており、超音波発生部42からAO結晶41に超音波が印加されていないため、レーザ光はAO結晶41を通過してセンサ61の受光部60へ至る。センサ61は、受光したレーザ光の光量を検知し、これを表示部63に表示する。
【0067】
表示部63に表示された光量に基づき、ユーザは超音波スイッチ43をオンにする。これにより、超音波発生部42からAO結晶41に超音波が印加され、AO結晶41の屈折率が変化する。このため、レーザ光は、AO結晶41で屈折し、ミラー51を介して出力部50に照射される。そして、レーザ光は、出力部50から光ファイバ(第3光ファイバ53)を介してロケットモータ20へ出力され、この点火薬22を点火する。
【0068】
上記構成のレーザ切換装置10では、第1装置部分11でレーザ光の出力の安全性が担保され、第2装置部分12でレーザ光を高精度なタイミングで出力することができる。
【0069】
なお、実施の形態3に係るレーザ切換装置10は、実施の形態1及び2に係るレーザ切換装置10と同じ構成を有する点については、各レーザ切換装置10と同様の作用、効果を奏する。
(その他の実施の形態)
【0070】
上記全実施の形態では、切換部40に1つのAO結晶41が設けられていたが、AO結晶41の数はこれに限定されず、切換部40に複数のAO結晶41が設けられていてもよい。この場合、各AO結晶41に超音波発生部42及び超音波吸収部44が設けられている。また、入力部34側に配置されているAO結晶41で屈折されたレーザ光が入射され、入射されたレーザ光が受光部60側と反対側へ屈折されるように、複数のAO結晶41が配置されている。これにより、各AO結晶41で受光部60側と反対側へ屈折されるため、出力部50を受光部60から離すことができる。なお、複数の超音波発生部42に1つの超音波スイッチ43が接続されていてもよい。また、AO結晶41と出力部50との間にミラー51が設けられていなくてもよい。
【0071】
上記全実施の形態では、出力部50と点火薬22との間のレーザ光の光路は各光ファイバ52、53であったが、光路はこれに限定されない。例えば、出力部50からのレーザ光が点火薬22に照射されるように、出力部50と点火薬22との間を離して配置してもよい。これにより、出力部50と点火薬22との間にレーザ光の光路が設けられる。この場合も、各光ファイバ52、53によりレーザ切換装置10と点火薬22との間を空けることができるため、レーザ切換装置10の漏洩電流により点火薬22が点火することを防止することができる。
【0072】
さらに、図6に示すように、第2光ファイバ52に代えて、出力部50と点火薬22との間にミラー152を配置してもよい。これにより、出力部50と点火薬22との間の光路において、ミラー152によって出力部50からのレーザ光を任意の位置に導くことができるため、点火薬22の設置位置の自由度を高めることができる。
【0073】
上記全実施の形態では、出力部50からのレーザ光の光路が形成される対象物として、レーザ光により着火される被着火物の点火薬22を用いたが、対象物としてはこれに限定されない。例えば、対象物は、出力部50からのレーザ光が照射される被照射物であってもよい。
【0074】
図7に示すように、出力部50を第2光ファイバ52によりレーザ兵器等の照射部120と接続し、この照射部120から被照射物122へレーザ光を照射するようにしてもよい。この照射部120からのレーザ光により照射される被照射物122が対象物になる。この場合も、出力部50と被照射物122との間には、光路が設けられればよいため、第2光ファイバ52に代えてミラー等を設けてもよいし、第2光ファイバ52と共にミラー等を設けてもよいし、何も設けなくてもよい。このようなレーザ切換装置10では、整備中等、ユーザの意図に反し照射されることが防止されるため、レーザ切換装置10からレーザ光が照射されることに対する安全性も確保することができる。
【0075】
上記全実施の形態では、出力部50にロケットモータ20が接続されていたが、何も接続されていなくてもよい。何も接続されていない場合、レーザ切換装置10は、出力部50からレーザ光がレーザ切換装置10の外に出力されるレーザ兵器等として用いられる。
【0076】
上記全実施の形態では、点火薬22は、出力部50に接続されるロケットモータ20に配置されていたが、点火薬22の位置はこれに限定されない。例えば、ミラー51及び出力部50等の位置のように、AO結晶41により屈折したレーザ光が達する位置にあればよい。
【0077】
上記全実施の形態では、AO結晶41と出力部50との間にミラー51が配置されていたが、ミラー51は配置されていなくてもよい。この場合、出力部50はミラー51の位置に配置されれば、AO結晶41で屈折したレーザ光が出力部50に照射される。これによりAO結晶41で屈折したレーザ光がそのまま出力部50に入射されるため、ミラー51の反射による光量の減少を抑制し、高出力のレーザ光を出力部50は照射することができる。
【0078】
上記全実施の形態では、超音波がAO結晶41に印加されていないとき、AO結晶41でレーザ光は屈折しなかった。ただし、AO結晶41に超音波が印加されている場合とされていない場合とでAO結晶41の屈折率が異なれば、超音波がAO結晶41に印加されていないときに、レーザ光がAO結晶41において屈折してもよい。この場合、超音波がAO結晶41に印加されていないときに、AO結晶41で屈折したレーザ光の第1の光軸a1上に受光部60が配置される。
【0079】
なお、上記全実施の形態は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせてもよい。上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施の形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のレーザ切換装置は、大型化を抑制しつつ切り換えが可能であり、かつ、高出力レーザであってもより高い安全性を確保することができるレーザ切換装置等として有用である。
【符号の説明】
【0081】
10 :レーザ切換装置
20 :ロケットモータ(内燃機関)
22 :点火薬(対象物)
31 :レーザ光源
32 :レーザスイッチ
41 :AO結晶
42 :超音波発生部
43 :超音波スイッチ
50 :出力部
52 :第2光ファイバ(光ファイバ、光路)
53 :第3光ファイバ(光ファイバ、光路)
60 :受光部
61 :センサ
63 :表示部
122 :被照射物(対象物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7